JP2683092B2 - 半導体レーザ素子 - Google Patents

半導体レーザ素子

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Description

【発明の詳細な説明】 〔産業上の利用分野〕 本発明は、半導体レーザ素子及びその駆動方法に関
し、特に、素子に流す電流の大きさを調整することによ
り、異なる波長レーザ光を発する半導体レーザ素子及び
その駆動方法に関する。
〔従来の技術〕
近年、光通信や光学的情報処理の分野における、半導
体レーザ素子の需要は急激に増大してきており、それに
伴って素子の機能に対する要求も多様化しつつある。発
振波長が可変な半導体レーザ素子もそのうち一つであ
る。例えば、光カードや光デイスク等の媒体にレーザ光
を照射して情報の記録及び再生を行う場合、通常再生光
の出力を記録光よりも低くすることによって、再生光に
よるによる書き込みを防止している。ここで、波長可変
の半導体レーザ素子を用い、再生光の波長を媒体感度の
低い領域に設定すれば、再生光の出力をそれぞれ低下さ
せることなく上記書き込みを防止出来、S/N比の高い情
報の再生が可能となる。
上記要求に対して、第1の従来例として、例えばApp
l.Phys.Lett.Vol.36,p.442(1980)においては異なる波
長の発光層を,(同一の基板上ではあるが)それぞれ別
々の光導波路中に形成し、独立に電流を注入して所望の
波長の発光層からレーザ発振させる技術が提案されてい
る。これは、本質的に独立なレーザ素子を同一の基板上
に形成したものである。
一方、第2の従来例として、共振器を構成する反射器
としてグレーテイングを利用した、いわゆる分布反射型
(DBR)半導体レーザでグレーテイング部分にも電極を
設けてキヤリアを注入できるようにし、そこへの電流注
入量を増減することにより、グレーテイング部の屈折率
を変化させて発振波長を変化させる素子が提案されてい
る。この場合、発光層等の構造は、通常の半導体レーザ
と同じである。
また、第3の従来例として、J.APPl.Phys.vol.64,p.1
022(1988)では、単一の量子井戸を発光層とし、共振
器損失を増すことで、高次の量子準位からの発光も可能
にし、第1量子準位と第2量子準位からの発光で、異な
る波長のレーザー発振を得る素子が提案されている。
更に、特開昭63-32982号公報等には、第4の従来例と
して、あまり違わない発振波長を持つ、2つの異なる量
子井戸を発光層とし、それぞれの量子井戸からの発光
で、異なる波長のレーザー発振を得る素子が開示されて
いる。
〔発明が解決しようとしている問題点〕
しかしながら、上記従来技術は次のような問題点を有
している。
まず、第1の従来例では、波長を変化させると、レー
ザーからの出射位置が変化する。このため、例えば、外
部光学系をひとつの波長の光に対して、一点に集光する
よに組んだ時に、波長を変えると集光位置が、(波長分
散によるわずかのずれよりも、ずっと多く)ずれてしま
う。また、複数の独立なレーザ素子を同一の基板上に形
成して、独立に駆動できるようにする必要があるため、
作成プロセスが複雑で難しく、素子サイズも大きくなっ
てしまう。
次に、第2の従来例では、可変である波長域が狭く、
例えばAlXa1-XAsを用いたレーザーでは、数nm程度しか
ない。これは、通常の半導体レーザでは、発光層の光利
得が発振に必要な程度の大きさを持つような波長域が、
その程度の広さしかないからである。
また、第3の従来例では、共振器損失を増すことに頼
っているため、レーザの効率が悪くなり、発振しきい電
流値が大きくなり、大きな出力も得られない等の欠点を
持つ。従って、このような素子では、2波長レーザとし
ては、室温連続発振は得られていない。
最後に第4の従来例では、発信するふたつの波長があ
まり違わない。即ち、可変である波長域が狭い。
本発明の目的は、上記従来技術の問題点を解決し、波
長可変範囲が広く、高い効率で作動する波長可変半導体
レーザ素子及びその駆動方法を提供することにある。
〔問題点を解決するための手段〕
本発明の上記目的は、 互いにバンドギャップが異なる複数の発光層と、これ
らの発光層の間に設けられた、これらの発光層よりも大
きいバンドギャップを持つ障壁層とを含む光導波路構造
部及び該構造部を挟んで積層されたクラッド層からなる
半導体レーザ素子において、 前記複数の発光層のうちの、第1の発光層の電子密度
と正孔密度をそれぞれn1、p1、とし、該第1の発光層よ
りもバンドギャップの大きい第2の発光層の電子密度と
正孔密度をそれぞれn2、p2、とし、発振波長λ1におけ
る前記第1の発光層の光利得をg1(λ1,n1,p1)と
し、発振波長λ2における前記第2の発光層の光利得をg
2(λ2,n2,p2)とし、発振波長λ1における光の閉じ
込め係数をΓ1(λ1)とし、発振波長λ2における光の
閉じ込め係数Γ2(λ2)として、前記第2の発光層がな
い場合の発振しきい電流と同程度の電流を流した時に、 Γ1(λ1)g1(λ1,n1,p1)Γ2(λ2)g2(λ2
n2,p2)を満たすように前記障壁層のバンドギャップと
厚さを設定すること、 又は、前記半導体レーザ素子において、 前記クラッド層と前記発光層との間に、バンドギャッ
プがクラッド層より小さく発光層より大きな中間層を有
しており、前記障壁層のバンドギャップの大きさを、前
記発光層との境界付近における前記中間層のバンドギャ
ップの大きさよりも大きくして、前記発光層にキャリア
を注入した時に、前記障壁層のバンドギャップの大きさ
を前記発光層との境界付近における前記中間層のバンド
ギャップの大きさよりも大きくしなかった場合と比べ
て、バンドギャップの大きい方の発光層のキャリア濃度
がより高く、バンドギャップの小さい方の発光層のキャ
リア濃度がより低くなるように設定すること、 又は、前記半導体レーザ素子において、 前記障壁層のバンドギャップの大きさを、前記クラッ
ド層のバンドギャップの大きさよりも大きくして、前記
発光層にキャリアを注入した時に、前記障壁層のバンド
ギャップの大きさを前記クラッド層のバンドギャップの
大きさよりも大きくしなかった場合と比べて、バンドギ
ャップの大きい方の発光層のキャリア濃度がより高く、
バンドギャップの小さい方の発光層のキャリア濃度がよ
り低くなるように設定することによって達成される。
また、本発明の半導体レーザを駆動する駆動方法とし
ては、前記半導体レーザ素子に、レーザ発振するしきい
電流値よりもわずかに少ない電流を注入し、外部の光源
から該素子の一方の端面を通してレーザー発振する光の
波長の付近の波長を持つ光を入射し、該入射光と同一の
波長を持つ光をもう一方の端面から取りだす方法が用い
られる。
また、他の駆動方法として、前記半導体レーザ素子
に、レーザ発振するしきい電流値よりもわずかに少ない
電流を注入し、外部の光源から該素子に発光層のバンド
ギャップより大きい光子エネルギーをもつ光を入射し
て、該素子の端面から入射光とは異なる波長をもつ光を
出射させる方法を用いることも出来る。
本発明におけるバンドギヤツプとは、量子井戸の場合
には、量子化エネルギーを含めた、価電子帯から伝導帯
への最低遷移エネルギーを指す。
本発明によれば、上記従来例の問題点は、全て解決さ
れる。
まず、第1の従来例の問題点については、本発明で
は、異なる波長の発光層を単一の光導波路内に設けるこ
とにより、波長を変化させてもレーザからの出射位置が
変化しない。また、各波長毎に独立な電流注入手段を設
ける必要も無いので、作成が容易で、素子サイズも通常
の半導体レーザと同程度である。
また、第2の従来例の問題点については、本発明は、
それぞれの波長を、別々の(しかし、単一の光導波路内
に設けた)発光層に分担させるため、ずっと広い波長域
で、発振可能となる。例えば、AlXGa1-XAsを発光層に用
いた場合、数十nmから数百nm程度は発振波長を変化させ
ることができる。
第3の従来例の問題点については、本発明において
は、隣り合う、波長の異なる発光層の中間に、それらの
発光層よりも大きいバンドギヤツプを持つ障壁層を設
け、その障壁層のバンドギヤツプとを厚さを、該発光層
にキヤリアを注入した時に、障壁層が無い時と比べて、
バンドギヤツプの大きい方の発光層のキヤリア濃度がそ
れより高く、バンドギヤツプの小さい方の発光層のキヤ
リア濃度がそれより低く、ならしめるに足る、十分な大
きさを持つようにすることで、従来例に比べて、(同じ
量のキヤリアを注入した時に)利得の分布が短波長側に
伸びた形になる。そのため、共振器損失を増して電流を
大量に注入しなくても、複数の波長の光が発振できるよ
うになる。
あわせて、本発明のレーザーをより一層高効率にする
ためには、障壁層を(あるいはそれに加えて発光層も)
pまたはn型にドープすると良いこともわかった。特
に、両クラッド層からそれぞれ電子と正孔を注入した時
に、注入された側と反対の側にある発光層まで移動する
のがより困難な方のキヤリアと同じ極性にドープすると
良い。これは、移動が困難な向きに注入されるキヤリア
を、ドーピングによってあらかじめ補充しておくことが
できるからである。
以上の工夫により、レーザの効率が従来例よりはるか
に高くなり、発振しきい電流値も通常の(波長可変でな
い)半導体レーザの1から2倍程度の低い値であるよう
な波長可変レーザが実現できた。特に従来の、波長差の
大きい波長可変レーザでは困難だった、室温連続発振も
容易に達成できる。
最後に第4の従来例の問題点については、本発明で
は、発光層の波長差を大きくすると同時に、上記の工夫
を行うことによって、解決している。注意すべきこと
は、単純に発光層の波長差を大きくするだけでは、電流
を大量に注入しないと短波長の光が発振できなくなるの
で、第3の従来例と全く同じ問題が生じ、解決にならな
いことである。本発明では、波長差を大きくするだけで
なく、障壁層の高さや厚さ、ドーピング等で巧妙にキヤ
リアの流れを制御して初めて、波長差が大きくかつ高効
率の波長可変レーザーを実現したのである。
なぜこの様な工夫が必要であるかは、具体例をもって
説明した方がわかりやすいので、以下の実施例で詳しい
説明をする。なお、説明をわかりやすくするため、以下
では波長は2種類とし、従って、発光層は2ケとする。
3種類以上の場合も本質的には同様だから、以下の説明
から容易に類推できよう。
〔実施例〕
第1図は、本発明の半導体レーザ素子の一実施例の構
成を示し、第1図(a)が側方断面図、第1図(b)が
正面断面図である。このような素子は分子線エピタキシ
(MBE)法、有機金属気相成長(MOCVD)法等を用いて作
成することが出来るが、その過程は通常の半導体レーザ
の作成と同様であるので詳しく説明は省略する。
図中、1はn+-GaAs基板、2はn+-GaAsバツフア層、3
はn−AlxcGal−xcAsクラッド層、4は光導波路構造
部、5はp−AlxcGal−xcAsクラッド層、6はp+-GaAsキ
ヤツプ層、7はAu/Cr電極、8はAu-Ge/Au電極である。
第1図(b)に示すように、電流と光とをストライプ
状の領域に狭窄するため流、リツジ型の導波路が、反応
性イオンビームでエッチングする等の方法で形成され、
Si3N4膜9をプラズマCVD法で成膜した後リツジ上部のみ
をエツチングして取り除き、電極7を蒸着してある。
波長を調整するための手段として、この例では第1図
(a)に示すように、電極7を二分割し、それぞれに独
立に電流が流せるようにしてある。
第1図(a)の右側に光導波路構造部4の構成を、第
2図にそのバンド図を示す。10a,10bがそれぞれp型、
n型のAlxcGal-xcAsセパレート(Sepatare−confinemen
t略してSCと呼ぶ)層、11aがAlxaGal-xaAs発光層、11b
がAlxbGal-xbAs発光層、12がp+-AlxBGal−xBAs障壁層で
ある。
本発明の本質はSC構造と無関係であるが、発光層が非
対称であるため、キヤリアの注入効率を上げ、光の強度
分布をきれいに整えるのに、SC構造が特に有効である。
この例では、p型クラッド層5側に長波長(λ1)の
発光層11aを設けてあるので、クラッド層5の側から注
入された正孔が短波長(λ2)の発光層11bに達するの
が、(逆向きに移動する場合に比べて)困難である。そ
こで、障壁層12を高濃度のp型にドープして、あらかじ
め正孔を補給してある。この例では、さらにn型SC層10
bの発光層に隣り合う一部分(第2図で厚さLDの部分)
もp型にドープして正孔の補給をより高効率にしてあ
る。この場合、LDの大きさはSC層10bの側から注入され
るキヤリア(この場合は電子)の拡散長よりも小さくす
る必要がある。
この様に正孔をあらかじめ十分補給してあると、電流
を流さない時は、第3図(a)のように両発光層に正孔
が分布する。このような場合には、レーザ発振を論ずる
のに、主として電子の分布のみを考えれば良い。以下の
動作説明はこの場合について行うが、他の場合(本実施
例のpとnとを入れ換えた場合等)も容易に類堆できよ
う。
さて、本発明の重要なポイントは、障壁層の厚さと
(ボテンシヤルの)高さとを十分な大きさにして、レー
ザ発振のしきい電流値に近い電流を流した時に、発光層
のキヤリア分布が第3図(b)のようになるようにする
ことである。障壁層が薄すぎるか低すぎる場合は、第4
図(a)ように障壁層がない時と同様のキヤリア分布に
なるが、その場合よりも、短波長の発光層の方に電子が
分配される割合が大きくなるように、障壁層を設定する
のである。但し、障壁層を厚く、及び/又は高くし過ぎ
ると第4図(b)のように長波長の発光層の方に電子が
来なくなってしまう。従って、第4図の(a)と(b)
の中間の状態になるように障壁層を設定するのがポイン
トである。このことを式で表現すると、それぞれの発光
層の電子密度をn1,n2正孔密度をp1,p2として、それぞ
れの発光層の、それぞれの発振波長λ1,λ2での光利得
をg1λ1,n1,p1)、g2(λ2,n2,p2)、また光の閉じ
込め係数をΓ1(λ1),Γ2(λ2)としたとき、 Γ1(λ1)g1(λ1,n1,p1)Γ2(λ2)g2(λ2
n2,p2) が、短波長の,光層が(従って、障壁層も)ない時の通
常のレーザの発振しきい電流と同程度の電流を流した時
に、満たされるように障壁層を設定すれば良い。
これを満たすような素子構造を設計するには、ふたつ
の方法がある。ひとつは、レーザの利得とキヤリヤのダ
イナミツクスを記述する理論を用いて、理論的に設計す
る方法である。これには、例えば、末松編著「半導体レ
ーザと光集積回路」(オーム社、1984)等に書かれた理
論式を用いれば良い。
もうひとつの方法は、障壁層が異なる幾つかの素子を
実際に作って、その自然発光スペクトルを測定し、それ
から最適な障壁層を推測する方法である。例えば、自然
発光スペクトルの長波長の側が強いサンプルは第4図
(a)のようになっていることになり、逆に、短波長側
が強いサンプルは、第4図(b)のようになっているこ
とになる。
そこで、その両サンプルの中間的な障壁層が適してい
ることが推測できる。
次に第3図(b)のようなキヤリア分布をもつ本発明
のレーザでは、何故、高い効率で複数の波長の光が発振
できるのか、その理由を詳しく説明する。
第5図に、発光層にレーザ発振が可能になるだけの量
のキヤリアを注入した時の、実効的光利得G(λ)(≡
光利得と閉じ込め係数の積、本発明のレーザで言えば、
G(λ)≡Γ1(λ)g1(λ,n1,p1)+Γ2(λ)g
2(λ,n2,p2)の波長分散を、 (a) 通常の、共振器損失の小さい、単一量子井戸
(SQW)レーザまたは多重量子井戸(MQW)レーザの場合
(実線a)、 (b) 従来例3の、共振器損失の大きいSQWレーザの
場合(実線b)、 (c) 本発明の、共振器損失が小さい非対称二重量子
井戸(ADQW)レーザの場合(破線c)、の各場合につい
て模式的に示してある。
まず(a)の場合、λ1の波長のところで、共振器損
失と釣り合うだけの利得Gth(lowloss)が得られるた
め、λ1の光が発振する。λ2の光は、そこでの利得がG
th(lowloss)に達しないために、発振しない。
次に(b)の場合、共振器損失が大きいので、発振に
必要な利得Gth(highloss)が大きい。これだけの利得
を得るためには、多量のキヤリアを注入する必要がある
が、そのために、キヤリア分布が高エネルギー側に伸び
て、短い方の発振波長λ2のところでも利得がGth(high
loss)に達し得る。こうして、λ1,λ2の双方でG
th(highloss)に近い利得を得れば、不均一注入等の手
段を用いて、レーザ全体の実効的な利得の波長分散をわ
ずかに変化させることによって、発振波長を変化させる
ことができる。しかしながら、問題点のところで述べた
ように、多量のキヤリアを注入する必要があるというこ
とは即ち、多量の電流を注入する必要があるということ
を意味し、レーザとしては、著しく低効率のものとな
る。
ここで注意すべきことは、(a)の場合も(b)の場
合も、個々の発光層内のキヤリアのエネルギー分布は、
電子と正孔が、それぞれの擬フエルミ準位で決まるフエ
ルミ分布に従って分布している、として近似できること
である。なぜそうなるかというと、キヤリアのバンド内
及びサブバンド間の遷移に要する時間(例えばGaAsで
は、0.1〜10psecぐらい)が、発光性再結合の時定数(G
aAsでは、10nsecぐらい)よりも短いために、電子は電
子同士、正孔は正孔同士で、十分に衝突を行い準熱平衡
に達するためであることが知られている。(例えば、末
松編著「半導体レーザーと光集積回路」、オーム社、19
84) また、異なる発光層の間では、従来のMQWレーザで
は、全ての発光層に出来るだけ均一にキヤリアが注入で
きるようにするために、発光層の間に挟む障壁層を(量
子化の効果を損なわない範囲で)出来るだけ低く薄くし
て、どの発光層でも、キヤリア分布が障壁層がない時と
出来るだけ同じになるように構成している。
そのように、電子と正孔が各発光層にほぼ均一に注入
され、かつそれぞれの擬フエルミ準位で決まるフエルミ
分布に従って分布している限りは、離れた二つ以上の波
長で同程度の利得を得るためには、擬フエルミ準位を押
し上げる(正孔の場合は、押し下げる)より他に手立て
がないが、これは即ち、多量のキヤリアを注入すること
を意味する。従って、波長可変レーザを得るためには、
前述の第3の従来例のように、共振器損失を大きくし
て、発振に必要な利得を大きくするか、あるいは第2及
び第4の従来のように、波長可変の範囲を狭く設定する
しかなかったわけである。
それに対して、本発明のレーザの場合である、(c)
の場合は、第3図(b)のようにふたつの異なる発光層
にうまくキヤリアを振り分けているため、少ない注入電
流で、G(λ)が、λ1とλ2の2ケ所でGth(high los
s)の近くに達する。(ちなみに、第4図(a)及び
(b)の場合は、第5図の実線aのようになり、従来例
と同様にうまくいかない。)こうなれば、後は発振波長
を変化させる手段を設けるだけで、波長可変レーザとな
る。発振波長を変化させる手段としては、いくつかあ
る。
一番わかりやすいのは、第3の従来例と同様に、不均
一注入を用いてレーザ全体の実効的な利得の波長分散を
わずかに変化させることによって、発振波長を変化させ
ることである。即ち、第1図(a)のふたつの電極に、
異なる電流密度J1,J2で電流を注入し、その比と大きさ
とを変化させて、発振波長を変化させることができる。
他のやり方としては、電極を分割しないで(即ち、単
一の電極で)、電流の大きさで波長を制御するやり方で
ある。この場合、電流を増すにしたがって、まず長波長
の光が発振し、次に短波長の光も発振することが確かめ
られた。さらに電流を増すと、やがて、(i)長波長の
光が発振を停止する場合と、(ii)発振し続ける場合と
がある。
(i)の動作を得るには、 g1(λ2,n1,p1)>0 になるように、発光層と障壁層を設定すれば良く、(i
i)は、 g1(λ2,n1,p1)0 になるように、発光層と障壁層を設定すれば良いことが
わかった。特に、(i)の場合は、波長のスイッチング
が完全にできるので応用が広い。
以上の実施例では、説明の都合上、半導体として、Al
xGa1-xAsを用いた場合について説明したが、ヘテロ構造
を作れる半導体なら、何でも良いことは明らかであろ
う。また、光と電流を挟窄する構造としては、リツジ型
導波路を用いた場合について説明したが、これもまた、
通常の半導体レーザに使われているどの方法でも良い。
これらのやりかたや、作成法は例えば、Applied Physic
s Letters及びIEEE Journal of Quantum Electronicsの
最近15年分程を参照すれば容易に分るので、説明は省略
する。
また、発光層の数や種類は上記のように2つに限るわ
けでもなく、3つ以上でも良いことは明らかであろう。
また、本発明のレーザ素子を、広い波長範囲で動作す
る高効率の光増幅器として使うこともできる。即ち、本
発明の半導体レーザ素子に、レーザ発振するしきい電流
値よりも、わずかに少ない電流を注入し、外部の光源か
ら、該素子の一方の端面を通してレーザ発振する光の波
長の付近の波長を持つ光を入射し、該入射光と同一の波
長を持つ光をもう一方の端面から取りだすのである。第
5図の破線cで示したように、実線bの場合に比べ少な
い注入電流でも、実線aより広い(実線bと同程度の)
波長範囲で利得をもつので、従来の素子よりも広い波長
範囲で動作する高効率の光増幅器として使うことができ
る。
また、本発明のレーザ素子を、広い波長範囲で動作す
る高効率の光波長変換器として使うこともできる。即
ち、本発明の半導体レーザ素子に、レーザ発振するしき
い電流値よりもわずかに少ない電流を注入し、外部の光
源から該素子に、発光層のバンドギヤツプより大きい光
子エネルギーをもつ光を入射する。すると、キヤリアが
生成されるので、該素子の発光層から入射光とは異なる
波長をもつ光が発光し、端面から出射する。この出射光
は、あらかじめバイアスしてある電流λ1の光のしきい
電流値に近ければλ1(に近い)波長になり、λ2の光の
しきい電流値に近ければλ2(に近い)波長になる。本
素子を用いると、従来の素子よりも広い波長範囲で動作
する高効率の光波長交換器として使うことができる。
〔発明の効果〕
以上説明したように、本発明のレーザ素子では、異な
る波長の発光層を単一の光導波路内に設けることによ
り、波長を変化させてもレーザからの出射位置が変化し
ない。
また、各波長毎に独立な電流注入手段を設ける必要も
無いので、作成が容易で、素子サイズも通常の半導体レ
ーザと同程度である。
さらに、それぞれの波長を、別々の(しかし、単一の
光導波路内に設けた)発光層に分担させるため、ずっと
広い波長域で、発振可能となる。
また、障壁層のバンドギヤツプと厚さを適当に設定す
ることにより、共振器損失を増して電流を大量に注入し
なくても複数の波長の光が発振できるようになり、レー
ザの効率が従来例よりはるかに高くなり、発振しきい電
流値も通常の(波長可変でない)半導体レーザの1から
2倍程度の低い値であるような波長可変レーザが実現で
きた。特に、従来の、波長差の大きい波長可変レーザで
は困難だった、室温連続発振も容易に達成できた。
さらに、本発明のレーザ素子を光増幅器や光波長変換
器として用いる場合、従来の素子よりも広い波長範囲で
動作する高効率の光増幅器となる。
【図面の簡単な説明】
第1図は本発明の半導体レーザ素子の実施例を示す略断
面図、第2図は本発明の素子の光導波路部分のバンド
図、第3図は本発明の素子におけるキヤリア分布の模式
図、第4図は本発明の要件を満たさない素子におけるキ
ヤリア部分の模式図、第5図は実効的光利得の波長分散
を示す図である。 図中、1はn+-GaAs基板、2はn+-GaAsバツフア層、3は
n−AlXcGa1-XcAsクラツド層、4は光導波路構造部、5
はp−AlXcGa1-XcAsクラッド層、6はp+−GaAsキヤツプ
層、7はAu/Cr電極、8はAu-Ge/Aμ電極、9はSi3N4
である。また、10a,10bはそれぞれp型、n型のAlXsGa
1-XsAsセパレート(SC)層、11aはAlXaGa1-XsAa発光
層、11bはAlXbGa1-XbAs発光層、12はp+-AlXBGa1-XBAs障
壁層である。

Claims (9)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】互いにバンドギャップが異なる複数の発光
    層と、これらの発光層の間に設けられた、これらの発光
    層よりも大きいバンドギャップを持つ障壁層とを含む光
    導波路構造部及び該構造部を挟んで積層されたクラッド
    層からなる半導体レーザ素子において、 前記複数の発光層のうちの、第1の発光層の電子密度と
    正孔密度をそれぞれn1、p1、とし、該第1の発光層より
    もバンドギャップの大きい第2の発光層の電子密度と正
    孔密度をそれぞれn2、p2、とし、発振波長λ1における
    前記第1の発光層の光利得をg1(λ1,n1,p1)とし、
    発振波長λ2における前記第2の発光層の光利得をg
    2(λ2,n2,p2)とし、発振波長λ1における光の閉じ
    込め係数をΓ1(λ1)とし、発振波長λ2における光の
    閉じ込め係数Γ2(λ2)として、前記第2の発光層がな
    い場合の発振しきい電流と同程度の電流を流した時に、 Γ1(λ1)g1(λ1,n1,p1)Γ2(λ2)g2(λ2
    n2,p2)を満たすように前記障壁層のバンドギャップと
    厚さを設定したことを特徴とする半導体レーザ素子。
  2. 【請求項2】前記クラッド層と前記発光層との間に、バ
    ンドギャップがクラッド層より小さく発光層より大きな
    中間層を有しており、前記障壁層のバンドギャップの大
    きさが、前記発光層との境界付近における前記中間層の
    バンドギャップの大きさよりも大きい特許請求の範囲第
    1項記載の半導体レーザ素子。
  3. 【請求項3】前記障壁層のバンドギャップの大きさが、
    前記クラッド層のバンドギャップの大きさよりも大きい
    特許請求の範囲第1項記載の半導体レーザ素子。
  4. 【請求項4】互いにバンドギャップが異なる複数の発光
    層と、これらの発光層の間に設けられた、これらの発光
    層よりも大きいバンドギャップを持つ障壁層とを含む光
    導波路構造部及び該構造部を挟んで積層されたクラッド
    層からなる半導体レーザ素子において、 前記クラッド層と前記発光層との間に、バンドギャップ
    がクラッド層より小さく発光層より大きな中間層を有し
    ており、前記障壁層のバンドギャップの大きさを、前記
    発光層との境界付近における前記中間層のバンドギャッ
    プの大きさよりも大きくして、前記発光層にキャリアを
    注入した時に、前記障壁層のバンドギャップの大きさを
    前記発光層との境界付近における前記中間層のバンドギ
    ャップの大きさよりも大きくしなかった場合と比べて、
    バンドギャップの大きい方の発光層のキャリア濃度がよ
    り高く、バンドギャップの小さい方の発光層のキャリア
    濃度がより低くなるように設定した事を特徴とする半導
    体レーザ素子。
  5. 【請求項5】互いにバンドギャップが異なる複数の発光
    層と、これらの発光層の間に設けられた、これらの発光
    層よりも大きいバンドギャップを持つ障壁層とを含む光
    導波路構造部及び該構造部を挟んで積層されたクラッド
    層からなる半導体レーザ素子において、 前記障壁層のバンドギャップの大きさを、前記クラッド
    層のバンドギャップの大きさよりも大きくして、前記発
    光層にキャリアを注入した時に、前記障壁層のバンドギ
    ャップの大きさを前記クラッド層のバンドギャップの大
    きさよりも大きくしなかった場合と比べて、バンドギャ
    ップの大きい方の発光層のキャリア濃度がより高く、バ
    ンドギャップの小さい方の発光層のキャリア濃度がより
    低くなるように設定した事を特徴とする半導体レーザ素
    子。
  6. 【請求項6】前記障壁層、発光層、中間層の発光層に近
    接する部分及びクラッド層の発光層に近接する部分のう
    ちの少なくともひとつが、不純物のドーピングによって
    p型又はn型を有している特許請求の範囲第1項乃至第
    5項いずれかに記載の半導体レーザ素子。
  7. 【請求項7】前記ドーピングされた部分が、両側のクラ
    ッド層からそれぞれ電子と正孔を注入した時に、注入さ
    れた側と反対の側にある発光層まで移動するのがより困
    難な方のキャリアと同じ極性を有する特許請求の範囲第
    6項記載の半導体レーザ素子。
  8. 【請求項8】前記素子に発振しきい値近くの電流を注入
    した時に、発振波長の長い方の発光層の光利得が、より
    発振波長の短い発光層のいずれかの発振波長において、
    正になっている特許請求の範囲第1項乃至第7項いずれ
    かに記載の半導体レーザ素子。
  9. 【請求項9】前記発光層に各々独立に電流を注入する事
    が可能な複数の電極が設けられた特許請求の範囲第1項
    乃至第8項いずれかに記載の半導体レーザ素子。
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