JP2593774B2 - ステンレス鋼製のt頭ボルトおよびその製造方法 - Google Patents

ステンレス鋼製のt頭ボルトおよびその製造方法

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Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明はT頭ボルト、特に腐食性
環境で使用されるT頭ボルトに係る。
【0002】
【従来の技術】周知のようにT頭ボルトは装置、構築
物、管路などの種々の部材を継合したり組み立てたりす
る場合に広く適用されている。たとえば地中に埋設する
水道用の管路を形成するためにダクタイル鋳鉄管を継合
するときに、鋳鉄管の受け口へ差し口を嵌入して押輪を
外嵌してT頭ボルトで締結する場合などが挙げられる。
通常、このようなときに使用されてきたのはダクタイル
鋳鉄製のT頭ボルトであり、たとえばその形状は図4に
示すようにほぼ完全なT字形よりなり、T字形の頭部11
aの軸を除く底辺12aは、雄ねじ14aを螺刻した軸13a
に対して直角の水平部15aが大半を占め、この水平部で
フランジ面を押圧して均等に締結している。ダクタイル
鋳鉄は鋳造性がよいので鋳造法によってT頭ボルト1a
が製造されるから、その形状については特に制約を受け
ることがなく、締め付けに関して有利なように底辺の水
平部を十分に確保した形状を採ることについて、別に製
作上の問題となる点はない。
【0003】しかし、T頭ボルトの使用される箇所が腐
食性環境である場合など、材質的にダクタイル鋳鉄では
長い期間の使用に耐えられないことがよく生じる。たと
えば化学工場内外における配管などがその典型的な例で
あるが、地中に埋設する水道用管路でも従来からダクタ
イル鋳鉄製のT頭ボルトを使用するためには、厳重な防
食塗装を施さなければならなかった。このような防食手
段を講じても何かの原因で塗料が剥離すれば材料本来の
耐食性しか期待できないから、地中にあって簡単に取り
替え処理のできない管路の継合部で使用するときは、事
前に厳しいチェックが必要である。この点を配慮してス
テンレス鋼製のT頭ボルトを適用することも始められ、
耐食性に主眼点をおいて種々の分野で実用化されるよう
になっている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】ステンレス鋼のT頭ボ
ルトはダクタイル鋳鉄製のT頭ボルトとは異なり鍛造成
形によって製造される。ステンレス鋼でも鋳造法による
鋳鋼品もあるが、鍛造に比べると生産性がかなり低く、
また、鋳造性を高めるために比較的高くC%をあげる
と、耐食性の点でも問題が生じることがある。その点、
ステンレス鋼の棒材を金型内で鍛造すれば能率よく同一
形状のT頭ボルト1を量産することができる。
【0005】ステンレス鋼のT頭ボルトの形状の典型的
な例を図5に示す。材質的にはJIS規格のSUS30
4(オーステナイト相)、またはSUS403(マルテ
ンサイト相)の棒材を熱間(1000℃以上)鍛造して所望
の形状に仕上げている。しかし、このような典型的なス
テンレス鋼によっT頭ボルト1bを製造すると、形状的
な面でダクタイル鋳鉄製のT頭ボルト1aにはなかった
別の課題が発生する。すなわち、図5で明らかなよう
に、まず、T字形頭部の底辺12bの成形が水平度を大き
くは形成できないことが挙げられる。これは通常汎用さ
れている一般のステンレス鋼の成形性の限度がT形の成
形には対応できず、その限度一杯の成形によっても得ら
れる底辺には避けることのできない曲線が大きく残らざ
るを得ないのである。この曲線以上の苛酷な塑性変形
(いわゆるヘッディング)を強制すれば、頭部のコーナ
部分にクラックを誘発し、製品としての信頼性が大きく
低下するのでこれ以上のヘッディングは強いることがで
きないという課題がある。T頭ボルト1bの底辺水平度
が低いということは、締結に使用するときフランジ面と
直接当る範囲が小さくなり、広く均等に押圧するという
ボルトの機能を大幅に低下することは言うまでもない。
【0006】また、代表的なステンレス鋼の鍛造成形で
はその成形性を極力高めるために熱間鍛造によらなけれ
ばならない。成形時の材料は少なくとも約1000℃に加熱
して鍛造するから、きわめて厳しい高熱作業であり作業
環境や安全面で好ましくない状態である。しかも製品の
表面上には必ずスケールが残り、これを除去する煩瑣な
後工程が必ず伴うという経済的な不利益も生じる。
【0007】熱間鍛造の別の課題としては、寸法精度の
確保のために金型内に遊びをもたせ、成形時に余肉をバ
リとして張り出させ、後にトリミングしてバリを取り去
るという工程も免れることが難しい。このことはスケー
ル除去と同様にきわめて煩瑣な作業であるとともに、材
料歩留りから見ても大きなロスであることは言うまでも
ない。
【0008】ステンレス鋼製T頭ボルトの採用は耐食性
の向上を目的として出発したことは言うまでもないが、
近年装置の合理化やハイテクノロジーの発達によってそ
の使用条件は益々苛酷さを増し、材料に対する要求も通
常のステンレス鋼では、なお満足が得られないという厳
しい内容となりつつある。各種の腐食性環境における耐
用期間の延長はさらに強く求められるようになり、ダク
タイル鋳鉄に比べて優位を誇っていたステンレス鋼とい
えども、よりレベルの高い耐食性を要求される現在であ
る。これは、従来のステンレス鋼性のT頭ボルト、たと
えばSUS304などでは冷間で塑性変形するためには
大きな変形応力を必要とし、この塑性変形に伴っていわ
ゆる誘起変態により、オーステナイト相がマルテンサイ
ト相に変態して、本来保有している耐食性を大幅に劣化
させるというオーステナイト系ステンレス鋼特有の性質
と関係が深い。
【0009】尤も、冷鍛性に優れたステンレス鋼として
は、既にJISにSUSXM−7として規定する材料に
定評が与えられ、冷間鍛造や圧延を通じて多くの分野に
おいて製品として実施されていることも事実である。そ
の成分はC:≦0.08,Si:≦1.00,Mn:≦
2.00,Ni:8.50〜10.50,Cr:17.
00〜19.00,Cu:3.00〜4.00%である
が、さらにその冷鍛性はできるだけ維持し、また加工に
よる誘変態によってマルテンサイトが発生して耐食性
が低下しないことを条件に、より経済的に有利な冷間加
工可能のステンレス材を開発した従来技術も散見され
る。その一つは特開昭55−28366号公報の従来技
術であり、成分としてC:≦0.03,Si:≦1.0
0,Mn:0.5〜2.0,Ni:8.50〜9.2
0,Cr:17.00〜19.00,Cu:3.00〜
4.00%であって、かつC+NをNi,Mnの含有量
に対応して一定範囲に限定するステンレス鋼を提案して
いる。また、特開昭63−60259号公報でも、成分
としてC:≦0.08,Si:≦1.00,Mn:≦
2.0,Ni:8.00〜10.50,Cr:18.0
0〜20.00,Cu:1.00〜3.00%の冷鍛性
に富むステンレス鋼の締結ボルト、ナットを提起してい
る。何れも前記のJIS材を出発原料として幾らか改変
した成分で構成している。しかしここに掲げた3件の従
来技術は、冷鍛性に定評があるとは言え、本発明が対象
とするT頭ボルトの冷間加工を可能とするほどの変形能
を具えているとは限らない。たとえば図6に示した各部
材は本発明に係るT頭ボルト(A)、特開昭55−28
366号公報の対象であるねじビス(鋲螺)(B)、お
よび特開昭63−60259号公報の対象である通常の
六角ボルト(C)の正面図であり、T頭ボルトに係る日
本水道協会規格、ビス、六角ボルトをそれぞれ規定する
JISによる各部寸法関係に基づいて、それぞれの軸径
(D)と頭部長さ(L)との比率を求め、鍛造成形時に
おける変形率として算出した数値を下方に表示したもの
である。さらに表2ではT頭ボルト(日本水道協会)と
六角ボルト(JIS)の規定に基づく寸法から各種サイ
ズの品種について、それぞれの変形率を算出したもので
ある。
【表2】 図6および表2からも容易に理解できるように、同じス
テンレス鋼による締結部材であるとはいえ、本発明に係
るT頭ボルトと従来技術のビスや六角ボルトとではその
変形率に殆ど倍に近い差があり、この差がすなわち、T
頭ボルトを成形するときに克服しなければならない過大
な変形量を示唆するものであって、ビスや通常タイプの
六角ボルトであれば冷間鍛造で成形できたとしても、T
頭ボルトの冷間鍛造は不可能である理由を裏付けてい
る。本発明は以上に述べた課題を解決するために、形状
的には締結用のボルトとしての機能が十分発揮できるよ
うに,締め付ける水平底面を広い範囲で確保し、材質的
には従来不可能であったステンレス鋼のT頭ボルトを冷
間鍛造または少なくとも極低度の温間鍛造によって、さ
らに耐食性の優れたT頭ボルトを低価格で経済的に提供
することを目的とする。
【0010】
【課題を解決するための手段】本発明に係るステンレス
鋼製T頭ボルトの製造方法は、C:0.04%以下、S
i:0.60%以下、Mn:1.00%以下、P:0.
045%以下、S:0.03%以下、Ni:10.00
〜15.00%、Cr:17.00〜19.00%、C
u:3.00〜4.00%、残りFeよりなるオーステ
ナイト系ステンレス鋼素材を冷間鍛造、または最高30
0℃以下の温間鍛造により軸径に対するT形の頭部の最
大長さの割合が275%を含む高度な変形を加えて成形
することによって前記の課題を解決した。
【0011】また、本発明に係るステンレス鋼製のT頭
ボルトは、C:0.04%以下、Si:0.60%以
下、Mn:1.00%以下、P:0.045%以下、
S:0.03%以下、Ni:10.00〜15.00
%、Cr:17.00〜19.00%、Cu:3.00
〜4.00%、残りFeオーステナイト系ステンレス
鋼よりなり、軸径に対するT形頭部の最大長さが275
%を含む高割合の特殊形状よりなり、かつ、該該T頭ボ
ルトのボルト機能の良否を支配するT形頭部の底辺にお
ける水平部の範囲が、底辺全長のほぼ50%以上を維持
することによって前記の課題を解決した。
【0012】
【作用】図1(A)(B)(C)は本発明の実施例とナ
ット2の三面図である。ボルトの呼び径によってT形頭
部、軸、雄ねじの各部の寸法はそれぞれ規定されている
が、全体の形状自体は共通して頭部底辺の水平度が大き
く、締め付けに直接関与する範囲が殆ど底辺の全長に亘
っているのが特徴である。形状的にはダクタイル鋳鉄製
のT頭ボルト1aとほぼ同形で、ボルトとして締結した
ときの押圧力が全長に亘って均等に発現する。このよう
に従来のステンレス鋼では得られなかった頭部コーナの
鋭い屈折が得られる原因は、材質的に従来全く考慮され
なかった別異のものに着目した点にある。
【0013】図2、図3は従来技術であるSUS304
と本発明の一実施例との冷間における成形時の特性の比
較であって、 図2は横軸に圧縮率(%)、縦軸に変形
応力(kgf/mm2)をプロットしたものであり、 図3は横
軸に圧縮率(%)、縦軸に透磁率(μ)をプロットした
ものである。すなわち、図2のように一定の変形応力、
たとえば100kgf/mm2の応力を加えたときに生じる変形
(ここでは圧縮)はSUS304では約30%であるの
に対し、本発明実施例では50%近い変形を示してい
る。また、変形率が同一、たとえば20%のときにSU
S304では透磁率μが1.01から1.04前後にまで上昇し
て急速にマルテンサイト相が増加するのに対し、本発明
実施例では殆ど変動が現われず変形前と同じ数値を維持
して安定したオーステナイト相の存在が認められる。こ
のことは変形後の耐食性が変形前のそれと殆ど変わって
いないことを裏付けている。
【0014】C%を0.04%以下とするのは、低C領
域の中でもCの増加に伴って成形性が急激に低下し、本
発明のような変形率がきわめて高い場合、たとえば鋭い
頭部のコーナが得られず水平部分が50%を維持するこ
とが困難となるからである。また、Ni%の下限は他の
冷鍛性に定評のあるJISに規定するSUSXM−7、
またはこの成分に準ずる従来技術の冷間鍛造用ステンレ
ス鋼よりもさらに高く設定し10.00%以上とするこ
とによって、オーステナイト相の安定化がさらに進み、
過大な冷間鍛造を可能とする適性を保ち、成形性の向上
と耐食性の安定化も促進するから本発明の目的を完全確
実に達成することができる。ただしNiが15%以上に
なると強度の低下が現れるのでこれを上限とする。Cu
%はステンレス鋼の成形性の向上に大きな役割を果し、
3.00%以下では本発明のような変形度の大きい冷間
鍛造におけるヘッディングは十分向上することができ
ず、無理な塑性変形加工を受けるとクラックの発生する
可能性が高い。しかし、4.00%を越えると熱間圧延
による棒材(素材)の成形が困難となるので、この数値
を上限とする。このNi,Cu量に対する臨界的限定
が、六角ボルトやねじビスの成形は可能であるとして
も、275%に及ぶT頭ボルトの成形は保証し難い従来
技術との差となって顕在化する
【0015】
【実施例】図1各図は本発明実施例の三面図である。
このT頭ボルト1の呼び径は20mm(JISのM20タイ
プ)であり、その頭部11の長さは55mm、軸13の長さは90
mm、軸外周面上の雄ねじ14の範囲は60mmである。この実
施例では頭部の底辺12(軸部を除く)のうちで軸と直角
を形成する水平部15は23mmであり、底辺全体に占める水
平部の割合は66%である。別例として呼び径16mm、頭
部11の長さ38mmのM16タイプ(JIS)については、
軸と直角を形成する水平部15は16mmであり、従来のダク
タイル鋳鉄製の45%を上回る54%の水平度を形成す
る。
【0016】化学成分はC:0.03、Si:0.26%、M
n:0.62%、P:0.039%、S:0.002%、Ni:10.01
%、Cr:17.99%、Cu:3.15%、残りFeである。
【0017】表1は本発明実施例と比較例としてJIS
規格のSUS304およびSUS403を同一条件(試
験時間150日) で腐食試験した結果である。
【0018】
【表1】
【0019】この表で例示されるように各種の腐食性環
境において、本発明実施例は他のステンレス鋼製品に比
べて明らかに高い耐食性を実証していて、これは透磁率
が塑性変形を受けても殆ど変わらない点と大きな相関が
あると解釈できる。
【0020】
【発明の効果】本発明は以上に述べたようにT字形の頭
部における底面の水平度が高くて、被締結材の締結面と
の接触面積が広く均等に押圧して安定した継合状態を維
持する効果がある。しかも材質は耐食性が高く、従来の
ステンレス鋼製のT頭ボルトと比較しても腐食性環境に
おける耐用期間が大幅に延長できると考えられる。製造
時について従来と比べると、本発明は冷間鍛造で寸法精
度の高いT頭ボルトの得られることが大きな利点であ
り、素材加熱のコスト、劣悪な作業環境や安全性、成形
後の仕上げ工程が消滅、または大幅に軽減されるから、
製造費の大きな低減を実現する効果が現われる。
【図面の簡単な説明】
【図1】(A)(B)(C)によって本発明実施例の三
面図を示す。
【図2】本発明実施例と比較例の冷間加工による変形応
力を示す。
【図3】本発明実施例と比較例の冷間加工による透磁率
変化を示す。
【図4】従来技術(ダクタイル鋳鉄製)のT頭ボルトを
示す正面図である。
【図5】従来技術(ステンレス鋼製)のT頭ボルトを示
す正面図である。
【図6】規格化されたT頭ボルト(A)、ねじビス
(B)、六角ボルト(C)の正面図とその変形率(%)
である。
【符号の説明】
1 T頭ボルト 11 頭部 12 底辺 13 軸 14 雄ねじ 15 水平部
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (72)発明者 深川 悟 大阪府岸和田市臨海町20番地−2 日新 ステンレス株式会社岸和田工場内 (72)発明者 黒田 四男 大阪府岸和田市臨海町20番地−2 日新 ステンレス株式会社岸和田工場内 (56)参考文献 特開 昭55−28366(JP,A) 特開 昭63−60259(JP,A)

Claims (2)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 C:0.04%以下、Si:0.60%
    以下、Mn:1.00%以下、P:0.045%以下、
    S:0.03%以下、Ni:10.00〜15.00
    %、Cr:17.00〜19.00%、Cu:3.00
    〜4.00%、残りFeよりなるオーステナイト系ステ
    ンレス鋼素材を冷間鍛造、または最高300℃以下の温
    間鍛造により軸径に対するT形の頭部の最大長さの割合
    が275%を含む高度な変形を加えて成形することを特
    徴とするステンレス鋼製のT頭ボルトの製造方法。
  2. 【請求項2】 C:0.04%以下、Si:0.60%
    以下、Mn:1.00%以下、P:0.045%以下、
    S:0.03%以下、Ni:10.00〜15.00
    %、Cr:17.00〜19.00%、Cu:3.00
    〜4.00%、残りFeオーステナイト系ステンレス
    鋼よりなり、軸径に対するT形頭部の最大長さが275
    %を含む高割合の特殊形状よりなり、かつ、該該T頭ボ
    ルトのボルト機能の良否を支配するT形頭部の底辺にお
    ける水平部の範囲が、底辺全長のほぼ50%以上を維持
    することを特徴とするステンレス鋼製のT頭ボルト。
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