JP2588644B2 - 軟腐病菌の固定化方法 - Google Patents

軟腐病菌の固定化方法

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Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、学名エルビニア・カロ
トボーラ(Erwinia carotovora)に
属する細菌の固定化方法および該固定化物を散布して軟
腐病を防除する方法に関するものである。
【0002】本発明における病害防除の対象とされる植
物は、白菜、キャベツ、セロリ、レタス、ニンジン、ダ
イコン、ワサビ、ジャガイモ、タバコ、トマト、シクラ
メンなど多数があり、エルビニア・カロトボーラ細菌に
より引き起こされる、いわゆる軟腐病(Soft ro
t disease)が対象病害である。
【0003】
【従来技術とその問題点】エルビニア・カロトボーラ細
菌により引き起こされる、いわゆる軟腐病の防除方法と
しては、一般に、ストレプトマイシン等の抗生物質製剤
や、ボルドー液のような銅剤の散布が行われている。
【0004】しかしながら、これらの薬剤を用いた場合
には、その防除効果は満足すべきものではないうえに、
病原菌以外の有益な細菌まで死滅させてしまうことや、
環境汚染上の問題、さらには薬害の問題がある。また、
抗生物質については、それに対する抵抗性を持った細菌
の出現があり、これらが問題となっている。
【0005】エルビニア・カロトボーラ細菌は、多くの
植物の貯蔵組織に軟腐をおこし、植物組織の細胞間接合
物質として働いているペクチン物質を分解するペクチン
分解酵素の生産能を持つことに起因し、普編的に土壌に
存在していることが報告されている。
【0006】この軟腐病は、5年以上この菌の宿主とな
る作物を作っていない畑でも、時として発生が観察され
る場合がある。この菌体の一般的な生態は、例えば、多
発する白菜の場合には、播種後、40日位から根部の周
辺でこの細菌が増殖し、根圏土壌、葉部など、あらゆる
箇所にその存在が認められるようになる。
【0007】そして、台風や昆虫、あるいは日常の作業
などにより白菜に傷がつくと、そこから細菌が進入し、
気象条件さえ整えば一晩の内に病原菌濃度が上昇し、病
斑が認められるようになる。そこで、これらの発病を防
止するため、病原性のある細菌に対して非病原性を有す
るエルビニア・カロトボーラ細菌を根圈土壌や葉部で病
原株と同様に増殖させることが可能になれば、病原性の
ある細菌の増殖を押さえ、これらの軟腐病を防除するこ
とが可能となる。
【0008】
【問題点を解決するための手段】本発明者らは、かかる
考察のもとに、鋭意検討した結果、エルビニア・カロト
ボーラ細菌の変異処理株のなかから、病原性を有する系
統の同細菌と競合してよく成育し、かつ、病原性をもた
ない系統のものを選び出し、これらの病原性を欠失した
エルビニア・カロトボーラ細菌の生菌を前記対象植物の
根部、または葉部に施用することにより軟腐病を防除す
ることができることを見出し、本発明を完成させた。
【0009】すなわち、本発明は、病原性を突然変異ま
たは変異処理により欠失させた軟腐病菌を糖類またはビ
ーフエキスと混合し、真空乾燥もしくは凍結真空乾燥す
ることにより固定化し、これを微生物農薬として用いる
ものである。
【0010】かかる細菌としては、軟腐病の病原性を変
異処理し、病原性欠失株を作成する。変異処理法として
は、一般的に用いられる変異試薬剤、例えば、エチルメ
タンスルホニル、ニトロソグアニジンまたは紫外線等を
用いる方法〔微生物実験法288頁〜306頁講談社刊
(1982)〕が知られており、これらに準じて処理す
ればよい。
【0011】なお、病原性欠失株のスクリーニングは、
ペクチナーゼ分泌能の低下した菌株を拾い出し、白菜切
片を用いた病原性試験により行った。試験は、白菜の葉
切片に傷を付け、高濃度の検定菌液を塗布し、水分存在
下、28℃の恒温槽に24時間静置した後にその病斑の
有無を測定し、病原性の有無を判断した。
【0012】本発明は、これらの病原性欠失株の中か
ら、病斑阻止能力の高い菌株を微工研に寄託し、以下の
寄託番号が付与されている。 エルビニア・カロトボーラ サブスピ カロトボーラ CGE6M14 微工研菌寄第10998号(FERM P−10998) エルビニア・カロトボーラ サブスピ カロトボーラ CGE6M16 微工研菌寄第10999号(FERM P−10999) エルビニア・カロトボーラ サブスピ カロトボーラ CGE10M2 微工研菌寄第11000号(FERM P−11000) エルビニア・カロトボーラ サブスピ カロトボーラ CGE11M5 微工研菌寄第11001号(FERM P−11001) エルビニア・カロトボーラ サブスピ カロトボーラ CGE234M403 微工研菌寄第11792号(FERM P−11792) 本発明は、これらの病原性を欠失させた軟腐病菌の固定
化方法の提供にある。
【0013】本発明の菌体の固定化保護剤としては、サ
ッカロース、グルコース、フルクトース、ソルビトール
の一種または二種以上からなる糖類またはビーフエキス
を用い菌体と混合し、真空乾燥もしくは凍結真空乾燥す
ることによって行うものである。
【0014】以下、本発明を詳述する。まず、軟腐病菌
の病原性欠失株を適当な培地で培養を行う。ここで使用
する、例えば、液体培地は、菌が増殖するものであれ
ば、特に限定するものではなく、通常使用されている下
記802培地、ブイヨン培地等の培地を使用し、20℃
〜35℃で10〜35時間培養し、増殖させたのち、遠
心分離して集菌を行い、培地成分は取り除く。かかる操
作で菌体濃度は、通常2〜3×1011cfu /g程度
に濃縮される。ついで湿菌体に糖類またはビーフエキス
とグルタミン酸ナトリウム、リン酸ナトリウム緩衝液か
らなる保護剤を加え、真空乾燥するものである。真空乾
燥する前に保護剤と混合した菌体を予備凍結し、凍結し
たまま真空乾燥することが菌の生存率を維持するために
は好ましい。
【0015】なお、保護剤は、水溶液の状態で菌体と混
合してもよく、固体のまま混合してもよい。
【0016】
【実施例】次に実施例を示すが、本発明は以下の実施例
によって限定されるものではない。なお、実施例に用い
た培地の組成を次に示す。 802培地:ポリペプトン10g、酵母エキス2g、M
gSO4・7H2O1g、水1L、pH7.0(プレート
の場合は、寒天15gを含む。) ブイヨン培地:肉エキス3g、ペプトン10g:NaC
l5g、水1L、pH7.0実施例1 802培地にエルビニア・カロトボーラCGE10M2
〔微工研菌寄第11000号(FERM P−1100
0)として寄託されている。〕を接種し、30℃で15
時間培養した。培養液は、遠心分離機を用いて集菌を行
い、菌体濃縮液(菌数3.0×1011cfu/mL)を
得た。菌体濃縮液25μLに対して保護剤〔40%(w
/w)サッカロース、2%(w/w)グルタミン酸ナト
リウム、0.1Mリン酸ナトリウム緩衝液pH7.0〕
25μLとよく混合したのち、アンプル管に入れ、その
上に脱脂綿を詰め、100mtorrで2.5時間乾燥
したのち、これを熔封し、室温で保管し、その経時変化
を調べた。
【0017】その結果、10日、30日および90日後
の生菌数は、乾燥前と較べてそれぞれ4%、4%および
4%であった。また、乾燥前にドライアイス−エタノー
ル寒剤を用いて試料の予備凍結を行った。その結果、1
0日、30日および90日後の生菌数は、乾燥前と較べ
てそれぞれ39%、35%および35%であった。
【0018】また、サッカロースの濃度を変化させた場
合および無添加の場合の結果を表1に示した。
【0019】
【表1】
【0020】実施例2 実施例1と同様な方法で、糖類のサッカロースの替わり
に各濃度のグルコース、フルクトース、ソルビトールお
よびビーフエキスを用いた場合の菌の生存率を測定し
た。その結果を表2に示す。
【0021】
【表2】
【0022】実施例3 幅32cm×長さ60cm×高さ18cmの箱に赤玉土
と腐葉土とを2:1の割合で配合した培土を詰め、この
箱にチンゲン菜の苗を12本移植した。移植してから1
0日後に、実施例2の表2のNo.4に示す菌体固定化
物を室温で10日間保存したものを水で希釈して60m
Lとし、これを散布した。この時の菌濃度は、8.8×
107cfu/mLであった。散布してから21日後、
チンゲン菜の外葉を取って菌濃度を測定した結果、平均
1.2×104cfu/cm2の菌が定着していた。
【0023】実施例4 実施例3と同様な箱に白菜の苗3本を移植し、これに実
施例1の表1に示すNo. 6の方法でCGE234M4
03〔微工研菌寄第11792号(FERMP−117
92)として寄託されている。〕を製剤化し、室温で1
0日間保存した菌体固定化物を水で希釈して300mL
とし、散布した。この時の菌濃度は、8.8×107
fu/mLであった。散布してから18日後、白菜の外
葉をとり、菌濃度を測定した結果、5.2×103cf
u/cm2の菌が定着していた。これらを栽培し、70
日後に収穫するまで、軟腐病の発生は、全く認められな
かった。
【0024】一方、隣接する箱において栽培時、固定化
物を散布しなかったものは、発病度33.3の軟腐病の
発生が認められた。
【0025】
【数1】 発病度=〔Σ(程度別発病株数×指数)/調査総株数×3〕×100実施例5 菌体CGE234M403をブイヨン培地にグルコース
とボリペプトンを添加した培地4Lを用いて、10Lの
ジャーファーメンターで36時間培養した。ついでこの
一部を遠心分離し、湿菌体35gを得た。これに40%
のサッカロースを40g加えて予備凍結し、150mt
orrで40時間乾燥を行った。これにより菌体物25
gを得た。この時の菌体物の生菌濃度は、2.3×10
11cfu/gであった。これを室温で保管し、経時変化
を調べた。その結果、10日、30日および90日後の
各菌数は、乾燥前と較べてそれぞれ27%、25%およ
び25%であった。
【0026】
【発明の効果】本発明の方法により、病原性欠失株の安
定した固定化が可能であり、これを軟腐病の生物防除手
段として用いることにより、薬害のない安全な防除を効
率よく行うことができる。

Claims (2)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】病原性を突然変異または変異処理により欠
    失させた軟腐病菌を糖類またはビーフエキスと混合し、
    真空乾燥もしくは凍結真空乾燥し、固定化することを特
    徴とする軟腐病菌の固定化方法。
  2. 【請求項2】糖類がサッカロース、グルコース、フルク
    トースおよび/またはソルビトールであることを特徴と
    する請求項1記載の軟腐病菌の固定化方法。
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