JP2574869B2 - 長軸材の表面熱処理方法 - Google Patents

長軸材の表面熱処理方法

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JP2574869B2
JP2574869B2 JP63133210A JP13321088A JP2574869B2 JP 2574869 B2 JP2574869 B2 JP 2574869B2 JP 63133210 A JP63133210 A JP 63133210A JP 13321088 A JP13321088 A JP 13321088A JP 2574869 B2 JP2574869 B2 JP 2574869B2
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Description

【発明の詳細な説明】 A.産業上の利用分野 本発明は長軸材の熱処理方法に係り、特に種々の加熱
条件の組み合わせ制御によって軸方向の伸縮変形量の調
整を行う長軸材の表面熱処理方法に関する。
B.発明の概要 本発明は長軸材の表面熱処理によって生じる軸方向の
伸縮変形量を一定に制御して、熱処理後の仕上げ加工を
容易とする熱処理方法の提供を図ったもので、表面熱処
理における熱処理深さの要因となる3つの加熱条件、即
ち誘導加熱コイルに供給する周波数およびその電力量,
移送する長軸材または誘導加熱コイルの移送速度および
誘導加熱コイルに供給する電力量,長軸材に施す予熱温
度および誘導加熱コイルに供給する電力量と長軸材また
は誘導加熱コイルの移動速度の内のいずれかの条件また
は複数の組み合わせ条件を用いて長軸材の熱処理深さを
調整して軸方向の伸縮変形量を制御するもので、あるい
は上記のいずれかの条件または複数の組み合わせ条件に
よる熱処理条件と熱処理深さおよび軸方向の伸縮変形量
との関係を予め算出して基準熱処理条件を設定し、熱処
理の実施に当たって軸方向の伸縮変形量を連続的に検出
し、基準値と比較した値を制御量として3つの加熱条件
の内のいずれかまたは複数の組み合わせから成る熱処理
条件を補正して熱処理深さを自動制御することにより、
軸方向の伸縮変形量は長軸材の素材の違いや前工程迄の
加工内容の違いに対しても一定量に制御され、熱処理後
の仕上げ加工は容易に且つ短縮することができる。
C.従来の技術 所定の硬度と寸法精度とが要求される軸材やねじ軸な
どの表面には、熱処理(焼入れ及び焼戻し)を施すこと
によって表面硬化を生成し、軸の強度や耐摩耗性を向上
させている。軸材やねじ軸等への焼入れ処理を高周波焼
入れ、即ち誘導加熱によって実施する場合、軸材やねじ
軸(以下被処理材と記す)の表面の加熱昇温した部分の
みに熱膨張が生じて、次に焼入れのために水冷を施した
際には同じく表面層だけに急激な収縮が生じる。
更に被処理材が鋼材の場合には、焼入れに伴う表面の
相変態による体積膨張が生じるので、表面の焼入層にお
いて膨張が生じる。
そしてこれらの表面層の膨張または収縮に伴う応力が
内部の応力と釣り合うまで被処理材に変形が生じる。鋼
材の表面焼入れにおいては一般に表面層の相変態による
膨張に伴って軸方向については第8図の被処理材の断面
に示す応力図で明らかなように表面層に圧縮応力が発生
し、内部に生じる引張応力と全断面で釣り合いがとれる
まで長さ方向に伸びが生じて被処理材の全長が増加する
場合が多い。なお、焼戻し処理の場合の変形は一般的に
少ない。
また被処理材としての長軸材の外周にねじの冷間転造
などの冷間成形加工が施されている場合には、冷間転造
によって被処理材の外周層は圧縮延伸され、外周部には
軸方向に圧縮応力が残留し、内部には引張応力が残留し
ている。この状態で被処理材の外周表面を高周波加熱す
ると外周層の圧縮残留応力が消失し、且つ表面層は変形
し易くなるので全体は軸方向に縮む。なお熱間転造や切
削加工によって成形された被処理材の場合にはこのよう
な変形は生じない。また被処理材が冷間成形加工を施さ
れた鋼材の場合には、表面焼入れのための外周層の加熱
昇温によりまづ上記の軸方向の縮みが起こり、次に表面
に水冷による焼入れを行うと熱処理によって変態して表
面層が膨張するので軸方向に伸長する。そして最終的に
熱処理完了時の被処理材の変形量は高周波加熱による縮
み量と焼入れによる伸長量とのどちらが大きいかによっ
て決まるのである。
D.発明が解決しようとする課題 上記のような被処理材の表面に熱処理を施すことによ
って軸方向に伸縮変形が生じるので一般に被処理材に対
する加工寸法は、予め熱処理によって生じる変形量を見
込んだ成形加工寸法値で実施されているが、熱処理によ
る変形量は熱処理条件の他に、被処理材の材質や成分,
前工程での熱処理状態,成形加工方法と加工量などによ
っても大きく左右されるので、熱処理条件を一定にして
も、なかなか一定の値に安定させることが困難であっ
た。従って熱処理後の被処理材の寸法を精度良く揃える
ことが難しいという問題点があった。特に被処理材がね
じ軸の場合には、熱処理による変形量はピッチ誤差とし
て生じるため、この変形を修正するための後加工として
研削加工が必要となっていた。
上記のように被処理材に熱処理を施す場合に生じる軸
方向の伸縮変形に対しては、要求される高精度の仕上げ
寸法とするために熱処理後の工程で研磨加工を加えるこ
とにより、製品の精度仕様の確保が行われていた。特に
ねじ軸において発生する軸方向の伸縮変形を修正する仕
上げ加工は、研磨加工装置の加工量が1回の送り当たり
数μm程度で、ねじ溝深さが数mmであれば、加工量は数
mm/数μmとなって1000ステップ程度の送り量が必要
で、1本当たり数mの軸材の仕上げ加工時間は1日の単
位を費やす。
また上記のような被処理材の寸法変化は、熱処理工程
の前工程における処理や加工条件が異なる場合や、被処
理材の製造ロットやメーカーが異なる場合等では熱処理
条件を一定にしても安定することが困難であり、熱処理
後の寸法精度を一定の値で安定に維持すると共に後工程
の仕上げ加工を容易に且つ短縮することができる熱処理
方法が望まれていた。
本発明は上記の課題に鑑み成されたもので、被処理材
の表面熱処理によって生じる変形量を一定に制御して、
熱処理後の仕上げ加工を省略または容易とする熱処理方
法の提供を目的とする。
E.課題を解決するための手段と作用 本発明は誘導加熱装置の電力制御のみでなく、熱処理
条件に関係する種々の要因の調整を行うことで被処理材
の表面からの熱処理深さを制御することにより、被処理
材の変形量を制御しようとするもので、具体的手段は、 誘導加熱コイルに供給する周波数およびその電力量
と、移送する長軸材または誘導加熱コイルの移送速度
と、長軸材に施す予熱の温度の内のいずれかまたは複数
の組み合わせ条件と、長軸材の熱処理深さおよび軸方向
の伸縮変形量との関係を予め算出して基準伸縮変形量に
対する基準熱処理条件を設定し、熱処理を実施するに当
たって軸方向の伸縮変形量を連続的に検出して、この検
出量と基準伸縮変形量の比較値を制御量として算出し、
前記の熱処理条件の内のいずれかまたは複数の組み合わ
せにもとづいた熱処理条件を補正して熱処理深さを自動
制御することにより軸方向の伸縮変形量を調整すること
を特徴とする熱処理方法である。
上記手段を用いることにより、熱処理条件を種々に組
み合わせて実施する熱処理方法は、基準として設定した
伸縮変形量を設定値としてフィードバック制御が行わ
れ、熱処理する長軸材の伸縮変形量は安定した設定範囲
に制御することができる。
F.実施例 以下、本発明の実施例を図面を参照して詳細に説明す
る。最初に本発明の熱処理方法に関係する熱処理条件に
ついて説明する。
前記、従来の技術において説明したように軸材やねじ
軸等のような長軸材から成る被処理材の外周面を表面熱
処理した場合、長さ方向の伸縮は表面層に生じた応力が
内部の応力と断面全体にわたって平衡することにより発
生するものである。
従って熱処理層の深さが浅ければ表面層に生じる応力
が断面全体におよぼす影響力は小さく、長さ方向の伸縮
量は少なくなり、逆に熱処理層の深さが深ければ、長さ
方向の伸縮量は大きなものとなる。
本発明は被処理材の長さ方向の変形量δ(mm/m)と、
熱処理深度γ(mm)の関係を求めて、熱処理深度γを制
御することによって長さ方向の変形量δの値を所定の範
囲に収めようとするものである。なお被処理材の強度や
耐久性,寿命等から必要とする熱処理深度γの仕様が決
められる場合には、その仕様を満足する範囲内で熱処理
深度γを調整して長さ方向の伸縮変形量を制御するもの
である。
従って誘導加熱による熱処理方法では、熱処理深さγ
を制御するための加熱条件として次の3つの条件が考え
られる。第1には、誘導加熱コイルに供給する電力の周
波数fの値、第2には被処理材あるいは誘導加熱コイル
の移送速度vの値、第3には被処理材に対して熱処理の
前に施す予備加熱の値である。上記の3条件について順
に詳細に説明する。
第1の条件としての誘導加熱コイルに供給する電力の
周波数fの制御については、供給電力の周波数fと被処
理材の表面における電流の浸透深さDとの間には次の関
係式が知られている。即ち、 (但しρ:被処理材の固有抵抗値(μΩ・cm),μ:被
処理材の透磁率)で表される関係式で、加熱コイルに流
れる交番電流の磁束の交鎖によって被処理材の表面に誘
起された電流は表面から深さD(cm)までの表面部分を
流れて抵抗損による発熱を生じる。具体例として被処理
材が常温を含む磁気変態点以下の温度では磁性を示す鉄
鋼材の場合について示すと、周波数f(Hz)と誘導電流
の深さD(cm)と表面層の温度θ(℃)の関係は次のよ
うに表される。(但し約780℃の磁気変態点以上では非
磁性となる) 一般的には上記の関係は縦軸に焼入深度をとり、横軸
に周波数をとった第3図に示すような関係となる。即
ち、熱処理深度である焼入深度γを、第一義的に誘導加
熱コイルに供給する電力の周波数fの値によって大きく
変えることが可能で、焼入深度γを制御することができ
る。
また、周波数fを低くすると加熱層が深くなるため、
第3図に示すように加熱温度を維持するための供給電力
は増大させる必要がある。なお周波数を可変とするため
には電源の設備費は増加することとなる。
第2の条件としての焼入れ部分を連続的に移送する移
送速度vの制御については、誘導加熱コイルを流れる交
番電流によって誘起されて費処理材の表面から深さD
(cm)迄の表面部分を流れる誘導電流による直接的なジ
ュール加熱によって表面層が昇温するが、同時にまた内
部に対して熱の伝導が生じて時間と共に内部への熱の拡
散浸透が行われて内部の温度も上昇する。従って被処理
物の移送速度vが小さい程内部への熱の伝導量が増加し
て、被処理材内部の温度も上昇するので焼入深度γが大
となり、逆に移送速度vが大きい場合には、焼入深度γ
は浅くなる。なお、移送速度vを速くした場合には単位
時間当たりの被処理材の加熱長が増加するので、誘導加
熱コイルに供給する電力量を増加させて設定した加熱温
度を維持する必要がある。上記の関係を示したものが第
4図(a)で、縦軸に焼入深度γをとり横軸に移送速度
vをとって、移送速度vをv1からv3に増加して、これに
見合って供給電力量PをP1からP3に増加することによ
り、焼入深度γはγからγに浅くなる。移送速度v
を制御する方法として、被処理材を移送するのではな
く、誘導加熱コイルを移送してもよい。
第3の条件として、被処理材に施す予備加熱の制御に
ついては、例えば第7図に示す誘導加熱による焼入装置
要部に備えたように、焼入れを施す誘導加熱コイルの手
前に予熱用の誘導加熱コイルを設けて被処理材に施す予
熱加熱量を調整することにより焼入深度γを制御するも
のである。
即ち、予備加熱を行うことにより焼入深度γは大とな
り、予備加熱温度が高い程焼入深度γを大きくすること
ができる。上記の関係を示したものが第4図(b)で、
縦軸に一定温度での予備加熱を施した被処理材の焼入深
度γを表し、横軸に被処理材の移送速度vを表してい
る。第4図(b)と予備加熱のない第4図(a)とを比
較すると、移送速度vが同じ速度の場合でも、焼入深度
γは予備加熱有りの被処理材の方がγ<γ′,γ
<γ′で示されるように深くなることが明らかであ
る。なお第4図(b)は1種類の予熱温度で予備加熱を
行った場合についての代表例を示したものであるが、予
熱温度を変えた場合についても同様の関係を求めること
により熱処理(焼入)深さγと予熱温度および供給電力
量P等との関係を求めておくことができる。
次に被処理材に加えた焼入れ処理における被処理材の
表面から内部に向かっての硬度分布(焼入深度)と加熱
条件との関係を示したものが第1図(a),(b)であ
り、焼入深度と被処理材の伸縮変形量との関係を示した
ものが第2図(a),(b)である。第1図(a),
(b)は縦軸に被処理材の焼入れ後の硬度H、横軸に被
処理材の表面からの距離(深さ)γをとって、被処理材
断面における硬度分布を表したもので、硬度H0が焼入層
としての限界硬度値を示す。
第1図(a)は上記の加熱条件の移送速度vの調整に
よる焼入深度γの制御方法で、被処理材の移送速度vを
v1,v2,v3に変化させた場合に相当し、移送速度vが小さ
い程(v1)焼入深度γは大となり硬度Hの分布の傾斜が
変化する。第2図(a)は縦軸に被処理材の伸縮変形量
δ、横軸に焼入深度γをとって、第1図(a)の場合の
被処理材の焼入深度γと伸縮変形量δの関係を示したも
ので、焼入深度γが増加する程伸縮変形量δが増大する
ことがわかる。従って、第2図(a)は移送速度v,供給
電力量P,伸縮変形量δとの関係に置き換えることもでき
る。
一方、第1図(b)は上記の加熱条件の供給電力の周
波数fの調整による焼入深度γの制御方法で、誘導加熱
コイルに供給する電力Pの周波数fをf1,f2,f3に変化さ
せた場合に相当し、周波数fが高くなる程(f3)、焼入
深度γは小さくなる。そしてこの場合には第1図(a)
に示す場合と異なり、硬度分布の傾斜は変わらずにほぼ
平行移動することが特徴である。第2図(b)は第1図
(b)の場合の焼入深度γと被処理材の伸縮変形量δの
関係を示すもので、第2図(a)と同様に焼入深度γが
大きくなる程伸縮変形量δが増大する。従って第2図
(b)は供給する電力の周波数fとその電力量Pと伸縮
変形量δとの関係に置き換えることができる。
上記のように第1の条件としての熱処理深さγと誘導
加熱コイルに供給する周波数fおよび電力量Pとの関
係、第2の条件としての熱処理深さγと移動速度vおよ
び電力量Pとの関係、第3の条件としての熱処理深さγ
と予熱温度および電力量P,移送速度vとの関係のうちの
いずれかまたは複数の関係について予め求めておくこと
ができる。また熱処理後の軸方向の伸縮変形量δと熱処
理深さγとの関係も予め求めておくことができる。この
関係式を利用して後述する伸縮変形量δを一定の範囲内
に収める制御を行うものである。
第6図(a)に第1実施例の熱処理装置の要部を示
し、第6図(b)には第1実施例における制御信号の流
れ図を示す。最初に第6図(a)を参照して第1実施例
の熱処理装置の要部の構成を説明する。
第1実施例は被処理材をねじ軸として、その表面に焼
入れの熱処理を施す場合について説明する。熱処理を行
う焼入装置1はねじ軸2の一端を着脱自在に保持するチ
ャック3と、他端を円錘状のセンターバー4を備えて、
ねじ軸2を水平に支持する。ねじ軸2に加える誘導加熱
を円周方向に均一なものとするために、チャック3は減
速機構を直結したモータ5によって回転駆動される。
また焼入装置1にはねじ軸2を、その軸方向(図にお
いては左右方向)に移送するための移送手段が、焼入装
置1の移動ヘッド6の一端部(チャック3を固設したチ
ャック台座)と螺合する送りねじ軸7と、この送りねじ
軸7を回転駆動する減速機構を直結した移送用モータ8
によって形成される。この移送用モータ8にはパルスエ
ンコーダ9が設けられ、移送用モータ8の回転数はパル
ス列に変換されて出力され、パルス数のカウントにより
被処理材のねじ軸2の移送距離が検出される。またねじ
軸2を支持するセンターバー4の他端には、ねじ軸2の
伸縮変形量を計測するための検出センサ10が設けられ
る。検出センサとしてはダイヤルゲージや圧力検知式の
ものやその他変位量を測定できるものであればよい。
ねじ軸2の外周には誘導加熱コイル11と、その後方に
焼入れ用の冷却液を放出する冷却リング12が配設され、
誘導加熱コイルは可変電圧の機能を備えた電源装置13に
接続される。また誘導加熱コイルによる加熱部には温度
検出センサ14を設けて、ねじ軸2の表面温度の検出を連
続的に実施する。そして前記の移動手段によってねじ軸
2を図中に矢印で示すように左から右方向に移動せしめ
ながら軸方向に順次表面焼入れを施す。本実施例の焼入
装置には演算処理部を備えた制御装置20が設けられてい
る。
上記のような構成された焼入装置1における前記の第
2の条件を用いた焼入れ熱処理方法を説明する。
被処理材であるねじ軸2には、焼入れ処理によって軸
方向に生じる伸縮変形量を予め基準変形量として見込ん
だうえで成形加工、即ち冷間転造加工等が施されてい
る。次に成形加工されたねじ軸2はロット毎に試し焼入
れが、上記の構成から成る焼入装置1によって実施され
る。その際のねじ軸の伸縮変形量,供給電力値,表面温
度,移送速度等を計測することによって、予め求めてお
いた、第2図(a)および第4図(a)に図示される関
係式から焼入れ後の伸縮変形量を基準変形量とするため
の焼入深度γおよびそのための移送速度v,供給電力値P
を知ることができる。
上記のようにして求められた各データ値がそのロット
に対する基準熱処理条件となる。この場合周波数fは一
定である。このようにしてロットに対する代表値として
の基準熱処理条件は決められるが、同一ロット内にあっ
ても1本づつのねじ軸2の伸縮変形量に差異が生じるの
で、さらにねじ軸2の夫々の個体別に熱処理条件の補正
を行いながら焼入れ処理を行う。この焼入れ処理方法
は、まず予め設定した上記の基準変形量および加熱温度
(省略しても可)と、予め求めたねじ軸2の第2図
(a)および第4図(a)の関係式を制御装置20に設け
た記憶部に記憶させる。次に試し焼入れによって求めて
ある基準熱処理条件の移送速度v,供給電力量Pの値によ
り1本毎の焼入れ処理を開始する。この場合にねじ軸2
の移送量はパルスエンコーダ9により連続的に検出さ
れ、伸縮変形量は検出センサ10により検出され、加熱表
面温度は温度検出センサ14によっていずれも連続的に計
測検出されて制御装置20に入力される。
制御装置20内では計測検出された移送量(加熱位置)
毎のねじ軸2の伸縮変形量を、設定された基準変形量に
おける移送量毎の伸縮変形量と比較演算し、その差を演
算処理部によって算出する。差が生じた場合には、その
差値を補正するための焼入深度の補正値Δγが第2図
(a)に示す関係により算出される。続いて焼入深度Δ
γだけ変化させるための移送速度vの補正値Δvおよび
電力量の補正値ΔPが第4図(a)の関係から算出され
る。この場合温度センサ14の検出するねじ軸2の加熱表
面温度が、設定した温度と一定以上の差が有るときは、
温度差を補正するために電力量の補正量ΔPはΔP′に
再補正される。この設定温度は一義的にはねじ軸2の材
質により決定されるものであるが、材質以外に更に焼入
深度γに対応して設定温度を変化することにより、より
精度の高い制御をすることができる。次に移送速度の補
正値Δvから移送用モータ8の回転数が求められて、移
送速度の補正制御が行われると共に、誘導加熱コイルへ
の供給電力量は補正値ΔPまたはΔP′による補正制御
が行われる。
以上の繰り返しによるフィードバック制御が加えられ
る中で、表面焼入れ処理が実施されるので、設定した基
準変形量の範囲内でねじ軸1本1本の焼入れを実施する
ことができるのである。
従って、焼入れ後のねじ軸のねじピッチを一定の設定
値の範囲内の変動幅とすることができるので、焼入れ処
理後の研磨仕上げ加工に要する工数と費用を大きく低減
することができる。また精度ランクの低い製品としての
ねじ軸には、焼入れ処理後の仕上げ加工は省略すること
も可能である。
次に本発明の第2実施例について説明する。第7図は
第2実施例の焼入れ方法を実施する焼入装置1aの要部の
構成を示した図である。以下第2実施例の説明にあたっ
て、上記第1実施例と重複する部材、方法については説
明を省略する。従って第7図の焼入装置の図において、
第6図と同一部分は図示を省略する。
第2実施例では焼入れ用の誘導加熱コイル11の手前側
にもう1個の予熱用の誘導加熱コイル15と、仕上げ転造
ロール17を配設している点が、第1実施例の焼入装置1
の構成と異なる点である。誘導加熱コイル15に電源16よ
り電力を供給して、ねじ軸2を所定温度に加熱し、ねじ
軸2と同期して回転している一対の仕上げ転造ロール17
により、ねじ軸2のねじ部に仕上げ温間転造加工を施
す。続いて誘導加熱コイル11によって加熱昇温した後、
冷却リング12から放出される冷却液により急冷して表面
焼入れを施す。上記誘導加熱コイル15による加熱部にも
表面温度を検出する温度センサ18が設けられ、温度セン
サの検出温度は制御装置20に制御データとして入力され
る。
上記のように構成された焼入装置1aにおける前記の第
3の条件を用いた焼入れ熱処理方法について説明する。
第1実施例の場合と同様に、ロット毎の試し加工およ
び焼入れを実施して、その場合の伸縮変形量,電力値,
温度センサ18の検出する予備加熱温度、温度センサ14の
検出する焼入れ加熱温度、および移送速度を計測検出す
ることによって、第2図(a)の関係から、焼入れ処理
後の伸縮変形量を基準変形量に制御するための焼入深度
γが算出される。
更に予め求めておいた夫々の予備加熱温度における4
図(b)の関係により焼入深度をγとするための予備加
熱温度および移送速度v,電力値Pが算出され、基準熱処
理条件として設定される。この場合周波数fは一定であ
る。次に実際に各個別にねじ軸を1本づつ焼入れ処理す
るに当たっては、予め設定した基準変形量および焼入れ
加熱温度と、予め求めた第2図(a)および予熱温度の
変化を含めた第4図(b)の関係式を制御装置内に記憶
させる。
以下第1実施例と同様にねじ軸を1本毎に基準熱処理
条件の移送速度v,電力量Pおよび予熱温度にて予熱加
熱,仕上げ転造加工および表面焼入れ処理を施すと共に
伸縮変形量を連続的に計測し、計測結果を設定値と比較
演算して、その結果をフィードバックして焼入深度γの
補正を行う。この場合には予熱温度および移動速度vと
電力量Pを変化させて焼入深度を補正してもよく、また
は予熱温度と移送速度v,または予熱温度と電力量Pを変
化させて焼入深度を補正してもよく、あるいは予熱温度
だけ(焼入れ時の加熱温度が多少変動するが)または移
動速度vと電力量Pだけを変化させて焼入深度の補正を
行って、伸縮変形量の安定化を図ってもよい。
上記の焼入れ熱処理方法を用いることにより、ねじ軸
各1本毎に伸縮変形量を設定範囲内に制御することがで
きて、仕上げ研磨加工の低減あるいは省略が可能とな
る。
次に第3実施例について説明する。第5図は第3実施
例の焼入れ方法を実施する焼入装置の要部の構成を示し
た図である。第1実施例と第2実施例と重複する説明は
省略して説明する。第3実施例に用いる焼入装置1bは前
記の第1実施例の焼入装置1(第6図(a),(b))
または第2実施例の焼入装置1a(第7図)における伸縮
変形量や移送量などの検出センサおよび熱処理中に熱処
理条件の補正を行う制御装置を省略した構成に相当し、
被処理材のねじ軸2を保持する移動ベッド6aおよびねじ
軸2を加熱する誘導加熱コイル11と電源13と焼入れ用冷
却リング12と、移動ベッド6aを移送するねじ軸7を備え
た移動手段から成る簡易な構成である。なお図中に一点
鎖線で示した予熱用の誘導加熱コイル15および電源16を
誘導加熱コイル11の手前に配設してもよく、更に前記の
第2実施例(第7図)にて説明した仕上げ転造ロール17
を誘導加熱コイル15と11との間に配設してもよい。
第3実施例の焼入れ方法は被処理材のねじ軸が個々の
間に大きな材質等の差異がなく、従って熱処理による変
形量の差異も大きくない場合や、熱処理後の寸法精度の
許容値が大きい場合の熱処理方法として用いられる。即
ち、求めた焼入深度と移送速度,供給電力量,周波数,
予熱温度等の要因と伸縮変形量との関係から、ロット別
ではなく共通の基準熱処理条件を設定するか、または前
工程でのロット毎に行った試し熱処理における伸縮変形
量と、上記の要因の間に予め算出されている関係から導
き出された伸縮変形量からロット毎の基準熱処理条件を
設定して、これらの設定条件で熱処理を実施するもので
ある。この場合には熱処理中のねじ軸2の伸縮変形量や
移送量などの検出や,それらの検出結果にもとづく熱処
理条件の補正は行わないので、焼入装置1bには各種検出
センサや演算処理部を有する制御装置は不要となり、第
5図に示した焼入装置の構成で実施することができる。
本発明の実施にあたっては、上記実施例に限定される
ものではなく例えば被処理材の移送速度vや加熱位置の
検出は、前記以外の別の検出センサを用いても良く、ま
た時間のカウントにより移送量(加熱位置)を算出して
もよい。また焼入れ加熱温度や予熱温度を設定値の範囲
に維持するために、これらの温度の検出結果による供給
電力量の制御を、焼入深度の制御系と切り離して別系統
にて設定して、焼入深度の制御系の出力値に加算した
り、またフィードバック制御により供給電力量の制御を
行ってもよい。更に予め被処理材のロット間に材質その
他の差異が少なかったり、熱処理迄の前工程の加工経歴
が同じであることが明らかであったりして熱処理による
伸縮変形量のロット間での差違が少ない場合や、製品の
寸法精度の許容値の大きい被処理材の場合には、ロット
毎の試し熱処理によるロットごとの基準熱処理条件の算
出手順は省略して、予め求めた焼入深度と移送速度,供
給電力量,周波数や予熱温度等の要因と伸縮変形量との
関係から基準伸縮変形量を得るための熱処理条件を求
め、それを共通の基準熱処理条件として前記の各実施例
にて示した熱処理方法による熱処理を実施するようにし
てもよい。
また前記の第1実施例,第2実施例および第3実施例
にて説明した第6図(a),第7図および第5図におけ
る電源13を可変周波数および可変電圧の機能を備えた電
源設備として、前記の第1の条件を用いて誘導加熱コイ
ルに供給する周波数と電力量を調整することによって、
または周波数と電力量,移動速度および予熱温度のうち
のいずれかまたは複数の組み合わせ条件を調整すること
によって熱処理深さを制御して被処理材の軸方向の伸縮
変形量を制御するようにしてもよい。
G.発明の効果 以上説明したように、本発明は表面熱処理における熱
処理深さの要因となる3つの加熱条件、即ち誘導加熱コ
イルに供給する周波数およびその電力量,移送する被処
理材または誘導加熱コイルの移送速度および誘導加熱コ
イルに供給する電力量,長軸材に施す予熱温度および誘
導加熱コイルに供給する電力量と被処理材または誘電加
熱コイルの移動速度の内のいずれかの条件または複数の
組み合わせ条件を用いて長軸材の熱処理深さを調整し
て、被処理材の軸方向の伸縮変形量を制御するもので、
あるいは上記のいずれかの条件または複数の組み合わせ
条件による熱処理条件と熱処理深さおよび軸方向の伸縮
変形量との関係を予め算出して基準熱処理条件を設定
し、熱処理の実施に当たって軸方向の伸縮変形量を連続
的に検出し、基準値と比較した値を制御量として3つの
加熱条件の内のいずれかまたは複数の組み合わせから成
る熱処理条件を補正して熱処理深さを自動制御すること
により、第1には熱処理を施した部材の寸法精度のバラ
ツキが少なくなり、品質の安定が得られると共に、熱処
理前の経歴に応じて処理条件を試し熱処理において対応
できるので、安定的な熱処理が実施できてロット不良等
は生じない。
第2には熱処理後の仕上げ加工を完全省略できるか、
仕上げ加工代を軽減することができる。これに伴って仕
上げ加工工数は不要となるかまたは大幅に削減されて加
工人件費も低減されると共に、仕上げ加工機械を削減ま
たは台数を低減することができて機械のための設備費用
や償却費を大幅に低減することができる。
第3には上記によるコストの低減と合わせて受注から
納品までの納期を大幅に短縮することができる。
以上のような大きな効果を奏するのである。
【図面の簡単な説明】
第1図(a)は被処理材の移動速度と焼入れ後の表面か
らの硬度分布(焼入深度)との関係を示し、第1図
(b)は加熱電力の周波数と被処理材の表面からの硬度
分布(焼入深度)との関係を示し、第2図(a),
(b)は被処理材の伸縮変形量と焼入深度との関係を示
し、第3図は焼入深度と誘導加熱コイルに供給する周波
数および電力量との関係を示し、第4図(a),(b)
は予熱なしおよび予熱ありの夫々の場合の焼入深度と被
処理材の移動速度および誘導加熱コイルに供給する電力
量との関係を示し、第5図は第3実施例に用いた焼入装
置の構成を示し、第6図(a)は第1実施例に用いた焼
入装置の構成を示し、第6図(b)は第1実施例の焼入
れ処理方法の制御信号の流れ図で、第7図は第2実施例
に用いた焼入装置の構成を示し、第8図は被処理材の圧
縮応力図を示したものである。 1,1a,1b……焼入装置、2……ねじ軸(被処理材)、3
……チャック、4……センターバー、8……移送用モー
タ、9……パルスエンコーダ、10……伸縮量検出セン
サ、11,15……誘導加熱コイル、12……焼入れ用冷却リ
ング、13,16……電源、14,18……温度センサ、17……仕
上げ転造ロール。
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (72)発明者 近藤 信行 愛知県春日井市気噴町1番地 中部精機 株式会社内 (72)発明者 石坂 雄二 東京都品川区大崎2丁目1番17号 株式 会社明電舎内 (72)発明者 増田 修 東京都品川区大崎2丁目1番17号 株式 会社明電舎内 (56)参考文献 特公 昭47−46135(JP,B2)

Claims (1)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】長軸材の軸方向に長軸材または誘導加熱コ
    イルを移送して表面に熱処理を施す長軸材の表面熱処理
    方法において、 第1の条件としての誘導加熱コイルに供給する周波数お
    よびその電力量,第2の条件としての移送する長軸材ま
    たは誘導加熱コイルの移送速度および誘導加熱コイルに
    供給する電力量,第3の条件としての長軸材に施す予熱
    の温度および誘導加熱コイルに供給する電力量と長軸材
    または誘導加熱コイルの移動速度の3条件の内のいずれ
    かまたは複数の組み合わせからなる熱処理条件と、長軸
    材の熱処理深さおよび軸方向の伸縮変形量との関係を予
    め算出して基準伸縮変形量に対する基準熱処理条件を設
    定し、熱処理を実施するに当たって軸方向の伸縮変形量
    を連続的に検出して、この検出量と基準伸縮変形量の比
    較値を制御量として算出し、前記3条件の熱処理条件の
    内のいずれかまたは複数の組み合わせから成る熱処理条
    件を補正して熱処理深さを自動制御することにより軸方
    向の伸縮変形量を調整することを特徴とした長軸材の表
    面熱処理方法。
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