JP2567092B2 - 液晶素子 - Google Patents

液晶素子

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【発明の詳細な説明】 〔産業上の利用分野〕 本発明は、液晶表示素子や液晶−光シヤツター等で用
いる液晶素子、特に強誘電性液晶素子に関し、更に詳し
くは液晶分子の配向状態を改善することにより、表示特
性を改善した液晶素子に関するものである。
〔従来技術〕
強誘電性液晶分子の屈折率異方性を利用して偏光素子
との組み合わせにより透過光線を制御する型の表示素子
がクラーク(Clark)及びラガーウオル(Lagerwall)に
より提案されている(特開昭56−107216号公報、米国特
許第4,367,924号明細書等)。この強誘電性液晶は、一
般に特定の温度域において、非らせん構造のカイラルス
メクチツクC相(SmC)又はH相(SmH)を有し、こ
の状態において、加えられる電界に応答して第1の光学
的安定状態と第2の光学的安定状態のいずれかを取り、
且つ電界の印加のないときはその状態を維持する性質、
すなわち双安定性を有し、また電界の変化に対する応答
も速やかであり、高速ならびに記憶型の表示素子として
の広い利用が期待され、特にその機能から大画面で、高
精細なデイスプレーとしての応用が期待されている。
この双安定性を有する液晶を用いた光学変調素子が所
定の駆動特性を発揮するためには、一対の平行基板間に
配置される液晶が、電界の印加状態とは無関係に、上記
2つの安定状態の間での変換が効果的に起るような分子
配列状態にあることが必要である。
又、液晶の複屈折を利用した液晶素子の場合、直交ニ
コル下での透過率は、 〔式中、I0:入射光強度、I:透過光強度、 θ:チルト角、Δn:屈折率異方性、 d:液晶層の膜厚、λ:入射光の波長である。〕 で表わされる、前述の非らせん構造におけるチルトθは
第1と第2の配向状態でのねじれ配列した液晶分子の平
均分子軸方向の角度として現われることになる。上式に
よれば、かかるチルトθが22.5゜の角度の時最大の透過
率となり、双安定性を実現する非らせん構造でのチルト
角θが22.5゜にできる限り近いことが必要である。
ところで、強誘電性液晶の配向方法としては、大きな
面積に亘って、スメクチツク液晶を形成する複数の分子
で組織された分子層をその法線に沿って一軸に配向させ
ることができ、しかも製造プロセス工程も簡便なラビン
グ処理により実現できるものが望ましい。
強誘電性液晶、特に非らせん構造のカイラルスメクチ
ツク液晶のための配向方法としては、例えば、米国特許
第4,561,726号公報などが知られている。
しかしながら、これまで用いられてきた配向方法、特
にラビング処理したポリイミド膜による配向方法を、前
述のクラークとラガウオールによって発表された双安定
性を示す非らせん構造の強誘電性液晶に対して適用した
場合には、下述の如き問題点を有していた。
すなわち、本発明者らの実験によれば、従来のラビン
グ処理したポリイミド膜によって配向させて得られた非
らせん構造の強誘電性液晶でのチルト角(後述の第3図
に示す角度)がらせん構造をもつ強誘電性液晶でのチル
ト角(後述の第2図に示す三角錐の頂角の1/2の角度
)と較べて小さくなっていることが判明した。(特
に、従来のラビング処理したポリイミド膜によって配向
させて得た非らせん構造の強誘電性液晶でのチルト角θ
は、一般に3゜〜8゜程度で、その時の透過率はせいぜ
い3〜5%程度であった。) この様に、クラークとラガウオールによれば双安定性
を実現する非らせん構造の強誘電性液晶でのチルト角が
らせん構造をもつ強誘電性液晶でのチルト角と同一の角
度をもつはずであるが、実際には非らせん構造でのチル
ト角θの方がらせん構造でのチルト角より小さくなっ
ている。しかも、この非らせん構造でのチルト角θがら
せん構造でのチルト角より小さくなる原因が非らせん
構造での液晶分子のねじれ配列に起因していることが判
明した。つまり、非らせん構造をもつ強誘電性液晶で
は、液晶分子が第4図に示す様に基板の法線に対して上
基板に隣接する液晶分子の軸42より下基板に隣接する液
晶分子の軸43(ねじれ配列の方向44)へ連続的にねじれ
角δでねじれて配列しており、このことが非らせん構造
でのチルト角θがらせん構造でのチルト角より小さく
なる原因となっている。
又、従来のラビング処理したポリイミド配向膜によっ
て生じたカイラルスメクチツク液晶の配向状態は、電極
と液晶層の間に絶縁体層としてのポリイミド配向膜の存
在によって、第1の光学的安定状態(例えば、白の表示
状態)から第2の光学的安定状態(例えば、黒の表示状
態)にスイッチングするための一方極性電圧を印加した
場合、この一方極性電圧の印加解除後、強誘電性液晶層
には他方極性の逆電界Vrevが生じ、この逆電界Vrevがデ
イスプレイの際の残像をひき起していた。上述の逆電界
発生現象は、例えば吉田明雄著、昭和62年10月「液晶討
論会予稿集」P.142〜143の「SSFLCのスイツチング特
性」で明らかにされている。
〔発明の概要〕
従って、本発明の目的は、前述の問題点を解決した強
誘電性液晶素子を提供すること、特にカイラルスメクチ
ツク液晶の非らせん構造での大きなチルトθを生じ、高
コントラストな画像がデイスプレイされ、且つ残像を生
じないデイスプレイを達成できる強誘電性液晶素子を提
供することにある。
本発明の液晶素子は、一対の基板間に、らせん配列構
造の形成が抑制され、少なくとも2つの安定状態をとる
カイラルスメチック液晶を挟持した液晶素子であって、
該一対の基板の少なくとも一方の基板は、フッ素原子を
分子内に結合してなるポリイミドの被膜を有しており、
該一対の基板は夫々、該カイラルメクチック液晶と隣接
する面において一軸配向処理が施されており、該カイラ
ルスメクチック液晶は、複数の液晶分子で構成される層
からなる層構造を有しており、該層は折れ曲がり構造を
なしており、該折れ曲がり構造をなす層の隣接基板に対
する回転方向と、該隣接基板に隣接する液晶分子の浮き
上がり回転方向とが同一方向である、ことを特徴とす
る。
また好ましくは、本発明の液晶素子は、一対の基板間
に、らせん配列構造の形成が抑制され、少なくとも2つ
の安定状態をとるカイラルスメクチック液晶を挟持した
液晶素子であって、該一対の基板の少なくとも一方の基
板は、下記一般式で示される構造単位を有するポリイミ
ドの被膜を有しており、 (式中、l及びmは0又は1〜3の整数である。但し、
l+m≧1である。) 該一対の基板は夫々、該カイラルスメクチック液晶と
隣接する画において一軸配向処理が施されており、該カ
イラルスメクチック液晶は、複数の液晶分子で構成され
る層からなる層構造を有しており、該層は折れ曲がり構
造をなしており、該折れ曲がり構造をなす層の隣接基板
に対する回転方向と、該隣接基板に隣接する液晶分子の
浮き上がり回転方向とが同一方向である、ことを特徴と
する。
〔発明の態様の詳細な説明〕
第1図は本発明の強誘電性液晶セルの一例を模式的に
描いたものである。
11aと11bはそれぞれIn2O3やITO(IndiumTin Oxide)
等の透明電極12aと12bで被覆された基板(ガラス板)で
あり、その上に200Å〜1000Å厚の絶縁膜13aと13b(SiO
2膜、TiO2膜、Ta2O5膜など)と前記一般式に示すポリイ
ミド形成した50Å〜1000Å厚の配向制御膜14aと14bとが
それぞれ積層されている。
この際、平行かつ同一向き(第1図でいえばA方向)
になるようラビング処理(矢印方向)した配向制御14a
と14bが配置されている。基板11aと11bとの間には、強
誘電性スメクチツク液晶15が配置され、基板11aと11bと
の間隔の距離は、強誘電性スメクチツク液晶15のらせん
配列構造の形成を抑制するのに十分に小さい距離(例え
ば0.1μm〜3μm)に設定され、強誘電性スメクチツ
ク液晶15は双安定性配向状態を生じている。上述の十分
に小さい距離は、基板11aと11bとの間に配置したビーズ
スペーサ16(シリカビーズ、アルミナビーズ)によって
保持される。
本発明者らの実験によれば、下述の実施例で明らかに
するラビング処理した特定のポリイミド配向膜による配
向方法を用いることによって、明状態と暗状態での大き
な光学的コントラストを示し、特に、米国特許第4,655,
561号などに開示のマルチプレクシング駆動時の非選択
画素に対して大きなコントラストを生じ、さらにデイス
プレイ時の残像の原因となるスイツチング時(マルチプ
レクシング駆動時)の光学応答おくれを生じない配向状
態が達成された。
本発明で用いるポリイミド膜は、カルボン酸無水物と
ジアミンとを縮合反応させることによって合成されるポ
リアミド酸を加熱閉環することによって得られる。
本発明で用いるカルボン酸無水物としては、例えば (1)5,5′−ビス(トリフルオロメチル)−3,3′,4,
4′−テトラカルボキシベンゾフエノン (2)2,2′,5,5′−テトラ(トリフルオロメチル)−
3,3′4,4′−テトラカルボキシベンゾフエノン などを挙げることができる。
本発明で用いるジアミンとしては、例えばm−フエニ
レンジアミン、p−フエニレンジアミン、m−キシレン
ジアミン、p−キシレンジアミン、4,4′−ジアミノジ
フエニルエーテル、4,4′−ジアミノフエニルメタン、
3,3′−ジメチル−4,4′−ジアミノジフエニルメタン、
3,3′,5,5′−テトラメチル−4,4′−ジアミノジフエニ
ルメタン、2,2′−ビス(4−アミノフエニル)プロパ
ン、4,4′−メチレンジアニリン、ベンジジン、4,4′−
ジアミノジフエニルスルフイド、4,4′−ジアミノジフ
エニルスルホン、1,5−ジアミノナフタレン、3,3′−ジ
メチルベンジジン、3,3′−ジメトキシベンジジンなど
が挙げられ、これらのジアミンの他に、例えば、2,2′
−ビス〔4−(4−アミノフエノキシ)フエニル〕ヘキ
サフルオロプロパン、2,2−ビス〔4−(3−アミノフ
エノキシ)フエニル〕ヘキサフルオロプロパン、2,2−
ビス〔4−(2−アミノフエノキシ)フエニル〕ヘキサ
フルオロプロパン、2,2−ビス〔4−(2−アミノフエ
ノキシ−3,5−ジメチルフエニル〕ヘキサフルオロプロ
パン、p−ビス(4−アミノ−2−トリフルオロメチル
フエノキシ)ベンゼン、4,4′−ビス(4−アミノ−2
−トリフルオロメチルフエノキシ)ビフエニル、4,4′
−ビス(4−アミノ−3−トリフルオロメチルフエノキ
シ)ビフエニル、4,4′−ビス(4−アミノ−2−トリ
フルオロメチルフエノキシ)ジフエニルスルホン、4,
4′−ビス(3−アミノ−5−トリフルオロメチルフエ
ノキシ)ジフエニルスルホン、2,2−ビス〔4−(4−
アミノ−2−トリフルオロメチルフエノキシ)フエニ
ル〕ヘキサフルオロプロパン、4,4′−ビス〔(4−ア
ミノフエノキシ)フエニル〕ヘキサフルオロプロパンな
どのフツ素系ジアミンを用いることができる。
本発明は、前述のカルボン酸無水物を2種以上、及び
/又はジアミンを2種以上で用いることも可能である。
又、本発明では、前述のカルボン酸無水物に加えて下記
カルボン酸無水物を組合せた共重合体とすることも可能
である。
ピロメリツト酸無水物、2,3,6,7−ナフタレンテトラ
カルボン酸無水物、33′4,4′−ジフエニルテトラカル
ボン酸無水物、1,2,5,6−ナフタレンテトラカルボン酸
無水物、2,2′,3,3′−ジフエニルテトラカルボン酸無
水物、チオフエン−2,3,4,5−テトラカルボン酸無水
物、2,2−ビス(3,4−ビスカルボキシフエニル)プロパ
ン無水物、3,4−ジカルボキシフエニルスルホン無水
物、ペリレン−3,4,9,10−テトラカルボン酸無水物、ビ
ス(3,4−ジカルボキシフエニル)エーテル無水物、3,
3′,4,4′−ベンゾフエノンテトラカルボン酸無水物。
本発明で用いるポリイミド膜を基板上に設ける際に
は、ポリイミドの前駆体であるポリアミド酸をジメチル
フオルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルスル
フオキシド、N−メチルプロリドンなどの溶剤に溶解し
て0.01〜40(重量)%溶液として、該溶液をスピンナー
塗布法、スプレイ塗布法、ロール塗布法などにより基板
上に塗布した後、100〜350℃、好ましくは200〜300℃の
温度で加熱して脱水閉環させてポリイミド膜を形成する
ことができる。このポリイミド膜は、しかる後に布など
でラビング処理される。又、本発明で用いるポリイミド
膜は、絶縁膜としても機能することができる膜厚、例え
ば30Å〜1μ程度、好ましくは200Å〜2000Åの膜厚に
設定される。この際には、第1図に示す絶縁膜13aと13b
の使用を省略することができる。又、本発明では、絶縁
膜13aと13bの上にポリイミド膜を設ける際には、このポ
リイミド膜の膜厚は200Å以下、好ましくは100Å以下に
設定されることができる。
本発明で用いる液晶物質としては、降温過程で等方
相、コレステリツク相、スメクチツクA相を通してカイ
ラルスメクチツクC相を生じる液晶が好ましい。特に、
コレステリツク相の時のピツチが0.8μm以上のものが
好ましい(コレステリツク相でのピツチは、コレステリ
ツク相の温度範囲における中央点で測定したもの)。具
体的な液晶としては、下記液晶物質「LC−1」、「80
B」及び「80SI」を下記比率で含有させた液晶組成物
が好ましく用いられる。
液晶 (1) (LC−1)90/(80B)10 (2) (LC−1)80/(80B)20 (3) (LC−1)70/(80B)30 (4) (LC−1)60/(80B)40 (5) 80SI (表中の添字は、それぞれ重量比を表わしている。) 第2図は、強誘電性液晶の動作説明のために、セルの
例を模式的に描いたものである。21aと21bは、In2O2、S
nO2あるいはITO等の薄膜からなる透明電極で被覆された
基板(ガラス板)であり、その間に液晶分子層22がガラ
ス面に垂直になるように配向したSmC(カイラルスメ
クチツクC)層又はSmH(カイラルスメクチツクH)
相の液晶が封入されている。太線で示した線23が液晶分
子を表わしており、この液晶分子23はその分子に直交し
た方向に双極子モーメント(P⊥)24を有している。基
板21aと21b上の電極間に一定の閾値以上の電圧を印加す
ると、液晶分子23のらせん構造がほどけ、双極子モーメ
ント(P⊥)24がすべて電界方向に向くよう、液晶分子
23は配向方向を変えることができる。液晶分子23は、細
長い形状を有しており、その長軸方向と短軸方向で屈折
率異方性を示し、従って例えばガラス面の上下に互いに
クロスニコルの偏光子を置けば、電圧印加極性によって
光学特性が変わる液晶光学変調素子となることは、容易
に理解される。
本発明の液晶素子で用いる双安定性配向状態の表面安
定型強誘電性液晶セルは、その厚さを充分に薄く(例え
ば0.1μm〜3μm)することができる。このように液
晶層が薄くなるにしたがい、第3図に示すように電界を
印加していない状態でも液晶分子のらせん構造がほど
け、非らせん構造となり、その双極子モーメントPまた
はP′は上向き(34a)、又は下向き(34b)のどちらか
の状態をとる。このようなセルに、第3図に示す如く一
定の閾値以上の極性の異なる電界Ea又はEbを電圧印加手
段31aと31bにより付与すると、双極子モーメントは、電
界Eb又はEbの電界ベクトルに対応して上向き34a、又は
下向き34bと向きを変え、それに応じて液晶分子は、第
1図の安定状態33aあるいは第2の安定状態33bの何れか
一方に配向する。
この強誘電性液晶セルによって得られる効果は、その
第1に、応答速度が極めて速いことであり、第2に液晶
分子の配向が双安定性を有することである。第2の点
を、例えば第3図によって更に説明すると、電界Eaを印
加すると液晶分子は第1の安定状態33aに配向するが、
この状態は電界を切っても安定である。又、逆向きの電
界Ebを印加すると、液晶分子は第2の安定状態33bに配
向してその分子の向きを変えるが、やはり電界を切って
もこの状態に留っている。又、与える電界Eaが一定の閾
値を越えない限り、それぞれの配向状態にやはり維持さ
れている。
第4図(A)は、本発明の配向方向に生じた液晶分子
の配向状態を模式的に明らかにした断面図で、第4図は
そのC−ダイレクタを示す図である。
第4図(A)に示す61a及び61bは、それぞれ上基板及
び下基板を表わしている。60は液晶分子62で組織された
分子層で、液晶分子62が円錐63の底面64(円形)に沿っ
た位置を変化させて配列している。66a及び66bは、それ
ぞれ折れ曲がり構造を生じている分子層60の折れ曲がり
構造の隣接基板61a及び61bに対する回転方向である。65
a及び65bは、それぞれ隣接基板61a及び61bに隣接する液
晶分子62の浮き上り回転方向である。
第4図(B)は、C−ダイレクタを示す図である。第
4図(B)のU1は一方の安定配向状態でのC−ダイレク
タ81で、U2は他方の安定配向状態でのC−ダイレクタ81
である。C−ダイレクタ81は、第4図(A)に示す分子
層60の法線に対して垂直な仮想面への分子長軸の写影で
ある。
一方、従来のラビング処理したポリイミド膜によって
生じた配向状態は、第4図{C)のC−ダイレクタ図に
よって示される。第4図(C)に示す配向状態は、上基
板61aから下基板61bに向けて分子軸のねじれが大きいた
め、チルト角θは小さくなっている。
第5図(A)は、C−ダイレクタ81が第4図(B)の
状態(ユニフオーム配向状態という)でのチルト角θを
示すための平面図で、第5図(B)はC−ダイレクタ81
が第4図(C)の状態(スプレイ配向状態という)での
チルト角θを示すための平面図である。図中、50は前述
した本発明の特定ポリイミド膜に施したラビング処理軸
を示し、51aは配向状態U1での平均分子軸、51bは配向状
態U2での平均分子軸、52aは配向状態S1での平均分子
軸、52bは廃坑状態S2での平均分子軸を示す。平均分子
軸51aと51bとは、互いに閾値電圧を越えた逆極性電圧の
印加によって変換することができる。同様のことは平均
分子軸52aと52bとの間でも生じる。
次に、逆電界Vrevによる光学応答のおくれ(残像)に
対するユニフオーム配向状態の有用性について説明す
る。
液晶セルの絶縁層(配向制御膜)の容量Ci、液晶層の
容量をCLC及び液晶の自発分極をPsとすると、残像の原
因となるVrevは、下式で表わされる。
第6図は、液晶セル内の電荷の分布、Psの方向及び逆
電界の方向を模式的に示した断面図である。第6図
(A)は、パルス電界印加前のメモリー状態下における
及び電荷の分布状態を示し、この時の自発分極Psの
向きは電荷から電荷の方向である。第6図(B)
は、パルス電界解除直後の自発分極Psの向きが第6図
(A)の時の向きに対して逆向き(従って、液晶分子は
一方の安定配向状態から他方の安定配向状態に反転を生
じている)であるが、及び電荷の分布状態は、第6
図(A)の時と同様であるため、液晶内に逆電界Vrev
が矢標方向に生じている。この逆電界Vrevは、しばらく
した後、第6図(C)に示す様に消滅し、及び電荷
の分布状態が変化する。
第7図は従来ポリイミド配向膜によって生じたスプレ
イ配向状態の光学応答の変化をチルト角θの変化に換え
て示したものである。第7図によれば、パルス電界印加
時、印標X1の方向に沿ってスプレイ配向状態下の平均分
子軸S(A)から最大チルト角付近のユニフオーム配
向状態下の平均分子軸U2までオーバーシユートし、パル
ス電界解除直後においては、第6図(B)に示す逆電界
Vrevの作用が働いて、矢標X2の方向に沿ってスプレイ配
向状態下の平均分子軸S(B)までチルト角θが減少
し、そして第6図(C)に示す逆電界Vrevの減衰の作用
により、矢標X3の方向に沿ってスプレイ配向状態下の平
均分子軸S(C)までチルト角θが若干増大した安定配
向状態が得られる。この時の光学応答は第8図で明らか
にされている。
本発明によれば、前述したフツ素原子含有のポリイミ
ド膜を用いた配向方法によって得た配向状態では、第7
図に示したスプレイ状態下の平均分子軸S(A),S
(B)及びS(C)を生じることがなく、従って最大チ
ルト角に近いチルト角θを生じる平均分子軸に配列さ
せることができる。この時の本発明の光学応答を第9図
に示す。第9図によれば、残像に原因する光学応答のお
くれを生じないことと、メモリー状態下での高いコント
ラストを惹き起していることが判る。
以下、本発明を実施例に従って説明する。
実施例1 1000Å厚のITO膜が設けられている1.1mm厚のガラス板
を2枚用意し、それぞれのガラス板上に下式で示すポリ
アミド酸のN−メチルピロリドン/n−ブチルセロソルブ
=5/1の3.0重量%溶液を回転数3000rpmのスピナで30分
間塗布した。
成膜後約1時間、250℃で加熱焼成処理を施した。この
時の膜厚は450Åであった。この塗布膜にナイロン触毛
布による一方向のラビング処理を行った。
その後、平均粒径約1.5μmのアルミナビーズを一方
のガラス板上に散布した後、それぞれのラビング処理軸
が互いに平行で、同一処理方向となるように2枚のガラ
ス板を重ね合せてセルを作製した。
このセル内にチツソ(株)社製の強誘電性スメクチツ
ク液晶である「CS−1014」商品名を等方相下で真空注入
してから、等方相から0.5℃/hで30℃まで徐冷すること
によって配向させることができた。この「CS−1014」を
用いた本実施例のセルでの相変化は下記のとおりであっ
た。
(Iso=等方相 Ch=コレステリツク相 SmA=スメクチツクA相 SmC=カイラルスメクチツクC相) 以後の実験は、25℃の温度で行った。
上述の液晶セルを一対の90゜クロスニコル偏光子の間
に挟み込んでから、50μsecの30Vパルスを印加してから
90゜クロスニコルを消光位(最暗状態)にセツトし、こ
の時の透過率をホトマルチプレターにより測定し、続い
て50μsecの−30Vパルスを印加し、この時の透過率(明
状態)を同様の方法で測定したところ、チルト角θは15
゜であり、最明状態時の透過率は44%で、最暗状態時の
透過率は1.0%であり、従ってコントラスト比は44:1で
あった。
残像の原因となる光学応答のおくれは0.2秒以下であ
った。
この液晶セルを第10図に示す駆動波形を用いたマルチ
プレクシング駆動による表示を行ったところ、高コント
ラストは高品位表示が得られ、又所定の文字入力による
画像表示の後に全画面を白の状態に消去したところ、残
像の発生は判読できなかった、尚、第10図のSN,SN+1,S
N+2は走査線に印加した電圧波形を表わしており、Iは
代表的な情報線に印加した電圧波形を表わしている。
(I−SN)は情報線Iと走査線SNとの交差部に印加され
た合成波形である。又、本実施例では、V0=5〜8ボル
ト、T=20〜70μsecで行った。
実施例2〜6 表1に示した配向制御膜及び液晶材料を用いた他は実
施例1と同様にしてセルを得た。
それぞれに対して実施例1と同様の試験を行った。
コントラスト比及び光学応答のおくれ時間の結果を表
2に示す(表中のポリアミド酸の重合度は、いずれも70
0〜2000である)。
又、実施例1と同様のマルチプレクシング駆動による
表示を行ったところ、コントラスト及び残像については
実施例と同様の結果が得られた。
表 2 実施例 コントラスト比 光学応答のおくれ(sec) 2 47:1 0.2 3 50:1 0.1 4 43:1 0.2 5 38:1 0.2 6 42:1 0.1 比較例1〜4 表3に示した配向制御膜及び液晶材料を用いた他は実
施例1と同様にしてセルを作成した(表中のポリアミド
酸ワニス重合度は、いずれも700〜2000である)。それ
ぞれのセルに対してコントラスト比および光学応答のお
くれを表4に示した。
又、実施例1と同様のマルチプレクシング駆動による
表示を行ったところ、コントラストが本実施例のものと
比較して小さく、しかも残像さ生じた。
表 4 比較例 コントラスト比 光学応答のおくれ(sec) 1 8:1 1.5 2 7:1 2.5 3 10:1 1.2 4 8:1 2.2 〔発明の効果〕 以上の実施例及び比較例で明らかにした様に、本発明
によれば明状態と暗状態でのコントラストが高く、特に
マルチプレクシング駆動時の表示コントラストが非常に
大きく高品位の表示が得られ、しかも目ざわりな残像現
象が生じない効果がある。
【図面の簡単な説明】
第1図は、本発明の液晶素子の断面図である。第2図は
らせん構造をもつカイラルスメクチツク液晶の配向状態
を示した斜視図で、第3図は非らせん構造の分子配列を
もつカイラルスメクチツク液晶の配向状態を示した斜視
図である。第4図(A)は本発明の配向方法で配向した
カイラルスメクチツク液晶の配向状態を示す断面図で、
第4図(B)はそのユニフオーム配向状態におけるC−
ダイレクタ図で、第4図(C)はスプレイ配向状態にお
けるC−ダイレクタ図である。第5図(A)はユニフオ
ーム配向状態におけるチルト角θを示す平面図で、第5
図(B)はスプレイ配向状態におけるチルト角θを示す
平面図である。第6図は強誘電性液晶内の電荷分布、自
発分極Psの向き及び逆電界Vrevの向きを示す断面図であ
る。第7図は電界印加時及び後のチルト角θの変化を示
す平面図である。第8図は従来例における光学応答特性
を示し、第9図は本発明例における光学応答性を示す。
第10図は本実施例で用いた駆動電圧の波形図である。

Claims (12)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】一対の基板間に、らせん配列構造の形成が
    抑制され、少なくとも2つの安定状態をとるカイラルス
    メクチック液晶を挟持した液晶素子であって、 該一対の基板の少なくとも一方の基板は、フッ素原子を
    分子内に結合してなるポリイミドの被膜を有しており、 該一対の基板は夫々、該カイラルスメクチック液晶と隣
    接する面において一軸配向処理が施されており、 該カイラルスメクチック液晶は、複数の液晶分子で構成
    される層からなる層構造を有しており、 該層は折れ曲がり構造をなしており、該折れ曲がり構造
    をなす層の隣接基板に対する回転方向と、該隣接基板に
    隣接する液晶分子の浮き上がり回転方向とが同一方向で
    ある、液晶素子。
  2. 【請求項2】前記一軸配向処理がラビング処理である請
    求項1記載の液晶素子。
  3. 【請求項3】前記一対の基板の両方が一軸配向処理が施
    されたポリイミド被膜を有する請求項1記載の液晶素
    子。
  4. 【請求項4】前記一軸配向処理がラビング処理である請
    求項3記載の液晶素子。
  5. 【請求項5】前記カイラルスメクチック液晶がカイラル
    スメクチックC相を呈する温度範囲より高温側にスメク
    チックA相を呈する温度範囲を有し、該スメクチックA
    相を呈する温度範囲を経由して該カイラルスメクチック
    C相を呈する温度範囲まで冷却されてなる液晶である請
    求項1乃至4のいずれかに記載の液晶素子。
  6. 【請求項6】前記カイラルスメクチック液晶がカイラル
    スメクチックC相を呈する温度範囲より高温側にスメク
    チックA相を呈する温度範囲及びコレステリック層を呈
    する温度範囲を有し、該コレステリック相を呈する温度
    範囲及び該スメクチックA相を呈する温度範囲を経由し
    て該カイラルスメクチックC相を呈する温度範囲まで冷
    却されてなる液晶である請求項1乃至4のいずれかに記
    載の液晶素子。
  7. 【請求項7】一対の基板間に、らせん配列構造の形成が
    抑制され、少なくとも2つの安定状態をとるライカルス
    メクチック液晶を挟持した液晶素子であって、 該一対の基板の少なくとも一方の基板は、下記一般式で
    示される構造単位を有するポリイミドの被膜を有してお
    り、 (式中、l及びmは0又は1〜3の整数である。但し、
    l+m≧1である。) 該一対の基板は夫々、該カイラルスメクチック液晶と隣
    接する画において一軸配向処理が施されており、 該カイラルスメクチック液晶は、複数の液晶分子で構成
    される層からなる層構造を有しており、 該層は折れ曲がり構造をなしており、該折れ曲がり構造
    をなす層の隣接基板に対する回転方向と、該隣接基板に
    隣接する液晶分子の浮き上がり回転方向とが同一方向で
    ある、液晶素子。
  8. 【請求項8】前記一軸配向処理がラビング処理である請
    求項6記載の液晶素子。
  9. 【請求項9】前記一対の基板の両方が一軸配向処理が施
    されたポリイミド被膜を有する請求項6記載の液晶素
    子。
  10. 【請求項10】前記一軸配向処理がラビング処理である
    請求項9記載の液晶素子。
  11. 【請求項11】前記カイラルスメクチック液晶がカイラ
    ルスメクチックC相を呈する温度範囲より高温側にスメ
    クチックA相を呈する温度範囲を有し、該スメクチック
    A相を呈する温度範囲を経由して該カイラルスメクチッ
    クC相を呈する温度範囲まで冷却されてなる液晶である
    請求項7乃至10のいずれかに記載の液晶素子。
  12. 【請求項12】前記カイラルスメクチック液晶がカイラ
    ルスメクチックC相を呈する温度範囲より高温側にスメ
    クチックA相を呈する温度範囲及びコレステリック層を
    呈する温度範囲を有し、該コレステリック相を呈する温
    度範囲及び該スメクチックA相を呈する温度範囲を経由
    して該カイラルスメクチックC相を呈する温度範囲まで
    冷却されてなる液晶である請求項7乃至10のいずれかに
    記載の液晶素子。
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