JP2024512824A - コロナウイルスの治療 - Google Patents

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Abstract

コロナウイルスによって引き起こされる疾患の治療または予防のための、シレンジタイドまたはその機能的変異体のようなαVβ3インテグリンアンタゴニストの使用が記載されており、特に、シレンジタイドが静脈内または経口的に対象者に投与される。

Description

本発明は、コロナウイルスの治療および予防のための治療戦略に関する。具体的には、本発明は、コロナウイルス、より具体的にはコロナウイルス疾患2019(COVID-19)によって引き起こされる疾患の治療または予防方法において使用するための、αVβ3インテグリンアンタゴニストに関する。
前例のない現在進行中のコロナウイルス感染症2019(COVID-19)パンデミックは、全世界の人々に深刻な衝撃を与えている。世界的な死者数が増え続ける中、ワクチン候補、標的を絞った効果的な抗ウイルス・免疫療法が切実に求められている。
他のコロナウイルスによる疾患と比較して、COVID-19は心血管系により多くの悪影響を及ぼす。重症のSARS-CoV-2感染症において、深部静脈血栓症やおよび肺塞栓症が高率で発生している(Klok FA, et al., Incidence of thrombotic complications in critically ill ICU patients with COVID-19, Thromb Res. 2020; 191: 145-7)。一方、脳卒中、心筋梗塞、播種性血管内凝固障害を伴うCOVID-19の報告もある(Oxley TJ, et al., Large-Vessel Stroke as a Presenting Feature of Covid-19 in the Young, N Engl J Med. 2020; 382(20): e60).さらに、肺内の微小血管閉塞がCOVID-19の発症に重要な役割を果たしていることを示唆する証拠が蓄積されている。検死研究において、致死的COVID-19患者では肺血管系全体に微小血栓が広がっていることが証明されている(Wichmann D, et al. Autopsy Findings and Venous Thromboembolism in Patients With COVID-19: A Prospective Cohort Study, Ann Intern Med. 2020; 173(4): 268-77)、重症COVID-19患者の右心室機能障害は一般的である(Giustino G, et al. Characterization of Myocardial Injury in Patients With COVID-19, J Am Coll Cardiol. 2020; 76(18): 2043-55).COVID-19の剖検研究から得られたデータから、肺微小血管系におけるタイトジャンクションの完全性の喪失とともに、顕著な内皮細胞のアポトーシスが見出された。一方、電子顕微鏡による研究では、肺内皮細胞内にSARS-CoV-2ウイルス粒子が確認されており、肺内皮細胞の直接感染がCOVID-19に関連する血管症の引き金として重要であることが示唆されている(Varga Z, et al., Endothelial cell infection and endotheliitis in COVID-19, Lancet. 2020; 395(10234): 1417-8).
血管内皮細胞はウイルスの増殖に不可欠であるが、この経路の背後にある機序の解明はいまだ手つかずのままである。COVID-19の病原体である重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)は、以前のコロナウイルスよりもはるかに感染力が強い。SARS-CoV-2がこれまでのコロナウイルスにはない新しい特徴を持っていることは明らかであり、それが広範囲なパンデミックをもたらした。研究の結果、SARS-CoV-2のスパイクタンパク質が宿主の認識およびウイルスの付着に大きく関与しており、その受容体結合ドメインを介して宿主の受容体であるアンジオテンシン変換酵素2(ACE2)と相互作用することが明らかになった。
しかしながら、SARS-CoV-2のスパイクタンパク質における新規のK403R変異は、ACE2認識部位の外側にユニークなArg-Gly-Asp(RGD)モチーフを形成している。
内皮バリアにはインテグリンが多く存在し、主要な内皮細胞インテグリンであるαVβ3は、多数のRGD含有リガンドを認識することができる。このインテグリンは、細胞外マトリックス全体の種々のタンパク質(フィブリノーゲン、フィブロネクチン、ビトロネクチンなど)と相互作用する結合ポケットを有し、接着、細胞遊走、増殖、血管新生を調節する機能を有する。
米国特許出願公開第2020/0289534号明細書は、1種または複数種の抗ウイルス薬を含む生体適合性薬剤を投与することを含む、病状を治療、軽減、緩和する方法を記載している。この薬剤とともに投与されるものは、無毒性の半フッ素化アルカンに溶解した1種または複数種の細胞経路阻害剤である。記載されている病状の例には、1種または複数種の気道炎症性疾患が含まれる。阻害剤は炎症を起こした組織の炎症反応をブロックし、アルカンは投与時に蒸発するため、生体適合性のある薬剤を所望の治療部位に残すことができると記載されている。オセルタミビル、バリシチニブ、およびGSK阻害剤、ならびにCOVID-19 Sタイマーを経鼻投与し、引き続いて1日3~4回の半フッ素化アルカン中での深呼吸を3日間にわたって行うことにより、対象者を予防的に処理するコロナウイルスおよび予防を議論する1つの例が存在する。対象者はコロナウイルスの徴候なしに旅行から帰還した。この例に関するデータおよび詳しい結果は発表されていない。この文献では、多くの細胞経路阻害剤の1種としてシレンジタイドを挙げているが、呼吸器系症状に対してαVβ3インテグリンを使用したデータはなく、コロナウイルス様の症状に対してシレンジタイド(cilengitide)を使用したデータもない。
本発明は、αVβ3インテグリンアンタゴニストを含む、コロナウイルスに起因する疾患の治療および予防のための治療戦略を提供する。
驚くべきことに、本発明者らは、SARS-CoV-2スパイクタンパク質が、その受容体結合ドメインなかの新規のK403R変異を通じて、宿主への接着を媒介するためにヒト内皮αVβ3インテグリンを利用することを示した。これは、これまでに当技術分野では示されていなかった。
この進化的変異(すなわちK403R)を開発することにより、追加の結合部位(RGD)を有するスパイクタンパク質を提供する。本発明者らは、宿主へのウイルス付着を強化し、より高い伝播率をもたらすことにより、SARS-CoV-2の病原性が増大する可能性があることを示唆する。さらに、ACE2およびαVβ3インテグリンレセプターの両方がヒトの血管系全体に豊富に存在し、ウイルスの侵入経路の可能性を提供すると同時に、二重のレセプター機構によって宿主全体に広がることを促進する。
本発明者らは、αVβ3を介してヒト血管系に結合すると、SARS-CoV-2が重大な内皮調節障害を引き起こし、その結果、バリア機能/完全性の喪失をもたらし、ショックと主要臓器への二次感染の播種を促進することを証明した。ウイルスによってもたらされるこの有害な影響は、主要な内皮細胞インテグリンαVβ3との相互作用を阻止することによって、著しく軽減される可能性がある。このことは、従来技術では開示も予測もされていなかった。
さらに、これらのデータは、シレンジタイドが、ヒト血管内皮細胞へのウイルス付着の防止に関して予期せぬ有益な挙動を示し、当該挙動は、他のインテグリンアンタゴニストの挙動とは異なることを示唆する(図8)。
第1の態様において、本発明は、対象者におけるコロナウイルス感染の治療または予防の方法において使用するためのαVβ3インテグリンアンタゴニスト(「本発明のαVβ3インテグリンアンタゴニスト」)を提供する。
1つの実施形態では、コロナウイルスは、スパイクタンパク質の受容体結合ドメインにK403R変異を含み、RGDドメインを提供するものである。
好ましくは、コロナウイルスは重症急性呼吸器症候群関連コロナウイルス(SARS-CoV)である。
好ましくは、コロナウイルスはSARS-CoV-2であり、対象者はCOVID-19の疾患または病態を有する。
1つの実施形態において、αVβ3アンタゴニストは、αVβ3受容体の強力な阻害剤である。
1つの実施形態において、αVβ3アンタゴニストは、αVドメインに特異的である。
1つの実施形態において、αVβ3アンタゴニストは、αVインテグリンに特異的なものである。
1つの実施形態において、αVβ3アンタゴニストは、αVβ、好ましくはαVβ3に特異的なものである。
好ましくは、αVβ3アンタゴニストはRGD配列またはモチーフを含むものである。
1つの実施形態において、αVβ3アンタゴニストはペプチドである。1つの実施形態において、ペプチドは環状ペプチドである。
実施形態において、環状ペプチドは、シレンジタイド(cilengitide)およびシレンジタイドの変異体または誘導体から選択される。
1つの実施形態において、αVβ3アンタゴニストは抗体またはそのフラグメントである。1つの実施形態において、抗体またはフラグメントは、αVドメインに特異的である。1つの実施形態において、抗体はモノクローナル抗体である。1つの実施形態では、抗体はヒト抗体またはヒト化抗体である。1つの実施形態では、抗体はナノボディである。
1つの実施形態において、αVβ3アンタゴニストは低分子量アンタゴニストである。低分子量αVβ3アンタゴニストの例は、シレンジタイドのようなペプチド、およびIS201のようなペプチド模倣物(peptidomimetics)である。
1つの実施形態において、αVβ3アンタゴニストは、アンタゴニストを含む組成物として製剤化される。組成物を、経口投与または静脈内投与のために製剤化してもよい。組成物を、肺投与用に製剤化してもよい。
組成物は医薬組成物であってもよい。このような組成物は、1種または複数種の薬学的に許容される担体または賦形剤を含んでもよい。
コロナウイルス感染の治療または予防方法を提供し、前記方法は、αVβ3アンタゴニストを対象者に投与することを含む。αVβ3インテグリンアンタゴニストは、本明細書に記載のものである。コロナウイルスは、本明細書中に記載されるとおりである。
本発明は、添付の図面を参照して例示のためにのみ与えられる、その実施形態の以下の説明からより明確に理解されるであろう:
SARS-CoV-2はヒト上皮細胞に結合し、透過性を引き起こす。(A) MOI=0.4において固定化SARS-CoV-2に接着させたヒト大腸上皮細胞株Caco-2。細胞を固定化SARS-CoV-2に接着させ、細胞内に発現するアルカリホスファターゼに対する蛍光基質pNPPで溶解させた。pNPPが発する蛍光シグナルは、接着した細胞数に相関し、405nmにおいて読み取りを行った。上皮細胞はSARS-CoV-2と有意に相互作用した(P<0.001;対応t検定、N=3)。(B) Caco-2をトランスウェルインサートに播種し、MOI=0.4においてSARS-CoV-2に感染させた。フロオレセインイソチオシアネート-デキストラン(FITC-デキストラン、40kDa)を用いて、0時間、24時間、48時間にわたって、透過性を測定した。FITC-デキストランは上皮細胞を通過して下部チャンバーに入り、その透過性に比例する。透過性の程度は、490/520nmにおけるFITC-デキストランの蛍光レベルを定量することにより測定した。細胞透過性は時間経過を通して有意に増加した(P<0.01;P<0.0001;分散分析(ANOVA)、N=3)。 SARS-CoVおよびSARS-CoV-2の塩基配列の比較により、新規のK403R変異が強調された。(A) SARS-CoV-2スパイクタンパク質の全体的な概略図は、N末端ドメイン(NTD)、RGDモチーフ(Arg-Gly-Asp)、受容体結合ドメイン(RBD)、受容体結合モチーフ(RBM)、サブドメイン1(SD1)、サブドメイン2(SD2)を示す。RGDモチーフは受容体結合ドメイン内に存在するが、ACE2結合領域(RBM)のために隣接している。(B) EMBL-EMBOSS Needleを用いたペア配列アラインメントにより、SARS-CoVおよびSARS-CoV-2のスパイクタンパク質を対比している。同一アミノ酸を(*)、非同一アミノ酸を(-)、RGDモチーフを(黄色)、RBM領域を(青色)で示す。 αVβ3との複合体におけるSARS-CoV-2スパイクタンパク質のイン・シリコ予測構造。ドッキングを行って、SARS-CoV-2のRGDモチーフがインテグリンαVβ3のRGDポケットに結合するかどうかを決定した。(A) RGDリガンド(青)を強調したサイドパネルを用いて、インテグリンαVβ3(PDB:IL5G)を可視化した(黄色)。(B) 新規RGDモチーフ(桃色)が配置されるサイドパネルを用いて、スパイクタンパク質(PDB:6VXX)を可視化した(紫色)。(C) スパイクタンパク質-αVβ3の複合体から、SARS-CoV-2のRGDモチーフが、αVβ3が任意のRGDリガンドと結合するために形成するのと同一の結合ポケットに収まることが明らかになった。タンパク質構造はPyMolを用いて構築した。 SARS-CoV-2スパイクタンパク質のRGDモチーフはヒト内皮細胞との相互作用を媒介する。(A) 精製ウイルススパイクタンパク質と内皮インテグリンタンパク質との相互作用を免疫蛍光結合アッセイにて評価した。組換えSARS-CoV-2スパイクタンパク質を固定化し、抗αVβ3蛍光抗体(LM609-AF488、1:100)を用いてαVβ3タンパク質との結合を測定した。結合は450nmでの吸光度を測定することにより分析した。αVβ3に結合したスパイクタンパク質は有意な相互作用を示した(P<0.0001;対応t検定、N=3)。(B) イン・ビトロ感染モデルを用いて、SARS-CoV-2の内皮細胞への接着能を調べた。剪断したヒト大動脈内皮細胞をサイトカインTNFαで活性化し、COVID-19敗血症煮て経験する状態と同様の炎症状態を誘起した。10倍毎増量(0.05μM~0.0005μM)にて、シレンジタイドを投与した。pNPP結合アッセイは、405nmで測定した蛍光シグナルによる結合率を示した。無薬物対照と各シレンジタイド投与群との間に統計的有意性が認められた。0.0005μMで宿主-ウイルス相互作用が消失したため、以後の実験に最適な濃度として選択した(P=0.001、分散分析(ANOVA)、N=3)。 血管調節異常はSARS-CoV-2感染時に起こり、αVβ3アンタゴニストであるシレンジタイドを用いて防ぐことができる。処理した内皮細胞および未処理の内皮細胞をトランスウェルインサートに播種、剪断、活性化し、イン・ビボで血管系が経験する血流およびストレスの生理的条件をシミュレートした。シレンジタイド処理(0.0005μM)の後、細胞にSARS-CoV-2を24時間にわたって接種した。フロオレセインイソチオシアネート-デキストラン(FITC-デキストラン、40kDa)を添加し、FITC-デキストランはバリアーの透過性に比例して内皮細胞単層を通過し、下部のチャンバーに入った。透過性の程度は、490/520nmにおけるFITC-デキストランの蛍光レベルを定量することによって測定した。透過性レベルの有意な上昇は、SARS-CoV-2感染後のバリア完全性の深刻な喪失を示したが、シレンジタイドで細胞を処理すると回復した(P=0.005;分散分析(ANOVA)、N=3)。 血管調節異常はSARS-CoV-2感染時に起こり、αVβ3アンタゴニストであるシレンジタイドを用いて防ぐことができる。免疫蛍光顕微鏡を用いて、剪断および活性化された内皮細胞における血管内皮カドヘリン(VE-カドヘリン)の発現を評価した。処理細胞には0.0005μMのシレンジタイドを投与した。感染細胞にSARS-CoV-2を24時間にわたって接種した。細胞接合を、核染色のための抗VEカドヘリン抗体(緑)および4,6-ジアミノ-2-フェニルインドール(青)で染色した。スケールバーは50μmである。非感染細胞は、最初に倍率20倍の逆位相差顕微法(inverted phase-contrast microscopy)で可視化してせん断結合を観察し(左上)、倍率43倍の蛍光顕微法を用いて非感染細胞と比較した。感染した内皮細胞は、VE-カドヘリンの発現低下により、単層結合を失った(左下)。ウイルスのRGDから宿主のαVβ3への経路をシレンジタイドで遮断すると、バリアの完全性が再確立した(右下)。 血管調節異常はSARS-CoV-2感染時に起こり、αVβ3アンタゴニストであるシレンジタイドを用いて防ぐことができる。未感染細胞、感染細胞、処理した細胞におけるVE-カドヘリン濃度をバリア完全性のマーカーとして評価し、平均蛍光に基づいて定量した。ウイルス感染後の血管系は、VE-カドヘリンの発現が有意に低下したため、深刻な血管漏れを起こした。シレンジタイドで処理すると、バリア透過性は非感染のレベルにまで回復した(P=0.02;分散分析(ANOVA)、N=3)。 イン・ビトロ感染モデルにおいて、シレンジタイドはヒト大腸上皮細胞へのSARS-CoV-2の結合を効果的に減少させた。P<0.05、**P<0.01。 精製インテグリンαVβ3へのスパイクタンパク質の結合。αVβ3抗体およびβ3抗体の両方が、スパイクタンパク質のαVβ3への結合を阻害することができ、レセプター間の有意な相互作用が明らかになった。シレンジタイドは0.0005μMで組換えスパイクタンパク質とαVβ3との結合を阻害した。 非RGD結合性インテグリンアンタゴニスト化合物GLPG0187との比較が、シレンジタイドはインテグリンαVβ3への組換えスパイクタンパク質の結合を減少させるのに著しく効果的であることが明らかにした。非RGD結合性インテグリンアンタゴニストであるSB-273005を用いたイン・ビトロ感染アッセイでは、ヒト内皮細胞へのSARS-CoV-2の結合を減少させることはできなかった。*P<0.05、**P<0.01。 SARS-CoV-2感染後、血管内皮は、細胞外から細胞内へのVE-カドヘリンの移動によって確認される重度の単層機能不全に陥る。イン・ビトロ感染モデルにおいて、VE-カドヘリンの内在化は、シレンジタイドの存在下で阻止された(0.0005μM)。VE-カドヘリン総量は、健常細胞、感染細胞、処理細胞のいずれにおいても一貫しており、VE-カドヘリンの転位パターンが明らかになった。P<0.05、***P<0.01、***P<0.0001、NS=有意ではない。 図10: α-、β-、γ-、δ-およびο(オミクロン)-スパイクタンパク質のSARS-CoV-2変異体をアラインメントし、403-405のRGD部位の保存を示す。ο-スパイクタンパク質とδ-スパイクタンパク質のイン・シリコモデリングにより、ο-スパイクタンパク質のRGDモチーフは、δ-スパイクタンパク質よりも溶媒の外側に伸びていることが明らかになった。カラーキー:ο-スパイクタンパク質(黄色)、δ-スパイクタンパク質(桃色)。
本明細書に記載されたすべての刊行物、特許、特許出願およびその他の文献は、その全体が参照により本明細書の一部となすものとし、それぞれの刊行物、特許または特許出願が参照による組み込みが具体的かつ個別に示され、その内容がすべて記載されているものとする。
その最も広い意味において、本発明は、対象者におけるコロナウイルスの治療または予防方法に使用するためのαVβ3インテグリンアンタゴニストを提供する。それは、コロナウイルスによって引き起こされる対象者の疾患または状態の治療または予防のためであってもよい。
典型的には、コロナウイルスは、バリア機能の喪失に関連するウイルスである。特筆すべきことには、コロナウイルスが心血管系に影響を及ぼすウイルスであることである。具体的には、SARS-CoV-2は、凝固亢進、血小板活性化、内皮機能不全を伴う急性炎症効果を誘発する。その他の心血管系への影響または症状は、深部静脈血栓症、肺塞栓症、脳卒中、心筋梗塞、播種性血管内凝固障害、肺血管系における微小血栓や右心室機能障害などの肺における微小血管閉塞などの1つまたは複数を含むが、これらに限定されるものではない。
注目すべきことには、コロナウイルスはSARS-CoV-2であり、SARS-CoV-2によって引き起こされる疾患がCOVID-19であることである。コロナウイルスはスパイクタンパク質にRGDドメインを有するものである。
SARS-CoV-2の任意の変異体であってもよい。SARS-CoV-2のいくつかの懸念される変種(ヒトに重篤な疾患を引き起こす変種)が現在知られており、任意の変種が本明細書に包含される。変種はまた、スパイクタンパク質中にRGDドメインを有する。SARS-CoV-2の人獣共通感染症変異体またはバージョンであってもよい。たとえば、SARS-CoV-2クラスター5すなわち「ミンクバリアント」、VOC 2020/21すなわち「UKバリアント」、501Y.V2すなわち「南アフリカ(SA)バリアント」およびB.1.1.28(E484K)すなわち「ブラジルバリアント」を含むが、これらに限定されない。α-変種、β-変種、γ-変種、δ-変種またはο(オミクロン)-変種であってもよい。このような変種は、当技術分野で識別可能である。
本発明者らは、懸念されるα-、β-、γ-、δ-またはο-スパイクタンパク質のすべてのSARS-CoV-2変異体が、403-405のRGD部位の保存を示すように整列することを示した(図10)。
αVβ3インテグリンアンタゴニストは、治療上有効な量のアンタゴニストである。
特に、コロナウイルスは、スパイクタンパク質のアミノ酸配列にRGD部位またはモチーフが存在するウイルスである。スパイクタンパク質の配列は以下の通りである:>QHD43416.1表面糖タンパク質[重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2;配列番号3]。
MFVFLVLLPLVSSQCVNLTTRTQLPPAYTNSFTRGVYYPDKVFRSSVLHSTQDLFLPFFSNVTWFHAIHVSGTNGTKRFDNPVLPFNDGVYFASTEKSNIIRGWIFGTTLDSKTQSLLIVNNATNVVIKVCEFQFCNDPFLGVYYHKNNKSWMESEFRVYSSANNCTFEYVSQPFLMDLEGKQGNFKNLREFVFKNIDGYFKIYSKHTPINLVRDLPQGFSALEPLVDLPIGINITRFQTLLALHRSYLTPGDSSSGWTAGAAAYYVGYLQPRTFLLKYNENGTITDAVDCALDPLSETKCTLKSFTVEKGIYQTSNFRVQPTESIVRFPNITNLCPFGEVFNATRFASVYAWNRKRISNCVADYSVLYNSASFSTFKCYGVSPTKLNDLCFTNVYADSFVIRGDEVRQIAPGQTGKIADYNYKLPDDFTGCVIAWNSNNLDSKVGGNYNYLYRLFRKSNLKPFERDISTEIYQAGSTPCNGVEGFNCYFPLQSYGFQPTNGVGYQPYRVVVLSFELLHAPATVCGPKKSTNLVKNKCVNFNFNGLTGTGVLTESNKKFLPFQQFGRDIADTTDAVRDPQTLEILDITPCSFGGVSVITPGTNTSNQVAVLYQDVNCTEVPVAIHADQLTPTWRVYSTGSNVFQTRAGCLIGAEHVNNSYECDIPIGAGICASYQTQTNSPRRARSVASQSIIAYTMSLGAENSVAYSNNSIAIPTNFTISVTTEILPVSMTKTSVDCTMYICGDSTECSNLLLQYGSFCTQLNRALTGIAVEQDKNTQEVFAQVKQIYKTPPIKDFGGFNFSQILPDPSKPSKRSFIEDLLFNKVTLADAGFIKQYGDCLGDIAARDLICAQKFNGLTVLPPLLTDEMIAQYTSALLAGTITSGWTFGAGAALQIPFAMQMAYRFNGIGVTQNVLYENQKLIANQFNSAIGKIQDSLSSTASALGKLQDVVNQNAQALNTLVKQLSSNFGAISSVLNDILSRLDKVEAEVQIDRLITGRLQSLQTYVTQQLIRAAEIRASANLAATKMSECVLGQSKRVDFCGKGYHLMSFPQSAPHGVVFLHVTYVPAQEKNFTTAPAICHDGKAHFPREGVFVSNGTHWFVTQRNFYEPQIITTDNTFVSGNCDVVIGIVNNTVYDPLQPELDSFKEELDKYFKNHTSPDVDLGDISGINASVVNIQKEIDRLNEVAKNLNESLIDLQELGKYEQYIKWPWYIWLGFIAGLIAIVMVTIMLCCMTSCCSCLKGCCSCGSCCKFDEDDSEPVLKGVKLHYT
上記配列において、RGD部位は、太字および黄色で強調表示され、下線が引かれている。RGD部位は、対象者内の内皮細胞上のαVβ3インテグリンにウイルスが結合することを可能にする。内皮細胞は典型的には任意の血管内皮細胞である。
1つの態様において、本発明のアンタゴニストは、対象者におけるコロナウイルス感染、たとえばSARS-CoV-2感染を予防する、または重症度を軽減するための予防薬として使用される。この文脈において、対象者に対するαVβ3インテグリンアンタゴニストの投与により、ウイルスが内皮細胞に付着して内皮機能障害を引き起こすのを防止する。
感染を予防するために、任意の時点で、対象者にアンタゴニストを投与できる。対象者がコロナウイルスの既知の症例、またはその疑いのある症例に暴露されたことを認識したとき、または対象者がその疾患を発症する危険性があるときに、対象者にアンタゴニストを投与できる。投与は、直ちに、たとえば暴露時または暴露が疑われる時点で開始すべきである。投与は、暴露または暴露の疑いから1時間以内、12時間以内、24~48時間以内、または7日以内に行うことができる。
1つの態様において、本発明のアンタゴニストは、対象者におけるコロナウイルス感染、たとえばSARS-CoV-2感染を治療するために使用される。対象者に対するαVβ3インテグリンアンタゴニストの投与により、対象者の内皮細胞(たとえば血管内皮細胞)へのウイルスの付着および侵入を防止し、したがって血管損傷またはさらなる血管損傷が防止される。ウイルスは反管腔側でαVβ3と結合し、内皮細胞を開放して漏出を引き起こし、すべての病原体が血流に播種されることを可能にする。
この治療法は、バリア機能の喪失をもたらすウイルスの結合に関連した内皮細胞の損傷および調節障害を阻止する。これはウイルスおよび日和見菌の体内への播種に関わる重要な問題であり、コロナウイルス感染でみられる心血管系への影響の主要な症状発現である。これは敗血症を引き起こす恐れがある。
VE-カドヘリンは、無傷の内皮層を維持する上で重要な役割を果たす重要なタイトジャンクションタンパク質である。本発明者らは、SARS-CoV-2に感染すると、内皮細胞におけるVE-カドヘリンの表面発現が著しく減少することを発見した。ウイルスはαVβ3インテグリンを活性化し、VE-カドヘリンのリン酸化および内在化をもたらす。本発明のαVβ3インテグリンアンタゴニストは、感染時のVE-カドヘリンの減少を防ぐことにより作用する。
対象者は、本発明の治療、または本発明のアンタゴニストを任意の時点で受けることができる。対象者が、コロナウイルスの既知の症例またはその疑いのある症例に暴露されたことを認識するようになったとき、または対象者がその疾患を発症する危険性があるとき、または対象者が一旦陽性と判定されたとき、および/またはその疾患の症状を呈しているときに、対象者はアンタゴニストを受容することができる。治療は、対象者が病院に到着した時、病院に到着してから1時間以内、12時間以内、24~48時間以内とすることができる。
「対象者」は任意の人であってもよい。1つの実施形態において、対象者は、コロナウイルスによって引き起こされる疾患(COVID-19など)を発症する危険性のある人、たとえば、SARS-CoV-2への暴露が知られている濃厚接触者であってもよい。対象者は、COVID-19のようなコロナウイルスによって引き起こされる疾患と診断された、またはその症状を示す対象者と接触した、典型的には密接な接触があったために危険な状態にある可能性がある。対象者は、コロナウイルス、たとえばCOVID-19の疾患または感染が疑われる者、または前記疾患の症状を呈している者、および/または前記疾患に対して陽性反応を示した者であってよい。対象者は任意の年齢層でもよい。対象者は65歳以上の対象者であってもよい。対象者は、免疫低下者であってもよい。対象者は、医師、看護師、介護士などの病院職員を含む介護従事者であってもよい。
用量および回数は、対象者および/または疾患の重症度に応じて、任意の適切な用量および回数であり得る。本発明の実施において、採用されるαVβ3インテグリンアンタゴニストの量または用量範囲は、典型的には、本発明のαVβ3インテグリンアンタゴニストに関連する生理学的応答を効果的に誘導、促進、または増強するものである。1つの態様において、用量範囲は、採用される本発明のαVβ3インテグリンアンタゴニストが、コロナウイルス感染またはコロナウイルスによって引き起こされる疾患に罹患しているか、またはコロナウイルス感染またはコロナウイルスによって引き起こされる疾患を発症する実質的な危険性がある患者において、医学的に有意な効果を誘導、促進、または増強するように選択される。
使用において、用量または量は、毎日1回投与してもよいし、2日おき、3日おき、4日おき、5日おき、6日おき、7日おきに1回投与してもよい。単回投与でも反復投与でもよい。投与は、毎週、2週間、1ヶ月、2ヶ月、3ヶ月、4ヶ月ごとに行うことができる。2~14日間、毎日投与することもできる。
治療のための使用では、感染または診断後1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、または40日目の少なくとも1つであってもよい、または代替的に、1週目、2週目、3週目、4週目、5週目、6週目、7週目、8週目、9週目、10週目、11週目、12週目、13週目、14週目、15週目、16週目、17週目、18週目、19週目もしくは20週目のうちの少なくとも1回、またはそれらの任意の組み合わせで、単回投与、連続投与または分割投与、のそれぞれまたはそれらの任意の組み合わせを使用する。
治療は、約0.19ng/kg以下の量の本発明のαVβ3インテグリンアンタゴニストの1日投与量を対象者に投与することによって提供され得る。
1つの実施形態では、治療上有効な量は100mg/m未満である。「mg/m」は、体表面積1m毎のmg数を意味し、体表面積の計算方法は、www.halls.md/body-surface-area/bsa.htmに記載されている。
1つの実施形態では、治療上有効な量は50mg/m未満である。1つの実施形態では、治療上有効な量は10mg/m未満である。1つの実施形態において、治療上有効な量は5mg/m未満である。1つの実施形態において、治療上有効な量は、1mg/m未満である。1つの実施形態では、治療上有効な量は、0.001~50mg/mである。1つの実施形態において、治療上有効な量は、0.001~10mg/mである。1つの実施形態において、治療上有効な量は、0.001~1.0mg/mである。1つの実施形態において、治療上有効な量は、0.01~10mg/mである。1つの実施形態において、治療上有効な量は、0.1~10mg/mである。1つの実施形態において、治療上有効な量は、0.001~1.0mg/mである。1つの実施形態では、治療上有効な量は0.01~1mg/mである。1つの実施形態では、治療上有効な量は0.1~1mg/mである。1つの実施形態では、治療上有効な量は、1日1回、2~14日間にわたって投与される。
1つの実施形態では、10mg/m以下の投与量が患者に投与される。1つの実施形態において、10mg/m未満の投与量が患者に投与される。1つの実施形態において、1mg/m以下の投与量が対象に投与される。実施形態では、1mg/m未満の投与量が対象に投与される。
本発明者らは、驚くべきことに、本発明のαVβ3インテグリンアンタゴニストには逆用量応答(inverse dose response)があり、高用量では効果が減弱するか全く効果がないことを見出した。これを図4(B)に示す。アンタゴニストは、逆用量応答パターンで効果を誘発した。
また、本発明は、コロナウイルス感染に関連する対象者のバリア機能喪失の治療または予防方法における使用のための、本発明のαVβ3インテグリンアンタゴニストを提供する。
また、本発明は、対象者のコロナウイルス感染に関連する心血管機能障害または作用の治療方法または予防方法における使用のための、本発明のαVβ3インテグリンアンタゴニストを提供する。心血管作用は、凝固亢進、血小板活性化、内皮機能障害、深部静脈血栓症、肺塞栓症、脳卒中、心筋梗塞、播種性血管内凝固障害、肺血管系における微小血栓のような肺における微小血管閉塞、および右心室機能障害を伴う急性炎症作用を含む、本明細書に記載の作用の1つまたは複数である。
また、本発明は、対象者のコロナウイルス感染に伴う敗血症の治療方法または予防方法における使用のための、本発明のαVβ3インテグリンアンタゴニストを提供する。それは、コロナウイルス感染に伴う敗血症、重症敗血症または敗血症性ショックの発症を予防または阻止し得る。
コロナウイルス感染症またはコロナウイルスによって引き起こされる疾患の治療方法または予防方法が提供され、前記方法は、対象者への本発明のαVβ3アンタゴニストの投与を含む。
また、本発明は、対象者のコロナウイルス感染に関連するバリア機能の喪失の治療方法または予防方法を提供し、前記方法は、対象者への本発明のαVβ3アンタゴニストの投与を含む。
また、本発明は、対象者のコロナウイルス感染に関連する敗血症の治療方法または予防方法であって、前記方法は、対象者への本発明のαVβ3アンタゴニストの投与を含む。
また、本発明は、対象者のコロナウイルス感染に関連する心血管機能障害または影響の治療方法または予防方法を提供し、前記方法は、対象者への本発明のαVβ3アンタゴニストの投与を含む。
コロナウイルスは本明細書に記載されている通りである。本発明の医療用途に関連して記載した実施形態または好ましい特徴は、本発明の治療または予防方法にも適用されることが理解されるであろう。
(定義および一般的選択)
本明細書で使用される場合、特段の指示がない限り、以下の用語は、当該用語が当該技術分野において享受し得るより広い(またはより狭い)意味に加え、以下の意味を有することが意図される。
文脈上別段の定めがない限り、本明細書において単数形の使用は複数形を含むものとし、その逆もまた同様とする。ある実体に関連して使用される「a」または「an」という用語は、その実体の1つ以上を指すものとする。そのため、本明細書において、「a」(または「an」)、「1つまたは複数」、および「少なくとも1つ」という記載を互換的に使用する。
本明細書で使用される場合、用語「comprise」、またはその活用形(「comprises」または「comprising」など)は、記載された任意の完全体(たとえば、特徴、要素、特性、性質、方法/プロセス工程または制限)または完全体群(たとえば、特徴、要素、特性、性質、方法/プロセス工程または制限)を含むことを示すが、他の完全体または完全体群を排除しないことを示すと解釈される。したがって、本明細書で使用する場合、用語「含む(comprising)」は非排他的またはオープンエンドであり、追加の未記載の完全体または方法/方法工程を除外するものではない。
本明細書において、「疾患」という用語は、生理学的機能を損ない、かつ、特定の症状を伴う、任意の異常状態を定義するために使用される。この用語は、病因の性質に無関係に(あるいは、疾患の病因学的基礎が確立されているかどうかに無関係に)、生理学的機能が損なわれている任意の障害、疾患、異常、病理、病気、状態、または症候群を包含するために広く使用される。したがって、感染症、外傷、傷害、手術、放射線アブレーション、中毒、または栄養欠乏から生じる状態も含まれる。
本文脈において、治療または予防されるべき「疾患」は、コロナウイルス、特にバリア機能の喪失を特徴とするコロナウイルスである。コロナウイルスは、重症急性呼吸器症候群関連コロナウイルス(SARS-CoV)、たとえば、SARS-CoV-2(COVID-19)であってもよい。
本明細書で使用される場合、用語「治療(treatment)」または「治療する(treating)」は、疾患の症状を治癒、改善または軽減するか、あるいは、その原因を除去(またはその影響を軽減)する介入(たとえば、対象への薬剤の投与)を指す。この場合、この用語は、「療法(therapy)」という用語と同義に用いられる。治療とは、対象者の状態の永続的または一時的な改善によって現れる。この場合、治療には予防(prevention)または予防(prophylaxis)の初期段階を含めることができる。
本明細書で使用する場合、「予防(prevention)」または「予防する(preventing)」という用語は、対象者における疾患(たとえばCOVID-19)の発症または進行、および/または疾患(たとえばCOVID-19)の重症度を予防または遅延させる介入(たとえば、対象者への薬剤の投与)を指す。この場合、治療という用語は「予防(prophylaxis)」という用語と同義に使用される。
本明細書で使用される場合、αVβ3アンタゴニストに適用される「有効量または治療上有効な量」という用語は、過度の毒性、刺激、アレルギー反応、または他の問題もしくは合併症を伴わずに、合理的な利益/リスク比に相応して対象者に投与することができる量であって、個体において所望の効果(たとえば、コロナウイルスの受容体への結合を防止する)を提供するのに十分な量を定義する。その量は、個体の年齢および全身状態、投与様式および他の因子によって、対象毎に異なる。したがって、正確な有効量を特定することは不可能であるが、当業者であれば、日常的な実施および背景となる一般的知識を用いて、個々の症例における適切な「有効」量を決定することができるであろう。本文脈における治療結果には、個体において、対象者の細胞に感染するウイルス(SARS-CoV-2など)の量の減少、および/または呼吸不全の発生の遅延もしくは抑制が含まれる。治療結果は、完全な治癒である必要はない。治療結果は、対象者の状態の永続的または一時的な改善であってもよい。「量」は、「投与量」と互換的に用いられる。
上記で定義した治療および有効量の文脈において、用語「個体」(文脈が許す限り、「対象者」、「動物」、「患者」または「哺乳動物」を含むものと解釈される)は、治療が適応とされる任意の個体、特に哺乳類個体を定義する。哺乳類個体は、ヒト、家畜、農耕動物、動物園動物、スポーツ動物、イヌ、ネコ、モルモット、ウサギ、ラット、マウス、ウマ、ウシ、ウシなどのペット動物、類人猿、サル、オランウータン、チンパンジーなどの霊長類、イヌ、オオカミなどのイヌ科動物、ネコ、ライオン、トラなどのネコ科動物;ウマ、ロバ、シマウマなどのウマ科動物;ウシ、ブタ、ヒツジなどの食用動物;シカ、キリンなどの偶蹄類;マウス、ラット、ハムスター、モルモットなどのげっ歯類を含むが、これらに限定されない。好ましい実施形態において、対象者はヒトである。
「αVβ3」は、細胞接着を促進する、細胞表面糖タンパク質レセプターのインテグリン超遺伝子ファミリーのメンバーである。保存されたRGDアミノ酸配列を含む種々の血漿タンパク質および細胞外マトリックスタンパク質と結合し、細胞接着を調節する。破骨細胞で高発現し、骨吸収に関与しているほか、血管平滑筋細胞および内皮細胞、一部の腫瘍細胞にも多く存在し、血管新生や細胞移動に関与している(Felding et al, Curr Opin Cell Biol. 1993; 5; 864-868)。「血管内皮αVβ3」とは、血管内皮細胞によって発現されるαVβ3インテグリンを指す。
「αVドメイン」とは、血管内皮αVβ3インテグリンのαVドメインを指す。ヒト血管内皮αVドメインの配列は配列番号1に記載されている:
ITAV_HUMAN インテグリンα-V OS=ホモサピエンス (配列番号1)
MAFPPRRRLRLGPRGLPLLLSGLLLPLCRAFNLDVDSPAEYSGPEGSYFGFAVDFFVPSASSRMFLLVGAPKANTTQPGIVEGGQVLKCDWSSTRRCQPIEFDATGNRDYAKDDPLEFKSHQWFGASVRSKQDKILACAPLYHWRTEMKQEREPVGTCFLQDGTKTVEYAPCRSQDIDADGQGFCQGGFSIDFTKADRVLLGGPGSFYWQGQLISDQVAEIVSKYDPNVYSIKYNNQLATRTAQAIFDDSYLGYSVAVGDFNGDGIDDFVSGVPRAARTLGMVYIYDGKNMSSLYNFTGEQMAAYFGFSVAATDINGDDYADVFIGAPLFMDRGSDGKLQEVGQVSVSLQRASGDFQTTKLNGFEVFARFGSAIAPLGDLDQDGFNDIAIAAPYGGEDKKGIVYIFNGRSTGLNAVPSQILEGQWAARSMPPSFGYSMKGATDIDKNGYPDLIVGAFGVDRAILYRARPVITVNAGLEVYPSILNQDNKTCSLPGTALKVSCFNVRFCLKADGKGVLPRKLNFQVELLLDKLKQKGAIRRALFLYSRSPSHSKNMTISRGGLMQCEELIAYLRDESEFRDKLTPITIFMEYRLDYRTAADTTGLQPILNQFTPANISRQAHILLDCGEDNVCKPKLEVSVDSDQKKIYIGDDNPLTLIVKAQNQGEGAYEAELIVSIPLQADFIGVVRNNEALARLSCAFKTENQTRQVVCDLGNPMKAGTQLLAGLRFSVHQQSEMDTSVKFDLQIQSSNLFDKVSPVVSHKVDLAVLAAVEIRGVSSPDHVFLPIPNWEHKENPETEEDVGPVVQHIYELRNNGPSSFSKAMLHLQWPYKYNNNTLLYILHYDIDGPMNCTSDMEINPLRIKISSLQTTEKNDTVAGQGERDHLITKRDLALSEGDIHTLGCGVAQCLKIVCQVGRLDRGKSAILYVKSLLWTETFMNKENQNHSYSLKSSASFNVIEFPYKNLPIEDITNSTLVTTNVTWGIQPAPMPVPVWVIILAVLAGLLLLAVLVFVMYRMGFFKRVRPPQEEQEREQLQPHENGEGNSET
「β3ドメイン」とは、血管内皮αVβ3インテグリンのβ3ドメインを指す。ヒト血管内皮β3ドメインの配列は配列番号2に記載されている:
ITB3_HUMAN インテグリンβ-3 OS=ホモサピエンス(配列番号2)
MRARPRPRPLWATVLALGALAGVGVGGPNICTTRGVSSCQQCLAVSPMCAWCSDEALPLGSPRCDLKENLLKDNCAPESIEFPVSEARVLEDRPLSDKGSGDSSQVTQVSPQRIALRLRPDDSKNFSIQVRQVEDYPVDIYYLMDLSYSMKDDLWSIQNLGTKLATQMRKLTSNLRIGFGAFVDKPVSPYMYISPPEALENPCYDMKTTCLPMFGYKHVLTLTDQVTRFNEEVKKQSVSRNRDAPEGGFDAIMQATVCDEKIGWRNDASHLLVFTTDAKTHIALDGRLAGIVQPNDGQCHVGSDNHYSASTTMDYPSLGLMTEKLSQKNINLIFAVTENVVNLYQNYSELIPGTTVGVLSMDSSNVLQLIVDAYGKIRSKVELEVRDLPEELSLSFNATCLNNEVIPGLKSCMGLKIGDTVSFSIEAKVRGCPQEKEKSFTIKPVGFKDSLIVQVTFDCDCACQAQAEPNSHRCNNGNGTFECGVCRCGPGWLGSQCECSEEDYRPSQQDECSPREGQPVCSQRGECLCGQCVCHSSDFGKITGKYCECDDFSCVRYKGEMCSGHGQCSCGDCLCDSDWTGYYCNCTTRTDTCMSSNGLLCSGRGKCECGSCVCIQPGSYGDTCEKCPTCPDACTFKKECVECKKFDRGALHDENTCNRYCRDEIESVKELKDTGKDAVNCTYKNEDDCVVRFQYYEDSSGKSILYVVEEPECPKGPDILVVLLSVMGAILLIGLAALLIWKLLITIHDRKEFAKFEEERARAKWDTANNPLYKEATSTFTNITYRGT
「αVβ3アンタゴニスト」という用語は、受容体自体を活性化することなくαVβ3インテグリンに結合する化合物または分子を指す。例は、ペプチド(環状および非環状)、非ペプチドリガンド、ディスインテグリン、ペプチド模倣物、抗体、遺伝子阻害剤などを含む。環状ペプチドの例はシレンジタイドである。抗体アンタゴニストの例は文献、たとえば米国特許第5652110号明細書に記載されている。αVβ3アンタゴニストは、Millard et al (Theranostics 2011; 1: 154=188)、Kim et al(Mol Pharm 2013 Oct 7,3603-3611)、Pfaff et al(J Biol Chem 1994; 269, 20233-20238)、Healyet al(Biochemistry 1995; 34, 3948-3955)、欧州特許出願公開第2298308号明細書(University of Southern California)、Koivunen et al(J Biol Chem 1993; 268; 20205-20210, and 1994; 124: 373-380)、Ruoslahti et al(Annu Rev Cell Dev Biol. 1996; 12: 697-715)、およびPonce et al(Faseb J. 2001; 15; 1389-1397)に記載されている。1つの実施形態において、αVβ3アンタゴニストは、αVインテグリンに対して選択的である。
本文脈において、好ましくは、アンタゴニストは、内皮αVβ3インテグリンに結合し、コロナウイルスと宿主インテグリンとの結合を阻止するか、または減少させるものである。特に、アンタゴニストは血管内皮細胞に結合するものである。これらは、ヒト大動脈内皮細胞、微小血管内皮細胞、およびヒト臍帯静脈内皮細胞を含むが、これらに限定されない。アンタゴニストは、αVβ3インテグリンと反管腔側で結合するものである。イン・ビトロ結合アッセイは当技術分野で知られており、以下に記載される。例としては、欧州特許出願公開第0770622号明細書(参照により本明細書の一部をなす)に記載されている、シレンジタイドおよびその変異体を含む。以下に記載するイン・ビトロ接着アッセイを用いて文献に記載されているαVβ3アンタゴニストを試験して、機能的なαVβ3アンタゴニストを同定することは、当業者にとって慣用な事項である。
「シレンジタイド」は、αVβ3受容体に対する強力なインテグリン阻害剤である。これは、αVインテグリンに選択的な環状ペプチド(cyclo(-RGDf(NMe)V-)である(Jonczyk et al、欧州特許出願第0770622号)。この分子の合成と活性は1999年に発表された(Dechantsreiter et al J Med Chem 1999 Aug 12; 42(16))。シレンジタイドは癌の治療に適応がある(欧州特許出願公開第2578225号明細書、欧州特許出願公開第2338518号明細書、欧州特許出願公開第2441464号明細書;参照により本明細書の一部をなす)。
「シレンジタイドの機能的変異体」とは、αVβ3受容体のインテグリン阻害剤である米国特許第6001961号明細書に記載されたシレンジタイドの変異体、具体的には、配列番号1~40に記載された環状ペプチドを意味する(米国特許第6001961号明細書、第12~13欄;参照により本明細書の一部をなす)。「機能的変異体」とは、同一機能を有する変異体であり、たとえば、修飾によって異なるものであるが、同一機能を維持するシレンジタイドの変異体、すなわちインテグリン阻害剤である。典型的には、シレンジタイドの機能的変異体は、RGD配列またはモチーフからなる環状ペプチドである。
「低分子量アンタゴニスト」とは、50KDa未満の分子量を有するアンタゴニストを意味する。1つの実施形態において、低分子量アンタゴニストは、20KDa未満の分子量を有する。1つの実施形態において、低分子量アンタゴニストは、10KDa未満の分子量を有する。1つの実施形態において、低分子量アンタゴニストは、5KDa未満の分子量を有する。1つの実施形態において、低分子量アンタゴニストは、4KDa未満の分子量を有する。1つの実施形態において、低分子量アンタゴニストは、3KDa未満の分子量を有する。1つの実施形態において、低分子量アンタゴニストは、2KDa未満の分子量を有する。1つの実施形態において、低分子量アンタゴニストは、1KDa未満の分子量を有する。
「αVβ3抗体」とは、αVβ3インテグリンに結合する抗体を意味する。1つの実施形態では、抗体はαVβ3またはαVβ5インテグリンに特異的に結合する。1つの実施形態では、抗体はαVβ3インテグリンに特異的に結合する。αVβ3抗体の例は文献に記載されており(Liu et al Drug Dev Res 2008; 69(6) 329-339)、たとえば市販されている:
MAB1976、Merck Milliporeから市販されているマウスモノクローナル抗体(クローンLM609)、AVASTINとしても知られている;
Vitaxin I、ヒト化モノクローナル抗体(Coleman et al, Circulation Research 1999; 84; 1268-1276);
ABEGRIN、Medimmune社製のVitaxin Iの誘導体;
CNTO95、複数のαVインテグリンを認識し、αVβ3またはαVβ5インテグリンに高親和性で結合する完全ヒト化抗体(Trika et al.Int J Cancer 2004;110;326-335);
c7E3 Fab(ABCIXIMABまたはREOPRO)およびc7E3(Fab’)2、親となる無傷のマウスmAb 7E3のマウス-ヒトキメラおよびマウスmAbフラグメント(Trikha et al.Angiogenesis 1999; 3; 53-60);
17E6抗体(Mitjans et al J Cell Sci 1995; 108; 2825-2838)。
「αVβ3抗体」という用語は、αVドメイン、β3ドメイン、またはαVドメインとβ3ドメインの両方に選択的に結合する抗体を含む。用語「機能的αVβ3抗体」とは、血管内皮αVβ3インテグリンに結合し、後述のイン・ビトロ接着アッセイにおいて黄色ブドウ球菌または大腸菌の内皮細胞への接着を少なくとも部分的に阻止することができる、αVβ3抗体を意味する。
「ディスインテグリン」とは、αVβ3に結合してその機能を阻害することができる、毒蛇毒由来の低分子量RGD含有システイン豊富ペプチドのファミリーを意味する。たとえば、トリグラミン、キストリン、ビチスタチン、バーボリン、エキスタチン、コントルトロスタチンなどがあり、これらはすべてLiu et al Drug Dev Res 2008; 69(6) 329-339に記載または参照されている。
「ペプチド模倣物」とは、ペプチド性αVβ3アンタゴニストの生物学的作用を模倣することができる非ペプチド性構造要素を含む化合物を意味する。例は、Liu et al, Drug Dev Res 2008; 69(6) 329-339に記載または参照されているSC-68448およびSCH221153、およびBello et al, Neurosurgery 2003: 52; 177186に記載されているIS201を含む。
「遺伝子阻害剤」とは、αVβ3の発現低下を引き起こすことができる核酸を意味する。いくつかの実施形態において、薬剤は核酸である。核酸薬剤は、たとえば、siRNA、shRNA、miRNA、抗microRNA、アンチセンスRNAまたはオリゴヌクレオチド、アプタマー、リボザイム、およびそれらの任意の組み合わせから選択することができる。薬剤が核酸である場合、薬剤自体を対象者に投与するか、または薬剤を発現/コードするベクターを対象者に投与することができる。いくつかの実施形態において、薬剤を発現/コードするベクターは、アデノ関連ウイルス(AAV)ベクターである。
本発明の方法を実施するために、αVβ3アンタゴニストは、経口投与、非経口投与、吸入スプレーによる投与、局所投与、直腸投与、経鼻投与、膀胱投与、膣投与、または移植リザーバーを介して投与することができる。αVβ3アンタゴニストは、任意の形態の肺送達によって送達することができる。このような送達手段は、定量吸入器、ネブライザーおよび吸入器、たとえば乾燥粉末吸入器を含むが、それらに限定されない。本明細書で使用する際に、用語「非経口的」は、皮下、皮内、静脈内、筋肉内、関節内、動脈内、滑膜内、胸骨内、髄腔内、および頭蓋内注射または注入技術を含む。無菌の注射可能組成物(たとえば、無菌の注射可能な水性懸濁液または油性懸濁液)は、適切な分散剤または湿潤剤(ツイーン80など)および懸濁剤を使用して、当該分野で公知の技術にしたがって処方することができる。また、無菌注射製剤は、たとえば1,3-ブタンジオール中の溶液のように、非毒性の非経口的に許容される希釈剤または溶媒中の無菌注射溶液または懸濁液であってもよい。使用できる希釈剤または溶媒は、マンニトール、水、リンゲル液、および等張塩化ナトリウム溶液であってもよい。さらに、無菌の固定油が、従来から溶媒または懸濁媒体として使用されている(たとえば、合成モノグリセリドまたはジグリセリド)。オレイン酸およびそのグリセリド誘導体のような脂肪酸は、注射剤の調製に有用であり、オリーブ油またはヒマシ油のような薬学的に許容される天然油、特にポリオキシエチル化されたものも有用である。これらの油性溶液または油性懸濁液は、長鎖アルコール希釈剤または分散剤、またはカルボキシメチルセルロースまたは同様の分散剤を含むこともできる。他の一般的に使用される界面活性剤(ツイーン類またはスパン類)、または薬学的に許容される固体剤形、液体剤形、または他の剤形の製造において一般的に使用される他の類似の乳化剤または生物学的利用能増強剤もまた、製剤化の目的のために使用することができる。好ましくは、投与は経口投与である。典型的には、投与は静脈内投与である。典型的には、投与は肺投与である。
経口投与用組成物は、カプセル剤、錠剤、乳剤および水性懸濁剤、分散剤および溶液を含むがこれらに限定されない、経口的に許容される任意の剤形とすることができる。賦形剤と混合して、摂取可能な錠剤、バッカル錠剤、トローチ、カプセル剤、エリキシル剤、懸濁剤、シロップ剤、ウエハース剤などの形態、硬質または軟質のゼラチンカプセル剤、または錠剤に圧縮して使用することができる。不活性化を防ぐための材料によるコーティング、または当該材料との共投与を行ってもよい。別の態様において、本発明のアンタゴニストまたは組成物は、たとえば、不活性希釈剤または同化可能な食用担体とともに経口投与することができる。
経口用の錠剤の場合、一般的に使用される担体は、乳糖やトウモロコシデンプンを含む。一般的に、ステアリン酸マグネシウムなどの滑沢剤も添加される。カプセル形態で経口投与する場合、有用な希釈剤は、ラクトースおよび乾燥コーンスターチを含む。水性懸濁液または乳剤を経口投与する場合、乳化剤または懸濁剤と組み合わせた油性相中に有効成分を懸濁または溶解させることができる。所望により、甘味剤、香料、着色剤を添加することもできる。鼻用エアロゾルまたは吸入用組成物は、医薬製剤の技術分野で周知の技術にしたがって調製することができる。縮合多環式化合物含有組成物は、直腸投与用の坐薬の形態で投与することもできる。医薬組成物中の担体は、製剤の有効成分と適合性があり(安定化できることが好ましい)、治療される対象者にとって有害ではないという意味で、「許容可能」ものでなければならない。たとえば、縮合多環式化合物と高可溶性の複合体を形成する1種または複数種の可溶化剤を、活性化合物の送達のための医薬担体として利用することができる。他の担体の例は、コロイド状二酸化ケイ素、ステアリン酸マグネシウム、ラウリル硫酸ナトリウム、D&Cイエロー#10などを含む。
本発明のいくつかの実施形態において、投与または送達は、リポソーム、混合リポソーム、オレオソーム、ニオソーム、エトソーム、ミリカプセル、カプセル、マクロカプセル、ナノカプセル、ナノ構造脂質キャリア、スポンジ、シクロデキストリン、ベシクル、ミセル、界面活性剤の混合ミセル、界面活性剤-リン脂質混合ミセル、ミリスフィア、スフィア、リポスフィア、粒子、ナノスフィア、ナノ粒子、ミリパーティクル、固体ナノパーティクル、ならびに、逆ミセルの内部構造を持つ油中水型マイクロエマルションを含むマイクロエマルション、ナノエマルションミクロスフェアー、マイクロパーティクルの1種を用いて行ってもよい。
これらの送達系は、本発明のアンタゴニストまたは組成物の浸透性を高めるように適合させることができる。これにより、薬物動態学的および薬力学的特性が改善することができる。送達系は、本発明の化合物またはペプチドが一定期間中に徐々に放出され、好ましくは一定期間にわたって一定の放出速度で放出される、徐放系であってもよい。送達系は、当該技術分野で公知の方法によって調製される。徐放系に含まれる活性物質の量は、組成物が送達される場所および放出の持続時間、ならびに治療またはケアされる状態、疾患および/または障害の種類に依存する。
「抗体」とは、任意の形態の無傷のαVβ3結合免疫グロブリンを指し、モノクローナル、ポリクローナル、ヒト化もしくはヒト型、またはαVβ3に結合する抗体フラグメントを含むがこれらに限定されない。この用語は、本明細書において「Fcフラグメント」または「Fcドメイン」と呼ばれる、Fc領域のFc(結晶化可能フラグメント)領域またはFcRn結合フラグメントを有するモノクローナルまたはポリクローナルαVβ3結合フラグメントを含む。1つの実施形態では、抗体は、除去または修飾されたFc領域を有し、細菌のプロテインAと相互作用できないようにされている。このような抗体を作製する方法は、Hay et al (Immunochemistry 12(5): 373-378)、Parkham et al (J. Immunol 1983: 131(6): 2895-2902)、およびBaldwin et al (J. Immunol Methods 1989 121(2): 209-217)に記載されている。αVβ3結合フラグメントは、組換えDNA技術によって、または無傷な抗体の酵素的もしくは化学的開裂によって生産されてもよい。αVβ3結合フラグメントは、特に、Fab、Fab’、F(ab’)2、Fv、dAb、および相補性決定領域(CDR)フラグメント、単鎖抗体(scFv)、単一ドメイン抗体、キメラ抗体、ダイアボディ、およびポリペプチドに特異的抗原結合を付与するのに十分な免疫グロブリンの少なくとも一部を含むポリペプチドを含む。Fcドメインは、抗体の2つまたは3つのクラスに寄与する2つの重鎖の一部を含む。Fcドメインを、組換えDNA技術によって、あるいは酵素的(たとえばパパイン開裂)または無傷の抗体の化学的開裂によって生産してもよい。
抗体は、IgG分子、IgM分子、IgE分子、IgA分子、またはIgD分子であってよい。好ましい実施形態では、抗体分子はIgGであり、より好ましくはIgG1、IgG2、IgG3、またはIgG4サブタイプである。抗体のクラスおよびサブクラスは、たとえば、抗体の特定のクラスおよびサブクラスに特異的な抗体を用いるなど、当技術分野で公知の任意の方法によって決定することができる。αVβ3に特異的な抗体は市販されており、前述した。クラスおよびサブクラスは、ELISAおよびウェスタンブロット、ならびに他の技術によって決定することができる。あるいは、抗体の重鎖および/または軽鎖の定常ドメインの全部または一部を配列決定すること、アミノ酸配列を免疫グロブリンの種々のクラスおよびサブクラスの既知のアミノ酸配列と比較し、抗体のクラスおよびサブクラスを決定することによっても、クラスおよびサブクラスを決定することができる。
抗体はバイオ医薬品の主要なクラスである。治療目的の抗体は、ハイブリドーマを含み、多くの場合に、細胞株(たとえば、CHO細胞、ハムスター株BHK21、ヒトPER.C6細胞株、COS、NIH 3T3、BHK、HEK、293、L929、MEL、JEG-3、マウスリンパ球(NS0およびSp2/0-Ag 14を含む))から産生され、通常は特定の抗体の単一クローンである。治療目的で使用される抗体は、マウス抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体、完全ヒト抗体に分類され、組換え法によって産生される。「マウス抗体」は完全なマウス抗体であり、循環半減期が短く免疫原性が高いため、ヒトにおける使用は制限されている。「キメラ抗体」は遺伝子工学的に作製された抗体で、マウスとヒトの両方の配列を含む。その比率は、マウスの寄与率が約33%、ヒトの寄与率が約67%である。通常、可変領域はマウス由来で、Fcフラグメントを含む定常領域はヒトIgG由来である。
「ヒト化抗体」とは、遺伝子工学的に操作された抗体で、マウスの含有量が約5-10%に減少している。このような場合、CDR欠損ヒトIgG足場に対する組換え技術によって、マウスモノクローナル抗体の重鎖および軽鎖の6つのCDRと限られた数の構造アミノ酸が移植される。完全ヒト抗体またはヒト抗体は、ヒト化マウスで作製され、マウス配列を全く含まない抗体、またはファージライブラリーやリボソームディスプレイを用いてイン・ビトロで作製された抗体、あるいはヒト提供者(ドナー)から得られた抗体を指す。特定の実施形態では、異なる種または完全ヒト抗体由来の部分から誘導される、キメラ抗体、ヒト化抗体または霊長類化(CDR-移植)抗体も本発明に包含される。これらの抗体の種々の部分は、従来の技術によって化学的に結合させることもできるし、遺伝子工学的技術を用いて連続したタンパク質として調製することもできる。たとえば、キメラ鎖またはヒト化鎖をコードする核酸を発現させて連続タンパク質を産生することができる。たとえば、Cabilly et al.、米国特許第4816567号明細書;Cabilly et al.、欧州特許出願公開第0,125,023号明細書;Boss et al.、米国特許第4816397号、Boss et al.ら、欧州特許出願公開第0,120,694号明細書、Neuberger, M. S. et al.、国際特許公開第86/01533号パンフレット、Neuberger, M. S. et al.ら、欧州特許第0194276号明細書、Winter、米国特許第5,225,539号明細書;およびWinter、欧州特許第0239400号明細書を参照されたい。霊長類化抗体については、Newman, R. et al., BioTechnology, 10: 1455-1460 (1992)を参照されたい。単一鎖抗体については、たとえば、Ladner et al.、米国特許第4946778号明細書;およびBird, R. E. et al., Science, 242: 423-426 (1988)を参照されたい。
さらに、本明細書において「抗体調製物」と呼ばれる抗体の混合物を、本発明の方法にしたがって使用することができる。このような抗体調製物は、抗体のポリクローナルおよびモノクローナル混合物を含む。ヒト化抗体は、異なる起源の免疫グロブリンの部分を含むことができる。たとえば、少なくとも1つの部分はヒト由来であり得る。たとえば、ヒト化抗体は、マウスのような必要な特異性を有する非ヒト由来の免疫グロブリン由来の部分と、ヒト由来の免疫グロブリン配列(たとえば、キメラ免疫グロブリン)由来の部分とを、含むことができる。ヒト化抗体は、従来の技術(たとえば、合成的)により免疫グロブリン配列を化学的に結合させて調製してもよいし、遺伝子操作技術(たとえば、キメラ抗体のタンパク質部分をコードするDNAを発現させて、連続したポリペプチド鎖を産生する)を用いて連続したポリペプチドとして調製してもよい。あるいはまた、ヒト抗体遺伝子を発現するトランスジェニック動物またはヒト化動物でヒト化抗体を作製することもできる(Lonberg, N.、「Transgenic Approaches to Human Monoclonal Antibodies」、Handbook of Experimental Pharmacology 113 (1994): 49-101を参照されたい)。本発明のヒト化抗体の別の例は、非ヒト由来のCDR(たとえば、非ヒト由来の抗体由来の1つまたは複数のCDR)と、ヒト由来の軽鎖および/または重鎖由来のフレームワーク領域(たとえば、フレームワークの変化を伴うかまたは伴わないCDRグラフト抗体)とを含む1つまたは複数の免疫グロブリン鎖を含む免疫グロブリンである。キメラ抗体またはCDRグラフト単鎖抗体も、「ヒト化抗体」という用語に包含される。
免疫グロブリンを調製する方法、抗原で免疫する方法、ポリクローナル抗体およびモノクローナル抗体を産生する方法は、本明細書に記載されているように、または他の適切な技術を用いて行うことができる。種々の方法が記載されている。たとえば、Kohler et al., Nature, 256:495-497(1975)、およびEur. J. Immunol. 6: 511-519(1976);Milstein et al., Nature 266: 550-552(1977);Koprowski et al.、米国特許第4172124号明細書;Harlow, E. and D. Lane, 1988, Antibodies: A Laboratory Manual, (Cold Spring Harbor Laboratory: Cold Spring Harbor, N.Y.);Current Protocols In Molecular Biology, Vol. 2 (Supplement 27, Summer '94), Ausubel, F. M. et al., Eds., (John Wiley & Sons: New York, N.Y.), Chapter 11, (1991; Rasmussen SK, Rasmussen LK, Weilguny D, Tolstrup AB. Biotechnol Lett.)を参照されたい。本発明の方法で使用できるポリクローナル抗体は、免疫動物の血清(免疫原としてαVβ3特異的ペプチドまたは組換えタンパク質を使用)由来の抗体分子の不均一な集団である。αVβ3に対するモノクローナル抗体の調製のために、適当な不死細胞株(たとえば、SP2/0などの骨髄腫細胞株)と抗体産生細胞との融合によりハイブリドーマを作製することができる。抗体産生細胞、好ましくは脾臓またはリンパ節の細胞は、目的の抗原(αVβ3特異的ペプチドまたは組換えタンパク質)で免疫した動物から得られる。ハイブリドーマは、選択的培養条件を用いて単離し、限界希釈によってクローニングすることができる。所望の特異性を有する抗体を産生する細胞は、適切なアッセイ法(ELISAなど)により選択することができる。抗体はヒト提供者の血漿から精製することができる。これはIVIgの現在のアプローチであり、多数の提供者からプールされた正常血漿から免疫グロブリンを分離する(http://www.fda.gov/cber/gdlns/igivimmuno.htm、およびHaeney Clin Exp Immunol.1994 July; 97(Suppl 1): 11-15を参照されたい)。必要な特異性を有する抗体を産生または単離するための他の適切な方法を使用することができる。当該方法は、たとえば、ライブラリーから組換え抗体を選択する方法、またはヒト抗体の全レパートリーを産生することができるトランスジェニック動物(たとえば、マウス)の免疫に依存する方法などを含む。たとえば、Jakobovits et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 90: 2551-2555 (1993);Jakobovitsら, Nature, 362: 255-258 (1993);Lonberg et al.、米国特許第5545806号明細書;Surani et al.、米国特許第5,545,807号明細書を参照されたい。
抗体は2つ以上の結合部位を有してもよい。複数の結合部位を有する場合、結合部位は互いに同一であってもよいし、異なっていてもよい。たとえば、天然に存在する免疫グロブリンは2つの同一の結合部位を有し、一本鎖抗体またはFabフラグメントは1つの結合部位を有する一方で、「二重特異性」または「二官能性」抗体は2つの異なる結合部位を有する。個々の抗体の内在化する能力、ペイロードを送達する能力、標的細胞を殺傷する能力は、親和性および抗体が係合する特定の標的エピトープによって大きく異なる。所与の標的(この場合IL1RAPL-1)に対して、ADCコンジュゲーション用の抗体のパネル(種々の結合親和性およびエピトープをカバーする)を開発する必要がある。ヒト抗体」という用語は、ヒト免疫グロブリン配列に由来する1つまたは複数の可変領域および定常領域を有する全ての抗体を含む。1つの実施形態では、可変領域および定常領域の全てがヒト免疫グロブリン配列由来である(完全ヒト抗体)。用語「キメラ抗体」は、1つの抗体由来の1つまたは複数の領域と、1つまたは複数の他の異なる抗体由来の1つまたは複数の領域とを含む抗体を指す。1つの実施形態では、1つまたは複数のCDRは特定のヒト抗体由来である。より好ましい実施形態では、CDRの全てがヒト抗体由来である。別の好ましい実施形態では、2つ以上のヒト抗体由来のCDRがキメラ抗体中で混合され、マッチングされる。たとえば、キメラ抗体は、第1のヒト抗体の軽鎖由来のCDR1と、第2のヒト抗体の軽鎖由来のCDR2およびCDR3との組み合わせを含んでもよく、重鎖由来のCDRは第3の抗体由来であってもよい。さらに、フレームワーク領域は、同じ抗体、ヒト抗体などの1つまたは複数の異なる抗体、またはヒト化抗体由来のいずれかに由来してもよい。
本明細書で使用する場合、「組成物」という用語は、人の手によって作られたものを意味し、天然に存在する組成物を含まないと理解されるべきである。組成物は、単位用量形態、すなわち、単位用量、または単位用量の倍数もしくは小単位を含む別個の部分の形態で製剤化することができる。
本明細書で使用する場合、「医薬組成物」という用語は、1つまたは複数の医薬的に許容される希釈剤、賦形剤または担体を含むことができる。本発明のペプチドおよび組成物を単独で投与することができるとしても、一般的には、それらは、特にヒト治療のために、薬学的担体、賦形剤または希釈剤と混和して投与されるであろう。医薬組成物は、ヒトおよび獣医学において、ヒト用または動物用として使用することができる。本明細書に記載される種々の異なる形態の医薬組成物のためのそのような適切な賦形剤の例は、
A Wade and PJ Weller編"Handbook of Pharmaceutical Excipients", 2nd Edition, (1994)に記載されている。特に、局所送達のための製剤は、David Osborne and Antonio Aman編"Topical Drug Delivery Formulations"に記載されており、その全内容は参照により本明細書の一部をなすものとする。治療用に許容される担体または希釈剤は、製薬技術において周知であり、たとえば、Remington's Pharmaceutical Sciences, Mack Publishing Co. (A. R. Gennaro edit. 1985)に記載されている。適切な担体の例は、ラクトース、デンプン、グルコース、メチルセルロース、ステアリン酸マグネシウム、マンニトール、ソルビトールなどを含む。適切な希釈剤の例は、エタノール、グリセロールおよび水を含む。医薬担体、賦形剤または希釈剤の選択は、意図される投与経路および標準的な医薬慣行を考慮して選択することができる。医薬組成物は、担体、賦形剤または希釈剤として、または担体、賦形剤または希釈剤に加えて、任意の適切な結合剤、滑剤、懸濁剤、コーティング剤、可溶化剤を含むことができる。適切な結合剤の例は、デンプン、ゼラチン、グルコース、無水ラクトース、自由流動ラクトース、β-ラクトースのような天然糖、トウモロコシ甘味料、アカシア、トラガカント、アルギン酸ナトリウムなどの天然および合成ガム、カルボキシメチルセルロース、ポリエチレングリコールなどを含む。適切な滑剤の例は、オレイン酸ナトリウム、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸マグネシウム、安息香酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、塩化ナトリウムなどを含む。医薬組成物中に、保存剤、安定剤、染料、さらには香料を提供することができる。保存剤の例は、安息香酸ナトリウム、ソルビン酸、ヒドロキシ安息香酸のエステルなどを含む。酸化防止剤および懸濁剤も使用することができる。
「誘導体」という用語は、構造上の修飾、たとえばある原子もしくは原子団または官能基を別の原子もしくは原子団または官能基で置換することによって、別の化合物と相違する化合物を意味する。
本明細書において「バリア機能の喪失」とは、正常なバリア機能の減衰を指す。バリアは、身体の任意の部分においてもよく、内皮細胞バリアまたは上皮細胞バリアであってもよい。
本発明のアンタゴニストまたはそれを含む組成物は、単独で投与することも、他の薬理学的に活性な薬剤または追加成分と組み合わせて投与することもできる。このような併用療法は、単一の剤形での複数の薬剤の一括での投与、または別個の個別の剤形での複数の薬剤の投与を含むが、それに限定されるものではない、異なる治療レジメンを包含することが理解されるであろう。薬剤が別個の剤形中に存在する場合、投与は同時またはほぼ同時であってもよいし、異なる薬剤の投与を包含する任意の所定のレジメンにしたがってもよい。
このような追加成分は、組成物に含めることが有益なものであってもよいし、組成物の使用目的に応じて有益なものであってもよい。追加成分は、活性成分であっても機能性成分であってもよいし、その両方であってもよい。薬剤が別個の剤形中に存在する場合、投与は同時またはほぼ同時であってもよいし、異なる薬剤の投与を包含する任意の所定のレジメンにしたがってもよい。
追加成分は、呼吸器疾患もしくは肺疾患またはその症状の治療に適したものであってもよい。追加成分は、ARDSまたはその症状、腎臓、または急性腎障害(AKI)、凝固障害、心臓病、および/または神経病理の治療に適したものであってもよい。追加成分は、バリア機能が低下した疾患の治療に適したものであってもよい。追加成分は、抗ウイルス薬および/または抗生物質であってもよい。これは併用療法と呼ばれることもある。
バリア機能またはバリア状態が低下した疾患に適した治療剤は、下痢止め剤、ヒトまたは動物の出血性ウイルスに対する薬剤を含むが、それらに限定されない。このような薬剤は当該技術分野で公知であり、その全てが本発明に包含されることが理解されよう。追加成分は、疼痛の治療に適したものであってよく、当該技術分野で知られている任意の適切な成分であってよい。
記載されている追加成分は、2つ以上の利点を提供する可能性があることを理解されたい。本明細書に記載された分類は、明確性および便宜のみを目的としたものであり、記載された特定の用途またはカテゴリーに追加成分を限定することを意図したものではない。
追加成分の性質および量は、本発明の利点を許容できないほど変化させるべきではない。典型的な前記追加の活性剤は、微量でのみ存在する。いくつかの実施形態では、組成物中に追加成分が存在しないこともある。含まれる追加成分の量は、使用される追加成分の種類、追加成分の性質、組成物の成分、組成物中の成分またはペプチドの量、および/または組成物の意図される使用など、多数の要因に依存する。
追加成分は活性剤であってもよい。ある製品では「活性」成分とみなされる成分が、別の製品では「機能性」成分または「賦形剤」成分である場合があり、その逆もまたしかりであることを理解されたい。また、有効成分としての役割と、機能性成分または賦形剤成分としての役割の両方を果たす成分もあることが理解されるであろう。
また、組成物は、本発明のアンタゴニストおよびそのための適切な塩の任意の適切な組み合わせを含む組成物を含む。任意の適切な塩、たとえば、任意の適切な形態のアルカリ土類金属塩(たとえば、緩衝塩)を、本発明のペプチドの安定化に使用してもよい(好ましくは、塩の量は、ペプチドの酸化および/または沈殿が回避されるような量である)。適切な塩は、典型的には、塩化ナトリウム、コハク酸ナトリウム、硫酸ナトリウム、塩化カリウム、塩化マグネシウム、硫酸マグネシウム、および塩化カルシウムを含む。塩基と1つ以上の本発明のペプチドとを含む組成物もまた提供される。
「敗血症」は、患者が以下の症状のうち少なくとも2つを示し、さらに感染の可能性が高いか、感染が確認された場合に診断される:
・ 38.3℃(華氏101度)以上または36℃(華氏96.8度)未満の体温
・ 毎分90回以上の心拍数
・ 毎分20回以上の呼吸数
重症敗血症は、患者が、臓器が機能不全に陥っている可能性を示す以下の徴候および症状の少なくとも1つを示した場合に診断される:
・ 尿量の著しい減少
・ 精神状態の急激な変化
・ 血小板数の減少(血小板減少症)
・ 呼吸困難
・ 心臓のポンプ機能異常
・ 腹痛
敗血症性ショックは、重症敗血症の症状に加えて、患者が極度の低血圧を示し、単純な補液に十分反応しない場合に診断される。
次に、本発明を具体的な実施例を参照して説明する。これらは単に例示的なものであり、説明のみを目的とするものである。これらは、特許請求の範囲または記載された発明の範囲をいかなる意味においても制限するものではない。これらの実施例は、本発明を実施するために現在考えられている最良の態様を構成するものである。
(実施例1)
(方法論)
(細胞およびウイルスの培養条件)
ヒト大腸細胞株(Caco-2)を、10%ウシ胎児血清、1%ペニシリンおよびストレプトマイシンを補足したDMEM高グルコース培地で維持した。初期誘導(primary derived)ヒト大動脈内皮細胞(HAoEC)を、10,000単位/mLのペニシリンおよび100mg/mLのストレプトマイシンを補足したEndothelial Cell Media MV(PromoCell)で維持した。細胞を10ダイン/cmの剪断血行力学的力にさらして、血管ストレスの生理的条件を模倣した。特段の記載がない限り、この研究の期間全体を通して、SARS-CoV-2(N. Fletcher(University College Dublin、アイルランド)から寄贈)を2.5の感染多重度(MOI)で使用した。
(パラニトロフェニルリン酸結合アッセイ)
SARS-CoV-2とCaco-2およびHAoECの相互作用を、蛍光基質パラニトロフェニルホスフェート(pNPP)を用いた結合アッセイで評価した。不活化ウイルスのアリコートを96ウェルプレートに37℃で2時間にわたって固定化し、その後1%ウシ血清アルブミン(BSA)でブロッキングした。37℃において2時間にわたって、MOI=8でHAoECを播種した。処理した細胞に、αVβ3アンタゴニスト、シレンジタイド(H. Kessler(Technical University of Munchen、ドイツ)から寄贈)を、0.05μM、0.005μM、および0.0005μMで1時間にわたって投与した。細胞を固定化SARS-CoV-2上に加え、2時間にわたって接着させた。細胞内アルカリホスファターゼの基質となる蛍光マーカーであるパラニトロフェニルホスフェートを含む溶解緩衝液(0.1MのNaOAc、15mMのpNPP、0.1%のトリトンX-100、pH=5.5)を加えた。反応を1MのNaOHで停止し、自動プレートリーダー(Victor, Perkins-Elmer)を用い、405nmにおいて、pNPP活性を読み取った。細胞溶解後、得られた蛍光シグナルを405nmの吸光度から測定した。結合率(%)は、薬物無添加の対照に対する相対値で分析した。
(トランスウェル透過性アッセイ)
Caco-2または剪断HAoECの内皮バリア傷害を、トランスウェル透過性アッセイを用いて評価した。トップチャンバーに播種した処理細胞に0.0005μMのシレンジタイドを1時間にわたって投与し、24時間にわたるSARS-CoV-2感染後、フルオレセインイソチオシアネート-デキストラン(250ug/mL、40kDa、Sigma-Aldrich)を内皮細胞に添加した。透過性は、下部チャンバーに通過したFITC-デキストランの濃度を定量することによって評価した。励起波長490nm、および発光波長520nmにおいて、蛍光強度を測定した。
(免疫蛍光顕微鏡検査)
剪断HAoEC上のVE-カドヘリン(血管内皮カドヘリン)発現を、免疫蛍光顕微鏡で測定した。剪断HAoECをスライドグラスに固定し、24時間にわたってSARS-CoV-2に感染させた。その後、AlexaFluor 488(SantaCruz Biotechnology)を結合(conjugated)させた抗VE-カドヘリンマウスモノクローナルIgG1抗体、ならびに、蛍光マウンティング培地(Invitrogen)中の4,6-ジアミノ-2-フェニルインドールを用いて、細胞を染色した。処理した細胞を、1時間にわたって0.0005μMのシレンジタイドに暴露した。AxioObserver Z1顕微鏡(Zeiss)を用いて画像を取得した。VE-カドヘリンの濃度は、ImageJソフトウェア(米国国立衛生研究所)を用いて、バックグラウンドから差し引いた細胞の蛍光強度を測定することにより計算した。
(蛍光ベースのタンパク質相互作用アッセイ)
SARS-CoV-2スパイクタンパク質と内皮αVβ3との相互作用を、蛍光ベースのタンパク質アッセイを用いて定量した。プレートに、37℃で2時間にわたって、30μg/mLの組替ヒト新型(Novel)コロナウイルススパイクタンパク質(Cusabio社製)を塗被した。プレートをPBSで3回洗浄し、37℃で2時間にわたって1%BSAでブロックした。プレートを前述のように洗浄し、50μg/mLの組換ヒトインテグリンαVβ3タンパク質を37℃で2時間にわたって添加した。洗浄後、プレートを、試薬希釈液で1:100に希釈したAlexaFluor 488結合-抗インテグリンαVβ3クローンLM609とともにインキュベートした。1時間後、自動プレートリーダーを用いて、450nmにおいて、LM609の活性を測定した。
(インテグリン・スパイク蛋白質の構造モデリング)
SARS-CoV-2スパイクタンパク質およびインテグリンαVβ3とRGDリガンドとの複合体の構造を、RCSB Protein Data Bankから入手した(それぞれPDB ID: 6VXXおよび1L5G)。SARS-CoV-2スパイクタンパク質のRGDモチーフを、αVβ3と複合体化したRGDリガンドの配列に整列させ、相互作用のシミュレーションモデルを作成した。すべてのαVβ3-スパイクタンパク質の構造および図は、Molecular Operating Environment (MOE)およびPyMolを用いて可視化し、作成した。
(統計分析)
データは(平均値)±(平均値の標準誤差)で示した。実験は、最低3回の独立した実験を行い、3重化して実施した。グループ間の統計誤差は、Dunnettのpost hoc検定またはt検定による分散分析(ANOVA)で評価した。P値<0.05を有意とみなした。
(結果と考察)
内皮は微生物による攻撃の最前線にあり、単層膜の完全性を確保すると同時に、ストレスに対する活発な反応を維持するという重要な役割を担っている。病原体による傷害に応じて、繊細な内皮のバランスが崩れ、血管系の調節不全に傾く。この引き金となる反応は、重篤な感染症に罹患すると中断されることなく過剰になり、敗血症を引き起こすおそれがある。SARS-CoV-2感染における上皮障害および内皮障害と、SARS-CoV-2感染における内皮の関与との相関は、いまだ不明である。しかし、COVID-19患者では、乳酸脱水素酵素の上昇、D-ダイマー、サイトカインストームのような敗血症に類似した症状が頻繁にみられることから、敗血症が共通の転帰であることがわかる。さらに、COVID-19非生存者の100%が敗血症を発症し、全身性炎症、微小血栓症、急性心血管系合併症、重篤な臓器機能障害を経験する。
(ヒト上皮細胞を介した細胞外輸送は、SARS-CoV-2の細胞外マトリックスへの侵入を促進する)
病理組織学的データから、SARS-CoV-2がヒトの上皮細胞を積極的に標的とし感染し、重篤な細胞障害作用を引き起こすことが確認された。COVID-19患者の肺で一般的に経験されるこれらの主要な症状は、びまん性肺胞損傷、気管気管支炎、そして興味深いことに血管損傷を含む。本発明者らは、SARS-CoV-2が上皮層と間質腔の下にある内皮に侵入できるかどうかを調べた。イン・ビトロにおいてウイルスによるアポトーシスおよびサイトカインの発現上昇は一貫して報告されているが、おそらくSARS-CoV-2が上皮を通過する別のルートが存在するのであろう。腫瘍壊死因子(TNF)の高発現はCOVID-19患者で広く報告されており、この炎症性サイトカインの増加は腸管上皮バリア透過性を増大する。デングウイルスやヒト免疫不全ウイルス(HIV)などの他のウイルス感染でみられるのと同様に、このような細胞間結合の破綻は、ウイルス侵入のための副細胞機構を促進する。
本発明者らは、SARS-CoV-2が上皮細胞と強く結合し(図1(A))、その係合は、感染後48時間以上にわたって著しく増大する、上皮のバリア形成の喪失をもたらすことを証明した(図1(B))。この横断は、間質腔へのウイルスの播種を促進し、ウイルスの循環系への侵入を促進し、全身の主要臓器に至るメカニズムを提供する。
(SARS-CoV-2と内皮αVβ3との複合体のイン・シリコ解析は、新たな結合ポケットの可能性を明らかにする)
蓄積されたデータは、SARS-CoV-2の感染性と感染力の増強はスパイクタンパク質の変異に起因していることを示唆する。配列解析は、すべてのコロナウイルスの先祖には見られなかった新規変異が明らかにする(図2(A)、(B))。K403Rの点変異により、広く認識されているインテグリン認識モチーフ、アルギニン-グリシン-アスパラギン酸(RGD)がスパイクタンパク質に導入された。この領域は、主要なヒト内皮インテグリンであるαVβ3と高い親和性で結合する。驚くべきことに、この進化的モチーフはACE2結合部位の近傍に存在するが、ACE2結合部位内には存在しない。したがって、スパイクタンパク質は、ACE2と並行して、第2のヒト・レセプターを利用する可能性がある。このことは、宿主組織により確実な接着をもたらすだけでなく、両方のレセプターを同時に発現する細胞間でのSARS-CoV-2の拡散を容易にするであろう。
SARS-CoV-2とαVβ3との構造的相互作用を理解するために、本発明者らは理論的複合体のイン・シリコ分子シミュレーションを構築した。スパイクタンパク質-ACE2複合体を、RCSB Protein Data Bankから入手したαVβ3-RGD複合体と比較した。最初に、本発明者らは、αVβ3とその天然のリガンドであるRGDモチーフとの相互作用を調べた(図3(A))。続いて、本発明者らは、SARS-CoV-2のスパイクタンパク質内に新規RGD部位を発見し(図3(B))、スパイクタンパク質のRGD部位をαVβ3構造にドッキングして整列させることにより、統合型ウイルス-宿主複合体を作製した(図3(C))。興味深いことには、スパイクタンパク質内のRGDモチーフは、αVβ3のリガンド結合ポケットと完全に整列しており、この相互作用が感染中に起こる可能性が示唆された。次に本発明者らは、SARS-CoV K390とSARS-CoV-2 R403の対照的な生化学的性質を調べた。リジンおよびアルギニンはともに、水素結合および静電結合を介してリガンドと受容体との接触を維持するのに重要な役割を果たすため、タンパク質表面に頻繁に現れる。SARS-CoVおよびSARS-CoV-2のスパイクタンパク質では、関心のある領域内の柔軟なグリシン残基および嵩高いアスパラギン酸残基が共有されている(図2)。しかし、単独のアミン基を維持するリジンとは対照的に、アルギニンのグアニジニウム基は、3つの非対称アミンにより、αVβ3とより大きな相互作用をもたらす。この結果、SARS-CoV-2とαVβ3との間の静電的接触点が増加し、スパイクタンパク質が受容体に接近する。さらに、アルギニンの高いpKaは、グアニジニウムのπ結合を介した正電荷の非局在化により、より安定なイオン結合を提供し、より多くの共鳴形態をもたらす。したがって、SARS-CoVのリジン残基と比較すると、部位403のアルギニンへの置換は、αVβ3相互作用にとってより好ましいと考えられる。
(SARS-CoV-2は、進化的RGD変異によりヒト血管内皮細胞と相互作用する)
ACE2は宿主の付着、侵入、浸潤に関与する唯一の受容体として同定されたが、SARS-CoV-2は依然としてACE2陰性の結腸腸管細胞および肝細胞を標的とすることが可能である。COVID-19患者では急性肝障害が顕著であるため、これは特に重要である。ACE2のRNA発現は、肺胞上皮および消化管内で高レベルであることを示している。対照的に、インテグリンαVβ3は、消化器系、呼吸器系、泌尿器系を含む間葉系由来のほぼ全ての組織および細胞における細胞膜発現および表面膜発現を維持している.さらに、αVβ3はACE2よりも肺胞や血管内皮で高い発現パターンを示す。この発見は、SARS-CoV-2が第2の宿主受容体を獲得することにより、大きな利益を得たことを示している。それぞれ主要な上皮および内皮受容体であるACE2およびαVβ3の両方に結合することは、SARS-CoV-2がその組織感染範囲を拡大したことを説明しうる。本発明者らは、精製しタグ付けしたスパイクタンパク質とヒト内皮αVβ3との相互作用を調べることによってこの問題を検討し、SARS-CoV-2スパイクタンパク質がαVβ3と強く結合することを見出した(図4(A))。さらに、エクス・ビボ感染モデルでは、SARS-CoV-2は活性化マーカーであるTNF-αの存在下でヒト血管内皮細胞に接着することが示された。驚くべき発見は、スパイクタンパク質とαVβ3との相互作用が、特異的αVβ3アンタゴニストであるシレンジタイド(Arg-Gly-Asp残基からなるトリペプチドである)によって、用量依存的に阻害されることであった(図4(B))。このαVβ3アンタゴニスト分子は、αVβ3に高い親和性で結合し、0.0005μMで使用するとウイルスと内皮との相互作用を消失させることができた。
(SARS-CoV-2による血管透過性ならびに細胞間結合の破壊は、宿主のαVβ3受容体を阻害することで防止できる)
COVID-19の主な症状発現は内皮バリアの完全性の喪失であり、これは血管漏出、組織水腫、低酸素症を促進し、またすべての主要臓器へのウイルスの播種を促進し、多臓器不全、最終的には死に至る。血管内皮カドヘリン(VE-cadherin)は重要なタイトジャンクションタンパク質で、無傷の内皮層の維持に重要な役割を果たす。ヒト内皮細胞にSARS-CoV-2を添加すると、内皮細胞の透過性が著しく増加し、バリアジャンクションの破綻を示唆した(図5A)。内皮の形態の変化は、細胞間結合の破壊および単層全体としての接触の喪失を伴うと考えられるので、これは重要な発見であった。これを調べるため、本発明者らは定量的免疫蛍光法を用いてVE-カドヘリンの消失を測定した。未感染のヒト内皮細胞はタイトバリア形成を維持していた。しかし、SARS-CoV-2に感染すると、ヒト内皮細胞上のVE-カドヘリン表面発現は有意に減少し、感染後の細胞-細胞間の剥離およびバリアの完全性の喪失を示唆した(図5B、図5C)。これは、SARS-CoV-2スパイクタンパク質に代表されるRGD含有リガンドによるβ3サブユニットが活性化されたためと考えられる。以前の研究では、β3の関与がVE-カドヘリンの内在化をもたらし、血管漏出を増加させることが示された。顕著な観察は、シレンジタイドが内皮αVβ3へのウイルス接着を阻害し、感染時のVE-カドヘリンの減少を防いだことであった。また、バリア透過性の発生を制限し、VE-カドヘリンレベルを感染していないレベルに戻した(図5B、図5C)。
結論として、上皮に対するSARS-CoV-2の結合は、透過性の著しい変化を引き起こすことによって、傍細胞侵入経路を形成する。この破壊の後、ウイルスは間質腔を通過し、血管内皮の上皮に発現したαVβ3に付着する。この相互作用は、αVβ3との結合を促進するスパイクタンパク質内の進化的K403Rモチーフによるものと思われる。この突然変異誘発によって、COVID-19の病態における血管内皮の役割の謎が解明される可能性がある。さらに、重要な観察は、Clustal 5およびVUI 202012/01変異体を含むすべての主要なSARS-CoV-2変異体において、RGD部位が保存されていることであり、これらのコロナウイルスがαVβ3に固定する能力を維持していることを示唆する。これは、RGDモチーフを欠くすべてのコロナウイルスの先祖とは対照的である。本発明者らの研究で明らかになったことは、αVβ3アンタゴニストであるシレンジタイドの添加が、宿主への付着およびバリアー完全性の破壊の両方を有意に阻止するということである。
(実施例2)
(材料と方法)
(細胞およびウイルスの培養条件)
ヒト大腸細胞株(Caco-2; ATCC(登録商標)HTB-37)を、10%ウシ胎児血清、1%ペニシリン、ストレプトマイシンを補足したDMEM高グルコース培地で維持した。初期誘導(primary derived)ヒト大動脈内皮細胞(HAoEC; Promocell C-12271)を、10,000単位/mLペニシリンと100mg/mLストレプトマイシンを補足したEndothelial Cell Media MV(PromoCell)で維持した。HAoECを10ダイン/cmの剪断血行力学的力にさらして、血管ストレスの生理的条件を模倣した。ヒト2019-nCoV株2019-nCoV/Italy-INMI1を、European Virus Archive Global(参照番号:008V-03893)から入手し、この研究の期間中、0.4の感染多重度(MOI、および1.08×10 TCID50/mLのウイルス力価で使用した。
(パラニトロフェニルリン酸感染モデル)
SARS-CoV-2とCaco-2およびHAoECの相互作用を、蛍光基質パラニトロフェニルホスフェート(pNPP)を用いた結合アッセイ法で評価した。不活化ウイルスのアリコートを96ウェルプレートに37℃で2時間にわたって固定化し、続いて1%ウシ血清アルブミン(BSA)でブロッキングした。細胞を37℃で2時間にわたって播種した。処理した細胞にαVβ3アンタゴニストであるシレンジタイド(H. Kessler(Technical University of Munchen、ドイツ)から寄贈)を、0.05μM、0.005μM、0.0005μMで1時間にわたって投与した。細胞には、同様の条件で、GLPG0187(MedChemExpress)またはSB-273005(SelleckChem)も投与した。細胞を固定化SARS-CoV-2上に加え、2時間にわたって接着させた。細胞内アルカリホスファターゼの基質として働く蛍光マーカーのパラニトロフェニルホスフェートを含む溶解緩衝液(0.1MのNaOAc、15mMのpNPP、0.1%のトリトンX-100、pH=5.5)を加えた。反応を1MのNaOHで停止し、自動プレートリーダー(Victor, Perkins-Elmer)を用い、405nmにおいて、pNPP活性を読み取った。細胞溶解後、得られた蛍光シグナルを405nmの吸光度から測定した。結合率(%)は、未処理細胞に対する相対値で分析した。
(免疫蛍光顕微鏡検査)
剪断HAoEC上のVE-カドヘリン(血管内皮カドヘリン)発現を、免疫蛍光顕微鏡で測定した。剪断HAoECをスライドグラスに固定し、SARS-CoV-2感染を24時間にわたって行った。細胞はその後、蛍光マウンティング培地(Invitrogen)中で、AlexaFluor 488 (1:100, F-8 sc-9989, SantaCruz Biotechnology)および4,6-ジアミジノ-2-フェニルインドールを結合させた抗VE-カドヘリンマウスモノクローナルIgG1抗体で染色した。処理された細胞を、0.0005μMのシレンジタイドに1時間にわたって暴露した。内在化VE-カドヘリンを測定するため、抗体インキュベーション後、細胞を短時間酸洗浄した(25mMのグリシン、3%のBSA、pH=2.7)。その後、細胞を4%のホルムアルデヒドで固定し、透過処理した後、DAPIでコートしたスライドグラスに載せて処理した。AxioObserver Z1顕微鏡(Zeiss)を用いて画像を取得した。VE-カドヘリンの濃度は、ImageJソフトウェア(米国国立衛生研究所)を用いて、バックグラウンドから差し引いた細胞の蛍光強度を測定することにより計算した。
(SDS-PAGEとウェスタンブロット)
エクス・ビボ感染アッセイ後、内皮細胞をRIPA緩衝液で溶解し、使用するまで-20℃で保存した。サンプルを、10%SDS-PAGEゲル上で分離した。この後、タンパク質をニトロセルロース膜に移し、5%脱脂乳で1時間にわたってブロッキングした。抗VEカドヘリン一次抗体(Clone: F-8, Cat. No: sc-9989, 1:200, SantaCruz)および抗GAPDH一次抗体(6000-4-1 mouse mAB, 1:2000, ProteinTech)を用いて、終夜にわたって4℃で膜をプローブした。翌日、抗マウスIgG二次抗体(sc525405, 1:5000, SantaCruz)を用いた。化学発光を用いてタンパク質を検出した。
(蛍光ベースのタンパク質相互作用アッセイ)
SARS-CoV-2スパイクタンパク質と内皮αVβ3との相互作用と、蛍光ベースのタンパク質アッセイを用いて定量した。プレートに25ngの組替えインテグリンαVβ3(Cat.No. 3050-AV-050, BioTechne)を、終夜にわたって4℃で被覆した。プレートをPBSで3回洗浄し、1%BSAを用いて37℃で2時間にわたってブロックした。プレートは記載の方法で洗浄した。抗-β3モノクローナル抗体(Clone:B-7, Cat.No:SC-46655, SantaCruz)および抗-αVβ3モノクローナル抗体(Clone: MAB1976, Sigma)を試薬希釈剤中に添加し(5μg/mL)、室温で1時間にたたって、スパイクタンパク質-インテグリン認識中のインテグリンサブユニットの直接的関与を試験した。この後、組換えスパイクタンパク質(Cat.No.:CSB-MP3324GMYSP, Cusabio)を、室温において50nMで1時間にわたって添加した。AlexaFluor 405に結合させた抗スパイクタンパク質(Clone: 1035206, BioTechne)を、1:100で、暗所で1時間にわたって添加した。サンプルは、自動プレートリーダーを用いて、405nmの吸光度を読み取った。
(分子モデリング)
SARS-CoV-2スパイクタンパク質(Delta V.O.C.)および野生型の低温電子顕微鏡立体(Cryo-EM 3D)構造を、RCSB Protein Data Bank(PDB ID:7V8Aおよび7KNB)から入手した。野生型スパイクタンパク質はMOEのProtein Builderツールを用いて置換変異誘発を行い、SARS-CoV-2オミクロンV.O.C.のモデルを作成した。FASTA配列をNCBIから取得し、ClustalOmega多重配列整列ツールを用いて整列させた。MOEのAMBER10:EHT力場を用いて複合体のエネルギー最小化を行い、分子内相互作用を決定し、ドッキング前後のモデリングバイアスを除去した。SCWRLアルゴリズムおよびAMBER2力場を用い、Yasaraの分子動力学シミュレーション機能によって結合親和性を得た。すべての構造および図は、Molecular Operating Environment (MOE)およびPyMolを用いて可視化し、作成した。
(結果と考察)
(SARS-CoV-2のヒト大腸上皮細胞への結合に対するシレンジタイドの効果)
図7に示すように、イン・ビトロ感染モデルにおいて、シレンジタイド(0.005μMおよび0.05μM)は、ヒト大腸上皮細胞へのSARS-CoV-2の結合を効果的に減少させた。
(シレンジタイドはSARS-CoV-2のスパイクタンパク質とαVβ3の結合を阻害する)
本発明者らは、αVβ3抗体およびβ3抗体の両方が、αVβ3に対するスパイクタンパク質の結合を阻害することを示し、受容体間の有意な相互作用を明らかにした。シレンジタイドは、0.0005μMで組換えスパイクタンパク質とαVβ3との結合を阻害する。これは図8に示されている。
(阻害剤GLPG0187およびSB273005、ならびにシレンジタイド存在下でのSARS-CoV-2のヒト血管内皮細胞への接着)
その結果、αVβ3インテグリン阻害剤GLPG0187およびSB273005は、ある濃度範囲(5mM、0.05mM、0.005mM)においてヒト血管内皮細胞へのウイルス(SARS-CoV-2)の付着を阻害できなかった。これらの結果を図9に示す。
この所見とは対照的に、シレンジタイドは、ある濃度範囲(0.05mM、0.005mM、0.0005mM)でヒト血管内皮細胞へのウイルス(SARS-CoV-2)の付着を用量依存的に阻害した。
これらのデータから、ヒト血管内皮細胞へのウイルス付着の阻止において、他のインテグリンアンタゴニストと比較して、シレンジタイドが予期せぬ有益な異なる挙動を示すことが示唆される。
(シレンジタイドはSARS-CoV-2感染後のVE-カドヘリンの内在化を阻止する)
SARS-CoV-2感染後、血管内皮は深刻な単層機能不全に陥り、VE-カドヘリンが細胞外から細胞内へと移動することが確認された。イン・ビトロ感染モデルにおいて、シレンジタイドの存在下でVE-カドヘリンの内在化は阻止された(0.0005μM)。VE-カドヘリン総量は健常細胞、感染細胞、および処理細胞のいずれにおいても不変に維持されており、VE-カドヘリンの移動パターンが明らかになった(図10)。
(イン・シリコ・モデリング)
懸念されるα-、β-、γ-、δ-、およびο-スパイクタンパク質のSARS-CoV-2変異体を整列させて、403-405のRGD部位の保存を示した(図11)。ο-スパイクタンパク質とδ-スパイクタンパク質のイン・シリコモデリングから、ο-スパイクタンパク質のRGDモチーフは、δ-スパイクタンパク質よりも溶媒に向かう外方へと延在していることが明らかになった。
(等価物)
前述の説明は、本発明の現在好ましい実施形態を詳細に説明するものである。これらの説明を考慮することにより、当業者には、その実施における多数の修正および変形が生じることが予想される。それらの修正および変形は、本明細書に添付の特許請求の範囲に包含されることが意図される。

Claims (16)

  1. 対象者のコロナウイルス感染の治療方法または予防方法における使用のためのシレンジタイドまたはその機能的変異体であって、前記機能的変異体はRGD配列を含むことを特徴とする、シレンジタイドまたはその機能的変異体。
  2. コロナウイルスが、スパイクタンパク質のレセプター結合領域にRGD領域を含むものであることを特徴とする、請求項1に記載の使用のためのシレンジタイドまたはその機能的変異体。
  3. コロナウイルスがSARS-CoV-2であり、対象者がCOVID-19に罹患していることを特徴とする、請求項1または2に記載の使用のためのシレンジタイドまたはその機能的変異体。
  4. 血管内皮細胞上のαVβ3インテグリンに結合することを特徴とする、請求項1から3のいずれかに記載の使用のためのシレンジタイドまたはその機能的変異体。
  5. 前記シレンジタイドまたはその機能的変異体が、10mg/m未満の用量で投与されることを特徴とする、請求項1から4のいずれかに記載の使用のためのシレンジタイドまたはその機能的変異体。
  6. 前記用量が1mg/m未満であることを特徴とする、請求項5に記載の使用のためのシレンジタイドまたはその機能的変異体。
  7. 感染に伴うバリア機能の喪失の早期治療または予防のための、請求項1から6のいずれかに記載の使用のためのシレンジタイドまたはその機能的変異体。
  8. コロナウイルス感染に関連する心血管機能障害または影響の治療または予防における使用のためのシレンジタイドまたはその機能的変異体であって、前記機能的変異体がRGD配列を含むことを特徴とする、シレンジタイドまたはその機能的変異体。
  9. シレンジタイドまたはその機能的変異体、および任意選択的に少なくとも1つの薬学的に許容される担体または賦形剤を含む組成物として製剤化されることを特徴とする、請求項1から8のいずれかに記載の使用のためのシレンジタイドまたはその機能的変異体。
  10. 組成物が肺送達または静脈内送達のために処方されていることを特徴とする、請求項9に記載の使用のためのシレンジタイドまたはその機能的変異体。
  11. 組成物が経口送達のために処方されていることを特徴とする、請求項9に記載の使用のためのシレンジタイドまたはその機能的変異体。
  12. 前記シレンジタイドまたはその機能的変異体が、呼吸器疾患もしくは肺疾患またはその症状の治療に適した1つまたは複数の追加の薬剤とともに投与されることを特徴とする、請求項1から11のいずれかに記載の使用のためのシレンジタイドまたはその機能的変異体。
  13. 対象者のコロナウイルス感染を治療または予防する方法であって、対象者に対して、シレンジタイドまたはその機能的変異体を投与することを含み、前記機能的変異体はRGD配列を含むことを特徴とする、方法。
  14. 対象者のコロナウイルス感染に関連するバリア機能喪失を治療または予防する方法であって、対象者に対して、シレンジタイドまたはその機能的変異体を投与することを含み、前記機能的変異体はRGD配列を含むことを特徴とする、方法。
  15. 対象者のコロナウイルス感染に関連する心血管機能障害または効果を治療または予防する方法であって、対象者に対して、シレンジタイドまたはその機能的変異体を投与することを含み、前記機能的変異体はRGD配列を含むことを特徴とする、方法。
  16. コロナウイルスがSARS-CoV-2であり、対象者がCOVID-19に罹患している、請求項13から15のいずれかに記載の方法。
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