JP2024126327A - ボンド磁石、ボンド磁石製造方法、及びボンド磁石のリサイクル方法 - Google Patents

ボンド磁石、ボンド磁石製造方法、及びボンド磁石のリサイクル方法 Download PDF

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Abstract

【課題】特定の使用条件で使用しても崩壊することがないCNFボンド磁石を提供する。【解決手段】ボンド磁石10は、磁石粉末111と該磁石粉末111の粒子同士を結合するセルロースナノファイバから成るバインダ112とから成るボンド磁石本体11と、ボンド磁石本体11の表面を被覆する、液体の水を透過させない材料から成る遮水被膜12と備える。このボンド磁石10は、水に浸漬した状態を一定期間維持したまま使用するという使用条件においても崩壊することを防ぐことができる。さらに、遮水被膜12に水を通過させる水通過経路31を形成する水通過経路形成工程と、水通過経路31が形成されたボンド磁石11を水に浸漬する水浸漬工程とを有するリサイクル方法により、バインダ112が水を吸収して膨潤し、ボンド磁石本体11が崩壊する結果、磁石粉末111及びバインダを112を回収して再利用することもできる。【選択図】図1

Description

本発明はボンド磁石に関する。
ボンド磁石は、磁性粉末をバインダと混合して固めたものであって、磁性粉末を焼結した焼結磁石よりも、複雑な形状のものを容易に作製することができること、作製時に高温(焼結磁石では1000℃前後)に加熱する必要がないこと、割れや欠けが生じ難いこと等の特長を有する。
従来のボンド磁石では多くの場合、フェノール樹脂やエポキシ樹脂等の樹脂がバインダとして用いられている。しかし、例えば自動車用モータでは使用時に150~180℃という温度に達するのに対して、フェノール樹脂やエポキシ樹脂等をバインダとしたボンド磁石はこのような温度での耐熱性を有しないため、自動車用モータの磁石として使用することはできない。また、ポリフェニレンサルファイド(PPS)樹脂をバインダとして用いたボンド磁石は、自動車用モータに使用できる程度の比較的高い耐熱性を有するが、作製時にPPS樹脂を加熱溶融させることで有毒ガスが発生してしまう、という欠点を有する。
特許文献1には、セルロースの繊維から成るセルロースナノファイバ(Cellulose Nano Fiber:CNF)をバインダとして用いたボンド磁石(以下、「CNFボンド磁石」と呼ぶ)が記載されている。CNFボンド磁石は、温度を180℃まで上昇させてもバインダであるCNFが溶融することがなく、自動車用モータの使用時の温度域で耐熱性を有する。また、CNFボンド磁石は、CNFと水と磁石粉末を所定範囲内の比で混合したうえで所定の形状に成形した後に水を蒸発させることで作製することができ、作製時に有毒ガスが発生しない。
特開2020-113634号公報
しかしながら、特許文献1に記載のCNFボンド磁石は、特定の使用条件、使用中に崩壊してしまうことがある。本発明が解決しようとする課題は、特定の使用条件で使用しても崩壊することがないCNFボンド磁石を提供することである。
上記課題を解決するために成された本発明に係るボンド磁石は、
磁石粉末と、該磁石粉末の粒子同士を結合するセルロースナノファイバから成るバインダとから成るボンド磁石本体と、
前記ボンド磁石本体の表面を被覆する、液体の水を透過させない材料から成る遮水被膜と
を備える。
本発明者は、特許文献1に記載のCNFボンド磁石の耐水性に着目した。このCNFボンド磁石は、大気中で使用する場合や、液体の水に多少接触する程度の環境で使用する場合には崩壊することはほとんどない。例えば、自動車のエンジンを冷却する冷却水を循環させるためのモータや、電気自動車やハイブリッド自動車の走行用のモータに用いられるモータは、水に多少接触することはあるものの、このCNFボンド磁石を使用することは可能である。しかし、このCNFボンド磁石は、水に浸漬した状態を一定期間維持したまま使用すると、その使用の間にCNFバインダがその水を吸収することで膨潤して磁石粉末の粒子同士を結合した状態を維持することができなくなり、やがて崩壊してしまう。
そこで、本発明に係るボンド磁石(CNFボンド磁石)では、磁石粉末と、CNFで構成されるバインダ(CNFバインダ)から成るボンド磁石本体の表面に、水を透過させない材料から成る遮水被膜を設けることにより、液体の水がボンド磁石本体内に浸入することを防ぐ。これにより、本発明に係るCNFボンド磁石は、水に一定期間浸漬されるような過酷な環境で使用しても崩壊することを防ぐことができる。
遮水被膜の材料は、液体の水を透過させないものであれば特に限定されない。例えば、種々のガラス状の材料を用いることができる。ガラス状の材料の一例として、シリコーンレジンが挙げられる。シリコーンレジンは、シロキサン結合を主骨格とするメチル系またはメチル/フェニル系の材料であって、遮水性のみならず、撥水性や耐熱性が高く、さらには硬度も高いという特長を有する。シリコーンレジンの他にフェノールレジン、メラミンレジン、ユリアレジン、塩化ビニルレジン、ポリエチレンレジン、ポリプロピレンレジン、ポリオレフィンレジン等を遮水被膜の材料に用いてもよい。
遮水被膜は、薄すぎると十分な遮水性を得ることができない。一方、厚すぎると、ボンド磁石本体の磁石粉末及びCNFをリサイクルする(後述)際の障害となる。例えばシリコーンレジンから成る遮水被膜の厚さは、0.2~5μmの範囲内とすることが好ましい。
本発明では、CNFには、植物由来のセルロースを原料としたCNFの他に、植物由来のセルロースがカルボキシメチル化したCNFや、キチンを原料料としたキチンナノファイバー、キトサンを原料としたキトサンナノファイバーや、シルクを原料としたシルクナノファイバーも含めるものとする。
磁石粉末の材料は特に問わず、例えば、希土類元素("R"とする)、鉄(Fe)及び硼素(B)を主な構成元素とするRFeB系磁石(特に、Rとして主にネオジム(Nd)を有するNdFeB系磁石)の粉末、サマリウム(Sm)、鉄及び窒素(N)を主な構成元素とするSmFeN系磁石の粉末、サマリウム及びコバルト(Co)を主な構成元素とするSmCo系磁石の粉末等を用いることができる。特に、本発明に係るCNFボンド磁石が後述のように水とCNFと磁石粉末を混合した状態で水を蒸発させるという工程を経て製造されることから、水に対する耐食性が高いSmFeN系磁石の粉末を用いることが好ましい。
本発明に係るCNFボンド磁石は、
磁石粉末と、該磁石粉末の粒子同士を結合するセルロースナノファイバから成るバインダとから成るボンド磁石本体を作製するボンド磁石本体作製工程と、
前記ボンド磁石本体の表面に、水を透過させない材料から成る遮水被膜を形成する遮水被膜形成工程と
により製造することができる。
ここでボンド磁石本体作製工程には、特許文献1に記載の方法を用いることができる。具体的には、水とセルロースナノファイバと磁石粉末を混合することによりボンド磁石材料を作製する。その後、該ボンド磁石材料を所定の形状に成形することにより成形体を作製したうえで該成形体から水を蒸発させるか、又は該ボンド磁石材料を所定の形状に成形しつつ水を蒸発させることにより、ボンド磁石本体を作製する。その際、ボンド磁石材料中の水の含有率は9~28質量%の範囲内とすることが好ましい。
遮水被膜の材料がシリコーンレジンである場合には、前記遮水被膜形成工程は、シリコーンレジンを溶媒に溶解させた溶液(塗布物)を前記ボンド磁石本体の表面に塗布し、その後、該塗布物から前記溶媒を蒸発させる、という工程とすることができる。ここで、溶媒にはエタノールを用い、前記塗布物を80~200℃の範囲内の温度で加熱することにより、該エタノールを蒸発させると共にシリコーンレジンを熱分解してガラス質化することが好ましい。また、溶媒の蒸発を促進するという点で、遮水被膜の材料や溶媒の種類に依らず、前記塗布物から溶媒を蒸発させる操作を行ってもよい。
塗布物中の遮水被膜の材料の濃度が低すぎると、磁石表面の磁石粒子同士が形成する凹凸の隙間(気孔)を十分に埋めることができないため、遮水被膜の形成(溶媒の乾燥)時に亀裂欠陥が多く発生(凹凸の隙間の上には遮水被膜を形成し難いため)し、耐環境試験を合格することが難しくなる。一方、該濃度が高すぎると、溶媒中に遮水被膜の材料を分散させ難くなると共に、磁石表面に塗布物を均一に塗布することも難しくなり、さらに後述のCNFボンド磁石のリサイクル方法を実施する際にボンド磁石を水に浸漬する時間を長くする必要が生じる。これらの理由により、塗布物中の遮水被膜の材料の濃度は3~30質量%の範囲内とすることが好ましい。
遮水被膜の無いCNFボンド磁石を一定期間水に浸漬すると崩壊するという性質を利用して、本発明に係るCNFボンド磁石を使用後に不要になったものや、製造時に不良品と判定されたものから、磁石粉末及びCNFをリサイクルすることができる。
すなわち、本発明に係るCNFボンド磁石のリサイクル方法は、
磁石粉末と、該磁石粉末の粒子同士を結合するセルロースナノファイバで構成されるバインダとから成るボンド磁石本体と、前記ボンド磁石本体の表面を被覆する、水を透過させない材料から成る遮水被膜とを備えるボンド磁石のリサイクル方法であって、
前記遮水被膜に液体の水を通過させる水通過経路を形成する水通過経路形成工程と、
前記水通過経路が形成された前記ボンド磁石を水に浸漬する水浸漬工程と
を有する。
水通過経路には、例えば遮水被膜にハンマー等で力を加えることで形成されるひびを用いることができる。ここで遮水被膜が厚すぎると力を加えてもひびを形成することが難しくなるため、この点を考慮して、予め、本発明に係るCNFボンド磁石における遮水被膜の厚さを設定しておくとよい。なお、製造時に遮水被膜に欠陥が形成された不良品をリサイクル処理する場合において、当該欠陥がボンド磁石本体まで達していれば、当該欠陥をそのまま水通過経路として用いることができる。そのような欠陥が存在する場合であっても、欠陥の数が少ない場合には、ハンマー等で力を加えてさらに欠陥を形成してもよい。
このような水通過経路が形成された状態でボンド磁石を水に浸漬することにより、水が該水通過経路を通過してボンド磁石本体の表面に到達し、さらにボンド磁石本体の内部に浸入する。これにより、CNFバインダが水を吸収することで膨潤し、磁石粉末の粒子同士を結合した状態を維持することができなくなり、ボンド磁石本体が崩壊する。崩壊したボンド磁石本体を構成していた磁石粉末及びその周りに付着している膨潤したCNFは、該ボンド磁石を浸漬した水の底に堆積し、それらを回収することができる。あるいは、水に所定時間浸漬した後に崩壊せずに形状が保たれている場合は、さらに力を加えることで遮水被膜を破壊することにより強制的に崩壊させ、磁石粉末及びCNFを回収することもできる。
なお、遮水被膜の材料によっては、例えば作製時に溶媒が蒸発する速度が速い場合等に、遮水被膜にわずかなひびが自然に生じることがある。このようなわずかなひびが遮水被膜に存在するCNFボンド磁石を水に浸漬しても、多くの場合、遮水被膜が水をほとんど浸透させないか、たとえ遮水被膜が浸透させたとしても一定時間はボンド磁石本体に影響を及ばすには至らない。このような遮水被膜を有するCNFボンド磁石も、本発明に係るCNFボンド磁石に含まれるものとする。例えば、JIS D0203-1994「自動車部品の耐湿および耐水試験方法」では、試験品の温度より50℃高い温度の水を用いて、試験品の上表面が水深100mmに位置するように試験品を水に浸漬した状態を10分間維持するという条件で特殊用途の防水部品の機能を調べる試験を行うが、このような条件下では、遮水被膜に自然にわずかなひびが生じていても、本発明に係るCNFボンド磁石が崩壊することは無い。
本発明によれば、水に浸漬した状態を一定期間維持したまま使用するという使用条件においても崩壊することを防ぐことができるCNFボンド磁石を得ることができる。
本発明に係るボンド磁石の一実施形態を示す断面図。 本発明に係るボンド磁石の製造方法の一実施形態を示す概略図。 本発明に係るボンド磁石のリサイクル法の一実施形態を示す概略図。
図1~図3を用いて、本発明に係るボンド磁石のCNFボンド磁石、その製造方法、及びそのリサイクル方法の実施形態を説明する。
(1) 本実施形態のCNFボンド磁石の構成
図1に、本実施形態のCNFボンド磁石10をその断面の模式図で示す。このCNFボンド磁石10は、磁石粉末111と、磁石粉末111の粒子同士を結合するCNFから成るバインダ(「CNFバインダ」と呼ぶ)112と、遮水被膜12とを備える。磁石粉末111とCNFバインダ112によりボンド磁石本体11が形成されている。
磁石粉末111には、RFeB系磁石の粉末、SmFeN系磁石の粉末、SmCo系磁石の粉末等を用いることができる。その中でSmFeN系磁石の粉末は、酸化し難く、且つFeよりも高価なCoを使用する必要がないという点で優れている。磁石粉末111の作製方法は、従来のボンド磁石を製造する際に用いられている方法と同じであるため、説明を省略する。
CNFバインダ112を構成するCNFには、市販のものを用いることができる。例えば、株式会社スギノマシンにより「BiNFi-s」(登録商標)との商品名で、CNFと水が混合した状態(「CNF-水混合物」と呼ぶ)で販売されており、後述のように磁石粉末111と混合したうえで水を蒸発させることによってCNFが磁石粉末111の粒子同士を結合した状態が形成される。
遮水被膜12は、ボンド磁石本体11の表面全体を覆うように設けられている。遮水被膜12の材料は、ボンド磁石本体11の表面との密着性が良い(該表面から剥がれ難い)シリコーンレジンを用いることが好ましい。シリコーンレジンには、例えば信越化学工業株式会社製「KR220L」等、市販のものを用いることができる。シリコーンレジン以外にも、フェノールレジン、メラミンレジン、ユリアレジン、塩化ビニルレジン、ポリエチレンレジン、ポリプロピレンレジン、ポリオレフィンレジン等の材料を好適に用いることができる。
遮水被膜12の厚さは、薄すぎると十分な遮水性を得ることができないが、厚すぎると、CNFボンド磁石10から磁石粉末111及びCNFをリサイクルする際に水通過経路を形成し難くなる。これらの点を勘案して、例えば遮水被膜12の材料にシリコーンレジンを用いる場合には、遮水被膜12の厚さは0.2~5μmの範囲内とすることが好ましい。
本実施形態のCNFボンド磁石10は、ボンド磁石本体11の表面に、水を透過させない材料から成る遮水被膜12が設けられているため、液体の水がボンド磁石本体内に浸入することを防ぎ、それによって、水に一定期間浸漬されるような過酷な環境で使用しても崩壊することを防ぐことができる。
(2) 本実施形態のCNFボンド磁石の製造方法
次に、図2を用いて、本発明に係るボンド磁石の製造方法の一実施形態として、遮水被膜12の材料にシリコーンレジンを用いたCNFボンド磁石10の製造方法を説明する。
まず、以下の方法により、磁石粉末111とCNFと水が混合したボンド磁石材料23を準備する。本実施形態では、CNF及び水には上述のように市販のCNF-水混合物21を用い、該CNF-水混合物21と磁石粉末111を混合する(図2(a))ことによりボンド磁石材料23を作製する(同(b))。
ここで、CNF-水混合物21中のCNFの含有率が小さすぎる(水の含有率が大きすぎる)と、以下に述べるようにボンド磁石材料23を成形した際に結着力が弱いため、金型から取り出す時に割れやひびが発生して成形体24(後述)の形状を維持することが困難になる。一方、CNFの含有率が大きすぎる(水の含有率が小さすぎる)と、成形後の成形体24が柔らか過ぎるため金型から上手く取り出せず、やはり形状を維持できない。また、以下に述べるようにボンド磁石材料23を成形した後に水を蒸発させる際に成形体24があまり収縮しないことから密度が高くならないため、製造されるCNFボンド磁石10の磁気特性が低下してしまう。以上の点より、CNF-水混合物21中のCNFの含有率は5~15質量%の範囲内とし、ボンド磁石材料23中の水の含有率は9~28質量%の範囲内とすることが好ましい。なお、ボンド磁石材料23中の水の含有率は、混合前の原料のCNF-水混合物21又は混合後のボンド磁石材料23から水を蒸発させたり、又は加水することによって適度に調整することができる。
次に、ボンド磁石材料23を成形する(図2(c))ことにより成形体24を作製する(同(d))。成形には、圧縮成形、押出し成形、射出成形等の手法を用いることができる。圧縮成形では、図2(c)に示すように、ボンド磁石材料23をプレス金型のダイス291に充填したうえで、プレス機(図示せず)を用いてパンチ292によってボンド磁石材料23に圧力を印加することにより、成形体24を作製する。
次に、得られた成形体24から水を蒸発させる(図2(e))ことにより、ボンド磁石本体11を得る(同(f)。以上、(a)~(f)がボンド磁石本体作製工程に該当。)。その際、成形体24を常温に維持したままにしてもよいし、成形体24を加熱してもよい。成形体24を加熱する場合には、温度を150℃以下とすることが好ましい。また、加熱の有無に依らず、成形体24は真空中(減圧下)又は不活性ガス中に置くことが好ましい。なお、ここではボンド磁石材料23を成形した後に成形体24から水を蒸発させたが、その代わりに、ボンド磁石材料23を成形しながら水を蒸発させることでボンド磁石本体11を得るようにしてもよい。
ここまでの操作と並行して、又はここまでの操作の前若しくは後に、シリコーンレジンとエタノールを混合することにより、液状の塗布物25を作製する。その際、シリコーンレジンの濃度が低すぎると、磁石表面の磁石粒子同士が形成する凹凸の隙間(気孔)を十分に埋めることが出来ないため、遮水被膜の形成(溶媒の乾燥)時に亀裂欠陥が多く発生し、耐環境試験で合格することが難しくなる。一方、シリコーンレジンの濃度が高すぎると、溶媒中にシリコーンレジンを分散させ難くなり、また磁石表面に付着物を均一に塗布して遮水被膜12を均一な膜厚で形成することも難しくなる。そのため、シリコーンレジンの濃度が3~30質量%の範囲内とすることが好ましい。シリコーンレジンを分散させる溶媒には、エタノールの代わりに、メタノールやアセトン等のシリコーンレジンが分散可能な他の溶媒を用いてもよい。また、シリコーンレジン以外の材料から成る遮水被膜12を形成する場合には、当該材料を液中に分散させるに適するとともに、後述のように塗布膜26から蒸発させることが可能な溶媒を適宜選択して使用する。例えば遮水被膜12の材料としてユリアレジンや塩化ビニルレジン等を用いる場合には、溶媒にはエタノールを好適に用いることができる。
次に、ボンド磁石本体11を塗布物25に浸漬し(図2(g))、その後塗布物25から取り出すことにより、ボンド磁石本体11の表面に塗布膜26を形成する(同(h))。この時点では、塗布膜26にはシリコーンレジンと共に溶媒であるエタノールが含まれている。ここで、ボンド磁石本体11を塗布物25に浸漬した状態(図2(g))で真空乾燥機内に収容して減圧することにより、ボンド磁石表面の欠陥内の空気を除去して該欠陥に塗布物を強制的に含侵させてもよい。あるいは、これらの操作の代わりに、刷毛等を用いてボンド磁石本体11の表面に塗布物25を塗布することによって塗布膜26を形成してもよい。
その後、塗布膜26からエタノール(又は他の溶媒)を蒸発させる(図2(i)。以上、(g)~(i)が遮水被膜形成工程に該当。)ことにより、本実施形態のCNFボンド磁石10が得られる。このエタノール(又は他の溶媒)を蒸発させる操作も、常温に維持したまま行ってもよい(エタノールの常圧での沸点は78.4℃であるが、常温でも徐々に蒸発する)し、加熱(例えば温度80~200℃の範囲内)に加熱して行ってもよい。加熱する場合には、シリコーンレジンをガラス質化するために150~200℃まで加熱することが好ましい。また、この操作は、真空中(減圧下)で行ってもよい。
(3) 本実施形態のCNFボンド磁石のリサイクル方法
次に、本発明に係るCNFボンド磁石から磁石粉末及びCNFをリサイクルする方法の一実施形態を説明する。
まず、リサイクルを行う対象となるCNFボンド磁石10にひび等の欠陥が少ない場合、力を加える等の方法により、遮水被膜12にひびを形成する。このひびが、液体の水を通過させる水通過経路31となる(図3(a)。水通過経路形成工程。)。なお、リサイクルを行う対象となるCNFボンド磁石10が遮水被膜12にひびを有する不良品である場合には、そのひびをそのまま(CNFボンド磁石10に力を加える等の処理を行うことなく)水通過経路31として使用してもよい。また、不良品ではないCNFボンド磁石10であって、水に浸漬しても一定時間はボンド磁石本体に影響を及ばすには至らない程度のわずかなひびが遮水被膜12に自然に形成されている場合にも、そのひびを水通過経路31として使用してもよい。
このように遮水被膜12に水通過経路31が形成されたCNFボンド磁石10を水32に浸漬する(図3(b)。水浸漬工程。)。これにより、水32が水通過経路31を通過してボンド磁石本体11の表面に到達し、さらにボンド磁石本体11の内部に浸入する。これにより、CNFバインダ112が水32を吸収することで膨潤し、磁石粉末111の粒子同士を結合した状態を維持することができなくなり、遮水被膜12内でボンド磁石本体11が崩壊する。ここで、上記のように水32がボンド磁石本体11の内部に浸入してボンド磁石本体11が崩壊するまでに或る程度の時間を要するため、その時間に応じて、CNFボンド磁石10を水32に浸漬する時間を適宜設定する。特に、水に浸漬しても一定時間はボンド磁石本体に影響を及ばすには至らない程度のわずかなひびを水通過経路31として用いる場合には、当該一定時間よりも十分に長い時間だけCNFボンド磁石10を水32に浸漬しておく必要がある。
遮水被膜12内で崩壊したボンド磁石本体11を形成していた磁石粉末111及びCNFバインダ112は、それらを通過させることができるほどに水通過経路31の径が大きければ、水通過経路31を通過して遮水被膜12外に流出し、水底に堆積するため回収することができる。磁石粉末111及びCNFバインダ112が遮水被膜12外に流出しない場合には、さらに力を加えて遮水被膜12を破壊することにより、磁石粉末111及びCNFバインダ112を取り出す。こうして取り出された磁石粉末111及びその周りに付着・膨潤したCNFバインダ112は、それら両者及び水32が混合した混合物33(図3(c))となっている。この混合物33はそのまま、又は加熱するか水を加えることで水の含有率を調整することにより、上記実施形態のCNFボンド磁石の製造方法におけるボンド磁石材料23として再利用(リサイクル)することができる。この後、図2(c)~(i)に示した上記各工程を行うことにより、新たなCNFボンド磁石10を得ることができる。
(4) 実施例
CNFボンド磁石を作製し、さらに当該CNFボンド磁石から磁石粉末及びCNFバインダをリサイクルして再度CNFボンド磁石を作製する実験を行った。以下ではその実験の結果を説明する。本実験では、4種類の実施例(実施例1~4)及び3種類の比較例(比較例1~3)を合わせて、7種類のCNFボンド磁石を作製した。3種類の比較例のうち比較例2及び3は、同じ作製条件で作製したが、後述のようにリサイクル試験を互いに異なる条件で行う。
まず、これら7種類のCNFボンド磁石に共通の条件を述べる。磁石粉末111には、Smを19.30質量%、Zr(ジルコニウム)を1.65質量%、Coを3.95質量%、Al(アルミニウム)を0.30質量%、Nを3.29質量%、それぞれ含有し、残部がFeであるSmFeN系磁石の粉末を用いた。この磁石粉末111は、N以外の各元素を上記の比で含有する合金を溶解させたうえで、単ロール超急冷装置のロール上に落下させることで急冷することによりリボン状フレーク粉を作製し、そのリボン状フレーク粉をピンミルで粉砕し、目開き150μmの篩で分級した後、Nを含有する分子を含むガス(この実験ではアンモニアと水素の混合ガス)中で加熱して窒化することにより得た。CNF-水混合物21は、株式会社スギノマシン「BiNFi-s」のうち、CNFの繊維長が短くCNFの含有率が10質量%であるFMa-10010を用いた。ボンド磁石材料23は、磁石粉末111とCNF-水混合物21中のCNFの存在比が質量比で10:3.2となるように両者を混合することにより作製した。このボンド磁石材料23を直径10mmのプレス金型内に充填して20tonf/cm2(約2GPa)の圧力で圧縮成形した後、真空乾燥機により温度120℃で1時間維持することにより水を蒸発させ、ボンド磁石本体11を作製した。
比較例2及び3では、遮水被膜12は形成せず、得られたボンド磁石本体11をそのまま完成品とした。
実施例1~4及び比較例1の5種類のCNFボンド磁石では、それぞれ後掲の表1に示す濃度でシリコーンレジンをエタノールと混合した液状の塗布物25にボンド磁石本体11を浸漬した後に塗布物25から取り出し、室温で10分間放置し、さらに真空乾燥機により温度150℃で1時間維持することによりエタノールを蒸発させると共に、シリコーンレジンを熱分解してガラス質化することにより、ボンド磁石本体11の表面に遮水被膜12を形成した。その際、表1に示すように、塗布物25におけるシリコーンレジンの濃度が高くなるほど、形成される遮水被膜12が厚くなる。比較例1はこれら5種類のCNFボンド磁石の中で最も塗布物25中のシリコーンレジンの濃度が低く、形成される遮水被膜12が最も薄い。
得られた7種類のCNFボンド磁石に対して、残留磁束密度Br、保磁力Hcj、及び最大エネルギー積(BH)maxという磁気特性を示す3種の値を測定した。また、JIS D0203-1994「自動車部品の耐湿および耐水試験方法」に則り、得られた7種類のCNFボンド磁石をそれぞれ、当該CNFボンド磁石の温度より50℃高い温度の水に、当該CNFボンド磁石の上表面が水深100mmに位置するように10分間浸漬する耐水試験を行った。
得られた7種類のCNFボンド磁石につき、作製時に用いた塗布物25におけるシリコーンレジンの濃度、形成された遮水被膜12の厚さ及びCNFボンド磁石10に占める質量の割合、上記3種の磁気特性の値、並びに耐水試験の結果を表1にまとめて示す。
Figure 2024126327000002
磁気特性は、実施例1~4及び比較例1~3のいずれも、ほぼ同じ値が得られた。一方、耐水試験では、実施例1~4の試料はボンド磁石本体11が吸水することなくCNFボンド磁石10の形状が維持されたのに対して、比較例1の試料ではボンド磁石本体11が吸水し、CNFボンド磁石10全体が軟化した。比較例2及び3の試料もまた、全体が吸水することで軟化した。
次に、耐水試験を行った試料をさらに、JIS D0203-1994に規定の時間(10分間)よりも十分に長い24時間、試料よりも温度が50℃高い水に継続的に浸漬したところ、実施例1~4の試料も含めて、全ての試料が軟化した。これら軟化した試料から磁石粉末111、CNFバインダ112及び水32が混合した混合物33を回収し、該混合物33を用いて、初期のCNFボンド磁石と同じ条件で成形体の作製及び遮水被膜の形成を行うことにより、リサイクル品としてのCNFボンド磁石を作製した。その際、実施例1~4並びに比較例1及び2から回収した混合物33は、水の一部を蒸発させることにより、対応する実施例又は比較例で最初(リサイクル前)にCNFボンド磁石を作製した際のボンド磁石材料23と水の含有率が同じ値になるように調整した。また、遮水被膜12の有無や、遮水被膜12が有る場合の該遮水被膜の作製条件は、最初のCNFボンド磁石と同じとした(なお、遮水被膜12はリサイクルせず、新たに作製している)。一方、比較例3では、混合物33をそのまま(最初の作製時のボンド磁石材料23よりも水の含有率が高い状態で)ボンド磁石材料23として用いた。その他の作製条件は、実施例1~4及び比較例1~3のいずれも、最初のCNFボンド磁石の作製条件と同じとした。
得られたリサイクル品のCNFボンド磁石につき、ボンド磁石本体11(遮水被膜12が無い比較例2、3ではボンド磁石)の成形状態、上記3種の磁気特性の値、及び耐水試験の結果を表2にまとめて示す。
Figure 2024126327000003

比較例3では、ボンド磁石の形状が他の実施例及び比較例よりも大きいため密度が小さく、磁気特性(特に残留磁束密度Br)も低い。それ以外の実施例1~4及び比較例1、2では、最初(リサイクル前)のCNFボンド磁石と同様の形状及び密度を維持することができる。
磁気特性は、実施例1~4の試料では、最初に作製した(リサイクル前の)CNFボンド磁石よりもやや低下しているものの、実用上は十分な値が得られている。また、耐水試験に関しても、各実施例及び比較例共に、最初に作製したCNFボンド磁石と同じ結果が得られた。以上のように、本実施例の方法により、最初に作製したCNFボンド磁石に使用された磁石粉末111及びCNFバインダ112を再利用することができることが確認された。
以上、本発明に係るボンド磁石、ボンド磁石製造方法、及びボンド磁石のリサイクル方法の実施形態を説明したが、本発明は上記実施形態には限定されず、種々の変形が可能であることは言うまでもない。
10…CNFボンド磁石
11…ボンド磁石本体
111…磁石粉末
112…CNFバインダ
12…遮水被膜
21…水混合物
23…ボンド磁石材料
24…成形体
25…塗布物
26…塗布膜
291…プレス金型(ダイス)
292…プレス金型(パンチ)
31…水通過経路
32…水
33…混合物

Claims (9)

  1. 磁石粉末と、該磁石粉末の粒子同士を結合するセルロースナノファイバから成るバインダとから成るボンド磁石本体と、
    前記ボンド磁石本体の表面を被覆する、液体の水を透過させない材料から成る遮水被膜と
    を備えるボンド磁石。
  2. 前記遮水被膜の材料がシリコーンレジン、フェノールレジン、メラミンレジン、ユリアレジン、塩化ビニルレジン、ポリエチレンレジン、ポリプロピレンレジン、ポリオレフィンレジンから選択される少なくとも1種である、請求項1に記載のボンド磁石。
  3. 前記遮水被膜の厚さが0.2~5μmの範囲内である、請求項2に記載のボンド磁石。
  4. 磁石粉末と、該磁石粉末の粒子同士を結合するセルロースナノファイバから成るバインダとから成るボンド磁石本体を作製するボンド磁石本体作製工程と、
    前記ボンド磁石本体の表面に、水を透過させない材料から成る遮水被膜を形成する遮水被膜形成工程と
    を有する、ボンド磁石製造方法。
  5. 前記遮水被膜形成工程が、前記遮水被膜の材料を溶媒に分散させて成る塗布物を前記ボンド磁石本体の表面に塗布した後、該塗布物を蒸発させるものである、請求項4に記載のボンド磁石製造方法。
  6. 前記遮水被膜の材料がシリコーンレジン、フェノールレジン、メラミンレジン、ユリアレジン、塩化ビニルレジン、ポリエチレンレジン、ポリプロピレンレジン、ポリオレフィンレジンから選択される少なくとも1種である、請求項5に記載のボンド磁石製造方法。
  7. 前記塗布物中の前記遮水被膜の材料の濃度が3~30質量%の範囲内である、請求項6に記載のボンド磁石製造方法。
  8. 前記溶媒がエタノールである、請求項5~7のいずれか1項に記載のボンド磁石製造方法。
  9. 磁石粉末と、該磁石粉末の粒子同士を結合するセルロースナノファイバで構成されるバインダとから成るボンド磁石本体と、前記ボンド磁石本体の表面を被覆する、水を透過させない材料から成る遮水被膜とを備えるボンド磁石のリサイクル方法であって、
    前記遮水被膜に水を通過させる水通過経路を形成する水通過経路形成工程と、
    前記水通過経路が形成された前記ボンド磁石を水に浸漬する水浸漬工程と
    を有する、ボンド磁石のリサイクル方法。
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