JP2024100294A - コンクリート構造物の補強方法及び補強構造 - Google Patents

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央真 三宅
Hiromasa Miyake
晶洋 立石
Masahiro Tateishi
明夫 正司
Akio Shoji
謙一 高橋
Kenichi Takahashi
博 渡瀬
Hiroshi Watase
洋輔 東
Yosuke Azuma
裕樹 萩原
Hiroki Hagiwara
知樹 岩生
Tomoki Iwao
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Abstract

【課題】コンクリート構造物に貼り付けて補強する補強繊維シートの端部剥離の発生を回避し、所期の補強効果を達成することのできる定着アンカーを使用したコンクリート構造物の補強方法及び補強構造を提供する。【解決手段】連続繊維補強部材をコンクリート構造物の表面に接着し、連続繊維補強部材の端部を定着アンカー1にてコンクリート構造物に定着し、定着アンカー1は、多数本の連続した強化繊維を一方向に収束した連続強化繊維束にて形成される連続繊維ストランドを配列して形成され、軸線方向の一側に取付部1aを他側に定着部1bを有しており、取付部は、細長棒状に賦形されており、定着部は、広幅シート状定着部1b1と扇状定着部1b2とを有しており、定着アンカーに樹脂を含浸させ、定着アンカーの一側の取付部を、コンクリート構造物に形成した取付孔に埋め込み、定着アンカーの他側の定着部を、連続繊維補強部材の端部に接着して定着する。【選択図】図1

Description

本発明は、一般には、連続した強化繊維を含むシート状の連続繊維補強部材(以後、単に「補強繊維シート」という。)を使用して、耐震補強のためにコンクリート構造物を補修補強(以後、単に「補強」という。)するコンクリート構造物の補強に関するものである。特に、本発明は、例えば橋梁、高架橋、建築物等の梁、桁、柱、壁等のコンクリート構造物を構成するコンクリー部材に貼付された補強繊維シートの端部をコンクリート部材に定着するための、連続した強化繊維を含む連続繊維ストランドにて作製された定着用の繊維アンカー(以後、単に「定着アンカー」という。)を使用したコンクリート構造物の補強方法及び補強構造に関するものである。
従来、例えば、既存或いは新設の鉄筋コンクリート橋脚においては、耐震補強のために、橋脚の躯体の周囲を鋼板により巻き立てて補強を施す鋼板巻立て工法や、既存のコンクリート柱の外周部分に鉄筋を配筋し、その上にモルタル層を形成するコンクリート増厚工法などが行われている。しかしながら、斯かる従来工法は、鋼板等の重量物を運搬し設置する必要があり、これらの工事には多くの施工時間及びコストを余儀なくし、また、これらの工法によると、断面積が増加するなど施工上の制約がある。
このような従来工法が有する補強による構造物の重量増加や工事の煩雑さなどに起因して、近年は、既存或いは新設のコンクリート構造物の梁、桁、柱、壁などのコンクリート部材の補強方法においては、構造物の表面に補強材として炭素繊維シートやアラミド繊維シートなどの補強繊維シートをエポキシ樹脂にて貼り付けたり、巻き付けたりする連続繊維シート接着工法が行われている。
このとき、補強繊維シートをコンクリート構造物に貼り付けて補強する場合、補強繊維シートの端部の剥離を防止することが重要である。例えば、特許文献1、2には、本願添付の図27(a)に示すように、多数本の連続繊維ストランドを一方向に引き揃え、細幅或いは縮径部分200aと、該細幅或いは縮径部分200aの一端部或いは両端部に扇形状或いはラッパ形状の拡開部分200bとを有する定着アンカー200を示している。この定着アンカー200は、図27(b)に示すように、柱220を補強繊維シート50で補強する場合には、柱220に隣接した袖壁260の部分に貫通孔10を形成して、この貫通孔10に、定着アンカー200を通し、貫通孔10内に位置する中央部200aの両端部分200bを扇状に成形して拡げ、柱220の左側外周面と右側外周面とに分断して貼り付けられた補強繊維シート50に樹脂を使用して重ねて貼り付け、分断された補強繊維シート50を連結する方法が記載されている。
一方、袖壁260が定着アンカー200を通すための貫通孔を形成するのが不可能か或いは極めて困難な場合には、障害となる袖壁260部分には、図28(a)に示すように、定着アンカー取付孔10を形成して、この孔10に定着アンカー200の一端200aを埋め込み、他端200bを補強繊維シート50に貼り付けて定着することが行われている。同様に、図28(b)に示すように、袖壁260部分を補強繊維シート50で補強する場合には、隣接する柱220に貫通孔を形成するのは不可能であり、通常、柱220部分には、定着アンカー取付孔10を形成して、この孔10に定着アンカー200の一端200aを埋め込み、他端200bを壁260に貼り付けられた補強繊維シート50の端部に貼り付けて定着することが行われている。
特許第4463657号公報 特開2010-24620号公報
上記特許文献1、2に記載の従来の補強方法では、定着アンカー200は、補強繊維シート50の端部のコンクリート部材に対する定着不足を解消するために使用されており、そのため、コンクリート部材に曲げ、せん断等の荷重が掛かった場合に補強繊維シートがコンクリート構造物から端部剥離するのを防止することが重要である。
本発明者らは、特に、上記図28(a)、(b)に示される、所謂、「埋込型」定着アンカーを使用したコンクリート構造物の補強について研究実験を行った。その結果次のことが分かった。
つまり、通常、コンクリート構造物の耐震補強において補強繊維シートの大きな定着強度を得るためには、強化繊維として炭素繊維を使用した図28(a)、(b)に示される形態の「埋込型」定着アンカーが使用される。その際、繊維目付量が大とされた補強繊維シートによる補強を可能とするために、例えば24000本の炭素繊維から成る連続繊維ストランドを144本まで使用した強度を有した定着アンカーが使用可能であるが、連続繊維ストランドを144本を超えて使用した定着アンカーでは、定着アンカーとしての破壊強度が低下し、定着アンカーと補強繊維シートの層間で剥離が生じて使用することができないことが分かった。
一方、近年、例えば、大型の箱桁を有する高架橋のようなコンクリート構造物の補強のように、補強繊維シートによる補強量が大とされる、例えば、繊維目付量が1200g/mを超えるような補強が要求され、その場合、例えば、24000本の炭素繊維から成る連続繊維ストランドを144本を超えて使用しても破壊することのない定着強度を有した定着アンカーを使用した補強が希求されている。
そこで、本発明の主たる目的は、所謂、「埋込型」定着アンカーであって、定着強度を向上させ、コンクリート構造物に貼り付けて補強する補強繊維シートの端部剥離の発生を回避し、所期の補強効果を達成することのできる定着アンカーを使用したコンクリート構造物の補強方法及び補強構造を提供することである。
本発明の他の目的は、例えば、大型の箱桁を有する高架橋のようなコンクリート構造物の補強のように、コンクリート構造物に貼り付ける補強繊維シートによる補強量が大とされる補強においても、補強繊維シートと定着アンカーとの層間剥離強度を大とし、定着アンカーの破壊強度を増大させ、補強繊維シートと定着アンカーとの層間剥離を起こすことのない定着強度が大とされる「埋込型」の定着アンカーを使用したコンクリート構造物の補強方法及び補強構造を提供することである。
本発明の他の目的は、補強繊維シートの端部剥離の発生を回避することができ、曲げ、せん断に対する耐力を増大させ、コンクリート構造物の耐震補強を極めて有効にしかも簡易な方法で達成することができる「埋込型」の定着アンカーを使用したコンクリート構造物の補強方法及び補強構造を提供することである。
上記目的は、本発明に係るコンクリート構造物の補強方法及び補強構造にて達成される。第1の本発明によると、連続した強化繊維を含むシート状の連続繊維補強部材をコンクリート構造物の表面に接着し、前記連続繊維補強部材の端部を定着アンカーにて前記コンクリート構造物に定着するコンクリート構造物の補強方法であって、
前記定着アンカーは、多数本の連続した強化繊維を一方向に収束した連続強化繊維束にて形成される連続繊維ストランドを20~288本長さ方向に配列して形成され、軸線方向の一側に取付部を他側に定着部を有しており、
前記取付部は、細長棒状に賦形されており、
前記定着部は、広幅シート状定着部と、前記細長棒状取付部と前記広幅シート状定着部との間で前記細長棒状取付部から前記広幅シート状定着部へと扇状に拡開して前記細長棒状取付部と前記広幅シート状定着部とを接続している扇状定着部とを有しており、
前記定着アンカーに樹脂を含浸させ、
前記定着アンカーの一側の前記取付部を、前記連続繊維補強部材の端部に隣接して前記コンクリート構造物に形成した取付孔に埋め込み、
前記定着アンカーの他側の前記定着部を、前記連続繊維補強部材の端部に接着して定着する、
ことを特徴とするコンクリート構造物の補強方法が提供される。
第1の本発明の一実施態様によると、前記連続繊維補強部材は、少なくとも前記定着アンカーが接着される領域は、弾性樹脂層を介して前記コンクリート構造物の表面に接着する。
第1の本発明の他の実施態様によると、前記定着アンカーの前記定着部において、前記連続繊維補強部材に接着されずに前記コンクリート構造物の表面に接着される領域は、弾性樹脂層を介して前記コンクリート構造物の表面に接着する。
第1の本発明の他の実施態様によると、前記連続繊維補強部材は、前記コンクリート構造物の表面に接着する第1の連続繊維補強部材と、前記第1の連続繊維補強部材の外層として接着する第2の連続繊維補強部材とを有しており、前記第2の前記連続繊維補強部材は前記第1の前記連続繊維補強部材より長さを短くして前記第1及び第2の連続繊維補強部材の端部が階段状となるように積層し、
前記定着アンカーの前記広幅シート状定着部は、
前記扇状定着部に連接して形成された第1の繊維目付量とされる第1の広幅シート状定着部と、
前記第1の広幅シート状定着部から前記扇状定着部とは反対側へと軸線方向に延在して形成され、前記第1の広幅シート状定着部の前記第1の繊維目付量より小さい第2の繊維目付量とされる第2の広幅シート状定着部と、
を有し、
前記第1の広幅シート状定着部は前記第1の連続繊維補強部材の端部に接着し、前記第2の広幅シート状定着部は前記第2の連続繊維補強部材の端部に接着して定着する。
第1の本発明の他の実施態様によると、前記定着アンカーは、前記扇状定着部に対して前記定着アンカーの軸線方向に直交する方向に配置した定着アンカー補強部材を接着して前記コンクリート構造物に定着する。
第2の本発明によると、連続した強化繊維を含むシート状の連続繊維補強部材がコンクリート構造物の表面に接着され、前記連続繊維補強部材の端部が定着アンカーにて前記コンクリート構造物に定着されたコンクリート構造物の補強構造であって、
前記定着アンカーは、上記いずれかの構成とされるコンクリート構造物の補強方法によって、前記定着アンカーの一側の取付部は、前記連続繊維補強部材の端部に隣接して前記コンクリート構造物に形成した取付孔に埋め込み、固着されており、前記定着アンカーの他側の定着部は、前記連続繊維補強部材の端部に接着して定着されている、
ことを特徴とするコンクリート構造物の補強構造が提供される。
本発明に従った「埋込型」定着アンカーを使用したコンクリート構造物の補強方法及び補強構造によると、定着強度を向上させ、コンクリート構造物に貼り付けて補強する補強繊維シートの端部剥離の発生を回避し、所期の補強効果を達成することができる。また、本発明によれば、補強繊維シートと定着アンカーとの層間剥離を起こすことのない定着強度が大とされる「埋込型」の定着アンカーを使用することにより、例えば、大型の箱桁を有する高架橋のようなコンクリート構造物の補強のように、コンクリート構造物に貼り付ける補強繊維シートによる補強量が大とされる補強においても、補強繊維シートと定着アンカーとの層間剥離強度を大とし、定着アンカーの破壊強度を増大させることができる。
更に、本発明によると、補強繊維シートの端部剥離の発生を回避することができ、曲げ、せん断に対する耐力を増大させ、コンクリート構造物の耐震補強を極めて有効にしかも簡易な方法で達成することができる。
図1(a)及び図1(b)は、それぞれ、本発明にて使用することのできる定着アンカーの一実施例の構成を説明する斜視図及び平面図であり、図1(c)は、連続繊維ストランドの一実施例を示す斜視図である。 図2(a)、(b)は、本発明の補強方法の一実施例を説明するための図であり、図2(a)は、コンクリート構造物の一実施例を示す箱桁を有するコンクリート構造物の正面図であり、図2(b)は、箱桁の壁部材が端部定着された補強繊維シートで補強された状態を示す斜視図である。 図3(a)、(b)は、本発明に使用する定着アンカーを作製するための強化繊維シートの一実施例を示す概略構成図である。 図4は、本発明に使用する強化繊維シートの編成の一実施例を説明するための説明図である。 図5は、本発明に使用する強化繊維シートを構成する連続繊維ストランドの概略構成図である。 図6(a)、(b)は、連続繊維ストランドの他の実施例を説明する概略構成図である。 図7(a)~(d)は、本発明に使用する定着アンカーの作製方法の一実施例を説明するための説明図である。 図8(a)~(d)は、本発明に使用する定着アンカーの作製方法の他の実施例を説明するための説明図である。 図9(a)~(c)は、本発明に使用する定着アンカーを作製するための強化繊維シートの他の実施例と、この強化繊維シートを使用した定着アンカーの作製方法を説明するための説明図である。 図10は、本発明に使用する定着アンカーを作製するための強化繊維シートの他の実施例を示す概略構成図である。 図11(a)~(c)は、本発明に使用する定着アンカーの作製方法の他の実施例を説明するための説明図である。 図12(a)は、本発明の補強方法の一実施例を説明するためのコンクリート構造物の壁部材と床版の部分断面図であり、図12(b)は、取付孔の一実施例を説明する図12(a)における矢印A方向に見た部分正面図である。図12(c)及び図12(d)は、本発明の補強方法の一実施例を説明するためのコンクリート構造物の壁部材と床版の部分断面図である。図12(e)は、図12(d)における矢印A方向に見た部分正面図である。 図13(a)、(b)は、本発明の補強方法の他の実施例を説明するためのコンクリート構造物の壁部材と床版の部分断面図である。 図14(a)、(b)は、本発明の補強方法の他の実施例を説明するためのコンクリート構造物の壁部材と床版の部分断面図である。 図15(a)は、本発明の補強方法の他の実施例を説明するためのコンクリート構造物の壁部材と床版の部分断面図であり、図15(b)は、本発明の補強方法の他の実施例を説明するためのコンクリート構造物の壁部材と床版の部分断面図である。図15(c)は、図15(b)における矢印A方向に見た部分正面図である。 図16は、本発明にて使用することのできる補強繊維シートの一実施例の構成を説明する斜視図である。 図17(a)は、本発明にて使用することのできる補強繊維シートの他の実施例の構成を説明する斜視図であり、図17(b)、(c)は、補強繊維シートに使用する連続繊維ストランドの断面図である。 図18(a)、(b)及び(c)は、それぞれ、本発明にて使用することのできる定着アンカーの一実施例の構成を説明する斜視図、平面図及び側面図であり、図18(d)は、連続繊維ストランドの一実施例を示す斜視図である。 図19(a)、(b)は、本発明に使用する定着アンカーを使用したコンクリート構造物の補強方法の他の実施例を説明するための説明図であり、図19(c)、(d)は、本発明の補強方法の他の実施例を説明するためのコンクリート構造物の壁部材と床版の部分断面図である。 図20(a)~(c)は、本発明に使用する定着アンカーの作製方法の他の実施例を説明するための説明図である。 図21(a)~(d)は、本発明に使用する定着アンカーの作製方法の他の実施例を説明するための説明図である。 図22(a)、(b)、(c)は、本発明の補強方法の他の実施例を説明するための図である。 図23(a)は、本発明の補強方法の他の実施例を説明するためのコンクリート構造物の断面図であり、図23(b)は、正面図である。 図24(a)は、本発明の補強方法の他の実施例を説明するためのコンクリート構造物の断面図であり、図24(b)は、正面図である。 図25(a)は、本発明の補強方法の他の実施例を説明するためのコンクリート構造物の断面図であり、図25(b)は、正面図である。 図26(a)~(c)は、本発明の実験例にて使用した試験片及び試験装置を説明するための図である。 図27(a)は、従来のコンクリート構造物の補強の際に使用される定着アンカーを示す平面図であり、図27(b)は、定着アンカーを使用したコンクリート構造物の補強態様を説明するための斜視図である。 図28(a)、(b)は、従来のコンクリート構造物の補強の際に使用される定着アンカー及びコンクリート構造物の補強態様を説明するための斜視図である。
以下、本発明に係るコンクリート構造物の補強方法及び補強構造を実施例に即して更に詳しく説明する。
実施例1
図1(a)~(c)に本発明に使用される定着アンカー1の一実施例を示し、図2(a)、(b)に示す箱桁を有する高架橋のコンクリート構造物100を参照して定着アンカー1が箱桁の壁部材120(120A、120B)の補強に使用された実施例について説明する。
本発明の補強方法及び補強構造は、曲げ、せん断に対する耐力を向上させ耐震補強を行うコンクリート構造物に広く適用し得るものであり、例えば橋梁、高架橋等のコンクリート構造物を構成する種々のコンクリー部材に施工される。
本実施例では、本発明の定着アンカー1を使用した補強方法及び補強構造は、図2(a)、(b)に図示するように、例えば、高架橋等の箱桁を有するコンクリート構造物100に適用されるものとして説明するが、本発明はこのような構造のコンクリート構造物100の耐震補強のための補強に限定されるものではない。
図2(a)に示すように、箱桁を有する高架橋などのようなコンクリート構造物100は、一般に、水平方向に延在し、上面に舗装111が施される上床版(上フランジ)110A、上床版110Aと略平行に水平方向に延在した下床版(下フランジ)110B、及び、上床版110Aと下床版110Bとを一体に接続する垂直に配置された腹部(ウェブ)120(120A、120B)を有しており、所謂、断面形状が箱形の中空梁(箱桁)を有したコンクリート構造物とされる。
本実施例では、図2(a)に示すような箱桁を有する高架橋のコンクリート構造物100における、腹部(以下、「壁部材」と呼ぶ場合もある。)120の補強を成すものとして説明する。斯かる構造のコンクリート構造物100は、図示するように、壁部材120の上下に上床版110Aと下床版110Bが位置しており、補強繊維シート50を貼着した壁部材120の端部定着を成すには上床版110Aと下床版110Bが障害物となる。また、壁部材120と、上床版110A及び下床版110Bとが交差して互いに連結された接合部101の構造物内面には、傾斜壁、所謂、「ハンチ」140が形成される。このような場合には、特に、補強繊維シート50の端部定着はその施工が困難となる。従って、補強繊維シート50の端部を定着する定着アンカー1は、上述の従来技術として図28(a)、(b)を参照して説明した「埋込型」にて施工せざるを得ない。
上述にて理解されるように、本実施例にて、箱桁を有するコンクリート構造物100において、構造物が地震等により水平及び/又は垂直方向への変形荷重を受けた場合には、壁部材120には、曲げ及び/又はせん断荷重が負荷されることが考えられる。
そこで、以下に詳しく説明するように、壁部材120(120A、120B)には、本発明に従って補強繊維シート50により耐震補強がなされる。
本実施例の説明では、図2(a)にて、右側の壁部材120Aの補強について、また、定着アンカー1については、図2(b)に示すように、右側の壁部材120Aの下端の定着に関連して述べるが、上端の定着も同様に行われることを理解されたい。また、左側の壁部材120Bの下端及び上端の定着も同様に行うことができる。従って、以下の説明では、右側、左側の壁部材120A、120Bを区別することなく単に「壁部材120」と総称し、また、上床版110A、下床版110Bを区別することなく単に「床版110」と総称して説明する。
(定着アンカー)
本発明に係る定着アンカー1は、図1(a)~(c)及び図2(a)、(b)に示すように、コンクリート構造物100の表面に貼着されたシート状の連続繊維補強部材、即ち、補強繊維シート50の端部定着を行う、所謂、「埋込型」の定着用の繊維アンカーである。
図1(a)~(c)を参照すると、本発明の定着アンカー1は、詳しくは後述するように、長さ方向に配向して引き揃えられている20~288本の連続繊維ストランド2にて作製され、一側に取付部1aを他側に定着部1bを有しており、取付部1aは、断面が円形状とされる細長棒状に賦形されており、定着部1bは、矩形状の広幅シート状定着部1b1と、細長棒状取付部1aと広幅シート状定着部1b1との間で細長棒状取付部1aから広幅シート状定着部1b1へと扇状に拡開して細長棒状取付部1aと広幅シート状定着部1b1とを接続している扇状定着部1b2とを有する。
本実施例にて、定着アンカー1は、図1(b)に示すように、軸線方向の全体の長さL1が、通常、70~180cmとされる。
つまり、定着アンカー1の細長棒状取付部1aは、軸線方向の長さL1aが10~50cm、直径D1が8~60mmとされる。軸線方向の長さL1aが10cm未満で且つ直径D1が8mm未満の場合、定着アンカー1のコンクリート構造物への取付固着力が小さく不十分であり、また、軸線方向の長さL1aが50cmを超え、且つ直径D1が60mmを超えると、定着アンカー1のコンクリート構造物への取付固着力が必要以上に大となり、コスト高となる。通常、定着アンカー1の細長棒状取付部1aは、軸線方向の長さL1aが20~40cm、直径D1が10~50mmとされる。
定着部1bの広幅シート状定着部1b1は、軸線方向の長さL1b1が10cm以上、通常、75cm以下とされる。また、軸線方向に直交する幅方向の長さ、即ち、幅W1が20~50cmとされる。軸線方向の長さL1b1が10cm未満で且つ幅W1が20cm未満の場合、定着アンカー1の定着力の増大が望めない。つまり、上述したように、例えば大型の箱桁を有するコンクリート構造物を補強する際に、炭素繊維シートによる補強量が大きくなり、24000本の炭素繊維から成る連続繊維ストランドを144本を超えて、例えば240本、特に、288本といった多数本を使用した「埋込型」定着アンカーでは、端部剥離が生じ、定着アンカーとしての破壊強度が不足する虞がある。また、軸線方向の長さL1b1が75cmを超え、且つ、幅W1が50cmを超えると、定着能力は増大するが、定着アンカー1としては必要以上の材料を使用することとなり、コスト高となる。通常、定着部1bの広幅シート状定着部1b1の軸線方向の長さL1b1は、製造上、取扱い性などの点から20~45cm、幅W1が30~40cmとされる。
定着部1bの扇状定着部1b2は、軸線方向の長さL1b2が10~100cmとされる。軸線方向の長さL1b2が40cm未満で、且つ、扇形最大幅、即ち、肩幅(広幅シート状定着部1b1の幅)W1が50cmを超えると、つまり、連続繊維ストランド2の最大拡開角度αmaxが大きくなり過ぎると、連続繊維ストランド2を構成する繊維f、特に高弾性の炭素繊維などを使用した場合には、繊維fが折損する場合が生じ問題が発生する。通常、定着部1bの扇状定着部1b2は、軸線方向の長さL1b2が40~80cmとされる。
本発明にて、定着アンカー1は、上述にて理解されるように、コンクリート構造物100の表面に貼着されたシート状の連続繊維補強部材、即ち、補強繊維シート50の端部がコンクリート構造物表面から剥離するのを回避するために補強繊維シート50の端部に定着部1b(1b1、1b2)を重ねて貼着し、取付部1aを、コンクリート構造物100に穿設した取付孔10(図12(d)参照)に埋め込み固定して定着を行う、「埋込型」の定着用の繊維アンカーである。
本発明に使用する定着アンカー1は、図1(c)に示す樹脂未含浸の多数本の連続繊維ストランド2を使用して、任意の方法にて図1(a)、(b)に示す形状に賦形して作製することができるが、次に、本発明の定着アンカー1の製造方法を実施例に則して説明する。
(1-1)第一の製造実施例
本発明に使用する定着アンカー1の第一の製造実施例について説明する。定着アンカー1は、上述した特許文献1(特許第4463657号公報)に記載される定着アンカーを作製するために使用される連続繊維ストランドから成る連続繊維補強部材を用いて作製することができる。以下に図面に則して説明する。
図3~図7に本発明に係る定着アンカー1の第一の製造実施例を示す。本実施例にて、定着アンカー1は、図3(a)、(b)に示されるシート状の連続繊維補強部材、即ち、強化繊維シート1Aを使用して、例えば図7(a)~(d)に示す作製手順にて、図1(a)、(b)に示す形状寸法に賦形される。図3(a)は、平面状の強化繊維シート1Aを一側(表)から見た図であり、図3(b)は、強化繊維シート1Aを他側(裏)から見た図である。
本実施例によると、強化繊維シート1Aは、図1(c)、図5などに示すように、高強度の定着力をも達成し得るように、柔軟性を有する連続繊維ストランド2を20本~288本の範囲で所定本数だけ長さ方向に沿って一方向に引き揃えることにより作製される。特に、従来の定着アンカーにおいては、通常、24000本の炭素繊維から成る連続繊維ストランド2は、定着アンカーと補強繊維シート間の層間剥離を防止するために80本~144本の範囲で使用されているが、本発明の定着アンカー1では、144本を超える多数本の、例えば240本、更には、288本といった多数本の連続繊維ストランド2を使用することができる。なお、連続繊維ストランド2の本数は、好ましくは、100~288本であり、より好ましくは、144~288本である。連続繊維ストランド2の本数が20本未満では、補強効果が不十分となり、288本を超えると、定着アンカーと補強繊維シートの間での層間剥離を抑えきれなくなる。
更に説明すると、図1(c)に示すように、各連続繊維ストランド2は、一方向に並列に引き揃えられている多数の連続した強化繊維fを集束して連続強化繊維束Fを形成し、この繊維束Fにて連続繊維ストランド2が形成される。例えば、連続繊維ストランド2は、ヤング率(引張弾性率)が70GPa以上の弾性を有した強化繊維を使用することができ、強化繊維fとしては、炭素繊維、ガラス繊維などの無機繊維、アラミド繊維などの有機繊維を好適に使用し得る。
特に補強繊維シート50として炭素繊維が使用される大型の箱桁を有する高架橋のようなコンクリート構造物の補強においては、炭素繊維が好適に使用され、好ましくは、特に、ヤング率が280~500GPaとされる中弾性の炭素繊維、及び、ヤング率が500GPa以上とされる高弾性の炭素繊維を好適に使用することができる。なお、他の繊維のヤング率について言えば、典型的には、ガラス繊維は70~90GPa、アラミド繊維は70~120GPaとされる。
連続繊維ストランド2は、図1(c)に示すように、通常、略円形断面形状とされるが、必要に応じて、同等面積とされる円形に近似した楕円形、長円形、多角形、その他の種々の断面形状とすることができる。従って、本発明にて断面が円形状とは、このような近似円形断面形状をも含むものとする。
連続繊維ストランド2は、一般に繊維径が5~20μmとされる強化繊維fを3000~96000本収束して形成される強化繊維束Fにて構成される樹脂含浸されていない、所謂、ドライ状態の各連続繊維ストランド2であり、この連続繊維ストランド2は、横断面積Sが0.1~5mm(通常、0.6~1.2mm)であるのが、柔軟性の点、樹脂含浸性の点から好適である。ここで、連続繊維ストランド2の「横断面積」とは、空隙を含まない、強化繊維fのみの横断面積の総和を意味する。
本製造実施例にて強化繊維シート1Aは、図3(a)、(b)に示すように、拘束糸(即ち、鎖編糸)3がループ状に縦方向に連続して鎖編み目を形成しながら編成されて作製された鎖編み部(編み組織)30を有する。各連続繊維ストランド2は、詳しくは図4を参照して後述するが、この編み組織30の鎖編み目3Aの中に直交させて配置されている。
また、各連続繊維ストランド2を拘束する編み組織30は、互いに隣接した編み組織30が互いに挿入糸4により結束される。つまり、挿入糸4は、編み組織30に対して横方向に挿入され、本実施例では、隣り合った連続繊維ストランド2を囲包して編成された編み組織30に対して、連続繊維ストランド2の長手方向(即ち、縦方向)に沿って所定間隔にて絡み合い、複数の連続繊維ストランド2を平面状に、即ち、強化繊維シート状態に保形する。
図4を参照して、拘束糸3がループ状に縦方向に連続して編成された編み組織30の中を、各連続繊維ストランド2が直交して配置されている状態、及び、編み組織30に対する挿入糸4の編絡状態について説明する。
図4に示すように、拘束糸3は、ループ状に縦方向に連続して編成されて編み組織30を形成し、複数の縦方向編み組織30により編み構造30Aが形成される。この編み構造30Aを構成する各編み組織30の鎖編み目3Aを貫通するようにして、連続繊維ストランド2が挿入配置される。
図4は、理解を容易とするために、連続繊維ストランド2が編み組織30の鎖編み目3Aを貫通するように屈曲している状態にて示すが、実際には、連続繊維ストランド2が曲がることはなく、図3(a)、(b)、図5に示すように、直線状態に配置された連続繊維ストランド2に対して、拘束糸3により編成された編み組織30の鎖編み目3Aが編み込まれることとなる。
このような編み組織30に対して、図4に示すように、横方向に挿入して挿入糸4が編み込まれ、隣り合った編み組織30が互いに結束される。
つまり、本実施例の強化繊維シート1Aによれば、拘束糸3が縦方向に連続的に、且つ、平面状に編成して編み構造30Aが形成され、この編み構造30Aにおける縦方向に連続的に編成された編み組織30の中に、多数の連続した強化繊維fを一方向に束ねて形成した連続繊維ストランド2が挿入される。そして、縦方向編み組織30の中に挿入された各連続繊維ストランド2は、縦方向の編み組織30に対して横方向に挿入された挿入糸4で連結することによって保形される。
上記編み構造30Aにより拘束され、保形された強化繊維シート1Aは、当業者には周知の編成機(経編機)を用いて、複数の連続繊維ストランド2、編み組織30を構成する拘束糸3、及び、編み組織30を結束する挿入糸4を編み込むことによって生産性良く、高品質にて作製することができる。また、連続繊維ストランド2を拘束糸3及び挿入糸4による編み構造により拘束し、保形しているために、強化繊維を縫製して拘束保形する場合に発生する針によるダメージや繊維束割れなどの問題は発生しない。
つまり、本実施例によれば、強化繊維シート1Aが編み構造とされるために、伸縮性を有し且つ形態が安定しており、また、編み機による連続生産が可能であり、品質が均一で高品質の製品を製造することができる。また、強化繊維シート1Aは、挿入糸4によりその形状が横方向に対して伸縮自在に保形されているために、横方向形状の広狭が変形可能とされる。挿入糸4と編み組織30との結合回数を変更することにより、強化繊維シート1Aの柔軟性を調整することが可能である。
本製造実施例において、各連続繊維ストランド2は、多数の連続した強化繊維fを集束して形成される繊維束Fにて構成される。上述のように、本実施例にて、複数の連続繊維ストランド2が一方向に引き揃え並置された平面状の、即ち、シート状の強化繊維シート1Aでは、各連続繊維ストランド2は、図5に示すように、互いに空隙(g)=0.1~20mmだけ近接離間して、挿入糸4にて伸縮性を有して固定され、シート状態に保形される。また、このようにして形成された強化繊維シート1Aの長さ(L)及び幅(W)は、適宜決定されるが、取扱い上の問題から、一般に、全幅(W)は、10~500mmとされる。又、長さ(L)は、100m以上のものを製造し得るが、使用時においては、適宜切断して使用される。
連続繊維ストランド2の繊維量を増やしたい場合には、図6(a)、(b)に示すように、縦方向或いは横方向に繊維束Fを複数、例えば、図示するように2本、或いはそれ以上積層し、つまり、複数本の連続繊維ストランド2a、2bを一つの連続繊維ストランド2として使用する構成としても良い。積層数は、必要幅内に使用される強化繊維及び連続繊維ストランドの太さと糸本数で決定される。この場合においても、上述したように、本実施例の強化繊維シート1Aは、拘束糸3及び挿入糸4と共に編み構造とされ、安定した形態にて均一な且つ高品質の製品とし得る。
上述のように、本実施例の強化繊維シート1Aは、各連続繊維ストランド2が個々に、編み組織30を形成している拘束糸3により拘束され、且つ、互いに並置された各連続繊維ストランド2は、挿入糸4により所定形状へと変形可能に保形されている。
このように、本実施例にて、拘束糸3は、コンクリート補修補強の施工時に連続繊維ストランド2、即ち、強化繊維fに樹脂を含浸する樹脂含浸時において強化繊維が膨潤し、繊維配向に乱れや樹脂含浸不良が発生するのを防止する。又、挿入糸4は、拘束糸3で拘束された連続繊維ストランド2、2間の距離を規定し、各連続繊維ストランド2がずれてストランド間の距離が変わらないように、拘束糸3と絡み合い固定化する機能をなす。
従って、本実施例の定着アンカー1によれば、樹脂含浸時においても繊維の直線性が維持され、従来の他の定着アンカーのように、樹脂含浸時に繊維の配向が乱れ、定着後の強度が低下するようなことはない。
本実施例にて、強化繊維fとしては、上述のように、ヤング率(引張弾性率)が70GPa以上の弾性を有した強化繊維を使用することができ、強化繊維fとしては、好ましくは、中弾性或いは高弾性の高強度の炭素繊維が使用されるが、他には、ガラス繊維などの無機繊維、更には、アラミド繊維などの有機繊維も使用し得る。
前記拘束糸3及び挿入糸4は、15~1500d(デニール)のマルチフィラメント糸やモノフィラメント糸とすることができ、例えば、ポリエステル系、ポリアミド系、ポリアクリロニトリル系、ポリビニルアルコール系及びポリオレフィン系の繊維、アラミド繊維、などのような有機繊維、更には、チタン繊維、スチール繊維などの金属繊維、また、炭素繊維、ガラス繊維などの無機繊維を単独で、又は、複数種混入して作製された糸を使用することができる。又、無機繊維に熱可塑性有機繊維を巻き付け或いは撚り合わせた構成の糸を使用することもできる。
上記構成の本実施例の平面状の強化繊維シート1Aは、強化繊維シート1Aが有する編み構造、及び、挿入糸4が有する伸縮性により、自由度の高い特性を有しており、図7(a)、(b)に示すように、強化繊維シート1Aの幅方向両端より圧縮することにより、容易に縮むことができ、又、幅方向両端を外方へと引っ張ることにより容易に伸ばすことができる。
図7(a)~(d)を参照して、本発明に係る定着アンカー1の製造方法について説明する。先ず、図7(a)に示すように、長さL、幅Wとされる上記長尺の平面状の強化繊維シート1Aを所定の長さL1wに切断し、例えば、80~150cmの長さに切断し、この切断された所定長さL1wの細長帯状の強化繊維シート1Aの一端部領域においては、図7(b)に示すように、幅方向両端より圧縮することにより縮めて、各ストランド2、2間が密とされた幅W2、長さ(L1a)の細幅部分1awを形成し、他端領域は、扇形状及び矩形状となるように広げ幅を調整することにより、細幅部分1awの幅W2から最大幅W3へと拡開する長さ(L1b2)の拡開扇形部1b2wと、幅W3、長さ(L1b1)の矩形状部分1b1wとが形成された強化繊維シート1Aを作製することができる。
次いで、この強化繊維シート1Aは、図7(c)、(d)に示すように、細幅部分1awは幅W2より小さくなるように幅方向に折り畳むことにより、或いは、巻き込んだりすることにより、また、拡開扇形部1b2w、矩形部1b1wをも幅方向、長さ方向に変形することによって図1(a)、(b)に示すように、一側に取付部1aを他側に定着部1bを有する構成の定着アンカー1となるように賦形される。つまり、細幅部分1awは、取付部1aとしての断面が直径D1の円形状とされる長さL1aの細長棒状に賦形し、他側は、定着部1bとして、矩形状の幅W1、長さL1b1の広幅シート状定着部1b1と、細長棒状取付部1aと広幅シート状定着部1b1との間で細長棒状取付部1aから広幅シート状定着部1b1へと扇状に拡開して細長棒状取付部1aと広幅シート状定着部1b1とを接続している、長さL1b2の扇状定着部1b2とに賦形される。
次に、本実施例の定着アンカー1の一製造具体例について更に説明する。
製造具体例1
本製造具体例では、図3~図7を参照して説明した構成の強化繊維シート1Aを使用して定着アンカー1を次のようにして作製した。
強化繊維シート1Aにおける連続繊維ストランド2は、繊維fとして平均径5μm、収束本数24000本のPAN系炭素繊維ストランドを用いた。炭素繊維は、中弾性の炭素繊維であり、ヤング率が450GPaであった。拘束糸(鎖編糸)3としては、ポリエステルマルチフィラメント(番手100d)を使用した。また、挿入糸4としては、フロントにポリエステルモノフィラメント(番手63d)を使用し、そして、バックにポリエステルモノフィラメント(番手63d)に低融点ポリアミド繊維(番手100d)を撚り合わせたものを用いた。
これら、連続繊維ストランド2、拘束糸3及び挿入糸4を使用して、編成機により、連続繊維ストランド2が240本とされる強化繊維シート1Aを作製した。
図7(a)にて、挿入糸4は、連続繊維ストランド2の長手方向に対して10mmの一定の間隔(P4)にて編み込まれた。
このようにして作製した強化繊維シート1Aは、幅(W)が250mm、長さ(L)が100mであった。各ストランド間の間隙(g)は、3~4mmであった。
次に、上記強化繊維シート1Aを、長さ(L1w)105cmに切断し、図7(a)に示す細長帯状の、即ち、矩形状の強化繊維シート1Aとした。
この強化繊維シート1Aは、図7(b)に示すように、その幅方向両端を圧縮することにより、容易に縮むことができ、細幅部分1awを形成することができた。更に細幅部分1awは、図7(c)に示すように、幅方向に折り込むことにより、図1(a)、(b)に示すように断面が円形状とされる細長棒状に賦形し、直径(D1)が略30mm、長さ(L1a)40cmの取付部1aを形成した。
また、図7(b)に示す強化繊維シート1Aは、細幅部分1awに連接する扇形部分1b2w及び矩形部分1b1wは、それぞれ、長さ方向及び幅方向にその長さを調整することにより、図1(a)、(b)にて、軸線方向の長さ(L1b2)のが45cmで且つ扇形最大幅(肩幅)(W1)が20cmの扇状定着部1b2と、軸線方向の長さ(L1b1)が20cm、幅(W1)が20cmとされる広幅シート状定着部1b1とされる定着アンカー1を形成した。
本実施例によれば、強化繊維シート1Aから図1(a)、(b)に示す形態の定着アンカー1を容易に作製することができた。
本実施例によれば、
(1)強化繊維シート1Aを構成する連続繊維ストランド2の本数が常に一定であるため、当然なこととして、施工現場において連続繊維ストランド数を間違えることはない。
(2)強化繊維シート1Aを切り分けて使用するための成形作業に際して、幅方向に容易に伸ばしたり、縮めたりすることができ、また、幅方向に巻き込んだり、長手方向に折り畳むこともでき、貼り付ける場所の形状(例えば、定着扇形の幅)に合わせて、施工現場で容易に変形させることができた。また、縮めた部分の近傍が皺になることもなく、作業性が良かった。更には、強度低下を起こすこともなかった。
(3)個々の連続繊維ストランド2は拘束糸3による編み組織30にて拘束し、挿入糸4にてその形態が保形されているために、樹脂が含浸した際に繊維が揺らいで強度低下を起こすことはなかった。
(1-2)第二の製造実施例
図8(a)~(d)に、本実施例の定着アンカー1の他の製造実施例を示す。本製造実施例においても、定着アンカー1は、上記(1-1)第一の製造実施例と同様に図3(a)、(b)に示す構成の平面状の強化繊維シート1Aを使用する。上述したように、強化繊維シート1Aは、この強化繊維シート1Aが有する編み構造、及び、挿入糸4が有する伸縮性により、自由度の高い特性を有しており、図7(a)、(b)に示すように、強化繊維シート1Aの幅方向両端より圧縮することにより、容易に縮むことができ、又、幅方向両端を外方へと引っ張ることにより容易に伸ばすことができる。
本実施例では、図8(a)に示すように、長尺の平面状の強化繊維シート1Aを所定の長さ(2×L1w)に切断し、例えば、2×L1w=160~300cmの長さに切断し、この切断された所定長さ(2×L1w)の細長帯状の強化繊維シート1Aを中央部にて二つ折りにて折り曲げ、図8(b)、(c)に示すように、一端で折り曲げられて重ね合わされた軸線方向に同じ長さL1wとされる2層の第1の強化繊維シート1A1と第2の強化繊維シート1A2を作製する。
次いで、図8(d)に示すように、図8(c)にて左側に位置する第1の強化繊維シート1A1と第2の強化繊維シート1A2が接続された折り曲げ側の所定領域を、幅方向両端より圧縮することにより縮めて、各ストランド2、2間が密とされた幅W2、長さ(L1a)の細幅部分1awを形成し、他端領域は、扇形状及び矩形状となるように広げ幅を調整することにより、細幅部分1awの幅W2から最大幅W3へと拡開する長さ(L1b2)の拡開扇形部1b2wと、幅W3、長さ(L1b1)の矩形状部分1b1wとが形成された強化繊維シート1Aを作製する。
次いで、この強化繊維シート1Aは、図7(c)、(d)に示すように、細幅部分1awは幅W2より小さくなるように幅方向に折り畳むことにより、或いは、巻き込んだりすることにより、また、拡開扇形部1b2w、矩形部1b1wをも幅方向、長さ方向に変形することによって図1(a)、(b)に示すように、一側に取付部1aを他側に定着部1bを有する構成の定着アンカー1となるように賦形する。つまり、細幅部分1awは、取付部1aとしての断面が直径D1の円形状とされる長さL1aの細長棒状に賦形し、他側は、定着部1bとして、矩形状の幅W1、長さL1b1の広幅シート状定着部1b1と、細長棒状取付部1aと広幅シート状定着部1b1との間で細長棒状取付部1aから広幅シート状定着部1b1へと扇状に拡開して細長棒状取付部1aと広幅シート状定着部1b1とを接続している長さL1b2の扇状定着部1b2とに賦形される。
本実施例では、定着アンカー1の広幅シート状定着部1b1の繊維目付量は、強化繊維シート1Aの繊維目付量の2倍とされることが理解されるであろう。
もし、所定形状にて固定された定着アンカー1が所望される場合には、挿入糸4及び/又は拘束糸3の素材を熱可塑性繊維を使用し、加熱して、連続繊維ストランド2、即ち、強化繊維fと、挿入糸4及び/又は拘束糸3とを融着し、更に、加熱による熱可塑性繊維の伸縮性及び残留伸度を除去することができる。
(1-3)第三の製造実施例
他の実施例によれば、長尺の平面状の連続繊維補強部材1は、図9(a)~(c)に示すように、
(i)所定の長さL3及び幅W4を有した細幅部分(1aw)と、
(ii)細幅部分1aw、1awの間に位置し、所定の長さL4を有した広幅部分(2×1bw)であって、その中央部分にて最大幅W5、長さL5となる広幅矩形状部分(2×1b1w)を備え、その両側にそれぞれ扇形状部分(1b2w)を有した広幅部分(2×1bW)と、
が交互に形成された長尺の平面状の帯状とされる強化繊維シート1Aとすることができる。
このような図9(a)に示す本実施例の強化繊維シート1Aは、シート製造に使用する経編機におけるテンションの強弱を調整することにより、強化繊維シート1Aの幅を広く編成したり、幅を狭く編成したりして製造し得る。
また、このような強化繊維シート1Aは、本発明にて使用する場合には、図9(a)、(b)に示すように、先ず、所定長さL4を有した一つの広幅部分(2×1bW)を挟む二つの、所定の長さL3及び幅W4を有した細幅部分1awをそれぞれ長さ方向中央部で切断し、長さL6の強化繊維シート1Aを作製する。次いで、図9(a)、(b)に示すように、細幅部分1aw、1awの間に位置し、所定の長さL5を有した広幅矩形状部分1b1Wの長手方向の中央部分の位置にて切断し、図9(c)に示すように、長さ(L1)の強化繊維シート1Aを作製する。
次いで、この強化繊維シート1Aは、細幅部分1awは、幅(W2)より小さくなるように巻き込んだり、或いは、幅方向に折り畳むことにより、図1(a)、(b)に示すように、一側に取付部1aを他側に定着部1bを有する構成の定着アンカー1となるように賦形する。つまり、細幅部分1awは、取付部1aとしての断面が直径D1の円形状とされる長さL1aの細長棒状に賦形し、他側は、定着部1bとして、幅W1、長さL1b1の広幅シート状定着部1b1と、細長棒状取付部1aと広幅シート状定着部1b1との間で細長棒状取付部1aから広幅シート状定着部1b1へと扇状に拡開して細長棒状取付部1aと広幅シート状定着部1b1とを接続している扇状定着部1b2とに賦形される。
(1-4)(第四の製造実施例)
図10に、上記(1-1)第一の製造実施例~(1-3)第三の製造実施例にて使用した平面状とされる強化繊維シート1Aの他の製造実施例を示す。
本製造実施例の強化繊維シート1Aでは、第一の製造実施例にて説明したと同様に、各連続繊維ストランド2は、拘束糸3がループ状に縦方向に連続して編成された編み組織30の鎖編み目3Aの中に直交させて配置されている。
ただ、本製造実施例によると、縦方向編み組織30に対して横方向に挿入された挿入糸4が、各連続繊維ストランド2を拘束する編み組織30に対して、一定のコース毎に振って編み込まれている。
つまり、本製造実施例では、第一の製造実施例と同様に、図4に示すように、拘束糸3は、各連続繊維ストランド2が鎖編み目3Aを直交して貫通するようにして、各コース毎に鎖編み目3Aを形成しながら編み組織30を形成する。これにより、各連続繊維ストランド2は拘束される。
本製造実施例によると、挿入糸4は、横方向への挿入糸であり、本製造実施例では、1ウェールずつ飛んで編み組織30を構成する拘束糸3に掛けながら蛇行させて挿入される。これにより、編み組織30に拘束された連続繊維ストランド2を有した強化繊維シート1Aが作製される。
本製造実施例においても、強化繊維シート1Aは、第一の製造実施例の場合と同様に、図7(a)に示すように、強化繊維シート1Aの幅方向両端より圧縮することにより、容易に縮むことができ、又、幅方向両端を外方へと引っ張ることにより容易に伸ばすことができる。この作業により、図7(b)及び図1(a)、(b)に示すような、一側に取付部1aを他側に定着部1bを有しており、取付部1aは、断面が円形状とされる細長棒状に賦形されており、定着部1bは、矩形状の平面定着部1b1と、細長棒状取付部1aと広幅シート状定着部1b1との間で細長棒状取付部1aから広幅シート状定着部1b1へと扇状に拡開して細長棒状取付部1aと広幅シート状定着部1b1とを接続している扇状定着部1b2とを有した、定着アンカー1を作製することができる。この成形作業において、連続繊維ストランド2の直線性が乱れることはなかった。
本製造実施例の強化繊維シート1Aも又、第一の製造実施例と同様に、経編機を用いて作製することができ、第一の製造実施例と同様の作用効果を達成することができる。従って、本製造実施例においても、経編機によるテンションの強弱を調整することにより、第三の製造実施例にて図9(a)を参照して説明したように、シート1の幅を広く編成したり、幅を狭く編成したりすることもまた可能である。
(1-5)(第五の製造実施例)
図11(a)~(c)に本発明に係る定着アンカー1の他の製造実施例を示す。本実施例にて、定着アンカー1は、図11(a)に示すように、柔軟性を有する連続繊維ストランド2を20本~288本の範囲で所定本数だけ一方向に引き揃えて束ね、柔軟性のある細長棒状の連続繊維補強部材(強化繊維棒状体)1Aから作製される。
連続繊維ストランド2は、図11(c)に示すように、一方向に並列に引き揃えられている多数の連続した強化繊維fを集束して連続強化繊維束Fを形成し、この繊維束Fにて連続繊維ストランド2が形成される。
本実施例においても、図1(c)を参照して説明した(1-1)第一の製造実施例にて使用したと同じ連続繊維ストランド2を使用することができる。従って、連続繊維ストランド2に関する説明は、先の(1-1)第一の製造実施例における説明を援用し、ここでの再度の説明は省略する。
本実施例にて、強化繊維棒状体1Aは、図11(b)に示すように、図1(a)、(b)に示すと同様に、所定の長さ(L1)とされ、一側に取付部1aを他側に定着部1bを有しており、取付部1aは、断面が直径D1の円形状とされる長さL1aの細長棒状に賦形されており、定着部1bは、矩形状の幅W1、長さL1b1の広幅シート状定着部1b1と、細長棒状取付部1aと広幅シート状定着部1b1との間で細長棒状取付部1aから広幅シート状定着部1b1へと扇状に拡開して細長棒状取付部1aと広幅シート状定着部1b1とを接続している長さL1b2の扇状定着部1b2とを有するように賦形される。必要により、このようにして賦形された定着アンカー1は、取扱い性を向上させるためにするために、例えば上述した連続繊維補強部材1Aを作成する際に使用した拘束糸3或いは挿入糸4などとされる糸条5にて縫製し、緩く拘束保形しておくことも可能である。
本実施例にて、定着アンカー1の寸法形状は、図1(b)に示す定着アンカー1と同じとされるので、詳しい説明は先の説明を援用し、ここでの再度の説明は省略する。
(補強方法及び補強構造)
第一の補強方法及び構造実施例
次に、本発明に係る定着アンカー1を使用したコンクリート構造物の補強方法及び補強構造を実施例に即して更に具体的に説明する。
本実施例では、図2(a)、(b)に示した箱桁を有するコンクリート構造物100における壁部材120の耐震補強(曲げ及び/又はせん断補強)について説明する。
上述したように、従来、既存或いは新設の上記種々のコンクリート構造物の補強方法として、構造物の表面に補強材として炭素繊維シートやアラミド繊維シートなどの補強繊維シートを接着剤にて貼り付けたり、巻き付けたりする連続繊維シート接着工法が行われている。本発明の補強方法は、斯かる連続繊維シート接着工法において上記構成とされる定着アンカー1を使用してコンクリート構造物100の耐震補強を有効に実施することができる。
つまり、本発明にて、定着アンカー1は、図1(a)~(c)、図2(a)、(b)、図12(a)~(e)に示すように、定着アンカー1の一側の取付部1aを、コンクリート構造物に貼着された補強繊維シート50の端部に近接して形成された取付孔10に埋め込み、取付孔10に固着する。一方、定着アンカーの他側の定着部1b(1b1、1b2)は、コンクリート構造物100の補強対象領域に既に貼着されている補強繊維シート50の端部に接着する。
次に、図12(a)~(e)、更には、図2(a)、(b)をも参照して本発明に従って実施されるコンクリート構造物の連続繊維シート接着工法による補強方法及び補強構造について説明する。
本実施例の説明では、図2(a)にて、右側の壁部材120Aの補強について、また、定着アンカー1については、図2(b)に示すように、右側の壁部材120Aの下端の定着について述べるが、上端の定着も同様に行われることを理解されたい。また、左側の壁部材120Bの下端及び上端の定着も同様に行うことができる。従って、以下の説明では、右側、左側の壁部材120A、120Bを区別することなく単に「壁部材120」と総称し、また、上床版110A、下床版110Bを区別することなく単に「床版110」と総称して説明する。
(第1工程:取付孔形成)
図12(a)に示すように、必要により、コンクリート構造物100の被補強面、即ち、本実施例では、補強繊維シート50が接着される壁部材120の被接着面120aの脆弱部を、ディスクサンダー、サンドブラスト、スチールショットブラスト、ウォータージェットなどの研削手段により除去し、コンクリート構造物100の被接着面120aから表面脆弱層を除去した面となるように下地処理をする。
本発明によると、上記の下地処理後に、或いは、下地処理に先立って、定着アンカー1を取付けるための取付孔10が穿設される。
図12(a)、図2(b)に示すように、本実施例では、コンクリート構造物100における壁部材120と床版110との接続部101の隅角部には、構造物内面にハンチ140が形成されている。従って、被接着面120aの、ハンチ140に隣接した領域或いはハンチ140領域に定着アンカー1の取付部1aを受容するための所定の長さ(L10)とされる取付孔10が形成される。
更に説明すれば、コンクリート構造物100にて、本実施例に示すように、両コンクリート部材110、120の接合部101の隅角部CRにハンチ140が形成されている場合は、取付孔10は、取付孔中心線10CLが壁部材120の内側表面120aに対して所定の角度(θ)にて、且つ、中心線10CLがハンチ140と壁部材120との境界部から△Eだけ離間して、ハンチ140から接合部101へと延在して、又は、床版110の方向へと延在して穿孔される。このとき、距離△Eは、例えば、△E=0~10mmだけ離間するようにするのが穿孔作業上好ましいが、場合によっては、△Eはマイナス、即ち、取付孔中心線10CLがハンチ140と壁部材120との境界部から更に壁部材120の内側表面120a側へと位置していても良い。また、取付孔中心線10CLの角度(θ)は、135°以上180°未満とすることにより、取付孔10を接合部101の方に延在して穿設することができるが、これに限定されるものではない。もし、取付孔中心線10CLの角度(θ)を180°以上、225°程度とすることにより、取付孔10を、接合部101に隣接した床版110の方へと延在して穿設することもできる。
このように、本発明によれば、取付孔10は、接着された補強繊維シート50の端部に隣接して補強繊維シート被接着面120aに、或いは、ハンチ140を貫通して接合部101の方へと延在して、更には、接合部101に隣接した床版110に形成される。
図12(b)に図示するように、取付孔10は円形状の孔とされ、定着アンカー1の取付部10aを受容し得る寸法、形状とされ、直径(D10)は10~70mm、深さ(L10)は、15~60cmとされる。一例を挙げれば、例えば、直径(D10)は25mmの円形状で、深さ(L10)が30cmとされる。ただ、取付孔10の断面形状は、円形状孔に限定されるものではなく、例えば、円形状と同等断面積とされる円形状に近似した楕円形状、長円形状、更には、多角形状などの近似円形状とすることもできる。
取付孔10は、図12(b)に示すように、壁部材120の幅方向に所定のピッチPで複数の孔が形成される。定着アンカー1の寸法にもよるが、通常、ピッチPは、50cm以下とされ、好ましくは、5~40cmとされる。本実施例では、後述するように、20cmとした。
(第2工程:補強繊維シート貼付け)
図12(c)に示すように、好ましくは、下地処理した面120aにポリウレア樹脂パテ剤又はウレアウレタン樹脂剤などの弾性樹脂41Aを、本実施例ではポリウレア樹脂パテ剤を所要の厚さ(T41)にて塗布し、反応硬化させて、弾性層41を形成する。補強繊維シート50が接着剤42にて弾性層41を介してコンクリート構造物の表面120aに貼着される。
なお、弾性層41は省略して、図13(a)に示すように、補強繊維シート50は直接コンクリート構造物の表面120aに接着剤42にて貼着することもできる。しかしながら、詳しくは後述するが、本発明によれば、コンクリート構造物の表面120aに貼着された補強繊維シート50の端部には、定着アンカー1が定着されるが、図13(b)に示すように、少なくとも、定着アンカー1が定着される補強繊維シート50の端部領域L50は、弾性層41を介して接着剤42にてコンクリート構造物の表面120aに貼着されるのが好ましい。
弾性樹脂41A(弾性層41)の塗布厚さ(T41)は、被接着面120aの表面の凹凸、補強繊維シート50の厚さに応じて適宜設定されるが、一般にT41=0.2~10mm程度とされる。また、通常、ポリウレア樹脂パテ剤41Aは、被接着面120aの塗布領域の全域に一様に塗布されるが、場合によっては、部分的であっても良い。
上述の下地処理面120aに弾性層41を形成する前に、下地処理面120aにプライマーを塗布することもできる。プライマーとしては、ウレタン樹脂プライマーなどのウレタン樹脂系、エポキシ樹脂系、及び、MMA樹脂系など、弾性層41と被補強コンクリート構造物100の材質に合わせて適宜選定される。
本実施例でのポリウレア樹脂パテ剤、即ち、弾性層41を形成する弾性樹脂材料(弾性層形成材)41Aは、主剤、硬化剤、充填剤、添加剤などを含んでおり、その組成の一例を示せば、下記の通りとされる。
(i)主剤:イソシアネート(例えば、4,-4’ジフェニルメタンジイソシアネート)を反応成分とするプレポリマーであり、末端残存イソシアネートがNCO重量%で1~16重量部に調整されたものを使用する。
(ii)硬化剤:主成分として芳香族アミン(例えば、アミン価80~90)含む硬化剤を使用し、主剤のNCO:アミン比で、1.0:0.55~0.99重量部で計算されたものを使用する。更には、硬化促進剤としてp-トルエンスルホン酸塩を含むこともできる。
(iii)充填剤:硅石粉、搖変剤等が含まれ、1~500重量部で適宜配合される。
(iv)添加剤:着色剤、粘性調整剤、可塑剤等が含まれ、1~50重量部で適宜配合される。
ここで、弾性樹脂、本実施例で使用したポリウレア樹脂パテ剤は、温度-10℃~50℃時において硬化時における、引張伸びが100%以上、好ましくは400%以上600%以下;引張強度が5N/mm以上、好ましくは8N/mm以上10N/mm以下;引張弾性率が30N/mm以上、好ましくは40N/mm以上500N/mm以下、より好ましくは60N/mm以上100N/mm以下;0スパン塑性伸びが3mm以上25mm以下とされる。
硬化時における引張伸びが100%未満、引張強度が5N/mm未満、引張弾性率が30N/mm未満では、必要な補強応力伝達ができず、また逆に、硬化時における引張伸びが600%を超え、引張強度が10N/mmを超え、引張弾性率が100N/mmを越えると、特に、500N/mmを超えると、伸び性能が不足するといった問題が生じる。
更に、0スパン塑性伸びは、上述のように、温度-10℃~50℃において、3mm以上25mm以下とされるが、0スパン塑性伸びが3mm未満では、コンクリート構造物に発生した場合のひび割れを拘束し、ひび割れ分散性を良くする効果が低減する。0スパン塑性伸びが25mm以下とされるのは、引張弾性率が60N/mmあるもので25mm以上の0スパン塑性伸びの性能を持つものを製造することは技術的に難しいからである。
また、ポリウレア樹脂をパテ剤として使用するためには、23℃におけるBM型粘度計による2回転での粘度が200~700Pa・sで、回転数20回転では60~100Pa・sの範囲にあり、チクソトロピックインデックス、即ち、回転粘度計による異なる回転数による粘度の測定値の比(回転数20回転における粘度÷2回転の粘度)が4~7であることが望ましい。
すなわち、粘度が60Pa・sより小さくチクソトロピックインデックスが4未満であれば、塗付後にダレ等が生じ塗付面の平滑性及び天井面、壁面の塗布が困難となり、また逆に、粘度が100Pa・sより大きくチクソトロピックインデックスが7を超えると樹脂が硬く、混合に問題があり、且つ、平滑に塗布することも困難になる。
ポリウレア樹脂パテ剤は、コンクリート構造物補強用弾性層形成材として使用し、剥離防止、補修補強効果を達成することができ、定着強度、曲げ強度(耐力)及び靭性を増大させ、コンクリート構造物の補強工法に極めて好適に使用し得る。
つまり、上記パテ剤41A(弾性層41)は、補強繊維シート50の力をコンクリート構造物に伝達し、良好な補強を達成する。また、本実施例の補強方法によれば、ひび割れの分散性が良好である。
また、上記組成のポリウレア樹脂パテ剤は、冬場においても柔軟性を有し、コンクリート構造物の良好な補強を達成することができ、また、ウレアウレタン樹脂剤も又、ポリウレア樹脂パテ剤と同様の性能を発揮し得る。
図12(c)に示すように、コンクリート構造物表面120aに弾性樹脂41Aを塗布した場合には、弾性樹脂41Aが硬化し、弾性層41が形成されると、この弾性層41の上に接着剤42を塗布し、この面に、補強繊維シート50を押し付けて補強対象コンクリート構造物100の表面120aに弾性層41を介して接着する。
本発明においては種々の形態の補強繊維シート50を使用することができる。補強繊維シート50の実施例を具体的に具体例1~3として説明するが、本発明で使用する補強繊維シート50の形態は、これら具体例に示すものに限定されるものではない。
補強繊維シート具体例1
図16に、本発明にて使用することのできる補強繊維シート50の一具体例を示す。補強繊維シート50は、連続した強化繊維fを一方向に引き揃えてシート状に構成される樹脂未含浸の繊維シートとされる。
即ち、補強繊維シート50は、一方向に引き揃えた連続した強化繊維fから成る強化繊維シートをメッシュ状の支持体シートなどとされる線材固定材53にて保持した構成とすることができる。例えば、強化繊維fとして炭素繊維を使用した場合には、例えば平均径7μmの単繊維(炭素繊維モノフィラメント)fを6000~24000本収束した樹脂未含浸の単繊維束を複数本、一方向に平行に引き揃えて使用される。炭素繊維シート50の繊維目付は、通常、30~1200g/mとされる。本発明の補強方法では、本発明に従った構成の定着アンカー1を使用することによって、特に、繊維目付が1000g/m以上、例えば1200g/mとされる高繊維目付の補強繊維シート50を使用した場合も、端部剥離を起こすことなく、極めて有効に耐震補強を実現することができる。
線材固定材53としてのメッシュ状の支持体シートを構成する縦糸54及び横糸55の表面に低融点タイプの熱可塑性樹脂を予め含浸させておき、メッシュ状支持体シート53をシート状に配列した炭素繊維の片面或いは両面に積層して加熱加圧し、メッシュ状支持体シート53の縦糸54及び横糸55の部分を炭素繊維シートに溶着する。
メッシュ状支持体シート53は、2軸構成のほかに、ガラス繊維を3軸に配向して形成したり、或いは、ガラス繊維を一方向に配列された炭素繊維に対して直交する横糸55のみを配置した、所謂、1軸に配向して形成して前記シート状に引き揃えた炭素繊維に接着することもできる。
又、上記線材固定材53の糸条としては、例えばガラス繊維を芯部に有し、低融点の熱融着性ポリエステルをその周囲に配したような二重構造の複合繊維も又好ましく用いられる。
なお、補強繊維シート50は、強化繊維fとしては、炭素繊維に限定されるものではなく、ガラス繊維、バサルト繊維;ボロン繊維、チタン繊維、スチール繊維などの金属繊維;更には、アラミド、PBO(ポリパラフェニレンベンズビスオキサゾール)、ポリアミド、ポリアリレート、ポリエステル、高強度ポリエステルなどの有機繊維;が単独で、又は、複数種混入してハイブリッドにて使用することができる。
補強繊維シート具体例2
図17(a)~(c)に補強繊維シート50の他の具体例を示す。本具体例の補強繊維シート50は、マトリクス樹脂Rが含浸され硬化された細径の連続した繊維強化プラスチック線材52を複数本、長手方向にスダレ状に引き揃え、各線材52を互いに線材固定材53にて固定した繊維シートとされる。
繊維強化プラスチック線材52は、直径(d)が0.5~3mmの略円形断面形状(図17(b))であるか、又は、幅(w)が1~10mm、厚み(t)が0.1~2mmとされる略矩形断面形状(図17(c))とし得る。勿論、必要に応じて、その他の種々の断面形状とすることができる。
上述のように、一方向に引き揃えスダレ状とされた繊維シート50において、各線材52は、互いに空隙(g)=0.05~3.0mmだけ近接離間して、線材固定材53にて固定される。また、このようにして形成された繊維シート50の長さ(L50)及び幅(W50)は、必要に応じて、また、補強される構造物の寸法、形状に応じて適宜決定されるが、取扱い上の問題から、一般に、全幅(W50)は、10~100cmとされる。又、長さ(L50)は、1~5m程度の短冊状のもの、或いは、100m以上のものを製造し得るが、使用時においては、適宜切断して使用される。
また、繊維シート50の長さ(L50)を1~5m程度として、幅(W50)をこれより長く1~10m程度として製造することも可能である。
本具体例の繊維シート50の場合においても、強化繊維fとしては、炭素繊維、ガラス繊維、バサルト繊維;ボロン繊維、チタン繊維、スチール繊維などの金属繊維;更には、アラミド、PBO(ポリパラフェニレンベンズビスオキサゾール)、ポリアミド、ポリアリレート、ポリエステル、高強度ポリエステルなどの有機繊維;が単独で、又は、複数種混入してハイブリッドにて使用することができる。また、繊維強化プラスチック線材52に含浸されるマトリクス樹脂Rは、熱硬化性樹脂又は熱可塑性樹脂を使用することができ、熱硬化性樹脂としては、常温硬化型或は熱硬化型のエポキシ樹脂、ビニルエステル樹脂、MMA樹脂、アクリル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、又はフェノール樹脂などが好適に使用され、又、熱可塑性樹脂としては、エポキシ樹脂、ポリアミド樹脂、ポリビニルフォルマール樹脂などが好適に使用可能である。又、繊維体積含有率(Vf)は、40~75%、好ましくは、50~70%とされる。
又、各線材52を線材固定材53にて固定する方法としては、図17(a)に示すように、例えば、線材固定材53として横糸を使用し、一方向にスダレ状に配列された複数本の線材52から成るシート形態とされる線材、即ち、連続した線材シートを、線材に対して直交して一定の間隔(P)にて打ち込み、編み付ける方法を採用し得る。横糸53の打ち込み間隔(P)は、特に制限されないが、作製された繊維シート50の取り扱い性を考慮して、通常10~100mm間隔の範囲で選定される。
このとき、横糸53は、例えば直径2~50μmのガラス繊維或いは有機繊維を複数本束ねた糸条とされる。又、有機繊維としては、ナイロン、ビニロン、ポリエステルなどが好適に使用される。
各線材52をスダレ状に固定する他の方法としては、上述した図16に示すように、線材固定材53としてメッシュ状支持体シートを使用することができる。つまり、シート形態を成すスダレ状に引き揃えた複数本の線材52、即ち、線材シートの片側面、又は、両面を、例えば直径2~50μmのガラス繊維或いは有機繊維にて作製した、上記具体例1で説明したと同様の構成とされるメッシュ状の支持体シート53により支持した構成とすることもできる。
更に、各線材52をスダレ状に固定する他の方法としては、図示していないが、線材固定材53として、例えば、粘着テープ又は接着テープなどとされる可撓性帯材を使用することができる。可撓性帯材53は、シート形態を成すスダレ状に引き揃えた各繊維強化プラスチック線材52の長手方向に対して垂直方向に、複数本の繊維強化プラスチック線材52の片側面、又は、両面を貼り付けて固定する。つまり、可撓性帯材53として、幅2~30mm程度の、塩化ビニルテープ、紙テープ、布テープ、不織布テープなどの粘着テープ又は接着テープが使用される。これらテープを、通常、10~100mm間隔(P)で各繊維強化プラスチック線材52の長手方向に対して垂直方向に貼り付ける。
更に、可撓性帯材53としては、ナイロン、EVA樹脂などの熱可塑性樹脂を帯状に、線材2aの長手方向に対して垂直方向に片側面、又は、両面に熱融着させることによっても達成される。
補強繊維シート具体例3
本発明にて使用することのできる補強繊維シート50としては、図16、図17に示すような繊維シート50に樹脂を含浸し、この樹脂が硬化された繊維シート(所謂、FRP板)とすることもできる。勿論、この繊維シート50は、一方向或いは複数方向に繊維が配列した単層或いは複数層から成る板厚0.5~10mm程度のFRP板とすることもできる。
また、本具体例3における繊維シート50の場合の含浸樹脂としては、熱硬化性樹脂又は熱可塑性樹脂を使用することができ、熱硬化性樹脂としては、常温硬化型或は熱硬化型のエポキシ樹脂、ビニルエステル樹脂、MMA樹脂、アクリル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、又はフェノール樹脂などが好適に使用され、又、熱可塑性樹脂としては、エポキシ樹脂、ポリアミド樹脂、ポリビニルフォルマール樹脂などが好適に使用可能である。又、繊維体積含有率(Vf)は、40~75%、好ましくは、50~70%とされる。
ここで、再度コンクリート構造物の補強方法に戻って説明すれば、本発明のコンクリート構造物の補強方法によれば、補強繊維シート50は、図12(c)に図示するように、コンクリート構造物100の表面120aに形成された弾性層41の上に接着剤42にて接着して一体化する。この時、上記(補強繊維シート)具体例1、2で説明した補強繊維シート50を使用した場合には、補強繊維シート50のコンクリート構造物100への接着と同時に、この接着剤42による補強繊維シート50に対する樹脂(マトリクス樹脂)含浸をも行うことができる。
コンクリート構造物100の補強に際して、曲げモーメント及び軸力を主として受ける部材(構造物)に対しては、曲げモーメントにより生じる引張応力或いは圧縮応力の主応力方向に強化繊維の配向方向を概ね一致させて接着することで、補強繊維シート50が効果的に応力を負担し、効率的に構造物の耐荷力を向上させることが可能である。
また、直交する2方向に曲げモーメントが作用する場合、補強繊維シート50の強化繊維fの配向方向が曲げモーメントにより生じる主応力に概ね一致するように2層以上の補強繊維シート50を直交させて積層接着することで効率的に曲げ負荷及びせん断負荷に対する耐荷力の向上が図れる。
接着剤42として、常温硬化型エポキシ樹脂、エポキシアクリレート樹脂、アクリル樹脂、MMA樹脂、ビニルエステル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、光硬化型樹脂等が挙げられ、具体的には、常温硬化型エポキシ樹脂及びMMA樹脂が好適とされる。
本実施例では、エポキシ樹脂接着剤を使用した。例えば、エポキシ樹脂接着剤は、主剤、硬化剤の2成分型により提供され、その組成の一例を示せば、下記の通りとされる。
(i)主剤:主成分としてエポキシ樹脂を含み、接着増強付与剤として、必要に応じてシランカップリング剤を含むものを使用する。エポキシ樹脂は、例えば、ビスフェノール型エポキシ樹脂、特に、靭性付与のためのゴム変性エポキシ樹脂とすることができ、更に、反応性希釈剤及び搖変剤を用途に応じて添加しても良い。
(ii)硬化剤:主成分としてアミン類を含み、必要に応じて、硬化促進剤を含み、添加剤として着色剤を含むものを使用し、主剤のエピクロルヒドリン:硬化剤のアミン当量比は1:1である。アミン類は、例えば、メタキシレンジアミン及びイソホロンジアミンを含む脂肪族アミンとすることができる。
尚、接着剤42は、弾性層41の上に塗布するものとして説明したが、勿論、補強繊維シート50に塗布することもでき、また、弾性層41の表面及び繊維シート50の接着面の両面上に塗布しても良い。
つまり、補強繊維シート50は、弾性層41の表面に接着されると共に、上述したように、本実施例で例えば補強繊維シート50(図17に示す(補強繊維シート)具体例2として説明した補強繊維シート)を使用した場合には、線材52、52間の間隙(g)に樹脂が充填され、また、例えば、(補強繊維シート)具体例1に示す補強繊維シート50のような場合には、接着剤42が補強繊維シート50内の繊維f間に樹脂(マトリクス樹脂)として含浸される。
また、必要補強量が多い場合には、構造物表面に複数層の補強繊維シート50を接着することが可能である。複数層の補強繊維シート50を積層して接着すると、高繊維目付量の補強繊維シート50を接着した場合と同様に、端部に応力集中が生じ、剥離破壊抵抗が低下する。ただ、上述したように、弾性樹脂41Aを使用し、補強繊維シート50とコンクリート構造体100との間に弾性層41を形成することにより、複数枚の補強繊維シート50を積層して使用する場合においても、各補強繊維シート50の端部が剥離を起こすことを抑制することができる。また、上述のように、補強繊維シート50は、複数層にて構造物の表面に積層して接着され、構造物と一体化することができるが、積層された補強繊維シート50の層間に、ポリウレア樹脂等の弾性樹脂41Aを塗布して硬化させ弾性層を形成することもできる。
更に、本発明によれば、高繊維目付量の補強繊維シート50を接着した場合であっても、以下に説明するように、補強繊維シート50の端部を本発明に従って構成される定着アンカー1にてコンクリート構造物の表面に極めて有効に定着することができ、補強繊維シート50と定着アンカー1との間の層間の剥離強度を大とし、定着アンカー1の破壊強度が増加し、補強繊維シート50の端部剥離を回避し、所期の補強効果を達成することができる。
(第3工程:定着アンカーの取付け)
次に、図12(d)、(e)を参照して、定着アンカー1の取付孔10への固着、及び、補強繊維シート50端部への定着について説明する。
本実施例においては、図12(c)、(d)に示すように、定着アンカー1の一側の取付部1aを、コンクリート構造体100に形成した取付孔10に埋め込み、上述したと同様の接着剤42などにて取付孔10に固着する。一方、定着アンカー1の他側の定着部1b(1b1、1b2)は、壁部材120の補強対象領域に既に貼着されている補強繊維シート50の端部に接着剤42にて接着する。
更に説明すると、定着アンカー1の取付部1aを、上述のようにして形成された取付孔10に取付けるに際して、先ず、取付孔10内にプライマー、例えば、エポキシ樹脂プライマーを塗布する。ただ、プライマーは必ずしも必要とするものではない。
本実施例にて使用される、図1(a)~(c)などを参照して説明した構成の樹脂未含浸の連続繊維ストランド2を有した、所謂、ドライの定着アンカー1に樹脂42を含浸させる。樹脂含浸は、例えば、樹脂が満たされた容器内に定着アンカー1を浸漬することで行うことができるが、これに限定されるものではなく任意の方法を採用し得る。定着アンカー1における樹脂含有量は、20~75重量%、好ましくは、40~60重量%とされる。
定着アンカー1に含浸される樹脂42としては、上述したように、上記補強繊維シート50の接着に使用したと同様の樹脂を使用することができ、常温硬化型エポキシ樹脂、エポキシアクリレート樹脂、アクリル樹脂、MMA樹脂、ビニルエステル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、光硬化型樹脂等が挙げられ、具体的には、常温硬化型エポキシ樹脂及びMMA樹脂が好適とされる。
図12(d)に示すように、樹脂含浸された定着アンカー1は、可撓性を有した樹脂未硬化の状態で一端の取付部1aを先端部、即ち、定着部1bとは反対側の端部より順次、取付孔10内に挿入して設置する。
一方、定着アンカー1の他側の定着部1b(1b1、1b2)は、壁部材120の補強対象領域に既に貼着されている補強繊維シート50の上に接着する。本実施例においては、定着アンカー1の定着部1bの定着面積を大とするために、図1(a)、(b)及び図12(e)に示すように、定着部1bが扇状に拡開した扇状定着部1b2及び矩形広幅シート状定着部1b1とされ、この定着部1bにて壁部材120に貼付された補強繊維シート50の端部が定着される。
なお、複数の定着アンカー1にて補強繊維シート50の端部を定着する場合には、図12(e)に示すように、隣り合った定着アンカー1の矩形定着部1b1が重なり幅△W、即ち、△W=1~20mmの間で重なり合うように貼着することもできるが、重ならなくても良い。
本発明によれば、樹脂が含浸され、樹脂が未だ未硬化状態の定着アンカー1は可撓性を有しているために、定着アンカー1は、取付孔10から壁部材120の補強繊維シート50へと容易に変形することができる。
なお、必要に応じて、取付孔10に挿入接着された定着アンカー1に対して更に接着剤42を塗布して空隙を充填することができる。
定着アンカー1を取付孔10及び補強繊維シート50に接着した後、定着アンカー1の含浸樹脂42は、常温にて硬化させるか、又は、熱硬化型液状樹脂を使用し、取付孔10及び補強繊維シート50に設置した後、加熱して硬化させることも可能である。これにより、定着アンカー1の含浸樹脂が硬化すると共に、定着アンカー1の取付部1aが取付孔10内に固着すると共に定着アンカー1の定着部1b(1b1、1b2)が補強繊維シート50の上に接着される。本実施例では、定着アンカー1に含浸された樹脂が、連続繊維補強部材1の取付孔10への固着剤としても機能する。
上記説明では、定着アンカー1の定着部1b(1b1、1b2)は、壁部材120の補強対象領域120aに既に貼着されている補強繊維シート50の上に接着するものとして説明したが、壁部材構造、或いは、施工上の都合などによって、図14(a)、(b)に示すように、定着アンカー1の取付部1aと補強繊維シート50の先端部50aとが接触しない領域△Lが生じることがある。つまり、定着アンカー1の定着部1b(1b1、1b2)の一部が、例えば、図14(a)に示すように定着部1bの扇状定着部1b2が、更には、広幅シート状定着部1b1の一部をも含んだ定着部1bが補強繊維シート50と接触しない場合が生じることがある。
この場合は、図14(b)に示すように、定着アンカー1の取付部1aと補強繊維シート50の端部先端部50aとの間の領域△Lに位置するコンクリート構造物の表面120aには、補強繊維シート50の貼着作業に使用したと同じポリウレア樹脂パテ剤又はウレアウレタン樹脂剤などの弾性樹脂41Aを所要の厚さ(T41)にて塗布し、反応硬化させて、弾性層41を形成し、その後、定着アンカー50を接着剤42にてコンクリート構造物表面120aに貼着するのが好ましい。勿論、補強繊維シート50は、上述したように、弾性層41を介してコンクリート構造物の表面120aに接着しても良く(図13(b))、或いは、弾性層41を介することなく(図13(a)、図14(b))直接コンクリート構造物の表面120aに貼着しても良い。
定着アンカー1とコンクリート構造物の表面120aとの間に弾性層41を形成することにより、定着アンカー1の剥離防止、補修補強効果を増大することができる。つまり、定着アンカー1の定着強度を増大させ、定着アンカー1の破壊強度を大とし、コンクリート構造物の所期の補強効果を得ることができる。
つまり、上記パテ剤(弾性層)41は、定着アンカー1、更には、補強繊維シート50の力をコンクリート構造物に伝達し、良好な補強を達成することができる。従って、補強繊維シート50の繊維目付量が1000g/m以上、例えば1200g/mであっても、また、定着アンカー1の連続ストランドの本数を144本以上、例えば288本とした場合でも、定着アンカー1と補強繊維シート50との間の層間剥離強度を増大させ、定着アンカーの破壊強度を増加させ、定着アンカー1にて定着された補強繊維シート50のコンクリート構造物表面からの端部剥離を有効に防止することができる。
上記諸工程にて、壁部材120に対して、繊維強化プラスチック(FRP)材とされた定着アンカー1にて端部定着された補強繊維シート50により曲げ及び/又はせん断補強がなされる。本発明は、作業工程が極めて容易であり、熟練作業者を必ずしも必要とせず、作業時間の短縮を図ることができる。
更に、定着アンカー1及び補強繊維シート50の樹脂が硬化した後、必要に応じて耐候性を向上させるために、壁部材120の面に露出している定着アンカー1及び補強繊維シート50の表面に保護塗装を施すことができる。保護塗装としては、例えば、アクリル系塗料を塗布することができる。
実施例2
図2(a)、(b)、図12(a)~(e)に示す上記実施例1の説明では、壁部材120と床版110とが交差する隅角部CRにはハンチ140が形成される構成について説明したが、図15(a)~(c)に図示するように、本発明はハンチ140が形成されていない構成においても同様に適用して有効である。
つまり、図15(a)に図示するように、所定の長さ(L10)とされる取付孔10は、取付孔中心線10CLが壁部材120の内側表面120aに対して所定の角度(θ)にて、且つ、中心線10CLが隅角部CRから△Eだけ床版110側へと離間して床版110から接合部101へと穿孔される。このとき、距離△Eは、例えば、△E=0~10mmだけ離間するようにするのが穿孔作業上好ましいが、場合によっては、△Eはマイナス、即ち、取付孔中心線10CLが壁部材120の内側表面120a側へと位置していても良い。また、取付孔中心線10CLの角度(θ)は、135°以上180°未満とすることにより、取付孔10を接合部101の方に延在して穿設することができるが、これに限定されるものではない。もし、取付孔中心線10CLの角度(θ)を180°以上、225°程度とすることにより、取付孔10を、接合部101に隣接した床版130の方へと延在して穿設することもできる。
このように、ハンチ140が形成されていない本実施例2においても、取付孔10は、壁部材120と床版110との接合部101、或いは、接合部101に隣接した床版110の方へと延在して形成される。
図15(a)~(c)に図示するように、本実施例における取付孔10の形状、構成、更には、本発明に従った補強方法及び補強構造等は、上記実施例1と同様の構成とすることができるので、上記実施例1で説明した部材と同じ部材には同じ参照番号を付して、これ以上詳しい説明は上記説明を援用し、再度の説明は省略する。
実施例3
図18(a)~(d)に本発明に使用する定着アンカー1の他の実施例を示し、図19(a)~(d)に、本実施例3の定着アンカー1が、上記実施例で説明したと同様に、箱桁の壁部材120のようなコンクリート構造物100の補強に使用される場合の実施例について説明する。
コンクリート構造物100の箱桁の壁部材120の耐震補強においては、連続補強繊維部材、即ち、補強繊維シート50としては、繊維目付量の大きい、例えば、1200g/mを超えるような補強が要求される。その場合には、例えば、24000本の炭素繊維から成る連続ストランド144本を超えて使用することが必要となる。
従来、コンクリート構造物に対する必要補強量が多い場合には、図19(a)に示すように、構造物表面120aに複数層の補強繊維シート50(50a、50b)を積層して接着することが行われる。なお、複数層の補強繊維シート50(50a、50b)を積層して接着すると、端部に応力集中が生じ、剥離破壊抵抗が低下することが知られている。
そこで、剥離破壊を防止するために、図19(b)に示すように、各層の補強繊維シート50(50a、50b)のシート長さLs(Ls1、Ls2)を変化させ、積層された補強繊維シート50(50a、50b)の端部が階段状となるように積層することが行われている。例えば、複数層積層する補強繊維シート50(50a、50b)の長さLs(Ls1、Ls2)は、コンクリート構造物表面120aから離間する外層に行くに従って順に短くして、補強繊維シート50の端部50a1、50b1を階段状に積層する。端部50a1、50b1のずらし長さ(h)は、h=10~30cm程度とするのが適当である。
つまり、複数層積層する補強繊維シート50(50a、50b)の長さ(Ls)を外層を20~60cm程度短くして端部50a1、50bを階段状に積層することにより、補強繊維シート端部50a1、50bでの応力集中を低減し、剥離抵抗を向上させることが可能である。なお、上述のように、本発明によれば、補強繊維シート50は、複数層にて構造物の表面120aに積層して接着され、構造物と一体化することができるが、積層された補強繊維シート50(50a、50b)の層間に、ポリウレア樹脂等の弾性樹脂41Aを塗布して硬化させ弾性層41を形成することもできる。
本実施例では、使用する補強繊維シート50は、コンクリート構造物の表面に接着する第1の補強繊維シート50aと、第1の補強繊維シート50aの外層として接着する第2の補強繊維シート50bとを有するものとして説明するが、補強繊維シート50は、2層に限定されるものではなく、補強繊維シート50は、3層以上にて積層することも可能である。
次に、図18(a)~(d)を参照して、上述のように補強繊維シート50が複数層にてコンクリート構造物表面に貼着される場合に使用する定着アンカー1の一実施例について説明する。
(定着アンカー)
図18(a)~(d)を参照して説明する本実施例3の定着アンカー1も、先に図1(a)~(c)、図2(a)、(b)などを参照して実施例1にて説明した定着アンカー1と同様に、図19(c)、(d)に示すように、コンクリート構造物表面120aに貼着されたシート状の連続繊維補強部材、即ち、補強繊維シート50の端部定着を行う、所謂、「埋込型」の定着用の繊維アンカーである。
図18(a)、(b)を参照すると理解されるように、本実施例3にて定着アンカー1は、詳しくは実施例1で上述した定着アンカー1と同様に、長さ方向に配向して引き揃えられている20~288本の連続繊維ストランド2にて作製され、一側に取付部1aを他側に定着部1bを有しており、取付部1aは、断面が円形状とされる細長棒状に賦形されており、定着部1bは、矩形状の広幅シート状定着部1b1と、細長棒状取付部1aと広幅シート状定着部1b1との間で細長棒状取付部1aから広幅シート状定着部1b1へと扇状に拡開して細長棒状取付部1aと広幅シート状定着部1b1とを接続している扇状定着部1b2とを有する。
ただ、本実施例3の定着アンカー1の広幅シート状定着部1b1は、実施例1の定着アンカー1とは異なり、扇状定着部1b2に連接して形成された所定の第1の繊維目付量とされる第1の広幅シート状定着部1b1aと、第1の広幅シート状定着部1b1aから扇状定着部1b2とは反対側へと軸線方向に延在して形成され、第1の広幅シート状定着部1b1aの第1の繊維目付量より小さい所定の第2の繊維目付量とされる第2の広幅シート状定着部1b1bと、を有している。
本実施例にて、定着アンカー1は、図18(b)に示すように、軸線方向の全体の長さL1が、通常、70~180cmとされる。
つまり、定着アンカー1の細長棒状取付部1aは、軸線方向の長さL1aが10~50cm、直径D1が8~60mmとされる。軸線方向の長さL1aが10cm未満で且つ直径D1が8mm未満の場合、定着アンカー1のコンクリート構造物への取付固着力が小さく不十分であり、また、軸線方向の長さL1aが50cmを超え、且つ直径D1が60mmを超えると、定着アンカー1のコンクリート構造物への取付固着力が必要以上に大となり、コスト高となる。通常、定着アンカー1の細長棒状取付部1aは、軸線方向の長さL1aが20~40cm、直径D1が10~50mmとされる。
広幅シート状定着部1b1の第1の広幅シート状定着部1b1aは、軸線方向の長さL1b1aが10~30cm、幅W1が20~50cmとされる。また、第2の広幅シート状定着部1b1bは、軸線方向の長さL1b1bが10cm以上、通常、50cm以下とされ、第2の広幅シート状定着部1b1bは第1の広幅シート状定着部1b1aの幅W1と同じとされ、20~50cmとされる。第1の広幅シート状定着部1b1a及び第2の広幅シート状定着部1b1bの軸線方向の長さL1b1a、L1b1bが10cm未満で且つ幅W1が20cm未満の場合、定着アンカー1の定着力の増大が望めない。また、第2の広幅シート状定着部1b1bの軸線方向の長さL1b1bが50cmを超えると、定着能力は増大するが、定着アンカー1としては必要以上の材料を使用することとなり、コスト高となる。通常、定着アンカー1の広幅シート状定着部1b1の軸線方向の長さL1b1は、製造上、取扱い性などの点から20~45cm、幅W1が30~40cmとされる。
定着部1bの扇状定着部1b2は、軸線方向の長さL1b2が10~100cmとされる。軸線方向の長さL1b2が40cm未満で、且つ、扇形最大幅、即ち、肩幅(広幅シート状定着部1b1の幅)W1が50cmを超えると、つまり、連続繊維ストランド2の最大拡開角度αmaxが大きくなり過ぎると、連続繊維ストランド2を構成する繊維f、特に高弾性の炭素繊維などを使用した場合には、繊維fが折損する場合が生じ問題が発生する。通常、定着部1bの扇状定着部1b2は、軸線方向の長さL1b2が40~80cmとされる。
上記構成とされる本実施例の定着アンカー1は、図19(b)、(c)に示すように、コンクリート構造物100の表面に積層して貼着された補強繊維シート50(50a、50b)の端部(50a1、50b1)がコンクリート構造物表面120aから剥離するのを回避するために補強繊維シート50の端部に定着部1bを重ねて貼着し、取付部1aを、コンクリート構造物100に穿設した取付孔に埋め込み固定して定着を行う。
本実施例の定着アンカー1は、図19(b)、(c)に例示するように、コンクリート構造物表面120aから離間する外層に行くに従って順に短くして積層された2層を成す補強繊維シート50(50a、50b)の端部50a1、50b1に定着部1b、特に、広幅シート状定着部1b1を重ねて貼着し、取付部1aを、コンクリート構造物100に穿設した取付孔10に埋め込み固定して定着を行うことができる。これにより、補強繊維シート端部(50a1、50b1)を階段状に積層して貼着された第1及び第2の補強繊維シート50(50a、50b)の端部50a1、50b1がコンクリート構造物表面から剥離するのを有効に回避することができる。
つまり、図19(c)に示す本実施例を参照して説明すれば、図18(a)、(b)に示す本実施例の定着アンカー1は、広幅シート状定着部1b1の第1の広幅シート状定着部1b1aが第1の補強繊維シート50aの端部50a1に接着され、第2の広幅シート状定着部1b1bが第2の補強繊維シート50bの端部50b1に接着して定着される。これにより、端部(50a1、50b1)での応力集中を低減し、剥離抵抗を向上させることができる。
上記説明では、第1の補強繊維シート50aの端部50a1は、第1の広幅シート状定着部1b1aに接着されるものとしたが、図19(d)に示すように、第1の広幅シート状定着部1b1aのみならず、更に、扇状定着部1b2にも接着するようにしても良い。
なお、広幅シート状定着部1b1aの端面と第2の補強繊維シート50bの端部50b1の端面とは密着接合してもよいが、空隙△Gを設けることもできる。即ち、△G=0~5cmとされ、特に、例えば△G=1~5cm程度とすることにより、定着アンカー1と補強繊維シートとの間の突合せ部の応力集中を緩和し、継手強度を向上させることができ、本発明では、定着強度の増大を図ることができる。
上記本実施例の説明では、積層される補強繊維シート50は2層構成であるとしたが、これに限定されるものではなく、3層以上とすることもできる。勿論、この場合には、定着アンカー1は、広幅シート状定着部1b1として、第1の広幅シート状定着部1b1a及び第2の広幅シート状定着部1b1bの外に、更に他の第3、第4、・・・の複数の広幅シート状定着部1b13、1b14、・・・を有する構成とされる。
本実施例の定着アンカーもまた、上述したように、本発明の補強方法及び補強構造は、曲げ、せん断に対する耐力を向上させ耐震補強を行うコンクリート構造物に広く適用し得るものであり、例えば橋梁、高架橋等のコンクリート構造物を構成する種々のコンクリー部材に施工され、上記実施例1で説明したと同様の作用効果を奏することができ、更に、端部が階段状に積層された複数層の補強繊維シートにおける端部での応力集中を低減し、剥離抵抗を向上させることができる。
次に、本実施例3に係る定着アンカー1の製造方法を製造実施例に則して説明する。
(3-1)第一の製造実施例
本実施例3の定着アンカー1の第一の製造実施例について説明する。定着アンカー1は、実施例1にて説明したように、上述した特許文献1(特許第4463657号公報)に記載される定着アンカーを作製するために使用される連続繊維ストランドから成る連続繊維補強部材を用いて作製することができる。
つまり、本製造実施例では、先の実施例1の(1-1)第一の製造実施例にて説明した製造方法に従って作製された図7(a)、(b)に示す構成の平面状の強化繊維シート1Aを使用する。強化繊維シート1Aは、この強化繊維シート1Aが有する編み構造、及び、挿入糸4が有する伸縮性により、自由度の高い特性を有しており、図7(a)、(b)に示すように、強化繊維シート1Aの幅方向両端より圧縮することにより、容易に縮むことができ、又、幅方向両端を外方へと引っ張ることにより容易に伸ばすことができる。
本実施例では、図20(a)に示すように、長尺の平面状の強化繊維シート1Aを所定の長さL1wに切断し、例えば、80~150cmの長さに切断し、図20(b)に示すように第1の強化繊維シート1A1と第2の強化繊維シート1A2を作製する。第1の強化繊維シート1A1と第2の強化繊維シート1A2は、幅W3の矩形状部分1b1w(A1)、1b1w(A2)の定着アンカー軸線方向の長さL1b1a、L1b1(L1b1a+L1b1b)が異なるのみで、他の部分は同じ形状、寸法とされる。
次いで、第1の強化繊維シート1A1と第2の強化繊維シート1A2は、長さ方向に細幅部分1aw及び拡開扇形部1b2wを合わせて重ね、その後、矩形状部分1b1w(A1)、1b1w(A2)を重ね合わせ、図20(c)に示す、第1の強化繊維シート1A1と第2の強化繊維シート1A2とが重ね合わされた強化繊維シート1Aを作製する。
次いで、この強化繊維シート1Aは、実施例1で図7(b)~(d)を参照して説明したように、細幅部分1awは、幅(W2)より小さくなるように幅方向に折り畳むことにより、或いは、巻き込んだりすることにより、図18(a)、(b)に示すように、一側に取付部1aを他側に定着部1bを有する構成の定着アンカー1となるように賦形される。つまり、細幅部分1awは、取付部1aとしての断面が直径D1の円形状とされる細長棒状に賦形し、他側は、定着部1bとして、矩形状の幅W1の広幅シート状定着部1b1と、細長棒状取付部1aと広幅シート状定着部1b1との間で細長棒状取付部1aから広幅シート状定着部1b1へと扇状に拡開して細長棒状取付部1aと広幅シート状定着部1b1とを接続している扇状定着部1b2とに賦形される。ただ、本実施例では、定着アンカー1の広幅シート状定着部1b1は、実施例1の定着アンカー1とは異なり、扇状定着部1b2に連接して形成された所定の第1の繊維目付量とされる第1の広幅シート状定着部1b1aと、第1の広幅シート状定着部1b1aから扇状定着部1b2とは反対側へと軸線方向に延在して形成され、第1の広幅シート状定着部1b1aの第1の繊維目付量より小さい、つまり、本実施例では、第1の繊維目付量の半分とされる繊維目付量の第2の繊維目付量とされる第2の広幅シート状定着部1b1bと、を有した構成とされる。
上記実施例では、図20(b)に示すように、長さの異なる2枚の第1の強化繊維シート1A1と第2の強化繊維シート1A2を作製し、この2枚の強化繊維シート1A1、A2を重ね合わせて作製したが、例えば、長さの異なる3枚、またはそれ以上の強化繊維シート1Aを作製し、重ね合わせて、広幅シート状定着部1b1が、繊維目付量の異なる第1、第2、第3、・・・の広幅シート状定着部を有した定着アンカー1を作製することも可能である。
(3-2)第二の製造実施例
図21(a)~(d)に、本実施例3の定着アンカー1の他の製造実施例を示す。本製造実施例においても、定着アンカー1は、上記(1-1)第一の製造実施例と同様に図7(a)、(b)に示す構成の平面状の強化繊維シート1Aを使用する。上述したように、強化繊維シート1Aは、この強化繊維シート1Aが有する編み構造、及び、挿入糸4が有する伸縮性により、自由度の高い特性を有しており、図7(a)、(b)に示すように、強化繊維シート1Aの幅方向両端より圧縮することにより、容易に縮むことができ、又、幅方向両端を外方へと引っ張ることにより容易に伸ばすことができる。
本実施例では、図21(a)に示すように、長尺の平面状の強化繊維シート1Aを所定の長さL1wに切断し、例えば、160~300cmの長さに切断し、この切断された所定長さL1wの細長帯状の強化繊維シート1Aを、図21(b)、(c)に示すように、一側の強化繊維シート1A1の長さLA1wが他側の強化繊維シート1A2の長さLA2wより短くなるように、二つ折りにて折り曲げ、一端で折り曲げられて重ね合わされた第1の強化繊維シート1A1と第2の強化繊維シート1A2とを有した強化繊維シート1Aを作製する。
次いで、図21(d)に示すように、図21(c)にて左側に位置する第1の強化繊維シート1A1と第2の強化繊維シート1A2が接続された長さ(L1a)の折り曲げ部分1awを、幅(W2)より小さくなるように幅方向に折り畳むことにより、或いは、巻き込んだりすることにより、図18(a)、(b)に示すように、一側に、断面が直径D1の円形状とされる長さL1aの細長棒状の取付部1aに賦形される。
更に、重ね合わされた第1の強化繊維シート1A1と第2の強化繊維シート1A2は、幅方向に圧縮したり、或いは、幅方向両端を外方へと引っ張ることなどにより、図21(d)、図18(a)~(c)に示すように、取付部1aの右側部分に、定着部1bとして、矩形状の長さL1b1、幅W1の広幅シート状定着部1b1と、細長棒状取付部1aと広幅シート状定着部1b1との間で細長棒状取付部1aから広幅シート状定着部1b1へと扇状に拡開して細長棒状取付部1aと広幅シート状定着部1b1とを接続している長さL1b2の扇状定着部1b2とに賦形される。本実施例では、定着アンカー1の広幅シート状定着部1b1は、実施例1の定着アンカー1とは異なり、扇状定着部1b2に連接して形成された所定の第1の繊維目付量とされる長さL1b1a、幅W1の第1の広幅シート状定着部1b1aと、第1の広幅シート状定着部1b1aから扇状定着部1b2とは反対側へと軸線方向に延在して形成され、第1の広幅シート状定着部1b1aの第1の繊維目付量より小さい、つまり、本実施例では、第1の繊維目付量の半分とされる繊維目付量の第2の繊維目付量とされる長さL1b1b、幅W1の第2の広幅シート状定着部1b1bと、を有した構成とされる。
実施例4
本発明の補強方法及び補強構造を説明する上記実施例1などにおいては、定着アンカー1は、樹脂含浸させた状態にて、取付孔10内に押し込んで装入配置して固着するものとして説明した。
本発明の曲げ補強方法においては、上記実施例1などに記載するように、定着アンカー1の取付部1aは樹脂含浸させた状態にて、取付孔10内に押し込んで挿入配置して固着するが、定着アンカー1に樹脂を含浸させる際に、更には、樹脂を含浸し取付孔10に挿入する際に、強化繊維に揺らぎが生じたり、更には、取付孔10内に空気が混入したり、取付孔10内に空隙が生じたりすることを完全に防止し得ない虞がある。
そこで、定着アンカー1を取付孔10内に押し込むに先立って、取付孔10内に予め先込充填樹脂を充填して置き、この樹脂が充填された取付孔10内に、樹脂が含浸された定着アンカー1の取付部1aを挿入することができる。これにより、定着アンカー1が取付孔10内に挿入される際に、取付孔10の内壁と擦過し繊維に損傷を生じることを防ぎ、繊維の直線性を保持することが可能であり、また、取付孔10内に空気が混入し残存することで生じる空隙を防ぎ、定着アンカー1の取付部1aが躯体と強固に接着し硬化することが分かった。従って、斯かる手段をとることによって、樹脂を含浸し取付孔10に挿入する際に、強化繊維に揺らぎが生じたり、更には、取付孔10内に空気が混入したり、取付孔10内に空隙が生じたりすることを防止することができる。
更に、図22(a)~(c)を参照して説明すれば、定着アンカー1を取付孔10内に挿入する際に、挿入時の定着アンカー1の直線性を保持し、挿入をスムーズに行うために定着アンカー1の取付部1aの挿入端部に細長形状の挿入棒部材70を取付け、先込充填樹脂60が充填された取付孔10へと棒材70を押し込みことにより、定着アンカー1の取付部1aを取付孔10内へと極めて容易に押し込むことができる。棒材70は、そのまま取付孔10内に埋設し、固着することができる。
挿入棒部材70としては、図22(a)に一例を示すように、直径(D70)が4~8mm、長さ(L70)は、取付孔10と略同じ長さ、或いは、より長くされ、通常、L70=15~50cm程度とされる。挿入棒部材70は、限定するものではないが、金属製とされ、例えばステンレススチール、鋼材、などで作製することができる。
一例によれば、図22(a)~(c)に図示するように、挿入棒部材70には、先端から距離(L71)だけ離間した位置に直径(D71)が2~3mm程度の貫通孔71を設け、この貫通孔71を利用して紐状物72により定着アンカー1の取付部1aを結束し、定着アンカー1の樹脂含浸処理した後、充填樹脂60が充填された取付孔10内へと挿入棒部材70を押し込む。これによって、定着アンカー1の取付部1aを取付孔10内へと押し込むことができる。
取付孔10内に充填する先込充填樹脂としては、上述の定着アンカー1に含浸する樹脂と同じ樹脂を使用することができるが、垂れ防止、空気巻き込み防止のために、粘度が23℃において50~5000Pa・s、チクソトロピックインデックス4~7に調整されたものを好適に使用し得る。
実施例5
本発明のコンクリート構造物の補強方法によれば、上記の、例えば図1(a)~(c)、図2(a)、(b)、図12(a)~(e)などを参照して説明した実施例1にて理解されるように、コンクリート構造物100の表面に接着された補強繊維シート50の端部を本発明に従った定着アンカー1にてコンクリート構造物100に定着することにより、定着強度を向上させ、コンクリート構造物100に貼り付けて補強する補強繊維シート50の端部剥離の発生を回避し、所期の補強効果を達成することができる。
更に、補強繊維シート50の端部に定着された定着アンカー1の補強繊維シート50からの剥がれ、特に、定着アンカー1の扇状定着部1b2の浮き上がり、即ち、剥がれを抑制し、更なる定着強度の向上を図ることが好ましい。次に、図23(a)、(b)~図25(a)、(b)を参照して、更に詳しく説明する。
図23(a)、(b)は、本発明に従って、上記実施例1にて説明したように、例えば、図12(e)に示すと同様に、コンクリート構造物100の表面120aに接着された補強繊維シート50の端部を、本発明に従った構成とされる定着アンカー1を2枚一組として複数組使用してコンクリート構造物100に定着した態様を示している。
本実施例によれば、図23(a)、(b)に示すように、定着アンカー1の扇状定着部1b2において、定着アンカー1の軸線方向に直交する方向(幅方向、即ち、x-x方向)にシート状の連続繊維補強部材、即ち、定着アンカー補強部材(以後、「定着用補強繊維シート」と言う。)80を接着剤82にて貼付する。これにより、定着アンカー1の補強繊維シート50からの剥がれを抑制することができる。
この時、コンクリート構造物100の断面構造を模式的に拡大して示す図23(a)に図示するように、定着アンカー1の扇状定着部1b2においては、扇状定着部1b2の厚さTyが取付部1aから広幅シート状定着部1b1の方へと肉薄になっていることから、定着アンカー1の軸線方向、即ち、図23(b)にて上下方向(y-y方向)において、補強繊維シート50の表面から、定着アンカー1の扇状定着部1b2の表面までの高さ(即ち、扇状定着部1b2の厚さTy)が異なっていることが理解されるであろう。また、定着アンカー1の軸線方向(y-y方向)に直交する幅方向(x-x方向)においては、例えば、図23(b)にて、扇状定着部1b2の両側領域Axにおいては定着アンカー1の扇状定着部1b2が存在しておらず、補強繊維シート50の表面との間に段差が生じている。
従って、本実施例では、好ましくは、図24(a)、(b)、図25(a)、(b)に示すように、定着用補強繊維シート80を貼付する領域、即ち、定着アンカー1の軸線方向の幅W90(略扇状定着部1b2の略軸線方向長さL1b2)と、幅方向の長さL90とにて規定される領域に不陸修正材90を塗布し、補強繊維シート貼着面90Sの凹凸、段差をなくして平滑化する。これによって、補強繊維シート50の表面から、補強繊維シート貼着面(即ち、不陸修正材90の上表面)90Sまでの高さT90Sが一様となる。不陸修正材90を塗布するに先立って、不陸修正材90の塗布領域にプライマーを塗布しても良い。プライマーとしては、エポキシ樹脂プライマーなどのエポキシ樹脂系、ウレタン樹脂プライマーなどのウレタン樹脂系、その他、MMA樹脂系などを使用することができる。プライマーの塗布量は、0.1~0.4kg/mとされる。
不陸修正材90は、例えばパテ状エポキシ樹脂接着剤を所要の厚さに塗布することによって形成される。塗布厚、即ち、不陸修正材層90aの層厚(T90)は、定着用補強繊維シート80の貼着面90S、即ち、補強繊維シート50の表面からの不陸修正材層90aの上表面までの高さT90S(T90S≒T90+Ty)が略一様となり、定着用補強繊維シート貼着面90Sの凹凸、段差が修正されるように、定着アンカー1の扇状定着部1b2の軸線方向の厚さTyの変動に応じて、層厚(T90)=0.1~100mmの範囲で、通常、8~60mmの範囲で塗布される。
不陸修正材90は、パテ状エポキシ樹脂に限定されるものではなく、MMA樹脂などアクリル系樹脂、ビニルエステル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリマーセメントモルタル、ポリマーセメントペースト、セメントペーストなどを用いることができる。
図25(a)、(b)に示すように、不陸修正材90が硬化すると、この不陸修正材層90aの上に接着剤82を塗布し、定着用補強繊維シート80を接着する。
定着用補強繊維シート80としては限定されるものではないが、シート状の連続繊維補強部材が好適に使用され、補強繊維シート50と同様のシート状の連続繊維補強部材を使用することができる。つまり、定着用補強繊維シート80は、図16及び図17(a)~(c)を参照して補強繊維シート具体例1、2、3として説明した繊維シートを好適に使用することができる。斯かる繊維シートについては、上記補強繊維シート具体例1~3に記載の説明を参照されたい。ここでの再度の説明は省略する。
定着用補強繊維シート80は、定着アンカー1の扇状定着部1b2の浮き上がり、即ち、剥がれを抑制し、更なる定着強度の向上を図ることが主目的であり、そのために、本実施例では、定着用補強繊維シート80は、図23(a)、(b)、図25(a)、(b)に示すように、定着用補強繊維シート80の繊維軸線方向に延在した矩形状シートとされ、不陸修正材90の領域(幅W90×長さL90)と同じか、又は、小さい寸法に設定される。すなわち、定着アンカー1の幅方向に延在した、即ち、定着用補強繊維シート80の繊維軸線方向の長さ(L80)は、複数の定着アンカー1を横方向(x-x方向)に覆って延在する長さとされ、また、定着用補強繊維シート80の繊維軸線方向に直交する横方向の長さ(幅W80)は、定着アンカー1の扇状定着部1b2の軸線方向長さ(L1b2)と略同じ寸法(W80≒L1b2)とされるが、広幅シート状定着部1b1の方へ延在するように若干大きくても良く、また、広幅シート状定着部1b1の手前で終わるように小さくても良く、適宜選定される。
接着剤82の塗布量は、定着用補強繊維シート80の種類にもよるが、600g/mの炭素繊維シートを用いた場合、1100~1300g/mとされる。
接着剤82としては、上記実施例にて補強繊維シート50をコンクリート構造物表面120aに接着する際に、また、定着アンカー1の定着部1bを補強繊維シート50の端部に接着するのに使用した接着剤42と同様のものを使用することができ、種々の熱硬化性樹脂又は熱可塑性樹脂を使用し得るが、常温硬化型エポキシ樹脂、MMA樹脂などが好適とされる。本実施例においては、接着剤82としてエポキシ樹脂接着剤を使用し、好結果を得ることができた。
尚、接着剤82は、不陸修正材層90aの上に塗布するものとして説明したが、勿論、定着用補強繊維シート80に塗布することもでき、また、不陸修正材層90aの表面及び定着用補強繊維シート80接着面の両面上に塗布しても良い。
本実施例で説明した構成の補強方法にて、補強繊維シート50の端部に定着された定着アンカー1の補強繊維シート50からの剥がれ、特に、定着アンカー1の扇状定着部1b2の浮き上がり、即ち、剥がれを抑制し、更なる定着強度の向上を図ることができる。
上記本実施例5の説明においては、図2(a)、(b)、図12(a)~(e)に示す上記実施例1で説明した補強方法に関連して、壁部材120と床版110とが交差する隅角部CRにはハンチ140が形成される構成について説明したが、図15(a)~(c)を参照して説明した実施例2と同様に、ハンチ140が形成されていない構成においても同様に本実施例5を適用して有効である。
更に、上記本実施例5の説明においては、実施例1にて説明した定着アンカー1を使用するものとして説明したが、本実施例5においても、上記実施例3にて図18(a)~(d)を参照して説明した定着アンカー1を使用した図19(a)~(d)に示す補強方法においても同様に適用して有効である。
次に、本発明に係る定着アンカーを使用したコンクリート構造物の補強方法及び補強構造体の作用効果を実証するために以下の実験を行った。
実験例
定着アンカーの強度試験
図26に示す定着アンカー試験体1T及び試験装置300Tにより、定着アンカーの定着強度(耐荷重)を検証した。本実験では、試験装置300Tのコンクリート躯体300Aに定着アンカー試験体1Tを施工して定着アンカーの広幅シート状定着部を引張る試験を行った。
定着アンカー試験体1Tは、(1-1)第一の製造実施例の製造具体例1にて説明した強化繊維シート1Aを使用して図1に示す構成の定着アンカー1と同様の定着アンカーを作製した。つまり、強化繊維シート1Aにおける連続繊維ストランド2は、繊維fとして平均径5μm、収束本数24000本のPAN系炭素繊維ストランドを用いた。炭素繊維は、中弾性の炭素繊維であり、ヤング率が450GPaであった。
本実験である定着アンカー試験体1Tの強度試験にて、定着アンカー試験体1Tは長さL1b1=20cmとされる広幅シート状定着部1b1(図26(a)にて右側端)をタブ300Bにて挟持した。また、定着アンカー試験体1Tの取付部1aは、コンクリート躯体300Aに角度(θ)=150°にて穿設された取付孔10に埋め込んで接着剤(エポキシ樹脂)42にて固定し、また、定着アンカー試験体1Tの長さL1b2とされる扇状定着部1b2をコンクリート躯体300Aの被接着面に接着剤42にて固定した。この状態で、定着アンカー試験体1Tを挟持したタブ300Bをジャッキ(図示せず)で引っ張り、引張荷重PWを負荷し、定着アンカー試験体1Tとコンクリート躯体300Aとの定着強度試験を行い、その時の破壊強度を測定して定着アンカーの定着強度(耐荷重)を検証した。
試験に供した、連続繊維ストランド2の本数及び定着アンカー試験体1Tの仕様、並びに、試験結果は下記表1に示す通りである。
Figure 2024100294000002
上記試験結果より、比較例(既存の設計値)に比べて高目付を有した実験例1に示す本発明によれば、耐荷重が増大することが分かった。また、実験例2は、実験例1において、定着アンカー試験体1Tが更にポリウレア樹脂パテ剤とされる弾性層41(図12(c)参照)を介して接着剤42にてコンクリート躯体300Aに施工された実験例を示すが、この実験例2によれば、弾性層41を形成したことにより、耐荷重が更に向上したことが分かる。
このように、本発明の形状、構成に従った定着アンカーは、従来構成の定着アンカーに比較して、大幅な定着アンカーの定着強度(耐荷重)の増大を達成していることが分かった。従って、本発明の定着アンカーを使用したコンクリート構造物の補強方法及び補強構造体によると、コンクリート構造物に対する十分な補強効果を達成することができる。
1 定着アンカー
1a 細長棒状取付部
1b 定着部
1b1 広幅シート状定着部
1b1a 第1の広幅シート状定着部
1b1b 第2の広幅シート状定着部
1b2 扇状定着部
1A 連続繊維補強部材(強化繊維シート、強化繊維棒状体)
2 連続繊維ストランド(連続強化繊維束)
3、3a、3b 拘束糸
3A 鎖編み目
4 挿入糸
10 取付孔
30、30a~30d 編み組織
30A 編み構造
41 弾性層
42 接着剤
50(50a、50b) 連続繊維補強部材(補強繊維シート)
60 先込充填樹脂
70 挿入棒部材
80 定着アンカー補強部材(定着用補強繊維シート)
82 接着剤
90 不陸修正材
100 コンクリート構造物
101 接合部
110(110A、110B) 床版
120(120A、120B) 壁部材

Claims (6)

  1. 連続した強化繊維を含むシート状の連続繊維補強部材をコンクリート構造物の表面に接着し、前記連続繊維補強部材の端部を定着アンカーにて前記コンクリート構造物に定着するコンクリート構造物の補強方法であって、
    前記定着アンカーは、多数本の連続した強化繊維を一方向に収束した連続強化繊維束にて形成される連続繊維ストランドを20~288本長さ方向に配列して形成され、軸線方向の一側に取付部を他側に定着部を有しており、
    前記取付部は、細長棒状に賦形されており、
    前記定着部は、広幅シート状定着部と、前記細長棒状取付部と前記広幅シート状定着部との間で前記細長棒状取付部から前記広幅シート状定着部へと扇状に拡開して前記細長棒状取付部と前記広幅シート状定着部とを接続している扇状定着部とを有しており、
    前記定着アンカーに樹脂を含浸させ、
    前記定着アンカーの一側の前記取付部を、前記連続繊維補強部材の端部に隣接して前記コンクリート構造物に形成した取付孔に埋め込み、
    前記定着アンカーの他側の前記定着部を、前記連続繊維補強部材の端部に接着して定着する、
    ことを特徴とするコンクリート構造物の補強方法。
  2. 前記連続繊維補強部材は、少なくとも前記定着アンカーが接着される領域は、弾性樹脂層を介して前記コンクリート構造物の表面に接着することを特徴とする請求項1に記載のコンクリート構造物の補強方法。
  3. 前記定着アンカーの前記定着部において、前記連続繊維補強部材に接着されずに前記コンクリート構造物の表面に接着される領域は、弾性樹脂層を介して前記コンクリート構造物の表面に接着することを特徴とする請求項1に記載のコンクリート構造物の補強方法。
  4. 前記連続繊維補強部材は、前記コンクリート構造物の表面に接着する第1の連続繊維補強部材と、前記第1の連続繊維補強部材の外層として接着する第2の連続繊維補強部材とを有しており、前記第2の前記連続繊維補強部材は前記第1の前記連続繊維補強部材より長さを短くして前記第1及び第2の連続繊維補強部材の端部が階段状となるように積層し、
    前記定着アンカーの前記広幅シート状定着部は、
    前記扇状定着部に連接して形成された第1の繊維目付量とされる第1の広幅シート状定着部と、
    前記第1の広幅シート状定着部から前記扇状定着部とは反対側へと軸線方向に延在して形成され、前記第1の広幅シート状定着部の前記第1の繊維目付量より小さい第2の繊維目付量とされる第2の広幅シート状定着部と、
    を有し、
    前記第1の広幅シート状定着部は前記第1の連続繊維補強部材の端部に接着し、前記第2の広幅シート状定着部は前記第2の連続繊維補強部材の端部に接着して定着する、
    ことを特徴とする請求項1に記載のコンクリート構造物の補強方法。
  5. 前記定着アンカーは、前記扇状定着部に対して前記定着アンカーの軸線方向に直交する方向に配置した定着アンカー補強部材を接着して前記コンクリート構造物に定着することを特徴とする請求項1に記載のコンクリート構造物の補強方法。
  6. 連続した強化繊維を含むシート状の連続繊維補強部材がコンクリート構造物の表面に接着され、前記連続繊維補強部材の端部が定着アンカーにて前記コンクリート構造物に定着されたコンクリート構造物の補強構造であって、
    前記定着アンカーは、請求項1~5のいずれかの項に記載の構成とされるコンクリート構造物の補強方法によって、前記定着アンカーの一側の取付部は、前記連続繊維補強部材の端部に隣接して前記コンクリート構造物に形成した取付孔に埋め込み、固着されており、前記定着アンカーの他側の定着部は、前記連続繊維補強部材の端部に接着して定着されている、
    ことを特徴とするコンクリート構造物の補強構造。
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