JP2024092229A - ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物およびその製造方法 - Google Patents

ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物およびその製造方法

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Abstract

【課題】
高分子量かつ高アミノ基量を両立し、機械強度および異素材との接着性に優れるポリアリーレンスルフィド樹脂組成物およびその製造方法を提供する。
【解決手段】
少なくとも、アミノ基含有量が15μmol/g未満であり、重量平均分子量が30,000以上150,000以下であるポリアリーレンスルフィド(A)99.3~50重量部およびアミノ基含有量が200μmol/g以上2,000μmol/g以下であり、数平均分子量が1,000以上10,000以下であるポリアリーレンスルフィド(B)0.7~50重量部を配合してなるポリアリーレンスルフィド樹脂組成物であって、アミノ基量が15μmol/g以上600μmol/g以下かつ重量平均分子量が30,000以上150,000以下であり、非ニュートン指数が1.8以下であるポリアリーレンスルフィド樹脂組成物である。
【選択図】なし

Description

本発明は、ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物およびその製造方法に関する。
ポリフェニレンスルフィド(以下PPSと略す場合がある)に代表されるポリアリーレンスルフィド(以下PASと略すことがある)樹脂は、優れた耐熱性、耐薬品性、電気絶縁性などエンジニアリングプラスチックとして好適な性質を有している。このため、電気・電子部品、通信機器部品、自動車材料等に幅広く使用されているが、PAS樹脂以外の樹脂やフィラー、金属などといった異素材との接着性が低く、PAS樹脂と異素材とを複合化した複合材料は、その強度が低い問題点がある。さらに、長期熱水処理や、長期乾熱処理をすることで、複合材料の強度や靱性がさらに低下するなどの問題点が指摘されている。特に、近年の自動車の低燃費化、軽量化、低コスト化の市場要求に伴い、異素材との接着性向上による高強度化と、長期熱水処理および長期乾熱処理を施しても強度や靱性の低下が起こらない、耐加水分解性に優れた材料が求められている。
高強度化と耐久性向上を目的として、PAS樹脂を改良する方法として、アミノ基を導入する方法は種々報告されている。
ポリアリーレンスルフィドの主鎖骨格中にアミノ基を導入する方法として、特許文献1には、接着性やブレンド相溶性の向上を目的とした、アミノ基を含有するポリアリーレンスルフィド系樹脂と分散媒を含んでなるスラリー組成物が、特許文献2には、他素材との相溶性や接着性の向上を目的とした、官能基含有ポリアリーレンスルフィドの製造方法が、特許文献3には、他素材との密着性、接着性、相溶性の向上を目的とした、アミノ基含有アリーレンスルフィド系共重合体の製造方法が、特許文献4には、寸法精度と耐ヒートサイクルを目的とした、アミノ基変性ポリアリーレンスルフィドを用いた組成物が、特許文献5には、耐冷熱性の向上を目的とした、アミノ基置換ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物が開示されている。
ポリアリーレンスルフィドにアミノ基を導入し、かつ分岐構造を導入することで高粘度化も両立することを目的として、特許文献6および7には、アミノ基を有し、かつ分岐剤を加えることで分岐度を大きくしたポリアリーレンスルフィドが開示されている。
ポリアリーレンスルフィドにアミノ基を導入し、架橋構造を有することで高粘度化も両立することを目的として、特許文献8には、ポリアリーレンスルフィドの主鎖骨格にアミノ基を導入し、かつ酸化架橋をさせたポリアリーレンスルフィドが開示されている。
特許文献9では、アミノ基を有するチオール化合物を溶液中で、もしくは溶融時に添加して得られるアミノ基を有する変性ポリアリーレンスルフィド樹脂が開示されている。
アミノ基を導入するための方法が異なる例としては、特許文献10に、環式ポリアリーレンスルフィドと官能基を含有するスルフィド化合物を溶融反応させて得られるポリアリーレンスルフィドが、特許文献11に、ポリアリーレンスルフィドと官能基を含有するスルフィド化合物を溶融反応させて得られるポリアリーレンスルフィドが開示されている。また、特許文献12には、ポリアリーレンスルフィドと官能基を含有するスルフィド化合物を溶融反応させて得られるポリアリーレンスルフィドと、溶液中でアミノ基を有する化合物を反応させて得られるポリアリーレンスルフィドが、特許文献13には、溶液中でアミノ基を有する化合物を反応させて得られるポリアリーレンスルフィドが開示されている。
特開平5-98158号公報 特開平7-102064号公報 特開平7-41560号公報 特開2022-122551号公報 特開2020-33534号公報 特開平11-171998号公報 特開2021-147513号公報 特開2007-106834号公報 特開2020-84027号公報 国際公開第2012/057319号 特開2021-8602号公報 国際公開第2019/151288号 国際公開第2022/045105号
ポリアリーレンスルフィドに官能基を導入する場合、導入する官能基量を多くしようとすると低分子量化する傾向が、高分子量化しようとすると官能基量が少なくなる傾向があり、分子量と官能基量はトレードオフの関係にあった。
導入する官能基量を多くするために、例えば官能基を末端に多く導入すれば、末端数が増えることで低分子量化する傾向にあり、例えば官能基を主鎖に導入する場合には、官能基含有化合物の反応性が比較的低く高分子量化が不十分となる傾向にあった。そのため、高分子量化するためには反応させる官能基含有化合物の量を少なくする必要があることに加え、その少ない官能基含有化合物を十分に反応させて高分子量体に高純度に官能基を導入することが必要であるが、容易ではなかった。
特許文献1および特許文献2に開示されているポリアリーレンスルフィドは、分子量またはアミノ基量が不十分であり、高分子量と高アミノ基量を両立することはできていなかった。また、主鎖中にアミノ基が導入されているため、導入されたアミノ基の反応性や、結晶性が劣る問題があった。
特許文献3から特許文献5に開示されているポリアリーレンスルフィドも、アミノ基を有するものの、分子量またはアミノ基量が不十分であり、高分子量と高アミノ基量を両立することはできていなかった。また、主鎖中にアミノ基が導入されているため、導入されたアミノ基の反応性や、結晶性が劣る問題があった。さらに、m-PPS骨格を有する例においては、結晶性がさらに劣るという問題があった。
特許文献6および特許文献7に開示されているポリアリーレンスルフィドも、アミノ基を有するものの、分子量またはアミノ基量が不十分であり、高分子量と高アミノ基量を両立することはできていなかった。また、分岐構造が導入されているため、溶融粘度が高くなる問題や、結晶性が劣る問題があった。
特許文献8に開示されているポリアリーレンスルフィドは、アミノ基を有するものの、主鎖中にアミノ基が導入されている、m-PPS骨格を有する、酸化架橋構造を有することにより、導入されたアミノ基の反応性や、結晶性が劣る問題、溶融粘度が高くなる問題があった。
特許文献9に開示されているポリアリーレンスルフィドも、アミノ基を有するものの、分子量またはアミノ基量が不十分であり、高分子量と高アミノ基量を両立することはできていなかった。また、アミノ基を有するチオール化合物を溶融時に添加して反応させる方法においては、反応時および得られたポリアリーレンスルフィドの溶融加工時にチオール化合物に由来するガスが発生するという問題があった。
特許文献10に開示されているポリアリーレンスルフィドも、アミノ基を有するものの、分子量またはアミノ基量が不十分であり、高分子量と高アミノ基量を両立したポリアリーレンスルフィドが求められていた。また、官能基を含有するスルフィド化合物の分子量が比較的低く、溶融反応時やその後の溶融加工時にガスが発生しやすく、発生ガス量をより低減する方法が求められていた。さらに、溶融反応条件が比較的過酷であり、より温和な条件でアミノ基を導入する方法も求められていた。
特許文献11から特許文献13に開示されているポリアリーレンスルフィドも、アミノ基を有するものの、分子量またはアミノ基量が不十分であり、高分子量と高アミノ基量を両立したポリアリーレンスルフィドが求められていた。また、特許文献11および特許文献12においても、官能基を含有するスルフィド化合物の分子量が比較的低く、溶融反応時やその後の溶融加工時にガスが発生しやすく、発生ガス量をより低減する方法が求められるとともに、溶融反応条件も比較的過酷であり、より温和な条件でアミノ基を導入する方法も求められていた。
したがって本発明は、高分子量および高アミノ基量を両立し、機械強度および異素材との接着性に優れるポリアリーレンスルフィド樹脂組成物を得ることを課題とする。
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の内容を提供することで実現することが可能である。
1.少なくとも、アミノ基含有量が15μmol/g未満であり、重量平均分子量が30,000以上150,000以下であるポリアリーレンスルフィド(A)99.3~50重量部およびアミノ基含有量が200μmol/g以上2,000μmol/g 以下であり、数平均分子量が1,000以上10,000以下であるポリアリーレンスルフィド(B)0.7~50重量部を配合してなるポリアリーレンスルフィド樹脂組成物であって、アミノ基量が15μmol/g以上600μmol/g以下かつ重量平均分子量が30,000以上150,000以下であり、非ニュートン指数が1.8以下であるポリアリーレンスルフィド樹脂組成物。
2.重量平均分子量/数平均分子量で表される分散度が2.5を超える、前記1に記載のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物。
3.前記ポリアリーレンスルフィド(A)および前記ポリアリーレンスルフィド(B)の合計100重量部に対し、フィラーを3~150重量部、ならびにアミノ基、酸無水物基、カルボキシル基、およびイソシアネート基から選択される少なくとも一つの官能基を有するアルコキシシランを0.1~10重量部配合してなる、前記1または2に記載のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物。
4.前記アルコキシシランが、イソシアネート基を有するアルコキシシランである前記3に記載のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物。
5.結晶化温度が210℃以上である前記3または4に記載のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物。
6.凝固熱が40J/g以上である前記3から5のいずれかに記載のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物。
7.ポリアリーレンスルフィド(B)の数平均分子量が2,500以上である、前記1から6のいずれかに記載のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物。
8.ポリアリーレンスルフィド(B)が、30℃から320℃まで10℃/分の昇温速度で加熱したときの重量減少率が5wt%以下である、前記1から7のいずれかに記載のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物。
9.前記1または2に記載のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物からなる成形品。
10.前記1または2に記載のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物からなる繊維。
11.前記1または2に記載のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物からなるフィルム。
12.前記3から8のいずれかに記載のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物からなる成形品。
13.アミノ基含有量が15μmol/g未満であり、重量平均分子量が30,000以上150,000以下であるポリアリーレンスルフィド(A)99.3~50重量部およびアミノ基含有量が200μmol/g以上2,000μmol/g以下であり、数平均分子量が1,000以上10,000以下であるポリアリーレンスルフィド(B)0.7~50重量部を混合し、さらに加熱する、前記1から8のいずれかに記載のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の製造方法。
本発明によれば、高分子量および高アミノ基量を両立するポリアリーレンスルフィド樹脂組成物を得ることができる。本発明のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物は、その特徴により機械強度および異素材との接着性に優れる。
以下に、本発明の実施の形態を詳細に説明する。
[ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物]
本発明におけるポリアリーレンスルフィド樹脂組成物は、少なくとも、アミノ基含有量が15μmol/g未満であり、重量平均分子量が30,000以上 150,000以下であるポリアリーレンスルフィド(A)99.3~50重量部およびアミノ基含有量が200μmol/g以上2,000μmol/g 以下であり、数平均分子量が1,000以上10,000以下であるポリアリーレンスルフィド(B)0.7~50重量部を配合してなるポリアリーレンスルフィド樹脂組成物である。ポリアリーレンスルフィド(A)およびポリアリーレンスルフィド(B)の詳細については後述する。
ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物のアミノ基量の下限は15μmol/gである。アミノ基量が15μmol/g未満であると、異素材との接着性やそれに伴う耐加水分解性が十分に得られない。前記接着性や耐加水分解性により優れる観点から、アミノ基量の下限は20μmol/g以上が好ましく、30μmol/g以上がより好ましく、50μmol/g以上がさらに好ましく、60μmol/g以上がよりいっそう好ましい。
ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物のアミノ基量の上限は600μmol/g以下である。アミノ基量が600μmol/gを超えると、ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の分子量が低くなり、十分な機械特性が得られない。高分子量体を得やすく、機械特性により優れる観点から、アミノ基量の上限は500μmol/g以下が好ましく、400μmol/g以下がより好ましく、300μmol/g以下がさらに好ましく、200μmol/g以下がよりいっそう好ましく、150μmol/g以下がさらにいっそう好ましい。
ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物中のアミノ基量は、ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物をFT-IR分析し、例えばベンゼン環由来の1901m-1における吸収に対するアミノ基由来の3382cm-1の吸収の強度を比較することで定量することができる。
ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の重量平均分子量の下限は30,000以上である。重量平均分子量が30,000未満であると、成形加工した際に十分な機械特性が得られない。機械特性により優れる観点から、重量平均分子量の下限は35,000以上が好ましく、40,000以上がより好ましく、45,000以上がさらに好ましく、50,000以上がよりいっそう好ましい。
ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の重量平均分子量の上限は150,000以下である。重量平均分子量が150,000を超えると、流動性が低くなり十分な成形加工性が得られない。成形加工性により優れ、かつ前記アミノ基量の下限を満たしやすい観点から、重量平均分子量の上限は120,000以下が好ましく、100,000以下がより好ましく、80,000以下がさらに好ましく、70,000以下がよりいっそう好ましい。
ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の重量平均分子量/数平均分子量で表される分散度の下限は2.5を超えることが好ましく、3.0以上がより好ましく、3.5以上がさらに好ましく、4.0以上がよりいっそう好ましい。分散度の下限がこの範囲であると、高いアミノ基量と優れた機械特性を両立しやすい傾向にある。
ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の重量平均分子量/数平均分子量で表される分散度の上限に特に制限はないが、ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物に含まれる低分子量成分の量が少なくなる傾向が強く、加熱時のガス発生量が少なく、成形加工した際の機械特性により優れるなどの観点から、15以下が好ましく、10以下がより好ましく、8.0以下がさらに好ましく、6.0以下がよりいっそう好ましく、5.0以下がさらにいっそう好ましい。
ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の重量平均分子量および数平均分子量は、例えば示差屈折率検出器を具備したSEC(サイズ排除クロマトグラフィー)を使用して求めることができる。
ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の非ニュートン指数は1.8以下である。非ニュートン指数が1.8を超えると、流動性が低くなり十分な成形加工性が得られない。また、非ニュートン指数はポリアリーレンスルフィド組成物中に存在するポリアリーレンスルフィドの架橋構造の量の指標にもなり、架橋構造が多いと非ニュートン指数が大きくなる傾向にあるが、架橋構造が多い場合、ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物を成形加工した際に十分な靭性が得られない傾向にあり、また結晶性も劣る傾向にある。成形加工性により優れ、靭性により優れ、結晶性により優れる観点から、非ニュートン指数の上限は1.7以下が好ましく、1.6以下がより好ましく、1.5以下がさらに好ましく、1.4以下がよりいっそう好ましく、1.3以下がさらにいっそう好ましい。ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の非ニュートン指数の下限に制限はないが、通常1.0以上である。
非ニュートン指数(N)はキャピログラフを用いて300℃、オリフィス長(L)とオリフィス径(D)の比、L/D=10の条件下で、せん断速度およびせん断応力を測定し、下記式を用いて算出した値である。
SR=K・SS
(ここで、Nは非ニュートン指数、SRはせん断速度(s-1)、SSはせん断応力(Pa)、Kは定数を表す。)
なお、アミノ基量、重量平均分子量、および非ニュートン指数は、ポリアリーレンスルフィド(A)およびポリアリーレンスルフィド(B)以外の成分が含まれるポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の場合には、ポリアリーレンスルフィド(A)とポリアリーレンスルフィド(B)のみを溶融混練したサンプルを別途作成し、評価する。
ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物は、成形品、繊維、フィルムなどに加工して用いることも可能であるし、フィラーと溶融混練して得られるポリアリーレンスルフィド樹脂組成物としても好ましく用いることができる。
フィラーとは、ガラス繊維、炭素繊維、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン、チタン酸カリウムウィスカー、酸化亜鉛ウィスカー、炭酸カルシウムウィスカー、ワラステナイトウィスカー、硼酸アルミニウムウィスカー、アラミド繊維、アルミナ繊維、炭化珪素繊維、セラミック繊維、アスベスト繊維、石コウ繊維、金属繊維などの繊維状フィラー、あるいはフラーレン、タルク、ワラステナイト、ゼオライト、セリサイト、マイカ、カオリン、クレー、パイロフィライト、シリカ、ベントナイト、アスベスト、アルミナシリケートなどの珪酸塩、酸化珪素、酸化マグネシウム、アルミナ、酸化ジルコニウム、酸化チタン、酸化鉄などの金属化合物、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ドロマイトなどの炭酸塩、硫酸カルシウム、硫酸バリウムなどの硫酸塩、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウムなどの水酸化物、ガラスビーズ、ガラスフレーク、ガラス粉、セラミックビーズ、窒化ホウ素、炭化珪素、カーボンブラックおよびシリカ、黒鉛などの非繊維状フィラーが用いられ、なかでもガラス繊維、炭素繊維、セラミック繊維、アラミド繊維などの繊維状フィラーが好ましく、ガラス繊維がより好ましい。
フィラーの配合量の下限は、ポリアリーレンスルフィド(A)およびポリアリーレンスルフィド(B)の合計100重量部に対し、3重量部以上が好ましく、30重量部以上がより好ましく、60重量部以上がさらに好ましい。フィラーの配合量の下限がこの範囲であると、成形加工した際の引張強度などの機械特性がより優れる傾向にある。
フィラーの配合量の上限は、ポリアリーレンスルフィド(A)および前記ポリアリーレンスルフィド(B)の合計100重量部に対し、150重量部以下が好ましく、100重量部以下がより好ましく、80重量部以下がさらに好ましい。フィラーの配合量の上限がこの範囲であると、得られるポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の流動性に優れる傾向がある。
本発明において配合に供するフィラーには、アミノ基、エポキシ基、イソシアネート基、およびカルボキシル基から選択される少なくとも一つの官能基を有するサイジング剤が付与されていることが好ましい。フィラーへのサイジング剤の付与の方法としては、特に限定されないが、サイジング剤をフィラーに塗布する方法が挙げられる。サイジング剤としては、ウレタン樹脂、アミノ樹脂、アルコキシシラン化合物などが挙げられる。これらは1種または2種以上を併用してもよい。なかでも、1級アミンまたはイソシアネートを含有するサイジング剤をフィラーに塗布する方法が好ましい。また、必要に応じてエポキシ樹脂、ポリエチレングリコール、ポリエステル、乳化剤、界面活性剤などを併用してもよい。アミノ樹脂としては、ユリア樹脂、メラミン樹脂、ベンゾグアナミン樹脂、グリコールウリル樹脂などが挙げられ、アミノ基、メチロール基またはアルコキシメチル基を有し、さらにイミノ基を有するものも使用できる。これらは単独または2種類以上を併用して使用することができ、エマルジョンやディスパージョン等の水分散状にして用いることが好ましく、水に容易に溶ける水溶性のアミノ樹脂が好適に使用される。
サイジング剤の付着量の下限は、フィラーに対して0.05質量%以上が好ましく、0.1質量%以上がより好ましい。サイジング剤の付着量の下限がこの範囲であると、ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の機械物性向上効果が現れやすく、毛羽や糸切れを抑制できる傾向にある。
サイジング剤の付着量の上限は、フィラーに対して20質量%以下が好ましく、10質量%以下がより好ましく、5質量%以下がさらに好ましい。サイジング剤の付着量の上限がこの範囲であると、ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の溶融時にサイジング剤の揮散によるガス発生が起こりにくい傾向にある。
ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物とフィラーとを溶融混練する際には、さらにアミノ基、酸無水物基、カルボキシル基、およびイソシアネート基からなる群より選択される少なくとも一つの官能基を有するアルコキシシランを配合して溶融混練することが好ましい。ここでいうアルコキシシランとは、シランカップリング剤であることが好ましい。具体例としては、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-アミノプロピルメチルジエトキシシラン、N-フェニルアミノメチルトリメトキシシラン、N-フェニルアミノプロピルトリメトキシシラン、3-イソシアネートプロピルトリメトキシシラン、3-イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、3-イソシアネートプロピルメチルジメトキシシラン、3-イソシアネートプロピルメチルジエトキシシラン、3-イソシアネートプロピルエチルジメトキシシランなどを好ましく例示することができる。なかでも、イソシアネート基、およびアミノ基から選択される少なくとも一つの官能基を有するアルコキシシランであることがより好ましく、イソシアネート基を有するアルコキシシランであることがさらに好ましい。これらのアルコキシシランを選択することで、引張強度に優れるとともに、耐加水分解試験後の引張強度と、耐加水分解試験後の強度保持率に優れる特徴を有する。
アルコキシシランの配合量の下限は、ポリアリーレンスルフィド(A)およびポリアリーレンスルフィド(B)の合計100重量部に対し、0.1重量部以上が好ましく、0.2重量部以上がより好ましく、0.3重量部以上がさらに好ましい。アルコキシシランの配合量の下限がこの範囲であると、成形加工した際に機械特性や耐加水分解性がより優れる傾向にある。
アルコキシシランの配合量の上限は、ポリアリーレンスルフィド(A)および前記ポリアリーレンスルフィド(B)の合計100重量部に対し、10重量部以下が好ましく、5重量部以下がより好ましく、1重量部以下がさらに好ましい。アルコキシシランの配合量の上限がこの範囲であると、流動性が高く成形加工性に優れる傾向にある。
なかでも、ポリアリーレンスルフィド(A)およびポリアリーレンスルフィド(B)の合計100重量部に対し、フィラーを3~150重量部、ならびにアミノ基、酸無水物基、カルボキシル基、およびイソシアネート基から選択される少なくとも一つの官能基を有するアルコキシシランを0.1~10重量部配合してなる、ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物(C)は、結晶性に優れる特徴を有する。
ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物(C)の結晶化温度は、成形加工する際の生産性に優れ、かつ得られる成形品が十分に結晶化することにより機械特性による優れるという観点から、210℃以上が好ましく、215℃以上がより好ましく、220℃以上がさらに好ましく、225℃以上がよりいっそう好ましい。結晶化温度の上限に特に制限はないが、一般的に250℃以下の範囲が例示できる。結晶化温度は、示差走査熱量計を用いて20℃/分の速度で0℃から340℃まで昇温した後、340℃で1分間保持し、20℃/分の速度で100℃まで降温した際に検出される結晶化ピーク温度の値とする。
ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物(C)の凝固熱は、得られる成形品が十分に結晶化することにより機械特性による優れるという観点から、40J/g以上が好ましく、45J/g以上がより好ましく、50J/g以上がさらに好ましい。凝固熱の上限に特に制限はないが、一般的に70J/g以下の範囲が例示できる。凝固熱は、示差走査熱量計を用いて20℃/分の速度で0℃から340℃まで昇温した後、340℃で1分間保持し、20℃/分の速度で100℃まで降温した際に検出される結晶化ピークから算出することができ、ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物中の無機成分を除く有機成分の重量当たりの熱量として算出する。
本発明のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物は、機械強度および異素材との接着性に優れることから、フィラーおよびアルコキシシランとともに溶融混練したポリアリーレンスルフィド樹脂組成物(C)は、結晶性および引張強度に優れるとともに、長期熱水処理しても引張強度の低下が起こりにくい耐加水分解性に優れる。ここで「耐加水分解性に優れる」とは、具体的には、耐加水分解試験後の引張強度と、耐加水分解試験後の強度保持率に優れる特徴を有する。異素材との接着性に優れる本発明のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物では、フィラーと樹脂間の結合がより安定であり密着性が高くなることから、耐加水分解性に優れる特徴を発現する。係る特徴を有することで、高低温の流体が通水する部材、自動車用冷却モジュールや冷却配管などの用途に特に好適に使用できる。
引張強度とは、射出成形して得られたISO527-2-5A形試験片を、AG-20kNx万能試験機を用い、引張速度10mm/min、雰囲気温度23℃、相対湿度50%の条件下、ISO527-1,-2(2012)に従い求めた値である。ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物(C)の引張強度の下限は、成形加工して用いられる際に機械特性に優れることが望ましいことから、150MPa以上が好ましく、160MPa以上がより好ましく、170MPa以上がさらに好ましく、180MPa以上がよりいっそう好ましい。引張強度の上限に特に制限はないが、通常500MPa以下である。
耐加水分解試験後の引張強度は以下のように決定できる。射出成形して得られたISO527-2-5A形試験片をオートクレーブに入れ、トヨタ社製トヨタスーパーロングライフクーラントとイオン交換水を重量比1:1で混合した溶液を、該試験片が十分に浸漬するまで注ぎ入れる。その後、150℃に加熱した乾燥機でオートクレーブを500時間加熱する。十分に冷却後、オートクレーブから試験片を取り出して水分を除去した後、AG-20kNx万能試験機を用い、引張速度10mm/min、雰囲気温度23℃、相対湿度50%の条件下、ISO527-1,-2(2012)に従い引張強度を測定し、耐加水分解試験後の引張強度とする。ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物(C)の耐加水分解試験後の引張強度の下限は110MPa以上が好ましく、120MPa以上がより好ましく、125MPa以上がさらに好ましく、130MPa以上がよりいっそう好ましく、135MPa以上がさらにいっそう好ましい。耐加水分解試験後の引張強度の下限がこの範囲であると、水に浸漬した環境で長時間使用する際にポリアリーレンスルフィド樹脂組成物(C)の破損を抑制できる傾向にある。耐加水分解試験後の引張強度の上限に特に制限はないが、通常300MPa以下である。
耐加水分解試験後の強度保持率は以下の式に従って決定できる。
耐加水分解試験後の強度保持率(%)=耐加水分解試験後の引張強度(MPa)/耐加水分解試験前の引張強度(MPa)×100(%)
ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物(C)の耐加水分解試験後の強度保持率の下限は60%以上が好ましく、65%以上がより好ましく、70%以上がさらに好ましく、75%以上がよりいっそう好ましい。耐加水分解試験後の強度保持率がこの範囲であると、水に浸漬した環境で長時間使用する際にポリアリーレンスルフィド樹脂組成物(C)の破損を抑制できる傾向にある。耐加水分解試験後の強度保持率の上限に特に制限はないが、通常120%以下である。
ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物は、前述の通り、フィラーやアルコキシシランを配合して用いてもよいし、その他にも任意の成分として、例えば結晶核剤や添加剤などを配合して用いることも可能である。結晶核剤としては、タルク、カオリン、有機リン化合物、ポリエーテルエーテルケトンなどが例示できる。
[ポリアリーレンスルフィド(A)]
ポリアリーレンスルフィド(A)とは、式、-(Ar-S)-の繰り返し単位を主要構成単位とするホモポリマーまたはコポリマーである。ここで、主要構造単位とするとは、当該繰り返し単位を70モル%以上含有することをいう。Arとしては下記式(I)~式(XI)などで表される単位などがあるが、なかでも式(I)で表される単位が特に好ましい。
この繰り返し単位を主要構成単位とする限り、下記式(XII)~式(XIV)などで表される少量の分岐単位または架橋単位を含むことができる。これら分岐単位または架橋単位の共重合量は、-(Ar-S)-の単位1モルに対して0~1モル%の範囲であることが好ましい。
ポリアリーレンスルフィド(A)は、上記繰り返し単位を含むランダム共重合体、ブロック共重合体及びそれらの混合物のいずれかであってもよい。
これらの代表的なものとして、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンスルフィドスルホン、ポリフェニレンスルフィドケトン、これらのランダム共重合体、ブロック共重合体及びそれらの混合物などが挙げられる。特に好ましいポリアリーレンスルフィドとしては、ポリマーの主要構成単位として下記式(XV)で表されるp-フェニレンスルフィド単位を80モル%以上、特に90モル%以上含有するポリフェニレンスルフィドが挙げられる。
ポリアリーレンスルフィド(A)のアミノ基量の上限は15μmol/g未満であり、10μmol/g以下であることがより好ましく、5μmol/g以下であることがさらに好ましい。アミノ基量の上限がこの範囲であると、高分子量体を得やすく、得られるポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の機械特性がより優れる傾向にある。ポリアリーレンスルフィド(A)のアミノ基量の下限に特に制限はないが、理論上の下限は0μmol/gである。ポリアリーレンスルフィド(A)中のアミノ基量は、ポリアリーレンスルフィド(A)をFT-IR分析し、例えばベンゼン環由来の1901m-1における吸収に対するアミノ基由来の3382cm-1の吸収の強度を比較することで定量することができる。
ポリアリーレンスルフィド(A)の重量平均分子量の下限は30,000以上であり、35,000以上がより好ましく、40,000以上がさらに好ましく、45,000以上がよりいっそう好ましく、50,000以上がさらにいっそう好ましい。重量平均分子量の下限がこの範囲であると、得られるポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の機械特性がより優れる傾向にある。
ポリアリーレンスルフィド(A)の重量平均分子量の上限は150,000以下であり、120,000以下がより好ましく、100,000以下がさらに好ましく、80,000以下がよりいっそう好ましく、70,000以下がさらにいっそう好ましい。重量平均分子量の上限がこの範囲であると、成形加工性により優れる傾向にある。
ポリアリーレンスルフィド(A)の重量平均分子量/数平均分子量で表される分散度の下限は2.5を超えることが好ましく、3.0以上がより好ましく、3.5以上がさらに好ましく、4.0以上がよりいっそう好ましい。分散度の下限がこの範囲であると、ポリアリーレンスルフィド(A)に含まれる高分子量成分の量が多くなりやすいことにより、ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物に含まれる高分子量成分の量が多くなりやすく、ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物を成形加工した際の機械特性により優れる傾向にある。
ポリアリーレンスルフィド(A)の重量平均分子量/数平均分子量で表される分散度の上限に特に制限はないが、ポリアリーレンスルフィド(A)に含まれる低分子量成分の量が少なくなる傾向が強く、加熱時のガス発生量が少なく、ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物を成形加工した際の機械特性により優れるなどの観点から、15以下が好ましく、10以下がより好ましく、8.0以下がさらに好ましく、6.0以下がよりいっそう好ましく、5.0以下がさらにいっそう好ましい。
ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の重量平均分子量および数平均分子量は、例えば示差屈折率検出器を具備したSEC(サイズ排除クロマトグラフィー)を使用して求めることができる。
[ポリアリーレンスルフィド(A)の製造方法]
以下にポリアリーレンスルフィド(A)の製造方法について具体的に述べるが、下記方法に限定されるものではない。
まずポリアリーレンスルフィド(A)の製造に使用する原料について説明する。
[スルフィド化剤]
ポリアリーレンスルフィド(A)の合成に用いられるスルフィド化剤とは、ジハロゲン化芳香族化合物にスルフィド結合を導入できるものであればよく、例えばアルカリ金属硫化物、アルカリ金属水硫化物、および硫化水素が挙げられる。
アルカリ金属硫化物の具体例としては、例えば硫化リチウム、硫化ナトリウム、硫化カリウム、硫化ルビジウム、硫化セシウムおよびこれら2種類以上の混合物を挙げることができ、なかでも硫化リチウムおよび/または硫化ナトリウムが好ましく、硫化ナトリウムがより好ましく用いられる。これらのアルカリ金属硫化物は、水和物または水性混合物として、あるいは無水物の形で用いることができる。なお、水性混合物とは水溶液、もしくは水溶液と固体成分の混合物、もしくは水と固体成分の混合物のことを指す。一般的に入手できる安価なアルカリ金属硫化物は水和物または水性混合物であるので、この様な形態のアルカリ金属硫化物を用いることが好ましい。
アルカリ金属水硫化物の具体例としては、例えば水硫化リチウム、水硫化ナトリウム、水硫化カリウム、水硫化ルビジウム、水硫化セシウムおよびこれら2種類以上の混合物を挙げることができ、なかでも水硫化リチウムおよび/または水硫化ナトリウムが好ましく、水硫化ナトリウムがより好ましく用いられる。
また、アルカリ金属水硫化物とアルカリ金属水酸化物から、反応系中で調製されるアルカリ金属硫化物も用いることができる。また、あらかじめアルカリ金属水硫化物とアルカリ金属水酸化物を接触させて調製したアルカリ金属硫化物も用いることができる。これらのアルカリ金属水硫化物およびアルカリ金属水酸化物は水和物または水性混合物として、あるいは無水物の形で用いることができ、水和物または水性混合物が入手のしやすさ、コストの観点から好ましい。
さらに、水酸化リチウム、水酸化ナトリウムなどのアルカリ金属水酸化物と硫化水素から反応系内で調製されるアルカリ金属硫化物も用いることができる。また、あらかじめ水酸化リチウム、水酸化ナトリウムなどのアルカリ金属水酸化物と硫化水素を接触させて調製したアルカリ金属硫化物を用いることもできる。硫化水素は気体状態、液体状態、水溶液状態のいずれの形態で用いても差し障りない。
なお、スルフィド化剤とともに、アルカリ金属水酸化物および/またはアルカリ土類金属水酸化物を併用することも可能である。アルカリ金属水酸化物の具体例としては、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、水酸化ルビジウム、水酸化セシウムおよびこれら2種類以上の混合物を好ましいものとして挙げることができ、アルカリ土類金属水酸化物の具体例としては、例えば水酸化カルシウム、水酸化ストロンチウム、水酸化バリウムなどが挙げられ、なかでも水酸化ナトリウムが好ましく用いられる。
スルフィド化剤として、アルカリ金属水硫化物を用いる場合には、アルカリ金属水酸化物を同時に使用することが特に好ましいが、この使用量はアルカリ金属水硫化物1モルに対し0.95モル以上が好ましく、1.00モル以上がより好ましく、1.005モル以上がさらに好ましい。また、上限としては、1.50モル以下が好ましく、1.25モル以下がより好ましく、1.20モル以下がさらに好ましい範囲として例示できる。スルフィド化剤として硫化水素を用いる場合にはアルカリ金属水酸化物を同時に使用することが特に好ましく、この場合のアルカリ金属水酸化物の使用量は硫化水素1モルに対し2.00モル以上が好ましく、2.01モル以上がより好ましく、2.04モル以上がさらに好ましい。また、上限としては、3.00モル以下が好ましく、2.50モル以下がより好ましく、2.40モル以下がさらに好ましい範囲として例示できる。
[ジハロゲン化芳香族化合物]
ポリアリーレンスルフィド(A)の合成に用いられるジハロゲン化芳香族化合物としては、p-ジクロロベンゼン、o-ジクロロベンゼン、m-ジクロロベンゼン、p-ジブロモベンゼン、o-ジブロモベンゼン、m-ジブロモベンゼン、1-ブロモ-4-クロロベンゼン、1-ブロモ-3-クロロベンゼンなどのジハロゲン化ベンゼン、および1-メトキシ-2,5-ジクロロベンゼン、1-メチル-2,5-ジクロロベンゼン、1,4-ジメチル-2,5-ジクロロベンゼン、1,3-ジメチル-2,5-ジクロロベンゼン、2,5-ジクロロ安息香酸、3,5-ジクロロ安息香酸、2,5-ジクロロアニリン、3,5-ジクロロアニリンなどのハロゲン以外の置換基を含むジハロゲン化芳香族化合物などを挙げることができる。なかでも、p-ジクロロベンゼンに代表されるp-ジハロゲン化ベンゼンを主成分とするハロゲン化芳香族化合物が好ましい。特に好ましくは、p-ジクロロベンゼンを80~100モル%含むものであり、さらに好ましくは90~100モル%含むものである。また、異なる2種類以上のジハロゲン化芳香族化合物を組み合わせて用いることも可能である。
ジハロゲン化芳香族化合物の使用量の下限は特に制限はないが、下記式で表現される[モノマー比]を0.8以上とすることが好ましく、0.9以上とすることがより好ましく、0.95以上とすることがさらに好ましい。[モノマー比]を上記の範囲とすることで重合反応系を安定化し、副反応を防止することができるため、好ましい。また、使用量の上限は特に制限はないが、[モノマー比]を1.2以下とすることが好ましく、1.1以下とすることがさらに好ましく、1.05以下とすることがより好ましい。[モノマー比]を上記の範囲とすることでポリアリーレンスルフィド中に残存するハロゲン量を低減することができるため好ましい。なお、下記式における[ジハロゲン化芳香族化合物物質量]、および[無機スルフィド化剤物質量]は、ポリアリーレンスルフィドを製造する際における各化合物の使用量を示す。
[モノマー比]=[ジハロゲン化芳香族化合物物質量]/[無機スルフィド化剤物質量]
[有機極性溶媒]
ポリアリーレンスルフィド(A)の合成に用いられる有機極性溶媒として、有機アミド溶媒が好ましく例示できる。具体例としては、N-メチル-2-ピロリドン、N-エチル-2-ピロリドン、N-シクロヘキシル-2-ピロリドンなどのN-アルキルピロリドン類、N-メチル-ε-カプロラクタムなどのカプロラクタム類、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、ヘキサメチルリン酸トリアミドなどに代表されるアプロチック有機溶媒およびこれらの混合物などが反応の安定性が高いために好ましく使用される。これらのなかでもN-メチル-2-ピロリドン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノンが好ましく、N-メチル-2-ピロリドンがより好ましく用いられる。
[分子量調節剤]
生成するPPS樹脂の末端を形成させるため、あるいは重合反応や分子量を調節するためなどにより、モノハロゲン化合物(必ずしも芳香族化合物でなくともよい)を、上記ジハロゲン化芳香族化合物と併用することができる。
形成させるポリアリーレンスルフィドの末端基として、水酸基、イソシアネート基、エポキシ基、アミノ基、カルビノール基、カルボキシル基、メルカプト基、ウレイド基、マレイン酸基、無水マレイン酸基、カテコール基、レゾシノール基を好ましく例示することができる。ただし、末端基としてアミノ基を形成させる場合には、ポリアリーレンスルフィド(A)のアミノ基量の上限が前記好ましい範囲を満たすことが好ましい。
[重合助剤]
比較的に高重合度のポリアリーレンスルフィド(A)をより短時間で得るために重合助剤を用いることも好ましい態様の一つである。ここで重合助剤とは、得られるポリアリーレンスルフィド(A)の粘度を増大させる作用を有する物質を意味する。このような重合助剤の具体例としては、例えば有機カルボン酸塩、水、アルカリ金属塩化物、有機スルホン酸塩、硫酸アルカリ金属塩、アルカリ土類金属酸化物、アルカリ金属リン酸塩およびアルカリ土類金属リン酸塩などが挙げられる。これらは単独で用いることも、また2種以上を同時に用いることもできる。なかでも、有機カルボン酸塩、水、およびアルカリ金属塩化物が好ましく、さらに有機カルボン酸塩としてはアルカリ金属カルボン酸塩が、アルカリ金属塩化物としては塩化リチウムが好ましい。
上記アルカリ金属カルボン酸塩とは、一般式R(COOM)(式中、Rは、炭素数1~20を有するアルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アルキルアリール基またはアリールアルキル基である。Mは、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウムおよびセシウムから選ばれるアルカリ金属である。nは1~3の整数である。)で表される化合物である。アルカリ金属カルボン酸塩は、水和物、無水物または水溶液としても用いることができる。アルカリ金属カルボン酸塩の具体例としては、例えば、酢酸リチウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、プロピオン酸ナトリウム、吉草酸リチウム、安息香酸ナトリウム、フェニル酢酸ナトリウム、p-トルイル酸カリウム、およびそれらの混合物などを挙げることができる。
アルカリ金属カルボン酸塩は、有機酸と、水酸化アルカリ金属、炭酸アルカリ金属塩および重炭酸アルカリ金属塩からなる群から選ばれる一種以上の化合物とを、ほぼ等化学当量ずつ添加して反応させることにより形成させてもよい。上記アルカリ金属カルボン酸塩の中で、リチウム塩は反応系への溶解性が高く助剤効果が大きいが高価である。一方、カリウム、ルビジウムおよびセシウム塩は反応系への溶解性が不十分であると思われるため、安価で、重合系への適度な溶解性を有する酢酸ナトリウムが最も好ましく用いられる。
これらアルカリ金属カルボン酸塩を重合助剤として用いる場合の使用量は、仕込みアルカリ金属硫化物1モルに対し、通常0.01モル~2モルの範囲であり、より高い重合度を得る意味においては0.1モル~0.6モルの範囲が好ましく、0.2モル~0.5モルの範囲がより好ましい。
また水を重合助剤として用いる場合の添加量は、仕込みアルカリ金属硫化物1モルに対し、通常0.3モル~15モルの範囲であり、より高い重合度を得る意味においては0.6モル~10モルの範囲が好ましく、1モル~5モルの範囲がより好ましい。
これら重合助剤は2種以上を併用することももちろん可能であり、例えばアルカリ金属カルボン酸塩と水を併用すると、より少量のアルカリ金属カルボン酸塩と水で高分子量化が可能となる。
これら重合助剤の添加時期には特に指定はなく、後述する前工程時、重合開始時、重合反応工程のいずれの時点で添加してもよく、また複数回に分けて添加してもよい。重合助剤としてアルカリ金属カルボン酸塩を用いる場合は前工程開始時あるいは重合開始時に他の添加物と同時に添加することが、添加が容易である点からより好ましい。また水を重合助剤として用いる場合は、ジハロゲン化芳香族化合物を仕込んだ後、重合反応工程の途中で添加することが効果的である。
[重合安定剤]
重合反応系を安定化し、副反応を防止するために、重合安定剤を用いることもできる。重合安定剤は、重合反応系の安定化に寄与し、望ましくない副反応を抑制する。副反応の一つの目安としては、チオフェノールの生成が挙げられる。重合安定剤の添加によりチオフェノールの生成を抑えることができる。重合安定剤の具体例としては、アルカリ金属水酸化物、アルカリ金属炭酸塩、アルカリ土類金属水酸化物、およびアルカリ土類金属炭酸塩などの化合物が挙げられる。そのなかでも、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、および水酸化リチウムなどのアルカリ金属水酸化物が好ましい。上述のアルカリ金属カルボン酸塩も重合安定剤として作用するので、重合安定剤の一つに入る。また、スルフィド化剤としてアルカリ金属水硫化物を用いる場合には、アルカリ金属水酸化物を同時に使用することが特に好ましいことを前述したが、ここでスルフィド化剤に対して過剰となるアルカリ金属水酸化物も重合安定剤となり得る。
これら重合安定剤は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。重合安定剤は、仕込みアルカリ金属硫化物1モルに対して、通常0.02モル~0.2モル、好ましくは0.03モル~0.1モル、より好ましくは0.04モル~0.09モルの割合で使用することが好ましい。この割合が少ないと安定化効果が不十分であり、逆に多すぎても経済的に不利益であり、ポリマー収率が低下する傾向となる。
重合安定剤の添加時期には特に指定はなく、後述する前工程時、重合開始時、重合反応工程のいずれの時点で添加してもよく、また複数回に分けて添加してもよいが、前工程開始時あるいは重合開始時に同時に添加することが容易である点からより好ましい。
次に、ポリアリーレンスルフィド(A)の好ましい製造方法について、前工程、重合反応工程、回収工程、および後処理工程と、順を追って具体的に説明するが、この方法に限定されるものではない。
[前工程]
ポリアリーレンスルフィド(A)の製造方法において、通常、スルフィド化剤は水和物の形で使用されるが、ジハロゲン化芳香族化合物を添加する前に、有機極性溶媒とスルフィド化剤を含む混合物を昇温し、過剰量の水を系外に除去することが好ましい。
また、上述したように、スルフィド化剤として、アルカリ金属水硫化物とアルカリ金属水酸化物から、反応系においてin situで、あるいは重合槽とは別の槽で調製されるスルフィド化剤も用いることができる。この方法には特に制限はないが、望ましくは不活性ガス雰囲気下、常温~150℃、好ましくは常温から100℃の温度範囲で、有機極性溶媒にアルカリ金属水硫化物とアルカリ金属水酸化物を加え、常圧または減圧下、少なくとも150℃以上、好ましくは180℃~260℃まで昇温し、水分を留去させる方法が挙げられる。この段階で重合助剤を加えてもよい。また、水分の留去を促進するために、トルエンなどを加えて反応を行ってもよい。
重合反応における、重合系内の水分量は、仕込みスルフィド化剤1モル当たり0.3モル~10.0モルであることが好ましい。ここで重合系内の水分量とは重合系に仕込まれた水分量から重合系外に除去された水分量を差し引いた量である。また、仕込まれる水は、水、水溶液、結晶水などのいずれの形態であってもよい。
[重合反応工程]
有機極性溶媒中でスルフィド化剤とジハロゲン化芳香族化合物とを200℃以上290℃未満の温度範囲内で反応させることによりポリアリーレンスルフィド(A)を製造する。
重合反応工程を開始するに際しては、望ましくは不活性ガス雰囲気下において、常温~240℃、好ましくは100℃~230℃の温度範囲で、有機極性溶媒とスルフィド化剤とジハロゲン化芳香族化合物を混合する。この段階で重合助剤を加えてもよい。これらの原料の仕込み順序は、順不同であってもよく、同時であってもさしつかえない。
この混合物を通常200℃~290℃未満の範囲に昇温する。昇温速度に特に制限はないが、通常0.01℃/分~5℃/分の速度が選択され、0.1℃/分~3℃/分の範囲がより好ましい。
一般的に、最終的には250℃~290℃未満の温度まで昇温し、その温度で通常0.25時間~50時間、好ましくは0.5時間~20時間反応させる。
最終温度に到達させる前の段階で、例えば200℃~260℃で一定時間反応させた後、270℃~290℃未満に昇温する方法は、より高い重合度を得る上で有効である。この際、200℃~260℃での反応時間としては、通常0.25時間から20時間の範囲が選択され、好ましくは0.25時間~10時間の範囲が選ばれる。
なお、より高重合度のポリマーを得るためには、複数段階で重合を行うことが有効である場合がある。複数段階で重合を行う際は、245℃における系内のジハロゲン化芳香族化合物の転化率が、40モル%以上、好ましくは60モル%に達した時点であることが有効である。
なお、ジハロゲン化芳香族化合物(ここではDHAと略記する)の転化率は、以下の式で算出した値である。DHA残存量は、通常、ガスクロマトグラフ法によって求めることができる。
(a)ジハロゲン化芳香族化合物をアルカリ金属硫化物に対しモル比で過剰に添加した場合
転化率=〔DHA仕込み量(モル)-DHA残存量(モル)〕/〔DHA仕込み量(モル)-DHA過剰量(モル)〕
(b)上記(a)以外の場合
転化率=〔DHA仕込み量(モル)-DHA残存量(モル)〕/〔DHA仕込み量(モル)〕
[回収工程]
ポリアリーレンスルフィド(A)の製造方法においては、重合終了後に、重合体、溶媒などを含む重合反応物から固形物を回収する。回収方法については、公知のいかなる方法を採用してもよい。
例えば、重合反応終了後、徐冷して粒子状のポリマーを回収する方法を用いてもよい。この際の徐冷速度には特に制限は無いが、通常0.1℃/分~3℃/分程度である。徐冷工程の全工程において同一速度で徐冷する必要はなく、ポリマー粒子が結晶化析出するまでは0.1℃/分~1℃/分、その後1℃/分以上の速度で徐冷する方法などを採用してもよい。
また上記の回収を急冷条件下に行うことも好ましい方法の一つである。この回収方法のうち、好ましい方法としてはフラッシュ法が挙げられる。フラッシュ法とは、重合反応物を高温高圧(通常250℃以上、8kg/cm以上)の状態から常圧もしくは減圧の雰囲気中へフラッシュさせ、溶媒回収と同時に重合体を粉末状にして回収する方法である。ここでいうフラッシュとは、重合反応物をノズルから噴出させることを意味する。フラッシュさせる雰囲気は、具体的には、常圧中の窒素または水蒸気が挙げられ、その温度は通常150℃~250℃の範囲が選ばれる。
[後処理工程]
ポリアリーレンスルフィド(A)は、上記重合、回収工程を経て生成した後、酸処理、熱水処理、有機溶媒による洗浄、アルカリ金属やアルカリ土類金属処理を施されたものであってもよい。
酸処理を行う場合は次のとおりである。ポリアリーレンスルフィド(A)の酸処理に用いる酸は、ポリアリーレンスルフィド(A)を分解する作用を有しないものであれば特に制限はなく、酢酸、塩酸、硫酸、リン酸、珪酸、炭酸およびプロピル酸などが挙げられる。なかでも酢酸および塩酸がより好ましく用いられる。一方、硝酸のようなポリアリーレンスルフィド(A)を分解、劣化させるものは好ましくない。
酸処理の方法は、例えば、酸または酸の水溶液にポリアリーレンスルフィド(A)を浸漬せしめる方法があり、必要により撹拌または加熱することも可能である。例えば、酢酸を用いる場合、pH4の酢酸水溶液を80℃~200℃に加熱した中にポリアリーレンスルフィド(A)を浸漬し、30分間撹拌することにより十分な効果が得られる。処理後のpHは4以上となってもよく、例えばpH4~8程度となってもよい。酸処理を施されたポリアリーレンスルフィド(A)から残留している酸または塩などを除去するため、水または温水で数回洗浄することが好ましい。洗浄に用いる水は、酸処理によるポリアリーレンスルフィド(A)の好ましい化学的変性の効果を損なわないために、蒸留水、脱イオン水であることが好ましい。
熱水処理を行う場合は次のとおりである。ポリアリーレンスルフィド(A)を熱水処理するにあたり、熱水の温度を100℃以上、より好ましくは120℃以上、さらに好ましくは150℃以上、特に好ましくは170℃以上とすることが好ましい。100℃未満ではポリアリーレンスルフィド(A)の好ましい化学的変性の効果が小さいため好ましくない。
熱水洗浄によるポリアリーレンスルフィド(A)の好ましい化学的変性の効果を発現するため、使用する水は蒸留水あるいは脱イオン水であることが好ましい。熱水処理の操作に特に制限は無い。所定量の水に所定量のポリアリーレンスルフィド(A)を投入し、圧力容器内で加熱、撹拌する方法や、連続的に熱水処理を施す方法などにより行われる。ポリアリーレンスルフィド(A)と水との割合は、水が多い方が好ましいが、通常、水1リットルに対し、ポリアリーレンスルフィド(A)200g以下の浴比(乾燥ポリアリーレンスルフィド(A)重量に対する洗浄液重量)が選ばれる。
また、末端基の好ましくない分解を回避するため、処理の雰囲気は不活性雰囲気下とすることが望ましい。さらに、残留している成分を除去するため、この熱水処理操作を終えたポリアリーレンスルフィド(A)は、温水で数回洗浄するのが好ましい。
有機溶媒で洗浄する場合は次のとおりである。ポリアリーレンスルフィド(A)の洗浄に用いる有機溶媒は、ポリアリーレンスルフィド(A)を分解する作用などを有しないものであれば特に制限はない。例えばN-メチル-2-ピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、1,3-ジメチルイミダゾリジノン、ヘキサメチルホスホラスアミド、ピペラジノン類などの含窒素極性溶媒、ジメチルスルホキシド、ジメチルスルホン、スルホランなどのスルホキシド・スルホン系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、アセトフェノンなどのケトン系溶媒、ジメチルエーテル、ジプロピルエーテル、ジオキサン、テトラヒドロフランなどのエーテル系溶媒、クロロホルム、塩化メチレン、トリクロロエチレン、2塩化エチレン、パークロルエチレン、モノクロルエタン、ジクロルエタン、テトラクロルエタン、パークロルエタン、クロルベンゼンなどのハロゲン系溶媒、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、フェノール、クレゾール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールなどのアルコール・フェノール系溶媒およびベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素系溶媒などが挙げられる。これらの有機溶媒のうちでも、N-メチル-2-ピロリドン、アセトン、ジメチルホルムアミドおよびクロロホルムなどの使用が特に好ましい。また、これらの有機溶媒は、1種類または2種類以上の混合で使用される。
有機溶媒による洗浄の方法としては、例えば、有機溶媒中にポリアリーレンスルフィド(A)を浸漬せしめる方法があり、必要により適宜撹拌または加熱することも可能である。有機溶媒でポリアリーレンスルフィド(A)を洗浄する際の洗浄温度については特に制限はなく、常温~300℃程度の任意の温度が選択できる。洗浄温度が高くなる程洗浄効率が高くなる傾向があるが、通常は常温~150℃の洗浄温度で十分効果が得られる。圧力容器中で、有機溶媒の沸点以上の温度で加圧下に洗浄することも可能である。また、洗浄時間についても特に制限はない。洗浄条件にもよるが、バッチ式洗浄の場合、通常5分間以上洗浄することにより十分な効果が得られる。また連続式で洗浄することも可能である。後処理工程は、酸処理、熱水処理、有機溶媒による洗浄のいずれかを施すことが好ましく、2種以上の処理を併用することが、不純物除去の観点から好ましい。
アルカリ金属、アルカリ土類金属処理する方法としては、上記前工程の前、前工程中、前工程後にアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩を添加する方法、重合工程前、重合工程中、重合工程後に重合釜内にアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩を添加する方法、あるいは上記洗浄工程の最初、中間、最後の段階でアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩を添加する方法などが挙げられる。中でももっとも容易な方法としては、有機溶剤洗浄や、温水または熱水洗浄で残留オリゴマーや残留塩を除いた後にアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩を添加する方法が挙げられる。アルカリ金属、アルカリ土類金属は、酢酸塩、水酸化物、炭酸塩などのアルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオンの形でポリアリーレンスルフィド(A)中に導入するのが好ましい。また過剰のアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩は温水洗浄などにより取り除く方が好ましい。上記アルカリ金属、アルカリ土類金属導入の際のアルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン濃度としてはポリアリーレンスルフィド(A)1gに対して0.001mmol以上が好ましく、0.01mmol以上がより好ましい。温度としては、50℃以上が好ましく、75℃以上がより好ましく、90℃以上が特に好ましい。上限温度は特にないが、操作性の観点から通常280℃以下が好ましい。浴比(乾燥ポリアリーレンスルフィド(A)重量に対する洗浄液重量)としては0.5以上が好ましく、3以上がより好ましく、5以上がさらに好ましい。
[熱酸化架橋処理]
ポリアリーレンスルフィド(A)は、重合終了後に酸素雰囲気下においての加熱や過酸化物などの架橋剤を添加しての加熱による熱酸化架橋処理により高分子量化して用いることも可能である。ただし、ポリアリーレンスルフィド(A)の重量平均分子量、重量平均分子量/数平均分子量で表される分散度が前記好ましい範囲を満たすことが好ましい。また、ポリアリーレンスルフィド(A)を用いて得らえるポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の重量平均分子量、非ニュートン指数が前記範囲を満たす必要があるとともに、重量平均分子量/数平均分子量で表される分散度が前記好ましい範囲を満たすことが好ましい。
熱酸化架橋による高分子量化を目的として乾式熱処理する場合には、その温度は160℃~260℃が好ましく、170℃~250℃の範囲がより好ましい。また、酸素濃度は5体積%以上、更には8体積%以上とすることが望ましい。酸素濃度の上限には特に制限はないが、50体積%程度が限界である。処理時間は、0.5時間~100時間が好ましく、1時間~50時間がより好ましく、2時間~25時間がさらに好ましい。加熱処理の装置は通常の熱風乾燥機もしくは回転式あるいは撹拌翼付の加熱装置であってもよい。効率よく、より均一に処理する場合は、回転式あるいは撹拌翼付の加熱装置を用いるのが好ましい。
また、熱酸化架橋を抑制し、揮発分除去を目的として乾式熱処理を行うことも可能である。その温度は130℃~250℃が好ましく、160℃~250℃の範囲がより好ましい。また、この場合の酸素濃度は5体積%未満、更には2体積%未満とすることが望ましい。処理時間は、0.5時間~50時間が好ましく、1時間~20時間がより好ましく、1時間~10時間がさらに好ましい。加熱処理の装置は通常の熱風乾燥機または回転式もしくは撹拌翼付の加熱装置であってもよい。効率よく、より均一に処理する場合は、回転式あるいは撹拌翼付の加熱装置を用いるのがより好ましい。
[ポリアリーレンスルフィド(B)]
ポリアリーレンスルフィド(B)とは、式、-(Ar-S)-の繰り返し単位を主要構成単位とするホモポリマーまたはコポリマーである。ここで、主要構造単位とするとは、当該繰り返し単位を70モル%以上含有することをいう。Arとしては前記式(I)~式(XI)などで表される単位などがあるが、なかでも式(I)で表される単位が特に好ましい。
この繰り返し単位を主要構成単位とする限り、前記式(XII)~式(XIV)などで表される少量の分岐単位または架橋単位を含むことができる。これら分岐単位または架橋単位の共重合量は、-(Ar-S)-の単位1モルに対して0~1モル%の範囲であることが好ましい。
ポリアリーレンスルフィド(B)は、上記繰り返し単位を含むランダム共重合体、ブロック共重合体及びそれらの混合物のいずれかであってもよい。
これらの代表的なものとして、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンスルフィドスルホン、ポリフェニレンスルフィドケトン、これらのランダム共重合体、ブロック共重合体及びそれらの混合物などが挙げられる。特に好ましいポリアリーレンスルフィドとしては、ポリマーの主要構成単位として前記式(XV)で表されるp-フェニレンスルフィド単位を80モル%以上、特に90モル%以上含有するポリフェニレンスルフィドが挙げられる。
ポリアリーレンスルフィド(B)は官能基としてアミノ基を含有する。ポリアリーレンスルフィド(B)のアミノ基の位置は、ポリアリーレンスルフィド(B)の末端に導入されることが好ましく、なかでもArと結合するSに対してp位であることが好ましい。アミノ基がポリアリーレンスルフィド(A)の主鎖に導入される場合、立体的にアミノ基の反応性が劣るためと推測されるが異素材との接着性やそれに伴う耐加水分解性が十分に得られにくい。また、高分子鎖の配列にも不利なためと推測されるが結晶性にも劣り生産性や機械特性が十分に得られにくいため、好ましくない。アミノ基を末端に、なかでもp位に含有することで、ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物は、異素材との接着性や引張強度に優れるとともに、耐加水分解試験後の引張強度と、耐加水分解試験後の強度保持率、また結晶性にも優れる傾向にある。
ポリアリーレンスルフィド(B)のアミノ基量の下限は200μmol/g以上であり、300μmol/gがより好ましく、400μmol/gがさらに好ましく、500μmol/g以上がよりいっそう好ましく、600μmol/g以上がさらにいっそう好ましい。アミノ基量の下限がこの範囲であると、得られるポリアリーレンスルフィド樹脂組成物が、異素材との接着性や引張強度に優れるとともに、耐加水分解試験後の引張強度と、耐加水分解試験後の強度保持率に優れる傾向にある。
ポリアリーレンスルフィド(B)のアミノ基量の上限は2,000μmol/g以下であり、1,500μmol/g以下がより好ましく、1,000μmol/g以下がさらに好ましい。アミノ基量の上限がこの範囲であると、ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物に含まれる低分子量成分の量が少なくなる傾向が強く、加熱時のガス発生量が少なく、成形加工した際の機械特性により優れる傾向にある。
ポリアリーレンスルフィド(B)中のアミノ基量は、ポリアリーレンスルフィド(B)をFT-IR分析し、例えばベンゼン環由来の1901m-1における吸収に対するアミノ基由来の3382cm-1の吸収の強度を比較することで定量することができる。
ポリアリーレンスルフィド(B)の数平均分子量の下限は1,000以上であり、2,000以上がより好ましく、2,500以上がさらに好ましく、3,000以上がよりいっそう好ましい。数平均分子量の下限がこの範囲であると、ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物に含まれる低分子量成分の量が少なくなる傾向が強く、加熱時のガス発生量が少なく、成形加工した際の機械特性により優れる傾向にある。
ポリアリーレンスルフィド(B)の数平均分子量の上限は10,000以下であり、8,000以下がより好ましく、6,000以下がさらに好ましく、5,000以下がよりいっそう好ましく、4,000以下がさらにいっそう好ましい。数平均分子量の上限がこの範囲であると、アミノ基量を導入しやすく、異素材との接着性や機械強度、耐加水分解性がより優れるポリアリーレンスルフィド樹脂組成物を得やすくなる。
ポリアリーレンスルフィド(B)の数平均分子量は、例えば示差屈折率検出器を具備したSEC(サイズ排除クロマトグラフィー)を使用して求めることができる。
ポリアリーレンスルフィド(B)を30℃から320℃まで10℃/分の昇温速度で加熱したときの重量減少率は5wt%以下が好ましく、4wt%以下がより好ましく、3wt%以下がさらに好ましい。重量減少率の下限は小さいほど好ましいが、通常、0.01wt%以上が例示できる。後述する製造方法ではポリアリーレンスルフィド(B)中に多量の官能基を導入しても、加熱時のガス成分となりやすい未反応のモノマーが残存しにくい傾向にあり、重量減少率を5wt%以下と小さくすることができる。重量減少率の上限がこの範囲であると、ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物を製造する際の加熱時や、ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の加熱時にガス発生量が少なくなる。
上記重量減少率は、一般的な熱重量分析によって求めることが可能である。この分析における雰囲気は通常、常圧の非酸化性雰囲気を用いる。非酸化性雰囲気とは試料が接する気相における酸素濃度が5体積%以下、好ましくは2体積%以下、さらに好ましくは酸素を実質的に含有しない雰囲気であり、窒素、ヘリウム、アルゴンなどの不活性ガス雰囲気を用いることが好ましい。この中でも特に経済性および取扱い性の容易さの面からは窒素雰囲気が特に好ましい。また、常圧とは大気圧、すなわち絶対圧で101.3kPa近傍の圧力条件のことである。
また、重量減少率の測定においては室温から320℃以上の任意の温度まで昇温速度10℃/分で昇温して熱重量分析を行う。この温度範囲はポリフェニレンスルフィドに代表されるポリアリーレンスルフィドを実使用する際や溶融状態での成形や反応を行う際に頻用される温度領域である。このような実使用温度領域における重量減少率は、実使用時のポリアリーレンスルフィドからのガス発生量や成形加工・反応時の機器の汚染度の指標となる。したがって、このような温度範囲における重量減少率が少ないポリアリーレンスルフィドは、品質の高い優れたポリアリーレンスルフィドであるといえる。
[ポリアリーレンスルフィド(B)の製造方法]
以下にポリアリーレンスルフィド(B)の製造方法について具体的に述べるが、下記方法に限定されるものではない。
ポリアリーレンスルフィド(B)を合成する方法としては、有機極性溶媒中で、少なくともジハロゲン化芳香族化合物、無機スルフィド化剤および化合物(D)をアルカリ金属水酸化物の存在下で反応させるポリアリーレンスルフィドの製造方法であって、反応容器中で無機スルフィド化剤1モルに対して化合物(D)を0.01モル以上0.5モル以下の範囲で存在させる方法が好ましい。化合物(D)の詳細については後述する。
有機極性溶媒、ジハロゲン化芳香族化合物、無機スルフィド化剤としては、ポリアリーレンスルフィド(A)の合成と同様に前述の有機極性溶媒、ジハロゲン化芳香族化合物、スルフィド化剤を用いることが可能である。また、ポリアリーレンスルフィド(A)の合成に使用可能な前述の分子量調節剤、重合助剤、重合安定剤をあわせて用いることも可能である。
ジハロゲン化芳香族化合物の使用量の下限は特に制限はないが、下記式で表現される[モノマー比]を0.8以上とすることが好ましく、0.9以上とすることがより好ましく、0.95以上とすることがさらに好ましい。[モノマー比]を上記の範囲とすることで重合反応系を安定化し、副反応を防止することができるため、好ましい。また、使用量の上限は特に制限はないが、[モノマー比]を1.2以下とすることが好ましく、1.1以下とすることがさらに好ましく、1.05以下とすることがより好ましい。[モノマー比]を上記の範囲とすることでポリアリーレンスルフィド中に残存するハロゲン量を低減することができるため好ましい。なお、下記式における[ジハロゲン化芳香族化合物物質量]、[無機スルフィド化剤物質量]、および[化合物(D)物質量]は、ポリアリーレンスルフィドを製造する際における各化合物の使用量を示す。
[モノマー比]=[ジハロゲン化芳香族化合物物質量]/([無機スルフィド化剤物質量]+[化合物(D)物質量])
また、ポリアリーレンスルフィド(B)の好ましい製造方法における工程についても、ポリアリーレンスルフィド(A)と同様に前述の前工程、重合反応工程、回収工程、後処理工程を採用すればよく、熱酸化架橋処理を行うことも可能である。
[化合物(D)]
ポリアリーレンスルフィド(B)の製造方法で用いられる化合物(D)は、少なくとも1つの芳香環を有し、該1つの芳香環上に、ポリアリーレンスルフィド(B)に官能基として導入されるアミノ基と、ポリアリーレンスルフィド(A)の製造方法と同様に採用される重合反応工程でジハロゲン化芳香族化合物と反応する水酸基、水酸基の塩、チオール基、およびチオール基の塩から選ばれる少なくとも一つの官能基とを有する化合物である。化合物(D)の具体例としては、2-アミノフェノール、4-アミノフェノール、3-アミノフェノール、2-アミノチオフェノール、4-アミノチオフェノール、3-アミノチオフェノールおよびこれらの化合物の水酸基またはチオール基がアルカリ金属またはアルカリ土類金属の塩となっている化合物を例示できる。なかでも、反応性の観点から、4-アミノフェノール、4-アミノチオフェノールを好ましい化合物として例示できる。なお、上記の特徴を有していれば、異なる2種類以上の化合物(D)を組み合わせて用いることも可能である。化合物(D)として水酸基またはチオール基を有する化合物を用いる場合、等量のアルカリ金属水酸化物を同時に使用することが好ましい実施形態である。また、化合物(D)として水酸基またはチオール基が塩の形態をとる化合物を用いる場合、あらかじめ塩を形成してからポリアリーレンスルフィド(B)の製造に使用することも可能であるし、反応容器内の反応で塩を形成することも可能である。
化合物(D)の使用量の下限は仕込み無機スルフィド化剤1モルに対し、0.01モル以上を例示でき、0.02モル以上が好ましく、0.04モル以上がより好ましく、0.05モル以上がさらに好ましく、0.06モル以上がよりいっそう好ましく、0.08モル以上がさらにいっそう好ましく、0.1モル以上が特に好ましい。使用量がこの値以上であることでアミノ基をポリアリーレンスルフィド(B)に十分に導入できるため好ましい。また、化合物(D)の使用量の上限は仕込み無機スルフィド化剤1モルに対して0.5モル以下が好ましく、0.45モル以下がより好ましく、0.4モル以下がさらに好ましい。使用量がこの値以下であることでポリアリーレンスルフィド(B)の分子量低下を防止できるため好ましい。
化合物(D)の添加時期には特に指定はなく、前述した前工程時、重合開始時、重合反応工程のいずれの時点で添加してもよく、また複数回に分けて添加してもよいが、効率よくジハロゲン化芳香族化合物と反応させる観点から、ジハロゲン化芳香族化合物を反応容器に添加するのと同じ段階で添加することがより好ましい。
[ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の製造方法]
本発明のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物は、アミノ基含有量が15μmol/g未満であり、重量平均分子量が30,000以上150,000以下であるポリアリーレンスルフィド(A)およびアミノ基含有量が200μmol/g以上2,000μmol/g以下であり、数平均分子量が1,000以上10,000以下であるポリアリーレンスルフィド(B)を混合し、さらに加熱することで、製造することができる。
ポリアリーレンスルフィド(A)の配合量の下限は、機械特性により優れる観点からは、ポリアリーレンスルフィド(A)および前記ポリアリーレンスルフィド(B)の合計100重量部に対し、50重量部以上であり、70重量部以上がより好ましく、80重量部以上がさらに好ましく、90重量部以上がよりいっそう好ましく、95重量部以上がさらにいっそう好ましい。
ポリアリーレンスルフィド(A)の配合量の上限は、異素材との接着性や耐加水分解性により優れる観点からは、ポリアリーレンスルフィド(A)および前記ポリアリーレンスルフィド(B)の合計100重量部に対し、99.3重量部以下であり、97重量部以下がより好ましく、95重量部以下がさらに好ましく、90重量部以下がよりいっそう好ましい。
[ポリアリーレンスルフィド(A)およびポリアリーレンスルフィド(B)の加熱条件]
ポリアリーレンスルフィド(A)およびポリアリーレンスルフィド(B)の加熱は、初めから全量を混合して加熱してもよいし、ポリアリーレンスルフィド(A)および/またはポリアリーレンスルフィド(B)の少なくとも一部を加熱した後、残りのポリアリーレンスルフィド(A)および/またはポリアリーレンスルフィド(B)を混合して加熱してもよい。
加熱温度の下限は200℃以上が例示でき、230℃以上が好ましく、250℃以上がより好ましい。加熱温度の下限がこの範囲であると、容易にポリアリーレンスルフィド(A)とポリアリーレンスルフィド(B)を混合することができ、ポリアリーレンスルフィド(A)および/またはポリアリーレンスルフィド(B)が溶融解する温度以上とする場合には、より短時間で混合することができる。ポリアリーレンスルフィド(A)、ポリアリーレンスルフィド(B)が溶融解する温度は一意的に示すことはできないが、例えば示差走査型熱量計で分析することで把握できる。加熱温度の上限としては400℃以下が例示でき、好ましくは380℃以下、より好ましくは360℃以下、さらに好ましくは340℃以下である。加熱温度の上限がこのような範囲であると、架橋反応や分解反応に代表される好ましくない副反応を抑制でき、得られるポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の特性低下を抑制できる傾向にある。
加熱時間はポリアリーレンスルフィド(A)、ポリアリーレンスルフィド(B)の分子量や加熱時の環境により変化するため、一意的に示すことはできないが、前記した好ましくない副反応がなるべく起こらないように設定することが好ましい。加熱時間の下限としては、0.1分以上が例示でき、0.5分以上が好ましく、1分以上がより好ましく、2分以上がさらに好ましく、3分以上がよりいっそう好ましい。加熱時間の下限をこのような範囲であると、ポリアリーレンスルフィド(A)とポリアリーレンスルフィド(B)を十分に混合することができる。加熱時間の上限としては、100時間以内が例示でき、20時間以内が好ましく、10時間以内がより好ましく、1時間以内がさらに好ましい。加熱時間の上限がこのような範囲であると、経済性に優れ、かつ前記した好ましくない副反応を避けられる傾向にある。
加熱は、溶媒の非存在下で行うことも、溶媒の存在下で行うことも可能であるが、ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物が効率的に得られる観点から、実質的に無溶媒条件で行うことが好ましい。また、得られるポリアリーレンスルフィド樹脂組成物を成形加工する際の、発生ガスによる成形品の汚染を防ぐ観点からも、実質的に無溶媒条件で行うことが好ましい。ここで、実質的な無溶媒条件とは、ポリアリーレンスルフィド(A)およびポリアリーレンスルフィド(B)を加熱する系内の溶媒が10重量%以下であることを指し、3重量%以下が好ましい。
本発明のポリアリーレンスルフィド共重合体の製造方法における加熱は、通常の重合反応装置を用いる方法で行うのはもちろんのこと、成形品を製造する型内で行ってもよいし、押出機や溶融混練機を用いて行うなど、加熱機構を具備した装置であれば特に制限なく行うことが可能であり、バッチ方式、連続方式など公知の方法が採用できる。
加熱の際の雰囲気は、大気下でもよいが、非酸化性雰囲気で行うことも、減圧条件下で行うことも好ましい。減圧条件下で行う場合には、架橋反応や分解反応などの好ましくない副反応を抑制する観点で、反応系内の雰囲気を一度非酸化性雰囲気としてから減圧条件にすることが好ましい。なお、非酸化性雰囲気とは気相における酸素濃度が5体積%以下、好ましくは2体積%以下、より好ましくは酸素を実質的に含有しない雰囲気、すなわち窒素、ヘリウム、アルゴンなどの不活性ガス雰囲気であることを指し、この中でも特に経済性および取り扱いの容易さの面からは窒素雰囲気が好ましい。また、減圧条件下とは反応を行う系内が大気圧よりも低いことを指し、圧力の上限としては50kPa以下が好ましく、20kPa以下がより好ましく、10kPa以下がさらに好ましい。圧力の上限がこのような範囲であると、架橋反応など好ましくない副反応が抑制できる傾向にある。圧力の下限としては0.1kPa以上が例示できる。圧力の下限を0.1kPa以上とすることで、必要以上に減圧にすることによる反応装置への負荷を避けることができる。
[ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の用途]
ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物は、ポリアリーレンスルフィド以外の樹脂やフィラー、金属などといった異素材との接着性が求められる用途に好適に用いられ、フィラーとの接着性が求められる用途により好ましく用いられ、ガラス繊維との接着性が求められる用途にさらに好ましく用いられる。ここでいうフィラーとは、前述のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物に配合するフィラーと同様のものが挙げられる。また、フィラー表面に多くの官能基を導入するために、イソシアネート系化合物、有機シラン系化合物、有機チタネート系化合物、有機ボラン系化合物およびエポキシ化合物などのカップリング剤で予備処理して使用することが好ましい。
本発明においてフィラーとの接着性は、ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物とフィラーとの間に共有結合を形成させることで向上することができる。ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物とフィラーとの間に形成させる共有結合は、エーテル結合、ウレタン結合、エステル結合、アミド結合、エステルアミド結合、イミド結合、ウレア結合が挙げられる。なかでも、ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物中のアミノ基と、イソシアネート基を有するアルコキシシランとが反応して生成するウレア結合が、耐加水分解性の観点から好ましい。
ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物をフィラーと混合させる方法としては、溶融状態での製造や溶液状態での製造などが使用できるが、簡便さの観点から、溶融状態での製造が好ましく使用できる。溶融状態での製造については、押出機による溶融混練や、ニーダーによる溶融混練などが使用できるが、生産性の観点から、連続的に製造可能な押出機による溶融混練が好ましく使用できる。押出機による溶融混練については、単軸押出機、二軸押出機、四軸押出機等の多軸押出機、二軸単軸複合押出機等の押出機を1台以上で使用できるが、混練性、反応性、生産性向上の点から、二軸押出機、四軸押出機等の多軸押出機が好ましく使用でき、二軸押出機による溶融混練が最も好ましい。
本発明のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物は、耐熱性、耐薬品性、難燃性、電気的性質ならびに機械的性質に優れ、射出成形、射出圧縮成形、ブロー成形用途のみならず、押出成形により、シート、フィルム、繊維及びパイプなどの押出成形品に成形することができる。
また本発明のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の用途としては、例えばセンサー、LEDランプ、コネクター、ソケット、抵抗器、リレーケース、スイッチ、コイルボビン、コンデンサー、バリコンケース、光ピックアップ、発振子、各種端子板、変成器、プラグ、プリント基板、チューナー、スピーカー、マイクロフォン、ヘッドフォン、小型モーター、磁気ヘッドベース、パワーモジュール、半導体、液晶、FDDキャリッジ、FDDシャーシ、モーターブラッシュホルダー、パラボラアンテナ、コンピューター関連部品などに代表される電気・電子部品;VTR部品、テレビ部品、アイロン、ヘアードライヤー、炊飯器部品、電子レンジ部品、音響部品、オーディオ・レーザーディスク(登録商標)・コンパクトディスクなどの音声機器部品、照明部品、冷蔵庫部品、エアコン部品、タイプライター部品、ワードプロセッサー部品などに代表される家庭、事務電気製品部品;オフィスコンピューター関連部品、電話器関連部品、ファクシミリ関連部品、複写機関連部品、洗浄用治具、モーター部品、ライター、タイプライターなどに代表される機械関連部品:顕微鏡、双眼鏡、カメラ、時計などに代表される光学機器、精密機械関連部品;水道蛇口コマ、混合水栓、ポンプ部品、パイプジョイント、水量調節弁、逃がし弁、湯温センサー、水量センサー、水道メーターハウジングなどの水廻り部品;バルブオルタネーターターミナル、オルタネーターコネクター,ICレギュレーター、ライトディヤー用ポテンシオメーターベース、排気ガスバルブなどの各種バルブ、燃料関係・排気系・吸気系各種パイプ、エアーインテークノズルスノーケル、インテークマニホールド、燃料ポンプ、エンジン冷却水ジョイント、キャブレターメインボディー、キャブレタースペーサー、排気ガスセンサー、冷却水センサー、油温センサー、スロットルポジションセンサー、クランクシャフトポジションセンサー、エアーフローメーター、ブレーキパッド摩耗センサー、エアコン用サーモスタットベース、暖房温風フローコントロールバルブ、ラジエーターモーター用ブラッシュホルダー、ウォーターポンプインペラー、タービンベイン、ワイパーモーター関係部品、デュストリビューター、スタータースイッチ、スターターリレー、トランスミッション用ワイヤーハーネス、ウィンドウォッシャーノズル、エアコンパネルスイッチ基板、燃料関係電磁気弁用コイル、ヒューズ用コネクター、ホーンターミナル、電装部品絶縁板、ステップモーターローター、ランプソケット、ランプリフレクター、ランプハウジング、ブレーキピストン、ソレノイドボビン、エンジンオイルフィルター、点火装置ケース、車速センサー、ケーブルライナー、エンジンコントロールユニットケース、エンジンドライバーユニットケース、コンデンサーケース、モーター絶縁材料、ハイブリッドカーの制御系部品ケースなどの自動車・車両関連部品、その他の各種用途が例示できる。なかでも、特に自動車冷却モジュール、自動車配管、住設配管、給湯器部品などの長期間熱水や冷却水に接触しうる用途に特に好適である。
本発明のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物を用いた繊維の製造方法としては、公知の溶融紡糸方法を適用することができ、例えば、原料であるポリアリーレンスルフィド樹脂組成物のチップを単軸または2軸の押出機に供給しながら混練し、ついで押出機の先端部に設置したポリマー流線入替器、濾過層などを経て紡糸口金より押出し、冷却、延伸、熱セットを行う方法などを採用することができるが、特にこれに限定されるものではない。
このようにして得られたモノフィラメントあるいは短繊維は、抄紙ドライヤーキャンパス、ネットコンベヤー、バグフィルターなどの各種用途に好適に使用することができる。
本発明のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物を用いたフィルムの製造方法としては、公知の溶融製膜方法を採用することができ、例えば、単軸または2軸の押出機中でポリアリーレンスルフィド樹脂組成物を溶融後、フィルムダイより押し出し冷却ドラム上で冷却してフィルムを作製する方法、あるいは、このようにして作製したフィルムをローラー式の縦延伸装置とテンターと呼ばれる横延伸装置にて縦横に延伸する二軸延伸法などにより製造することができるが、特にこれに限定されるものではない。
このようにして得られたフィルムは、優れた機械特性、電気特性、耐熱性を有しており、フィルムコンデンサーやチップコンデンサーの誘電体フィルム用途、離形用フィルム用途など各種用途に好適に使用することができる。
以下、本発明の方法を実施例および比較例によりさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。
[アミノ基含有量の分析]
ポリアリーレンスルフィド(A)、ポリアリーレンスルフィド(B)、およびポリアリーレンスルフィド樹脂組成物が有するアミノ基量は、320℃での加熱による溶融状態から急冷して作製した非晶フィルムをFT-IR(日本分光(株)製IR-810型赤外分光光度計)測定し、アリーレンスルフィド単位のベンゼン環由来の1901cm-1における吸収強度に対する、アミノ基由来の3382cm-1における吸収強度を比較することによって見積もった。
[分子量測定]
重量平均分子量Mw、数平均分子量Mnは、サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)の一種であるゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により、ポリスチレン換算で算出した。GPCの測定条件を以下に示す。
装置:センシュー科学 SSC-7110
カラム名:Shodex UT806M×2
溶離液:1-クロロナフタレン
検出器:示差屈折率検出器
カラム温度:210℃
プレ恒温槽温度:250℃
ポンプ恒温槽温度:50℃
検出器温度:210℃
流量:1.0mL/min
試料注入量:300μL。
[非ニュートン指数の測定]
ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物を窒素雰囲気下120℃で4時間予備乾燥した後、キャピログラフを用いて300℃、キャピラリーのL/D=10の条件下、せん断速度およびせん断応力を測定して、下記式を用いて非ニュートン指数Nを算出した。
SR=K・SS
(ここでNは非ニュートン指数、SRはせん断速度(s-1)、SSはせん断応力(Pa)、Kは定数を表す。)
[結晶化温度および凝固熱の測定]
結晶化温度(Tmc)および凝固熱(ΔHmc)は、ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物約10mgから15mgを用い、示差走査熱量計(DSC)により測定した。20℃/分の速度で0℃から340℃まで昇温した後、340℃で1分間保持し、20℃/分の速度で100℃まで降温した際に検出される結晶化ピーク温度の値を結晶化温度とし、結晶化ピークから算出される熱量を凝固熱とした。ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物がフィラーなどの無機物を含有する場合には、凝固熱は、ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物中の無機成分を除く有機成分の重量当たりの熱量として算出した。
装置:TAインスツルメントTA-Q200
キャリアーガス:窒素
サンプルパージ流量:50mL/分。
[加熱時の重量減少率の測定]
ポリアリーレンスルフィド(B)の加熱時の重量減少率は、熱重量分析機を用いて下記条件で行った。
装置:パーキンエルマー社製 TGA7
測定雰囲気:窒素気流下
試料仕込み重量:約5mg
測定条件
(a)プログラム温度30℃で1分保持
(b)プログラム温度30℃から340℃まで昇温。この際の昇温速度10℃/分。
上記の条件で測定した320℃時点の重量と30℃時点の重量から、以下の式により重量減少率を求めた。
重量減少率(%)=((30℃時点の重量(mg)-320℃時点の重量(mg))/30℃時点の重量(mg))×100。
[射出成形]
サーモフィッシャーサイエンティフィック(株)製小型射出成形機HAAKE MiniJet Proを用い、樹脂温度320℃、金型温度130℃とする条件にて、ISO527-2-5A形試験片を成形した。
[引張強度]
射出成形して得られたISO527-2-5A形試験片を、AG-20kNx万能試験機を用い、引張速度10mm/min、雰囲気温度23℃、相対湿度50%の条件下、ISO527-1,-2(2012)に従い引張強度を測定し、5回測定した平均値を求めた。
[耐加水分解試験後の引張強度]
射出成形して得られたISO527-2-5A形試験片をオートクレーブに入れ、トヨタ自動車社製トヨタスーパーロングライフクーラント(品番08889-01005)とイオン交換水を重量比1:1で混合した溶液を、該試験片が十分に浸漬するまで注ぎ入れた。その後、150℃に加熱した乾燥機でオートクレーブを500時間処理した。十分に冷却後、オートクレーブから試験片を取り出して水分を除去した後、AG-20kNx万能試験機を用いて引張強度を測定した。
[耐加水分解試験後の強度保持率]
耐加水分解試験後の強度保持率は、以下の式に従って決定した。
耐加水分解試験後の強度保持率(%)=耐加水分解試験後の引張強度(MPa)/耐加水分解試験前の引張強度(MPa)×100(%)
[参考例1]
撹拌機および底栓弁付きのオートクレーブに、47.5%水硫化ナトリウム8.26kg(70.00モル)、96%水酸化ナトリウム2.63kg(68.53モル)、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)14.57kg(147.00モル)、酢酸ナトリウム1.89kg(23.1モル)、およびイオン交換水5.78kgを仕込み、常圧で窒素を通じながら245℃まで約3時間かけて徐々に加熱し、水9.70kgおよびNMP0.28kgを留出した時点で加熱を終え冷却を開始した。この時点での硫化水素の飛散量は1.4モルであったため、本工程後の系内のスルフィド化剤は68.6モルであった。
その後200℃まで冷却し、p-ジクロロベンゼン(p-DCB)10.36kg(70.45モル)、NMP5.55kg(56.00モル)を加えた後に反応容器を窒素ガス下に密封し、撹拌しながら0.6℃/分の速度で200℃から240℃まで昇温した後、0.8℃/分の速度で240℃から276℃まで昇温し、さらに276℃で75分間反応させた後、オートクレーブの底栓弁を開放し、窒素で加圧しながら内容物を撹拌機付き容器に15分かけてフラッシュし、250℃でしばらく撹拌して大半のNMPを除去した。
得られた固形物およびイオン交換水76リットルを撹拌機付きオートクレーブに入れ、70℃で30分洗浄した後、ガラスフィルターで吸引濾過した。次いで70℃に加熱した76リットルのイオン交換水をガラスフィルターに注ぎ込み、吸引濾過してケークを得た。
得られたケークおよびイオン交換水90リットルを撹拌機付きオートクレーブに仕込み、pHが4になるよう酢酸を添加した。オートクレーブ内部を窒素で置換した後、192℃まで昇温し、30分保持した。その後オートクレーブを冷却して内容物を取り出した。
内容物をガラスフィルターで吸引濾過した後、これに70℃のイオン交換水76リットルを注ぎ込み吸引濾過してケークを得た。得られたケークを窒素気流下、120℃で乾燥することにより、PPSを得た。
得られたPPSは、FT-IR測定でアミノ基由来の3382cm-1における吸収は検出されなかった。数平均分子量は9,700、重量平均分子量は45,000、分散度は4.6であった。
[参考例2]
参考例1のポリフェニレンスルフィドを撹拌機付き加熱装置に入れ、酸素濃度2%にて200℃×2時間の条件で熱処理を施した。
得られたPPSは、FT-IR測定でアミノ基由来の3382cm-1における吸収は検出されなかった。数平均分子量は11,900、重量平均分子量は56,200、分散度は4.7であった。
[参考例3]
参考例1のポリフェニレンスルフィドを撹拌機付き加熱装置に入れ、酸素濃度12%にて200℃×4時間の条件で熱処理を施した。
得られたPPSは、FT-IR測定でアミノ基由来の3382cm-1における吸収は検出されなかった。数平均分子量は11,500、重量平均分子量は60,000、分散度は5.2であった。
[参考例4]
撹拌機および底栓弁付きのオートクレーブに、47.9%水硫化ナトリウム10.33kg(90.0モル)、97%水酸化ナトリウム4.10kg(99.4モル)、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)20.82kg(210モル)およびイオン交換水5.95kgを仕込み、常圧で窒素を通じながら225℃まで約3時間かけて徐々に加熱し、水11.44kgおよびNMP0.025kgを留出した時点で加熱を終え冷却を開始した。この時点で硫化水素の飛散量は2.2モルであったため、本工程後の系内の無機スルフィド化剤は87.8モルであった。
その後、200℃まで冷却し、p-ジクロロベンゼン(p-DCB)13.63kg(92.7モル)、4-アミノチオフェノール(4-ATP)1.24kg(9.78モル)、NMP13.88kg(140モル)を加えた後に反応容器を窒素ガス下に密封し、撹拌しながら0.6℃/分の速度で260℃まで昇温し、260℃で120分反応した。
反応終了後、直ちにオートクレーブ底栓弁を開放し、内容物を撹拌機付き装置にフラッシュさせ、230℃の撹拌機付き装置内で1.5時間乾固し、PPSと塩類を含む固形物を回収した。
得られた回収物およびイオン交換水を撹拌機付きオートクレーブに入れ、75℃で15分洗浄した後、フィルターでろ過する作業を3回行い、ケークを得た。得られたケークおよびイオン交換水30リットルを撹拌機付きオートクレーブに入れ、オートクレーブ内部を窒素で置換した後、195℃まで昇温した。その後、オートクレーブを冷却し、内容物をフィルターでろ過しケークを得た。得られたケークを窒素気流下、120℃で乾燥した。
得られた乾燥ケーク3kgおよびN-メチル-2-ピロリドン(NMP)30kgを撹拌機付きの容器に投入し、30分間撹拌を行った後、フィルターでろ過しケークを得た。得られたケークをイオン交換水30リットルで15分洗浄、ろ過する操作を3回行った後、窒素気流下、120℃で4時間乾燥することで乾燥PPSを得た。
得られたPPSは、アミノ基量は650μmol/g、数平均分子量は3,100、重量平均分子量は6,200、分散度は2.0、30℃から320℃まで10℃/分の昇温速度で加熱したときの重量減少率は2.3%であった。
[実施例1]
ポリアリーレンスルフィド(A)として参考例2のPPS95重量部、ポリアリーレンスルフィド(B)として参考例4のPPS5重量部、ガラス繊維(日本電気硝子社製“T760H”)67重量部、3-イソシアネートプロピルトリエトキシシラン(信越シリコーン社製“KBE9007N”)0.83重量部を、二軸の混練機を用いて320℃で溶融混練し、得られたガットをストランドカッターでペレット化した。ペレットを射出成形に供し、得られた成形品を評価した。なお、重量平均分子量、分散度、アミノ基量、および非ニュートン指数は、ポリアリーレンスルフィド(A)とポリアリーレンスルフィド(B)のみを溶融混練したサンプルで評価した(以降、実施例2~4、および比較例1も同様とする)。結果を表1にまとめた。
[実施例2]
参考例2のPPSの配合量を90重量部、参考例4のPPSの配合量を10重量部に変更した以外は実施例1と同様の条件で溶融混練、射出成形を実施し、得られた成形品を評価した。結果を表1にまとめた。
[実施例3]
ポリアリーレンスルフィド(A)として参考例3のPPSを用いた以外は実施例2と同様の条件で溶融混練、射出成形を実施し、射出成形を実施し、得られた成形品を評価した。結果を表1にまとめた。
[実施例4]
参考例3のPPSの配合量を86重量部、参考例4のPPSの配合量を14重量部に変更した以外は実施例3と同様の条件で溶融混練、射出成形を実施し、射出成形を実施し、得られた成形品を評価した。結果を表1にまとめた。
[比較例1]
ポリアリーレンスルフィド(A)およびポリアリーレンスルフィド(B)合計100重量部のかわりに参考例1のPPSを100重量部用いた以外は実施例1と同様の条件で溶融混練、射出成形を実施し、射出成形を実施し、得られた成形品を評価した。結果を表1にまとめた。
実施例1から4と、比較例1との比較から、本発明により、高分子量かつ高アミノ基量を両立するポリアリーレンスルフィド樹脂組成物が得られることがわかる。
高分子量かつ高アミノ基量を両立することにより、フィラーおよびアルコキシシランを配合したポリアリーレンスルフィド樹脂組成物において、耐加水分解試験後の引張強度が高く、強度保持率に優れる成形品を得ることができた。また、フィラーおよびアルコキシシランを配合したポリアリーレンスルフィド樹脂組成物において、比較的低分子量かつ同一末端構造を多く含むポリアリーレンスルフィド(B)を混合した効果、および非ニュートン指数が小さい、すなわち架橋構造が少ない効果と推測しているが、結晶化温度が高く、凝固熱が大きいすなわち結晶化度の高い成形品を得ることができた。

Claims (13)

  1. 少なくとも、アミノ基含有量が15μmol/g未満であり、重量平均分子量が30,000以上150,000以下であるポリアリーレンスルフィド(A)99.3~50重量部およびアミノ基含有量が200μmol/g以上2,000μmol/g以下であり、数平均分子量が1,000以上10,000以下であるポリアリーレンスルフィド(B)0.7~50重量部を配合してなるポリアリーレンスルフィド樹脂組成物であって、アミノ基量が15μmol/g以上600μmol/g以下かつ重量平均分子量が30,000以上150,000以下であり、非ニュートン指数が1.8以下であるポリアリーレンスルフィド樹脂組成物。
  2. 重量平均分子量/数平均分子量で表される分散度が2.5を超える、請求項1に記載のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物。
  3. 前記ポリアリーレンスルフィド(A)および前記ポリアリーレンスルフィド(B)の合計100重量部に対し、フィラーを3~150重量部、ならびにアミノ基、酸無水物基、カルボキシル基、およびイソシアネート基から選択される少なくとも一つの官能基を有するアルコキシシランを0.1~10重量部配合してなる、請求項1または2に記載のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物。
  4. 前記アルコキシシランが、イソシアネート基を有するアルコキシシランである請求項3に記載のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物。
  5. 結晶化温度が210℃以上である請求項3に記載のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物。
  6. 凝固熱が40J/g以上である請求項3に記載のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物。
  7. ポリアリーレンスルフィド(B)の数平均分子量が2,500以上である、請求項1または2に記載のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物。
  8. ポリアリーレンスルフィド(B)が、30℃から320℃まで10℃/分の昇温速度で加熱したときの重量減少率が5wt%以下である、請求項1または2に記載のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物。
  9. 請求項1または2に記載のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物からなる成形品。
  10. 請求項1または2に記載のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物からなる繊維。
  11. 請求項1または2に記載のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物からなるフィルム。
  12. 請求項3に記載のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物からなる成形品。
  13. アミノ基含有量が15μmol/g未満であり、重量平均分子量が30,000以上150,000以下であるポリアリーレンスルフィド(A)99.3~50重量部およびアミノ基含有量が200μmol/g以上2,000μmol/g以下であり、数平均分子量が1,000以上10,000以下であるポリアリーレンスルフィド(B)0.7~50重量部を混合し、さらに加熱する、請求項1または2に記載のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の製造方法。
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