JP2024072806A - 蓄電デバイス用セパレータ、その製造方法及び蓄電デバイス - Google Patents

蓄電デバイス用セパレータ、その製造方法及び蓄電デバイス Download PDF

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Abstract

【課題】本発明は、蓄電デバイスの安全性試験において温度上昇が起こり難く、かつ比較的高温での保存試験においてサイクル劣化が起こり難く、レート特性等の性能に優れる蓄電デバイス用セパレータを提供することを目的とする。【解決手段】ポリオレフィン微多孔膜から成る基材と、前記基材の少なくとも片面上に形成された多孔層とを有する蓄電デバイス用セパレータであって、セパレータの断面の操作型電子顕微鏡(SEM)観察により測定される前記多孔層の孔径分布において累積50%孔径(D50)が25nm≦D50≦140nmを満たし、かつ孔径分布指標D80/D20が1.0<D80/D20≦4.0を満たし、かつセパレータの断面SEM観察により測定される前記基材の孔径分布D90/D10が1.0<D90/D10≦5.0を満たす蓄電デバイス用セパレータが提供される。【選択図】図1

Description

本発明は、蓄電デバイス用セパレータ、その製造方法及び蓄電デバイスなどに関する。
近年、非水電解液電池に代表される蓄電デバイスの開発が活発に行われている。通常、リチウムイオン電池などの非水電解液電池には、微多孔膜が正負極間にセパレータとして設けられている。このようなセパレータは、正負極間の直接的な接触を防ぎ、微多孔中に保持した電解液を通じイオンを透過させる機能を有する。
セパレータには、異常加熱した場合には速やかに電池反応が停止される特性(ヒューズ特性)や高温になっても形状を維持して正極物質と負極物質が直接反応する危険な事態を防止する性能(ショート特性)等、従来から求められている安全性に関する性能に加え、充放電電流の均一化、リチウムデンドライト抑制の観点から、電極との密着性の向上が求められている。
安全性の更なる向上のために、または安全性および電極との密着性に加えて様々な機能をセパレータに付与するために、微多孔膜に対する機能層のコーティングや積層が検討されている(特許文献1~4)。
例えば、特許文献1には、蓄電デバイスに組み込まれたときに従来の多層多孔膜よりもデバイス特性及び安全性に優れるという観点から、ポリオレフィン微多孔膜と、ポリオレフィン微多孔膜の少なくとも片面に積層された、無機粒子及びバインダ高分子を含む多孔層とを有する多層多孔膜において、多孔層の総厚、多孔層中で特定の孔面積以上を有する孔の個数および割合、多孔層中に無機粒子が占める質量割合、無機粒子のアスペクト比および粒径、ならびにポリオレフィン微多孔膜の平均孔径が検討されている。特許文献1に記載の多孔層中で特定の孔面積以上を有する孔の個数および割合は、多層多孔膜の断面の走査電子顕微鏡(SEM)観察から算出される。しかし、ポリオレフィン微多孔膜基材の孔径分布に関しての言及はない。
特許文献2には、電極との接着性に加えて耐熱性及びイオン透過性にも優れた蓄電デバイス用セパレータを提供するという観点から、基材と、基材の少なくとも一方の面上に形成された無機フィラー多孔層と、無機フィラー多孔層の表面の少なくとも一部上に形成された熱可塑性ポリマー含有層と、を備える蓄電デバイス用セパレータにおいて、熱可塑性ポリマーとしての粒子状重合体の算術平均粒径と無機フィラー多孔層の平均孔径との大小関係、ならびに基材および熱可塑性ポリマー含有層の平均孔径が記載されている。特許文献2に記載の無機フィラー多孔層の平均孔径は、セパレータの断面SEM観察から算出され、かつ熱可塑性ポリマー含有層の平均孔径は、熱可塑性ポリマー含有層の透気度測定における空気の流れがクヌーセンの流れに、ポリオレフィン微多孔膜の透水度測定における水の流れがポアズイユの流れにそれぞれ従うと仮定して、空気の透過速度定数、水の透過速度定数、空気の分子速度、水の粘度、標準圧力、気孔率、および膜厚との関係式から算出される。しかし、無機フィラー多孔層および基材の孔径分布に関しての言及はない。
特許文献3には、セパレータ、活物質粒子を含む活物質層、およびセパレータと活物質層の間に配置され且つ第一粒子を含む中間層を備える蓄電素子において、セパレータ変形による内部抵抗の上昇を抑制することを目的として、第二粒子を含有する基材層のセパレータとしての使用、活物質粒子のメジアン径A、第一粒子のメジアン径B、基材層の平均孔径C、第二粒子のメジアン径D、並びにそれらの関係が記述されている。特許文献3に記載の平均孔径Cは、ポリオレフィン微多孔膜の透気度測定における空気の流れがクヌーセンの流れに、透水度測定における水の流れがポアズイユの流れにそれぞれ従うと仮定して、空気の透過速度定数、水の透過速度定数、空気の分子速度、水の粘度、標準圧力、気孔率、および膜厚との関係式から算出される。しかし、基材層および第二粒子から形成される無機層の孔径分布に関しては言及がない。
特許文献4には、シャットダウン特性に加えて優れた耐熱性およびイオン透過性を兼備した非水系二次電池用セパレータの提供を目的として、ポリオレフィン微多孔膜から成る基材の少なくとも一方の面に、耐熱性樹脂を含む耐熱性多孔質層が形成された多孔複合膜について、ポリオレフィン微多孔膜および耐熱性多孔質層の平均孔径が、それぞれ記述されており、いずれも水銀圧入法に従って水銀ポロシメータにより測定されている。しかし、ポリオレフィン微多孔膜層および耐熱性多孔質層の孔径分布に関しては言及はない。
国際公開第2021/006357号 特開2019-179698号公報 特許第7022366号公報 国際公開第2010/021248号
近年、蓄電デバイスの様々な規格の安全性試験および過酷な条件下での保存試験に伴って、安全性試験において温度上昇が起こり難く、かつ保存試験においてサイクル劣化が起こり難い蓄電デバイス用セパレータが求められていた。
しかしながら、蓄電デバイスの安全性試験においてセパレータの温度上昇を抑制するために、接着性バインダまたは熱可塑性樹脂のセパレータ基材への塗布量を高めると比較的高温での保存試験において抵抗成分量が上昇してレート特性等の性能を満たせないことがある。従来の蓄電デバイス用セパレータについては、温度上昇の起こり難さとサイクル劣化の起こり難さは、トレードオフとなっており、特に高温保存試験に適した具体的な構成が見出されていなかった。
上記の事情に鑑みて、本発明は、蓄電デバイスの安全性試験において温度上昇が起こり難く、かつ比較的高温での保存試験においてサイクル劣化が起こり難く、レート特性等の性能に優れる蓄電デバイス用セパレータを提供することを目的とする。
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討を重ねた結果、基材としてのポリオレフィン微多孔膜、およびその少なくとも片面上に形成された多孔層とを有する蓄電デバイス用セパレータにおいて、多孔層の平均孔径および孔径分布指標、基材の孔径均一指標、ならびにそれらの測定方法を特定することにより上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成させた。本発明の実施形態の例を以下に列記する。
[項1]
ポリオレフィン微多孔膜から成る基材と、前記基材の少なくとも片面上に形成された多孔層とを有する蓄電デバイス用セパレータであって、
前記蓄電デバイス用セパレータの断面の操作型電子顕微鏡(SEM)観察により測定される前記多孔層の孔径分布において、前記多孔層の累積50%孔径(D50)が25nm≦D50≦140nmを満たし、かつ前記多孔層の孔径分布指標D80/D20が1.0<D80/D20≦4.0を満たし、かつ
前記蓄電デバイス用セパレータの断面のSEM観察により測定される前記基材の孔径分布において、前記基材の累積10%孔径(D10)と累積90%孔径(D90)が、1.0<D90/D10≦5.0を満たす、
蓄電デバイス用セパレータ。
[項2]
前記蓄電デバイス用セパレータを正極と重ねて圧力1MPaおよび温度100℃で30秒間プレスした後に測定して得られる接着強度D1が、0.1N/m以上20N/m以下である、項1に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
[項3]
前記蓄電デバイス用セパレータを温度60℃で7日間保管した後の透気度が、保管前の透気度に対して100%~150%である、項1又は2に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
[項4]
前記蓄電デバイス用セパレータの観察部位の全面積を100%としたとき、接着機能を有するバインダ成分が3%~80%の面積を占める、項1~3のいずれか1項に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
[項5]
前記基材の目付当たりの耐電圧が、0.18kV/(g/m)以上0.40kV/(g/m)以下である、項1~4のいずれか1項に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
[項6]
前記基材の目付当たりの耐電圧が0.22kV/(g/m)以上0.40kV/(g/m)以下である、項1~5のいずれか1項に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
[項7]
前記基材の熱機械分析(TMA)の最大収縮応力が、5.0gf以下である、項1~6のいずれか1項に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
[項8]
前記基材の突刺強度が、前記基材の膜厚20μm換算で900gf以上1500gf以下である、項1~7のいずれか1項に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
[項9]
前記基材の透気度が、前記基材の膜厚20μm換算で50秒/100cm以上300秒/100cm以下である、項1~8のいずれか1項に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
[項10]
前記多孔層の厚み当たりの透気度が20秒/100cm以下である、項1~9のいずれか1項に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
[項11]
前記ポリオレフィン微多孔膜の150℃熱収縮率が、10%以下である、項1~10のいずれか1項に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
[項12]
前記蓄電デバイス用セパレータの総厚みが、5μm以上15μm以下である、項1~11のいずれか1項に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
[項13]
前記蓄電デバイス用セパレータの透気度が、200秒/100cm以下である、項1~12のいずれか1項に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
[項14]
前記多孔層が前記基材の両面に形成されている、項1~13のいずれか1項に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
[項15]
項1~14のいずれか1項に記載の蓄電デバイス用セパレータを含む、蓄電デバイス。
本発明によれば、蓄電デバイスの安全性試験において温度上昇が起こり難く、かつ比較的高温での保存試験においてサイクル劣化が起こり難い蓄電デバイス用セパレータを提供することができる。
図1は、本発明の一実施形態における多孔層に関して、BIB加工後の断面SEM画像の一例である。 図2は、本発明の一実施形態における多孔層に関して、二値化処理を行うための多孔層の選択エリアを示す一例である。 図3は、本発明の一実施形態における多孔層に関して、Gausian Blur処理後の画像を示す一例である。 図4は、本発明の一実施形態における多孔層に関して、図3の画像の輝度ヒストグラム、及び二値化処理を行う際の閾値の求め方を示す一例である。 図5は、本発明の一実施形態における多孔層に関して、二値化処理後の画像を示す一例である。
以下、本発明を実施するための形態(以下、「実施形態」と略記する。)を例示する目的で詳細に説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。本明細書において、各数値範囲の上限値及び下限値は任意に組み合わせることができる。また、或る部材が特定成分を主成分として含有することは、特定成分の含有量が部材の質量を基準として50質量%以上であることを意味する。特に言及しない限り、本明細書に記載の物性又は数値は、実施例において説明される方法により測定又は算出されるものである。
<蓄電デバイス用セパレータ>
本実施形態に係る蓄電デバイス用セパレータ(以下、単に「セパレータ」ともいう。)は、ポリオレフィン微多孔膜から成る基材と、基材の少なくとも片面上に形成された多孔層とを有する。本実施形態に係るセパレータは、ポリオレフィン微多孔膜から成る基材と多孔層とを備える多層多孔膜の構造によって、イオン透過性、安全性、熱収縮抑制能などの基本物性に優れる。
セパレータの多層構造については、基材の片面又は両面に多孔層を有してよく、例えば、無機粒子及びバインダ高分子を含む第1多孔層と、ポリオレフィン微多孔膜とを含む二層構造、または第1多孔層と、ポリオレフィン微多孔膜と、無機粒子及びバインダ高分子を含む第2多孔層とを順に含む三層構造が挙げられる。多層構造は、第1多孔層-ポリオレフィン微多孔膜の二層構造、および第1多孔層-ポリオレフィン微多孔膜-第2多孔層の三層構造に限定されるものではなく、例えば、第1多孔層とポリオレフィン微多孔膜の間に、第2多孔層とポリオレフィン微多孔膜の間に、又は多層多孔膜の外側に、一つ又は複数の更なる層が形成されていてもよい。更なる層としては、例えば、追加のポリオレフィン微多孔膜、無機粒子及びバインダ高分子を含む追加の多孔層、ポリオレフィン以外の樹脂を50質量%以上含有する樹脂層、熱可塑性ポリマーなどの接着機能を有するバインダ成分を含む接着層などが挙げられる。
(セパレータにおける基材と多孔層との間の孔径分布の関係)
本実施形態に係るセパレータは、上記の多層多孔膜の構造を有し、かつ多孔層および基材について次の関係を満たす:
(I)セパレータの断面の操作型電子顕微鏡(SEM)観察により測定される多孔層の孔径分布において、(Ia)多孔層の累積50%孔径(D50)が25nm≦D50≦140nmを満たし、(Ib)かつ前記多孔層の孔径分布指標D80/D20が1.0<D80/D20≦4.0を満たす;および
(II)セパレータの断面SEM観察により測定される基材の孔径分布において、基材の累積10%孔径(D10)と累積90%孔径(D90)が、1.0<D90/D10≦5.0を満たす。
本実施形態では、セパレータの断面SEM観察において、多孔層の孔径分布および基材の孔径分布について、関係(I)および(II)を満たすように、多孔層のD50およびD80/D20と基材のD90/D10とを制御することによって、蓄電デバイスの加熱安全性試験において温度上昇が起こり難く、かつ比較的高温での保存試験においてサイクル劣化が起こり難く、レート特性等の性能にも優れるセパレータを提供することができる。
本実施形態に係るセパレータは、理論に拘束されることを望まないが、関係(I)と(II)の両方を満たすことにより、断面SEM観察により測定される基材孔径および多孔層孔径の比率を特定の範囲内に制御して、従来のセパレータではトレードオフの関係になっていた温度上昇の起こり難さとサイクル劣化の起こり難さとを両立し、特に高温保存試験に適合することが考えられる。推定原理として、多孔層と基材の孔径分布が共に均一になることで電流がセパレータ面内および厚み方向のいずれにも均一に流れ易くなるために電池反応が均一となり、加熱安全性試験において温度上昇し難く、かつ高温での保存試験においても副反応由来の分解異物によるセパレータの目詰まりの抑制や、電流集中によるデンドライト発生およびセパレータの短絡などが抑制できると考えられる。
関係(Ia)については、多孔層の累積50%孔径D50(μm)が、上記と同様の観点から、25nm≦D50≦140nmを満たす。多孔層の累積50%孔径(D50)は、適度に大きいとセパレータへの電解液の含侵が内部まで均一になり易く、サイクル特性が良化し、他方では適度に小さいと保存試験中に微短絡が発生し難く、性能や安全性が良化するという観点から、25nm≦D50≦140nmが好ましく、50nm≦D50≦120nmがより好ましく、75nm≦D50≦100nmが更に好ましい。
関係(Ib)については、多孔層の孔径分布指標D80/D20が、上記と同様の観点から、1.0<D80/D20≦4.0を満たす。詳細は定かではないが、多孔層の孔径分布指標D80/D20が適度に小さいと、多孔層の孔径分布が均一になり、セパレータを備える蓄電デバイスのレート試験時に電流密度分布も均一になり、性能が良化したり、保存試験時に局所的な反応集中を抑制して微短絡の発生を防いで安全性を向上させたりすることができる。多孔層の孔径分布指標D80/D20は、1より大きい値を取ることができる。したがって、多孔層の孔径分布指標D80/D20については、1.0<D80/D20≦3.5が好ましく、2.0<D80/D20≦3.5がより好ましく、2.5<D80/D20≦3.2が更に好ましい。
関係(Ia)及び(Ib)の充足は、例えば、多孔層の形成プロセスにおいて、特定のD50平均粒径を有するフィラーの使用、特定の累積50%孔径(D50)およびD90/D10孔径分布を有する基材の使用、若しくは多孔層形成の際の複数の乾燥炉の最高設定温度と最低設定温度の差である乾燥温度Rの制御などによってフィラーの充填状態を制御することで実現され得る。
関係(II)については、基材の孔径均一指標D90/D10が、上記と同様の観点から、1.0<D90/D10≦5.0を満たす。詳細は定かではないが、基材のD90/D10が適度に小さいと、ポリオレフィン微多孔膜の孔径分布が均一になり、セパレータを備える蓄電デバイスのレート試験時に電流密度分布も均一になり、性能が良化したり、保存試験時に局所的な反応集中を抑制して微短絡の発生を防いで安全性を向上させたりすることができる。一般に、基材のD90/D10は、1より大きい値を取ることができる。したがって、基材のD90/D10については、1.0<D90/D10≦3.5が好ましく、1.5≦D90/D10≦3.5がより好ましく、2.0≦D90/D10≦3.2が更に好ましい。
関係(II)の充足は、例えば、基材としてのポリオレフィン微多孔膜の製造プロセスにおいて、高分子量原料の使用、又は可塑剤濃度(PC)、40℃における特定の動粘度を有する可塑剤の使用、キャスト出口における原反の表裏両面の温度、延伸倍率、延伸温度、熱固定(HS)温度、若しくはHS倍率などを制御することにより実現され得る。
関係(I)及び(II)の充足は、例えば、基材としてのポリオレフィン微多孔膜の製造プロセスにおいて、高分子量原料の使用、又は40℃における特定の動粘度を有する可塑剤の使用、キャスト出口における原反の表裏両面の温度、延伸倍率、延伸温度、熱固定(HS)温度、若しくはHS倍率などの制御、および多孔層の形成プロセスにおいて、特定のD50平均粒径を有するフィラーの使用、特定の累積50%孔径(D50)およびD90/D10孔径分布を有する基材の使用、若しくは多孔層形成の際の複数の乾燥炉の最高設定温度と最低設定温度の差である乾燥温度Rの制御などによってフィラーの充填状態を制御することで実現され得るため、ポリオレフィン微多孔膜と多孔層のそれぞれの孔構造を適切に制御することで実現され得る。
セパレータの温度上昇の起こり難さとサイクル劣化の起こり難さとを両立しながら高温保存試験にさらに適合させるという観点から、セパレータの断面SEM観察において、基材の累積50%孔径(D50基材)および多孔層の累積50%孔径(D50多孔層)は、1.0≦D50多孔層/D50基材≦2.0の関係を満たすことが好ましい。
本実施形態に係るセパレータの構成要素について以下に説明する。
〔基材〕
セパレータには絶縁性、イオン透過性、酸化還元耐性、緻密で均一な多孔質構造などが求められているため、セパレータ基材は、酸化還元耐性を持ち、緻密で均一な多孔質構造を構築できるポリオレフィン微多孔膜から成ることが好ましい。
断面SEM観察により測定される基材の累積50%孔径(D50基材)は、上限としては好ましくは100nm以下、より好ましくは70nm以下であり、さらに好ましくは60nm以下であり、下限として好ましくは10nm以上、より好ましくは30nm以上、さらに好ましくは40nm以上である。D50基材を100nm以下とすることは、蓄電デバイスの自己放電を抑制し、容量低下を抑制する観点から好適である。D50基材は、例えばMvが3~1200万の高分子量原料の使用、又は10~70%の可塑剤濃度(PC)、40℃において動粘度が40~100mmである可塑剤の使用、キャスト出口における原反の表裏両面の温度を30~55℃に制御すること、MDおよびTD方向への4~10倍の延伸の実施、110~122℃での延伸の実施、128~138℃での熱固定(HS)の実施、若しくはHSにおいて最大倍率を1.7~2.5倍にすること、およびHSにおいて最小延伸倍率を1.2~2.3倍にすることなどにより実現され得る。
基材の厚みは、好ましくは2μm以上、より好ましくは4μm以上であり、更に好ましくは5μm以上であり、その上限は、好ましくは30μm以下、より好ましくは20μm以下、更に好ましくは16μm以下、最も好ましくは12μm以下である。2μm以上の基材の厚みは、機械強度を向上させる観点から好ましい。他方、30μm以下の基材の厚みは、セパレータの占有体積を減らし、蓄電デバイスの高容量化の観点において有利となる傾向がある。基材の厚みは、例えば、40℃において動粘度が40~100mmである可塑剤の使用、MDおよびTD方向への4~10倍の延伸の実施、110~122℃での延伸の実施、128~138℃での熱固定(HS)の実施、若しくはHSにおいて最大倍率を1.7~2.5倍にすること、およびHSにおいて最小延伸倍率を1.2~2.3倍にすることなどにより実現され得る。
本実施形態における基材の目付は、特に限定されないが、好ましくは2.0g/m以上、より好ましくは4.0g/m以上、さらに好ましくは5.0g/m以上であり、好ましくは6.0g/m以下、より好ましくは5.5g/m以下、さらに好ましくは5.0g/m以下である。目付を2.0g/m以上とすることで、不均一な電池反応によって生じうるデンドライト発生によってセパレータが短絡することを抑制することができ、6.0g/m以下とすることで、所定の容量の電池において優れたレート特性を得ることができる。目付は、例えば、10~70%の可塑剤濃度(PC)、MDおよびTD方向への4~10倍の延伸の実施、110~122℃での延伸の実施、128~138℃での熱固定(HS)の実施、若しくはHSにおいて最大倍率を1.7~2.5倍にすること、およびHSにおいて最小延伸倍率を1.2~2.3倍にすることなどにより実現され得る。
基材の膜厚20μm換算の突刺強度は、セパレータの温度上昇の起こり難さとサイクル劣化の起こり難さとの両立の観点から、780gf/20μm以上1500gf/20μm以下であることが好ましく、850~1300gf/20μmの範囲内にあることがより好ましく、950~1200gf/20μmの範囲内にあることが更に好ましい。基材の20μ換算の突き刺し強度が780gf/20μm以上であると、高温における保存試験において発生しうるデンドライトによるセパレータの短絡を抑制することができ、1500gf/20μm以下であると強度とのトレードオフで発生しうる高温での収縮応力を制御する観点から望ましい。基材の膜厚20μm換算の突刺強度は、基材の製造プロセスにおいて、例えば、Mvが3~1200万の高分子量原料の使用、又は10~70%の可塑剤濃度(PC)、MDおよびTD方向への4~10倍の延伸の実施、110~122℃での延伸の実施、128~138℃での熱固定(HS)の実施、若しくはHSにおいて最大倍率を1.7~2.5倍にすること、およびHSにおいて最小延伸倍率を1.2~2.3倍にすることなどにより実現され得る。
基材の膜厚20μm換算の透気度は、50秒/100cm/20μm以上420秒/100cm/20μm以下であることが好ましく、75~300秒/100cm/20μmの範囲内にあることがより好ましく、90~280秒/100cm/20μmの範囲内にあることが更に好ましく、110~250秒/100cm/20μmの範囲内にあることが特に好ましい。20μm換算透気度は単位厚み当たりのイオンの通り易さを評価する指標であり、420秒/100cm/20μm以下であるとレート性能に優れ、50秒/100cm/20μm以上であると十分な耐電圧性能が得られ、保存試験において漏れ電流抑制して性能を向上させることができる。基材の膜厚20μm換算の透気度は、例えば、例えば、Mvが3~1200万の高分子量原料の使用、又は10~70%の可塑剤濃度(PC)、40℃において動粘度が40~100mmである可塑剤の使用、キャスト出口における原反の表裏両面の温度を30~55℃に制御すること、MDおよびTD方向への4~10倍の延伸の実施、110~122℃での延伸の実施、128~138℃での熱固定(HS)の実施、若しくはHSにおいて最大倍率を1.7~2.5倍にすること、およびHSにおいて最小延伸倍率を1.2~2.3倍にすることなどにより実現され得る。
基材の膜厚に換算されていない透気度(以下、単に透気度という)の下限は、好ましくは10秒/100cm以上、より好ましくは20秒/100cm以上、更に好ましくは30秒/100cm以上、特に好ましくは40秒/100cm以上であり、その上限は、好ましくは300秒/100cm以下、より好ましくは200秒/100cm以下、更に好ましくは180秒/100cm以下、特に好ましくは140sec/100cm以下である。基材の透気度を10秒/100cm以上とすることは、蓄電デバイスの自己放電を抑制する観点から好ましい。基材の透気度を300秒/100cm以下とすることは、良好な充放電特性を得る観点から好ましい。なお、上記透気度は、例えば、Mvが3~1200万の高分子量原料の使用、又は10~70%の可塑剤濃度(PC)、40℃において動粘度が40~100mmである可塑剤の使用、キャスト出口における原反の表裏両面の温度を30~55℃に制御すること、MDおよびTD方向への4~10倍の延伸の実施、110~122℃での延伸の実施、128~138℃での熱固定(HS)の実施、若しくはHSにおいて最大倍率を1.7~2.5倍にすること、およびHSにおいて最小延伸倍率を1.2~2.3倍にすることなどにより実現され得る。
基材の目付(g/m)に換算されたときの突刺強度(以下、目付換算突刺強度という)は、好ましくは80~200gf/(g/m)、より好ましくは90~180gf/(g/m)、更に好ましくは100~150gf/(g/m)である。基材の目付換算突刺強度の下限が80gf/(g/m)以上であることに伴って、基材の樹脂マトリックスとしての強度も適度に高くなり、蓄電デバイスの保存試験中に微短絡の発生を抑制して性能や安全性を向上させられる傾向にある。基材の目付換算突刺強度の上限が200gf/(g/m)以下であることに伴って、基材の樹脂マトリックスとしての強度も適度に抑制され、製造プロセスの延伸工程時の残留応力の過大な内部蓄積を抑制して、熱暴走時の安全性を確保し易くなる傾向にある。基材の目付換算突刺強度は、限定されるものではないが、例えば、Mvが3~1200万の高分子量原料の使用、又は10~70%の可塑剤濃度(PC)、MDおよびTD方向への4~10倍の延伸の実施、110~122℃での延伸の実施、128~138℃での熱固定(HS)の実施、若しくはHSにおいて最大倍率を1.7~2.5倍にすること、およびHSにおいて最小延伸倍率を1.2~2.3倍にすることなどにより上記の範囲内に調整され得る。
基材の目付又は膜厚に換算されていない突刺強度(以下、単に突刺強度という)は、その下限値が、好ましくは100gf以上、より好ましくは200gf以上、更に好ましくは300gf以上である。100gf以上の突刺強度は、ポリオレフィン微多孔膜の破断を抑制する観点から好ましい。また、基材の突刺強度の上限値は、製膜時の安定性の観点から、好ましくは1000gf以下、より好ましくは800gf以下、更に好ましくは700gf以下である。下限値は、製膜および電池製造の安定生産できる値であれば用いることができる。上限値は他の特性とのバランスで設定される。突刺強度は、押出時に成形品に掛かる剪断力又は延伸による分子鎖の配向の増加で高めることができるが、強度の増加とともに残留応力の増加に伴う熱安定性の悪化が生じるので目的に合わせて制御される。基材の突刺強度は、例えば、Mvが3~1200万の高分子量原料の使用、又は10~70%の可塑剤濃度(PC)、MDおよびTD方向への4~10倍の延伸の実施、110~122℃での延伸の実施、128~138℃での熱固定(HS)の実施、若しくはHSにおいて最大倍率を1.7~2.5倍にすること、およびHSにおいて最小延伸倍率を1.2~2.3倍にすることなどにより調整可能である。
基材の目付当たりの耐電圧は、0.20kV/(g/m)以上0.40kV/(g/m)以下であることが好ましい。基材の目付当たりの耐電圧を上記の数値範囲内に制御しながら基材の孔径分布も上記関係(II)を満たすように制御すると、セパレータの温度上昇の起こり難さとサイクル劣化の起こり難さとを両立し易くなる傾向にある。また、基材の目付当たりの耐電圧が0.20kV/(g/m)以上であると、蓄電デバイスの保存試験中に微短絡の発生を抑制して性能や安全性を向上させることができる。このような観点から、基材の目付当たりの耐電圧の下限は、0.22kV/(g/m)以上であることがより好ましく、0.24kV/(g/m)以上であることが更に好ましく、その上限は、0.29kV/(g/m)以下であることがより好ましく、0.26kV/(g/m)以下であることが更に好ましい。基材の目付当たりの耐電圧は、例えば、Mvが3~1200万の高分子量原料の使用、又は10~70%の可塑剤濃度(PC)、MDおよびTD方向への4~10倍の延伸の実施、110~122℃での延伸の実施、128~138℃での熱固定(HS)の実施、若しくはHSにおいて最大倍率を1.7~2.5倍にすること、およびHSにおいて最小延伸倍率を1.2~2.3倍にすることなどにより上記の範囲内に調整され得る。
基材の熱機械分析(TMA)の最大収縮応力は、蓄電デバイスの保存試験中に基材の収縮応力を小さくし、セパレータ膜全体の変形や微短絡の発生を抑制して、性能や安全性を良化させるという観点から、4.0gf以下であることが好ましく、3.4gf以下であることがより好ましく、2.8gf以下であることが更に好ましい。また、基材のTMAの最大応力は、基材の強度と応力のバランスに優れるという観点から、0.0gf以上であることが好ましく、0.5gf以上であることがより好ましく、1.0gf以上であることが更に好ましい。基材のTMAの最大収縮応力は、例えば、Mvが3~1200万の高分子量原料の使用、又は10~70%の可塑剤濃度(PC)、MDおよびTD方向への4~10倍の延伸の実施、110~122℃での延伸の実施、128~138℃での熱固定(HS)の実施、若しくはHSにおいて最大倍率を1.7~2.5倍にすること、およびHSにおいて最小延伸倍率を1.2~2.3倍にすることなどにより上記の範囲内に調整され得る。
基材の気孔率の下限は、好ましくは20%以上、より好ましくは35%以上、更に好ましくは40%以上であり、その上限は、好ましくは80%以下、より好ましくは60%以下であり、さらに好ましくは55%以下である。基材の気孔率を20%以上とすることは、セパレータの透過性を確保する観点から好ましい。基材の気孔率を80%以下とすることは、突刺強度を確保する観点から好ましい。なお、気孔率は、例えば、Mvが3~1200万の高分子量原料の使用、又は10~70%の可塑剤濃度(PC)、MDおよびTD方向への4~10倍の延伸の実施、110~122℃での延伸の実施、128~138℃での熱固定(HS)の実施、若しくはHSにおいて最大倍率を1.7~2.5倍にすること、およびHSにおいて最小延伸倍率を1.2~2.3倍にすることなどにより上記の範囲内に調整され得る。
(ポリオレフィン微多孔膜)
本実施形態におけるポリオレフィン微多孔膜としては、特に限定されないが、例えば、ポリオレフィンを含有するポリオレフィン樹脂組成物から構成される微多孔膜が挙げられ、ポリオレフィン樹脂を主成分とする多孔膜であることが好ましい。本実施形態におけるポリオレフィン微多孔膜は、ポリオレフィン樹脂の含有量は特に限定されないが、蓄電デバイス用セパレータとして用いた場合のシャットダウン性能などの点から、多孔膜を構成する全成分の質量分率の50%以上100%以下をポリオレフィン樹脂が占めるポリオレフィン樹脂組成物からなる多孔膜であることが好ましい。ポリオレフィン樹脂が占める割合は60%以上100%以下がより好ましく、70%以上100%以下であることが更に好ましい。
ポリオレフィン樹脂は、特に限定されないが、通常の押出、射出、インフレーション、及びブロー成形等に使用するポリオレフィン樹脂をいい、エチレン、プロピレン、1-ブテン、4-メチル-1-ペンテン、1-ヘキセン、及び1-オクテン等のホモポリマー及びコポリマー、多段ポリマー等を使用することができる。また、これらのホモポリマー及びコポリマー、多段ポリマーからなる群から選ばれるポリオレフィンを単独、もしくは混合して使用することもできる。
ポリオレフィン樹脂の代表例としては、特に限定されないが、例えば、低密度ポリエチレン、線状低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、超高分子量ポリエチレンなどのポリエチレン、アイソタクティックポリプロピレン、アタクティックポリプロピレン、エチレン-プロピレンランダムコポリマー、ポリブテン、エチレンプロピレンラバー等が挙げられる。
本実施形態に係るセパレータを電池用セパレータとして使用する場合には、低融点かつ高強度が求められることから、ポリエチレンを主成分とすることが好ましく、特に高密度ポリエチレンを主成分とする樹脂を使用することが好ましい。
また、多孔膜の耐熱性向上、ポリプロピレンと、ポリプロピレン以外のポリオレフィン樹脂を含む樹脂組成物からなる多孔膜を用いることがより好ましい。ここで、ポリプロピレンの立体構造に限定はなく、アイソタクティックポリプロピレン、シンジオタクティックポリプロピレン及びアタクティックポリプロピレンのいずれでもよい。
ポリオレフィン樹脂組成物中の総ポリオレフィンに対するポリプロピレンの割合は、特に限定されないが、耐熱性と良好なシャットダウン機能の両立の観点から、0~35質量%であることが好ましく、より好ましくは1~20質量%、さらに好ましくは3~10質量%である。この場合、ポリプロピレン以外のポリオレフィン樹脂に限定はなく、例えば、エチレン、1-ブテン、4-メチル-1-ペンテン、1-ヘキセン、1-オクテン等のオレフィン炭化水素のホモポリマー又はコポリマーが挙げられる。具体的には、ポリエチレン、ポリブテン、エチレン-プロピレンランダムコポリマー等が挙げられる。
孔が熱溶融により閉塞するシャットダウン特性の観点から、ポリプロピレン以外のポリオレフィン樹脂として、低密度ポリエチレン、線状低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、超高分子量ポリエチレン等のポリエチレンを用いることが好ましい。これらの中でも、強度の観点から、JIS K 7112に従って測定した密度が0.93g/cm以上0.97g/cm以下であるポリエチレンを使用することがより好ましい。
ポリオレフィン微多孔膜を構成するポリオレフィン樹脂の粘度平均分子量は、特に限定されないが、3万以上1200万以下であることが好ましく、より好ましくは5万以上200万未満、さらに好ましくは10万以上120万未満、最も好ましくは50万以上100万未満である。粘度平均分子量が3万以上であると、溶融成形の際のメルトテンションが大きくなり成形性が良好になると共に、ポリマー同士の絡み合いにより高強度となる傾向にあるため好ましい。一方、粘度平均分子量が1200万以下であると、均一に溶融混練をすることが容易となり、シートの成形性、特に厚み安定性に優れる傾向にあるため好ましい。さらに、粘度平均分子量が100万未満であると、温度上昇時に孔を閉塞しやすく良好なシャットダウン機能が得られる傾向にあるため好ましい。なお、例えば、粘度平均分子量100万未満のポリオレフィンを単独で使用する代わりに、粘度平均分子量200万のポリオレフィンと粘度平均分子量27万のポリオレフィンの混合物であって、その粘度平均分子量が100万未満の混合物を用いてもよい。
2種以上のポリオレフィン樹脂の混合物を用いる場合、粘度平均分子量が最も高い成分であって、かつ全体に占める割合が10%以上である成分の割合が25%以上であることが好ましく、より好ましくは40%以上、さらに好ましくは65%以上である。混合樹脂中の粘度分子量が最も高い成分の割合が25%以上であると、高い突刺強度を有しながらTMA測定における最大収縮応力を抑制することができる。一方、粘度分子量が最も低い成分であって、かつ全体に占める割合が10%以上である成分の割合は75%以下であることが好ましく、より好ましくは60%以下、さらに好ましくは35%以下である。混合樹脂中の粘度分子量が最も低い成分の割合が75%以下であると、熱固定の際に透気度の上昇を抑制しつつ120℃の熱収縮を低減することができる。
ポリオレフィン微多孔膜は、任意の添加剤を含有することができる。このような添加剤は、特に限定されず、例えば、ポリオレフィン以外のポリマー;無機粒子;フェノール系、リン系、イオウ系等の酸化防止剤;ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸亜鉛等の金属石鹸類;紫外線吸収剤;光安定剤;帯電防止剤;防曇剤;着色顔料等が挙げられる。これらの添加剤の合計含有量は、ポリオレフィン樹脂組成物100質量部に対して、20質量部以下であることが好ましく、より好ましくは10質量部以下、さらに好ましくは5質量部以下である。
(ポリオレフィン微多孔膜の物性)
本実施形態におけるポリオレフィン微多孔膜の目付は、特に限定されないが、好ましくは2.0g/m以上、より好ましくは4.0g/m以上、さらに好ましくは5.0g/m以上であり、好ましくは6.0g/m以下、より好ましくは5.5g/m以下、さらに好ましくは5.0g/m以下である。目付を2.0g/m以上とすることで、不均一な電池反応によって生じうるデンドライト発生によってセパレータが短絡することを抑制することができ、6.0g/m以下とすることで、所定の容量の電池において優れたレート特性を得ることができる。目付は、例えば、10~70%の可塑剤濃度(PC)、MDおよびTD方向への4~10倍の延伸の実施、110~122℃での延伸の実施、128~138℃での熱固定(HS)の実施、若しくはHSにおいて最大倍率を1.7~2.5倍にすること、およびHSにおいて最小延伸倍率を1.2~2.3倍にすることなどにより実現され得る。
ポリオレフィン微多孔膜の目付換算突刺強度は、好ましくは80~200gf/(g/m)、より好ましくは90~180gf/(g/m)、更に好ましくは100~150gf/(g/m)である。ポリオレフィン微多孔膜の目付換算突刺強度の下限が80gf/(g/m)以上であることに伴って、ポリオレフィン微多孔膜の樹脂マトリックスとしての強度も適度に高くなり、蓄電デバイスの保存試験中に微短絡の発生を抑制して性能や安全性を向上させられる傾向にある。ポリオレフィン微多孔膜の目付換算突刺強度の上限が200gf/(g/m)以下であることに伴って、ポリオレフィン微多孔膜の樹脂マトリックスとしての強度も適度に抑制され、製造プロセスの延伸工程時の残留応力の過大な内部蓄積を抑制して、熱暴走時の安全性を確保し易くなる傾向にある。ポリオレフィン微多孔膜の目付換算突刺強度は、限定されるものではないが、ポリオレフィン微多孔膜の製造プロセスにおいて、例えば、Mvが3~1200万の高分子量原料の使用、又は10~70%の可塑剤濃度(PC)、MDおよびTD方向への4~10倍の延伸の実施、110~122℃での延伸の実施、128~138℃での熱固定(HS)の実施、若しくはHSにおいて最大倍率を1.7~2.5倍にすること、およびHSにおいて最小延伸倍率を1.2~2.3倍にすることなどにより上記の範囲内に調整され得る。
ポリオレフィン微多孔膜の目付に換算されていない突刺強度については、その下限値が、好ましくは100gf以上、より好ましくは200gf以上、更に好ましくは300gf以上である。100gf以上の突刺強度は、ポリオレフィン微多孔膜の破断を抑制する観点から好ましい。また、ポリオレフィン微多孔膜の突刺強度の上限値は、製膜時の安定性の観点から、好ましくは1000gf以下、より好ましくは800gf以下、更に好ましくは700gf以下である。下限値は、製膜および電池製造の安定生産できる値であれば用いることができる。上限値は他の特性とのバランスで設定される。突刺強度は、押出時に成形品に掛かる剪断力又は延伸による分子鎖の配向の増加で高めることができるが、強度の増加とともに残留応力の増加に伴う熱安定性の悪化が生じるので目的に合わせて制御される。ポリオレフィン微多孔膜の目付に換算されていない突刺強度についてはポリオレフィン微多孔膜の製造プロセスにおいて、例えば、Mvが3~1200万の高分子量原料の使用、又は10~70%の可塑剤濃度(PC)、MDおよびTD方向への4~10倍の延伸の実施、110~122℃での延伸の実施、128~138℃での熱固定(HS)の実施、若しくはHSにおいて最大倍率を1.7~2.5倍にすること、およびHSにおいて最小延伸倍率を1.2~2.3倍にすることなどにより上記の範囲内に調整され得る。
ポリオレフィン微多孔膜の20μm換算突刺強度は、好ましくは780~1500gf/20μmであり、より好ましくは900~1300gf/20μm、さらに好ましくは950~1200gf/20μmである。ポリオレフィン微多孔膜の20μm換算突刺強度が780gf/20μmより低いと保存試験の際に短絡して悪化する傾向にあり、他方では、1500gf/20μmより高すぎると熱安定性が悪くなる傾向にある。ポリオレフィン微多孔膜の20μm換算突刺強度は、例えば、Mvが3~1200万の高分子量原料の使用、又は10~70%の可塑剤濃度(PC)、MDおよびTD方向への4~10倍の延伸の実施、110~122℃での延伸の実施、128~138℃での熱固定(HS)の実施、若しくはHSにおいて最大倍率を1.7~2.5倍にすること、およびHSにおいて最小延伸倍率を1.2~2.3倍にすることなどにより上記の範囲内に調整され得る。
ポリオレフィン微多孔膜の気孔率は、特に限定されないが、好ましくは20%以上、より好ましくは35%以上、更に好ましくは40%以上であり、その上限は、好ましくは80%以下、より好ましくは60%以下であり、さらに好ましくは55%以下である。ポリオレフィン微多孔膜の気孔率を20%以上とすることは、セパレータの透過性を確保する観点から好ましい。ポリオレフィン微多孔膜の気孔率を80%以下とすることは、突刺強度を確保する観点から好ましい。なお、気孔率は、ポリオレフィン微多孔膜の製造プロセスにおいて、例えば、Mvが3~1200万の高分子量原料の使用、又は10~70%の可塑剤濃度(PC)、MDおよびTD方向への4~10倍の延伸の実施、110~122℃での延伸の実施、128~138℃での熱固定(HS)の実施、若しくはHSにおいて最大倍率を1.7~2.5倍にすること、およびHSにおいて最小延伸倍率を1.2~2.3倍にすることなどにより上記の範囲内に調整され得る。
ポリオレフィン微多孔膜の厚さは、特に限定されないが、好ましくは2μm以上、より好ましくは4μm以上であり、更に好ましくは5μm以上であり、その上限は、好ましくは30μm以下、より好ましくは20μm以下、更に好ましくは16μm以下、最も好ましくは12μm以下である。2μm以上のポリオレフィン微多孔膜の厚みは、機械強度を向上させる観点から好ましい。他方、30μm以下のポリオレフィン微多孔膜の厚みは、セパレータの占有体積を減らし、蓄電デバイスの高容量化の観点において有利となる傾向がある。ポリオレフィン微多孔膜の厚みは、例えば、10~70%の可塑剤濃度(PC)、MDおよびTD方向への4~10倍の延伸の実施、110~122℃での延伸の実施、128~138℃での熱固定(HS)の実施、若しくはHSにおいて最大倍率を1.7~2.5倍にすること、およびHSにおいて最小延伸倍率を1.2~2.3倍にすることなどにより実現され得る。
ポリオレフィン微多孔膜の透気度は、特に限定されないが、好ましくは10秒/100cm以上、より好ましくは20秒/100cm以上、更に好ましくは30秒/100cm以上、特に好ましくは40秒/100cm以上であり、その上限は、好ましくは300秒/100cm以下、より好ましくは200秒/100cm以下、更に好ましくは180秒/100cm以下、特に好ましくは140sec/100cm以下である。ポリオレフィン微多孔膜の透気度を10秒/100cm以上とすることは、蓄電デバイスの自己放電を抑制する観点から好ましい。ポリオレフィン微多孔膜の透気度を300秒/100cm以下とすることは、良好な充放電特性を得る観点から好ましい。なお、上記透気度は、例えば、Mvが3~1200万の高分子量原料の使用、又は10~70%の可塑剤濃度(PC)、40℃において動粘度が40~100mmである可塑剤の使用、キャスト出口における原反の表裏両面の温度を30~55℃に制御すること、MDおよびTD方向への4~10倍の延伸の実施、110~122℃での延伸の実施、128~138℃での熱固定(HS)の実施、若しくはHSにおいて最大倍率を1.7~2.5倍にすること、およびHSにおいて最小延伸倍率を1.2~2.3倍にすることなどにより実現され得る
ポリオレフィン微多孔膜の断面SEM観察により測定される累積50%孔径(D50)は、上限としては好ましくは100nm以下、より好ましくは70nm以下であり、さらに好ましくは60nm以下であり、下限として好ましくは10nm以上、より好ましくは30nm以上、さらに好ましくは40nm以上である。ポリオレフィン微多孔膜の累積50%孔径(D50)を100nm以下とすることは、蓄電デバイスの自己放電を抑制し、容量低下を抑制する観点から好適である。ポリオレフィン微多孔膜の累積50%孔径(D50)は、例えば、Mvが3~1200万の高分子量原料の使用、又は10~70%の可塑剤濃度(PC)、40℃において動粘度が40~100mmである可塑剤の使用、キャスト出口における原反の表裏両面の温度を30~55℃に制御すること、MDおよびTD方向への4~10倍の延伸の実施、110~122℃での延伸の実施、128~138℃での熱固定(HS)の実施、若しくはHSにおいて最大倍率を1.7~2.5倍にすること、およびHSにおいて最小延伸倍率を1.2~2.3倍にすることなどにより実現され得る。
ポリオレフィン微多孔膜の温度120℃で1時間に亘る熱収縮率は、例えば、MD方向、TD方向ともに0%以上30%以下であることが好ましく、より好ましくは0%超25%以下、更に好ましくは0.5%以上20%以下である。ポリオレフィン微多孔膜の120℃熱収縮率がMD方向、TD方向ともに30%以下であると、蓄電デバイス異常発生時のセパレータの破膜が抑制され、短絡を抑制する観点から好ましい。ポリオレフィン微多孔膜の温度120℃で1時間に亘る熱収縮率は、例えば、Mvが3~1200万の高分子量原料の使用、又は10~70%の可塑剤濃度(PC)、MDおよびTD方向への4~10倍の延伸の実施、110~122℃での延伸の実施、128~138℃での熱固定(HS)の実施、若しくはHSにおいて最大倍率を1.7~2.5倍にすること、およびHSにおいて最小延伸倍率を1.2~2.3倍にすることなどにより上記の範囲内に調整され得る。
ポリオレフィン微多孔膜の耐熱性の指標であるショート温度は、好ましくは140℃以上であり、より好ましくは150℃以上であり、さらに好ましくは160℃以上である。ショート温度を140℃以上とすることは、蓄電デバイス用セパレータとする場合に、蓄電デバイスの安全性の観点から好ましい。
ポリオレフィン微多孔膜の粘度平均分子量は、特に限定されないが、10万以上500万以下であることが好ましく、より好ましくは30万以上150万以下、更に好ましくは50万以上100万以下である。粘度平均分子量が10万以上500万以下であると、ポリオレフィン微多孔膜の突刺強度、透過性、熱収縮、およびシャットダウン機能の観点で好ましい。
(ポリオレフィン微多孔膜の製造方法)
本実施形態におけるポリオレフィン微多孔膜を製造する方法は、特に限定されず、公知の製造方法を採用することができる。例えば、ポリオレフィン樹脂組成物と可塑剤とを溶融混練してシート状に成形後、場合により延伸した後、可塑剤を抽出することにより多孔化させる方法、ポリオレフィン樹脂組成物を溶融混練して高ドロー比で押出した後、熱処理と延伸によってポリオレフィン結晶界面を剥離させることにより多孔化させる方法、ポリオレフィン樹脂組成物と無機充填材とを溶融混練してシート上に成形後、延伸によってポリオレフィンと無機充填材との界面を剥離させることにより多孔化させる方法、ポリオレフィン樹脂組成物を溶解後、ポリオレフィンに対する貧溶媒に浸漬させポリオレフィンを凝固させると同時に溶剤を除去することにより多孔化させる方法等が挙げられる。
製造されたポリオレフィン微多孔膜を基材として使用する場合には、断面SEM観察により測定される基材のD90/D10、基材の目付当たりの耐電圧、基材のTMAの最大収縮応力、基材の膜厚20μm換算の突刺強度もしくは透気度などを上記の数値範囲内に調整するという観点から、ポリオレフィン原料として、好ましくは上記の高分子量原料、より好ましくはMvが350,000~1,500,000のポリオレフィン原料、更に好ましくはMvが350,000~1,500,000のポリエチレン原料を用いてポリオレフィン樹脂組成物を調製する。同様の観点から、ポリオレフィン樹脂組成物の可塑剤濃度(PC)は、10~70質量%であることが好ましく、15~60質量%であることがより好ましく、さらに好ましくは20~50質量%である。以下、多孔膜を製造する方法の一例として、ポリオレフィン樹脂組成物と可塑剤とを溶融混練してシート状に成形後、可塑剤を抽出する方法について説明する。
まず、ポリオレフィン樹脂組成物と可塑剤を溶融混練する。溶融混練方法としては、例えば、ポリオレフィン樹脂及び必要によりその他の添加剤を、押出機、ニーダー、ラボプラストミル、混練ロール、バンバリーミキサー等の樹脂混練装置に投入し、樹脂成分を加熱溶融させながら任意の比率で可塑剤を導入して混練する方法が挙げられる。この際、ポリオレフィン樹脂、その他の添加剤及び可塑剤を樹脂混練装置に投入する前に、予めヘンシェルミキサー等を用い所定の割合で事前混練しておくことが好ましい。より好ましくは、事前混練において可塑剤の一部のみを投入し、残りの可塑剤を樹脂混練装置サイドフィードしながら混練することである。このようにすることにより、可塑剤の分散性を高め、後の工程で樹脂組成物と可塑剤の溶融混練合物のシート状成形体を延伸する際に、破膜することなく高倍率で延伸することができる。
可塑剤としては、ポリオレフィンの融点以上において均一溶液を形成しうる不揮発性溶媒を用いることができる。このような不揮発性溶媒の具体例として、例えば、流動パラフィン、パラフィンワックス等の炭化水素類;フタル酸ジオクチル、フタル酸ジブチル等のエステル類;オレイルアルコール、ステアリルアルコール等の高級アルコール等が挙げられる。これらの中で、流動パラフィンは、ポリエチレンやポリプロピレンとの相溶性が高く、溶融混練物を延伸してもポリオレフィン樹脂組成物と可塑剤の界面剥離が起こり難いので、均一な延伸が実施し易くなる傾向にあるため好ましい。
可塑剤としては、40℃における特定の動粘度を有する可塑剤を用いることができる。40℃における可塑剤の動粘度は、好ましくは40~100mm/秒であり、より好ましくは50~80mm/秒であり、更に好ましくは60~75mm/秒である。40℃における可塑剤の動粘度が40~100mm/秒であると、主原料であるポリオレフィン樹脂組成物との相分離が好適に起こり、加工性の悪化や可塑剤の過剰なブリードアウトによる膜品位の悪化を起こすことなく、気孔率、孔径、および孔径分布等の物性が適度に調整される。
ポリオレフィン樹脂組成物と可塑剤の比率は、これらを均一に溶融混練して、シート状に成形できる範囲であれば特に限定はない。例えば、ポリオレフィン樹脂組成物と可塑剤とからなる組成物中に占める可塑剤の質量分率は10~70質量%であることが好ましく、15~60質量%であることがより好ましく、さらに好ましくは20~50質量%である。可塑剤の質量分率が80質量%以下であると、溶融成形時のメルトテンションが不足し難く、成形性が向上する傾向にある。一方、質量分率が30質量%以上であると、ポリオレフィン樹脂組成物と可塑剤の混合物を高倍率で延伸してもポリオレフィン鎖の切断が起こらず、均一かつ微細な孔構造を形成し強度も増加し易い。
次に、溶融混練物をシート状に成形する。シート状成形体を製造する方法としては、例えば、溶融混練物を、Tダイ等を介してシート状に押出し、熱伝導体に接触させて樹脂成分の結晶化温度より充分に低い温度まで冷却して固化する方法が挙げられる。冷却固化に用いられる熱伝導体としては、金属、水、空気、あるいは可塑剤自身等が使用できるが、金属製のロールが熱伝導の効率が高いため好ましい。この際、金属製のロールに接触させる際に、ロール間で挟み込むと、熱伝導の効率がさらに高まると共に、シートが配向して膜強度が増し、シートの表面平滑性も向上するためより好ましい。Tダイよりシート状に押出す際のダイリップ間隔は400μm以上3000μm以下であることが好ましく、500μm以上2500μm以下であることがさらに好ましい。ダイリップ間隔が400μm以上であると、メヤニ等が低減され、スジや欠点など膜品位への影響が少なく、その後の延伸工程において膜破断などを防ぐことができる傾向にある。一方、ダイリップ間隔が3000μm以下であると、冷却速度が速く冷却ムラを防げると共に、シートの厚み安定性を維持できる傾向にある。
断面SEM観察により測定される基材のD90/D10、基材の目付当たりの耐電圧、基材のTMAの最大収縮応力、基材の膜厚20μm換算の透気度などを上記の数値範囲内に調整するという観点から、溶融混練物のシート成形において、キャスト出口における原反の温度を30℃~55℃に調整することが好ましく、キャスト出口における原反の両面の温度を30~55℃に調整することがより好ましい。
より詳細には、キャスト出口上面側温度および下面側温度は、1つまたは複数のキャストロールによる冷却後、実質的に次工程に進む直前の最後のロールから原反が離れた直後に測定され、FLIR社製赤外線サーモグラフィ等を用いて測定されることができる。キャスト出口上面側温度は、好ましくは30℃~55℃、より好ましくは33℃~50℃、更に好ましくは35℃~45℃に調整されることができる。他方、キャスト出口下面側温度は、好ましくは30℃~55℃、より好ましくは33℃~50℃、更に好ましくは35℃~45℃に調整されることができる。キャスト出口でのシート状成形膜のいずれかの面の温度が適度に高い場合、キャスト工程にて急速に冷却された状態となるため、可塑剤成分とポリオレフィン成分の分散が均一となり易く、孔径分布の均一化が達成し易くなる。他方、キャスト出口でのシート状成形膜のいずれかの面の温度が適度に低い場合、キャスト工程にて全体が十分に冷却されて二軸延伸などの次工程に供されるため、搬送応力又は延伸応力を受けた際に局所的な延伸が抑制されて、均一な孔径分布構造となり易い。キャスト出口の原反の上面側および下面側の温度は、400μm以上3000μm以下のダイリップ間隔、10℃以上120℃以下のキャスト冷却ロールの温度、40℃において40~100mm/秒の動粘度を持つ可塑剤の使用などによって制御される。
このようにして得たシート状成形体を延伸することが好ましい。延伸処理としては、一軸延伸又は二軸延伸のいずれも好適に用いることができるが、得られる多孔膜の強度等の観点から二軸延伸が好ましい。シート状成形体を二軸方向に高倍率延伸すると、分子が面方向に配向し、最終的に得られる多孔膜が裂け難くなり、高い突刺強度を有するものとなる。延伸方法としては、例えば、同時二軸延伸、逐次二軸延、多段延伸、多数回延伸等の方法を挙げることができ、突刺強度の向上、延伸の均一性、シャットダウン性の観点から同時二軸延伸が好ましい。
なお、ここで、同時二軸延伸とは、MD方向(微多孔膜の機械方向)の延伸とTD方向(微多孔膜のMDを90°の角度で横切る方向)の延伸が同時に施される延伸方法をいい、各方向の延伸倍率は異なってもよい。逐次二軸延伸とは、MD方向、又はTD方向の延伸が独立して施される延伸方法をいい、MD方向又はTD方向に延伸がなされている際は、他方向は非拘束状態又は定長に固定されている状態とする。
延伸倍率は、目付、気孔率、透気度20μm換算透気度、突き刺し強度、MDおよびTD方向への120℃1時間熱収縮、得られる多孔膜の十分な強度、延伸工程での膜破断の防止、及び高生産性の観点から、面倍率で20倍以上100倍以下であり、断面SEM観察により測定される基材のD90/D10を上記の数値範囲内に調整するという観点から、面倍率で20倍以上70倍以下の範囲であることが好ましく、基材の目付当たりの耐電圧、基材のTMAの最大収縮応力、基材の膜厚20μm換算の突刺強度などを上記の数値範囲内に調整するという観点から、面倍率で50倍以上70倍以下の範囲であることがより好ましい。
二軸延伸の場合、二軸MD倍率は、4~10倍であることが好ましく、5~9倍であることがより好ましく、6~8倍であることが更に好ましく、かつ/又は二軸TD倍率は、4~10倍であることが好ましく、5~9倍であることがより好ましく、6~8倍であることが更に好ましい。二軸延伸での倍率が適度に高いと、分子の結晶配向が十分となり、強度発現が容易なことに加え、延伸応力が掛かり易くなるため、膜を形成する全ての分子鎖に均一に力が掛かり、孔径分布を均一に揃え易くなる傾向にある。他方、二軸延伸での倍率が適度に低いと、分子の配向促進による強度発現や耐電圧の発現と、マクロな孔構造として粗大孔が発生し難いことによる均一な孔径分布とのバランスを取り易くなる傾向にある。
延伸温度は、膜厚、目付、気孔率、透気度、20μm換算透気度、突き刺し強度、MDおよびTD方向への120℃1時間熱収、断面SEM観察により測定される基材のD90/D10、基材の目付当たりの耐電圧、基材のTMAの最大収縮応力、基材の膜厚20μm換算の突刺強度などを上記の数値範囲内に調整するという観点から、110℃~122℃の範囲内に設定されることが好ましい。
二軸延伸温度は、好ましくは110℃~122℃であり、より好ましくは115℃~121.5℃であり、更に好ましくは117℃~121℃である。二軸延伸での延伸温度が適度に高い場合、膜に掛かる応力による強度発現や耐電圧発現と、残留応力が抑制されることによる後の抽出・乾燥・熱固定工程での均一な孔構造とのバランスを取り易くなる傾向にある。二軸延伸での延伸温度が適度に低い場合、ポリオレフィンの分子運動性が低くなっているため、応力を強化しようとして孔構造を最密化させる傾向がある。
また、シート状成形体を圧延してもよい。圧延は、例えば、ダブルベルトプレス機等を使用したプレス法にて実施することができる。圧延は特に表層部分の配向を増すことができる。圧延面倍率は1倍より大きく3倍以下であることが好ましく、1倍より大きく2倍以下であることがより好ましい。圧延倍率が1倍より大きいと、面配向が増加し最終的に得られる多孔膜の膜強度が増加する傾向にある。一方、圧延倍率が3倍以下であると、表層部分と中心内部の配向差が小さく、膜の厚さ方向に均一な多孔構造を形成することができる傾向にあるため好ましい。
次いで、シート状成形体から可塑剤を除去して微多孔膜とする。可塑剤を除去する方法としては、例えば、抽出溶剤にシート状成形体を浸漬して可塑剤を抽出し、充分に乾燥させる方法が挙げられる。可塑剤を抽出する方法はバッチ式、連続式のいずれであってもよい。多孔膜の収縮を抑えるために、浸漬、乾燥の一連の工程中にシート状成形体の端部を拘束することが好ましい。また、微多孔膜中の可塑剤残存量は1質量%未満にすることが好ましい。
抽出溶剤としては、ポリオレフィン樹脂に対して貧溶媒で、かつ可塑剤に対して良溶媒であり、沸点がポリオレフィン樹脂の融点より低いものを用いることが好ましい。このような抽出溶剤としては、例えば、n-ヘキサン、シクロヘキサン等の炭化水素類;塩化メチレン、1,1,1-トリクロロエタン等のハロゲン化炭化水素類;ハイドロフルオロエーテル、ハイドロフルオロカーボン等の非塩素系ハロゲン化溶剤;エタノール、イソプロパノール等のアルコール類;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン等のエーテル類;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類が挙げられる。なお、これらの抽出溶剤は、蒸留等の操作により回収して再利用してよい。
微多孔膜の収縮を抑制するために、延伸工程後、又は、多孔膜形成後に熱固定(HS)や熱緩和等の熱処理を行うこともできる。また、多孔膜に、界面活性剤等による親水化処理、電離性放射線等による架橋処理等の後処理を行ってもよい。
HS延伸倍率は、断面SEM観察により測定される基材のD90/D10、基材の目付当たりの耐電圧、基材のTMAの最大収縮応力、基材の膜厚20μm換算の突刺強度もしくは透気度などを上記の数値範囲内に調整するという観点から、HS工程中の最大延伸倍率は1.7倍以上2.5倍以下が好ましく、1.8倍以上2.3倍以下がより好ましく、1.9倍以上2.1倍以下がさらに好ましい。また、HS工程中の最小延伸倍率は1.2以上2.3倍以下が好ましく、1.5倍以上2.0倍以下がより好ましく、1.6倍以上1.8倍以下がさらに好ましい。
HS温度は、128℃~138℃に設定されることが好ましく、129℃~136℃に設定されることがより好ましく、そして断面SEM観察により測定される基材のD90/D10を上記の数値範囲内に調整するという観点から、130℃~134℃に設定されることが更に好ましい。熱固定の温度が適度に高いと、膜が厚み方向に緻密化される程度が大きく、孔構造の緻密化が十分となる場合がある。他方、熱固定の温度が適度に低いと、平面方向への孔径の拡大より前に、厚み方向への孔の緻密化が起こり易く、孔径分布の均一化が起こり易い場合がある。
〔多孔層〕
本実施形態に係る蓄電デバイス用セパレータは、基材の少なくとも片面上に形成された多孔層を有する。多孔層は、所望により、無機フィラーと樹脂製バインダを含んでよい。多孔層の位置としては、基材表面の少なくとも一部、又はポリオレフィン微多孔膜と熱可塑性ポリマー含有層との間が挙げられる。多孔層は、基材としてのポリオレフィン微多孔膜の片面と両面のいずれに配置されてもよい。多孔層は、セパレータ中の電解液の保液性、電解液の吸液性又は拡散性の観点から、基材としてのポリオレフィン微多孔膜の両面に配置されること好ましい。蓄電デバイスの安全性試験において温度上昇が起こり難く、かつ比較的高温での保存試験においてサイクル劣化が起こり難く、レート特性等の性能に優れるという観点から、多孔層はポリオレフィン微多孔膜の両面に配置されることが望ましい。
(無機フィラー)
上記の多孔層に使用する無機フィラーとしては、特に限定されないが、200℃以上の融点をもち、電気絶縁性が高く、かつリチウムイオン二次電池の使用範囲で電気化学的に安定であるものが好ましい。
無機フィラーの材料としては、例えば、アルミナ、シリカ、チタニア、ジルコニア、マグネシア、セリア、イットリア、酸化亜鉛、及び酸化鉄などの酸化物系セラミックス;窒化ケイ素、窒化チタン、及び窒化ホウ素等の窒化物系セラミックス;シリコンカーバイド、炭酸カルシウム、硫酸マグネシウム、硫酸アルミニウム、硫酸バリウム、水酸化アルミニウム、水酸化酸化アルミニウム又はベーマイト、チタン酸カリウム、タルク、カオリナイト、ディカイト、ナクライト、ハロイサイト、パイロフィライト、モンモリロナイト、セリサイト、マイカ、アメサイト、ベントナイト、アスベスト、ゼオライト、ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム、ケイ藻土、及びケイ砂等のセラミックス;並びにガラス繊維などが挙げられる。これらの中でも、アルミナ、ベーマイト、及び硫酸バリウムから成る群から選ばれる少なくとも1つが、リチウムイオン二次電池内での安定性の観点から好ましい。また、ベーマイトとしては、電気化学素子の特性に悪影響を与えるイオン性の不純物を低減できる合成ベーマイトが好ましい。
無機フィラーの形状としては、例えば、板状、鱗片状、多面体、針状、柱状、粒状、球状、紡錘状、ブロック状等が挙げられ、上記形状を有する無機フィラーを複数種組み合わせて用いてもよい。これらの中でも、透過性と耐熱性のバランスの観点からは、ブロック状が好ましい。
無機フィラーのアスペクト比としては、1.0以上5.0以下であることが好ましく、より好ましくは、1.1以上3.0以下である。アスペクト比が5.0以下であることで、多層多孔膜の水分吸着量を抑制し、サイクルを重ねた時の容量劣化を抑制する観点、及びポリオレフィン微多孔膜の融点を超えた温度における変形を抑制する観点から好ましい。
無機フィラーの比表面積としては、3.0m/g以上17m/g以下であることが好ましく、より好ましくは、5.0m/g以上15m/g以下であり、更に好ましくは、6.5m/g以上13m/g以下である。比表面積が17m/g以下であることで、多層多孔膜の水分吸着量を抑制し、サイクルを重ねた時の容量劣化を抑制する観点から好ましく、比表面積が3.0m/g以上であることで、ポリオレフィン微多孔膜の融点を超えた温度における変形を抑制する観点から好ましい。無機フィラーの比表面積は、BET吸着法を用いて測定する。
多孔層中に無機フィラーとして含まれる無機粒子の粒度分布において、無機粒子の平均粒径D50は、上記関係(I)及び(II)のように基材と多孔層との孔径分布を調整するという観点から、上限として、好ましくは0.60μm以下、より好ましくは0.55μm以下、更に好ましくは0.50μm以下、より更に好ましくは0.40μm以下、特に好ましくは0.30μm以下であり、そして下限として、好ましくは0.10μmを超え、より好ましくは0.12μm以上、更に好ましくは0.15μm以上である。無機粒子の平均粒径D50が0.60μm以下であると、多孔層を薄くすることができ、ひいては蓄電デバイス容量およびレート特性の良化につながる。無機粒子の平均粒径D50が0.10μm以上であると、多孔層成分が基材の孔に侵入し難くなり、蓄電デバイスの抵抗を低くすることができる。
また、多孔層中に無機フィラーとして含まれる無機粒子の粒度分布において、無機粒子の粒径D10は、上記関係(I)及び(II)のように基材と多孔層との孔径分布を調整するという観点から、好ましくは0.08μm以上0.80μm以下、より好ましくは0.09μm以上0.50μm以下、更に好ましくは0.10μm以上0.35μm以下である。無機粒子の粒径D10が0.08μm以上であることで、多層多孔膜の水分吸着量を抑制し、サイクルを重ねた時の容量劣化を抑制する観点から好ましく、無機粒子の粒径D10が0.80μm以下であることで、ポリオレフィン微多孔膜の融点を超えた温度における変形を抑制する観点から好ましい。
多孔層中の無機粒子の粒径分布は、例えば、多孔層の形成プロセスにおいて、ボールミル・ビーズミル・ジェットミル等を用いて無機フィラーを粉砕し、所望の粒径分布を得る方法、複数の粒径分布のフィラーを調製した後にブレンドする方法等により上記のように調整されることができる。
無機フィラーが、多孔層中に占める割合としては、無機フィラーの結着性、多層多孔膜の透過性及び耐熱性等の観点から適宜決定することができるが、50質量%以上100質量%未満であることが好ましく、より好ましくは70質量%以上99.99質量%以下、さらに好ましくは80質量%以上99.9質量%以下、特に好ましくは90質量%以上99質量%以下である。中でも、上記で説明された粒度分布を有する無機粒子が、上記関係(I)及び(II)の充足の観点から、多孔層中で50質量%以上100質量%未満を占めることが好ましく、より好ましくは70質量%以上99.99質量%以下、さらに好ましくは80質量%以上99.9質量%以下、特に好ましくは90質量%以上99質量%以下である。
(樹脂製バインダ)
樹脂製バインダの種類としては、特に限定されないが、本実施形態における多層多孔膜をリチウムイオン二次電池用セパレータとして使用する場合には、リチウムイオン二次電池の電解液に対して不溶であり、かつリチウムイオン二次電池の使用範囲で電気化学的に安定なものを用いることが好ましい。
樹脂製バインダの具体例としては、以下の1)~7)が挙げられる。
1)ポリオレフィン:例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレンプロピレンラバー、及びこれらの変性体;
2)共役ジエン系重合体:例えば、スチレン-ブタジエン共重合体及びその水素化物、アクリロニトリル-ブタジエン共重合体及びその水素化物、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体及びその水素化物;
3)アクリル系重合体:例えば、メタクリル酸エステル-アクリル酸エステル共重合体、スチレン-アクリル酸エステル共重合体、アクリロニトリル-アクリル酸エステル共重合体;
4)ポリビニルアルコール系樹脂:例えば、ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル;
5)含フッ素樹脂:例えば、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン-テトラフルオロエチレン共重合体、エチレン-テトラフルオロエチレン共重合体;
6)セルロース誘導体:例えば、エチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース;
7)融点及び/又はガラス転移温度が180℃以上の樹脂あるいは融点を有しないが分解温度が200℃以上のポリマー:例えば、ポリフェニレンエーテル、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルイミド、ポリアミドイミド、ポリアミド、ポリエステル。
短絡時の安全性をさらに向上させるという観点からは、3)アクリル系重合体、5)含フッ素樹脂、及び7)ポリマーとしてのポリアミドが好ましい。ポリアミドとしては、耐久性の観点から全芳香族ポリアミド、中でもポリメタフェニレンイソフタルアミドが好適である。
樹脂性バインダと電極との適合性の観点からは上記2)共役ジエン系重合体が好ましく、耐電圧性の観点からは上記3)アクリル系重合体及び5)含フッ素樹脂が好ましい。
上記2)共役ジエン系重合体は、共役ジエン化合物を単量体単位として含む重合体である。
上記共役ジエン化合物としては、例えば、1,3-ブタジエン、2-メチル-1,3-ブタジエン、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、2-クロル-1,3-ブタジエン、置換直鎖共役ペンタジエン類、置換及び側鎖共役ヘキサジエン類等が挙げられ、これらは1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。中でも、特に1,3-ブタジエンが好ましい。
上記3)アクリル系重合体は、(メタ)アクリル系化合物を単量体単位として含む重合体である。上記(メタ)アクリル系化合物とは、(メタ)アクリル酸および(メタ)アクリル酸エステルから成る群から選ばれる少なくとも一つを示す。
上記3)アクリル系重合体に用いられる(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば、(メタ)アクリル酸アルキルエステル、例えば、メチルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルアクリレート、エチルメタクリレート、ブチルアクリレート、ブチルメタクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート、2-エチルヘキシルアメタクリレート;エポキシ基含有(メタ)アクリル酸エステル、例えば、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート;が挙げられ、これらは1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。上記の中でも、特に2-エチルヘキシルアクリレート(EHA)、ブチルアクリレート(BA)が好ましい。
アクリル系重合体は、衝突試験での安全性の観点から、EHA又はBAを主な構成単位として含むポリマーであることが好ましい。主な構成単位とは、ポリマーを形成するための全原料に対して40モル%以上を占めるモノマーと対応するポリマー部分をいう。
上記2)共役ジエン系重合体および3)アクリル系重合体は、これらと共重合可能な他の単量体をも共重合させて得られるものであってもよい。用いられる共重合可能な他の単量体としては、例えば、不飽和カルボン酸アルキルエステル、芳香族ビニル系単量体、シアン化ビニル系単量体、ヒドロキシアルキル基を含有する不飽和単量体、不飽和カルボン酸アミド単量体、クロトン酸、マレイン酸、マレイン酸無水物、フマル酸、イタコン酸等が挙げられ、これらは1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。上記の中でも、特に不飽和カルボン酸アルキルエステル単量体が好ましい。不飽和カルボン酸アルキルエステル単量体としては、ジメチルフマレート、ジエチルフマレート、ジメチルマレエート、ジエチルマレエート、ジメチルイタコネート、モノメチルフマレート、モノエチルフマレート等が挙げられ、これらは1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
なお、上記2)共役ジエン系重合体は、他の単量体として上記(メタ)アクリル系化合物を共重合させて得られるものであってもよい。
樹脂性バインダは、常温を超えるような高温時でさえも複数の無機粒子間の結着力が強く、熱収縮を抑制するという観点から、ラテックスの形態であることが好ましく、アクリル系重合体のラテックスであることがより好ましい。
樹脂製バインダの平均粒径は、50以上500nm以下であることが好ましく、より好ましくは60以上460nm以下、更に好ましくは80以上250nm以下である。樹脂製バインダの平均粒径が50nm以上である場合、無機フィラーとバインダとを含む多孔層をポリオレフィン多孔膜の少なくとも片面に積層した際、イオン透過性が低下し難く、高出力特性が得られ易い。加えて異常発熱時の温度上昇が速い場合においても、円滑なシャットダウン特性を示し、高い安全性が得られ易い。樹脂製バインダの平均粒径が500nm以下である場合、良好な結着性を発現し、多層多孔膜とした場合に熱収縮が良好となり安全性に優れる傾向にある。
樹脂製バインダの平均粒径は、重合時間、重合温度、原料組成比、原料投入順序、pHなどを調整することで制御することが可能である。
塗布液には、分散安定化又は塗工性の向上のために、界面活性剤等の分散剤を加えてもよい。分散剤は、スラリー中で無機粒子表面に吸着し、静電反発などにより無機粒子を安定化させるものであり、例えば、ポリカルボン酸塩、スルホン酸塩、ポリオキシエーテルなどである。分散剤の添加量としては、無機フィラー100重量部に対し、固形分換算で0.2重量部以上5.0重量部以下が好ましく、より好ましくは0.3重量部以上1.0重量部以下が好ましい。
(多孔層の物性・構成・形成方法)
基材の片面当たりの多孔層の厚みは、0.0μmを超えて3.0μm以下であることが好ましく、0.1~2.5μmの範囲内にあることがより好ましく、0.2~1.8μmの範囲内にあることが更に好ましい。多孔層の厚みが0.0μmを超えると、保存試験中に基材の収縮応力に抗って微短絡の発生を抑制して性能や安全性を良化させる。他方、多孔層の厚みが3.0μm以下であると、蓄電デバイス容量およびレート特性の良化につながる。基材の片面当たりの多孔層の厚みは、例えば、0.10~0.60μmのD50平均粒径を有するフィラーの使用、10~100nmの累積50%孔径(D50)および1.0~5.0のD90/D10孔径分布を有する基材の使用、多孔層形成の際の複数の乾燥炉の最高設定温度と最低設定温度の差である乾燥温度Rを0~50℃に制御すること、若しくは基材の片面当たりの多孔層の目付を1.0~4.0に制御することなどによって、塗布液が微多孔膜の内部に入り込み、フィラーが孔の表面及び内部で好適な構造を取るようにフィラーの充填状態を制御することで実現され得る。
多孔層の単位厚み(1μm)当たりの透気度は、上記関係(I)及び(II)のように基材と多孔層との孔径分布を調整するという観点から、20秒/100cm以下であることが好ましく、-5秒/100cm以上20秒/100cm以下であることがより好ましく、-3秒/100cm以上15秒/100cm以下であることが更に好ましく、0秒/100cm以上10秒/100cm以下であることが特に好ましい。多孔層の単位厚み当たりの透気度上昇値が-5秒/100cm以上であると、基材としてのポリオレフィン微多孔膜の構造変化の可能性が少なく、保存試験中に微短絡の発生が抑制され、ひいては蓄電デバイス性能や安全性が向上する。多孔層の単位厚み当たりの透気度上昇値が20秒/100cm以下であると、蓄電デバイスの抵抗を低くすることができる。多孔層の単位厚み当たりの透気度は、例えば、0.10~0.60μmのD50平均粒径を有するフィラーの使用、断面SEM観察により測定される多孔層の孔径分布指標(D80/D20)を1.0~4.0とすること、10~100nmの累積50%孔径(D50)および1.0~5.0のD90/D10孔径分布を有する基材の使用、多孔層形成の際の複数の乾燥炉の最高設定温度と最低設定温度の差である乾燥温度Rを0~50℃に制御することなどにより調節可能である。
基材の片面当たりの多孔層の目付は、1.0~4.0g/mの範囲内にあることが好ましく、1.2~3.5g/mの範囲内にあることがより好ましく、1.5~3.0g/mの範囲内にあることが更に好ましい。詳細は定かではないが、一般に金属水酸化物等で構成される無機多孔層は吸熱性を有するため、多孔層の目付が1.0g/m以上であると、保存試験中に安全性を高める効果が得られ易い。また、保存試験中に基材の収縮応力に抗って微短絡の発生を抑制して性能や安全性を良化させる。多孔層の目付が1.0g/m以上であると、他方、4.0g/m以下の多孔層の目付は、蓄電デバイスの抵抗を低くする観点から好ましい。基材の片面当たりの多孔層の目付は、例えば、0.10~0.60μmのD50平均粒径を有するフィラーの使用、断面SEM観察により測定される多孔層の孔径分布指標(D80/D20)を1.0~4.0とすること、10~100nmの累積50%孔径(D50)および1.0~5.0のD90/D10孔径分布を有する基材の使用、多孔層形成の際の複数の乾燥炉の最高設定温度と最低設定温度の差である乾燥温度Rを0~50℃に制御することなどによって制御され得る。
多孔層の厚み当たりの水分量は、蓄電デバイス内部での副反応を抑制し、サイクル特性を向上する観点から、少ないほど好ましく、300ppm以下であることがより好ましく、0~300ppmの範囲内にあることが更に好ましく、25~250ppmの範囲内にあることがより更に好ましく、50~200ppmの範囲内にあることが特に好ましい。多孔層の厚み当たりの水分量は、例えば、0.10~0.60μmのD50平均粒径を有するフィラーの使用、多孔層形成の際の複数の乾燥炉の最高設定温度と最低設定温度の差である乾燥温度Rを0~50℃に制御すること、若しくは基材の片面当たりの多孔層の目付を1.0~4.0g/mとすることなどによって制御され得る。
多孔層の形成方法としては、例えば、ポリオレフィン樹脂を主成分とする多孔膜の少なくとも片面に、無機フィラーと樹脂製バインダとを含む塗布液を塗布して多孔層を形成する方法を挙げることができる。
塗布液の溶媒としては、無機フィラー、及び樹脂製バインダを均一かつ安定に分散できるものが好ましく、例えば、N-メチルピロリドン、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、水、エタノール、トルエン、熱キシレン、塩化メチレン、ヘキサン等が挙げられる。
無機フィラーとして無機粒子を含む塗布液の粒径分布において、無機粒子の平均粒径D50は、セパレータの上記関係(I)及び(II)を満たすという観点から、上限として、好ましくは0.60μm以下、より好ましくは0.55μm以下、更に好ましくは0.50μm以下、より更に好ましくは0.40μm以下、特に好ましくは0.30μm以下であり、そして下限として、好ましくは0.10μmを超え、より好ましくは0.12μm以上、更に好ましくは0.15μm以上である。無機粒子の平均粒径D50が0.60μm以下であると、多孔層を薄くすることができ、ひいては蓄電デバイス容量およびレート特性の良化につながる。無機粒子の平均粒径D50が0.10μm以上であると、多孔層成分が基材の孔に侵入し難くなり、蓄電デバイスの抵抗を低くすることができる。
また、無機フィラーとして無機粒子を含む塗布液の粒径分布において、セパレータの上記関係(I)及び(II)を満たすという観点から、無機粒子の粒径D10は、好ましくは0.08μm以上0.80μm以下、より好ましくは0.09μm以上0.50μm以下、更に好ましくは0.10μm以上0.35μm以下である。無機粒子の粒径D10が0.08μm以上であることで、多層多孔膜の水分吸着量を抑制し、サイクルを重ねた時の容量劣化を抑制する観点から好ましく、無機粒子の粒径D10が0.80μm以下であることで、ポリオレフィン微多孔膜の融点を超えた温度における変形を抑制する観点から好ましい。
無機粒子の粒径分布を上記のように調整する方法としては、例えば、ボールミル・ビーズミル・ジェットミル等を用いて無機フィラーを粉砕し、所望の粒径分布を得る方法、複数の粒径分布のフィラーを調製した後にブレンドする方法等が挙げられる。
多孔層の形成方法において、上記関係(I)及び(II)の充足の観点から、上記で説明された粒度分布を有する無機粒子の多孔層への充填率が高くなるように、塗布液の固形分に対して無機粒子を50質量%以上100質量%未満で配合することが好ましく、より好ましくは70質量%以上99.99質量%以下、さらに好ましくは80質量%以上99.9質量%以下、特に好ましくは90質量%以上99質量%以下で配合する。
塗布液には、分散安定化や塗工性の向上のために、界面活性剤等の分散剤;増粘剤;湿潤剤;消泡剤;酸、アルカリを含むpH調製剤等の各種添加剤を加えてもよい。これらの添加剤は、溶媒除去の際に除去できるものが好ましいが、リチウムイオン二次電池の使用範囲において電気化学的に安定で、電池反応を阻害せず、かつ200℃程度まで安定ならば多孔層内に残存してもよい。
無機フィラーと樹脂製バインダとを、塗布液の溶媒に分散させる方法については、塗布工程に必要な塗布液の分散特性を実現できる方法であれば特に限定はない。例えば、ボールミル、ビーズミル、遊星ボールミル、振動ボールミル、サンドミル、コロイドミル、アトライター、ロールミル、高速インペラー分散、ディスパーザー、ホモジナイザー、高速衝撃ミル、超音波分散、撹拌羽根等による機械撹拌等が挙げられる。
塗布液を微多孔膜に塗布する方法については、必要とする層厚や塗布面積を実現できる方法であれば特に限定はなく、例えば、グラビアコーター法、小径グラビアコーター法、リバースロールコーター法、トランスファロールコーター法、キスコーター法、ディップコーター法、ナイフコーター法、エアドクタコーター法、ブレードコーター法、ロッドコーター法、スクイズコーター法、キャストコーター法、ダイコーター法、スクリーン印刷法、スプレー塗布法等が挙げられる。
さらに、塗布液の塗布に先立ち、セパレータ基材としての微多孔膜の表面に表面処理を施すと、塗布液を塗布し易くなると共に、塗布後の無機フィラー含有多孔層と微多孔膜表面との接着性が向上するため好ましい。表面処理の方法は、微多孔膜の多孔質構造を著しく損なわない方法であれば特に限定はなく、例えば、コロナ放電処理法、機械的粗面化法、溶剤処理法、酸処理法、紫外線酸化法等が挙げられる。
塗布後に塗布膜から溶媒を除去する方法については、微多孔膜に悪影響を及ぼさない方法であれば特に限定はなく、例えば、多孔膜を固定しながらその融点以下の温度にて乾燥する方法、低温で減圧乾燥する方法等が挙げられる。多孔膜及び多層多孔膜のMD方向の収縮応力を制御する観点から、多孔層形成の際の複数の乾燥炉の最高設定温度と最低設定温度の差である乾燥温度Rを0~50℃に制御し、巻取り張力等は適宜調整することが好ましい。
多孔層を形成するために溶媒を除去する工程について、2室以上30室以下の乾燥室を通過させて乾燥をおこなうことが好ましい。複数の乾燥炉の設定温度のうち、最も高い設定温度と最も低い設定温度の差である乾燥温度Rは、0℃~50℃に設定されることが好ましく、0~40℃に設定されることがより好ましく、0~30℃に設定されることがさらに好ましい。乾燥温度Rが、0℃以上50℃以下、または5℃以上40℃以下の範囲内にあると、塗工工程での複数の乾燥炉の乾燥温度の最大値と最小値の温度差を制御することにより、多孔層の乾燥状態が最適化されてフィラー成分のパッキングが向上し、より緻密な孔構造を有しながら抵抗成分となる透気度の上昇を抑えた構造を取ることができる。乾燥温度Rは、断面SEM観察により測定される多孔層の累積50%孔径(D50)および孔径分布指標D80/D20、多孔層の単位厚み(1μm)当たりの透気度などを上記の数値範囲内に調整するという観点から、10℃以上30℃以下であることが更に好ましい。
〔接着機能を有する部位〕
セパレータは、セパレータの温度上昇の起こり難さとサイクル劣化の起こり難さとを両立しながら高温保存試験にさらに適合させるという観点から、接着機能を有することが好ましく、基材の少なくとも片面上に、又は多孔層の上に接着機能を有する部位を備えることがより好ましい。
接着機能を有する部位は、接着層でよく、そして熱可塑性ポリマー又は有機塗工成分などのバインダ成分から形成されることができ、より詳細には、熱可塑性ポリマー含有層として形成されることができる。
セパレータの温度上昇の起こり難さとサイクル劣化の起こり難さとの両立の観点から、セパレータの観察部位の全面積を100%としたとき、接着機能を有するバインダ成分が、10~80%の面積を占めることが好ましく、15~50%の面積を占めることがより好ましく、20~35%の面積を占めることが更に好ましい。詳細は定かではないが、接着機能を有するバインダ成分の占有面積が10%以上であると、セパレータと電極界面の距離が均一化することにより電流分布が均一化し、加熱安全性試験において温度上昇し難くなる傾向にある。他方、接着機能を有するバインダ成分の占有面積が80%以下であると、蓄電デバイスの抵抗が下降し、レート特性の良化につながる。接着機能を有するバインダ成分の占有面積は、例えば、バインダ成分または熱可塑性ポリマーを含む塗料の濃度の制御、被塗工体となる多孔層の選定もしくは乾燥温度Rの制御、塗工方法又は塗工パタンの制御などにより調節可能である。
〔熱可塑性ポリマー含有層〕
本実施形態に係る熱可塑性ポリマー含有層は、熱可塑性ポリマーを含む。熱可塑性ポリマー層は、所望により粒子状重合体を含んでよい。
(熱可塑性ポリマー)
本実施形態で使用される熱可塑性ポリマーは、特に限定されないが、例えば、ポリエチレンやポリプロピレン、α-ポリオレフィン等のポリオレフィン樹脂;ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン等の含フッ素樹脂とこれらを含むコポリマー;ブタジエン、イソプレンなどの共役ジエンをモノマー単位として含むジエン系ポリマー又はこれらを含むコポリマー及びその水素化物;アクリル酸エステル、メタアクリル酸エステルなどをモノマー単位として含むアクリル系ポリマー又はこれらを含むコポリマー及びその水素化物;エチレンプロピレンラバー、ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル等のゴム類;エチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース等のセルロース誘導体;ポリフェニレンエーテル、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルイミド、ポリアミドイミド、ポリアミド、ポリエステル等の融点及び/又はガラス転移温度が180℃以上の樹脂及びこれらの混合物等が挙げられる。また、熱可塑性ポリマーを合成する際に使用するモノマーとして、ヒドロキシル基やスルホン酸基、カルボキシル基、アミド基、シアノ基を有するモノマーを用いることもできる。
これらの熱可塑性ポリマーのうち、電極活物質との結着性及び強度や柔軟性に優れることから、ジエン系ポリマー、アクリル系ポリマー又はフッ素系ポリマーが好ましい。
(ジエン系ポリマー)
ジエン系ポリマーは、特に限定されないが、例えば、ブタジエン、イソプレンなどの共役の二重結合を2つ有する共役ジエンを重合してなるモノマー単位を含むポリマーである。共役ジエンモノマーとしては、特に限定されないが、例えば、1,3-ブタジエン、イソプレン、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、2-フェニル-1,3-ブタジエン、1,3-ペンタジエン、2-メチル-1,3-ペンタジエン、1,3-ヘキサジエン、4,5-ジエチル-1,3-オクタジエン、3-ブチル-1,3-オクタジエンなどが挙げられる。これらは単独で重合しても共重合してもよい。
ジエン系ポリマー中の共役ジエンを重合してなるモノマー単位の割合は、特に限定されないが、例えば、全ジエン系ポリマー中40質量%以上、好ましくは50質量%以上、より好ましくは60質量%以上である。
上記ジエン系ポリマーとしては、特に限定されないが、例えば、ポリブタジエンやポリイソプレンなどの共役ジエンのホモポリマー及び共役ジエンと共重合可能なモノマーとのコポリマーが挙げられる。共重合可能なモノマーは、特に限定されないが、例えば、後述の(メタ)アクリレートモノマーや下記のモノマー(以下、「その他のモノマー」ともいう。)を挙げることができる。
「その他のモノマー」としては、特に限定されないが、例えば、アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどのα,β-不飽和ニトリル化合物;アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、フマル酸などの不飽和カルボン酸類;スチレン、クロロスチレン、ビニルトルエン、t-ブチルスチレン、ビニル安息香酸、ビニル安息香酸メチル、ビニルナフタレン、クロロメチルスチレン、ヒドロキシメチルスチレン、α-メチルスチレン、ジビニルベンゼン等のスチレン系モノマー;エチレン、プロピレン等のオレフィン類;塩化ビニル、塩化ビニリデン等のハロゲン原子含有モノマー;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、安息香酸ビニル等のビニルエステル類;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、ブチルビエルエーテル等のビニルエーテル類;メチルビニルケトン、エチルビニルケトン、ブチルビニルケトン、ヘキシルビニルケトン、イソプロペニルビニルケトン等のビニルケトン類;N-ビニルピロリドン、ビニルピリジン、ビニルイミダゾール等の複素環含有ビニル化合物;メチルアクリレート、メチルメタクリレート等のアクリル酸エステル及び/又はメタクリル酸エステル化合物;β-ヒドロキシエチルアクリレート、β-ヒドロキシエチルメタクリレート等のヒドロキシアルキル基含有化合物;アクリルアミド、N-メチロールアクリルアミド、アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸などのアミド系モノマーなどが挙げられ、これらを1種あるいは2種以上を組み合わせて使用してもよい。
(アクリル系ポリマー)
アクリル系ポリマーは、特に限定されないが、好ましくは(メタ)アクリレートモノマーを重合してなるモノマー単位を含むポリマーである。熱可塑性ポリマー含有層が、熱可塑性ポリマーとしてアクリル系ポリマーを含む場合、(メタ)アクリル酸エステル単量体の単量体単位を含む共重合体を含むのが好ましい。熱可塑性ポリマー含有層の熱可塑性ポリマーが、(メタ)アクリル酸エステル単量体の単量体単位を含む共重合体を含むと、セパレータが低目付の場合での接着力が向上するので、好ましい。
なお、本明細書において「(メタ)アクリル酸」とは「アクリル酸又はメタクリル酸」を示し、「(メタ)アクリレート」とは「アクリレート又はメタクリレート」を示す。
(メタ)アクリレートモノマーとしては、特に限定されないが、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、t-ブチル(メタ)アクリレート、ペンチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、ヘプチル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、n-テトラデシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレートなどのアルキル(メタ)アクリレート;ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等のヒドロキシ基含有(メタ)アクリレート;アミノエチル(メタ)アクリレート等のアミノ基含有(メタ)アクリレート;グリシジル(メタ)アクリレート(GMA)等のエポキシ基含有(メタ)アクリレートが挙げられる。
(メタ)アクリレートモノマーを重合してなるモノマー単位の割合は、特に限定されないが、全アクリル系ポリマーの例えば40質量%以上、好ましくは50質量%以上、より好ましくは60質量%以上である。アクリル系ポリマーとしては、(メタ)アクリレートモノマーのホモポリマー、これと共重合可能なモノマーとのコポリマーが挙げられる。
共重合可能なモノマーとしては、上記ジエン系ポリマーの項目で列挙した「その他のモノマー」が挙げられ、これらを1種あるいは2種以上を組み合わせて使用してもよい。
(フッ素系ポリマー)
フッ素系ポリマーとしては、特に限定されないが、例えば、フッ化ビニリデンのホモポリマー、これと共重合可能なモノマーとのコポリマーが挙げられる。フッ素系ポリマーは、電気化学的安定性の観点から好ましい。
フッ化ビニリデンを重合してなるモノマー単位の割合は、特に限定されないが、例えば、40質量%以上、好ましくは50質量%以上、より好ましくは60質量%以上である。
フッ化ビニリデンと共重合可能なモノマーとしては、特に限定されないが、例えば、フッ化ビニル、テトラフルオロエチレン、トリフルオロクロロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、ヘキサフルオロイソブチレン、パーフルオロアクリル酸、パーフルオロメタクリル酸、アクリル酸又はメタクリル酸のフルオロアルキルエステル等のフッ素含有エチレン性不飽和化合物;シクロヘキシルビニルエーテル、ヒドロキシエチルビニルエーテル等のフッ素非含有エチレン性不飽和化合物;ブタジエン、イソプレン、クロロプレン等のフッ素非含有ジエン化合物等を挙げることができる。
フッ素系ポリマーのうち、フッ化ビニリデンのホモポリマー、フッ化ビニリデン/テトラフルオロエチレンコポリマー、フッ化ビニリデン/テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレンコポリマー等が好ましい。特に好ましいフッ素系ポリマーは、フッ化ビニリデン/テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレンコポリマーであり、そのモノマー組成は、通常、フッ化ビニリデン30~90質量%、テトラフルオロエチレン50~9質量%及びヘキサフルオロプロピレン20~1質量%である。これらのフッ素樹脂粒子は、単独で又は2種以上を混合して使用しても良い。
また、上記熱可塑性ポリマーを合成する際に使用するモノマーとして、ヒドロキシル基、カルボキシル基、アミノ基、スルホン酸基、アミド基、又はシアノ基を有するモノマーを用いることもできる。
ヒドロキシ基を有するモノマーは、特に限定されないが、例えば、ペンテンオール等のビニル系モノマーを挙げることができる。
カルボキシル基を有するモノマーは、特に限定されないが、例えば、(メタ)アクリル酸、イタコン酸等のエチレン性二重結合を有する不飽和カルボン酸、ペンテン酸等のビニル系モノマーを挙げることができる。
アミノ基を有するモノマーは、特に限定されないが、例えば、メタクリル酸2-アミノエチル等を挙げることができる。
スルホン酸基を有するモノマーは、特に限定されないが、例えば、ビニルスルホン酸、メチルビニルスルホン酸、(メタ)アリススルホン酸、スチレンスルホン酸、(メタ)アクリル酸-2-スルホン酸エチル、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、3-アリロキシ-2-ヒドロキシプロパンスルホン酸などが挙げられる。
アミド基を有するモノマーは、特に限定されないが、例えば、アクリルアミド(AM)、メタクリルアミド、N-メチロールアクリルアミド、N-メチロールメタクリルアミドなどが挙げられる。
シアノ基を有するモノマーは、特に限定されないが、例えば、アクリロニトリル(AN)、メタクリロニトリル、α-クロロアクリロニトリル、α-シアノエチルアクリレート等を挙げることができる。
本実施形態で用いる熱可塑性ポリマーは、ポリマーを単独で又は2種類以上混合して使用してもよいが、ポリマーを2種類以上含むことが好ましい。熱可塑性ポリマーは、溶媒と共に使用されてよく、溶媒としては、熱可塑性ポリマーを均一かつ安定に分散できるものでよく、例えば、N-メチルピロリドン、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、水、エタノール、トルエン、熱キシレン、塩化メチレン、ヘキサン等が挙げられ、中でも水系溶媒が好ましい。また、熱可塑性ポリマーは、ラテックスの形態で使用されることができる。
(熱可塑性ポリマーのガラス転移温度)
熱可塑性ポリマー含有層を構成する熱可塑性ポリマーは、基材への結着性とブロッキング抑制及びセパレータの電極との接着力を発現しつつ、蓄電デバイスにおいて電極とセパレータ間の距離を確保でき、かつ電解液の注液時間を短くするという観点から、少なくとも二つのガラス転移温度を有し、ガラス転移温度のうち少なくとも一つは20℃以下の領域に存在し、かつガラス転移温度のうち少なくとも一つは30℃以上120℃以下の領域に存在するという熱特性を有することが好ましい。
ここで、ガラス転移温度は、示差走査熱量測定(DSC)で得られるDSC曲線から決定される。なお、本明細書では、ガラス転移温度をTgと表現する場合もある。
具体的には、DSC曲線における低温側のベースラインを高温側に延長した直線と、ガラス転移の階段状変化部分の変曲点における接線との交点により決定される。より詳細には、実施例に記載の方法を参照することができる。
ここで、「ガラス転移」はDSCにおいて試験片であるポリマーの状態変化に伴う熱量変化が吸熱側に生じたものを指す。このような熱量変化はDSC曲線において階段状変化形状又は階段状変化とピークとが組み合わさった形状として観測される。
「階段状変化」とは、DSC曲線において、曲線がそれまでのベースラインから離れ新たなベースラインに移行するまでの部分を示す。なお、ピーク及び階段状変化の組み合わさった形状も含む。
「変曲点」とは、階段状変化部分のDSC曲線のこう配が最大になるような点を示す。また、階段状変化部分において上に凸の曲線が下に凸の曲線に変わる点と表現することもできる。
「ピーク」とは、DSC曲線において、曲線がベースラインから離れてから再度ベースラインに戻るまでの部分を示す。
「ベースライン」とは、試験片に転移及び反応を生じない温度領域のDSC曲線のことを示す。
本実施形態では、用いる熱可塑性ポリマーのガラス転移温度のうち少なくとも一つが20℃以下の領域に存在することにより、微多孔膜との密着性に優れており、かつ、適度に他の素材の表面に被膜を形成しつつ表面には多量に露出しない結果、ブロッキングを抑制しながら、セパレータと電極との密着性向上に寄与する。少なくとも1つのガラス転移温度は、ハンドリング性及び耐ブロッキング性の観点で-100℃以上が好ましく、又は-50℃以上がより好ましく、又は-40℃以上がさらに好ましく、又は-6℃以上が特に好ましく、微多孔膜との密着性の観点で20℃以下が好ましく、又は10℃以下がより好ましく、又は0℃以下が特に好ましい。
本実施形態では、用いる熱可塑性ポリマーのガラス転移温度のうち少なくとも一つが30℃以上120℃以下の領域に存在することにより、セパレータと電極との接着性及びハンドリング性に優れ、さらには蓄電デバイスにおいて電極表面とセパレータ基材表面間の距離を維持でき、かつ電解液の注液時間を短くすることができる。少なくとも1つのガラス転移温度は、ハンドリング性及び耐ブロッキング性の観点で30℃以上が好ましく、又は40℃以上がより好ましく、又は70℃以上が更に好ましく、又は95℃以上が特に好ましく、接着力の観点で150℃以下が好ましく、又は130℃以下がより好ましく、又は120℃以下が特に好ましい。
熱可塑性ポリマーが2つのガラス転移温度を有することは、例えば、2種類以上の熱可塑性ポリマーをブレンドする方法等によって達成できるが、この方法に限定されない。
特に、ポリマーブレンドは、ガラス転移温度の高いポリマーと低いポリマーを組み合せることにより、熱可塑性ポリマー全体のガラス転移温度を制御できる。また、熱可塑性ポリマー全体に複数の機能を付与できる。例えば、ブレンドの場合は、特にガラス転移温度を30℃以上の領域に持つポリマーと、ガラス転移温度を20℃以下の領域に持つポリマーを2種類以上ブレンドすることで、耐ベタツキ性とポリオレフィン微多孔膜への塗れ性を両立することができる。ブレンドする場合の混合比としてはガラス転移温度を30℃以上の領域に持つポリマーと、ガラス転移温度を20℃以下の領域に持つポリマーとの比が0.1:99.9~99.9:0.1の範囲であることが好ましく、より好ましくは、5:95~95:5であり、さらに好ましくは50:50~95:5であり、よりさらに好ましくは60:40~90:10である。また、粘性の高いポリマーと弾性の高いポリマーとを組み合わせて粘弾性の制御をすることもできる。
本実施形態において、熱可塑性ポリマーのガラス転移温度、すなわちTgは、例えば、熱可塑性ポリマーを製造するのに用いるモノマー成分及び各モノマーの投入比を変更することにより適宜調整できる。すなわち、熱可塑性ポリマーの製造に用いられる各モノマーについて一般に示されているそのホモポリマーのTg(例えば、「ポリマーハンドブック」(A WILEY-INTERSCIENCE PUBLICATION)に記載)とモノマーの配合割合から概略推定することができる。例えば約100℃のTgのポリマーを与えるスチレン、メチルメタクリレ-ト、及びアクリルニトリルなどのモノマーを高比率で配合したコポリマーは高いTgのものが得られ、例えば約-80℃のTgのポリマーを与えるブタジエンや約-50℃のTgのポリマーを与えるn-ブチルアクリレ-ト及び2-エチルヘキシルアクリレ-トなどのモノマーを高い比率で配合したコポリマーは低いTgのものが得られる。
また、ポリマーのTgはFOXの式(下記式(1))より概算することができる。なお、本願の熱可塑性ポリマーのガラス転移点としては、上記DSCを用いた方法により測定したものを採用する。
1/Tg=W/Tg+W/Tg+・・・+W/Tg+・・・W/Tg (1)
{式(1)中において、Tg(K)は、コポリマーのTg、Tg(K)は、各モノマーiのホモポリマーのTg、Wは、各モノマーの質量分率を各々示す。}
(熱可塑性ポリマー含有層の構造)
熱可塑性ポリマー含有層において、蓄電デバイス用セパレータの最表面側に、30℃以上120℃以下のガラス転移温度を有する熱可塑性樹脂が存在し、かつ、ポリオレフィン微多孔膜と熱可塑性ポリマー含有層の界面側に、20℃以下のガラス転移温度を有する熱可塑性樹脂が存在することが好ましい。なお、「最表面」とは、蓄電デバイス用セパレータと電極とを積層したときに、熱可塑性ポリマー含有層のうち電極と接する面をいう。また、「界面」とは、熱可塑性ポリマー含有層のうちポリオレフィン微多孔膜と接している面をいう。
熱可塑性ポリマー含有層において、蓄電デバイス用セパレータの最表面側に、30℃以上120℃以下のガラス転移温度を有する熱可塑性ポリマーが存在することにより、微多孔膜との密着性により優れ、その結果セパレータと電極との密着性に優れる傾向にある。また、ポリオレフィン微多孔膜と熱可塑性ポリマー含有層の界面側に、20℃以下のガラス転移温度を有する熱可塑性ポリマーが存在することにより、セパレータと電極との接着性及びハンドリング性により優れる傾向にある。セパレータは、このような熱可塑性ポリマー含有層を有することにより、セパレータと電極との接着性及びハンドリング性がより向上する傾向にある。
上記のような構造は、(a)熱可塑性ポリマーが、粒状(particle)熱可塑性ポリマーと、粒状熱可塑性ポリマーが表面に露出した状態で粒状熱可塑性ポリマーをポリオレフィン微多孔膜に接着するバインダ樹脂と、からなり、粒状熱可塑性ポリマーのガラス転移温度が30℃以上120℃以下の領域に存在し、ポリオレフィン微多孔膜と熱可塑性ポリマー含有層の界面側には20℃以下のガラス転移温度を有する熱可塑性ポリマーが存在すること、(b)熱可塑性ポリマーが積層構造であり、セパレータとしたときに最表層となる部分の熱可塑性ポリマーのガラス転移温度が30℃以上120℃以下の領域に存在し、ポリオレフィン微多孔膜と熱可塑性ポリマー含有層の界面側には20℃以下のガラス転移温度を有する熱可塑性ポリマーが存在すること等によって、達成できる。なお、(b)熱可塑性ポリマーは、Tgが異なるポリマー毎の積層構造になっていてもよい。
(熱可塑性ポリマーの平均粒径)
熱可塑性ポリマーの構造は、特に限定されないが、例えば、粒状に構成されることができる。このような構造を有することにより、セパレータと電極との接着性及びセパレータのハンドリング性により優れる傾向にある。ここで、粒状とは、走査型電子顕微鏡(SEM)の測定にて、個々の熱可塑性ポリマーが輪郭を持った状態のことを指し、細長形状であっても、球状であっても、多角形状等であってもよい。
粒状熱可塑性ポリマーの粒径分布及びメジアン径については、レーザー式粒度分布測定装置(日機装(株)製マイクロトラックMT3300EX)を用いて測定できる。必要に応じて、ベースラインとして水又はバインダ高分子の粒径分布を用いて、粒状熱可塑性ポリマーの粒径分布を調整できる。累積頻度が50%となる粒径をD50とし、粒状熱可塑性ポリマーのD50をDとする。
粒状熱可塑性ポリマーの平均粒径Dは、セパレータの電極との接着力を発現しつつ、セパレータを介した複数の電極間の距離を維持でき、かつセパレータを備える蓄電デバイスへの電解液の注液時間を短くするという観点から、100nm以上1000nm以下であることが好ましく、130nm以上700nm以下であることがより好ましく、320nm以上590nm以下であることが更に好ましく、400nm以上550nm以下であることが最も好ましい。
(熱可塑性ポリマー含有層の片面当たりの目付)
本実施形態に係るセパレータにおいて、熱可塑性ポリマー含有層の片面当たりの目付は、接着力の観点から、0.03g/m以上0.5g/m以下であることが好ましく、0.04g/m以上0.30g/m以下であることがより好ましく、最も好ましくは、0.06g/m以上0.20g/m以下である。熱可塑性ポリマー含有層の目付は、塗工する液のポリマー濃度やポリマー溶液の塗布量を変更することにより調整することができる。本実施形態の効果を妨げない範囲で、電極の膨張収縮に伴うセル形状の変形を抑制して電池のサイクル特性を良好にする観点では、0.05g/mを超える範囲が好ましい。
(熱可塑性ポリマー含有層による基材表面の被覆割合)
本実施形態において、基材表面に対する熱可塑性ポリマー含有層の総被覆面積割合は、セパレータの電極との接着力を維持しつつ、電池の抵抗を低くするため、かつ、セパレータを備える蓄電デバイスへの電解液の注液時間を短くするという観点から、3%以上、又は4%以上、又は5%以上、又は10%以上、又は20%以上、又は30%以上、又は40%以上が好ましく、90%以下、又は80%以下、又は75%以下、又は70%以下であること好ましい。
熱可塑性ポリマー含有層の被覆面積が小さいと、セパレータと電極界面の距離が不均一化することにより電流分布が不均一化するので、(加熱)安全性試験において温度上昇しやすくなる。また、熱可塑性ポリマー含有層の被覆面積が大きいと、電池の抵抗が上昇し、レート試験の悪化につながる。
基材表面に存在する熱可塑性ポリマー含有層の総被覆面積割合Sは、以下の式から算出される。
S(%)=熱可塑性ポリマー含有層の総被覆面積÷基材の表面積×100
基材表面に対する熱可塑性ポリマー含有層の塗工パタンの総被覆面積割合(%)は、マイクロスコープ(型式:VHX-7000、キーエンス社製)を用いて測定する。サンプルであるセパレータを30倍(同軸落射)で撮影した後、計測モードの自動面積計測を選択して、熱可塑性ポリマーの総被覆面積割合を測定する。各サンプルにおける被覆面積割合は、上記測定を3回行い、その相加平均値とする。
熱可塑性ポリマー含有層の総被覆面積割合は、塗工する液のポリマー濃度やポリマー溶液の塗布量及び塗工方法、塗工条件を変更することにより調整することができる。
熱可塑性ポリマー含有層の厚みは、0~5.0μmであることが好ましく、0.1μm~3.0μmであることがより好ましく、0.1μm~2.5μmであることが更に好ましく、0.2μm~1.8μmであることが特に好ましい。詳細は定かではないが、熱可塑性ポリマー含有層の薄いと、セパレータと電極界面の距離が不均一化することにより電流分布が不均一化するので、(加熱)安全性試験において温度上昇し易くなる。また、熱可塑性ポリマー含有層が厚いと、電池の容量の増大、およびレート試験の悪化につながる。
(熱可塑性ポリマー含有層の形成方法)
基材としてのポリオレフィン微多孔膜又は多孔層に熱可塑性ポリマー含有層を形成する方法は、特に限定されず、例えば熱可塑性ポリマーを含有する塗布液をポリオレフィン微多孔膜又は多孔層に塗布する方法が挙げられる。
熱可塑性ポリマーを含有する塗布液をポリオレフィン微多孔膜又は多孔層に塗布する方法については、必要とする層厚や塗布面積を実現できる方法であれば特に限定はない。例えば、グラビアコーター法、小径グラビアコーター法、リバースロールコーター法、トランスファロールコーター法、キスコーター法、ディップコーター法、ナイフコーター法、エアドクタコーター法、ブレードコーター法、ロッドコーター法、スクイズコーター法、キャストコーター法、ダイコーター法、スクリーン印刷法、スプレー塗布法、スプレーコーター塗布法、インクジェット塗布等が挙げられる。これらのうち、熱可塑性ポリマーの塗工形状の自由度が高く、好ましい面積割合を容易に得られる観点でグラビアコーター法又はスプレー塗布法が好ましい。熱可塑性ポリマー含有層のドット状のパタン形成については、グラビアコーター法、インクジェット塗布、及び印刷版の調整が容易な塗布方法が好ましい。
ドット状のパタン形成の場合には、ドット直径が、100~500μmであることが好ましく、150~300μmであることがより好ましく、200~300μmであることが更に好ましい。ドット面積は、セパレータと電極との接着強度、及びセパレータの高温保管後の透気度の観点から、被塗工面に対して、30%~80%であることが好ましい。
ポリオレフィン微多孔膜に熱可塑性ポリマーを塗工する場合、塗布液が微多孔膜又は多孔層の内部にまで入り込んでしまうと、接着性樹脂が孔の表面及び内部を埋めてしまい透過性が低下してしまう。そのため、塗布液の媒体としては、熱可塑性ポリマーの貧溶媒が好ましい。
塗布液の媒体として熱可塑性ポリマーの貧溶媒を用いた場合には、微多孔膜又は多孔層の内部に塗工液は入り込まず、接着性ポリマーは主に微多孔膜の表面上に存在するため、透過性の低下を抑制する観点から好ましい。このような媒体としては水が好ましい。また、水と併用可能な媒体は、特に限定されないが、エタノール、メタノール等を挙げることができる。所望により、熱可塑性ポリマー含有塗布液には消泡剤(例えば、信越化学工業株式会社のKM-73、日信化学工業株式会社のSK-14等)を加えてよい。
熱可塑性ポリマー含有塗布液(以下、単に塗料ともいう)については、セパレータの電極との接着性の観点、セパレータの温度上昇の起こり難さとサイクル劣化の起こり難さとを両立しながら高温保存試験にさらに適合させるという観点から、塗料粘度が30以上100cP以下の範囲内であることが好ましく、50以上80cP以下の範囲内であることがより好ましい。同様の観点から、塗料のpHは、5~7.9の範囲内であることが好ましく、5.5~7.7の範囲にあることがより好ましい。
さらに、塗布に先立ち、セパレータ基材としての微多孔膜に表面処理をすると、塗布液を塗布し易くなると共に、微多孔膜または多孔層と接着性ポリマーとの接着性が向上するため好ましい。表面処理の方法は、微多孔膜の多孔質構造を著しく損なわない方法であれば特に限定はなく、例えば、コロナ放電処理法、プラズマ処理法、機械的粗面化法、溶剤処理法、酸処理法、紫外線酸化法等が挙げられる。
コロナ放電処理法の場合には、基材表面のコロナ処理強度は、1W/(m/min)以上40W/(m/min)以下の範囲内にあることが好ましく、3W/(m/min)以上32W/(m/min)以下の範囲にあることがより好ましく、5W/(m/min)以上25W/(m/min)以下の範囲にあることが更に好ましい。
塗布後に塗布膜から溶媒を除去する方法については、微多孔膜又は多孔層に悪影響を及ぼさない方法であれば特に限定はない。例えば、微多孔膜及び/又は多孔層を固定しながらその融点以下の温度にて乾燥する方法、低温で減圧乾燥する方法、接着性ポリマーに対する貧溶媒に浸漬して接着性ポリマーを凝固させると同時に溶媒を抽出する方法等が挙げられる。
塗布膜の乾燥では、乾燥速度は、0.03g/(m・s)以上4.0g/(m・s)以下の範囲内にあることが好ましく、0.05g/(m・s)以上3.5g/(m・s)以下の範囲内にあることがより好ましく、0.08g/(m・s)以上3.0g/(m・s)以下の範囲内にあることが更に好ましい。塗布膜の乾燥では、熱可塑性ポリマー含有層の粒子形状を損なわない程度に、加温または加熱などにより昇温することも好ましい。
〔蓄電デバイス用セパレータの物性・構成・製造方法〕
蓄電デバイス用セパレータの総厚みの下限は、保存試験中に微短絡の発生を抑制して蓄電デバイス性能や安全性を向上させるという観点から、好ましくは5μm以上、より好ましくは6μm以上、更に好ましくは7μm以上である。セパレータの総厚みの上限は、蓄電デバイスの抵抗を低くするという観点から、好ましくは15μm以下、より好ましくは14μm以下、更に好ましくは13μm以下である。セパレータの層厚みは、例えば、基材の熱機械分析(TMA)の最大収縮応力を0.0gf以上4.0gf以下に制御すること、10~100nmの累積50%孔径(D50)および1.0~5.0のD90/D10孔径分布を有する基材の使用、片面当たりの多孔層厚みを0.0~3.0μmとすること、片面当たりの熱可塑性ポリマー層厚みを0.0~5.0μmとすること、断面SEM観察により測定される多孔層の孔径分布指標(D80/D20)を1.0~4.0とすること、多孔層形成の際の複数の乾燥炉の最高設定温度と最低設定温度の差である乾燥温度Rを0~50℃に制御することなどにより上記の数値範囲内に調整されることができる。
蓄電デバイス用セパレータの透気度の下限は、保存試験中に微短絡の発生を抑制して蓄電デバイス性能や安全性を向上させるという観点から、好ましくは10秒/100cm以上、より好ましくは30秒/100cm以上、更に好ましくは50秒/100cmである。セパレータの透気度の上限は、蓄電デバイスの抵抗を低くするという観点から、好ましくは200秒/100cm以下、より好ましくは180秒/100cm以下、更に好ましくは150秒/100cm以下である。セパレータの透気度は、例えば、Mvが3~1200万の高分子量原料の使用、又は10~70%の可塑剤濃度(PC)、40℃において動粘度が40~100mmである可塑剤の使用、キャスト出口における原反の表裏両面の温度を30~55℃に制御すること、MDおよびTD方向への4~10倍の延伸の実施、110~122℃での延伸の実施、128~138℃での熱固定(HS)の実施、若しくはHSにおいて最大倍率を1.7~2.5倍にすること、およびHSにおいて最小延伸倍率を1.2~2.3倍にすること、基材の熱機械分析(TMA)の最大収縮応力を0.0gf以上4.0gf以下に制御すること、10~100nmの累積50%孔径(D50)および1.0~5.0のD90/D10孔径分布を有する基材の使用、片面当たりの多孔層厚みを0.0~3.0μmとすること、片面当たりの熱可塑性ポリマー層厚みを0.0~5.0μmとすること、断面SEM観察により測定される多孔層の孔径分布指標(D80/D20)を1.0~4.0とすること、多孔層形成の際の複数の乾燥炉の最高設定温度と最低設定温度の差である乾燥温度Rを0~50℃に制御すること、熱可塑性ポリマーの被覆面積を10~80%とすることなどにより調節可能である。
蓄電デバイス用セパレータを温度60℃で7日間保管した後の透気度は、保管前の透気度に対して、100%~150%であることが好ましく、100%~130%であることがより好ましく、100%~120%であることが更に好ましい。保管前に対する保管後の透気度が150%以下であると、蓄電デバイスの抵抗を低くする傾向にある。温度60℃で7日間の保管の前後の透気度上昇率は、例えば、基材又は多孔層に対する熱可塑性ポリマー含有層のドットパターン形成または被覆面積割合を10~80%とすること、熱可塑性ポリマー又は樹脂バインダのガラス転移温度(Tg)の選択などにより上記の数値範囲内に調整されることができる。
蓄電デバイス用セパレータの突刺強度は、好ましくは100~1000gf、より好ましくは200~800gf、更に好ましくは300~700gfである。セパレータの突刺強度の下限が100gf以上であると、蓄電デバイスの保存試験中に微短絡の発生を抑制して性能や安全性を向上させられる傾向にある。セパレータの突刺強度の上限が1000gf以下であると、製造プロセスの延伸工程時の残留応力の過大な内部蓄積を抑制して、熱暴走時の安全性を確保し易くなる傾向にある。蓄電デバイス用セパレータの突刺強度は、例えば、Mvが3~1200万の高分子量原料の使用、又は10~70%の可塑剤濃度(PC)、MDおよびTD方向への4~10倍の延伸の実施、110~122℃での延伸の実施、128~138℃での熱固定(HS)の実施、若しくはHSにおいて最大倍率を1.7~2.5倍にすること、およびHSにおいて最小延伸倍率を1.2~2.3倍にすることなどにより上記の範囲内に調整され得る。
セパレータの150℃熱収縮率は、MD方向及び/又はTD方向において、-3%以上10%以下であることが好ましく、-1%以上8%以下であることがより好ましく、0%以上5%以下であることが更に好ましい。150℃熱収縮率が10%以下であると、蓄電デバイスの保存試験中に微短絡の発生を抑制して性能や安全性を向上させられる傾向にある。150℃熱収縮率が-3%以上であると、負の収縮(すなわち膨張)が抑制され、セパレータのヨレ等も抑制され、ひいては電極間の短絡のリスクを減らし、かつ蓄電デバイス性能及び安全性の向上につながる。150℃熱収縮率は、例えば、Mvが3~1200万の高分子量原料の使用、又は10~70%の可塑剤濃度(PC)、40℃において動粘度が40~100mmである可塑剤の使用、キャスト出口における原反の表裏両面の温度を30~55℃に制御すること、MDおよびTD方向への4~10倍の延伸の実施、110~122℃での延伸の実施、128~138℃での熱固定(HS)の実施、若しくはHSにおいて最大倍率を1.7~2.5倍にすること、およびHSにおいて最小延伸倍率を1.2~2.3倍にすること、基材の熱機械分析(TMA)の最大収縮応力を0.0gf以上4.0gf以下に制御すること、10~100nmの累積50%孔径(D50)および1.0~5.0のD90/D10孔径分布を有する基材の使用、片面当たりの多孔層厚みを0.0~3.0μmとすること、断面SEM観察により測定される多孔層の孔径分布指標(D80/D20)を1.0~4.0とすること、多孔層形成の際の複数の乾燥炉の最高設定温度と最低設定温度の差である乾燥温度Rを0~50℃に制御することなどにより調節可能である。
蓄電デバイス用セパレータを正極と重ねて圧力1MPaおよび温度100℃で30秒間プレスした後に測定して得られる接着強度D1の下限は、蓄電デバイス又はセルの作製工程でのハンドリング性の観点から、0.1N/m以上であることが好ましく、0.5N/m以上であることがより好ましく、1N/m以上であることが更に好ましい。接着強度D1の上限は、セルへの電解液の注液性を良くするという観点、およびセルの作製工程でのプレス時のセル厚みを低減して高容量化を実現するという観点から、20N/m以下であることが好ましく、10N/m以下であることがより好ましく、3N/m以下であることが更に好ましい。接着強度D1は、例えば、基材又は多孔層に対する熱可塑性ポリマー含有塗料のドットパターン塗工、熱可塑性ポリマーの被覆面積を10~80%とすること、樹脂バインダーのTgの制御などにより調節可能である。
蓄電デバイス用セパレータは、蓄電デバイスの安全性の指標であるシャットダウン温度が、好ましくは160℃以下であり、より好ましくは155℃以下であり、さらに好ましくは150℃以下であり、最も好ましくは145℃以下である。
蓄電デバイス用セパレータは、耐熱性の指標であるショート温度が、好ましくは140℃以上であり、より好ましくは150℃以上であり、さらに好ましくは160℃以上である。ショート温度を160℃以上とすることは、蓄電デバイス用セパレータとする場合に、蓄電デバイスの安全性の観点から好ましい。
蓄電デバイス用セパレータは、例えば、上記で説明されたとおり、ポリオレフィン微多孔膜の製造方法と多孔層の形成方法とを組み合わせることにより、所望により、さらに熱可塑性ポリマー含有層の形成方法も組み合わせることにより製造されることができる。
セパレータの製造方法において、基材としてのポリオレフィン微多孔膜の両面に多孔層を配置することが、得られるセパレータの保液性、吸液性又は拡散性の観点から好ましく、また得られるセパレータの観察部位の全面積を100%としたときに、接着機能を有するバインダ成分が3~80%の面積を占めるように塗布工程を行なうことが、セパレータの温度上昇の起こり難さとサイクル劣化の起こり難さとの両立の観点から好ましい。
<蓄電デバイス>
本実施形態に係るセパレータは、蓄電デバイスにおいて使用されることができる。蓄電デバイスは、正極と、セパレータと、負極と、所望により電解液とを備える。蓄電デバイスとしては、具体的には、リチウム電池、リチウム二次電池、リチウムイオン二次電池、ナトリウム二次電池、ナトリウムイオン二次電池、マグネシウム二次電池、マグネシウムイオン二次電池、カルシウム二次電池、カルシウムイオン二次電池、アルミニウム二次電池、アルミニウムイオン二次電池、ニッケル水素電池、ニッケルカドミウム電池、電気二重層キャパシタ、リチウムイオンキャパシタ、レドックスフロー電池、リチウム硫黄電池、リチウム空気電池、亜鉛空気電池などが挙げられる。これらの中でも、実用性の観点から、リチウム電池、リチウム二次電池、リチウムイオン二次電池、ニッケル水素電池、又はリチウムイオンキャパシタが好ましく、リチウムイオン二次電池がより好ましい。
蓄電デバイスは、例えば、正極と負極とを、本実施形態に係るセパレータを介して重ね合わせて、必要に応じて、捲回又は九十九折りして、積層電極体又は捲回電極体又は九十九折り体を形成した後、これを外装体に装填し、正負極と外装体の正負極端子とをリード体などを介して接続し、さらに、鎖状又は環状カーボネート等の非水溶媒とリチウム塩等の電解質を含む非水電解液を外装体内に注入した後に外装体を封止して作製することができる。
<電池>
本実施形態に係るセパレータを介して複数の電極と重ねることにより、セパレータと電極とが積層している積層体を得ることができる。得られた積層体、又は積層体を捲回若しくは九十九折りすることにより得られる捲回体若しくは九十九折り体は、非水電解液電池の製造に使用されることができる。本実施形態に係るセパレータを用いた非水電解液電池は、加熱安全性試験および高温保存試験に優れることがある。
積層体の製造方法は、特に限定されないが、例えば、セパレータと電極とを重ね、必要に応じて加熱及び/又はプレスする工程を含んでよい。加熱及び/又はプレスは、電極とセパレータとを重ねる際に行われることができる。電極とセパレータとを重ねた後に円又は扁平な渦巻き状に捲回して得られる捲回体に対して、加熱及び/又はプレスを行ってもよい。積層体の加熱及びプレス工程は、積層体の作製後に行われ、積層体を外装体内に収納して外装体に電解液を注入した後に行われてもよい。
非水電解液電池は、円筒缶、パウチ型ケース、ラミネートケース等の外装体内に、上記で説明された積層体、積層体が捲回されている捲回体、又は積層体が九十九折りされている九十九折り体を非水電解液とともに備える。
非水電解液電池が二次電池である場合には、正極集電体と正極活物質層から成る正極積層体の端部に正極端子を溶接し、かつ負極集電体と負極活物質層から成る負極積層体の端部に負極端子を溶接することによって、端子付き正極積層体及び端子付き負極積層体を含む二次電池の充放電を行うことができる。
さらに、端子付き正極積層体と端子付き負極積層体を、セパレータを介して積層し、所望により捲回又は九十九折りして、得られた積層体、捲回体又は九十九折り体を外装体に収納し、外装体に非水電解液を注入し、外装体を封口することによって、二次電池を得ることができる。
本実施形態に係るセパレータを用いて、非水電解液二次電池を製造する場合には、既知の正極、負極及び非水電解液を使用してよい。
正極材料としては、特に限定されないが、例えば、LiCoO、LiNiO、スピネル型LiMnO、オリビン型LiFePO等のリチウム含有複合酸化物等が挙げられる。
負極材料としては、特に限定されないが、例えば、黒鉛質、難黒鉛化炭素質、易黒鉛化炭素質、複合炭素体等の炭素材料;シリコン、スズ、金属リチウム、各種の合金材料等が挙げられる。
非水電解液としては、特に限定されないが、電解質を有機溶媒に溶解した電解液を用いることができる。有機溶媒としては、例えば、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート等が挙げられる。電解質としては、例えば、LiClO、LiBF、LiPF等のリチウム塩が挙げられる。
以下、本発明を実施例、比較例に基づいて詳細に説明をするが、本発明は実施例に限定されるものではない。以下の製造例、実施例、比較例において使用された各種物性の測定方法や評価方法は、以下のとおりである。なお、特に記載のない限り各種測定および評価は室温23℃、1気圧、相対湿度40%の条件で行った。
<粘度平均分子量(以下、「Mv」ともいう)>
ASTM-D4020に基づき、デカリン溶剤における135℃での極限粘度[η]を求め、ポリエチレンのMvは次式により算出した。
[η]=0.00068×Mv0.67
また、ポリプロピレンのMvは次式より算出した。
[η]=1.10×10-4Mv0.80
<ポリオレフィン微多孔膜、多層多孔膜、多孔層及び熱可塑性ポリマー含有層の厚み(μm)>
東洋精機株式会社製の微小測厚器「KBM(商標)」を用いて、室温(23±2℃)でポリオレフィン微多孔膜の厚み、多層多孔膜の総厚み、および第1多孔層のみを塗工した膜の厚みを測定して、それぞれの厚みから第2多孔層又は熱可塑性ポリマー含有層の塗工厚みを算出した。また、多層多孔膜からの検出の観点から、断面SEM像を用いて各層の厚みを計測することも可能である。
<目付(g/m)>
10cm×10cm角の試料を基材(ポリオレフィン微多孔膜)、多層多孔膜1(ポリオレフィン多孔性基材+無機フィラー含有多孔層)、または多層多孔膜2(ポリオレフィン多孔性基材+無機フィラー含有多孔層+熱可塑性ポリマー含有層)から切り取り、(株)島津製作所製の電子天秤AEL-200を用いて重量を測定した。得られた重量を100倍することで1m当りの膜の目付(g/m)を算出した。
各試料の目付の差から、無機フィラー含有多孔層または熱可塑性ポリマー含有層の片面当たりの目付を算出した。
表面と熱可塑性ポリマー含有層の間に無機フィラー含有多孔層を形成する場合は、上記の要領で多孔層形成前後の重量を測定して、前後の重量差から多孔層の目付を算出し、さらに熱可塑性ポリマー含有層形成前後の重量測定から熱可塑性ポリマー含有層の目付を算出することができる。
代替的には、熱可塑性ポリマー含有層の片面当たり目付は、10cm×10cm角の試料表面から熱可塑性ポリマー含有層を剥がし取り、熱重量示差熱分析装置(株式会社日立ハイテクサイエンス社製、NEXTA STA 200RV)による重量減少率から算出してもよい。熱可塑性ポリマー含有層を剥がし取る際に、アセトン又はエタノール等の溶媒で膨潤させるなどの前処理を施すことにより作業性を良くすることができる。
<気孔率(%)>
10cm×10cm角の試料をポリオレフィン微多孔膜から切り取り、その体積(cm3)と質量(g)を求め、膜密度を0.95(g/cm)として次式を用いて気孔率を計算した。
気孔率(%)=(体積-質量/膜密度)/体積×100
<透気度(sec/100cm)、20μm換算透気度(sec/100cm/20μm)>
ポリオレフィン微多孔膜、多層多孔膜またはセパレータについて、JIS P-8117に準拠し、東洋精器(株)製のガーレー式透気度計G-B2(商標)により測定した透気抵抗度を透気度とした。また、得られたポリオレフィン微多孔膜の透気度については、ポリオレフィン微多孔膜の厚みを20μmに換算したときの透気度も算出した。
<透気度上昇値(sec/100cm)、およびその単位塗工厚(1μm)当たりの換算値(sec/100cm)>
ポリオレフィン微多孔膜に対して無機フィラー含有多孔層を形成する前後の透気度を上記のとおりに測定して、無機フィラー含有多孔層による透気度の上昇値を算出した。さらに、透気度の上昇値を無機フィラー含有多孔層の塗工厚みで除することにより単位塗工厚(1μm)当たりの透気度上昇値も算出した。
無機フィラー含有多孔層を生成する前後の透気度に関しては、上記以外の方法を用いて得ることも可能である。具体的には、ポリオレフィン微多孔膜に対して無機フィラー含有多孔層が形成された後の透気度を前述の方法で測定した後、無機フィラー含有多孔層を市販のセロファンテープ等を用いて物理的に取り除いた後に再び透気度および厚みの減少の値を測定することで、無機フィラー含有多孔層による透気度の上昇値を算出したり、さらに単位塗工厚(1μm)当たりの透気度上昇値を算出したりすることができる。
<突刺強度(gf)、20μm厚み換算突刺強度(gf/20μm)、及び目付換算突刺強度(gf/(g/m))>
ポリオレフィン微多孔膜、多層多孔膜またはセパレータを試料として、カトーテック製のハンディー圧縮試験器「KES-G5(商標)」を用いて、開口部の直径11.3mmの試料ホルダーで試料を固定した。次に、固定された試料の中央部に対して、針先端の曲率半径0.5mm、突刺速度2mm/secで、温度23℃、湿度40%の雰囲気下の突刺試験を行うことにより、最大突刺荷重として生の突刺強度(gf)を得た。得られた突刺強度(gf)を厚み20μmに換算した値(gf/20μm)、または目付に換算した値(gf/(g/m))も算出した。
<120℃、150℃での熱収縮率(%)>
ポリオレフィン微多孔膜、多層多孔膜またはセパレータを試料として、試料をMD方向に100mm、TD方向に100mmに切り取り、120℃、又は150℃のオーブン中に1時間静置した。このとき、温風が直接試料に当たらないように、試料を10枚の紙に挟んだ。試料をオーブンから取り出して冷却した後、長さ(mm)を測定し、下式にて熱収縮率を算出した。測定はMD方向、TD方向で行い、ポリオレフィン微多孔膜については両方向の120℃での熱収縮率を表示し、そして多層多孔膜またはセパレータについては150℃での数値の大きい方を熱収縮率とした。
熱収縮率(%)={(100-加熱後の長さ)/100}×100
<TMAの最大収縮応力(gf)>
ポリオレフィン微多孔膜をサンプルとして、島津製作所製TMA50(商標)を用いてサンプルの収縮応力を測定した。MD(TD)方向の値を測定する場合は、TD(MD)方向に幅3mmに切り出したサンプルを、チャック間距離が10mmとなるようにチャックに固定し、専用プローブにセットする。初期荷重を1.0g、定長測定モードとし、30℃から200℃まで10℃/minの昇温速度でサンプルを加熱し、その時に発生する荷重(gf)を測定した。MD、TDそれぞれについて測定し、荷重の最大値の大きい方を最大熱収縮応力(gf)とした。
<BIB断面SEM観察>
セパレータ試料としての多層多孔膜について、BIB(ブロードイオンビーム)により断面加工を行う。断面加工は、加工条件として、日立ハイテク社製M4000を用いて、加速電圧3kV、ビー厶電流60~65μAで行う。加工の際、熱ダメージを抑制するために、必要に応じて、多層多孔膜を加工の直前まで冷却させる。具体的には、-40℃の冷却装置に多層多孔膜を一昼夜放置する。これにより、平滑な多層多孔膜の断面が得られる。
次に、得られた多層多孔膜の断面に、Cペースト及びOsコーティングにより、導通処理を行い、その後、「HITACHI(商標)S-4800」(日立ハイテク社製)を用いて、撮影倍率1~3万倍、加速電圧1.OkV、検出器:二次電子(上方UPPER)の設定で断面SEM像の電子画像を撮影する。
撮影する際に、図1に示す断面SEM画像のように、多孔層を中心として、また撮影画像の下部にポリオレフィン微多孔膜と多孔層の界面部、及び前記界面部から0.1~0.2μm厚みの範囲のポリオレフィン微多孔膜も含めるように画像を取得する。この手順で、3視野の画像を取得する。
(二値化処理法)
上記孔数Sと、全孔数に対して、基材に関しては0.0005μm~0.05μmである孔について、多孔層に関しては0.0005μm以上~0.1μmである孔について、画像処理ソフト「Fiji」(Fuji Is Just ImageJ)を用いて以下の方法で算出する。算出する上で、二値化処理法の具体例を示すため、図2~図5を参照する。
まず、「File」-「Open」を開き、対象となる断面SEMの電子画像を開いた。次に、線選択ツール「Straight」を用いて画像中にある既知の距離を測定する。「Analyze」-「SET SCALE」を開き、測定単位及び既知の距離を入力し、スケールの設定を行う。
次に、二値化処理を行うための評価エリアを選択するため、「Rectangular selections」を用いて、所望の領域(多孔層およびポリオレフィン微多孔膜)を選択する。所望の領域として、図の高さ方向(図の縦方向)に関しては、多孔層およびポリオレフィン微多孔膜の厚みが1.0μm以上である場合は、図2のように隣り合う層の界面および膜表面から内側に0.2μm厚み以上の部位を除外し、残部を選択する。多孔層およびポリオレフィン微多孔膜の隣り合う層の界面および最表面が図に表れていない場合は、図の上部および下部から0.2μmまでの部位を除外する。一方、多孔層およびポリオレフィン微多孔膜の厚みが1.0μm未満である場合は、界面及び最表面からの厚み1割ずつを除外し、残り8割を残部として選択する。そして、図の横方向に関しては、画像全体を選択する。
次に、「Image」-「Crop」を用いて、選択エリアのみを表示する。
次に、断面SEM画像のコントラストの平坦化処理を行う。具体的には、「Process」→「Enhance Contrast」を開き、「Saturated pixels」に0.3%、「Equalize histogram」にチェック(レ点)を入力し、「OK」とする。この処理を行う事で、画像のコントラストが強調され、明るい(無機フィラー粒子およびポリオレフィン微多孔構造のエッジ)部位はより明るく、暗い(孔)部位はより暗く変換される。
次に、「Plugins」-「Process」-「Bilateral Filter」を開き、「Spatial raduis」に16、「range radius」に64をそれぞれ入力し、「OK」とする。この処理を行う事で、フィラー粒子および微多孔構造のエッジを保持しながら、ノイズを除去できる。
次に、「Process」-「Filters」-「Gausian Blur」を開き、「Sigma(radius)」に1.0を入力し、「OK」とする。 その結果、図3の画像が得られる。
次に、二値化処理を行うために、輝度ヒストグラム(図4参照)に基づいて閾値の設定を行う。具体的には、「Analyze」→「Histgram」を選択し、図4のように、0から255階調までの各輝度(横軸)に対するその個数(縦軸)を表したグラフと「List」を用いる。この際、図4のとおり、ヒストグラム中央にある最大の山の頂点の個数Eを「List」から読み取る。上記山の頂点から輝度0側の方向(山の左側)に対して、Eの20%以下の個数、且つ山に最も近い極小値に当たる輝度FをListから読み取り、その輝度Fを閾値とする。
次に、「Image」→「Adjust」→「Threshold」を選択する。次に「Set」を押し、「Lower threshold level」に0を、「Upper threshold level」に輝度F(閾値)を入力し、OKとする。図3の画像の、孔部が黒色に塗りつぶされた図5が得られる。
次に、上記二値化処理を行う。具体的には、「Analyze」-「Analyze particles」を選択し、「Size(μm)」の項目に、ポリオレフィン微多孔膜に関しては「0.0005―0.05」を入力、多孔層に関しては「0.0005-0.1」を入力した後、さらに、「Display results」→「Clear Results」「Exclude on edges」「Include holes」「Add to manager」に各々チェック(レ点)を入力し、「OK」とすることで、ポリオレフィン微多孔膜に関しては0.0005μm以上0.05μm以下の孔面積を有する孔の個数Xと各孔の面積値S、多孔層に関しては0.0005μm以上0.1μmの孔面積を有する孔の個数Xと各孔の面積値Sが得られる。
この時、ポリオレフィン微多孔膜に関しては得られた孔の数Xが100より少ない場合、多孔層に関しては得られた孔の数Xが30より少ない場合には、複数の画像または複数の視野および複数の画像から得られた複数の視野を測定して孔の個数Xが100または30以上となるまで測定を繰り返し、後述のヒストグラムを作成する。この時、1つの対象に対して複数の画像または視野を得る際には、撮影倍率および加速電圧は同じ条件設定とする。
上記の方法で得られた各孔の面積値Sに対して、(Sx4÷円周率π)^1/2の処理を行うことで、各孔が新円であった場合の直径Rを算出する。
続いて、得られた孔X個に対してそれぞれ上記の計算により直径Rを算出し、得られた直径Rを、5nmから300nmまで5nm毎に区分し、各区分における発生頻度を、孔の個数Xで割ることで、当該の直径範囲の直径分布全体における出現頻度が算出される。
上記ヒストグラムにおいて、各区分における出現頻度を、5nm側から累積し、全体に占める割合が初めて合計10%を超える直径区分を累積10%孔径(D10)、初めて20%となる直径区分を累積20%孔径(D20)、初めて50%となる直径区分を累積50%孔径(D50)、初めて80%となる直径区分を累積80%孔径(D80)、初めて90%を超える直径区分を累積90%孔径(D90)とした。
[目付当たりの耐電圧(kV/(g/m))]
ポリオレフィン微多孔膜の幅方向の中央1点について、MD10cm×TD10cmに切り出し、直径5mmのアルミニウム板で挟み、菊水電子工業製の耐電圧測定機(TOS9201)でこれの測定を実施した。測定条件については、直流電圧を初電圧0Vからスタートし、100V/secの昇圧速度で電圧を掛け、電流値が0.2mA流れた時の電圧値(kV)を微多孔膜の耐電圧測定値とした。なお、15mm間隔にMD5点×TD5点の合計25点測定し、その平均値を耐電圧測定値とした。目付当たりの耐電圧は、目付に対する耐電圧の比(耐電圧/目付)を算出した。
<無機粒子および有機粒子の平均粒径>
無機若しくは有機粒子分散液又はスラリー塗工液の粒径分布及びメジアン径(μm)について、レーザー式粒度分布測定装置(日機装(株)製マイクロトラックMT3300EX)を用いて、無機若しくは有機粒子分散液又はスラリー塗工液の粒径分布を測定した。必要に応じて、ベースラインとして水又はバインダ高分子の粒径分布を用いて、無機若しくは有機粒子分散液又はスラリー塗工液の粒径分布を調整した。累積頻度が50%となる粒径をD50とし、無機フィラーのD50をD、熱可塑性ポリマーのD50をDとした。
<多孔層中の無機粒子の含有量(質量%)>
多孔層中の無機粒子の含有量(質量%)を、塗布液を調製する際の、構成材料配合比から算出できる。
また、多層多孔膜から検出する観点から、TG-DTAを使用して、有機物と無機粒子のそれぞれの重量変化を測定することも可能である。具体的には、多層多孔膜から、ガラス板で多孔層部位を削り、8mg~10mg採取する。採取した多孔層の試料を、試料を装置にセットして、Air雰囲気下で、室温から10℃/minの昇温速度で600℃まで上げていき、重量変化を測定し、算出する。
<水分量(ppm)、及び厚み(μm)換算水分量の測定>
ポリオレフィン微多孔膜の少なくとも片面に対して無機フィラー含有多孔層を形成する前後で、カールフィッシャー水分計MKC-160(京都電子工業製)を用いて、電量滴定法による水分量を測定した。具体的には、ポリオレフィン微多孔膜のみの試料1、およびポリオレフィン微多孔膜の少なくとも片面上に無機フィラー含有多孔層を形成した試料2のそれぞれについて、約150mgを測定試料重量とし、水分気化装置ADP-611(京都電子工業製)の試料台へ試料1又は試料2をセットした後、150℃にて窒素ガスを5分間フローして乾燥した後、測定を行い、下記式から水分量を計算した。カールフィシャー試薬は、ハイドラナール・クーロマットAK(シグマアルドリッチ製)及びハイドラナール・クーロマットCGK(シグマアルドリッチ製)を用いた。
水分量(ppm)=測定値(μm)/試料重量(mg)*10-3
試料1と試料2の水分量の差を無機フィラー含有多孔層の水分量(ppm)として算出し、さらに無機フィラー含有多孔層の厚みに換算した水分量も算出した。
試料1と試料2の水分量の差および無機フィラー含有多孔層の厚みに換算した水分量については、上記以外の方法を用いて得ることも可能である。例えば具体的には、ポリオレフィン微多孔膜の少なくとも片面上に無機フィラー含有多孔層を形成した試料2の水分量を測定した後、試料2の無機フィラー含有多孔層を市販のセロファンテープ等を用いて物理的に取り除いたものを試料1としてその水分量および厚み減少の値を測定することで、試料1と試料2の水分量の差および無機フィラー含有多孔層の厚みに換算した水分量を得ることができる。
<熱可塑性ポリマー含有層の被覆面積割合(%)>
基材表面または無機フィラー含有層に対する熱可塑性ポリマー含有層の塗工パタンの総被覆面積割合は、マイクロスコープ(型式:VHX-7000、キーエンス社製)を用いて測定した。サンプルであるセパレータを30倍(同軸落射)で撮影した後、計測モードの自動面積計測を選択して、観察部位の全面積を100%としたときの熱可塑性ポリマーの総被覆面積割合(%)を測定した。各サンプルにおける被覆面積割合は、上記測定を3回行い、その相加平均値とした。
<ドット直径>
塗工パタンのドット直径は、マイクロスコープ(型式:VHX-7000、キーエンス社製)を用いて測定した。サンプルであるセパレータを100倍(同軸落射)で撮影し、複数(5点)のドットについて計測モードで各直径を測定し、それらの平均値をドット直径として算出した。塗工パタンが円形のドットではない場合などのように、直径が算出できない場合には、塗工パタンの1構成単位の最大長さと最小長さの平均を直径とした。
<電極への接着性(D1)>
各実施例及び比較例で得られた蓄電デバイス用セパレータと、被着体としての正極(enertech社製、正極材料:LiCoO、導電助剤:アセチレンブラック、L/W:両側について36mg/cm、Al集電体の厚み:15μm)をそれぞれ幅15mm及び長さ60mmの長方形状に切り取り、幅20mm及び長さ70mmの長方形状に切り取ったセパレータの熱可塑性ポリマー含有層と、正極活物質とが相対するように重ね合わせて積層体を得た後、その積層体を、以下の条件でプレスした。蓄電デバイス用セパレータが、セパレータの表面および裏面のいずれにも熱可塑性ポリマー含有層を有さず、ポリオレフィン微多孔膜をいずれかの面に有する場合には、ポリオレフィン微多孔膜が正極活物質と相対するようにした。また、蓄電デバイス用セパレータが、セパレータの表面および裏面のいずれにも熱可塑性ポリマー含有層およびポリオレフィン微多孔基材を有さず、多孔層をいずれかの面に有する場合には、多孔層が正極活物質と相対するようにした。
プレス圧:1MPa
温度:100℃
プレス時間:30秒
プレス後の積層体について、(株)イマダ製のフォースゲージZP5N及びMX2-500N(製品名)を用いて、電極を固定し、セパレータを把持して引っ張る方式によって剥離速度50mm/分にて90°剥離試験を行い、剥離強度を測定した。
セパレータの正極との剥離強度をD1とした。
ただし、ポリオレフィン基材の片面のみに無機フィラー含有層を有するセパレータについては、無機フィラー含有層側の熱可塑性ポリマー層と正極の剥離強度をD1とした。その他のサンプルについては、測定するセパレータの両面で値が同じ場合はその値を、異なる場合は値の大きい方を測定値とし、D1とした。
<電池作製>
a.正極の作製
正極活物質としてニッケル、マンガン、コバルト複合酸化物(NMC)(Ni:Mn:Co=1:1:1(元素比)、密度4.70g/cm)を90.4質量%、導電助材としてグラファイト粉末(KS6)(密度2.26g/cm、数平均粒子径6.5μm)を1.6質量%及びアセチレンブラック粉末(AB)(密度1.95g/cm、数平均粒子径48nm)を3.8質量%、並びにバインダとしてポリフッ化ビニリデン(PVDF)(密度1.75g/cm)を4.2質量%の比率で混合し、これらをN-メチルピロリドン(NMP)中に分散させてスラリーを調製した。このスラリーを、正極集電体となる厚さ20μmのアルミニウム箔の片面にダイコーターを用いて塗布し、130℃において3分間乾燥した後、ロールプレス機を用いて圧縮成形することにより、正極を作製した。この時の正極活物質塗布量は109g/mであった。
b.負極の作製
負極活物質としてグラファイト粉末A(密度2.23g/cm、数平均粒子径12.7μm)を87.6質量%及びグラファイト粉末B(密度2.27g/cm、数平均粒子径6.5μm)を9.7質量%、並びにバインダとしてカルボキシメチルセルロースのアンモニウム塩1.4質量%(固形分換算)(固形分濃度1.83質量%水溶液)及びジ
エンゴム系ラテックス1.7質量%(固形分換算)(固形分濃度40質量%水溶液)を精製水中に分散させてスラリーを調製した。このスラリーを負極集電体となる厚さ12μmの銅箔の片面にダイコーターで塗布し、120℃において3分間乾燥した後、ロールプレス機で圧縮成形することにより、負極を作製した。この時の負極活物質塗布量は5.2g/mであった。
c.非水電解液の調製
エチレンカーボネート:エチルメチルカーボネート=1:2(体積比)の混合溶媒に、溶質としてLiPFを濃度1.0mol/Lとなるように溶解させることにより、非水電解液を調製した。
d.電池組立
セパレータを24mmφ、正極及び負極をそれぞれ16mmφの円形に切り出した。正極と負極の活物質面とが対向するように、負極、セパレータ又は基材、正極の順に重ね、蓋付きステンレス金属製容器に収容した。容器と蓋とは絶縁されており、容器は負極の銅箔と、蓋は正極のアルミニウム箔と、それぞれ接していた。この容器内に前記非水電解液を0.4ml注入して密閉することにより、コイン型電池を組み立てた。
<レート特性>
上記(d.電池組立)において組み立てた電池を、温度25℃、電流値3mA(約0.5C)で電池電圧4.2Vまで充電し、さらに4.2Vを保持するようにして電流値を3mAから絞り始めるという方法で、合計約6時間、電池作製後の最初の充電を行い、その後、電流値3mAで電池電圧3.0Vまで放電した。
次に、25℃において、電流値6mA(約1.0C)で電池電圧4.2Vまで充電し、さらに4.2Vを保持するようにして電流値6mAから絞り始めるという方法で、合計約3時間充電を行い、その後、電流値6mAで電池電圧3.0Vまで放電して、その時の放電容量を1C放電容量(mAh)とした。
次に、25℃において、電流値6mA(約1.0C)で電池電圧4.2Vまで充電し、さらに4.2Vを保持するようにして電流値を6mAから絞り始めるという方法で、合計約3時間充電を行い、その後、電流値60mA(約10C)で電池電圧3.0Vまで放電して、その時の放電容量を10C放電容量(mAh)とした。
1C放電容量に対する10C放電容量の割合を算出し、この値をレート特性とした。
10Cでのレート特性(%)=(10C放電容量/1C放電容量)×100
10Cでのレート特性を以下の基準で評価した。
A:22%以上の10Cでのレート特性
B:20%以上22%未満の10Cでのレート特性
C:18%以上20%未満の10Cでのレート特性
D:18%未満の10Cでのレート特性
<加熱安全性試験>
上記レート特性の試験を行った電池について、充放電レート0.5Cおよび温度55℃の条件下で45時間掛けて10サイクルの充放電を行う。電圧範囲は、電池の設計に応じて、2.8V~4.2V又は2.8V~4.35Vでよい。
上記試験にて、以下の基準で加熱安全性試験の結果を評価した。
A:電池の発熱が5℃以下、かつ容量維持率が97.5%以上
B:電池の発熱が7℃以下、かつ容量維持率が95.0%以上
C:電池の発熱が7℃以下、または容量維持率が95.0%以上のいずれかを満たす
D:電池の発熱が7℃以上、かつ容量維持率が95.0%以上
<高温(60℃)保存試験>
上記(d.電池組立)において組み立てたコイン型電池に対して、温度25℃で0.2Cの電流で、電圧が4.45V(vs.Li)に至るまで定電流充電した後、温度60℃で2週間保存した。
上記の60℃保存試験前のコイン型電池の容量に対する60℃保存試験後の容量維持率を用いて、以下の基準で60℃保存性を評価した。
A:70%以上の容量維持率
B:65%以上70%未満の容量維持率
C:60%以上65%未満の容量維持率
D:60%未満の容量維持率
(温度60℃で7日間保管した後の透気度)
エチレンカーボネート:エチルメチルカーボネート=1:2(体積比)の混合溶媒に、溶質としてLiPFを濃度1.0mol/Lとなるように溶解させた溶媒中にセパレータを含侵させ、温度60℃で7日間保存した。その後、溶液中からセパレータを取り出してエタノールで付着した電解液を洗い流した後に1時間ドラフト内にて乾燥させた後、セパレータの透気度を上述のとおりに測定し、保管前の透気度に対する透気度上昇率(%)を算出した。
(基材の作製)
タンブラーブレンダーを用いて、表1に示されるとおりポリマー混合物を形成した。ポリマー混合物100質量部に対して、酸化防止剤としてペンタエリスリチル-テトラキス-[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]を1質量部添加し、再度タンブラーブレンダーを用いてドライブレンドすることにより、ポリマー等混合物を得た。得られたポリマー等混合物は窒素で置換を行った後に、二軸押出機へ窒素雰囲気下でフィーダーにより供給した。また、可塑剤として、表1に記載の40℃における可塑剤粘度を有する流動パラフィンを押出機シリンダーにプランジャーポンプにより注入した。
混合物を溶融混練して、押し出される全混合物中に占める流動パラフィン量比が表1に示されるPC値となるように、フィーダー及びポンプを調整した。溶融混練条件は、設定温度200℃であり、スクリュー回転数70rpm、吐出量145kg/hで行った。
続いて、溶融混練物を、表1に示される基材の製造条件下、T-ダイを経て表1に記載のキャスト出口上面側温度およびキャスト出口下面側温度に制御された冷却ロール上に押出しキャストすることにより、厚み1350μmのゲルシートを得た。
次に、ゲルシートを同時二軸テンター延伸機に導き、表1に示される設定延伸条件下、二軸延伸を行った。次に、塩化メチレン槽に導き、塩化メチレン中に充分に浸漬して流動パラフィンを抽出除去し、その後、塩化メチレンを乾燥除去し、多孔化体を得た。
次に、多孔化体をTDテンターに導き、表1に示される熱固定条件下、熱固定を行った。
表1及び表5に示されるとおり、基材の製造条件を変更して、各例で基材を作製した。得られた基材の物性を表1および表5に示す。
Figure 2024072806000002
Figure 2024072806000003
Figure 2024072806000004
Figure 2024072806000005
Figure 2024072806000006
Figure 2024072806000007
Figure 2024072806000008
Figure 2024072806000009
Figure 2024072806000010
Figure 2024072806000011
Figure 2024072806000012
(無機塗料の作製)
表2に示されるとおり、無機粒子として水酸化酸化アルミニウム(ベーマイト、ブロック状、粒径D50=0.4μm)94.6質量部に対して、水100質量部とポリカルボン酸アンモニウム水溶液(固形分換算で)0.5質量部を混合し、ビーズミル処理を行った。ビーズミル処理は、条件として、ビーズ径0.1mm、ミル内の回転数2000rpmで行った。処理後の混合液に、増粘剤としてキサンタムガムを固形分換算で0.2質量部、アクリルラテックス(固形分濃度40%)を固形分換算で4.7質量部を添加し、無機塗料(以下、無機フィラー含有スラリーともいう)C1を調製した。
表2及び表5に示されるとおり、無機塗料の作製条件を変更して、無機フィラー含有スラリーC2~C7を得た。
Figure 2024072806000013
(接着塗料の作製)
撹拌機、還流冷却器、滴下槽及び温度計を取り付けた反応容器に、表3に示されるとおり、イオン交換水と乳化剤と開始剤とを仕込み、次いで、反応容器内部の温度を80℃に昇温し、80℃の温度を保ったまま、開始剤を添加した。開始剤の添加が終了した5分後に、表3に示される組成の乳化液を滴下槽から反応容器に150分掛けて滴下した。乳化液の滴下終了後、反応容器内部の温度を80℃に保ったまま90分間維持し、その後室温まで冷却した。得られたエマルジョンについては、必要に応じて、水酸化アンモニウム水溶液(25%水溶液)でpH調整し、少量の水で固形分調整し、共重合体を含む接着塗料A1~A8を得た。接着塗料A1~A7の物性も表3に示す。
Figure 2024072806000014
(表3中の略号の説明)
KH1025:乳化剤「アクアロンKH1025」(登録商標)第一工業製薬株式会社製25%水溶液
SR1025:乳化剤「アデカリアソープSR1025」(登録商標)株式会社ADEKA製25%水溶液
NaSS:p-スチレンスルホン酸ナトリウム
APS(aq):過硫酸アンモニウムの2%水溶液
St:スチレン
MAA:メタクリル酸
AA:アクリル酸
MMA:メチルメタクリレート
BA:ブチルアクリレート
EHA:エチルヘキシルアクリレート
CHMA:シクロヘキシルメタクリレート
AN:アクリロニトリル
HEMA:ヒドロキシエチルメタクリレート
AM:アクリルアミド
GMA:メタクリル酸グリシジル
A-TMPT:トリメチロールプロパントリアクリレート、新中村化学工業株式会社製商品名「A-TMPT」
AcSi:γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン
(消泡剤)
表4に示される消泡剤を用意した。
・消泡剤
S1:「KM-73」、信越化学工業株式会社
S2:「SK-14」、日信化学工業株式会社
Figure 2024072806000015
[実施例1~30及び比較例1~22]
表1及び表5に示されるとおり、基材、無機塗料、接着塗料、消泡剤などを用意して、接着塗料と消泡剤とを配合した。また、表5に示されるとおり、基材の両面又は片面に、無機塗料を塗布した。その後、基材上の塗布液を表5に示される乾燥温度Rとなる条件にて乾燥して、水を除去し、基材上に多孔層を形成して、多層多孔膜を得た。さらに、表5に示される場合には、多層多孔膜の片面又は両面に接着塗料または接着塗料と消泡剤の配合物を塗工した。このようにして得られた多層多孔膜をセパレータとして上記の評価を行なった。評価結果も表5に併記する。
Figure 2024072806000016
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Claims (15)

  1. ポリオレフィン微多孔膜から成る基材と、前記基材の少なくとも片面上に形成された多孔層とを有する蓄電デバイス用セパレータであって、
    前記蓄電デバイス用セパレータの断面の操作型電子顕微鏡(SEM)観察により測定される前記多孔層の孔径分布において、前記多孔層の累積50%孔径(D50)が25nm≦D50≦140nmを満たし、かつ前記多孔層の孔径分布指標D80/D20が1.0<D80/D20≦4.0を満たし、かつ
    前記蓄電デバイス用セパレータの断面のSEM観察により測定される前記基材の孔径分布において、前記基材の累積10%孔径(D10)と累積90%孔径(D90)が、1.0<D90/D10≦5.0を満たす、
    蓄電デバイス用セパレータ。
  2. 前記蓄電デバイス用セパレータを正極と重ねて圧力1MPaおよび温度100℃で30秒間プレスした後に測定して得られる接着強度D1が、0.1N/m以上20N/m以下である、請求項1に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
  3. 前記蓄電デバイス用セパレータを温度60℃で7日間保管した後の透気度が、保管前の透気度に対して100%~150%である、請求項1又は2に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
  4. 前記蓄電デバイス用セパレータの観察部位の全面積を100%としたとき、接着機能を有するバインダ成分が3%~80%の面積を占める、請求項1又は2に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
  5. 前記基材の目付当たりの耐電圧が、0.18kV/(g/m)以上0.40kV/(g/m)以下である、請求項1又は2に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
  6. 前記基材の目付当たりの耐電圧が0.22kV/(g/m)以上0.40kV/(g/m)以下である、請求項1又は2に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
  7. 前記基材の熱機械分析(TMA)の最大収縮応力が、5.0gf以下である、請求項1又は2に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
  8. 前記基材の突刺強度が、前記基材の膜厚20μm換算で900gf以上1500gf以下である、請求項1又は2に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
  9. 前記基材の透気度が、前記基材の膜厚20μm換算で50秒/100cm以上300秒/100cm以下である、請求項1又は2に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
  10. 前記多孔層の厚み当たりの透気度が20秒/100cm以下である、請求項1又は2に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
  11. 前記ポリオレフィン微多孔膜の150℃熱収縮率が、10%以下である、請求項1又は2に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
  12. 前記蓄電デバイス用セパレータの総厚みが、5μm以上15μm以下である、請求項1又は2に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
  13. 前記蓄電デバイス用セパレータの透気度が、200秒/100cm以下である、請求項1又は2に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
  14. 前記多孔層が前記基材の両面に形成されている、請求項1または2に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
  15. 請求項1又は2に記載の蓄電デバイス用セパレータを含む、蓄電デバイス。
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