JP2024056627A - 9,9-ビス(6-ヒドロキシ-2-ナフチル)フルオレンの結晶およびその製造方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】有機化合物に対して高い溶解性(または相溶性)を示す9,9-ビス(6-ヒドロキシ-2-ナフチル)フルオレンの結晶(多形体または結晶多形体)およびその製造方法を提供する。【解決手段】粉末X線回折パターンにおいて、以下の回折角度2θに回折ピークを有する9,9-ビス(6-ヒドロキシ-2-ナフチル)フルオレンのε形結晶を調製する。回折角度2θ:10.1±0.2°、10.4±0.2°、12.3±0.2°、15.1±0.2°および19.0±0.2°または、粉末X線回折パターンにおいて、以下の回折角度2θに回折ピークを有する9,9-ビス(6-ヒドロキシ-2-ナフチル)フルオレンのζ形結晶を調製する。回折角度2θ:10.7±0.2°、14.2±0.2°、18.5±0.2°および24.1±0.2°【選択図】なし

Description

本開示は、9,9-ビス(6-ヒドロキシ-2-ナフチル)フルオレン(以下、BNFともいう)の結晶(結晶多形または結晶多形体)およびその製造方法に関する。
フルオレン骨格を有する化合物は、その化学構造に由来して優れた特性を備えており、様々な用途で利用されており、例えば、光学部材などに用いる樹脂材料のモノマー成分または前駆体成分などとしてよく利用されている。このようなフルオレン骨格を有する化合物の1つとしてBNFや、9,9-ビス[6-(2-ヒドロキシエトキシ)-2-ナフチル]フルオレン(以下、BNEFともいう)などが知られている。BNFは、ポリエステル系樹脂などの熱可塑性樹脂のモノマー成分、エポキシ樹脂、(メタ)アクリル樹脂などの硬化性樹脂の前駆体成分、前記BNEFを調製するための前駆体成分などの原料(反応成分または中間体)として利用でき、その結晶多形についても開発が進められている。
例えば、特許第5731256号公報(特許文献1)には、BNFの結晶多形として、α晶、β晶およびγ晶について開示されている。これらに加えて、特開2020-164523号公報(特許文献2)では、融点が高い結晶として、BNFのδ晶が開示されている。
また、中国特許出願公開第104230671号明細書(特許文献3)には、BNFの溶媒和結晶IおよびIIについて開示されている。また、これらの溶媒和結晶I,IIは、いずれも溶媒を含む擬多形または包接体であるが、中国特許出願公開第108586205号明細書(特許文献4)には、溶媒を含まない結晶(結晶構造として溶媒分子を包接していない非溶媒和結晶または非包接体)について開示されている。
さらに、特開2021-116249号公報(特許文献5)にも、溶媒を含まないBNFの結晶として、結晶Aおよびその前駆体である結晶Bが開示されている。また、特開2021-116250号公報(特許文献6)には、融点が低いBNFの結晶について開示されている。
特許第5731256号公報 特開2020-164523号公報 中国特許出願公開第104230671号明細書 中国特許出願公開第108586205号明細書 特開2021-116249号公報 特開2021-116250号公報
特許文献1には、α晶が、融点213℃、嵩密度0.476g/mLであったこと、β晶が、融点226℃、嵩密度0.528g/mLであったこと、γ晶が、融点230℃、嵩密度0.381g/mLであったこと、α晶およびβ晶は、γ晶よりも滑り性が優れていたことなどが記載されている。しかし、これらの結晶の溶解性については何ら記載されていない。
特許文献2には、融点が260℃を超えるδ晶を調製したことが記載されている。しかし、この結晶の溶解性については何ら記載されていない。また、この文献には、析出温度(析出または結晶化し始める温度)を低くするほどδ晶の形成に好ましいことが記載され、実施例では、芳香族炭化水素類としてのo-キシレン、エーテル類としての1,4-ジオキサンなどを含む複数種の晶析溶媒からδ晶を晶析できることが記載されているが、析出温度が約70℃の実施例8では、α晶とδ晶との混合体(または混晶)が得られたのに対し、析出温度0~10℃では、δ晶のみが得られたことが記載されている。
特許文献3には、アセトニトリルとの溶媒和結晶Iは、融点264.6℃、TGA(熱重量分析)による熱失重(熱減量または重量減少)が8.142%、嵩密度が0.5640g/mLであったこと、酢酸エチルとの溶媒和結晶IIは、融点265.0℃、TGAによる熱失重が18.782%、嵩密度が0.4550g/mLであったことなどが記載されている。また、これらの溶媒和結晶I,IIは、流動性が良好であることなどが記載されている。しかし、これらの結晶の溶解性については何ら記載されていない。
特許文献4には、前記特許文献3で報告されているように、BNFが、一般的な有機溶媒、例えば、トルエン、アセトニトリル、メタノール、酢酸エチルなどと錯体(溶媒和物または溶媒和結晶)を形成し易く、溶媒の沸点以上の温度で真空乾燥しても、溶媒の除去が困難であること、また、溶媒和結晶の融点以上の温度で溶融して除去しようとすると、融点が高過ぎて溶融物が変色する傾向があり、工業的に困難であることが記載されている。さらに、残留溶媒と複合化されたBNF(溶媒和物または溶媒和結晶)を、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリイミドなどの溶媒を用いない重縮合に供すると、溶媒和結晶から放出された溶媒が、得られる高分子材料の収率や特性に影響を与え、大気汚染にもつながることから、溶媒を含まないBNFの結晶を提供することを目的(または課題)としている。この文献では、芳香族炭化水素類、脂肪族炭化水素類、エーテル類、ケトン類、エステル類、ニトリル類などの種々の溶媒でBNFを再結晶して真空乾燥すると、溶媒和物(溶媒和結晶)が得られたのに対し、低沸点の塩素含有溶媒を用いて再結晶すると、溶媒を含まないBNFの結晶を得られることが記載され、実施例では、1-クロロプロパン、1,2-ジクロロエタン、クロロホルムを使用して、BNFの非溶媒和結晶(または非包接体)を調製したことが記載されている。また、得られた非溶媒和結晶のDSC測定では、260~266℃に吸熱ピークが見られたことが記載されている。しかし、この結晶の溶解性や嵩密度などについては何ら記載されていない。
特許文献5には、前記特許文献4において晶析溶媒として使用される塩素化脂肪族炭化水素類は、環境への負荷が大きく、ヒトへの発がん性が疑われるものもあるため、極力使用しないことが望ましいことから、塩素化脂肪族炭化水素類を用いることなく、溶媒を包接していないBNFの結晶を製造する方法を提供することを目的(または課題)とすることが記載され、具体的には、中間体としての結晶Bを調製し、この結晶Bを芳香族炭化水素類と90℃以上で接触させる工程を経て、25℃で液状の有機化合物の残存量が0.2重量%の結晶A(溶媒を包接していない結晶)を調製できることが記載されている。なお、この文献には、中間体としての結晶Bの調製に芳香族ハロゲン化物が必要とされ、モノクロロベンゼンやジクロロベンゼンが好ましいこと、実施例ではモノクロロベンゼンを使用したことが記載されている。しかし、芳香族ハロゲン化物でも環境への負荷は小さくなく、発がん性が疑われるものもあり、ダイオキシン類の前駆体となり得るおそれもあることから、廃棄の際に高温処理などの適切な処理を施す必要がある。また、ハロゲンフリー(または低ハロゲン含量)の観点からも、芳香族ハロゲン化物は、塩素化脂肪族炭化水素類と同様に極力使用しないのが望ましい。また、この文献には、結晶AおよびBの溶解性、融点、嵩密度などについては何ら記載されていない。
特許文献6の実施例では、BNFと3倍量のメタノールとを25℃で撹拌して完溶させ、さらに撹拌を継続して析出させたBNFの結晶の融点(融解吸熱最大温度)が、153℃であったことが記載されている。しかし、この文献には、得られた結晶の溶解性、嵩密度、溶媒を包接した擬多形か否かなどについては何ら記載されていない。
なお、通常、示差走査熱量測定において、高い温度に吸熱ピーク(または融点)を示す結晶ほど、高温などの高いエネルギーを与えなければ結晶構造が壊れ難く、より安定な結晶(または安定形の結晶)であると考えられる。しかし、安定形の結晶では、結晶構造が強固で分子同士が解離または分散し難いためか、一般に溶媒などの有機化合物に対する溶解性(または相溶性)は低い傾向にある。そのため、高い温度に吸熱ピーク(融点)を示すこと(または高い安定性)と、高い溶解性(または相溶性)とは、トレードオフの関係にあることが多い。
従って、本開示の目的は、有機化合物に対して高い溶解性(または相溶性)を示す9,9-ビス(6-ヒドロキシ-2-ナフチル)フルオレンの結晶(多形体または結晶多形体)およびその製造方法を提供することにある。
本発明者らは、前記課題を達成するため鋭意検討した結果、9,9-ビス(6-ヒドロキシ-2-ナフチル)フルオレンの特定の結晶(結晶多形体)が高い溶解性を示すことを見いだし、本発明(または本開示)を完成した。
すなわち、本開示は、下記態様などを包含していてもよい。
態様[1]:粉末X線回折パターンにおいて、以下の回折角度2θに回折ピークを有する9,9-ビス(6-ヒドロキシ-2-ナフチル)フルオレンのε形結晶。
回折角度2θ:10.1±0.2°、10.4±0.2°、12.3±0.2°、15.1±0.2°および19.0±0.2°。
態様[2]:さらに、以下の回折角度2θから選択された少なくとも一つに回折ピークを有する態様[1]記載のε形結晶。
回折角度2θ:16.3±0.2°、19.7±0.2°、20.1±0.2°、22.9±0.2°および27.3±0.2°。
態様[3]:回折角度2θ=20.1±0.2°に回折ピークを有し、この回折ピークでのピーク強度が最も大きい態様[1]または[2]記載のε形結晶。
態様[4]:示差走査熱量測定において、少なくとも119±2℃の吸熱ピークトップ温度を示す態様[1]~[3]のいずれかに記載のε形結晶。
態様[5]:嵩密度が、0.35g/mL以下である態様[1]~[4]のいずれかに記載のε形結晶。
態様[6]:少なくとも芳香族炭化水素を含み、残存溶媒量が1質量%以上である態様[1]~[5]のいずれかに記載のε形結晶。
態様[7]:メタノール、テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサンおよびメチルエチルケトンから選択された少なくとも一種の溶媒に対して、温度25℃、濃度20質量%で、5分以内に溶解可能である態様[1]~[6]のいずれかに記載のε形結晶。
態様[8]:芳香族炭化水素、環状エーテルおよび脂肪族炭化水素を含む溶媒から9,9-ビス(6-ヒドロキシ-2-ナフチル)フルオレンを晶析させる晶析工程を含む態様[1]~[7]のいずれかに記載のε形結晶の製造方法。
態様[9]:晶析工程における析出温度が、10~30℃である態様[8]記載の製造方法。
態様[10]:粉末X線回折パターンにおいて、以下の回折角度2θに回折ピークを有する9,9-ビス(6-ヒドロキシ-2-ナフチル)フルオレンのζ形結晶。
回折角度2θ:10.7±0.2°、14.2±0.2°、18.5±0.2°および24.1±0.2°。
態様[11]:さらに、以下の回折角度2θから選択された少なくとも一つに回折ピークを有する態様[10]記載のζ形結晶。
回折角度2θ:6.0±0.2°、11.8±0.2°、12.0±0.2°、13.6±0.2°、14.8±0.2°、16.2±0.2°、20.0±0.2°、21.0±0.2°、22.9±0.2°、24.3±0.2°、25.0±0.2°、26.3±0.2°および27.7±0.2°。
態様[12]:示差走査熱量測定において、262±2℃の吸熱ピークトップ温度を示す態様[10]または[11]記載のζ形結晶。
態様[13]:嵩密度が、0.35g/mL以下である態様[10]~[12]のいずれかに記載のζ形結晶。
態様[14]:擬多形でない(非溶媒和結晶または非包接体である)態様[10]~[13]のいずれかに記載のζ形結晶。
態様[15]:メタノール、テトラヒドロフランおよびメチルエチルケトンから選択された少なくとも一種の溶媒に対して、温度25℃、濃度20質量%で、5分以内に溶解可能である態様[10]~[14]のいずれかに記載のζ形結晶。
態様[16]:態様[1]~[7]のいずれかに記載のε形結晶を温度100℃以上で熱処理する熱処理工程を含む態様[10]~[15]のいずれかに記載のζ形結晶の製造方法。
態様[17]:化学反応に供するための反応成分であって、態様[1]~[7]のいずれかに記載のε形結晶および/または態様[10]~[15]のいずれかに記載のζ形結晶を少なくとも含む反応成分。
なお、本開示では、以下の従たる目的を達成(または課題を解決)してもよい。
すなわち、本開示の他の目的は、示差走査熱量測定において、高い温度に吸熱ピーク(または融点)を有していても、高い溶解性を示す9,9-ビス(6-ヒドロキシ-2-ナフチル)フルオレンの結晶(結晶多形体)およびその製造方法を提供することにある。
本開示のさらに他の目的は、ハロゲン含有溶媒を使用しなくても、結晶構造中に溶媒分子を含まない9,9-ビス(6-ヒドロキシ-2-ナフチル)フルオレンの結晶(結晶多形体)を製造する方法、およびその結晶を提供することにある。
なお、本明細書および特許請求の範囲において、粉末X線回折パターンは、慣用の粉末X線回折装置を用いて測定でき、具体的には後述する実施例に記載の方法により測定できる。また、ピークを示す回折角2θは、測定条件などに応じて、±0.2°、例えば±0.1°程度変化する場合がある。
また、本明細書および特許請求の範囲において、置換基の炭素原子の数をC、C、C10などで示すことがある。例えば、炭素数が1のアルキル基は「Cアルキル基」で示し、炭素数が6~10のアリール基は「C6-10アリール基」で示す。
本明細書および特許請求の範囲において、「 ~ 」で示される数値範囲は、特に断りのない限り、両端の数値を含む意味に用いる。
本開示のBNFの結晶(結晶多形体)は、特定の結晶構造を有するため、有機溶媒などの有機化合物に対する高い溶解性(または相溶性)を示す。
図1は実施例1で得られたε形結晶の粉末X線回折パターンを示すグラフである。 図2は実施例17で得られたζ形結晶の粉末X線回折パターンを示すグラフである。 図3は実施例および比較例で得られた結晶の溶解性試験の結果を示すグラフである。
本開示の下記式(1)で表される9,9-ビス(6-ヒドロキシ-2-ナフチル)フルオレン(BNF)の結晶(結晶多形体)は、以下で詳述するε形結晶(結晶多形体εまたはε晶)および/またはζ形結晶(結晶多形体ζまたはζ晶)であってもよい。
Figure 2024056627000001
また、本開示のBNFの結晶(結晶多形体)、特にζ形結晶は、高い溶解性を示すにもかかわらず、高い温度に吸熱ピーク(または融点)を示すこともできるため、安定性、特に、熱安定性または保存安定性(高温環境下での保存安定性)に優れている。さらに、本開示のBNFの結晶(結晶多形体)、特にζ形結晶は、結晶構造中に溶媒分子を含まない非溶媒和結晶または非包接結晶(すなわち、擬多形または包接結晶ではない結晶)とすることもでき、残存溶媒量を有効に低減できる。しかも、本開示の製造方法では、ハロゲン含有溶媒を使用しなくても、非溶媒和結晶を容易にまたは効率よく製造することができる。
[ε形結晶の回折パターン]
ε形結晶(結晶多形体εまたはε晶)は、粉末X線回折パターン(XRD)において、回折角度2θ=10.1±0.2°、10.4±0.2°、12.3±0.2°、15.1±0.2°および19.0±0.2°に特徴的な回折ピークを有していてもよい。
2θ=10.1±0.2°でのピーク強度(ピーク高さ)をε、10.4±0.2°でのピーク強度をε、12.3±0.2°でのピーク強度をε、15.1±0.2°でのピーク強度をε、19.0±0.2°でのピーク強度をεとしたとき、これらのピーク強度のうち、ε(19.0±0.2°)が最も大きい場合が多く、ε形結晶の粉末X線回折パターンの中でε(19.0±0.2°)が最も大きくてもよい。ε形結晶におけるピーク強度(ピーク高さ)は、
ε>(εまたはε)≧(εまたはε
であってもよく、なかでも、
ε>ε≧ε>(εまたはε
であってもよい。
また、ε形結晶は、さらに、回折角度2θ=16.3±0.2°、19.7±0.2°、20.1±0.2°、22.9±0.2°および27.3±0.2°から選択された少なくとも一つの範囲に回折ピークを有していてもよい。これらの回折ピークは、単独でまたは二種以上組み合わせて有していてもよい。これらの回折ピークのうち、少なくとも2θ=20.1±0.2°に回折ピークを有する場合が多く、この回折ピークでのピーク強度ε(20.1±0.2°)が、ε形結晶の粉末X線回折パターンの中で最も大きいことが多い。
また、ε(20.1±0.2°)のピーク強度(ピーク高さ)を「100」としたとき、各ピーク強度(ピーク高さ)は、例えば下記表1に示す相対ピーク強度(相対ピーク高さ)であってもよい。
なお、ε形結晶の粉末X線回折パターンは、下記表1記載の全ての回折ピーク(ε~ε10に対応する10個の回折ピーク)を有していてもよく、必ずしも全ての回折ピークを有していなくてもよい。
Figure 2024056627000002
また、ε形結晶は、さらに、回折角度2θ=14.0±0.2°、15.5±0.2°、16.5±0.2°、17.7±0.2°、17.8±0.2°、18.5±0.2°、21.8±0.2°、22.1±0.2°、22.6±0.2°および23.7±0.2°から選択された少なくとも一つの範囲に回折ピークを有していてもよい。これらの回折ピークは、単独でまたは二種以上組み合わせて有していてもよく、必ずしも全ての回折ピークを有していなくてもよい。これらの回折ピークのピーク強度(ピーク高さ)はいずれも、前記ピーク強度ε(19.0±0.2°)や、ε(20.1±0.2°)に比べて小さいことが多く、ε(20.1±0.2°)のピーク強度(ピーク高さ)を「100」としたとき、例えば10~65程度であってもよく、好ましくは15~60、さらに好ましくは20~55、特に25~50であってもよい。これらの回折ピークのなかでも、2θ=17.7±0.2°、18.5±0.2°、22.1±0.2°、22.6±0.2°および23.7±0.2°から選択された少なくとも一つの範囲、特に、2θ=18.5±0.2°、22.1±0.2°および22.6±0.2°から選択された少なくとも一つの範囲に回折ピークを有していてもよく、これらの回折ピークのピーク強度(ピーク高さ)は、ε(20.1±0.2°)のピーク強度(ピーク高さ)を「100」としたとき、例えば30~70程度、好ましくは35~60であってもよい。
なお、ε形結晶は、さらに、回折角度2θ=8.5±0.2°、11.4±0.2°、12.6±0.2°、14.7±0.2°、16.7±0.2°、17.0±0.2°、20.8±0.2°、21.1±0.2°、24.4±0.2°、27.7±0.2°、28.2±0.2°、29.0±0.2°、29.2±0.2°、31.0±0.2°、33.4±0.2°および33.6±0.2°から選択された少なくとも一つの範囲に回折ピークを有していてもよい。これらの回折ピークは、単独でまたは二種以上組み合わせて有していてもよく、必ずしも全ての回折ピークを有していなくてもよい。これらの回折ピークのピーク強度(ピーク高さ)はいずれも、前記ピーク強度ε(19.0±0.2°)や、ε(20.1±0.2°)に比べて小さいことが多く、ε(20.1±0.2°)のピーク強度(ピーク高さ)を「100」としたとき、例えば5~30程度であってもよく、好ましくは10~25、さらに好ましくは15~20であってもよい。
ε形結晶は、回折角度2θ=6.0±0.2°、8.9±0.2°、9.2±0.2°、9.6±0.2°、9.7±0.2°、9.8±0.2°、11.9±0.2°、13.3±0.2°、14.3±0.2°、17.3±0.2°、17.4±0.2°、19.3±0.2°、23.3±0.2°、25.2±0.2° 、26.8±0.2°および26.9±0.2°から選択された少なくとも一つの範囲に回折ピークを有していてもよいが、実質的に有していなくてもよい。これらの回折ピークは、単独でまたは二種以上組み合わせて実質的に有していなくてもよい。
なお、本明細書および特許請求の範囲において、回折ピークを「実質的に有していない」とは、ε(20.1±0.2°)のピーク強度(ピーク高さ)を「100」としたとき、ピーク強度が5未満、好ましくは3未満、さらに好ましくは1未満である回折ピークのことを意味する。
ε形結晶の代表的な粉末X線回折パターンは、表3または図1に示すようなパターンであってもよい。
[ζ形結晶の回折パターン]
ζ形結晶(結晶多形体ζまたはζ晶)は、粉末X線回折パターン(XRD)において、回折角度2θ=10.7±0.2°、14.2±0.2°、18.5±0.2°および24.1±0.2°に特徴的な回折ピークを有していてもよい。
2θ=10.7±0.2°でのピーク強度(ピーク高さ)をζ、14.2±0.2°でのピーク強度をζ、18.5±0.2°でのピーク強度をζ、24.1±0.2°でのピーク強度をζ13としたとき、これらのピーク強度のうち、ζ(14.2±0.2°)またはζ(18.5±0.2°)が最も大きい場合が多く、ζ形結晶の粉末X線回折パターンの中でζ(14.2±0.2°)またはζ(18.5±0.2°)が最も大きくてもよい。ζ形結晶におけるピーク強度(ピーク高さ)は、
(ζまたはζ)>(ζまたはζ13
であってもよく、なかでも、
ζ≧ζ>ζ13≧ζ
であってもよい。
また、ζ形結晶は、さらに、回折角度2θ=6.0±0.2°、11.8±0.2°、12.0±0.2°、13.6±0.2°、14.8±0.2°、16.2±0.2°、20.0±0.2°、21.0±0.2°、22.9±0.2°、24.3±0.2°、25.0±0.2°、26.3±0.2°および27.7±0.2°から選択された少なくとも一つの範囲に回折ピークを有していてもよい。これらの回折ピークは、単独でまたは二種以上組み合わせて有していてもよい。これらの回折ピークのうち、2θ=11.8±0.2°、20.0±0.2°および22.9±0.2°から選択された少なくとも一つの範囲、特に、少なくとも2θ=20.0±0.2°に回折ピークを有する場合が多い。2θ=11.8±0.2°でのピーク強度(ピーク高さ)をζ、20.0±0.2°でのピーク強度をζ10、22.9±0.2°でのピーク強度をζ12としたとき、ζ形結晶におけるピーク強度(ピーク高さ)は、
ζ10>ζ12>ζ
であってもよい。ζ形結晶の粉末X線回折パターンの中で、ζ10(20.0±0.2°)が最も大きいことが多い。
また、ζ10(20.0±0.2°)のピーク強度(ピーク高さ)を「100」としたとき、各ピーク強度(ピーク高さ)は、例えば下記表2に示す相対ピーク強度(相対ピーク高さ)であってもよい。
なお、ζ形結晶の粉末X線回折パターンは、下記表2記載の全ての回折ピーク(ζ~ζ17に対応する17個の回折ピーク)を有していてもよく、必ずしも全ての回折ピークを有していなくてもよい。
Figure 2024056627000003
また、ζ形結晶は、さらに、回折角度2θ=16.7±0.2°、17.9±0.2°、19.1±0.2°、19.4±0.2°、19.5±0.2°、20.6±0.2°および22.0±0.2°から選択された少なくとも一つの範囲に回折ピークを有していてもよい。これらの回折ピークは、単独でまたは二種以上組み合わせて有していてもよく、必ずしも全ての回折ピークを有していなくてもよい。これらの回折ピークのピーク強度(ピーク高さ)はいずれも、前記ピーク強度ζ(18.5±0.2°)やζ10(20.0±0.2°)に比べて、特に、ζ10(20.0±0.2°)に比べて小さいことが多く、ζ10(20.0±0.2°)のピーク強度(ピーク高さ)を「100」としたとき、例えば30~120程度であってもよく、好ましくは40~110、さらに好ましくは50~100であってもよい。これらの回折ピークのなかでも、2θ=17.9±0.2°、19.4±0.2°、19.5±0.2°および22.0±0.2°から選択された少なくとも一つの範囲に回折ピークを有していてもよく、これらの回折ピークのピーク強度(ピーク高さ)は、ζ10(20.0±0.2°)のピーク強度(ピーク高さ)を「100」としたとき、例えば60~120程度、好ましくは70~110、さらに好ましくは80~100であってもよい。
なお、ζ形結晶は、さらに、回折角度2θ=8.3±0.2°、10.9±0.2°、12.4±0.2°、15.4±0.2°、17.4±0.2°、23.6±0.2°、26.8±0.2°、29.1±0.2°、29.5±0.2°、32.8±0.2°、36.9±0.2°、38.1±0.2°、40.5±0.2°および43.8±0.2°から選択された少なくとも一つの範囲に回折ピークを有していてもよい。これらの回折ピークは、単独でまたは二種以上組み合わせて有していてもよく、必ずしも全ての回折ピークを有していなくてもよい。これらの回折ピークのピーク強度(ピーク高さ)はいずれも、前記ピーク強度ζ(18.5±0.2°)やζ10(20.0±0.2°)に比べて小さいことが多く、ζ10(20.0±0.2°)のピーク強度(ピーク高さ)を「100」としたとき、例えば5~70程度であってもよく、好ましくは10~60、さらに好ましくは20~50であってもよい。これらの回折ピークのなかでも、2θ=8.3±0.2°、10.9±0.2°、12.4±0.2°、15.4±0.2°、17.4±0.2°、23.6±0.2°および26.8±0.2°から選択された少なくとも一つの範囲に回折ピークを有していてもよく、これらの回折ピークのピーク強度(ピーク高さ)は、ζ10(20.0±0.2°)のピーク強度(ピーク高さ)を「100」としたとき、例えば20~55程度、好ましくは25~50、さらに好ましくは30~45であってもよい。
ζ形結晶は、回折角度2θ=8.9±0.2°、9.2±0.2°、9.6±0.2°、9.7±0.2°、9.8±0.2°、13.3±0.2°、14.5±0.2°、17.1±0.2°、21.3±0.2°22.5±0.2°、22.6±0.2°および23.3±0.2°から選択された少なくとも一つの範囲に回折ピークを有していてもよいが、実質的に有していなくてもよい。これらの回折ピークは、単独でまたは二種以上組み合わせて実質的に有していなくてもよい。
なお、本明細書および特許請求の範囲において、回折ピークを「実質的に有していない」とは、ζ10(20.0±0.2°)のピーク強度(ピーク高さ)を「100」としたとき、ピーク強度が5未満、好ましくは3未満、さらに好ましくは1未満である回折ピークのことを意味する。
ζ形結晶の代表的な粉末X線回折パターンは、表4または図2に示すようなパターンであってもよい。
[ε形結晶およびζ形結晶の性質または特性]
本開示のε形結晶は、示差走査熱量測定(DSC)において1または複数の吸熱ピークを有していてもよく、例えば、ピークトップ温度が、119±5℃程度に位置する吸熱ピーク(1)、147±5℃程度に位置する吸熱ピーク(2)、218±5℃程度に位置する吸熱ピーク(3)、および229±5℃程度に位置する吸熱ピーク(4)から選択された少なくとも1つの吸熱ピークを有していてもよく;好ましくは、前記ピークトップ温度が、119±5℃程度に位置する吸熱ピーク(1)を少なくとも有していてもよい。ε形結晶は、混合体(混合物または混晶)であってもよい。
なお、前記吸熱ピーク(1)のピークトップ温度の位置は、好ましくは以下段階的に、119±3℃、119±2℃、119±1.5℃、119±1℃、119±0.5℃であり;
前記吸熱ピーク(2)のピークトップ温度の位置は、好ましくは以下段階的に、147±3℃、147±2℃、147±1.5℃、147±1℃、147±0.5℃であり;
前記吸熱ピーク(3)のピークトップ温度の位置は、好ましくは以下段階的に、218±3℃、218±2℃、218±1.5℃、218±1℃、218±0.5℃であり;
前記吸熱ピーク(4)のピークトップ温度の位置は、好ましくは以下段階的に、229±3℃、229±2℃、229±1.5℃、229±1℃、229±0.5℃である。
本開示のζ形結晶は、示差走査熱量測定(DSC)において1つの吸熱ピークを有していてもよく、ピークトップ温度(結晶構造の崩壊または融解に起因するピークもしくは融点)が、例えば262±5℃程度、好ましくは以下段階的に、262±3℃、262±2℃、262±1.5℃、262±1℃、262±0.5℃に位置する吸熱ピークを有している。ζ形結晶は、高い温度に吸熱ピーク(または融点)を示す結晶であり、安定性(熱安定性または保存安定性)に優れている。
なお、本明細書および特許請求の範囲において、DSCは、窒素雰囲気下、昇温速度10℃/分の条件で測定でき、具体的には、後述する実施例に記載の方法に従って測定できる。
本開示のε形結晶の嵩密度は、例えば0.4g/mL程度以下、具体的には0.35g/mL程度以下であってもよく、好ましくは以下段階的に、0.2~0.34g/mL、0.25~0.33g/mL、0.28~0.32g/mLである。
本開示のζ形結晶の嵩密度は、例えば0.4g/mL程度以下、具体的には0.35g/mL程度以下であってもよく、好ましくは以下段階的に、0.2~0.34g/mL、0.25~0.33g/mL、0.29~0.33g/mLである。
なお、本明細書および特許請求の範囲において、嵩密度は、所定量の試料を秤量してメスシリンダーに静かに入れた後、所定回数タップした後の体積を読み取ることで算出でき、具体的には、後述する実施例に記載の方法で測定できる。
本開示のε形結晶の残存溶媒量は、例えば0.5質量%程度以上、具体的には1質量%程度以上であってもよく、好ましくは以下段階的に、2~20質量%、3~15質量%、4~10質量%、5~8質量%である。ε形結晶は、後述する製造方法で使用する晶析溶媒を含んでいてもよく(包接していてもよく)、例えば、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素を少なくとも含むことが多い。
本開示のζ形結晶の残存溶媒量は、例えば1質量%程度未満、具体的には0.5質量%程度以下であってもよく、好ましくは以下段階的に、0~0.3質量%、0~0.2質量%、0~0.1質量%、0~0.01質量%であり、溶媒を実質的に含まないのがさらに好ましい。ζ形結晶は、結晶構造中に溶媒を含まない結晶多形体、すなわち、非溶媒和結晶(非溶媒和物)または非包接結晶(非包接体)であるのが好ましい(擬多形ではないのが好ましい)。ζ形結晶は結晶構造中に溶媒を含まないため、安全性や取り扱い性に優れており、溶媒を用いない反応系における反応成分、例えば、ポリエステル系樹脂の溶融重合におけるモノマー成分などにも有効に利用できる。
本明細書および特許請求の範囲において、残存溶媒量は、GC分析により検量線に基づいて算出でき、後述する実施例に記載の方法で測定できる。
本開示のε形結晶の純度(LC純度)は高く、例えば95~100面積%、具体的には96~99面積%程度であってもよく、好ましくは以下段階的に、97面積%以上、97.5面積%以上、98面積%以上である。
本開示のζ形結晶の純度(LC純度)は高く、例えば95~100面積%、具体的には96~99面積%程度であってもよく、好ましくは以下段階的に、97面積%以上、97.5面積%以上、98面積%以上、98.5面積%以上である。
本明細書および特許請求の範囲において、純度はHPLC分析により算出でき、具体的には、後述する実施例に記載の方法で測定できる。
本開示のε形結晶およびζ形結晶は、有機溶媒などの有機化合物に対する溶解性(または相溶性)に優れている。有機溶媒としては、化学構造中に酸素原子を含む有機溶媒または極性溶媒などであってもよく、例えば、アルコール、エーテル、ケトン、エステルなどが挙げられる。アルコールとしては、例えば、メタノールなどのC1-4アルコール;エーテルとしては、例えば、テトラヒドロフラン(THF)、1,4-ジオキサンなどの環状エーテル;ケトンとしては、例えば、メチルエチルケトンなどのC3-6ジアルキルケトンなどが挙げられる。有機溶媒は単独でまたは2種以上組み合わせて使用することもできる。
ε形結晶は、溶解性について、温度25℃、濃度20質量%で、メタノール、テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサンおよびメチルエチルケトンから選択された少なくとも一種の溶媒に対して、例えば5分以内、好ましくは4分以内、さらに好ましくは3分以内に溶解可能である。
ζ形結晶は、溶解性について、温度25℃、濃度20質量%で、メタノール、テトラヒドロフランおよびメチルエチルケトンから選択された少なくとも一種の溶媒に対して、例えば15分以内、好ましくは以下段階的に、10分以内、7分以内、5分以内、4分以内に溶解可能である。
本明細書および特許請求の範囲において、溶解性は、後述する実施例に記載の方法で測定できる。
ζ形結晶は、高い融点を示し、結晶構造が安定な結晶(または安定形の結晶)であるにもかかわらず、意外にも高い溶解性を示すため、安定性[熱安定性または保存安定性(高温環境下での保存安定性)]と溶解性とを有効に両立できる。
[ε形結晶およびζ形結晶の製造方法]
(ε形結晶の製造方法)
本開示のε形結晶は、芳香族炭化水素および環状エーテルと、脂肪族炭化水素とを含む溶媒(晶析溶媒または結晶化溶媒)からBNFを晶析させる晶析工程を経て調製できる。
芳香族炭化水素としては、例えば、ベンゼン、アルキルベンゼン、具体的には、トルエン、キシレンなどのモノないしトリC1-4アルキル-ベンゼンなどが挙げられ、トルエンなどのモノまたはジC1-2アルキル-ベンゼンが好ましい。
環状エーテルとしては、例えば、テトラヒドロフラン(THF)、ジオキサンなどが挙げられ、1,4-ジオキサンなどのジオキサンが好ましい。
脂肪族炭化水素としては、例えば、ヘキサン、ヘプタンなどのC5-10アルカンなどが挙げられ、nーヘプタンなどの直鎖状C6-8アルカンが好ましい。
トルエンなどの芳香族炭化水素の割合は、溶媒(晶析溶媒または結晶化溶媒)の総量に対して、例えば50~90質量%程度であってもよく、好ましくは以下段階的に、55~85質量%、60~80質量%、65~75質量%である。
1,4-ジオキサンなどの環状エーテルの割合は、特に制限されず、トルエンなどの芳香族炭化水素100質量部に対して、例えば1~50質量部程度、好ましくは5~40質量部であってもよい。1,4-ジオキサンなどの環状エーテルの割合が少なすぎない適度な範囲にあると、ε形結晶を調製し易くなる傾向がある。
n-ヘプタンなどの脂肪族炭化水素の割合は、トルエンなどの芳香族炭化水素100質量部に対して、例えば1~30質量部程度であってもよく、好ましくは以下段階的に、5~25質量部、10~20質量部である。
特開2020-164523号公報(特許文献2)には、芳香族炭化水素類と、フェノール類、ケトン類およびエーテル類から選択される少なくとも一種の溶媒との混合溶媒からBNFを晶析させると、δ晶となることが開示され、例えば、実施例5~6ではo-キシレンおよび1,4-ジオキサンの混合溶媒(前者/後者(質量比)=15/2.5)から晶析してδ晶が得られているが、本開示では、晶析溶媒中に脂肪族炭化水素を含むためか、δ晶ではなくε形結晶が得られるようである。
なお、晶析溶媒は、芳香族炭化水素、環状エーテルおよび脂肪族炭化水素とは異なる他の溶媒を含んでいてもよく、含んでいなくてもよい。他の溶媒の割合は、芳香族炭化水素類、環状エーテル類および脂肪族炭化水素類の総量100質量部に対して、例えば0~30質量部、好ましくは以下段階的に、0~20質量部、0~10質量部、0~5質量部であり、実質的に含まないのが好ましい。
晶析溶媒の総量の割合は、BNF 100質量部に対して、例えば100~1000質量部程度であってもよく、好ましくは以下段階的に、200~500質量部、250~400質量部、300~350質量部であってもよく、260~300質量部程度であってもよい。
なお、晶析工程は、フェノール類の存在下で行ってもよい(BNFと晶析溶媒との溶液には、フェノール類が溶解していてもよい)。フェノール類としては、例えば、2-ナフトールなどのナフトールなどが挙げられる。前記2-ナフトールは、BNFの原料の未反応成分(または過剰添加分)、すなわち、9-フルオレノンとの未反応成分であってもよい。2-ナフトールなどのフェノール類の割合は、BNF 1モルに対して、例えば0.01~10モル、好ましくは以下段階的に、0.1~2モル、0.5~1.5モル、0.8~1.2モル、1~1.1モルである。
晶析工程では、BNFと晶析溶媒との溶液を冷却して晶析してもよい。冷却速度は、例えば1~20℃/時間(℃/hr)程度であってもよく、好ましくは5~15℃/時間、さらに好ましくは7~13℃/時間である。なお、冷却前の溶液の温度は、例えば、晶析溶媒の沸点未満の温度、具体的には30~95℃程度であってもよく、好ましくは以下段階的に、50~90℃、55~85℃、60~80℃、65~75℃である。後述する撹拌速度で溶液を撹拌しながら冷却してもよい。
晶析工程において、結晶(ε形結晶)を析出させる温度(析出温度)は、例えば5~35℃程度であってもよく、好ましくは以下段階的に、10~30℃、15~25℃、17~23℃である。BNFと晶析溶媒との溶液を冷却して前記析出温度に到達後、この析出温度に保持(または保温)して晶析させることで、ε形結晶を容易にまたは効率よく調製し易いようである。また、晶析工程では、後述する撹拌速度で溶液を撹拌しながら結晶を析出させてもよい。
なお、ε形結晶は、前記析出温度に保持(または保温)して所定時間撹拌(または熟成)することで晶析(析出)させてもよいが、前記析出温度に保持して撹拌(または熟成)しつつ、種晶を添加することで、より一層、容易にまたは効率よく調製できる。種晶の種類(種晶として添加するBNFの結晶多形体の種類)は、特に制限されず、例えば、前記特許文献1~2に記載されているα形結晶(結晶多形体αまたはα晶)や、ε形結晶、ζ形結晶の種晶であってもよく、単独でまたは2種以上組み合わせて使用してもよい。
また、前記析出温度での析出を確認した後、前記析出温度で撹拌(熟成)してもよく、撹拌速度は、後述する撹拌速度であってもよく、撹拌(熟成)時間は、例えば0.1~3時間程度、好ましくは0.5~2時間である。なお、前記析出温度からさらに冷却してもよく、冷却速度は、好ましい態様を含めて、前記冷却速度と同様の範囲であり、冷却温度(冷却後の到達温度)は、例えば-5℃~15℃程度、好ましくは0~10℃であり、この冷却温度で、例えば0.1~3時間程度、好ましくは0.5~2時間撹拌(熟成)してもよい。
なお、晶析工程は撹拌しながら行ってもよく、例えば、溶媒を混合する操作、結晶を析出させる操作、冷却する操作などを撹拌しながら行ってもよく、所定の状態に保持して撹拌(または熟成)してもよい。晶析工程における撹拌速度は、例えば0~1000rpm、好ましくは以下段階的に、10~500rpm、50~400rpm、100~350rpm、150~330rpm、200~300rpmである。なお、この撹拌速度は、前記溶液中の晶析溶媒の総量650g当たりに対する撹拌速度であってもよく、総量560g当たりに対する撹拌速度であってもよい。
晶析(析出)した結晶(ε形結晶)は、ろ過、遠心分離、デカンテーションなどの慣用の分離手段で分離でき、分離後、トルエンなどの芳香族炭化水素で結晶をすすいでもよく、減圧乾燥などの慣用の方法で乾燥してもよい。乾燥温度は、例えば、20~100℃未満程度であってもよく、好ましくは以下段階的に、60~95℃、70~90℃、80~85℃である。減圧乾燥である場合、圧力(ゲージ圧)は特に制限されず、例えば-10kPa程度以下、好ましくは以下段階的に、-30kPa以下、-50kPa以下、-70kPa以下、-80kPa以下である。温度が高すぎない適度な範囲にあったり、圧力が低すぎない適度な範囲にあったりすると、ε晶を調製し易くなる場合がある。乾燥時間は、例えば1時間~7日程度、好ましくは12~48時間、さらに好ましくは18~32時間である。
なお、晶析に用いるBNFは、市販品または慣用の方法で合成したものを用いてもよく、例えば、9-フルオレノンと、2-ナフトール(またはβ-ナフトール)とを、濃硫酸などの酸触媒、チオール類、具体的には3-メルカプトプロピオン酸(またはβ-メルカプトプロピオン酸)などの助触媒の存在下で反応させて合成したものを用いてもよい。各成分の割合は、BNFを調製可能であれば特に制限されない。2-ナフトールの割合は、9-フルオレノン1モルに対して、例えば2モル以上、好ましくは2~5モル、さらに好ましくは2.5~3.5モルであってもよい。濃硫酸などの酸触媒の割合は、9-フルオレノン100質量部に対して、例えば10~1000質量部、好ましくは50~300質量部、さらに好ましくは70~200質量部、より好ましくは90~150質量部であってもよい。3-メルカプトプロピオン酸などのチオール類の割合は、濃硫酸などの酸触媒100質量部に対して、例えば0.01~50質量部、好ましくは0.1~20質量部、さらに好ましくは1~10質量部であってもよい。BNFを合成する場合、1,4-ジオキサンなどのエーテル類やトルエンなどの芳香族炭化水素類を反応溶媒および/または抽出溶媒などとして利用し、合成で得られた反応溶液(または反応後に得られた若しくは洗浄した有機層)を晶析工程に供することで、反応溶媒および/または抽出溶媒として利用した前記エーテル類や芳香族炭化水素類を晶析溶媒としてもよい。
(ζ形結晶の製造方法)
ζ形結晶は、前記ε形結晶を熱処理する熱処理工程を経て調製できる。熱処理工程における熱処理温度は、例えば100℃程度以上の温度であってもよく、好ましくは以下段階的に、100~250℃、105~200℃、110~150℃、115~140℃、120~130℃である。温度が低すぎない適度な範囲にあると、ζ晶を調製し易くなる傾向がある。
熱処理工程は減圧下で行うのが好ましく、圧力(ゲージ圧)は、例えば-10kPa程度以下、好ましくは以下段階的に、-30kPa以下、-50kPa以下、-101kPa~-70kPa、-100kPa~-80kPaである。圧力が高すぎない適度な範囲にあると、ζ晶を調製し易くなる傾向がある。
熱処理時間は、例えば1時間~7日程度、好ましくは12~48時間、さらに好ましくは18~32時間である。
ζ形結晶は、結晶構造中に溶媒分子を含まない非溶媒和結晶または非包接結晶(擬多形でない結晶)であるが、上述のように前記ε形結晶を前駆体として、熱処理により容易に調製できる。また、前駆体としてのε形結晶も、前述のように芳香族炭化水素、環状エーテルおよび脂肪族炭化水素を含む晶析溶媒から晶析できるため、本開示の製造方法では、非溶媒和結晶であるBNFの結晶(ζ形結晶)を、ハロゲン含有溶媒を使用することなく、容易にまたは効率よく調製できる。
また、本開示の結晶は、溶解性、安定性(熱安定性または保存安定性)、低残存溶媒量(非包接性)などの特性に優れるため、本開示は、BNFをε形結晶および/またはζ形結晶の形態に調製して、溶解性、安定性(熱安定性または保存安定性)および低残存溶媒量から選択された少なくとも一種の特性を向上または改善する方法も包含する。
[ε形結晶およびζ形結晶の用途]
ε形結晶およびζ形結晶は、BNFを利用可能な種々の用途に利用でき、特に、溶解性に優れ、反応性または生産性を有効に向上し易い点から、化学反応に供するための反応成分として好適に利用できる。そのため、本開示は、ε形結晶および/またはζ形結晶を少なくとも含む反応成分も包含する。
前記化学反応としては、例えば、BNFのヒドロキシル基を反応性基とする化学反応であってもよい。具体的には、ε形結晶および/またはζ形結晶は、エチレンオキシドなどのアルキレンオキシド(エチレンカーボネートなどのアルキレンカーボネートまたはハロアルカノール)と反応させて、9,9-ビス[6-(2-ヒドロキシエトキシ)-2-ナフチル]フルオレン(BNEF)などのBNFのアルキレンオキシド(アルキレンカーボネートまたはハロアルカノール)付加体を調製するための原料(前駆体成分または中間体)や;ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリウレタン系樹脂などの樹脂のモノマー成分(またはジオール成分)などとして好適に利用できる。
BNFのアルキレンオキシド(アルキレンカーボネートまたはハロアルカノール)付加体の原料としてε形結晶および/またはζ形結晶を用いる場合、他の反応成分であるエチレンオキシドなどのアルキレンオキシドや、エチレンカーボネートなどのアルキレンカーボネートなどに溶解して反応させてもよい。また、反応は、例えば、溶媒の存在下または非存在下で行ってもよく、ε形結晶および/またはζ形結晶が溶解性に優れるため、溶媒の存在下で行ってもよい。溶媒としては、例えば、非プロトン性極性溶媒を含んでいてもよく、例えば、エーテル類、ケトン類、エステル類、カーボネート類、アミド類、尿素類、ニトリル類、ニトロ化炭化水素類、ホスホルアミド類、スルホン類、スルホキシド類などが挙げられる。これらの非プロトン性極性溶媒は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。
前記非プロトン性極性溶媒のうち、エーテル類、スルホン類、スルホキシド類、尿素類およびアミド類から選択される少なくとも1種が好ましく、エーテル類、スルホン類、尿素類およびアミド類から選択される少なくとも1種を含むのがさらに好ましく、少なくとも分子内に環状構造を有する環式化合物(環状構造を有する非プロトン性極性溶媒)を含むのがより好ましく、環状エーテル類、環状スルホン類、環状尿素類および環状アミド類から選択される少なくとも1種を含むのが最も好ましい。
前記環状エーテル類としては、テトラヒドロフラン(THF)、1,4-ジオキサンなどのC1-4アルキル基を有していてもよいテトラヒドロフラン類またはジオキサン類が挙げられ、なかでも、C1-3アルキル基を有していてもよいジオキサン類が好ましく、1,4-ジオキサンなどのC1-2アルキル基を有していてもよい1,4-ジオキサン類がより好ましく、1,4-ジオキサンが最も好ましい。
前記環状スルホン類としては、スルホランなどのC1-4アルキル基を有していてもよいテトラないしペンタメチレンスルホン類が挙げられ、C1-3アルキル基を有していてもよいスルホラン類が好ましく、C1-2アルキル基を有していてもよいスルホラン類がさらに好ましく、スルホランが最も好ましい。
前記環状尿素類としては、1,3-ジメチル-2-イミダゾール(DMI)、N,N’-ジメチル-N,N’-トリメチレン尿素などのC1-4アルキル基を有していてもよいN,N’-ジC1-6アルキル-N,N’-ジ乃至トリメチレン尿素類が挙げられ、C1-3アルキル基を有していてもよいN,N’-ジC1-4アルキル-エチレン尿素類が好ましく、C1-2アルキル基を有していてもよいN,N’-ジC1-3アルキル-エチレン尿素類がさらに好ましく、DMIが最も好ましい。
前記環状アミド類としては、NMPなどのC1-4アルキル基を有していてもよい5~7員環ラクタムが挙げられ、C1-3アルキル基を有していてもよい5~6員環ラクタムが好ましく、C1-2アルキル基を有していてもよい5員環ラクタムがさらに好ましく、NMPが最も好ましい。
これらの非プロトン性極性溶媒のうち、C1-3アルキル基を有していてもよいジオキサン類が好ましく、1,4-ジオキサンなどのC1-2アルキル基を有していてもよい1,4-ジオキサン類がより好ましく、1,4-ジオキサンが最も好ましい。
樹脂のモノマー成分として用いる場合、ε形結晶および/またはζ形結晶が溶解性に優れるため、溶液重合、界面重合などに供してもよい。また、ζ形結晶は、非溶媒和結晶または非包接結晶で取り扱い性または安全性に優れるため、溶媒を用いない無溶媒反応、例えば、前記モノマー成分として溶融重合などに供することで、反応における生産性または安全性のみならず、得られる化合物の品質またはその安定性なども有効に向上できる。
以下に、実施例に基づいて本開示をより詳細に説明するが、本開示はこれらの実施例によって限定されるものではない。以下に、主な評価方法の詳細などについて示す。
[評価方法]
(LC純度)
高速液体クロマトグラフィHPLC装置((株)島津製作所製「LC-2030C Plus」、カラム:東ソー(株)製「ODS―80TM(25cm)」)を用い、下記の条件でHPLC純度[面積%]を測定した。
検出方法:UV、検出波長254nm
カラム温度:30℃
溶離液(容量比):アセトニトリル/水=55/45→60/40→95/5→55/45(グラディエント)
流量:1.0mL/分
定量法:面積百分率法。
(XRD測定)
粉末X線回折装置((株)リガク製「全自動多目的水平型X線回折装置SmartLab」)を用いて、出力3kW、線源(Cu管球)、測定角5~90°の条件で測定した。
(示差走査熱量測定)
示差走査熱量計(TA Instruments社製「DSC25」)を用い、窒素雰囲気下、測定温度30~300℃、昇温速度10℃/分の条件で測定した。得られたDSCチャートから、吸熱ピークのピークトップ温度を読み取った。
(残存溶媒量)
調製した試料をテトラヒドロフランに溶解し、ガスクロマトグラフィGC装置((株)島津製作所製「GC-2014」、カラム:CBP-1、検出器:FID)を用い、測定温度範囲50~290℃の条件で測定し、残存溶媒量を検量線から算出した。
(嵩密度)
100mLメスシリンダーに試料を静かに入れ、「100mL」の目盛りまで入れたときの試料の質量(A)を秤量した。約1.5cmの高さから10回タッピングした後にメスシリンダーの目盛りを読み取り、試料の体積(B)とした。得られた試料の質量(A)および体積(B)を用いて、下記式により嵩密度を算出した。
嵩密度[g/mL]=A[g]÷B[mL]
この操作を3回繰り返し、得られた値の平均値(n=3の平均値)を嵩密度とした。
(溶解性)
濃度20質量%となるように試料(2g)および溶媒(8g)を混合して、温度25℃、撹拌速度150rpmでスターラーを用いて撹拌し、試料の溶解が完了するまでにかかった時間を測定した。
[比較例1]
特開2012-207008号公報の実施例1に記載の方法に準じて、BNFの結晶を調製した。得られた結晶は、213℃に吸熱ピークを示した。得られた結晶の残存溶媒量は0.1質量%以下であり、トルエンなどの溶媒分子は検出されず、非包接結晶であった。得られた結晶の嵩密度は、0.48g/mLであった。
[実施例1]結晶多形体ε(ε形結晶またはε晶)
2Lのセパラブルフラスコに、9-フルオレノン(以下、FLNともいう)80.0g(0.44モル)、β-ナフトール192.0g(1.33モル)、1,4-ジオキサン111.1g、β-メルカプトプロピオン酸1.5gを加えて、60℃で溶解した。溶解後、55~65℃の温度範囲で濃硫酸114.4gを滴下した後、60℃で2時間撹拌したところ、FLNの転化率が99%以上であることがHPLCにより確認された。得られた反応液にトルエン459.2g、水148.0gを加えて、80℃で十分に撹拌し、水層を除去した。得られた有機層に5質量%炭酸水素ナトリウム水溶液148.0gを加えて、80℃で十分に撹拌し、水層を除去した。さらに、得られた有機層に1質量%塩酸148.0gを加えて、80℃で十分撹拌し、水層を除去した後、有機層を80℃の水で複数回洗浄した。得られた有機層をHPLCで確認したところ、未反応の(過剰分の)β-ナフトールが残存していた。
得られた有機層を10℃/時間(℃/hr)の速度で70℃以下になるまで冷却し、70℃に加温したn-ヘプタン73.5gを加えた後、250rpmで撹拌しながら10℃/時間の速度で20℃まで冷却した。20℃にて種晶として比較例1で得られた結晶を添加して、250rpmで撹拌し、(種晶添加から8時間後に)結晶の析出を確認した。その後、さらに、20℃、250rpmで1時間撹拌(または熟成)し、次いで、250rpmで撹拌しながら10℃/時間の速度で10℃以下になるまで冷却した。10℃以下に到達後、0~10℃の温度範囲に保持しつつ、250rpmでさらに1時間撹拌(または熟成)させてろ過し、次いで、0~10℃に調整した冷トルエンですすいでろ過した後、85℃、-100kPa(ゲージ圧)、24時間の条件で減圧乾燥することで、BNFの結晶多形体ε(ε形結晶またはε晶) 108.8g(HPLC純度98.2面積%)を得た。なお、HPLCでは、β-ナフトール(0.06面積%)およびトルエンの残存が確認された。
得られたε晶のX線回折(XRD)の測定結果を図1および下記表3に示す。
Figure 2024056627000004
得られたε晶のDSCチャートでは、119℃、147℃、218℃および229℃付近に吸熱ピーク(吸熱ピークトップ)が見られ、ε晶は混合体(混合物または混晶)であることが示唆された。包接されたトルエンが放出されたためか、119℃付近の吸熱ピークは比較的ブロードであった。また、262℃付近には、吸熱ピークが見られなかった。
GCにより得られたε晶の残存溶媒量を5回測定したところ、約6~7質量%であった。また、GCでは1,4-ジオキサンおよびn-ヘプタンは検出されず、トルエンが検出されたため、トルエン分子を包接した包接結晶であることが確認された。
得られたε晶の嵩密度は、0.30g/mLであった。
[実施例2]ε形結晶
20℃まで冷却した後に種晶を添加することなく、20℃、250rpmで24時間撹拌(または熟成)したこと以外は、実施例1と同様にして結晶を析出させた。結晶の析出を確認した後、さらに、20℃、250rpmで2時間撹拌(または熟成)し、10℃/時間の速度で10℃以下まで冷却した。10℃以下に到達後、0~10℃の温度範囲に保持しつつ、250rpmでさらに2時間撹拌(または熟成)させてろ過し、次いで、0~10℃に調整した冷トルエンですすいでろ過した後、85℃、-100kPa(ゲージ圧)、24時間の条件で減圧乾燥することで、BNFの結晶88.8g(HPLC純度98.3面積%)を得た。得られた結晶は、実施例1と同様の性質を示すε晶であった。
[実施例3]ε形結晶
添加した種晶を、比較例1で得られた結晶からε晶に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、BNFの結晶を得た。得られた結晶は、実施例1と同様の性質を示すε晶であった。
[実施例4]ε形結晶
添加した種晶を、比較例1で得られた結晶からζ晶(後述する実施例17で調製したもの)に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、BNFの結晶を得た。得られた結晶は、実施例1と同様の性質を示すε晶であった。
[実施例5]ε形結晶
n-ヘプタンの添加から、結晶のろ過に至るまでの操作における全ての撹拌速度(晶析工程における撹拌速度)を、250rpmから150rpmに変更したこと以外は、実施例1と同様にして、BNFの結晶を得た。得られた結晶は、実施例1と同様の性質を示すε晶であった。
[実施例6]ε形結晶
n-ヘプタンの添加から、結晶のろ過に至るまでの操作における全ての撹拌速度(晶析工程における撹拌速度)を、250rpmから200rpmに変更したこと以外は、実施例1と同様にして、BNFの結晶を得た。得られた結晶は、実施例1と同様の性質を示すε晶であった。
[実施例7]ε形結晶
n-ヘプタンの添加から、結晶のろ過に至るまでの操作における全ての撹拌速度(晶析工程における撹拌速度)を、250rpmから300rpmに変更したこと以外は、実施例1と同様にして、BNFの結晶を得た。得られた結晶は、実施例1と同様の性質を示すε晶であった。
[実施例8]ε形結晶
減圧乾燥の条件を、85℃、-100kPa(ゲージ圧)、72時間に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、BNFの結晶を得た。得られた結晶は、実施例1と同様の性質を示すε晶であった。
[実施例9]ε形結晶
減圧乾燥の条件を、85℃、-80kPa(ゲージ圧)、24時間に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、BNFの結晶を得た。得られた結晶は、実施例1と同様の性質を示すε晶であった。
[実施例10]ε形結晶
β-ナフトールの量を192.0g(1.33モル)から176.0g(1.22モル)に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、BNFの結晶を得た。得られた結晶は、実施例1と同様の性質を示すε晶であった。
[実施例11]ε形結晶
β-ナフトールの量を192.0g(1.33モル)から224.0g(1.55モル)に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、BNFの結晶を得た。得られた結晶は、実施例1と同様の性質を示すε晶であった。
[実施例12]ε形結晶
β-メルカプトプロピオン酸の量を1.5gから7.3gに変更したこと以外は、実施例1と同様にして、BNFの結晶を得た。得られた結晶は、実施例1と同様の性質を示すε晶であった。
[実施例13]ε形結晶
濃硫酸の量を114.4gから75.0gに変更したこと以外は、実施例1と同様にして、BNFの結晶を得た。得られた結晶は、実施例1と同様の性質を示すε晶であった。
[実施例14]ε形結晶
β-ナフトールの量を192.0g(1.33モル)から176.0g(1.22モル)に変更し、β-メルカプトプロピオン酸の量を1.5gから7.3gに変更したこと以外は、実施例1と同様にして、BNFの結晶を得た。得られた結晶は、実施例1と同様の性質を示すε晶であった。
[実施例15]ε形結晶
β-ナフトールの量を192.0g(1.33モル)から176.0g(1.22モル)に変更し、濃硫酸の量を114.4gから75.0gに変更したこと以外は、実施例1と同様にして、BNFの結晶を得た。得られた結晶は、実施例1と同様の性質を示すε晶であった。
[実施例16]ε形結晶
β-ナフトールの量を192.0g(1.33モル)から176.0g(1.22モル)に変更し、β-メルカプトプロピオン酸の量を1.5gから7.3gに変更し、濃硫酸の量を114.4gから75.0gに変更したこと以外は、実施例1と同様にして、BNFの結晶を得た。得られた結晶は、実施例1と同様の性質を示すε晶であった。
[実施例17]結晶多形体ζ(ζ形結晶またはζ晶)
実施例1と同様にして、BNFのε晶を調製した。得られたε晶(85℃、-100kPa(ゲージ圧)、24時間の条件で減圧乾燥したもの)を、さらに、125℃、-100kPa(ゲージ圧)、24時間の条件で減圧乾燥することで、BNFの結晶多形体ζ(ζ形結晶またはζ晶) 84.9g(HPLC純度98.7面積%)を得た。
得られたζ晶のX線回折(XRD)の測定結果を図2および下記表4に示す。
Figure 2024056627000005
得られたζ晶のDSCチャートでは、262℃付近にのみ吸熱ピーク(吸熱ピークトップ)が見られた。得られたζ晶の残存溶媒量をGCにより5回測定したところ、0.1質量%以下であり、非包接結晶であることが確認された。得られたζ晶の嵩密度は、0.31g/mLであった。
[実施例18]ζ形結晶
125℃、-100kPa、24時間の減圧乾燥の条件を、125℃、-80kPa、24時間に変更したこと以外は、実施例17と同様にして、BNFの結晶を得た。得られた結晶は、実施例17と同様の性質を示すζ晶であった。
[実施例19]ζ形結晶
実施例1と同様に調製したε晶に代えて、実施例2~16で得られたε晶を用いたこと以外は、実施例17と同様にして、BNFの結晶をそれぞれ得た。得られた各結晶は、実施例17と同様の性質を示すζ晶であった。
[溶解性の比較]
比較例1で得られた結晶、実施例1で得られた結晶(ε晶)、実施例17で得られた結晶(ζ晶)の各種溶媒に対する溶解性を評価した。溶媒としては、メタノール(MeOH)、テトラヒドロフラン(THF)、1,4-ジオキサン、メチルエチルケトン(MEK)を使用した。評価結果を下記表5および図3に示す。
Figure 2024056627000006
表5および図3の結果から明らかなように、実施例の結晶では、従来の結晶に比べて、各種溶媒に対する溶解性に優れていた。特に、実施例17のζ晶は、比較例1よりも高温側に吸熱ピーク(または融点)が見られ、より安定形の結晶であるにもかかわらず、予想外なことに、比較例1よりも優れた溶解性を示した。
本開示の結晶多形体は、有機化合物に対する溶解性などの取り扱い性または作業性に優れ、特に、結晶多形体ζ(ζ晶)では、極めて融点が高く熱安定性(または耐熱性)または高温環境下における保存安定性にも優れるとともに、溶媒分子を包接していない非包接体である(残存溶媒量も低い)ため、工業製品として好適に使用できる。また、本開示の結晶多形体は、ビス(ヒドロキシナフチル)フルオレン骨格を有するため、種々の特性、例えば、高屈折率などの光学特性、耐熱性、耐水性、耐湿性、耐薬品性、電気特性、機械特性、寸法安定性などにも優れている。そのため、本開示の結晶多形体は、工業製品、有機合成、樹脂合成などの原料や、添加剤(または樹脂添加剤)などとして好適に使用でき、得られる製品に前記特性を付与できる。
樹脂原料(モノマー成分または樹脂前駆体)としては、例えば、ポリアリレート樹脂などのポリエステル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリエーテル系樹脂、ポリエーテルケトン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂などのポリエーテルケトン系樹脂、熱可塑性ポリウレタン樹脂などの熱可塑性樹脂の原料(またはモノマー成分)や;(メタ)アクリル樹脂、ビニルエステル樹脂(またはエポキシ(メタ)アクリレート樹脂)、ビニルエーテル樹脂、エポキシ樹脂などの熱または光硬化性樹脂の原料(または前駆体成分)などが挙げられる。本開示の結晶多形体は、有機化合物に対する溶解性(または相溶性)に優れるため、重合反応または合成反応を促進し易いことから、樹脂などの原料として有効に利用できる。特に、結晶多形体ζ(ζ晶)では、溶媒分子を包接していない非包接体である(残存溶媒量も低い)ため、残存溶媒量によるBNFの仕込み量のズレなども生じ難く、得られる樹脂などの合成品の品質を安定化することもできる。
また、添加剤(または樹脂添加剤)としては、例えば、耐熱性向上剤、屈折率向上剤、硬化剤、鎖延長剤などが挙げられる。硬化剤としては、例えば、エポキシ樹脂の硬化剤などが挙げられ、鎖延長剤としては、例えば、ウレタン樹脂の鎖延長剤などが挙げられる。本開示の結晶多形体は、溶解性(相溶性)にも優れるため、混合または混練などで容易にまたは効率よく均一な組成物(樹脂組成物)を調製でき、添加剤(または樹脂添加剤)として有効に利用できる。
本開示の結晶多形体を原料とする樹脂、または本開示の結晶多形体を添加剤として含む組成物(樹脂組成物)は、例えば、光学部材(光学材料または透明材料)、耐熱部材、半導体封止剤、電装基板、燃料電池用膜など、特に、光学部材として好適に利用できる。前記光学部材としては、例えば、リフローレンズ、ピックアップレンズ、マイクロレンズ、眼鏡レンズなどの光学レンズ、偏光膜、反射防止フィルム、タッチパネル用フィルム、フレキシブル基板用フィルム、ディスプレイ用フィルムなどの光学フィルム、光学用オーバーコート剤、ハードコート剤、反射防止膜、光ファイバー、光導波路、ホログラムなどが挙げられる。
また、本開示の結晶多形体は、溶解性(相溶性)にも優れるため、コーティング剤などの用途にも有用であり、例えば、樹脂などのマトリックス材に分散させて、基材などにコーティング層または塗膜を形成してもよい。

Claims (17)

  1. 粉末X線回折パターンにおいて、以下の回折角度2θに回折ピークを有する9,9-ビス(6-ヒドロキシ-2-ナフチル)フルオレンのε形結晶。
    回折角度2θ:10.1±0.2°、10.4±0.2°、12.3±0.2°、15.1±0.2°および19.0±0.2°
  2. さらに、以下の回折角度2θから選択された少なくとも一つに回折ピークを有する請求項1記載のε形結晶。
    回折角度2θ:16.3±0.2°、19.7±0.2°、20.1±0.2°、22.9±0.2°および27.3±0.2°
  3. 回折角度2θ=20.1±0.2°に回折ピークを有し、この回折ピークでのピーク強度が最も大きい請求項1または2記載のε形結晶。
  4. 示差走査熱量測定において、少なくとも119±2℃の吸熱ピークトップ温度を示す請求項1または2記載のε形結晶。
  5. 嵩密度が、0.35g/mL以下である請求項1または2記載のε形結晶。
  6. 少なくとも芳香族炭化水素を含み、残存溶媒量が1質量%以上である請求項1または2記載のε形結晶。
  7. メタノール、テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサンおよびメチルエチルケトンから選択された少なくとも一種の溶媒に対して、温度25℃、濃度20質量%で、5分以内に溶解可能である請求項1または2記載のε形結晶。
  8. 芳香族炭化水素、環状エーテルおよび脂肪族炭化水素を含む溶媒から9,9-ビス(6-ヒドロキシ-2-ナフチル)フルオレンを晶析させる晶析工程を含む請求項1または2記載のε形結晶の製造方法。
  9. 晶析工程における析出温度が、10~30℃である請求項8記載の製造方法。
  10. 粉末X線回折パターンにおいて、以下の回折角度2θに回折ピークを有する9,9-ビス(6-ヒドロキシ-2-ナフチル)フルオレンのζ形結晶。
    回折角度2θ:10.7±0.2°、14.2±0.2°、18.5±0.2°および24.1±0.2°
  11. さらに、以下の回折角度2θから選択された少なくとも一つに回折ピークを有する請求項10記載のζ形結晶。
    回折角度2θ:6.0±0.2°、11.8±0.2°、12.0±0.2°、13.6±0.2°、14.8±0.2°、16.2±0.2°、20.0±0.2°、21.0±0.2°、22.9±0.2°、24.3±0.2°、25.0±0.2°、26.3±0.2°および27.7±0.2°
  12. 示差走査熱量測定において、262±2℃の吸熱ピークトップ温度を示す請求項10または11記載のζ形結晶。
  13. 嵩密度が、0.35g/mL以下である請求項10または11記載のζ形結晶。
  14. 擬多形でない請求項10または11記載のζ形結晶。
  15. メタノール、テトラヒドロフランおよびメチルエチルケトンから選択された少なくとも一種の溶媒に対して、温度25℃、濃度20質量%で、5分以内に溶解可能である請求項10または11記載のζ形結晶。
  16. 請求項1記載のε形結晶を温度100℃以上で熱処理する熱処理工程を含む請求項10または11記載のζ形結晶の製造方法。
  17. 化学反応に供するための反応成分であって、請求項1記載のε形結晶および/または請求項10記載のζ形結晶を少なくとも含む反応成分。
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