JP2024053914A - 甘草抽出物 - Google Patents

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Abstract

【課題】多機能性原料として使用可能な甘草抽出物を提供する。【解決手段】甘草抽出物は、A)グリチルリチン酸、グリチルリチン酸誘導体、グリチルレチン酸、および、グリチルレチン酸誘導体からなる群から選択される1つ以上と、(B)上記(A)以外の甘草サポニン類と、(C)甘草フラボノイド類とを含み、(B)は、リコリスサポニンH2と、リコリスサポニンG2と、マセドノシドAを含む。【選択図】なし

Description

本発明は、甘草の成分を抽出して得られる甘草抽出物に関する。
甘草は従来から食品添加物や医薬品の原料の1つとして利用されてきた。特に、甘草に含まれるグリチルリチン酸や甘草フラボノイド類の作用に注目して、特有の用途に用いられることがある。
例えば、特許第6589102号公報(特許文献1)には、甘草に含まれるグリチルリチン酸に注目して、過剰排卵処理後に得られた胚の品質の改善を目的とした哺乳動物用飼料添加剤と改善方法を目的として、黒毛和種の牛に、少なくとも13%のグリチルリチン酸含量を有する甘草エキスを、胚を回収するまでの60~90日間、持続的に給餌することが記載されている。
また例えば、特開平2-204417号公報(特許文献2)には、甘草疎水性フラボノイド製剤を提供するため、エタノールを抽出溶媒にして甘草根粉砕物より得られた抽出物を吸着樹脂等を用いて精製し、甘草疎水性フラボノイド含量約50%の精製抽出物を得、これに中鎖脂肪酸トリグリセライドを加えて乳化物を製造し、乳化物を乾燥させて粉末化することが記載されている。
また、特開2015-70823号公報(特許文献3)には、甘草抽出液からグリチルリチン酸を晶析させた後の晶析母液に含まれる甘草フラボノイド類を有効成分として利用する果実又は野菜の糖度向上剤及びその製造方法、ならびに糖度向上方法が記載されている。
特開2018-161144号公報(特許文献4)には、甘草の加工物を有効成分として含有する健康肥満維持剤が記載されており、甘草加工物は、グリチルリチン酸、22β-アセトキシグリチルリチン、リコリスサポニンG2、リコリスサポニンH2、リクイリチン、リクイリチゲニン、イソリクイリチン、イソリクイリチゲニン等を含有することが記載されている。
特開2009-203182号公報(特許文献5)には、リコリスサポニンH2を含有する甘草抽出物を用いることで優れたヒアルロニダーゼ阻害作用を有した食品組成物を提供し、ニキビ、肌荒れ等の課題を解決することが記載されている。
特許第6589102号公報 特開平2-204417号公報 特開2015-70823号公報 特開2018-161144号公報 特開2009-203182号公報
しかしながら、従来の甘草抽出物は、例えば哺乳動物または家畜の健康状態を維持、または、向上させるために必要な複数の機能を同時に果たす効果が十分ではなかった。
そこで、この発明の目的は、多機能性原料として使用することが可能な甘草抽出物を提供することである。
本発明者は、鋭意研究の結果、従来から有効成分として利用されてきたグリチルリチン酸や甘草フラボノイド類のそれぞれを個別に高純度で用いたり、高濃度で用いたりするのではなく、グリチルリチン酸と甘草フラボノイド類に加えて、グリチルリチン酸以外の甘草サポニン類との複合的な作用によって、様々な用途において、それぞれを単独で用いる場合からは予想できない高い効果を得ることができ、甘草抽出物を多機能性原料として用いることができることを見出した。以上の知見に基づいて、本発明は次のように構成される。
本発明に従った甘草抽出物は、(A)グリチルリチン酸、グリチルリチン酸誘導体、グリチルレチン酸、および、グリチルレチン酸誘導体からなる群から選択される1つ以上と、(B)上記(A)以外の甘草サポニン類と、(C)甘草フラボノイド類とを含み、(B)は、リコリスサポニンH2と、リコリスサポニンG2と、マセドノシドAを含む。
このようにすることにより、多機能性原料として使用することが可能な甘草抽出物を提供することができる。
試験1の各区のオス10頭平均の食べ残し量の比較を示す図である。 試験1の各区のメス10頭平均の食べ残し量の比較を示す図である。 試験1の各区のオス10頭平均の総コレステロール値を示す図である。 試験1の各区のメス10頭平均の総コレステロール値を示す図である。 試験1の各区のオス8頭平均の総コレステロール値を示す図である。 試験1の各区のメス8頭平均の総コレステロール値を示す図である。 試験1の各区のオス10頭平均のビタミンA値を示す図である。 試験1の各区のメス10頭平均のビタミンA値を示す図である。 試験1の各区のオス8頭平均のビタミンA値を示す図である。 試験1の各区のメス8頭平均のビタミンA値を示す図である。 試験1の各区のオス10頭平均のGOT値を示す図である。 試験1の各区のメス10頭平均のGOT値を示す図である。 試験1の各区のオス8頭平均のGOT値を示す図である。 試験1の各区のメス8頭平均のGOT値を示す図である。 試験1の各区のオス10頭平均のセリ市場出荷時の重量を示す図である。 試験1の各区のメス10頭平均のセリ市場出荷時の重量を示す図である。 試験1の各区のオス8頭平均のセリ市場出荷時の重量を示す図である。 試験1の各区のメス8頭平均のセリ市場出荷時の重量を示す図である。 試験2の各区のオス10頭平均の食べ残し量の比較を示す図である。 試験2の各区のメス10頭平均の食べ残し量の比較を示す図である。 試験2の各区のオス10頭平均の総コレステロール値を示す図である。 試験2の各区のメス10頭平均の総コレステロール値を示す図である。 試験2の各区のオス8頭平均の総コレステロール値を示す図である。 試験2の各区のメス8頭平均の総コレステロール値を示す図である。 試験2の各区のオス10頭平均のビタミンA値を示す図である。 試験2の各区のメス10頭平均のビタミンA値を示す図である。 試験2の各区のオス8頭平均のビタミンA値を示す図である。 試験2の各区のメス8頭平均のビタミンA値を示す図である。 試験2の各区のオス10頭平均のGOT値を示す図である。 試験2の各区のメス10頭平均のGOT値を示す図である。 試験2の各区のオス8頭平均のGOT値を示す図である。 試験2の各区のメス8頭平均のGOT値を示す図である。 試験2の各区のオスの導入時体重を示す図である。 試験2の各区のメスの導入時体重を示す図である。 試験2の各区のオスの到着時体重を示す図である。 試験2の各区のメスの到着時体重を示す図である。 試験2の各区のオスの増体重を示す図である。 試験2の各区のメスの増体重を示す図である。 試験2の各区のオスの食用肝臓廃棄率を示す図である。 試験2の各区のメスの食用肝臓廃棄率を示す図である。 試験2の各区のオスの枝肉重量を示す図である。 試験2の各区のメスの枝肉重量を示す図である。 試験2の各区のオス10頭平均の枝肉歩留率を示す図である。 試験2の各区のメス10頭平均の枝肉歩留率を示す図である。 試験2の各区のオス8頭平均の枝肉歩留率を示す図である。 試験2の各区のメス8頭平均の枝肉歩留率を示す図である。 試験3の各区のオス12頭平均の食べ残し量を示す図である。 試験3の各区のメス12頭平均の食べ残し量を示す図である。 試験3の各区のオス12頭平均の完食までの日数を示す図である。 試験3の各区のメス12頭平均の完食までの日数を示す図である。 試験4の各区のオス10頭平均の食べ残し量の比較を示す図である。 試験4の各区のメス10頭平均の食べ残し量の比較を示す図である。 試験4の各区のオス10頭平均の総コレステロール値を示す図である。 試験4の各区のメス10頭平均の総コレステロール値を示す図である。 試験4の各区のオス8頭平均の総コレステロール値を示す図である。 試験4の各区のメス8頭平均の総コレステロール値を示す図である。 試験4の各区のオス10頭平均のビタミンA値を示す図である。 試験4の各区のメス10頭平均のビタミンA値を示す図である。 試験4の各区のオス8頭平均のビタミンA値を示す図である。 試験4の各区のメス8頭平均のビタミンA値を示す図である。 試験4の各区のオス10頭平均のGOT値を示す図である。 試験4の各区のメス10頭平均のGOT値を示す図である。 試験4の各区のオス8頭平均のGOT値を示す図である。 試験4の各区のメス8頭平均のGOT値を示す図である。 試験5の下痢の発生割合を示す図である。 試験5の下痢の治療日数平均を示す図である。 試験5の風邪の発生割合を示す図である。 試験5の風邪の治療日数平均を示す図である。
以下、本発明の甘草抽出物について具体例を交えながら詳細に説明する。本発明は以下に示される実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想を逸脱しない範囲内で各種の変更が可能である。
本発明において甘草とは、カンゾウ属に属する植物をいう。カンゾウ属は、地中海地方、小アジア、ロシア南部、中央アジア、中国北部、北アメリカ等に自生するマメ科の多年草である。本発明においては、例えば、Glycyrrhiza acanthocarpa、G.aspera、G.astragalina、G.bucharica、G.echinata(ロシアカンゾウ)、G.eglandulosa、G.foetida、G.foetidissima、G.glabra(スペインカンゾウ)、G.gontscharovii、G.iconica、G.inflate、G.korshinskyi、G.lepidota(アメリカカンゾウ)、G.pallidiflora、G.squamulosa、G.triphylla、G.uralensis(ウラルカンゾウ)、G.yunnanensis、G.inflata(新疆カンゾウ)を用いることができる。これらは1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
本発明の甘草抽出物は、(A)グリチルリチン酸、グリチルリチン酸誘導体、グリチルレチン酸、および、グリチルレチン酸誘導体からなる群から選択される1つ以上と、(B)上記(A)以外の甘草サポニン類と、(C)甘草フラボノイド類とを含み、(B)は、リコリスサポニンH2と、リコリスサポニンG2と、マセドノシドAを含む。
本発明において、グリチルリチン酸誘導体は、限定ではなく、例えばグリチルリチン酸ジカリウムである。グリチルレチン酸誘導体は、限定ではなく、例えばグリチルレチン酸ジカリウムである。本発明の甘草抽出物において、(A)はグリチルリチン酸であることが好ましい。甘草抽出物は、(A)グリチルリチン酸、グリチルリチン酸誘導体、グリチルレチン酸、および、グリチルレチン酸誘導体からなる群から選択される1つ以上を10質量%以上含むことが好ましく、14質量%以上含むことがさらに好ましい。
甘草抽出物は、上記(A)以外の甘草サポニン類を3質量%以上含むことが好ましく、9質量%以上含むことがさらに好ましい。(B)は、リコリスサポニンH2を2質量%以上含み、リコリスサポニンG2を0.5質量%以上含み、マセドノシドAを0.5質量%以上含むことが好ましい。(B)成分として、リコリスサポニンH2、リコリスサポニンG2、および、マセドノシドA以外の甘草サポニン類を含んでもよい。
甘草抽出物は、(C)甘草フラボノイド類を4質量%以上含むことが好ましく、19質量%以上含むことがさらに好ましい。(C)甘草フラボノイド類として、リクイリチンアピオシド、リクイリチン、リクイリチゲニン、リクイリチゲニンアピオシド、イソリクイリチン、イソリクイリチゲニンを含むことが好ましい。(C)成分として、その他の甘草フラボノイド類を含んでもよい。
本発明の甘草抽出物は甘草の成分を抽出、分離、精製して得られる甘草エキスなどの甘草抽出物である。甘草抽出物の形態は限定されず、水あめ状、粘稠性の液体、液体、懸濁液、粉末、顆粒、錠剤、球状、団子状等、性質や用途に応じて選択される。甘草抽出物の形態は粉末であることが好ましい。
本発明の甘草抽出物の一例として甘草抽出物の製造方法の一例を説明する。本発明の甘草抽出物の製造工程は、工程A~Cの少なくとも1つ以上を含むことが好ましい。
工程A
工程Aは甘草根から抽出液を得る工程である。甘草の根の1種、または2種以上を乾燥し破砕し、水およびアンモニアを加えて甘草根から抽出液を得る。抽出液に硫酸を加えて沈殿させ、粘エキスと上清を分離する。粘エキスを乾燥し、得られた1次抽出物を甘草抽出物(濃縮甘草)とする。
工程B
工程Bは分離精製工程である。工程Aで得られた濃縮甘草をエタノール水溶液に溶解し、ろ過して不溶物を取り除く。得られた抽出液にアンモニアを加え甘草サポニンをアンモニウム塩として晶析(結晶化)させ、ろ過して結晶と抽出母液に分離する。抽出母液を減圧濃縮し、エタノールを回収し、炭酸ナトリウムを加えpHを6~7に調整する。得られた濃縮液をスプレードライで乾燥し、混合し、甘草抽出物を得る。
工程C
工程Cは別の分離精製工程である。工程Bで得られた抽出母液に活性炭を加えて不純物を取り除き、得られた液をスプレードライで乾燥して甘草抽出物を得ることができる。
甘草抽出物は必要に応じて包装されてもよい。
甘草抽出物の抽出溶媒は限定ではなく、例えば水、アルコール(例えばメタノール、エタノール、n-プロパノール、n-ブタノールなど)、アセトン、酢酸エチルなどを用いることができる。また、乾燥粉末を得る場合には、上述の甘草抽出物に対し、例えば減圧乾燥や噴霧乾燥等、公知の手法を用いることができる。
甘草抽出物の製造においては、各成分が所望の濃度になるように、工程A~Cの各工程を繰り返し、および/または、省略することができる。また、各成分が所望の濃度になるように、工程A~Cの各工程で得られた甘草抽出物を混合して新たな甘草抽出物を得ることもできる。
本発明の甘草抽出物をそのまま、または、他の成分や添加物を加えて、食品、サプリメント、または、飼料添加剤等として用いることができる。例えば、甘草抽出物と、乾燥させた甘草根を粉砕した甘草根末を組み合わせて甘草加工物として用いてもよい。
本発明の甘草抽出物をそのまま、または、他の成分や添加物を加えて、飼料添加剤として飼料に添加することによって、哺乳動物または家畜の健康を維持および向上させるために必要な複数の機能を同時に飼料に付与することができる。本発明の飼料添加剤中の甘草抽出物の含有量は100質量%であってもよい。
本発明において、哺乳動物とは、限定ではなく、例えば、サル、イヌ、ネコ、ヤギ、ヒツジ、ブタ、ウシ、モルモット、ウサギ、マウス、ラット、または、ヒトであり、好ましくはウシである。本発明において、家畜には、哺乳動物の他、鶏、鳩、家鴨などの鳥類も含まれる。
本発明において、飼料とは、哺乳動物または家畜による摂取に適し、またはそれが意図される、あらゆる化合物、調製品、混合物、または組成物を意味する。本発明において飼料添加剤とは、家畜等の栄養に供することを目的として使用される餌(飼料)に添加して飼料の品質保持や補助栄養として利用される添加剤のことである。
飼料添加剤の剤型は限定されず、水あめ状、粘稠性の液体、液体、懸濁液、粉末、顆粒、錠剤、球状、団子状等、性質や用途に応じて選択される。
飼料添加剤中の本発明の甘草抽出物の含有量は、限定ではなく、1g/日/頭以上であることが好ましく、10g/日/頭未満であることが好ましく、5g/日/頭以下であることがより好ましい。従来、飼料添加剤として用いられる甘草抽出物は、例えば10~40g/日/頭の量で添加されていたが、本発明の甘草抽出物はより少ない添加量で複数の機能を飼料に付与することができる。
飼料添加剤には、任意で水溶性食物繊維を含んでもよい。水溶性食物繊維は、水に添加されると粘性のあるゾル状になる。水溶性食物繊維としては、限定ではなく、プランタゴオバタ種皮(サイリューム)、カラギーナン、キサンタンガム、カードラン、ペクチン、アラビアガム、アルギン酸、キチン、キトサン、グアガム、グルコマンナン、ジェランガム、タラガム、タマリンドガム、トラガントガム、プルラン、難消化性デキストリン、ポリデキストロースなどを用いることができ、グルコマンナンを用いることが好ましい。グルコマンナンは、水または含水エタノールなどで精製した上で用いてもよく、グルコマンナン含有物としてこんにゃく粉を用いてもよい。一般的なこんにゃく粉は平均粒子径が約420μm(35メッシュ全通)であり、比較的粒子径が大きいが、本発明の飼料添加剤には平均粒子径が約177μm(80メッシュ全通)以下のこんにゃく粉または粉末状のグルコマンナンを用いることが好ましい。このようにすることにより、粒子の表面積が大きくなり、水との親和性が高くなり、グルコマンナンの膨潤速度が速くなる。グルコマンナンを添加することによって甘草加工物の整腸作用を高めることができる。
甘草抽出物と水溶性食物繊維は、本発明の飼料添加剤中、甘草抽出物:水溶性食物繊維が10:90~40:60の質量比で含まれることが好ましい。
本発明の飼料添加剤は、さらに、デンプン分解物を含むことが好ましい。デンプン分解物を含む場合は、甘草抽出物:水溶性食物繊維:デンプン分解物が10:30:60の質量比で含まれることが好ましい。
本発明の甘草抽出物を含む飼料添加剤を哺乳動物または家畜に給与することによって、哺乳動物または家畜の食餌摂取量の増量、血液中の総コレステロール値の増加、血液中のビタミンA値の増加、血液中のGOT値の低下、体重の増加、下痢の予防、下痢の治療日数の低減、風邪の予防、および、風邪の治療日数の低減からなる群から選択される少なくとも1つによって、健康状態を改善するために飼料添加剤を給与することができる。
本発明の甘草抽出物を含む飼料添加剤を給与される哺乳動物または家畜は食肉生産用の家畜であることが好ましく、飼料添加剤を哺乳動物または家畜に給与することによって、枝肉の重量を増加し、枝肉歩留率を改善し、および/または、肉畜の肝臓廃棄率を低減するために飼料添加剤を給与することができる。
本発明を要約すると以下の通りである。
(1)甘草抽出物は、(A)グリチルリチン酸、グリチルリチン酸誘導体、グリチルレチン酸、および、グリチルレチン酸誘導体からなる群から選択される1つ以上と、(B)上記(A)以外の甘草サポニン類と、(C)甘草フラボノイド類とを含み、(B)は、リコリスサポニンH2と、リコリスサポニンG2と、マセドノシドAを含む。
(2)上記(1)の甘草抽出物は、(C)甘草フラボノイド類は、リクイリチンアピオシド、リクイリチン、リクイリチゲニン、リクイリチゲニンアピオシド、イソリクイリチン、および、イソリクイリチゲニンを含むことが好ましい。
(3)上記(2)の甘草抽出物は、(A)を10質量%以上、および/または、(B)を3質量%以上、および/または、(C)を4質量%以上含むことが好ましい。
(4)上記(3)の甘草抽出物においては、(B)はリコリスサポニンH2を2質量%以上含み、リコリスサポニンG2を0.5質量%以上含み、マセドノシドAを0.5質量%以上含むことが好ましい。
(5)上記(4)の甘草抽出物においては、(A)を14質量%以上、(B)を9質量%以上、(C)を19質量%以上含むことが好ましい。
(6)哺乳動物または家畜の飼料添加剤は、上記(1)~(5)のいずれかの甘草抽出物と、任意で水溶性食物繊維を含むことが好ましい。
(7)上記(6)の飼料添加剤においては、甘草抽出物:水溶性食物繊維が10:90~40:60の質量比で含まれることが好ましい。
(8)上記の(7)の飼料添加剤においては、水溶性食物繊維はグルコマンナンであることが好ましい。
(9)哺乳動物または家畜の飼育方法は、上記(6)に記載の飼料添加剤を哺乳動物または家畜に給与することによって、哺乳動物または家畜の食餌摂取量の増量、血液中の総コレステロール値の増加、血液中のビタミンA値の増加、血液中のGOT値の低下、体重の増加、下痢の予防、下痢の治療日数の低減、風邪の予防、および、風邪の治療日数の低減からなる群から選択される少なくとも1つによって、健康状態を改善することが好ましい。
(10)哺乳動物または家畜の飼育方法は、哺乳動物または家畜は食肉生産用の家畜であり、上記(6)に記載の飼料添加剤を哺乳動物または家畜に給与することによって、枝肉の重量を増加し、枝肉歩留率を改善し、および/または、肉畜の肝臓廃棄率を低減することが好ましい。
(11)本発明に従った飼料効率を増大させる方法は、哺乳動物または家畜は食肉生産用の家畜であり、上記(6)に記載の飼料添加剤を哺乳動物または家畜に給与することによって、飼料効率を増大させる方法である。
本発明に係る甘草抽出物と、甘草抽出物を含む飼料添加剤を用いる哺乳動物または家畜の飼育方法をより詳細に説明する。
<甘草抽出物の製造>
甘草としてグラブラ(glabra)種とウラレンシス(uralensis)種とインフラータ(inflata)種を用いて、以下の工程で甘草抽出物を製造した。実施例1,2,4,5,7,8および比較例1ではグラブラ(glabra)種を用いた。実施例9ではインフラータ(inflata)種を用いた。実施例3ではグラブラ(glabra)種とウラレンシス(uralensis)種を用いた。実施例6,10ではグラブラ(glabra)種とインフラータ(inflata)種を用いた。
工程A
甘草の根の1種、2種、または、3種を乾燥し破砕した。粉砕した甘草根1kgに約8~10Lの常温の水およびアンモニア水を適量加えて抽出し、抽出液を得た。その際、pH9前後になるように、加えるアンモニア水の量を調整した。得られた抽出液に硫酸を加えて成分を沈殿させ、粘エキスと上清(上澄み)を分離した。その際、硫酸の量は沈殿スラッジのpH1.8前後になるよう調整した。分離した粘エキスを乾燥し、得られた1次抽出物を甘草抽出物(濃縮甘草)とした。工程Aは、所望の成分含有量を得るまで、必要に応じて繰り返した。
工程B
工程Aで得られた濃縮甘草100gに90%前後のエタノール600~800mLを加えて抽出し、ろ過して不要物を除去し、抽出液を得た。抽出液を50~60℃に加温し、アンモニアを加え、甘草サポニンをアンモニア塩として晶析(結晶化)させた。常温まで冷却した後、甘草サポニンのアンモニウム塩を遠心分離して取り除き、抽出母液(甘草抽出液)を得た。その際、加えるアンモニア水の量は、晶析スラッジのpH5前後になるように調整した。ここまでの工程は、所望の成分含有量を得るまで、必要に応じて繰り返した。抽出母液(甘草抽出液)を減圧濃縮し、エタノールを回収し、残液を約100mLとした。減圧濃縮した抽出母液(甘草抽出液)に炭酸ナトリウムを加え、pHを6~7に調整した。得られた液をスプレードライで乾燥し、甘草抽出物を得た。
工程C
工程Bで得られた抽出母液(甘草抽出液)に活性炭を加えて不純物を取り除き、この工程を1~2回行い、抽出母液(甘草抽出液)を得た。得られた液をスプレードライで乾燥して甘草抽出物を得た。
各成分の含有量が所望の量になるよう、工程A~Cの各工程で得られた甘草抽出物を必要に応じて混合した。
実施例1~6の甘草抽出物は、工程Aと工程Bによって製造した。実施例7,8の甘草抽出物は、工程A~Cの各工程で得られた甘草抽出物を混合して製造した。実施例9,10の甘草抽出物は、工程Aによって製造した。比較例1の甘草抽出物は、工程A~Cによって製造した。
<甘草抽出物中の成分の測定>
各実施例と比較例の甘草抽出物の(A)グリチルリチン酸、グリチルリチン酸誘導体、グリチルレチン酸、および、グリチルレチン酸誘導体からなる群から選択される1つ以上のうち、グリチルリチン酸、および、(B)リコリスサポニンH2、リコリスサポニンG2、マセドノシドAを次の条件でHPLC分析によって測定した。
<測定用試料の調製>
測定用の試料の調製は、水に溶ける甘草抽出物は(1)、水に溶けない甘草抽出物は(2)に従って行った。
(1)水に溶ける甘草抽出物
試料約200mgを量り取り、水を加えて正確に100mLとして試料溶液とした。別にグリチルリチン酸標準品を用いて調製した標準溶液を用いて液体クロマトグラフィーにより分析を行った。ただし試料の採取量は乾燥物換算%で補正した。
(2)水に溶けない甘草抽出物
試料0.1gを量り取り、アンモニア水(28%)3滴及び水で正確に50mLとし試料溶液とした。別にグリチルリチン酸標準品に希エタノールを加えて標準溶液を調製した。標準溶液を用いて液体クロマトグラフィーにより分析を行った。ただし試料の採取量は式1によって乾燥物換算%で補正した。
Figure 2024053914000001
AT:試料溶液の面積 AS:標準溶液の面積
WS:標準溶液濃度 WT:乾燥物換算した試料溶液濃度
<グリチルリチン酸の測定>
グリチルリチン酸測定の試験条件(高圧対応HPLC(アジレント・テクノロジー株式会社製LC1290))は次の通りであった。
検出器:紫外吸光光度計(測定波長254nm)
カラム:Tosoh TSK Gel ODS80TsQA
カラム温度:30℃付近の一定温度
流速:グリチルリチン酸の保持時間が約7~8分になるように調整した
移動相:2%酢酸:アセトニトリル=60:40
注入量:20μL
<甘草サポニン類の測定>
甘草サポニン類測定の試験条件(高圧対応HPLC(アジレント・テクノロジー株式会社製LC1290))は次の通りであった。
検出器:紫外吸光光度計(測定波長:254nm)
カラム:TSK Gel ODS80TsQA
カラム温度:30℃付近の一定温度
流速:0.8mL/分
移動相:移動相A:0.1%ギ酸(水)/移動相B:0.1%ギ酸(アセトニトリル)
注入量:20μL
移動相の濃度勾配は、流量比をA:B=90:10(0~3分)から10:90(3分~60分)に変化させた。
<甘草フラボノイド類の測定>
各実施例と比較例の甘草フラボノイド類は次の試験条件でHPLC分析によって測定した。測定用の試料は上述のグリチルリチン酸とその他の甘草サポニン類の測定と同様に調製した。標準溶液としてはグリチルリチン酸標準溶液(測定波長254nm)、リクイリチン酸標準溶液(測定波長280nm)、イソリクイリチゲニン酸標準容器(測定波長355nm)、イソリクイリチン酸標準溶液(測定波長355nm)を用いて、試料溶液及び標準溶液を液体クロマトグラフィーによりグラジェント分析しフラボノイド含量を求めた。ただし試料の乾燥物換算%で補正した。
測定条件(高圧対応HPLC(アジレント・テクノロジー株式会社製LC1290))は次の通りであった。
検出器:紫外吸光光度計(測定波長:280nm,355nm)
カラム:TSK Gel ODS80TsQA
カラム温度:30℃付近の一定温度
流速:0.8mL/分
移動相:移動相A:0.1%ギ酸(水)/移動相B:0.1%ギ酸(アセトニトリル)
注入量:20μL
移動相の濃度勾配は、流量比をA:B=90:10(0~3分)から10:90(3分~60分)に変化させた。
得られた甘草抽出物の主な成分を表1に示す。なお、表1中の「%」は質量%を意味する。
Figure 2024053914000002
本発明の甘草抽出物による効果を確認するため、哺乳動物または家畜として食肉生産用の家畜である牛を対象に、以下の試験を行った。
試験1.生後5日齢から約240日齢~約270日齢まで
子牛は生後、高濃度の代用乳で哺乳育成された後、生後約80日齢から徐々に離乳して飼料給与による育成に切り替えられる。高濃度の代用乳によって消化器官に負担がかかると、飼料摂取量の低下やバラツキを引き起こす。また、離乳時に哺乳育成枠から飼料育成枠に移動する際の環境変化によるストレスや群飼いによるストレス、代用乳から配合飼料や粗飼料への切り替えによるストレスによっても飼料摂取量の低下やバラツキが起きる。このような消化器官への負担、ストレス、飼料摂取量の低下やバラツキによって、消化器官の発達、例えば、胃の中のルーメンの発達が遅れ得る。飼料摂取量の低下やバラツキ、消化器官の発達の遅れは、発育を遅らせ、飼料効率を低下させる。
そこで、生後5日齢から約240日齢~約270日齢までの子牛に本発明の甘草抽出物を飼料添加剤として給与することにより、離乳時の飼料の食べ残しの量の低減(食餌摂取量の増加)、栄養状態(血液検査の総コレステロール値、ビタミンA値、GOT値)、体重に与える本発明の甘草抽出物の影響を調べた。
通常、約90日齢で離乳させることを目安に約80日齢から代用乳及び餌付け飼料を徐々に減らしながら、イナワラ・オーツヘイ・配合飼料の給与量を増やしていく。しかし本試験では、甘草抽出物による効果を明確に確認するために、約80日齢で完全離乳させた。
対象は、生後5日齢~10日齢から子牛セリ市場出荷時日齢(オス241~261日齢、メス246~291日齢)までの黒毛和種オス子牛30頭、メス子牛30頭、合計60頭であった。表2に示す3群に分けた。
Figure 2024053914000003
KS区は実施例5の甘草抽出物を生後約5日齢から飼料添加剤として飼料に添加し、K区では比較例1の甘草抽出物を飼料添加剤として飼料に添加した。無給与区は甘草抽出物を飼料に添加しなかった。甘草抽出物以外の飼料(代用乳、人工乳、配合飼料、牧草等粗飼料)は表3(オスの1頭当たりの給与飼料)と表4(メスの1頭当たりの給与飼料)に示す飼料を1日3回に分けて、81日齢以降は配合飼料、イナワラ、オーツヘイの順番で、各群に同量を同時間に給与した。餌付け飼料とオーツヘイは生後約2週間後から給与した。
Figure 2024053914000004
Figure 2024053914000005
KS区では、生後約5日目から1g/日/頭、生後約41日から2g/日/頭、生後約81日から約240日~約270日まで3g/日/頭の実施例5の甘草抽出物を飼料添加剤として飼料に添加して給与した。K区では、生後約5日目から1g/日/頭、生後約41日から2g/日/頭、生後約81日から約240日~約270日まで3g/日/頭の比較例1の甘草抽出物を飼料添加剤として飼料に添加して給与した。
1.1 食べ残し量
上述のように、約81日齢以降は飼料を配合飼料、イナワラ、オーツヘイの順番で給与したため、残飼料が発生する場合はオーツヘイが残飼料となる。従ってオーツヘイの残飼料重量を食べ残し量として計測した。約81日齢の離乳初日を第1日目とし、食べ残しの量の推移を図1と図2に示す。
図1に示すように、オスは、KS区では離乳初日から食べ残しがなく完食し続けた。K区では、8~9日目の2日間で一度完食したが、再度食べ残しが発生し、完食継続までに11日間要した。無給与区は完食継続までに14日間要した。
図2に示すように、メスは、KS区では離乳1日目(約81日齢)及び3日目に完食し2日目及び4日目に食べ残しが発生し、5日目から完食継続した。K区は、完食のバラつきを見せながら、12日目から完食継続した。無給与区は、完食継続まで15日間を要した。
生後約5日齢から実施例5の甘草抽出物を給与していたKS区では、約81日齢の離乳時から甘草抽出物の給与による効果が表れていた。グリチルリチン酸を13%以上含む甘草抽出物を給与したK区と比較しても高い効果が確認されたことで、食べ残し量の低減(食餌摂取量の増加)に対する実施例5の甘草抽出物に含まれるグリチルリチン酸、甘草サポニン類、甘草フラボノイド類の相乗効果が確認された。
上述のように、飼料摂取量は子牛のストレスや消化器官の負担、消化器官の発達程度を反映すると考えられる。離乳直後から完食し、飼料摂取量が多いKS区では、K区、無給与区と比較して、牛のストレスが低減され、消化器官の負担が少なく、消化器官の発達状態がよいと考えられる。
1.2 血液検査結果(総コレステロール値、VA値、GOT値)
牛の栄養状態や代謝状態を把握するため、血液検査を行い、総コレステロール値、ビタミンA値(VA値)、GOT値を測定した。総コレステロール値は総合的な栄養摂取状況を反映する。VA値は成長や発育に関連し、ビタミンAの欠乏は発育障害や免疫力の低下をまねく。GOT値は急性の肝障害や臓器障害の判断材料となる。特にGOT値が高値の場合は肝臓の疾患が疑われる。
全ての牛の血液検査(総コレステロール値、VA値、GOT値)を生後約40日齢と約160日齢の2回実施した。
オス・メス各区10頭の平均値と10頭中の数値最上位と最下位の2頭を除いた8頭の平均値を図3~図6(総コレステロール値)、図7~図10(VA値)、図11~図14(GOT値)に示す。
図3~図6に示すように、離乳前の生後約5日齢から本発明の甘草抽出物を給与したKS区では、オス・メス共に生後約40日齢と約160日齢のいずれの時点でも他区に比べて高い数値となっている。高い総コレステロール値は、栄養摂取状態がよいこと、代謝が促進されていることを示すと考えられる。一方、無給与区では栄養不足が疑われる。栄養不足は免疫力を低下させたり、疾病にかかる危険性を高めたりする。本発明の甘草抽出物は、栄養状態と代謝をよくすることができることがわかった。
図7~図10に示すように、KS区ではオス・メス共にVA値も高かった。ビタミンAは発育に欠かせない成分であり、VA値は増体(家畜の体重増加量)に影響を及ぼす。しかしVAは体内で合成できないため、食物によって体内に取り込まなければならない。VAが極端に少なくなると発育障害や免疫力の低下をまねき、風邪や下痢などの疾病を発症する場合がある。KS区ではVA値が生後約40日齢と約160日齢のいずれの時点でも他区よりも高く、特に生後約160日齢では他区と比べてより高くなっており、KS区が増体に有利であることが示されている。本発明の甘草抽出物は増体に必要なVA値を増加・維持させることができることがわかった。
図11~図14に示すように、KS区では生後約40日齢と生後約160日齢のいずれの時点でも他区に比べてGOT値が低かった。KS区ではさらに、生後約40日齢よりも生後約160日齢でGOT値が低かった。一方、K区では生後約40日齢と生後約160日齢のGOT値がほぼ横ばいであった。無給与区では、生後約40日齢の血液検査で他区よりもGOT値が高く、生後約160日齢ではさらに上昇した高いGOT値が確認された。本発明の甘草抽出物は肝機能を高める効果があることがわかった。
以上の結果から、グリチルリチン酸を多く含有するK区の甘草抽出物(比較例1)よりも、甘草フラボノイド類と、グリチルリチン酸以外の甘草サポニン類を含有するKS区の甘草抽出物(実施例5)が、グリチルリチン酸による効果ではなく、グリチルリチン酸とその他の甘草サポニン類と甘草フラボノイド類の複合的な効果によって、栄養状態と代謝(総コレステロール値)、発育状態(ビタミンA値)、肝機能(GOT値)によい影響を与えることがわかった。
1.3 体重
牛はセリ市場出荷時に、セリ市場にて個体別体重を必ず測定される。セリ市場出荷時に測定した体重のオス・メス各区10頭の平均値と10頭中の数値最上位と最下位の2頭を除いた8頭の平均値を図15~図18に示す。なお、セリ市場開催日が限定されているため、出荷時日齢に多少の差がある。
図15~図18に示すように、オス・メス共にKS区の体重が他区よりも大きかった。上述のように、本発明の甘草抽出物を飼料添加剤として給与することによって、KS区では他区と比べて飼料摂取量が多く、栄養状態と代謝、発育状態、肝機能がよいため、免疫力を低下させず、疾病の発生を防ぐことができ、例えば疾病による食欲不振、食餌摂取量の低下も防ぐことができ、増体につながったと考えられる。
増体が大きいことは、セリ市場への出荷日齢の短縮、すなわち、飼育期間の短縮を可能にし、人件費や飼料代などの経費を削減することにつながる。また、KS区、K区、無給与区で、甘草抽出物以外は同じ種類、同じ量の飼料を給与したにも関わらず、KS区で他区よりも増体が大きいことから、本発明の甘草抽出物を飼料添加剤として給与することによって飼料効率を増大させることができることがわかる。
生後約5日齢から約240日齢~約270日齢の間には哺育期、離乳時期、その後の成長過程があり、飼料の種類、給与内容、給与方法が変化していく。牛は些細な環境変化で精神的・肉体的ストレスを強く感じ体調に変化が生じることが知られているが、本発明の甘草抽出物を飼料添加剤として給与することによって、環境の変化やストレスが飼料摂取量、栄養状態、代謝、発育、肝機能に与える悪影響を低減することができ、増体させることができた。
試験2.肥育導入時から枝肉市場出荷まで
育成農家からセリ市場に出荷された子牛は、その後、肥育農家に導入される。この間、子牛は、育成農家から子牛セリ会場へトラック輸送により移動し、セリ購入落札後に新しい肥育農家の牧場にトラックで移送されることによる移動のストレスや、生育場所と飼育者等が変わることによる環境変化のストレスを受ける。北海道の市場から鹿児島、宮崎などの牧場までの長距離の移動もよくある。さらに、肥育牧場に導入された日から、給与される飼料の種類や量などが変わることによるストレスや、肥育牧場でのヒートストレスとコールドストレス(暑熱期・寒冷期のストレス)や群飼い等のストレスもある。これらのストレスは牛の飼料摂取量、栄養状態、代謝、発育、肝機能に悪影響を及ぼし得る。また、肥育牧場への導入時には、増体目的で既に高濃度の配合飼料や多種多様な添加剤等を食餌していたことで消化器官や内臓器官、特に肝機能がダメージを受けていることが多い。
そこで、肥育導入時から販売目的で枝肉市場に出荷するまでの牛に本発明の甘草抽出物を飼料添加剤として給与することにより、肥育導入時の食べ残しの量、栄養状態(血液検査の総コレステロール値、ビタミンA値、GOT値)、体重、肝臓廃棄率、枝肉重量、枝肉歩留率に与える本発明の甘草抽出物の影響を調べた。
対象は、約9ヶ月齢~約10ヶ月齢(生後266日齢から308日齢)の黒毛和種オス牛30頭、および、約9ヶ月齢~約10ヶ月齢(生後274日齢から304日齢)の黒毛和種メス牛30頭、合計60頭であった。子牛セリ市場で購入時に計測される体重結果を基に、各区の個別体重および日齢がほぼ平等になるように表5に示す3群に分けた。
Figure 2024053914000006
KS区は実施例5の甘草抽出物を飼料添加剤として飼料に添加し、K区では比較例1の甘草抽出物を飼料添加剤として飼料に添加した。無給与区は甘草抽出物を飼料に添加しなかった。甘草抽出物以外の飼料は、表6(オスの1頭当たりの給与飼料)と表7(メスの1頭当たりの給与飼料)に示す飼料を1日3回に分けて、各群に同量を同時間に給与した。肥育牧場導入後、完食するまでは配合飼料、イナワラ、ビール・カス、オーツヘイの順番で給与した。
Figure 2024053914000007
Figure 2024053914000008
KS区では、実施例5の甘草抽出物を3g/日/頭を肥育牧場導入日から約19ヶ月間、飼料添加剤として飼料に添加して給与した。K区では、比較例1の甘草抽出物を3g/日/頭を肥育牧場導入日から約19ヶ月間、飼料添加剤として飼料に添加して給与した。
2.1 食べ残し量
上述のように、飼料を配合飼料、イナワラ、ビール・カス、オーツヘイの順番で給与したため、残飼料が発生する場合はオーツヘイが残飼料となる。従ってオーツヘイの残飼料重量を食べ残し量として計測した。食べ残しの量の推移を図19~図20に示す。
図19に示すように、オスは、KS区では完食まで給与開始後5日、K区は完食まで9日間を要し、無給与区は完食まで14日間を要した。
図20に示すように、メスは、KS区では完食まで給与開始後4日、K区は完食まで10日間を要し、無給与区では完食までオス同様14日間を要した。
本発明の甘草抽出物の給与が肥育導入後に開始されても、グリチルリチン酸を13%以上含む甘草抽出物を給与したK区と比較しても高い効果が確認されたことで、実施例5の甘草抽出物に含まれるグリチルリチン酸、甘草サポニン類、甘草フラボノイド類の相乗効果が確認された。
肥育導入直後から完食し、飼料摂取量が多いKS区では、K区、無給与区と比較して、牛のストレスが低減され、消化器官の負担が少なく、消化器官の機能や状態がよいと考えられる。
2.2 血液検査結果(総コレステロール値、VA値、GOT値)
全ての牛の血液検査(総コレステロール値、VA値、GOT値)を肥育牧場への導入時、導入後6ヶ月、導入後12か月の3回実施し、総コレステロール値、GOT値、VA値を測定した。
オス・メス各区10頭の平均値と10頭中の数値最上位と最下位の2頭を除いた8頭の平均値を図21~図24(総コレステロール値)、図25~図28(VA値)、図29~図32(GOT値)に示す。
図21~図24に示す通り、総コレステロール値はオス・メス共にKS区が高い数値となった。この結果から、上述の通りKS区では肥育導入後、他区よりも早い段階から飼料摂取量が多かったが、それに加えて、摂取した飼料の消化吸収と代謝もよかったことがわかる。
図25~図28に示すように、VA値もオス・メス共にKS区が高い数値となった。肥育導入時と比較して6か月後と12か月後ではどの区でもVA値が低下しているが、KS区では6か月後と12か月後はほぼ横ばいを維持したかむしろ向上した。一方、K区と無給与区では6か月後から12か月後にかけてさらにVA値が低下した。
図29~図32に示すように、オス・メス共にKS区では肥育導入後6か月後と12か月後のいずれの時点でも他区に比べてGOT値が低かった。K区と無給与区では肥育導入後より6か月後にGOT値が高くなり、12か月後にGOT値がさらに高くなった。
以上の結果から、本発明の甘草抽出物の給与が肥育導入後に開始されても、グリチルリチン酸とその他の甘草サポニン類と甘草フラボノイド類の複合的な効果によって、栄養状態と代謝(総コレステロール値)、発育状態や免疫力(ビタミンA値)、肝機能(GOT値)によい影響を与えることがわかった。
2.3 体重
肥育牧場の導入時と枝肉市場の到着時の体重と増体重を測定した。子牛セリ市場で計測された体重を肥育牧場の導入時の体重とした。肥育牧場から枝肉市場に到着した時に計測した体重を到着時体重とした。導入時体重と到着時体重の差を増体量とした。
図32~図38に示すように、オス・メス共に、到着時体重も増体重もKS区で最も大きかった。増体重が大きいことは、以下の好循環が生まれていることによると考えられる。すなわち、上述のようにKS区では他区よりも肥育導入後早い時期から飼料摂取量が多く、加えて消化吸収と代謝、発育や免疫力、肝機能もよいことによって、環境や飼料の変化があってもストレスの悪影響を受けにくく、消化器官等内臓の状態を良好に保つことができる。その結果、疾病を防ぐことができ、また、疾病による食欲不振も防ぐことができる。こうしてKS区では安定して飼料摂取量が多くなり、枝肉市場への出荷時までに他区よりも大きな増体を得ることができると考えられる。
試験1でも述べた通り、KS区、K区、無給与区で、甘草抽出物以外は同じ種類、同じ量の飼料を給与したにも関わらず、KS区で他区よりも増体が大きいことから、本発明の甘草抽出物を飼料添加剤として給与することを肥育牧場導入日以後に開始しても、飼料効率を増大させることができることがわかる。
2.4 食用肝臓の廃棄割合
屠畜時における食用肝臓の廃棄割合を確認した。食用肝臓の廃棄は経済的損失を招く。枝肉市場出荷時における鋸屑肝、肝出血などの肝臓病変は、肥育期間中の肝臓への負担増加が原因で発生する。肝臓病変が少ないことは、肝機能を健康な状態に維持していたことを示す。
図39~図40に示すように、オス・メス共に、KS区では他区と比べて食用肝臓の廃棄割合が非常に少なかった。グリチルリチン酸を13%以上含む甘草抽出物を給与したK区でも無給与区とほぼ同程度の食用肝臓廃棄率であった。本発明の甘草抽出物は肝機能を健康な状態に維持する効果が非常に大きいことがわかった。
2.5 枝肉重量・歩留率
枝肉市場で枝肉重量を測定した。また、枝肉市場到着時の体重と枝肉重量から枝肉歩留率((枝肉重量/枝肉市場到着時の体重)×100)を算出した。なお、枝肉とは、生体から頭、皮、内臓、血液などを抜いた状態をいい、可食部分となる。
図41~図42に示すように、KS区は、可食部分となる枝肉重量が他区と比べて多いことが分かる。さらに、図43~図46に示すように、KS区では枝肉歩留率も他区と比べて高い。増体がよくても、歩留率がよくなければ体重の割に枝肉が得られない。本発明の甘草抽出物を給与することによって、肥育導入後、早い段階から安定した高い飼料摂取量と消化器官や肝臓の健康を維持することができ、これが増体と枝肉重量、枝肉歩留率の向上をもたらしたと考えられる。
上述の通り、KS区、K区、無給与区で、甘草抽出物以外は同じ種類、同じ量の飼料を給与したにも関わらず、KS区で他区よりも枝肉重量も枝肉歩留率も大きいことから、本発明の甘草抽出物を飼料添加剤として給与することを肥育牧場導入日以後に開始しても、飼料効率を増大させることができることが確認された。
試験3.肥育導入日から10日間のみ給与
「試験2.肥育導入時から枝肉市場出荷まで」において述べた通り、肥育牧場への導入時の子牛は移動や環境変化のストレスを特に受ける。また、肥育牧場への導入時には既に増体目的の食餌によって消化器官など内臓器官や肝機能等がダメージを受けている。そこで、肥育牧場への導入日から10日間のみ甘草抽出物を給与して、飼料の食べ残しの量、飼料の完食までの日数、栄養状態(血液検査の総コレステロール値、ビタミンA値、GOT値)に与える本発明の甘草抽出物の影響を調べた。
対象は、肥育目的で子牛セリ市場にて購入して肥育牧場に導入した約9ヶ月齢~約10ヶ月齢(生後275日齢から308日齢)の黒毛和種オス牛36頭、約9ヶ月齢~約10ヶ月齢(生後279日齢~309日齢)の黒毛和種メス牛36頭であった。肥育牧場への導入時からオス・メスとも表8に示すように4頭1枠×3枠=各区12頭の3群に分けた。
Figure 2024053914000009
KS区は実施例5の甘草抽出物を飼料添加剤として飼料に添加し、K区では比較例1の甘草抽出物を飼料添加剤として飼料に添加した。無給与区は甘草抽出物を飼料に添加しなかった。甘草抽出物以外の飼料は、オスには1頭当たり配合飼料3.0kg、イナワラ0.4kg、ビール・カス(水分50%)2.0kg、オーツヘイ6.0kg、メスには1頭当たり配合飼料3.0kg、イナワラ0.4kg、ビール・カス(水分50%)2.0kg、オーツヘイ5.0kgを、1日3回に分けて、配合飼料、イナワラ、ビール・カス、オーツヘイの順番で、各群に同量を同時間に給与した。飼料摂取量・採食性の増加を確認するため、飼料添加剤(甘草抽出物)の量を通常より増量した。
KS区では、実施例5の甘草抽出物5g/日/頭を肥育牧場導入日から10日間、飼料添加剤として飼料に添加して給与した。K区では、比較例1の甘草抽出物5g/日/頭を肥育牧場導入日から10日間、飼料添加剤として飼料に添加して給与した。本試験は10日間で打ち切った。
3.1 食べ残し量と完食までの日数
上述のように、飼料を配合飼料、イナワラ、オーツヘイの順番で給与したため、残飼料が発生する場合はオーツヘイが残飼料となる。従ってオーツヘイの残飼料重量を食べ残し量として計測した。食べ残しの量の推移を図47と図48に示し、完食までの日数を図49と図50に示す。
図48~図52に示すように、オス肥育牛は、KS区では12頭全て完食するまでに3日、K区は8日間を要し、無給与区は10日間を要した。オスの完食までの平均日数はKS区で2.66日、K区で7.66日、無給与区では8.33日であった。メス肥育牛は、KS区では12頭全てが完食するまでに4日、K区は9日間を要し、無給与区においては、10日後でも完食に至らない牛がいた。完食までの平均日数はKS区で3.66日、K区で8.66日(無給与区は10日間で完食せず)であった。
この結果から、本発明の甘草抽出物は、肥育導入時の子牛のストレスを改善し、内臓器官や肝機能を改善することができるといえる。また、肥育導入時の子牛の食べ残しを減少させることで肥育導入後早い時期から増体をもたらすことができる。
試験3は肥育導入日から10日間のみ行われたので、試験終了時(肥育導入から10日目)にはまだ肥育途中であり、この時点での食肉の生産量も、与えた飼料と食肉生産量の重量比(飼料効率)もわからない。しかし、試験1,2と同様に、KS区、K区、無給与区で、甘草抽出物以外は同じ種類、同じ量の飼料を給与したにも関わらず、KS区で他区よりも食べ残し量が少なく(食餌摂取量が多く)、完食までの日数も少ないことから、本発明の甘草抽出物を飼料添加剤として給与することを肥育牧場導入後10日間のみ行っても、飼料効率を増大させることができると考えられる。
試験4.生後約91日齢から約150日齢まで
上述のように、子牛は生後約90日齢で離乳されることが目安とされている。離乳後の生後約91日齢から子牛セリ市場出荷時までの間に消化器官に負荷・負担がかかったり、ストレスがかかったりすることで、飼料摂取量が低下し、消化器官の発達が遅れる。消化器官の発達が遅れることにより飼料摂取量が低下する悪循環となる。これが増体と飼料効率の低下につながる。
そこで、生後約91日齢から約150日齢までの牛に本発明の甘草抽出物を飼料添加剤として給与することにより、離乳後の子牛の食べ残しの量、栄養状態(血液検査の総コレステロール値、ビタミンA値、GOT値)に与える本発明の甘草抽出物の影響を調べた。
対象は、生後約91日齢~約150日齢までの黒毛和種オス子牛30頭、メス子牛30頭、合計60頭であった。表9に示す3群に分けた。ここで、離乳前の生後約70日齢で1回目の血液検査を行い、血液検査によって測定された総コレステロール値、VA値、GOT値の各平均値が同等になるように3区に分けた。これらの値のうち、GOT値の平均値が高い区をKS区とした。
Figure 2024053914000010
KS区は実施例5の甘草抽出物を飼料添加剤として飼料に添加し、K区では比較例1の甘草抽出物を飼料添加剤として飼料に添加した。無給与区は甘草抽出物を飼料に添加しなかった。甘草抽出物以外の飼料(代用乳、餌付け飼料、配合飼料、オーツヘイ)は表10(オスの1頭当たりの給与飼料)と表11(メスの1頭当たりの給与飼料)に示す飼料を1日3回に分けて、約91日齢以降は配合飼料、オーツヘイの順番で、各群に同量を同時間に給与した。
Figure 2024053914000011
Figure 2024053914000012
KS区では、生後約91日齢から約150日齢までの間、3g/日/頭の実施例5の甘草抽出物を飼料添加剤として飼料に添加して給与した。K区では、生後約91日齢から約150日齢までの間、3g/日/頭の比較例1の甘草抽出物を飼料添加剤として飼料に添加して給与した。
4.1 食べ残し量
上述のように、生後約91日齢以降は飼料を配合飼料、オーツヘイの順番で給与したため、残飼料が発生する場合はオーツヘイが残飼料となる。従ってオーツヘイの残飼料重量を食べ残し量として計測した。食べ残しの量の推移を図51と図52に示す。
図51と図52に示すように、オスは、KS区では、5日目で完食し、完食が継続した。K区では、完食継続までに11日間要した。無給与区では、更に日数を要し、完食継続までに14日間要した。メスは、KS区では、オスよりも1日早く4日目で完食し、その後も完食が継続した。K区では、1日目から9日目までのバラつきを見せながら、13日目で完食し、その後も完食が継続した。KS区ではK区と比較しても完食までに要する日数が少なかった。
本発明の甘草抽出物の給与が離乳後に開始されても、飼料摂取量を向上させる効果があることがわかった。
4.2 血液検査結果(総コレステロール値、VA値、GOT値)
牛の栄養状態や代謝状態を把握するため、血液検査を行い、総コレステロール値、ビタミンA値(VA値)、GOT値を測定した。
全ての牛の血液検査(総コレステロール値、VA値、GOT値)を生後約70日齢時点と、約150日齢時点の2回、実施した。
オス・メス各区10頭の平均値と10頭中の数値最上位と最下位の2頭を除いた8頭の平均値を図53~図56(総コレステロール値)、図57~図60(VA値)、図61~図64(GOT値)に示す。
図53~図56に示すように、甘草抽出物の給与開始前の約70日齢の血液検査では、オス・メスともに総コレステロール値は各区の間でほとんど差が無かった。一方、約150日齢の血液検査では、オス・メス共にKS区で最も高い総コレステロール値となっていた。K区では約70日齢と約150日齢で総コレステロール値はほぼ横ばいであり、無給与区の総コレステロール値は約70日齢よりも約150日齢の方が低かった。
図57~図60に示すように、VA値は、甘草抽出物の給与開始前の約70日齢の血液検査では、オス・メスともに各区の間でほとんど差が無く、KS区ではむしろ他区よりも値が低かった。一方、約150日齢の血液検査では、オス・メス共にKS区で最も高いVA値となっていた。K区では約70日齢と約150日齢でVA値はほぼ横ばいであり、無給与区のVA値は約70日齢よりも約150日齢の方が低かった。
図61~64に示すように、GOT値は、甘草抽出物の給与開始前の約70日齢の血液検査では、オス・メスともにKS区では他区よりも値が高かった。一方、約150日齢の血液検査では、オス・メス共にKS区で最も低いGOT値となっていた。K区では約70日齢と約150日齢でGOT値はほぼ横ばいであり、無給与区のGOT値は約70日齢よりも約150日齢の方が高かった。
以上の結果から、離乳後に本発明の甘草抽出物の給与を開始しても、甘草フラボノイド類と、グリチルリチン酸以外の甘草サポニン類を含有するKS区の甘草抽出物(実施例5)が、グリチルリチン酸による効果ではなく、グリチルリチン酸とその他の甘草サポニン類と甘草フラボノイド類の複合的な効果によって、栄養状態と代謝(総コレステロール値)、発育状態(ビタミンA値)、肝機能(GOT値)によい影響を与えることがわかった。
試験4は生後約91日齢から約150日齢までの間のみ行われたので、試験終了時にはまだ食肉の生産量も、与えた飼料と食肉生産量の重量比(飼料効率)もわからない。しかし、試験1,2と同様に、KS区、K区、無給与区で、甘草抽出物以外は同じ種類、同じ量の飼料を給与したにも関わらず、KS区で他区よりも食べ残し量が少なく(食餌摂取量が多く)、完食までの日数も少ないことから、本発明の甘草抽出物を飼料添加剤として給与することを離乳後に行っても、飼料効率を増大させることができると考えられる。
試験5.生後約5日齢から約60日齢までの約2カ月間
牛の哺乳期に消化器官など内臓器官や肝機能に負荷がかかると、免疫力や代謝が低下し、下痢や風邪が発生する。内臓器官や肝機能の負荷は、哺乳期の高濃度の代用乳や配合飼料の摂取によって生じる場合がある。また、生後すぐに母牛から離されて飼育員によって育成されることによるストレス、成長に応じて飼料の種類や量が変更されることによるストレス、暑熱期・寒冷期のヒートストレス・コールドストレスや寒暖差など環境変化による肉体へのストレスによっても内臓器官や肝機能に負荷がかかったり、免疫力や代謝が低下したりする場合がある。特に子牛は発育が十分でないため、内臓器官や肝機能への負荷やストレスによって食欲不振になりやすく、栄養不足になり、さらに内臓器官や肝機能への負荷やストレスを増す悪循環に陥ることがあり、下痢や風邪になりやすい。
下痢の症状が発生すると、多くの場合、薬の投与、抗菌剤の投与、生菌剤の連続投与等の治療が行われる。下痢は体内の水分を奪い脱水症状を引き起こすこともあり、治療が長引くと免疫力や抵抗力の低下をまねき、風邪を同時に発症してしまうことが少なくない。
ここで、子牛に多く見られる下痢は、一般的に大きく分けて2つ知られている。1つは、高濃度のミルク及び飼料の摂取、暑熱期・寒冷期や寒暖差等による気象条件や初乳の摂取不足、飼料変化等により、内臓器官・消化器官に負荷がかかり代謝能力・免疫力が低下することで消化不良になることによる下痢である。もう1つは、細菌、ウイルス、寄生虫等が良質乾燥や飼料の中に混入していることであり、これはこまめに飼料等を取り換えることで防ぐことができるので、牛舎の衛生管理が原因であるともいえる。
そこで、生後約5日齢から約60日齢までの子牛に本発明の甘草抽出物を飼料添加剤として給与することにより、消化不良による下痢の発生割合、消化不良による下痢の治療日数、風邪の発生割合、風邪の治療日数に与える本発明の甘草抽出物の影響を調べた。
対象は、生後約5日齢から約60日齢の期間、黒毛和種子牛150頭とホルスタイン子牛30頭であった。表12に示す3つの区に分けた。
Figure 2024053914000013
KS区は実施例5の甘草抽出物を飼料添加剤として飼料に添加し、K区では比較例1の甘草抽出物を飼料添加剤として飼料に添加した。無給与区は甘草抽出物を飼料に添加しなかった。甘草抽出物以外の飼料(代用乳、餌付け飼料、オーツヘイ)は、オス・メスとも、1日3回に分けて各群に同量を同時間に給与した。餌付け飼料とオーツヘイは生後約2週間後から給与した。
KS区では、生後約5日齢から生後約60日齢まで、2g/日/頭の実施例5の甘草抽出物を飼料添加剤として飼料に添加して給与した。K区では、生後約5日齢から生後約60日齢まで、2g/日/頭の比較例1の甘草抽出物を飼料添加剤として飼料に添加して給与した。
合計180頭の牛の消化不良による下痢の発生件数(頭数)を表13と図65に示し、下痢の治療日数を表14と図66に示す。
Figure 2024053914000014
Figure 2024053914000015
表13と図65に示すように、KS区では、約60日齢までの下痢の発生件数がK区の52%程度、無給与区の42%程度であった。また、KS区ではほぼ全ての週において他区よりも下痢の発生件数が少なかった。過半数の牛が下痢をしなかったのはKS区だけであった。
表14と図66に示すように、KS区では治療日数も他区に比べて少なかった。本発明の甘草抽出物を飼料添加剤として給与することによって、下痢の発生を抑え、かつ、下痢になっても重症化しにくく比較的短い治療期間で回復することがわかった。
従来、甘草は生薬の「大黄甘草湯」に用いられ、瀉下作用(下痢をする・させる)があることが知られている。しかしながら、本発明の甘草抽出物は、下痢をしない(させない)という従来の技術常識から予想できない新たな効果があることが確認できた。
本発明の甘草抽出物にはグリチルリチン酸だけでなく、グリチルリチン酸以外の甘草サポニン類と、甘草フラボノイド類が含まれている。これまでに延べてきたように、これらの成分の相乗効果によって、牛がストレスの影響を受けにくくなり、飼料摂取量を増加させ、消化吸収や免疫力や代謝を向上させ、増体させたことも、下痢をしにくくさせた一因であると考えられる。
合計180頭の牛の風邪の発生件数(頭数)を表15と図67に示し、風邪の治療日数を表16と図68に示す。
Figure 2024053914000016
Figure 2024053914000017
表15と図67に示すように、KS区では、約60日齢までの風邪の発生件数がK区の33%程度、無給与区の22%程度であった。また、KS区ではほぼ全ての週において他区よりも風邪の発生件数が少なかった。
表16と図68に示すように、KS区では治療日数も他区に比べて少なかった。本発明の甘草抽出物を飼料添加剤として給与することによって、風邪の発生を抑え、かつ、風邪になっても重症化しにくく比較的短い治療期間で回復することがわかった。
また、K区と無給与区では、下痢も風邪も全期間に亘って発生しているが、発生数の増減は下痢と風邪で似ていることがわかる。免疫力や抵抗力の弱い牛は風邪と下痢を同時に発症しやすい。本発明の甘草抽出物を飼料添加剤として給与することによって、下痢と風邪をどちらも予防することができ、発症した場合でも重症化を防ぎ、治療日数を低減することができる。
子牛の風邪は、母牛からの移行免疫の低下、気候や環境の変化によるストレス、換気不良によるアンモニアガスやほこりの吸引など牛舎の衛生管理が不十分であることなどが原因である。これらの原因によって免疫力や抵抗力が低下したところへウイルスや細菌に感染して風邪をひく。健康な子牛の体温は38.5~39℃であるが、風邪をひくと39.5~40℃以上の発熱や、咳、鼻水、呼吸が早くなるなどの症状が見られる。また、元気消失、起立不能、哺乳困難、虚弱、食欲不振に陥り、重症化すると死亡したり、回復後も発育不良になったりすることがあるため、早期治療と予防の必要がある。
従来、予防の1つの方法として、初乳を飲ませ、免疫力や抵抗力をつけさせていた。しかし、初乳給与不足や飼料を食べない牛は栄養不足になる。また、これまでに述べたように、増体を目的とした高濃度のミルクや高濃度の飼料の摂取によって消化器官など内臓器官や肝機能に負荷がかかり、免疫力や抵抗力が低下し、風邪をひくことがある。
試験1~試験5の結果に示されているように、本発明の甘草抽出物は、飼料摂取量の増加、栄養の消化吸収と代謝の改善、発育状態と免疫力の改善、肝機能の改善、体重増加などの効果がある。本発明の甘草抽出物を飼料添加剤として給与することによって、風邪の原因となる栄養不足や免疫力の低下を防ぎ、風邪を予防し、重症化を防ぎ、治療日数を低減することができる。
本発明の甘草抽出物は、飼料摂取量の増加、栄養の消化吸収と代謝の改善、発育状態と免疫力の改善、肝機能の改善、体重増加、枝肉重量の増加、枝肉歩留率の向上、下痢の予防、下痢の治療日数の低減、風邪の予防、および/または、風邪の治療日数の低減を目的とした多機能性の飼料添加剤の原料として用いることができる。
試験6.甘草抽出物と水溶性食物繊維を含む飼料添加剤の給与
6.1 下痢の発生件数
生後約5日齢から約60日齢の黒毛和種の子牛オス60頭と黒毛和種の子牛メス60頭、合計120頭を対象に、生後約60日間の下痢の発生割合と完治までの治療日数を調べた。
対象の牛を表17に示す給与区と無給与区に分けた。給与区の牛には実施例5の甘草抽出物を含む飼料添加剤Aと飼料添加剤Bを飼料に添加して給与した。無給与区の飼料には甘草抽出物を添加しなかった。
Figure 2024053914000018
飼料添加剤Aは、実施例5の甘草抽出物10質量%、水溶性食物繊維としてグルコマンナン(平均粒子径150~200メッシュ)30質量%、および、デンプン分解物(松谷化学工業株式会社、パインデックス#1)60質量%を均一に混合して調製された。
飼料添加剤Bは、実施例5の甘草抽出物40質量%と水溶性食物繊維としてグルコマンナン(平均粒子径150~200メッシュ)60質量%を均一に混合して調製された。
飼料添加剤A,Bの成分は表18に示す通りであった。
Figure 2024053914000019
生後約5日齢から生後約30日齢までの期間は、飼料添加剤Aを代用乳に均一に分散させて、5g/頭を朝・夕の2回給与し、合計10g/日/頭給与した。生後約31日齢から生後約60日齢の期間は、飼料添加剤Bに水を適量加えて団子状にしたものを2.5g/頭を朝・夕の2回経口給与し、合計5g/日/頭給与した。
下痢の発生件数(頭数)と発生割合を表19に示す。
Figure 2024053914000020
表19に示すように、給与区では無給与区の1/3程度まで下痢の発生が抑えられた。
6.2 下痢の治療日数
下痢をした子牛を対象に飼料添加剤Aと飼料添加剤Bを給与して治療日数を調べた。対象は、生後日齢に関係なく、下痢をしたオス子牛36頭とメス子牛28頭、合計64頭であり、表20に示すように給与区と無給与区に分けた。
Figure 2024053914000021
生後約5日齢から生後約30日齢までの期間は、飼料添加剤Aを代用乳に均一に分散させて、5g/頭を朝・夕の2回給与し、合計10g/日/頭給与した。生後約31日齢から生後約60日齢の期間は、飼料添加剤Bに水を適量加えて団子状にしたものを2.5g/頭を朝・夕の2回経口給与し、合計5g/日/頭給与した。
下痢の治療日数と平均治療日数を表21に示す。
Figure 2024053914000022
表21に示すように、給与区では無給与区の1/3以下に下痢の治療日数を短縮することができた。本発明の甘草抽出物にグルコマンナンを添加した本発明の飼料添加剤によって、甘草抽出物による効果とグルコマンナンによる整腸作用が加わり、効果的に下痢の発生を抑え、治療日数を低減することができた。
以上の通り、本発明の飼料添加剤を哺乳動物または家畜に給与することによって、哺乳動物または家畜の食餌摂取量の増量、血液中の総コレステロール値の増加、血液中のビタミンA値の増加、血液中のGOT値の低下、体重の増加、下痢の予防、下痢の治療日数の低減、風邪の予防、および、風邪の治療日数の低減からなる群から選択される少なくとも1つによって、健康状態を改善できることが確認された。
また、以上の通り、哺育、離乳、肥育のどの段階で行った試験でも、KS区、K区、無給与区で甘草抽出物以外は同じ種類、同じ量の飼料を給与したにも関わらず、KS区で他区よりも食べ残し量が少なく(食餌摂取量が多く)、増体や枝肉重量の増加、枝肉歩留率の増大、食用肝臓廃棄率の低下の効果があった。本発明の飼料添加剤を哺乳動物または家畜に給与することによって、与えた飼料と食肉生産量の重量比(飼料効率)を増大させられることが確認された。
以上に開示された実施の形態と実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考慮されるべきである。本発明の範囲は、以上の説明ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変形を含むものである。
甘草抽出物は、(C)甘草フラボノイド類を4質量%以上含むことが好ましく、19質量%以上含むことがさらに好ましい。(C)甘草フラボノイド類として、リクイリチンアピオシド、リクイリチン、リクイリチゲニン、イソリクイリチンアピオシド、イソリクイリチン、イソリクイリチゲニンを含むことが好ましい。(C)成分として、その他の甘草フラボノイド類を含んでもよい。
(2)上記(1)の甘草抽出物は、(C)甘草フラボノイド類は、リクイリチンアピオシド、リクイリチン、リクイリチゲニン、イソリクイリチンアピオシド、イソリクイリチン、および、イソリクイリチゲニンを含むことが好ましい。
<甘草フラボノイド類の測定>
各実施例と比較例の甘草フラボノイド類は次の試験条件でHPLC分析によって測定した。測定用の試料は上述のグリチルリチン酸とその他の甘草サポニン類の測定と同様に調製した。標準溶液としてはグリチルリチン酸標準溶液(測定波長254nm)、リクイリチン標準溶液(測定波長280nm)、イソリクイリチゲニン標溶液(測定波長355nm)、イソリクイリチン標準溶液(測定波長355nm)を用いて、試料溶液及び標準溶液を液体クロマトグラフィーによりグラジェント分析しフラボノイド含量を求めた。ただし試料の乾燥物換算%で補正した。
Figure 2024053914000091

Claims (11)

  1. (A)グリチルリチン酸、グリチルリチン酸誘導体、グリチルレチン酸、および、グリチルレチン酸誘導体からなる群から選択される1つ以上と、
    (B)前記(A)以外の甘草サポニン類と、
    (C)甘草フラボノイド類とを含み、
    前記(B)は、リコリスサポニンH2と、リコリスサポニンG2と、マセドノシドAを含む、甘草抽出物。
  2. 前記(C)甘草フラボノイド類は、リクイリチンアピオシド、リクイリチン、リクイリチゲニン、リクイリチゲニンアピオシド、イソリクイリチン、および、
    イソリクイリチゲニンを含む、請求項1に記載の甘草抽出物。
  3. 前記(A)を10質量%以上、および/または、
    前記(B)を3質量%以上、および/または、
    前記(C)を4質量%以上含む、請求項2に記載の甘草抽出物。
  4. 前記(B)はリコリスサポニンH2を2質量%以上含み、リコリスサポニンG2を0.5質量%以上含み、マセドノシドAを0.5質量%以上含む、請求項3に記載の甘草抽出物。
  5. 前記(A)を14質量%以上、
    前記(B)を9質量%以上、
    前記(C)を19質量%以上含む、請求項4に記載の甘草抽出物。
  6. 請求項1から請求項5までのいずれか1項に記載の甘草抽出物と、任意で水溶性食物繊維を含む、哺乳動物または家畜の飼料添加剤。
  7. 前記甘草抽出物と前記水溶性食物繊維を、甘草抽出物:水溶性食物繊維=10:90~40:60の質量比で含む、請求項6に記載の飼料添加剤。
  8. 前記水溶性食物繊維はグルコマンナンである、請求項7に記載の飼料添加剤。
  9. 請求項6に記載の飼料添加剤を哺乳動物または家畜に給与することによって、哺乳動物哺乳動物または家畜の食餌摂取量の増量、血液中の総コレステロール値の増加、血液中のビタミンA値の増加、血液中のGOT値の低下、体重の増加、下痢の予防、下痢の治療日数の低減、風邪の予防、および、風邪の治療日数の低減からなる群から選択される少なくとも1つによって、健康状態を改善する、哺乳動物または家畜の飼育方法。
  10. 前記哺乳動物または家畜は食肉生産用の家畜であり、
    請求項6に記載の飼料添加剤を哺乳動物または家畜に給与することによって、枝肉の重量を増加し、枝肉歩留率を改善し、および/または、肉畜の肝臓廃棄率を低減する、哺乳動物または家畜の飼育方法。
  11. 前記哺乳動物または家畜は食肉生産用の家畜であり、
    請求項6に記載の飼料添加剤を哺乳動物または家畜に給与することによって、飼料効率を増大させる方法。
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