JP2024043784A - 摺動部品及び摺動部品の製造方法 - Google Patents

摺動部品及び摺動部品の製造方法 Download PDF

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浩作 濱田
裕之 山口
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Abstract

【課題】優れた耐摩耗性を有する摺動部品を提供する。【解決手段】摺動部品(1)は、他の部品と摺動する摺動面(20)を有する基材(2)と、基材(2)の摺動面(20)上に形成されているMoの溶射皮膜(3)と、を備える。溶射皮膜(3)は、酸素量が1.0質量%以上2.6質量%以下、気孔率が8.0%以上24.0%以下、及び硬度が370HV以上450HV未満である。【選択図】図1

Description

本開示は、摺動部品及び摺動部品の製造方法に関する。
摺動部品は、他の部品と摺動する表面を有する。その表面は摺動面と称される。摺動部品は、産業機械や自動車の動力伝達機構などに用いられる。例えば、建設用の産業機械には、摺動部品として多くのすべり軸受が設けられる。すべり軸受のブッシュでは、内周面が摺動面である。ブッシュのような摺動部品において、摺動面に高い面圧が負荷される。したがって、摺動部品の摺動面には、耐摩耗性が求められる。
摺動面の耐摩耗性を高めるため、黄銅製の焼結材料を使用したり、摺動部品に表面硬化処理を施したりする技術が知られている。例えば、鋼製の摺動部品に対し、浸炭処理又は高周波焼入れ処理が施される。この技術の場合、表面硬化処理が施された摺動部品は、グリスによる潤滑下で使用される。しかしながら、摺動部品を安定的に使用するには、潤滑剤であるグリスの補給を頻繁に行う必要がある。
潤滑剤の補給頻度を抑えつつ、摺動面の耐摩耗性を高める技術は、例えば、特開2008-63663号公報(特許文献1)及び国際公開第2008/136355号(特許文献2)に記載されている。これらの技術では、摺動部品において、摺動面の部分が銅合金系の焼結材料で構成される。焼結材料は高い耐摩耗性を有するため、摺動面の摩耗を抑制することができる。また、焼結材料は、気孔を有していて、気孔内に潤滑剤を保持できる。このため、特許文献1及び2に記載された摺動部品の場合、潤滑剤の補給頻度を低減することができる。
また、潤滑剤の補給頻度を抑えつつ、摺動面の耐摩耗性を高める他の技術は、例えば、特開2004-346417号公報(特許文献3)及び特開平4-94494号公報(特許文献4)に記載されている。これらの技術では、摺動部品において、摺動面上にMoの溶射皮膜が形成される。そして、溶射皮膜の耐摩耗性を確保するために、その溶射皮膜の硬度レベルが高い。また、溶射皮膜は、気孔を有していて、気孔内に潤滑剤を保持できる。このため、特許文献3及び4に記載された摺動部品の場合、潤滑剤の補給頻度を低減することができる。
特開2008-63663号公報 国際公開第2008/136355号 特開2004-346417号公報 特開平4-94494号公報
特許文献1及び2に記載された技術では、摺動面の部分が焼結材料で構成される。しかしながら、以下の理由により、焼結材料のサイズは、製造上で実質的に制限される。焼結材料が大きくなれば、製造コストが著しく上昇する。また、焼結炉の大きさ等の制約により、焼結材料を製造することすらできない場合がある。
特許文献3及び4に記載された技術では、摺動面上にMoの溶射皮膜が形成され、その溶射皮膜の硬度レベルは高い。しかしながら、耐摩耗性が十分に高まらない場合がある。
本開示は、上記の実情に鑑みてなされたものである。本開示の目的は、サイズが制限されず、優れた耐摩耗性を有する摺動部品を提供することである。また、本開示の他の目的は、優れた耐摩耗性を有する摺動部品を製造できる摺動部品の製造方法を提供することである。
本開示に係る摺動部品は、他の部品と摺動する摺動面を有する基材と、基材の摺動面上に形成されているMoの溶射皮膜と、を備える。溶射皮膜は、酸素量が1.0質量%以上2.6質量%以下、気孔率が8.0%以上24.0%以下、及び硬度が370HV以上450HV未満である。
本開示に係る摺動部品の製造方法は、準備工程と、溶射工程とを備える。準備工程は、他の部品と摺動する摺動面を有する基材を準備する。溶射工程は、基材の摺動面に溶射材を大気中でプラズマ溶射して、基材の摺動面に溶射皮膜を形成する。溶射工程では、平均粒径が50μm以上のMo粉末を溶射材として用い、アルゴンガスの流量を40L/min以上とする。
本開示に係る摺動部品は、サイズが制限されず、優れた耐摩耗性を有する。また、本開示の製造方法によれば、優れた耐摩耗性を有する摺動部品を製造することができる。
図1は、本実施形態の摺動部品の断面図である。 図2は、摺動部品の基材を模擬した中間試験片を示す斜視図である。 図3は、摺動部品を模擬した試験片を用いた摺動試験の模式図である。
上記目的を達成するため、本発明者らは、数々の試験を実施し、鋭意検討を重ねた。具体的には、本発明者らは、摺動部品として滑り軸受のブッシュ、すなわち内面を摺動面とする管状の摺動部品を想定した。そして、ブッシュの内面の耐摩耗性を向上させることが可能な手法として、比較的安価な溶射法によって形成される溶射皮膜に着目し、検討を進めた。その結果、以下に示す知見を得た。
溶射材としてMo単体を溶射した場合、非常に良好な耐摩耗性が発現することがあり、溶射条件によって耐摩耗性に大きな差が生じる。具体的には、大気圧プラズマ溶射法(APS)により形成された溶射皮膜は、ワイヤ溶射法又は減圧プラズマ溶射法(VPS)により形成された溶射皮膜に比べて、良好な耐摩耗性を有する。また、大気圧プラズマ溶射法により形成された溶射皮膜であっても、施工条件によって溶射皮膜の性状が変化し、耐摩耗性に差が生じる。
本開示に係る摺動部品及び摺動部品の製造方法は、上記知見に基づいて完成されたものである。以下、本開示の実施形態について説明する。なお、以下の説明では、本開示の実施形態について例を挙げて説明するが、本開示は以下で説明する例に限定されない。以下の説明において特定の数値や特定の材料を例示する場合があるが、本開示はそれらの例示に限定されない。
本開示の実施形態に係る摺動部品は、他の部品と摺動する摺動面を有する基材と、基材の摺動面上に形成されているMoの溶射皮膜と、を備える。溶射皮膜は、酸素量が1.0質量%以上2.6質量%以下、気孔率が8.0%以上24.0%以下、及び硬度が370HV以上450HV未満である(第1の構成)。
第1の構成では、摺動面上にMoの溶射皮膜が形成されている。具体的には、溶射皮膜は、金属Mo、及びMo酸化物から構成され、気孔を有する。Moの溶射皮膜において、酸素量は1.0質量%以上2.6質量%以下、気孔率は8.0%以上24.0%以下、及び硬度は370HV以上450HV未満である。つまり、溶射皮膜の酸素量、気孔率、及び硬度が適切な範囲に限定されている。したがって、第1の構成の摺動部品によれば、溶射皮膜の耐摩耗性が良好となり、摺動部品は優れた耐摩耗性を有する。しかも、溶射皮膜は溶射法によって形成されるため、溶射皮膜が形成される基材のサイズ、すなわち摺動部品のサイズに、制限はない。
第1の構成の摺動部品において、基材が管状であり、基材の内面が摺動面であってもよい(第2の構成)。この場合、摺動部品は、滑り軸受のブッシュとして利用することができる。
本開示の実施形態に係る摺動部品の製造方法は、準備工程と、溶射工程とを備える。準備工程は、他の部品と摺動する摺動面を有する基材を準備する。溶射工程は、基材の摺動面に溶射材を大気中でプラズマ溶射して、基材の摺動面に溶射皮膜を形成する。溶射工程では、平均粒径が50μm以上のMo粉末を溶射材として用い、アルゴンガスの流量を40L/min以上とする(第3の構成)。本明細書において、「平均粒径」は、レーザ回折・散乱法に基づく粒度分布測定装置により測定された体積基準の粒度分布における積算値50%での粒径(メジアン径)を意味する。すなわち、「平均粒径」は、平均粒径(D50)を意味する。
第3の構成では、準備工程で基材を準備し、溶射工程で大気圧プラズマ溶射法を用いて、基材の摺動面に溶射皮膜を形成する。溶射工程において、平均粒径が50μm以上のMo粉末が溶射材として用いられ、アルゴンガスの流量が40L/min以上とされる。つまり、溶射材であるMo粉末の平均粒径、及びアルゴンガスの流量が適切な範囲に限定されている。これにより、溶射工程で、耐摩耗性が良好な溶射皮膜を形成することができる。したがって、第3の構成の製造方法によれば、優れた耐摩耗性を有する摺動部品を製造することができる。
第3の構成の製造方法は、好ましくは、さらに、溶射工程の前に、基材の摺動面にブラストを施す下地処理工程を備える(第4の構成)。この場合、基材の摺動面に付着している異物などを溶射工程の前に除去することができる。さらに、摺動面が適度に粗くなる。このため、溶射工程で形成される溶射皮膜が摺動面に密着しやすい。したがって、耐摩耗性が良好な溶射皮膜をより有効に形成することができる。
第4の構成の製造方法において、下地処理工程では、鉄系の投射材を用いることが好ましい(第5の構成)。この場合、溶射工程で形成される溶射皮膜が摺動面により密着しやすい。したがって、耐摩耗性が良好な溶射皮膜をより有効に形成することができる。
第4の構成の製造方法は、好ましくは、さらに、下地処理工程の後、溶射工程の前に、基材を加熱する予熱工程を備える(第6の構成)。この場合、溶射工程で形成される溶射皮膜が摺動面に密着しやすい。このため、耐摩耗性が良好な溶射皮膜をより有効に形成することができ、優れた耐摩耗性を有する摺動部品をより確実に製造することができる。
第6の構成の製造方法において、予熱工程では、基材の加熱温度を100℃以上200℃以下とすることが好ましい(第7の構成)。この場合、溶射工程で形成される溶射皮膜が摺動面により密着しやすい。このため、耐摩耗性が良好な溶射皮膜をより有効に形成することができ、優れた耐摩耗性を有する摺動部品をより確実に製造することができる。
第3の構成から第7の構成のいずれか1つの製造方法において、準備工程では、管状であって、摺動面として内面を有する基材を準備してもよい(第8の構成)。この場合、製造される摺動部品は、滑り軸受のブッシュとして利用することができる。
以下、本開示の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。各図において同一又は相当の構成については同一符号を付し、重複する説明を繰り返さない。
[摺動部品]
図1は、本実施形態の摺動部品1の断面図である。図1を参照して、摺動部品1は、基材2と、Mo(モリブデン)の溶射皮膜3とを備える。
[基材]
基材2は、他の部品と摺動する摺動面20を有する。他の部品とは、他の摺動部品である。摺動部品1は、摺動面20において、他の摺動部品と摺動する。
摺動部品1は、他の摺動部品と摺動する部品であれば特に限定されない。例えば、摺動部品1は、建設用の産業機械に設けられるすべり軸受のブッシュである。ブッシュは管状である。ブッシュにピンが挿入され、ブッシュに対してピンは相対的に軸回りに回動する。この場合、ブッシュの内周面がピンの外周面と摺動する。このため、ブッシュの内周面が摺動面20である。別の観点から、ピンが摺動部品1であってもよい。この場合、ピンの外周面がブッシュの内周面と摺動する。このため、ピンの外周面が摺動面20である。
基材2は、摺動部品1として利用され、その材質は特に限定されない。基材2の材質は、例えば、炭素鋼、ステンレス鋼及び合金鋼等である。
[溶射皮膜]
溶射皮膜3は、基材2の摺動面20上に配置されている。溶射皮膜3は、金属Mo、及びMo酸化物から構成されるMoの溶射皮膜であり、気孔を有する。溶射皮膜3は、溶射材としてMo粉末を用いた大気圧プラズマ溶射法によって形成される。
溶射皮膜3において、酸素量は、1.0質量%以上2.6質量%以下である。酸素量は、溶射皮膜3中の酸素(O)の含有量を意味する。以下、酸素量の単位「質量%」は、単に「%」で表わされる場合がある。
酸素量が1.0%以上2.6%以下であれば、Mo酸化物の含有量が適度に多くなり、耐摩耗性が良好になる。換言すれば、酸素量が1.0%未満であると、金属Moの含有量が多くなり、溶射皮膜3の耐凝着性が低下する。一方、酸素量が2.6%を超えると、Mo酸化物が多くなり、溶射皮膜3が脆性的になる。したがって、酸素量は、1.0%以上2.6%以下である。酸素量の好ましい下限は1.3%である。酸素量の好ましい上限は2.4%であり、さらに好ましくは1.6%である。
なお、減圧プラズマ溶射法によって形成される皮膜の場合、酸素量が低い。ワイヤ溶射法によって形成される皮膜の場合、酸素量が高い。そのため、これらの場合、耐摩耗性が良好にならない。
溶射皮膜3において、気孔率は、8.0%以上24.0%以下である。気孔率は、溶射皮膜3の断面において気孔の占める面積率を意味する。なお、溶射皮膜3の断面において、気孔の部分は、コントラストにより区別できる。
気孔率が8.0%以上24.0%以下であれば、潤滑剤(オイル)を保持する気孔が適度に多くなり、耐摩耗性が良好になる。換言すれば、気孔率が8.0%未満であると、潤滑剤を保持する気孔が不足する。一方、気孔率が24.0%を超えると、気孔が多すぎて、溶射皮膜3が脆性的になる。したがって、気孔率は、8.0%以上24.0%以下である。気孔率の好ましい下限は10.0%であり、さらに好ましくは13.0%である。気孔率の好ましい上限は15.0%である。
なお、減圧プラズマ溶射法によって形成される皮膜の場合、気孔率が低い。ワイヤ溶射法によって形成される皮膜の場合、気孔率が高い。そのため、これらの場合、耐摩耗性が良好にならない。
溶射皮膜3において、硬度は、370HV以上450HV未満である。硬度は、ビッカース硬さを意味する。硬度の測定方法は、JIS Z 2244(2009)に準拠する。試験力は、例えば2.942N(300gf)である。
溶射皮膜3において、硬度は酸素量と相関があり、酸素量が多いほど硬度が高くなる傾向にある。硬度が370HV以上450HV未満であれば、酸素量との相関で、Mo酸化物の含有量が適度に多くなっており、耐摩耗性が良好になる。硬度のみが耐摩耗性に影響するわけではないが、硬度が370HV未満であると、一般的に言われている通り硬度が低いために耐摩耗性が低下する。一方、硬度が450HV以上であると、溶射皮膜3が脆性的になる。したがって、硬度は、370HV以上450HV未満である。硬度の好ましい下限は380HVである。硬度の好ましい上限は440HVであり、さらに好ましくは400HVである。
なお、減圧プラズマ溶射法によって形成される皮膜の場合、硬度が低い。ワイヤ溶射法によって形成される皮膜の場合、硬度が高い。そのため、これらの場合、耐摩耗性が良好にならない。
その他に特に限定されないが、摺動部品1として使用される直前において、溶射皮膜3の表面粗さは、算術平均粗さRaで5.0以下であることが好ましい。溶射皮膜3の表面粗さがRaで5.0以下であれば、耐摩耗性が良好になる。
また、摺動部品1として使用される直前において、溶射皮膜3の膜厚は、特に限定されない。例えば、溶射皮膜3の膜厚は、300μmである。
[摺動部品の効果]
本実施形態の摺動部品1では、摺動面20上にMoの溶射皮膜3が形成されている。具体的には、溶射皮膜3は、金属Mo、及びMo酸化物から構成され、気孔を有する。Moの溶射皮膜3において、酸素量は1.0質量%以上2.6質量%以下、気孔率は8.0%以上24.0%以下、及び硬度は370HV以上450HV未満である。これらの酸素量、気孔率、及び硬度は、相互に影響を及ぼし合う特性であり、適切な範囲に限定されている。本実施形態の摺動部品1によれば、摺動面20上にMoの溶射皮膜3が形成され、その溶射皮膜3の酸素量、気孔率、及び硬度が適切な範囲に限定されているため、溶射皮膜3の耐摩耗性が良好となり、摺動部品1は優れた耐摩耗性を有する。しかも、溶射皮膜3は溶射法によって形成されるため、溶射皮膜3が形成される基材2のサイズ、すなわち摺動部品1のサイズに、制限はない。
[摺動部品の製造方法]
以下、本実施形態の摺動部品1の製造方法を説明する。以下に説明する摺動部品1の製造方法は、本実施形態の摺動部品1の製造方法の一例である。したがって、上述した構成を有する摺動部品1は、以下に説明する製造方法以外の他の製造方法により製造されてもよい。しかしながら、以下に説明する製造方法は、本実施形態の摺動部品1の製造方法として好適である。
本実施形態の摺動部品1の製造方法は、準備工程と、溶射工程とを備える。さらに、本実施形態の製造方法は、溶射工程の前に下地処理工程を備え、下地処理工程の後、溶射工程の前に予熱工程を備える。要するに、本実施形態の製造方法は、準備工程と、下地処理工程と、予熱工程と、溶射工程とをこの順に備える。以下、各工程について説明する。
[準備工程]
準備工程では、摺動面20を有する基材2を準備する。例えば、摺動部品1が、すべり軸受のブッシュであれば、管状の基材2を準備する。管状の基材2は、摺動面20として内面を有する。管状の基材2は、例えば、鋼管を旋削したり、切断したりすることにより、製造される。
[溶射工程]
溶射工程では、基材2の摺動面20に溶射材を大気中でプラズマ溶射して、基材2の摺動面20に溶射皮膜3を形成する。つまり、溶射工程で大気圧プラズマ溶射法を用いて、摺動部品1の溶射皮膜3を形成する。
本実施形態のプラズマ溶射法では、高温・高速のプラズマガスを基材2の摺動面20に向けて噴射する。その際、溶射材としてMo粉末をプラズマガスに投入する。プラズマガスに投入されたMo粉末は溶融して液滴となる。液滴化したMo金属は、その一部が酸化しつつ、基材2の摺動面20に衝突し、摺動面20で凝固して積層する。これにより、溶射皮膜3が形成される。本実施形態のプラズマ溶射法では、作動ガスとして、アルゴン(Ar)ガスと水素(H)ガスの混合ガスが用いられる。アルゴンガスはプラズマ源であり、水素ガスは主にプラズマガス温度を高温化するために用いられ、プラズマの高温化により、高融点のMo粉末を溶融させることが出来る。主にアルゴンガスの流量調整が、プラズマガス速度の変化に寄与するため、液滴化したMo金属の摺動面20に対する衝突エネルギが調整される。
溶射工程では、平均粒径が50μm以上のMo粉末を溶射材として用い、アルゴンガスの流量を40L/min以上とする。これらの条件のいずれも満足すれば、管状の基材2の内面(摺動面20)に対し、酸素量が1.0質量%以上2.6質量%以下、気孔率が8.0%以上24.0%以下、及び硬度が370HV以上450HV未満である上記溶射皮膜3を好適に形成することができる。つまり、Mo粉末の平均粒径が50μm以上で、かつアルゴンガスの流量が40L/min以上の大気圧プラズマ溶射法であれば、摺動面20が管状の基材2の内面であっても、その摺動面20に耐摩耗性が良好な溶射皮膜3を形成することができる。平均粒径が50μm未満のMo粉末を使用する、あるいはアルゴンガスの流量が40L/min未満であると、管状の基材2の内面に溶射する際に、溶融粒子の加速に必要なプラズマガス速度が得られずに衝突エネルギが不十分となり、溶射皮膜3の密着力が不足したり、耐摩耗性が低くなったりする。
アルゴンガスの流量の上限は特に限定されない。アルゴンガスの流量が大きいほど、衝突エネルギが大きくなるからである。溶射材として使用するMo粉末の平均粒径は、60μm以上であることが好ましい。また、溶射材として使用するMo粉末の平均粒径は、150μm以下であることが好ましい。平均粒径があまりに大きいと、Mo粉末が十分に溶融しないおそれがあるからである。
[下地処理工程]
下地処理工程は、予熱工程や溶射工程の前に実施される。下地処理工程では、基材2の摺動面20にブラストを施す。これにより、ブラストを施された基材2の摺動面20に溶射皮膜3が形成される。この場合、基材2の摺動面に付着している異物などを溶射工程の前に除去することができる。さらに、摺動面20が適度に粗くなる。このため、溶射工程で形成される溶射皮膜3が摺動面20により密着しやすい。
下地処理工程において、ブラストに用いる投射材の材質は特に限定されない。例えば、鉄系の投射材が用いられれば、投射材が基材2の摺動面20に残存することはなく、溶射皮膜3の密着力に影響は生じない。しかしながら、アルミナ(Al)系の投射材が用いられると、アルミナ系の投射材は、基材2と衝突することにより、粉砕される。粉砕されたアルミナ系の投射材は、基材2の摺動面20に残存しやすい。投射材が摺動面20に残存した投射材は、溶射皮膜3の密着力を低下させる。したがって、下地処理工程を実施する場合、鉄系の投射材を用いることが好ましい。
[予熱工程]
予熱工程は、溶射工程の前に実施される。予熱工程では、基材2を加熱する。これにより、加熱された基材2の摺動面20に溶射皮膜3が形成される。この場合、溶射工程で形成される溶射皮膜3が摺動面20に密着しやすい。
予熱工程での基材2の加熱方法は特に限定されない。加熱方法は、例えば高周波加熱である。加熱方法は、加熱炉によるガス雰囲気加熱であってもよい。
予熱工程において、基材2の加熱温度は特に限定されない。例えば、基材2が100℃以上200℃以下に加熱されていれば、溶射工程で形成される溶射皮膜3が摺動面20により密着しやすい。しかしながら、基材2の加熱温度が200℃を超えれば、基材2の摺動面20に酸化皮膜(スケール)が著しく生成し、溶射皮膜3の密着力がかえって低下するおそれがある。したがって、予熱工程を実施する場合、基材2の加熱温度を100℃以上200℃以下とすることが好ましい。
[製造方法の効果]
本実施形態の製造方法では、準備工程で基材2を準備し、溶射工程で大気圧プラズマ溶射法を用いて、摺動部品1の溶射皮膜3を形成する。溶射工程において、平均粒径が50μm以上のMo粉末が溶射材として用いられ、アルゴンガスの流量が40L/min以上とされる。つまり、溶射材であるMo粉末の平均粒径、及びアルゴンガスの流量が適切な範囲に限定されている。このため、摺動面が管状の基材2の内面であっても、溶射工程で、その摺動面に耐摩耗性が良好な溶射皮膜3を有効に形成することができる。したがって、本実施形態の製造方法によれば、優れた耐摩耗性を有する摺動部品1を製造することができる。
また、本実施形態では、溶射工程の前に下地処理工程が実施され、さらに下地処理工程の後、溶射工程の前に予熱工程が実施される。これにより、優れた耐摩耗性を有する摺動部品1をより確実に製造することができる。
以下、実施例により本実施形態の摺動部品1の効果をさらに具体的に説明する。以下の実施例での条件は、本実施形態の摺動部品1の実施可能性及び効果を確認するために採用した一条件例である。したがって、本実施形態の摺動部品1はこの一条件例に限定されない。
図2及び図3を参照して、実施例における試験の様子を説明する。図2は、摺動部品1の基材2を模擬した中間試験片200を示す斜視図である。図3は、摺動部品1を模擬した試験片100を用いた摺動試験の模式図である。
図2を参照して、基材2を模擬した中間試験片200を複数準備した。中間試験片200の材質は、S50C(G 4051(2016)で規定される機械構造用炭素鋼鋼材)とした。中間試験片200は、縦10mm×横20mm×厚み25mmの直方体であった。縦10mm×横20mmの面を摺動面220とした。中間試験片200の摺動面220に、下記の表1に示す条件でMo粉末を大気中でプラズマ溶射し、膜厚が500μmの溶射皮膜3を形成した。プラズマ溶射の後、溶射皮膜3の表面を研磨し、溶射皮膜3の膜厚を300μmとした。このようにして得られた研磨後の中間試験片200を、摺動部品1を模擬した試験片100とした。参考のため、ワイヤ溶射法、及び減圧プラズマ溶射でも、Moの溶射皮膜を形成し、上記と同様の研磨処理を実施した。
図3を参照して、試験片100に対して摺動試験を実施した。摺動試験では、摺動部品1と摺動する他の部品を模擬したシリンダ500を軸回りに回転させ、回転するシリンダ500の外面に試験片100を押し付けて、試験片100の摺動面220をシリンダ500と摺動させた。シリンダ500の外径は120mmであった。シリンダ500の材質は、試験片100よりも硬いSCM435(クロムモリブデン鋼)であった。シリンダ500に対する試験片100の押し付け荷重は、5.884kN(600kgf)であった。摺動時間は、最大60分間とした。摺動試験の開始前、シリンダ500の外面に、市販のリチウムグリスを潤滑剤として塗布し、塗布した潤滑剤をバーコーター(#0番手)で均した。摺動試験中、潤滑剤の補給はしなかった。
摺動試験後、3次元形状測定機(キーエンス社製VR-3000G2)を用いて、摩耗深さを測定した。摩耗深さより耐摩耗性を評価した。摺動試験中、トルクオーバーで試験を中断した場合、中断までの経過時間と摩耗深さの関係から60分間の摺動試験時の摩耗深さに換算した。
評価は以下の通りとした。
・摩耗深さ≦0.05mm:優
・0.05mm<摩耗深さ≦0.07mm:良
・0.07mm<摩耗深さ≦0.10mm:可
・0.10mm<摩耗深さ:不可
また、試験片100の切断面より、溶射皮膜3の酸素量、気孔率及び硬度を調査した。硬度はビッカース硬さであり、JIS Z 2244(2009)に準拠して測定した。試験力は、2.942N(300gf)とした。溶射皮膜3の厚み方向の中心付近において、10点測定し、最大値と最小値を除いた8点の平均値を硬さとした。
気孔率を算出するため、溶射皮膜3の全体を光学顕微鏡で200倍に拡大してミクロ写真を撮影した。このミクロ写真を2値化処理して、気孔率を算出した。
酸素量は、エネルギー分散型X線分光法(EDX)により測定した。具体的には、溶射皮膜3を100倍に拡大したSEM像について、EDX分析を実施し、酸素量を求めた。
試験結果を表1に示す。
Figure 2024043784000002
本発明例1~9は、Moの溶射皮膜において、酸素量は1.0%以上2.6%以下、気孔率は8.0%以上24.0%以下、及び硬度は370HV以上450HV未満であった。この場合、摩耗深さが0.10mm以下であり、良好な耐摩耗性が認められた。また、これらのプラズマ溶射時の条件について、アルゴンガス流量は40L/min以上で、かつMo粉末の平均粒径が50μm以上であった。また、溶射前の基材の予熱温度について、300℃よりも150℃の方が良好な耐摩耗性を示す傾向であった。さらに、溶射前の下地処理について、アルミナ系の投射材よりも鉄系の投射材を用いた方が良好な耐摩耗性を示す傾向であった。
これに対し、比較例1~7は、Moの溶射皮膜において、酸素量、気孔率及び硬度のいずれかが本実施形態で規定する条件を満たしていなかった。この場合、摩耗深さが0.10mmを超えており、良好な耐摩耗性は認められなかった。また、これらのプラズマ溶射時の条件について、アルゴンガス流量は40L/min未満であるか、又はMo粉末の平均粒径が50μm未満であった。
なお、表1に示されていないが、ワイヤ溶射法で形成された溶射皮膜は、硬度が965.9HV、気孔率が32.0%、酸素量が3.11%、及び表面粗さRaが1.34であり、摩耗深さは0.45mmであった。減圧プラズマ溶射法で形成された溶射皮膜は、硬度が202.8HV、気孔率が1.3%、酸素量が0.24%、及び表面粗さRaが4.87であり、摩耗深さは1.80mmであった。いずれも摩耗量は多かった。
以上の結果から、本実施形態の摺動部品及びその製造方法による効果が実証された。
以上、本開示の実施の形態を説明した。しかしながら、上述した実施の形態は本開示を実施するための例示に過ぎない。したがって、本開示は上述した実施の形態に限定されることなく、その趣旨を逸脱しない範囲内で上述した実施の形態を適宜変更して実施することができる。
1:摺動部品
2:基材
20:摺動面
3:溶射皮膜

Claims (8)

  1. 他の部品と摺動する摺動面を有する基材と、
    前記基材の前記摺動面上に形成されているMoの溶射皮膜と、を備え、
    前記溶射皮膜は、酸素量が1.0質量%以上2.6質量%以下、気孔率が8.0%以上24.0%以下、及び硬度が370HV以上450HV未満である、摺動部品。
  2. 請求項1に記載の摺動部品であって、
    前記基材が管状であり、前記基材の内面が前記摺動面である、摺動部品。
  3. 他の部品と摺動する摺動面を有する基材を準備する準備工程と、
    前記基材の前記摺動面に溶射材を大気中でプラズマ溶射して、前記基材の前記摺動面に溶射皮膜を形成する溶射工程と、を備え、
    前記溶射工程では、平均粒径が50μm以上のMo粉末を前記溶射材として用い、アルゴンガスの流量を40L/min以上とする、摺動部品の製造方法。
  4. 請求項3に記載の摺動部品の製造方法であって、さらに、
    前記溶射工程の前に、前記基材の前記摺動面にブラストを施す下地処理工程を備える、摺動部品の製造方法。
  5. 請求項4に記載の摺動部品の製造方法であって、
    前記下地処理工程では、鉄系の投射材を用いる、摺動部品の製造方法。
  6. 請求項4に記載の摺動部品の製造方法であって、さらに、
    前記下地処理工程の後、前記溶射工程の前に、前記基材を加熱する予熱工程を備える、摺動部品の製造方法。
  7. 請求項6に記載の摺動部品の製造方法であって、
    前記予熱工程では、前記基材の加熱温度を100℃以上200℃以下とする、摺動部品の製造方法。
  8. 請求項3から7のいずれか1項に記載の摺動部品の製造方法であって、
    前記準備工程では、管状であって、前記摺動面として内面を有する前記基材を準備する、摺動部品の製造方法。
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