JP2024036118A - ビトリファイド砥石の製造方法、それに用いる砥材、および、ビトリファイド砥石 - Google Patents

ビトリファイド砥石の製造方法、それに用いる砥材、および、ビトリファイド砥石 Download PDF

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Abstract

【課題】砥石強度を向上させるビトリファイド砥石の製造方法を提供すること。【解決手段】ここに開示されるビトリファイド砥石の製造方法は、砥粒表面にガラス融剤14を付着させた砥材を用意する工程(A)と、砥材とビトリファイドボンドとを含む混合物を焼成する工程(B)と、を含む。工程(B)は、ガラス融剤14とビトリファイドボンドとを反応させ、砥粒12の表面近傍においてビトリファイドボンドの溶融または軟化を促進させることを特徴とする。【選択図】図1

Description

本発明は、ビトリファイド砥石の製造方法、それに用いる砥材、および、ビトリファイド砥石に関する。
金属材料等の表面や断面に対して仕上げ加工を行う研削工具として、砥粒が結合剤(ボンド)によって結合された砥石が用いられている。このような砥石としては、例えば結合剤の種類により、ビトリファイド砥石、レジノイド砥石、メタル砥石などが知られている。
上記した砥石においては、砥粒と結合剤との組み合わせによっては、砥粒と結合剤の濡れや密着性が低くなる傾向にあり、砥石強度が十分に得られないことや、砥粒保持力が不十分になることがある。これに対して、従来から砥粒に砥粒とは異なる材料を被覆し、砥石強度や砥粒保持力を向上させることが提案されている。例えば特許文献1では、立方晶窒化ホウ素(以下、「CBN」ともいう。)の表面を酸化アルミニウム層や酸化ケイ素層で被覆し、これによって砥粒保持力が向上することが開示されている。特許文献2では、ダイヤモンドやCBN等の超砥粒の表面に粒子状の酸化物を被覆することにより、アンカー効果によって砥粒保持力を向上させることが開示されている。また、特許文献3では、超砥粒の表面に酸化物ではないセラミックを被覆し、砥石の砥粒保持力を向上することが開示されている。
特開平7-108461号公報 特開2010-12545号公報 特開平4-331076号公報
しかしながら、上記した特許文献2に記載される手法を用いた場合には、被覆によって砥粒の表面上に凹凸が生じ、例えば砥粒と結合剤とを混合する際に砥粒の流動性が低下する虞がある。また、例えば特許文献1に記載されるように、酸化アルミニウムや酸化ケイ素の層で砥粒の表面を被覆した場合には、結合剤の軟化点の上昇や、結合剤の結晶化を促進する可能性があり、これによって砥粒の性状に影響を及ぼすことや、砥粒保持力の低下を引き起こす虞がある。また、特許文献3に記載されるように、CBNについてはビトリファイドボンドとの反応によって、砥粒とビトリファイドボンドとの濡れを向上させることができるが、砥粒が目減りするという課題がある。さらに、特許文献3では、砥粒とビトリファイドボンドとが反応することによってこれらの間に酸化ホウ素が生成した場合には、酸化ホウ素の強度がかなり低く砥粒との密着力も弱いため、砥粒保持力が低くなることが記載されている。したがって、砥石強度や砥粒保持力の向上の観点からは未だ改善の余地がある。
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたものであり、砥石強度を向上させるビトリファイド砥石の製造方法、それに用いる砥材、および、砥石強度が向上したビトリファイド砥石を提供することにある。
ここに開示されるビトリファイド砥石の製造方法は、砥粒表面にガラス融剤を付着させた砥材を用意する工程(A)と、上記砥材とビトリファイドボンドとを含む混合物を焼成する工程(B)と、を含む。上記工程(B)は、上記ガラス融剤と上記ビトリファイドボンドとを反応させ、上記砥粒の表面近傍において上記ビトリファイドボンドの溶融または軟化を促進させることを特徴とする。
砥粒表面にガラス融剤を付着させた砥材をビトリファイド砥石の製造に用いることにより、砥材とビトリファイドボンドとの混合物を焼成する際に、ガラス融剤によって砥粒の近傍においてビトリファイドボンドの溶融、軟化が促進される。これによって砥石の製造後においては、砥粒がビトリファイドボンドに好適に保持されるため、砥石強度が高いビトリファイド砥石を提供することができる。
ここに開示される製造方法の好ましい一態様では、上記工程(B)では、上記工程(A)で用意した上記砥材に含まれる上記ガラス融剤がその用意した組成および形状のまま残らないような焼成条件で実施する。
かかる構成によれば、より好適に砥粒の表面近傍でのビトリファイドボンドの流動性を高めることができるとともに、製造後の砥石100においてガラス融剤が残存することによる強度低下が抑制され、強度が高い砥石を提供することができる。
ここに開示される製造方法の好ましい一態様では、上記工程(A)において、上記砥粒と、上記ガラス融剤または上記ガラス融剤を含む材料と、を混合する混合処理を含む。
かかる構成によれば、好適に砥粒の表面にガラス融剤を付着させることができる。
ここに開示される製造方法の好ましい一態様では、上記工程(A)において、上記砥粒表面に上記ガラス融剤が付着した砥材を焼成する焼成処理を含む。また、かかる焼成処理の好ましい一態様では150℃以上1000℃以下の温度で焼成を実施する。
かかる構成によれば、砥粒の表面に付着したガラス融剤を安定化させることができる。
ここに開示される製造方法の好ましい一態様では、上記工程(B)では300℃以上1000℃以下の温度で焼成を実施する。
かかる構成によれば、砥粒の性状に影響を及ぼすことなく、砥石強度が高いビトリファイド砥石を提供することができる。
ここに開示される製造方法の好ましい一態様では、上記工程(B)において、上記ビトリファイドボンドの重量Xに対する上記ガラス融剤の重量Yの比(Y/X)が0.1以下である。
かかる構成によれば、砥粒の研削機能に影響を及ぼすことなくビトリファイドボンドとの濡れを向上させることができる。
また、ここに開示される技術によれば、ビトリファイド砥石の製造に用いられる砥材が提供される。ここに開示され砥材は、砥粒と、上記砥粒の表面に付着したガラス融剤と、を含む。当該砥材は、砥粒の単位表面積当たりの体積換算の前記ガラス融剤付着量が、0.2mm/m以上50mm/m以下である。
かかる構成によれば、ビトリファイド砥石を製造する際に、ガラス融剤によって砥粒の表面近傍におけるビトリファイドボンドの流動性が向上する。これにより、砥粒の性状にかかわらず、砥粒とビトリファイドボンドとのネットワークが好適に形成され、砥石強度が高い砥石を提供することができる。
ここに開示される砥材の好ましい一態様では、上記ガラス融剤が、ホウ素、鉛、フッ素、アルカリ金属元素およびアルカリ土類金属元素からなる群から選択される少なくとも一種を含む化合物である。
かかる構成によれば、砥石を製造するために砥材とビトリファイドボンドとの混合物を焼成する際に、ガラス質結合剤であるビトリファイドボンドの溶融を好適に促進することができる。
ここに開示される砥材の好ましい一態様では、上記砥粒は、ダイヤモンドおよび立方晶窒化ホウ素のうちいずれかである。
かかる構成によれば、砥粒の表面にガラス融剤を備えることによる砥粒保持力の向上効果がより好適に発揮される。
ここに開示される砥材の好ましい一態様では、上記ガラス融剤は、上記砥粒の表面に部分的に付着している。
かかる構成によれば、好適に砥粒の研削機能を発揮させることができる。
ここに開示される砥材の好ましい一態様では、上記砥粒のBET比表面積A(m/g)に対する表面に上記ガラス融剤が付着した砥粒のBET比表面積B(m/g)の比(B/A)が、1.3以下である。
かかる構成によれば、砥材とビトリファイドボンドとが好適に混合されつつ、砥粒の表面近傍でビトリファイドボンドを溶融、軟化させやすくすることができる。
ここに開示される砥材の好ましい一態様では、上記砥粒の単位面積当たりのガラス融剤付着量(mg/m)が、0.02mg/m以上50mg/m以下である。別の好ましい一態様では、上記ガラス融剤の含有量は、砥材全体を100wt%としたときに、10wt%以下である。
かかる構成によれば、砥粒の研削機能を低下させることなく、砥粒とビトリファイドボンドとの濡れを向上させることができる。
また、ここに開示される技術によれば、ビトリファイド砥石が提供される。ここに開示されるビトリファイド砥石は、複数の砥粒と、上記複数の砥粒を相互に結合するビトリファイドボンドと、を含む。上記砥粒と上記ビトリファイドボンドとが接する位置P1におけるガラス融剤成分の濃度は、上記砥粒と上記ビトリファイドボンドとが接しない位置P2におけるガラス融剤成分の濃度よりも高い。ここで、上記ガラス融剤成分は、ホウ素、鉛、フッ素、アルカリ金属元素およびアルカリ土類金属元素のうち、少なくともいずれか一種である。
かかる構成によれば、上記したような効果が好適に発揮され、砥石強度が高いビトリファイド砥石を実現することができる。
ここに開示されるビトリファイド砥石の好ましい一態様では、上記砥粒と上記ビトリファイドボンドとが接する位置P1における上記ビトリファイドボンドの軟化点は、上記砥粒と上記ビトリファイドボンドとが接しない位置P2における上記ビトリファイドボンドの軟化点よりも低い。
かかる構成によれば、ガラス融剤が表面に付着した砥粒を複数含むことの効果が好適に発揮されて、砥石強度が高いビトリファイド砥石を実現することができる。
図1は、一実施形態に係る表面にガラス融剤が付着した砥粒を模式的に示す図である。 図2は、一実施形態に係る砥石の構造を模式的に示す図である。 図3は、例1のSEM画像(150倍)である。 図4は、例2のSEM画像(150倍)である。 図5は、例3のSEM画像(150倍)である。
以下、本発明の好適な実施形態を説明する。なお、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって本発明の実施に必要な事柄は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。なお、本明細書において数値範囲を示す「A~B」との表記は、特にことわりの無い限り「A以上B以下」を意味する。なお、図面は模式的に描かれており、図における寸法関係(長さ、幅、厚さ等)は、実際の寸法関係を反映するものではない。また、本明細書における「分散体」とは、固形分の一部またはすべてが液体の分散媒に分散した混合物のことをいい、いわゆる「ペースト」、「スラリー」、「インク」等を包含し、分散安定性を問わない。
図1は、表面にガラス融剤14が付着した砥粒12を模式的に示す図である。図2は、砥石100の構造を模式的に示す図である。ここに開示される砥材は、砥粒12と、砥粒12の表面に付着したガラス融剤14と、を含む。また、ここに開示される砥石100は、複数の砥粒12と、当該複数の砥粒12を相互に結合するビトリファイドボンド20と、を含んでいる。砥石100は、砥材と結合剤(ここでは、ビトリファイドボンド20)との混合物を適切な温度で焼成することにより、作製することができる。砥石100を製造する際に、砥粒12の表面にガラス融剤14が付着した砥材を用いることにより、砥粒12とビトリファイドボンド20との濡れを高めることができる。また、砥材とビトリファイドボンド20との混合物を焼成する際に、ガラス融剤14がビトリファイドボンド20の溶融や軟化を促進することにより、砥粒12の近傍でビトリファイドボンド20が好適に流動し、焼成後の砥石100では砥粒保持力を向上させることができる。これにより、砥石100の砥石強度を向上させることができる。
以下、ここに開示される砥材と砥石100について説明する。
<砥材>
砥材は、砥粒12を含んでいる。砥粒12は、被加工物を直接的に研削する機能を有する部分である。砥粒12は、その性状は特に限定されず、研削加工の目的や使用態様等に応じて、適宜選択すればよい。砥粒12は、被加工物の硬度等の物理的特性を考慮して決定することができる。砥粒12としては、例えば、鉱物、金属または半金属の炭化物、酸化物、窒化物等からなる粒子が挙げられる。具体的には、ダイヤモンド、立方晶窒化ホウ素(以下、「CBN」ともいう。)、シリカ、アルミナ、セリア等が挙げられる。なかでも、ヌープ硬度が4000以上であるダイヤモンド(ヌープ硬度:7000~8000程度)や、CBN(ヌープ硬度:4700程度)を好ましく用いることができる。なお、ダイヤモンドは、天然ダイヤモンドであってもよいし、人工ダイヤモンドであってもよい。例えば人工ダイヤモンドは、高純度のものが得られやすく、材料として各種のものを安定して入手することができるため好ましい。
砥粒12の形状は、特に限定されず、例えば、球状、板状、不定形状等であってもよい。砥粒12の大きさについても、砥石100の使用目的や使用態様に応じて適宜決定することができる。例えば、砥粒12の平均粒径は、0.1μm以上1000μm以下程度であってもよく、概ね1μm以上100μm以下であるとよい。また、特に限定するものではないが、砥粒12の平均アスペクト比(長径/短径比)は、1以上2以下であることが好ましく、1.1以上1.8以下であることがより好ましい。
なお、かかる砥粒の平均粒径は、例えば、顕微鏡観察により把握することができる。具体的には、砥粒を、顕微鏡(光学顕微鏡、走査型電子顕微鏡(SEM)、透過型電子顕微鏡(TEM))を用いて観察し、これにより得られた画像において、所定個数(例えば100個)以上の砥粒について画像解析により円相当径を求め、この算術平均値を砥粒の平均粒径とすることができる。また、平均アスペクト比は、以下のようにして求めることができる。上記得られた画像において、各粒子に外接する最小の長方形を描き、当該長方形の長辺の長さ(長径)と短辺の長さ(短径)とを求める。そして、長径を短径で除した値(長径/短径)を算出し、算術平均値を算出することにより、砥粒の平均アスペクト比を求めることができる。
特に限定されないが、砥粒のBET比表面積(m/g)は、例えば0.01m/g以上100m/g以下であることが好ましく、0.1m/g以上10m/g以下であってもよい。なお、本明細書において「砥粒のBET比表面積」は、吸着質として窒素(N)ガスを用いたガス吸着法によって測定された吸着等温線を、BET法で解析した値をいう。
ここに開示される砥材は、ガラス融剤14を含む。ここで、ガラス融剤(ガラスフラックス)とは、ビトリファイドボンド20の溶融や軟化を助長する融剤成分(フラックス成分)である。すなわち、ガラス融剤14は、ビトリファイドボンド20の軟化流動性を上げる効果を発揮する成分である。砥石100を製造する際に、砥粒12の表面にガラス融剤14が付着した砥材を用いることにより、ビトリファイドボンド20とガラス融剤14とが反応して、砥粒12の表面近傍でビトリファイドボンド20が溶融、軟化しやすくなる。これにより、砥粒12の表面近傍においてビトリファイドボンド20の流動性が高まって、ネットワークが好適に形成され得る。したがって、砥粒保持力が向上し、砥石100の砥石強度が向上する。
このようなガラス融剤14としては、例えば、ホウ素(B)、鉛(Pb)、フッ素(F)、アルカリ金属元素およびアルカリ土類金属元素等を含む化合物が挙げられる。例えば、これら元素を含む酸化物、水酸化物、炭酸塩、硝酸塩、フッ化物、有機金属化合物、レジネートを好ましく用いることができる。より具体的にガラス融剤14としては、酸化ホウ素(B)、酸化リチウム(LiO)、酸化カリウム(KO)、酸化バリウム(BaO)、酸化マグネシウム(MgO)、酸化カルシウム(CaO)、酸化ストロンチウム(SrO)、酸化鉛(PbO)等の酸化物;水酸化カリウム(KOH)、水酸化ナトリウム(NaOH)等の水酸化物;フッ化リチウム(LiF)、フッ化ナトリウム(LiNa)、フッ化カルシウム(CaF)等のフッ化物;炭酸ナトリウム(Na)、炭酸カリウム(KCO)、炭酸マグネシウム(MgCo)等の炭酸塩;硝酸ナトリウム(NaNO)、硝酸カリウム(KNO)等の硝酸塩;ホウ酸(B(OH))、ホウ砂(Na)等のホウ素を含む化合物;等が挙げられる。ガラス融剤14としては、上記したガラス融剤成分の1種が単独で用いられていてもよく、2種以上が混合されて用いられていてもよい。
表面にガラス融剤が付着した砥粒のBET比表面積(m/g)は、例えば0.01m/g以上100m/g以下であることが好ましく、0.1m/g以上10m/g以下であってもよい。ここに開示される砥材では、砥粒のBET比表面積A(m/g)に対する表面にガラス融剤が付着した砥粒のBET比表面積B(m/g)の比率(B/A)が、1.3以下であることが好ましく、1.2以下であってもよく、1.1以下であってもよい。すなわち、砥粒12の表面にガラス融剤14が付着していても、砥粒12の表面凹凸は、それほど増加しないことが好ましい。かかる構成によれば、砥石100を製造する際に、砥材とビトリファイドボンド20とを好適に混合しつつ、混合物の焼成段階では、砥粒12の表面近傍でビトリファイドボンド20を溶融、軟化させやすくすることができる。
ガラス融剤の含有量は、砥材全体を100wt%としたときに、10wt%以下であることが好ましい。ガラス融剤の含有量は7wt%以下であることがより好ましく、5wt%以下であることがさらに好ましく、3wt%以下であってもよく、2wt%以下であってもよく、1wt%以下であってもよく、0.8wt%以下であってもよい。これにより、被加工物を研削する機能を低下させることなく、砥材とビトリファイドボンド20との濡れを向上させることができる。また、ビトリファイドボンド20の性状に影響を与えることなく、砥石100における砥粒保持力を向上させることができる。一方で、ガラス融剤の含有量が少なすぎる場合には、上述したような効果が十分に発揮されない。したがって、ガラス融剤の含有量は、例えば0.05wt%以上であることが好ましく、0.1wt%以上であってもよく、0.5wt%以上であってもよい。なお、砥材全体におけるガラス融剤の含有量は、例えばガラス融剤を溶解除去し、ICP発光分析等によってその溶液中に含まれるガラス融剤成分を定量することにより求めることができる。
砥粒の単位表面積当たりのガラス融剤付着量(mg/m)は、砥粒12の表面でのビトリファイドボンド20の流動性を十分に向上させる観点から、0.02mg/m以上であることが好ましく、0.05mg/m以上であってもよく、0.1mg/m以上であってもよく、1.5mg/m以上であることがより好ましい。一方で、砥粒12の表面にガラス融剤14が過剰に付着している場合には、製造後の砥石100において過剰にガラス融剤が残存する可能性があり、強度や加工性を低減させる虞がある。これらの観点からは、砥粒の単位表面積当たりのガラス融剤付着量は、50mg/m以下であることが好ましく、30mg/m以下であってもよく、25mg/m以下であることがより好ましく、5mg/m以下であってもよく、4mg/m以下であることがさらに好ましく、3mg/m以下であってもよい。なお、「砥粒の単位表面積当たりのガラス融剤付着量(mg/m)」は、上記ガラス融剤の含有量と砥粒のBET比表面積より求めることができる。
また、砥粒の単位表面積当たりの体積換算のガラス融剤付着量(mm/m)は、砥粒12の表面でのビトリファイドボンド20の流動性を十分に向上させる観点から、0.2mm/m以上であることが好ましく、0.4mm/m以上であってもよく、0.7mm/m以上であってもよく、1mm/m以上であることがより好ましい。一方で、砥粒12の表面にガラス融剤14が過剰に付着している場合には、製造後の砥石100において過剰にガラス融剤が残存する可能性があり、強度や加工性を低減させる虞がある。したがって、砥粒の単位表面積当たりの体積換算のガラス融剤付着量は、50mm/m以下であることが好ましく、30mm/m以下であってもよく、20mm/m以下であってもよく、15mm/m以下であってもよく、14mm/m以下であることがより好ましく、5mm/m以下であってもよく、3mm/m以下であることがさらに好ましい。なお、「砥粒の単位表面積当たりの体積換算のガラス融剤付着量(mm/m)」は、砥材の構成成分の重量および密度から算出したガラス融剤の体積換算の含有量と砥粒のBET比表面積から求めることができる。
ガラス融剤14は、例えば砥粒12の表面に固着している。ガラス融剤14が砥粒12の表面に付着した際の形状、存在形態は特に限定されない。例えば、砥粒12の表面におけるガラス融剤14の形状は粒子状であってもよく、膜状であってもよい。ガラス融剤14が粒子状で付着した場合には、砥粒12の表面に0.05μm~300μm程度の凹凸が生じ得るため、粉体としての流動性が低下する。このため、ビトリファイドボンド20との混合、成形性の観点からは、砥粒12の表面にガラス融剤14が付着した際の形状は膜状であることが好ましい。また、ガラス融剤14は、砥粒12の表面においてアモルファス構造の形態で存在していてもよい。あるいは、アモルファス構造が骨格となったうえで、種々の金属元素(または半金属元素)が酸化物として、または陽イオンの形態で、骨格内に存在している構造(以下、「非晶質マトリクス構造」ともいう。)の形態で存在していてもよい。なお、かかるガラス融剤14の形態は、顕微鏡観察により確認することができる。
ガラス融剤14は、砥粒12の表面全面に付着していてもよいし、砥粒12の表面に部分的に付着していてもよい。好ましくは、ガラス融剤14は、砥粒12の表面に部分的に付着しているとよい。例えば図1に示すように、ガラス融剤14は、砥粒12の表面において島状に存在している(すなわち、点在している)とよい。これにより、製造後の砥石100において、ビトリファイドボンド20と接していない砥粒12の表面全体をガラス融剤が覆うことがないため、砥石100の加工性能(例えば切削機能)が好適に発揮される。なお、ガラス融剤14が砥粒12の表面に点在していることは、従来公知の方法により確認することができる。例えば、砥粒の表面や断面を、電子顕微鏡を用いて観察することにより、確認することができる。
ガラス融剤14の平均厚みは、厚すぎる場合には砥粒12の表面にアンカー効果を生じさせるような凹凸が生じ、砥材の流動性が阻害され得る。したがって、ガラス融剤14の平均厚みは、例えば30nm以下であることが好ましく、20nm以下であってもよく、15nm以下であることがより好ましく、10nm以下であってもよい。一方で、薄すぎる場合にはガラス融剤14を有することによる砥粒12とビトリファイドボンド20との濡れの向上効果が十分に発揮されない。例えばガラス融剤14の平均厚みは、0.1nm以上であることが好ましく、0.5nm以上であることがより好ましく、1nm以上であることがさらに好ましい。なお、ガラス融剤14の厚みは、例えば、砥粒とガラス融剤との体積比および砥粒のBET比表面積を用いて求めることができる。また、砥材断面のガラス融剤の構成元素(例えばホウ素)の元素マップにおいて任意に設定した複数箇所(例えば10箇所)におけるガラス融剤の厚みの平均値を算出することによって求めることができる。
好ましい一態様では、砥粒がダイヤモンドから構成され、かかる砥粒としてのダイヤモンドの表面にガラス融剤が付着しているとよい。砥粒としてダイヤモンドを用いた場合には、ダイヤモンドが酸化することを抑制するために比較的低温(例えば700℃以下)で焼成する必要がある。また、ダイヤモンドと酸化物であるビトリファイドボンド20との濡れは低い傾向にある。これに対して、砥粒としてのダイヤモンドの表面にガラス融剤が付着していることにより、比較的低温で焼成した場合でも、ビトリファイドボンド20の溶融、軟化を促進させることができる。したがって、砥粒がダイヤモンドにより構成されている場合、その表面にガラス融剤が付着していることの効果がより顕著に発揮され得る。
また、他の好ましい一態様では、砥粒が立方晶窒化ホウ素(CBN)から構成され、かかる砥粒としてのCBNの表面にガラス融剤が付着しているとよい。CBNによって砥粒が構成される場合には、ビトリファイドボンド20と混合して焼成した際に、CBNとビトリファイドボンド20とが反応して砥粒が目減りする虞がある。また、砥粒とビトリファイドボンド20との境界部において、酸化ホウ素が生成することにより砥粒保持力が低下し得る。これに対して、砥粒としてのCBNの表面にガラス融剤が付着していることにより、例えば砥石100を製造するために熱処理を実施する際に、当該ガラス融剤がビトリファイドボンド20とより積極的に反応するため、砥粒(CBN)が目減りすることを抑制することができる。この場合において、ガラス融剤は、ホウ素を含む化合物を含むことがより好ましい。これにより、砥粒(CBN)からビトリファイドボンド20へホウ素が拡散することをより好適に抑制することができる。
ここに開示される技術によれば、ビトリファイド砥石の製造に用いられる砥材(粉体材料)が提供される。砥材(粉体材料)は、表面にガラス融剤14が付着した砥粒12から実質的に構成されることが好ましい。ここで、「実質的に構成される」とは、表面にガラス融剤14が付着した砥粒12の存在比率が顕著であることをいい、砥材(粉体材料)を構成する砥粒全体の60個数%以上、80個数%以上、より好ましくは90個数%以上、さらに好ましくは95個数%以上含んでいることをいう。
<砥石>
砥石100は、図2に示すように、複数の砥粒12とビトリファイドボンド20とを含んでおり、ビトリファイドボンド20によって、複数の砥粒12同士が結合されることによって構成されている。また、砥石100は、複数の空隙30を有する多孔質体である。かかる空隙30は、被加工物を研削した際の研削屑を一時的に貯留する空間として機能する。
ビトリファイドボンド20は、複数の砥粒12を相互に結合させる結合剤である。ビトリファイドボンド20は、従来公知のビトリファイドボンドを特に限定することなく用いることができる。例えば、ビトリファイドボンド20は、Bi―ZnO-B-SiO系ガラス、SiO-RO(Rは、例えばMg、Ca、Zn、Ba、Srを表す。以下同じ。)系ガラス、SiO-R’O(R’は、例えばLi、K、Naを表す。以下同じ。)系ガラス、SiO-RO-Al系ガラス、SiO-RO-Bi系ガラス、SiO-RO-Y系ガラス、SiO-RO-B系ガラス、SiO-Al系ガラス、SiO-ZnO系ガラス、SiO-ZrO系ガラス、RO-R’O系ガラス、RO系ガラス、鉛系ガラス、鉛リチウム系ガラス、ホウケイ酸系ガラス等を主成分とするガラス質結合剤である。なお、ビトリファイドボンド20は、上述のガラス成分の他に1つまたは2つ以上の成分を含んでもよい。また、上述のガラス成分の1種が単独で用いられていてもよく、2種以上が混合されて用いられていてもよい。
砥石100では、砥粒12とビトリファイドボンド20とが接する位置P1と、砥粒12とビトリファイドボンド20とが接しない位置P2とで、ガラス融剤成分の濃度が異なっている。ここで、「ガラス融剤成分」とは、ホウ素、鉛、フッ素、アルカリ金属元素およびアルカリ土類金属元素のうち、少なくともいずれか一種のことである。好ましくは、砥石100において、砥粒12とビトリファイドボンド20とが接する位置P1におけるガラス融剤成分の濃度は、砥粒12とビトリファイドボンド20とが接しない位置P2におけるガラス融剤成分の濃度よりも低い。かかる濃度は、砥粒12と接する位置P1から砥粒12と接しない位置P2に向かって、段階的にまたは連続的に低くなるように濃度勾配を有していてもよい。これにより、砥粒12がビトリファイドボンド20に好適に保持される。
一例として、ガラス融剤成分がホウ素である場合について説明する。この場合において、砥粒とビトリファイドボンドとが接する位置P1におけるホウ素の濃度は、砥粒とビトリファイドボンドとが接しない位置P2におけるホウ素の濃度よりも低いことが好ましい。具体的に例えば、砥粒の表面をa点とし、砥粒と接触しない領域に位置する点であって、a点から3μm以上離れており、かつ他の砥粒とも3μm以上離れた位置をb点とする。このとき、b点のホウ素の濃度Bは、a点のホウ素の濃度Aよりも小さい(濃度A>濃度B)。例えば、b点のホウ素濃度Bに対するa点のホウ素濃度Aの比(濃度A/濃度B)は、1.1以上であることが好ましく、1.2以上であってもよく、1.3以上であってもよい。なお、各点におけるホウ素の濃度は、EPMA(電子プローブマイクロアナライザー)を用いて測定することができる。また、上記ではガラス融剤成分がホウ素である場合を一例として説明したが、ガラス融剤成分が、鉛(Pb)、フッ素(F)、アルカリ金属元素およびアルカリ土類金属元素等である場合であっても同様である。
砥石100では、砥粒12とビトリファイドボンド20とが接する位置P1と、砥粒12とビトリファイドボンド20とが接しない位置P2とで、ビトリファイドボンド20の軟化点が異なっていることが好ましい。具体的には、砥石100において、砥粒12とビトリファイドボンド20とが接する位置P1におけるビトリファイドボンド20の軟化点は、砥粒12とビトリファイドボンド20とが接しない位置P2におけるビトリファイドボンド20の軟化点よりも低いことが好ましい。例えば、砥粒12の表面をa点とし、砥材と接触しない領域に位置する点であって、a点から3μm以上離れており、かつ他の砥粒とも3μm以上離れた位置をb点とする。このとき、a点のビトリファイドボンドの軟化点Aは、b点のビトリファイドボンドの軟化点Bよりも低い(軟化点A<軟化点B)。例えば、a点のビトリファイドボンドの軟化点Aと、b点のビトリファイドボンドの軟化点Bとの差が、10℃以上であることが好ましく、30℃以上であってもよく、50℃以上であってもよい。なお、各点におけるビトリファイドボンドの軟化点は、a点およびb点の組成を再現したボンドを、TMA(熱機械分析装置)で測定することによって求めることができる。なお、a点およびb点の組成は、EPMAを用いて測定することができる。
砥石100において、砥石全体(すなわち、砥粒12とビトリファイドボンド20との合計)に占める砥粒12の割合は、砥石の用途などにより適宜設定することができる。砥粒12の割合が低すぎる場合には、研削の効率が低下し得るため好ましくない。その一方で、砥粒12の割合が高すぎる場合には、相対的にビトリファイドボンド20の割合が低下し、砥粒12が好適に固着されない。このため、砥粒12の脱落や、ビトリファイドボンド20の割れ等が生じ、耐久性が低下する虞があるため好ましくない。したがって、砥石全体に占める砥粒12の割合は、5wt%以上90wt%以下であることが好ましく、例え20wt%以上80wt%以下であってもよい。
なお、ここに開示される砥石100は、本発明の目的を損ねない範囲において、分散剤や発泡剤等の添加剤やその分解物等を含んでいてもよい。
<砥石の製造方法>
次いで、ここに開示されるビトリファイド砥石の製造方法の一例を説明する。かかる製造方法は、砥粒12の表面にガラス融剤14を付着させた砥材を用意する工程(A)と、砥材とビトリファイドボンド20とを含む混合物を焼成する工程(B)と、を少なくとも包含する。ここに開示される製造方法は、上記工程(B)において、ガラス融剤14とビトリファイドボンド20とを反応させ、砥粒12の表面近傍においてビトリファイドボンド20の溶融または軟化を促進させることによって特徴づけられており、それ以外の製造プロセスは従来と同様であってよい。また、ここに開示される製造方法は、任意の段階でさらに他の工程を含んでもよい。
工程(A)では、砥粒12の表面にガラス融剤14を付着させた砥材を用意する。工程(A)は、砥粒12の表面にガラス融剤14を付着させることができる限り特に限定されない。例えば、砥粒12と、ガラス融剤14またはガラス融剤を含む材料と、を混合することにより、砥粒12の表面にガラス融剤14を付着させることができる。あるいは、CVD法(Chemical Vapor Deposition)や、PVD(Physical Vapor Deposition)等の気相法、液相還元法、水熱合成法、共沈法、等によっても、砥粒12の表面にガラス融剤14を付着させることができる。
ここでは、工程(A)の一例として、砥粒12と、ガラス融剤14またはガラス融剤を含む材料と、を混合することによって、砥粒12の表面にガラス融剤14を付着させることについて説明する。例えば、工程(A)は、液状媒体と、砥粒12と、ガラス融剤14またはガラス融剤を含む材料、とを混合する混合処理(以下、「第1混合処理」ともいう)と、当該第1混合処理の後に液状媒体を除去する予備加熱処理と、を含んでいてもよい。第1混合処理における材料の混合方法は特に限定されず、例えば三本ロールミル、マグネチックスターラー、プラネタリーミキサー、ディスパー等の公知の種々の混合装置を用いて実施することができる。また、予備加熱処理は、液状媒体を除去することができる限り、特に限定されない。例えば、50℃~150℃程度の温度で30分~4時間程度加熱することが好ましい。また、予備加熱処理は減圧環境下で実施してもよい。
砥粒12としては、例えば、上記した鉱物、金属または半金属の炭化物、酸化物、窒化物等からなる粒子が挙げられる。例えば、ダイヤモンドやCBNを好ましく用いることができる。ガラス融剤としては、ホウ素(B)、鉛(Pb)、フッ素(F)、アルカリ金属元素およびアルカリ土類金属元素等を含む化合物が挙げられる。好ましくは、ホウ酸粉末、Caレジネート、ほう砂、上記元素を含む溶解性化合物等が挙げられる。
液状媒体は、例えばガラス融剤14を溶解する溶媒、または、ガラス融剤14を分散させる分散媒であり得る。液状媒体は水系であってもよく、有機系であってもよい。水系の液状媒体としては、水や水を主体とする混合液(例えば、水とエタノールの混合溶液)を用いることができる。また、有機系の液状媒体としては、例えば、スクラレオール、シトロネロール、フィトール、ゲラニルリナロオール、テキサノール、ベンジルアルコール、エタノール、フェノキシエタノール、1-フェノキシ-2-プロパノール、ターピネオール、ジヒドロターピネオール、イソボルネオール、ブチルカルビトール、ジエチレングリコール等のアルコール系;ターピネオールアセテート、ジヒドロターピネオールアセテート、イソボルニルアセテート、カルビトールアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセタート等のエステル系;ミネラルスピリット等が挙げられる。なかでも、アルコール系やエステル系の液状媒体を好ましく用いることができる。なお、液状媒体は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
好ましくは、上記第1混合処理においてガラス融剤14が溶媒に溶解しているとよい。また、別の好ましい態様では、上記第1混合処理においてガラス融剤14が分散媒に分散しているとよい。これらにより、ガラス融剤14の偏りが少ない状態で砥粒12の表面に付着させることができる。
工程(A)は、ガラス融剤14が付着した砥粒12を焼成する処理をさらに含むことが好ましい。工程(A)における焼成処理(以下、「第1焼成処理」ともいう。)は、砥粒12の表面に付着したガラス融剤14が安定化するような条件で実施されればよく、特に限定されない。第1焼成処理は、酸化雰囲気(例えば大気中等)で実施されることが好ましい。また、工程(A)における焼成処理の最高焼成温度は、砥粒12やガラス融剤14の種類によって異なるため、一概には規定されないが、例えば150℃以上1000℃以下であることが好ましく、200℃以上900℃以下であってもよく、300℃以上800℃以下であってもよい。砥粒12としてダイヤモンドを用いる場合には、最高焼成温度は高すぎるとダイヤモンドが酸化する虞があるため、例えば700℃以下に設定するとよい。焼成時間は、特に限定されないが、例えば30分~4時間程度焼成するとよい。
工程(B)では、砥材とビトリファイドボンド20とを含む混合物を焼成する。具体的には、工程(B)は、砥材と、ビトリファイドボンド20と、バインダと、をペースト状になるまで混合する混合処理(以下、「第2混合処理」ともいう。)と、混合物を成形する処理と、成形体を焼成する焼成処理と、を含み得る。第2混合処理における撹拌混合方法は特に限定されず、上記した従来公知の種々の撹拌混合装置を用いて実施することができる。成形処理は、特に限定されないが、例えばプレス成形等によって成形することができる。
ビトリファイドボンド20としては、焼成後に上記したような組成を有するガラス粉末を特に限定することなく用いることができる。砥粒12を好適に結合させる定着性の観点からは、Bi―ZnO-B-SiO系ガラス、SiO-B-RO-RO系ガラス等を含むガラス粉末を好ましく用いることができる。
バインダは、焼成される前の段階において、複数の砥粒12同士、および、砥粒12とビトリファイドボンド20とを結合させる機能を有する。これにより、焼成されるまでの形状安定性を向上させることができる。一方で、バインダは、砥粒12とビトリファイドボンド20とが焼成により一体化された後は、不要な成分となり得る。したがって、焼成によって焼失し、焼成後の砥石100において残存しない成分であることが好ましい。このようなバインダとしては、バインダ機能を有する有機化合物を特に制限なく用いることができる。例えば、具体的には、ポリブチルメタクリレート、ポリメチルメタクリレート、ポリエチルメタクリレート等のアクリル系樹脂、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース等のセルロース系高分子、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、アルキド樹脂、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール等のビニル系樹脂、ロジンやマレイン化ロジン等のロジン系樹脂等をベースとするバインダ樹脂が好適に用いられる。なお、バインダは、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
なお、砥石100には、本発明の目的から逸脱しない範囲において、上記以外の種々の添加剤を含ませることができる。かかる添加剤の好適例として、例えば、気孔形成剤、界面活性剤、消泡剤、酸化防止剤、分散剤、レオロジー調整剤等の添加剤が挙げられる。
特に限定されるものではないが、ビトリファイドボンドの重量Xに対する砥材に含まれるガラス融剤の重量Yの比(重量Y/重量X)が、0.1以下であることが好ましい。これにより、ガラス融剤14を含む砥材を用いた場合であっても、ビトリファイドボンド20のバルク性状を変化させることなく、砥粒12の表面近傍におけるビトリファイドボンドと20の流動性を向上させることができる。ビトリファイドボンドの重量Xに対する砥材に含まれるガラス融剤の重量Yの比(重量Y/重量X)は、0.1以下であることが好ましく、0.05以下であってもよく、0.02以下であってもよく、0.01以下であってもよく、0.005以下であってもよい。下限値は特に限定されず、例えば0.001以上であればよい。
工程(B)では、第2混合処理の後に、砥材およびビトリファイドボンド20等を含む混合物を乾燥させる処理を含んでいてもよい。当該乾燥処理は特に限定されないが、例えば50℃~120℃程度の温度で、1時間~6時間程度乾燥させるとよい。乾燥には、従来公知の通風乾燥、加熱乾燥、真空乾燥等の乾燥方法を用いることができる。そして、当該乾燥処理の後に、成形処理を実施することが好ましい。
工程(B)では、工程(A)で用意した砥材に含まれるガラス融剤14が、その用意した状態のまま残らないような条件で焼成処理(以下、「第2焼成処理」ともいう。)を実施するとよい。これにより、より好適に砥粒12の表面近傍でのビトリファイドボンド20の流動性を高めることができる。また、ガラス融剤14が製造後の砥石100に残存することによる強度の低下が抑制される。具体的には、工程(B)は、工程(B)におけるガラス融剤の組成が工程(A)におけるガラス融剤の組成と異なるように、工程(A)において用意したガラス融剤が焼成によって好適に酸化するような条件で実施するとよい。また、工程(B)は、工程(B)におけるガラス融剤の形状が工程(A)におけるガラス融剤の形状と異なるように、工程(A)において用意したガラス融剤が焼成によって好適に溶融するような条件で実施するとよい。
工程(B)では、砥材とビトリファイドボンド20との混合物を、ビトリファイドボンド20の軟化点よりも高い温度で焼成するとよい。これにより、砥材に含まれるガラス融剤14とビトリファイドボンド20とを反応させ、砥粒12の表面近傍においてビトリファイドボンド20の溶融や軟化を促進させる。このため、比較的低い温度(例えば700℃以下)で焼成した場合や、砥粒12としてビトリファイドボンド20との濡れ性が低いものを用いた場合でも、好適に焼成後の砥石100において砥粒保持力を向上させることができる。ここで、砥粒12として酸化しやすい材料(例えばダイヤモンド)を用いている場合には、焼成時の温度を比較的低く(大気中において典型的には800℃以下、例えば700℃以下)に設定する必要がある。また、ダイヤモンドは一般的にビトリファイドボンド20との濡れが悪いことが知られている。ここに開示される技術では、かかる砥粒12としてのダイヤモンドの表面に、ガラス融剤14が付着していることにより、上記効果が好適に発揮されるため、比較的低い温度で焼成されても、強度が高い砥石100を実現することができる。
工程(B)における焼成処理(第2焼成処理)は、酸化雰囲気(例えば大気中等)で実施されることが好ましい。第2焼成処理における最高焼成温度は、砥材やビトリファイドボンド20の種類によって異なるため、一概には規定されないが、少なくともビトリファイドボンド20の軟化点以上であることが求められる。例えば、工程(B)の焼成における最高焼成温度は、300℃以上1000℃以下であることが好ましく、400℃以上800℃以下であってもよいし、450℃以上700℃以下であってもよい。また、焼成時間は、特に限定されないが、例えば1時間~10時間程度焼成するとよい。
なお、工程(B)の後に、室温まで冷却することにより、ビトリファイドボンド20が固化されて、複数の砥粒12同士が結合された砥石100を製造することができる。
ここに開示されるビトリファイド砥石は、種々の材質および形状を有する被加工物の研削に適用することができる。被加工物の材質は、例えば、シリコン、アルミニウム、ニッケル、タングステン、銅、タンタル、チタン、ステンレス鋼等の金属もしくは半金属材料、またはこれらの合金;石英ガラス、アルミノシリケートガラス、ガラス状カーボン等のガラス材料;アルミナ、シリカ、サファイア、窒化ケイ素、窒化タンタル、炭化チタン等のセラミック材料;炭化ケイ素、窒化ガリウム、ヒ化ガリウム等の半導体基板材料;等であり得る。これらのうち複数の材質により構成された被加工物であってもよい。なかでも、金属材料や半導体材料からなる被加工物の研削等に好適である。ここに開示されるビトリファイド砥石は、砥粒保持力が高く耐久性が向上していることから、例えば超高速研削等の高負荷研削に好適に用いることができる。
以上のとおり、ここに開示される技術の具体的な態様として、以下の各項に記載のものが挙げられる。
項1:ビトリファイド砥石の製造方法であって、砥粒表面にガラス融剤を付着させた砥材を用意する工程(A)と、上記砥材とビトリファイドボンドとを含む混合物を焼成する工程(B)と、を含み、上記工程(B)は、上記ガラス融剤と上記ビトリファイドボンドとを反応させ、上記砥粒の表面近傍において上記ビトリファイドボンドの溶融または軟化を促進させることを特徴とする、ビトリファイド砥石の製造方法。
項2:上記工程(B)では、上記工程(A)で用意した上記砥材に含まれる上記ガラス融剤がその用意した組成および形状のまま残らないような焼成条件で実施する、項1に記載の製造方法。
項3:上記工程(A)において、上記砥粒と、上記ガラス融剤または上記ガラス融剤を含む材料と、を混合する混合処理を含む、項1または2に記載の製造方法。
項4:上記工程(A)において、上記砥粒表面に上記ガラス融剤が付着した砥材を焼成する焼成処理を含む、項1~3のいずれか一つに記載の製造方法。
項5:上記工程(A)の上記焼成処理では150℃以上1000℃以下の温度で焼成を実施する、項4に記載の製造方法。
項6:上記工程(B)では300℃以上1000℃以下の温度で焼成を実施する、項1~5のいずれか一つに記載の製造方法。
項7:上記工程(B)において、上記ビトリファイドボンドの重量Xに対する上記ガラス融剤の重量Yの比(Y/X)が0.1以下である、項1~6のいずれか一つに記載の製造方法。
項8:ビトリファイド砥石の製造に用いられる砥材であって、砥粒と、上記砥粒の表面に付着したガラス融剤と、を含み、上記砥粒の単位表面積当たりの体積換算の上記ガラス融剤付着量が、0.2mm/m以上50mm/m以下である、砥材。
項9:上記ガラス融剤が、ホウ素、鉛、フッ素、アルカリ金属元素およびアルカリ土類金属元素からなる群から選択される少なくとも一種を含む化合物である、項8に記載の砥材。
項10:上記砥粒は、ダイヤモンドおよび立方晶窒化ホウ素のうちいずれかである、項8または9に記載の砥材。
項11:上記ガラス融剤は、上記砥粒の表面に部分的に付着している、項8~10のいずれか一つに記載の砥材。
項12:上記砥粒のBET比表面積A(m/g)に対する表面に上記ガラス融剤が付着した砥粒のBET比表面積B(m/g)の比(B/A)が、1.3以下である、項8~11のいずれか一つに記載の砥材。
項13:上記ガラス融剤の含有量は、砥材全体を100wt%としたときに、10wt%以下である、項8~12のいずれか一つに記載の砥材。
項14:上記砥粒の単位面積当たりのガラス融剤付着量(mg/m)が、0.02mg/m以上50mg/m以下である、項8~13のいずれか一つに記載の砥材。
項15:複数の砥粒と、上記複数の砥粒を相互に結合するビトリファイドボンドと、を含むビトリファイド砥石であって、上記砥粒と上記ビトリファイドボンドとが接する位置P1におけるガラス融剤成分の濃度は、上記砥粒と上記ビトリファイドボンドとが接しない位置P2におけるガラス融剤成分の濃度よりも高く、ここで、上記ガラス融剤成分は、ホウ素、鉛、フッ素、アルカリ金属元素およびアルカリ土類金属元素のうち、少なくともいずれか一種である、ビトリファイド砥石。
項16:上記砥粒と上記ビトリファイドボンドとが接する位置P1における上記ビトリファイドボンドの軟化点は、上記砥粒と上記ビトリファイドボンドとが接しない位置P2における上記ビトリファイドボンドの軟化点よりも低い、項15に記載のビトリファイド砥石。
<試験例>
以下、ここに開示される技術に関する実施例を説明するが、ここに開示される技術をかかる実施例に示すものに限定することを意図したものではない。
<第1の試験>
本試験では3種類の砥粒A~Cを調製し、各砥粒を用いた砥石の砥石強度を評価した。
1. 砥材の用意
(1)砥材A
まず、ダイヤモンド(株式会社グローバルダイヤモンド社製、FRM4-6)を20g、ホウ酸(B(OH))を0.094g(B換算で0.053g)、および、エタノールを25g用意した。ホウ酸をエタノールに溶解した後、ダイヤモンドをさらに加え、撹拌した。そして、超音波洗浄機を用いて分散処理を行うことで混合物を得た。80℃のホットプレート上に設置したガラス板の上にこの混合物を滴下し、乾燥させた。さらに、ガラス板を80℃の真空オーブンに入れ、真空オーブン中で1時間乾燥させ、この乾燥物を、乳鉢を用いて解砕した。その後、大気雰囲気中において、温度600℃、昇温速度10℃/min、熱処理時間30分の条件で焼成した。これによりホウ酸が酸化されて、ダイヤモンド(砥粒)の表面に酸化ホウ素(B)が付着した焼成物を得た。得られた焼成物を、乳鉢を用いて解砕することによって、砥材Aを調製した。
(2)砥材B
砥材Aで使用したダイヤモンド(株式会社グローバルダイヤモンド社製、FRM4-6)を、ガラス融剤を付着させずにそのまま砥材Bとして用いた。
(3)砥材C
砥材Aで使用したダイヤモンド(株式会社グローバルダイヤモンド社製、FRM4-6)を20g、Siレジネート(SiO換算で含有量は7.15wt%)を0.88g(SiO換算で0.063g)、および、エタノールを25g用意した。ホウ酸をエタノールに溶解した後、ダイヤモンドをさらに加え、撹拌した。そして、超音波洗浄機を用いて分散処理を行うことで混合物を得た。80℃のホットプレート上に設置したガラス板の上にこの混合物を滴下し、乾燥させた。さらに、ガラス板を80℃の真空オーブンに入れ、真空オーブン中で1時間乾燥させ、この乾燥物を乳鉢を用いて解砕した。その後、大気雰囲気中において、温度600℃、昇温速度10℃/min、熱処理時間30分の条件で熱処理を実施した。これにより、ダイヤモンド(砥粒)の表面に酸化ケイ素が付着した焼成物を得た。得られた焼成物を、乳鉢を用いて解砕することによって、砥材Cを調製した。
2. 砥材の評価
(1)BET測定
各砥材を、マイクロトラック・ベル社製の比表面積測定装置(型番:BELSORP-max)に供試し、-196℃におけるN吸着等温線を測定してBET多点法に基づいてBET比表面積を求めた。また、砥粒のBET比表面積A(m/g)として砥材BのBET比表面積を採用し、砥粒のBET比表面積A(m/g)に対するガラス融剤が付着した砥粒のBET比表面積B(m/g)の比率(B/A)を算出した。結果を表1に示す。
(2)含有量等の算出
各砥材の構成材料の混合比(重量比)に基づいて、付着材の平均厚み(nm)と付着材の含有量(wt%)を算出した。また、各砥材の構成材料の重量(g)と、各砥材の構成材料の密度(ダイヤモンド:3.52g/cm、B:1.85g/cm、SiO:2.2g/cm)と、を用いて、付着材の体積換算の含有量(vol%)を算出した。また、上記測定したBET比表面積と、含有量の値とを用いて、砥粒の単位表面積当たりの付着量および砥粒の単位表面積当たりの体積換算の付着量を算出した。結果を表1に示す。
3.砥石試験片の用意
(1)例1
上記調製した砥材Aを8.12g、ビトリファイドボンド原料粉としてのBi―ZnO-B-SiO系ガラス粉末(TOMATEC株式会社製のTMX-501F)を7.89g、気孔形成剤(積水化成品工業株式会社製のテクノポリマー、MB30X-8Y)を1.97g、および、バインダ(共栄社科学株式会社製のオリコックス、#2435E)を3.03g用意した。砥材A、ガラスフリット、気孔形成剤、およびバインダを、撹拌機(あわとり錬太郎、AR-550L-2)を用いて、ペースト状となるまで混合した。かかる混合物を100℃で4時間乾燥し、乳鉢を用いて解砕して砥石坏土を得た。この砥石坏土3.0gを、長さが55mm、幅dが6.5mm、厚みhが4mmとなるようにプレス成形し、成形体を5個用意した。これら成形体を、大気雰囲気中において、5時間かけて400℃まで昇温して400℃で2時間保持し、1時間40分かけて570℃まで昇温して570℃で2時間保持する、という条件で焼成した。焼成後の成形体を4時間以上かけて冷却し、例1に係る砥石試験片を5個作製した。
(2)例2
砥材Aに代えて、砥材Bを使用したこと以外は、例1と同様にして例2に係る砥石試験片を5個作製した。
(3)例3
砥材Aに代えて、砥材Cを使用したこと以外は、例1と同様にして例3に係る砥石試験片を5個作製した。
4.砥石試験片の評価
(1)3点曲げ強度の測定および3点曲げ弾性率の算出
例1~例3の砥石試験片(各5個ずつ)に対して、株式会社島津製作所製のEZ-testを用いて3点曲げ強度試験を行い、算術平均値を算出した。当該試験では、砥石試験片を固定する支持具の支点間距離Lを30mmに設定した。また、試験中の加圧速度は0.5mm/minに設定した。結果を表1に示す。
3点曲げ弾性率は、次式:3点曲げ弾性率=(L/4dh)×(ΔF/Δs);から算出した。ここで、L:支点間距離(30mm)、d:砥石試験片の幅(6.5mm)、h:砥石試験片の厚み(4mm)、ΔF:降伏荷重の25%~50%における試験片の曲げ荷重の変化量、Δs降伏荷重の25%~50%における試験片のたわみの変化量である。また、3点曲げ弾性率は、各例につき5個ずつ算出し、その算術平均値を求めた。結果を表1に示す。
(2)砥石試験片の顕微鏡観察
上記3点曲げ強度試験を実施した後の例1~例3の砥石試験片の断面に対して、顕微鏡観察を行った。かかる顕微鏡観察は、日立ハイテクノロジーズ社製の電界放出形走査電子顕微鏡(FE-SEM)を用いて行った。このときに撮影した例1~例3のFE-SEM写真を図3~図5に示す。なお、図3~図5中の白い部分がビトリファイドボンドであり、黒い部分が砥粒である。
Figure 2024036118000002
表1に示すように、例1は、例2および例3と比較して、砥石試験片の3点曲げ強度および3点曲げ弾性率がともに向上している。したがって、砥粒の表面にガラス融剤が付着した砥材を砥石の材料として用いることにより、砥石の砥石強度を向上させることができることがわかる。
図3~図5に示すように、例1では、例2および例3と比較して砥粒の露出量が少なく、砥粒とビトリファイドボンドとの濡れが良好であることがわかる。これは、砥石を生成する際の熱処理において、酸化ホウ素がガラス融剤として機能し、砥粒の近傍においてビトリファイドボンドの流動性を高めることによるものと推測される。これにより、例1では、熱処理後の砥石において砥粒保持力が向上すると推測される。
また、酸化ホウ素が付着した例1のBET比表面積は、付着材が付着していない例2と同等であることから、付着した酸化ホウ素の構造は粒子状ではないことがわかる。これは、砥材を生成する際の熱処理によってホウ素酸が焼成し、生成した酸化ホウ素がアモルファスの形態で砥粒の表面に付着したためと推測される。一方で酸化ケイ素が付着した例3のBET比表面積は、付着材が付着していない例2よりも大きくなっていることから、付着した酸化ケイ素が粒子状であることがわかる。これは、砥材を生成する際の熱処理によって、酸化ケイ素が粒子状のまま砥粒の表面に付着したためと推測される。さらに、表1に示すように、例3は酸化ケイ素が付着しているにもかかわらず、付着材が付着していない例2と砥石試験片の3点曲げ弾性率が同じであり、かつ、例2よりも3点曲げ強度が低下している。これらは、一般的に酸化ケイ素がガラス融剤としては機能しないため、砥粒とビトリファイドボンドとの濡れを改善せず、砥粒保持力を向上させないためと推測される。
<第2の試験>
本試験では、ガラス融剤の種類や量を異ならせて、6種類の砥材D~Iを調製し、各砥材を用いた砥石の強度を評価した。
1.砥材の用意
(1)砥材D
まず、疑似多結晶ダイヤモンド(株式会社グローバルダイヤモンド社製、FRM-DN-4-6)を20g、ホウ酸を0.094g(B換算で0.053g)、および、エタノールを25g用意した。ホウ酸をエタノールに溶解した後、ダイヤモンドをさらに加え、撹拌した。そして、超音波洗浄機を用いて分散処理を行うことで混合物を得た。80℃のホットプレート上に設置したガラス板の上にこの混合物を滴下し、乾燥させた。さらに、ガラス板を80℃の真空オーブンに入れ、真空オーブン中で1時間乾燥させ、この乾燥物を、乳鉢を用いて解砕した。その後、大気雰囲気中において、温度600℃、昇温速度10℃/min、熱処理時間30分の条件で焼成した。これによりホウ酸が酸化されて、ダイヤモンド(砥粒)の表面に酸化ホウ素が付着した焼成物を得た。得られた焼成物を、乳鉢を用いて解砕することによって、砥材Dを調製した。
(2)砥材E
ホウ酸の量を10倍(すなわち、0.94g)としたこと以外は、砥材Dと同様にして、砥材Eを調製した。
(3)砥材F
ホウ酸に代えて、Caレジネート(CaO換算で含有量は9.08wt%)を1.05g(CaO換算で0.095g)用意した。このこと以外は砥材Dと同様にして、砥材Fを調製した。
(4)砥材G
ホウ酸に代えて、ホウ砂(Na)を0.15g用意した。また、エタノールに代えて、純水を25g用意した。このこと以外は砥材Dと同様にして、砥材Gを調製した。
(5)砥材H
砥材Dで使用したダイヤモンド(株式会社グローバルダイヤモンド社製、FRM-DN 4-6)を、ガラス融剤を付着させずにそのまま砥材Hとして用いた。
(4)砥材I
ホウ酸の量を4.67g、エタノールの量を50gとしたこと以外は、砥材Dと同様にして、砥材Iを調製した。
2.砥材の評価
(1)BET測定
各砥材を、マイクロトラック・ベル社製の比表面積測定装置(型番:BELSORP-max)に供試し、-196℃におけるN吸着等温線を測定してBET多点法に基づいてBET比表面積を求めた。また、砥粒のBET比表面積A(m/g)として砥材HのBET比表面積を採用し、砥粒のBET比表面積A(m/g)に対するガラス融剤が付着した砥粒のBET比表面積B(m/g)の比率(B/A)を算出した。結果を表2に示す。
(2)含有量等の算出
各砥材の構成材料の混合比(重量比)に基づいて、付着材(ガラス融剤)の平均厚み(nm)とガラス融剤の含有量(wt%)を算出した。また、各砥材の構成材料の重量(g)と、各砥材の構成材料の密度(ダイヤモンド:3.52g/cm、B:1.85g/cm、CaO:3.34g/cm、Na:1.72g/cm)と、を用いて、ガラス融剤の体積換算の含有量(vol%)を算出した。また、上記測定したBET比表面積と、含有量の値とを用いて、砥粒の単位表面積当たりの付着量および砥粒の単位表面積当たりの体積換算の付着量を算出した。結果を表2に示す。
3.砥石試験片の用意
(1)例11
上記調製した砥材Dを8.12g、ビトリファイドボンド原料粉としてのBi―ZnO-B-SiO系ガラス粉末(TOMATEC株式会社製のTMX-501F)を7.89g、気孔形成剤(積水化成品工業株式会社製のテクノポリマー、MB30X-8Y)を1.97g、および、バインダ(共栄社科学株式会社製のオリコックス、#2435E)を3.03g用意した。砥材D、ガラスフリット、気孔形成剤、およびバインダを、撹拌機(あわとり錬太郎、AR-550L-2)を用いて、ペースト状となるまで混合した。かかる混合物を100℃で4時間乾燥し、乳鉢を用いて解砕して砥石坏土を得た。この砥石坏土3.0gを、長さが55mm、幅dが6.5mm、厚みhが4mmとなるようにプレス成形し、成形体を5個用意した。これら成形体を、大気雰囲気中において、5時間かけて400℃まで昇温して400℃で2時間保持し、1時間40分かけて570℃まで昇温して570℃で2時間保持する、という条件で焼成した。焼成後の成形体を4時間以上かけて冷却し、例11に係る砥石試験片を5個作製した。
(2)例12~例16
それぞれ、砥材Dに代えて、砥粒E~砥粒Iをそれぞれ使用したこと以外は、例11と同様にして例12~例16に係る砥石試験片を5個ずつ作製した。
4.砥石試験片の評価
例11~例16の砥石試験片(各5個ずつ)に対して、株式会社島津製作所製のEZ-testを用いて3点曲げ強度試験を行い、算術平均値を算出した。当該試験では、砥石試験片を固定する支持具の支点間距離Lを30mmに設定した。また、試験中の加圧速度は0.5mm/minに設定した。結果を表2に示す。
3点曲げ弾性率は、次式:3点曲げ弾性率=(L/4dh)×(ΔF/Δs);から算出した。ここで、L:支点間距離(30mm)、d:砥石試験片の幅(6.5mm)、h:砥石試験片の厚み(4mm)、ΔF:降伏荷重の25%~50%における試験片の曲げ荷重の変化量、Δs降伏荷重の25%~50%における試験片のたわみの変化量である。また、3点曲げ弾性率は、各例につき5個ずつ算出し、その算術平均値を求めた。結果を表2に示す。
なお、3点曲げ強度および3点曲げ弾性率はともに砥石試験片の強度を示す値であり、いずれか一方が向上している場合には、砥石試験片の強度が向上していると言える。
Figure 2024036118000003
表2に示すように、例11~例14は、例15と比較して、砥石試験片の3点曲げ強度および3点曲げ弾性率の少なくともいずれか一方が向上している。したがって、ガラス融剤の種類にかかわらず、砥粒の表面にガラス融剤が付着した砥材を砥石の材料として用いることにより、砥石の砥石強度を向上させることができることがわかる。
一方で、例16は、砥石試験片の3点曲げ強度および3点曲げ弾性率のいずれもが例15と比較して低下している。砥粒の単位表面積当たりの体積換算の付着量が、多すぎる場合には、砥石の強度を低下させることがわかる。したがって、砥粒の単位表面積当たりの体積換算のガラス融剤付着量は、0.2mm/m以上50mm/m以下であることが好ましい。
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
12 砥粒
14 ガラス融剤
20 ビトリファイドボンド
30 空隙
100 砥石

Claims (16)

  1. ビトリファイド砥石の製造方法であって、
    砥粒表面にガラス融剤を付着させた砥材を用意する工程(A)と、
    前記砥材とビトリファイドボンドとを含む混合物を焼成する工程(B)と、
    を含み、
    前記工程(B)は、前記ガラス融剤と前記ビトリファイドボンドとを反応させ、前記砥粒の表面近傍において前記ビトリファイドボンドの溶融または軟化を促進させることを特徴とする、ビトリファイド砥石の製造方法。
  2. 前記工程(B)では、前記工程(A)で用意した前記砥材に含まれる前記ガラス融剤がその用意した組成および形状のまま残らないような焼成条件で実施する、請求項1に記載の製造方法。
  3. 前記工程(A)において、前記砥粒と、前記ガラス融剤または前記ガラス融剤を含む材料と、を混合する混合処理を含む、請求項1または2に記載の製造方法。
  4. 前記工程(A)において、前記砥粒表面に前記ガラス融剤が付着した砥材を焼成する焼成処理を含む、請求項1または2に記載の製造方法。
  5. 前記工程(A)の前記焼成処理では150℃以上1000℃以下の温度で焼成を実施する、請求項4に記載の製造方法。
  6. 前記工程(B)では300℃以上1000℃以下の温度で焼成を実施する、請求項1または2に記載の製造方法。
  7. 前記工程(B)において、前記ビトリファイドボンドの重量Xに対する前記ガラス融剤の重量Yの比(Y/X)が0.1以下である、請求項1または2に記載の製造方法。
  8. ビトリファイド砥石の製造に用いられる砥材であって、
    砥粒と、
    前記砥粒の表面に付着したガラス融剤と、
    を含み、
    前記砥粒の単位表面積当たりの体積換算の前記ガラス融剤付着量が、0.2mm/m以上50mm/m以下である、砥材。
  9. 前記ガラス融剤が、ホウ素、鉛、フッ素、アルカリ金属元素およびアルカリ土類金属元素からなる群から選択される少なくとも一種を含む化合物である、請求項8に記載の砥材。
  10. 前記砥粒は、ダイヤモンドおよび立方晶窒化ホウ素のうちいずれかである、請求項8または9に記載の砥材。
  11. 前記ガラス融剤は、前記砥粒の表面に部分的に付着している、請求項8または9に記載の砥材。
  12. 前記砥粒のBET比表面積A(m/g)に対する表面に前記ガラス融剤が付着した砥粒のBET比表面積B(m/g)の比(B/A)が、1.3以下である、請求項8または9に記載の砥材。
  13. 前記ガラス融剤の含有量は、砥材全体を100wt%としたときに、10wt%以下である、請求項8または9に記載の砥材。
  14. 前記砥粒の単位面積当たりのガラス融剤付着量(mg/m)が、0.02mg/m以上50mg/m以下である、請求項8または9に記載の砥材。
  15. 複数の砥粒と、前記複数の砥粒を相互に結合するビトリファイドボンドと、を含むビトリファイド砥石であって、
    前記砥粒と前記ビトリファイドボンドとが接する位置P1におけるガラス融剤成分の濃度は、前記砥粒と前記ビトリファイドボンドとが接しない位置P2におけるガラス融剤成分の濃度よりも高く、
    ここで、前記ガラス融剤成分は、ホウ素、鉛、フッ素、アルカリ金属元素およびアルカリ土類金属元素のうち、少なくともいずれか一種である、ビトリファイド砥石。
  16. 前記砥粒と前記ビトリファイドボンドとが接する位置P1における前記ビトリファイドボンドの軟化点は、前記砥粒と前記ビトリファイドボンドとが接しない位置P2における前記ビトリファイドボンドの軟化点よりも低い、請求項15に記載のビトリファイド砥石。
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