JP2024019220A - 架橋剤組成物、ゴム補強用繊維処理剤、ゴム補強用繊維処理剤キット及びゴム補強用繊維の製造方法 - Google Patents

架橋剤組成物、ゴム補強用繊維処理剤、ゴム補強用繊維処理剤キット及びゴム補強用繊維の製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】レゾルシン及びホルムアルデヒドを含まないゴム補強用繊維処理剤用の架橋剤組成物、ゴム補強用繊維処理剤及びゴム補強用繊維処理剤キットと、ゴム組成物との接着性に優れたゴム補強用繊維の製造方法を提供すること。【解決手段】レゾルシン及びホルムアルデヒドを含まないゴム補強用繊維処理剤に用いる架橋剤組成物であって、分子中に、炭素-炭素二重結合を含む構造と、オキシエチレン基を有する活性水素基含有化合物に由来する構造を有するブロックイソシアネート化合物を含む架橋剤組成物。【選択図】なし

Description

本発明は、レゾルシン及びホルムアルデヒドを含まないゴム補強用繊維処理剤に用いる架橋剤組成物、レゾルシン及びホルムアルデヒドを含まないゴム補強用繊維処理剤、レゾルシン及びホルムアルデヒドを含まないゴム補強用繊維処理剤キットとそれを用いたゴム補強用繊維の製造方法、それらを用いて得られたゴム補強用繊維及びゴム製品に関する。
従来、タイヤや動力伝達ベルト等の高強度が要求されるゴム製品において、ポリエステル繊維等からなる繊維の表面に、レゾルシンや、レゾルシンとホルムアルデヒドを縮合させたレゾルシン・ホルムアルデヒド初期縮合物と、ホルムアルデヒド及びゴムラテックスを含む接着性組成物を付着させたゴム補強用繊維を用いることにより、ゴム補強用繊維とゴム組成物との接着性に優れた高強度のゴム製品を得られることが知られている。
しかしながら、ホルムアルデヒドは、レゾルシンを架橋させるために有効な原材料ではあるものの、人体への有害性が懸念されることから使用量の削減が求められており、ゴム補強用繊維に用いる接着性組成物においても、レゾルシン及びホルムアルデヒドを用いない種々の試みがなされている(特許文献1~10)。
特開2006-274494号公報 国際公開第2010/125992号 特開2012-224962号公報 特開2013-64037号公報 国際公開第2014/091376号 国際公開第2014/175844号 国際公開第2015/188939号 国際公開第2019/015792号 国際公開第2018/003572号 国際公開第2020/129939号
レゾルシン・ホルムアルデヒド初期縮合物を用いないことも含めて、レゾルシン及びホルムアルデヒドを用いない試みとして、特許文献1には、ゴム製品の補強のためにゴム層に接着して用いられる繊維コードに付着させる、トリアジンチオールとジエン系ゴムを含有する接着剤溶液が、特許文献2及び3には、ブロックイソシアネート化合物とエポキシ化合物とゴムラテックスを含む有機繊維コード用接着剤組成物が、特許文献4には、熱解離性ブロックドイソシアネート基を有するウレタン樹脂、エポキシ化合物、オキサゾリン基を有する高分子、ポリエチレンイミン及びゴムラテックスを含む有機繊維コード用接着剤組成物が、特許文献5~8には、アクリル系ポリマー、エポキシ化合物、ブロックイソシアネート化合物及びゴムラテックスを含む浸漬用組成物が、特許文献9には、ポリフェノール類、クロルフェノール樹脂及びリグニン樹脂からなる群より選択される少なくとも1種の成分と、それ以外のポリマー成分を含む有機繊維用接着剤が、特許文献10には、熱可塑性エラストマーとブロックイソシアネート化合物とゴムラテックスを含む易接着化処理液が、それぞれ開示されている。
しかしながら、これらのレゾルシン及びホルムアルデヒドを用いない試みでは、レゾルシンや、レゾルシンとホルムアルデヒドを縮合させたレゾルシン・ホルムアルデヒド初期縮合物と、ホルムアルデヒド及びゴムラテックスを含む接着性組成物を付着させたゴム補強用繊維を用いる場合と同等の、ゴム補強用繊維とゴム組成物との接着性に十分優れた高強度のゴム製品は得られなかった。
そこで本発明は、レゾルシン及びホルムアルデヒドを含まないゴム補強用繊維処理剤に用いる架橋剤組成物と、レゾルシン及びホルムアルデヒドを含まないゴム補強用繊維処理剤及びゴム補強用繊維処理剤キットと、ゴム組成物との接着性に優れたゴム補強用繊維及びゴム製品を提供することを目的とする。
上記課題は、レゾルシン及びホルムアルデヒドを含まないゴム補強用繊維処理剤に用いる架橋剤組成物であって、分子中に炭素-炭素二重結合を含む構造を有するブロックイソシアネート化合物を含む架橋剤組成物により基本的に解決される。
ここで、上記炭素-炭素二重結合を含む構造は、ポリブタジエン構造及びポリイソプレン構造から選ばれる構造であることが好ましい。
また、上記課題は、レゾルシン及びホルムアルデヒドを含まないゴム補強用繊維処理剤であって、ゴムラテックスと、上記架橋剤組成物を含有するゴム補強用繊維処理剤により基本的に解決される。
上記ゴム補強用繊維処理剤において、更に、エポキシ化合物及び/又は分子中に炭素-炭素二重結合を含む構造を有さないブロックイソシアネート化合物を含有することが好ましい。
また、上記分子中に炭素-炭素二重結合を含む構造を有するブロックイソシアネート化合物の含有量が、上記ゴムラテックスの含有量100質量部に対し0.5~25質量部であることが好ましい。
また、ゴム補強用繊維処理剤(固形分濃度Z質量%)に含まれるエポキシ基の量とブロックイソシアネート基の量が、下記式(1):
-30≦(X-Y)×20/Z≦10 (1)
[式中、
:処理剤(1kg)に含まれるエポキシ基の量(mmol)
:処理剤(1kg)に含まれるブロックイソシアネート基の量(mmol)]
を満足することが好ましい。
また、上記課題は、レゾルシン及びホルムアルデヒドを含まないゴム補強用繊維処理剤のキットであって、エポキシ化合物と、分子中に炭素-炭素二重結合を含む構造を有さないブロックイソシアネート化合物とを含有する処理剤1、及び、ゴムラテックスと、上記架橋剤組成物とを含有する処理剤2を含むゴム補強用繊維処理剤キットによっても基本的に解決される。また、このゴム補強用繊維処理剤キットを使用し、繊維に、該処理剤1を含む加工液を付着させる処理を行い、その後、該処理剤2を含む加工液を付着させる処理を行う工程を有する、ゴム補強用繊維の製造方法によっても基本的に解決される。
ここで、該処理剤2において、上記分子中に炭素-炭素二重結合を含む構造を有するブロックイソシアネート化合物の含有量が、上記ゴムラテックスの含有量100質量部に対し0.5~20質量部であることが好ましい。また、上記処理剤1(固形分濃度Z質量%)と上記処理剤2(固形分濃度Z質量%)に含まれるエポキシ基の量とブロックイソシアネート基の量が、下記式(2):
20≦[X×2/Z-(Y×2/Z+Y×20/Z)]≦70 (2)
[式中、
:上記処理剤1(1kg)に含まれるエポキシ基の量(mmol)
:上記処理剤1(1kg)に含まれるブロックイソシアネート基の量(mmol)
:上記処理剤2(1kg)に含まれるブロックイソシアネート基の量(mmol)]
を満足することが好ましい。
また、上記課題は、レゾルシン及びホルムアルデヒドを含まないゴム補強用繊維処理剤のキットであって、エポキシ化合物と、上記架橋剤組成物とを含有する処理剤3、及び、ゴムラテックスと、分子中に炭素-炭素二重結合を含む構造を有さないブロックイソシアネート化合物とを含有する処理剤4を含むゴム補強用繊維処理剤キットによっても基本的に解決される。また、このゴム補強用繊維処理剤キットを使用し、繊維に、該処理剤3を含む加工液を付着させる処理を行い、その後、該処理剤4を含む加工液を付着させる処理を行う工程を有する、ゴム補強用繊維の製造方法によっても基本的に解決される。
更には、上記課題は、繊維表面に、ゴムラテックスと、上記架橋剤組成物を含有する組成物を加熱処理して得た接着性組成物が付着したゴム補強用繊維によっても基本的に解決される。
また、上記ゴムラテックスと架橋剤組成物を含有する組成物が、更に、エポキシ化合物及び/又は分子中に炭素-炭素二重結合を含む構造を有さないブロックイソシアネート化合物を含有することが好ましく、上記繊維は、ポリエステル、ナイロン及びアラミドのいずれかを含むことが好ましい。
また、上記ゴム補強用繊維を含有するゴム製品によっても基本的に解決される。
本発明により、レゾルシン及びホルムアルデヒドを含まないゴム補強用繊維処理剤に用いる架橋剤組成物と、レゾルシン及びホルムアルデヒドを含まないゴム補強用繊維処理剤及びゴム補強用繊維処理剤キットと、ゴム組成物との接着性に優れたゴム補強用繊維及びゴム製品を提供することができる。
本発明の架橋剤組成物は、レゾルシン及びホルムアルデヒドを含まないゴム補強用繊維処理剤に用いる架橋剤組成物であって、分子中に炭素-炭素二重結合を含む構造を有するブロックイソシアネート化合物を含む。上記炭素-炭素二重結合を含む構造は、ポリブタジエン構造及びポリイソプレン構造から選ばれる構造であることが好ましい。
分子中に炭素-炭素二重結合を含む構造を有するブロックイソシアネート化合物
分子中に炭素-炭素二重結合を含む構造を有するブロックイソシアネート化合物は、分子中に炭素-炭素二重結合を含む構造とブロックイソシアネート基を有する化合物であり(本発明で使用するエポキシ化合物を除く)、例えば、分子中に炭素-炭素二重結合を含む構造を有するポリイソシアネート化合物のイソシアネート基に公知のブロック化剤を付加反応させることで得られる。具体的には、例えば以下の原料成分(a)~(c)、及び、必要に応じて(d)を反応させることにより合成することができる。
(a)ポリイソシアネート化合物
(b)分子中に炭素-炭素二重結合を含む構造を有するポリオール化合物
(c)ブロック化剤
(d)活性水素基含有化合物(ただし、上記の成分(a)~(c)は除く)
以下に、各原料成分を更に詳細に説明する。
(a)ポリイソシアネート化合物(以下、「ポリイソシアネート化合物(a)」と言う。)
ポリイソシアネート化合物(a)としては、特に限定はなく、例えば、芳香族ポリイソシアネート、芳香脂肪族ポリイソシアネート、脂肪族ポリイソシアネート、脂環族ポリイソシアネート、これらのポリイソシアネートの誘導体を含むポリイソシアネート誘導体などが挙げられる。
芳香族ポリイソシアネートとしては、例えば、トリレンジイソシアネート(2,4-、2,6-トリレンジイソシアネート又はこれらの混合物)(TDI)、フェニレンジイソシアネート(m-、p-フェニレンジイソシアネート又はこれらの混合物)、4,4’-ビフェニルジイソシアネート、1,5-ナフタレンジイソシアネート(NDI)、ジフェニルメタンジイソシアネート(4,4’-、2,4’-、2,2’-ジフェニルメタンジイソシアネート又はこれら2種以上の混合物)(MDI)、o-トリジンジイソシアネート(TODI)、4,4’-ジフェニルエーテルジイソシアネートなどが挙げられる。
芳香脂肪族ポリイソシアネートとしては、例えば、キシリレンジイソシアネート(1,3-、1,4-キシリレンジイソシアネート又はこれらの混合物)(XDI)、テトラメチルキシリレンジイソシアネート(1,3-、1,4-テトラメチルキシリレンジイソシアネート又はこれらの混合物)(TMXDI)、ω,ω’-ジイソシアネート-1,4-ジエチルベンゼンなどが挙げられる。
脂肪族ポリイソシアネートとしては、例えば、トリメチレンジイソシアネート、1,2-プロピレンジイソシアネート、ブチレンジイソシアネート(テトラメチレンジイソシアネート、1,2-ブチレンジイソシアネート、2,3-ブチレンジイソシアネート又は1,3-ブチレンジイソシアネート)、1,5-ペンタメチレンジイソシアネート(PDI)、1,6-ヘキサメチレンジイソシアネート、2,6-ジイソシアネートメチルカプロエートなどが挙げられる。
脂環族ポリイソシアネートとしては、例えば、1,3-シクロペンタンジイソシアネート、1,3-シクロペンテンジイソシアネート、シクロヘキサンジイソシアネート(1,4-シクロヘキサンジイソシアネート又は1,3-シクロヘキサンジイソシアネート)、3-イソシアナトメチル-3,5,5-トリメチルシクロヘキシルイソシアネート(イソホロンジイソシアネート)(IPDI)、メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)(4,4’-、2,4’-、2,2’-メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)、これらのtrans,trans-体、trans,cis-体、cis,cis-体、これら2種以上の混合物)(H12MDI)、メチルシクロヘキサンジイソシアネート(メチル-2,4-シクロヘキサンジイソシアネート又はメチル-2,6-シクロヘキサンジイソシアネート)、ノルボルナンジイソシアネート(各種異性体又はこれら2種以上の混合物)(NBDI)、ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン(1,3-、1,4-ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン又はこれらの混合物)(H6XDI)などが挙げられる。
ポリイソシアネート誘導体としては、例えば、上記したポリイソシアネート(単量体)の多量体(例えば、2量体、3量体(例えば、イソシアヌレート変性体、イミノオキサジアジンジオン変性体)、5量体、7量体など)、アロファネート変性体(例えば、上記したポリイソシアネート(単量体)と、後述する低分子量ポリオールとの反応により形成されたウレタン基に更にポリイソシアネート(単量体)のイソシアネート基が付加することにより生成するアロファネート変性体など)、アダクト体(例えば、ポリイソシアネート(単量体)と後述する低分子量ポリオールとの反応により生成するアダクト体(アルコール付加体)など)、ビウレット変性体(例えば、上記したポリイソシアネート(単量体)と、水又はアミン類との反応により生成するビウレット変性体など)、ウレア変性体(例えば、上記したポリイソシアネート(単量体)とジアミンとの反応により形成されたウレア基に更にポリイソシアネート(単量体)のイソシアネート基が付加することにより生成するウレア変性体など)、オキサジアジントリオン変性体(例えば、上記したポリイソシアネート(単量体)と炭酸ガスとの反応により生成するオキサジアジントリオンなど)、カルボジイミド変性体(上記したポリイソシアネート(単量体)の脱炭酸縮合反応により生成するカルボジイミド変性体など)、ウレトジオン変性体、ウレトンイミン変性体などが挙げられる。更に、ポリメチレンポリフェニルポリイソシアネート(クルードMDI、ポリメリックMDI)なども挙げられる。
ポリイソシアネート化合物(a)は、1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。ポリイソシアネート化合物(a)を2種以上併用する場合には、例えば、ブロックイソシアネートの製造時において、2種以上のポリイソシアネート化合物を同時に反応させてもよく、また、各ポリイソシアネート化合物を個別に用いて得られたブロックイソシアネートを混合してもよい。
ゴム補強用繊維とゴム組成物との間の接着力に優れたゴム補強用繊維処理剤が得られることから、ポリイソシアネート化合物(a)としては、脂肪族ポリイソシアネート及びその誘導体、脂環族ポリイソシアネート及びその誘導体、芳香族ポリイソシアネート及びその誘導体が好ましい。
(b)分子中に炭素-炭素二重結合を含む構造を有するポリオール化合物(以下、「ポリオール化合物(b)」と言う。)
ポリオール化合物(b)としては、分子中に炭素-炭素二重結合を含む構造を有し、更に、1分子当たり1~10個のヒドロキシ基を有する化合物が挙げられる。本明細書では、1分子当たりのヒドロキシ基が1個の場合でもポリオールと称するものとする。このような化合物としては、ヒドロキシ基を有する不飽和脂肪族炭化水素が挙げられ、不飽和骨格を有するポリオールポリオレフィン類が好ましい。不飽和骨格としては、ポリブタジエン、ポリイソプレン、イソプレンブタジエン共重合体や、長鎖アルキル基を側鎖に有するポリファルネセンが挙げられる。また、これらは例えば1,2-繰り返し単位や1,4-繰り返し単位といった構造異性体、シス体、トランス体といった立体異性体のいずれを含んでいても良い。これらの中では、ヒドロキシ基を有するポリブタジエン及びヒドロキシ基を有するポリイソプレンが好ましい。
なお、芳香族化合物の構造は、本発明における炭素-炭素二重結合を含む構造には該当しない。
ヒドロキシ基を有するポリブタジエンとしては、1,4-繰り返し単位を主に有するヒドロキシ基末端ポリブタジエン(市販品としては、例えば、Poly bd R-15HT、Poly bd R-45HT(出光興産株式会社製))、1,2-繰り返し単位を主に有するヒドロキシ基末端ポリブタジエン(市販品としては、例えば、NISSO-PB(登録商標)G-1000、G-2000、G-3000(日本曹達株式会社製))が挙げられる。ここで、「1,4-繰り返し単位」とは、下式(1t)又は(1c)で表される繰り返し単位であり、「1,2-繰り返し単位」とは、下式(2)で表される繰り返し単位である。
Figure 2024019220000001
ヒドロキシ基を有するポリイソプレンとしては、ヒドロキシ基末端ポリイソプレン(市販品としては、例えば、Poly ip(出光興産株式会社製))が挙げられる。
これらの中でも、1,2-繰り返し単位を主に有するヒドロキシ基末端ポリブタジエン又はヒドロキシ基末端ポリイソプレンを用いることが好ましい。また、イソシアネートとの反応の際のゲル化や、生成物の耐熱性等を考慮すると、両末端にヒドロキシ基を有するポリオールであることが好ましい。分子量に関しては、あまりに低いとゴム補強用繊維処理剤は所望する物性値を発現することが出来ないことがあり、逆にあまりに高い場合には、ブロックイソシアネート化合物の製造時の粘度等の点で好ましくない性質が発現してくることがある。したがって、ポリオール化合物(b)の数平均分子量の範囲は、好ましくは500~5000、より好ましくは1000~4000である。1分子当たりのヒドロキシ基の数は1~10個、好ましくは2~4個、より好ましくは2個である。また、ポリオール化合物(b)は、1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
ポリオール化合物(b)は、例えば、不飽和脂肪族炭化水素を水和又はエポキシ化した後に、加水分解する方法、1,3-ブタジエン、イソプレン、1,3-ペンタジエン、クロロプレン等の共役ジエン系モノマー単独や、2種以上の共役ジエン系モノマーの混合物、又は共役ジエン系モノマーと、スチレン、アクリロニトリル、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル等の、共役ジエン系モノマーと共重合可能なモノマーとの混合物を、過酸化水素や、官能基を有するアゾ化合物等の反応開始剤を使用して重合させる方法、更には、共役ジエン系モノマーを、ナトリウム、リチウム等のアルカリ金属や、アルカリ金属と多環芳香族化合物との錯体等を触媒としてアニオン重合させ、その後、アルキレンオキシド、エピクロルヒドリン等を反応させ、必要に応じ、塩酸、硫酸、酢酸等のプロトン酸で処理する方法などにより得ることができる。
(c)ブロック化剤(以下、「ブロック化剤(c)」と言う。)
ブロック化剤とは、付加反応によりイソシアネート基に付加することによりイソシアネート基を不活性化(保護)してブロックイソシアネート基を形成し、一方、加熱などによってブロックイソシアネート基から脱離(脱保護)することにより、イソシアネート基を再形成し、反応活性を再生させる機能を有する化合物のことである。ブロック化剤(c)としては、例えば、アルコール系化合物、アルキルフェノール系化合物、フェノール系化合物、活性メチレン系化合物、メルカプタン系化合物、酸アミド系化合物、酸イミド系化合物、イミダゾール系化合物、イミダゾリン系化合物、ピリミジン系化合物、グアニジン系化合物、トリアゾール系化合物、カルバミン酸系化合物、尿素系化合物、オキシム系化合物、アミン系化合物、イミド系化合物、イミン系化合物、ピラゾール系化合物、重亜硫酸塩等が挙げられる。中でも、酸アミド系化合物、活性メチレン系化合物、オキシム系化合物、ピラゾール系化合物が好ましく、ε-カプロラクタム、アセチルアセトン、マロン酸ジエチル、メチルエチルケトンオキシム、シクロヘキサノンオキシム、3-メチルピラゾール、3,5-ジメチルピラゾール等がより好ましい。ブロック化剤(c)は、1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
(d)活性水素基含有化合物(以下、「活性水素基含有化合物(d)」と言う。)
活性水素基含有化合物(d)としては、特に限定はなく、活性水素基を含有する各種アルコール類、ポリオール類、アミン類が挙げられる。
活性水素基含有アルコール類としては、特に限定はなく、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ヘキサノール、オクタノール等に、アルキレンオキサイド(例えば、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイド等)を付加したポリエーテルモノオール等が挙げられる。これらの活性水素基含有アルコールは、1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
活性水素基含有ポリオールとしては、特に限定はなく、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブチレングリコール、1,3-ブチレングリコール、1,2-ブチレングリコール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、2,2,2-トリメチルペンタンジオール、3,3-ジメチロールヘプタン、アルカン(C7~20)ジオール、1,3-、1,4-シクロヘキサンジメタノール又はこれらの混合物、1,3-、1,4-シクロヘキサンジオール又はこれらの混合物、水素化ビスフェノールA、ビスフェノールA、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコールなどの2価アルコール;グリセリン、トリメチロールプロパン、トリイソプロパノールアミンなどの3価アルコール;テトラメチロールメタン(ペンタエリスリトール)、ジグリセリンなどの4価アルコール;キシリトールなどの5価アルコール;ソルビトール、マンニトール、アリトール、イジトール、ダルシトール、アルトリトール、イノシトール、ジペンタエリスリトールなどの6価アルコール;ペルセイトールなどの7価アルコール;ショ糖などの8価アルコール;ポリオキシエチレングリコール、ポリオキシエチレントリオール、エチレンオキサイドとプロピレンオキサイドなどのアルキレンオキサイドとのランダム及び/又はブロック共重合体(例えば、ポリオキシプロピレンポリオキシエチレンコポリマージオールあるいはトリオール、ポリオキシプロピレンポリオキシエチレンブロックポリマージオールあるいはトリオール、ポリプロピレングリコールの末端にエチレンオキサイドを付加重合させたプルロニック(登録商標)タイプのポリプロピレングリコールあるいはトリオールなど)、ポリオキシエチレンビスフェノールAエーテル、ポリオキシプロピレントリメチロールプロパンエーテル、ポリテトラメチレンエーテルポリオールなどのポリエーテルポリオール;アジピン酸系ポリエステルポリオール、フタル酸系ポリエステルポリオール、ラクトン系ポリエステルポリオールなどのポリエステルポリオール;ポリカーボネートポリオール、ポリウレタンポリオール(ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリカーボネートポリオールなどをポリイソシアネートによりウレタン変性したポリオール)、エポキシポリオール、植物油ポリオール、アクリルポリオール、ビニルモノマー変性ポリオールなどが挙げられる。これらの活性水素基含有ポリオールは、1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
活性水素基含有アミンとしては、特に制限はされないが、具体的にはジアミンやポリアミンが使用できる。ジアミンとしては、エチレンジアミン、トリメチレンジアミン、ピペラジン、イソホロンジアミンなどを例示することができ、ポリアミンとしては、ジエチレントリアミン、ジプロピレントリアミン、トリエチレンテトラミン等を例示することができる。これらの活性水素基含有アミンは、1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
これらの活性水素基含有化合物の中で、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ヘキサノール、オクタノール等にエチレンオキサイドを付加したポリエーテルモノオール、ポリオキシエチレングリコール、ポリオキシエチレントリオール、エチレンオキサイドとプロピレンオキサイドなどのアルキレンオキサイドとのランダム及び/又はブロック共重合体(例えば、ポリオキシプロピレンポリオキシエチレンコポリマージオールあるいはトリオール、ポリオキシプロピレンポリオキシエチレンブロックポリマージオールあるいはトリオール、ポリプロピレングリコールの末端にエチレンオキサイドを付加重合させたプルロニック(登録商標)タイプのポリプロピレングリコールあるいはトリオールなど)などの親水性化合物は、分子中に炭素-炭素二重結合を含む構造を有するブロックイソシアネート化合物の分子構造中に親水性基(オキシエチレン基など)を導入することができ、自己乳化性(水への分散性)を付与することができるため、好ましい。また、親水性基はアニオン性、カチオン性のものを用いることもできる。これらの親水性化合物の数平均分子量は、300~5000であることが好ましい。これらの親水性化合物は、1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。自己乳化性を付与するためのこれらの化合物の導入量は、反応に供するイソシアネート基の総量に対して、下限については好ましくは1mol%以上、また、上限については好ましくは50mol%以下、より好ましくは40mol%以下、さらに好ましくは30mol%以下である。
分子中に炭素-炭素二重結合を含む構造を有するブロックイソシアネート化合物の合成時の反応条件としては、特に限定はなく、例えば、大気圧下や加圧条件下や不活性ガス(例えば、窒素ガス、アルゴンガスなど)の雰囲気下などで、0℃以上150℃以下、好ましくは30℃以上100℃以下の反応温度で、合成することができる。また、反応時間は、例えば、0.5時間以上120時間以下、好ましくは1時間以上72時間以下である。
合成時には無溶剤下において反応させることもできるが、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン類;アセトニトリルなどのニトリル類;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸イソブチルなどのアルキルエステル類;n-ヘキサン、n-ヘプタン、オクタンなどの脂肪族炭化水素類;シクロヘキサン、メチルシクロヘキサンなどの脂環族炭化水素類;トルエン、キシレン、エチルベンゼンなどの芳香族炭化水素類;メチルセロソルブアセテート、エチルセロソルブアセテート、メチルカルビトールアセテート、エチルカルビトールアセテート、エチレングリコールエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールメチルエーテルアセテート、3-メチル-3-メトキシブチルアセテート、エチル-3-エトキシプロピオネートなどのグリコールエーテルエステル類;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、1,2-ジメトキシエタン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールエチルメチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、ジプロピレングリコールジエチルエーテルなどのエーテル類;塩化メチル、塩化メチレン、クロロホルム、四塩化炭素、臭化メチル、ヨウ化メチレン、ジクロロエタンなどのハロゲン化脂肪族炭化水素類;N-メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、N,N’-ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、ヘキサメチルホスホニルアミドなどの極性非プロトン性溶媒類;さらには、プロピレングリコール1-モノメチルエーテル2-アセタートなどの公知の溶剤の存在下において反応させることもできる。また、必要に応じ合成触媒を用いることもできる。
このような条件で原料成分を反応させることにより、ポリイソシアネート化合物(a)のイソシアネート基の一部がポリオール化合物(b)及び必要に応じて用いる活性水素基含有化合物(d)と反応し、未反応のイソシアネート基が残存しているプレポリマーを得ることができる。その後、得られたプレポリマーに、残存しているイソシアネート基が不活性化するように、ブロック化剤(c)を付加反応させることにより、ブロックイソシアネートを得ることができる。
また、反応順序は前記に限定されず、例えば、まず、ポリイソシアネート化合物(a)に活性水素基含有化合物(d)及びブロック化剤(c)を、未反応のイソシアネート基が残存する割合で反応させた後、ポリオール化合物(b)を反応させることによって、ブロックイソシアネート化合物を得ることができる。あるいは、例えば、まず、ポリイソシアネート化合物(a)にブロック化剤(c)を、未反応のイソシアネート基が残存する割合で反応させた後、ポリオール化合物(b)及び活性水素基含有化合物(d)を反応させることによっても、ブロックイソシアネート化合物を得ることができる。
このように、ポリイソシアネート化合物(a)、ポリオール化合物(b)、ブロック化剤(c)、必要に応じて用いる活性水素基含有化合物(d)を多様な順序で反応させてブロックイソシアネート化合物を得ることができる。なお、反応の終了は、例えば、JIS K 1603-1:2007のA法に準拠して測定した反応液のイソシアネート基の濃度を確認することによって、判断することができる。
分子中に炭素-炭素二重結合を含む構造を有するブロックイソシアネート化合物を含む本発明の架橋剤組成物は、水分散型ブロックイソシアネートの性状を有することが好ましい。前記したように、活性水素基含有化合物(d)として親水性化合物を用いると、分子中に炭素-炭素二重結合を含む構造を有するブロックイソシアネート化合物の分子構造中に親水性基を導入することができ、自己乳化性(水への分散性)を付与することができる。このような自己乳化性のブロックイソシアネート化合物は、必要により乳化剤などの存在下で、下記の水性媒体中で分散する方法などを用いて、水分散型ブロックイソシアネートとすることができる。また、分子中に炭素-炭素二重結合を含む構造を有するブロックイソシアネート化合物を、必要により乳化剤などの存在下で、機械的剪断力を加えることにより水性媒体中に分散させて、水分散型ブロックイソシアネートを得ることもできる。なお、分散質であるブロックイソシアネート化合物はその化学構造により常温で固体であるものや、常温で液体であるものが存在することから、一般的にはそれらの水性媒体中での分散態様の名称として「懸濁液(サスペンジョン)」や「乳化液(エマルション)」が用いられるが、本発明においては、それらを区別することなく「水分散型ブロックイソシアネート」と称する。水分散型ブロックイソシアネートを得る方法としては、特に限定はなく、例えば、ブロックイソシアネート化合物と、水あるいは下記の水性媒体とを、ホモミキサー、ホモディスパー、ホモジナイザー、マグネチックスターラーなどの攪拌機を用いて攪拌及び混合する方法や、ボールミル、横型サンドミル、縦型サンドミル、アトライター、ビーズミルなどの分散機にガラスビーズやジルコニアビーズなどを充填し、高速攪拌して分散させる方法などを用いることができる。その後、必要により、ブロックイソシアネート化合物の水分散液に不要な揮発性の有機溶剤が含有されている場合には、ブロックイソシアネートの水分散液を、例えば、減圧する、又は、減圧下で加熱することにより、有機溶剤を揮発除去することもできる。
このようにして得られた本発明の架橋剤組成物である水分散型ブロックイソシアネートにおいて、ブロックイソシアネート化合物の固形分濃度は特に限定はなく、例えば、5~70質量%が挙げられる。また、ブロックイソシアネート化合物の分散粒子の粒子径は特に限定はなく、例えば、体積平均粒子径で10000nm以下、好ましくは1000nm以下、より好ましくは700nm以下、さらに好ましくは500nm以下であり、通常、50nm以上である。ブロックイソシアネート化合物の分散粒子の粒子径がこの範囲内であれば、優れた分散安定性を確保することができる。
また、本発明の架橋剤組成物には、必要により、分散剤、消泡剤などの添加剤を適宜添加することができる。
本発明の架橋剤組成物は、レゾルシン及びホルムアルデヒドを含まないゴム補強用繊維処理剤の製造に使用されるものである。そのため、架橋剤組成物もレゾルシン及びホルムアルデヒドを含まない。
本発明のゴム補強用繊維処理剤(以下、「本発明の処理剤」とも言う。)は、ゴムラテックスと、本発明の架橋剤組成物を含有し、レゾルシン及びホルムアルデヒドを含まない。
本発明の処理剤は、更に、エポキシ化合物及び/又は分子中に炭素-炭素二重結合を含む構造を有さないブロックイソシアネート化合物を含有することが好ましい。また、液状媒体を含有することが好ましく、液体状であることが好ましい。
本発明の処理剤を用いた繊維表面の付着処理によりゴム補強用繊維を得ることができる。
また、本発明の処理剤は、2種の処理剤がセットとなったキットとすることもできる。
本発明のゴム補強用繊維処理剤キットの第1の態様(以下、「本発明の処理剤キット1」とも言う。)は、エポキシ化合物と、分子中に炭素-炭素二重結合を含む構造を有さないブロックイソシアネート化合物とを含有する処理剤1、及び、ゴムラテックスと、本発明の架橋剤組成物とを含有する処理剤2を含み、レゾルシン及びホルムアルデヒドを含まない。処理剤1及び2は、それぞれさらに液状媒体を含有することが好ましい。
本発明の処理剤キットの第2の態様(以下、「本発明の処理剤キット2」とも言う。)は、エポキシ化合物と、本発明の架橋剤組成物とを含有する処理剤3、及び、ゴムラテックスと、分子中に炭素-炭素二重結合を含む構造を有さないブロックイソシアネート化合物とを含有する処理剤4を含み、レゾルシン及びホルムアルデヒドを含まない。処理剤3及び4は、それぞれさらに液状媒体を含有することが好ましい。
以下、「本発明の処理剤キット1」と「本発明の処理剤キット2」を合わせて「本発明の処理剤キット」とも言う。
本発明の架橋剤組成物、ゴム補強用繊維処理剤及びゴム補強用繊維処理剤キットは、レゾルシン及びホルムアルデヒドを含まない。本発明において「レゾルシン及びホルムアルデヒドを含まない」とは、レゾルシン又はホルムアルデヒド、あるいはその両方を実質的に含まないことに加えて、レゾルシンとホルムアルデヒドを縮合させたレゾルシン・ホルムアルデヒド初期縮合物も実質的に含まないことを意味する。これらの化合物を「実質的に含まない」とは、各化合物の含有量が0.1質量%未満であることを意味する。該含有量は、0.01質量%未満であることが好ましく、0質量%(検出不可)であることが最も好ましい。
レゾルシン、ホルムアルデヒド及びレゾルシンとホルムアルデヒドを縮合させたレゾルシン・ホルムアルデヒド初期縮合物を実質的に含まない架橋剤組成物、処理剤及び処理剤キットは、レゾルシン、ホルムアルデヒド及びレゾルシン・ホルムアルデヒド初期縮合物を実質的に含まない、又は、製造工程において生じない原材料を使用することにより、製造することができる。
液状媒体は水性媒体であることが好ましい。水性媒体とは、水を50質量%以上含有する液状媒体のことであり、使用する水としては、不純物を除いて精製した水を使用することが好ましいが、本発明の効果を生じる限りにおいて、工業用水や水道水等を用いてもよい。水性媒体は、水に加えて他の液状媒体を含有していてもよい。液状媒体は、水以外に、モノアルコール、多価アルコール、グリコールエーテル、グリコールエステル等の水溶性有機溶媒を含有してもよく、有害性が低く、揮発蒸気などによる作業環境の悪化が起こり難いものから必要に応じて選ぶことができる。
ゴムラテックス
ゴムラテックスは、ゴム成分が水性媒体中で乳化分散した性状を有するものであり、例えば、天然ゴムラテックス、スチレン-ブタジエン共重合体ゴムラテックス、カルボキシル基変性スチレン-ブタジエン共重合体ゴムラテックス、ビニルピリジン-スチレン-ブタジエン共重合体ゴムラテックス、ニトリルゴムラテックス、クロロプレンゴムラテックス等が挙げられる。これらの中では、スチレン-ブタジエン共重合体ゴムラテックス、カルボキシル基変性スチレン-ブタジエン共重合体ゴムラテックス、ビニルピリジン-スチレン-ブタジエン共重合体ゴムラテックスが好ましく、ビニルピリジン-スチレン-ブタジエン共重合体ゴムラテックスがより好ましい。また、これらは1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
ビニルピリジン-スチレン-ブタジエン系共重合体ラテックスとしては、重合に用いる単量体の含有率で、ビニルピリジンが0.5~30質量%、スチレンが10~60質量%、ブタジエンが30~80質量%であるものが好ましい。ビニルピリジン含有率0.5~15質量%、スチレン含有率30~60質量%、ブタジエン含有率60質量%未満で構成される単量体混合物を重合させた後、続いて、ビニルピリジン含有率5~20質量%、スチレン含有率10~40質量%、ブタジエン含有率45~75質量%で構成される単量体混合物を重合させて得られる、二重構造を有するビニルピリジン-スチレン-ブタジエン系共重合体ラテックスも好ましく用いることができる。また、ビニルピリジン、スチレン、ブタジエン以外の単量体を更に加えた共重合体ラテックスであってもよい。
2種のゴムラテックスを併用する場合、ビニルピリジン-スチレン-ブタジエン共重合体ゴムラテックスとスチレン-ブタジエン共重合体ラテックスを用いることが好ましい。この場合、2種のラテックスの配合割合は特に限定はなく、例えば、ビニルピリジン-スチレン-ブタジエン共重合体ゴムラテックスとスチレン-ブタジエン共重合体ラテックスの固形分質量比で40:60~95:5であることが好ましく、60:40~90:10であることがより好ましい。
エポキシ化合物
エポキシ化合物としては、エチレングリコールグリシジルエーテル、グリセロールポリグリシジルエーテル、ジグリセロールポリグリシジルエーテル、ソルビトールポリグリシジルエーテル、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル、ビスフェノールAジグリシジルエーテル、ビスフェノールSジグリシジルエーテル、ノボラックグリシジルエーテル、ブロム化ビスフェノールAジグリシジルエーテル等のグリシジルエーテル;ヘキサヒドロフタル酸グリシジルエステル、ダイマー酸グリシジルエステル等のグリシジルエステル;トリグリシジルイソシアヌレート、グリシジルヒダントイン、テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン、トリグリシジルパラアミノフェノール、トリグリシジルメタアミノフェノール、ジグリシジルアニリン、ジグリシジルトルイジン、テトラグリシジルメタキシレンジアミン、ジグリシジルトリブロムアニリン、テトラグリシジルビスアミノメチルシクロヘキサン等のグリシジルアミン;3,4-エポキシシクロヘキシルメチルカルボキシレート、エポキシ化ポリブタジエン、エポキシ化大豆油等の脂環族あるいは脂肪族エポキサイド等、が挙げられる。これらの中では、水性媒体への溶解性が良好な化合物である、エチレングリコールグリシジルエーテル、グリセロールポリグリシジルエーテル、ジグリセロールポリグリシジルエーテル、ソルビトールポリグリシジルエーテル、ポリグリセロールポリグリシジルエーテルが好ましく、市販品としては、ナガセケムテックス株式会社製のデナコール(登録商標)シリーズなどを好ましく用いることができる。また、これらは1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
分子中に炭素-炭素二重結合を含む構造を有さないブロックイソシアネート化合物
分子中に炭素-炭素二重結合を含む構造を有さないブロックイソシアネート化合物は、分子中にブロックイソシアネート基を有し、炭素-炭素二重結合を含む構造を有さない化合物であり(本発明で使用するエポキシ化合物を除く)、例えば、分子中に炭素-炭素二重結合を含む構造を有さないポリイソシアネート化合物のイソシアネート基に公知のブロック化剤を付加反応させることで得られる。該ブロックイソシアネート化合物は、分子中に複数のブロックイソシアネート基を有することが好ましい。
分子中に炭素-炭素二重結合を含む構造を有さないブロックイソシアネート化合物は、前記の、分子中に炭素-炭素二重結合を含む構造を有するブロックイソシアネート化合物の合成において、成分(b)を用いない点を除き、同じ手順で合成することができ、具体的には、例えば以下の各原料成分(a)、(c)、及び、必要に応じて(d)を反応させることにより合成することができる。
(a)ポリイソシアネート化合物
(c)ブロック化剤
(d)活性水素基含有化合物(ただし、上記の成分(a)及び(c)は除く)
各原料成分については、上記の分子中に炭素-炭素二重結合を含む構造を有するブロックイソシアネート化合物の合成時に用いる原料成分と同様のものを用いることができるが、以下に述べるものが好ましい。
ポリイソシアネート化合物(a)としては、脂肪族ポリイソシアネート及びその誘導体、芳香族ポリイソシアネート及びその誘導体が好ましく、1,6-ヘキサメチレンジイソシアネート及びその誘導体、ジフェニルメタンジイソシアネート(4,4’-、2,4’-、2,2’-ジフェニルメタンジイソシアネート又はこれら2種以上の混合物)(MDI)及びその誘導体、ポリメチレンポリフェニルポリイソシアネート(クルードMDI、ポリメリックMDI)等がより好ましい。
ブロック化剤(c)としては、酸アミド系化合物、オキシム系化合物、ピラゾール系化合物が好ましく、ε-カプロラクタム、メチルエチルケトンオキシム、シクロヘキサノンオキシム、3-メチルピラゾール、3,5-ジメチルピラゾール等がより好ましい。
活性水素基含有化合物(d)としては、ポリエーテルポリオールが好ましく、ポリオキシエチレンビスフェノールAエーテル等がより好ましい。また更に、親水性化合物として、例えばタウリン、N-メチルタウリン、N-ブチルタウリン、スルファニル酸などのアミノスルホン酸類、グリシン、アラニンなどのアミノカルボン酸類のアニオン形成性基を、例えば、エチルアミン、トリエチルアミン、ジメチルアミン、ピリジンなどの第1級、第2級及び第3級アミン類、エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミンのようなヒドロキシアルキル化したアミン類などの有機塩基類やアンモニア;水酸化カリウム、水酸化ナトリウムなどの1価の金属の水酸化物;炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウムなどの1価の金属の炭酸塩等により塩に変換したものも好ましく用いることができる。これらの中でも、タウリンのナトリウム塩がより好ましい。
これらの原料成分を用いて合成したブロックイソシアネート化合物を用いれば、ゴム補強用繊維とゴム組成物との間の接着力に優れたゴム補強用繊維処理剤が得られる。分子中に炭素-炭素二重結合を含む構造を有さないブロックイソシアネート化合物の製造時の反応条件としては、分子中に炭素-炭素二重結合を含む構造を有するブロックイソシアネート化合物の製造時の反応条件と方法を準用することができる。また、分子中に炭素-炭素二重結合を含む構造を有さないブロックイソシアネート化合物も水分散型ブロックイソシアネートの性状を有することが好ましく、水分散型ブロックイソシアネートを得る方法についても、分子中に炭素-炭素二重結合を含む構造を有するブロックイソシアネート化合物の水分散型ブロックイソシアネートを得る方法を準用することができる。
本発明の処理剤は、例えば、水性媒体に、ゴムラテックスと、本発明の架橋剤組成物を混合し、更に必要に応じてエポキシ化合物及び/又は分子中に炭素-炭素二重結合を含む構造を有さないブロックイソシアネート化合物や、下記の添加剤等を添加し、水性媒体を追加添加するなどして得ることができる。これらの混合順序や添加順序は適宜調整することができる。本発明の処理剤は、そのまま繊維に付着処理を行う際に使用する加工液としても良いし、高濃度のストック液の状態から付着処理を行う際に適宜希釈するなどして加工液としても良い。
本発明の処理剤を、繊維に付着処理を行う際に使用する加工液とする場合に、その固形分(水性媒体以外の不揮発性成分)濃度は、加工方法や繊維に対する所望の固形分付着量に応じて適宜調整することができ、例えば0.1~50質量%程度であり、好ましくは1~30質量%、更に好ましくは5~25質量%である。本発明の処理剤に含まれる固形分中での各構成成分の含有割合は、用いる繊維の種類やゴム組成物の組成、得られる接着性などに応じて適宜調整することができ、例えば、固形分中でのゴムラテックス(固形分)の量は50~95質量%であることが好ましく、分子中に炭素-炭素二重結合を含む構造を有するブロックイソシアネート化合物(固形分)、エポキシ化合物、分子中に炭素-炭素二重結合を含む構造を有さないブロックイソシアネート化合物(固形分)の各々の量は、0.1~30質量%であることが好ましい。
本発明が目的とする効果を奏するために、本発明の処理剤において、分子中に炭素-炭素二重結合を含む構造を有するブロックイソシアネート化合物の含有量は、ゴムラテックスの含有量100質量部に対し0.5~25質量部であることが好ましい。
本発明の処理剤に、その構成成分が有する官能基として、エポキシ化合物が有するエポキシ基と、分子中に炭素-炭素二重結合を含む構造を有するブロックイソシアネート化合物及び分子中に炭素-炭素二重結合を含む構造を有さないブロックイソシアネート化合物が有するブロックイソシアネート基が含まれている場合には、これらの相対的な含有量には好ましい範囲がある。本発明の処理剤の固形分濃度を20質量%に換算した場合の処理剤1kgにおいて、そこに含まれるエポキシ基の量(mmol)とブロックイソシアネート基の量(mmol)を算出し、エポキシ基の量からブロックイソシアネート基の量を引いた値が、-30~10mmolであることが好ましい。すなわち、ゴム補強用繊維処理剤(固形分濃度Z質量%)に含まれるエポキシ基の量とブロックイソシアネート基の量は、下記式(1):
-30≦(X-Y)×20/Z≦10 (1)
[式中、
:処理剤(1kg)に含まれるエポキシ基の量(mmol)
:処理剤(1kg)に含まれるブロックイソシアネート基の量(mmol)]
を満足することが好ましい。処理剤1kgに含まれるエポキシ基の量X(mmol)は、処理剤1kgに含まれるエポキシ化合物の量とそのエポキシ当量から、ブロックイソシアネート基の量Y(mmol)は、処理剤1kgに含まれる各ブロックイソシアネート化合物の量とそれらのブロックイソシアネート基含有率から、それぞれ算出される値である。
本発明の処理剤キット1が含む処理剤1は、例えば、水性媒体に、エポキシ化合物と、分子中に炭素-炭素二重結合を含む構造を有さないブロックイソシアネート化合物を混合し、更に必要に応じて下記の添加剤等を添加し、水性媒体を追加添加するなどして得ることができる。本発明の処理剤キット1が含む処理剤2は、例えば、水性媒体に、ゴムラテックスと、本発明の架橋剤組成物を混合し、更に必要に応じて下記の添加剤等を添加し、水性媒体を追加添加するなどして得ることができる。これらの混合順序や添加順序は適宜調整することができる。本発明の処理剤キット1が含む処理剤1及び処理剤2は、そのまま繊維に付着処理を行う際に使用する加工液としても良いし、高濃度のストック液の状態から付着処理を行う際に適宜希釈するなどして加工液としても良い。
処理剤1を、繊維に付着処理を行う際に使用する加工液とする場合に、その固形分(水性媒体以外の不揮発性成分)濃度は、加工方法や繊維に対する所望の固形分付着量に応じて適宜調整することができ、例えば0.1~20質量%程度であり、好ましくは1~5質量%である。処理剤1に含まれる固形分中での各構成成分の含有割合は、用いる繊維の種類やゴム組成物の組成、得られる接着性などに応じて適宜調整することができ、例えば、固形分中でのエポキシ化合物の量は10~90質量%であることが好ましく、分子中に炭素-炭素二重結合を含む構造を有さないブロックイソシアネート化合物(固形分)の量は10~90質量%であることが好ましい。
処理剤2を、繊維に付着処理を行う際に使用する加工液とする場合に、その固形分(水性媒体以外の不揮発性成分)濃度は、加工方法や繊維に対する所望の固形分付着量に応じて適宜調整することができ、例えば0.1~50質量%程度であり、好ましくは10~30質量%である。処理剤2に含まれる固形分中での各構成成分の含有割合は、用いる繊維の種類やゴム組成物の組成、得られる接着性などに応じて適宜調整することができ、例えば、固形分中でのゴムラテックス(固形分)の量は70~99.95質量%であることが好ましく、分子中に炭素-炭素二重結合を含む構造を有するブロックイソシアネート化合物(固形分)の量は、0.05~30質量%であることが好ましい。
本発明が目的とする効果を奏するために、処理剤2において、分子中に炭素-炭素二重結合を含む構造を有するブロックイソシアネート化合物の含有量は、ゴムラテックスの含有量100質量部に対し0.5~20質量部であることが好ましい。
処理剤1には、その構成成分が有する官能基として、エポキシ化合物が有するエポキシ基と、分子中に炭素-炭素二重結合を含む構造を有さないブロックイソシアネート化合物が有するブロックイソシアネート基が含まれており、処理剤2には、その構成成分が有する官能基として、分子中に炭素-炭素二重結合を含む構造を有するブロックイソシアネート化合物が有するブロックイソシアネート基が含まれており、これらの相対的な含有量には好ましい範囲がある。固形分濃度2質量%に換算した場合の処理剤1の1kgと、固形分濃度20質量%に換算した場合の処理剤2の1kgを合わせた合計2kgにおいて、そこに含まれるエポキシ基の量(mmol)とブロックイソシアネート基の量(mmol)を算出し、エポキシ基の量からブロックイソシアネート基の量を引いた値が、20~70mmolであることが好ましい。すなわち、処理剤1(固形分濃度Z質量%)と処理剤2(固形分濃度Z質量%)に含まれるエポキシ基の量とブロックイソシアネート基の量は、下記式(2):
20≦[X×2/Z-(Y×2/Z+Y×20/Z)]≦70 (2)
[式中、
:処理剤1(1kg)に含まれるエポキシ基の量(mmol)
:処理剤1(1kg)に含まれるブロックイソシアネート基の量(mmol)
:処理剤2(1kg)に含まれるブロックイソシアネート基の量(mmol)]
を満足することが好ましい。ここで、処理剤1や処理剤2の固形分濃度や量は各官能基の量を算出するために設定しているだけであって、実際に処理剤1と処理剤2を混合する必要はない。エポキシ基の量やブロックイソシアネート基の量は、前記の本発明の処理剤の場合と同様にして算出される値である。
本発明の処理剤キット2が含む処理剤3は、例えば、水性媒体に、エポキシ化合物と、本発明の架橋剤組成物を混合し、更に必要に応じて下記の添加剤等を添加し、水性媒体を追加添加するなどして得ることができる。本発明の処理剤キット2が含む処理剤4は、例えば、水性媒体に、ゴムラテックスと、分子中に炭素-炭素二重結合を含む構造を有さないブロックイソシアネート化合物を混合し、更に必要に応じて下記の添加剤等を添加し、水性媒体を追加添加するなどして得ることができる。これらの混合順序や添加順序は適宜調整することができる。本発明の処理剤キット2が含む処理剤3及び処理剤4は、そのまま繊維に付着処理を行う際に使用する加工液としても良いし、高濃度のストック液の状態から付着処理を行う際に適宜希釈するなどして加工液としても良い。
処理剤3を、繊維に付着処理を行う際に使用する加工液とする場合に、その固形分(水性媒体以外の不揮発性成分)濃度は、加工方法や繊維に対する所望の固形分付着量に応じて適宜調整することができ、例えば0.1~20質量%程度であり、好ましくは1~5質量%である。処理剤3に含まれる固形分中での各構成成分の含有割合は、用いる繊維の種類やゴム組成物の組成、得られる接着性などに応じて適宜調整することができ、例えば、固形分中でのエポキシ化合物の量は10~90質量%であることが好ましく、分子中に炭素-炭素二重結合を含む構造を有するブロックイソシアネート化合物(固形分)の量は10~90質量%であることが好ましい。
処理剤4を、繊維に付着処理を行う際に使用する加工液とする場合に、その固形分(水性媒体以外の不揮発性成分)濃度は、加工方法や繊維に対する所望の固形分付着量に応じて適宜調整することができ、例えば0.1~50質量%程度であり、好ましくは10~30質量%である。処理剤4に含まれる固形分中での各構成成分の含有割合は、用いる繊維の種類やゴム組成物の組成、得られる接着性などに応じて適宜調整することができ、例えば、固形分中でのゴムラテックス(固形分)の量は70~99.95質量%であることが好ましく、分子中に炭素-炭素二重結合を含む構造を有しないブロックイソシアネート化合物(固形分)の量は、0.05~30質量%であることが好ましい。
本発明の処理剤や、処理剤キットの処理剤1~4は、本発明の効果を生じる限りにおいて任意の添加剤を含んでもよい。添加剤としては、例えば、本発明の必須構成成分以外の樹脂成分や架橋剤、界面活性剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、顔料、金属粉顔料、レオロジーコントロール剤、硬化促進剤、可塑剤、難燃剤、帯電防止剤、消臭剤、抗菌剤等が挙げられる。
本発明のゴム補強用繊維は、繊維表面に、ゴムラテックスと、本発明の架橋剤組成物を含有する組成物を加熱処理して得た接着性組成物が付着している。上記ゴムラテックスと架橋剤組成物を含有する組成物は、更に、エポキシ化合物及び/又は分子中に炭素-炭素二重結合を含む構造を有さないブロックイソシアネート化合物を含有することが好ましい。なお、本発明において「接着性組成物」とは、最終的なゴム製品としたときにゴム補強用繊維とゴム組成物との間の良好な接着性の発現に寄与する組成物のことであって、それ自体が接着剤や粘着剤のような粘着性を有していることは、必ずしも必要ではない。また、ゴムラテックスは、前記の通りゴム成分が水性媒体中で乳化分散した性状を有するものであるが、接着性組成物において水性媒体は揮発し除去されているため、接着性組成物中でゴムラテックスは、そのような性状を維持している必要はない。加えて、現時点で、「接着性組成物」の構造を完全に特定することが不可能又はおよそ実際的ではない程度に困難であるため、製造方法によってゴム補強用繊維の発明を特定している。
本発明のゴム補強用繊維に用いる繊維としては、タイヤや動力伝達ベルトや高圧ホース等の高強度が要求されるゴム製品に使用される場合には、有機繊維が撚糸されたコード状の形状であることが好ましい。また、建造物用ゴムシート等のシート状のゴム製品に使用される場合には、コードをメッシュ状に配置した形状や、布帛状の形状を用いることができる。有機繊維の材質としては特に限定はないが、ナイロン、ポリエステル、アラミド(芳香族ポリアミド)、レーヨン、ポリプロピレンやポリエチレン等のポリオレフイン、ポリカーボネート、ポリアクリレート、ABS樹脂、塩化ビニル樹脂等が挙げられる。これらの中でも、繊維がポリエステル、ナイロン及びアラミドのいずれかを含むことが好ましく、これらの内、通常の方法ではゴム組成物との接着が比較的困難なポリエステル又はアラミドを用いる場合には、本発明の効果がより顕著に奏される。また、本発明のゴム補強用繊維に用いる繊維がアラミドを含む場合には、本発明の処理剤や、処理剤キットの処理剤1~4が含む添加剤として、特開平9-21073号公報に記載される合成スメクタイトや、特開2009-127149号公報に記載されるカーボンブラックを用いることにより、本発明の効果がより顕著に奏される。
本発明のゴム補強用繊維は、本発明の処理剤を含む加工液を繊維に付着させる処理を行い、その後、乾燥処理及び加熱処理を施すことにより製造することができる。付着処理方法としては、例えば、浸漬、はけ塗り、流延、噴霧、ロール塗布、ナイフ塗布等を挙げることができ、中でも浸漬処理を用いることが好ましい。乾燥処理時の温度は60~200℃であることが好ましく、80~150℃であることがより好ましい。乾燥時間は20秒~10分であることが好ましく、30秒~5分であることがより好ましい。加熱処理時の温度は100~280℃であることが好ましく、150~260℃であることがより好ましい。加熱時間は20秒~10分であることが好ましく、30秒~5分であることがより好ましい。乾燥処理と加熱処理を兼ねる一度の処理を行うこともできる。乾燥処理や加熱処理に用いる装置としては、特に限定されず、温風や赤外線や高周波を用いた加温装置等を用いることができる。
このようにして本発明のゴム補強用繊維を製造することにより、繊維表面には本発明の処理剤の構成成分に由来して生成した接着性組成物が付着した状態になる。繊維への接着性組成物の固形分付着量は、用いる繊維の種類やゴム組成物の組成、所望の接着性などに応じて適宜調整することができ、付着率(処理前の繊維の質量に対する、付着した接着性組成物固形分の質量の割合)で表すと、例えば1~20質量%が挙げられる。
本発明の処理剤キット1を用いる場合には、本発明のゴム補強用繊維の製造方法は、まず、繊維に処理剤1を含む加工液を付着させる処理を行い、その後、処理剤2を含む加工液を付着させる処理を行う2段階の工程を有する。処理剤1を含む加工液を付着させる処理の後、処理剤2を含む加工液を付着させる処理を行う前に、乾燥処理及び加熱処理を施し、処理剤2を含む加工液を付着させる処理の後にも、乾燥処理及び加熱処理を施すことが好ましい。付着処理や乾燥処理や加熱処理の方法や装置、条件などに関しては前記と同様である。
本発明の処理剤キット2を用いる場合には、本発明のゴム補強用繊維の製造方法は、まず、繊維に処理剤3を含む加工液を付着させる処理を行い、その後、処理剤4を含む加工液を付着させる処理を行う2段階の工程を有する。処理剤3を含む加工液を付着させる処理の後、処理剤4を含む加工液を付着させる処理を行う前に、乾燥処理及び加熱処理を施し、処理剤4を含む加工液を付着させる処理の後にも、乾燥処理及び加熱処理を施すことが好ましい。付着処理や乾燥処理や加熱処理の方法や装置、条件などに関しては前記と同様である。
本発明のゴム製品は、本発明のゴム補強用繊維を含有している。このようなゴム製品は、例えば、本発明のゴム補強用繊維を未加硫ゴムに埋設し、未加硫ゴムを加硫処理してゴム組成物とすることで得られ、ゴム組成物とゴム補強用繊維との接着性に優れる。このようなゴム製品は、それ自体がタイヤや動力伝達ベルトやホースや建造物用ゴムシート等の最終製品であってもよいし、ゴム補強用繊維表面にゴム組成物が付着してコード状やシート状となった、最終ゴム製品を補強するための部材であってもよい。
ゴム組成物が含有するゴム成分としては特に限定はなく、例えば、天然ゴム(NR)、ポリイソプレンゴム(IR)、ポリブタジエンゴム(BR)、スチレン-ブタジエン共重合体ゴム(SBR)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)、クロロプレンゴム(CR)、ブチルゴム(IIR)等の共役ジエン系合成ゴム、エチレン-プロピレン共重合体ゴム(EPM)、エチレン-プロピレン-ジエン共重合体ゴム(EPDM)、ポリシロキサンゴム等が挙げられる。これらは1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
未加硫ゴムの加硫処理に用いる加硫剤としては、例えば、硫黄、テトラメチルチウラムジスルフィド、ジペンタメチレンチウラムテトラサルファイド等のチウラムポリサルファイド化合物、4,4-ジチオモルフォリン、p-キノンジオキシム、p,p’-ジベンゾキノンジオキシム、環式硫黄イミド、過酸化物等が挙げられる。更に、ゴム組成物には、カーボンブラック、シリカ、水酸化アルミニウム等の充填剤、着色剤、加硫促進剤、老化防止剤、軟化剤等の各種配合剤を適宜配合することができる。
本明細書には、以下の内容が開示されている。
〔1〕レゾルシン及びホルムアルデヒドを含まないゴム補強用繊維処理剤に用いる架橋剤組成物であって、分子中に炭素-炭素二重結合を含む構造を有するブロックイソシアネート化合物を含む架橋剤組成物。
〔2〕上記炭素-炭素二重結合を含む構造が、ポリブタジエン構造及びポリイソプレン構造から選ばれる構造である上記〔1〕に記載の架橋剤組成物。
〔3〕レゾルシン及びホルムアルデヒドを含まないゴム補強用繊維処理剤であって、ゴムラテックスと、上記〔1〕又は〔2〕に記載の架橋剤組成物を含有するゴム補強用繊維処理剤。
〔4〕更に、エポキシ化合物及び/又は分子中に炭素-炭素二重結合を含む構造を有さないブロックイソシアネート化合物を含有する上記〔3〕に記載のゴム補強用繊維処理剤。
〔5〕上記分子中に炭素-炭素二重結合を含む構造を有するブロックイソシアネート化合物の含有量が、上記ゴムラテックスの含有量100質量部に対し0.5~25質量部である上記〔3〕又は〔4〕に記載のゴム補強用繊維処理剤。
〔6〕ゴム補強用繊維処理剤(固形分濃度Z質量%)に含まれるエポキシ基の量とブロックイソシアネート基の量が、下記式(1):
-30≦(X-Y)×20/Z≦10 (1)
[式中、
:処理剤(1kg)に含まれるエポキシ基の量(mmol)
:処理剤(1kg)に含まれるブロックイソシアネート基の量(mmol)]
を満足する上記〔4〕又は〔5〕に記載のゴム補強用繊維処理剤。
〔7〕レゾルシン及びホルムアルデヒドを含まないゴム補強用繊維処理剤のキットであって、エポキシ化合物と、分子中に炭素-炭素二重結合を含む構造を有さないブロックイソシアネート化合物とを含有する処理剤1、及び、ゴムラテックスと、上記〔1〕又は〔2〕に記載の架橋剤組成物とを含有する処理剤2を含むゴム補強用繊維処理剤キット。
〔8〕上記処理剤2において、上記分子中に炭素-炭素二重結合を含む構造を有するブロックイソシアネート化合物の含有量が、上記ゴムラテックスの含有量100質量部に対し0.5~20質量部である上記〔7〕に記載のゴム補強用繊維処理剤キット。
〔9〕上記処理剤1(固形分濃度Z質量%)と上記処理剤2(固形分濃度Z質量%)に含まれるエポキシ基の量とブロックイソシアネート基の量が、下記式(2):
20≦[X×2/Z-(Y×2/Z+Y×20/Z)]≦70 (2)
[式中、
:上記処理剤1(1kg)に含まれるエポキシ基の量(mmol)
:上記処理剤1(1kg)に含まれるブロックイソシアネート基の量(mmol)
:上記処理剤2(1kg)に含まれるブロックイソシアネート基の量(mmol)]
を満足する上記〔7〕又は〔8〕に記載のゴム補強用繊維処理剤キット。
〔10〕上記〔7〕~〔9〕のいずれかに記載のゴム補強用繊維処理剤キットを使用し、繊維に、上記処理剤1を含む加工液を付着させる処理を行い、その後、上記処理剤2を含む加工液を付着させる処理を行う工程を有する、ゴム補強用繊維の製造方法。
〔11〕レゾルシン及びホルムアルデヒドを含まないゴム補強用繊維処理剤のキットであって、エポキシ化合物と、上記〔1〕又は〔2〕に記載の架橋剤組成物とを含有する処理剤3、及び、ゴムラテックスと、分子中に炭素-炭素二重結合を含む構造を有さないブロックイソシアネート化合物とを含有する処理剤4を含むゴム補強用繊維処理剤キット。
〔12〕上記〔11〕に記載のゴム補強用繊維処理剤キットを使用し、繊維に、上記処理剤3を含む加工液を付着させる処理を行い、その後、上記処理剤4を含む加工液を付着させる処理を行う工程を有する、ゴム補強用繊維の製造方法。
〔13〕繊維表面に、ゴムラテックスと、上記〔1〕又は〔2〕に記載の架橋剤組成物を含有する組成物を加熱処理して得た接着性組成物が付着したゴム補強用繊維。
〔14〕上記ゴムラテックスと架橋剤組成物を含有する組成物が、更に、エポキシ化合物及び/又は分子中に炭素-炭素二重結合を含む構造を有さないブロックイソシアネート化合物を含有する上記〔13〕に記載のゴム補強用繊維。
〔15〕上記繊維が、ポリエステル、ナイロン及びアラミドのいずれかを含む上記〔13〕又は〔14〕に記載のゴム補強用繊維。
〔16〕上記〔13〕~〔15〕のいずれかに記載のゴム補強用繊維を含有するゴム製品。
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、これらの実施例により本発明が限定されるものではない。なお実施例において、特に断りがない限り「部」は質量部を意味し、「%」は質量%を意味する。
<原材料の説明>(固形分濃度を示していないものは濃度100%である。)
・デュラネート(登録商標)24A-100:ヘキサメチレンジイソシアネートのビュレット体、イソシアネート基の濃度(含有率)23.5%、旭化成株式会社製
・NISSO-PB G-1000:ポリブタジエンジオール、数平均分子量1400、日本曹達株式会社製
・Poly ip:末端にヒドロキシ基を有する液状ポリイソプレン、数平均分子量2500、出光興産株式会社製
・ネオスタン(登録商標)U-600:ビスマス系触媒、日東化成株式会社製
・3,5-ジメチルピラゾール:大塚化学株式会社製
・JEFFAMINE(登録商標)M-1000:メトキシポリ(オキシエチレン/オキシプロピレン)-2-プロピルアミン、数平均分子量1000、HUNTSMAN社製
・エパン(登録商標)680:プルロニック(登録商標)型非イオン界面活性剤、数平均分子量8750、エチレンオキサイド重量分率80%、第一工業製薬株式会社製
・ミリオネート(登録商標)MR-200:ポリメチレンポリフェニルポリイソシアネート、イソシアネート基の濃度(含有率)31.5%、東ソー株式会社製
・ニューポール(登録商標)BPE-40:ビスフェノールAのエチレンオキサイド4モル付加物、三洋化成工業株式会社製
・ブチルグリコールエーテル:エチレングリコールモノブチルエーテル、東京化成工業株式会社製
・Disponil(登録商標)SUS87:スルホスクシン酸ナトリウム、BASF社製
・デナコールEX-313:グリセロールポリグリシジルエーテル、エポキシ当量141g/eq、ナガセケムテックス株式会社製
・デナコールEX-614:ソルビトールポリグリシジルエーテル、エポキシ当量167g/eq、ナガセケムテックス株式会社製
・PYRATEX(登録商標)-LB:ビニルピリジン-スチレン-ブタジエン共重合体ゴムラテックス、固形分濃度38.8%、日本エイアンドエル株式会社製
・ニポール(登録商標)LX-112:スチレン-ブタジエン共重合体ゴムラテックス、固形分濃度41%、日本ゼオン株式会社製
・ネオコール(登録商標)P:ジオクチルスルホコハク酸エステル塩、第一工業製薬株式会社製
・スミカノール(登録商標)700S:レゾルシン・ホルムアルデヒド初期縮合物、固形分濃度65%、住友化学株式会社製
・DM-6400:MDI型ブロックイソシアネート(分子中に炭素-炭素二重結合を含む構造は有さない)、固形分濃度42%、再生イソシアネート基(水分散型ブロックイソシアネートからブロック化剤を脱離させた場合のイソシアネート基)濃度7.90%、明成化学工業株式会社製
・スメクトン(登録商標)-ST:合成スメクタイト、クニミネ工業株式会社製
・FUJI SP BLACK 203:カーボンブラック分散液、固形分濃度23.5%、冨士色素株式会社製
<水分散型の、分子中に炭素-炭素二重結合を含む構造を有するブロックイソシアネート化合物の作製>
製造例1
攪拌機、冷却管及び温度計を備えたセパラブルフラスコに、デュラネート24A-100を200g(イソシアネート基の量1.119mol)、NISSO-PB G-1000を261.1g(ヒドロキシ基の量0.373mol)、ポリオキシエチレンモノメチルエーテル(数平均分子量2000)を37.3g(ヒドロキシ基の量0.019mol)、ポリオキシプロピレントリメチロールプロパンエーテル(水酸基価398mgKOH/g)を7.0g(ヒドロキシ基の量0.050mol)及びアセトンを380g仕込み、室温で攪拌し混合した。次に、液温を60℃まで昇温させ、ネオスタンU-600を0.253g加え、JIS K 1603-1:2007のA法に準拠して測定した反応液のイソシアネート基の濃度(含有率)が3.2%(28.5g)になるまで反応させた。液温を40℃まで冷却後、3,5-ジメチルピラゾールを65.1g(NH基の量0.677mol)を加え、イソシアネート基の濃度が0%になるまで反応させた。液温を30℃まで冷却し、強攪拌下にてイオン交換水1400gを滴下し分散させた。その後、減圧下にてアセトンを留去し、固形分(570.8g)の濃度が30%になるようにイオン交換水を加え、本発明の架橋剤組成物の一態様である製造例1の水分散型ブロックイソシアネートを得た。製造例1の水分散型ブロックイソシアネートにおける再生イソシアネート基(水分散型ブロックイソシアネートからブロック化剤を脱離させた場合のイソシアネート基)の濃度は1.50%であった。
製造例2
攪拌機、冷却管及び温度計を備えたセパラブルフラスコに、デュラネート24A-100を35g(イソシアネート基の量0.196mol)、Poly ipを81.6g(ヒドロキシ基の量0.065mol)、ポリオキシエチレンモノメチルエーテル(数平均分子量2000)を6.5g(ヒドロキシ基の量0.003mol)、ポリオキシプロピレントリメチロールプロパンエーテル(水酸基価398mgKOH/g)を1.2g(ヒドロキシ基の量0.009mol)及びアセトンを90g仕込み、室温で攪拌し混合した。次に、液温を60℃まで昇温させ、ネオスタンU-600を0.062g加え、反応液のイソシアネート基の濃度が2.3%になるまで反応させた。液温を40℃まで冷却後、3,5-ジメチルピラゾールを11.4g(NH基の量0.119mol)を加え、イソシアネート基の濃度が0%になるまで反応させた。液温を30℃まで冷却し、強攪拌下にてイオン交換水300gを滴下し分散させた。その後、減圧下にてアセトンを留去し、固形分濃度が30%になるようにイオン交換水を加え、本発明の架橋剤組成物の一態様である製造例2の水分散型ブロックイソシアネートを得た。製造例2の水分散型ブロックイソシアネートにおける再生イソシアネート基の濃度は1.10%であった。
<水分散型の、分子中に炭素-炭素二重結合を含む構造を有さないブロックイソシアネート化合物の作製>
製造例3
攪拌機、冷却管及び温度計を備えたセパラブルフラスコに、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネートを100部(イソシアネート基の量0.800mol)、ε-カプロラクタムを100部(NH基の量0.884mol)、ジオキサンを200部仕込み、攪拌を続けながら液温を徐々に昇温して85℃に保持し、120分間反応させた後ジオキサンを留去し、ブロックイソシアネート化合物を得た。次に、イオン交換水94.3部に得られたブロックイソシアネート化合物を100部、エパン680を10.7部加え、湿式分散機で分散し、固形分濃度54%の、製造例3の水分散型ブロックイソシアネートを得た。製造例3の水分散型ブロックイソシアネートにおける再生イソシアネート基の濃度は8.60%であった。
製造例4
攪拌機、冷却管及び温度計を備えたセパラブルフラスコに、ミリオネートMR-200を152部(イソシアネート基の量1.140mol)、ニューポールBPE-40を83.4部(ヒドロキシ基の量0.412mol)仕込み、攪拌を続けながら液温を徐々に昇温して85℃に保持し、30分間反応させ、イソシアネート基の濃度が13.0%のウレタンプレポリマーを得た。次に、ジオキサンを100部、ε-カプロラクタムを50部(NH基の量0.442mol)、トリエチルアミンを0.2部添加した後、液温を75℃にして120分間反応させ、イソシアネート基の濃度が3.1%の部分ブロックドプレポリマーを得た。次に、液温を40℃にして濃度30%のタウリンソーダ水溶液を140部(NH基の量0.285mol)加え、40~45℃で30分間反応させた。その後、固形分濃度が30%になるようにイオン交換水による希釈とジオキサンの留去を行い、製造例4の水分散型ブロックイソシアネートを得た。製造例4の水分散型ブロックイソシアネートにおける再生イソシアネート基の濃度は1.70%であった。
製造例5
攪拌機、冷却管及び温度計を備えたセパラブルフラスコに、デュラネート24A-100を30部(イソシアネート基の量0.168mol)仕込み、攪拌を続けながらJEFFAMINE M-1000を1部(NH基の量0.001mol)ゆっくりと添加し、液温を60~70℃に昇温した。イソシアネート基の濃度が22.6%に到達した時点で、3,5-ジメチルピラゾールを16.1部(NH基の量0.167mol)ゆっくりと添加しながら、液温を60~70℃に保持した。イソシアネート基の濃度がゼロに到達した時点で、ブチルグリコールエーテルを7部、Disponil SUS87を0.72部添加し、5分間混合した。続いて、イオン交換水104.59部を添加し、高速ミキサーを用いて分散物を形成し、固形分濃度30%の、製造例5の水分散型ブロックイソシアネートを得た。製造例5の水分散型ブロックイソシアネートにおける再生イソシアネート基の濃度は4.40%であった。
製造例6
攪拌機、冷却管及び温度計を備えたセパラブルフラスコに、2,4-トリレンジイソシアネートを76.00部(イソシアネート基の量0.873mol)、トリメチロールプロパンを25.6部(ヒドロキシ基の量0.572mol)、酢酸エチルを250部仕込み、攪拌を続けながら液温を徐々に昇温して40℃で2時間保持し、イソシアネート基の濃度が3.6%のイソシアネート化合物を得た。次に、メチルエチルケトンオキシムを26.1部(ヒドロキシ基の量0.300mol)加え、更に1時間攪拌を続け、ブロックイソシアネート化合物を得た。これにエパン680を22.14部加え、イオン交換水を190.7部徐々に加えた。その後、減圧下にて酢酸エチルを留去し、固形分濃度が44%になるようにイオン交換水を加え、製造例6の水分散型ブロックイソシアネートを得た。製造例6の水分散型ブロックイソシアネートにおける再生イソシアネート基の濃度は3.70%であった。
<ゴム補強用繊維処理剤及びゴム補強用繊維の作製>
実施例1-1
水588.0部にデナコールEX-313を11.6部添加し、均一に溶解した。次に、製造例3の水分散型ブロックイソシアネートを36.3部(固形分19.6部)添加し均一に混合した。次に、PYRATEX-LBを360.8部(固形分140.0部)添加し均一に混合した。最後に、製造例1の水分散型ブロックイソシアネート3.33部(固形分1.0部)をゆっくりかきまぜながら加え、均一に混合して、固形分濃度17.2%(上記式(1)におけるZ)の実施例1-1のゴム補強用繊維処理剤を得た。
実施例1-1のゴム補強用繊維処理剤において、分子中に炭素-炭素二重結合を含む構造を有するブロックイソシアネート化合物の固形分含有量は、ゴムラテックスの固形分含有量100部に対し0.71部である。また、実施例1-1のゴム補強用繊維処理剤(固形分濃度17.2%)1kgにおいて、エポキシ基の量(上記式(1)におけるX)はデナコールEX-313に含まれる82.27mmolであり、ブロックイソシアネート基の量(上記式(1)におけるY)は、製造例3の水分散型ブロックイソシアネートに含まれる74.34mmolと、製造例1の水分散型ブロックイソシアネートに含まれる1.19mmolを合計した75.53mmolであることから、上記式(1)における(X-Y)×20/Zの値は、7.84mmolである。
この様にして得た実施例1-1のゴム補強用繊維処理剤をそのまま加工液として用い、繊維(ポリエステルコード、HL糸、1670dtex、二本撚り)を浸漬処理し、130℃で2分間乾燥処理し、続いて240℃で2分間加熱処理を行って、繊維表面に接着性組成物が付着した実施例1-1のゴム補強用繊維を得た。繊維への接着性組成物の固形分付着量は、付着率(処理前の繊維の質量に対する、付着した接着性組成物固形分の質量の割合)で9.2%であった。
実施例1-2~1-17、比較例1-1~1-7
ゴム補強用繊維処理剤に使用する原材料、繊維(ポリエステルコードは「PET」、ナイロンコード(1400dtex、二本撚り)は「Ny」と表記)を表1~4に記載するもの及び量に代えた以外は実施例1-1と同様にして、実施例1-2~1-17、比較例1-1~1-7の各々のゴム補強用繊維処理剤及びゴム補強用繊維を得た。ゴム補強用繊維処理剤において、ゴムラテックスの含有量(固形分)100部に対する、分子中に炭素-炭素二重結合を含む構造を有するブロックイソシアネート化合物(固形分)の含有量(表中、「BI/GL量」)と、上記式(1)における(X-Y)×20/Zの値(表中、「EP-BI量」)と、繊維への接着性組成物の固形分付着量(付着率)も、表1~4に示す。
参考例1
水384.7部にPYRATEX-LBを300.7部(固形分116.7部)と、ニポールLX-112を125.0部(固形分51.3部)添加し均一に混合してラテックス希釈液とした。一方、水126.5部に濃度10%水酸化ナトリウム水溶液を7.0部加えて混合し、スミカノール700Sを45.0部(固形分29.3部)添加して、均一に溶解してレゾルシン・ホルムアルデヒド初期縮合物溶液とした。次に、ラテックス希釈液にレゾルシン・ホルムアルデヒド初期縮合物溶液をゆっくりかきまぜながら加え、更にホルマリン(濃度37%水溶液)を11.1部添加し、均一に混合して、固形分濃度20.0%のゴム補強用繊維処理剤を得た。このゴム補強用繊維処理剤をそのまま加工液として用い、繊維(ナイロンコード、1400dtex、二本撚り)を浸漬処理し、130℃で2分間乾燥処理し、続いて240℃で2分間加熱処理を行って、繊維表面に接着性組成物が付着したゴム補強用繊維を得た。繊維への接着性組成物の固形分付着量は、付着率で7.2%であった。
<ゴム製品の作製と評価>
天然ゴム70部、スチレン-ブタジエン共重合体ゴム30部、カーボンブラック粉末60部、酸化亜鉛粉末4部、ステアリン酸1.5部、アロマオイル8部、硫黄2.5部、加硫促進剤(N-シクロヘキシル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド)1.1部をよく混錬した後、シート状に形成し未加硫ゴムシートとした。未加硫ゴムシートの表面近くに実施例1-1のゴム補強用繊維を7本埋設し、4.7MPaのプレス圧力で、150℃で30分間加硫することにより、ゴム補強用繊維表面にゴム組成物が付着してシート状となった実施例1-1のゴム製品を得た。実施例1-2~1-17、比較例1-1~1-7、参考例1の各ゴム補強用繊維についても、同様にしてゴム製品を得た。
接着力の評価
得られた各々のゴム製品について、精密万能試験機(オートグラフAG-X、株式会社島津製作所製)を用い、平面つかみ具を使用して、両端のコードを残し5本のコードを保持し、ゴムシート面に対し90度の方向へ300mm/分の速度で剥離し、その際に要する力を測定した。測定値を5で割った値(コード1本あたりの力)を接着力とした。結果を表1~4に示す。
ゴム付着量の評価
上記の接着力の評価において、ゴムシートから剥離されたゴム補強用繊維の表面を目視で観察し、下記の基準で評価した。結果を表1~4に示す。
◎:付着した黒色のゴム組成物の量が多く、コードの見えている部分がない。
○:付着した黒色のゴム組成物の量は多いが、一部にコードが見えている部分がある。
△:全体的に付着した黒色のゴム組成物の量が少なく、コードが見えている部分が多い。
×:黒色のゴム組成物が付いていない、又はほとんど付いていない。
Figure 2024019220000002
Figure 2024019220000003
Figure 2024019220000004
Figure 2024019220000005
<ゴム補強用繊維処理剤キット及びゴム補強用繊維の作製>
実施例2-1
水973.6部にデナコールEX-614を13.3部と、ネオコールPを0.7部添加し、均一に溶解した。次に、製造例3の水分散型ブロックイソシアネートを12.4部(固形分6.7部)添加し、均一に混合して、固形分濃度2.07%(上記式(2)におけるZ)の処理剤Aを得た。これとは別に、水570.1部にPYRATEX-LBを301.3部(固形分116.9部)と、ニポールLX-112を125.3部(固形分51.4部)添加し均一に混合した。次に、製造例1の水分散型ブロックイソシアネート3.33部(固形分1.0部)をゆっくりかきまぜながら加え、均一に混合して、固形分濃度16.9%(上記式(2)におけるZ)の処理剤Bを得た。得られた処理剤Aと処理剤Bで、実施例2-1のゴム補強用繊維処理剤キットとした。
実施例2-1のゴム補強用繊維処理剤キットの処理剤Bにおいて、分子中に炭素-炭素二重結合を含む構造を有するブロックイソシアネート化合物の含有量は、ゴムラテックスの含有量100部に対し0.59部である。また、処理剤A(固形分濃度2.07%)1kgにおいて、エポキシ基の量(上記式(2)におけるX)はデナコールEX-614に含まれる79.64mmolであり、ブロックイソシアネート基の量(上記式(2)におけるY)は、製造例3の水分散型ブロックイソシアネートに含まれる25.39mmolであり、処理剤B(固形分濃度16.9%)1kgにおいて、ブロックイソシアネート基の量(上記式(2)におけるY)は、製造例1の水分散型ブロックイソシアネートに含まれる1.19mmolであることから、上記式(2)における[X×2/Z-(Y×2/Z+Y×20/Z)]の値は、51.02mmolである。
この様にして得た実施例2-1のゴム補強用繊維処理剤キットの処理剤Aをそのまま加工液として用い、繊維(ポリエステルコード、HL糸、1670dtex、二本撚り)を浸漬処理し、130℃で2分間乾燥処理し、続いて240℃で2分間加熱処理した。次に、実施例2-1のゴム補強用繊維処理剤キットの処理剤Bをそのまま加工液として用いて、この処理剤Aで処理済みの繊維を浸漬処理し、130℃で2分間乾燥処理し、続いて240℃で2分間加熱処理して、繊維表面に接着性組成物が付着した実施例2-1のゴム補強用繊維を得た。繊維への接着性組成物の固形分付着量は、付着率で6.3%であった。
実施例2-2~2-15、比較例2-1、2-2
ゴム補強用繊維処理剤に使用する原材料を表5、表6に記載するもの及び量に代えた以外は実施例2-1と同様にして、実施例2-2~2-15、比較例2-1、2-2の各々のゴム補強用繊維処理剤キット及びゴム補強用繊維を得た。繊維は全てポリエステルコードを用いた。ゴム補強用繊維処理剤キットの処理剤Bにおいて、ゴムラテックス(固形分)の含有量100部に対する、分子中に炭素-炭素二重結合を含む構造を有するブロックイソシアネート化合物(固形分)の含有量(表中、「BI/GL量」)と、上記式(2)における[X×2/Z-(Y×2/Z+Y×20/Z)]の値(表中、「EP-BI量」)と、繊維への接着性組成物の固形分付着量(付着率)も、表5及び表6に示す。
参考例2
水973.6部にデナコールEX-614を13.3部と、ネオコールPを0.7部添加し、均一に溶解した。次に、製造例3の水分散型ブロックイソシアネートを12.4部(固形分6.7部)添加し、均一に混合して、固形分濃度2.07%の前処理剤を得た。これとは別に、水384.7部にPYRATEX-LBを300.7部(固形分116.7部)と、ニポールLX-112を125.0部(固形分51.3部)添加し均一に混合してラテックス希釈液とした。一方、水126.5部に濃度10%水酸化ナトリウム水溶液を7.0部加えて混合し、スミカノール700Sを45.0部(固形分29.3部)添加して、均一に溶解してレゾルシン・ホルムアルデヒド初期縮合物溶液とした。次に、ラテックス希釈液にレゾルシン・ホルムアルデヒド初期縮合物溶液をゆっくりかきまぜながら加え、更にホルマリン(濃度37%水溶液)を11.1部添加し、均一に混合して、固形分濃度20.0%の後処理剤を得た。得られた前処理剤と後処理剤で、参考例2のゴム補強用繊維処理剤キットとした。ポリエステルコードへの加工条件は、実施例2-1と同様にして(処理剤Aに代えて前処理剤、処理剤Bに代えて後処理剤を使用)実施し、ゴム補強用繊維を得た。
実施例2-16、2-17、参考例3、4
ゴム補強用繊維処理剤に使用する原材料を表7に記載するもの及び量に代えた以外は実施例2-1あるいは参考例2と同様にして、実施例2-16、2-17、参考例3、4の各々のゴム補強用繊維処理剤キット及びゴム補強用繊維を得た。繊維はアラミドコード(1110dtex、二本撚り、表中「Ara」と表記)を用いた。ゴム補強用繊維処理剤キットの処理剤Bにおいて、ゴムラテックス(固形分)の含有量100部に対する、分子中に炭素-炭素二重結合を含む構造を有するブロックイソシアネート化合物(固形分)の含有量(表中、「BI/GL量」)と、上記式(2)における[X×2/Z-(Y×2/Z+Y×20/Z)]の値(表中、「EP-BI量」)と、繊維への接着性組成物の固形分付着量(付着率)も、表7に示す。
<ゴム製品の作製と評価>
得られた各々のゴム補強用繊維を用いて、実施例1-1と同様にしてゴム製品を作製し、実施例1-1と同様にして接着力とゴム付着量を評価した。結果を表5~7に示す。
Figure 2024019220000006
Figure 2024019220000007
Figure 2024019220000008
表1~7の結果より、実施例と比較例を対比すると、本発明のゴム補強用繊維処理剤あるいはゴム補強用繊維処理剤キットを用いて得られたゴム補強用繊維を含有するゴム製品は、ゴム補強用繊維とゴム組成物との間の接着力に優れ、ゴム補強用繊維とゴム組成物との界面の強靭さを反映するゴム付着量も多いことが分かる。

Claims (16)

  1. レゾルシン及びホルムアルデヒドを含まないゴム補強用繊維処理剤に用いる架橋剤組成物であって、分子中に、炭素-炭素二重結合を含む構造と、オキシエチレン基を有する活性水素基含有化合物に由来する構造を有するブロックイソシアネート化合物を含む架橋剤組成物。
  2. 前記オキシエチレン基を有する活性水素基含有化合物が、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ヘキサノール及びオクタノールから選ばれるアルコールにエチレンオキサイドを付加したポリエーテルモノオールである請求項1に記載の架橋剤組成物。
  3. 前記炭素-炭素二重結合を含む構造が、ポリブタジエン構造及びポリイソプレン構造から選ばれる構造である請求項1又は2に記載の架橋剤組成物。
  4. レゾルシン及びホルムアルデヒドを含まないゴム補強用繊維処理剤であって、ゴムラテックスと、請求項1に記載の架橋剤組成物と、エポキシ化合物を含有するゴム補強用繊維処理剤。
  5. 更に、分子中に炭素-炭素二重結合を含む構造を有さないブロックイソシアネート化合物を含有する請求項4に記載のゴム補強用繊維処理剤。
  6. 前記分子中に炭素-炭素二重結合を含む構造を有するブロックイソシアネート化合物の含有量が、前記ゴムラテックスの含有量100質量部に対し0.5~25質量部である請求項4又は5に記載のゴム補強用繊維処理剤。
  7. ゴム補強用繊維処理剤(固形分濃度Z質量%)に含まれるエポキシ基の量とブロックイソシアネート基の量が、下記式(1):
    -30≦(X-Y)×20/Z≦10 (1)
    [式中、
    :処理剤(1kg)に含まれるエポキシ基の量(mmol)
    :処理剤(1kg)に含まれるブロックイソシアネート基の量(mmol)]
    を満足する請求項4又は5に記載のゴム補強用繊維処理剤。
  8. ポリエステル、ナイロン及びアラミドのいずれかを含む繊維に、請求項4又は5に記載のゴム補強用繊維処理剤を付着させる処理を行う工程を有する、ゴム補強用繊維の製造方法。
  9. レゾルシン及びホルムアルデヒドを含まないゴム補強用繊維処理剤のキットであって、エポキシ化合物と、分子中に炭素-炭素二重結合を含む構造を有さないブロックイソシアネート化合物とを含有する処理剤1、及び、ゴムラテックスと、請求項1に記載の架橋剤組成物とを含有する処理剤2を含むゴム補強用繊維処理剤キット。
  10. 前記処理剤2において、前記分子中に炭素-炭素二重結合を含む構造を有するブロックイソシアネート化合物の含有量が、前記ゴムラテックスの含有量100質量部に対し0.5~20質量部である請求項9に記載のゴム補強用繊維処理剤キット。
  11. 前記処理剤1(固形分濃度Z質量%)と前記処理剤2(固形分濃度Z質量%)に含まれるエポキシ基の量とブロックイソシアネート基の量が、下記式(2):
    20≦[X×2/Z-(Y×2/Z+Y×20/Z)]≦70 (2)
    [式中、
    :前記処理剤1(1kg)に含まれるエポキシ基の量(mmol)
    :前記処理剤1(1kg)に含まれるブロックイソシアネート基の量(mmol)
    :前記処理剤2(1kg)に含まれるブロックイソシアネート基の量(mmol)]
    を満足する請求項9又は10に記載のゴム補強用繊維処理剤キット。
  12. 請求項9に記載のゴム補強用繊維処理剤キットを使用し、繊維に、前記処理剤1を含む加工液を付着させる処理を行い、その後、前記処理剤2を含む加工液を付着させる処理を行う工程を有する、ゴム補強用繊維の製造方法。
  13. 前記繊維が、ポリエステル、ナイロン及びアラミドのいずれかを含む請求項12に記載のゴム補強用繊維の製造方法。
  14. レゾルシン及びホルムアルデヒドを含まないゴム補強用繊維処理剤のキットであって、エポキシ化合物と、請求項1に記載の架橋剤組成物とを含有する処理剤3、及び、ゴムラテックスと、分子中に炭素-炭素二重結合を含む構造を有さないブロックイソシアネート化合物とを含有する処理剤4を含むゴム補強用繊維処理剤キット。
  15. 請求項14に記載のゴム補強用繊維処理剤キットを使用し、繊維に、前記処理剤3を含む加工液を付着させる処理を行い、その後、前記処理剤4を含む加工液を付着させる処理を行う工程を有する、ゴム補強用繊維の製造方法。
  16. 前記繊維が、ポリエステル、ナイロン及びアラミドのいずれかを含む請求項15に記載のゴム補強用繊維の製造方法。

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