JP2024007613A - スパッタリングターゲット材 - Google Patents

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裕一郎 塙
Yuichiro Hanawa
健志 木村
Kenji Kimura
竜一 荒川
Ryuichi Arakawa
伸介 伊藤
Shinsuke Ito
崇 笠島
Takashi Kasashima
正人 山崎
Masato Yamazaki
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Abstract

【課題】スパッタリングの材料として必要な強度を確保できるスパッタリングターゲット材を提供する。【解決手段】スパッタリングターゲット材は、組成式(KaNabLicM1d)e(NbfM2gM3h)O3+i(但し、元素M1はCa、Baのうち少なくとも1種であり、元素M2はTi、Zrのうち少なくとも1種であり、元素M3はFe、Co、Znのうち少なくとも1種であり、a+b+cはゼロではなく、a+b+c+d=1であり、eは0.80<c<1.10を満たし、fはゼロではなく、f+g+h=1であり、iは酸素の欠損あるいは過剰を示す値)で表されるニオブ酸アルカリ系ペロブスカイト型酸化物からなる主相と、M4-Ti-O系スピネル化合物(但し、元素M4は1価から4価の元素)からなる副相と、を含み、前記主相と前記副相との合計に対する前記副相の比率が2mol%以上12mol%以下である。【選択図】図1

Description

本明細書によって開示される技術は、スパッタリングターゲット材に関する。
圧電素子などを構成する圧電体の製造方法として、近年、スパッタリング法等の薄膜技術を応用した新たな手法が研究されている。スパッタリング法により圧電体を形成する際には、チャンバ内に、成膜材料となるスパッタリングターゲット材を配置するとともに、成膜の土台となる基板をスパッタリングターゲット材に対向させて配置する。チャンバ内にアルゴン等の不活性ガスを充満させ、スパッタリングターゲット材に高電圧をかけると、放電(プラズマ)が発生し、イオン化されたアルゴンがスパッタリングターゲット材の表面に衝突する。これによりスパッタリングターゲット材を構成する材料の原子が叩き出されて基板上に堆積され、スパッタリングターゲット材を基とした薄膜が形成される。
圧電体の材料として、従来、PZT(チタン酸ジルコン酸鉛)が広く利用されてきた。しかし、PZTは成分に鉛を含むために、環境負荷が問題視されており、近年、無鉛圧電セラミック素材の開発が進められている。無鉛圧電セラミック素材の有力候補の1つとして、ニオブ酸ナトリウムカリウムなどのアルカリニオブ酸化物がある(特許文献1参照)。
特開2020-183574号公報
アルカリニオブ酸化物から構成されるスパッタリングターゲット材は、優れた圧電特性を有する材料であるが、強度が低く脆いため、表面にパーティクルが発生しやすく、スパッタリング中にこのパーティクルに由来する異常放電が発生しやすいこと、成膜チャンバ内に保持される際に欠けが生じやすいこと、スパッタリングにおいて必要以上のスパッタリングターゲット材が消費されてしまい、交換頻度が高くなること等が問題となっていた。また、スパッタリングターゲット材は、原料となる数種の酸化物の粉末を混合し、焼結することにより形成されるが、未反応の原料酸化物を少量含んでいる。このため、保管中にこの未反応の原料酸化物が空気中の水分と反応し、含まれるアルカリ成分が溶出してしまうために、さらに脆くなり、スパッタリングターゲット材としての使用に適さなくなってしまう場合があった。
本明細書によって開示されるスパッタリングターゲット材は、組成式(KNaLiM1(NbM2M3)O3+i(但し、元素M1はCa、Baのうち少なくとも1種であり、元素M2はTi、Zrのうち少なくとも1種であり、元素M3はFe、Co、Znのうち少なくとも1種であり、a+b+cはゼロではなく、a+b+c+d=1であり、eは0.80<c<1.10を満たし、fはゼロではなく、f+g+h=1であり、iは酸素の欠損あるいは過剰を示す値)で表されるニオブ酸アルカリ系ペロブスカイト型酸化物からなる主相と、M4-Ti-O系スピネル化合物(但し、元素M4は1価から4価の元素)からなる副相と、を含み、前記主相と前記副相との合計に対する前記副相の比率が2mol%以上12mol%以下である。
本明細書によって開示されるスパッタリングターゲット材によれば、スパッタリングの材料として必要な強度が確保される。
図1は、試験例1において、焼結体からのK、Na、Ca、Li、Nbの溶出量を示すグラフである。 図2は、試験例2において、焼結体中の副相の比率と、圧電定数との関係を示すグラフである。 図3は、試験例3において、焼結体中の主相の平均粒子径と、焼結体の抗折力との関係を示すグラフである。 図4は、試験例3において、焼結体の抗折力と、圧電定数との関係を示すグラフである。
[実施形態の概要]
(1)本明細書によって開示されるスパッタリングターゲット材は、組成式(KNaLiM1(NbM2M3)O3+i(但し、元素M1はCa、Baのうち少なくとも1種であり、元素M2はTi、Zrのうち少なくとも1種であり、元素M3はFe、Co、Znのうち少なくとも1種であり、a+b+cはゼロではなく、a+b+c+d=1であり、eは0.80<c<1.10を満たし、fはゼロではなく、f+g+h=1であり、iは酸素の欠損あるいは過剰を示す値)で表されるニオブ酸アルカリ系ペロブスカイト型酸化物からなる主相と、M4-Ti-O系スピネル化合物(但し、元素M4は1価から4価の元素)からなる副相と、を含み、前記主相と前記副相との合計に対する前記副相の比率が2mol%以上12mol%以下である。
上記の構成によれば、副相が主相の結晶の間に形成される空隙を埋めることで、スパッタリングターゲット材が空孔率の低い緻密な構造となり、強度が向上する。また、副相は、その結晶構造の内部に、スパッタリングターゲット材に含まれる未反応の原料酸化物に由来するアルカリ成分の原子を取り込むことができる。これにより、アルカリ成分の溶出が抑制され、スパッタリングターゲット材の強度の低下が抑制される。主相と副相との合計に対する副相の比率が2mol%以上であれば、主相の結晶の間に形成される空隙が充分に埋められるとともに、アルカリ成分の溶出阻止効果が十分に発揮され、スパッタリングターゲット材として必要な強度が確保される。しかし、副相は圧電特性を有しないため、スパッタリングターゲット材が副相を過剰に含有していると、圧電特性が低下する。主相と副相との合計に対する副相の比率が12mol%以下であれば、必要な圧電特性を確保できる。
(2)上記(1)に記載のスパッタリングターゲット材において、前記M4がLi、Fe、Co、Zn、Zrのうち少なくとも1種であっても構わない。
(3)上記(1)または(2)に記載のスパッタリングターゲット材において、前記主相の平均粒子径が4.4μm以下であることが好ましい。また、上記(1)または(2)に記載のスパッタリングターゲット材において、前記主相の平均粒子径が1.4μm以上であることが好ましい。
主相を構成する結晶の粒子径がある程度大きい方が、高い圧電特性を得ることができるが、強度は低下する。平均粒子径が4.4μm以下であればスパッタリングターゲット材として必要な強度を確保できる。平均粒子径が1.4μm以上であれば、圧電体として必要な圧電特性を確保できる。
[実施形態の詳細]
本明細書によって開示される技術の具体例を、以下に図面を参照しつつ説明する。なお、本発明はこれらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
<実施形態>
[スパッタリングターゲット材の構成]
本実施形態のスパッタリングターゲット材は、ニオブ酸アルカリ系ペロブスカイト型酸化物からなる主相と、M4-Ti-O系スピネル化合物からなる副相と、を含む。
主相を構成するニオブ酸アルカリ系ペロブスカイト型酸化物は、以下の組成式(1)で表され、圧電特性を示す。
(KNaLiM1(NbM2M3)O3+i …(1)
上記組成式(1)において、元素M1は、Ca(カルシウム)、Ba(バリウム)のうち少なくとも1種であり、元素M2は、Ti(チタン)、Zr(ジルコニウム)のうち少なくとも1種であり、元素M3はFe(鉄)、Co(コバルト)、Zn(亜鉛)のうち少なくとも1種である。K(カリウム)、Na(ナトリウム)、Li(リチウム)、および元素M1(Ca、Ba)は、ニオブ酸アルカリ系ペロブスカイト酸化物のAサイトに配置され、Nb(ニオブ)、元素M2(Ti、Zr)、および元素M3(Fe、Co、Zn)は、ニオブ酸アルカリ系ペロブスカイト酸化物のBサイトに配置される。
上記組成式(1)における係数a~iの値としては、ペロブスカイト構造が成立する値の組み合わせのうちで、無鉛圧電磁器組成物の電気的特性又は圧電特性(特に圧電定数d33)の観点で好ましい値が選択される。
具体的には、係数a、b、cは、0≦a<1、0≦b<1、0≦c<1であり、a+b+c=0(すなわち、アルカリ金属をいずれも含まない組成物)は除外される。係数dはゼロであっても良い。係数a、b、c、dは、a+b+c+d=1を満たす。KとNaの係数a,bは、典型的には0<a≦0.6および0<b≦0.6である。Liの係数cは、0<c≦0.2が好ましく、0<c≦0.1がさらに好ましい。元素M1の係数dは、0<d≦0.2が好ましく、0<d≦0.1がさらに好ましい。
Aサイト全体に対する係数eは、0.80<e<1.10を満たし、0.84≦e≦1.08が好ましく、0.88≦e≦1.07がさらに好ましい。
係数f、g、hは、0<f<1、0≦g<1、0≦h<1、f+g+h=1を満たし、f=0(すなわち、Nbを含まない組成物)は除外される。
酸素の係数3+iのうち、係数iは、通常3である酸素の係数に対し、酸素の欠損あるいは過剰を示す正または負の値である。酸素の係数3+iは、主相がペロブスカイト型酸化物を構成する値を取り得る。係数iの典型的な値は、i=0であり、0≦i≦0.1が好ましい。なお、係数iの値は、主相の組成の電気的な中性条件から算出することができる。但し、主相の組成としては、電気的な中性条件からやや外れた組成も許容できる。
上記組成式(1)で表されるニオブ酸アルカリ系ペロブスカイト型酸化物のうち、K、Na、およびNbを主な金属成分とする酸化物は、「KNN」または「KNN材」と称される。この酸化物を用いることにより、圧電特性と、電気特性と、絶縁性と、高温耐久性とに優れ、また、-50℃~+150℃の間において急激な特性の変動がない無鉛圧電磁気組成物を得ることができる。
副相を構成するM4-Ti-O系スピネル化合物は、正スピネル型結晶構造を有する正スピネル化合物であってもよく、逆スピネル型結晶構造を有する逆スピネル化合物であっても構わない。
M4-Ti-O系スピネル化合物としては、下記組成式(2)で表されるものが好ましい。
M4TiO …(2)
元素M4は1価から4価の金属元素であり、Li、Mg(マグネシウム)、Al(アルミニウム)、Sc(スカンジウム)、Cr(クロム)、Mn(マンガン)、Fe、Co、Ni(ニッケル)、Zn、Ga(ガリウム)、Y(イットリウム)、Zr,Sn(スズ),Sb(アンチモン)、Si(ケイ素)、Hf(ハフニウム)のうちの少なくとも1種である。元素M4は、特に、Li、Fe、Co、Zn、Zrのうち少なくとも1種であることが好ましい。なお、元素M4としてLiを含む場合には、副相がスピネル化合物を形成するために、上記金属元素のうちのLi以外の他の1種以上の金属元素がLiとともに含まれることが好ましい。
係数x,yは、Tiの含有量を1としたときの相対値である。副相がスピネル化合物を形成するために、係数xは、0.5≦x≦5.0を満たすことが好ましい。また、係数yは、スピネル化合物を形成する任意の値であるが、典型的には2≦y≦8を満たすことが好ましい。
副相は、圧電特性を有していないが、主相と混在することによって圧電磁器組成物の焼結性を向上させ、その構造安定性を向上させると共に、圧電特性を向上させる。具体的には、副相は、主相の微細な結晶の間に形成される空孔を充填する。この結果、主相の微細な結晶同士が副相によって結合されるので、スパッタリングターゲット材の構造安定性が向上し、圧電特性が向上するものと推定される。また、副相は、-50℃から+150℃の間に相転移点を生じさせないようにする働きにも寄与していると推定される。
また、副相が主相の結晶の間に形成される空隙を埋めることで、スパッタリングターゲット材が空孔率の低い緻密な構造となり、強度が向上する。さらに、副相は、その結晶構造の内部に、スパッタリングターゲット材に含まれる未反応の原料酸化物に由来するアルカリ成分(アルカリ金属、アルカリ土類金属)の原子を取り込むことができる。これにより、スパッタリングターゲット材からアルカリ成分が溶出してしまうことが抑制され、スパッタリングターゲット材の強度の低下が抑制される。
主相と副相との合計に対する副相の比率は、2mol%以上12mol%以下である。主相と副相との合計に対する副相の比率が2mol%以上であれば、主相の結晶の間に形成される空隙が充分に埋められるとともに、アルカリ成分の溶出阻止効果が十分に発揮され、スパッタリングターゲット材として必要な強度が確保される。しかし、副相は圧電特性を有しないため、副相が過剰に含まれていると、スパッタリングターゲット材の圧電特性が低下する。主相と副相との合計に対する副相の比率が12mol%以下であれば、必要な圧電特性を確保できる。
主相の平均粒子径は、4.4μm以下であることが好ましい。また、主相の平均粒子径は、1.4μm以上であることが好ましい。
主相を構成する結晶粒子の粒子径がある程度大きい方が、高い圧電特性を得ることができるが、強度が低く脆くなり、スパッタリングターゲット材としては適さないものとなってしまうことが懸念される。結晶粒子の平均粒子径が4.4μm以下であればスパッタリングターゲット材として必要な強度を確保できる。結晶粒子の平均粒子径が1.4μm以上であれば、圧電体として必要な圧電特性を確保できる。
[スパッタリングターゲット材の製造方法]
上記の構成のスパッタリングターゲット材の製造方法の一例を、以下に説明する。
まず、主相の原料粉末のうちから必要なものを選択し、目的とする組成となるように秤量する。原料粉末は、主相に含まれる各元素の酸化物、炭酸塩、水酸化物であってもよい。これらの原料粉末にエタノールを加え、ボールミルにて好ましくは15時間以上湿式混合してスラリーを得る。得られたスラリーを乾燥して得られた混合粉末を、例えば大気雰囲気下600~1200℃で1~10時間仮焼して主相仮焼物を得る。
また、副相の原料粉末のうちから必要なものを選択し、目的とする組成となるように秤量する。原料粉末は、副相に含まれる各元素の酸化物、炭酸塩、水酸化物であってもよい。そして、これらの原料粉末にエタノールを加えてボールミルにて好ましくは15時間以上湿式混合してスラリーを得る。得られたスラリーを乾燥して得られた混合粉末を、例えば大気雰囲気下600~1200℃で1~10時間仮焼して副相仮焼物を得る。
次に、主相仮焼物と副相仮焼物とをそれぞれ秤量し、ボールミルにて、分散剤、バインダ及びエタノールを加えて粉砕・混合してスラリーとする。また、必要に応じて、主相または副相の原料粉末のうち、上記の主相仮焼物及び副相仮焼物を得る工程で選択されなかった原料粉末を秤量してスラリーに添加してもよい。なお、このスラリーを、もう一度仮焼して粉砕、混合しても良い。得られたスラリーを乾燥し、造粒し、例えば圧力150MPaで一軸プレスを行うことにより、所望の形状に成形する。得られた成形体を、例えば大気雰囲気下500℃~800℃で2~10時間保持し、バインダを脱脂する脱脂工程を行う。脱脂後の成形体を、例えば大気雰囲気下900~1400℃で1~100時間保持して焼成することによってスパッタリングターゲット材を得る。得られたスパッタリングターゲット材を研磨加工した後、表面に、例えばスパッタリング法により電極を形成し、分極処理を行ってスパッタリングに供することができる。
なお、上述した製造方法は一例であり、スパッタリングターゲット材を製造するための他の種々の工程や処理条件を利用可能である。例えば、主相と副相の仮焼物を予め別個に生成した後に両者の粉末を混合し焼成する代わりに、最終的な無鉛圧電磁器組成物の組成に応じた量比で原料を混合し、焼成してもよい。但し、主相と副相の仮焼物を予め別個に生成した後に混合する方法によれば、主相と副相の組成をより厳密に管理し易いので、歩留まりを高めることが可能である。
<試験例1>
主相と副相との合計に対する副相の比率と、アルカリ成分の溶出量との関係を調べるために、以下の試験を行った。
1.試料の作製
[試験例1-1]
(1)主相仮焼物の調製
主相の原料として、KCO粉末、NaCO粉末、LiCO粉末、CaCO粉末、BaCO粉末、Nb粉末、TiO粉末、ZrO粉末の各々を、目的のニオブ酸アルカリ系ペロブスカイト型酸化物の組成式(下記式(3)で表される)中の係数の値に応じて秤量した。
(K0.35Na0.53Li0.02Ca0.04Ba0.061.02(Nb0.91Ti0.03Zr0.06)O3.02 …(3)
これらの原料粉末にエタノールを加え、ボールミルにて15時間以上湿式混合してスラリーを得た。得られたスラリーを乾燥して得られた混合粉末を、大気雰囲気下600~1200℃で1~10時間仮焼して主相仮焼物を得た。
(2)副相仮焼物の調製
副相の原料として、Fe粉末、CoO粉末、ZnO粉末、TiO粉末の各々を、目的のスピネル化合物の組成式(下記式(4)で表される)中の係数の値に応じて秤量した。
(Co0.59Fe0.59Zn0.82)TiO …(4)
これらの原料粉末にエタノールを加え、ボールミルにて15時間以上湿式混合してスラリーを得た。得られたスラリーを乾燥して得られた混合粉末を、大気雰囲気下600~1200℃で1~10時間仮焼して副相仮焼物を得た。
(3)本焼成
次に、主相仮焼物と副相仮焼物とを、目的とする焼結体中の主相と副相との合計に対する副相の比率が2mol%となるように秤量し、ボールミルにて、分散剤、バインダ及びエタノールを加えて粉砕・混合してスラリーとした。得られたスラリーを乾燥し、造粒し、φ70.0~96.0mmの金型を用いて圧力150MPaで一軸プレスを行うことにより、所望の形状に成形した。得られた成形体を、大気雰囲気下500℃~800℃で2~10時間保持し、バインダを脱脂する脱脂工程を行った。脱脂後の成形体を、大気雰囲気下900~1400℃で1~100時間保持して焼成することによって焼結体を得た。
得られた焼結体に対して、外周研磨、平面研磨を行い、φ50~76mm、厚み3mmに加工して試料とした。
XRD(X線回折法)による構造解析を行い、試料中の副相の有無を確認し、リートベルト解析を行って主相と副相との合計に対する副相の比率を確認した。XRDの測定機器としては微小X線回折装置を用い、CuKα線により2θ=20°~90°の範囲で解析を行った。
2.試験方法
JIS R 3503に準じて、アルカリ溶出試験を行った。試料2.0gをはかり採り、50mlの水を加えて100℃で60分加熱後、ICP-AES(誘導結合プラズマ発光分光分析法)によって溶出したK、Na、Ca、Li、Nbを定量した。
[試験例1-2]
本焼成において、主相仮焼物と副相仮焼物とを、目的とする焼結体中の主相と副相との合計に対する副相の比率が1mol%となるように秤量した他は、上記試験例1-1と同様にして試料を作製し、試験を行った。
[試験例1-3]
本焼成において、副相仮焼物を用いず、主相仮焼物のみを用いた他は、上記試験例1-1と同様にして試料を作製し、試験を行った。
[結果]
各試験例について、試料からのK、Na、Ca、Li、Nbの溶出量を表1および図1に示した。
Figure 2024007613000002
副相が含まれない試験例1-3では、アルカリ金属であるK、Na、Liについては合計で390ppm以上の溶出が確認され、アルカリ土類金属であるCaも少量溶出していた。また、Nbについても247ppmの溶出が確認された。副相を1mol%含む試験例1-2では、K、Na、Liの溶出量は合計で58ppm程度に低下し、Nbの溶出量も0.76ppmに低下した。副相を2mol%含む試験例1-1では、K、Na、Liの溶出量は合計で0.1ppm程度であり、Ca、Li、Nbの溶出量は検出限界以下であった。このように、副相を2mol%含む場合には、試料からのアルカリ成分およびニオブの流出がほとんどないことが確認された。
<試験例2>
主相と副相との合計に対する副相の比率と、圧電特性との関係を調べるために、以下の試験を行った。
[試験例2-1]
1.試料の作製
試験例1-1と同様にして、主相と副相との合計に対する副相の比率が2mol%となるように試料を作製し、得られた試料について副相の比率を確認した。
2.試験方法
試料の表面にスパッタリング法により電極を形成した後、分極処理を行い、D33メータを用いて圧電定数d33mを測定した。
[試験例2-2~2-7]
本焼成において、主相仮焼物と副相仮焼物とを、目的とする焼結体中の主相と副相との合計に対する副相の比率が3mol%、4mol%、5mol%、10mol%、12mol%、15mol%となるように、それぞれ秤量した。その他は上記試験例2-1と同様にして試料を作製し、試験を行った。
[結果]
各試験例における、副相の比率と圧電定数の測定値とを表2に示した。また、副相の比率と圧電定数の値との関係を示すグラフを図2に示した。
Figure 2024007613000003
副相の比率が2mol%以上4.2mol%以下の範囲では、副相の比率が増えるにしたがって圧電特性が上がり、副相の比率が4.2mol%の場合に最も圧電特性が高かった。副相が主相の結晶の間に形成される空孔を充填することで、構造安定性が高まったためであると考えらえる。しかし、副相の比率が4.2mol%を超えると、副相の比率が増えるにしたがって圧電特性が低下し、副相の比率が15mol%の場合に圧電特性が0となった。副相の比率が2mol%以上12mol%以下の範囲で、圧電定数が60pC/N以上であり、圧電材料として使用するために充分な圧電特性が得られることが確認された。
<試験例3>
主相の結晶粒子の平均粒子径と強度との関係を調べるために、以下の試験を行った。
[試験例3-1]
1.試料の作製
主相仮焼物の調製工程において、焼成温度を調製することにより、主相となるニオブ酸アルカリ系ペロブスカイト型酸化物の結晶粒子の平均粒子径が4mmとなるように調整した。また、本焼成の工程において、主相仮焼物と副相仮焼物とを、目的とする焼結体中の主相と副相との合計に対する副相の比率が3mol%となるように秤量した。その他は、試験例1-1と同様にして試料を作製した。
2.試験方法
(1)平均粒子径
試料の表面に鏡面研磨を行った後、反射型電子顕微鏡(日本電子株式会社製 JSM-6390LA)を用いて、65μm×45μmの視野範囲で観察を行った。画像解析ソフト(PhotoRuler)を用いて、視野範囲に対角線を引き、対角線上に位置する粒子のうち主相に含まれる結晶粒子の粒子径を測定し、測定値の平均値を平均粒子径とした。
(2)抗折強度
得られた試料について、JIS R 1601に準じて3点曲げ試験を行って抗折力を測定した。
(3)圧電定数d33m
得られた試料について、試験例2-1と同様にして圧電定数を測定した。
[試験例3-2~3-4]
焼成温度を調製することにより、ニオブ酸アルカリ系ペロブスカイト型酸化物の結晶粒子の平均粒子径が3mm、2mm、1mmとなるように調整した他は、試験例3-1と同様にして試料を作製し、試験を行った。
3.結果
各試験例について、主相の平均粒子径と抗折力との関係を示すグラフを図3に、抗折力と圧電定数との関係を示すグラフを図4に、それぞれ示した。
図3および図4に示すように、主相に含まれる結晶の平均粒子径と抗折力とは概ね反比例の関係にあり、抗折力と圧電定数とは概ね反比例の関係にあると考えられる。すなわち、主相に含まれる結晶の平均粒子径が大きいほど強度は低下し、圧電特性は向上すると言える。主相に含まれる結晶の平均粒子径が1.4μm以上4.4μm以下の範囲では、スパッタリングターゲット材としての使用に耐える抗折力と圧電特性とを確保できることが確認された。

Claims (4)

  1. 組成式(KNaLiM1(NbM2M3)O3+i(但し、元素M1はCa、Baのうち少なくとも1種であり、元素M2はTi、Zrのうち少なくとも1種であり、元素M3はFe、Co、Znのうち少なくとも1種であり、a+b+cはゼロではなく、a+b+c+d=1であり、eは0.80<c<1.10を満たし、fはゼロではなく、f+g+h=1であり、iは酸素の欠損あるいは過剰を示す値)で表されるニオブ酸アルカリ系ペロブスカイト型酸化物からなる主相と、
    M4-Ti-O系スピネル化合物(但し、元素M4は1価から4価の元素)からなる副相と、を含み、
    前記主相と前記副相との合計に対する前記副相の比率が2mol%以上12mol%以下である、スパッタリングターゲット材。
  2. 前記M4がLi、Fe、Co、Zn、Zrのうち少なくとも1種である、請求項1に記載のスパッタリングターゲット材。
  3. 前記主相の平均粒子径が4.4μm以下である、請求項1または請求項2に記載のスパッタリングターゲット材。
  4. 前記主相の平均粒子径が1.4μm以上である、請求項1または請求項2に記載のスパッタリングターゲット材。
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