JP2024005014A - 切削工具 - Google Patents

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望 月原
Nozomi Tsukihara
アノンサック パサート
Paseuth Anongsack
治世 福井
Haruyo Fukui
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Abstract

Figure 2024005014000001
【課題】長い工具寿命を有する切削工具を提供する。
【解決手段】基材と、前記基材上に配置された被膜と、を備える切削工具であって、前記切削工具は、すくい面、前記すくい面に連なる逃げ面、および、前記すくい面と前記逃げ面との境界部分からなる切れ刃を含み、前記被膜は、TiAlCeN層を含み、前記TiAlCeN層は、前記すくい面または前記逃げ面に位置する第1のTiAlCeN層と、前記切れ刃に位置する第2のTiAlCeN層と、を有し、前記第1のTiAlCeN層の組成は、Tix1Aly1Cez1Nであり、前記第2のTiAlCeN層の組成は、Tix2Aly2Cez2Nであり、ここで、x1+y1+z1=1、x2+y2+z2=1、0.300<y1≦0.700、0.300<y2≦0.700、0.010<z1≦0.100、0<z2≦0.090、および、z1-z2≧0.010である。
【選択図】図3

Description

本開示は、切削工具に関する。
従来、切削工具の性能向上のため、超硬合金、立方晶窒化硼素焼結体等からなる基材の表面を被覆する被膜の開発が進められている。例えば、特許文献1には、工具基体の表面に、組成式:(Ti1-x-yAl)N(該組成式において、Mは、周期表の第6族元素、Y、Si、La、Ceの少なくとも一つ)で表される複合窒化物皮膜を含む切削工具が開示されている。
国際公開第2020/166466号
特許文献1において、例えば、Mとしてセリウム(Ce)を用いたTiAlCeN膜は、高い硬度を有するが、靱性が低下する傾向にある。該TiAlCeN膜を、切れ刃への負荷が大きい加工条件(例えば鋼の断続加工)に用いると、切れ刃の欠損が生じやすく、工具寿命が低下する傾向がある。
そこで、本開示は、長い工具寿命を有する切削工具を提供することを目的とする。
本開示の切削工具は、
基材と、前記基材上に配置された被膜と、を備える切削工具であって、
前記切削工具は、
すくい面、
前記すくい面に連なる逃げ面、および、
前記すくい面と前記逃げ面との境界部分からなる切れ刃を含み、
前記被膜は、TiAlCeN層を含み、
前記TiAlCeN層は、
前記すくい面または前記逃げ面に位置する第1のTiAlCeN層と、
前記切れ刃に位置する第2のTiAlCeN層と、を有し、
前記第1のTiAlCeN層の組成は、Tix1Aly1Cez1Nであり、
前記第2のTiAlCeN層の組成は、Tix2Aly2Cez2Nであり、
ここで、
x1+y1+z1=1、
x2+y2+z2=1、
0.300<y1≦0.700、
0.300<y2≦0.700、
0.010<z1≦0.100、
0<z2≦0.090、および、
z1-z2≧0.010である、切削工具である。
本開示によれば、長い工具寿命を有する切削工具を提供することが可能となる。
図1は、本開示の一実施形態に係る切削工具の一例を示す斜視図である。 図2は、図1の切削工具の断面図であり、図1のII-II線矢視方向から見た断面図である。 図3は、図1の斜線部分を示す図であり、III領域を示す断面斜視図である。 図4は、図2に示す断面図において、切れ刃にホーニング加工が施されている場合の部分図である。 図5は、図3に示す断面斜視図において、切れ刃にホーニング加工が施されている場合の断面斜視図である。 図6は、図2に示す断面図において、切れ刃にネガランド加工が施されている場合の部分図である。 図7は、図3に示す断面斜視図において、切れ刃にネガランド加工が施されている場合の断面斜視図である。 図8は、図2に示す断面図において、切れ刃にホーニング加工とネガランド加工とが施されている場合の部分図である。 図9は、図3に示す断面斜視図において、切れ刃にホーニング加工とネガランド加工とが施されている場合の断面斜視図である。 図10は、本開示の一実施形態に係る切削工具の被膜の一例を示す模式的断面図である。 図11は、切削工具の切断位置を説明するための図である。 図12は、切削工具の切断位置を説明するための図である。 図13は、TiAlCeN層の組成の測定における測定視野の設定方法を説明するための図である。 図14は、本開示の一実施形態に係る切削工具の被膜の一例を示す模式的断面図である。 図15は、成膜装置のチャンバ内のターゲット材と、基材と、遮蔽材との位置関係の一例を示す図である。 図16は、成膜装置のチャンバ内のターゲット材と、基材と、遮蔽材との位置関係の一例を示す図である。
[本開示の実施形態の説明]
最初に本開示の実施態様を列記して説明する。
(1)本開示の切削工具は、
基材と、前記基材上に配置された被膜と、を備える切削工具であって、
前記切削工具は、
すくい面、
前記すくい面に連なる逃げ面、および、
前記すくい面と前記逃げ面との境界部分からなる切れ刃を含み、
前記被膜は、TiAlCeN層を含み、
前記TiAlCeN層は、
前記すくい面または前記逃げ面に位置する第1のTiAlCeN層と、
前記切れ刃に位置する第2のTiAlCeN層と、を有し、
前記第1のTiAlCeN層の組成は、Tix1Aly1Cez1Nであり、
前記第2のTiAlCeN層の組成は、Tix2Aly2Cez2Nであり、
ここで、
x1+y1+z1=1、
x2+y2+z2=1、
0.300<y1≦0.700、
0.300<y2≦0.700、
0.010<z1≦0.100、
0<z2≦0.090、および、
z1-z2≧0.010である、切削工具である。
本開示によれば、長い工具寿命を有する切削工具を提供することが可能となる。
(2)上記(1)において、前記TiAlCeN層の厚さは、0.5μm以上15μm以下であることが好ましい。これによると、工具寿命が更に向上する。
(3)上記(1)または(2)において、前記被膜は、さらに第1層を含み、
前記第1層は、
周期表の第4族元素、第5族元素、第6族元素、アルミニウムおよび珪素からなる第1群より選ばれる少なくとも1種の元素からなる、または、
前記第1群より選ばれる少なくとも1種の元素と、炭素、窒素、酸素および硼素からなる第2群より選ばれる少なくとも1種の元素と、からなる第1化合物からなることが好ましい。
これによると、工具寿命が更に向上する。
(4)上記(3)において、前記第1群は、チタン、クロム、アルミニウムおよび珪素からなることが好ましい。これによると、工具寿命が更に向上する。
(5)上記(1)から(4)のいずれかにおいて、前記被膜の厚さは、0.5μm以上15μm以下であることが好ましい。これによると、工具寿命が更に向上する。
(6)上記(3)または(4)において、前記被膜は、前記TiAlCeN層と前記第1層とが交互に積層された多層構造を含むことが好ましい。これによると、工具寿命が更に向上する。
[本開示の実施形態の詳細]
本開示の切削工具の具体例を、以下に図面を参照しつつ説明する。本開示の図面において、同一の参照符号は、同一部分または相当部分を表すものである。また、長さ、幅、厚さ、深さなどの寸法関係は図面の明瞭化と簡略化のために適宜変更されており、必ずしも実際の寸法関係を表すものではない。
本明細書において「A~B」という形式の表記は、範囲の上限下限(すなわちA以上B以下)を意味し、Aにおいて単位の記載がなく、Bにおいてのみ単位が記載されている場合、Aの単位とBの単位とは同じである。
本明細書において化合物などを化学式で表す場合、原子比を特に限定しないときは従来公知のあらゆる原子比を含むものとし、必ずしも化学量論的範囲のもののみに限定されるべきではない。たとえば「TiCN」と記載されている場合、TiCNを構成する原子数の比は、従来公知のあらゆる原子比が含まれる。
本開示において、数値範囲下限および上限として、それぞれ1つ以上の数値が記載されている場合は、下限に記載されている任意の1つの数値と、上限に記載されている任意の1つの数値との組み合わせも開示されているものとする。例えば、下限として、a1以上、b1以上、c1以上が記載され、上限としてa2以下、b2以下、c2以下が記載されている場合は、a1以上a2以下、a1以上b2以下、a1以上c2以下、b1以上a2以下、b1以上b2以下、b1以上c2以下、c1以上a2以下、c1以上b2以下、c1以上c2以下が開示されているものとする。
まず、本発明者らは、長い工具寿命を有する切削工具を得るために、切れ刃への負荷が大きい加工条件における従来の工具の損傷形態について検討した。このような加工条件では、切れ刃に衝撃が加わるため、切れ刃の微小チッピングが生じやすい。また、すくい面では熱的摩耗が生じやすく、逃げ面では切りくずの接触により機械的摩耗が生じやすい。
上記の検討から、切削工具が長い工具寿命を有するためには、切れ刃においては優れた耐欠損性を有し、かつ、すくい面または逃げ面においては優れた耐摩耗性を有することが重要であると推察される。一方、耐欠損性と耐摩耗性とは相反する特性であるため、同一の被膜中で、耐欠損性および耐摩耗性を向上させることは困難であった。
本発明者らは、鋭意検討の結果、切削工具の切れ刃と、すくい面または逃げ面とにおいて、被膜の組成を変化させることにより、切れ刃における耐欠損性と、すくい面または逃げ面における耐摩耗性とをバランス良く向上させることにより、切れ刃への負荷が大きい加工条件においても、長い工具寿命を有する切削工具を得た。以下、本発明の一実施形態(以下「本実施形態」とも記す)について説明するが、本実施形態はこれらに限定されるものではない。
[実施形態1:切削工具(1)]
本開示の一実施形態の切削工具は、
基材と、前記基材上に配置された被膜と、を備える切削工具であって、
該切削工具は、
すくい面、
該すくい面に連なる逃げ面、および、
該すくい面と該逃げ面との境界部分からなる切れ刃を含み、
該被膜は、TiAlCeN層を含み、
該TiAlCeN層は、
該すくい面または該逃げ面に位置する第1のTiAlCeN層と、
該切れ刃に位置する第2のTiAlCeN層と、を有し、
該第1のTiAlCeN層の組成は、Tix1Aly1Cez1Nであり、
該第2のTiAlCeN層の組成は、Tix2Aly2Cez2Nであり、
ここで、
x1+y1+z1=1、
x2+y2+z2=1、
0.300<y1≦0.700、
0.300<y2≦0.700、
0.010<z1≦0.100、
0<z2≦0.090、および、
z1-z2≧0.010である、切削工具である。
本開示の切削工具は、切れ刃への負荷が大きい加工条件においても、長い工具寿命を有することができる。その理由は以下(i)~(iii)の通りと推察される。
(i)本実施形態の切削工具において、すくい面または逃げ面に位置する第1のTiAlCeN層の組成は、Tix1Aly1Cez1Nであり、ここで、x1+y1+z1=1、0.300<y1≦0.700、及び、0.010<z1≦0.100である。すなわち、第1のTiAlCeN層は、チタン(Ti)とアルミニウム(Al)とセリウム(Ce)の原子数の合計に対してAlを30原子%超70原子%以下含み、かつ、Ceを1.0原子%超10.0原子%以下含む。これにより、第1のTiAlCeN層は、優れた耐熱性および耐摩耗性を有することができる。よって、第1のTiAlCeN層がすくい面に位置する場合は、第1のTiAlCeN層の優れた耐熱性により、基材の塑性変形および被膜の酸化が抑制され、すくい面の熱的摩耗が抑制される。また、第1のTiAlCeN層が逃げ面に位置する場合は、第1のTiAlCeN層の優れた耐摩耗性により逃げ面の機械的摩耗が抑制され、また、第1のTiAlCeN層の優れた耐熱性により熱亀裂の進展が抑制される。
(ii)本実施形態の切削工具において、第1のTiAlCeN層におけるTiとAlとCeの原子数の合計に対するCeの原子数の割合z1と、第2のTiAlCeN層におけるTiとAlとCeの原子数の合計に対するCeの原子数の割合z2とは、z1-z2≧0.010の関係を満たす。このため、第2のTiAlCeN層は、第1のTiAlCeN層よりも高い靱性を有する。よって、第2のTiAlCeN層は切れ刃における微小チッピングの発生を抑制することができる。更に、切れ刃を起点として発生する熱亀裂の進展を抑制することができる。
(iii)上記の通り、本実施形態の切削工具は、すくい面または逃げ面における耐摩耗性と、切れ刃における耐欠損性とがバランス良く向上している。よって、本開示の切削工具は、切れ刃への負荷が大きい加工条件においても、長い工具寿命を有することができる。
<切削工具の構造>
図1に示されるように、本実施形態の切削工具1は、上面、下面および四つの側面を含む表面を有しており、全体として、上下方向にやや薄い四角柱形状である。また、切削工具1には、上下面を貫通する貫通孔が形成されており、切削工具1の4つの側面の境界部分においては、隣り合う側面同士が円弧面で繋がれている。
本実施形態の切削工具1では、上面および下面がすくい面11を成し、4つの側面(およびこれらを繋ぐ円弧面)が逃げ面12を成す。また、すくい面11と逃げ面12の境界部分が切れ刃13として機能する。換言すれば、本実施形態の切削工具1の表面(上面、下面、四つの側面、これらの側面を繋ぐ円弧面、および貫通孔の内周面)は、すくい面11、該すくい面に連なる逃げ面12、および、すくい面11と逃げ面12との境界部分からなる切れ刃13を含む。
すくい面11および逃げ面12の境界部分、すなわち切れ刃13、とは、「すくい面11と逃げ面12との境界を成す稜線Eと、すくい面11および逃げ面12のうち稜線E近傍となる部分と、を併せた部分」を意味する。「すくい面11および逃げ面12のうち稜線E近傍となる部分」とは、切削工具1の切れ刃13の形状によって決定される。以下に、切削工具1が、シャープエッジ形状の工具、ホーニング加工が施されたホーニング形状の工具、およびネガランド加工が施されたネガランド形状の工具の場合について説明する。
図2および図3に、シャープエッジ形状の切削工具1を示す。このようなシャープエッジ形状の切削工具1において、「すくい面11および逃げ面12のうち稜線E近傍となる部分」は、稜線Eからの距離(直線距離)Dが、50μm以下の領域(図3において、点ハッチングが施される領域)と定義される。したがって、シャープエッジ形状の切削工具1における切れ刃13とは、図3において点ハッチングが施される領域に対応する部分となる。
図4および図5に、ホーニング加工が施されたホーニング形状の切削工具1を示す。図4および図5においては、切削工具1の各部の他、すくい面11を含む仮想平面R、逃げ面12を含む仮想平面F、仮想平面Rと仮想平面Fとが交差してなる仮想稜線EE、すくい面11と仮想平面Rとの乖離の境界となる仮想境界線ER、および逃げ面12と仮想平面Fとの乖離の境界となる仮想境界線EFが示されている。なお、ホーニング形状の切削工具1において、上記の「稜線E」は、「仮想稜線EE」と読み替える。
このようなホーニング形状の切削工具1において、「すくい面11および逃げ面12のうち仮想稜線EE近傍となる部分」は、仮想境界線ERおよび仮想境界線EFとに挟まれる領域(図5において点ハッチングが施される領域)と定義される。したがって、ホーニング形状の切削工具1における切れ刃13とは、図5において点ハッチングが施される領域に対応する部分となる。
図6および図7に、ネガランド加工が施されたネガランド形状の切削工具1を示す。図6および図7においても、切削工具1の各部の他、すくい面11を含む仮想平面R、逃げ面12を含む仮想平面F、仮想平面Rと仮想平面Fとが交差してなる仮想稜線EE、すくい面11と仮想平面Rとの乖離の境界となる仮想境界線ER、および逃げ面12と仮想平面Fとの乖離の境界となる仮想境界線EFが示されている。なお、ネガランド形状の切削工具1においても、上記の「稜線E」は、「仮想稜線EE」と読み替える。
このようなネガランド形状の切削工具1において、「すくい面11および逃げ面12のうち仮想稜線EE近傍となる部分」は、仮想境界線ERおよび仮想境界線EFとに挟まれる領域(図7において点ハッチングが施される領域)と定義される。したがって、ネガランド形状の切削工具1における切れ刃13とは、図7において点ハッチングが施される領域に対応する部分となる。
図8および図9に、ホーニングとネガランドとが組み合された加工が施された形状の切削工具1を示す。図8および図9においても、切削工具1の各部の他、すくい面11を含む仮想平面R、逃げ面12を含む仮想平面F、仮想平面Rと仮想平面Fとが交差してなる仮想稜線EE、すくい面11と仮想平面Rとの乖離の境界となる仮想境界線ER、および逃げ面12と仮想平面Fとの乖離の境界となる仮想境界線EFが示されている。なお、ネガランド形状の切削工具1においても、上記の「稜線E」は、「仮想稜線EE」と読み替える。なお、仮想平面Rは、すくい面11のうち切れ刃13に近い平面を含む面とする。
このような形状の切削工具1において、「すくい面11および逃げ面12のうち仮想稜線EE近傍となる部分」は、仮想境界線ERおよび仮想境界線EFとに挟まれる領域(図8において点ハッチングが施される領域)と定義される。したがって、当該切削工具1における切れ刃13とは、図8において点ハッチングが施される領域に対応する部分となる。
図1には、旋削加工用刃先交換型切削チップとしての切削工具1が示されるが、切削工具1はこれに限られず、ドリル、エンドミル、ドリル用刃先交換型切削チップ、エンドミル用刃先交換型切削チップ、フライス加工用刃先交換型切削チップ、メタルソー、歯切工具、リーマ、タップなどを例示できる。
また、切削工具1が刃先交換型切削チップ等である場合、切削工具1は、チップブレーカを有するものも、有さないものも含まれ、また、切れ刃13は、その形状がシャープエッジ(すくい面と逃げ面とが交差する稜)(図1~図3参照)、ホーニング(シャープエッジに対してアールを付与したもの)(図4および図5参照)加工されたもの、ネガランド(面取りをしたもの)(図6および図7参照)加工されたもの、ホーニング加工とネガランド加工とが組み合されたもの(図8および図9参照)のいずれをも含み得る。
図2に示されるように、上記切削工具1は、基材2と、該基材2上に配置された被膜3とを備える。被膜3は、基材2の表面の一部に配置されていてもよいし、基材2の表面の全面に配置されていてもよい。被膜3が基材2の表面の一部に配置される場合は、該基材2の表面の一部は、稜線Eまたは仮想稜線EEからの距離(直線距離)Dが200μm以内の領域を全て含む。本開示の効果を奏する限り、被膜3の構成が部分的に異なったりしていたとしても本実施形態の範囲を逸脱するものではない。
<基材>
図2および図3に示されるように、本実施形態の基材2は、すくい面2aと、逃げ面2bとを有する。また、すくい面2aと逃げ面2bとの境界部分が切れ刃2cを成す。「すくい面2aと逃げ面2bとの境界部分」とは、上述の「すくい面11と逃げ面12との境界部分」と同様に、「すくい面2aと逃げ面2bとの境界を成す稜線と、すくい面2aおよび逃げ面2bのうち稜線近傍となる部分と、を併せた部分」を意味する。また「すくい面2aと逃げ面2bのうち稜線近傍となる部分」とは、切削工具1の切れ刃13の形状がシャープエッジ形状であるか、ホーニング形状であるか、ネガランド形状であるかによって、上述のように定義されることとなる。
基材2としては、この種の基材として従来公知のものであればいずれのものも使用することができる。たとえば、超硬合金(WC基超硬合金、WC及びCoを含む超硬合金、更にTi、Ta、Nb等の炭窒化物を添加した超硬合金など)、サーメット(TiC、TiN、TiCN等を主成分とするもの)、高速度鋼、セラミックス(炭化チタン、炭化珪素、窒化珪素、窒化アルミニウム、酸化アルミニウムなど)、立方晶型窒化硼素焼結体、またはダイヤモンド焼結体のいずれかであることが好ましい。これらの各種基材の中でも、特にWC基超硬合金、サーメット(特にTiCN基サーメット)を選択することが好ましい。これは、これらの基材が特に高温における硬度と強度とのバランスに優れ、切削工具の基材として優れた特性を有するためである。
<被膜>
実施形態1の被膜3は、TiAlCeN層を有する。本実施形態の被膜3は、TiAlCeN層を有する限り、他の層を含んでも良いし、含まなくても良い。他の層としては、たとえば、第1層が挙げられる。図10に示されるように、第1層31は、基材2とTiAlCeN層30との間に設けられることができる。この場合、第1層31は下地層32に該当する。第1層31は、被膜3の最表面に設けられることができる。この場合、第1層31は表面層33に該当する。被膜は、下地層32および表面層33の一方又は両方を含むことができる。該第1層の詳細については後述する。
被膜3の積層構成は、被膜20全体に亘って一様である必要はなく、部分的に積層構成が異なっていてもよい。
被膜3の厚さは、0.5μm以上15μm以下が好ましい。被膜の厚さが0.5μm未満であると、工具寿命が不十分となる傾向がある。被膜の厚さが15μm超であると、加工時に被膜内に応力が発生し、剥離または破壊が生じやすくなる。被膜の厚さは、1.0μm以上12.0μm以下がより好ましく、3.0μm以上7.0μm以下が更に好ましい。被膜の厚さの測定方法については、後述する。
<TiAlCeN層>
本実施形態のTiAlCeN層は、すくい面11または逃げ面12に位置する第1のTiAlCeN層と、切れ刃13に位置する第2のTiAlCeN層と、を有する。すなわち、1層のTiAlCeN層中に、第1のTiAlCeN層からなる領域と、第2のTiAlCeN層からなる領域が存在する。
≪組成≫
第1のTiAlCeN層の組成は、Tix1Aly1Cez1Nであり、第2のTiAlCeN層の組成は、Tix2Aly2Cez2Nである。ここで、x1、y1、z1、x2、y2、およびz2は以下の(1)~(7)を満たす。
(1)x1+y1+z1=1
(2)x2+y2+z2=1
(3)0.300<y1≦0.700
(4)0.300<y2≦0.700
(5)0.010<z1≦0.100
(6)0<z2≦0.090
(7)z1-z2≧0.010
上記y1の下限は、第1のTiAlCeN層の耐熱性向上の観点から、0.300超であり、0.310以上が好ましく、0.320以上が好ましく、0.350以上が好ましく、0.400以上がより好ましい。上記y1の上限は、第1のTiAlCeN層の硬度向上の観点から、0.700以下であり、0.650以下が好ましく、0.630以下が好ましく、0.600以下がより好ましい。上記y1は、0.300超0.700以下であり、0.350以上0.650以下が好ましく、0.400以上0.600以下が更に好ましい。
上記z1の下限は、第1のTiAlCeN層の耐摩耗性向上の観点から、0.010超であり、0.011以上が好ましく、0.015以上が好ましく、0.020以上がより好ましい。上記z1の上限は、第1のTiAlCeN層の耐欠損性向上の観点から、0.100以下であり、0.080以下が好ましく、0.065以下が好ましく、0.060以下が好ましく、0.050以下が好ましく、0.030以下がより好ましい。上記z1は、0.010超0.100以下であり、0.015以上0.050以下が好ましく、0.020以上0.030以下が更に好ましい。
上記y2の下限は、第2のTiAlCeN層の耐熱性向上の観点から、0.300超であり、0.350以上が好ましく、0.400以上がより好ましい。上記y2の上限は、第2のTiAlCeN層の硬度向上の観点から、0.700以下であり、0.650以下が好ましく、0.600以下がより好ましい。上記y2は、0.300超0.700以下であり、0.350以上0.650以下が好ましく、0.400以上0.600以下が更に好ましい。
上記z2の下限は、第2のTiAlCeN層の耐摩耗性向上の観点から、0超であり、0.001以上が好ましく、0.002以上が好ましく、0.005以上が好ましく、0.010以上がより好ましい。上記z2の上限は、第2のTiAlCeN層の耐欠損性向上の観点から、0.090以下であり、0.060以下が好ましく、0.040以下が好ましく、0.020以下がより好ましい。上記z2は、0超0.090以下であり、0.005以上0.040以下が好ましく、0.010以上0.020以下が更に好ましい。
z1-z2の下限は、TiAlCeN層の耐摩耗性と耐欠損性とをバランス良く向上させる観点から、0.010以上であり、0.013以上が好ましく、0.015以上が好ましく、0.020以上が好ましい。z1-z2の上限は、TiAlCeN層の耐剥離性向上の観点から、0.099以下が好ましく、0.090以下が好ましく、0.050以下が好ましく、0.030以下が好ましく、0.025以下が好ましい。z1-z2は、0.010以上0.090以下が好ましく、0.013以上0.050以下がより好ましく、0.015以上0.030以下が更に好ましい。
上記x1は、x1=1-y1-z1により算出することができる。上記x2は、x2=1-y2-z2により算出することができる。
上記x1、y1、z1、x2、y2、およびz2は、エネルギー分散型X線分光器を備える走査型電子顕微鏡(SEM-EDS)を用いて、TiAlCeN層の各領域(切れ刃領域、すくい面領域、および逃げ面領域)における各組成を測定することにより求めることができる。具体的な測定方法について、以下に説明する。
(A1)切削工具1を、被膜3の厚み方向に沿う断面が露出するように切断することにより、測定試料を得る。切断の位置は、切削工具の実際の使用状況を鑑みて、以下の通り決定する。
図11および図12は、切削工具の切断位置を説明するための図である。切削工具1が、コーナー部分(円弧を描く頂角の部分)の切れ刃13によって被削材を切削すべく使用される場合には、図11に示されるように、コーナー部分を二等分する線L1を含み、かつ、被膜3の厚み方向に沿う断面が露出するように切断する。一方、切削工具1が、ストレート部分(直線を描く部分)の切れ刃13によって被削材を切削すべく使用される場合には、図12に示されるように、ストレート部分の切れ刃に垂直な線L2を含み、かつ、被膜3の厚み方向に沿う断面が露出するように切断する。必要に応じて、露出する切断面を研磨処理して、切断面を平滑にする。
(B1)上記の切断面をSEM-EDSを用いて5000倍で観察し、すくい面または逃げ面に位置する第1のTiAlCeN層を含むように、被膜の厚み方向15μm以上×厚み方向に垂直な方向15μm以上の矩形の測定視野を3箇所設定する。測定視野の厚み方向は、第1のTiAlCeN層の厚みを全て含むように設定する。
なお、上記測定視野をすくい面に位置する第1のTiAlCeN層を含むように設定する場合は、該第1のTiAlCeN層が、稜線Eまたは仮想稜線EEからの距離が100μm以上200μm以下であるすくい面に位置する第1のTiAlCeN層となるように測定視野を設定する。上記測定視野を逃げ面に位置する第1のTiAlCeN層を含むように設定する場合は、該第1のTiAlCeN層が、稜線Eまたは仮想稜線EEからの距離が100μm以上200μm以下である逃げ面に位置する第1のTiAlCeN層となるように測定視野を設定する。
図13に示されるように、上記3箇所の測定視野は、各測定視野の厚み方向(図13において矢印Tで示される方向)の辺同士が接して、各測視野同士が連続するように設定される。各測定視野の一部は重なっていてもよい(図13において、重なっている部分は斜線にて示される。)。この場合は、各測定視野の厚み方向に垂直な方向(図13において矢印Hで示される方向)の辺の重なる部分の長さが2μm以下となるように設定される。
(C1)上記3箇所の測定視野のそれぞれにおいて、第1のTiAlCeN層の領域を特定する。具体的には、それぞれの測定視野についてSEM-EDSによる元素マッピングを行い、Ti、AlおよびCeが含まれる層を特定する。該特定された層が第1のTiAlCeN層に該当する。
(D1)上記3箇所の測定視野のそれぞれについて、第1のTiAlCeN層におけるAlとTiとCeの組成比を分析し、Al、TiおよびCeの原子数の合計に対するTiの割合x1、Alの割合y1、および、Ceの割合z1を算出する。3箇所の測定視野のx1の平均値が、本実施形態の第1のTiAlCeN層の組成Tix1Aly1Cez1Nにおけるx1に該当する。3箇所の測定視野のy1の平均値が、本実施形態の第1のTiAlCeN層の組成Tix1Aly1Cez1Nにおけるy1に該当する。3箇所の測定視野のz1の平均値が、本実施形態の第1のTiAlCeN層の組成Tix1Aly1Cez1Nにおけるz1に該当する。
切れ刃に位置する第2のTiAlCeN層の組成Tix2Aly2Cez2Nにおけるx2、y2及びz2についても、測定視野の位置を切れ刃に位置する第2のTiAlCeN層を含むように設定する以外は、上記のx1、y1及びz1と同様の方法で測定される。該測定視野は、該測定視野に含まれる第2のTiAlCeN層が、稜線Eまたは仮想稜線EEからの距離が50μm以下である切れ刃に位置する第2のTiAlCeN層となるように設定される。
上述のSEM-EDS解析は、たとえば走査型電子顕微鏡(S-3400N型、日立ハイテクノロジーズ社製)を用いて、以下の条件で測定することができる。
加速電圧 :15kV
プロセスタイム :5
スペクトルレンジ:0~20keV
チャンネル数 :1K
フレーム数 :150
X線取り出し角度:30°。
同一の切削工具で測定する限り、測定箇所を任意に選択しても、測定結果にばらつきがないことが確認されている。
本実施形態の第1のTiAlCeN層の組成Tix1Aly1Cez1Nにおいて、Ti、Al及びCeの原子数の合計AM1に対するNの原子数AN1の比AN1/AM1は、製造上必然的に0.8~1.2の範囲である。本実施形態の第2のTiAlCeN層の組成Tix2Aly2Cez2Nにおいて、Ti、Al及びCeの原子数の合計AM2に対するNの原子数AN2の比AN2/AM2は、製造上必然的に0.8~1.2の範囲である。
上記比AN1/AM1及び比AN2/AM2は、ラザフォード後方散乱(RBS)法により測定できる。上記比AN1/AM1及び比AN2/AM2が前記の範囲であれば、本開示の効果が損なわれないことが確認されている。
≪厚さ≫
本実施形態において、TiAlCeN層の厚さは、0.5μm以上15μm以下が好ましい。TiAlCeN層の厚さが0.5μm未満であると、TiAlCeN層による耐摩耗性および耐欠損性の向上効果が得られにくく、工具寿命が不十分となる傾向がある。TiAlCeN層の厚さが15μm超であると、加工時にTiAlCeN層内に応力が発生し、剥離または破壊が生じやすくなる。TiAlCeN層の厚さは、1μm以上12μm以下がより好ましく、3μm以上7μm以下が更に好ましい。TiAlCeN層の厚さの測定方法は以下の通りである。
(A2)上記第1のTiAlCeN層の組成の測定方法の(A1)に記載の方法と同一の方法で、切削工具を被膜の厚み方向に沿う断面が露出するように切断し、測定試料を得る。
(B2)上記の断面を走査型電子顕微鏡(S-3400N型、日立ハイテクノロジーズ社製)を用いて1500倍で観察し、TiAlCeN層の厚さを、基材の表面の法線方向に沿って、すくい面および逃げ面のそれぞれにおいて任意の3箇所ずつ測定する。これらの算術平均が「TiAlCeN層の厚さ」に該当する。上記SEMの測定条件は、上記第1のTiAlCeN層の組成の測定方法の(D1)に記載の測定条件と同一とする。
同一の切削工具で測定する限り、測定箇所を任意に選択しても、測定結果にばらつきがないことが確認されている。
本実施形態において、被膜の厚さ、および、第1層の厚さも上記と同一の手順で測定される。これらの厚さについても、同一の切削工具で測定する限り、測定箇所を任意に選択しても、測定結果にばらつきがないことが確認されている。
≪結晶構造≫
本実施形態において、TiAlCeN層は立方晶型結晶構造を有することが好ましい。これによると、TiAlCeN層は、高い硬度および優れた耐摩耗性を有することができる。ここで、「TiAlCeN層は立方晶型結晶構造を有する」とは、TiAlCeN層のX線回折スペクトルを測定した場合に、立方晶型結晶構造由来のピークが観察され、立方晶型結晶構造以外の結晶構造(たとえば、ウルツ型結晶構造)由来のピークが観察されない(すなわち、検出限界以下である)ことを意味する。このようなX線回折スペクトルは、以下のようにして測定される。
工具の逃げ面の平坦な任意の一部分を切り出して、これをホルダーに固定し、サンプルを準備し、必要に応じて研磨処理することにより、測定対象とする表面を平滑にする。なお、TiAlCeN層上に他の層が形成されている場合には、その層を研磨等により除去した上で、TiAlCeN層の表面を平滑にする。次に、X線回折装置(XRD)を用いてTiAlCeN層のX線回折を行い、X線回折スペクトルを得る。
上述のX線回折は、たとえば、X線回折装置(SmartLab(登録商標)、リガク株式会社製)を用いて、以下の条件で測定することができる。
回折法 :θ-2θ法
X線源 :Cu-Kα線(1.541862Å)
検出器 :D/Tex Ultra250
管電圧 :45kV
管電流 :200mA
スキャンスピード:20°/分
スキャン範囲 :15~85°
スリット :2.0mm。
≪第1層≫
本実施形態の被膜3は、さらに第1層を含み、該第1層は、周期表の第4族元素、第5族元素、第6族元素、アルミニウムおよび珪素からなる第1群より選ばれる少なくとも1種の元素からなる、または、該第1群より選ばれる少なくとも1種の元素と、炭素、窒素、酸素および硼素からなる第2群より選ばれる少なくとも1種の元素と、からなる第1化合物からなることが好ましい。周期表の第4族元素には、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)およびハフニウム(Hf)が含まれる。周期表の第5族元素には、バナジウム(V)、ニオブ(Nb)およびタンタル(Ta)が含まれる。周期表の第6族元素には、クロム(Cr)、モリブデン(Mo)およびタングステン(W)が含まれる。
上記第1群は、チタン、クロム、アルミニウムおよび珪素からなることが好ましい。すなわち、第1層は、チタン、クロム、アルミニウムおよび珪素からなる群より選ばれる少なくとも1種の元素からなる、または、チタン、クロム、アルミニウムおよび珪素からなる群より選ばれる少なくとも1種と、炭素、窒素、酸素および硼素からなる第2群より選ばれる少なくとも1種の元素と、からなる第1化合物からなることが好ましい。これによると、工具寿命が更に向上する。
上記第1化合物としては、例えば、TiAlN、TiAlSiCN、TiAlSiON、TiAlSiN、TiCrSiN、TiAlCrSiN、AlCrN、AlCrO、AlCrSiN、TiZrN、TiAlMoN、TiAlNbN、TiSiN、AlCrTaN、AlTiVN、TiB、TiCrHfN、CrSiWN、TiAlCN、TiSiCN、AlZrON、AlCrCN、AlHfN、CrSiBON、CrAlBN、TiAlWN、AlCrMoCN、TiAlBN、TiAlCrSiBCNO、ZrN、ZrB、ZrCN、CrSiBN、AlCrBNが挙げられる。
上記第1層は、基材とTiAlCeN層との間に設けられることができる。この場合、第1層は下地層に該当する。下地層は、基材と被膜との密着性を向上させることができ、被膜の耐摩耗性も向上する。第1層が下地層の場合、第1層はTiAlN、TiNまたはAlCrNからなることが好ましい。この場合、第1層の厚さは、0.2μm以上10μm以下が好ましく、1μm以上5μm以下がより好ましい。
上記第1層は、被膜の最表面に設けられることができる。この場合、第1層は表面層に該当する。表面層は、被膜の耐熱亀裂性及び耐摩耗性を向上させることができる。第1層が表面層の場合、第1層は、TiCN、TiAlBN、TiAlSiNまたはTiNからなることが好ましい。この場合、第1層の厚さは、0.2μm以上10μm以下が好ましく、1μm以上5μm以下がより好ましい。
[実施形態2:切削工具(2)]
本開示の一実施形態(以下、「実施形態2」とも記す。)の切削工具は、TiAlCeN層と第1層とが交互に積層された多層構造を含むこと以外は、実施形態1と同一の構成とすることができる。従って、以下では、多層構造について説明する。
≪多層構造≫
図14に示されるように、本実施形態の被膜3は、TiAlCeN層30と第1層31とが交互に積層された多層構造を含むことが好ましい。これによると、TiAlCeN層と第1層との界面付近で、切削工具の使用時に生じる被膜の表面からの亀裂の進展を抑制することができる。よって、切削工具の工具寿命が向上する。
上記多層構造は、第1のTiAlCeN層と第1層とが交互に積層された第1の多層構造と、第2のTiAlCeN層と第1層とが交互に積層された第2の多層構造と、を含むことができる。第1の多層構造は逃げ面またはすくい面に位置し、第2の多層構造は切れ刃に位置する。
TiAlCeN層と第1層との積層数は、TiAlCeN層と第1層とをそれぞれ一層以上含む限り、特に限定されない。積層数とは、多層構造に含まれるTiAlCeN層および第1層との合計数を示す。積層数は、10以上5000以下が好ましく、200以上5000以下が好ましく、400以上2000以下がより好ましく、500以上1000以下が更に好ましい。多層構造において、最も基材に近い層は、TiAlCeN層であってもよいし、第1層であってもよい。また多層構造において、最も基材から離れている層は、TiAlCeN層であってもよいし、第1層であってもよい。ここで、TiAlCeN層とは、第1のTiAlCeN層または第2のTiAlCeN層を意味する。
上記多層構造の厚さは、0.5μm以上15μm以下が好ましく、1μm以上12μm以下がより好ましい。多層構造の厚さは、実施形態1に記載のTiAlCeN層の厚さの測定方法において、測定対象を多層構造とすることにより測定される。
同一の切削工具で測定する限り、測定箇所を任意に選択しても、測定結果にばらつきがないことが確認されている。
上記多層構造において、TiAlCeN層及び第1層は、それぞれ厚さが2nm以上50nm以下が好ましい。このような薄層が交互に繰り返されることにより、亀裂の進展を抑制でき、層間剥離も抑制される。TiAlCeN層及び第1層のそれぞれ厚さが2nm未満になると、亀裂進展の抑制効果が低減する可能性がある。またTiAlCeN層及び第1層のそれぞれ厚さが50nmを超えると、層間剥離の抑制効果が低減する可能性がある。
上記多層構造において、TiAlCeN層及び第1層は、それぞれの厚さが2nm以上50nm以下が好ましく、4nm以上40nm以下がより好ましく、5nm以上30nm以下が更に好ましい。
上記多層構造におけるTiAlCeN層及び第1層のそれぞれの厚さの測定方法は以下の通りである。
(A3)上記第1のTiAlCeN層の組成の測定方法の(A1)に記載の方法と同一の方法で、切削工具を被膜の厚み方向に沿う断面が露出するように切断し、測定試料を得る。
(B3)上記の断面を走査型電子顕微鏡(S-3400N型、日立ハイテクノロジーズ社製)を用いて約100万倍で観察する。1つのTiAlCeN層において、3箇所の厚さを測定する。該3箇所の厚さの算術平均値を算出し、該算術平均値を該TiAlCeN層の厚さとする。1つの第1層において、3箇所の厚さを測定する。該3箇所の厚さの算術平均値を算出し、該算術平均値を該第1層の厚さとする。
3つの異なるTiAlCeN層のそれぞれについて、上記の手順でTiAlCeN層の厚さを測定する。3つのTiAlCeN層の厚さの算術平均値を求める。該算術平均値を、多層構造におけるTiAlCeN層の厚さとする。3つの異なる第1層のそれぞれについて、上記の手順で第1層の厚さを測定する。3つの第1層の厚さの算術平均値を求める。該算術平均値を、多層構造における第1層の厚さとする。
同一の切削工具で測定する限り、測定箇所を任意に選択しても、測定結果にばらつきがないことが確認されている。
多層構造におけるTiAlCeN層の組成は、以下の手順で測定される。実施形態1に記載のTiAlCeN層の組成(x1、y1、z1、x2、y2、z2)の測定方法の手順(A1)~(D1)と同一の方法で3箇所の測定視野を設定する。
各測定視野において、第1のTiAlCeN層および第2のTiAlCeN層をそれぞれ5層ずつ任意に選択して測定し、第1のTiAlCeN層および第2のTiAlCeN層のそれぞれについて5層の平均組成を求める。
5層の第1のTiAlCeN層の平均組成を、該測定視野における第1のTiAlCeN層の組成とする。3箇所の測定視野の第1のTiAlCeN層の平均組成を、本実施形態の多層構造における第1のTiAlCeN層の組成とする。
5層の第2のTiAlCeN層の平均組成を、該測定視野における第2のTiAlCeN層の組成とする。3箇所の測定視野の第2のTiAlCeN層の平均組成を、本実施形態の多層構造における第2のTiAlCeN層の組成とする。
同一の切削工具で測定する限り、測定箇所を任意に選択しても、測定結果にばらつきがないことが確認されている。
[実施形態3:切削工具の製造方法]
実施形態3では、実施形態1または実施形態2の切削工具の製造方法について説明する。該製造方法は、基材を準備する工程と、該基材上に被膜を形成する工程とを含むことができる。各工程の詳細について、以下に説明する。
≪基材を準備する工程≫
基材を準備する工程では、基材2が準備される。基材2は、実施形態1に記載の基材を用いることができる。
例えば、基材として超硬合金を用いる場合は、市販の基材を用いてもよく、一般的な粉末冶金法で製造してもよい。一般的な粉末冶金法で製造する場合、例えば、ボールミル等によってWC粉末とCo粉末等とを混合して混合粉末を得る。該混合粉末を乾燥した後、所定の形状に成形して成形体を得る。さらに該成形体を焼結することにより、WC-Co系超硬合金(焼結体)を得る。次いで該焼結体に対して、ホーニング処理等の所定の刃先加工を施すことにより、WC-Co系超硬合金からなる基材を製造することができる。上記以外の基材であっても、この種の基材として従来公知のものであればいずれも準備可能である。
≪被膜を形成する工程≫
被膜を形成する工程では、基材2上に被膜3を形成する。本実施形態では、物理蒸着(Physical Vapor Deposition;PVD)法により、被膜3を形成することができる。PVD法の具体例としては、アークイオンプレーティング(Arc Ion Plating;AIP)法、バランスドマグネトロンスパッタリング(Balanced Magnetron Sputtering;BMS)法、およびアンバランスドマグネトロンスパッタリング(Unbalanced Magnetron Sputtering;UBMS)法等が挙げられる。本実施形態では、アークイオンプレーティングを用いることが好ましい。
AIP法では、ターゲット材を陰極(カソード)としてアーク放電を生起する。これにより、ターゲット材を蒸発、イオン化させる。そして負のバイアス電圧が印加された基材2の表面にイオンを堆積させる。AIP法は、ターゲット材のイオン化率において優れている。具体的な成膜方法は、以下の通りである。
成膜装置のチャンバ内に、ターゲット材および基材を設置する。基材は、回転可能な基材ホルダに保持される。形成しようとする被膜の組成に応じて、Ti、Al、Ce等の粒径をそれぞれ変化させた合金製ターゲットや、組成の異なる複数のターゲットを用いることができる。なお、反応ガス圧および/または基材ホルダの回転速度を調整することによっても、被膜の組成を変化させることができる。
続いて、Arイオンによるイオンボンバードメント処理により、基材2の表面を洗浄する。イオンボンバードメント処理の条件は、従来公知の条件を用いることができる。
被膜が下地層としての第1層を含む場合は、基材2の表面に第1層を形成する。例えば、基材2の表面に、TiAlN層、TiN層またはAlCrN層を形成する。該第1層の形成方法は、従来公知の方法を用いることができる。
次に、成膜装置のチャンバ内に遮蔽材50を設置した後に、チャンバ内に窒素ガスを導入し、基材2を保持する基材ホルダを回転させながら、基材2上にTiAlCeN層を形成する。この際、ターゲット材と、基材と、遮蔽材との位置関係を調整する。該位置関係について図15および図16を用いて説明する。
図15では、基材2は、その逃げ面12がターゲット材51に対向するように配置される。また、遮蔽材50は、基材2のすくい面11に対向するように配置される。
ターゲット材51と、基材2と、遮蔽材50とを上記の位置関係で配置することにより、遮蔽材50の存在により、すくい面11および切れ刃13は、逃げ面12よりも成膜されにくくなる。更に、Ceイオンはイオン半径が大きいため、遮蔽材50にトラップされやすい。よって、すくい面11および切れ刃13に到達するCe量は、逃げ面12に到達するCe量よりも少ない。このため、すくい面11上および切れ刃13上に形成されるTiAlCeN層中のCe含有率(原子%)は、逃げ面12上に形成されるTiAlCeN層中のCe含有率(原子%)よりも小さくなる。
図15に示されるターゲット材と、基材と、遮蔽材との位置関係でTiAlCeN層を形成することにより、該TiAlCeN層は、逃げ面12と切れ刃13とで異なる組成を有することができる。更に、適切なターゲット及び形成条件を採用するとともに、遮蔽材を上記の位置関係で設けることにより、逃げ面12に位置するTiAlCeN層におけるTi、Al及びCeの原子数の合計に対するCeの割合z1を、切れ刃13に位置するTiAlCeN層におけるTi、Al及びCeの原子数の合計に対するCeの割合z2よりも0.010以上大きくすることができる。
図16では、基材2は、そのすくい面11がターゲット材51に対向するように配置される。また、遮蔽材50は、基材2の逃げ面12に対向するように配置される。
ターゲット材51と、基材2と、遮蔽材50とを上記の位置関係で配置することにより、遮蔽材50の存在により、逃げ面12および切れ刃13は、すくい面11よりも成膜されにくくなる。更に、Ceイオンはイオン半径が大きいため、遮蔽材50にトラップされやすい。よって、逃げ面12および切れ刃13に到達するCe量は、すくい面11に到達するCe量よりも少ない。このため、逃げ面12上および切れ刃13上に形成されるTiAlCeN層中のCe含有率(原子%)は、すくい面11上に形成されるTiAlCeN層中のCe含有率(原子%)よりも小さくなる。
図16に示されるターゲット材と、基材と、遮蔽材との位置関係でTiAlCeN層を形成することにより、該TiAlCeN層は、すくい面11と切れ刃13とで異なる組成を有することができる。更に、適切なターゲット及び形成条件を採用するとともに、遮蔽材を上記の位置関係で設けることにより、すくい面11に位置するTiAlCeN層におけるTi、Al及びCeの原子数の合計に対するCeの割合z1を、切れ刃13に位置するTiAlCeN層におけるTi、Al及びCeの原子数の合計に対するCeの割合z2よりも0.010以上大きくすることができる。
遮蔽材50としては、ステンレス製の板を用いることができる。基材2と遮蔽材50との距離は、例えば、1mm以上6mm以下とすることができる。
TiAlCeN層の形成条件は以下とすることができる。
基材温度 :450~600℃
バイアス電圧:-30~-100V
アーク電流 :100~200A
反応ガス圧 :3~6Pa
TiAlCeN層と第1層とが交互に積層された多層構造は、TiAlCeN層成膜用のターゲットと、第1層成膜用のターゲットとをチャンバ内に設置し、回転ホルダの回転周期を、例えば2~5rpmとすることにより形成することができる。
次に、被膜が表面層としての第1層を含む場合は、TiAlCeN層の表面に第1層を形成する。例えば、TiAlCeN層の表面に、TiCN層、TiAlBN層、TiAlSiN層またはTiN層を形成する。該第1層の形成方法は、従来公知の方法を用いることができる。
以上より、基材2と、該基材2上に設けられた被膜3とを備える切削工具1を製造することができる。
[付記1]
基材と、前記基材上に配置された被膜と、を備える切削工具であって、
前記切削工具は、
すくい面、
前記すくい面に連なる逃げ面、および、
前記すくい面と前記逃げ面との境界部分からなる切れ刃を含み、
前記被膜は、TiAlCeN層を含み、
前記TiAlCeN層は、
前記すくい面または前記逃げ面に位置する第1のTiAlCeN層と、
前記切れ刃に位置する第2のTiAlCeN層と、を有し、
前記第1のTiAlCeN層の組成は、Tix1Aly1Cez1であり、
前記第2のTiAlCeN層の組成は、Tix2Aly2Cez2であり、
ここで、
x1+y1+z1=1、
x2+y2+z2=1、
0.300<y1≦0.700、
0.300<y2≦0.700、
0.010<z1≦0.100、
0<z2≦0.090、および、
z1-z2≧0.010である、切削工具。
[付記2]
前記TiAlCeN層の厚さは、0.5μm以上15μm以下である、付記1に記載の切削工具。
[付記3]
前記被膜は、さらに第1層を含み、
前記第1層は、
周期表の第4族元素、第5族元素、第6族元素、アルミニウムおよび珪素からなる第1群より選ばれる少なくとも1種の元素からなる、または、
前記第1群より選ばれる少なくとも1種の元素と、炭素、窒素、酸素および硼素からなる第2群より選ばれる少なくとも1種の元素と、からなる第1化合物からなる、付記1または付記2に記載の切削工具。
[付記4]
前記第1群は、チタン、クロム、アルミニウムおよび珪素からなる、付記3に記載の切削工具。
[付記5]
前記被膜の厚さは、0.5μm以上15μm以下である、付記1から付記4のいずれか1項に記載の切削工具。
[付記6]
前記被膜は、前記TiAlCeN層と前記第1層とが交互に積層された多層構造を含む、付記3または付記4に記載の切削工具。
本実施の形態を実施例によりさらに具体的に説明する。ただし、これらの実施例により本実施の形態が限定されるものではない。
[実施例1]
<切削工具の作製>
以下のようにして、切削工具を作製し、工具寿命を評価した。
≪基材を準備する工程≫
基材として、JIS B 4053:2013に記載のP20超硬合金製の旋削用切削チップ(型番:CNMG120408N(住友電工ハードメタル社製))を準備した。基材をアークイオンプレーティング装置の基材ホルダに設置した。
≪被膜を形成する工程≫
ターゲット材として、表1の「ターゲット材組成」の「TiAlCeN層」および「第1層」欄に記載の組成を有する焼結合金を準備した。例えば、試料5では、TiAlCeN層形成用のターゲット材(以下、「TiAlCeN層用ターゲット」とも記す。)として、原子数の比が「Ti:Al:Ce=0.55:0.35:0.10」である焼結合金、および、第1層形成用のターゲット材(以下、「第1層用ターゲット」とも記す。)として、原子数の比が「Ti:Al:B=0.50:0.45:0.05」である焼結合金を準備した。
上記ターゲット材をアークイオンプレーティング装置のアーク式蒸発源に設置した。2種類のターゲット材を用いる場合は、それぞれ異なるアーク式蒸発源に設置した。次に、該装置のチャンバ内を0.5Pa以下の真空にして基材温度を450℃に加熱した後、Arガスをチャンバ内に導入して2.5PaのAr雰囲気とした。この状態で基材に-800Vのバイアス電圧を印加してArガスによるイオンボンバードメント処理を行い、基材の表面を洗浄した。
(試料1~試料3、試料7~試料10、試料12~試料15)
次に、チャンバ内に遮蔽材を設置した。ターゲット材と、基材と、遮蔽材との位置関係は、図16に示される通りとした。すなわち、基材2は、そのすくい面11がターゲット材51に対向するように配置した。また、遮蔽材50は、基材2の逃げ面12に対向するように配置した。遮蔽材50と基材2との距離は3mmとした。
次に、窒素ガスをチャンバ内に導入して3.5Paの反応雰囲気とした。この状態で、アーク電流でTiAlCeN層用ターゲット表面で放電させ、基材側にバイアス電圧を印加し、基材を保持する基材ホルダを回転させながら、基材上にTiAlCeN層を形成し、切削工具を得た。TiAlCeN層の形成条件は以下の通りとした。
基材温度 :550℃
バイアス電圧:-50V
アーク電流 :160A
反応ガス圧 :3.5Pa
(試料1-1、試料1-6、試料1-7)
各試料のTiAlCeN層用ターゲットを用い、遮蔽材は設置しないこと以外は、試料1と同一の形成条件(基材温度、バイアス電圧、アーク電流、反応ガス組成、反応ガス圧)で基材上にTiAlCeN層を形成し、切削工具を得た。
(試料4)
試料4のTiAlCeN層用ターゲットを用い、試料1と同一の形成条件(基材温度、バイアス電圧、アーク電流、反応ガス組成、反応ガス圧、遮蔽材有り、遮蔽材と基材との距離)で基材上にTiAlCeN層を形成した。次に、第1層用ターゲットを用いて、ガス導入口から窒素ガスおよびメタンガスを導入し、基材ホルダを回転させながら、TiAlCeN層上に表面層としての第1層(TiCN層)を形成し、切削工具を得た。
(試料5)
試料5のTiAlCeN層用ターゲットを用い、試料1と同一の形成条件(基材温度、バイアス電圧、アーク電流、反応ガス組成、反応ガス圧、遮蔽材有り、遮蔽材と基材との距離)で基材上にTiAlCeN層を形成した。次に、第1層用ターゲットを用いて、ガス導入口から窒素ガスを導入し、基材ホルダを回転させながら、TiAlCeN層上に表面層としての第1層(TiAlBN層)を形成し、切削工具を得た。
(試料11)
窒素ガスをチャンバ内に導入して3.5Paの雰囲気とした。この状態で、アーク電流で第1層用ターゲット表面で放電させ、基材側にバイアス電圧を印加し、基材ホルダを回転させながら、基材の表面に下地層としての第1層(TiAlN層)を形成した。
次に、試料11のTiAlCeN層用ターゲットを用い、試料1と同一の形成条件(基材温度、バイアス電圧、アーク電流、反応ガス組成、反応ガス圧、遮蔽材有り、遮蔽材と基材との距離)で基材上にTiAlCeN層を形成し、切削工具を得た。
(試料6)
試料6のTiAlCeN層用ターゲット及び第1層用ターゲットをチャンバ内で隣り合う位置に配置した。すなわち、基材ホルダが回転した際に、TiAlCeN層用ターゲットと基材2との位置関係と、第1層用ターゲットと基材2との位置関係が同等となるように、TiAlCeN層用ターゲット及び第1層用ターゲットを配置した。
次に、チャンバ内に遮蔽材を設置した。ターゲット材と、基材と、遮蔽材との位置関係は、図16に示される通りとした。
次に、基材ホルダを5rpmで回転させながら、試料1と同一の形成条件(基材温度、バイアス電圧、アーク電流、反応ガス組成、反応ガス圧、遮蔽材と基材との距離)で基材上にTiAlCeN層とAlCrN層とを交互に形成し、多層構造からなる被膜を形成し、切削工具を得た。
(試料1-2、試料1-3)
各試料のTiAlCeN層用ターゲットを用いること、及び、遮蔽材と基材との距離を0.5mmとした以外は、試料1と同一の形成条件(基材温度、バイアス電圧、アーク電流、反応ガス組成、反応ガス圧)で基材上にTiAlCeN層を形成し、切削工具を得た。
(試料1-4)
試料1-4のTiAlCeN層用ターゲット及び第1層用ターゲットを用い、遮蔽材は設置しないこと以外は、試料6と同一の形成条件(基材温度、バイアス電圧、アーク電流、反応ガス組成、反応ガス圧、遮蔽材と基材との距離)で基材上に多層構造からなる被膜を形成し、切削工具を得た。
Figure 2024005014000002

<評価>
≪被膜の構成≫
得られた各試料の切削工具のTiAlCeN層について、すくい面に位置する第1のTiAlCeN層の組成Tix1Aly1Cez1N、および、切れ刃に位置する第2のTiAlCeN層の組成Tix2Aly2Cez2Nを測定した。具体的な測定方法は、実施形態1および実施形態2に示される通りである。結果を表2の「第1のTiAlCeN層(すくい面)」の「x1」、「y1」、「z1」欄、および、「第2のTiAlCeN層」の「x2」、「y2」および「z2」欄に示す。さらに、「z1-z2」の値も表2に示す。全ての試料において、x1+y1+z1=1、x2+y2+z2=1であることが確認された。また、全ての試料において、第1のTiAlCeN層の組成Tix1Aly1Cez1NにおけるTi、Al及びCeの原子数の合計AM1に対するNの原子数AN1の比AN1/AM1、および、第2のTiAlCeN層の組成Tix2Aly2Cez2NにおけるTi、Al及びCeの原子数の合計AM2に対するNの原子数AN2の比AN2/AM2は、0.8~1.2の範囲であることが確認された。
得られた各試料の切削工具のTiAlCeN層、第1層、および、被膜合計の厚さを測定した。具体的な測定方法は、実施形態1および実施形態2に示される通りである。結果を表2の「厚さ(μm)」の「TiAlCeN層」、「第1層(下地層)」、「第1層(表面層)」および「被膜合計」欄に示す。試料6および試料1-4の「多層構造(6.0μm) TiAlCeN層(6nm)/AlCrN層(6nm)」との記載は、被膜が厚さ6nmのTiAlCeN層と厚さ6nmのAlCrN層とが交互に積層された多層構造を含み、該多層構造の全体の厚さが6.0μmであることを示す。
得られた各試料の切削工具のTiAlCeN層の結晶構造を測定した。全ての試料において、TiAlCeN層は立方晶型結晶構造を有することが確認された。
≪切削試験≫
各試料の切削工具を用いて以下の条件で切削試験を行い、クレータ摩耗の幅が0.5mmとなる、または、刃先の欠損が生じるまでの切削時間(分)を測定した。該切削時間が長いほど、切削工具の工具寿命が長いと判断される。結果を表2の「切削試験」欄に示す。
(切削条件)
被削材:SCM435丸棒
切削速度Vc:250m/min
送り量fz:0.2mm/rev
切り込み量ap:1.5mm
湿式
上記の切削条件は、切れ刃への負荷が大きく、すくい面の熱的摩耗が生じやすい。
Figure 2024005014000003
<考察>
試料1~試料15の切削工具は実施例に該当する。試料1-1~試料1-7の切削工具は比較例に該当する。試料1~試料15の切削工具(実施例)は、試料1-1~試料1-7(比較例)の切削工具より、長い工具寿命を有することが確認された。
試料1-2及び試料1-3は、TiAlCeN層の形成時に遮蔽材を用いたが、「z1-z2」が0.010未満(0.008)であり、比較例に該当する。この理由は、ターゲット組成に含まれるCe量が小さいために基材に到達する絶対量が少ないことに加え、遮蔽材と基材の距離を0.5mmにしたことで、遮蔽材の影響がすくい面にも及び、すくい面と逃げ面のCe量の差が出にくくなったためと推察される。
[実施例2]
<切削工具の作製>
以下のようにして、切削工具を作製し、工具寿命を評価した。
≪基材を準備する工程≫
基材として、JIS B 4053:2013に記載のP20超硬合金製のミリング加工用切削チップ(型番:SEET13T3AGSN(住友電工ハードメタル社製))を準備した。基材をアークイオンプレーティング装置の基材ホルダに設置した。
≪被膜を形成する工程≫
ターゲット材として、表3の「ターゲット材組成」の「TiAlCeN層」および「第1層」欄に記載の組成を有する焼結合金を準備した。
上記ターゲット材をアークイオンプレーティング装置のアーク式蒸発源に設置した。次に、該装置のチャンバ内を0.5Pa以下の真空にして基材温度を450℃に加熱した後、Arガスをチャンバ内に導入して2.5PaのAr雰囲気とした。この状態で基材に-800Vのバイアス電圧を印加してArガスによるイオンボンバードメント処理を行い、基材の表面を洗浄した。
(試料101、試料102、試料105~試料108、試料110~試料112、試料2-2、試料2-3)
次に、チャンバ内に遮蔽材を設置した。ターゲット材と、基材と、遮蔽材との位置関係は、図15に示される通りとした。すなわち、基材2は、その逃げ面12がターゲット材51に対向するように配置した。また、遮蔽材50は、基材2のすくい面11に対向するように配置した。遮蔽材50と基材2との距離は4mmとした。
次に、窒素ガスをチャンバ内に導入して3.5Paの反応雰囲気とした。この状態で、アーク電流でTiAlCeN層用ターゲット表面で放電させ、基材側にバイアス電圧を印加し、基材を保持する基材ホルダを回転させながら、基材上にTiAlCeN層を形成し、切削工具を得た。TiAlCeN層の形成条件は以下の通りとした。
基材温度 :500℃
バイアス電圧:-100V
アーク電流 :190A
反応ガス圧 :3.5Pa
(試料2-4、試料2-5)
各試料のTiAlCeN層用ターゲットを用い、遮蔽材は設置しないこと以外は、試料101と同一の形成条件(基材温度、バイアス電圧、アーク電流、反応ガス組成、反応ガス圧)で基材上にTiAlCeN層を形成し、切削工具を得た。
(試料103)
試料103のTiAlCeN層用ターゲットを用い、試料1と同一の形成条件(基材温度、バイアス電圧、アーク電流、反応ガス組成、反応ガス圧、遮蔽材と基材との距離)で基材上にTiAlCeN層を形成した。次に、第1層用ターゲットを用いて、ガス導入口から窒素ガスを導入し、基材ホルダを回転させながら、TiAlCeN層上に表面層としての第1層(TiAlSiN層)を形成し、切削工具を得た。
(試料109)
窒素ガスをチャンバ内に導入して3.5Paの雰囲気とした。この状態で、アーク電流で第1層用ターゲット表面で放電させ、基材側にバイアス電圧を印加し、基材ホルダを回転させながら、基材の表面に下地層としての第1層(TiN層)を形成した。
次に、試料109のTiAlCeN層用ターゲットを用い、試料101と同一の形成条件(基材温度、バイアス電圧、アーク電流、反応ガス組成、反応ガス圧、遮蔽材と基材との距離)で基材上にTiAlCeN層を形成し、切削工具を得た。
(試料104)
試料104のTiAlCeN層用ターゲットと、第1層用ターゲットをチャンバ内で隣り合う位置に配置した。すなわち、基材ホルダが回転した際に、TiAlCeN層用ターゲットと基材2との位置関係と、第1層用ターゲットと基材2との位置関係が同等となるように、TiAlCeN層用ターゲット及び第1層用ターゲットを配置した。
次に、チャンバ内に遮蔽材を設置した。ターゲット材と、基材と、遮蔽材との位置関係は、図15に示される通りとした。
次に、基材ホルダを5rpmで回転させながら、試料1と同一の形成条件(基材温度、バイアス電圧、アーク電流、反応ガス組成、反応ガス圧、遮蔽材と基材との距離)で基材上にTiAlCeN層とAlCrN層とを交互に積層し、多層構造からなる被膜を形成し、切削工具を得た。
(試料2-1)
遮蔽材は設置しないこと以外は、試料104と同一の形成条件(基材温度、バイアス電圧、アーク電流、反応ガス組成、反応ガス圧)で基材上に多層構造からなる被膜を形成し、切削工具を得た。
Figure 2024005014000004

<評価>
≪被膜の構成≫
得られた各試料の切削工具のTiAlCeN層について、逃げ面に位置する第1のTiAlCeN層の組成Tix1Aly1Cez1N、および、切れ刃に位置する第2のTiAlCeN層の組成Tix2Aly2Cez2Nを測定した。具体的な測定方法は、実施形態1および実施形態2に示される通りである。結果を表4の「第1のTiAlCeN層」の「x1」、「y1」、「z1」欄、および、「第2のTiAlCeN層」の「x2」、「y2」および「z2」欄に示す。さらに、「z1-z2」の値も表4に示す。全ての試料において、x1+y1+z1=1、x2+y2+z2=1であることが確認された。また、全ての試料において、第1のTiAlCeN層の組成Tix1Aly1Cez1NにおけるTi、Al及びCeの原子数の合計AM1に対するNの原子数AN1の比AN1/AM1、および、第2のTiAlCeN層の組成Tix2Aly2Cez2NにおけるTi、Al及びCeの原子数の合計AM2に対するNの原子数AN2の比AN2/AM2は、0.8~1.2の範囲であることが確認された。
得られた各試料の切削工具のTiAlCeN層、第1層、および、被膜合計の厚さを測定した。具体的な測定方法は、実施形態1および実施形態2に示される通りである。結果を表4の「厚さ(μm)」の「TiAlCeN層」、「第1層(下地層)」、「第2層(表面層)」および「被膜合計」欄に示す。試料104および試料2-1の「多層構造(5.0μm) TiAlCeN層(6nm)/AlCrN層(7nm)」との記載は、被膜が厚さ6nmのTiAlCeN層と厚さ7nmのAlCrN層とが交互に積層された多層構造を含み、該多層構造の全体の厚さが5.0μmであることを示す。
得られた各試料の切削工具のTiAlCeN層の結晶構造を測定した。全ての試料において、TiAlCeN層は立方晶型結晶構造を有することが確認された。
≪切削試験≫
各試料の切削工具を用いて以下の条件で切削試験を行い、逃げ面側の摩耗の幅が200μmとなる、又は、熱亀裂が200μmとなるまでの切削距離(m)を測定した。該切削距離が長いほど、切削工具の工具寿命が長いと判断される。結果を表4の「切削試験」欄に示す。
(切削条件)
被削材:SCM435Hブロック材
切削速度Vc:350m/min
送り量fz:0.2mm/rev
切り込み量ap:2.0mm
乾式
上記の切削条件は、切れ刃への負荷が大きく、逃げ面の機械的摩耗や熱亀裂が生じやすい。
Figure 2024005014000005
<考察>
試料101~試料112の切削工具は実施例に該当する。試料2-1~試料2-5の切削工具は比較例に該当する。試料101~試料112の切削工具(実施例)は、試料2-1~試料2-5(比較例)の切削工具より、長い工具寿命を有することが確認された。
以上のように本開示の実施の形態および実施例について説明を行なったが、上述の各実施の形態および実施例の構成を適宜組み合わせたり、様々に変形することも当初から予定している。
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した実施の形態および実施例ではなく特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味、および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
1 切削工具
2 基材
2a すくい面
2b 逃げ面
2c 切れ刃
3 被膜
11 すくい面
12 逃げ面
13 切れ刃
30 TiAlCeN層
31 第1層
32 下地層
33 表面層
50 遮蔽材
51 ターゲット材
52 チャンバ

Claims (6)

  1. 基材と、前記基材上に配置された被膜と、を備える切削工具であって、
    前記切削工具は、
    すくい面、
    前記すくい面に連なる逃げ面、および、
    前記すくい面と前記逃げ面との境界部分からなる切れ刃を含み、
    前記被膜は、TiAlCeN層を含み、
    前記TiAlCeN層は、
    前記すくい面または前記逃げ面に位置する第1のTiAlCeN層と、
    前記切れ刃に位置する第2のTiAlCeN層と、を有し、
    前記第1のTiAlCeN層の組成は、Tix1Aly1Cez1Nであり、
    前記第2のTiAlCeN層の組成は、Tix2Aly2Cez2Nであり、
    ここで、
    x1+y1+z1=1、
    x2+y2+z2=1、
    0.300<y1≦0.700、
    0.300<y2≦0.700、
    0.010<z1≦0.100、
    0<z2≦0.090、および、
    z1-z2≧0.010である、切削工具。
  2. 前記TiAlCeN層の厚さは、0.5μm以上15μm以下である、請求項1に記載の切削工具。
  3. 前記被膜は、さらに第1層を含み、
    前記第1層は、
    周期表の第4族元素、第5族元素、第6族元素、アルミニウムおよび珪素からなる第1群より選ばれる少なくとも1種の元素からなる、または、
    前記第1群より選ばれる少なくとも1種の元素と、炭素、窒素、酸素および硼素からなる第2群より選ばれる少なくとも1種の元素と、からなる第1化合物からなる、請求項1または請求項2に記載の切削工具。
  4. 前記第1群は、チタン、クロム、アルミニウムおよび珪素からなる、請求項3に記載の切削工具。
  5. 前記被膜の厚さは、0.5μm以上15μm以下である、請求項1または請求項2に記載の切削工具。
  6. 前記被膜は、前記TiAlCeN層と前記第1層とが交互に積層された多層構造を含む、請求項3に記載の切削工具。
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