JP2023500182A - 移植片拒絶反応、閉塞性細気管支炎症候群、及び移植片対宿主病の治療に使用するためのアルベレスタット - Google Patents

移植片拒絶反応、閉塞性細気管支炎症候群、及び移植片対宿主病の治療に使用するためのアルベレスタット Download PDF

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Abstract

本発明は、臓器拒絶反応の治療、特に、アルベレスタットなどの好中球エラスターゼ阻害剤を投与することによる肺移植関連閉塞性細気管支炎症候群の治療に関する。本発明は移植片対宿主病の治療にも関する。【選択図】なし

Description

政府のライセンス権
本発明は米国国立衛生研究所によって授与された1UG3TR002448-01に基づく政府の支援を受けてなされた。政府は本発明における一定の権利を有する。
関連出願の相互参照
本出願は、2019年9月17日出願の米国仮特許出願第62/901638の優先権の利益を主張する。この出願の内容は本明細書に援用される。
本発明は、好中球エラスターゼ阻害剤、特にアルベレスタット(alvelestat)またはその薬学的に許容される塩及び/または溶媒和物を、それを必要とする対象に投与することを含む、新規な移植片拒絶反応ならびに移植片対宿主病の治療あるいは予防方法に関する。
臓器、骨髄、及びヒト幹細胞の移植によりヒトの健康は増進してきた。しかしながら、移植は、非自己組織を認識して該組織に反応する免疫系の能力に付きまとわれている。このことは、当該組織が遺伝的に類似はしているが同一ではないドナーに由来し、ヒト白血球抗原(HLA)組織型のミスマッチがある場合の同種移植において特にリスクとなる。
実質臓器移植後の移植片拒絶反応は、レシピエントの免疫系(特にレシピエントの成熟したαβ T細胞)が、ドナー臓器の細胞上で発現される外来HLA抗原を認識する場合に起こる可能性がある。そのことは、ミスマッチのドナー抗原に対する宿主の非自己反応性(allo-responsiveness)によって決定される。急性拒絶反応は通常移植後最初の数週間から数ヶ月以内に起こり、慢性拒絶反応の発症の主要な危険因子である。慢性拒絶反応に対するその他の危険因子としては感染症が挙げられる。慢性拒絶反応は通常移植後数ヶ月から数年以内に発症し、長期的な移植片機能喪失の主たる原因である。臨床的には、慢性拒絶反応は、同種移植片実質が線維性瘢痕組織に置き換わるという結果を招く遅い過程として特徴付けられる。
肺移植は進行した肺疾患または不可逆的な肺不全の患者にとって重要な治療の選択肢であり、毎年全世界で約3,500件の肺移植が行われている。しかしながら、移植後1年以内にすべての肺移植レシピエントの約3分の1に急性肺拒絶反応が起こり、依然として肺移植後の長期生存に対する主たる障害である慢性肺拒絶反応(すなわち慢性肺同種移植片機能不全(CLAD))に発展する可能性がある。これは移植後3ヶ月を超えて生存する肺移植のレシピエントの移植片機能喪失及び死亡の主因である。
肺移植関連閉塞性細気管支炎症候群(LT-BOS)がCLADの最も一般的な形態であり、これは肺機能の低下として現れ、多くの場合進行性である。これは、閉塞性細気管支炎(OB)につながる、肺同種移植片の小気道の炎症、破壊、及び線維化によって生じると考えられている。診断後の生存期間中央値は3~5年である[1]。
発生率の高さにもかかわらず、現在、慢性移植片拒絶反応、特にLT-BOSに対する十分な治療法はない。LT-BOSに対する現在の選択肢としては、免疫抑制療法(多くの場合3種の組み合わせ)、ネオマクロリド(neo-macrolides)(アジスロマイシンなど)、ならびに併発する胃食道逆流症や感染症の治療が挙げられる。しかしながら、現在利用可能な治療法を裏付ける証拠は限られており、治療上の反応は一般に不十分であり、且つ重篤な有害事象の危険性が高い。すなわち、免疫抑制療法は免疫再構築を大幅に損ない、感染症の危険性を高める。最後の手段として、肺の再移植を検討する場合があり得るが、転帰は不十分であり、且つドナー臓器は不足している。結果として、ISHLT/ATS/ERSBOS Task Forceは2014年に、LT-BOSの予防または治療において、有意義な利益をもたらすことが証明されている現在利用可能な治療法はないと結論付けた[2]。
移植片拒絶反応におけるさらなる合併症として、同種移植片中に含まれる成熟したドナーのαβ T細胞によって、該移植片のレシピエントに対して開始される免疫応答が移植片対宿主病(GVHD)につながる可能性がある。通常、GVHDは同種造血幹細胞移植の状況で見られるが、免疫不全の患者が輸血を受けた際にも起こり得る。急性GVHDは、皮膚、肝臓、消化管の損傷を特徴とする一方、慢性GVHDはより多様な症状を示し、自己免疫症候群に類似する場合がある。標準治療は免疫抑制療法であるが、上述したように、これは有害事象の高い危険性を伴い、感染症の危険性が高まる[10]。
したがって、慢性移植片拒絶反応及びGVHD、特にLT-BOSの治療及び予防のための新規な療法が求められている。
驚くべきことに、アルベレスタットなどの好中球エラスターゼ(NE)の阻害剤は、GVHD及び移植片拒絶反応、特にLT-BOSの治療及び予防に有用である。これは予想外のことであり、それは、GVHD及び移植片拒絶反応の主たる駆動因子は、一般的に好中球ではなくTリンパ球及びBリンパ球であると考えられていることによる。NE阻害剤がGVHDまたは移植片拒絶反応に対して有効であることはこれまで実証されたことはなかった。特に、NE阻害剤が移植片拒絶反応、特にLT-BOSの治療または予防において有用性である可能性があることはこれまで認識されてこなかった。
したがって、本発明は、有効量の好中球エラスターゼ阻害剤、特にアルベレスタットまたはその薬学的に許容される塩及び/または溶媒和物を、それを必要とする対象に投与することを含む、移植片拒絶反応の治療あるいは予防方法を提供する。
本発明は、有効量の好中球エラスターゼ阻害剤、特にアルベレスタットまたはその薬学的に許容される塩及び/または溶媒和物を、それを必要とする対象に投与することを含む、肺移植関連閉塞性細気管支炎症候群(LT-BOS)の治療あるいは予防方法をさらに提供する。
本発明は、有効量の好中球エラスターゼ阻害剤、特にアルベレスタットまたはその薬学的に許容される塩及び/または溶媒和物を、それを必要とする対象に投与することを含む、移植片対宿主病(GVHD)の治療あるいは予防方法をさらに提供する。
本発明はまた、有効量の好中球エラスターゼ阻害剤、特にアルベレスタットまたはその薬学的に許容される塩及び/または溶媒和物を、それを必要とする対象に投与することを含む、GVHDに関連する閉塞性細気管支炎症候群(BOS)、例えば造血幹細胞移植に関連するBOSの治療あるいは予防方法も提供する。
アルベレスタットによる生存率の向上を示す一連の折れ線グラフである。BALB/cマウスに8.5GyのTBIを行った後、B10.D2ドナーから、T細胞除去骨髄のみ(TCDBM)、TCDBM+2×10のT細胞(TCDBM+T2e6)、またはTCDBM+T2e6+3レベル(20mg/kg、50mg/kg、または200mg/kg)のうちの1つの用量のアルベレスタット(予め混合した食餌ペレットで(1A、1C、1E)またはウェット型フードに添加した粉末として(1B、1D、1F)のいずれかで投与)のいずれかを移植した。評価項目としては、生存率(1A、1B)、体重(1C、1D)、及びGVHDスコア(1E、1F)が挙げられる。個々の実験(n=5)を2回繰り返しで実施し、結果を図(n=10/群)にまとめた。 生存率(2A)、体重(2B)、及びGVHDスコア(図2C)に対する異なる用量のT細胞の影響を示す一連の折れ線グラフである。BALB/cマウスに8.5Gyの全身照射(TBI)を行った後、B10.D2ドナーから、T細胞除去骨髄のみ(TCDBM)、TCDBM+3つの異なるレベルのうちの1つの用量のT細胞(1×10(TCDBM+T1e6)、1.5×10(TCDBM+T1.5e6)、2×10(TCDBM+T2e6))、またはTCDBM+2×10のT細胞+予め混合した食餌ペレット中のアルベレスタット20mg/kg(TCDBM+T2e6+20mg/kg-食餌)のいずれかを移植した(n=5/群)。TCDBM+T2e6+20mg/kgを移植したマウスは、TCDBM+T2e6のみを移植したマウスよりも生存率が高く(p<0.001)、より低い用量のT細胞を移植したマウスと同等の生存率であった。 T細胞除去骨髄+2×10のT細胞を移植されたマウスにおけるGVHDの一連の組織学的所見である。TCDBM+T2e6を移植したマウス由来の皮膚の組織学的検査では、顕著にヒアリン化した/線維化した真皮、脂肪萎縮、毛包の喪失、及び時折見られる上皮アポトーシスを伴う重度の皮膚GVHDが見られ(A)、同様に、TCDBM+T2e6を移植したマウス由来の小腸粘膜の組織学的検査では、有糸分裂活性及びアポトーシスが増加した顕著に反応性の/再生性の上皮を伴う重度の腸GVHDが見られる(B)。対照的に、TCDBMのみ(T細胞なし)を移植したマウス由来の皮膚の組織学的検査では、真皮内の線維結合組織が緩んでおり、皮下脂肪組織が十分であり、上皮及び毛包が正常であり、GVHDの兆候は見られず(C)、同様に、TCDBMのみを移植したマウス由来の腸粘膜の組織学的検査では、適切な細胞充実性が適度であり、上皮の外観が健康であり、GVHDの兆候は見られない(D)。 GI GVHDの組織学的スコアリングを示すプロットである。薬物(20mg/kg)を投与したマウスは、経験豊富な病理学者が盲検法で評価して、GVHDの罹患が顕著に少なかった。
以下の説明は、本開示が特許請求の範囲に記載された主題の例示と見なされるべきであり、添付の特許請求の範囲を例証された特定の実施形態に限定することを意図しないとの理解に基づいてなされている。本開示は、さまざまな実施形態及び技法に言及する。しかしながら、本開示の趣旨及び範囲内にとどまりながら、多くの変形及び改変を行うことができることを理解されたい。本開示を通じて使用される見出しは、便宜上記載されており、特許請求の範囲を何ら限定するものと解釈されるべきではない。いずれかの見出しの下で説明されている実施形態は、いずれかの他の見出しの下で説明されている実施形態と組み合わせることができる。
別段の定義がない限り、本明細書で使用されるすべての技術的及び科学的用語は、当業者によって一般的に理解されるものと同一の意味を有する。本明細書を通じて及びそれに続く特許請求の範囲において、以下の用語は別段の明示がない限り以下の意味によって定義される。
文脈上別段の必要性がない限り、本明細書及び特許請求の範囲を通じて、用語「含む(comprise)」ならびに「含む(comprises)」及び「含む(comprising)」などのその変化形は、開放型で包括的な意味、すなわち、「~を含むがそれに限定されない」と解釈されたい。
複数形が、化合物(compounds)、塩(salts)などに対して使用される場合、これは単一の化合物、塩なども意味すると解釈される。
本明細書では、用語「または」とは、それが使用される文脈が明らかに別段の指示をしない限り、一般に「及び/または」を含む意味で使用される。
本明細書ではまた、両端による数値範囲の記載には、その範囲内に含まれるすべての数が含まれる(例えば、1~5は、1、1.5、2、2.75、2.75、3、3.80、4、5などが含まれる)。
本明細書では、用語「約」とは、記載された値±記載された値±10%を意味する。
本明細書では、「治療(treatment)」または「治療すること(treating)」は、有益なまたは所望の結果を得るためのアプローチである。本発明の目的のためには、有益なまたは所望の結果としては、症状の軽減及び/または疾患もしくは疾病に関連する症状の程度の低下が挙げられるが、これらに限定はされない。「治療」または「治療すること」には、以下、すなわち、a)疾患または疾病を阻害すること(例えば、疾患もしくは疾病に起因する1つ以上の症状を減少させること、及び/または疾患もしくは疾病の程度を低下させること、b)疾患または疾病に関連する1つ以上の症状の発症を遅延させるまたは阻止すること(例えば、疾患または疾病を安定させること、疾患もしくは疾病の悪化または進行を遅延させること)、ならびにc)疾患または疾病を緩和すること、例えば、臨床症状を退行させること、病状を寛解させること、疾患の進行を遅延させること、生活の質を高めること、及び/または生存を延長することの1以上が含まれる。
本明細書では、「予防(prevention)」または「予防すること(preventing)」とは、疾患の臨床症状が発症しないような、疾患または障害の発症に対して保護するレジメンをいう。したがって、「予防」は、対象において疾患の徴候が検出可能になる前に、上記対象に治療を施すこと(例えば、治療用物質の投与)に関連する。上記対象は、疾患もしくは障害の発症(development)または発病(onset)に関連することが知られている1つ以上の危険因子を有する個体などの、疾患または障害の発症する危険性がある個体であってよい。したがって、本発明における用語「予防すること」とは、移植を受ける予定の、または関連する疾病をいまだ発症することなく、最近移植を受けた対象に施すことを含む。
本明細書では、用語「治療有効量」または「有効量」とは、所望の生物学的または医学的反応を誘発するのに有効な量であって、疾患を治療するために対象に投与された際に、該疾患に対するかかる治療を実現するのに十分である化合物の量を含む上記の量をいう。上記有効量は、特定の化合物、及び年齢、体重などの治療を受ける対象の特性に応じて変化することとなる。上記有効量としてはさまざまな量を挙げることができる。当技術分野において理解されているように、有効量は1回または複数回の用量の形態であってよい、すなわち、所望の治療評価項目を達成するためには、単回投与または複数回投与が必要とされる場合がある。有効量は、1種以上の治療薬を投与する状況で考えられる場合があり、1種以上の他の薬剤との併用で望ましいもしくは有益な結果が達成される可能性があるまたは達成される場合、単一の薬剤を有効量で投与することが考えられてもよい。いずれかの同時投与される化合物の適切な用量は、当該化合物の複合作用(例えば、相加効果または相乗効果)により、任意選択で減量される場合がある。
本明細書では、用語「溶媒和物」は、本発明の化合物と1種以上の薬学的に許容される溶媒分子、例えばエタノールまたは水とを含む分子錯体を表すために使用される。用語「水和物」は上記溶媒が水である場合に使用され、疑義を回避するために、用語「水和物」は用語「溶媒和物」に包含される。
用語「薬学的に許容される塩」とは、生理学的または毒物学的に許容される塩を意味し、適切な場合、薬学的に許容される塩基付加塩及び薬学的に許容される酸付加塩が挙げられる。例えば、ある化合物がアミノ基などの塩基性基を含む場合、形成することができる薬学的に許容される酸付加塩としては、塩酸塩、臭化水素酸塩、硫酸塩、リン酸塩、酢酸塩、クエン酸塩、乳酸塩、酒石酸塩、メシル酸塩、コハク酸塩、シュウ酸塩、リン酸塩、エシル酸塩、トシル酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、ナフタレンジスルホン酸塩、マレイン酸塩、アジピン酸塩、フマル酸塩、馬尿酸塩、樟脳酸塩、キシナホ酸塩、p-アセトアミド安息香酸塩、ジヒドロキシ安息香酸塩、ヒドロキシナフトエ酸塩、コハク酸塩、アスコルビン酸塩、オレイン酸塩、硫酸水素塩などが挙げられる。酸及び塩基のヘミ塩、例えば、ヘミ硫酸塩及びヘミカルシウム塩も形成することができる。好適な塩の総説としては、Stahl and Wermuthによる“Handbook of Pharmaceutical Salts:Properties,Selection and Use”(Wiley-VCH,2011)を参照されたい。
「薬学的に許容される」または「生理学的に許容される」とは、医薬用途に適した化合物、塩、組成物、剤形などをいう。
用語「対象」とは、好ましくはヒト、通常は移植を受けたまたは移植を受けようとしているヒトをいう。
本明細書において参照されるすべての文書はすべての目的のために、それらの全体がそれぞれ援用される。
アルベレスタット
本発明で使用される好ましい好中球エラスターゼ阻害剤はアルベレスタットである。
アルベレスタットは、WO2005/026123A1(実施例94、85ページ)及び[3](それらの全体が本明細書に援用される)に記載の強力な、経口で生物学的に利用可能な好中球エラスターゼ阻害剤である。アルベレスタットは、N-{[5-(メタンスルホニル)ピリジン-2-イル]メチル}-6-メチル-5-(1-メチル-1H-ピラゾール-5-イル)-2-オキソ-1-[3-(トリフルオロメチル)フェニル]-1,2-ジヒドロピリジン-3-カルボキサミドの化学名、及び以下の化学構造:
Figure 2023500182000001

を有する。
アルベレスタットはAZD9668及びMPH996とも呼ばれている。
アルベレスタットは、任意の薬学的に許容される形態、例えば、任意の遊離塩基の形態、塩の形態、及び/または溶媒和の形態で本発明に使用することができる。アルベレスタットまたはその薬学的に許容される塩及び/または溶媒和物は、任意の薬学的に許容される物理的形態、好適には固体形態で存在していてよい。
アルベレスタットの特定の塩はWO2010/09464A1(その全体が本明細書に援用される)に記載されている。記載されるアルベレスタットの塩としては、トシル酸塩、p-キシレン-2-スルホン酸塩、塩化物、メシル酸塩、エシル酸塩、1,5-ナフタレンジスルホン酸塩、及び硫酸塩が挙げられる。
本発明の方法では、アルベレスタット遊離塩基またはアルベレスタットトシル酸塩が使用されることが好ましく、アルベレスタットのトシル酸がより好ましい。
アルベレスタットはまた、本発明の方法のいずれかにおいて、薬学的に許容されるプロドラッグの形態で使用することもできる。
好中球エラスターゼ阻害剤
好中球エラスターゼ(NE)は、肺組織を攻撃し、進行性で損傷を与える酵素である。NEを阻害する化合物は[13]に概説されており、WO2017207430、WO2017102674、WO2016050835、WO2016050835、WO2016016368、WO2016016366、WO2016016365、WO2016016364、WO2016016363、WO2015124563、WO2016020070、WO2015091281、WO2014135414、WO2014122160、WO2015096873、WO2015096872、WO2014029832、WO2014029831、WO2014029830、WO2014009425、WO2013084199、WO2013037809、WO2011103774、WO2011110858、WO2011110859、WO2011110852、WO2011039528、WO2010034996、WO2009061271、WO2009058076、WO2009060206、WO2007137080、WO2007137080、WO2007140117、WO2008036379、WO2008036379、WO9962538、WO9962538、WO9962514、WO9739028、WO9616080、WO9533763、WO9533762、WO9527055、WO9311760、WO9220357、WO9215605、WO9215605、WO03058237、WO03031574、WO03031574、WO2008030158、WO2007129963、WO2007129962、WO2006098684、WO2005026124、WO2005026123、WO2005021509、WO2005021512、WO2004043924、WO2009060158、WO2009037413、WO2009013444、WO2007129060、WO2007107706、WO2007107706、WO2006136857、WO2006082412、WO2006082412、WO9623812、WO9521855、WO9401455、WO9324519、WO9321214、WO9321210、WO9321213、WO9321209、WO9321212、WO2006070012、WO2005082863、WO2005082863、WO2005082864、WO9912933、WO9912933、WO9912931、WO9736903、WO2004020412、WO2008104752、WO2008097676、WO200809767、WO2008085608(これらのそれぞれは援用される)を含むさまざまな刊行物から公知である。これらの刊行物に記載される好中球阻害剤のそれぞれは本発明の方法で使用することができ、本発明の方法での使用に関して、本明細書において個別に開示されているのと同様に言及される。
好ましい好中球エラスターゼ阻害剤であるアルベレスタットに加えて、本発明において使用することができる他の例示的な好中球エラスターゼ阻害剤としては、シベレスタット、ONO-5046-Na、デペレスタット、プロラスチン、KRP-109、DX-890、プレエラフィン、MNEI、BAY 85-8501、POL6014、α1-AT、シルチノール、ONO-6818(2-(5-アミノ-6-オキソ-2-フェニル-1,6-ジヒドロピリミジン-1-イル)-N-[(1R,2R)-1-(5-tert-ブチル-1,3,4-オキサジアゾール-2-イル)-1-ヒドロキシ-3-メチルブタン-2-イル]アセトアミド)、エラスタチナール、SSR 69071(2-[[6-メトキシ-4-(1-メチルエチル)-1,1-ジオキソ-3-オキソ-1,2-ベンズイソチアゾール-2(3H)-イル]メトキシ]-9-[2-(1-ピペリジニル)エトキシ]-4H-ピリド[1,2-a]ピリミジン-4-オン)、及びM0398(N-(メトキシスクシニル)-L-アラニル-L-アラニル-L-プロリル-L-バリンクロロメチルケトン)、ならびにそれらの薬学的に許容される塩及び/または溶媒和物が挙げられる。
用語好中球エラスターゼ阻害剤は、該化合物のすべての薬学的に許容される形態、例えば、すべての薬学的に許容される塩、溶媒和物、異性体、及びプロドラッグの形態を含む。
特定の実施形態において、上記好中球エラスターゼ阻害剤は小分子化合物であり、すなわち、約900ダルトン未満の分子量を有する。
上記好中球エラスターゼ阻害剤はヒト好中球エラスターゼの阻害剤であることが好ましい。
本発明の多くの実施形態はアルベレスタットに関連するが、本明細書に記載される「アルベレスタット」に言及するそれぞれの及びすべての実施形態について、本発明は「好中球エラスターゼ阻害剤」の使用を含む対応する実施形態も提供することを理解されたい。
治療
本発明は、概括的には、それを必要とする対象における移植片拒絶反応、急性移植片拒絶反応、慢性移植片拒絶反応、CLAD、LT-BOS、GVHDなどの治療または予防方法であって、有効量の好中球エラスターゼ阻害剤、特にアルベレスタットまたはその薬学的に許容される塩及び/または溶媒和物を上記対象に投与することを含む上記方法を提供する。
したがって、本発明は、それを必要とする対象における移植片拒絶反応の治療または予防方法であって、有効量のアルベレスタットまたはその薬学的に許容される塩及び/または溶媒和物を上記対象に投与することを含む上記方法を提供する。
移植片拒絶反応は臓器移植拒絶反応とも呼ばれる場合がある。
本明細書に記載の方法は、急性移植片拒絶反応を治療または予防するのに有用である。特定の実施形態において、本法は急性移植片拒絶反応を治療するためのものである。他の実施形態において、本法は急性移植片拒絶反応を予防するためのものである。
本明細書に記載の方法は慢性移植片拒絶反応を治療または予防するのに有用である。特定の実施形態において、本法は慢性移植片拒絶反応を治療するためのものである。他の実施形態において、本法は慢性移植片拒絶反応を予防するためのものである。
移植片は、任意の実質臓器、特に頻繁に移植される実質臓器を含んでいてもよい。したがって、移植片は、腎臓、心臓、肝臓、肺、及び膵臓からなる群より選択される1つ以上の臓器を含んでいてもよい。
心臓(cardiac)(すなわち心臓(heart))同種移植片の慢性拒絶反応は、心臓同種移植片血管障害(CAV)によって現れる。CAVは通常、冠状血管の閉塞を特徴とする。CAVの5年間での発生率は30~40%である。したがって、本発明は、それを必要とする対象におけるCAVの治療または予防方法であって、有効量のアルベレスタットまたはその薬学的に許容される塩及び/または溶媒和物を上記対象に投与することを含む上記方法を提供する。
腎臓同種移植片の慢性拒絶反応は、心臓同種移植片腎症(CAN)によって明らかになる。CANは腎機能低下の主要な原因であり、10年後の移植片機能喪失の40%近くを占める。したがって、本発明は、それを必要とする対象におけるCANを治療または予防方法であって、有効量のアルベレスタットまたはその薬学的に許容される塩及び/または溶媒和物を上記対象に投与することを含む上記方法を提供する。
好ましい実施形態において、上記移植片は肺を含む。上記移植片は片肺移植または両肺移植であってもよい。上記移植片は心肺移植であってもよい。したがって、本発明は、それを必要とする対象における肺移植拒絶反応の治療または予防方法であって、有効量のアルベレスタットまたはその薬学的に許容される塩及び/または溶媒和物を上記対象に投与することを含む上記方法を提供する。上記肺移植拒絶反応は急性肺移植拒絶反応または慢性肺移植拒絶反応であってよい。
肺同種移植片の慢性拒絶反応は、慢性肺同種移植片機能不全(CLAD)によって現れる。したがって、本発明は、それを必要とする対象におけるCLADの治療または予防方法であって、有効量のアルベレスタットまたはその薬学的に許容される塩及び/または溶媒和物を上記対象に投与することを含む上記方法を提供する。
CLADの最も一般的な表現型は肺移植関連閉塞性細気管支炎症候群(LT-BOS)である。閉塞性細気管支炎(bronchiolitis obliterans)は閉塞性細気管支炎obliterative bronchiolitisと呼ばれることもある。一般的な特徴としては、閉塞性肺機能障害及び呼気CTにおけるエアートラッピング/モザイク減衰が挙げられる。したがって、本発明は、それを必要とする対象におけるLT-BOSの治療または予防方法であって、有効量のアルベレスタットまたはその薬学的に許容される塩及び/または溶媒和物を上記対象に投与することを含む上記方法を提供する。
本発明にかかるLT-BOSの予防方法は、特にLT-BOSの危険性がある対象に有用である。かかる対象は、一次移植片機能不全、胃食道逆流症、感染症、気道虚血、急性拒絶反応、リンパ球性細気管支炎、微生物(例えば、Pseudomonas aeruginosa及びAspergillus fumigatus)による感染症及びコロニー形成、ドナーとレシピエントとの遺伝学、粒子状物質、ならびにHLA抗体または自己抗原(K-α1チューブリン及びコラーゲンVなど)に対する抗体の存在からなる群より選択される1種以上の危険因子を保有する場合がある。
本発明は、それを必要とする対象におけるGVHDの治療または予防方法であって、有効量のアルベレスタットまたはその薬学的に許容される塩及び/または溶媒和物を上記対象に投与することを含む上記方法を提供する。GVHDは組織移植後に現れる。いくつかの実施形態において、移植片は、皮膚、造血幹細胞、血液、及び骨髄からなる群より選択される。好ましい実施形態において、上記移植は造血幹細胞である。
上記GVHDは急性移植片対宿主病(aGVHD)であってもよい。上記疾患は慢性移植片対宿主病(cGVHD)であってもよい。急性GVHDは通常、皮膚、肝臓、消化管の損傷を特徴とする一方、慢性GVHDは通常より多様な症状を示し、例えば、好酸球性筋膜炎、強皮症様皮膚疾患、ならびに唾液腺及び涙腺の病変などの自己免疫症候群に類似する場合がある。
さらなる実施形態は、薬学的に有効な量のアルベレスタットまたはその薬学的に許容される塩及び/または溶媒和物を同種造血幹細胞の移植のレシピエントに投与することを含む、aGVHD及びcGVHDを含むGVHDの症状の発症の阻害方法を提供する。
GVHDに関連する上記方法において、上記GVHDは、目、関節、筋膜、生殖器、肺、肝臓、皮膚、または消化管(例えば、口、食道)からなる群より選択される1つ以上に対する損傷によって特徴付けることができる。
特に、GVHDに関連する上記方法において、上記GVHDは、肺、肝臓、皮膚、または消化管からなる群より選択される1つ以上に対する損傷によって特徴付けることができる。
慢性GVHDは、さまざまな基準に従って分類することができる。The 2005 and 2014 National Institutes of Health Consensus Development Projects on Criteria for Clinical Trials in Chronic GVHDは慢性GVHD分類システムに関する用語を標準化した[16]。
1つの分類システムはNIH重症度スコアであり、これは関与する臓器の数及び重症度に基づいて、軽度、中等度、または重度に分類される。したがって、cGVHDの治療に関連する本発明の方法において、対象は、NIH重症度スコアに準拠した軽度、中等度、または重度であるcGVHDに罹患していてもよい。特に、上記cGVHDは中等度または重度、通常は重度であってよい。さらに、本明細書では、アルベレスタットまたはその薬学的に許容される塩及び/または溶媒和物を投与することを含む、cGVHDに罹患した対象におけるcGVHD重症度スコアの改善方法が提供される。
患者報告による転帰に基づく別の分類システムは、LeeのcGVHD症状スケールである[17]。したがって、cGVHD患者のLeeのcGVHD症状スケールを改善する方法は、アルベレスタットまたはその薬学的に許容される塩及び/または溶媒和物の投与を含む、本明細書で提供される。特に、本明細書では、アルベレスタットまたはその薬学的に許容される塩及び/または溶媒和物を投与することを含む、肺を冒すcGVHDに罹患した対象におけるLeeのcGVHD症状スケール肺スコアの改善方法が提供される。
本発明はまた、有効量のアルベレスタットまたはその薬学的に許容される塩及び/または溶媒和物を、それを必要とする対象に投与することを含む、GVHDに関連する閉塞性細気管支炎症候群(BOS)の治療または予防方法も提供する。好ましい実施形態において、上記対象は造血幹細胞移植を受けている。GVHDに関連する閉塞性細気管支炎症候群(BOS)の治療または予防に使用するためのアルベレスタットまたはその薬学的に許容される塩も提供される。また、GVHDに関連する閉塞性細気管支炎症候群(BOS)を治療もしくは予防するための薬剤を製造するための、アルベレスタットまたはその薬学的に許容される塩の使用も提供される。
記載された方法において、上記NE阻害剤、特にアルベレスタットまたはその薬学的に許容される塩及び/または溶媒和物は、移植前に上記対象に投与されてもよい。例えば、アルベレスタットの投与は、移植の14日前、7日前、3日前、2日前、または1日前に開始してもよい。
記載された方法において、上記NE阻害剤、特にアルベレスタットまたはその薬学的に許容される塩及び/または溶媒和物は、移植後に上記対象に投与されてもよい。例えば、アルベレスタットの投与は、移植の当日、または移植の1日後、2日後、3日後、7日後、もしくは14日後に開始してもよい。
BOS、特にLT-BOSに関連する本発明に係る方法はまた、対象における1種以上の呼吸機能パラメータを改善することも含んでいてよい。
特に、本発明に係る方法は、対象のFEV1を改善する可能性がある。強制呼気量(FEV)は、設定された期間、例えば1秒間にわたって測定された最大強制努力に基づく空気の呼気量(FEV1)である。
特に、本発明に係る方法は、対象の予測されるFEV1%を改善する可能性がある。予測されるFEV1%は、人種または民族、性別、年齢、身長、及び体重が類似的に一致する正常な人の予測されるFEV1に対する、対象のFEV1のパーセンテージで表した比率である。
したがって、有効量のNE阻害剤、特にアルベレスタットまたはその薬学的に許容される塩及び/または溶媒和物を投与することによる、LT-BOSに罹患した対象における予測されるFEV1%の改善方法も提供される。
特定の実施形態において、有効量のアルベレスタットまたはその薬学的に許容される塩及び/または溶媒和物による治療によって、予測されるFEV1%が、ベースラインのFVC%の予測される測定値と比較して、少なくとも約1%、1.5%、2.0%、2.5%、3.0%、4.0%、5.0%、6.0%、7.0%、8.0%、9.0%、10%、15%、20%、30%、40%、または50%増加する。さらなる実施形態において、有効量のアルベレスタットまたはその薬学的に許容される塩及び/または溶媒和物による治療によって、FEV1%の悪化が予防される。
LT-BOSに関連する本発明に係る方法はまた、対象のBOSの等級を改善することを含んでいてもよい。1993年に採用されたBOS分類スキームによって、移植後の肺機能低下の重症度に基づく病期分類システムが提供され、該スキームは臨床上の意思決定及び研究目的に使用されてきた。この病期分類システムは直近では2002年に改訂された[2]。上記2002年版のBOS分類スキーム:
Figure 2023500182000002

が本発明に従って使用される。
したがって、LT-BOSの治療に関連する実施形態において、有効量のアルベレスタットまたはその薬学的に許容される塩及び/または溶媒和物による治療によって、BOSの等級付けが少なくとも1等級改善される。LT-BOSの治療に関連するさらなる実施形態において、有効量のアルベレスタットまたはその薬学的に許容される塩及び/または溶媒和物による治療によって、BOSの等級付けの悪化が予防される。
BOSの診断は熟練した臨床医が行うことができる。高解像度胸部CTスキャンなどの画像検査及び呼吸機能検査がBOSの検出に役立つ。胸部X線も使用することができる。BOSを診断するために外科的肺生検を実施することもできる。肺生検は、内腔の線維性閉塞を伴う小気道の関与を示す場合がある。気管支肺胞洗浄(BAL)は、好中球及び/またはリンパ球の炎症を示す場合がある。
本発明ではまた、有効量の好中球エラスターゼ阻害剤、特にアルベレスタットまたはその薬学的に許容される塩及び/または溶媒和物を、それを必要とする対象に投与することを含む、結合組織病、全身性エリテマトー、関節リウマチ、感染症、毒性ガスへの曝露、もしくはスティーブンス・ジョンソン症候群に関連するBOSの治療または予防の方法も提供される。
本発明の方法による治療を受けるべき患者は、いくつかの実施形態において、そのベースラインFEV1が予測されるFEV1の30%以上、例えば35%以上、または40%以上のベースラインFEV1であってよい。上記患者のベースラインFEV1は、予測されるFEV1の20~90%、例えば30~80%、35~75%、または40~50%であってよい。
理論に拘束されることを望むものではないが、アルベレスタットは、好中球エラスターゼを阻害するその能力に起因して、本発明の方法において有益であると考えられる。したがって、本発明はまた、移植片拒絶反応もしくはGVHD、特にLT-BOSを含む、本明細書に記載のいずれかの疾病に罹患している、またはその危険性がある対象における好中球エラスターゼの阻害方法であって、有効量の好中球エラスターゼ阻害剤を上記対象に投与することを含む上記方法を提供する。有効量の好中球エラスターゼ阻害剤、特にアルベレスタットまたはその薬学的に許容される塩及び/または溶媒和物を上記対象に投与することを含む、好中球エラスターゼを阻害することによる、移植片拒絶反応またはGVHD、特にLT-BOSを含む、本明細書に記載のいずれかの疾病の上記治療あるいは予防方法のそれぞれも提供される。
本発明はまた、本開示において言及される対象、特に慢性GVHDなどの肺を冒すGVHDに罹患した対象における肺機能の改善方法であって、有効量のNE阻害剤、特にアルベレスタットまたはその薬学的に許容される塩及び/または溶媒和物を上記対象に投与することを含む上記方法にも関する。
本発明はまた、本開示において言及される対象、特に慢性GVHDなどの肺を冒すGVHDに罹患した対象における肺機能の悪化の予防方法であって、有効量のNE阻害剤、特にアルベレスタットまたはその薬学的に許容される塩及び/または溶媒和物を上記対象に投与することを含む上記方法にも関する。
本発明はまた、本開示において言及される対象、特に慢性GVHDなどの肺を冒すGVHDに罹患した対象における肺機能の安定化方法であって、有効量のNE阻害剤、特にアルベレスタットまたはその薬学的に許容される塩及び/または溶媒和物を上記対象に投与することを含む上記方法にも関する。
本発明はまた、本開示において言及される対象、特にcGVHDなどのGVHDに罹患した対象における疾患の進行または悪化の予防方法にも関する。本発明はまた、本発明はまた、本開示において言及される対象、特にcGVHDなどのGVHDに罹患した対象における疾患の安定化方法にも関する。
本発明はまた、本開示において言及される対象、特にcGVHDなどのGVHDに罹患した対象における疾患の進行の予防方法にも関する。本発明はまた、本発明はまた、本開示において言及される対象、特にcGVHDなどのGVHDに罹患した対象における疾患の安定化方法にも関する。
移植片拒絶反応、例えば慢性もしくは急性移植片拒絶反応の治療または予防に使用するためのアルベレスタットあるいはその薬学的に許容される塩及び/または溶媒和物も提供される。肺移植関連閉塞性細気管支炎症候群の治療もしくは予防に使用するためのアルベレスタットまたはその薬学的に許容される塩も提供される。GVHDの治療もしくは予防に使用するためのアルベレスタットまたはその薬学的に許容される塩も提供される。
移植片拒絶反応、例えば慢性もしくは急性移植片拒絶反応を治療または予防するための薬剤の製造のための、アルベレスタットあるいはその薬学的に許容される塩及び/または溶媒和物の使用も提供される。肺移植関連閉塞性細気管支炎症候群を治療もしくは予防するための薬剤の製造のための、アルベレスタットまたはその薬学的に許容される塩の使用も提供される。GVHDを治療もしくは予防するための薬剤の製造のための、アルベレスタットまたはその薬学的に許容される塩の使用も提供される。
投与
上術の治療適応症に関して、投与される好中球阻害剤、特にアルベレスタットまたはその薬学的に許容される塩及び/または溶媒和物の用量は、治療を受ける疾患、該疾患の重症度、投与様式、患者の年齢、体重、及び性別に依存することとなる。かかる因子は主治医が決定することができる。但し一般には、上記化合物が0.1mg/kg~100mg/kg(有効成分として測定して)の日用量でヒトに投与される場合に十分な結果が得られる。
上記日用量は、0.5~1000mg/日、例えば50~800mg/日、特に50~600mg/日、より詳細には、120mg~550mg、さらにより詳細には、200~500mgであることが好適である。例えば、上記日用量は約240、270、300、330、360、390、420、450、または480mg/日である。上記用量は単回用量として、または、例えば、総日用量を2回分以上の少量に分割し、これらを当日中に投与する、分割用量として投与してもよい。投与は、毎日、または1日に複数回(例えば1日2回)、または週に複数回、または毎月、または月に複数回行ってもよい。
特定の実施形態において、アルベレスタットまたはその薬学的に許容される塩及び/または溶媒和物は1日2回投与される(BID投与)。さらなる実施形態において、アルベレスタットまたはその薬学的に許容される塩及び/または溶媒和物は1日2回投与され、各用量は、最大で240mgのアルベレスタット遊離塩基と等価な量であり、例えば、60mgを1日2回、90mgを1日2回、120mgを1日2回、150mgを1日2回、180mgを1日2回、210mgを1日2回、または240mgを1日2回である。特に、120mgが1日2回投与されるか、または240mgが1日2回投与される。
化合物は、有効な投与レジメンに従って、少なくとも1週間、少なくとも約1ヶ月、少なくとも約2ヶ月、少なくとも約3ヶ月、少なくとも約6ヶ月、少なくとも約12ヶ月、少なくとも約24ヶ月、またはそれ以上などの所望の期間(period of time)すなわち期間(duration)、個体に投与することができる。例えば、上記化合物は、対象の生涯にわたって、毎日または断続的なスケジュールで投与される場合がある。
アルベレスタットまたはその薬学的に許容される塩及び/または溶媒和物の上記用量は、本発明のすべての方法において、用量漸増レジームに従って投与してもよい。これにより、例えば240mgを1日2回のアルベレスタットの標準的な日用量まで、安全に用量設定を行うことが可能になる。例えば、本発明に係る、240mgを1日2回のアルベレスタットの標準的な日用量までの用量漸増レジームは、アルベレスタットまたはその薬学的に許容される塩及び/または溶媒和物を、第1の期間に60mgの用量のアルベレスタットを1日2回、続いて第2の期間に120mgを1日2回、続いて第3の期間180mgを1日2回、その後240mgを1日2回投与することを含む。上記第1、第2、及び第3の期間は、それぞれ10~20日、例えばそれぞれ約2週間であってもよい。特に、アルベレスタットまたはその薬学的に許容される塩及び/または溶媒和物は、60mgを1日2回で2週間、続いて120mgを1日2回で2週間、続いて180mgを1日2回で2週間、その後240mgを1日2回で投与される。用量は、アルベレスタット遊離塩基の等価量と呼ばれる。
組成物
好中球阻害剤、特にアルベレスタットまたはその薬学的に許容される塩及び/または溶媒和物は、医薬組成物の形態で対象に投与される。
したがって、本発明は、有効量の好中球阻害剤、特にアルベレスタットまたはその薬学的に許容される塩及び/または溶媒和物と、1種以上の薬学的に許容される賦形剤とを含む医薬組成物を、それを必要とする対象に投与することを含む、本明細書に記載の疾病のいずれかの治療または予防方法を提供する。
医薬組成物は、通常の慣行に従って選択することができる1種以上の薬学的に許容される賦形剤を用いて調製することができる。
「薬学的に許容される賦形剤」としては、米国食品医薬品局によってヒトにおける使用が許容されるものとして認可されている、アジュバント、担体、賦形剤、流動促進剤、甘味料、希釈剤、防腐剤、色素/着色料、香味料、界面活性剤、湿潤剤、分散剤、懸濁剤、安定剤、等張剤、溶媒、または乳化剤が挙げられるが、これらに限定はされない。すべての組成物は、Shesky et al.,Handbook of Pharmaceutical Excipients,8th edition,2017に記載されるものなどの賦形剤を任意選択で含んでいてもよい。賦形剤としては、アスコルビン酸及び他の抗酸化剤、EDTAなどのキレート剤、デキストリンなどの炭水化物、ヒドロキシアルキルセルロース、ヒドロキシアルキルメチルセルロース、ステアリン酸などを挙げることができる。
医薬組成物としては、経口投与を含むさまざまな投与経路に適したものが挙げられる。上記組成物は単位剤形で提供されてもよく、製薬の分野で周知の任意の方法によって調製することができる。かかる方法は、活性成分(例えば、本開示の化合物またはその薬学的に許容される塩)を1種以上の薬学的に許容される賦形剤と混合するステップを含む。上記組成物は、上記活性成分を液体賦形剤もしくは微細に分散された固体賦形剤、またはその両方と均一且つ密接に混合し、次いで、その生成物を必要に応じて成形することによって調製することができる。技及び処方は、Remington:The Science and Practice of Pharmacy,22nd Edition,2012に概括的に記載されている。
好ましい医薬組成物は、錠剤などの固形経口剤形を含む固形剤形である。錠剤は、流動促進剤、充填剤、結合剤などを含む賦形剤を含んでいてもよい。
本明細書に記載の方法に実施において、上記医薬組成物は、当該化合物が生物学的に利用可能になる任意の形態及び経路で投与することができる。したがって、上記医薬組成物は、経口経路及び非経口経路を含むさまざまな経路、より詳細には、吸入による投与、皮下投与、筋肉内投与、静脈内投与、経皮投与、鼻腔内投与、直腸投与、膣内投与、眼内投与、局所投与、舌下投与及び頬側投与、腹腔内投与、静脈内投与、動脈内投与、経皮投与、舌下投与、筋肉内投与、直腸投与、経頬側投与、鼻腔内投与、脂肪内投与、髄腔内投与により、ならびに、例えばカテーテルまたはステントによる局所送達を介して投与することができる。上記医薬組成物は経口投与されることが好ましい。
経口使用に用いる場合、錠剤、トローチ、ロゼンジ剤、水性または油性懸濁液剤、粉末または顆粒の分散液剤、乳液液、硬質または軟質カプセル剤、シロップ剤またはエリキシル剤を調製することができる。経口投与に適した本明細書に記載の組成物は、それぞれが所定量の活性成分を含むカプセル剤、カシェ剤、または錠剤を含む、但しこれらに限定されない別個の単位(単位剤形)として提供されてもよい。上記医薬組成物は錠剤であることが好ましい。
水性組成物は無菌形態で調製してもよく、経口投与以外による送達を意図する場合には、一般的に等張性であってよい。
不活性成分と配合して剤形を製造することができる有効成分の量は、意図する治療対象及び特定の投与様式に応じて変化させることができる。
併用療法
本発明において、上記方法は、1種以上のさらなる治療薬を対象に投与するステップをさらに含んでいてもよい。上記1種以上のさらなる治療薬の投与は、上記好中球阻害剤の投与の前、該投与と同時、または該投与の後に行ってもよい。
さらなる治療薬としては、免疫抑制剤、抗感染剤、抗炎症剤、及び鎮痛剤が挙げられる。
特定の実施形態において、上記1種以上の治療薬は免疫抑制剤である。例えば、1種、2種、または好ましくは3種の免疫抑制剤を投与してもよい。
上記免疫抑制剤は、例えば、コルチコステロイド(例えば、メチルプレドニゾロン、プレドニゾン、プレドニソロン、ブデソニド、デキサメタゾン)、ヤヌスキナーゼ阻害剤(例えばトファシチニブ)、カルシニューリン阻害剤(例えば、シクロスポリン、タクロリムス)、mTOR阻害剤(例えば、シロリムス、エベロリムス、テムシロリムス)、生物製剤(例えば、アバタセプト、アダリムマブ、アナキンラ、セルトリズマブ、エタネルセプト、ゴリムマブ、インフリキシマブ、イキセキズマブ、ナタリズマブ、リツキシマブ、セクキヌマブ、トシリズマブ、ウステキヌマブ、ベドリズマブ)、モノクローナル抗体(例えば、バシリキシマブ、ダクリズマブ)、チロシンキナーゼ阻害剤(例えばイマチニブ)、サリドマイド、ペントスタチン、アザチオプリン、ミコフェノラート、及びメトトレキサートからなる群より選択されてもよい。
特定の実施形態において、上記方法は、免疫抑制剤、例えば、タクロリムス、ミコフェノラート、及びコルチコステロイドの三種の組み合わせを対象に投与するステップをさらに含む。
上記1種以上の治療薬は抗感染剤であってもよい。抗感染剤は、抗生物質、抗真菌剤、駆虫剤、抗マラリア剤、抗原虫剤、抗結核剤、及び抗ウイルス剤が挙げられる。
上記1種以上の治療薬は、プレドニソン、メチルプレドニゾン、ブデソニド、ジプロピオン酸ベクロメタゾン、シクロスポリン、タクロリムス、シロリムス、ミコフェノール酸モフェチル、チロミソール、イムチオール、抗胸腺細胞グロブリン、アザチオプリン、アゾジアカルボニド、ビスインドリルマレイミドVIII、ブレキナル、クロラムブシル、CTLA4-Ig、シクロホスファミド、デオキシスペルグアリン、デキサメタゾン、レフルノミド、メルカプトプリン、6-メルカプトプリン、メトトレキサート、メチルプレドニゾロン、ミゾリビン、ミゾリビン一リン酸、ムロモナブCD3、ミコフェノール酸モフェチル、OKT3、rho(D)免疫グロブリン、ビタミンD類似体、MC1288、ダクリズマブ、インフリキシマブ、リツキシマブ、トシリズマブ、アレムツズマブ、メトトレキサート、抗胸腺細胞グロブリン、デニロイキンジフチトックス、カンパス-1H、ケラチノサイト成長因子、アバタセプト、レメステムセル-L、スベロイルアニリドヒドロキサム酸、ペントスタチン、タリドマイド、イマチニブメシル酸塩、シクロホスファミド、フルダラビン、OKT3、メルファラン、チオペタ、リンパ球免疫グロブリン、及び抗胸腺細胞グロブリンの群から選択されてもよい。
個別に投与されるか、または併用療法もしくはレジメンにおいて組み合わせられる上記薬剤のそれぞれは、初期用量で投与され、その後医療専門家によって経時的に減量され、より低い有効な用量に到達させてもよいことも理解されよう。例えば、本明細書の組み合わせ及びレジメンにおいて、プレドニゾン及びメチルプレドニゾンなどの全身性糖質コルチコイド(コルチコステロイド)は、約1~2mg/kg/日の用量でヒト患者に投与することができる。mTOR剤の初期日用量には、1日1回投与される2~40mgのシロリムス及び1日2回投与される0.25~1mgのエベロリムスが含まれる。カルシニューリン剤の初期日用量には約0.025~0.2mg/kg/日の、タクロリムス及び約2.5~9mg/kg/日のシクロスポリンが含まれる。ミコフェノール酸モフェチル(CellCept(登録商標))は約250~3,000mg/日の初期日用量で投与することができる。これらの薬剤のそれぞれは、造血細胞移植に続いて、本明細書に記載の薬学的に有効な量のSyk阻害剤との併用で投与されてもよい。本明細書の異なる実施形態において、GVHDを治療するのに有用な薬剤は、局所軟膏もしくはクリームの形態または点眼製剤などで、かかる治療を必要とするヒトに局所投与されてもよい。
本発明はまた、光線療法(体外循環式光化学療法としても知られる)を施すステップをさらに含む、GVHDの治療方法を提供する。
[実施例]
本明細書において提供される実施形態は、以下の実施例を参照することによってより完全に理解することができる。これらの実施例は、本明細書で提供される方法を例示することを意図しているが、何ら限定するものではない。当業者には、さまざまな変更及び改変を行うことができることが明らかであろう。かかる改変も添付の特許請求の範囲内に含まれることが意図される。
以下の実施例で使用するアルベレスタットは、WO2005/026123A1(実施例94、85ページ)に従って合成することができる。
アルベレスタットは強力且つ特異的な好中球エラスターゼ(NE)の阻害剤
[3]でさらに議論されているように、以下の結果が得られた。
アルベレスタットは、ヒトNEに対して高い結合親和性(K=9.5nM)を有し、NE活性を強力に阻害する。ヒトNEのアルベレスタットの計算上のIC50(IC50)値及びK値はそれぞれ7.9(12nM)及び9.4nMである。
アルベレスタットは、別のセリンプロテアーゼであるカテプシンGと比較して、ヒトNEに対して少なくとも600倍選択的であり、他のセリンプロテアーゼ(プロテイナーゼ-3、キモトリプシン、膵臓エラスターゼ、及びトリプシン)と比較して、ヒトNEに対して少なくとも1900倍選択的である。
アルベレスタットは、マウスを含む他の種由来のNEに対して良好なクロスオーバー効力を示す。
全血アッセイ、細胞随伴アッセイ、及び爆発的放出アッセイにおけるIC50(IC50)値は、それぞれ7.36(44nM)、7.32(48nM)、及び7.30(50nM)であった。
提示した検討の結果は、アルベレスタットがヒトNEの特異的、強力、且つ迅速に可逆的な阻害剤であることを示している。生化学的アッセイにおけるNEに対するアルベレスタットの強力な阻害活性が、全血及び細胞ベースの系において確認された。
アルベレスタットはGVHDに対する保護効果を示す
この前臨床試験は、GVHDの予防におけるアルベレスタットの有効性を評価するために実施した。アルベレスタットがマウス及びヒトのNEに対して同様の効力を有する(IC50 6.5対7.9)[3]ことを考えると、前臨床におけるマウスでの検討は合理的である。
この研究で使用したGVHDのマウスモデルは[4]に記載されている。BALB/cレシピエントに致死的照射(8.5Gy全身照射)を行った後、B10.D2ドナー由来のT細胞除去骨髄+/-精製T細胞を移植した。陰性対照にはT細胞除去骨髄(TCDBM)のみ(T細胞なし、GVHDなし)を移植した一方、陽性対照にはTCDBM+2×10のT細胞(100%致死的なGVHD)を移植した。治療群においては、マウスにアルベレスタットを、予め混合した特性の食餌またはウェット型フードに粉末として添加したものにより、1日目~45日目に1日当り20、50、及び200mg/kgで投与した。これらの用量は、理論的考察及びげっ歯動物での過去の研究に基づいている(例えば[5])。このスケジュールは、照射前(0日目)からGVHDによる死亡の時期までを通じに適切な薬物レベルを確保するために選択した。生存率(主要評価項目)、体重、及びGVHDスコア(臨床的及び組織学的)([4]、[6])を監視した。科学的な厳密さを確保するために、実験は2回繰り返しで実施した。
これらの実験は、2×10のT細胞をTCDBM(TCDBM+T2e6)に添加すると、TCDBMのみを移植されたマウスの生存率100%と比較して、5日で致命的なGVHDが生じることを確認し、予め混合した食餌ペレットで(図1のA)またはウェット型フードと混合した粉末として(図1のB)のいずれかでのアルベレスタットの添加によって、TCDBM+T2e6と比較して生存率が有意に改善されることを示している(ログランクp=0.001 TCDBM+T2e6対TCDBM+T2e6+20mg/kg食餌;ログランクp=0.01 TCDBM+T2e6対TCDBM+T2e6+20mg/kgウェット型フード)。実験(群当りn=5)は2回繰り返しで行い、合計20頭のマウス(n=10が食餌、n=10がウェット型フード)をそれぞれの用量について評価した。すべての対照動物は5日目までに死亡したことから、体重またはGVHDスコアへの影響を見積ることは困難であるが、試験した3レベルの用量の中で生存率または体重もしくはGVHDスコアの改善に用量反応性は見られない(図1のC~F)。
2×10のT細胞を移植した陽性対照マウスの死亡は、一部のモデルで報告されたものよりも速かった(例えばC57BL/6→BALB/c)([4]、[7]、[8])、但し他のモデルで報告されたものと同様である(例えばC3H/Hej/C3Heb/Fej→(C3FeB6)F1)[9]。それにもかかわらず、図1で見られる死亡がT細胞媒介過程によって駆動されたことを確認するために、2×10のT細胞を移植したマウスをより低用量(1×10のT細胞及び1.5×10のT細胞)と比較する別の実験を実施した(図2のA~C)。T細胞の用量に対する明確な反応があり、1×10のT細胞では45日目に死亡はなく、T細胞の用量が高いほど死亡は早くなる(コックス比例ハザードモデルp<0.0001による線形傾向検定)(低用量のT細胞を移植したマウスを観察したいという希望のために、マウスを図1の場合よりもより長い期間追跡した)。この場合も、2×10のT細胞を移植したマウスに、予め混合した食餌ペレットでアルベレスタット20mg/kgを投与すると、2×10のT細胞のみと比較して生存率が有意に改善され、1×10のT細胞及び1.5×10のT細胞と同等の結果が得られた。この実験は、アルベレスタット20mg/kg(事前に混合された食事またはウェットフードに追加されたもののいずれか)が生存に関する利点を生じさせた5回目の再現である。5回の実験にわたって繰り返された最も重症の例(2×10のT細胞、図1のA~B及び図2のA)で既に有意な生存に関する利点が観察されていたために、アルベレスタットとより低用量のT細胞を用いたさらなる実験は実施しなかった。
マウスの剖検を、死亡後または実験の終了時にと殺した後に実施し、この剖検は、TCDBM+T2e6を移植したマウスがGVHDを発症した(図3のA~B)一方で、TCDBMのみを移植したマウスにはGVHDの兆候は見られなかった(図3のC~D)という知見を裏付けている。
臓器毒性に対するT細胞及びアルベレスタットの影響をより十分に特徴付けるために、T2e6またはT2e6+20mg/kgの食餌のいずれかを移植したマウス(n=5/群)を用いて上記の実験を繰り返し、4日目にと殺し、組織学的分析を行った。組織を、GVHDを専門とする盲検の病理学者が精査し、構造(陰窩再生、表面侵食、潰瘍形成、固有層炎症、萎縮、陰窩分岐、内分泌細胞過剰、及びパネート細胞過剰)ならびに上皮細胞診(空胞化、減衰、アポトーシス、内腔への脱落、リンパ球浸潤、好中球浸潤)に基づいてスコア付けを行った。各特徴を0~4のスケール(0:正常、0.5:限局性且つ希少、1:限局性且つ軽度、2:びまん性且つ軽度、3:びまん性且つ中等度、4:びまん性且つ重度)で等級付けし、臓器毎に結果をまとめた。アルベレスタットを投与したマウスでは、4日目に皮膚及び肝臓に毒性は観察されなかった一方、腸に異常(図4)、特に陰窩の再出現、円柱状の減衰、及びアポトーシスが見られ、T2e6群において病理が増加する傾向が見られた(p=0.08)。
要約すると、これらの結果は、GVHDのマウスモデルにおけるアルベレスタットによる生存の有意差を示しており、GVHDの予防におけるアルベレスタットの使用を支持している。
考察
上記の結果は、アルベレスタットがGVHDの治療及び予防に有効であることを示している。GVHDの主たる誘導物質は(独占的でない場合)、好中球ではなくTリンパ球及びBリンパ球であると理解されていることから、この結果は非常に予想外である。広範な研究により、成熟CD4及び/またはCD8T細胞がGVHDを開始させ、GVHDは、外来組織適合性抗原に対する同種免疫T細胞の反応を開始させるレシピエントの抗原提示細胞に依存することが確立されている。特に、ドナー細胞接種物由来のαβ T細胞の除去によって、げっ歯動物、ヒト、及びイヌのGVHDが予防されることが実証されている[10]。
GVHDに際して観察される組織損傷の発症機序におけるTリンパ球の重要性を考慮すると、好中球を特異的に標的とする薬剤であるアルベレスタットが、GVHDに対して上記で観察された効果、すなわちGVHDモデルの生存率を高め、消化管GVHDの病理を低減する効果を有することは驚くべきことである。以前より好中球がGVHDの病理に関与しているとされていたが、これらの実験の以前には、好中球エラスターゼを阻害することが実行可能な治療戦略であることは知られていなかった。
これらの結果に基づいて、本発明者らは、アルベレスタット(及びより一般的には好中球エラスターゼ阻害剤)が、GVHDに対する一般的な機序及び病理に関連する疾病を治療または予防するのに有効となるであろうことを認識した。
GVHDと同様に、臓器拒絶反応も主として、レシピエントCD4及びCD8T細胞によるドナーMHC由来ペプチドのアロ認識によって媒介され、レシピエントはドナー臓器組織抗原を認識する。上記外来抗原はレシピエントの免疫系に対して提示されるが、該臓器から放出されたドナーの抗原提示細胞(APC)がレシピエントの流入領域リンパ節へと遊走し、ここでレシピエントの樹状細胞が上記同種抗原を処理して提示し、T細胞を抗原刺激し、T細胞は活性化して上記臓器に逆に遊走し、該臓器において結果として損傷が起こる。あるいは、レシピエントのAPCがドナー抗原を捕捉し、自己提示する[11]。GVHD及び慢性臓器拒絶反応の両方において、アロ反応性T細胞が抗原刺激され且つ生成し、発症過程を駆動する。同種異系T細胞の役割は、動物モデルにおける養子移入実験において、T細胞を介してGVHD及び移植片拒絶反応の両方を移入することができるという事実によって、共通の経路として確認されている。これは、慢性肺拒絶反応によって観察されたBOSの病理が、骨髄移植及び幹細胞移植におけるGVHDによって観察されたBOSと類似しているという臨床的観察によってさらに実証されている[12]。
LT-BOS患者の気管支肺胞洗浄液においてエラスターゼ由来ペプチドのレベルの上昇が検出されたことが既に報告されている[14]。しかしながら、エラスターゼがLT-BOSの原因となる役割を果たしているとの提起はなされておらず、好中球エラスターゼ阻害がLT-BOSを含む臓器拒絶反応の治療または予防のための治療戦略を提供することはこれまで考えられてこなかった。NEを阻害することの治療効果は、好中球がLT-BOSに関与する可能性があるとの、1999年というかなり以前の観察を反映していることになろう[15]。
GVHDにおいて観察された有意な結果の見地から、本発明者らは、アルベレスタットなどの好中球エラスターゼ阻害剤も臓器拒絶反応の治療または予防に有効であろうと合理的に説明した。
まとめると、これらの知見は、臓器拒絶反応、特に臓器拒絶反応に関連したBOSの治療または予防に有益な効果を有する、アルベレスタットを使用したNE阻害の可能性を裏付けている。現在、これらの疾病に対する確立された治療法がないことから、これは重要な前進である。
上記に示した科学的根拠及びデータに基づいて、肺移植後の患者のBOSの治療及び予防における安全性ならびに有効性を評価するために設計した治験において、アルベレスタットを検討することになっている。
肺移植後の患者におけるBOSの発症の予防
肺移植レシピエントに、標準的な免疫抑制レジメンに加えて、予防的に投与する場合の生存率の向上及びBOSの予防におけるアルベレスタットの有効性ならびに安全性を実証するために、多施設、無作為化、標準治療対照試験の一部としてアルベレスタットを投与する。
上記試験に際し、肺移植直後に開始する患者には、アルベレスタットを最大で240mgの用量で1日2回投与する。治療は2年間継続し、最長で5年間延長する場合がある。
選択基準:
・肺移植を受けた患者(片肺または両肺のいずれか)、
・肺移植を受けてから30日以内に同意及び登録が可能な患者。
除外基準:
・心肺移植、肺再移植、または別の実質臓器移植の病歴
・拡張及び/またはステント留置に非応答性の臨床上重要な狭窄
・活動性肺感染症
・吻合部位の不全
主要評価項目:
・12週目及び24週目における、アルベレスタット群と標準治療群とのFEV1(予測されるパーセンテージ)の差異
・12週目及び24週目における、アルベレスタット群と標準治療群とのBOS病期/無BOS生存率の差異
副次的評価項目(標準治療と比較して有効な):
・無作為化の1年後及び2年後に、予測される平均FEV1%によって測定した呼吸機能
・1年目及び2年目におけるアルベレスタット群と標準治療群のBOS病期
・最長2年目までのすべての原因による死亡率及び移植関連死亡率
・RASの発症
・症状
・安全性及び忍容性
・無作為化の日付から死亡または肺を起点とする重篤な細菌及びウイルス感染症の発生のいずれかまでの期間に対応する無再発生存期間(SAEの報告によって規定)
アルベレスタットは、上記の主要評価項目の1つ以上において有効性を示すことになろう。
肺移植後の患者におけるBOSの治療
肺移植レシピエントに、該レシピエントの標準的な免疫抑制レジメンに加えて投与する場合のBOSの改善におけるアルベレスタットの有効性及び安全性を実証するために、多施設、無作為化、標準治療対照試験の一部としてアルベレスタットを投与する。
研究に際し、肺移植後にBOSを発症した患者に、アルベレスタットを最大で240mgの用量で1日2回投与する。
選択基準:
・肺移植(片肺または両肺のいずれか)、
・病期1を超えるBOCの診断
・肺疾患の他の原因は除外されている
除外基準:
・拘束性同種移植片症候群
・免疫抑制レジメンの変更が必要な患者
・活動性肺感染症
主要評価項目:
・12週目、24週目、48週目、及び106週目における、アルベレスタット群と標準治療群とのFEV1(予測されるパーセンテージ)の差異
・12週目及び24週目における、アルベレスタット群と標準治療群とのBOS病期
副次的評価項目(標準治療と比較して有効な):
・無作為化の1年後及び2年後に、予測される平均FEV1%によって測定した呼吸機能
・2年目におけるアルベレスタット群と標準治療群のBOS病期
・最長2年目までのすべての原因による死亡率及び移植関連死亡率
・RASの発症
・症状
・安全性及び忍容性
・無作為化の日付から死亡または肺を起点とする重篤な細菌及びウイルス感染症の発生のいずれかまでの期間に対応する無再発生存期間(SAEの報告によって規定)
アルベレスタットは、上記の主要評価項目の1つ以上において有効性を示すことになろう。
造血細胞移植(HCT)後の閉塞性細気管支炎症候群(BOS)の患者におけるアルベレスタットの第1相試験
HCT実施後のBOSの患者におけるアルベレスタットの第1相試験を実施した。
方法:
18歳を超えるHCT後のBOS及び慢性移植片対宿主病(GVHD)の患者を国立癌研究所プロトコル(NCT02669251)に募った。患者の全身性免疫抑制は安定しており、呼吸機能検査(PFT)における予測されるFEV1%は30%以上であった。
この第1相試験は2つの部分で構成されていた。すなわち、8週間の患者内での用量漸増期間と、それに続く最大6ヶ月の治療が可能な継続期間である。アルベレスタットは、60mgを1日2回(以前、慢性肺疾患の患者に使用していた用量)で開始して経口投与し、2週間毎に120mgを1日2回、180mgを1日2回、最後に240mgを1日2回まで増加させた。患者は、継続段階の完了、または許容できない毒性の発生、28日を超える投与の中断、またはGVHDもしくはBOSの進行に至るまで、この用量を継続した。
主たる目的は、用量制限毒性に基づいて最大耐量(MTD)を測定することであった。副次的な目的としては、薬物動態、好中球エラスターゼ(NE)活性のマーカー、ならびに血液及び喀痰中の炎症のマーカーを測定することが挙げられた。PFT及び慢性GVHDの評価を、ベースライン、用量漸増期間中の4週目、8週目、及び継続期間中の3ヶ月目と6ヶ月目に実施した。
結果:
7名の患者が登録された(3名の男性及び4名の女性)。登録時の気管支拡張薬後のFEV1の中央値は44%(範囲38~74)であった。
7名の患者全員が1日2回、最大用量240mgまでのアルベレスタットの用量漸増に耐えることができ、MTDには到達しなかった。治験における治療に関連する可能性のある最も一般的な有害事象(AE)はすべてグレード2であり、クレアチニンの増加(3例)、ALTまたはASTの上昇(3例)、及び上気道感染症(3例)が含まれていた。可能性として治験薬に関連した唯一のグレード3のAEは、1名の患者における、入院を必要とする胃腸炎及び嘔吐、ならびに1名の患者における肺炎であった。
3名の患者が8週間+6ヶ月の治療で本試験を完了した。4名の患者が投与の中断を要し、そのうちの1名のみがグレード3の胃腸炎(その結果、脱水症及びクレアチニンの上昇が発生)のために用量を低減する必要があった。4名の患者が試験終了前に治療を中止した。すなわち、2名の患者が有害事象のために28日を超えて用量中断し、1名の患者が肺炎後にFEV1が低下し、1名の患者において治験責任医師の裁量により治療が中止された。
治療期間の中央値は6.4ヶ月であった。NIH慢性GVHDコンセンサス基準に基づくと、6名の患者の疾患は変化がなく、1名の患者の疾患は進行した(肺炎後のFEV1の低下)。患者は臓器応答に必要なFEV1の10%の向上を達成はしなかったが、2名の患者ではFEV1において9%の向上があり、4名の患者ではLeeの慢性GVHD症状スケール肺スコアにおいて改善が見られた。
7名の患者の予備的な薬物動態分析は、多少の患者間のばらつきがあったにもかかわらず、各曝露測定指標(定常状態の谷と定常状態のピーク)において線形の用量依存的増加を示した。気管支肺胞洗浄液及び去痰試料をNE活性に関して分析中である。
結論:
経口NE阻害剤であるアルベレスタットの、HCT後のBOSの患者におけるこの第1相試験においては、MTDには到達せず、治験薬の忍容性は良好であった。6名の患者の疾患は安定していた一方、1名の患者では肺炎の状況において進行が見られた。2名の患者ではFEV1においての9%の明確な向上が見られ、4名の患者において治療のある時点で肺の症状が改善し、そのうちの2名は6ヶ月の治療期間評価中、2名は試験治療期間の終了時の改善が見られた。本発明者らは、NE阻害は忍容性が高く、進行したBOSの患者の疾患を安定化の徴候を示すことを実証した。
肺機能を改善する能力、及び/または疾患の進行及び肺機能のさらなる悪化を予防する能力によって、GVHD、特にcGVHD、及び関連する疾病の治療が有意に改善される可能性がある。
これらの結果は、移植片拒絶反応、LT-BOS、及びGVHDの治療もしくは予防を含む、またはそれらに関連する本発明の方法におけるアルベレスタットの使用をさらに裏付ける。
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Claims (39)

  1. 有効量のアルベレスタット若しくはその薬学的に許容される塩及び/又は溶媒和物を、それを必要とする対象に投与することを含む、移植片拒絶反応の治療又は予防方法。
  2. 移植片が、腎臓、心臓、肝臓、肺、及び膵臓からなる群より選択される1つ以上の臓器を含む、請求項1に記載の方法。
  3. 前記移植片が肺を含む、請求項1に記載の方法。
  4. 前記対象が肺移植関連閉塞性細気管支炎症候群に罹患している、又は罹患する危険性がある、請求項1に記載の方法。
  5. 前記移植片拒絶反応が慢性移植片拒絶反応である、先行請求項のいずれか1項に記載の方法。
  6. 前記移植片拒絶反応が急性移植片拒絶反応である、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
  7. 有効量のアルベレスタット若しくはその薬学的に許容される塩及び/又は溶媒和物を、それを必要とする対象に投与することを含む、肺移植関連閉塞性細気管支炎症候群の治療又は予防方法。
  8. 有効量のアルベレスタット若しくはその薬学的に許容される塩及び/又は溶媒和物を、それを必要とする対象に投与することを含む、移植片対宿主病(GVHD)の治療又は予防方法。
  9. 前記GVHDが慢性GVHD(cGVHD)である、請求項8に記載の方法。
  10. 前記GVHDが急性GVHD(aGVHD)である、請求項8に記載の方法。
  11. 前記GVHDが骨髄移植後に現れる、請求項8~10のいずれか1項に記載の方法。
  12. 前記GVHDが造血幹細胞移植後に現れる、請求項8~11のいずれか1項に記載の方法。
  13. 前記GVHDが、目、関節、筋膜、生殖器、肺、肝臓、皮膚、及び消化管(例えば口、食道)からなる群より選択される1つ以上に対する損傷を特徴とする、請求項8~12のいずれか1項に記載の方法。
  14. 前記GVHDが、肺、肝臓、皮膚、及び消化管からなる群より選択される1つ以上に対する損傷を特徴とする、請求項8~12のいずれか1項に記載の方法。
  15. 前記対象が中等度又は重度のcGVHDに罹患している、請求項8~14のいずれか1項に記載の方法。
  16. 前記対象が閉塞性細気管支炎症候群に罹患している、又は罹患する危険性がある、請求項8~15のいずれか1項に記載の方法。
  17. 有効量のアルベレスタット若しくはその薬学的に許容される塩及び/又は溶媒和物を、それを必要とする対象に投与することを含む、GVHDに関連する閉塞性細気管支炎症候群(BOS)の治療又は予防方法。
  18. 前記BOSが造血幹細胞移植に関連する、請求項17に記載の方法。
  19. 前記BOSが骨髄移植に関連する、請求項17に記載の方法。
  20. アルベレスタット若しくはその薬学的に許容される塩及び/又は溶媒和物が前記対象中への移植の前に投与される、先行請求項のいずれか1項に記載の方法。
  21. アルベレスタット若しくはその薬学的に許容される塩及び/又は溶媒和物が前記対象中への移植後に投与される、請求項1~16のいずれか1項に記載の方法。
  22. 治療又は予防が好中球エラスターゼを阻害することを含む、先行請求項のいずれか1項に記載の方法。
  23. 治療又は予防が前記対象において予測されるFEV1%の悪化を改善又は予防することを含む、先行請求項のいずれか1項に記載の方法。
  24. 治療又は予防が前記対象のBOSの等級の悪化を改善又は予防することを含む、先行請求項のいずれか1項に記載の方法。
  25. cGVHDの治療が対象におけるcGVHDの重症度スコアを改善することを含む、先行請求項のいずれか1項に記載の方法。
  26. cGVHDの治療が、対象におけるLeeのcGVHD症状スケール、特に、cGVHDにより肺が冒されている対象におけるLeeのcGVHD症状スケールの肺スコアを改善することを含む、先行請求項のいずれか1項に記載の方法。
  27. 対象における肺機能を改善することを含む、先行請求項のいずれか1項に記載の方法。
  28. 対象における肺機能の悪化を予防することを含む、先行請求項のいずれか1項に記載の方法。
  29. 対象における疾患の進行又は悪化を予防することを含む、先行請求項のいずれか1項に記載の方法。
  30. アルベレスタットが遊離塩基の形態である、先行請求項のいずれか1項に記載の方法。
  31. アルベレスタットがアルベレスタットトシル酸塩の形態である、先行請求項のいずれか1項に記載の方法。
  32. アルベレスタット若しくはその薬学的に許容される塩及び/又は溶媒和物を1日2回投与することを含む、先行請求項のいずれか1項に記載の方法。
  33. アルベレスタット若しくはその薬学的に許容される塩及び/又は溶媒和物を、最大240mgのアルベレスタットの用量で1日2回投与することを含む、先行請求項のいずれか1項に記載の方法。
  34. アルベレスタット若しくはその薬学的に許容される塩及び/又は溶媒和物を、60mg、120mg、180mg、又は240mgのアルベレスタットの用量で1日2回投与することを含む、先行請求項のいずれか1項に記載の方法。
  35. アルベレスタット若しくはその薬学的に許容される塩及び/又は溶媒和物を、240mgのアルベレスタットの用量で1日2回投与することを含む、先行請求項のいずれか1項に記載の方法。
  36. アルベレスタット若しくはその薬学的に許容される塩及び/又は溶媒和物を、第1の期間に60mgのアルベレスタット用量で1日2回、続いて第2の期間に120mgを1日2回、続いて第3の期間に180mgを1日2回、その後は240mgを1日2回投与することを含む、先行請求項のいずれか1項に記載の方法。
  37. アルベレスタット若しくはその薬学的に許容される塩及び/又は溶媒和物を、60mgのアルベレスタットの用量で1日2回、2週間、続いて120mgを1日2回、2週間、続いて180mgを1日2回、2週間、その後は240mgを1日2回投与することを含む、先行請求項のいずれか1項に記載の方法。
  38. アルベレスタット若しくはその薬学的に許容される塩及び/又は溶媒和物を経口投与によって投与することを含む、先行請求項のいずれか1項に記載の方法。
  39. 前記対象に1種以上の免疫抑制剤を投与することをさらに含む、先行請求項のいずれか1項に記載の方法。
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