JP2023171287A - 乾燥細胞シート及び乾燥細胞シートの作製方法 - Google Patents

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正志 柳原
Masashi Yanagihara
耕司 上野
Koji Ueno
祐太朗 松野
Yutaro Matsuno
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Abstract

【課題】本発明の課題は、細胞シート、特に同種異系(他家)細胞を用いた細胞シートの移植治療の利便性を向上させるため、再生医療に応用可能、かつ長期保存が可能である細胞シート及びその作製方法を提供することにある。さらに、創傷若しくは手術部位の組織を被覆若しくは補強するために使用できる細胞シート及びその作製方法を提供することにある。【解決手段】生体から採取されたFGF-2発現細胞を培養基材上で培養して細胞シートを得る工程(a);及び前記工程(a)で得られた細胞シートを構成する細胞の増殖能が失われるまで前記細胞シートを乾燥処理する工程(b);によって作製された乾燥細胞シートを作製する。【選択図】図9D

Description

本発明は乾燥細胞シート及び乾燥細胞シートの作製方法に関する。
近年、移植細胞の組織生着性を向上させる方法として“細胞シート技術”が開発され、虚血性心筋症、肺術後気漏、内視鏡的食道粘膜下層剥離術後の狭窄などの様々な疾患や術後合併症予防に対する細胞シート移植治療の研究が実施されている。この技術は難治性皮膚潰瘍にも応用できると考えられる。難治性皮膚潰瘍の原因には、静脈不全、閉塞性動脈硬化症、血管炎などの血流障害、褥瘡、糖尿病、膠原病、外傷などがある。本発明者らはこれまでの研究において、末梢血単核球と線維芽細胞を共培養することで機能性を高めた混合細胞シートを開示した(特許文献1、非特許文献1、2参照)。細胞シートの治療効果のメカニズムの一つは、血管内皮細胞増殖因子(vascular endothelial growth factor:VEGF)や肝細胞増殖因子(Hepatocyte growth factor:HGF)などの生理活性物質の産生によるパラクライン効果である。上記混合細胞シートはマウスとウサギの皮膚潰瘍モデルにおいて治療効果を認めた。また、本発明者らは、積層線維芽細胞シートの簡便な製造方法を開発し、マウス皮膚潰瘍モデルにおける自家積層混合細胞シートの有用性を開示した(特許文献2、非特許文献3参照)。
細胞シートの作製においては自家細胞を用いることもあるが、自家細胞を用いることによる組織採取の侵襲性、細胞培養に要する使用までのタイムラグ、そして高額な費用という課題が残った。さらに、「難治性皮膚潰瘍に対する培養ヒト自己細胞混合シートを用いた移植治療に関する臨床試験(第I相試験)」(UMIN-CTR: UMIN000031645)を実施し、患者毎にヒト口腔内組織由来線維芽細胞の増殖能やVEGFの分泌能に差がみられたため、細胞シート移植に至らない症例も6例中3例と高率に経験した(非特許文献4参照)。上記の問題を改善するためには、同種異系(他家)細胞を用いた細胞シートを開発する必要がある。マウス皮膚潰瘍モデルにおいて、他家マウスから作製した線維芽細胞単独の細胞シートの治療効果を検証し、他家細胞シートの創傷治療効果は自家細胞と遜色なく、多少の局所免疫は生じたが、創傷治癒の効果に不利な影響を与えるほどではなかった(非特許文献5参照)。他家細胞シートの治療効果は確認できており、次は細胞シート移植療法の迅速な安定供給のために、レディメイドな細胞シートの保存法の開発が求められていた。
そこで、細胞シートの保存において、細胞シートを凍結させる技術の研究が進んでいる。凍結保存法は、高い細胞生存率を確保できる有用な保存法である。しかし、凍結保存法では超低温の冷凍庫での保管が必要であり、さらには凍結及び融解(解凍)操作による細胞損傷が避けられない。また凍結及び保存にかかるコスト、設備、輸送の問題もある。
また、細胞シート移植療法では、凍結融解操作による脱細胞化を生じさせ、細胞外マトリックスのみを保持した細胞外マトリックスシートについての研究も行われている(非特許文献6参照)。細胞外マトリックスシートは細胞シートを移植する際の細胞の足場としての効果を持つことが知られている(非特許文献6、7参照)。細胞外マトリックスシートは保存可能であり、脱細胞化により移植時の免疫拒絶反応を誘発しにくいという利点がある。しかし、細胞外マトリックスシートは、凍結融解によって引き起こされる細胞の損傷のため、生理活性物質をほとんど保持していない。
さらに、不活化したフィーダー細胞と共に皮膚由来の表皮角化細胞(ケラチノサイト)をシート状に培養した表皮細胞シート(培養表皮)を、送風乾燥、加温乾燥、自然乾燥及び化学乾燥のうちの1以上で前記細胞が死滅するまで乾燥させる工程を含む、移植材料の製造方法が開示されている(特許文献3、非特許文献8参照)。しかしながら、上記培養表皮として、同種異系(他家)の皮膚由来の表皮角化細胞をシート状に培養した培養表皮を皮膚の創部に貼付けた場合には、創部の上皮化に伴いその培養表皮は体表から脱落してしまうことが知られていた。
国際公開第2016/068217号パンフレット 特開2019-38号公報 特開2019-176942号公報
Ueno, K. et al. Sci Rep. 6, 28538 (2016). Takeuchi, Y. et al. Am J Transl Res. 9, 2340-2351 (2017). Mizoguchi, T. et al. Cell Physiol Biochem. 47, 201-211 (2018). Mizoguchi, T. et al. Am. J. Transl. Res. 13, 9495-9504 (2021). Nagase, T. et al. Am J Transl Res. 12, 2652-2663 (2020). Xing, Q. et al. Tissue Eng Part C Methods. 21, 77-87 (2015). Hodde, J. et al. J Mater Sci Mater Med. 18, 537-543 (2007). Sakamoto, M et al. Sci Rep. 12, 3184 (2022).
本発明の課題は、細胞シート、特に同種異系(他家)細胞を用いた細胞シートの移植治療の利便性を向上させるため、再生医療に応用可能、かつ長期保存が可能である細胞シート及びその作製方法を提供することにある。さらに、創傷若しくは手術部位の組織を被覆若しくは補強するために使用できる細胞シート及びその作製方法を提供することにある。
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、細胞の乾燥保存法に注目した。線維芽細胞又は間葉系幹細胞由来の細胞シートを乾燥させた場合に、得られた乾燥細胞シートを溶液に浸漬させると血管内皮細胞増殖因子(VEGF)や肝細胞増殖因子(HGF)だけでなく、線維芽細胞増殖因子-2(FGF-2)や高移動度グループボックス1(HMGB1)も溶液へ溶出することを見出した。さらに、得られた乾燥細胞シートを皮膚の創部に貼付けた場合に、創部の上皮化の際、乾燥細胞シートを覆って再生上皮が形成され、乾燥細胞シートは脱落せずに表皮の下側に残り、その後分解、吸収されることを見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明は、以下のとおりである。
〔1〕生体から採取されたFGF-2発現細胞を培養基材上で培養して細胞シートを得る工程(a);及び
前記工程(a)で得られた細胞シートを構成する細胞の増殖能が失われるまで前記細胞シートを乾燥処理する工程(b);
によって作製された乾燥細胞シートであって、
前記工程(b)の乾燥処理によって得られた乾燥細胞シートを溶液に24時間浸漬させた場合の前記溶液における総タンパク質1μgあたりのFGF-2の量が、5pg/μg以上であることを特徴とする、前記乾燥細胞シート。
〔2〕工程(a)で培養する細胞が、線維芽細胞、間葉系幹細胞、多能性幹細胞、筋芽細胞、末梢血単核球、角膜上皮細胞、網膜細胞、心筋細胞、血管内皮細胞、肝細胞、膵細胞、グリア細胞、平滑筋細胞、軟骨細胞及び滑膜細胞から選択される1又は2種以上の細胞であることを特徴とする、上記〔1〕に記載の乾燥細胞シート。
〔3〕工程(a)で培養する細胞が、線維芽細胞、間葉系幹細胞、多能性幹細胞、筋芽細胞、末梢血単核球、角膜上皮細胞、網膜細胞、心筋細胞、血管内皮細胞、肝細胞、膵細胞、グリア細胞、平滑筋細胞、軟骨細胞及び滑膜細胞から選択される1種のみの細胞であることを特徴とする、上記〔1〕に記載の乾燥細胞シート。
〔4〕乾燥処理後の厚さが15μm以上の積層化乾燥細胞シートであることを特徴とする、上記〔1〕~〔3〕のいずれかに記載の乾燥細胞シート。
〔5〕工程(a)において、培養基材上で培養して得られた細胞シートを、前記培養基材から剥離した後に、細胞の増殖能が失われるまで乾燥させることを特徴とする、上記〔1〕~〔3〕のいずれかに記載の乾燥細胞シート。
〔6〕創傷の被覆若しくは手術部位の組織の補強に使用される、上記〔1〕~〔3〕のいずれかに記載の乾燥細胞シート。
〔7〕生体内の創傷の被覆若しくは生体内の手術部位の組織の補強に使用される、上記〔6〕に記載の乾燥細胞シート。
〔8〕生体内の手術によって生じた肺切除時の気管支断端、消化管吻合時の吻合部、肝若しくは膵切離時の断端の補強に使用される、上記〔7〕に記載の乾燥細胞シート。
〔9〕生体から採取されたFGF-2発現細胞を培養基材上で培養して細胞シートを得る工程(a);及び
前記工程(a)で得られた細胞シートを構成する細胞の増殖能が失われるまで前記細胞シートを乾燥処理する工程(b);
を備えた乾燥細胞シートの作製方法であって、
前記工程(b)の乾燥処理によって得られた乾燥細胞シートを溶液に24時間浸漬させた場合の前記溶液における総タンパク質1μgあたりのFGF-2の量が、5pg/μg以上であることを特徴とする、前記方法。
〔10〕工程(a)で培養する細胞が、線維芽細胞、間葉系幹細胞、多能性幹細胞、筋芽細胞、末梢血単核球、角膜上皮細胞、網膜細胞、心筋細胞、血管内皮細胞、肝細胞、膵細胞、グリア細胞、平滑筋細胞、軟骨細胞及び滑膜細胞から選択される1又は2種以上の細胞であることを特徴とする、上記〔9〕に記載の乾燥細胞シートの作製方法。
本発明の乾燥細胞シートは、長期保存及び安定供給が可能となる。また、当該乾燥細胞シートは、FGF-2やHMGB1などが溶出しやすく、高い創傷治癒効果を有する。さらに、本発明の乾燥細胞シートは、創傷若しくは手術部位の組織を被覆若しくは補強することができる。
実施例1において、生細胞シート(Living sheet)、乾燥細胞シート(Dry sheet)及び凍結融解細胞シート(Freeze-thaw sheet: FT sheet)を作製する流れを示す図である。 実施例1において、Living sheet、Dry sheet及びFT sheetの各細胞シートの切片標本を作製し、ヘマトキシリン・エオシン(HE)染色、アザン(Azan)染色、又はCollagen Iの免疫染色を行い、顕微鏡又は蛍光顕微鏡で観察した結果を示す図である。 実施例1において、左から順に各細胞シートの厚さ、積層数、及び各細胞シート100μm長あたりの核の数を示す図である。なお、図面において「Living」はLiving sheetを、「Dry」はDry sheetを、「FT」は「FT sheet」を意味し、図3A、3B、4A~4D、9D、10A、10Bも同様である。 実施例2において、乾燥処理時間と細胞シートの重量との関係を示す図である。 実施例2において、各細胞シートの核を染色し、蛍光顕微鏡で観察した結果を示す図である。 実施例2において、各細胞シートの上清中のLDHを測定した結果を示す図である。 実施例2において、再播種試験としてLiving sheet及びDry sheetを培養し、位相差光学顕微鏡で観察した結果を示す図である。 実施例2において、再播種から24時間後のliving sheetとDry sheetの代謝活性を調べた結果を示す図である。 実施例3において、各細胞シートの溶解液(Lysate)におけるVEGF、HGF、FGF-2、及びHMGB1量を測定した結果を示す図である。 実施例3において、各細胞シートの溶出液(Eluant)におけるVEGF、HGF、FGF-2、及びHMGB1量を測定した結果を示す図である。 実施例3において、各細胞シートの切片標本を免疫蛍光染色してFGF-2の局在を観察した結果を示す図である。 実施例3において、各細胞シートの切片標本を免疫蛍光染色してHMGB1の局在を観察した結果を示す図である。 実施例4において、各細胞シートから調製した溶出液試料を添加した場合の線維芽細胞の細胞増殖率を調べた結果を示す図である。 実施例4において、各細胞シートから調製した溶出液試料を添加した場合のVEGF産生を調べた結果を示す図である。 実施例4において、各細胞シートから調製した溶出液試料を添加した場合のHGF産生を調べた結果を示す図である。 実施例4において、Dry sheetの溶出液試料若しくは組換えFGF-2蛋白質(rFGF-2)を、抗FGF-2抗体又はコントロール抗体とインキュベートした場合の線維芽細胞の細胞増殖率を調べた結果を示す図である。 実施例5において各細胞シート(自家:Autologous)をマウスの皮膚欠損部に貼付けてからDay 0、1、3、5、7、9、11、及び13にデジタルカメラで創傷部を撮影した結果を示す図である。 実施例5において、図5Aの創傷の閉鎖率(wound closure rate)(%)を求めた結果を示す図である。 実施例5において各細胞シート(他家/同種異系:Allogeneic)をマウスの皮膚欠損部に貼付けてからDay 0、1、3、5、7、9、11、及び13にデジタルカメラで創傷部を撮影した結果を示す図である。 実施例5において、図5Cの創傷の閉鎖率(wound closure rate)(%)を求めた結果を示す図である。 実施例5において、他家細胞のDry sheetで治療した組織の切片標本をHE染色及びAzan染色した結果を示す図である。 実施例6において、各細胞シート貼付後30日目の創部組織像を示す図である。 実施例7において、Dry sheetを冷蔵(4℃)又は室温(23℃)で1日(D)、1週間(W)、2週間(W)、又は4週間(W)保存した後、10%FBS 含有CTSTM AIM-V(登録商標)培地に24時間浸漬し、その溶出液中のVEGF、HGF、FGF-2、及びHMGB1を測定した結果を示す図である。 実施例8において、創傷部を撮影した写真を示す図である。 実施例8において、創傷の閉鎖率(wound closure rate)(%)を求めた結果を示す図である。 実施例9において、ヒトの口腔内組織由来の線維芽細胞(Fibroblast)を用いた乾燥細胞シートの形態の写真及びHE染色の結果を示す図である。 実施例9において、ヒトの骨髄由来の間葉系幹細胞(MSC)を用いた乾燥細胞シートの形態の写真及びHE染色の結果を示す図である。 実施例9において、ヒトの口腔内組織由来線維芽細胞(A株)又はヒトの骨髄由来間葉系幹細胞を用いた乾燥細胞シートをDMEMに24時間浸漬し、そのDMEM中のVEGF、HGF、FGF-2、及びHMGB1を測定した結果を示す図である。 実施例9において、ヒトの口腔内組織由来線維芽細胞(B株)を用いた乾燥細胞シートをDMEMに24時間浸漬し、そのDMEM中のVEGF、HGF、FGF-2、及びHMGB1を測定した結果を示す図である。 実施例10において、ヒトの口腔内組織由来線維芽細胞を用いた乾燥細胞シートからの溶出液をヒト皮膚由来線維芽細胞に添加した場合(左)、血管内皮細胞に添加した場合(右)の細胞増殖比を調べた結果を示す図である。 実施例10において、ヒトの口腔内組織由来線維芽細胞を用いた乾燥細胞シートからの溶出液を血管内皮細胞に添加した場合の抗FGF-2抗体による中和処理による細胞増殖の影響を調べた結果を示す図である。 実施例11において、ヒトの口腔内組織由来線維芽細胞(B株)を用いた乾燥細胞シートを冷蔵(4℃)又は室温(23℃)で3ヶ月保存した後、その乾燥細胞シートの溶出液を調製してVEGF、HGF、FGF-2、及びHMGB1を測定した結果を示す図である。 実施例12において、乾燥処理後の各細胞シートの形態の写真、及びHE染色の結果を示す図である。 実施例12において、各方法で乾燥させた乾燥細胞シートを10%FBS 含有CTSTM AIM-V(登録商標)培地に24時間浸漬し、その溶出液中のVEGF、HGF、FGF-2及びHMGB1の濃度を調べた結果を示す図である。 実施例13において、ヒトの口腔組織由来の線維芽細胞(Human Oral Fibroblasts:HOF)、ヒトの皮膚由来の線維芽細胞(Human Dermal Fibroblasts:HDF)、ヒトの歯髄幹細胞(Human Dental Pulp Stem cells:DPSC)、ヒトの骨髄由来の間葉系幹細胞(Human Mesenchymal Stem Cells:MSC)、ヒトの臍帯静脈内皮細胞(Human Umbilical Vein Endothelial Cells:HUVEC)、ヒトの骨格筋芽細胞(Human Skeltal Muscle Myoblast Cells:SkMM)、ヒト表皮ケラチノサイト(Human Epidermal Keratinocytes:HEK)のそれぞれの細胞膜を破壊し、細胞内容物を溶出させ、遠心分離後の上清に含まれるFGF-2含有量を測定した結果を示す図である。 実施例14において、ヒトの口腔組織由来の線維芽細胞(Human Oral Fibroblasts:HOF)、ヒト歯髄幹細胞(Human Dental Pulp Stem cells:DPSC)、ヒトの骨髄由来の間葉系幹細胞(Human Mesenchymal Stem Cells:MSC)それぞれの細胞を用いて作製した乾燥細胞シートの溶出液におけるFGF-2、HGF及びVEGFの濃度(pg/μg)を調べた結果を示す図である。 実施例15において、ヒトの細胞(HOF、DPSC、MSC)から作製した乾燥細胞シートの溶出液の生理活性を、血管内皮細胞の細胞増殖で評価した結果を示す図である。 実施例16において、食道縫合モデル及び乾燥細胞シートの移植のイメージを示す図である。 実施例16において、術後3日目(Day3)及び5日目(Day5)における縫合不全又は死亡の発生を調べた結果を示す表である。 実施例16において、Day3及びDay5における縫合部付近の膿瘍の程度をAbscess scoreに基づいて調べた結果を示す図である。 実施例16において、Day3及びDay5における縫合部の耐圧能(Burst pressure)を調べた結果を示す図である。 実施例16において、Day3及びDay5における縫合部の組織切片標本のAzan染色の結果を示す図である。 実施例16において、Day3及びDay5における縫合部の組織切片標本のAzan染色陽性の面積を調べた結果を示す図である。 実施例16において、Day3及びDay5に採取した食道の縫合部において発現している遺伝子を解析した結果を示す図である。 実施例17において、コントロール群、乾燥細胞シート群(Dry)及び不織布シート群(PGA)を移植した場合のミエロペルオキシダーゼ(MPO)活性のin vivoイメージング解析の結果を示す図である。 実施例17において、コントロール群、乾燥細胞シート群(Dry)及び不織布シート群(PGA)を移植した場合のミエロペルオキシダーゼ(MPO)活性を調べた結果を示す図である。 実施例17において、コントロール群、乾燥細胞シート群(Dry)及び不織布シート群(PGA)を移植した場合の移植後1、3、7、14日に組織を採取し、各標本のHE染色の結果を示す図である。
(細胞及び細胞シート)
本発明において、「細胞シート」とは、細胞同士がシート状に結合した細胞の培養物を意味し、「積層化細胞シート」とは、平均2以上の細胞、好ましくは平均3以上の細胞、より好ましくは平均4以上の細胞からなる縦層が観察される細胞シートを意味する。なお、上記「細胞同士がシート状に結合」とは、細胞同士が直接又は細胞由来の細胞外マトリックスを介してシート状に結合している状態や、細胞同士の全部又は一部がハイドロゲル粒子等の人工的な細胞培養支持体を介して結合している状態を挙げることができる。
工程(a)で培養する細胞としては、FGF-2発現細胞、すなわちFGF-2を発現する細胞であれば特に制限されないが、線維芽細胞、間葉系幹細胞、多能性幹細胞、筋芽細胞、末梢血単核球、角膜上皮細胞、網膜細胞、心筋細胞、臍帯静脈内皮細胞、動脈内皮細胞等の血管内皮細胞、肝細胞、膵細胞、グリア細胞、平滑筋細胞、軟骨細胞及び滑膜細胞から選択される1又は2種以上の細胞を挙げることができ、FGF-2の発現量の観点からは線維芽細胞、間葉系幹細胞又は、多能性幹細胞を好適に挙げることができる。上記細胞の由来としては、ヒト、マウス、ブタ、ウシ、イヌ、ネコ、サルを挙げることができ、ヒト由来の細胞であることが好ましい。ここで、FGF-2発現細胞としては、たとえば、次の方法で細胞内のFGF-2の含有量を測定し、所定量のFGF-2を含有する細胞であることが好ましい。まず、5×10細胞を0.2mLのDMEMに懸濁し、凍結融解を2回繰り返して細胞膜を破壊し、細胞内容物を溶出させる。遠心分離後に上清を回収し、上清中のFGF-2の含有量をELISA法によって測定する。上清中のFGF-2含有量が2000pg/mL以上、好ましくは4000pg/mL以上、より好ましくは10000pg/mL以上、さらに好ましくは18000pg/mL以上、特に好ましくは20000pg/mL以上であることが好ましい。また、工程(a)で培養する細胞としては、FGF-2発現量が低い表皮角化細胞(ケラチノサイト)以外であることが好ましい。
工程(a)で培養する細胞が、線維芽細胞、間葉系幹細胞、多能性幹細胞、筋芽細胞、末梢血単核球、角膜上皮細胞、網膜細胞、心筋細胞、臍帯静脈内皮細胞、動脈内皮細胞等の血管内皮細胞、肝細胞、膵細胞、グリア細胞、平滑筋細胞、軟骨細胞及び滑膜細胞から選択される1腫のみの細胞とすることもできる。ここで、「1種のみの細胞」とは、乾燥細胞シートを構成する細胞が、実質的に所定の1種類の細胞のみであることを意味する。したがって、工程(a)で培養する細胞が、所定の1種類の細胞のみであってもよいが、所定の1種類の細胞と共に、他の細胞をわずかに用いてもよく、具体的には所定の1種類の細胞に対して播種する細胞数で30分の1以下、100分の1以下、500分の1以下、又は1000分の1以下の他の細胞を含んでいてもよい。この場合、所定の1種類の細胞としては線維芽細胞又は間葉系幹細胞であることが好ましい。
なお、乾燥細胞シートを表皮に貼付けた場合の創傷部位において新生される表皮角化細胞には細胞外マトリックス等の適切な足場が必要であるため、表皮角化細胞の上には新生した表皮が作られにくいと考えられる。この観点からも、工程(a)で培養する細胞としては、表皮角化細胞を含まないことが好ましい。
上記「線維芽細胞」とは、結合組織を構成する当該組織固有の細胞である。この線維芽細胞は、正常組織においては特に顕著な機能を有しないが、損傷が加わると損傷部に遊走し、コラーゲン、エラスチン、ヒアルロン酸等を分泌することで、細胞外マトリックスの産生を開始し、細胞外マトリックスを更新する機能を有する。このほか、創の収縮を誘起する等、創傷治癒過程の中で重要な働きを果たしている。線維芽細胞の単離法については、例えば、本明細書の後述する実施例欄に記載の方法や上記特許文献1に記載の方法を挙げることができるがこれに限定されるものではなく、当該技術分野において線維芽細胞画分として通常調製される条件により取得した細胞群であればよい。
線維芽細胞としては、口腔内組織、皮膚、歯肉、肺、心臓、大動脈外膜、子宮、絨毛胎盤組織、肝、肝管、胆嚢、前立腺、膀胱などの結合組織由来の線維芽細胞を挙げることができる。
上記「間葉系幹細胞」とは、間葉系組織に属する細胞に分化する能力を有する幹細胞である。具体的には、脂肪組織由来間葉系幹細胞、骨髄由来間葉系幹細胞、臍帯血由来間葉系幹細胞、臍帯由来間葉系幹細胞、羊膜由来間葉系幹細胞、歯髄由来間葉系幹細胞(歯髄幹細胞)などを挙げることができる。
上記「多能性幹細胞」とは、生体を構成する全ての組織や細胞へ分化し得る能力を有する幹細胞である。
上記「筋芽細胞」とは、後に筋線維になる原始筋細胞である。また、上記「多能性幹細胞」としては、誘導多能性幹細胞、胚性幹細胞、核移植胚性幹細胞、胚性腫瘍細胞、又は胚性生殖細胞を挙げることができる。
上記「末梢血単核球」とは、末梢血管より採取される血液中に含まれるリンパ球及び単球等からなる白血球の総称名である。
工程(a)において、2以上の異なる種類の細胞を培養して細胞シートを作製する場合には、各細胞を一緒に培養して作製する方法の他、1種類の細胞シートを作製して、その上に他の細胞を播種して培養して作製する方法も挙げることができる。
また、工程(a)で培養する細胞は、いかなる動物個体から取得してもよい。また、治療を施す対象である、治療対象の疾患を患う患者又は個体から取得してもよく、治療対象の疾患を患う患者又は個体以外から取得してもよい。
上記工程(a)において、培養基材上へ細胞を培養する際の細胞の播種密度については、1.0×10~2.5×10個/cmであればよく、好ましくは、1.5×10~1.0×106個/cm、より好ましくは、2.0×10~8.0×10個/cmである。上記播種密度が1.0×10未満であれば細胞シートが薄く、細胞シートを乾燥させた場合に強度が弱くなる。一方、上記播種密度が2.5×106個/cmより高いとを細胞シートの作製に培地交換が必要となるなど、手間がかかる。
上記工程(a)において、培養基材上へ細胞を培養する際の細胞の播種については、上記播種密度の細胞を一度に播種しても、複数回に分けて播種してもよい。複数回に分けて播種する場合における、1回当たりの播種する細胞数は目的とする播種密度に応じて適宜調整可能である。また、複数回に分けて播種する場合における、播種する間隔は20時間以上をあけることが好ましく、24時間~48時間間隔をあけて播種してもよい。
なお、上記工程(a)において、細胞を培養基材上で培養する際にはフィーダー細胞、特に不活化フィーダー細胞を含まないことが好ましい。フィーダー細胞を含むと、得られた細胞シートに表面、裏面が生じて細胞シートの貼付けの際に手間がかかるほか、フィーダー細胞層と培養した細胞の層との層間剥離が生じることがある。なお、フィーダー細胞は、増殖や分化を生じさせる目的の細胞に必要な環境を整えるために補助的に用いられる細胞である。また、不活化フィーダー細胞は、予め細胞増殖しないように処理されたフィーダー細胞である。
上記乾燥細胞シートは、積層化乾燥細胞シートであることが望ましい。前記積層化乾燥細胞シートの厚さとしては、工程(b)で乾燥処理後の厚さとして、15μm以上、20μm以上、30~100μm、40~80μm、又は50~70μmであってもよい。また上記乾燥細胞シートの積層数、すなわち乾燥細胞シートの縦層を構成する細胞数としては、4層以上、好ましくは4~10層、より好ましくは5~7層を挙げることができる。
(細胞の培養)
上記工程(a)の細胞の培養時間としては、所望の細胞シートが形成されるために必要な時間であれば特に限定されるものではないが、状態の良好な細胞シートを製造する為には、細胞播種時にほぼコンフルエントな状態であることが好ましい。例えば、0.5~12日、好ましくは、1~7日、より好ましくは、2~5日、さらに好ましくは3~5日である。
上記工程(a)の細胞の培養温度としては、細胞シートの形成が可能であれば、いかなる方法を用いてもよく、培養する細胞に適した、当該技術分野において通常実施される条件等で行うことができる。例えば、30~40℃、好ましくは36~38℃である。
上記工程(a)の培養のCO濃度としては、細胞シートの形成が可能であれば、いかなる方法を用いてもよく、培養する細胞に適した、当該技術分野において通常実施される条件等で行うことができる。例えば、0~10%、好ましくは4~6%である。
上記工程(a)の培養の酸素(O)濃度の条件としては、細胞シートの形成が可能であれば、いかなる濃度を用いてもよく、培養するに適した、当該技術分野において通常実施される条件等で行うことができる。例えば、大気酸素濃度(通常(normal)酸素濃度:およそ20%)である。なお、大気酸素濃度で培養後、低酸素(hypoxia)濃度(2%)で培養してもよく、かかる低酸素濃度による培養によりVEGF等の成長因子の分泌量を増加させることが可能となる。
(培養基材)
本明細書における「培養基材」とは細胞がその表面上で細胞シートを作製可能なものであればいかなるものであってもよい。具体的には、細胞が接着し得るような平坦な部分を具備し、典型的には、マルチウエルプレート、デッシュ、ペトリデッシュ、マルチデッシュ、フラスコ、シャーレ、チューブ、トレイ、培養バック、ローラーボトルを挙げることができる。市販される24-ウェルプレートなどの培養用マルチウエルプレートなどが使用可能である。培養基材の材料としては特に制限されないが、培養中に意図せずに作製した細胞シートが培養基材から剥離しないもの、すなわち酵素処理などの剥離処理を行うまでは細胞シートが培養基材から剥離しないものであることが好ましい。例えば、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート等のプラスチック、ガラス、シリコン樹脂、アクリル樹脂等の樹脂を挙げることができる。
また、「培養基材」には、温度応答性材料が被覆されていても被覆されていなくてもよいが、細胞シートの剥離を酵素処理によって任意のタイミングで行うためには、細胞が接着する面に当該温度応答性材料が被覆されていないものであることが好ましい。
さらに、「培養基材」の培養表面上には、細胞接着性成分/又は細胞接着阻害性成分が存在していてもよい。細胞接着性成分としては、細胞培養技術において、培養表面に細胞を接着させるために通常使用される成分であればいかなるものでもよく、例えば、コラーゲン、フィブロネクチン、ラミニン、ヘパラン硫酸プロテオグリカン、カドヘリン、ゼラチン、フィブリノゲン、フィブリン、ポリLリジン、ヒアルロン酸、多血小板血漿、ポリビニルアルコールなどが挙げられる。細胞接着阻害性成分も、細胞培養技術において、培養表面への細胞の接着を阻害させるために通常使用される成分であればいかなるものでもよく、例えば、アルブミンやグロブリンなどが挙げられる。これらの成分で細胞培養基材の培養表面上を被覆する場合、各成分によって、培養表面を被覆するために使用する溶液の濃度が異なるため、予備的な実験等、当業者であれば容易に検討できる方法によって、各成分の被覆のために適当な溶液濃度を決定することができる。
(培地)
工程(a)において細胞を培養して細胞シートを得る工程に用いられる培地は、培養する細胞の由来や培養条件に適した培地を適宜選択して使用することができる。例えば、一般的に使用可能な培地として、ヒト正常線維芽細胞増殖用合成培地(HFDM-1)、CTSTMAIM-V(登録商標)、最小必須培地(MEM)、最小必須培地アルファ(MEM-Alpha)、ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)、Ham’s F-12、イーグル最小必須培地(EMEM)、イスコフ改変ダルベッコ培地(IMDM)、RPMI-1640、Neurobasal、ヒト平滑筋細胞増殖培地(hSMS-GM)等を挙げることができ、HFDM-1、CTSTMAIM-V(登録商標)あるいはHFDM-1とCTSTMAIM-V(登録商標)の混合培地を好ましく挙げることができる。これらの培地は市販のものを購入して使用してもよい。また、これらの培地は単独で用いても、また、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
さらに、培地に対し、必要に応じて適当な添加物を加えて使用してもよい。添加物としては、例えば、L型アミノ酸類(例えば、L-アルギニン、L-シスチン、L-グルタミン、グリシン、L-ヒスチジン、L-ロイシン、L-リジン、L-メチオニン、L-フェニルアラニン、L-セリン、L-トリオニン、L-トリプトファン、L-チロシンなど)、ビタミン類(例えば、葉酸、リボフラビン、チアミン、アスコルビン酸など)、D-グルコース、ヒト血清、ウシ胎児血清(FBS)、ウマ血清などの動物血清などを含んでもよい。また、緩衝剤(例えば、PBS、HEPES、MES、HANK’Sなど)を適宜培地に加えてもよい。さらに、培養する細胞の由来や目的等に応じて、適宜、トランスフォーミング成長因子(TGF)-β1、血小板由来増殖因子(PDGF)-BB、塩基性線維芽細胞増殖因子/線維芽細胞増殖因子2(basic FGF(bFGF)/FGF-2)、上皮成長因子(EGF)、インスリン、インスリン様成長因子(IGF-1)、肝細胞増殖因子(HGF)等の成長因子などを添加してもよい。特に、細胞シートを積層化する観点からは、EGF又はbFGF等の増殖因子及びアスコルビン酸を含むことが好ましい。ヒト由来の細胞、例えば線維芽細胞又は間葉系幹細胞を培養する場合においては、当該細胞を採取した被験者より血液を採血し、当該血液から血清を調製し、これを含有させてもよい。
たとえば、工程(a)において、線維芽細胞を培養して細胞シートに用いる培地としては、線維芽細胞用培地であるHFDM-1(+)に血清を加えた血清含有HFDM培地や、HFDM-1(+)とCTSTMAIM-V培地に血清を加えた血清含有AIM/HFDM培地を挙げることができる。なお、CTSTMAIM-V培地には、ゲンタマイシン10μg/ml、ストレプトマイシン50μg/ml及びL-グルタミンを含んでいる。
また、培地に血清を含有する場合には、その含有量を0.5~12%、好ましくは1~10%とすることができる。
(乾燥)
工程(b)において、細胞シートを構成する細胞の増殖能が失われるまで細胞シートを乾燥処理するとは、乾燥細胞シートを構成する細胞が、再播種しても細胞が増殖できなくなるまで細胞シートを乾燥させることを意味する。再播種しても細胞が増殖できなくなるか否かは、後述する本明細書の実施例に記載のように、乳酸脱水素酵素(LDH)細胞毒性を調べる方法や、乾燥後の細胞シートを培養して位相差光学顕微鏡で細胞シートの辺縁を観察する方法を挙げることができる。
乾燥の方法としては、細胞シート中の水分が減少する方法であれば特に制限されないが、風乾(送風乾燥)、加温送風乾燥、化学乾燥、真空乾燥、凍結乾燥(真空凍結乾燥)、を挙げることができる。
風乾の場合においては、温度、湿度、風速、時間を総合的に考慮して調整して乾燥させることが可能である。温度としては、例えば4~50℃とすることができ、下限としては22℃、24℃、26℃とすることもでき、上限としては45℃、40℃、32℃とすることもできる。湿度としては、例えば15~55%とすることができ、下限としては26%、28%、30%とすることもでき、上限としては53%、51%、50%とすることもできる。風速としては0.05~4m/sを挙げることができ、下限としては0.08m/s、0.1m/s、0.2m/sとすることもでき、上限としては2.0m/s、1.5m/s、1.0m/sとすることもできる。また、乾燥はクリーンベンチ内で行うことが、細胞シートのコンタミネーションを防ぐ観点から好ましい。
加温送風乾燥の場合は、例えばプレートヒーター等で30~50℃、好ましくは35~45℃に加温したプレートに細胞シートを静置し、送風1~5m/s、好ましくは2~4m/sで送風乾燥させる方法を挙げることができる。
化学乾燥の場合は、例えば細胞シートに2-プロパノール、エタノール、アセトンなどの有機溶媒を滴下し、自然乾燥、風乾させる方法を挙げることができる。
真空乾燥の場合は、例えば真空乾燥機を用いて、庫内の温度を25~40℃、好ましくは28~32℃に設定し、真空ポンプで庫内の圧力を600mTorr以下、好ましくは100mTorr以下に減圧して4時間程度乾燥させる方法を挙げることができる。
凍結乾燥の場合は、例えば真空凍結乾燥機を用いて、庫内の温度を-40℃に冷却し、一次乾燥として真空ポンプで庫内の圧力を600mTorr以下、好ましくは100mTorr以下に減圧して4時間程度乾燥させ、その後二次乾燥として庫内の圧力を維持したまま、庫内の温度を-40℃から20℃までゆっくり復温させる方法を挙げることができる。
上記乾燥によって、細胞シートの平衡含水率が5%以下、好ましくは0.5~4%、より好ましくは1.5~3.5%を挙げることができる。なお、平衡含水率の測定方法は特に制限されないが、例えばカールフィッシャー法によって測定可能である。
(細胞シート又は乾燥細胞シートの剥離)
本発明の乾燥細胞シートの作製方法においては、工程(b)において培養基材上で培養して得られた細胞シートを、細胞の増殖能が失われるまで乾燥させてもよいし、培養基材上で培養して得られた細胞シートをそのまま乾燥させて、乾燥後に乾燥細胞シートを剥離させてもよい。上記乾燥は、その培養基材から剥離した後に乾燥させても、培養基材上にある状態で乾燥させてもよい。
工程(b)において培養基材上で培養して得られた細胞シートを、その培養基材から剥離した後に、細胞の増殖能が失われるまで乾燥する場合においては、細胞シートの培養基材からの剥離は、シート状の構造が破損されないような方法で実施することができる。例えば、細胞シート又は培養基材を直接ピンセットなどによって摘み、培養基材表面と細胞シートを剥離させる、あるいは、ピペッティングにより細胞シートを培養基材表面から剥離する等、物理的な手法を用いてもよい。さらには、細胞シート上面に、PVDF膜、ニトロセルロース膜、CellShifterのような、細胞に親和性を有する細胞シート回収用支持体を被せて、細胞シートを膜に移し取ることによって細胞シートを剥離、回収することもできる。このほか、ディスパーゼ、トリプシン、コラゲナーゼなどの酵素処理によって細胞シートを培養基材表面から剥離する方法でもよい。ディスパーゼ処理を行う場合には、ディスパーゼをPBS等で希釈して1~12PU/mLとなるように加えることが好ましい。
上記細胞シート回収用支持体としては特に制限されず、例えば市販のCell shifterTMやATTRAN(登録商標)を用いることができる。なお、細胞シートを細胞シート回収用支持体に貼付したまま乾燥させた場合には、水分を付加しても細胞シート回収用支持体からの離脱が困難である。そのため、乾燥時は細胞シート回収用支持体から細胞シートを剥離して細胞シート単体で行うことが好ましい。細胞シートを置く細胞シート台としては特に制限されず、細胞シート台の材質としてはシリコン、テフロン(登録商標)、プラスチック、ポリエチレン系合成樹脂などを挙げることができ、上記ポリエチレン系合成樹脂としては、延伸ポリテトラフルオロエチレン(ePTEFE)を挙げることができる。上記支持体の形状としては容器、シートなどを挙げることができる。
一方、培養基材上で培養して得られた細胞シートをそのまま乾燥させて、乾燥後に培養基材表面と乾燥細胞シートを剥離させる場合においては、乾燥細胞シート状の構造が破損されないような方法で実施することができる。例えば、乾燥細胞シート又は培養基材を直接ピンセットなどによって摘み、培養基材表面と細胞シートを剥離させる方法を用いることができる。なお、培養基材上で培養して得られた細胞シートをそのまま乾燥させて、乾燥後に乾燥細胞シートを剥離させる場合には、培養基材としてシリコンなどの剥離しやすい材質を含む培養基材を用いることが好ましく、この方法により酵素処理が不要となり、剥離作業の工程が簡略化できる。
(乾燥細胞シートの保存)
作製した乾燥細胞シートの保存方法としては冷蔵(4℃)、室温で保存する方法や、凍結保存する方法を挙げることができる。凍結保存する場合は、例えば特開2022-8269号公報に記載の方法を挙げることができる。冷蔵で保存する場合には、冷蔵保存の状態にもよるが、保存期間は12ヶ月以下、好ましくは6ヶ月以下、より好ましくは3ヶ月以下、さらに好ましくは1ヶ月以下を挙げることができる。室温で保存する場合は、室温や必要とする成長因子、サイトカインの種類によって適宜調整可能であるが、6ヶ月以下、より好ましくは3ヶ月以下、さらに好ましくは2ヶ月以下、最も好ましくは1ヶ月以下を挙げることができる。
(成長因子又はサイトカインの溶出)
本発明の乾燥細胞シートにおいては、工程(b)の乾燥処理によって得られた乾燥細胞シートを溶液に24時間浸漬させた場合の前記溶液へのFGF-2の溶出量が、工程(b)の乾燥処理前の細胞シートを溶液に24時間浸漬させた場合の前記溶液へのFGF-2の溶出量に対して5倍以上、好ましくは10倍以上、より好ましくは50倍以上、さらに好ましくは100倍以上、よりさらに好ましくは500倍以上、最も好ましくは1000倍以上を挙げることができる。同様に、本発明の乾燥細胞シートにおいては、工程(b)の乾燥処理によって得られた乾燥細胞シートを溶液に24時間浸漬させた場合の前記溶液へのHMGB1の溶出量が、工程(b)の乾燥処理前の細胞シートを溶液に24時間浸漬させた場合の前記溶液へのHMGB1の溶出量に対して2倍以上、好ましくは3倍以上、より好ましくは5倍以上、さらに好ましくは7倍以上を挙げることができる。
また、工程(b)の乾燥処理によって得られた乾燥細胞シートを溶液に24時間浸漬させた場合の前記溶液における総タンパク質1μgあたりのFGF-2の量が、5pg/μg以上、好ましくは7pg/μg以上、より好ましくは10pg/μg以上、さらに好ましくは15pg/μg以上、特に好ましくは20pg/μg以上を挙げることができる。用いる乾燥細胞シートとしては、冷蔵(4℃)で0.5~24時間、1~12時間、又は2~3時間保存した細胞シートを挙げることができる。
上記溶出に用いられる溶液としては通常細胞の保存、洗浄若しくは培養に用いられる溶液であれば特に制限されないが、生理食塩水、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)、緩衝液のほか、DMEMや10%ウシ胎児血清(FBS)含有CTSTM AIM-V(登録商標)等の上記「工程(a)において細胞を培養して細胞シートを得る工程に用いられる培地」に記載の培地などの通常細胞の培養に用いられる培地を挙げることができる。溶液での24時間の浸漬からFGF-2又はHMGB1の溶出量の算出までの流れとしては、例えば、次の方法が挙げられる。まず、測定対象の乾燥細胞シート(工程(b)の乾燥処理によって得られた乾燥細胞シート及び工程(b)の乾燥処理前の細胞シートそれぞれ)をDMEM若しくは10%FBS含有CTSTM AIM-V(登録商標)培地などの溶液を用いて、大気酸素状態(37℃、5%CO、20%O)で24時間浸漬する。次に遠心分離(4℃、5000rpm、5分)を行い、上清を溶出液として採取する。採取された上清中のFGF-2又はHMGB1をELISA法で測定することで溶液へのFGF-2又はHMGB1の溶出量を算出する。
また、本発明の乾燥細胞シートは、上記方法によって算出した乾燥細胞シートあたりのFGF-2溶出量が350pg/cm以上、好ましくは700pg/cm以上、より好ましくは1100pg/cm以上、さらに好ましくは3000pg/cm以上、特に好ましくは5000pg/cm以上を挙げることができる。
(乾燥細胞シートの用途)
本発明の乾燥細胞シートは、様々な動物の創傷若しくは手術部位の組織の被覆若しくは補強に使用することができる。上記創傷の要因としては特に制限されないが、例えば外傷、火傷などの外的要因や、糖尿病、膠原病、下肢静脈瘤、閉塞性動脈硬化症、バージャー病、SLEなどの内的要因が含まれる。また、上記創傷の種類としては、熱傷皮膚潰瘍、褥瘡、糖尿病性皮膚潰瘍、静脈性皮膚潰瘍、難治性皮膚潰瘍などの皮膚疾患を挙げることができる。また、手術部位の組織としては、手術によって生じた肺切除時の気管支断端、消化管吻合時の吻合部、肝若しくは膵切離時の断端を挙げることができる。つまり、上記乾燥細胞シートは、外科手術時の縫合不全あるいは断端瘻(ろう)の予防のための補強材として使用し、乾燥細胞シートの移植によって、手術部位における創傷治癒の促進と結合組織の形成を促して、手術で修復された部位を強化し、構造的に弱くなっている部位からの漏れを予防することができる。ここで「動物」とは、特に限定されないが、具体的には、ヒトの他、イヌ、ネコ、ウサギなどのペット動物、ウシ、ブタ、ヒツジ、ウマなどの家畜動物などのことであり、好ましくはヒトである。
乾燥細胞シートの使用態様としては、創傷若しくは手術部位に乾燥細胞シートを構成する乾燥細胞が直接あるいは生理食塩水などの溶液を介して創傷部位や手術部位の組織に接触すればよい。しかしながら、創傷部位や手術部位の組織に凹凸があるなど、平らな形状ではない部位において、その部位へ直接又は間接的に乾燥細胞シートが接するように、乾燥細胞シートを細かく切断、裁断、若しくは粉末化して用いてもよい。この場合は、切断、裁断、若しくは粉末化した乾燥細胞シートを、生理食塩水や徐放性ゲル等の溶液を介して創傷部位や手術部位の組織に接触させることができる。
なお、本発明の上記乾燥細胞シートは、細胞を培養基材上に播種して培養し、さらに乾燥して得られる。一方、得られた本発明の乾燥細胞シートは、その構造又は特性が極めて複雑であり、その構造又は特性により直接特定するには著しく過大な経済的支出や時間を要する。そのため、本発明の乾燥細胞シートの説明において、「生体から採取されたFGF-2発現細胞を培養基材上で培養して細胞シートを得る工程(a);及び前記工程(a)で得られた細胞シートを構成する細胞の増殖能が失われるまで前記細胞シートを乾燥処理する工程(b);によって作製された乾燥細胞シート」と記載することには、いわゆる「不可能・非実際的事情」が存在する。
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの
例示に限定されるものではない。なお、以下の実施例の統計解析において特に明記しない限り、結果は平均±標準偏差とした。2つのグループ間の比較にはスチューデントのt検定を行い、3つ以上のグループ間の比較にはTukey-Kramer法で検定を行った。
[実施例1]
<マウス線維芽細胞による乾燥細胞シートの作製>
まずはマウスの線維芽細胞を培養して細胞シートを作製し、得られた細胞シートを培養基材から剥離後に風乾して乾燥細胞シート(Dry sheet)を作製した。
マウスは雄のC57BL / 6N(6週齢:日本SLC社)を用いた。マウスの飼育においては、温度、湿度、及び消灯時間(12時間)を制御し、食物と水は自由に摂取可能とした。すべての動物実験は、国立大学法人山口大学の動物実験委員会によって承認され、動物実験に関連するガイドラインに準拠した。
まずは線維芽細胞から細胞シートを次の方法で作製した。コラゲナーゼ(富士フイルム和光純薬社)を使用し、上記C57BL / 6Nマウスの尾から線維芽細胞を単離し、10%ウシ胎児血清(FBS)含有CTSTM AIM-V(登録商標)培地(サーモフィッシャーサイエンティフィック社)で培養した。次に、5%FBSを含有するCTSTM AIM-V(登録商標)培地とHFDM-1(+)の等量混合培地(FBS含有AIM-V+HFDM-1培地:total 2ml/well: Cell Science&Technology Institute社)を使用して、初代線維芽細胞をポリスチレン製の24 well plate(1.88cm2/well:AGCテクノグラス社)で4.2×105/wellとなるように播種した。次に大気酸素状態(37℃、5%CO2、20%O2(normal))で2日間培養した後、低酸素状態(33℃、5%CO2、2%O2)で1日培養して積層線維芽細胞シートを作製した。得られた積層線維芽細胞シートは、培養容器に接着していた。培養後、積層線維芽細胞シートを2ml / wellのリン酸緩衝生理食塩水(PBS)で2回洗浄し、500μl(10 PU / mL)のディスパーゼ(合同酒精社)を加えて大気酸素状態(37℃、5%CO2、20%O2)で30分間インキュベートした。続いて、2ml / well のPBSで2回洗浄した。以上の過程で24 well plateから剥離された積層線維芽細胞シートは、乾燥前で生細胞のシートであり、本明細書において「Living sheet」ともいう。Living sheetは、引き続き、後述のクリーンベンチ内での風乾法、又は凍結融解処理を行った。
風乾法では、バイオクリーンベンチ内に置いたシリコン製の細胞シート台上に、広口の1,000μLのピペット用チップを付けたピペットを用いて上記で作製したliving sheetを移動させた。以下、この細胞シートの移動方法を単に「ピペット法」ともいう。次に、Living sheetを細胞シート台上に静置したまま、バイオクリーンベンチ内の清浄な環境の下でバーナーの種火を作動させた状態において平均温度30.7℃(27.6~31.4℃)、平均湿度39.6%(31.1~49.6%)、風速0.1~0.4m/sの条件下で30分ほどLiving sheetを乾燥させて乾燥細胞シートを作製した。本明細書において、上記作製した乾燥細胞シートを「Dry sheet」ともいう。バイオクリーンベンチ内の湿度及び温度はHYGROPALM-HP32(ロトロニック社)を使用し測定し、風速はINFURIDERハンディ風速計(AOPUTTRIVER社)を使用して測定した。Dry sheetはピンセットでシリコン製の細胞シート台から容易に剥がすことが可能であった。得られたDry sheetは1.5mlのチューブ容器に移し、乾燥剤とともに冷蔵庫(4℃)又は室温(23℃)で保存した。
また、後の実験に用いるために凍結融解細胞シートを作製した。なお、凍結融解細胞シートは細胞内の物質を除去した比較対象である。凍結融解操作において、24 well plate内で剥離された上記Living sheetを、2ml / well のPBS含有24 well plateと共に密封可能なビニール袋内に移し、-80℃で凍結した(60分)。その後、インキュベーター(37℃、90分)で融解した。この凍結-融解サイクルを3回繰り返して作製した細胞シートを凍結融解細胞シートとした。本明細書において、上記作製した凍結融解細胞シートを「FT sheet」ともいう。
Living sheet、Dry sheet及びFT sheet作製の流れを図1Aに示す。なお、図1A中、Dry sheet及びFT sheetの写真は、24 well plateから剥離後に乾燥若しくは凍結融解操作を行ったシートを、培養に用いた24 well plate内に静置して撮影したものである。得られたDry sheetは平面形状を維持しており、かつ、ピンセットなどで扱っても細胞シートの形状を維持できる強度を有しておりハンドリングも容易であった。また、フィーダー細胞を用いずに単一の細胞を培養して得られた細胞シートであるため、細胞シートとして表裏の区別もなく、かつ層間剥離もなかった。
<各細胞シートの組織学的所見>
Living sheet、Dry sheet及びFT sheetの各細胞シートの切片標本を作製し、ヘマトキシリン・エオシン(HE)染色又はアザン(Azan)染色し、顕微鏡で観察した。切片標本は、次のとおりである。まず、CellShifterTM(CellSeed社)に載せた各細胞シートを10%ホルマリン中性緩衝液で固定し、パラフィンに包埋した。次に、切片(厚さ3μm)を切り取り、スライドガラスにマウントし、キシレンで脱パラフィンし、段階的にエタノールで再水和した。結果を図1Bに示す。さらに、各細胞シートの厚さ(μm)、積層数、及び各細胞シート100μm長あたりの核の数を図1Cに示す。図1B上段及び中段に示すように、すべての細胞シートは積層構造で形成され、細胞の角化は見られず、表皮角化細胞(ケラチノサイト)は含まれていない状態であった。また、図1B上段及び中段、図1Cの左又は中央のグラフより、Dry sheetはLiving sheetより少し薄くなり、厚さは21±4.2μm、5~7層構造であった。図1B下段及び図1C右のグラフより、核の形態変化はDry sheetではわずかであり、細胞核は膨潤してサイズがより不均一であった。FT sheetでは変化が大きく、核とクロマチンの数が大幅に減少していた。また、図1B下段に示すように、アザン染色においてコラーゲンを示す青色の領域と、蛍光免疫染色で細胞外マトリックスI型コラーゲンを示す赤色の領域に関して、すべての細胞シートに認められ、Living sheet、Dry sheet、FT sheetの順で多かった。このことから、乾燥によって細胞が死んだ場合、及び凍結融解によって細胞の中身を溶出させた場合のいずれもコラーゲンなどの膠原繊維が残っており、マトリックスとしての作用、すなわち細胞の足場としての作用は残っていることが明らかとなった。
[実施例2]
<乾燥速度及び乾燥細胞シートの重量及び平衡含水率>
実施例1と同様の方法でマウスの線維芽細胞を培養することにより作製したLiving sheetを平均温度30.7℃(27.6-31.4℃)、平均湿度39.6%(31.1-49.6%)、風速0.1-0.4 m / sの条件で60分ほど風乾により乾燥させた。
Living sheetからDry sheetへ乾燥する過程における細胞シートの重量(g)変化は、プラスチックプレート上に8枚のLiving sheetを上記ピペット法で移動させ、バイオクリーンベンチ内に設置されたBalance XS104 (Mettler Toledo社)で1分毎に測定した。また、細胞シートの重量変化に基づいて乾燥速度を算出した。さらに、Dry sheetの含水量は、Japan Testing Laboratories社に委託し、カールフィッシャー法で測定した。カールフィッシャー法での含水量の測定には、50枚のDry sheetを2 mlのメタノールに浸漬し、メタノール中の水分量を測定することによって行った。
風乾20分までの乾燥処理時間と細胞シートの重量との関係の結果を図2Aに示す。Living sheetの平均重量は6.9mg / sheetであり、乾燥時間とともに、重量は減少し、平均13.7分(9分,12分,20分の3回の測定の平均)で重量の平衡状態に達していた。20分乾燥処理後の乾燥細胞シートの重量は0.31mg / sheet、面積は0.31cm2 / sheet、カールフィッシャー法で測定した平衡含水率は3.2%、乾燥前と比較しておよそ1/22の重量であり、乾燥速度は7.9mg / min / cm2であった。従って、上記乾燥条件では、乾燥時間は14分で十分であるといえる。
<乾燥細胞シートの生命活動>
乾燥した細胞シートの生命活動を次の方法で調べた。実施例1と同様の方法で作製した、24 well plateから剥離していない積層線維芽細胞シート(Attached cell sheet)、Living sheet、30分間乾燥したDry sheet、及び、陽性コントロールとしてのメタノールに浸漬したLiving sheetを4 ',6-ジアミジノ-2-フェニルインドール(DAPI)で核を染色し、蛍光顕微鏡で観察した。
結果を図2Bに示す。24 well plateから剥離していない積層線維芽細胞シート(Attached cell sheet)はDAPIで染色された核がほとんど認められず、Living sheetは複数のDAPIで染色された核が認められた。乾燥時間30分のDry sheetでは、ほとんどすべての核がDAPIで染色されていた。この結果から、乾燥によりDry sheetを構成する細胞の細胞膜が傷害され、細胞死に至ったと考えられた。
<LDHの放出>
乳酸脱水素酵素(LDH)細胞毒性アッセイキットにより、乾燥時間と死細胞率との関係を検討した。
24 well plateからAttached cell sheet、Living sheet、そして5、10、15、30、45、60分間の乾燥によって得られたDry sheetを500μl PBSに室温(23℃)で30分間浸漬した。各細胞シートの上清中のLDHを、Cytotoxicity LDH Assay Kit-WST(同人化学社)を使用して測定した。陰性コントロールをPBSとし、陽性コントロールはAttached cell sheetを、上記Cytotoxicity LDH Assay Kitキットに付属のLysis BufferをPBSで希釈し、終濃度20%になるように調整した溶液500μlに浸漬し、その上清を用いた。
結果を図2Cに示す。陽性コントロールに含まれるLDHの量を100%として、Living sheetではLDHの放出率は21%であった。Dry sheet においては、LDHの放出率は乾燥時間の経過とともに増加し、10分で88%、15分で92%、30分後に98%以上となった。したがって、乾燥時間の経過と共に死細胞率が上昇すること、上記乾燥条件であれば10分、あるいは15分でほぼ細胞が死ぬことが確認された。
<再播種試験と再播種後の細胞シートの代謝活性>
乾燥時間に伴い細胞増殖能が喪失することを、再播種試験によって検討した。Living sheetと30分間風乾したDry sheetを2 mlの10%FBS含有CTSTM AIM-V(登録商標)培地に移し(12 well plate)、大気酸素条件で24時間培養した後、位相差光学顕微鏡で観察した。
結果を図2Dに示す。Living sheet(図2D左側)では培養皿の底面にLiving sheetが付着し、Living sheetの辺縁から線維芽細胞の増殖が認められた。一方、Dry sheet(図2D右側)では、線維芽細胞の増殖は確認できず、細胞の増殖能を失っていることが確認された。
さらに、再播種から24時間後のLiving sheetとDry sheetから培養上清を除去後、1mLの溶液(10%FBS含有CTSTM AIM-V(登録商標)培地にWST-8試薬(Cell Count Reagent SF、ナカライテスク社)を終濃度10%となるように添加した培養液)を添加した。3時間インキュベートした後、上清の450nmの吸光度を測定することにより代謝活性を調べた。結果を図2Eに示す。Dry sheetの吸光度は培地の吸光度と同等であり、Dry sheetは代謝活性を失っていることが確認された。
上記図2A~Eの結果から、乾燥細胞シートの細胞膜は30分以上の乾燥により脆弱化し、不可逆的に生命活動を停止していることが確認された。また、これらの結果に基づいて後述の実施例においては、個別に記載がない限り、風乾法により30分以上乾燥させ、1~12時間冷蔵(4℃)又は常温(23℃)で2~3日保存した乾燥細胞シートをDry sheetとして使用した。
[実施例3]
<Dry sheetに保持される成長因子及びサイトカインの細胞外への放出>
細胞溶解液を使用して細胞シートを溶解した。その溶解液の上清を使用し、Dry sheetに保持されている生理活性物質を評価するために、VEGF、HGF、FGF-2、及びHMGB1を酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA法)で測定した。なお、VEGFは血管を新しく作るために必要となる成長因子であり、HGFは器官再生促進作用を有する成長因子である。さらに、FGF-2(図中、単にFGF2と記載することもある)は細胞膜、細胞質若しくは核に局在し、細胞が生きているときには細胞外に分泌されず、細胞が障害を受けて初めて細胞外に溶出される成長因子である(Rifkin, D.B., Moscatelli, D. Recent Developments in the Cell Biology of Basic Fibroblast Growth Factor. Cell Biol. 190, 1-6 (1989).)。また、HMGB1はalarminの一種であり、生体防御因子としての作用が知られており、主に核に局在し、間葉系幹細胞の動員にも関わり、創傷治癒を促進する可能性が示唆されているサイトカインである(Tamai, K. et al. Proc Natl Acad Sci U S A. 108, 6609-6614 (2011)., Iinuma, S. J Immunol. 194, 1996-2003 (2015)., Aikawa, E. Fujita, R., Kikuchi, Y., Kaneda, Y., Tamai, K. Sci Rep. 5, 11008 (2015).)。
実施例1と同様の方法でマウスの線維芽細胞を培養することにより作製したLiving sheet、Dry sheet及びFT sheetの各細胞シートを200μlのcell lysis buffer 2(R&D社)に室温で30分間浸漬して細胞シートを溶解し、遠心分離(4℃、5000rpm、5分)した後の上清を細胞溶解液(lysate)として採取し、VEGF、HGF、FGF-2、及びHMGB1をELISA法で測定した(n=3)。ELISA法として、VEGF、HGF、FGF-2の測定においては、Quantikine Immunoassay Kits (R&D Systems社)を用い、HMGB1の測定においてはHMGB1 ELISA Kit Exp (SHINO-TEST社)を用いた。結果を図3Aに示す。
次に、これらの成長因子やサイトカインが細胞溶解液を用いなくてもDry sheetから培養溶液中に分泌又は溶出されるかどうかを検討した。Living sheet、Dry sheet及びFT sheetの各細胞シートを200μlの10%FBS 含有CTSTM AIM-V(登録商標)培地を用いて、大気酸素状態(37℃、5%CO2、20%O2)で24時間浸漬した。次に遠心分離(4℃、5000rpm、5分)を行い、それぞれの上清を溶出液(Eluate)として採取した。採取した上清は測定までは-30℃で保存した。上清中のVEGF、HGF、FGF-2及びHMGB1を上記ELISA法で測定した(n=3)。結果を図3Bに示す。
図3Aから明らかなように、Dry sheetの溶解液ではLiving sheetの溶解液とほぼ同程度の各成長因子又はサイトカインが検出されていた。したがって、Dry sheetではLiving sheetと同程度の各成長因子又はサイトカインが保持されていることが明らかとなった。一方、FT sheetはほとんどの成長因子又はサイトカインを保持していなかった。また、図3Bから明らかなように、VEGFとHGFはLiving sheetの溶出液とDry sheetの溶出液の両方で検出されたが、FGF-2又はHMGB1はDry sheetの溶出液で検出されたものの、Living sheetの溶出液ではほとんど検出されなかった。さらに、VEGF及びHGFに関して、Living sheetと比較してDry sheetの溶出液ではそれぞれ約50%、約95%も維持していた。なお、マウスのFGF-2及びHMGB1は分泌シグナル配列がないため、生細胞ではほとんど細胞外(上清中)に分泌されないタンパク質であり、VEGF及びHGFは分泌シグナル配列を有しているため、生細胞でも細胞外(上清中)に分泌されるタンパク質である。これらの結果から、Dry sheetは乾燥による細胞膜の傷害によって、Living sheetでは放出されないFGF-2及びHMGB1が細胞外に放出できることが明らかとなった。また、Dry sheetを貼付することで、細胞シートから成長因子やサイトカインなどの生理活性物質が漏出し、創傷又は手術部位の組織周囲の線維芽細胞や間葉系幹細胞を刺激し、血管新生や創傷治癒、もしくは手術部位の組織修復を促進すると考えられる。
さらに、免疫蛍光染色により、各細胞シートにおけるFGF-2及びHMGB1の局在を観察した。切片標本は、次のとおりである。まず、CellShifterTM(CellSeed社)に載せた各細胞シートを10%ホルマリン中性緩衝液で固定し、パラフィンに包埋した。次に、切片(厚さ3μm)を切り取り、スライドガラスにマウントし、キシレンで脱パラフィンし、段階的にエタノールで再水和した。Target Retrieval Solution(S1699; DAKO Cytomation A/S社)で100℃、30分間、熱誘導抗原回復を行い、ブロッキングバッファー(X0909:DAKO社)を用いて室温で20分間インキュベートした。使用した各抗体は以下に示す。Rabbit anti-FGF-2 antibody (ab208687; Abcam社)、rabbit anti-HMGB-1 antibody (ab79823; Abcam社), goat anti-rabbit IgG H&L secondary antibody (ab96884; Abcam社)。すべての組織像は、BZ-X710顕微鏡(キーエンス社)を使用して撮像し、BZ-Xアナライザー(キーエンス社)を使用して分析した。FGF-2の局在を顕微鏡で観察した結果を図3Cに、HMGB1の局在を顕微鏡で観察した結果を図3Dに示す。
図3Cから明らかなように、FGF-2は、Living sheetとDry sheetの細胞質に局在していたが、FT sheetではほとんど認められなかった。また、図3Dから明らかなように、HMGB1は、Living sheetとDry sheetの細胞核に局在していたが、FT sheetではほとんど認められなかった。
上記図3A-Dの結果から、Dry sheetの細胞内に保持されるFGF-2及び主に核内に保持されるHMGB1は、乾燥によって細胞膜及び核膜が脆弱化し、溶出液に浸漬することで細胞外に容易に放出されることが明らかとなった。
[実施例4]
<細胞シート溶出液による線維芽細胞の細胞増殖及びVEGF/HGF産生解析>
Dry sheetの溶出液による線維芽細胞の細胞増殖、VEGF及びHGF産生の増強を調べた。
実施例1と同様の方法でマウスの線維芽細胞から作製したLiving sheet、Dry sheet及びFT sheetの各細胞シートを200μLのDMEM(FBS不含有)に24時間浸漬し、遠心分離(5000 rpm、4℃、3分)を行って上清を回収して、上記各細胞シートの溶出液試料とした。
マウスの線維芽細胞を、10% FBSを含むDMEM100μL中で細胞濃度8×103細胞/ウェルで96ウェルプレートに播種し、続いて、Living sheet、Dry sheet及びFT sheetの各細胞シートから調製した溶出液試料又はコントロールとしてDMEMを100μL添加した。次に、大気酸素条件下で48時間(37℃、5%CO2、20%O2)インキュベート後、培養上清を採取し、WST-8試薬(Cell Count Regent SF、ナカライテスク社)を用いた細胞増殖アッセイを行った。コントロールのDMEM添加で培養したマウスの線維芽細胞の細胞増殖率を1とした場合の相対比で細胞増殖率を算出した。結果を図4Aに示す(数値は平均値±標準偏差、*: P <0.05、**: P<0.01、n.s.:有意差なし)。図4A中、LivingはLiving sheetから調製した溶出液試料を添加した場合、DryはDry sheetから調製した溶出液試料を添加した場合、FTはFT sheetから調製した溶出液試料を添加した場合、ControlはDMEMを添加した場合である(図4B-図4Dも同じ)。
また、Living sheet、Dry sheet及びFT sheetの各細胞シートから調製した溶出液試料で培養したマウスの線維芽細胞、及びコントロールのDMEM添加で培養したマウスの線維芽細胞におけるVEGF産生及びHGF産生をELISAで測定し、コントロールのDMEM添加で培養した線維芽細胞におけるVEGF産生及びHGF産生量を1とした場合の相対比を算出した。結果を図4B、図4Cに示す(数値は平均値±標準偏差、*: P <0.05、**: P<0.01、n.s.:有意差なし)。
図4Aから明らかなように、線維芽細胞の細胞増殖アッセイでは、Living sheet、Dry sheet、FT sheetから調製した溶出液試料を用いた場合は、DMEM(コントロール)に比べて細胞増殖率がそれぞれ順に1.14、1.75、1.03倍高値であった。したがって、Dry sheetの溶出液は、Living sheet、FT sheetに比べ有意な細胞増殖能を示した。また、図4B、図4Cから明らかなように、 Dry sheetから調製した溶出液試料を用いた場合は、コントロールに比べ1.53倍有意に高いVEGFの産生を誘導し、コントロールに比べ4.64倍有意に高いHGFの産生を誘導した。
さらに、上記実施例3において、Dry sheetの溶出液にはFGF-2が多量に含まれていたため、FGF-2は生物活性に影響を及ぼす可能性がある。このFGF-2は強力な増殖因子である。そこで、FGF-2に対する中和抗体又は組換えFGF-2蛋白質(rFGF-2)を用いて、溶出液中のFGF-2が線維芽細胞の増殖に直接影響するか否かを調べた。
Dry sheetの溶出液試料、あるいは0若しくは5ng/mLのrFGF-2(FUJIFILM Wako Pure Chemical社)を含むDMEM(FBS不含有)を、抗FGF-2抗体(bFM-1:Merck Millipore社)又はコントロール抗体(マウスIgG1アイソタイプコントロール clone 11711:R&D Systems社)と37℃で60分間インキュベートして、上記いずれかの抗体で中和処理した溶出液を調製した。マウスの線維芽細胞を1% FBSを含むDMEM100μL中の細胞濃度8×103細胞/ウェルで96ウェルプレートに播種し、その後、上記で調製した上記いずれかの抗体を含むDry sheetの溶出液サンプル100μL、上記いずれかの抗体及び0若しくは5ng/mLのrFGF-2を含むDMEM100μLを添加した。それぞれ大気酸素条件下で48時間インキュベートした後、培養上清を吸引し、続いて細胞増殖アッセイを行った。コントロール抗体を用い、かつrFGF-2添加なしのDMEMで培養した線維芽細胞の細胞増殖率を1とした場合の相対比でそれぞれの細胞増殖率を算出した。数値は平均値±標準偏差で表した(**: P<0.01)。結果を図4Dに示す。
図4Dから明らかなように、Dry sheetの溶出液又はrFGF-2のいずれにおいてもコントロール抗体の処理群では線維芽細胞の細胞増殖率を高めるが、FGF-2中和抗体処理群では線維芽細胞の増殖を妨げていた。したがって、Dry sheetの生物活性が主にFGF-2の効果であることが明らかとなった。
[実施例5]
<糖尿病マウスの皮膚全層欠損モデルにおける創傷治癒効果-マウス線維芽細胞>
糖尿病マウスの皮膚全層欠損モデルを用い、マウスの線維芽細胞から作製した乾燥細胞シートが創傷治癒効果を有するかどうかを調べた。
雄のC57BL / 6Nマウス(6週齢:Japan SLC社)に、ストレプトゾトシン(STZ)55 mg / kgを24時間ごとに5日間連続して腹腔内投与した。STZ投与後9日目及び10日目に血糖値測定を行い、血糖値が連続で300mg / dl以上のマウスを糖尿病マウスとした。次に、STZの最終投与から14日後に、上記糖尿病マウスを2%イソフルランで吸入麻酔し、6mm生検パンチを使用して背側に全層皮膚欠損を作製した(n=6)。
Living sheet、Dry sheet、FT sheetの各細胞シートは、雄のC57BL / 6Nマウス(自家)と雄のC3H / Heマウス(他家/同種異系)から線維芽細胞を単離し、実施例1と同様の方法で作製した。各細胞シート作製から2~3日ほど室温(23℃)で保存した後、Living sheetとFT sheetは上記ピペット法で移動して皮膚欠損部に貼付した。Dry sheetはピンセットで容易に把持して貼付可能であり、ピンセットを用いて貼付した(図示なし)。各細胞シート貼付日(Day 0)に、ADAPTIC(#2012; Acelity社)及びDerma-aid(登録商標)(ALCARE社)で創傷部を保護し、Silkytex(#11893; ALCARE社)で固定した。Day 1以降は、隔日にAirwall Fuwari(#MA-E050-FT; 共和社)で創傷部を保護し、Silkytex(#11893; ALCARE社)で固定した。Day 0、1、3、5、7、9、11、及び13にデジタルカメラで直径10.5 mmの定規とともに創傷部を撮影した。自家の線維芽細胞から作製した細胞シートを用いた場合の結果を図5A、他家/同種異系の線維芽細胞から作製した細胞シートを用いた場合の結果を図5Cに示す。また、ImageJソフトウェア(アメリカ国立衛生研究所)を用いて創傷面積を測定した。創傷の閉鎖率は以下の式で求めた。[ day X ](%)= {1-(創傷部 [ day X ] / 創傷部 [ day 0 ])}×100。Dry sheetは室温で保存され、作製後1週間以内のものを使用した。結果を図5B、Dに示す。
図5A-Dから明らかなように、創傷の閉鎖率は、無治療群(Control)よりも自家及び他家のDry sheet群で有意に高かった。具体的には、5日目[自家Dry sheet群 and 他家Dry sheet群 vs 無治療群:74.2±5.0%(P <0.05)and 80.0± 4.9%(P < 0.01)vs 51.0±7.2%]、7日目[自家Dry sheet群 and 他家Dry sheet群 vs. 無治療群:95.8±2.1%(P < 0.01)and 90.0±4.0%(P < 0.05) vs. 72.4±5.7%]、9日目[自家Dry sheet群 vs. 無治療群:99.4±0.5%(P < 0.01) vs 91.0±2.4%]であった。したがって、Dry sheetは難治性皮膚潰瘍の治療効果があることや、5日目、7日目という早い段階から治癒効果があることが明らかとなった。
また、他家細胞のDry sheetで治療した組織をHE染色及びAzan染色した結果を図5Eに示す。Dry sheet は、Azan染色で局在を確認可能であった。Dry sheetは表皮組織から脱落することなく、day 3以降は、形成された痂皮又は表皮組織の直下に存在していた。さらに、Dry sheetは9日目の切片では認められなかった。したがって、他家細胞のDry sheetは皮膚の創傷部に貼付け後、創傷部の上皮化の過程で脱落せずに表皮の下側に残り、9日目までに白血球などにより分解、吸収されたと考えられる。また、他家細胞のDry sheetは皮膚の創傷部に貼付け後、表皮から排除されないことは、貼付け後の乾燥細胞シートによる創傷部のバリア機能を発揮しているといえる。
[実施例6]
<細胞シート貼付後30日目の創部組織像>
実施例5で用いた各細胞シート貼付後30日目の創部組織像を調べた。結果を図6に示す。図6中、左が自家移植(自家の線維芽細胞から作製した細胞シートを用いた場合)、左が他家移植(他家/同種異系の線維芽細胞から作製した細胞シートを用いた場合)である。自家移植、他家移植ともにすべての細胞シート移植群において、無治療群と比較し、創傷治癒後の皮膚組織に異常所見は認められなかった。したがってDry sheetを貼付しても、創傷治癒後の皮膚組織に異常をきたすことはないことが確認された。
[実施例7]
<Dry sheetに保持される成長因子又はサイトカインの保存安定性>
実施例1と同様の方法で同日に作製したマウス線維芽細胞を用いた乾燥細胞シート(Dry sheet)を使用して、温度及び保存期間によるDry sheetに保持される成長因子又はサイトカインの安定性を検討した。Dry sheetを冷蔵(4℃)又は室温(23℃)で1日、1、2、4週間保存した後、10%FBS 含有CTSTM AIM-V(登録商標)培地に24時間浸漬し、その溶出液を-30℃で保存した。溶出液を融解後、実施例3と同様の方法でVEGF、HGF、FGF-2、及びHMGB1をELISA法で測定した(n=4)。結果を図7に示す。
図7から明らかなように、VEGF、HGFは温度や保存期間による有意な変動をほとんど示さなかった。また、FGF-2、HMGB1においては、4週間4℃保存した場合にほとんど変動は示さず、4週間の室温保存では徐々に溶出量は減少したものの、FGF-2に関しては4週間で1日と比較して50%程度、HMGB-1に関しては2週間で1日と比較して60%程度、4週間で25%程度も維持していた。
これらの結果から、冷蔵保存であれば少なくとも成長因子やサイトカインは4週間安定しており、室温保存であってもVEGF、HGF及びFGF-2は4週間安定、HMGB-1は2週間ほど安定であることが明らかとなった。また、乾燥細胞シートは細胞の生命活動が停止しており、成長因子やサイトカインの持続的な分泌はされない。しかしながら、上記結果より所定の条件で所定期間保存後も乾燥細胞シートに保持された成長因子やサイトカインを安定的に放出されることが明らかとなった。
<糖尿病マウスの皮膚全層欠損モデルにおける創傷治癒効果>
糖尿病マウスの皮膚全層欠損モデルを用い、上記冷蔵(4℃)で保存した乾燥細胞シートが創傷治癒効果を有するかどうかを調べた。
実施例5と同様の方法により糖尿病マウスを作製し、生検パンチを使用して背側に全層皮膚欠損を作製した。
マウスC3H / Heマウス(他家/同種異系)から単離した線維芽細胞を用いた乾燥細胞シート(Dry sheet)を上記と同様に4℃で1日(D1)又は4週(28日:D28)保存した。1日ほど保存した乾燥細胞シート(D1 sheet)又は4週ほど保存した乾燥細胞シート(D28 sheet)はピンセットを用いて皮膚欠損部に貼付した。各細胞シート貼付日(Day 0)に、ADAPTIC(#2012; Acelity社)及びDerma-aid(登録商標)(ALCARE社)で創傷部を保護し、Silkytex(#11893; ALCARE社)で固定した。Day 1以降は、隔日にAirwall Fuwari(#MA-E050-FT;共和社)で創傷部を保護し、Silkytex(#11893; ALCARE社)で固定した。Day 0、1、3、及び5にデジタルカメラで直径10.5 mmの定規とともに創傷部を撮影した。結果を図8Aに示す。また、ImageJソフトウェア(アメリカ国立衛生研究所)を用いて創傷面積を測定した。創傷の閉鎖率は以下の式で求めた。
[ day X ](%)= {1-(創傷部 [ day X ]/ 創傷部 [ day 0 ])}×100
結果を図8B示す。
図8A、Bから明らかなように、創傷の閉鎖率は、Day 3において無治療群(Control:乾燥細胞シートによる創傷部の保護なし)よりもD1 sheet及びD28 sheetでそれぞれ10.2%、15%上昇し、Day 5において無治療群(Control)よりもD1 sheet及びD28 sheetでそれぞれ19.4%、27.1%上昇した。したがって、4℃で4週間も保存した乾燥細胞シートであっても、難治性皮膚潰瘍の治療効果があることや、3日目、5日目という早い段階から治癒効果があることが明らかとなった。
[実施例9]
<ヒトの細胞を用いた乾燥細胞シートの作製>
上記まではマウスの線維芽細胞を培養して作製した細胞シート、乾燥細胞シート、凍結融解細胞シートを用いて解析を行ったが、ヒトの細胞についても解析を行った。
1)ヒト口腔内組織由来線維芽細胞の培養
凍結保存されている健常人(A)から採取されたヒト口腔内組織由来線維芽細胞(A株)を融解後、10% FBS含有CTSTM AIM-V(登録商標)培地を用いて大気酸素状態(37℃、5%CO2、20%O2)で培養した。3日ごとに細胞継代を行い、細胞シートの作製に用いた。
2)ヒト間葉系幹細胞MSCの培養
ヒト骨髄由来間葉系幹細胞(hBM-MSC)はLONZA社より購入し、添付文書に従って培養を行った。培地はMSCGM Bullet kit(LONZA社)を用いて大気酸素状態(37℃、5%CO2、20%O2)で培養し、3日毎に培地交換した。6~7日間培養後、細胞継代を行った。5継代目まで継代を重ねて、細胞数を増やし、細胞シートの作製に用いた。
3)積層細胞シートの作製(線維芽細胞・間葉系幹細胞ともに共通)
積層細胞シートは、5%FBSを含有する等量のCTSTM AIM-V(登録商標)培地+HFDM-1(+)(Cell Science&Technology Institute社)混合培地を使用して、細胞を24 well plate(5.0×105/well)で播種し、大気酸素状態(37℃、5%CO2、20%O2)で3日間インキュベートして作製した。インキュベート後、積層細胞シートを2ml / wellのリン酸緩衝生理食塩水(PBS)で2回洗浄し、500μl(10 PU / mL)のディスパーゼを使用して、大気酸素状態(37℃、5%CO2、20%O2)で30分間インキュベートした。続いて、2ml / well のPBSで2回洗浄してliving sheetを得た。
以上の過程で24 well plateから剥離されたLiving sheetを用いて、引き続き実施例1と同様の方法でDry sheet及びFT sheetを作製した。Dry sheetはピンセットでシリコン製の細胞シート台から容易に剥がすことが可能であった。Dry sheetは1.5mlのチューブ容器に移し、乾燥剤とともに冷蔵(4℃)又は室温(23℃)で保存した。ヒト口腔内組織由来線維芽細胞を用いた乾燥細胞シートの形態の写真及びHE染色の結果を図9Aに、ヒト骨髄由来間葉系幹細胞を用いた乾燥細胞シートの形態の写真及びHE染色の結果を図9Bに示す。図9A及び図9Bから明らかなように、ヒトの細胞においてもマウスの細胞と同様に乾燥細胞シートを作製できることが確認された。なお、ヒト口腔内組織由来線維芽細胞を用いた乾燥細胞シート及びヒト骨髄由来間葉系幹細胞を用いた乾燥細胞シートのいずれもピンセットで扱っても細胞シートの形状を維持できる強度を有しており、ハンドリングも容易であった。
<ヒト由来細胞を用いた乾燥細胞シートから溶出する生理活性物質の測定>
上記で作製したヒト口腔内組織由来線維芽細胞を用いた乾燥細胞シート及びヒト骨髄由来間葉系幹細胞を用いた乾燥細胞シート(いずれもシート作製後12時間室温で保存後の乾燥細胞シート)を200μlのDMEM培地を用いて、大気酸素状態(37℃、5%CO2、20%O2)で24時間浸漬した。次に遠心分離(4℃、5000 rpm、5分)を行い、それぞれの上清を採取した。採取した上清は測定までは-30℃で保存した。上清中のVEGF、HGF、FGF-2及びHMGB1をELISA法で測定した。結果を図9Cに示す。さらに、上記健常人(A)とは別の健常人(B)から採取されたヒト口腔内組織由来線維芽細胞(B株)を用いた乾燥細胞シートを上記と同じ方法で作製した。そして、その乾燥細胞シートを上記と同じ方法で浸漬、遠心分離、上清採取し、その上清中のVEGF、HGF、FGF-2及びHMGB1をELISA法で測定した。結果を図9Dに示す。なお、ヒトのFGF-2及びHMGB1は分泌シグナル配列がないため、生細胞ではほとんど細胞外(上清中)に分泌されないタンパク質であり、VEGF及びHGFは分泌シグナル配列を有しているため、生細胞でも細胞外(上清中)に分泌されるタンパク質である。
図9Cから明らかなように、FGF-2はヒト口腔内組織由来線維芽細胞(A株)を用いた乾燥細胞シートの場合におよそ8000pg/mL、骨髄由来間葉系幹細胞を用いた乾燥細胞シートの場合におよそ1800pg/mLも検出された。一方、Living sheetやFT sheetではほとんど検出されなかった。また、HGFにおいて、ヒト口腔内組織由来線維芽細胞(A株)を用いた乾燥細胞シートの場合は培養上清又はLiving cellの2倍程度検出されていた。なお、上記上清中のFGF-2は、乾燥細胞シート0.31cm2を0.2mLの上清に溶解して測定していることから、乾燥細胞シートあたりのFGF-2溶出量としては、ヒト口腔内組織由来線維芽細胞(A株)を用いた乾燥細胞シートの場合はおよそ5200pg/cm2、骨髄由来間葉系幹細胞を用いた乾燥細胞シートの場合にはおよそ1200pg/cm2となる。
また、図9Dから明らかなように、FGF-2はヒト口腔内組織由来線維芽細胞(B株)を用いた乾燥細胞シートの場合におよそ14500pg/mLも検出された。一方、Living sheetやFT sheetではほとんど検出されなかった。また、HGFにおいて、ヒト口腔内組織由来線維芽細胞(B株)を用いた乾燥細胞シートの場合は培養上清又はLiving cellの2.5倍程度検出されていた。なお、上記上清中のFGF-2は、乾燥細胞シート0.31cm2を0.2mLの上清に溶解して測定していることから、乾燥細胞シートあたりのFGF-2溶出量としては、およそ9400pg/cm2となる。
図9C、Dの結果より、ヒトの線維芽細胞や間葉系幹細胞から作製した乾燥細胞シートにおいても、培地に浸すと細胞膜が壊れ、細胞内に貯蔵されているFGF-2及びHMGB1が放出されることが確認された。
[実施例10]
<ヒトの細胞を用いた乾燥細胞シートからの溶出液の生理活性>
上記実施例9で作製した、健常人(B)から採取されたヒト口腔内組織由来線維芽細胞(B株)を用いた乾燥細胞シートを200μlのDMEM培地を用いて、大気酸素状態(37℃、5%CO2、20%O2)で24時間浸漬した。次に遠心分離(4℃、5000 rpm、5分)を行い、それぞれの上清を採取した。次に、上記採取した上清(溶出液)とDMEM培地の混合液(1:4)100μLをヒト皮膚由来線維芽細胞又はヒト血管内皮細胞の懸濁液(2×104 cell/mL,100μL)にそれぞれ添加して37℃で48時間培養後、細胞増殖比を測定した。コントロールとして上記混合液の代わりにDMEM100μLを用いた。結果を図10Aに示す。図10Aの左はヒト皮膚由来線維芽細胞に添加した場合、右は血管内皮細胞に添加した場合である。縦軸はDMEMを用いた場合を1とした場合の相対比である。
さらに、上記溶出液とDMEM培地の混合液(1:4)に抗FGF-2抗体を加えて、中和処理した溶出液を調製した。そして、上記の溶出液(100μL)、コントロール抗体で中和処理した溶出液(100μL)をそれぞれヒト血管内皮細胞の懸濁液(2×104cell/mL,100μL)に添加し、48時間培養後の細胞増殖比を測定した。コントロールとして上記混合液の代わりにDMEM100μLを用いた。抗体添加なし、かつrFGF-2添加なしのDMEMで培養した血管内皮細胞の細胞増殖率を1とした場合の相対比でそれぞれの細胞増殖率を算出した。数値は平均値±標準偏差で表した(**: P<0.01)。用いたrFGF-2、抗FGF-2抗体、及びコントロール抗体は実施例4に記載と同じ方法で行った。結果を図10Bに示す。
図10Aの結果より、ヒト皮膚由来線維芽細胞、ヒト血管内皮細胞ともにヒト口腔内組織由来線維芽細胞を用いた乾燥細胞シートからの溶出液を添加した場合には、添加しなかった場合(DMEM)と比較して有意に細胞増殖が認められた。また、図10Bの結果より、抗FGF-2抗体による中和処理により細胞増殖が有意に阻害され、血管内皮細胞の増殖には乾燥細胞シートからのFGF-2が作用していることが確認された。
[実施例11]
<Dry sheetに保持される成長因子又はサイトカインの保存安定性>
実施例9で作製したヒト口腔内組織由来線維芽細胞(B株)を用いた乾燥細胞シート(Dry sheet)を使用して、温度及び保存期間によるDry sheetに保持される成長因子又はサイトカインの安定性を検討した。Dry sheetを冷蔵(4℃)又は室温(23℃)で3ヶ月保存した後、DMEM培地200μLに37℃で24時間浸漬し、遠心分離(5000 rpm、4℃、3分)を行って上清を回収して、上記乾燥細胞シートの溶出液とし、-80℃で保存した。溶出液を融解後、実施例9と同様の方法でVEGF、HGF、FGF-2、及びHMGB1をELISA法で測定した(n=6)。結果を図11に示す。
図11から明らかなように、ヒト口腔内組織由来線維芽細胞(B株)を用いた乾燥細胞シートにも、VEGFは温度や保存期間による有意な変動を示さず、HGFは4℃では有意な変動を示さず、23℃でもコントロールと比較して減少率が36.3%であった。また、FGF-2、HMGB1のいずれも、3ヶ月もの長期間4℃保存した場合には有意な変動は示さず、23℃で保存した場合には溶出量は減少したものの、FGF-2ではコントロールと比較して減少率が9.8%、HMGB-1では29.8%程度にとどまっていた。
これらの結果から、冷蔵保存であれば少なくとも成長因子やサイトカインは3ヶ月安定しており、23℃保存であってもVEGFは3ヶ月安定であり、HGF、FGF-2、及びHMGB-1も少なくとも60%程度は維持していることが明らかとなった。上記結果よりヒトの細胞から得られた乾燥細胞シートは3ヶ月もの長期間保存後も乾燥細胞シートに保持された成長因子やサイトカインを安定的に放出されることが明らかとなった。
[実施例12]
<乾燥条件の検討>
実施例1では風乾で行ったが、乾燥について他の様々な方法で検討を行った。乾燥方法としては、風乾(送風乾燥)、加温送風乾燥、真空乾燥、凍結乾燥、化学乾燥を行った。
実施例1と同様の方法で作製したLiving sheetをピペット法でシリコンシート上に移し、可能な限りPBSを除去した後にそれぞれの乾燥方法を実施した。
1.加温送風乾燥
プレートヒーターで45℃に加温し、送風3m/sの条件下で30分ほど乾燥させた。
2.真空乾燥(AVO-310NS(ETTAS社)
庫内の温度を30℃に設定し、真空ポンプで庫内の圧力を500mTorr以下に減圧した。真空ポンプを4時間作動させて乾燥させた。乾燥処理後にゆっくり加圧して真空を解除した。
3.凍結乾燥(Freeze dry:FD GENESIS 25XL-3(VirTis社)
凍結(3時間):庫内の温度を室温から-40℃に冷却した。
一次乾燥(4時間):真空ポンプで庫内の圧力を500mTorr以下に減圧した。
二次乾燥(O/N 16時間):庫内の圧力を維持したまま、庫内の温度を-40℃から-20℃までゆっくり復温させた。
真空解除(1時間):ゆっくり加圧して真空を解除した。
4.化学乾燥
細胞シートに2-プロパノールを滴下し、自然乾燥させた。
乾燥処理後の各細胞シートを24 well plateに置いた状態の写真、及びHE染色を行い、その断面を顕微鏡観察した結果を図12Aに示す。いずれの乾燥方法においても風乾と同様に乾燥細胞シートが形成されることが確認された。
また、風乾(送風乾燥)、加温送風乾燥、真空乾燥、凍結乾燥、化学乾燥した乾燥細胞シートを10%FBS 含有CTSTM AIM-V(登録商標)培地に24時間浸漬し、その溶出液中のVEGF、HGF、FGF-2及びHMGB1の濃度を、実施例3と同様の方法で調べた結果を図12Bに示す。図12Bから明らかなように、乾燥方法によるVEGF、HGF、FGF-2及びHMGB1の溶出の差はほとんどみられず、乾燥方法は風乾に限らず、他の方法によってもVEGF、HGF、FGF-2及びHMGB1が溶出することが確認された。
[実施例13]
上記実施例により、本発明の乾燥細胞シートはFGF-2を溶出しやすいことが明らかとなった。そこで、細胞によるFGF-2の含有量の違いを調べた。
ヒトの口腔組織由来の線維芽細胞(Human Oral Fibroblasts:HOF)、ヒトの皮膚由来の線維芽細胞(Human Dermal Fibroblasts:HDF)、ヒトの歯髄幹細胞(Human Dental Pulp Stem cells:DPSC)、ヒトの骨髄由来の間葉系幹細胞(Human Mesenchymal Stem Cells:MSC)、ヒトの臍帯静脈内皮細胞(Human Umbilical Vein Endothelial Cells:HUVEC)、ヒトの骨格筋芽細胞(Human Skeltal Muscle Myoblast Cells:SkMM)、ヒト表皮ケラチノサイト(Human Epidermal Keratinocytes:HEK)、のそれぞれ5×10細胞を200μLのDMEMに懸濁し、凍結融解を2回繰り返して細胞膜を破壊し、細胞内容物を溶出させた。遠心分離後に上清を回収し、FGF-2、HGF及びVEGFの含有量をELISA法によって測定した。総タンパク質濃度はウシアルブミンをスタンダードとして、Coomassie (Bradford) Protein Assay Kit (23200; Thermo Fisher Scientific社)で測定した。そして、乾燥細胞シートから溶出されたFGF-2量、HGF量及びVEGF量(pg)は、総タンパク質1μgあたりで算出した(pg/μg)。結果を図13に示す。
図13から明らかなように、FGF-2は口腔組織由来の線維芽細胞、皮膚由来の線維芽細胞、歯髄幹細胞及び骨髄由来の間葉系幹細胞、において多く含まれ、次いで臍帯静脈内皮細胞や骨格筋芽細胞で多く含まれ、表皮ケラチノサイトにはほとんど含まれていないことが確認された。また、HGFは間葉系幹細胞や口腔組織由来の線維芽細胞に多く含まれていることが確認された。さらに、VEGFは間葉系幹細胞に多く含まれ、次いで歯髄幹細胞、表皮ケラチノサイトに含まれていることが確認された。したがって本発明の乾燥細胞シートを作製するにあたって、線維芽細胞、歯髄幹細胞、間葉系幹細胞、血管内皮細胞、骨格筋芽細胞、特に線維芽細胞、歯髄幹細胞、間葉系幹細胞が好ましいこと、表皮ケラチノサイトを用いてもFGF-2の溶出がほとんど期待できないことが明らかとなった。
[実施例14]
<乾燥細胞シートから溶出されるFGF-2量>
ヒトの口腔組織由来の線維芽細胞(Human Oral Fibroblasts:HOF)、ヒト歯髄幹細胞(Human Dental Pulp Stem cells:DPSC)、ヒトの骨髄由来の間葉系幹細胞(Human Mesenchymal Stem Cells:MSC)それぞれの細胞を用いて、実施例9に記載の方法で乾燥細胞シートを作製した。その乾燥細胞シートを200μLのDMEMに浸し、24時間インキュベート(37℃、5%CO2、20%O2)した。遠心分離後に上清を回収し、FGF-2、HGF及びVEGFの濃度をELISA法で測定した。総タンパク質濃度は実施例13に記載の方法で算出した(pg/μg)。結果を図14に示す。
いずれのヒトの細胞においても、FGF-2が乾燥細胞シートから溶出されていることが確認された。さらに、HGFやVEGFも乾燥細胞シートから溶出されていることが確認された。通常FGF-2は細胞が生きた状態では細胞外へ分泌することも溶出することもないが、本発明の乾燥細胞シートとすることで効率よくFGF-2を細胞外へ溶出でき、細胞シートにおける創傷治癒効果を向上していることが示された。
[実施例15]
<細胞シート溶出液による線維芽細胞の細胞増殖>
実施例4ではマウスの線維芽細胞から作製した乾燥細胞シートの溶出液による線維芽細胞の増殖を調べたが、上記実施例14で使用したヒトの細胞(HOF、DPSC、MSC)から作製した乾燥細胞シートの溶出液の生理活性を、血管内皮細胞の増殖で評価した。
内皮細胞増殖培地(EGM)2(C-22011:PromoCell社)で血管内皮細胞の懸濁液(2×104 cells/mL)を調製し、100uLずつ播種した。次に実施例14で調製した、HOF、DPSC、及びMSC各乾燥細胞シートの溶出液(20%)を100uLずつ添加した(溶出液の終濃度は10%)。コントロールにはDMEM 100uLを添加した。そして、48時間培養後に、生細胞数アッセイ(WST-8試薬)を用いて細胞増殖を比較した。結果を図15に示す。
HOF、DPSC、及びMSCで作製した乾燥細胞シートの溶出液はコントロール(DMEM)に比べ有意な細胞増殖が確認された。すなわち、HOF、DPSC、MSCで作製した乾燥細胞シートの溶出液は生理活性を有することが示された。
[実施例16]
<乾燥細胞シートによる生体内の手術部位の組織の補強>
食道縫合部に対して乾燥細胞シートを移植することで創傷治癒の促進及び組織の補強効果が得られるのかを検証した。
実施例1においてマウスの線維芽細胞を用いた代わりにラット(Wister/ST、10週齢、オス)の口腔組織由来の線維芽細胞を用い、単離した線維芽細胞を10%FBS含有DMEM培地で培養した。細胞シート作製時の1日目は10%FBS含有DMEM培地で培養し、翌日に上記FBS含有AIM-V+HFDM-1培地に入れ替えた以外は同様の方法で乾燥細胞シートを作製した。
・食道縫合モデルの作製
以下の方法で食道縫合モデルを作製した。
(1)イソフルランによる吸入麻酔下にラット(Wister/ST、10週齢、オス)を仰臥位とし、頸部を伸展させて台に固定した。
(2)頸部を剃毛し、頸部に2cmの縦切開を行った。気管と食道を周囲の組織から剥離し、気管と食道を分離させた。食道を気管の前方に引き出し、クリップで固定した。食道の幅は約3mmであった。
(3)縫合は顕微鏡下で行った。食道を第9~10気管軟骨レベルで切離し、7-0非吸収糸を用いて4針で縫合した。まず側壁に1針ずつ、次に前壁に1針、最後に食道を反転させて1針の計4針で縫合した。縫合は等間隔となるようにした。また、内腔が狭窄していないことを確認した。
(4)食道を気管の後方に戻し、筋肉、皮下組織及び皮膚をそれぞれ縫合した。
・食道縫合部への乾燥線維芽細胞シートの移植
上記食道縫合モデルの作製の(3)の後に、自家の口腔粘膜由来の線維芽細胞から作製した乾燥細胞シートを縫合部の後壁、前壁の順に合計2枚移植した。この時、側壁にも乾燥細胞シートを被せ、縫合部の全周が覆われるようにした。乾燥細胞シートは鑷子を用いて移植した。食道を反転させる際や気管の後方へ戻す際に乾燥細胞シートが縫合部から移動することが危惧されたため、開創器を用いて移植した乾燥細胞シートが周囲組織へ接着することを防止した。また、乾燥細胞シート移植後に5分間待つことで細胞シートが十分に接着するようにした。移植後は上記食道縫合モデルの作製の(4)と同様の操作を行った。コントロール群(食道の切離・縫合のみ)と乾燥細胞シート群(食道の切離・縫合に加えて乾燥細胞シートを2枚移植)の2群に分けて検討した。それぞれを術後3日目と5日目に犠牲死させた。食道縫合モデル及び乾燥細胞シートの移植のイメージを図16Aに示す。
・縫合不全の発生率
術後3日目(Day3)及び5日目(Day5)における縫合不全又は死亡の発生を調べた。結果を図16Bに示す。術後3日目、5日目共に、乾燥細胞シート群(Dry)ではコントロール(Control)と比較して縫合不全の発生率が極めて低いことが確認された。
・縫合部付近の膿瘍
さらに、縫合部付近の膿瘍の程度を以下の表1に示すAbscess score(Verco, S. J. S. et al. Development of a novel glucose polymer solution (icodextrin) for adhesion prevention: Pre-clinical studies. Hum. Reprod. 15, 1764-1772 (2000).)に基づいて評価した。結果を図16Cに示す。
図16Cより、乾燥細胞シート群では、膿瘍の程度が軽いことが確認された。
・縫合部の耐圧能
術後3日目と5日目に犠牲死させ、食道を気管及び周囲組織と一括に採取した。耐圧能を評価するために、腹部食道から24Gサーフローを挿入し、食道の肛門側及び口側を4-0ナイロン糸で結紮した。24Gサーフローにアネロイド式圧力計を接続し、10mLシリンジを使用して加圧した。耐圧能にはBurst pressureを採用した。Burst pressureは食道を生理食塩水中に沈め、縫合部から空気が漏れ出た時の圧と定義した。結果を図16Dに示す。
図16Dより、縫合後5日目にはコントール群のBurst pressureは164.6mmHgだったのに対して、乾燥細胞シート群のBurst pressureは221.7mmHgであった。したがって、乾燥細胞シートを移植することによって、縫合部が補強されていることが確認された。
・縫合部の組織学的評価
術後3日目と5日目に採取した食道をAzan染色で評価した。Azan染色の標本において、縫合部を中心にして3000μm(前後1500μmずつ)の範囲でImageJソフトを用いてRGBに分離してBlueの領域(Azan染色陽性:膠原繊維)の面積を求めた。Azan染色の写真を図16Eに、Azan染色陽性の面積を図16Fに示す。図16E中、矢印は縫合した部位を示し、図の上側が粘膜側(内腔側)である。
図16E、Fより、コントロールと比較して、乾燥細胞シート群(Dry)のDay5には膠原線維が縫合部に多くあり、膠原線維によって縫合部の組織を補強していることが確認された。
・縫合部の遺伝子発現解析
術後3日目と5日目に採取した食道の縫合部において発現している遺伝子を評価した。縫合部を中心に食道を3mm切り出し、組織からRNase Miniキット(Qiagen社)を用いてtotal RNA抽出し、nanodrop(Thermo Fisher Scientific社)を用いて定量した後、PrimeScript Reverse Transcriptase(タカラバイオ社)でcDNAを合成し、逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)を行った。PCRは、SYBRTM Select Master Mix(Thermo Fisher Scientific社)及びStepOnePlusTM(Thermo Fisher Scientific社)を用いて実施した。PCRは50℃ 2分、95℃ 2分、95℃ 3秒、60℃ 30秒の40サイクルで行った。すべての反応は10μLの反応容量で三重測定により行った。mRNA発現量は2-ΔCT法で測定した。測定項目は、コラーゲンタイプI(COL1)、コラーゲンタイプIII(COL3)、VEGFとした。内在性コントロールとしてβ-アクチンを用いて補正した。結果を図16Gに示し、用いたプライ-マーを表2に示す。
図16Gより、乾燥細胞シート群ではDay3、Day5共にコントロールと比較してコラーゲンI及びIIIの発現が高い傾向があった。また、VEGFの発現も特にDay3で発現が高い傾向があった。したがって、乾燥細胞シート群は縫合部の創傷治癒を促進していることが確認された。
上記図16A~16Gにおける組織学的及び機能学的評価により、上記乾燥細胞シートは創傷治癒の促進及び膠原繊維の増生を促して縫合部の組織を補強し、縫合不全の発生を予防することが明らかになった。
[実施例17]
生体内に乾燥細胞シートを用いるには、乾燥細胞シート自体の安全性を検討する必要がある。また、乾燥細胞シートは細胞膜が損傷した死細胞であるため、成長因子以外にも、ダメージ関連分子パターン(DAMPs)を代表するHMGB1を放出する。ここで、HMGB1は自然免疫系を介して炎症を促進するため、強い炎症を引き起こし、遷延する可能性が懸念される。そこで、生体組織の物理的補強を目的として広く外科手術において使用される不織布シートと共に、マウスの皮下組織下への乾燥細胞シートを移植した場合の炎症反応や組織学的評価を行った。
<生体内での炎症反応>
乾燥細胞シート群(n=3)としては、実施例5で作製した他家(雄のC3H / Heマウス(他家/同種異系)から単離した線維芽細胞による乾燥細胞シートを用いた。また、不織布シート群(n=3)としては、ポリグリコール酸(PGA)不織布シート(商品名「ネオベール ナノ(登録商標)D5タイプ」:グンゼ社)を用いた。それぞれのシートをC57BL/6マウス皮下組織下(皮筋と骨格筋の間)に移植した。コントロール群(n=3)としてはシートの移植はなく、一旦皮下組織を剥離後、再びそのまま戻す施術を行った。
次に、移植後12、24、48、72時間にMPO活性検出試薬(IVISbrite MPO 425:PerkinElmer社)を腹腔内投与し、IVIS SpectrumBL(PerkinElmer社)で、投与5分後から5分間露光させ、MPO活性による発光を検出した。さらに、Living Image 4.7.3 Softwareでデータを解析し、シート移植部位のMPO活性を比較した。in vivoイメージング解析の結果を図17Aに、MPO活性を調べた結果を図17Bに示す。
図17A、図17Bより、他家の乾燥細胞シート(Dry)に対する炎症反応は弱く、炎症が早期に消退した。一方、PGA不織布シート(PGA)に対する炎症反応は強く、48時間後には低下したが、弱い炎症反応が持続していた。
<シート移植後の組織学的評価>
乾燥細胞シート(C3H/He)移植群(Dry)、PGAシート移植群(PGA)、Control群の3群に分けて、C57BL/6マウスの皮下にシートを移植した。移植後1、3、7、14、21日後に組織を採取し、組織標本とした。各標本のHE染色および免疫染色(MPO:活性化好中球、F4/80:成熟マクロファージ)で比較検討した。各標本のHE染色及び免疫染色の結果を図17Cに示す。
図17Cより、乾燥細胞シートを移植した場合の移植直後の好中球性炎症は弱く、マクロファージによって緩やかに分解を受けることが組織学的に示唆された。そのため、生体内に乾燥細胞シートを移植しても有害な副作用はないと考えられる。なお、PGAシートを用いた場合には12時間後に強い炎症反応が見られ、さらに3日目以降にはマクロファージやマクロファージが融合して形成される異物巨細胞がみられ、乾燥細胞シートを用いた場合と比較して生体内での異物反応が強いことが確認された。
本発明は、細胞シートが適用される創傷治癒、手術部位の組織の補強や、移植分野、生体移植医療分野に利用可能である。

Claims (10)

  1. 生体から採取されたFGF-2発現細胞を培養基材上で培養して細胞シートを得る工程(a);及び
    前記工程(a)で得られた細胞シートを構成する細胞の増殖能が失われるまで前記細胞シートを乾燥処理する工程(b);
    によって作製された乾燥細胞シートであって、
    前記工程(b)の乾燥処理によって得られた乾燥細胞シートを溶液に24時間浸漬させた場合の前記溶液における総タンパク質1μgあたりのFGF-2の量が、5pg/μg以上であることを特徴とする、前記乾燥細胞シート。
  2. 工程(a)で培養する細胞が、線維芽細胞、間葉系幹細胞、多能性幹細胞、筋芽細胞、末梢血単核球、角膜上皮細胞、網膜細胞、心筋細胞、血管内皮細胞、肝細胞、膵細胞、グリア細胞、平滑筋細胞、軟骨細胞及び滑膜細胞から選択される1又は2種以上の細胞であることを特徴とする、請求項1に記載の乾燥細胞シート。
  3. 工程(a)で培養する細胞が、線維芽細胞、間葉系幹細胞、多能性幹細胞、筋芽細胞、末梢血単核球、角膜上皮細胞、網膜細胞、心筋細胞、血管内皮細胞、肝細胞、膵細胞、グリア細胞、平滑筋細胞、軟骨細胞及び滑膜細胞から選択される1種のみの細胞であることを特徴とする、請求項1に記載の乾燥細胞シート。
  4. 乾燥処理後の厚さが15μm以上の積層化乾燥細胞シートであることを特徴とする、請求項1~3のいずれかに記載の乾燥細胞シート。
  5. 工程(a)において、培養基材上で培養して得られた細胞シートを、前記培養基材から剥離した後に、細胞の増殖能が失われるまで乾燥させることを特徴とする、請求項1~3のいずれかに記載の乾燥細胞シート。
  6. 創傷の被覆若しくは手術部位の組織の補強に使用される、請求項1~3のいずれかに記載の乾燥細胞シート。
  7. 生体内の創傷の被覆若しくは生体内の手術部位の組織の補強に使用される、請求項6に記載の乾燥細胞シート。
  8. 生体内の手術によって生じた肺切除時の気管支断端、消化管吻合時の吻合部、肝若しくは膵切離時の断端の補強に使用される、請求項7に記載の乾燥細胞シート。
  9. 生体から採取されたFGF-2発現細胞を培養基材上で培養して細胞シートを得る工程(a);及び
    前記工程(a)で得られた細胞シートを構成する細胞の増殖能が失われるまで前記細胞シートを乾燥処理する工程(b);
    を備えた乾燥細胞シートの作製方法であって、
    前記工程(b)の乾燥処理によって得られた乾燥細胞シートを溶液に24時間浸漬させた場合の前記溶液における総タンパク質1μgあたりのFGF-2の量が、5pg/μg以上であることを特徴とする、前記方法。
  10. 工程(a)で培養する細胞が、線維芽細胞、間葉系幹細胞、多能性幹細胞、筋芽細胞、末梢血単核球、角膜上皮細胞、網膜細胞、心筋細胞、血管内皮細胞、肝細胞、膵細胞、グリア細胞、平滑筋細胞、軟骨細胞及び滑膜細胞から選択される1又は2種以上の細胞であることを特徴とする、請求項9に記載の乾燥細胞シートの作製方法。
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