JP2023157339A - 化合物の製造方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】特定化合物を高効率で生産できる化合物の製造方法を提供する。【解決手段】本発明の化合物の製造方法は、溶媒及び触媒の存在下、第1ハロゲン化合物及び第2ハロゲン化合物をハロゲン交換反応させることで特定化合物を生成する反応工程を備える。前記触媒は、無水ハロゲン化アルミニウムを含む。前記第1ハロゲン化合物は、ハロゲン化シラン化合物及びハロゲン化ジシラン化合物のうち少なくとも1つを含む。前記第2ハロゲン化合物及び前記特定化合物は、前記第2ハロゲン化合物がヨウ素化剤を含み、かつ前記特定化合物がヨードシラン化合物及びヨードジシラン化合物のうち少なくとも1つを含む第1の組み合わせ、又は前記第2ハロゲン化合物が臭素化剤を含み、かつ前記特定化合物がブロモシラン化合物及びブロモジシラン化合物のうち少なくとも1つを含む第2の組み合わせである。【選択図】なし

Description

本発明は、化合物の製造方法に関する。
ヨードシラン化合物、ヨードジシラン化合物、ブロモシラン化合物、及びブロモジシラン化合物(以下、特定化合物と総称することがある)は、半導体製造の際、CVD法(化学気相成長法)やALD法(原子層堆積法)の原料として広く使用されている。特定化合物を用いてCVD法又はALD法を行うことにより、窒化珪素等のケイ素含有膜を形成することができる。
特定化合物の中でも、ジヨードシラン、トリヨードシラン、トリヨードジシラン、ジブロモシラン、トリブロモシラン、及びトリブロモジシランは、反応性が高く、適度な蒸気圧を有するため、近年特に需要が高まっている。
特定化合物の製造方法としては、様々な方法が知られているが、いわゆるフィンケルシュタイン反応を利用した製造方法が最も一般的である。フィンケルシュタイン反応を利用したヨードシラン化合物又はヨードジシラン化合物の製造方法では、クロロシラン化合物又はクロロジシラン化合物と、ヨウ素化剤(例えば、ヨウ化物塩)とでハロゲン交換反応を行う。これにより、クロロシラン化合物又はクロロジシラン化合物と、ヨウ素化剤との間でハロゲン原子の交換を伴うSN2反応(求核置換二分子反応)が生じ、ヨードシラン化合物又はヨードジシラン化合物が生成する。なお、ハロゲン交換反応は、基本的に平衡反応である。そのため、上述の製造方法では、ハロゲン化物塩(ヨウ化物塩又は塩化物塩)の溶解度差を利用した反応系を構築するか、又は過剰量のヨウ化物塩を使用することにより、ヨードシラン化合物又はヨードジシラン化合物の生成を促進させることができる。フィンケルシュタイン反応を利用した特定化合物の製造方法の一例として、特許文献1に記載の方法が挙げられる。
米国特許第10,384,944号明細書
しかしながら、上述の製造方法の反応効率は、工業的に十分に満足できるレベルではない。
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、特定化合物を高効率で生産できる化合物の製造方法を提供することにある。
本発明の化合物の製造方法は、溶媒及び触媒の存在下、第1ハロゲン化合物及び第2ハロゲン化合物をハロゲン交換反応させることで特定化合物を生成する反応工程を備える。前記触媒は、無水ハロゲン化アルミニウムを含む。前記第1ハロゲン化合物は、ハロゲン化シラン化合物及びハロゲン化ジシラン化合物のうち少なくとも1つを含む。前記第2ハロゲン化合物及び前記特定化合物は、前記第2ハロゲン化合物がヨウ素化剤を含み、かつ前記特定化合物がヨードシラン化合物及びヨードジシラン化合物のうち少なくとも1つを含む第1の組み合わせ、又は前記第2ハロゲン化合物が臭素化剤を含み、かつ前記特定化合物がブロモシラン化合物及びブロモジシラン化合物のうち少なくとも1つを含む第2の組み合わせである。
本発明の化合物の製造方法は、特定化合物を高効率で生産できる。
本明細書において、Me、Et及びPhは、それぞれ、メチル基、エチル基及びフェニル基を表す。H、Al、Si、Cl、Br、I、Li、Na及びKは、それぞれ、水素原子、アルミニウム原子、ケイ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、リチウム原子、ナトリウム原子及びカリウム原子を表す。
本明細書において、ハロゲン化シラン化合物とは、化学式「Si-Q4」で表される化合物である。Qは、水素原子、ハロゲン原子、又はハロゲン原子以外の1価の基(例えば、ヒドロカルビル基)である。4つのQは、互いに同一でも異なっていてもよい。但し、少なくとも1つのQは、ハロゲン原子を表す。クロロシラン化合物とは、上述の化学式「Si-Q4」で表される化合物であって、少なくとも1つのQが塩素原子を表す化合物である。ヨードシラン化合物とは、上述の化学式「Si-Q4」で表される化合物であって、少なくとも1つのQがヨウ素原子を表す化合物である(但し、クロロシラン化合物に該当する化合物を除く)。ブロモシラン化合物とは、上述の化学式「Si-Q4」で表される化合物であって、少なくとも1つのQが臭素原子を表す化合物である(但し、クロロシラン化合物又はヨードシラン化合物に該当する化合物を除く)。
ハロゲン化ジシラン化合物とは、化学式「Si2-Q6」で表される化合物である。Qは、水素原子、ハロゲン原子、又はハロゲン原子以外の1価の基(例えば、ヒドロカルビル基)である。6つのQは、互いに同一でも異なっていてもよい。但し、少なくとも1つのQは、ハロゲン原子を表す。クロロジシラン化合物とは、上述の化学式「Si2-Q6」で表される化合物であって、少なくとも1つのQが塩素原子を表す化合物である。ヨードジシラン化合物とは、上述の化学式「Si2-Q6」で表される化合物であって、少なくとも1つのQがヨウ素原子を表す化合物である(但し、クロロジシラン化合物に該当する化合物を除く)。ブロモジシラン化合物とは、上述の化学式「Si2-Q6」で表される化合物であって、少なくとも1つのQが臭素原子を表す化合物である(但し、クロロジシラン化合物又はヨードジシラン化合物に該当する化合物を除く)。
以下、本発明の実施形態について、説明する。但し、本発明は、実施形態に何ら限定されず、本発明の目的の範囲内で適宜変更を加えて実施できる。本発明の実施形態において説明する各材料は、特に断りのない限り、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。但し、反応を正確にコントロールする観点、及び副生成物の発生を抑制する観点から、第1ハロゲン化合物及び第2ハロゲン化合物は、1種単独で用いることが好ましい。
<化合物の製造方法>
本発明の実施形態に係る化合物の製造方法を説明する。本発明の化合物の製造方法は、溶媒及び触媒の存在下、第1ハロゲン化合物及び第2ハロゲン化合物をハロゲン交換反応させることで特定化合物を生成する反応工程を備える。触媒は、無水ハロゲン化アルミニウムを含む。第1ハロゲン化合物は、ハロゲン化シラン化合物及びハロゲン化ジシラン化合物のうち少なくとも1つを含む。第2ハロゲン化合物及び特定化合物は、第2ハロゲン化合物がヨウ素化剤を含み、かつ特定化合物がヨードシラン化合物及びヨードジシラン化合物のうち少なくとも1つを含む第1の組み合わせ、又は第2ハロゲン化合物が臭素化剤を含み、かつ特定化合物がブロモシラン化合物及びブロモジシラン化合物のうち少なくとも1つを含む第2の組み合わせである。なお、第1の組み合わせは、ヨウ素化反応を行う組み合わせである。第2の組み合わせは、臭素化反応を行う組み合わせである。
本発明の発明者は、フィンケルシュタイン反応を利用した特定化合物の製造方法の改良について鋭意検討を行った。その結果、発明者は、公知の反応系において、触媒として無水ハロゲン化アルミニウムを添加したところ、温和な条件においても反応速度が顕著に増大し、工業的に実用的な生産効率で特定化合物を製造できることを発見した。無水ハロゲン化アルミニウムは、安価かつ安定的に入手できる化合物である。本発明は、このような無水ハロゲン化アルミニウムによって特定化合物の生産効率を向上できるため、工業的な有用性が高い。また、発明者は、無水ハロゲン化アルミニウムを用いたフィンケルシュタイン反応は、Si-H結合及びSi-Si結合には影響をほとんど与えないため、好ましくない副生成物の発生を抑制できることを発見した。更に、発明者は、無水ハロゲン化アルミニウムを用いたフィンケルシュタイン反応は、広範なシラン化合物の合成に適用できることを発見した。本発明は、上述の知見に基づくものである。
[反応工程]
本工程では、第1ハロゲン化合物の有するハロゲン原子(例えば、Cl)と、第2ハロゲン化合物の有するハロゲン原子(I又はBr)とが置換される。その結果、特定化合物が生成される。本工程で第2ハロゲン化合物としてヨウ素化剤を用いた場合、特定化合物としてヨードシラン化合物又はヨードジシラン化合物が得られる(ヨウ素化反応)。第2ハロゲン化合物として臭素化剤を用いた場合、特定化合物としてブロモシラン化合物又はブロモジシラン化合物が得られる(臭素化反応)。
本工程の具体的方法としては、例えば、第1ハロゲン化合物及び第2ハロゲン化合物を溶媒に溶解させる第1工程と、第1工程で得られた反応液に触媒を添加する第2工程と、触媒添加後の反応液を攪拌することで反応させる第3工程とを備える。第1工程及び第2工程は、第1ハロゲン化合物の加水分解を抑制するため、乾燥大気下で行うことが好ましい。同様の理由から、溶媒は脱水処理を予め行っておくことが好ましい。第3工程は、特定化合物の揮発及び加水分解を抑制するため、密閉容器内で行うことが好ましい。なお、第3工程後、反応液の溶媒を除去してもよい。また、得られた特定化合物に対して、精製を行ってもよい。溶媒の除去及び精製の具体的方法については、公知の方法を採用できる。
本工程において、反応温度としては、30℃以上65℃以下が好ましく、40℃以上60℃以下がより好ましい。反応温度を30℃以上とすることで、反応を促進することができる。反応温度を65℃以下とすることで、特定化合物の分解を抑制できる。
本工程では、反応時間を長くするほど収率を向上できる一方で、過度に反応時間を長くすると生産効率が低下する。そのため、反応時間としては、2時間以上120時間以下が好ましく、24時間以上48時間以下がより好ましい。
第1ハロゲン化合物、第2ハロゲン化合物及び特定化合物は、第1ハロゲン化合物が下記一般式(1)で表され、第2ハロゲン化合物が下記一般式(3)で表され、特定化合物が下記一般式(4)で表される第3の組み合わせ、又は第1ハロゲン化合物が下記一般式(2)で表され、第2ハロゲン化合物が下記一般式(3)で表され、特定化合物が下記一般式(5)で表される第4の組み合わせが好ましい。
nSiR(4-n-m)Clm・・・(1)
pSi2(6-p-q)Clq・・・(2)
MX・・・(3)
nSiR(4-n-m)m・・・(4)
pSi2(6-p-q)q・・・(5)
一般式(1)~(5)において、Rは、炭素原子数1以上6以下のヒドロカルビル基を表す。nは、0以上3以下の整数を表す。mは、1以上4以下の整数を表す。n+mは、1以上4以下の整数である。pは、0以上5以下の整数を表す。qは、1以上6以下の整数を表す。p+qは、1以上6以下の整数である。Mは、アルカリ金属原子又はNH4を表す。Xは、I又はBrを表す。
なお、一般式(1)において、「4-n-m」が2以上の整数を表す場合、複数のRは、それぞれ同一でもよく、異なっていてもよい。同様に、一般式(2)において、「6-p-q」が2以上の整数を表す場合、複数のRは、それぞれ同一でもよく、異なっていてもよい。一般式(4)において、「4-n-m」が2以上の整数を表す場合、複数のRは、それぞれ同一でもよく、異なっていてもよい。一般式(5)において、「6-p-q」が2以上の整数を表す場合、複数のRは、それぞれ同一でもよく、異なっていてもよい。一般式(4)において、mが2以上の整数を表す場合、複数のXは、それぞれ同一でもよく、異なっていてもよい。一般式(5)において、qが2以上の整数を表す場合、複数のXは、それぞれ同一でもよく、異なっていてもよい。
ヒドロカルビル基とは、炭化水素基から1個の水素原子を除いた基をいう。ヒドロカルビル基としては、例えば、アルキル基、シクロアルキル基、フェニル基、アルケニル基、シクロアルケニル基及びアルキニル基が挙げられる。アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基及びヘキシル基が挙げられる。シクロアルキル基としては、例えば、シクロペンチル基及びシクロヘキシル基が挙げられる。アルケニル基としては、例えば、ビニル基及びプロぺニル基が挙げられる。シクロアルケニル基としては、例えば、シクロペンテニル基及びシクロヘキセニル基が挙げられる。アルキニル基としては、例えば、エチニル基が挙げられる。ヒドロカルビル基としては、メチル基又はエチル基が好ましい。
Mで表されるアルカリ金属原子としては、Li、Na又はKが好ましい。Mは、Li、Na又はNH4を表すことが好ましい。
[第1ハロゲン化合物]
第1ハロゲン化合物は、ハロゲン化シラン化合物及びハロゲン化ジシラン化合物のうち少なくとも1つを含む。第1ハロゲン化合物の分子量は、例えば、300以下である。第1ハロゲン化合物は、本工程における原料化合物のうちの1つである。
本工程において、反応液中の第1ハロゲン化合物の使用量としては、100.0mM以上20000.0mM以下が好ましく、300.0mM以上1200.0mM以下がより好ましい。
第1ハロゲン化合物としては、クロロシラン化合物又はクロロジシラン化合物が好ましく、一般式(1)又は(2)で表される化合物がより好ましい。一般式(1)で表される化合物は、クロロシラン化合物である。一般式(2)で表される化合物は、クロロジシラン化合物である。
一般式(1)で表されるクロロシラン化合物としては、例えば、クロロシラン(H3SiCl)、ジクロロシラン(H2SiCl2)、トリクロロシラン(HSiCl3)、テトラクロロシラン(SiCl4)、クロロ(メチル)シラン(H2SiMeCl)、クロロ(エチル)シラン(H2SiEtCl)、クロロ(フェニル)シラン(H2SiPhCl)、ジクロロ(メチル)シラン(HSiMeCl2)、ジクロロ(エチル)シラン(HSiEtCl2)、ジクロロ(フェニル)シラン(HSiPhCl2)、トリクロロ(メチル)シラン(SiMeCl3)、トリクロロ(エチル)シラン(SiEtCl3)、トリクロロ(フェニル)シラン(SiPhCl3)、クロロ(ジメチル)シラン(HSiMe2Cl)、クロロ(ジエチル)シラン(HSiEt2Cl)、クロロ(メチル)(エチル)シラン(HSiMeEtCl)、及びクロロ(トリメチル)シラン(SiMe3Cl)が挙げられる。
一般式(2)で表されるクロロジシラン化合物としては、例えば、クロロジシラン(H5Si2Cl)、ジクロロジシラン(H4Si2Cl2)、トリクロロジシラン(H3Si2Cl3)、テトラクロロジシラン(H2Si2Cl4)、ペンタクロロジシラン(HSi2Cl5)、ヘキサクロロジシラン(Si2Cl6)、クロロ(メチル)ジシラン(H4Si2MeCl)、クロロ(エチル)ジシラン(H4Si2EtCl)、クロロ(フェニル)ジシラン(H4Si2PhCl)、ジクロロ(メチル)ジシラン(H3Si2MeCl2)、トリクロロ(メチル)ジシラン(H2Si2MeCl3)、テトラクロロ(メチル)ジシラン(HSi2MeCl4)、ペンタクロロ(メチル)ジシラン(Si2MeCl5)、クロロ(ジメチル)ジシラン(H3Si2Me2Cl)、クロロ(メチル)(エチル)ジシラン(H3Si2MeEtCl)、ジクロロ(ジメチル)ジシラン(H2Si2Me2Cl2)、クロロ(トリメチル)ジシラン(H2Si2Me3Cl)、クロロ(テトラメチル)ジシラン(HSi2Me4Cl)、及びクロロ(ペンタメチル)ジシラン(Si2Me5Cl)が挙げられる。
ここで、公知の特定化合物の製造において、H-Si結合を有する第1ハロゲン化合物を用いると、反応中にH-Si結合が開裂して好ましくない副生成物が生じる場合がある。これに対して、本発明の化合物の製造方法では、H-Si結合を有する第1ハロゲン化合物を用いた場合でも、H-Si結合の開裂を抑制できる。そのため、本発明の化合物の製造方法は、H-Si結合を有する特定化合物の製造方法として好適である。以上から、第1ハロゲン化合物を表す一般式(1)において、nは、1以上3以下の整数を表すことが好ましい。第1ハロゲン化合物を表す一般式(2)において、pは、1以上5以下の整数を表すことが好ましい。
同様に、公知の特定化合物の製造において、Si-Si結合を有する第1ハロゲン化合物(ハロゲン化ジシラン化合物)を用いると、反応中にSi-Si結合が開裂して好ましくない副生成物が生じる場合がある。副生成物の発生は、H-Si結合及びSi-Si結合の両方を有する第1ハロゲン化合物を用いた場合において顕著である。これに対して、本発明の化合物の製造方法では、H-Si結合及びSi-Si結合を有する第1ハロゲン化合物を用いた場合でも、H-Si結合及びSi-Si結合の開裂を何れも抑制できる。そのため、本発明の化合物の製造方法は、Si-Si結合を有する特定化合物の製造方法として好適であり、H-Si結合及びSi-Si結合の両方を有する特定化合物の製造方法として更に好適である。
第1ハロゲン化合物としては、H2SiCl2、HSiCl3、又はH3Si2Cl3(特に、H3Si-SiCl3)が好ましい。
[第2ハロゲン化合物]
第2ハロゲン化合物は、ヨウ素化剤及び臭素化剤のうち少なくとも1つを含む。第2ハロゲン化合物の分子量は、例えば、300以下である。第2ハロゲン化合物は、本工程における原料化合物のうちの1つである。
第2ハロゲン化合物としてヨウ素化剤を用いると、特定化合物として、ヨードシラン化合物又はヨードジシラン化合物が得られる。第2ハロゲン化合物として臭素化剤を用いると、特定化合物として、ブロモシラン化合物又はブロモジシラン化合物が得られる。
第2ハロゲン化合物としては、上述の通り、一般式(3)で表される化合物が好ましい。一般式(3)で表される化合物のうち、XがIを表す化合物は、ヨウ素化剤である。一般式(3)で表される化合物のうち、XがBrを表す化合物は、臭素化剤である。
第2ハロゲン化合物としては、例えば、NH4I、NH4Br、LiI、NaI、KI、LiBr、NaBr及びKBrが挙げられる。第2ハロゲン化合物及び特定化合物が上述の第1の組み合わせである場合(第2ハロゲン化合物がヨウ素化剤を含み、かつ特定化合物がヨードシラン化合物及びヨードジシラン化合物のうち少なくとも1つを含む場合)、ヨウ素化剤としては、NaIが好ましい。NaIは安価な化合物であるが、反応性が低いため、公知の特定化合物の製造方法では使用されていなかった。本発明は、NaIのように安価な化合物を用いてヨードシラン化合物又はヨードジシラン化合物を製造できるため、工業的な有用性が高い。
第2ハロゲン化合物及び特定化合物が上述の第2の組み合わせである場合(第2ハロゲン化合物が臭素化剤を含み、かつ特定化合物がブロモシラン化合物及びブロモジシラン化合物のうち少なくとも1つを含む場合)、臭素化剤としては、LiBrが好ましい。
本工程において、第2ハロゲン化合物の使用量としては、第1ハロゲン化合物においてケイ素原子に結合するハロゲン原子の総数を100モル%としたときに、100.0モル%以上1000.0モル%以下が好ましく、200.0モル%以上700.0モル%以下がより好ましく、300.0モル%以上500.0モル%以下が更に好ましい。理論上、第2ハロゲン化合物の使用量は、100.0モル%あれば十分である。しかし、第2ハロゲン化合物を過剰量使用することにより、反応速度を向上させることができる。
ここで、「第1ハロゲン化合物においてケイ素原子に結合するハロゲン原子の総数」の具体例について説明する。一例として、第1ハロゲン化合物としてクロロシラン(H3SiCl)を1モル使用する場合、第1ハロゲン化合物においてケイ素原子に結合するハロゲン原子(塩素原子)の総数は1モルである。そのため、この一例においては、1モル=100モル%となる。別の一例として、第1ハロゲン化合物としてトリクロロシラン(HSiCl3)を2モル使用する場合、第1ハロゲン化合物においてケイ素原子に結合するハロゲン原子(塩素原子)の総数は6モルである。そのため、この一例においては、6モル=100モル%となる。
本工程で、第2ハロゲン化合物は、自身の有するハロゲン原子を第1ハロゲン化合物に渡すと共に、第1ハロゲン化合物の有するハロゲン原子を自身で受け取る。反応後の第2ハロゲン化合物(第1ハロゲン化合物の有するハロゲン原子を受け取った後の第2ハロゲン化合物)は、溶媒に対して不溶化することが好ましい。このような第2ハロゲン化合物を用いることにより、反応系から反応後の第2ハロゲン化合物を除去することができ、その結果、化学平衡に到達して反応が停止することを抑制すると共に、副生成物の発生を抑制できる。
[特定化合物]
特定化合物は、本工程における反応生成物である。本工程では、第1ハロゲン化合物が有するハロゲン原子が第2ハロゲン化合物の有するヨウ素原子又は臭素原子で置換され、特定化合物が得られる。
なお、本工程において、2以上のハロゲン原子を有する第1ハロゲン化合物を用いた場合、特定化合物だけでなく、中間体が生じる場合がある。中間体は、第1ハロゲン化合物の有する2以上のハロゲン原子のうち、一部のハロゲン原子のみがヨウ素化又はフッ素化された化合物である。本工程では、特定化合物を得ることを主目的とするが、中間体についても一定の工業的価値がある。具体例を挙げて説明すると、第1ハロゲン化合物としてHSiCl3を用い、第2ハロゲン化合物としてヨウ素化剤を用いた場合、特定化合物であるHSiI3に加え、中間体であるHSiCl2I及びHSiClI2が得られる場合がある。本工程の反応時間を十分に確保することにより、中間体から特定化合物が生成されるため、中間体の生成量を減らすことができる。
[触媒]
触媒は、無水ハロゲン化アルミニウムを含む。上述の通り、フィンケルシュタイン反応を用いた特定化合物の製造方法において、無水ハロゲン化アルミニウムを触媒として用いることにより、高効率で特定化合物を製造できる。特に、触媒として無水物を用いることにより、第1ハロゲン化合物の加水分解反応を抑制できる。無水ハロゲン化アルミニウムとしては、無水塩化アルミニウム(AlCl3)、無水臭化アルミニウム(AlBr3)又は無水ヨウ化アルミニウム(AlI3)が好ましい。
特に、第2ハロゲン化合物及び特定化合物が第1の組み合わせである場合(即ち、本工程でヨウ素化反応を行う場合)、触媒としては、安価な化合物である無水塩化アルミニウムが好ましい。一方、第2ハロゲン化合物及び特定化合物が第2の組み合わせである場合(即ち、本工程で臭素化反応を行う場合)、触媒としては、反応性の観点から無水臭化アルミニウムが好ましい。
触媒の使用量としては、第1ハロゲン化合物においてケイ素原子に結合するハロゲン原子の総数を100モル%としたときに、0.1モル%以上50.0モル%以下が好ましく、1.0モル%以上10.0モル%以下がより好ましい。
[溶媒]
溶媒としては、副生成物の発生を抑制する観点から、非プロトン性溶媒が好ましい。非プロトン性溶媒としては、例えば、炭化水素化合物、芳香族炭化水素化合物、エーテル化合物、ケトン化合物、エステル化合物、塩素化炭化水素化合物、塩素化芳香族炭化水素化合物、アセトニトリル、N,N-ジメチルホルムアミド、及びジメチルスルホキシドが挙げられる。炭化水素化合物としては、例えば、ヘキサン、オクタン及びデカンが挙げられる。芳香族炭化水素化合物としては、例えば、トルエン、ベンゼン及びキシレンが挙げられる。エーテル化合物としては、例えば、ジエチルエーテル及びテトラヒドロフランが挙げられる。ケトン化合物としては、例えば、アセトンが挙げられる。エステル化合物としては、例えば、酢酸エチルが挙げられる。塩素化炭化水素化合物としては、例えば、ジクロロメタン及びクロロホルムが挙げられる。塩素化芳香族炭化水素化合物としては、例えば、クロロベンゼン及びジクロロベンゼンが挙げられる。溶媒としては、ヘキサンが好ましい。
以下、実施例を示して本発明を更に説明する。ただし、本発明は、実施例に限定されるものではない。なお、本実施例において、「モル%」とは、第1ハロゲン化合物においてケイ素原子に結合するハロゲン原子の総数を100モル%としたときのモル%を示す。
[GC-MS]
本実施例では、ガスクロマトグラフ質量分析計(株式会社島津製作所製「GCMS-QP2010Plus」及び株式会社島津製作所製「GCMS-QP2010Ultra」を組み合わせた装置)により、各化合物(第1ハロゲン化合物、特定化合物及び中間体)の量を測定した。詳細な条件を以下に示す。
・キャピラリーカラム:株式会社島津製作所製「SH-Rtx-1」(30m×0.32mmI.D.×1.00μm)
・キャリアガス:ヘリウム
・カラム内流量:1.94mL/分
・スプリット比:200
・サンプル注入量:5μL
・気化室温度:300℃
・検出方法:トータルイオンクロマトグラム(TIC)
<特定化合物の製造方法>
[実施例1]
450mL容量の円柱形のステンレス製密閉容器(以下、単に容器と記載する)に、マグネチックスターラー用スターラーバーを投入し、開封状態で75℃乾燥装置内に一晩投入した。これにより、容器及びスターラーバーを乾燥させた。
乾燥大気下において、容器に、脱水ヘキサン100.0mLと、第1ハロゲン化合物としてのトリクロロシラン5.0g(37.0mmol)と、第2ハロゲン化合物(ヨウ素化剤)としてのヨウ化リチウム49.4g(369.0mmol、332.4モル%)とを仕込んだ。次に、大気下において、容器に、触媒としての無水塩化アルミニウム1.0g(7.5mmol、6.8モル%)を更に加えた後、容器を密閉した。次に、容器を60℃に設定したオイルバス内に設置した。次に、マグネチックスターラーを用いてスターラーバーを回転させ、容器の内容物を攪拌させた。これにより、容器の内容物を反応させた(反応温度:60℃)。
1日後、オイルバスから容器を取り出し、内容物の温度が室温になるまで放冷させた(反応時間:1day)。次に、容器の内容物を加圧ろ過器(ADVANTEC社製)でろ過(圧力0.1MPa、PTFE製ろ紙使用、ろ過孔径0.2μm)した。得られたろ液をガラス瓶に移し、-18℃で保管した。
次に、上述のろ液に含まれる成分をGC-MSにて同定を行った。その結果、トリヨードシラン(特定化合物、HSiI3)がろ液に含まれることが確認された。上述の反応におけるトリヨードシランの収率は、62モル%であった。なお、上述のろ液には、反応せずに残留した第1ハロゲン化合物(HSiCl3)、第1の中間体であるHSiICl2、及び第2の中間体であるHSiI2Clも含まれていた。各化合物の収率は、HSiCl3が15モル%、HSiICl2が7モル%、HSiI2Clが17モル%であった。なお、上述のろ液には、副生成物(例えば、HSiCl3のSi-H結合が開裂することで生成した副生成物)は痕跡量レベルでしか確認されなかった。
本実施例において、「収率」とは、上述のろ液に含まれるシラン化合物又はジシラン化合物の全量を100モル%としたときの各化合物の比率を示す。なお、測定精度の都合上、ろ液に含まれる各化合物の収率の合計値は100モル%ではない場合がある。
[実施例2~6及び比較例1~4]
以下の点を変更した以外は、実施例1の特定化合物の製造方法と同様の操作により、実施例2~6及び比較例1~4の特定化合物の製造方法を行った。実施例2~6及び比較例1~4の特定化合物の製造方法では、使用する第1ハロゲン化合物、第2ハロゲン化合物及び触媒の種類及び量と、反応時間とを下記表1に示す通りに変更した。
下記表1に示す化合物の詳細は以下の通りである。
HSiCl3:トリクロロシラン(東京化成製)
3Si-SiCl3:1,1,1-トリクロロジシラン(自社合成品)
AlCl3:無水塩化アルミニウム(東京化成製)
AlI3:無水ヨウ化アルミニウム(東京化成製)
AlBr3:無水臭化アルミニウム(東京化成製)
LiI:ヨウ化リチウム(東京化成製)
LiBr:臭化リチウム(東京化成製)
Figure 2023157339000001
実施例1、2及び比較例1において、各化合物の収率を下記表2に示す。触媒として無水塩化アルミニウムを用いた実施例2では、2.5時間の反応時間により、第1ハロゲン化合物のうち41モル%が消費され、少量(3モル%)ではあるが特定化合物(HSiI3)が生成された。実施例1に示すように、実施例2において反応時間を十分に伸ばすと、高い収率(62モル%)で特定化合物が生成された。これに対して、触媒を用いなかった比較例1では、2.5時間の反応時間では、第1ハロゲン化合物のうち17モル%しか消費されず、特定化合物は全く生成されなかった。このことから、第1ハロゲン化合物のヨウ素化において、触媒として無水塩化アルミニウムを用いることで反応効率が大幅に向上することが確認された。
Figure 2023157339000002
実施例3、4及び比較例2において、各化合物の収率を下記表3に示す。実施例3及び4に示すように、触媒として無水塩化アルミニウム又は無水ヨウ化アルミニウムを用いることで、高い収率(89モル%又は86モル%)で特定化合物(H3Si-SiI3)が生成された。一方、触媒を用いなかった比較例2では、第1ハロゲン化合物のうち1モル%しか消費されず、特定化合物は1モル%しか生成されなかった。このことから、無水ハロゲン化アルミニウムは、様々な第1ハロゲン化合物のヨウ素化において有効であることが確認された。なお、表3では省略しているが、実施例3及び4では、テトラヨードシランと思われる化合物が少量生成された。
Figure 2023157339000003
実施例5及び比較例3において、各化合物の収率を下記表4に示す。実施例5に示すように、触媒として無水臭化アルミニウムを用いることで、第1ハロゲン化合物のうち95モル%が消費され、一定の収率(19モル%)で特定化合物(H3Si-SiBr3)が生成された。一方、触媒を用いなかった比較例3では、第1ハロゲン化合物のうち72モル%しか消費されず、特定化合物はごく少量(2モル%)しか生成されなかった。実施例5の合成反応は、反応時間の延長等の更なる最適化が必要であるが、少なくとも比較例3の合成反応よりは反応効率が顕著に高いことが確認できた。このことから、無水ハロゲン化アルミニウムは、臭素化の触媒としても有効であることが確認された。
Figure 2023157339000004
実施例6及び比較例4において、各化合物の収率を下記表5に示す。実施例6に示すように、触媒として無水臭化アルミニウムを用いることで、第1ハロゲン化合物のうち36モル%が消費され、一定の収率(14モル%)で特定化合物(HSiBr3)が生成された。一方、触媒を用いなかった比較例4では、第1ハロゲン化合物のうち6モル%しか消費されず、特定化合物は全く生成されなかった。実施例6は、反応時間の延長等の更なる最適化が必要であるが、少なくとも比較例4よりは反応効率が顕著に高いことが確認できた。このことから、無水ハロゲン化アルミニウムは、様々な第1ハロゲン化合物の臭素化において有効であることが確認された。
Figure 2023157339000005
以上の実施例1~6及び比較例1~4に示す通り、フィンケルシュタイン反応を利用した特定化合物の製造方法において、触媒として無水ハロゲン化アルミニウムを用いることにより、特定化合物の生成効率を大幅に向上できた。
本発明の化合物の製造方法は、半導体製造において有用な材料であるヨードシラン化合物、ヨードジシラン化合物、ブロモシラン化合物、及びブロモジシラン化合物を提供できる。

Claims (11)

  1. 溶媒及び触媒の存在下、第1ハロゲン化合物及び第2ハロゲン化合物をハロゲン交換反応させることで特定化合物を生成する反応工程を備え、
    前記触媒は、無水ハロゲン化アルミニウムを含み、
    前記第1ハロゲン化合物は、ハロゲン化シラン化合物及びハロゲン化ジシラン化合物のうち少なくとも1つを含み、
    前記第2ハロゲン化合物及び前記特定化合物は、
    前記第2ハロゲン化合物がヨウ素化剤を含み、かつ前記特定化合物がヨードシラン化合物及びヨードジシラン化合物のうち少なくとも1つを含む第1の組み合わせ、又は
    前記第2ハロゲン化合物が臭素化剤を含み、かつ前記特定化合物がブロモシラン化合物及びブロモジシラン化合物のうち少なくとも1つを含む第2の組み合わせである、化合物の製造方法。
  2. 前記無水ハロゲン化アルミニウムは、無水塩化アルミニウム、無水臭化アルミニウム、及び無水ヨウ化アルミニウムのうち少なくとも1つを含む、請求項1に記載の化合物の製造方法。
  3. 前記溶媒は、非プロトン性溶媒を含む、請求項1又は2に記載の化合物の製造方法。
  4. 前記第1ハロゲン化合物は、クロロシラン化合物及びクロロジシラン化合物のうち少なくとも1つを含む、請求項1又は2に記載の化合物の製造方法。
  5. 前記第1ハロゲン化合物、前記第2ハロゲン化合物及び前記特定化合物は、
    前記第1ハロゲン化合物が下記一般式(1)で表され、
    前記第2ハロゲン化合物が下記一般式(3)で表され、
    前記特定化合物が下記一般式(4)で表される第3の組み合わせ、又は
    前記第1ハロゲン化合物が下記一般式(2)で表され、
    前記第2ハロゲン化合物が下記一般式(3)で表され、
    前記特定化合物が下記一般式(5)で表される第4の組み合わせである、請求項1又は2に記載の化合物の製造方法。
    nSiR(4-n-m)Clm・・・(1)
    pSi2(6-p-q)Clq・・・(2)
    MX・・・(3)
    nSiR(4-n-m)m・・・(4)
    pSi2(6-p-q)q・・・(5)
    (前記一般式(1)~(5)において、
    Rは、炭素原子数1以上6以下のヒドロカルビル基を表し、
    nは、0以上3以下の整数を表し、
    mは、1以上4以下の整数を表し、
    n+mは、1以上4以下の整数であり、
    pは、0以上5以下の整数を表し、
    qは、1以上6以下の整数を表し、
    p+qは、1以上6以下の整数であり、
    Mは、アルカリ金属原子又はNH4を表し、
    Xは、I又はBrを表す。)
  6. 前記一般式(3)において、Mは、Li、Na又はNH4を表す、請求項5に記載の化合物の製造方法。
  7. 前記一般式(1)において、nは、1以上3以下の整数を表し、
    前記一般式(2)において、pは、1以上5以下の整数を表す、請求項5に記載の化合物の製造方法。
  8. 前記第1ハロゲン化合物は、H2SiCl2、HSiCl3、及びH3Si2Cl3のうち少なくとも1つを含む、請求項7に記載の化合物の製造方法。
  9. 前記第2ハロゲン化合物及び前記特定化合物は、前記第2の組み合わせであり、
    前記無水ハロゲン化アルミニウムは、前記無水臭化アルミニウムを含む、請求項2に記載の化合物の製造方法。
  10. 前記第2ハロゲン化合物及び前記特定化合物は、前記第2の組み合わせであり、
    前記臭素化剤は、LiBrを含む、請求項1又は2に記載の化合物の製造方法。
  11. 前記第1ハロゲン化合物においてケイ素原子に結合するハロゲン原子の総数を100モル%としたときに、前記触媒の使用量は、0.1モル%以上50.0モル%以下である、請求項1又は2に記載の化合物の製造方法。
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