JP2023156702A - プレキャスト型枠を用いたコンクリート構造物及びその構築方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】せん断補強筋の配筋作業を簡略化し、せん断補強筋を適切なかぶり厚さに設置し、プレキャスト型枠の設置を容易化する。【解決手段】コンクリート構造物1は、間隔を空けて互いに平行して配置される複数の鋼材4と、鋼材4に支持されるとともに、鋼材4の軸方向に間隔を空けて配置される複数のせん断補強筋5と、鋼材4に支持されるとともに、せん断補強筋5及び鋼材4を囲むように配置される複数のプレキャスト型枠2と、プレキャスト型枠2によって囲まれた空間に充填されるコンクリートとからなる。鋼材4に、プレキャスト型枠2から所定の離隔距離をおいた位置でせん断補強筋5を支持可能な掛止部12が備えられており、かつプレキャスト型枠2に設けられた突起部11が嵌合することによりプレキャスト型枠2を支持可能な嵌合穴10備えられている。【選択図】図7
Description
本発明は、複数のプレキャストパネルを埋設型枠として用いるとともに、このプレキャスト型枠の内側にせん断補強筋が配筋されたプレキャスト型枠を用いたコンクリート構造物及びその構築方法に関する。
従来より、コンクリート構造物の構築方法は、主筋及びせん断補強筋を配筋し、その外周に型枠を設置した後、型枠内にコンクリートを打設し、硬化後に脱型するという手順で行われていた。
かかる構築方法において、前記型枠として、プレキャストコンクリート製の埋設型枠(プレキャスト型枠)を用いることにより、現場打ちコンクリートの型枠取り外し作業を省略して、施工速度や施工コストを大幅に改善した施工方法が知られている。前記プレキャスト型枠は、コンクリート打設後も取り外すことなく、構造物の一部として使用されものであり、高強度モルタルやコンクリート等で形成される。
前記プレキャスト型枠は、大型のプレキャストパネルを、クレーン等の重機で吊り下げて設置していたが、近年では、重機を不要とし、省力化を図ることなどを目的として、人力で運搬が可能な小型のプレキャストパネルが多用されつつある。
小型のプレキャスト型枠を用いた施工において、プレキャスト型枠を複数設置して組み立てる際、型枠の固定方法や型枠同士の連結方法が問題となる。かかる固定や連結の手段の一例として、下記特許文献1には、下側の壁面構築用型枠パネルの上側に設けられたフックに、連結固定具の連結部材の下側部分を係合させ、上側の壁面構築用型枠パネルの下側に設けられたフックに連結固定具の連結部材の上側部分を係合させるとともに、連結固定具のセパレーターの他端側を構築される擁壁の内側に予め立設させた支柱アングルに固定する方法が開示されている。
また、上述のコンクリート構造物の構築手順において、従来では、前記主筋及びせん断補強筋の配筋は、段取り筋などに仮止めしながら組み立てる方法が採られていた。このような配筋作業の負担軽減などのため、下記特許文献2には、せん断補強筋の配置を規定する補強筋配置ガイドを形成することが開示されている。
しかしながら、プレキャスト型枠の組立てにおいて、上記特許文献1に記載のパネル同士の連結手段では、連結固定具をそれぞれのパネルに設けられたフックに係合させる必要があるところ、既設構造物の外周をコンクリートで補強する補強構造などにおいては、狭隘な空間内での作業となるため、作業性が悪く、より簡易な固定手段が望まれていた。
また、せん断補強筋の配筋は、従来では、前述のように、せん断補強筋を結束線で段取り筋等に結束することにより行われていたが、せん断補強筋を段取り筋に結束する作業に手間がかかるという問題があった。
更に、上記特許文献2に記載された補強筋配置ガイドは、せん断補強筋の配筋間隔と同じ間隔に設けられた突出片を目印として、せん断補強筋が所定の配筋間隔で配筋できるようにしたものであるが、せん断補強筋を適正なかぶり厚さに保持する機能は無く、確実に規定のかぶり厚さを確保することは容易ではなかった。
そこで本発明の主たる課題は、せん断補強筋の配筋作業が簡略化できるとともに、せん断補強筋が適切なかぶり厚さを確保でき、かつプレキャスト型枠を容易に設置できるようにしたプレキャスト型枠を用いたコンクリート構造物及びその施工方法を提供することにある。
前記課題を解決するために請求項1に係る本発明として、間隔を空けて互いに平行して配置される複数の鋼材と、前記鋼材に支持されるとともに、前記鋼材の軸方向に間隔を空けて配置される複数のせん断補強筋と、前記鋼材に支持されるとともに、前記せん断補強筋及び鋼材を囲むように配置される複数のプレキャスト型枠と、前記プレキャスト型枠によって囲まれた空間に充填されるコンクリートとからなり、
前記鋼材に、前記プレキャスト型枠から所定の離隔距離をおいた位置で前記せん断補強筋を支持可能な掛止部が備えられるとともに、前記プレキャスト型枠に設けられた突起部が嵌合することにより前記プレキャスト型枠を支持可能な嵌合穴が備えられていることを特徴とするプレキャスト型枠を用いたコンクリート構造物が提供される。
前記鋼材に、前記プレキャスト型枠から所定の離隔距離をおいた位置で前記せん断補強筋を支持可能な掛止部が備えられるとともに、前記プレキャスト型枠に設けられた突起部が嵌合することにより前記プレキャスト型枠を支持可能な嵌合穴が備えられていることを特徴とするプレキャスト型枠を用いたコンクリート構造物が提供される。
上記請求項1記載の発明は、複数のプレキャストパネルを埋設型枠として用いるとともに、このプレキャスト型枠の内側にせん断補強筋を配筋したコンクリート構造物であって、これらプレキャスト型枠及びせん断補強筋を一体に支持する鋼材が備えられている。
前記せん断補強筋を鋼材に支持するには、鋼材に備えられた掛止部にせん断補強筋を掛止する。前記掛止部は、前記プレキャスト型枠から所定の離隔距離をおいた位置で、せん断補強筋が支持できるようになっているため、前記掛止部にせん断補強筋を引っ掛けるだけで配筋作業が完了し、配筋作業の大幅な簡略化が可能になるとともに、せん断補強筋に対するコンクリートのかぶり厚さが常に一定になり、確実に適切なかぶり厚さを確保することができる。
また、前記プレキャスト型枠を鋼材に支持するには、前記プレキャスト型枠に設けられた突起部を、前記鋼材に形成された嵌合穴に嵌合する。このように、プレキャスト型枠の突起部を鋼材の嵌合穴に嵌合するだけで、プレキャスト型枠の設置が完了し、プレキャスト型枠の設置作業が簡略化できる。
請求項2に係る本発明として、前記掛止部は、前記鋼材に形成された切込み部によって構成されている請求項1記載のプレキャスト型枠を用いたコンクリート構造物が提供される。
上記請求項2記載の発明は、前記せん断補強筋を前記鋼材に支持する掛止部の一実施形態例であり、前記鋼材に前記せん断補強筋が掛止可能な切込み部を形成したものである。この切込み部にせん断補強筋を挿入することにより、せん断補強筋が鋼材の所定の位置に支持される。この切込み部は、先端を下方側に屈折させた略L字形に形成することにより、下方側への屈折部にせん断補強筋を入り込ませて、配筋位置がより確実に固定できるようにするのが好ましい。
請求項3に係る本発明として、前記掛止部は、前記鋼材に突設されたフック部によって構成されている請求項1記載のプレキャスト型枠を用いたコンクリート構造物が提供される。
上記請求項3記載の発明は、前記せん断補強筋を前記鋼材に支持する掛止部の変形例であり、前記鋼材に前記せん断補強筋が掛止可能なフック部を突設したものである。このフック部にせん断補強筋を引っ掛けることにより、せん断補強筋が鋼材の所定の位置に支持される。
請求項4に係る本発明として、前記鋼材は、一端が前記鋼材に固定され、他端が前記プレキャスト型枠によって囲まれた空間内に設けられた構造物若しくは鉄骨材又は該鋼材に対向して配置された鋼材に固定された固定部材によって固定されている請求項1~3いずれかに記載のプレキャスト型枠を用いたコンクリート構造物が提供される。
上記請求項4記載の発明では、前記鋼材を所定の位置で固定するため、一端が鋼材に固定され、他端が所定の部位に固定された固定部材を用いている。この固定部材の他端の固定方法は、構築するコンクリート構造物が既設構造物の補強構造であるか、新設構造物であるかによって異なり、既設構造物の補強構造の場合は、既設構造物にインサートなどによって埋設され、新設構造物の場合は、プレキャスト型枠によって囲まれた空間内に設けられた鉄骨材、又は当該鋼材に対向して配置された鋼材などに固定される。
請求項5に係る本発明として、前記鋼材の軸方向と直交する方向に隣り合う前記プレキャスト型枠同士の目地部に沿って、前記鋼材が配置されている請求項1~4いずれかに記載のプレキャスト型枠を用いたコンクリート構造物が提供される。
上記請求項5記載の発明では、各鋼材が鋼材の軸方向と直交する方向に隣り合う2つのプレキャスト型枠の接続部を支持することで、プレキャスト型枠同士の目地部に沿って前記鋼材が配置されている。これによって、目地部が鋼材によって補強されるとともに、この鋼材が配置された目地部からのコンクリートの漏れ出しが防止できる。
請求項6に係る本発明として、上記請求項1~5いずれかに記載のプレキャスト型枠を用いたコンクリート構造物の構築方法であって、
所定の位置に前記鋼材を設置する第1ステップと、
前記鋼材に前記せん断補強筋を支持する第2ステップと、
前記鋼材に前記プレキャスト型枠を支持する第3ステップとを含むことを特徴とするプレキャスト型枠を用いたコンクリート構造物の構築方法が提供される。
所定の位置に前記鋼材を設置する第1ステップと、
前記鋼材に前記せん断補強筋を支持する第2ステップと、
前記鋼材に前記プレキャスト型枠を支持する第3ステップとを含むことを特徴とするプレキャスト型枠を用いたコンクリート構造物の構築方法が提供される。
上記請求項6記載の発明では、はじめに鋼材を設置し、この鋼材にせん断補強筋を支持した後、プレキャスト型枠を設置しているため、プレキャスト型枠で囲われない比較的広いスペースが確保された状態でせん断補強筋の配筋作業ができる。
以上詳説のとおり本発明によれば、せん断補強筋の配筋作業が簡略化できるとともに、せん断補強筋を所定のかぶり厚さを確保でき、かつプレキャスト型枠が容易に設置できるようになる。
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳述する。
本発明に係るコンクリート構造物1は、図1に示されるように、プレキャストコンクリート製のプレキャストパネルからなる埋設型枠(プレキャスト型枠2)を複数枚並べて型枠を組み立てた後、この型枠内にコンクリートを打設して構築されるプレキャスト型枠2を用いたコンクリート構造物1である。
本書では、前記コンクリート構造物1として、図1に示されるように、橋脚などの既設構造物3の外周にコンクリート構造物1を巻回する既設構造物の補強構造を例に挙げて主に説明するが、後述するように、新設構造物にも同様に適用可能である。
前記コンクリート構造物1は、図1~図3に示されるように、間隔を空けて互いに平行して配置される複数の鋼材4と、前記鋼材4に支持されるとともに、前記鋼材4の軸方向に間隔を空けて配置される複数のせん断補強筋5と、前記鋼材4に支持されるとともに、前記せん断補強筋5及び鋼材4を囲むように配置される複数のプレキャスト型枠2と、前記プレキャスト型枠2によって囲まれた空間に充填されるコンクリートとで構成される。
前記鋼材4は、既設構造物3をコンクリート構造物1によって補強する補強構造の場合、既設構造物3の外面から所定の離隔距離をあけた位置に、部材長手方向(軸方向)を鉛直方向に一致させて立設するとともに、周方向に間隔を空けて互いに平行して複数配置される。前記鋼材4としては、溝形鋼、T形鋼、L形鋼、H形鋼、C形鋼、角鋼管などの形鋼材が用いられる。
前記鋼材4は、平坦で比較的広い外面を有する部分を外側に向けて配置される。例えば前記鋼材4として、ウェブ4aとその幅方向両端からそれぞれ一方側に直交して延びるフランジ4bとからなる溝形鋼を用いたとき、前記ウェブ4aの外面を外側に向け、フランジ4bを内側に突出させた状態で配置する。また、後述するように、前記鋼材4として、ウェブ4aとその幅方向の一方端から両側に直交して延びるフランジ4bとからなるT形鋼を用いたときは、前記フランジ4bの外面を外側に向け、前記ウェブ4aを内側に突出させた状態で配置する(図9参照)。
前記鋼材4は、図2及び図3に示されるように、一端が鋼材4に固定され、他端が前記既設構造物3に固定された固定部材6によって、既設構造物3から所定の離隔距離をおいた位置に固設されている。前記固定部材6は、鋼材4の軸方向に間隔を空けて複数配置される。
前記固定部材6は、前記鋼材4が既設構造物3から所定の離隔距離をおいて固設できるものであれば特に限定されない。図示例では、前記固定部材6を全ネジボルトやロッド等で構成し、一端が連結金具7などを介して鋼材4に固定され、他端が既設構造物3のコンクリートに設けられた穿孔8に挿入されるとともに、隙間にグラウト材が充填されることにより固定されている。前記固定部材6の他端は、既設構造物3にインサートを設置し、これにねじ込むことによって固定してもよい。前記固定部材6の一端を鋼材4に連結する連結金具7としては、図示例では、略コの字形の金具が用いられ、この略コの字形の金具が前記固定部材6の先端部にナットによって固定されるとともに、この略コの字形の金具が鋼材4のフランジ4b、4bを一体に挟み込むように配置され、これら略コの字形の金具及び鋼材4のフランジ4b、4bを貫通するボルトによって固定されている。或いは、図示しないが、前記固定部材6の一端に二股に分岐する金具を設けておき、この二股に分岐した金具の先端をそれぞれ鋼材4のフランジ4bにボルトや溶接などの固定手段によって固定するようにしてもよい。
前記コンクリート構造物1が新設構造物の場合、前記固定部材6は、一端が連結金具7などを介して鋼材4に固定され、他端が、図4(A)に示されるように、該鋼材4に対向して配置された鋼材4や、図4(b)に示されるように、プレキャスト型枠2によって囲まれた空間内に設けられたH形鋼などの鉄骨材9などに固定される。
図示例の鋼材4は、図5に示されるように、溝形鋼からなり、ウェブ4a及びフランジ4bにそれぞれプレキャスト型枠2及びせん断補強筋5を支持するための支持部が備えられている。
前記プレキャスト型枠2を溝形鋼からなる鋼材4に支持する支持構造は、図5に示されるように、ウェブ4aに嵌合穴10が形成されるとともに、図6に示されるように、プレキャスト型枠2の鋼材4との対向部に、前記鋼材4側に突出するとともに、前記嵌合穴10に嵌合可能な突起部11が形成され、この突起部11を前記嵌合穴10に嵌合することにより、前記プレキャスト型枠2が鋼材4の外側に支持されるようになっている。
前記嵌合穴10は、略円形状の上半幅広部10aと、この下端部から下方に連通して延びる下半幅狭部10bとで構成された略鍵穴形状を成している。一方、前記突起部11は、図6に示されるように、六角ボルトの軸部の先端部がプレキャスト型枠2に埋め込まれることにより、頭部とこの頭部に近接する軸部の一部がプレキャスト型枠2から突出して形成されたものであり、プレキャスト型枠2の外面から軸部を介して、その先端に軸部より大径の頭部が設けられたものである。このように突出した部分が軸部とこの軸部より大径の頭部とからなるものであれば、六角ボルトに限らず、任意のものを使用することができる。前記軸部の突出長さは、前記嵌合穴10が設けられた鋼材4の部材厚さとほぼ同等か、これより若干長く形成されている。
前記プレキャスト型枠2を鋼材4に支持するには、前記プレキャスト型枠2の突起部11を、鋼材4の嵌合穴10に嵌合させることにより行う。突起部11を嵌合穴10に嵌合するには、突起部11の頭部を嵌合穴10の上半幅広部10aに挿入した後、プレキャスト型枠2を落とし込んで、突起部11の軸部を下半幅狭部10bに嵌合させ、突起部11の頭部が嵌合穴10の下半幅狭部10bの内側に係止してプレキャスト型枠2が鋼材4に支持されるようにする。
前記嵌合穴10及び突起部11は、プレキャスト型枠2の両側部にそれぞれ上下2箇所ずつ設けられている。プレキャスト型枠2は、図1に示されるように、隣り合う2本の鋼材4、4に架け渡されるように配置される。なお、これらの中間部に1又は複数の鋼材4を配置し、その中間部の鋼材4にも支持されるようにしてもよい。
プレキャスト型枠2の両側部を支持する鋼材4に形成された嵌合穴10は、前記鋼材4のウェブ4aに2列で設けられ、各列にそれぞれ別のプレキャスト型枠2が支持されることにより、鋼材4と重なる部分に隣り合うプレキャスト型枠2、2同士のつなぎ目が設けられるようになっている。つまり、鋼材4の軸方向と直交する方向に隣り合うプレキャスト型枠2、2同士の目地部に沿って、前記鋼材4が配置され、1本の鋼材4で隣り合うプレキャスト型枠2、2の側部を同時に支持している。これによって、プレキャスト型枠2、2同士の目地部が鋼材4によって補強されるとともに、この鋼材4が配置された目地部からコンクリートが漏れ出るのが防止できる。
次に、前記鋼材4に対するせん断補強筋5の支持構造について説明する。図5及び図7に示されるように、溝形鋼からなる鋼材4のフランジ4bには、プレキャスト型枠2から所定の離隔距離をおいた位置でせん断補強筋5を支持可能な掛止部12が備えられている。図5及び図7に示される例では、前記掛止部12は、鋼材4のフランジ4bに形成された切込み部によって構成されている。具体的には、前記掛止部12は、フランジ4bの端縁からウェブ4a側に向けて延びるとともに、フランジ4bの中間部で先端が下方側に屈折したL字形の切込み部によって形成されている。この掛止部12は、せん断補強筋5の配筋間隔に対応して、鋼材4の軸方向に間隔をあけて複数形成されている。なお、コンクリート注入時の圧力によってせん断補強筋5がずれるのを防止するため、前記せん断補強筋5を結束線などで仮止めしてもよい。
前記掛止部12にせん断補強筋5を支持するには、切れ込み部の切れ込み端部からせん断補強筋5を挿入するとともに、切れ込み部先端の屈折部に嵌合させる。この屈折部に挿入した状態で、せん断補強筋5とプレキャスト型枠2との間に所定の離隔距離が設けられる。この離隔距離がコンクリートを充填したときのかぶり厚さTとなる。このように、せん断補強筋5を掛止部12に掛止することにより、常に一定のかぶり厚さTでコンクリートが打設できるため、コンクリート構造物1の耐久性が向上できる。
前記掛止部12は、上述の切れ込み部に限るものではなく、せん断補強筋5が掛止できる構造を有していればどのような形態でもよい。例えば、図8に示されるように、鋼材4のフランジ4bの端縁から突出し、先端が上方側に屈折したL字形金物からなるフック部によって構成してもよい。フランジ4bから突出した部分にせん断補強筋5を支持できるとともに、先端の上方に屈折した部分によってせん断補強筋5のずれが防止できる。
次に、図9~図11に示されるように、前記鋼材4としてT形鋼を用いた場合について説明する。前述のように、前記鋼材4としてT形鋼を用いることも可能であり、この場合には、図9及び図10に示されるように、T形鋼のフランジ4bの外面にプレキャスト型枠2が支持され、ウェブ4aにせん断補強筋5が支持されるようにする。
T形鋼からなる鋼材4を前記固定部材6により固定するには、図9及び図10に示されるように、固定部材6の一端を鋼材4のウェブ4aに固定し、他端を前記既設構造物3若しくは鉄骨材9又は対向する鋼材4に固定する。前記固定部材6の一端をウェブ4aに固定するには、図示例のように、ウェブ4aの一方の側面に沿って固設される固定片13aと、この固定片13aから垂直に起立し、中央部に設けられた開孔に固定部材6の一端が挿入されナットで固定される取付片13bとからなる連結金具13を用いるのが好ましい。
T形鋼からなる鋼材4のフランジ4bには、プレキャスト型枠2に設けられた突起部11が嵌合可能な嵌合穴10が備えられている。前記嵌合穴10は、ウェブ4aを境に両側に延びるフランジ部分にそれぞれ、プレキャスト型枠2の上下部に対応する2箇所に形成されている。
また、T形鋼からなる鋼材4のウェブ4aには、せん断補強筋5が支持可能な掛止部12が備えられている。前記掛止部12は、図11に示されるように、(A)切込み部又は(B)フック部で構成することができる。
前記プレキャスト型枠2は、コンクリート構造物1の外殻を構成するプレキャストコンクリート製のパネルであり、人力で持ち運びできる程度に小型化されたものを用いるのが好ましい。人力で持ち運び可能な最大重量は、およそ20kg前後であり、このときの外形寸法としては、例えば900×300×35mm程度である。プレキャスト型枠2の設置は、図1に示されるようにクレーン等を用いて行うことも可能であるし、人力で持ち運んで設置することも可能である。
以上の構成からなるコンクリート構造物1の構築方法は、先ずはじめに、所定の位置に前記鋼材4を設置する。前記鋼材4は、前記固定部材6によって適宜の位置に固定される。
次に、前記鋼材4にせん断補強筋5を配筋する。せん断補強筋5の配筋は、上述の通り、鋼材4に形成された掛止部12にせん断補強筋5を掛止することにより行う。このように、せん断補強筋5の配筋作業を、鋼材4の外側にプレキャスト型枠2を設置する前に行うため、作業スペースを広くとることができ、作業性が向上する。
その後、前記鋼材4にプレキャスト型枠2を支持する。プレキャスト型枠2の支持は、上述の通り、プレキャスト型枠2に備えられた突起部11を、鋼材4に形成された嵌合穴10に嵌合することにより行う。
プレキャスト型枠2の設置が終了したならば、プレキャスト型枠2で囲われた内部にコンクリートを打設して、コンクリート構造物1の施工を完了する。
1…コンクリート構造物、2…プレキャスト型枠、3…既設構造物、4…鋼材、5…せん断補強筋、6…固定部材、7…連結金具、8…穿孔、9…鉄骨材、10…嵌合穴、11…突起部、12…掛止部、13…連結金具
本発明は、複数のプレキャストパネルを埋設型枠として用いるとともに、このプレキャスト型枠の内側にせん断補強筋が配筋されたプレキャスト型枠を用いたコンクリート構造物及びその構築方法に関する。
従来より、コンクリート構造物の構築方法は、主筋及びせん断補強筋を配筋し、その外周に型枠を設置した後、型枠内にコンクリートを打設し、硬化後に脱型するという手順で行われていた。
かかる構築方法において、前記型枠として、プレキャストコンクリート製の埋設型枠(プレキャスト型枠)を用いることにより、現場打ちコンクリートの型枠取り外し作業を省略して、施工速度や施工コストを大幅に改善した施工方法が知られている。前記プレキャスト型枠は、コンクリート打設後も取り外すことなく、構造物の一部として使用されものであり、高強度モルタルやコンクリート等で形成される。
前記プレキャスト型枠は、大型のプレキャストパネルを、クレーン等の重機で吊り下げて設置していたが、近年では、重機を不要とし、省力化を図ることなどを目的として、人力で運搬が可能な小型のプレキャストパネルが多用されつつある。
小型のプレキャスト型枠を用いた施工において、プレキャスト型枠を複数設置して組み立てる際、型枠の固定方法や型枠同士の連結方法が問題となる。かかる固定や連結の手段の一例として、下記特許文献1には、下側の壁面構築用型枠パネルの上側に設けられたフックに、連結固定具の連結部材の下側部分を係合させ、上側の壁面構築用型枠パネルの下側に設けられたフックに連結固定具の連結部材の上側部分を係合させるとともに、連結固定具のセパレーターの他端側を構築される擁壁の内側に予め立設させた支柱アングルに固定する方法が開示されている。
また、上述のコンクリート構造物の構築手順において、従来では、前記主筋及びせん断補強筋の配筋は、段取り筋などに仮止めしながら組み立てる方法が採られていた。このような配筋作業の負担軽減などのため、下記特許文献2には、せん断補強筋の配置を規定する補強筋配置ガイドを形成することが開示されている。
しかしながら、プレキャスト型枠の組立てにおいて、上記特許文献1に記載のパネル同士の連結手段では、連結固定具をそれぞれのパネルに設けられたフックに係合させる必要があるところ、既設構造物の外周をコンクリートで補強する補強構造などにおいては、狭隘な空間内での作業となるため、作業性が悪く、より簡易な固定手段が望まれていた。
また、せん断補強筋の配筋は、従来では、前述のように、せん断補強筋を結束線で段取り筋等に結束することにより行われていたが、せん断補強筋を段取り筋に結束する作業に手間がかかるという問題があった。
更に、上記特許文献2に記載された補強筋配置ガイドは、せん断補強筋の配筋間隔と同じ間隔に設けられた突出片を目印として、せん断補強筋が所定の配筋間隔で配筋できるようにしたものであるが、せん断補強筋を適正なかぶり厚さに保持する機能は無く、確実に規定のかぶり厚さを確保することは容易ではなかった。
そこで本発明の主たる課題は、せん断補強筋の配筋作業が簡略化できるとともに、せん断補強筋が適切なかぶり厚さを確保でき、かつプレキャスト型枠を容易に設置できるようにしたプレキャスト型枠を用いたコンクリート構造物及びその施工方法を提供することにある。
前記課題を解決するために請求項1に係る本発明として、間隔を空けて互いに平行して配置される複数の鋼材と、前記鋼材に支持されるとともに、前記鋼材の軸方向に間隔を空けて配置される複数のせん断補強筋と、前記鋼材に支持されるとともに、前記せん断補強筋及び鋼材を囲むように配置される複数のプレキャスト型枠と、前記プレキャスト型枠によって囲まれた空間に充填されるコンクリートとからなり、
前記鋼材に、前記プレキャスト型枠から所定の離隔距離をおいた位置で前記せん断補強筋を支持可能な掛止部が備えられるとともに、前記プレキャスト型枠に設けられた突起部が嵌合することにより前記プレキャスト型枠を支持可能な嵌合穴が備えられていることを特徴とするプレキャスト型枠を用いたコンクリート構造物が提供される。
前記鋼材に、前記プレキャスト型枠から所定の離隔距離をおいた位置で前記せん断補強筋を支持可能な掛止部が備えられるとともに、前記プレキャスト型枠に設けられた突起部が嵌合することにより前記プレキャスト型枠を支持可能な嵌合穴が備えられていることを特徴とするプレキャスト型枠を用いたコンクリート構造物が提供される。
上記請求項1記載の発明は、複数のプレキャストパネルを埋設型枠として用いるとともに、このプレキャスト型枠の内側にせん断補強筋を配筋したコンクリート構造物であって、これらプレキャスト型枠及びせん断補強筋を一体に支持する鋼材が備えられている。
前記せん断補強筋を鋼材に支持するには、鋼材に備えられた掛止部にせん断補強筋を掛止する。前記掛止部は、前記プレキャスト型枠から所定の離隔距離をおいた位置で、せん断補強筋が支持できるようになっているため、前記掛止部にせん断補強筋を引っ掛けるだけで配筋作業が完了し、配筋作業の大幅な簡略化が可能になるとともに、せん断補強筋に対するコンクリートのかぶり厚さが常に一定になり、確実に適切なかぶり厚さを確保することができる。
また、前記プレキャスト型枠を鋼材に支持するには、前記プレキャスト型枠に設けられた突起部を、前記鋼材に形成された嵌合穴に嵌合する。このように、プレキャスト型枠の突起部を鋼材の嵌合穴に嵌合するだけで、プレキャスト型枠の設置が完了し、プレキャスト型枠の設置作業が簡略化できる。
請求項2に係る本発明として、前記掛止部は、前記鋼材に形成された切込み部によって構成されている請求項1記載のプレキャスト型枠を用いたコンクリート構造物が提供される。
上記請求項2記載の発明は、前記せん断補強筋を前記鋼材に支持する掛止部の一実施形態例であり、前記鋼材に前記せん断補強筋が掛止可能な切込み部を形成したものである。この切込み部にせん断補強筋を挿入することにより、せん断補強筋が鋼材の所定の位置に支持される。この切込み部は、先端を下方側に屈折させた略L字形に形成することにより、下方側への屈折部にせん断補強筋を入り込ませて、配筋位置がより確実に固定できるようにするのが好ましい。
請求項3に係る本発明として、前記掛止部は、前記鋼材に突設されたフック部によって構成されている請求項1記載のプレキャスト型枠を用いたコンクリート構造物が提供される。
上記請求項3記載の発明は、前記せん断補強筋を前記鋼材に支持する掛止部の変形例であり、前記鋼材に前記せん断補強筋が掛止可能なフック部を突設したものである。このフック部にせん断補強筋を引っ掛けることにより、せん断補強筋が鋼材の所定の位置に支持される。
請求項4に係る本発明として、前記鋼材は、一端が前記鋼材に固定され、他端が前記プレキャスト型枠によって囲まれた空間内に設けられた構造物若しくは鉄骨材又は該鋼材に対向して配置された鋼材に固定された固定部材によって固定されている請求項1記載のプレキャスト型枠を用いたコンクリート構造物が提供される。
上記請求項4記載の発明では、前記鋼材を所定の位置で固定するため、一端が鋼材に固定され、他端が所定の部位に固定された固定部材を用いている。この固定部材の他端の固定方法は、構築するコンクリート構造物が既設構造物の補強構造であるか、新設構造物であるかによって異なり、既設構造物の補強構造の場合は、既設構造物にインサートなどによって埋設され、新設構造物の場合は、プレキャスト型枠によって囲まれた空間内に設けられた鉄骨材、又は当該鋼材に対向して配置された鋼材などに固定される。
請求項5に係る本発明として、前記鋼材の軸方向と直交する方向に隣り合う前記プレキャスト型枠同士の目地部に沿って、前記鋼材が配置されている請求項1記載のプレキャスト型枠を用いたコンクリート構造物が提供される。
上記請求項5記載の発明では、各鋼材が鋼材の軸方向と直交する方向に隣り合う2つのプレキャスト型枠の接続部を支持することで、プレキャスト型枠同士の目地部に沿って前記鋼材が配置されている。これによって、目地部が鋼材によって補強されるとともに、この鋼材が配置された目地部からのコンクリートの漏れ出しが防止できる。
請求項6に係る本発明として、上記請求項1~5いずれかに記載のプレキャスト型枠を用いたコンクリート構造物の構築方法であって、
所定の位置に前記鋼材を設置する第1ステップと、
前記鋼材に前記せん断補強筋を支持する第2ステップと、
前記鋼材に前記プレキャスト型枠を支持する第3ステップとを含むことを特徴とするプレキャスト型枠を用いたコンクリート構造物の構築方法が提供される。
所定の位置に前記鋼材を設置する第1ステップと、
前記鋼材に前記せん断補強筋を支持する第2ステップと、
前記鋼材に前記プレキャスト型枠を支持する第3ステップとを含むことを特徴とするプレキャスト型枠を用いたコンクリート構造物の構築方法が提供される。
上記請求項6記載の発明では、はじめに鋼材を設置し、この鋼材にせん断補強筋を支持した後、プレキャスト型枠を設置しているため、プレキャスト型枠で囲われない比較的広いスペースが確保された状態でせん断補強筋の配筋作業ができる。
以上詳説のとおり本発明によれば、せん断補強筋の配筋作業が簡略化できるとともに、せん断補強筋を所定のかぶり厚さを確保でき、かつプレキャスト型枠が容易に設置できるようになる。
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳述する。
本発明に係るコンクリート構造物1は、図1に示されるように、プレキャストコンクリート製のプレキャストパネルからなる埋設型枠(プレキャスト型枠2)を複数枚並べて型枠を組み立てた後、この型枠内にコンクリートを打設して構築されるプレキャスト型枠2を用いたコンクリート構造物1である。
本書では、前記コンクリート構造物1として、図1に示されるように、橋脚などの既設構造物3の外周にコンクリート構造物1を巻回する既設構造物の補強構造を例に挙げて主に説明するが、後述するように、新設構造物にも同様に適用可能である。
前記コンクリート構造物1は、図1~図3に示されるように、間隔を空けて互いに平行して配置される複数の鋼材4と、前記鋼材4に支持されるとともに、前記鋼材4の軸方向に間隔を空けて配置される複数のせん断補強筋5と、前記鋼材4に支持されるとともに、前記せん断補強筋5及び鋼材4を囲むように配置される複数のプレキャスト型枠2と、前記プレキャスト型枠2によって囲まれた空間に充填されるコンクリートとで構成される。
前記鋼材4は、既設構造物3をコンクリート構造物1によって補強する補強構造の場合、既設構造物3の外面から所定の離隔距離をあけた位置に、部材長手方向(軸方向)を鉛直方向に一致させて立設するとともに、周方向に間隔を空けて互いに平行して複数配置される。前記鋼材4としては、溝形鋼、T形鋼、L形鋼、H形鋼、C形鋼、角鋼管などの形鋼材が用いられる。
前記鋼材4は、平坦で比較的広い外面を有する部分を外側に向けて配置される。例えば前記鋼材4として、ウェブ4aとその幅方向両端からそれぞれ一方側に直交して延びるフランジ4bとからなる溝形鋼を用いたとき、前記ウェブ4aの外面を外側に向け、フランジ4bを内側に突出させた状態で配置する。また、後述するように、前記鋼材4として、ウェブ4aとその幅方向の一方端から両側に直交して延びるフランジ4bとからなるT形鋼を用いたときは、前記フランジ4bの外面を外側に向け、前記ウェブ4aを内側に突出させた状態で配置する(図9参照)。
前記鋼材4は、図2及び図3に示されるように、一端が鋼材4に固定され、他端が前記既設構造物3に固定された固定部材6によって、既設構造物3から所定の離隔距離をおいた位置に固設されている。前記固定部材6は、鋼材4の軸方向に間隔を空けて複数配置される。
前記固定部材6は、前記鋼材4が既設構造物3から所定の離隔距離をおいて固設できるものであれば特に限定されない。図示例では、前記固定部材6を全ネジボルトやロッド等で構成し、一端が連結金具7などを介して鋼材4に固定され、他端が既設構造物3のコンクリートに設けられた穿孔8に挿入されるとともに、隙間にグラウト材が充填されることにより固定されている。前記固定部材6の他端は、既設構造物3にインサートを設置し、これにねじ込むことによって固定してもよい。前記固定部材6の一端を鋼材4に連結する連結金具7としては、図示例では、略コの字形の金具が用いられ、この略コの字形の金具が前記固定部材6の先端部にナットによって固定されるとともに、この略コの字形の金具が鋼材4のフランジ4b、4bを一体に挟み込むように配置され、これら略コの字形の金具及び鋼材4のフランジ4b、4bを貫通するボルトによって固定されている。或いは、図示しないが、前記固定部材6の一端に二股に分岐する金具を設けておき、この二股に分岐した金具の先端をそれぞれ鋼材4のフランジ4bにボルトや溶接などの固定手段によって固定するようにしてもよい。
前記コンクリート構造物1が新設構造物の場合、前記固定部材6は、一端が連結金具7などを介して鋼材4に固定され、他端が、図4(A)に示されるように、該鋼材4に対向して配置された鋼材4や、図4(b)に示されるように、プレキャスト型枠2によって囲まれた空間内に設けられたH形鋼などの鉄骨材9などに固定される。
図示例の鋼材4は、図5に示されるように、溝形鋼からなり、ウェブ4a及びフランジ4bにそれぞれプレキャスト型枠2及びせん断補強筋5を支持するための支持部が備えられている。
前記プレキャスト型枠2を溝形鋼からなる鋼材4に支持する支持構造は、図5に示されるように、ウェブ4aに嵌合穴10が形成されるとともに、図6に示されるように、プレキャスト型枠2の鋼材4との対向部に、前記鋼材4側に突出するとともに、前記嵌合穴10に嵌合可能な突起部11が形成され、この突起部11を前記嵌合穴10に嵌合することにより、前記プレキャスト型枠2が鋼材4の外側に支持されるようになっている。
前記嵌合穴10は、略円形状の上半幅広部10aと、この下端部から下方に連通して延びる下半幅狭部10bとで構成された略鍵穴形状を成している。一方、前記突起部11は、図6に示されるように、六角ボルトの軸部の先端部がプレキャスト型枠2に埋め込まれることにより、頭部とこの頭部に近接する軸部の一部がプレキャスト型枠2から突出して形成されたものであり、プレキャスト型枠2の外面から軸部を介して、その先端に軸部より大径の頭部が設けられたものである。このように突出した部分が軸部とこの軸部より大径の頭部とからなるものであれば、六角ボルトに限らず、任意のものを使用することができる。前記軸部の突出長さは、前記嵌合穴10が設けられた鋼材4の部材厚さとほぼ同等か、これより若干長く形成されている。
前記プレキャスト型枠2を鋼材4に支持するには、前記プレキャスト型枠2の突起部11を、鋼材4の嵌合穴10に嵌合させることにより行う。突起部11を嵌合穴10に嵌合するには、突起部11の頭部を嵌合穴10の上半幅広部10aに挿入した後、プレキャスト型枠2を落とし込んで、突起部11の軸部を下半幅狭部10bに嵌合させ、突起部11の頭部が嵌合穴10の下半幅狭部10bの内側に係止してプレキャスト型枠2が鋼材4に支持されるようにする。
前記嵌合穴10及び突起部11は、プレキャスト型枠2の両側部にそれぞれ上下2箇所ずつ設けられている。プレキャスト型枠2は、図1に示されるように、隣り合う2本の鋼材4、4に架け渡されるように配置される。なお、これらの中間部に1又は複数の鋼材4を配置し、その中間部の鋼材4にも支持されるようにしてもよい。
プレキャスト型枠2の両側部を支持する鋼材4に形成された嵌合穴10は、前記鋼材4のウェブ4aに2列で設けられ、各列にそれぞれ別のプレキャスト型枠2が支持されることにより、鋼材4と重なる部分に隣り合うプレキャスト型枠2、2同士のつなぎ目が設けられるようになっている。つまり、鋼材4の軸方向と直交する方向に隣り合うプレキャスト型枠2、2同士の目地部に沿って、前記鋼材4が配置され、1本の鋼材4で隣り合うプレキャスト型枠2、2の側部を同時に支持している。これによって、プレキャスト型枠2、2同士の目地部が鋼材4によって補強されるとともに、この鋼材4が配置された目地部からコンクリートが漏れ出るのが防止できる。
次に、前記鋼材4に対するせん断補強筋5の支持構造について説明する。図5及び図7に示されるように、溝形鋼からなる鋼材4のフランジ4bには、プレキャスト型枠2から所定の離隔距離をおいた位置でせん断補強筋5を支持可能な掛止部12が備えられている。図5及び図7に示される例では、前記掛止部12は、鋼材4のフランジ4bに形成された切込み部によって構成されている。具体的には、前記掛止部12は、フランジ4bの端縁からウェブ4a側に向けて延びるとともに、フランジ4bの中間部で先端が下方側に屈折したL字形の切込み部によって形成されている。この掛止部12は、せん断補強筋5の配筋間隔に対応して、鋼材4の軸方向に間隔をあけて複数形成されている。なお、コンクリート注入時の圧力によってせん断補強筋5がずれるのを防止するため、前記せん断補強筋5を結束線などで仮止めしてもよい。
前記掛止部12にせん断補強筋5を支持するには、切れ込み部の切れ込み端部からせん断補強筋5を挿入するとともに、切れ込み部先端の屈折部に嵌合させる。この屈折部に挿入した状態で、せん断補強筋5とプレキャスト型枠2との間に所定の離隔距離が設けられる。この離隔距離がコンクリートを充填したときのかぶり厚さTとなる。このように、せん断補強筋5を掛止部12に掛止することにより、常に一定のかぶり厚さTでコンクリートが打設できるため、コンクリート構造物1の耐久性が向上できる。
前記掛止部12は、上述の切れ込み部に限るものではなく、せん断補強筋5が掛止できる構造を有していればどのような形態でもよい。例えば、図8に示されるように、鋼材4のフランジ4bの端縁から突出し、先端が上方側に屈折したL字形金物からなるフック部によって構成してもよい。フランジ4bから突出した部分にせん断補強筋5を支持できるとともに、先端の上方に屈折した部分によってせん断補強筋5のずれが防止できる。
次に、図9~図11に示されるように、前記鋼材4としてT形鋼を用いた場合について説明する。前述のように、前記鋼材4としてT形鋼を用いることも可能であり、この場合には、図9及び図10に示されるように、T形鋼のフランジ4bの外面にプレキャスト型枠2が支持され、ウェブ4aにせん断補強筋5が支持されるようにする。
T形鋼からなる鋼材4を前記固定部材6により固定するには、図9及び図10に示されるように、固定部材6の一端を鋼材4のウェブ4aに固定し、他端を前記既設構造物3若しくは鉄骨材9又は対向する鋼材4に固定する。前記固定部材6の一端をウェブ4aに固定するには、図示例のように、ウェブ4aの一方の側面に沿って固設される固定片13aと、この固定片13aから垂直に起立し、中央部に設けられた開孔に固定部材6の一端が挿入されナットで固定される取付片13bとからなる連結金具13を用いるのが好ましい。
T形鋼からなる鋼材4のフランジ4bには、プレキャスト型枠2に設けられた突起部11が嵌合可能な嵌合穴10が備えられている。前記嵌合穴10は、ウェブ4aを境に両側に延びるフランジ部分にそれぞれ、プレキャスト型枠2の上下部に対応する2箇所に形成されている。
また、T形鋼からなる鋼材4のウェブ4aには、せん断補強筋5が支持可能な掛止部12が備えられている。前記掛止部12は、図11に示されるように、(A)切込み部又は(B)フック部で構成することができる。
前記プレキャスト型枠2は、コンクリート構造物1の外殻を構成するプレキャストコンクリート製のパネルであり、人力で持ち運びできる程度に小型化されたものを用いるのが好ましい。人力で持ち運び可能な最大重量は、およそ20kg前後であり、このときの外形寸法としては、例えば900×300×35mm程度である。プレキャスト型枠2の設置は、図1に示されるようにクレーン等を用いて行うことも可能であるし、人力で持ち運んで設置することも可能である。
以上の構成からなるコンクリート構造物1の構築方法は、先ずはじめに、所定の位置に前記鋼材4を設置する。前記鋼材4は、前記固定部材6によって適宜の位置に固定される。
次に、前記鋼材4にせん断補強筋5を配筋する。せん断補強筋5の配筋は、上述の通り、鋼材4に形成された掛止部12にせん断補強筋5を掛止することにより行う。このように、せん断補強筋5の配筋作業を、鋼材4の外側にプレキャスト型枠2を設置する前に行うため、作業スペースを広くとることができ、作業性が向上する。
その後、前記鋼材4にプレキャスト型枠2を支持する。プレキャスト型枠2の支持は、上述の通り、プレキャスト型枠2に備えられた突起部11を、鋼材4に形成された嵌合穴10に嵌合することにより行う。
プレキャスト型枠2の設置が終了したならば、プレキャスト型枠2で囲われた内部にコンクリートを打設して、コンクリート構造物1の施工を完了する。
1…コンクリート構造物、2…プレキャスト型枠、3…既設構造物、4…鋼材、5…せん断補強筋、6…固定部材、7…連結金具、8…穿孔、9…鉄骨材、10…嵌合穴、11…突起部、12…掛止部、13…連結金具
Claims (6)
- 間隔を空けて互いに平行して配置される複数の鋼材と、前記鋼材に支持されるとともに、前記鋼材の軸方向に間隔を空けて配置される複数のせん断補強筋と、前記鋼材に支持されるとともに、前記せん断補強筋及び鋼材を囲むように配置される複数のプレキャスト型枠と、前記プレキャスト型枠によって囲まれた空間に充填されるコンクリートとからなり、
前記鋼材に、前記プレキャスト型枠から所定の離隔距離をおいた位置で前記せん断補強筋を支持可能な掛止部が備えられるとともに、前記プレキャスト型枠に設けられた突起部が嵌合することにより前記プレキャスト型枠を支持可能な嵌合穴が備えられていることを特徴とするプレキャスト型枠を用いたコンクリート構造物。 - 前記掛止部は、前記鋼材に形成された切込み部によって構成されている請求項1記載のプレキャスト型枠を用いたコンクリート構造物。
- 前記掛止部は、前記鋼材に突設されたフック部によって構成されている請求項1記載のプレキャスト型枠を用いたコンクリート構造物。
- 前記鋼材は、一端が前記鋼材に固定され、他端が前記プレキャスト型枠によって囲まれた空間内に設けられた構造物若しくは鉄骨材又は該鋼材に対向して配置された鋼材に固定された固定部材によって固定されている請求項1~3いずれかに記載のプレキャスト型枠を用いたコンクリート構造物。
- 前記鋼材の軸方向と直交する方向に隣り合う前記プレキャスト型枠同士の目地部に沿って、前記鋼材が配置されている請求項1~4いずれかに記載のプレキャスト型枠を用いたコンクリート構造物。
- 上記請求項1~5いずれかに記載のプレキャスト型枠を用いたコンクリート構造物の構築方法であって、
所定の位置に前記鋼材を設置する第1ステップと、
前記鋼材に前記せん断補強筋を支持する第2ステップと、
前記鋼材に前記プレキャスト型枠を支持する第3ステップとを含むことを特徴とするプレキャスト型枠を用いたコンクリート構造物の構築方法。
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