JP2023145265A - スポット溶接継手及びスポット溶接継手の製造方法 - Google Patents

スポット溶接継手及びスポット溶接継手の製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】引張強さが980MPa以上の高強度鋼板を含む板組を用い、継手強度が向上したスポット溶接継手及びその製造方法を提供する。を提供する。【解決手段】ナゲット13の溶融境界のうち引張強さの合計が最も高い隣接する2枚の鋼板1A,1Bの板界面15であった位置に相当する部分をナゲット端部13Eとし、ナゲット端部近傍において、アスペクト比が1.0以上1.7以下の旧オーステナイト粒の平均粒径が110μm以下であり、かつP及びMnの含有量が少ない又はP及びMnの凝固偏析が緩和されているスポット溶接継手。電流値I1(kA)でナゲット形成後、ナゲット端部の温度がMs点以下になるように、800≦tc1(ms)の間冷却し、ナゲット端部がA3点以上、かつ再溶融温度未満になるように、0.80≦I2/I1<1.2を満たす電流値I2(kA)及び200≦t2(ms)で通電する第2通電を行う。【選択図】図5

Description

本開示は、スポット溶接継手及びスポット溶接継手の製造方法に関する。
車体の組立や部品の取付け等の工程においては主としてスポット溶接が使われている。近年、自動車分野では、低燃費化やCO排出量削減を達成するための車体の軽量化や、衝突安全性を向上させるための車体の高剛性化がより求められている。そのような要求を満たすために、車体、部品等にハイテン材(高強度鋼板)を使用するニーズが高まっている。
しかし、ハイテン材を用いて抵抗スポット溶接した場合、継手強度(十字引張強さ:CTS)が低下し易い。そこで、ハイテン材を用いても高いCTSを有するスポット溶接継手が求められている。
ハイテン材を用いてスポット溶接を行う場合にCTSを向上させるため、本通電によりナゲットを形成した後、焼戻しのための通電と、凝固偏析緩和のための通電の2つの後通電が報告されている。
例えば、特許文献1では、亀裂の伝播抵抗を高めるために、ナゲット内部を等軸状にし、かつ、ナゲットの外側に軟化部を作ってプラグ破断しやすくすることで、継手強度を高くすることが提案されている。
特許文献2では、ナゲット内の大傾角粒界が30μmよりも小さいことで、継手強度が向上することが開示されている。
特許文献3では、ナゲット内にTi炭窒化物を析出させ、結晶粒を微細化させることで継手強度を向上させることが開示されている。
特許文献4では、板組のうち少なくとも1枚の鋼板は、0.08≦C≦0.3(質量%)、0.1≦Si≦0.8(質量%)、2.5≦Mn≦10.0(質量%)、P≦0.1(質量%)を含有し、下記条件で、電流値I(kA)で通電する主通電工程を行い、焼き戻し後熱処理工程として、冷却時間tct(ms)で冷却した後、電流値I(kA)で、通電時間t(ms)の間通電を行う3段通電によるスポット溶接方法が開示されている。
800≦tct、0.5×I≦I≦I、500≦t
また、特許文献5では、少なくとも1枚の鋼板のC含有量が、質量%で0.30%超0.70%以下である板組に対し、下記条件で、電流値I(kA)で通電し、16ms以上200ms以下の時間tc1を無通電とし、電流値I(kA)及び時間t(ms)で通電し、時間tc2(ms)を無通電とし、電流値I(kA)及び時間t(ms)で通電する3段通電による抵抗スポット溶接方法が開示されている。
0.6≦I/I≦1
1,50≦t≦1000
3.5×10-3×Ms-3.3×Ms+1100<tc2≦9000
Ms(℃)=561-474×[C]-33×[Mn]-17×[Ni]-17×[Cr]-21×[Mo]
0.4≦I/I≦1.0,200≦t
特開2013-78782号公報 特開2012-187615号公報 特開2016-13572号公報 国際公開第2019/156073号 特開2021-154390号公報
本開示は、引張強さが980MPa以上の高強度鋼板を含む板組を単通電のみで抵抗スポット溶接したスポット溶接継手に比べ、継手強度が向上したスポット溶接継手を提供することを目的とする。
また、本開示は、引張強さが980MPa以上の高強度鋼板を含む板組を単通電のみで抵抗スポット溶接した場合に比べ、継手強度が向上したスポット溶接継手を製造することができるスポット溶接継手の製造方法を提供することを目的とする。
上記目的を達成するための本開示の要旨は次の通りである。
<1> 引張強さが980MPa以上である少なくとも1枚の鋼板を含む複数の鋼板を重ね合わせた板組と、前記板組において前記複数の鋼板を接合するナゲットとを含むスポット溶接継手であって、
前記ナゲットの中心を通る板厚方向の断面において、前記ナゲットの溶融境界のうち、前記引張強さの合計が最も高い隣接する2枚の鋼板の板界面であった位置に相当する部分をナゲット端部とし、
前記板組に含まれる各鋼板の化学成分に前記板組の総厚に対する各鋼板の板厚比を乗じた加重平均を前記ナゲットの平均化学成分とみなした場合に、
前記ナゲット内で前記ナゲット端部近傍の200μm四方の観察領域において、アスペクト比が1.0以上1.7以下の旧オーステナイト粒の平均粒径が110μm以下であり、かつ下記(イ)又は(ロ)のいずれか一方を満たす、抵抗スポット溶接継手。
(イ)前記ナゲットの平均化学成分の平均P含有量が0.005質量%未満、かつ平均Mn含有量が0.5質量%未満
(ロ)前記ナゲットの平均化学成分の平均P含有量が0.005質量%以上及び平均Mn含有量が0.5質量%以上の少なくとも一方を満たし、前記観察領域において、P濃度が前記平均P含有量の2倍以上であるP濃化部の面積率が0.5%以下、かつMn濃度が前記平均Mn含有量の2倍以上であるMn濃化部の面積率が0.5%以下
<2> 前記ナゲット端部近傍の観察領域において、前記アスペクト比が1.0以上1.7以下の旧オーステナイト粒の平均粒径が90μm以下である<1>に記載の抵抗スポット溶接継手。
<3> 前記ナゲット内で前記ナゲット端部近傍の1000μm四方の測定領域における平均ビッカース硬さが、下記推定式HVで算出される硬さの±20HV以内である<1>又は<2>に記載の抵抗スポット溶接継手。
推定式HV=217+1080×(C+Si/70+Mn/113+Cr/93+Mo/30)
式中、元素記号は前記ナゲットの平均化学成分の各元素の含有量を意味する。
<4> 前記引張強さが980MPa以上である鋼板は、C含有量が0.30質量%以上0.60質量%以下であり、かつ、Ti含有量が0.10質量%未満である<1>~<3>のいずれか1つに記載の抵抗スポット溶接継手。
<5> 引張強さが980MPa以上である少なくとも1枚の鋼板を含む2枚以上の鋼板を重ね合わせた板組を、一対の電極で板厚方向に挟み込んで加圧しながら電流値I(kA)で通電してナゲットを形成する第1通電工程と、
前記第1通電工程後、前記ナゲットの溶融境界のうち、前記引張強さの合計が最も高い隣接する2枚の鋼板の板界面であった位置に相当する部分をナゲット端部とした場合に、前記ナゲット端部の温度がMs点以下になるように、800≦tc1を満たす時間tc1(ms)の間冷却する冷却工程と、
前記冷却工程後、前記ナゲット端部がA点以上、かつ再溶融温度未満になるように、0.80≦I/I<1.2を満たす電流値I(kA)及び200≦tを満たす時間t(ms)で通電する第2通電工程と、
を含む、スポット溶接継手の製造方法。
本開示によれば、引張強さが980MPa以上の高強度鋼板を含む板組を単通電のみで抵抗スポット溶接したスポット溶接継手に比べ、継手強度が向上したスポット溶接継手が提供される。
また、本開示によれば、引張強さが980MPa以上の高強度鋼板を含む板組を単通電のみで抵抗スポット溶接した場合に比べ、継手強度が向上したスポット溶接継手を製造することができるスポット溶接継手の製造方法が提供される。
ナゲット端部近傍における結晶粒径とCTSの関係を示す図である。 単通電のみを施した場合のナゲット端部近傍におけるPのEPMA測定結果を示す画像である。 後通電を施した場合のナゲット端部近傍におけるPのEPMA測定結果を示す画像である。 後通電を施した場合のナゲット端部近傍におけるPのEPMA測定結果を示す画像である。 後通電とCTSの関係を示す図である。 後通電前の冷却時間及び後通電の条件を変更した場合のナゲット端部の熱履歴を示す概略イメージ図である。 2枚の鋼板を重ねた板組をスポット溶接したナゲットの板厚方向の断面の一例を示す模式図である。 図5に示すナゲット端部近傍を拡大して示す模式図である。 3枚の鋼板を重ねた板組をスポット溶接したナゲットの板厚方向の断面の一例を示す模式図である。 2枚の鋼板を重ね合わせた板組に対して抵抗スポット溶接を行った場合に形成されるナゲット及び熱影響部(HAZ)の一例を概略的に示す図である。 厚みが相対的に薄い1枚の鋼板を含む3枚の鋼板を重ねた板組をスポット溶接したナゲットの板厚方向の断面の他の例を示す模式図である。
以下、本開示の一例である実施形態について説明する。
なお、本開示において、各元素の含有量の「%」表示は「質量%」を意味する。また、本開示において、「~」を用いて表される数値範囲は、特に断りの無い限り、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。また、「~」の前後に記載される数値に「超」又は「未満」が付されている場合の数値範囲は、これら数値を下限値又は上限値として含まない範囲を意味する。
本開示に段階的に記載されている数値範囲において、ある段階的な数値範囲の上限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は実施例に示されている値に置き換えてもよい。また、本開示に段階的に記載されている数値範囲において、ある段階的な数値範囲の下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の下限値又は実施例に示されている値に置き換えてもよい。
また、「工程」との用語は、独立した工程だけではなく、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の所期の目的が達成されれば、本用語に含まれる。
一般的に、鋼板の引張強さが高いほど、溶接部の靭性は低下して継手強度が低下する。ハイテン材を抵抗スポット溶接した際、継手強度(十字引張強さ:CTS)の低下を防ぐ手段として、後通電処理がある。これは、後通電を施すことで、焼戻しや凝固偏析緩和が生じるためである。
本発明者らは、ハイテン材、特に980MPa以上の高強度鋼板を含む板組に抵抗スポット溶接を行った場合でもより高い継手強度を有するスポット溶接継手を得るため、実験及び検討を重ねた。その結果、本通電によってナゲットを形成した後、冷却及び後通電によるナゲット端部の熱履歴を特定の条件に制御してスポット溶接継手を製造すれば、ナゲット端部の凝固偏析緩和が生じ、かつナゲットの旧オーステナイト粒径が小さくなることで、継手強度が大きく向上することを見出した。
すなわち、本開示に係るスポット溶接継手及びスポット溶接継手の製造方法は、抵抗スポット溶接継手におけるナゲット端部の旧オーステナイト粒界を微小化するとともに、P及びMnの偏析を抑制することで、継手強度を向上させる技術である。
ここで、本開示に至った実験結果について説明する。
ハイテン材を用いたスポット溶接継手のナゲットは、通常、高強度かつ凝固偏析が存在するため、靭性が低下している。このため、後通電によって焼戻しや凝固偏析緩和をしてナゲット靭性を向上させる手法がある。しかし、ナゲットの靭性に旧オーステナイト粒径がどのような影響があるかは不明であった。
そこで、本開示の発明者らが以下のような実験を行ったところ、ナゲット端部近傍においてP、Mnの凝固偏析が緩和した状態で、旧オーステナイト粒界を微細化させることで継手強度が大きく向上することがわかった。
表1に示す化学成分(単位:mass%)を有する980MPa級の2種類の鋼板(20PS、20F)を準備した。鋼板20PSは一般的な化学成分であり、鋼板20FはP、Sの含有量を極めて低くしたものである、

それぞれ同種の鋼板を2枚重ねた板組(各t=1.6mm、総厚:2t)において、ナゲット径が4√tとなるように抵抗スポット溶接継手を作製した。さらに、各抵抗スポット溶接継手に熱処理を施して、旧オーステナイト粒径を変化させた。熱処理条件は、900℃から1150℃までオーステナイト化温度を変化させ、5分間保持後、水焼き入れを行った。
熱処理後のスポット溶接継手のCTSを測定し、各鋼板を用いたスポット溶接継手におけるナゲット端部の結晶粒径とCTSの関係を図1に示す。鋼板20PSを用いたスポット溶接継手(「20PS」と表記)では結晶粒径が大きくなるにつれてCTSが増加した。これは、オーステナイト化温度の上昇に伴って結晶粒径が増大し、凝固偏析緩和も同時に生じるためである。そのため、粒径の効果よりも凝固偏析緩和の効果がより大きくなった。
一方で、鋼板20Fを用いたスポット溶接継手(「20F」と表記)では結晶粒が小さくなるにつれてCTSが向上した。これは、粒径が小さくなることで、ナゲット靭性が向上するためと考えられる。
次に、0.2%C-1.2%Mn-0.02%P鋼(1.5GPa級ホットスタンプ鋼板、t=2.0mm)の板組に対し、本通電(第1通電)によるスポット溶接を行い、さらに後通電(第2通電)を行った場合の結果について説明する。後通電条件を表2に示す。本通電条件はナゲット径が4√tとなるように本通電電流値を調整し、本通電後の冷却時間(クール時間)及び後通電は表2の「短時間後通電」又は「逆変態型凝固偏析緩和後通電」のいずれかの条件とした。
単通電と後通電を施したナゲット端部近傍におけるPのEPMA測定結果を図2A~図2Cに示す。単通電(図2A)においてはPの濃度が2倍以上になっているP濃化部の面積率が0.6%であり、凝固偏析が生じている。
一方、短時間後通電(図2B)又は逆変態型凝固偏析緩和後通電(図2C)を施すことでいずれもP濃化部の面積率は0.3%になり、凝固偏析が散っている(緩和されている)ことが分った。
次に、各後通電を施したスポット溶接継手についてCTSを測定した。各後通電とCTSの関係を図3に示す。図3に示されるように、短時間後通電よりも、逆変態型凝固偏析緩和後通電の方がCTSが向上していた。
さらに、各ナゲット端部近傍におけるオーステナイト粒径を測定したとこころ、短時間後通電においては、初期の凝固組織を有しているため、ほとんどの結晶粒がアスペクト比が2を超える粒径となった。一方で、逆変態型凝固偏析緩和後通電では、本通電の後の冷却時間中にマルテンサイト変態が生じ、後通電を施すことで、逆変態が生じ、結晶粒が微細化かつアスペクト比が1に近い組織が生成されたと考えられる。
図4は、後通電の通電条件を変更した場合のナゲット端部の熱履歴を示している。鋼板の板組をスポット溶接して後通電を行う場合、一般的に凝固偏析緩和を行う短時間後通電では、線cに示すようにナゲットをA点以上に高温にさらしてP、Mnの拡散を促進させることで継手強度が向上する。
また、逆変態を取り入れた短時間通電では、線bに示すように、冷却によりA点より低下した後、A点を超えることで結晶構造がfccからbccに変化し、結晶粒が微細化され、冷却されることで凝固偏析緩和と結晶粒の微細化の両方が達成されると考えられる。しかし、引張強さが980MPa以上の高強度鋼板としてC含有量が比較的高い(例えばC含有量:0.17%以上)鋼板を用いた場合は、A点を超えると結晶粒が微細化されるだけでなく、再溶融されて液相も含まれるため、凝固偏析緩和が得られ難くなり、結晶粒微細化の効果が出なくなる。
一方、逆変態型凝固偏析緩和後通電では、線aに示すように、ナゲットを形成する本通電後の冷却時間を長くしてマルテンサイト変態させた後、後通電によってA点を超えることで結晶粒が微細化され、A点を超えない温度まで高くすることで再溶融を防ぐとともに偏析が緩和され、偏析緩和と結晶粒微細化が同時に達成され、CTSがより一層向上すると考えられる。
このような分析結果により、引張強さが980MPa以上である高強度鋼板を含む板組のスポット溶接継手では、板界面であった箇所に相当するナゲット端部近傍において、以下の(I)及び(II)を満たす場合に、単通電によってスポット溶接を行った溶接継手に比べてCTSが顕著に向上することが分かった。
(I)アスペクト比が1.0以上1.7以下の旧オーステナイト粒の平均粒径が110μm以下である。
(II)下記(イ)又は(ロ)のいずれか一方を満たす。
(イ)ナゲットの平均化学成分の平均P含有量が0.005質量%未満であり、かつ平均Mn含有量が0.5質量%未満である。
(ロ)ナゲットの平均化学成分のP含有量が0.005質量%以上及びMn含有量が0.5質量%以上の少なくとも一方を満たし、かつナゲット端部近傍の200μm四方の観察領域において、P濃度が平均P含有量の2倍以上であるP濃化部の面積率が0.5%以下であり、かつMn濃度が平均Mn含有量の2倍以上であるMn濃化部の面積率が0.5%以下である。
すなわち、本開示に係るスポット溶接継手は、そもそも母材のP及びMnの含有量が少なくナゲット端部近傍において凝固偏析しない状態、あるいは、母材のP及びMnの一方又は両方が比較的多くても凝固偏析が緩和されている状態で、旧オーステナイト粒径を微細化することで、ナゲット内部の靭性が良くなり、継手強度が向上すると考えられる。
[スポット溶接継手]
本開示に係るスポット溶接継手について詳細に説明する。本開示に係る抵抗スポット溶接継手は、引張強さが980MPa以上である少なくとも1枚の鋼板を含む複数の鋼板を重ね合わせた板組と、板組において複数の鋼板を接合するナゲットとを含むスポット溶接継手であって、ナゲットの中心を通る板厚方向の断面において、ナゲットの溶融境界のうち、引張強さの合計が最も高い隣接する2枚の鋼板の板界面であった位置に相当する部分をナゲット端部とし、板組に含まれる各鋼板の化学成分に板組の総厚に対する各鋼板の板厚比を乗じた加重平均をナゲットの平均化学成分とみなした場合に、ナゲット内でナゲット端部近傍の200μm四方の観察領域において、アスペクト比が1.0以上1.7以下の旧オーステナイト粒の平均粒径が110μm以下であり、かつ下記(イ)又は(ロ)のいずれか一方を満たしている。
(イ)ナゲットの平均化学成分の平均P含有量が0.005質量%未満、かつ平均Mn含有量が0.5質量%未満
(ロ)ナゲットの平均化学成分の平均P含有量が0.005質量%以上及び平均Mn含有量が0.5質量%以上の少なくとも一方を満たし、観察領域において、P濃度が前記平均P含有量の2倍以上であるP濃化部の面積率が0.5%以下、かつMn濃度が前記平均Mn含有量の2倍以上であるMn濃化部の面積率が0.5%以下
<板組>
本開示に係るスポット溶接継手の板組は、引張強さ(TS)が980MPa以上である少なくとも1枚の鋼板を含む2枚以上の鋼板を重ね合わせた板組である。980MPa以上の鋼板を含むことにより、高い引張強さを確保することができる。なお、板組を構成する鋼板は2枚でもよいし、3枚以上でもよい。
図5は2枚の鋼板1A,1Bを重ねた板組をスポット溶接したナゲット13の中心を通る板厚方向の断面の一例を示す模式図である。2枚の鋼板1A,1Bを接合し、板界面であった部分が長軸である楕円形状のナゲット13が形成されている。
本開示に係るスポット溶接継手10の板組は、全ての鋼板1A,1Bの引張強さが980MPa以上であってもよいし、引張強さが980MPa以上である少なくとも1枚の鋼板のほかに引張強さが980MPa未満の鋼板を含んでもよい。全ての鋼板の引張強さが980MPa以上である場合、同じ引張強さを有する同種の鋼板でもよいし、引張強さが異なる異種の鋼板でもよい。
本開示に係るスポット溶接継手10では、2枚以上の鋼板を重ね合わせた板組のうち、少なくとも1枚の鋼板は、引張強さが980MPa以上であれば、各鋼板1A,1Bの化学成分、金属組織は限定されず、例えば、所望の元素を選択すればよい。
なお、引張強さが980MPa以上である鋼板は、高強度化のため、C含有量が0.30質量%以上0.60質量%以下であり、かつ、Ti含有量が0.10質量%未満であることが好ましい。
一般的に、C含有量が高いほど継手強度を上げることが難しい。すなわち、上述した通り短時間後通電では凝固偏析緩和の効果が得られにくい、C含有量が高い高強度鋼板においても、本開示によれば継手強度を向上させることが可能である。
また、Tiを含む鋼板を用いてTiNを析出させて結晶粒を微細化することでCTSの向上を図る技術があるが、本開示に係るスポット溶接継手は、Ti含有量が少ない場合でも高いCTSを達成することができる。なお、本開示にかかる結晶粒微細化効果は鋼板成分に依存せず発揮されるため、他の鋼板成分は特に限定されない。
板組を構成する各鋼板1A,1Bの板厚は特に限定されないが、例えば、0.5~3.5mmの板厚が挙げられる。
板組の総厚も特に限定されないが、例えば1.5~8.0mmが挙げられる。
以下、図5に示すように引張強さが980MPa以上である2枚の鋼板1A,1Bの板組をスポット溶接したスポット溶接継手について主に説明する。
<ナゲット>
ナゲット13は、板組に含まれる複数の鋼板がスポット溶接された位置において溶融凝固することにより全ての鋼板を接合するように形成された溶接金属である。図7は3枚の鋼板1A,1B、1Cを重ねた板組をスポット溶接したナゲット13の中心を通る板厚方向の断面の一例を示す模式図である。図7に示すスポット溶接継手20では、3枚の鋼板1A,1B,1Cが楕円形状のナゲット13によって接合されている。
なお、ナゲット13の形状は、板厚方向の断面で見たときに通常は図5及び図7に示すように板厚方向が短辺であり、板の面内方向が長辺である略楕円形であるが、このような形状に限定されない。
(アスペクト比が1.0以上1.7以下の旧オーステナイト粒の平均粒径が110μm以下)
本開示に係るスポット溶接継手10は、ナゲット端部近傍においてアスペクト比が1.0以上1.7以下の旧オーステナイト粒の平均粒径が110μm以下である。
本開示に係るスポット溶接継手10は、ナゲット端部近傍における旧オーステナイト粒のアスペクト比が1.0以上1.7以下、すなわち、各粒の縦横比が比較的小さい形状を有し、それらの平均粒径が110μm以下となるように微細化されている。ナゲット端部近傍における旧オーステナイト粒が上記のような形状およびサイズを有することで接合された鋼板を剥離する方向の力に強く、継手強度が向上する。
かかる観点から、ナゲット端部近傍におけるアスペクト比が1.0以上1.7以下の旧オーステナイト粒の平均粒径は100μm以下であることが好ましく、90μm以下であることがより好ましく、80μm以下であることがより好ましい。
なお、ナゲット端部近傍におけるアスペクト比が1.0以上1.7以下の旧オーステナイト粒の平均粒径の下限値は特に限定されないが、例えば、1μm以上でもよく、10μm以上でもよい。
観察領域内の旧オーステナイト粒のアスペクト比は同程度になる場合が多く、観察領域内で旧オーステナイト粒のアスペクト比が大きくバラつく場合は少ない。観察領域内で旧オーステナイト粒のアスペクト比がばらつく場合、ナゲット端部近傍における旧オーステナイト粒は、アスペクト比が1.7を超える結晶粒が存在してもよいが、ナゲット端部近傍において高い強度を確保するため、アスペクト比が1.0以上1.7以下の旧オーステナイト粒が50個数%以上であることが好ましく。60個数%以上であることがより好ましく、70個数%以上であることがさらに好ましい。
また、CTS向上の観点から、ナゲット端部近傍における旧オーステナイト粒の平均アスペクト比は1.0以上1.7以下であることが好ましく、より好ましくは1.5以下であり、さらに好ましくは1.3以下である。
(旧オーステナイト粒のアスペクト比及び平均粒径の測定方法)
本開示においてナゲット端部近傍における旧オーステナイト粒のアスペクト比は以下のように特定する。
ナゲット端部近傍における旧オーステナイト粒界を示す画像において、各々の旧オーステナイト粒の形状を最小二乗法により楕円近似する。楕円近似の方法は、各々のオーステナイト粒の長径と、面積を用いてその長径を有する楕円の短径を算出する。この楕円形状において、長軸の寸法を短軸の寸法で除することにより、旧オーステナイト粒のアスペクト比を算出する。具体的には、ナゲットの中心部を通るように板厚方向に切断し、この切断面をドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムで腐食させて、ナゲット端部の溶融境界領域について光学顕微鏡で観察面積200μm四方の観察領域R1における旧オーステナイト粒のアスペクト比を測定する。ここで、ナゲット端部近傍における旧オーステナイト粒の観察領域R1は、図6に示すように、ナゲット13の溶融境界(輪郭)のうち各鋼板1A,1Bの板界面15だった位置に相当するナゲット端部13Eに最も近く、一辺が板厚方向であり、かつ板界面15に対して対称となる200μm四方とする。後述するナゲット端部近傍におけるP濃度、Mn濃度の観察領域も同様である。
アスペクト比が1.0以上1.7以下の旧オーステナイト粒の平均粒径は、該当する旧オーステナイト粒のそれぞれについて近似した楕円形と同等の面積を持つ円の直径(円相当径)を粒径として平均値を算出する。
なお、旧オーステナイト粒の平均アスペクト比を求める場合は観察領域R1における各旧オーステナイト粒のアスペクト比を測定し、それらの平均値を平均アスペクト比とする。旧オーステナイト粒界のアスペクト比の測定は、ナゲットのいずれか一方のナゲット端部近傍における観察領域R1において測定すればよい。
<ナゲット端部近傍におけるP含有量及びMn含有量>
本開示に係るスポット溶接継手は、ナゲット端部近傍におけるP含有量及びMn含有量が下記(イ)または(ロ)のいずれか一方を満たす。
(イ)ナゲットの平均化学成分の平均P含有量が0.005質量%未満、かつ平均Mn含有量が0.5質量%未満
ここで「ナゲットの平均化学成分」は、板組に含まれる各鋼板1A,1Bの化学成分に板組の総厚に対する各鋼板の板厚比を乗じた加重平均である。ナゲット13は板組に含まれる全ての鋼板が溶融固化したものであるため、各鋼板1A,1Bの化学成分に依存する。例えば、板組が全て同じ化学成分の鋼板によって構成されている場合は、それらの鋼板の化学成分がナゲットの化学成分となる。
一方、板厚が同じで化学成分が異なる複数の鋼板がナゲットによって接合されている場合は、各化学成分を足して鋼板の枚数で除した値がナゲットの化学成分である。
また、板厚が異なり、化学成分も異なる複数枚の鋼板がナゲットによって接合されている場合は、板組に含まれる各鋼板の化学成分に板組の総厚に対する各鋼板の板厚比を乗じた加重平均をナゲットの化学成分とみなす。
いずれにせよ、各鋼板1A,1Bの化学成分に各板厚を加味した加重平均をナゲットの化学成分とみなす。
このように各板厚の化学成分及び板厚に基づいて算出されるナゲットの平均化学成分として、平均P含有量が0.005質量%未満であり、かつ平均Mn含有量が0.5質量%未満である場合は、母材である鋼板全体(板組全体)でのP含有量及びMn含有量が少なく、スポット溶接を行ってもナゲット端部においてCTS低下の原因となるP偏析及びMn偏析がほとんど生じない。そのため、アスペクト比が1.0以上1.7以下の旧オーステナイト粒の平均粒径が110μm以下と、上記(イ)の要件を満たすことでCTSが向上する。
この場合、ナゲットの平均化学成分の平均P含有量は0.003質量%以下であることが好ましく、0.001質量%以下であることがより好ましい。
一方、ナゲットの平均化学成分の平均Mn含有量は0.4質量%以下であることが好ましく、0.3質量%以下であることがより好ましい。
(ロ)ナゲットの平均化学成分の平均P含有量が0.005質量%以上及び平均Mn含有量が0.5質量%以上の少なくとも一方を満たし、かつナゲット端部近傍の200μm四方の観察領域において、P濃度が平均P含有量の2倍以上であるP濃化部の面積率が0.5%以下、かつMn濃度が平均Mn含有量の2倍以上であるMn濃化部の面積率が0.5%以下
ナゲットの平均化学成分の平均P含有量が0.005質量%以上及び平均Mn含有量が0.5質量%以上の少なくとも一方を満たす場合、アスペクト比が1.0以上1.7以下の旧オーステナイト粒の平均粒径が110μm以下であっても、ナゲット端部近傍でP、Mnが偏析することによりCTSが低下する。しかし、ナゲット端部近傍の観察領域において、P濃度が平均P含有量の2倍以上であるP濃化部の面積率が0.5%以下であり、かつMn濃度が平均Mn含有量の2倍以上であるMn濃化部の面積率が0.5%以下であれば、偏析が緩和された状態であり、高いCTSを有することが可能である。
ナゲット端部近傍におけるP濃度、Mn濃度は、それぞれEPMA(電子プローブマイクロアナライザー)によって測定することができ、200μm四方の観察領域R1においてP平均含有量の2倍以上となるP濃化部の面積率、Mn平均含有量の2倍以上となるMn濃化部の面積率をそれぞれ特定することができる。
CTSの向上の観点から、各濃化部の面積率は0.3%以下であることが好ましく、0.1%以下であることがより好ましい。
ナゲット端部近傍の1000μm四方の領域R2で測定した平均ビッカース硬さが、下記推定式HVで算出される硬さHVの±20HV以内であることが好ましい。
推定式HV=217+1080×(C+Si/70+Mn/113+Cr/93+Mo/30)
式中、元素記号は前記加重平均として算出される前記ナゲットの平均化学成分の各元素の含有量を意味する。
本開示に係るスポット溶接継手10は、焼き戻しを行う必要がないため、炭化物が生成せず、ナゲット端部近傍における平均ビッカース硬さが、推定式HVから算出されるビッカース硬さに対して±20HV以内となる。なお上記推定式からの誤差や、結晶粒微細化に伴い、ナゲット端部近傍における平均ビッカース硬さが、推定式HVから算出されるビッカース硬さよりも大きくなる場合も生じ得る。
なお、ナゲット形成後に焼き戻しを行うとナゲットが壊れるため、CTSが向上しない、あるいは、焼き戻し前よりもCTSが低下する場合がある。一方、ナゲット形成後に焼き戻しを行わなければ、ナゲットが破壊されず、ナゲット端部でも推定式HVと同等のビッカース硬さとすることができる。ナゲット端部でのビッカース硬さが高いほどプラグ破断が生じ難く、高いCTSを達成することができる。
ナゲット端部近傍におけるビッカース硬さの測定は、ナゲット13の内部において、ナゲット端部13Eに最も近く、一辺が板厚方向となり、かつ板界面15に対して対称となる1000μm四方の領域R2にて行う。ナゲット端部近傍の測定領域R2において、荷重300gfでビッカース硬さを10点測定し、その平均値を平均ビッカース硬さとする。なお、測定においては、すべての圧痕が最近接圧痕から自身の圧痕サイズ4つ分以上に相当する距離があるものとする。
なお、板厚が小さくナゲット端部近傍に1000μm四方の領域R2が確保できない場合は、ナゲット端から2000μm以内の領域においてビッカース硬さを10点測定し、その平均値を平均ビッカース硬さとする。
本開示に係るスポット溶接継手の用途は特に限定されないが、例えば、車体部品として特に好適に用いることができる。
[スポット溶接継手の製造方法]
前述した本開示に係るスポット溶接継手を製造する方法は特に限定されないが、以下に説明するスポット溶接継手の製造方法によれば、本開示に係るスポット溶接継手を好適に製造することができる。ただし、本開示に係るスポット溶接継手は、以下に説明するスポット溶接継手の製造方法(「本開示に係るスポット溶接継手の製造方法」と称する。)によって製造されたスポット溶接継手に限定されない。
本開示に係るスポット溶接継手の製造方法は、引張強さが980MPa以上である少なくとも1枚の鋼板を含む2枚以上の鋼板を重ね合わせた板組を、一対の電極で板厚方向に挟み込んで加圧しながら電流値I(kA)で通電してナゲットを形成する第1通電工程と、
前記第1通電工程後、前記ナゲットの溶融境界のうち、前記引張強さの合計が最も高い隣接する2枚の鋼板の板界面であった位置に相当する部分をナゲット端部とした場合に、前記ナゲット端部の温度がMs点以下になるように、800≦tc1を満たす時間tc1(ms)の間冷却する冷却工程と、
前記冷却工程後、前記ナゲット端部がA点以上、かつ再溶融温度未満になるように、0.80≦I/I<1.2を満たす電流値I(kA)及び200≦t2を満たす時間t2(ms)で通電する第2通電工程と、
を含む。
以下、各工程について説明する。
<第1通電工程>
まず、第1通電工程として、引張強さが980MPa以上である少なくとも1枚の鋼板を含む2枚以上の鋼板を重ね合わせた板組を、一対の電極で板厚方向に挟み込んで加圧しながら電流値I(kA)で通電してナゲットを形成する。
第1通電工程ではスポット溶接によって板組を構成する全ての鋼板を接合するナゲットが形成されるように電流値I(kA)及び通電時間t(ms)を設定することが好ましい。
図8は、2枚の鋼板を重ねた板組に対して第1通電工程を行った場合に形成されるナゲットの一例を概略的に示している。図8に示すように、鋼板1A,1Bを重ね合わせた板組を板厚方向に挟み込むように電極2A,2Bを押し当てた状態のまま、電極2Aと電極2Bの間で通電を行う。これにより鋼板1Aと鋼板1Bとの通電部にはナゲット13及び熱影響部(いわゆるHAZ)14が形成され、両鋼板がスポット溶接される。
第1通電工程では所望のナゲット径が形成されれば溶接条件の制限は無い。総板厚の半分の厚みをt(mm)とした場合、ナゲット径は4√t以上が好ましく5√t以上がより好ましい。
電流値Iは例えば5.0~7.0kAであり、通電時間tは例えば120~600msである。電流値は一定でも変化させてもパルス状でもよく、パルス状のように電流値を変化させる場合Iは最大の値をいう。
アップスロープの場合、アップスロープも含めた通電時間をtとし、パルス状通電の場合、無通電の時間を除いた通電時間をtとする。
予備通電(プレ通電)を行う場合、Iとtは大きく変わらない。アップスロープと区別しにくければI×tの面積をtで割ったもので定義する。
板組に対する電極2A,2Bの加圧力加圧力は一定でも変化させてもパルス状でもよく、加圧力は例えば3.0~5.0kNである。
<冷却工程>
第1通電工程後、ナゲットの溶融境界(ナゲット境界)のうち、引張強さの合計が最も高い隣接する2枚の鋼板の板界面であった位置に相当する部分をナゲット端部とした場合に、ナゲット端部の温度がMs点以下になるように、800≦tc1を満たす時間tc1(ms)の間冷却する。
冷却工程では、少なくともナゲット端部がマルテンサイト変態している必要がある。ナゲット内での温度勾配は大きくないので、ナゲット端部でマルテンサイト変態が生じている場合はほとんどナゲット中心でもマルテンサイト変態が生じている。少なくともナゲット端部でマルテンサイト変態を生じさせるには、ナゲット端部をMs点以下に冷却する。Ms点は板組から算出できる。
Ms点=550-361×(%C)-39×(%Mn)-35×(%V)-20×(%Cr)-17×(%Ni)-10×(%Cu)-5×(%Mo+%W)+15×(%Co)+30(%Al)
Ms点の算出式は、板組を構成する鋼板に含まれる各元素の質量%(%元素記号)を代入して算出されるMs点を意味する。但し、板組を構成する鋼板のうち少なくとも1枚の鋼板が他の鋼板の組成と異なる場合は、板組に含まれる各鋼板の化学成分に板組の総厚に対する各鋼板の板厚比を乗じた加重平均を前記ナゲットの平均化学成分とみなしたうえで上記算出式から算出されるMs点とする。
なお、上記式における元素のうち、鋼板に含まれない元素については該当する(%元素記号)にゼロを代入する。
ナゲット端部をMs点以下に冷却する手段としては、例えば、以下の3つの手段が挙げられる。
(1)無通電で加圧
(2)低電流の通電
(3)電極を開放
上記(1)~(3)のいずれか単独で冷却してもよいし、組み合わせて冷却してもよいが、冷却時間tc1は800ms以上とする。
冷却時間tc1が800ms未満では第2通電工程の前にナゲット端部がマルテンサイト変態しないおそれがある。
冷却時間tc1の上限は限定されない。ただし、冷却時間tc1が長いほど作業効率が低下することになるため、冷却時間tc1は2000ms以下であることが好ましい。
ナゲット端部の温度は、シミュレーション方法によって求めることができる。市販ソフトであるSORPAS(SCSK社)等を活用することで、ナゲット端部における温度履歴を算出することが可能である。
なお、冷却工程においてマルテンサイト変態が生じていたか否かは、後通電後の継手において、再結晶組織(アスペクト比が1.0~1.7である粒)を観察することにより確認できる。マルテンサイトの組織観察は、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムで腐食させてから行うことができる。
<第2通電工程>
前記冷却工程後、ナゲット端部が、A点以上、再溶融温度未満になるように、0.80≦I/I<1.2を満たす電流値I(kA)及び200≦tを満たす時間t(ms)で通電する。
第2通電工程では、少なくともナゲット端部がA点以上、好ましくはA点以上に加熱される。ナゲット端部の温度については上述の通りである。A点及びA点は板組から算出することができる。
このとき、A点の存在する板組においては、A点以上に加熱してもよい。A点温度の無い、すなわちδ変態せずに再溶融する板組においては、ナゲット端部の温度が再溶融温度以上にならないようにする。
第2通電において、焼き戻しでも再溶融でもなく偏析緩和(及び結晶粒微細化)が生じていることは、硬さ試験、SEM観察、EPMAでナゲット端部近傍を観察することにより確認できる。
第2通電時間tの上限は、ナゲット端部まで再溶融することを避けるため2500ms以下であることが好ましい。
点、A点、及びA点は市販の総合型熱力学計算ソフトウェア、例えばThermo-calc(Thermo-Calc Software AB社)等を用いて状態図を作成する。その際、成分は鋼板の板厚加重平均で算出し、データベースにない元素は考慮しないこととする。
オーステナイト単相になる温度をA点、δフェライト単相となる温度をA点とする。なお、δフェライトが析出する際に液相も一緒に出てくる場合は本開示ではA点がないと判断する。
第2通電はどのような通電パターンでもよい。好ましくは高温保持時間を延ばすことでオーステナイト析出時間を長くするためにアップスロープやダウンスロープがあることが好ましい。
以上、本開示に係るスポット溶接継手及びその製造方法の実施形態の一例ついて説明したが、本開示に係るスポット溶接継手及びスポット溶接継手の製造方法は上記実施形態に限定されない。
例えば、第2通電後、板組から一旦電極を離して又は離さずに無通電として時間tc2が経過してから、ナゲット端部が再溶融しない第3通電を行ってもよい。
また、ナゲットは、例えば、図9に示すように鋼板3枚のうち外側に位置する1枚の鋼板1Dの厚みが他の2枚の鋼板1A,1Bの厚みより薄く、隣接する2枚の鋼板の間に形成された2つのナゲット13A,13Bが結合したような形状であってもよい。このようなスポット溶接継手30において、例えば、鋼板1A,1Bが980MPa以上、鋼板1Dは980MPa未満である場合、図5に示すスポット溶接継手10と同様、ナゲットのうち鋼板1A,1Bを接合する部分13Bのナゲット端部近傍において、旧オーステナイト粒のアスペクト比、P濃度、Mn濃度、ビッカース硬さ等を測定すればよい。
以下、本開示に係るスポット溶接継手およびスポット溶接継手の製造方法の実施例について説明する。尚、本開示に係るスポット溶接継手およびスポット溶接継手の製造方法は以下の実施例に限定されるものではない。
表3に示す引張強さ、化学成分等を有する鋼板1~6を表4に示すように組み合わせて種々の板組を準備し、各板組に対してスポット溶接を行い、種々のスポット溶接継手を製造した。製造したスポット溶接継手のCTS等を評価した。
なお、表3には、鋼板の板厚、引張強さ、化学成分(C、Si、Mn、P、S、Ti、N、Cr)の含有量(質量%、残部はFe及び不純物)、各変態点(Ms、A、A)の温度(℃)、各鋼板2枚の板組をスポット溶接したナゲット端部近傍におけるビッカース硬さを記載した。
また、表4における「母材P」は、それぞれ板組に含まれる各鋼板のP含有量に板組の総厚に対する各鋼板の板厚比を乗じた加重平均であり、ナゲットにおける平均P含有量とみなす。「母材Mn」も同様である。

表4には、板組を構成する鋼板の種類、板組のP量、Mn量、スポット溶接の条件(電流値I、時間t、加圧力P)を記載した。なお、冷却後のナゲット端部温度は記載を省略したが、休止工程(冷却工程)tc1が120msの水準ではナゲット端部がMs点を下回らずマルテンサイト変態せず、休止工程(冷却工程)tc1が800msであるか1600msである水準ではナゲット端部がMs点を下回りマルテンサイト変態が生じることを、SORPASの解析によって別途確認している。また、後通電中のナゲット端部温度も記載を省略したが、発明例においては電流比(I/I)が0.8であるか0.9であるときナゲット端部の最高温度がA点超再溶融温度未満であり、電流比(I/I)が1.2の場合はナゲット端部の最高温度が再溶融温度以上となることを、SORPASの解析によって別途確認している。
表5に、ナゲット端部近傍におけるP、Mnの各濃化部面積率、ナゲット端部の旧オーステナイト粒の平均アスペクト比(旧γ粒平均アスペクト比)及び平均粒径(旧γ粒平均粒径)、ナゲット端部のビッカース硬さ、炭化物の有無、継手強度(CTS)、CTS向上率(CTS比)をそれぞれ記載した。
表中の※は観察位置すべての旧γ粒径から算出した平均アスペクト比かつ平均粒径である
備考欄の後通電は、ナゲット端部の温度が以下のような熱履歴となることを意味する。
通常の短時間後通電:図4におけるc線のパターン
逆変態型凝固偏析緩和後通電:図4におけるa線のパターン
ナゲット端部近傍の旧オーステナイト粒のアスペクト比及び粒径、P及びMnの各濃化部面積率、平均ビッカース硬さHVの測定方法は前述の通りとした。
スポット溶接継手1~25のCTSを、JIS Z 3137:1999「抵抗スポット及びプロジェクション溶接継手の十字引張試験に対する試験片寸法及び試験方法」に準拠して測定した。
さらに、スポット溶接継手1~25のうち、後通電を行ったスポット溶接継手のCTSを、それぞれ対応する単通電のみを施したスポット溶接継手のCTSで割った値をCTS比とした。CTS比が1.50以上である場合をCTSが顕著に向上したと評価した。
CTS比=後通電も行った継手のCTS/後通電を省略した(単通電のみ実施)継手のCTS
発明例では、いずれも本開示の範囲内となる条件で本通電、冷却、後通電を行っており、いずれも後通電を省略した場合に比べ、CTS比が1.50以上、すなわち上昇率が50%を超えていた。なお、ビッカース硬さの測定結果から、全ての発明例において炭化物が析出していないことが理解される。
一方、比較例では、いずれかの条件が本開示の範囲外であり、CTS比は1.50未満であった。
なお、水準19では、通電条件は本開示の範囲内にあるが、980MPa以上の鋼板を含まず、引張強さが440MPaの鋼板5を2枚重ねた板組であり、単通電のスポット溶接でもCTSが高いため、CTSの向上効果は得られていない。
1A、1B、1C、1D 鋼板
2A、2B 電極
10、20、30 スポット溶接継手
13 ナゲット
13E ナゲット端部
14 熱影響部(HAZ)
15 板界面

Claims (5)

  1. 引張強さが980MPa以上である少なくとも1枚の鋼板を含む複数の鋼板を重ね合わせた板組と、前記板組において前記複数の鋼板を接合するナゲットとを含むスポット溶接継手であって、
    前記ナゲットの中心を通る板厚方向の断面において、前記ナゲットの溶融境界のうち、前記引張強さの合計が最も高い隣接する2枚の鋼板の板界面であった位置に相当する部分をナゲット端部とし、
    前記板組に含まれる各鋼板の化学成分に前記板組の総厚に対する各鋼板の板厚比を乗じた加重平均を前記ナゲットの平均化学成分とみなした場合に、
    前記ナゲット内で前記ナゲット端部近傍の200μm四方の観察領域において、アスペクト比が1.0以上1.7以下の旧オーステナイト粒の平均粒径が110μm以下であり、かつ下記(イ)又は(ロ)のいずれか一方を満たす、抵抗スポット溶接継手。
    (イ)前記ナゲットの平均化学成分の平均P含有量が0.005質量%未満、かつ平均Mn含有量が0.5質量%未満
    (ロ)前記ナゲットの平均化学成分の平均P含有量が0.005質量%以上及び平均Mn含有量が0.5質量%以上の少なくとも一方を満たし、前記観察領域において、P濃度が前記平均P含有量の2倍以上であるP濃化部の面積率が0.5%以下、かつMn濃度が前記平均Mn含有量の2倍以上であるMn濃化部の面積率が0.5%以下
  2. 前記ナゲット端部近傍の観察領域において、前記アスペクト比が1.0以上1.7以下の旧オーステナイト粒の平均粒径が90μm以下である請求項1に記載の抵抗スポット溶接継手。
  3. 前記ナゲット内で前記ナゲット端部近傍の1000μm四方の測定領域における平均ビッカース硬さが、下記推定式HVで算出される硬さの±20HV以内である請求項1又は請求項2に記載の抵抗スポット溶接継手。
    推定式HV=217+1080×(C+Si/70+Mn/113+Cr/93+Mo/30)
    式中、元素記号は前記ナゲットの平均化学成分の各元素の含有量を意味する。
  4. 前記引張強さが980MPa以上である鋼板は、C含有量が0.30質量%以上0.60質量%以下であり、かつ、Ti含有量が0.10質量%未満である請求項1~請求項3のいずれか1項に記載の抵抗スポット溶接継手。
  5. 引張強さが980MPa以上である少なくとも1枚の鋼板を含む2枚以上の鋼板を重ね合わせた板組を、一対の電極で板厚方向に挟み込んで加圧しながら電流値I(kA)で通電してナゲットを形成する第1通電工程と、
    前記第1通電工程後、前記ナゲットの溶融境界のうち、前記引張強さの合計が最も高い隣接する2枚の鋼板の板界面であった位置に相当する部分をナゲット端部とした場合に、前記ナゲット端部の温度がMs点以下になるように、800≦tc1を満たす時間tc1(ms)の間冷却する冷却工程と、
    前記冷却工程後、前記ナゲット端部がA点以上、かつ再溶融温度未満になるように、0.80≦I/I<1.2を満たす電流値I(kA)及び200≦tを満たす時間t(ms)で通電する第2通電工程と、
    を含む、スポット溶接継手の製造方法。
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