JP2023135125A - ベシクル組成物 - Google Patents

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Abstract

【課題】分散安定性に優れ、かつ油溶性有効成分存在下においても保存安定性に優れるベシクル組成物の提供。【解決手段】(A)アシルアミノ酸リシン及びその塩と、(B)マンノシルエリスリトールリピッドと、(C)コレステロールと、を含有することを特徴とするベシクル組成物である。【選択図】なし

Description

本発明は、ベシクル組成物に関する。
ヒトの皮膚の角質層における細胞間脂質は、体外への水分の損失を抑制したり、外部環境からの異物の侵入を抑制したりして、生体のバリア的機能に重要な役割を示すことが知られている。薬物や有効成分において、体内でそれらの効果を発揮するためには、皮膚を透過する必要がある。そこで、薬物や有効成分の皮膚透過性を改善し、経皮吸収を高めるDDS(Drug Delivery System)技術の開発が進んでいる。
DDSとしては、例えば、微細針の先端部に薬剤を含有させ、皮膚に貼付することで薬剤を体内に投与するマイクロニードル技術といった物理的促進法(例えば、非特許文献1~2参照)や、高い皮膚浸透促進機能を有するイソプロピルミリスチン酸エステル(IPM)やオレイン酸等を用いて、経皮吸収を促進させる経皮吸収促進法(例えば、非特許文献3~5参照)などが挙げられるが、近年、皮膚透過性ベシクル内に有効成分を含有させることにより、体内に有効成分を効果的に届ける技術について、様々な提案がなされている。
例えば、ラウロイル-グルタミル-リシル-ラウロイル-グルタミン酸(C12-GLG-C12)ペプチドベースのジェミニ型両親媒性物質を含むベシクル製剤において、構成成分としてコレステロールが含まれることにより、ベシクルの安定性が改善されることが開示されている(例えば、非特許文献6参照)。また、有効成分などの封入物を漏出させず、ベシクル構造を保持させながら、有効成分の皮膚浸透性を向上させることを目的として、(A)特定の構造を有するアシルプロリン又はその塩、及び(B)両親媒性物質を含む構成膜を有するベシクルを含有するベシクル組成物が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
しかしながら、上記非特許文献6のベシクル組成物においては、ベシクル組成物内に油溶性有効成分が含まれる場合、ベシクルの保存安定性が損なわれるといった問題があった。また、ベシクルの分散安定性は、そのベシクルの構成成分である界面活性剤等がもつファンデルワールス力に依存しているため、外的要因によって凝集等が生じ、分散安定性が損なわれるといった問題があった。
したがって、分散安定性に優れ、かつ油溶性有効成分存在下においても保存安定性に優れるベシクル組成物としては、未だ満足できるものは提供されておらず、その速やかな提供が強く求められているのが現状である。
特開2018-203660号公報
杉林堅次、「薬物の経皮経粘膜経皮吸収」、Drug Delivery System、2000年、vol.15-6、p.492-495 杉林堅次、「新しい経皮投与法イオントフォレシス」、ファルマシア、2001年、vol.37-5、p.385-387 菊池寛、井上圭三、「リポソーム:基礎と応用」、油化学、1985年、vol.34-10、p.784-798 杉林堅次、「薬物の皮膚透過促進とコントロールドリリース」、Drug Delivery System、2016年、vol.31-3、p.201-209 田上辰秋、尾関哲也、「ナノ・マイクロ粒子のDDS技術と臨床応用」、Organ Biology、2017年、Vol.24-1、p.54-60 Fujii, M., Fujisaki, T., Fukuda, T. et al. Preparation and Physicochemical Properties of Lauroyl-Glutamyl-Lysil-Lauroyl-Glutamate Vesicles. J Surfact Deterg 20,843-849(2017).
本発明は、従来における前記諸問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明は、分散安定性に優れ、かつ油溶性有効成分存在下においても保存安定性に優れるベシクル組成物を提供することを目的とする。
前記課題を解決するため、本発明者らが鋭意検討を重ねた結果、(A)アシルアミノ酸リシン及びその塩と、(B)マンノシルエリスリトールリピッドと、(C)コレステロールと、を含有するベシクル組成物が、分散安定性に優れ、かつ油溶性有効成分存在下においても保存安定性に優れることを知見した。
前記課題を解決するための手段としては、以下の通りである。即ち、
<1>(A)アシルアミノ酸リシン及びその塩と、(B)マンノシルエリスリトールリピッドと、(C)コレステロールと、を含有することを特徴とするベシクル組成物である。
<2>前記(B)マンノシルエリスリトールリピッドの含有量が、ベシクル組成物全量に対して、22質量%以上60質量%以下である、前記<1>に記載のベシクル組成物である。
<3>有効成分を内包する、前記<1>から前記<2>のいずれかに記載のベシクル組成物である。
<4>前記有効成分が、分子中にエステル又はOH基を有する、前記<3>に記載のベシクル組成物である。
本発明によると、従来における前記諸問題を解決し、前記目的を達成することができ、分散安定性に優れ、かつ油溶性有効成分存在下においても保存安定性に優れるベシクル組成物を提供することができる。
図1は、本発明のベシクル組成物のTEM観察画像の一例である。 図2Aは、実施例1のベシクル組成物の分散安定性評価における外観観察画像の一例である。 図2Bは、比較例1のベシクル組成物の分散安定性評価における外観観察画像の一例である。 図3Aは、実施例2-2及び実施例2-3のベシクル組成物の保存安定性評価における外観観察画像の一例である。 図3Bは、比較例2-10及び比較例2-11のベシクル組成物の保存安定性評価における外観観察画像の一例である。 図4Aは、トコフェロール酢酸エステルを内包するベシクル組成物の皮膚浸透性試験の結果の一例である。 図4Bは、テトラ2-ヘキシルデカン酸アスコルビルを内包するベシクル組成物の皮膚浸透性試験の結果の一例である。 図5は、実施例4-1、並びに比較例4-1及び比較例4-2のベシクル組成物の経皮水分蒸散量の測定結果の一例である。
(ベシクル組成物)
本発明のベシクル組成物は、(A)アシルアミノ酸リシン及びその塩と、(B)マンノシルエリスリトールリピッドと、(C)コレステロールとを含有し、必要に応じて、その他の成分を含有していてもよい。
なお、本明細書においては、(A)アシルアミノ酸リシン及びその塩は「(A)成分」、(B)マンノシルエリスリトールは「(B)成分」、(C)コレステロールは「(C)成分」と称することがある。
一般的には、内部構造中に、二重膜が幾重にも巻かれた構造を有するマルチラメラベシクルが、DDSに好適に採用し得ることが知られている。本発明者らは、前記(A)アシルアミノ酸リシン及びその塩と、前記(C)コレステロールとを組み合わせることで、マルチラメラベシクルを構築することができ、また前記(B)マンノシルエリスリトールリピッドをさらに組み合わせることで、分散安定性に優れ、かつ油溶性有効成分存在下においても保存安定性に優れることを知見した。その具体的なメカニズムは明らかではないが、(B)マンノシルエリスリトールリピッドが持つ二つの脂肪酸側鎖の働きで、親油性が向上するためと考えられる。
<(A)アシルアミノ酸リシン及びその塩>
本発明における(A)アシルアミノ酸リシン及びその塩としては、ベシクル構造を形成するために含有される。
前記(A)成分におけるアシル基としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、炭素原子数8~22の飽和脂肪酸、又は炭素原子数8~22の不飽和脂肪酸より誘導されるアシル基などが挙げられる。
前記(A)成分におけるアミノ酸としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、グルタミン酸、アスパラギン酸、グリシン、アラニン、スレオニン、メチルアラニン、サルコシン、リジン、アルギニン、プロリン、ヒドロキシプロリン、フェニルアラニンなどが挙げられる。これらの中でも、グルタミン酸が好ましい。
前記(A)成分の塩としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ナトリウム塩やカリウム塩等のアルカリ金属塩、トリエタノールアミン塩等の有機アミン塩、アルギニン等の塩基性アミン塩などが挙げられる。
前記(A)アシルアミノ酸リシン及びその塩の具体例としては、ジラウロイルグルタミン酸リシン、ジラウロイルグルタミン酸ナトリウム、ジミリストイルグルタミン酸リシン、ジミリストイルグルタミン酸リシンナトリウム、ジステアロイルグルタミン酸リシン、ジステアロイルグルタミン酸リシンナトリウムなどが挙げられる。これらの中でも、ジラウロイルグルタミン酸リシンナトリウムが好ましい。
前記(A)成分の含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
前記(A)成分は適宜合成したものを用いてもよいし、市販品を使用してもよい。
前記(A)成分の合成方法としては、特に制限はなく、公知の方法により合成することができる。
前記(A)成分の市販品としては、例えば、商品名で、ペリセアL-30(物質名:ジラウロイルグルタミン酸リシンNa(DLGL)、メーカー名:旭化成ファインケム株式会社)などが挙げられる。
<(B)マンノシルエリスリトールリピッド(MEL)>
本発明における(B)マンノシルエリスリトールリピッド(MEL)は、ベシクルの安定性の向上のために含有される。
本発明における(B)マンノシルエリスリトールリピッド(MEL)は、酵母によって産生される天然の界面活性剤、所謂バイオサーファクタントである。一般的に、マンノシルエリスリトールリピッドは、マンノースの4位及び6位のアセチル基の有無から、マンノシルエリスリトールリピッド-A(MEL-A)、マンノシルエリスリトールリピッド-B(MEL-B)、マンノシルエリスリトールリピッド-C(MEL-C)、及びマンノシルエリスリトールリピッド-D(MEL-D)の4種類が知られている。
前記(B)成分としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、水溶液中でラメラ構造を形成するMEL-Bが好ましい。
前記(B)成分の含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、ベシクルの分散安定性、及び油溶性有効成分存在下における保存安定性の観点から、ベシクル組成物全量に対して、11質量%以上60質量%以下であることが好ましく、22質量%以上60質量%以下であることがより好ましい。
前記(B)成分の含有量が、22質量%以上であると、分散安定性に優れたベシクル組成物が得られ、油溶性有効成分存在下であってもベシクル組成物の保存安定性に優れるため好適である。
前記(B)成分は、適宜合成したものを用いてもよいし、市販品を使用してもよい。
前記(B)成分の合成方法としては、特に制限はなく、公知の方法により合成することができる。
前記(B)成分の市販品としては、例えば、商品名で、セラメーラ-HG(物質名:マンノシルエリスリトールリピッド(MEL-B)、メーカー名:東洋紡株式会社)、セラメーラ-HBG(物質名:マンノシルエリスリトールリピッド(MEL-B)、メーカー名:東洋紡株式会社)、セラメーラ-PX(物質名:マンノシルエリスリトールリピッド(MEL-B)、メーカー名:東洋紡株式会社)などが挙げられる。
<(C)コレステロール>
本発明における(C)コレステロールは、ベシクルの形成や分散安定性をより良好にする観点から含有される。
前記(C)成分の含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜設定することができるが、ベシクルの安定性の向上という観点から、前記(A)成分:前記(C)成分=1:1~1:2であることが好ましい。
前記(C)成分の含有量が(A)成分:(C)成分=1:2以下であると、溶液がゲル化するといった問題を解消することができ好適である。
前記(C)成分の含有量が(A)成分:(C)成分=1:1以上であると、ベシクル組成物内に沈殿が生じるといった問題を解消することができ好適である。
前記(C)成分は適宜合成したものを用いてもよいし、市販品を使用してもよい。
前記(C)成分の合成方法としては、特に制限はなく、公知の方法により合成することができる。
前記(C)成分の市販品としては、例えば、商品名で、コレステロール 和光特級(メーカー名:富士フイルム和光純薬株式会社)、コレステロールBP(メーカー名:日本精化株式会社)などが挙げられる。
<その他の成分>
前記その他の成分としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、分散溶剤、pH調整剤などが挙げられる。
<<分散溶剤>>
前記分散溶剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、水(精製水、滅菌水等)、エタノール、1,3-ブチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、プロパンジオール、グリセリンなどが挙げられる。これらの中でも、水、ジプロピレングリコールが好ましい。
<<pH調整剤>>
前記pH調整剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、クエン酸、クエン酸ナトリウム、リン酸、リン酸ナトリウム、水酸化カリウム、アルギニンなどが挙げられる。
本発明のベシクル組成物のpHとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、分散安定性の観点から、5.5以上であることが好ましい。
前記ベシクル組成物のpHが5.5以上であると、粒子径が大きい凝集粒子が発生し、分散安定性が損なわれるといった問題を解消することができる。
なお、前記pHとしては、医薬部外品原料規格一般試験法のpH測定法に準拠して測定することができる。
<有効成分>
本発明のベシクル組成物は、油溶性有効成分のみならず、水溶性有効成分も含有することができる。なお、本明細書において、油溶性有効成分、及び水溶性有効成分を「有効成分」と称することがある。
前記油溶性有効成分としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、トコフェロール酢酸エステル、パルミチン酸レチノール、トコフェロール、テトラ2-ヘキシルデカン酸アスコルビル、グリチルレチン酸ステアリル、ユビキノン、フェルビナクなどが挙げられる。これらの中でも、ベシクルにより安定して内包できる観点から、分子中にエステル又はOH基を有するものが好ましい。分子中にエステル又はOH基を有する有効成分は、(A)成分及び(B)成分との相溶性が良好であるため、安定してベシクルに内包することができる。
前記水溶性有効成分としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、アスコルビン酸グルコシド、グリチルリチン酸ジカリウムなどが挙げられる。
<ベシクル組成物の製造方法>
本発明のベシクル組成物の製造方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、以下のような工程によって製造することができる。
工程(1):水やジプロピレングリコール等の分散溶媒と、前記(A)成分とを混合撹拌することによりA相を作製する。次いで、ジプロピレングリコール等の分散溶媒と、前記(B)成分とを混合撹拌することによりB相を作製する。次いで、ジプロピレングリコール等の分散溶媒と、前記(C)成分とを混合撹拌することによりC相を作製する。
工程(2):50℃に加熱したA相に、50℃に加熱したB相を加え、80℃まで加熱した後、ホモミキサー(例えば、商品名:T.K. HOMOMIXER MARK II Model 2.5、メーカー名:PRIMIX社)を用いて、6500rpmで3分間攪拌し、混合溶液(A+B)を作製する。
工程(3):得られた混合溶液(A+B)を再度80℃に加熱し、85℃に加熱したC相を加え、ホモミキサーを用いて、6500rpmで5分間攪拌する。
なお、水溶性有効成分が内包されたベシクル組成物を製造する場合は、工程(3)の後に有効成分を加え、ホモミキサーによる攪拌又は手撹拌によって、攪拌する。また、工程(3)において、C相と油溶性有効成分とを予め混合しておいてもよい。
前記ベシクル組成物の製造方法に用いる攪拌装置としては、高い剪断力で撹拌できるものであれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ホモミキサー、タービン、高速ホモミキサー、圧力式ホモジナイザーなどが挙げられる。
前記攪拌装置としては、例えば、商品名で、T.K. HOMOMIXER MARK II Model 2.5(メーカー名:PRIMIX社)などを好適に用いることができる。
<平均粒径>
本発明のベシクル組成物におけるベシクルの平均粒径(累積平均径)としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜設定することができる。
本発明のベシクル組成物におけるベシクルの平均粒径の測定方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、動的光散乱法(Dynamic Light Scattering:DLS)などによって測定することができる。
また、前記ベシクル組成物におけるベシクルの平均粒径を測定する装置としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、商品名で、Zetasizer Nano ZS(メーカー名:Malvern Panalytical社)などを用いて測定することができる。
<分散安定性>
本発明のベシクル組成物の分散安定性は、平均粒径やゼータ電位の数値によって評価することができる。ここで、ゼータ電位とは、微粒子の周りに形成されるイオン固定層、及びその外側に存在するイオン拡散層との境界である滑り面における電位のことを示し、コロイドの分散・凝集性を評価する指標となるものである。端的にいえば、前記ゼータ電位の絶対値がゼロに近づくと、凝集粒子が発生し易くなり、分散安定性が低下し、前記データ電位の絶対値が大きくなると、粒子が凝集し難く、分散安定性が向上する傾向がある。一般的には、ゼータ電位の絶対値が30mV以上であると、分散性が良好であると判断される。
前記ゼータ電位の測定方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、電気泳動光散乱法などによって測定することができる。
また、前記ベシクル組成物のゼータ電位を測定する装置としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、商品名で、Zetasizer Nano ZS(メーカー名:Malvern Panalytical社)などを用いて測定することができる。
-用途-
本発明のベシクル組成物は、分散安定性に優れ、かつ油溶性有効成分存在下においても保存安定性に優れているため、例えば、医薬品、化粧品などに好適に採用することができる。
また、本発明のベシクル組成物は、皮膚外用剤等の医薬品や化粧品等に適用することで、優れた皮膚浸透性及び経皮水分蒸散量の抑制効果を得ることができる。
以下、本発明の実施例を説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
(実施例1)
<各相の作製>
ベシクル組成物全体が最終的に100質量部となるように量を調整した水に、ジラウロイルグルタミン酸リシンNa(DLGL)(商品名:ペリセア L-30、メーカー名:旭化成ファインケム株式会社)0.5質量部(純分換算)を混合して、A相を作製した。次いで、分散溶媒としてのプロパンジオール(メーカー名:DuPont社)1.0質量部、グリセリン(メーカー名:P&G Chemicals社)2.0質量部、及び水6.0質量部にマンノシルエリスリトールリピッド(MEL-B)(商品名:セラメーラ-HG、メーカー名:東洋紡株式会社)1.0質量部を混合して、B相を作製した。次いで、分散溶媒としてのジプロピレングリコール(メーカー名:交洋ファインケミカル株式会社)5.0質量部に、コレステロール(商品名:コレステロール 和光特級、メーカー名:富士フイルム和光純薬株式会社)0.5質量部を混合して、C相を作製した。各相の材料と配合量を表1に示した。
<ベシクル組成物の作製>
50℃に加熱したA相全量に対して、50℃に加熱したB相を全量加え、80℃に加熱した後、ホモミキサー(商品名:T.K.HOMOMIXER MARKII Model 2.5、メーカー名:PRIMIX社)を用いて、6500rpmで3分間混合撹拌することで、混合溶液(A+B)を得た。再度80℃に加熱した混合溶液(A+B)全量に対して、85℃に加熱したC相を全量加え、ホモミキサーを用いて、6500rpmで5分間混合撹拌することにより、実施例1のベシクル組成物を得た。
<TEM観察>
実施例1のベシクル組成物を、透過電子顕微鏡(Transmission Electron Microscope:TEM)用支持膜付きグリッドに適量滴下し、PTA水溶液(リンタングステン酸水溶液)を用いて、染色固定処理を行った後、TEM観察を行った。結果を図1に示す。
実施例1のベシクル組成物には、長径50~300nmの、二重膜が多重に重なったマルチラメラベシクル構造を有している粒子の存在を確認することができた。
(比較例1)
<各相の作製>
水70質量部に、ジラウロイルグルタミン酸リシンNa(DLGL)(商品名:ペリセア L-30、メーカー名:旭化成ファインケム株式会社)0.5質量部(純分換算)を混合して、A相を作製した。次いで、分散溶媒としてのジプロピレングリコール(メーカー名:交洋ファインケミカル株式会社)5.0質量部に、コレステロール(商品名:コレステロール 和光特級、メーカー名:富士フイルム和光純薬株式会社)0.5質量部を混合して、C相を作製した。各相の材料と配合量を表1に示した。
<ベシクル組成物の作製>
80℃に加熱したA相全量に対して、80℃に加熱したC相を全量加え、ホモミキサー(商品名:T.K.HOMOMIXER MARKII Model 2.5、メーカー名:PRIMIX社)を用いて、2500rpmで5分間混合撹拌することで、混合溶液(A+C)を得た。10%クエン酸溶液(メーカー名:磐田化学工業株式会社)を加え、pHを4.00に調製し、ホモミキサーを用いて、1500rpmで5分間、再度撹拌した。10%L-アルギニン溶液(メーカー名:味の素ヘルシーサプライ株式会社)を加え、pHを6.50に調製し、比較例1のベシクル組成物を得た。
[分散安定性の評価(外観観察による評価)]
実施例1及び比較例1で得られたベシクル組成物を容器に入れ、室温、5℃、及び50℃において、翌日、1週間後、及び1か月後の外観状態をそれぞれ撮影した。下記評価基準に基づき評価した。結果を表1、並びに図2A及び図2Bに示した。
なお、図2Aは実施例1におけるベシクル組成物を、5℃で1ヵ月間保存したものを撮影したものである。同様に、図2Bは比較例1におけるベシクル組成物を、5℃で1ヵ月間保存したものを撮影したものである。
-評価基準-
〇:液状を保っている
×:一部ゲル化している
Figure 2023135125000001
上記表1、並びに図2A及び図2Bにおいて、比較例1のベシクル組成物は低温条件下で1ヵ月間保存すると、粒子の凝集が生じ、一部がゲル化するところ、実施例1のベシクル組成物においては低温条件下で1ヵ月間保存しても、液状を保っていることから、実施例1のベシクル組成物は比較例1のベシクル組成物よりも、分散安定性に優れていることが示されている。
(実施例2-1)
実施例2-1のベシクル組成物は、実施例1で得られたベシクル組成物を用いた。
(比較例2-1~2-3)
下記表2に示す材料及び配合量に変えたこと以外は、実施例1と同様に比較例2-1~2-3のベシクル組成物を得た。
[分散安定性の評価(ゼータ電位及び粒子径による評価)]
実施例2-1及び比較例2-1~2-3で得られたベシクル組成物を、作製した翌日に、室温条件下で、Zetasizer Nano ZS(メーカー名:Malvern Panalytical社)を用いて粒子径及びゼータ電位を測定した。サンプル数は3とし、それぞれの測定値の平均値を算出した。結果を表2に示す。
Figure 2023135125000002
上記表2において、前記(A)成分、前記(B)成分、及び前記(C)成分の全て含む実施例2-1のベシクル組成物は、粒子径が小さく、またゼータ電位の絶対値が大きいことから、分散安定性に優れているところ、上記3成分のいずれかを含まない比較例2-1~2-3のベシクル組成物は、粒子径が極端に大きく、またゼータ電位の絶対値が小さいことから、実施例2-1のベシクル組成物よりも分散安定性に劣っていることが示されている。
(実施例2-2~2-9)
<各相の作製>
実施例1と同様にA相、B相、及びC相を作製した。各相の材料及び配合量について、下記表3~4に示す。
<ベシクル組成物の作製>
50℃に加熱したA相全量に対して、50℃に加熱したB相を全量加え、80℃に加熱した後、ホモミキサー(商品名:T.K.HOMOMIXER MARKII Model 2.5、メーカー名:PRIMIX社)を用いて、6500rpmで3分間混合撹拌することで、混合溶液(A+B)を得た。次いで、85℃に加熱したC相全量に対して、D相を全量加えて混合することで、混合溶液(C+D)を得た。次いで、再度80℃に加熱した混合溶液(A+B)全量に対して、混合溶液(C+D)を全量加え、ホモミキサーを用いて、6500rpmで5分間混合撹拌することで、実施例2-2~2-9のベシクル組成物を得た。
なお、実施例2-2~2-9におけるD相に用いた成分は以下の通りである。
・実施例2-2:トコフェロール酢酸エステル(メーカー名:エーザイ株式会社)
・実施例2-3:パルミチン酸レチノール(メーカー名:DSM株式会社)
・実施例2-4:トコフェロール(メーカー名:日清オイリオグループ株式会社)
・実施例2-5:テトラ2-ヘキシルデカン酸アスコルビル(メーカー名:日光ケミカルズ株式会社)
・実施例2-6:グリチルレチン酸ステアリル(メーカー名:丸善製薬株式会社)
・実施例2-7:フェルビナク(メーカー名:東京化成工業株式会社)
・実施例2-8:アスコルビン酸グルコシド(メーカー名:株式会社テクノーブル)
・実施例2-9:グリチルリチン酸ジカリウム(メーカー名:丸善製薬株式会社)
(比較例2-4~2-9)
下記表5~6に示す材料及び配合量を変えたこと以外は、実施例2-2と同様に比較例2-4~2-9のベシクル組成物を得た。
(比較例2-10~2-11)
<各相の作製>
比較例1と同様にA相及びC相を作製した。各相の材料及び配合量について、下記表5~6に示す。
<ベシクル組成物の作製>
予め、C相全量に対してD相を全量加え、混合溶液(C+D)を作製した。80℃に加熱したA相全量に対して、80℃に加熱した混合溶液(C+D)を加え、ホモミキサー(商品名:T.K.HOMOMIXER MARKII Model 2.5、メーカー名:PRIMIX社)を用いて、2500rpmで5分間混合撹拌した。次いで、10%クエン酸溶液(メーカー名:磐田化学工業株式会社)を加え、pHを4.00に調製し、ホモミキサーを用いて、1500rpmで5分間、再度撹拌した。10%L-アルギニン溶液(メーカー名:味の素ヘルシーサプライ株式会社)を加え、pHを6.50に調製し、比較例2-10~2-11のベシクル組成物を得た。
なお、比較例2-10~2-11におけるD相に用いた成分は以下の通りである。
・比較例2-10:トコフェロール酢酸エステル(メーカー名:エーザイ株式会社)
・比較例2-11:パルミチン酸レチノール(メーカー名:DSM株式会社)
[有効成分内包ベシクル組成物の保存安定性の評価]
実施例2-2~2~9で得られたベシクル組成物、及び比較例2-4~2-11で得られたベシクル組成物を容器に入れ、室温条件下で、1日後、1週間後、及び10日後の外観状態をそれぞれ撮影し、下記評価基準に基づき評価した。結果を表3~6に示す。
また、実施例2-2の外観状態の撮影画像を図3A(左)、実施例2-3の外観状態の撮影画像を図3A(右)、比較例2-10の外観状態の撮影画像を図3B(左)、及び比較例2-11の外観状態の撮影画像を図3B(右)に示す。
-評価基準-
〇:保存前の状態と変化なし
△:分離及び沈殿が生じている
×:一部がゲル化している
Figure 2023135125000003
Figure 2023135125000004
Figure 2023135125000005
Figure 2023135125000006
上記表3~6及び図3A~3Bにおいて、実施例2-2~2-9のベシクル組成物は、10日経っても、有効成分の分離、凝集粒子の沈殿、及びゲル化が生じないことから保存安定性に優れ、安定して有効成分を内包できているところ、比較例2-4~2-11のベシクル組成物は、翌日には有効成分の分離がみられ、7日経過した頃からは凝集粒子の沈殿がみられ、10日経過した頃には一部がゲル化することから、実施例2-2~2-9のベシクル組成物より保存安定性に劣っていることが示されている。
(実施例3-1~3-2)
下記表7に示す材料及び配合量に変えたこと以外は、実施例2-2と同様に実施例3-1~3-2のベシクル組成物を得た。
<コントロールの作製>
水86質量部、及びジプロピレングリコール(メーカー名:交洋ファインケミカル株式会社)8質量部を混合しA相を作製した。次いで、PEG-60水添ヒマシ油(商品名:NIKKOL HCO-60、メーカー名:日光ケミカルズ株式会社)5質量部、及び有効成分1質量部を混合しC相を作製した。80℃に加熱したA相全量に対して、80℃に加熱したC相を全量加え、ホモミキサー(商品名:T.K.HOMOMIXER MARKII Model 2.5、メーカー名:PRIMIX社)を用いて、4500rpmで5分間混合撹拌することで、実施例3-1~3-2のコントロールを作製した。
なお、実施例3-1のコントロールにおける有効成分としては、トコフェロール酢酸エステルを用いた。同様に、実施例3-2のコントロールにおける有効成分としては、テトラ2-ヘキシルデカン酸アスコルビルを用いた。
Figure 2023135125000007
[有効成分の皮膚浸透性試験]
被験者の前腕内側部を流水で洗浄し70%エタノール(商品名:NK-75、メーカー名:日本化薬フードテクノ株式会社)で清拭した後、測定箇所(1cm×2cm)をマーキングした。実施例3-1~3-2で得られたベシクル組成物、及び実施例3-1~3-2のコントロールをそれぞれ30μLずつ塗布し、2時間後、流水ですすぎ、テープストリッピングを10回行って角層を得た。テープストリッピング後のテープの1~3枚目と4~10枚目とをそれぞれメタノール(高速液体クロマトグラフィー用、メーカー名:キシダ化学株式会社)5mlに浸漬し、超音波振動を30分間加えて角層に浸透した有効成分を溶出させた。テープの1~3枚目及び4~10枚目、並びに1~10枚目のそれぞれに含まれる有効成分合計量を計算し、実施例3-1~3-2のコントロールを塗布したときの有効成分合計量と、実施例3-1~3-2で得られたベシクル組成物を塗布したときの有効成分合計量との比をとって有効成分の浸透率を算出した。
なお、有効成分濃度はHPLC(メーカー名:株式会社島津製作所)を用いて測定した。詳細は、以下のとおりである。
・送液ユニット:LC-20AD
・オートサンプラー:SIL-20AC
・フォトダイオードアレイ紫外可視検出器:SPD-20AV
・カラムオーブン:CTO-20A
・高速液体クロマトグラム用ソフトフェア:Lab solutions
トコフェロール酢酸エステルの検出の際は、移動相としてメタノール(高速液体クロマトグラフィー用、メーカー名:キシダ化学株式会社)を用いた。カラム温度は40℃、流速は1.2mL/分間とし、カラムにはYMC-Pack ODS-A(サイズ:6×150mm、メーカー名:YMC社)を使用した。フォトダイオードアレイ紫外可視検出器の波長は284nmに設定し、注入サンプル量は20μLとした。
テトラ2-ヘキシルデカン酸アスコルビルの検出の際は、移動相としてヘキサン(高速液体クロマトグラフ用、メーカー名:富士フイルム和光純薬工業株式会社)を用いた。カラム温度は40℃、流速は1.1mL/分間とし、カラムにはCAPCELL PAK NH2 SG80(サイズ:4.6×250mm、メーカー名:株式会社大阪ソーダ)を使用した。フォトダイオードアレイ紫外可視検出器の波長は254nmに設定し、注入サンプル量は20μLとした。
なお、サンプル数は実施例3-1が4、実施例3-2が7であり、それぞれの平均値を算出した。結果を図4A及び図4Bに示した。
図4A及び図4Bにおいて、有効成分(トコフェロール酢酸エステル及びテトラ2-ヘキシルデカン酸アスコルビル)が内包されている実施例3-1及び3-2のベシクル組成物(MEL-B/DLGLベシクル)は、角層への浸透率が高いことが示されている。
(実施例4-1、比較例4-1~4-2)
実施例4-1のベシクル組成物は、実施例1で得られたベシクル組成物を用いた。
比較例4-1のベシクル組成物は、比較例1で得られたベシクル組成物を用いた。
比較例4-2は、コントロールとして蒸留水(DW)を用いた。
各相の材料と配合量を表8に示した。
Figure 2023135125000008
[経皮水分蒸散量の評価]
被験者の前腕内側部を流水で洗浄し70%エタノール(商品名:NK-75、メーカー名:日本化薬フードテクノ株式会社)で清拭した後、20℃~25℃の温度、50%±5%の湿度の条件下で20分間馴化した後、テヴァメーターTM300(メーカー名:株式会社インテグラル)を用いて経皮水分蒸散量(ブランク)を測定した。次いで、実施例4-1、及び比較例4-1~4-2を、それぞれ2mLカップに取り、被験者の前腕内側部に固定して30分間静置した。静置後、腕を流水ですすぎ、20℃~25℃の温度、50%±5%の湿度の条件下で30分間馴化した後、経皮水分蒸散量(静置後)を測定した。経皮水分蒸散量(ブランク)と経皮水分蒸散量(静置後)とを比較し、その増減量を算出した。なお、被験者は12人であり、各測定は3回ずつ行い平均値を算出した。結果を図5に示す。
図5において、比較例4-1のベシクル組成物(DLGLベシクル)の経皮水分蒸散量は、比較例4-2の蒸留水(DW)と有意差がなかったが、実施例4-1のベシクル組成物(MEL-B/DLGLベシクル)の経皮水分蒸散量は、比較例4-2の蒸留水と比較して有意に低く、皮膚バリアを向上させる効果があることが示されている。
本発明のベシクル組成物は、分散安定性に優れ、かつ油溶性有効成分存在下においても保存安定性に優れるため、例えば、医薬品、化粧品などに好適に利用することができる。

Claims (4)

  1. (A)アシルアミノ酸リシン及びその塩と、
    (B)マンノシルエリスリトールリピッドと、
    (C)コレステロールと、を含有することを特徴とするベシクル組成物。
  2. 前記(B)マンノシルエリスリトールリピッドの含有量が、ベシクル組成物全量に対して、22質量%以上60質量%以下である、請求項1に記載のベシクル組成物。
  3. 有効成分を内包する、請求項1から2のいずれかに記載のベシクル組成物。
  4. 前記有効成分が、分子中にエステル又はOH基を有する、請求項3に記載のベシクル組成物。

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