JP2023117175A - 雰囲気制御方法及び雰囲気炉 - Google Patents

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淳 前田
Atsushi Maeda
賢治 川手
Kenji Kawate
秀哲 安藤
Hideaki Ando
智也 稲垣
Tomoya Inagaki
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Abstract

【課題】雰囲気ガスに不活性ガス及び水素ガスを用い、雰囲気を無脱炭とすることが可能な雰囲気炉及びその雰囲気制御方法を提供する。【解決手段】雰囲気ガスに不活性ガス及び水素ガスを用いて被処理物を熱処理する雰囲気炉の炉内の雰囲気を無脱炭にする雰囲気制御方法であり、炉内における酸素分圧をPO2(atm)、水分分圧をPH2O(atm)、水素分圧をPH2(atm)とし、酸素分圧(PO2)、及び、水分分圧に対する水素分圧の比(PH2/PH2O)の少なくとも一方を対象として、熱処理の温度域において、炉内の雰囲気を無脱炭にする対象の範囲を無脱炭領域と定め、無脱炭領域を除いた対象の範囲を調節領域と定めて、熱処理時の炉内における対象を計測して計測値を取得し、計測値が調節領域である場合に、炉内への水素ガスの供給量を調節して、調節により、計測値が無脱炭領域になるように、対象を制御する。【選択図】図1

Description

本発明は、雰囲気ガスに不活性ガス及び水素ガスを用いて被処理物を熱処理する雰囲気炉及びその炉内の雰囲気を無脱炭にする雰囲気制御方法に関する。
金属を材料に用いた被処理物は、内部応力の除去、硬さの調整、加工性の向上などの目的に応じて熱処理を施される。この熱処理は、炉内を雰囲気ガスで満たした雰囲気炉を使用し、炉内で被処理物を高温度に加熱した後、冷却することにより、金属組織の構造を変化させることで実施される。
通常、雰囲気ガスには、特許文献1に記載のように、プロパンガス等を変成して得られるRXガスなどの石油系ガスが使用されている。こうしたRXガスなどの石油系ガスは、一酸化炭素を含み、一酸化炭素を炭素源として被処理物の表面に炭素が添加される「浸炭」が生じる。このため、特許文献1は、炉内の雰囲気のカーボンポテンシャル値を調整して浸炭をコントロールしている。
また、特許文献2に記載のように、カーボンポテンシャル値は、浸炭のみならず、被処理物の表面から炭素が喪われる、所謂「脱炭」にも影響を及ぼす。特許文献2は、熱処理を施される被処理物の機械的性質や金属組織を自在に操るべく、カーボンポテンシャル値を調整するため、熱処理炉内雰囲気のカーボンポテンシャル値を、操作者等により簡単に把握させることを可能にしている。
特開2010-285642号公報 特開2021-63288号公報
上述したように、雰囲気ガスに石油系ガスを使用する雰囲気炉は、雰囲気中の炭素当量を示すカーボンポテンシャル値に配慮し、これを調整して、浸炭や脱炭をコントロールしている。
近時は、カーボンニュートラル等といった環境配慮への意識の高まりから、脱炭素を要求されており、雰囲気ガスとして水素ガスや不活性ガスのような炭素を含まないガスの使用が検討されている。
雰囲気ガスに炭素を含まないガスを使用した場合には、カーボンポテンシャル値に依拠せずに浸炭や脱炭をコントロールする手段が必要となり、特に、被処理物の酸化を防止するため、雰囲気を無脱炭とすることが望まれる。
本発明は、このような従来技術が有していた問題点を解決しようとするものであり、雰囲気ガスに不活性ガス及び水素ガスを用い、雰囲気を無脱炭とすることが可能な雰囲気炉及びその雰囲気制御方法を提供することを目的とするものである。
上記課題を解決するべく、請求項1に記載の発明は、雰囲気ガスに不活性ガス及び水素ガスを用いて被処理物を熱処理する雰囲気炉の炉内の雰囲気を無脱炭にする雰囲気制御方法であって、
前記炉内における酸素分圧をPO2(atm)、水分分圧をPH2O(atm)、水素分圧をPH2(atm)とし、
前記酸素分圧(PO2)、及び、前記水分分圧に対する前記水素分圧の比(PH2/PH2O)の少なくとも一方を対象として、
前記熱処理の温度域において、前記炉内の雰囲気を無脱炭にする前記対象の範囲を無脱炭領域と定め、前記無脱炭領域を除いた前記対象の範囲を調節領域と定めて、
熱処理時の炉内における前記対象を計測して計測値を取得し、
前記計測値が前記調節領域である場合に、前記炉内への前記水素ガスの供給量を調節して、
前記調節により、前記計測値が前記無脱炭領域になるように、前記対象を制御する、ことを要旨とする。
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記熱処理の温度域が650℃~950℃の範囲において、前記対象が前記酸素分圧(PO2)の場合、
前記無脱炭領域は、前記酸素分圧が4.5×10-23(atm)未満の範囲(PO2<4.5×10-23)であり、
前記調節領域は、前記酸素分圧が4.5×10-23(atm)以上2.0×10-19(atm)以下の範囲(4.5×10-23≦PO2≦2.0×10-19)であることを要旨とする。
請求項3に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記熱処理の温度域が650℃~950℃の範囲において、前記対象が前記比(PH2/PH2O)の場合、
前記無脱炭領域は、前記比が45を超える範囲(45<(PH2/PH2O))であり、
前記調節領域は、前記比が1.0以上45以下の範囲(1≦(PH2/PH2O)≦45)であることを要旨とする。
請求項4に記載の発明は、請求項1乃至3のうちいずれか一項に記載の発明において、前記炉内への前記水素ガスの供給量(VH2)と前記不活性ガスの供給量(VIn)を合計したガス供給総量(VH2+VIn)について、前記調節による前記水素ガスの供給量の変更に応じて、前記炉内への前記不活性ガスの供給量を増減させることにより、前記ガス供給総量(VH2+VIn)を一定値とすることを要旨とする。
請求項5に記載の発明は、請求項1乃至4のいずれか一項に記載の雰囲気制御方法を用い、炉内の雰囲気を無脱炭にして被処理物を熱処理する雰囲気炉であって、
前記被処理物を出し入れする開口部が設けられた炉体と、
前記炉体の炉内の温度を調整する炉温調整手段と、
前記炉体に接続された水素ガス供給系、及び前記水素ガス供給系に接続された第1制御弁と、
前記炉体に接続された不活性ガス供給系、及び前記不活性ガス供給系に接続された第2制御弁と、
前記炉体の炉内における酸素分圧(PO2)、及び、水分分圧(PH2O)に対する水素分圧(PH2)の比(PH2/PH2O)の少なくとも一方を計測する計測器と、
前記計測器による計測値に基づき、前記第1制御弁を操作して、前記水素ガス供給系による前記炉体の炉内への水素ガスの供給量を調節する制御器と、を備えることを要旨とする。
請求項6に記載の発明は、請求項5に記載の発明において、前記炉体は炉内に、前記被処理物を加熱する加熱室と、前記被処理物を冷却する冷却室と、を備え、
前記水素ガス供給系は、前記加熱室へ水素ガスを供給し、
前記不活性ガス供給系は、複数に分岐して前記加熱室及び前記冷却室へ不活性ガスを供給することを要旨とする。
請求項7に記載の発明は、請求項6に記載の発明において、前記加熱室における水素ガスの濃度は、3vol%以上30vol%以下であることを要旨とする。
請求項8に記載の発明は、請求項6又は7に記載の発明において、前記加熱室に前記被処理物を入れる前記開口部を入口側開口部とし、
前記加熱室において、前記水素ガスの供給量(VH2)と前記不活性ガスの供給量(VIn)を合計したガス供給総量(VH2+VIn)は、前記入口側開口部の開口面積1dmあたり、4m/h以上8m/h以下であることを要旨とする。
請求項9に記載の発明は、請求項5乃至8のいずれか一項に記載の発明において、前記冷却室は、前記加熱室と隣接して設けられた主冷却室と、前記主冷却室に隣接して設けられたスロート室と、を備え、
前記スロート室は、前記主冷却室との間の開口部を開閉する第1扉と、
前記開口部として前記被処理物を炉内から出す出口側開口部を開閉する第2扉と、
を備え、
前記制御器は、前記第2扉の開閉を操作して、前記出口側開口部の開放時に前記不活性ガス供給系から前記スロート室へ不活性ガスを供給することを要旨とする。
請求項10に記載の発明は、請求項9に記載の発明において、前記スロート室への前記不活性ガスの供給量(VIn)は、前記出口側開口部の開口面積1dmあたり、4m/h以上8m/h以下であることを要旨とする。
本発明によれば、雰囲気ガスに不活性ガス及び水素ガスを用い、雰囲気を無脱炭とすることが可能な雰囲気炉及びその雰囲気制御方法を提供することができる。
実施形態の雰囲気制御方法の一例を示すフローチャート。 実施例の雰囲気炉を示す概略説明図。
ここで示される事項は例示的なもの及び本発明の実施形態を例示的に説明するためのものであり、本発明の原理と概念的な特徴とを最も有効に且つ難なく理解できる説明であると思われるものを提供する目的で述べたものである。この点で、本発明の根本的な理解のために必要である程度以上に本発明の構造的な詳細を示すことを意図してはおらず、図面と合わせた説明によって本発明の幾つかの形態が実際にどのように具現化されるかを当業者に明らかにするものである。
[1]雰囲気制御方法
本発明の雰囲気制御方法は、雰囲気ガスに不活性ガス及び水素ガスを用いて被処理物を熱処理する雰囲気炉の炉内の雰囲気を無脱炭にする雰囲気制御方法であって、
前記炉内における酸素分圧をPO2(atm)、水分分圧をPH2O(atm)、水素分圧をPH2(atm)とし、
前記酸素分圧(PO2)、及び、前記水分分圧に対する前記水素分圧の比(PH2/PH2O)の少なくとも一方を対象として、
前記熱処理の温度域において、前記炉内の雰囲気を無脱炭にする前記対象の範囲を無脱炭領域と定め、前記無脱炭領域を除いた前記対象の範囲を調節領域と定めて、
熱処理時の炉内における前記対象を計測して計測値を取得し、
前記計測値が前記調節領域である場合に、前記炉内への前記水素ガスの供給量を調節して、
前記調節により、前記計測値が前記無脱炭領域になるように、前記対象を制御する、ことを特徴とする。
(1)雰囲気炉、被処理物、及び雰囲気ガス
本発明の雰囲気制御方法は、雰囲気ガスを用いることにより、雰囲気炉の炉内の雰囲気を無脱炭とし、その雰囲気中で被処理物を熱処理する場合の、雰囲気を無脱炭にするための制御方法である。
被処理物の熱処理としては、具体的に、焼なまし(焼鈍)、焼入れ、焼ならし、焼戻し、焼成、乾燥等が挙げられる。これら熱処理を無脱炭の雰囲気で行う炉であれば、雰囲気炉は、構成、炉内容積、加熱方式や冷却方式等の熱処理方式、バッチ式や連続式等の処理プロセスなどについて、特に限定されない。
被処理物は、上述の熱処理を施されるものであれば、特に限定されない。
被処理物として、例えば、金属を材料に用いた管材、線材、板材、柱材等の製品や部品、ガラスやセラミックス等を材料に用いた製品や部品などが挙げられる。これらの中でも、金属を材料に用いたものは、熱処理時における酸化や脱炭が生じやすく、雰囲気を無脱炭とした熱処理の被処理物として有用である。
雰囲気ガスには、不活性ガス及び水素ガスが使用される。
不活性ガスは、被処理物に対して不活性であるから、熱処理時の高温度条件下で被処理物と化学反応等することがない。このため、不活性ガスは、炉内における被処理物の酸化と還元を抑える、つまり炉内を無脱炭及び無浸炭の雰囲気とすることができる。
不活性ガスとしては、具体的に、窒素(N)ガス、ヘリウムガス、ネオンガス、アルゴンガス等を挙げることができる。これらの中でも窒素(N)ガスは、入手が容易であり、有用である。窒素(N)ガスの中でも、PSA(圧力変動吸着)式窒素ガス製造装置によって得られた窒素(N)ガス(以下、「NPSAガス」と記載する)は、純度が高く、ランニングコストを抑えることができ、特に有用である。
水素(H)ガスは、炉内の雰囲気中に存在する酸素(O)による被処理物の酸化を抑える、つまり炉内を無脱炭の雰囲気とすることができる。
即ち、水素(H)ガスは、雰囲気中の酸素(O)と反応し、その酸素(O)を奪うことにより、雰囲気を脱酸素状態にする。また、水素(H)ガスは、酸素(O)と反応して、水分(HO)を生成する。
水素(H)ガスは、石油系ガスを変成して得られたRXガス等の還元性ガスと比較すると、還元力が還元性ガスに相当し、さらに一酸化炭素(CO)や二酸化炭素(CO)等のカーボン類を含まないため、脱炭素の観点から有用である。
(2)制御対象
本発明の雰囲気制御方法は、上述のように、炉内の雰囲気を無脱炭にするための制御方法である。
そして、雰囲気制御方法において、制御の対象は、酸素分圧(PO2)、及び、水分分圧に対する水素分圧の比(PH2/PH2O)の少なくとも一方を対象とする。
以下には、酸素分圧(PO2)、及び、水分分圧に対する水素分圧の比(PH2/PH2O)の少なくとも一方を対象とすることについて、説明する。
雰囲気中における浸炭と脱炭について説明する。
浸炭及び脱炭は、被処理物、特に金属を材料とするものについて、材料に含まれる炭素(C)が一酸化炭素(CO)、二酸化炭素(CO)、酸素(O)、及び水(HO)の各ガスと反応することにより発生する。
浸炭は、以下の反応式(a1)に従って進行する。
2CO → C+CO ・・・(a1)
脱炭は、以下の反応式(a2)、(b1)、(b2)、(c)に従って進行する。
C+CO → 2CO ・・・(a2)
C+1/2O → CO ・・・(b1)
C+O → CO ・・・(b2)
C+HO → CO+H ・・・(c)
上記の反応式(a1)、(a2)、(b1)、(b2)、(c)は、何れも平衡反応であり、その平衡定数であるKは、以下の式(d)で求められる。
(CO×HO)/(H×CO)=K ・・・(d)
上記の反応式(a1)、(a2)、(b1)、(b2)、(c)は、式(d)で求められるK(平衡定数)に従い、雰囲気中に含まれる一酸化炭素(CO)、二酸化炭素(CO)、酸素(O)、及び水(HO)の各ガスの量(vol%)次第で逆反応を起こす。
このため、熱処理時には、雰囲気中に一酸化炭素(CO)、二酸化炭素(CO)、酸素(O)、及び水(HO)の各ガスが含まれる場合、浸炭及び脱炭の何れもが発生し得る。
雰囲気制御方法において、雰囲気ガスには、上述したように不活性ガス及び水素(H)ガスが使用される。
不活性ガス及び水素(H)ガスを使用した雰囲気ガスは、一酸化炭素(CO)を含まないので、浸炭について、上述の反応式(a1)の進行を妨げることができる。
つまり、雰囲気ガスへの不活性ガス及び水素(H)ガスの使用は、実質的な無浸炭を達成することができる。
また、不活性ガス及び水素(H)ガスを使用した雰囲気ガスは、二酸化炭素(CO)を含まない。よって、脱炭に関し、上述の反応式(a2)の進行を妨げることができる。
さらに、脱炭に関し、上述の反応式(b1)、(b2)は、雰囲気ガスへの水素(H)ガスの使用により雰囲気中の酸素(O)が奪われるため、進行を妨げることができる。
即ち、水素(H)ガスは、雰囲気中の酸素(O)と反応し、以下の反応式(e)に従って水分(HO)を生成する。
+1/2O → HO ・・・(e)
上記の反応式(e)は、雰囲気中の酸素(O)を奪うための反応であり、言い換えると、被処理物の炭素(C)と酸素(O)との化学反応である上述の反応式(b1)、(b2)の進行を妨げるための反応である。
また、脱炭に関し、上述の反応式(c)における水分(HO)は、主として上記の反応式(e)に従って生成された水分(HO)に由来する。
従って、雰囲気ガスとして水素(H)ガスを使用する場合、雰囲気中における酸素(O)の量(vol%)を調節する、特には酸素(O)の量(vol%)を低減することにより、上述の反応式(a2)、(b1)、(b2)、(c)の進行が妨げられて、雰囲気を無脱炭にすることができる。
雰囲気中における酸素(O)の量(vol%)は、炉内の酸素分圧〔PO2〕(atm)によって計測することができる。
また、雰囲気ガスとして水素(H)ガスを使用した場合、上述したように、雰囲気中の酸素(O)は、上記の反応式(e)のように、水素(H)と反応して水分(HO)を生成する。このため、酸素分圧〔PO2〕(atm)は、炉内の水分分圧〔PH2O〕(atm)に対する水素分圧〔PH2〕(atm)の比(PH2/PH2O)によって計測することができる。
雰囲気制御方法は、雰囲気ガスに不活性ガス及び水素(H)ガスを使用し、酸素分圧(PO2)、及び、水分分圧に対する水素分圧の比(PH2/PH2O)の少なくとも一方を対象として制御することにより、雰囲気を実質的な無浸炭とし、かつ無脱炭の雰囲気とすることができる。
酸素分圧(PO2)、及び、水分分圧に対する水素分圧の比(PH2/PH2O)の少なくとも一方を制御の対象とする場合、その制御は、雰囲気ガスとして炉内へ供給される水素ガスの供給量の調節により実行することができる。
つまり、水素分圧(PH2)は、水素ガスの供給量を調節することにより、所望の値となるように制御することができる。
酸素分圧(PO2)と水分分圧(PH2O)について、炉内の酸素(O)は、上述の反応式(e)に示したように、水素(H)と反応して奪われ、その反応により水分(HO)が生成される。このため、酸素分圧(PO2)と水分分圧(PH2O)は、水素ガスの供給量を調節することにより、所望の値となるように制御することができる。
水素ガスの供給量の調節により、酸素分圧(PO2)、及び、水分分圧に対する水素分圧の比(PH2/PH2O)の少なくとも一方を制御する場合、炉内の圧力(以下、「炉圧」と記載する)は、一定とすることが望ましい。
つまり、上述の対象の制御は、水素ガスの供給量の調節によって行われる場合、その調節による水素ガスの供給量の変更に応じて炉圧が変化すると、対象の計測について正確性が損なわれる可能性がある。
炉圧は、炉内への水素ガスの供給量(VH2)と不活性ガスの供給量(VIn)を合計したガス供給総量(VH2+VIn)を一定値とすることにより、一定とすることができ、変化を防止することができる。
具体的に、ガス供給総量(VH2+VIn)は、調節による水素ガスの供給量(VH2)の変更に応じて、炉内への不活性ガス(VIn)の供給量を増減させることにより、一定値とすることができる。
例えば、酸素分圧(PO2)が高い場合、上述の反応式(b1)、(b2)が進行しないように、水素ガスの供給量(VH2)を増加し、反応式(e)を進行させて炉内の酸素(O)を減少させるが、その際、水素ガスの供給量(VH2)を増加した分、不活性ガス(VIn)の供給量を減少し、ガス供給総量(VH2+VIn)を一定値に保持する。
また、酸素分圧(PO2)が低い場合、ランニングコストを低減する観点から、水素ガスの供給量(VH2)を減少させるが、その際、水素ガスの供給量(VH2)を減少した分、不活性ガス(VIn)の供給量を増加し、ガス供給総量(VH2+VIn)を一定値に保持する。
(3)無脱炭領域及び調節領域
本発明の雰囲気制御方法は、酸素分圧(PO2)、及び、水分分圧に対する水素分圧の比(PH2/PH2O)の少なくとも一方を対象として制御するにあたり、その対象の範囲について、無脱炭領域及び調節領域を定めることができる。
無脱炭領域は、被処理物の熱処理の温度域において、炉内の雰囲気を無脱炭にすることができる対象の範囲である。
調節領域は、被処理物の熱処理の温度域において、無脱炭領域を除いた対象の範囲である。つまり、調節領域は、炉内の雰囲気が無脱炭ではない(炉内の雰囲気が脱炭である)ため、雰囲気を無脱炭(無脱炭領域)にするように対象の調節が実行される範囲である。
無脱炭領域について、炉内の雰囲気を無脱炭にする条件(以下、「無脱炭条件」と記載する)を満たす酸素分圧(PO2)、及び、水分分圧に対する水素分圧の比(PH2/PH2O)は、エリンガムダイアグラムを使用して簡略的な指標(目安)を求めることができ、さらに、上述の反応式(b1)及び(b2)の平衡式から計算して求めることができる。
なお、エリンガムダイアグラムは、横軸を温度、縦軸を生成ギブスエネルギーとして、種々の酸化物について、各温度における標準生成ギブスエネルギーをプロットしたグラフである(図示略)。
(3-1)酸素分圧について
無脱炭条件を満たす酸素分圧(PO2)は、圧平衡定数(Kp)を利用し、上述の反応式(b1)及び(b2)の平衡式から計算して求めることができる。
なお、圧平衡定数(Kp)とは、気相での化学平衡を気体の分圧で表した平衡定数である。
上述の反応式(b1)について、その平衡状態は、以下の式(b1’)である。
C+1/2O = CO ・・・(b1’)
式(b1’)において、雰囲気中に含まれる気体(ガス)は、酸素(O)と一酸化炭素(CO)であり、反応式(b1)の平衡式として、気相での化学平衡における平衡式は、一酸化炭素(CO)の分圧をPCO、圧平衡定数をKp1として、以下の式(B1’)で示すことができる。
Kp1 = (PCO)/〔PO2 (1/2)〕 ・・・(B1’)
上記の式(B1’)を変換すると以下の式(B1)が得られる。
O2 = [(PCO)/(Kp1)] ・・・(B1)
そして、酸素分圧(PO2)は、圧平衡定数(Kp)を利用し、上記の式(B1)から求めることができる。
上記の式(B1)について、一酸化炭素の分圧(PCO)は、実質的に標準気圧(=1atm)を代入する。つまり、式(B1)は、実質的に下記の式(B1)とすることができる。
O2 = [1/(Kp1)] ・・・(B1)
圧平衡定数(Kp1)は、平衡定数(K)と下記式(1)の関係を有し、平衡定数(K)は下記式(2)の計算式で求めることができる。
Kp1 = K×(RT)〔1-[1+(1/2)]〕・・・(1)
K = exp(-ΔG/RT)・・・(2)
但し、式(1)、(2)において、Rは気体定数、Tは熱力学温度(K:ケルビン)、ΔGは反応ギブズエネルギー(J:ジュール)を示す。
熱処理の温度域は、金属を材料に用いた被処理物の場合、通常、650℃~950℃の範囲とすることができる。
熱処理の温度域(650℃~950℃)の各温度について、圧平衡定数(Kp1)と、式(B1)から実際に計算して求めた酸素分圧(PO2)を、表1に示す。
なお、表1には、圧平衡定数(Kp1)と酸素分圧(PO2)の数値について、「(α)×10(±β)」を「(α)E(±β)」として記載する。
Figure 2023117175000002
無脱炭条件を満たす酸素分圧(PO2)に関し、上述の反応式(b2)について、その平衡状態は、以下の式(b2’)である。
C+O = CO ・・・(b2’)
式(b2’)において、雰囲気中に含まれる気体(ガス)は、酸素(O)と二酸化炭素(CO)であり、反応式(b2)の気相での化学平衡における平衡式は、二酸化炭素(CO)の分圧をPCO2、圧平衡定数をKp2として、以下の式(B2’)で示すことができる。
Kp2 = (PCO2)/(PO2) ・・・(B2’)
上記の式(B2’)を変換すると、以下の式(B2)が得られる。
O2 = (PCO2)/(Kp2) ・・・(B2)
そして、酸素分圧(PO2)は、圧平衡定数(Kp)を利用し、上記の式(B2)から求めることができる。
上記の式(B2)について、二酸化炭素の分圧(PCO2)は、実質的に標準気圧(=1atm)を代入する。つまり、式(B2)は、実質的に下記の式(B2)とすることができる。
O2 = 1/(Kp2) ・・・(B2)
圧平衡定数(Kp2)は、平衡定数(K)と下記式(1’)の関係を有する。なお、平衡定数(K)は上記式(2)の計算式で求めることができる。
Kp2 = K×(RT)〔1-[1+1]〕・・・(1’)
但し、式(1’)において、Rは気体定数、Tは熱力学温度(K:ケルビン)、ΔGは反応ギブズエネルギー(J:ジュール)を示す。
上述の熱処理の温度域(650℃~950℃)の各温度について、圧平衡定数(Kp2)と、式(B2)から実際に計算して求めた酸素分圧(PO2)を、表2に示す。
なお、表2には、圧平衡定数(Kp2)と酸素分圧(PO2)の数値について、「(α)×10(±β)」を「(α)E(±β)」として記載する。
Figure 2023117175000003
表1及び表2に示された酸素分圧(PO2)は、上述した熱処理の温度域における各温度で、上述の反応式(b1)又は(b2)が進行するのに必要とされる雰囲気中の酸素の量の指標とすることができる。
酸素分圧(PO2)について、上述の反応式(b1)による表1と、上述の反応式(b2)による表2とを比較すると、以下が分かる。
熱処理の温度域(650℃~950℃)で700℃以下(温度が650℃及び700℃)の場合、酸素分圧(PO2)は、上述の反応式(b2)による表2の方が低く、反応が進行するのに必要とされる酸素の量が少ないため、C+O → COの反応が強くなる(進行しやすくなる)ことが分かる。
なお、表2中では、各温度の酸素分圧(PO2)について、表1に比べて値が低いものに斜線を付す。
熱処理の温度域(650℃~950℃)で750℃以上(温度が750℃、800℃、850℃、900℃、950℃)の場合、酸素分圧(PO2)は、上述の反応式(b1)による表1の方が低く、反応が進行するのに必要とされる酸素の量が少ないため、C+1/2O → COの反応が強くなる(進行しやすくなる)ことが分かる。
なお、表1中では、各温度の酸素分圧(PO2)について、表2に比べて値が低いものに斜線を付す。
従って、表1及び表2を利用する等して、熱処理時の温度域(650℃~950℃)で反応式(b1)、(b2)の進行を妨げることができる酸素分圧(PO2)の範囲を求めることにより、無脱炭領域を設定することができる。
具体的に、無脱炭領域は、熱処理の温度域が650℃~950℃の場合、各温度で表1及び表2に示された酸素分圧(PO2)よりも低い値とすればよく、4.5×10-23(atm)未満の範囲(PO2<4.5×10-23)とすることができる。これは、表1及び表2に示された酸素分圧(PO2)の中で、表2に示された温度650℃の場合の酸素分圧(PO2)が最低値であるという観点による。
また、調節領域は、熱処理の温度域が650℃~950℃の場合、各温度で表1及び表2に示された酸素分圧(PO2)を外した値とすればよく、4.5×10-23(atm)以上2.0×10-19(atm)以下の範囲(4.5×10-23≦PO2≦2.0×10-19)とすることができる。これは、表1及び表2に示された酸素分圧(PO2)の中で、表1に示された温度950℃の場合の酸素分圧(PO2)が最高値であり、表2に示された温度650℃の場合の酸素分圧(PO2)が最低値であるという観点による。
酸素分圧(PO2)について、上述したように、炉内の酸素は、炉内への水素ガスの供給によって奪う(減少させる)ことができる。このため、酸素分圧(PO2)は、炉内への水素ガスの供給量で調節することができる。
酸素分圧(PO2)の制御の具体的な方法として、熱処理の各温度ごとに、平衡値に合わせた酸素分圧(PO2)になるように、水素ガス供給量を適宜調節する方法を挙げることができる。より具体的に、熱処理時の温度が950℃であれば酸素分圧(PO2)が1.99×10-19未満(PO2<1.99×10-19)、700℃であれば酸素分圧(PO2)が3.77×10-10未満(PO2<3.77×10-10)となるように水素ガス供給量を適宜調節する。この方法は、水素ガスの使用量を抑えることができるという利点を有する。
あるいは、酸素分圧(PO2)の制御の具体的な方法として、酸素分圧(PO2)が常に4.5×10-23未満(PO2<4.5×10-23)となるように、水素ガス供給量を調節する方法を挙げることができる。これは、熱処理の温度域が650℃~950℃の場合、酸素分圧(PO2)を常に4.5×10-23未満(PO2<4.5×10-23)とすれば、その温度域の全てで無脱炭条件を有効に満たすことができるためである(表1、表2を参照)。この方法は、例えば、熱処理の温度ごとに酸素分圧(PO2)の制御値を変更する等の煩雑さを解消し、制御を簡易化できるという利点を有する。
(3-2)水分分圧に対する水素分圧の比について
無脱炭条件を満たす水分分圧に対する水素分圧の比(PH2/PH2O)は、上述のように求めた酸素分圧(PO2)を利用し、上述の反応式(e)の平衡式から計算して求めることができる。
即ち、上述の反応式(e)について、その平衡状態は、以下の式(e’)である。
2H+O = 2HO ・・・(e’)
式(e’)に基づき、反応式(e)の気相での化学平衡における平衡式は、圧平衡定数をKp3として、以下の式(E’)で示すことができる。
Kp3 = (PH2O/〔(PH2×PO2〕 ・・・(E’)
上記の式(E’)を変換すると、以下の式(E)が得られる。
(PH2/PH2O) = 〔1/(Kp3×PO2)〕(1/2) ・・・(E)
そして、比(PH2/PH2O)は、圧平衡定数(Kp)と酸素分圧(PO2)を利用し、上記の式(E)から求めることができる。
なお、圧平衡定数(Kp3)は、平衡定数(K)と下記式(1")の関係を有し、平衡定数(K)は上記式(2)の計算式で求めることができる。
Kp3 = K×(RT)〔2-(2+1)・・・(1")
但し、式(1")において、Rは気体定数、Tは熱力学温度(K:ケルビン)、ΔGは反応ギブズエネルギー(J:ジュール)を示す。
上述の熱処理の温度域(650℃~950℃)の各温度について、圧平衡定数(Kp3)と、表1及び表2に示された酸素分圧(PO2)とを利用し、式(E)から実際に計算して求めた比(PH2/PH2O)を、表3に示す。
なお、表3には、圧平衡定数(Kp3)と酸素分圧(PO2)の数値について、「(α)×10(±β)」を「(α)E(±β)」として記載する。
Figure 2023117175000004
表3に示された比(PH2/PH2O)は、上述した熱処理の温度域における各温度で、上述の反応式(e)の進行によって雰囲気中から奪われた酸素の量の指標とすることができる。
表3に示された比(PH2/PH2O)について、表1に示された酸素分圧(PO2)を利用して得られた値と、表2に示された酸素分圧(PO2)を利用して得られた値と、を比較すると、以下が分かる。
熱処理の温度域(650℃~950℃)で700℃以下(温度が650℃及び700℃)の場合、上述したとおり、C+O = COに関する反応が強くなる(進行しやすくなる)。比(PH2/PH2O)は、表2の酸素分圧(PO2)を利用して得られた値の方が高く、C+O = COに関して反応の進行を妨げるには、雰囲気中からより多くの酸素を奪えるように、水素分圧(PH2)を高める等して、比(PH2/PH2O)の値を高くすることが好ましいことが分かる。
熱処理の温度域(650℃~950℃)で750℃以上(温度が750℃、800℃、850℃、900℃、950℃)の場合、上述したとおり、C+1/2O = COに関する反応が強くなる(進行しやすくなる)。比(PH2/PH2O)は、表1の酸素分圧(PO2)を利用して得られた値の方が高く、C+1/2O = COに関して反応の進行を妨げるには、比(PH2/PH2O)の値をより高くすることが好ましいことが分かる。
なお、表3中では、各温度の比(PH2/PH2O)について、表1の酸素分圧(PO2)を利用したものと、表2の酸素分圧(PO2)を利用したものとを比較し、値が低いものに斜線を付す。
従って、表3を利用する等して、熱処理時の温度域(650℃~950℃)で反応式(e)を進行させることができる比(PH2/PH2O)の範囲を求めることにより、無脱炭領域を設定することができる。
具体的に、無脱炭領域は、熱処理の温度域が650℃~950℃の場合、各温度で表3に示された比(PH2/PH2O)よりも高い値とすればよく、45を超える範囲(45<(PH2/PH2O))とすることができる。これは、比(PH2/PH2O)について値の高いものほど雰囲気中からより多くの酸素を奪えること、表3に示された温度950℃でC+1/2O = COに関する比(PH2/PH2O)が最高値であることの観点による。
また、調節領域は、熱処理の温度域が650℃~950℃の場合、各温度で表3に示された比(PH2/PH2O)を外した値とすればよく、1.0以上45以下の範囲(1≦(PH2/PH2O)≦45)とすることができる。これは、上記した比(PH2/PH2O)の最高値に関する観点に加え、表3に示された温度650℃でC+O = COに関する比(PH2/PH2O)が最低値であることの観点による。
水分分圧に対する水素分圧の比(PH2/PH2O)について、水素分圧(PH2)は、炉内への水素ガスの供給量により簡易に調節することができる。
このため、比(PH2/PH2O)の制御の具体的な方法として、熱処理の各温度ごとに、比(PH2/PH2O)の平衡値に合わせて、水素ガス供給量を適宜調節し、水素分圧(PH2)を平衡値に応じた値に調節する方法を挙げることができる。より具体的に、熱処理時の温度が950℃であれば比(PH2/PH2O)が44.5超(44.5<PH2/PH2O)となるように水素ガス供給量を調節する、900℃であれば比(PH2/PH2O)が24.8超(24.8<PH2/PH2O)、700℃であれば比(PH2/PH2O)が1.4超(1.4<PH2/PH2O)となるように、水素ガス供給量を適宜調節する。この方法は、水素ガスの使用量を抑えることができるという利点を有する。
あるいは、比(PH2/PH2O)の制御の具体的な方法として、比(PH2/PH2O)が常に45超(45<(PH2/PH2O))となるように、水素ガス供給量を調節し、水素分圧(PH2)を平衡値に応じた値に調節する方法を挙げることができる。これは、熱処理の温度域が650℃~950℃の場合、比(PH2/PH2O)を45超(45<(PH2/PH2O))とすれば、その温度域の全てで無脱炭条件を有効に満たすことができるためである(表3を参照)。この方法は、例えば、熱処理の温度ごとに比(PH2/PH2O)の制御値を変更する等の煩雑さを解消し、制御を簡易化できるという利点を有する。
(4)雰囲気制御方法
図1は、雰囲気制御方法の具体例を示すフローチャートである。
この雰囲気制御方法は、制御の対象について、上述したように、酸素分圧(PO2)、及び、水分分圧に対する水素分圧の比(PH2/PH2O)の少なくとも一方とする。
そして、雰囲気制御方法は、炉内の雰囲気を無脱炭とするため、図1のフローチャートに示す作業を実行し、対象である酸素分圧(PO2)、及び、水分分圧に対する水素分圧の比(PH2/PH2O)の少なくとも一方を、無脱炭領域となるように制御する。
なお、図1中において、制御の対象である酸素分圧(PO2)、及び、水分分圧に対する水素分圧の比(PH2/PH2O)の少なくとも一方は、単に「対象」と記載する。
具体的に、雰囲気制御方法では、まず、雰囲気炉の炉内において、対象を計測して計測値を取得する(ステップS11)。
具体的には、対象が酸素分圧(PO2)の場合、酸素分析計等の計測器を用い、酸素分圧(PO2)が計測される。計測器を用いて計測された計測値(酸素分圧(PO2))は、制御器等に入力されて、そのまま利用することができる。
対象が比(PH2/PH2O)の場合、水分(HO)であれば露点計等の計測器、水素(H)であれば水素分析計等の計測器を用い、水分分圧(PH2O)及び水素分圧(PH2)が計測される。計測器を用いて計測された計測値(水分分圧(PH2O)及び水素分圧(PH2))は、演算器や制御器等に入力されて、比(PH2/PH2O)を演算し、その演算によって得られた比(PH2/PH2O)を利用することができる。
対象を計測して計測値を取得した(ステップS11)後、制御器等において、計測値が無脱炭領域であるか否かについて判断する(ステップS12)。
計測値が無脱炭領域である場合(ステップS12;Yes)、水素ガスの供給量(VH2)等が維持されて、作業を終了する。
そして、計測値が無脱炭領域でない場合(ステップS12;No)、計測値が調節領域であると判断される(ステップS13)。
計測値が調節領域である(ステップS13)場合、水素ガスの供給量(VH2)を調節する(ステップS14)。
水素ガスの供給量(VH2)の調節について、例えば、酸素分圧(PO2)が高い場合(Oリッチ)、水素ガスの供給量(VH2)を増し、炉内の酸素(O)を奪うことで、酸素分圧(PO2)を下げる。
一方、酸素分圧(PO2)が低い場合(Oリーン)、水素ガスの供給量(VH2)を減らし、水素ガスの使用量を低減する。
水素ガスの供給量(VH2)を調節(ステップS14)した後は、再度、対象を計測して計測値を取得し(ステップS11)、計測値が無脱炭領域であるか否かについて判断する(ステップS12)。
再度取得した計測値が無脱炭領域である場合(ステップS12;Yes)、作業を終了する。再度取得した計測値が無脱炭領域でない場合(ステップS12;No)、計測値が調節領域であると判断(ステップS13)し、計測値が無脱炭領域となるまで。水素ガスの供給量(VH2)の調節(ステップS14)を繰り返し行う。
[2]雰囲気炉
本発明の雰囲気炉は、上記した雰囲気制御方法を用い、炉内の雰囲気を無脱炭にして被処理物を熱処理する雰囲気炉10であって、
前記被処理物Wを出し入れする開口部113が設けられた炉体11と、
前記炉体11の炉内の温度を調整する炉温調整手段と、
前記炉体11に接続された水素ガス供給系13、及び前記水素ガス供給系13に接続された第1制御弁14と、
前記炉体11に接続された不活性ガス供給系15、及び前記不活性ガス供給系15に接続された第2制御弁16Aと、
前記炉体11の炉内における酸素分圧(PO2)、及び、水分分圧(PH2O)に対する水素分圧(PH2)の比(PH2/PH2O)の少なくとも一方を計測する計測器と、
前記計測器による計測値に基づき、前記第1制御弁14を操作して、前記水素ガス供給系13による前記炉体11の炉内への水素ガスの供給量を調節する制御器18と、を備えることを特徴とする(図2参照)。
雰囲気炉10は、上記の雰囲気制御方法を用い、炉内の雰囲気を無脱炭にして被処理物を熱処理するものであれば、特に限定されないが、具体例として、図2に示す構成のものを挙げることができる。
図2に示す、雰囲気炉10は、被処理物Wを熱処理する際の加熱と冷却を連続して行なう連続式のものである。
この雰囲気炉10は、被処理物Wを加熱及び冷却する炉体11と、炉体11の炉外から炉内に被処理物Wを搬入する搬入テーブル10Aと、炉体11の炉内から炉外に被処理物Wを搬出する搬出テーブル10Bと、を備えている。
以下、雰囲気炉10が備える各構成について、それぞれ説明する。
(1)炉体
炉体11は、その炉内に被処理物Wを収容し、熱処理するためのものである。
炉体11は、炉内に、被処理物Wを加熱する加熱室111と、被処理物Wを冷却する冷却室112と、を備えている。
さらに、冷却室112は、加熱室111と隣接して設けられた主冷却室として、被処理物Wを強制的に冷却する第1冷却室112A及び被処理物Wを冷却する第2冷却室112Bと、主冷却室に隣接して設けられたスロート室112Cと、を備えている。
加熱室111と第1冷却室112A及び第2冷却室112Bとスロート室112Cとには、被処理物Wを出し入れする開口部113がそれぞれ設けられている。加熱室111、第1冷却室112A、第2冷却室112B、及びスロート室112Cは、開口部113を介して互いに連通している。
また、加熱室111、第1冷却室112A、第2冷却室112B、及びスロート室112Cには、炉内で被処理物Wを搬送するコンベア等の搬送装置(図示略)が設けられている。
炉体11の炉内に収容された被処理物Wは、炉体11の上流側に配された加熱室111で加熱された後、炉体11の下流側に配された冷却室112で冷却されることにより、熱処理を施される。
また、冷却室112において、被処理物Wは、炉体11の上流側から下流側へ向かって順番に、第1冷却室112Aで急冷され、第2冷却室112Bで冷却される、というように、複数の段階に分けて冷却される。
冷却室112で冷却された被処理物Wは、最も下流側に配されたスロート室112Cにおいて、炉内から開口部113を介して炉外へ搬出される。
冷却室112で最も下流側に配されたスロート室112Cは、主冷却室である第2冷却室112Bとの間の開口部113を開閉する第1扉10Cと、開口部113として被処理物Wを炉内から出す出口側開口部を開閉する第2扉10Dと、を備えている。
つまり、スロート室112Cは、第2冷却室112Bと連通する上流側の開口部113が第1扉10Cによって開閉自在とされており、炉外に向かって開放された下流側の開口部113が第2扉10Dによって開閉自在とされている。
第1扉10Cは、スロート室112Cの炉内に外気(酸素)が入り込んだ場合、その外気(酸素)が炉体11の上流側、具体的には第2冷却室112B、第1冷却室112A、加熱室111の炉内へ流れ込むことを抑制するものである。第1扉10Cは、被処理物Wの第2冷却室112Bからスロート室112Cへ搬送時には開口部113を開放するが、それ以外の通常時は開口部113を閉塞している。
第2扉10Dは、開口部113を介して外気(酸素)が炉体11の炉内へ入り込むことを抑制するものである。第2扉10Dは、スロート室112Cを介した被処理物Wの炉外への抽出時には開口部113を開放するが、それ以外の通常時は開口部113を閉塞している。
なお、図2には連続式の雰囲気炉10の炉体11を示したが、これに限らず、炉体11は、バッチ式の雰囲気炉の炉体とすることもできる。
バッチ式の雰囲気炉は、被処理物Wを熱処理する際の加熱と冷却を断続的に行う炉である。バッチ式の雰囲気炉において、炉体11は、加熱室111と冷却室112等のように、必ずしも炉内を複数室に区分けする必要はなく、例えば、1室のみで加熱と冷却を行うように構成することができる。
(2)炉温調整手段
炉温調整手段は、炉体11の炉内を被処理物の熱処理に適した温度とするためのものである(図2参照)。
具体的に、炉温調整手段として、炉体11の加熱室111には、炉内を昇温するヒータ12Aが設けられており、第1冷却室112Aには、炉内を降温するクーラ12Bが設けられている。
ヒータ12A及びクーラ12Bは、炉内を昇温又は降温できるものであれば、特に限定されないが、熱交換式のものは、昇温又は降温のためのガスが炉内に散逸されないので、カーボンニュートラルの観点で有用である。
熱交換式のヒータ12A及びクーラ12Bの具体例として、管状の熱交換チューブの内部に、燃焼ガス等の熱媒や空気等の冷媒を通し、熱交換によって炉内の雰囲気ガスを昇温又は降温する、ラジアントチューブ型バーナーやクーリングチューブ等が挙げられる。
炉温調整手段であるヒータ12A及びクーラ12Bは、熱電対等の炉内の温度(以下、「炉温」と記載する)を計測可能な計測器や、昇温又は降温のON/OFFを制御する温度調節計などを備えることができる。
即ち、炉温調整手段であるヒータ12A及びクーラ12Bは、熱電対によって計測された炉温に応じて、温度調節計でON/OFF操作することにより、炉内を略一定の炉温に保持することができる。
ヒータ12Aによって昇温された加熱室111の炉温は、被処理物Wや目的とする熱処理に応じたものとされ、特に限定されないが、被処理物Wが金属を材料に用いたものである場合、通常、650℃~950℃の範囲とすることができる。
なお、この加熱室111の炉温は、上述した熱処理の温度域に相当する。
(3)水素ガス供給系
水素ガス供給系13は、炉体11の炉内へ、雰囲気ガスとして水素(H)ガスを供給するためのものである。
具体的に、水素ガス供給系13は、水素(H)ガスを貯留する水素タンク13Aから伸びて、炉体11に接続されている。
また、水素ガス供給系13は、炉体11の加熱室111に接続することにより、加熱室111へ水素(H)ガスを供給することができる。
加熱室111に供給された水素(H)ガスは、開口部113を介することにより、冷却室112、具体的には第1冷却室112A、第2冷却室112B、及びスロート室112Cへ供給することができる。
上述のように、水素ガス供給系13を加熱室111に接続し、加熱室111に水素(H)ガスを供給する場合、水素(H)ガスの使用量を抑えることができる。
つまり、炉体11の炉内において、加熱室111と冷却室112は開口部113を介して連通しており、雰囲気ガスとして加熱室111に供給された水素(H)ガスは、加熱室111から冷却室112へと炉内を下流側へ向かって流れる。
また、雰囲気ガスとして水素(H)ガスを使用する主な目的は、炉内に残る酸素(O)を奪って炉内の雰囲気を無脱炭にすることであり、その酸素(O)を奪うのに大量の水素(H)ガスは必要とされない。
このため、炉内の最も上流側に配された加熱室111に、必要十分な量の水素(H)ガスを供給することで、炉内の雰囲気を無脱炭にすることが可能であり、水素(H)ガスの使用量を抑えることができる。
水素ガス供給系13には、第1制御弁14が接続されている。この第1制御弁14は、電動弁等で構成されており、制御器18と電気的に接続されている。
第1制御弁14は、炉内の雰囲気が無脱炭となるように、制御器18によって開度を変更操作されて、炉内への水素(H)ガスの供給量を調節している。
加熱室111への水素ガスの供給量(VH2)は、炉内の雰囲気等に応じて適宜調節され、特に限定されないが、不活性ガスの供給量(VIn)との合計であるガス供給総量(VH2+VIn)で調節することが好ましい。
また、加熱室111は、被処理物Wを炉内に搬入する入口側の開口部113が開放されており、この入口側の開口部113から外気(酸素)が入り込まないようにするため、ガス供給総量(VH2+VIn)は、入口側の開口部113の開口面積に応じた量とすることが好ましい。
具体的に、ガス供給総量(VH2+VIn)は、開口部113の開口面積1dmあたり、4m/h以上8m/h以下とすることができ、好ましくは5m/h以上7m/h以下であり、より好ましくは5.5m/h以上6.5m/h以下である。
水素ガスの供給量(VH2)は、上記したガス供給総量(VH2+VIn)の範囲内となるように調節される。
加熱室111に水素(H)ガスを供給する場合、その供給量の調節により、加熱室111における水素ガスの濃度は、加熱室111の容積全体を100vol%として、3vol%以上30vol%以下とすることができる。
また、水素ガスの濃度は、好ましくは5vol%以上25vol%以下、より好ましくは10vol%以上20vol%以下とすることができる。
加熱室111における水素ガスの濃度を上記範囲とすることにより、炉内において加熱室111から下流側の冷却室112へ好適に水素(H)ガスを流すことができ、炉内に残る酸素(O)を好適に奪うことができ、水素(H)ガスの使用量を抑えてランニングコストの向上を図ることができる。
(4)不活性ガス供給系
不活性ガス供給系15は、炉体11の炉内へ、雰囲気ガスとして不活性ガスを供給するためのものである。
具体的に、雰囲気炉10は、PSA(圧力変動吸着)式窒素ガス製造装置15Aと、PSA式窒素ガス製造装置15Aに接続された窒素タンク15Bとを備えている。PSA式窒素ガス製造装置15Aは、不活性ガスである窒素(N)ガスを製造し、この窒素(N)ガスが窒素タンク15Bに貯留される。
不活性ガス供給系15は、窒素タンク15Bから伸びて炉体11に接続されている。
具体的に、不活性ガス供給系15は、窒素タンク15Bと炉体11との間で第1供給系151と第2供給系152の2系路に分岐している。
不活性ガス供給系15の第1供給系151は、加熱室111に接続されており、第2供給系152は、冷却室112のスロート室112Cに接続されている。
第1供給系151と第2供給系152には、減圧弁15Cがそれぞれ接続されている。
減圧弁15Cは、PSA式窒素ガス製造装置15Aで製造されて窒素タンク15Bに貯留された窒素(N)ガスが高圧な状態であるため、炉内に供給する窒素(N)ガスを減圧するべく設けられたものである。
加熱室111に接続された第1供給系151には、第2制御弁16Aが接続されている。この第2制御弁16Aは、電磁弁等で構成されており、制御器18と電気的に接続されている。
第2制御弁16Aは、制御器18によって開度を操作され、第1制御弁14による炉内への水素(H)ガスの供給量の調節時に、水素(H)ガスの供給量に応じて、窒素(N)ガスの供給量を調節するものである。
加熱室111への不活性ガス(窒素(N)ガス)の供給量(VIn)は、上述したように、水素ガスの供給量(VH2)との合計であるガス供給総量(VH2+VIn)で調節することが好ましい。
ガス供給総量(VH2+VIn)は、開口部113の開口面積1dmあたり、4m/h以上8m/h以下とすることができ、好ましくは5m/h以上7m/h以下であり、より好ましくは5.5m/h以上6.5m/h以下である。
不活性ガス(窒素(N)ガス)の供給量(VIn)は、上記したガス供給総量(VH2+VIn)の範囲内となるように調節される。
スロート室112Cに接続された第2供給系152は、第2扉10Dによって開閉される出口側の開口部113の近傍位置に接続されている。
第2供給系152には、第3制御弁16Bが接続されている。この第3制御弁16Bは、電磁弁等で構成されており、第2扉10Dによる開口部113の開閉と連動して開閉操作される。
詳述すると、第3制御弁16Bは、第2扉10Dによる開口部113の開放時に、第2供給系152を開き、スロート室112Cへ不活性ガス(窒素(N)ガス)を供給する。
第2扉10Dによるスロート室112Cの出口側の開口部113の開放時に、スロート室112Cへ不活性ガス(窒素(N)ガス)を供給する場合、開口部113から炉外へ不活性ガス(窒素(N)ガス)が流れようとすることで、開口部113からスロート室112Cへ外気(酸素)が入り込むことを抑制することができる。
第3制御弁16Bは、第2扉10Dによる開口部113の閉塞時において、第2供給系152を閉じるように操作され、スロート室112Cへの不活性ガス(窒素(N)ガス)の供給を停止する。これにより、不活性ガス(窒素(N)ガス)を効率的に利用することができる。
第2供給系152によるスロート室112Cへの不活性ガス(窒素(N)ガス)の供給量(VIn)は、開口部113からスロート室112Cへ外気(酸素)が入り込むことを抑制できるように、開口部113の開口面積に応じた量とすることが好ましい。
具体的に、スロート室112Cへの不活性ガス(窒素(N)ガス)の供給量(VIn)は、開口部113の開口面積1dmあたり、4m/h以上8m/h以下とすることができる。
また、供給量(VIn)は、開口部113の開口面積1dmあたり、好ましくは5m/h以上7m/h以下、より好ましくは5.5m/h以上6.5m/h以下である。
(5)計測器、制御器
炉体11の加熱室111には、計測器として、炉内の水素分圧(PH2)を計測する水素分析計17Aと水分分圧(PH2O)を計測する露点計17B、及び炉内の酸素分圧(PO2)を計測する酸素分析計17Cが接続されている。
計測器である水素分析計17A及び露点計17Bと酸素分析計17Cとは、制御器18と電気的に接続されている。
制御器18は、演算機能を有しており、水素分析計17A及び露点計17Bによってそれぞれ計測された水素分圧(PH2)及び水分分圧(PH2O)を取得し、水素分圧(PH2)及び水分分圧(PH2O)から計測値として比(PH2/PH2O)を演算することができる。
また、制御器18は、酸素分析計17Cよって計測された酸素分圧(PO2)を計測値として取得することができる。
制御器18には、酸素分圧(PO2)及び比(PH2/PH2O)について、上述の無脱炭領域が予め記憶されている。
また、制御器18には、上記の雰囲気制御方法に係るプログラムが格納されており、計測値として取得した酸素分圧(PO2)、あるいは比(PH2/PH2O)を、予め記憶された無脱炭領域と対比し、計測値が無脱炭領域であるか、又は調節領域であるかを判断することができる。
制御器18は、計測値である酸素分圧(PO2)あるいは比(PH2/PH2O)が調節領域であると判断した場合、第1制御弁14の開度を操作し、水素ガス供給系13による炉体11の加熱室111への水素(H)ガスの供給量を調節することができる。
また、制御器18は、水素(H)ガスの供給量を調節した場合、その調節に応じて、第2制御弁16Aの開度を操作し、不活性ガス供給系15による炉体11の加熱室111への不活性ガス(窒素(N)ガス)の供給量を調節することができる。
制御器18は、第3制御弁16B及び第2扉10Dと電気的に接続されている。
制御器18は、スロート室112Cからの被処理物Wの搬出時に、開口部113が開放されるように第2扉10Dを操作し、その操作に連動して第3制御弁16Bを操作し、第2供給系152からスロート室112Cへ不活性ガスを供給することができる。
(6)雰囲気炉における熱処理と雰囲気制御
上記の雰囲気炉10において、被処理物Wは、搬入テーブル10Aから炉体11の炉内に搬入され、炉内で熱処理をされた後、炉体11の炉内から搬出テーブル10Bへ搬出される。
被処理物Wの熱処理は、炉体11の炉内において、被処理物Wを加熱した後、冷却して実施される。
被処理物Wの加熱は、ヒータ12Aによって加熱室111を所定の温度域(650℃~950℃の範囲)に昇温し、その加熱室111で被処理物Wを加熱することにより行われる。
被処理物Wの冷却は、冷却室112の主冷却室において、クーラ12Bによって加熱室111よりも低温度とされた第1冷却室112Aで被処理物Wを急冷して、第2冷却室112Bで被処理物Wを、第1冷却室112Aにおける温度よりもさらに低温度になるまで冷却する。その後、第2冷却室112Bからスロート室112Cへ被処理物Wを移送する。
スロート室112Cは、被処理物Wの炉内からの抽出時において、雰囲気を無脱炭とした炉内、具体的には加熱室111及び冷却室112に外気(酸素)が流れ込むことを抑制して、炉内の無脱炭の雰囲気を保持するために設けられたものである。
即ち、スロート室112Cでは、被処理物Wが移送された後、第1扉10Cが閉じることにより、スロート室112Cから主冷却室(第2冷却室112B及び第1冷却室112A)へのガスの流動が規制される。
次いで、第2扉10Dが開き、被処理物Wは、スロート室112C内を急速搬送され、スロート室112Cから炉外へと短時間で抽出される。このように、スロート室112C内で被処理物Wを急速搬送して、炉外への抽出のために第2扉10Dが開かれている時間を可能な限り短くすることにより、炉外からスロート室112C内への外気(酸素)の侵入が抑制される。
さらに、第2扉10Dが開いている間、スロート室112Cには、第2供給系152による不活性ガス(窒素(N)ガス)の供給が常に行われる。この不活性ガス(窒素(N)ガス)の供給により、炉外からスロート室112Cへの外気(酸素)の侵入が好適に抑制される。
被処理物Wの熱処理時には、炉体11の炉内の雰囲気が無脱炭となるように、制御器18による雰囲気制御が実行される。
雰囲気制御において、制御器18は、第1制御弁14を操作し、水素ガス供給系13から加熱室111へ水素ガスを供給する。加熱室111へ供給された水素ガスは、開口部113を介して第1冷却室112A、第2冷却室112B、スロート室112Cへ順次供給されるとともに、各室で酸素(O)を奪い、炉内の雰囲気を無脱炭とする。
炉内の雰囲気を無脱炭とする際、制御器18は、水素分析計17A及び露点計17Bによって計測された水素分圧(PH2)及び水分分圧(PH2O)を取得し、水分分圧(PH2O)に対する水素分圧(PH2)の比(PH2/PH2O)を演算して、計測値として取得する(図1、ステップS11を参照)。
あるいは、制御器18は、酸素分析計17Cによって計測された酸素分圧(PO2)を計測値として取得する(図1、ステップS11を参照)。
制御器18は、比(PH2/PH2O)及び/又は酸素分圧(PO2)の計測値を、予め記憶された上記熱処理の温度域における無脱炭領域と比較し、計測値が無脱炭領域であるか判断する(図1、ステップS12を参照)。
制御器18は、計測値が無脱炭領域である場合(図1、ステップS12;Yesを参照)、加熱室111への水素ガスの供給量を、そのまま維持する。
制御器18は、計測値が無脱炭領域でない場合(図1、ステップS12;Noを参照)、計測値が調節領域であると判断する(図1、ステップS13を参照)。
具体的には、比(PH2/PH2O)の場合、熱処理の温度域が650℃~950℃の範囲において、無脱炭領域は、比が45を超える範囲(45<(PH2/PH2O))とすることができ、調節領域は、比が1.0以上45以下の範囲(1≦(PH2/PH2O)≦45)とすることができる。
また、酸素分圧(PO2)の場合、熱処理の温度域が650℃~950℃の範囲において、無脱炭領域は、酸素分圧が4.5×10-23(atm)未満の範囲(PO2<4.5×10-23)とすることができ、調節領域は、酸素分圧が4.5×10-23(atm)以上2.0×10-19(atm)以下の範囲(4.5×10-23≦PO2≦2.0×10-19)とすることができる。
制御器18は、計測値が調節領域である場合、第1制御弁14を操作し、水素ガス供給系13による加熱室111への水素ガスの供給量を調節する(図1、ステップS14を参照)。
そして、制御器18は、計測値が無脱炭領域となるように、第1制御弁14の操作によって水素ガスの供給量を調節し、炉内の雰囲気を無脱炭とする。
水素ガスの供給量の調節は、水素ガスの供給量(VH2)と不活性ガスの供給量(VIn)との合計であるガス供給総量(VH2+VIn)が所定量となるようにして行われる。
具体的に、ガス供給総量(VH2+VIn)は、加熱室111の入口側の開口部113の開口面積1dmあたり、4m/h以上8m/h以下とすることができる。
加熱室111への水素ガスの供給は、加熱室111における水素ガスの濃度が、加熱室111の容積全体を100vol%として、3vol%以上30vol%以下となるように、水素ガスの供給量(VH2)を調節して行われる。
また、被処理物Wの熱処理中の加熱室111には、水素ガス又は不活性ガス、あるいは水素ガス及び不活性ガスが、上記ガス供給総量の範囲内で常時供給される。これにより、入口側の開口部113を介した加熱室111への外気(酸素)の流入が防止され、炉内の雰囲気が無脱炭に維持される。
熱処理された被処理物Wをスロート室112Cから炉外へ搬出する際、制御器18は、第2扉10Dを開放する操作と連動して、第3制御弁16Bを操作し、第2供給系152を開いて、スロート室112Cに不活性ガスである窒素ガスを供給する。
スロート室112Cに供給された窒素ガスは、第2扉10Dによって開放されたスロート室112Cの出口側の開口部113から炉外へ流出する。これにより、出口側の開口部113を介して炉外からスロート室112Cへ外気(酸素)が流入することが防止され、炉内の雰囲気が無脱炭に維持される。
本発明は、雰囲気ガスに不活性ガス及び水素ガスを用いて被処理物を熱処理する雰囲気炉と、雰囲気炉の炉内の雰囲気を無脱炭にする雰囲気制御方法について、広範な製品で利用することができ、特にカーボンニュートラルの観点で有用である。
10;雰囲気炉、10A;搬入テーブル、10B;搬出テーブル、10C;第1扉、10D;第2扉、
11;炉体、111;加熱室、112;冷却室、112A;第1冷却室、112B;第
2冷却室、112C;スロート室、113;開口部、
12A;ヒータ、12B;クーラ、
13;水素ガス供給系、13A;水素タンク、14;第1制御弁、
15;不活性ガス供給系、15A;PSA式窒素ガス製造装置、15B;窒素タンク、15C;減圧弁、151;第1供給系、152;第2供給系、
16A;第2制御弁、16B;第3制御弁、
17A;水素分析計、17B;露点計、17C;酸素分析計、
18;制御器、
W;被処理物。

Claims (10)

  1. 雰囲気ガスに不活性ガス及び水素ガスを用いて被処理物を熱処理する雰囲気炉の炉内の雰囲気を無脱炭にする雰囲気制御方法であって、
    前記炉内における酸素分圧をPO2(atm)、水分分圧をPH2O(atm)、水素分圧をPH2(atm)とし、
    前記酸素分圧(PO2)、及び、前記水分分圧に対する前記水素分圧の比(PH2/PH2O)の少なくとも一方を対象として、
    前記熱処理の温度域において、前記炉内の雰囲気を無脱炭にする前記対象の範囲を無脱炭領域と定め、前記無脱炭領域を除いた前記対象の範囲を調節領域と定めて、
    熱処理時の炉内における前記対象を計測して計測値を取得し、
    前記計測値が前記調節領域である場合に、前記炉内への前記水素ガスの供給量を調節して、
    前記調節により、前記計測値が前記無脱炭領域になるように、前記対象を制御する、ことを特徴とする雰囲気制御方法。
  2. 前記熱処理の温度域が650℃~950℃の範囲において、前記対象が前記酸素分圧(PO2)の場合、
    前記無脱炭領域は、前記酸素分圧が4.5×10-23(atm)未満の範囲(PO2<4.5×10-23)であり、
    前記調節領域は、前記酸素分圧が4.5×10-23(atm)以上2.0×10-19(atm)以下の範囲(4.5×10-23≦PO2≦2.0×10-19)である請求項1に記載の雰囲気制御方法。
  3. 前記熱処理の温度域が650℃~950℃の範囲において、前記対象が前記比(PH2/PH2O)の場合、
    前記無脱炭領域は、前記比が45を超える範囲(45<(PH2/PH2O))であり、
    前記調節領域は、前記比が1.0以上45以下の範囲(1≦(PH2/PH2O)≦45)である請求項1に記載の雰囲気制御方法。
  4. 前記炉内への前記水素ガスの供給量(VH2)と前記不活性ガスの供給量(VIn)を合計したガス供給総量(VH2+VIn)について、前記調節による前記水素ガスの供給量の変更に応じて、前記炉内への前記不活性ガスの供給量を増減させることにより、前記ガス供給総量(VH2+VIn)を一定値とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の雰囲気制御方法。
  5. 請求項1乃至4のいずれか一項に記載の雰囲気制御方法を用い、炉内の雰囲気を無脱炭にして被処理物を熱処理する雰囲気炉であって、
    前記被処理物を出し入れする開口部が設けられた炉体と、
    前記炉体の炉内の温度を調整する炉温調整手段と、
    前記炉体に接続された水素ガス供給系、及び前記水素ガス供給系に接続された第1制御弁と、
    前記炉体に接続された不活性ガス供給系、及び前記不活性ガス供給系に接続された第2制御弁と、
    前記炉体の炉内における酸素分圧(PO2)、及び、水分分圧(PH2O)に対する水素分圧(PH2)の比(PH2/PH2O)の少なくとも一方を計測する計測器と、
    前記計測器による計測値に基づき、前記第1制御弁を操作して、前記水素ガス供給系による前記炉体の炉内への水素ガスの供給量を調節する制御器と、を備えることを特徴とする雰囲気炉。
  6. 前記炉体は炉内に、前記被処理物を加熱する加熱室と、前記被処理物を冷却する冷却室と、を備え、
    前記水素ガス供給系は、前記加熱室へ水素ガスを供給し、
    前記不活性ガス供給系は、複数に分岐して前記加熱室及び前記冷却室へ不活性ガスを供給する請求項5に記載の雰囲気炉。
  7. 前記加熱室における水素ガスの濃度は、3vol%以上30vol%以下である請求項6に記載の雰囲気炉。
  8. 前記加熱室に前記被処理物を入れる前記開口部を入口側開口部とし、
    前記加熱室において、前記水素ガスの供給量(VH2)と前記不活性ガスの供給量(VIn)を合計したガス供給総量(VH2+VIn)は、前記入口側開口部の開口面積1dmあたり、4m/h以上8m/h以下である請求項6又は7に記載の雰囲気炉。
  9. 前記冷却室は、前記加熱室と隣接して設けられた主冷却室と、前記主冷却室に隣接して設けられたスロート室と、を備え、
    前記スロート室は、前記主冷却室との間の開口部を開閉する第1扉と、
    前記開口部として前記被処理物を炉内から出す出口側開口部を開閉する第2扉と、
    を備え、
    前記制御器は、前記第2扉の開閉を操作して、前記出口側開口部の開放時に前記不活性ガス供給系から前記スロート室へ不活性ガスを供給する請求項5乃至8のいずれか一項に記載の雰囲気炉。
  10. 前記スロート室への前記不活性ガスの供給量(VIn)は、前記出口側開口部の開口面積1dmあたり、4m/h以上8m/h以下である請求項9に記載の雰囲気炉。
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