JP2023111950A - 減速装置 - Google Patents

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Abstract

【課題】穴付部材の加工素材となるワークに関して、その加工時の加工性が良好な減速装置を提供する。【解決手段】転動体が転動する転動面と穴部が設けられた穴付部材を備える減速装置であって、穴付部材には、母材領域42と、母材領域42より表面側にて母材領域42より高硬度の表面硬化層44とが設けられ、表面硬化層44には、表面から垂直な深さ方向に向かって表層領域46と硬度遷移領域48が順に設けられ、深さ方向に対する0.1mm当たりのビッカース硬度の変化量を硬度変化量としたとき、表層領域46は、表面から硬度遷移領域48まで連続し、硬度変化量が0以上になる箇所を含み、硬度遷移領域48は、深さ方向に向かって硬度が連続的に減少し、硬度変化量が-60以下になる箇所を含み、転動面は、表層領域46の表面に設けられ、穴部は、母材領域42に設けられる減速装置。【選択図】図4

Description

本発明は、減速装置及びワークの加工方法に関する。
特許文献1には、撓み噛み合い型減速装置が記載されている。この減速装置では、ケーシングと出力側フランジ体の間に転動体が配置されており、出力側フランジ体がケーシングに転動体を介して回転可能に支持されている。出力側フランジ体には、転動体が転動する転動面の他に、ボルトがねじ込まれる穴部が設けられている。
特開2011-112214号公報
特許文献1の出力側フランジ体のように転動面がある部品は、疲労強度の向上を図るため、転動面の高硬度化が要求される。これを実現するため、一般には、ずぶ焼入れのような、熱処理対象となるワークの全体を焼入れ可能な表面硬化処理が用いられる。
前述の出力側フランジ体のような穴付部材では、ワークに穴部を設けるための穿孔加工を表面硬化処理後にする場合がある。この場合、ワークの全体を焼入れにより高硬度化してしまうと、穿孔加工時に工具の寿命低下等の不具合が生じてしまう。このような穴付部材の素材となるワークの加工性との関係で工夫を施した減速装置は未だ提案されていない。
本発明は、こうした状況に鑑みてなされたものであり、その目的は、穴付部材の加工素材となるワークに関して、その加工時の加工性が良好な減速装置を提供することにある。
本発明のある態様は減速装置に関する。減速装置は、転動体が転動する転動面と穴部が設けられた穴付部材を備える減速装置であって、前記穴付部材には、母材領域と、前記母材領域より表面側にて前記母材領域より高硬度の表面硬化層とが設けられ、前記表面硬化層には、表面から垂直な深さ方向に向かって表層領域と硬度遷移領域が順に設けられ、前記深さ方向に対する0.1mm当たりのビッカース硬度の変化量を硬度変化量としたとき、前記表層領域は、前記表面から前記硬度遷移領域まで連続し、前記硬度変化量が0以上になる箇所を含み、前記硬度遷移領域は、前記深さ方向に向かって硬度が連続的に減少し、前記硬度変化量が-60以下になる箇所を含み、前記転動面は、前記表層領域の表面に設けられ、前記穴部は、前記母材領域に設けられる。
本発明の他の態様はワークの加工方法に関する。本方法は、穴付部材の素材となるワークの加工方法であって、前記穴付部材には、前記転動体が転動する転動面と穴部とが設けられ、前記ワークの前記転動面となるべき部位にはレーザー光を照射することにより焼入れして表面硬化層を設け、前記ワークの穴部となるべき部位は焼入れせず母材領域を残す焼入れ工程と、前記ワークの穴部となるべき部位にある前記母材領域を穿孔する穿孔工程とを含む。
本発明によれば、穴付部材の加工素材となるワークに関して、その加工時の加工性が良好な減速装置を提供できる。
第1実施形態の減速装置を示す断面図である。 図1の転動体を周辺構造とともに示す拡大図である。 第1実施形態の第1キャリア部材の硬度分布を模式的に示す図である。 第1実施形態の第1キャリア部材の硬度分布の一例を示すグラフである。 第1実施形態の第1キャリア部材の硬度分布の一例を示す他のグラフである。
以下、実施形態、変形例では、同一の構成要素に同一の符号を付し、重複する説明を省略する。また、各図面では、説明の便宜のため、構成要素の一部を適宜省略したり、構成要素の寸法を適宜拡大、縮小して示す。また、共通点のある別々の構成要素には、名称の冒頭に「第1、第2」等と付し、符号の末尾に「-A、-B」等と付すことで区別し、総称するときはこれらを省略する。
図1は、第1実施形態の減速装置10を示す断面図である。本実施形態の減速装置10は、内歯歯車24と噛み合う外歯歯車22を撓み変形させつつ回転させることで外歯歯車22を自転させ、その自転成分を出力する撓み噛み合い型減速装置である。
減速装置10は、主に、ケーシング12と、一対のキャリア14と、複数の転動体16と、起振体18と、起振体軸受20と、外歯歯車22と、内歯歯車24と、を備える。
ケーシング12は、筒状部材であり、その内側に一対のキャリア14が配置される。一対のキャリア14は、剛性を持つ筒状部材である。一対のキャリア14は後述する軸方向Xに間隔を空けて配置され、その内側に起振体18が配置される。
一方のキャリア14(図中右側のキャリア。以下、入力側キャリア14-Aという)は、ケーシング12にボルト26により回転不能に組み付けられる。入力側キャリア14-Aは、ボルト穴28にねじ込まれるボルト(不図示)により、モータ等の駆動装置に連結される。
他方のキャリア14(図中左側のキャリア。以下、出力側キャリア14-Bという)は、ケーシング12に転動体16を介して回転自在に支持される。出力側キャリア14-Bは、駆動装置から入力された回転を、駆動対象となる被駆動装置に出力するための出力部として機能する。以下、出力側キャリア14-Bの回転中心線Laに沿った方向を軸方向Xとして説明する。ケーシング12、出力側キャリア14-B、転動体16の詳細は後述する。
起振体18は、筒状部材であり、その断面形状は楕円状に形成される。起振体18は、一対のキャリア14に対して軸受30を介して回転自在に両持ち支持される。起振体18には、駆動装置の駆動軸が接続される。
起振体軸受20は、起振体18と外歯歯車22の間に配置される。起振体軸受20は、起振体18に対して外歯歯車22を回転自在に支持する。
外歯歯車22は、起振体18の外周側に配置される。外歯歯車22は、可撓性を持つ環状部材である。外歯歯車22は、起振体軸受20を介して起振体18により楕円状に撓み変形させられる。外歯歯車22は、環状のベース部22aと、ベース部22aの外周側に一体的に形成された第1外歯部22b及び第2外歯部22cを有する。第1外歯部22b及び第2外歯部22cは軸方向Xに配置される。外歯歯車22は、起振体18が回転すると、内歯歯車24との噛合位置を周方向に変えつつ、起振体18の形状に合うように撓み変形する。
内歯歯車24は、剛性を持つ環状部材である。内歯歯車24は外歯歯車22の外周側に配置される。内歯歯車24には、外歯歯車22の第1外歯部22bが内接噛合する第1内歯歯車24-Aと、外歯歯車22の第2外歯部22cが内接噛合する第2内歯歯車24-Bとが含まれる。外歯部22b、22cは、起振体18の長軸方向の両側部分が内歯歯車24と内接噛合している。第1内歯歯車24-Aは、第1外歯部22bの外歯数より内歯数が2i(iは1以上の自然数)だけ多く、第2内歯歯車24-Bは、第2外歯部22cの外歯数と同数の内歯数である。第1内歯歯車24-Aは入力側キャリア14-Aに一体的に形成されており、第2内歯歯車24-Bは出力側キャリア14-Bに一体的に形成される。
以上の減速装置10の動作を説明する。
駆動軸が回転すると、駆動軸とともに起振体18が回転する。起振体18が回転すると、内歯歯車24との噛合位置を周方向に変えつつ、起振体18の形状に合うように外歯歯車22が連続的に撓み変形させられる。第1外歯部22bは、起振体18が一回転するごとに、第1内歯歯車24-Aとの歯数差に相当する分、第1内歯歯車24-Aに対して相対回転(自転)する。このとき、起振体18の回転は、第1内歯歯車24-Aとの歯数差に応じた減速比で減速されて外歯歯車22が自転する。
第1外歯部22bは、第2外歯部22cと同位相で一体に回転する。第2内歯歯車24-Bは、第2外歯部22cと歯数が同じであるため、起振体18が一回転した前後で第2外歯部22cとの相対的な噛合位置が変わらないまま、第1外歯部22bと同じ自転成分で同期して回転する。この第1外歯部22bの自転成分は第2内歯歯車24-Bを介して出力側キャリア14-Bに伝達される。この結果、起振体18の回転が減速されて出力側キャリア14-Bから被駆動装置に出力される。
転動体16周りの構成を説明する。
図2は、図1の転動体16を周辺構造とともに示す拡大図である。複数の転動体16は、出力側キャリア14-B及びケーシング12の一部と協働して軸受を構成する。本実施形態の転動体16は、出力側キャリア14-B及びケーシング12の一部と協働してクロスローラ軸受を構成する。複数の転動体16は、出力側キャリア14-Bの回転中心線La周りの周方向に間隔を空けて設けられる。本実施形態の転動体16はクロスローラ軸受のクロスローラとなる円柱状のころである。複数の転動体16は、自らの転動軸が回転中心線Laに向かって軸方向Xの一方側に延びるものと、軸方向Xの他方側に延びるものとが周方向に交互に配置される。
出力側キャリア14-Bとケーシング12は複数の転動体16を間に挟んで配置される。出力側キャリア14-Bは内周側に配置され、ケーシング12は外周側に配置される。出力側キャリア14-Bは、筒状の第1キャリア部材32と、第1キャリア部材32にインロー嵌合等により接続される筒状の第2キャリア部材34とを有する。
第1キャリア部材32とケーシング12には、互いに径方向に対向する箇所にV字状溝36が形成される。第1キャリア部材32のV字状溝36の一対の内側面のそれぞれは、転動体16が転動する第1転動面38-Aとなる。ケーシング12のV字状溝36の一対の内側面のそれぞれは、複数の転動体16が転動する第2転動面38-Bとなる。第1転動面38-Aと第2転動面38-Bとは複数の転動体16を挟んで径方向に対向する箇所に設けられる。
第1キャリア部材32は、前述の第1転動面38-Aの他に第1穴部40-Aが設けられた第1穴付部材である。第1転動面38-Aは、第1キャリア部材32の筒状部分の外周面に形成される。第1穴部40-Aは、第1転動面38-Aより軸方向Xの一方側にずれた位置に設けられる。本実施形態の第1穴部40-Aには雌ねじ部が形成されており、被駆動装置と連結するためのボルト(不図示)がねじ込まれる。
ケーシング12は、前述の第2転動面38-Bの他に第2穴部40-Bが設けられた第2穴付部材である。第2転動面38-Bは、ケーシング12の筒状部分の内周面に形成される。第2穴部40-Bは、第2転動面38-Bより軸方向Xの他方側にずれた位置に設けられる。本実施形態の第2穴部40-Bには雌ねじが形成されており、入力側キャリア14-Aを組み付けるためのボルト26がねじ込まれる。
第1キャリア部材32とケーシング12は、第1キャリア部材32の第1転動面38-A上での転動体16の転動と、ケーシング12の第2転動面38-B上での転動体16の転動を伴い相対回転する。このとき、第1キャリア部材32は転動体16用の内輪の機能を兼ね、ケーシング12は転動体16用の外輪の機能を兼ねる。第1キャリア部材32とケーシング12は、転動体16の転動を伴い相対回転可能な第1部材及び第2部材として機能する。
第1キャリア部材32は、第1転動面38-Aと第1穴部40-Aが単一の部材の一部として設けられている。ケーシング12は、第2転動面38-Bと第2穴部40-Bが単一の部材の一部として設けられている。これは、転動面38と穴部40が別々の部材に個別に設けられているのではなく、これらが一体成形品(単一の部材)の一部として設けられていることを意味する。
ここで本実施形態では、第1キャリア部材32、ケーシング12それぞれの硬度分布に関して特徴がある。この硬度分布は、第1キャリア部材32、ケーシング12のそれぞれで共通している。以下、第1キャリア部材32の硬度分布を主に説明し、ケーシング12の硬度分布は説明を省略する。
図3は、第1キャリア部材32の硬度分布を模式的に示す図である。第1キャリア部材32は、たとえば、クロムモリブデン鋼鋼材(JISでいうSCM材)等の機械構造用合金鋼鋼材、つまり、金属を素材とする。第1キャリア部材32には、レーザー焼入れによる表面硬化処理が施されており、母材領域42の他に表面硬化層44が設けられる。
母材領域42は、硬化処理が施されておらず、硬化していない領域である。母材領域42は、第1キャリア部材32の加工素材となるワークの母材そのものの硬度を持つ領域である。
表面硬化層44は、母材領域42より表面側に設けられる。表面硬化層44は、焼入れによる表面硬化処理を施すことにより硬化した領域であり、母材領域42より高硬度である。表面硬化層44には、たとえば、マルテンサイト等を主相とする焼入れ組織が設けられる。表面硬化層44は、第1キャリア部材32の全表面のうち、転動面38を含む一部分にのみ設けられ、穴部40を含む周辺部分には設けられない。
図4は、第1キャリア部材32の硬度分布の一例を示すグラフである。このグラフでは、表面硬化層44の表面からの深さとビッカース硬度との関係を示す。本グラフでは、後述する実施例1、2の第1キャリア部材32の硬度分布を示す。このグラフでは、表面硬化層44の表面(転動面38)に垂直な方向を深さ方向Paとしたとき、表面硬化層44の表面から深さ方向Paに向かった複数箇所で測定したビッカース硬度をプロットしている。ビッカース硬度はJIS Z2244に準じた方法により測定される。
グラフ中の測定点に添えた数字は、表面側に隣り合う測定点からのビッカース硬度の変化量(以下、硬度変化量という)を示す。この硬度変化量は、表面硬化層44や母材領域42の深さ方向Paに対する0.1mm当たりのビッカース硬度の変化量を示す。
表面硬化層44には、表面硬化層44の表面から深さ方向Paに向かって表層領域46と硬度遷移領域48とが順に設けられる(図3も参照)。表層領域46は、表面硬化層44の表面から硬度遷移領域48まで連続している。硬度遷移領域48は、表層領域46から母材領域42まで連続している。硬度遷移領域48は、深さ方向Paに向かって硬度が連続的に減少しており(つまり、硬度変化量が0以上になることがない)、表層領域46の硬度から母材領域42の硬度に遷移する領域となる。
硬度遷移領域48は、表面硬化層44の表面から深さ方向Paに向かう途中で硬度が急激に減少する箇所として、硬度変化量が少なくとも-60以下、通常は-100以下になる箇所を含む。硬度遷移領域48は、硬度変化量が少なくとも-60以下、通常は-100以下になる箇所を含む領域であって、深さ方向Paに向かって硬度変化量が0以上の値から負の値に切り替わる箇所から始まる領域である。硬度遷移領域48は、たとえば、硬度変化量が-200以上0未満となる。硬度遷移領域48の深さ方向Paでの長さは、たとえば、0.3mm~0.8mmの範囲となる。このように硬度が急激に減少する硬度遷移領域48があることにより、表面硬化層44の表面から母材領域42までの深さである全硬化層深さを浅くし易くなる。
表層領域46は、表面硬化層44の表面と硬度遷移領域48の間に存在する領域である。このことを特定するため、表層領域46は硬度変化量が0以上になる箇所を含むことを条件としている。また、表層領域46は、硬度変化量が負の値になる場合でも、硬度変化量が少なくとも-60以下、通常は-100以下になる箇所を含む硬度遷移領域48より硬度変化量が大きく(絶対値が小さく)なるため、硬度遷移領域48ほど硬度が急激に減少しない。表層領域46は、硬度変化量が少なくとも-60超になる領域であるとも捉えられる。このような表層領域46があることにより、母材領域42より高硬度の領域が表面硬化層44の表面と硬度遷移領域48の間にあることになり、所要の硬度を持つ有効硬化層の深さを確保し易くなる。
表層領域46は、ビッカース硬度に大きな増減がなく、所要の硬度を持つ有効硬化層の深さを確保するのに寄与する領域でもある。これを実現するため、表層領域46は、ビッカース硬度の最大値と最小値の差分である第1差分値Δが100以下となり、その硬度変化量が-60超+60以下の範囲となる。ここでのビッカース硬度の最大値と最小値とは、表層領域46のビッカース硬度を深さ方向Paに向かって0.1mm単位で測定したときの最大値と最小値をいう。
表層領域46は、所要の硬度を持つ有効硬化層の深さを確保するため、たとえば、母材領域42の開始位置のビッカース硬度の少なくとも1.5倍以上のビッカース硬度となる。また、表層領域46は、有効硬化層の深さを確保するため、表面硬化層44の表面から少なくとも0.2mmの範囲に設けられる。表層領域46のビッカース硬度の下限値は、特に限られないが、十分な疲労強度を確保する観点からは、たとえば、600以上あると好ましい。表層領域46のビッカース硬度の上限値は、特に限られないが、たとえば、800以下になる。
母材領域42は、硬度遷移領域48より深さ方向Paに向かって硬度変化量が負の値から0以上の値に切り替わる箇所から始まる。母材領域42では、深さ方向Paに向かって硬度が大きく増減しない。この関係から、母材領域42は、たとえば、ビッカース硬度の最大値と最小値の差分である第2差分値Δが50以下となり、硬度変化量が-50以上+50以下となる。したがって、母材領域42は、硬度遷移領域48の硬度変化量が-60以下になる箇所より深さ方向Paに向かって、硬度変化量が-50以上+50以下になる箇所から始まると捉えてもよい。母材領域42は、その具体的な硬度に関して特に限られるものではないが、たとえば、250~400Hvの範囲となる。
以上の硬度に関する条件は、転動面38の幅方向Pbの中央部38a(図3参照)から深さ方向Paに向かう範囲で満たしていればよい。ここでの幅方向Pbとは、第1キャリア部材32を回転中心線La(図1参照)に沿って切断した断面において、転動面38の深さ方向Paと直交する方向をいう。
以上の第1キャリア部材32では、転動面38が表層領域46の表面に設けられ、第1穴部40-Aが母材領域42に設けられる。つまり、第1穴部40-Aは母材領域42にのみ設けられ、表面硬化層44には設けられない。よって、第1キャリア部材32の加工素材となるワークに関して、高硬度の表面硬化層44ではなく低硬度の母材領域42に第1穴部40-Aを設けるための穿孔加工をできる。このため、そのワークの加工時の加工性が良好になる。
また、表面硬化層44には、深さ方向Paに向かって硬度が急激に減少しない表層領域46が設けられているため、有効硬化層の深さを確保し易くなる。また、表面硬化層44には、深さ方向Paに向かって硬度が急激に減少する硬度遷移領域48が設けられているため、全硬化層深さを浅くし易くなる。よって、転動面38に穴部40を近づけることで、第1キャリア部材32を小型化する設計が許容されるようになる。本実施形態の例でいえば、転動面38に穴部40を軸方向に近づけることで、第1キャリア部材32を軸方向に小型化する設計が許容されるようになる。この結果、前述のワークの加工時の良好な加工性のみならず、表面硬化層44の十分な有効硬化層深さと、第1キャリア部材32の小型化とをバランスよく実現し易くなる。
また、第1キャリア部材32は、第1転動面38-Aと第1穴部40-Aが単一の部材の一部として設けられている。よって、減速装置10の部品点数の増大を招くことなく、前述の効果を得られる。
次に、第1キャリア部材32の硬度分布の好ましい条件を説明する。
表層領域46の表面にある転動面38から硬度遷移領域48の開始点までの深さ(以下、遷移開始深さという)は、0.5mm~1.5mmの範囲であると好ましい。この遷移開始深さが0.5mm未満となると、硬度遷移領域48の開始点が浅くなりすぎ、有効硬化層の深さが不足する恐れがある。この遷移開始深さが1.5mm超となると、硬度遷移領域48の開始点が深くなりすぎ、ワークの加工時の加工性を確保するうえで、転動面38から穴部40までの距離が長くなる恐れがある。この遷移開始深さの条件を満たしていれば、前述のワークの加工時の加工性と、表面硬化層44の十分な有効硬化層深さと、第1キャリア部材32の小型化とをよりバランスよく実現し易くなる。
表層領域46の表面にある転動面38から母材領域42の開始点までの距離、つまり、転動面38から硬度遷移領域48の終了点までの深さ(以下、遷移終了深さという)は、0.8mm~2.0mmの範囲であると好ましい。この遷移終了深さが0.8mm未満となると、硬度遷移領域48の終了点が浅くなりすぎ、有効硬化層の深さが不足する恐れがある。この遷移終了深さが2.0mm超であると、硬度遷移領域48の終了点が深くなりすぎ、ワークの加工時の加工性を確保するうえで、転動面38から穴部40までの距離が長くなる恐れがある。この遷移終了深さの条件を満たしていれば、前述のワークの加工時の加工性と、表面硬化層44の十分な有効硬化層深さと、第1キャリア部材32の小型化とをよりバランスよく実現し易くなる。
図5は、第1キャリア部材32の硬度分布の一例を示す他のグラフである。本グラフでは、後述する実施例3、4、参考例1、2の第1キャリア部材32の硬度分布を示す。詳細は後述するが、実施例1~4は、第1キャリア部材32の転動面38に対する表面硬化処理としてレーザー焼入れを用いている。一方、参考例1は窒化処理を用いており、参考例2は高周波焼入れを用いている。
前述の遷移開始深さ、遷移終了深さの条件は、表面硬化処理としてレーザー焼入れを用いることで満たせるようになる。表面硬化処理として窒化処理を用いた場合、参考例1に示すように、第1キャリア部材32の転動面38から深さ方向Paに向かって非常に浅い範囲でのみ焼入れされる。この場合、表面硬化層44に表層領域46が存在しなくなる。また、この場合、遷移開始深さは0.1mm~0.2mm、遷移終了深さは0.8mm未満の範囲となり、何れの条件も満たせない。表面硬化処理として高周波焼入れを用いた場合、参考例2に示すように、第1キャリア部材32の転動面38から深さ方向Paに向かって非常に深い範囲に亘り焼入れされる。この場合、遷移開始深さや遷移終了深さが2.0mm超の大きさとなり、何れの条件も満たせない。図示はしないが、表面硬化処理として高周波焼入れを用いた場合、遷移開始深さや遷移終了深さが5.0mm以上の大きさとなる。ワークの加工時の加工性を確保するうえで、転動面38から穴部40までの距離が長くなり過ぎることになる。
なお、前述の表面硬化層44は、第1キャリア部材32の転動面38の全周に亘る範囲で設けられる。このような表面硬化層44は、後述するように、レーザー焼入れと同時にワークを水冷することで得られる。
次に、第1キャリア部材32の素材となるワークの加工方法を説明する。
本加工方法は、ワークを焼入れする焼入れ工程と、ワークを穿孔する穿孔工程とを含む。本加工方法の加工対象となるワークは切削加工等により準備する。この加工対象となるワークは、第1キャリア部材32の穴部40となるべき部位に穴部40がない形状を持つ。
焼入れ工程では、レーザー光を用いてワークを焼入れするレーザー焼入れを用いる。焼入れ工程では、回転治具(不図示)によってワークを回転中心線La周りに回転可能に支持する。ワークの転動面38となるべき部位には、レーザーヘッドから所定の出力のレーザー光を照射する。レーザー光の出力は、ワークの組成に応じた焼入れ温度を超える昇温状態が得られるように設定される。レーザーヘッドからは、ワークの転動面38となるべき部位の幅方向Pbの全長に亘る範囲にレーザー光を照射する。この状態で、ワークを回転中心線La周りに所定の回転速度で回転させることで、ワークの転動面38となるべき部位を周方向に焼入れする。これにより、ワークの転動面38となるべき部位には、表面から深さ方向Paに向かって表面硬化層44が設けられる。このとき、ワークの穴部40となるべき部位は焼入れされないようにレーザー光を照射しないこととし、母材領域42を残すようにする。
この表面硬化層44の硬度分布はワークの組成に応じたものとなる。よって、前述した条件の硬度分布を満たせる組成のワークを準備することになる。このワークの組成は、たとえば、SCM440、AISI4150等のクロムモリブデン鋼鋼材であるが、これらに限られるものではなく、実験的検討により定めればよい。
本実施形態の焼入れ工程では、ワークの転動面38となるべき部位に全周に亘り表面硬化層44が設けられるように焼入れする。これを実現するため、所定の回転速度で回転するワークに、所定の出力のレーザー光を照射して焼入れしつつ水冷する。回転速度、出力は、リング型コイルで加熱している昇温状態が擬似的に得られるように、十分に早い回転速度及び十分に高い出力に設定される。水冷は、大出力のレーザー光を用いることに伴い、レーザー焼入れの特徴である自己冷却が効き難くなるため、焼入れに必要な冷却速度を確保するために行われる。この回転速度、レーザー光の出力の大きさや、水冷条件は、例えば、実験的検討により定めればよい。
穿孔工程では、焼入れ工程で焼入れしたワークの穴部となるべき部位にある母材領域42を穿孔する。本実施形態の穿孔工程では、ワークの穴部となるべき部位にタップを用いて穿孔し、雌ねじ部を形成するようにする。このとき、ワークの穴部となるべき部位には母材領域42が設けられているため、ワークの加工時の加工性が良好となる。
なお、焼入れ工程では、ワークの転動面38となるべき部位の表面に熱吸収率に優れた吸収材を塗布したうえで、その吸収材にレーザー光を照射してもよい。この吸収材は、たとえば、グラファイト等である。これにより、ワークの転動面38となるべき部位の熱吸収量を増大させることができ、そのワークに穿孔工程を経て得られる穴付部材に関して、前述の遷移開始深さや遷移終了深さを深くできる。
以下、本発明の実施例を説明する。実施例は、本発明を好適に説明するための例示に過ぎず、なんら本発明を限定するものではない。
まず、前述した第1キャリア部材32の外形を持つワークを試作した。試作したワークには、実施例1、3、4、参考例1、2として、SCM440を用いたワークと、実施例2として、AISI4150を用いたワークが含まれる。
試作したワークの転動面38には複数種類の表面硬化処理を施した。実施例1、3では、ワークを回転させた状態で、レーザー焼入れにより焼入れ温度以上の温度で加熱しつつ、水冷により冷却することで焼入れした。実施例2、4では、ワークの転動面38に吸収材としてグラファイトを塗布した他は、実施例1、3と同じ条件のレーザー焼入れによる表面硬化処理を施した。参考例1では、ワークの転動面38にフッ素系ガスを用いた窒化処理による表面硬化処理を施した。参考例2では、ワークの転動面38に高周波焼入れによる表面硬化処理を施した。この高周波焼入れは、焼入れ温度以上の温度で加熱した後に水冷により冷却することで行った。
表面硬化処理を施したワークからは、転動面38から深さ方向Paに向かって複数の箇所から試験片を切り出し、複数の試験片をビッカース硬さ試験に供することとした。
図4は、実施例1、2の試験結果を示す。図5は、実施例3、4、参考例1、2の試験結果を示す。図4、図5に示すように、レーザー焼入れを施した実施例1~4では、前述した硬度分布を満たす表層領域46、硬度遷移領域48が表面硬化層44に設けられている。なお、前述した表層領域46のビッカース硬度の最大値と最小値の第1差分値Δは、実施例1~4では、それぞれ44.4、97.3、35.8、50.1となる。
以上、本発明の実施形態の例について詳細に説明した。前述した実施形態は、いずれも本発明を実施するにあたっての具体例を示したものにすぎない。実施形態の内容は、本発明の技術的範囲を限定するものではなく、請求の範囲に規定された発明の思想を逸脱しない範囲において、構成要素の変更、追加、削除等の多くの設計変更が可能である。前述の実施形態では、このような設計変更が可能な内容に関して、「実施形態の」「実施形態では」等との表記を付して説明しているが、そのような表記のない内容に設計変更が許容されないわけではない。また、図面の断面に付したハッチングは、ハッチングを付した対象の材質を限定するものではない。
減速装置10は撓み噛み合い型減速装置を例に説明したが、その種類は特に限られない。たとえば、偏心揺動型減速装置等でもよいし、遊星歯車機構、直交軸歯車機構、平行軸歯車機構等の何れかを含む減速装置でもよい。また、筒型の撓み噛み合い型減速装置を例に説明したが、撓み噛み合い型減速装置の種類は特に限られない。たとえば、内歯歯車が一つのカップ型又はシルクハット型の撓み噛み合い型減速装置に適用されてもよい。
転動面38と穴部40が設けられた穴付部材として、ケーシング12と第1キャリア部材32とを例に説明したが、その具体例はこれに限られない。また、転動体16を間に挟んで配置される第1部材及び第2部材の両方が穴付部材である例を説明したが、少なくとも一方が穴付部材であればよい。
以上の穴付部材の硬度分布に関する条件は、表面硬化処理としてレーザー焼入れを用いる場合、ワークの組成、熱処理条件を適宜に設定することで満たせる。ここでの硬度分布に関する条件とは、前述の表層領域46と硬度遷移領域48が表面硬化層44に設けられる点や、遷移開始深さや遷移終了深さに関する数値条件をいう。ここでの熱処理条件とは、たとえば、ワークに照射されるレーザー光の出力(kW)や、ワークの表面への吸収材の塗布の有無に関する条件をいう。このレーザー光の出力を大きくすると、穴付部材の転動面から深さ方向Paに向かって焼入れされる範囲が広がり、遷移開始深さや遷移終了深さを深くし易くなる。また、ワークの表面に吸収材を塗布すると、吸収材を塗布しない場合と比べて、遷移開始深さや遷移終了深さを深くし易くなる。前述の穴付部材の硬度分布を満たすための諸条件は、このような事項を考慮のうえ、実験や解析等を経て定めればよい。
実施例では、穴付部材に適用される表面硬化処理の例として、レーザー焼入れを説明したが、これに限定されない。この表面硬化処理は、穴付部材の表面から硬度遷移領域まで連続し、硬度変化量が0以上になる箇所を含む表層領域と、深さ方向に向かって硬度が連続的に減少し、硬度変化量が-60以下になる箇所を含む硬度遷移領域とを得られるものであればよい。
10…減速装置、16…転動体、38…転動面、40…穴部、42…母材領域、44…表面硬化層、46…表層領域、48…硬度遷移領域。

Claims (4)

  1. 穴部が設けられた穴付部材を備える減速装置であって、
    前記穴付部材には、母材領域と、前記母材領域より表面側にて前記母材領域より高硬度の表面硬化層とが設けられ、
    前記表面硬化層には、表面から垂直な深さ方向に向かって表層領域と硬度遷移領域が順に設けられ、
    前記深さ方向に対する0.1mm当たりのビッカース硬度の変化量を硬度変化量としたとき、
    前記表層領域は、前記表面から前記硬度遷移領域まで連続し、前記硬度変化量が0以上になる箇所を含み、
    前記硬度遷移領域は、前記深さ方向に向かって硬度が連続的に減少し、前記硬度変化量が-60以下になる箇所を含み、
    前記表層領域の表面から前記硬度遷移領域までの深さは1.5mm未満であり、
    前記穴部は、前記表面に対して前記深さ方向に重なる位置、又は、前記穴部の穿孔方向に前記表面硬化層と重なる位置であって、前記母材領域に設けられる減速装置。
  2. 前記表層領域の表面から前記硬度遷移領域までの深さは0.5mm~1.5mmの範囲である請求項1に記載の減速装置。
  3. 前記表層領域の表面から前記母材領域までの深さは0.8mm~2.0mmの範囲である請求項1または2に記載の減速装置。
  4. 前記穴付部材は、前記表面硬化層が設けられた部分と前記穴部が単一の部材の一部として設けられている請求項1または2に記載の減速装置。
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