JP2023111516A - 脂質の製造方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】微細藻類の浮上性を向上させて回収効率を向上させる脂質の製造方法、及び微細藻類の浮上性を向上させた形質転換体を提供する。【解決手段】下記(A)~(C)からなる群より選ばれる少なくとも1つの改変がされた微細藻類の形質転換体を培養し、脂肪酸又はこれを構成成分とする脂質を生産させ、浮上分離により前記形質転換体を回収し、回収した形質転換体から脂質を得る、脂質の製造方法。(A)トリアシルグリセロール合成経路関連タンパク質をコードする少なくとも1種の遺伝子の発現を促進させる改変(B)カルビン回路関連タンパク質をコードする少なくとも1種の遺伝子の発現を促進させる改変(C)細胞壁合成経路関連タンパク質をコードする少なくとも1種の遺伝子の発現を抑制させる改変【選択図】なし

Description

本発明は、脂質の製造方法に関する。また本発明は、当該方法に用いる形質転換体に関する。
脂肪酸は脂質の主要構成成分の1種であり、生体内においてグリセリンとのエステル結合により生成するトリアシルグリセロール(以下、単に「TAG」ともいう)等の脂質を構成する。また、多くの動植物において脂肪酸はエネルギー源として貯蔵され利用される物質でもある。動植物内に蓄えられた脂肪酸や脂質は、食用又は工業用として広く利用されている。
例えば、炭素原子数12~18前後の高級脂肪酸を還元して得られる高級アルコールの誘導体は、界面活性剤として用いられている。アルキル硫酸エステル塩やアルキルベンゼンスルホン酸塩等は陰イオン性界面活性剤として利用されている。また、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルやアルキルポリグリコシド等は非イオン性界面活性剤として利用されている。そしてこれらの界面活性剤は、いずれも洗浄剤又は殺菌剤に利用されている。同じく高級アルコールの誘導体としてアルキルアミン塩やモノ又はジアルキル4級アンモニウム塩等のカチオン性界面活性剤は、繊維処理剤や毛髪リンス剤又は殺菌剤に日常的に利用されている。また、ベンザルコニウム型4級アンモニウム塩は殺菌剤や防腐剤に日常的に利用されている。さらに、植物由来の油脂はバイオディーゼル燃料の原料としても利用されている。
また、炭素原子数が18以上の長鎖脂肪酸は炭素原子数や不飽和度によって化学的性質が異なり、例えばエイコサペンタエン酸やドコサヘキサエン酸といった長鎖多価不飽和脂肪酸の多くは動物の生体内では合成できない必須脂肪酸であり、機能性食品などに用いられている。
このように脂肪酸や脂質の利用は多岐にわたる。そのため、植物等において生体内での脂肪酸や脂質の生産性を向上させる試みが行われている。
近年、持続可能な社会の実現に向けて再生可能エネルギーに関する研究が推し進められている。特に光合成微生物は、二酸化炭素の削減効果に加えて、穀物と競合しないバイオ燃料生物として期待されている。
特に近年、バイオ燃料生産に有用であるとして、藻類が注目を集めている。藻類は、バイオディーゼル燃料として利用可能な脂質を光合成によって生産でき、しかも食料と競合しないことから、次世代のバイオマス資源として注目されている。また、藻類は、植物に比べ、高い脂質生産・蓄積能力を有するとの報告もある。
一般的には、例えば上記藻類として微細藻類を用いて脂質を生産させる場合、培養した微細藻類を遠心分離機等を用いることで分離回収し、回収された微細藻類から脂質を抽出する方法が採用されている。しかしながら、このような回収方法は設備投資等の観点から製造コストが高くなるというデメリットがある。また、遠心分離機等を用いて藻体を分離回収する場合には、遠心分離によりオイル生産量が低く比重の重い藻体が優先的に沈殿して回収されやすく、オイル生産量が高く比重の軽い藻体は沈殿しづらく回収されにくいというデメリットもある。そのため、より低コストでより簡便に、又はオイル生産量が高い藻体を選択的に回収する方法が提案されてきている。
例えば特許文献1には、シュードコリシスチス(Pseudochoricystis)属又はコリシスチス(Choricystis)属に属する炭化水素生産能を有する微細藻類を含有する原水から該微細藻類を分離回収する方法であって、微細藻類を含有する原水に難溶性水酸化物を生成する溶解性金属塩を添加した後、前記原水を難溶解性水酸化物が生成するpHに調整する水酸化物生成工程と、析出した難溶解性水酸化物により微細藻類を凝集させる凝集工程と、ここで生成した凝集フロックを固液分離する固液分離工程とを有することを特徴とする炭化水素生産能を有する微細藻類の回収方法が開示されている。
また、特許文献2には、液中のボトリオコッカス(Botryococcus)藻体に、重イオンビーム又はX線を照射する工程及び浮遊したオイル高生産ボトリオコッカス藻体を採取する工程を含む、オイル高生産ボトリオコッカス藻体の分離方法が開示されている。
特開2014-100121号公報 特開2017-136000号公報
前述のように、微細藻類を凝集することで回収効率を向上させる方法が開示されているが、特に開放型のオープンポンド方式による屋外培養や大型のフォトバイオリアクターを用いた大量培養を行った場合、個々の微細藻類の生育度のバラつきが大きくなるため、特許文献1に記載の方法では脂質を十分に蓄積した微細藻類だけでなく、まだ脂質を十分に蓄積できていない微細藻類までも回収されてしまい、脂質を十分に蓄積した微細藻類を選択的に回収することができない。
また、特許文献2に記載の方法では、オイル生産量の多い藻体を選択的に回収できるものの、重イオンビーム又はX線の照射を藻体に行う必要があり、設備コストがかかると同時に屋外培養やラージスケールでの培養には不向きである。
本発明は、微細藻類の浮上性を向上させて回収効率を向上させる、脂質の製造方法を提供することを課題とする。
また本発明は、微細藻類の浮上性を向上させた形質転換体を提供することを課題とする。
本発明者は上記課題に鑑み、鋭意検討を行った。発明者らが微細藻類の浮上性についてより詳細に解析した結果、微細藻類の培養時間に比例して浮上性が向上することを見出した。そしてこの浮上性の向上は、培養に伴い細胞あたりの油脂量が高くなることで、培地よりも比重が小さくなるために生じるものであると考えられた。この考察を踏まえてさらに検討を重ね、より脂質の生産能が向上している生産株や、細胞自体の比重を小さくした生産株を用いることにより、当該生産株において浮上性を向上させることができ、脂質を十分に蓄積した微細藻類を選択的に、より簡便に、低コストに回収することができることを初めて見出した。
本発明はこれらの知見に基づいて完成するに至ったものである。
本発明は、下記(A)~(C)からなる群より選ばれる少なくとも1つの改変がされた微細藻類の形質転換体を培養し、脂肪酸又はこれを構成成分とする脂質を生産させ、浮上分離により前記形質転換体を回収し、回収した形質転換体から脂質を得る、脂質の製造方法に関する。

(A)トリアシルグリセロール合成経路(以下、「TAG合成経路」ともいう)関連タンパク質をコードする少なくとも1種の遺伝子の発現を促進させる改変
(B)カルビン回路(以下、「CBB回路」ともいう)関連タンパク質をコードする少なくとも1種の遺伝子の発現を促進させる改変
(C)細胞壁合成経路関連タンパク質をコードする少なくとも1種の遺伝子の発現を抑制させる改変
また本発明は、下記(A)~(C)からなる群より選ばれる少なくとも1つの改変がされた微細藻類の形質転換体を培養し、脂肪酸又はこれを構成成分とする脂質を生産させ、浮上分離により前記形質転換体を回収する、形質転換体の回収方法に関する。

(A)トリアシルグリセロール合成経路関連タンパク質をコードする少なくとも1種の遺伝子の発現を促進させる改変
(B)カルビン回路関連タンパク質をコードする少なくとも1種の遺伝子の発現を促進させる改変
(C)細胞壁合成経路関連タンパク質をコードする少なくとも1種の遺伝子の発現を抑制させる改変
また本発明は、前記(A)~(C)の改変がされた微細藻類の形質転換体に関する。
本発明の脂質の製造方法及び形質転換体の回収方法によれば、浮上性が向上した微細藻類の形質転換体を用いることにより、脂質を高生産している藻体を、より効率的に回収することができる。
また本発明の形質転換体は、TAG合成経路関連タンパク質をコードする遺伝子、及びCBB回路関連タンパク質をコードする遺伝子の発現が促進されており、また細胞壁合成経路関連タンパク質をコードする遺伝子の発現が抑制されているため、浮上性に優れる。
本発明の脂質の製造方法に用いる微細藻類の形質転換体と野生株について、通常光条件下で17日目間培養した微細藻類及び強光条件下で14日目培養した微細藻類を回収後、遠心分離を行い沈殿しない細胞のみを回収し、再度懸濁した後に24時間静置させたときの浮上性を示す図面代用写真である。
本明細書における「脂質」は、中性脂質(トリアシルグリセロール等)、ろう、セラミド等の単純脂質;リン脂質、糖脂質、スルホ脂質等の複合脂質;及びこれらの脂質から誘導される、脂肪酸(遊離脂肪酸)、アルコール類、炭化水素類等の誘導脂質を包含するものである。
一般に誘導脂質に分類される脂肪酸は、脂肪酸そのものを指し、「遊離脂肪酸」を意味する。本発明では単純脂質及び複合脂質分子中の脂肪酸部分を「脂肪酸残基」と表記する。そして、特に断りのない限り、「脂肪酸」は「遊離脂肪酸」と、塩又はエステル化合物等に含まれる「脂肪酸残基」の総称として用いる。
また本明細書において、「脂肪酸又はこれを構成成分とする脂質」は、「遊離脂肪酸」と「当該脂肪酸残基を有する脂質」を総称して用いる。更に本明細書において、「脂肪酸組成」とは、前記遊離脂肪酸と脂肪酸残基とを合計した全脂肪酸(総脂肪酸)の重量に対する各脂肪酸の重量の割合を意味する。脂肪酸の重量(生産量)や脂肪酸組成は、実施例で用いた方法により測定できる。
なお、本明細書において、「脂肪酸」とは、脂肪族カルボン酸であれば特に制限はない。例えば、アシル基の炭素原子数が2以上22以下の脂肪酸であってもよく、炭素原子数が4以上22以下の脂肪酸であってもよく、炭素原子数が6以上22以下の脂肪酸であってもよく、炭素原子数が8以上22以下の脂肪酸であってもよく、炭素原子数が10以上22以下の脂肪酸であってもよく、炭素原子数が12以上20以下の脂肪酸であってもよい。
さらに本明細書において、脂肪酸や、脂肪酸を構成するアシル基の表記において「Cx:y」とあるのは、炭素原子数がxであり、二重結合の数がyであることを表す。「Cx」は炭素原子数がxの脂肪酸やアシル基を表す。
本明細書において、塩基配列及びアミノ酸配列の同一性は、Lipman-Pearson法(Science,1985,vol.227,p.1435-1441)によって計算される。具体的には、遺伝情報処理ソフトウェアGenetyx-Winのホモロジー解析(Search homology)プログラムを用いて、Unit size to compare(ktup)を2として解析を行うことにより算出される。
また本明細書において「ストリンジェントな条件」としては、例えばMolecular Cloning-A LABORATORY MANUAL THIRD EDITION[Joseph Sambrook,David W.Russell.,Cold Spring Harbor Laboratory Press]記載の方法が挙げられる。例えば、6×SSC(1×SSCの組成:0.15M塩化ナトリウム、0.015Mクエン酸ナトリウム、pH7.0)、0.5%SDS、5×デンハート及び100mg/mLニシン精子DNAを含む溶液にプローブとともに65℃で8~16時間恒温し、ハイブリダイズさせる条件が挙げられる。
さらに明細書において、遺伝子の「上流」とは、翻訳開始点からの位置ではなく、対象として捉えている遺伝子又は領域の5'側に続く領域を示す。一方、遺伝子の「下流」とは、対象として捉えている遺伝子又は領域の3'側に続く領域を示す。
本発明ないし本明細書において、「浮上性」とは、遠心分離や静置により沈殿しない、又は液面に浮上する性質・性能を意味する。
また本発明ないし本明細書において、「浮上性の向上」とは、同一の培養条件にて同一日数培養した陰性対照の藻類株(宿主、野生株)と比較して、一定の遠心分離や静置処理によって沈殿しない細胞(液面に浮上した細胞を含む)の割合・量が向上していること、又は一定の遠心分離や静置によって液面に浮上する細胞の割合・量が向上していることを意味する。本発明の形質転換体において浮上性が向上していることは、培養した藻類細胞を遠心分離に供する、あるいは静置することにより、目視で、又は各分画における藻類細胞の細胞数や重さを測定することにより確認することができる。遠心分離の条件としては特に制限がなく、例えば21600×gで10分間遠心する条件が挙げられる。
前述の通り、本発明の脂質の製造方法に用いる形質転換体は、微細藻類に、下記(A)~(C)からなる群より選ばれる少なくとも1つの改変がされた形質転換体である。

(A)TAG合成経路関連タンパク質をコードする少なくとも1種の遺伝子(以下、「TAG合成経路遺伝子」ともいう)の発現を促進させる改変
(B)CBB回路関連タンパク質をコードする少なくとも1種の遺伝子(以下、「CBB回路遺伝子」ともいう)の発現を促進させる改変
(C)細胞壁合成経路関連タンパク質をコードする少なくとも1種の遺伝子(以下、「細胞壁合成経路遺伝子」ともいう)の発現を抑制させる改変

上記(A)~(C)のいずれかの改変がされることにより、得られる形質転換体は浮上性が向上するため回収効率が向上し、本発明の脂質の製造方法に好適に用いることができる。
本発明の脂質の製造方法に用いる形質転換体は、浮上性向上の観点から、上記(A)~(C)のうち2つ以上の改変がされていることが好ましく、上記(A)及び/又は(B)並びに下記(C)の改変がされていることがより好ましく、上記(A)~(C)の全て((A)、(B)及び(C))の改変がされていることがさらに好ましい。
前記「TAG合成経路関連タンパク質」とは、TAG合成経路に関与するタンパク質であれば特に制限はなく、TAG合成経路を構成する酵素であることが好ましい。
本発明に用いる微細藻類の形質転換体において、TAG合成経路に関与するタンパク質をコードする遺伝子の発現を促進することで、脂質の生産性を向上させることができ、かつ浮上性を向上させることができる。
前記TAG合成経路関連タンパク質としては、例えばアシル-CoAシンテターゼ(以下、「ACS」ともいう)、グリセロール-3-リン酸デヒドロゲナーゼ(以下、「G3PDH」ともいう)、グリセロール3リン酸アシルトランスフェラーゼ(以下、「GPAT」ともいう)、リゾホスファチジン酸アシルトランスフェラーゼ(以下、「LPAAT」ともいう)、及びジアシルグリセロールアシルトランスフェラーゼ(以下、「DGAT」ともいう)等のアシル基転移酵素(以下、「ATともいう」)、ホスファチジン酸ホスファターゼ(以下、「PAP」ともいう)、等が挙げられる。
なかでも浮上性向上の観点から、ACSをコードする遺伝子又はAT(好ましくはDGAT)をコードする遺伝子の発現が促進されていることが好ましく、ACSをコードする遺伝子及びAT(好ましくはDGAT)をコードする遺伝子の発現が促進されていることがより好ましい。
本発明で用いることができるATは特に限定されず、アシルトランスフェラーゼ活性(以下、「AT活性」ともいう)を有するタンパク質であればよい。ここで「AT活性」とは、グリセロール3リン酸、リゾホスファチジン酸、ジアシルグリセロールなどのグリセロール化合物のアシル化を触媒する活性を意味する。
ATは、グリセロール3リン酸、リゾホスファチジン酸、ジアシルグリセロールなどのグリセロール化合物のアシル化を触媒するタンパク質である。遊離脂肪酸にCoAが結合した脂肪酸アシルCoA、又はアシルACPは、各種ATによってグリセロール骨格へと取り込まれ、グリセロール1分子に対して脂肪酸3分子がエステル結合してなるTAGとして蓄積される。
そのため、ATをコードする遺伝子の発現を促進させることで、形質転換体の脂質の生産性(特に脂肪酸の生産性)を向上させることができ、培養時間の経過とともに形質転換体内に蓄積される脂質量が増加して形質転換体の比重が軽くなり、結果として形質転換体の浮上性を向上させることができる。
本発明に用いるタンパク質がAT活性を有することは、例えば、トリアシルグリセロール合成遺伝子欠損株を用いた系により確認することができる。あるいは、宿主細胞内で機能するプロモーターの下流に前記タンパク質をコードする遺伝子を連結したDNAを宿主細胞内へ導入し、導入した遺伝子が発現する条件下で細胞を培養した後、細胞の破砕液に対し、グリセロール3リン酸(以下、「G3P」ともいう)、リゾホスファチジン酸(以下、「LPA」ともいう)、ジアシルグリセロール(以下、「DAG」ともいう)のいずれかの受容体とともに、供与体としてアシルCoAや各種リン脂質、各種糖脂質などを添加した系において、G3PからLPA、LPAからDAG、DAGからTAGが合成されるか検討を行うことにより確認できる。
本発明で用いることができるATは、通常のATや、それらと機能的に均等なタンパク質から、宿主の種類等に応じて適宜選択することができる。本発明における好ましいATとしては、下記タンパク質(D)又は(E)が挙げられる。

(D)配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質。
(E)前記タンパク質(D)のアミノ酸配列と同一性が60%以上のアミノ酸配列からなり、かつAT活性を有するタンパク質。

なお、本発明に用いるタンパク質のアミノ酸配列情報、及びこれをコードする遺伝子の配列情報等は、例えば、国立生物工学情報センター(National Center for Biotechnology Information, NCBI)などから入手することができる。
配列番号1で表されるアミノ酸配列からなる前記タンパク質(D)は、ナンノクロロプシス(Nannochloropsis)属に属する藻類であるナンノクロロプシス・オセアニカ(Nannochloropsis oceanica)NIES-2145株由来のAT(DGAT2-8)である。配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質(前記タンパク質(D))はAT活性を有する。
一般に、酵素タンパク質をコードしているアミノ酸配列は、必ずしも全領域の配列が保存されていなければ酵素活性を示さないというものではなく、アミノ酸配列が変化しても酵素活性に影響を与えない領域も存在することが知られている。このような酵素活性に必須でない領域においては、アミノ酸の欠失、置換、挿入又は付加といった変異が導入されても酵素本来の活性を維持することができる。本発明においても、このように目的の酵素活性が保持され、かつ酵素タンパク質のアミノ酸配列が一部変異したタンパク質を用いることができる。
アミノ酸配列に変異を導入する方法としては、例えば、アミノ酸配列をコードする塩基配列に変異を導入する方法が挙げられる。変異を導入する方法としては、部位特異的な変異導入法が挙げられる。具体的な部位特異的変異の導入方法としては、Splicing overlap extension(SOE)PCR(Horton et al.,Gene 77,61-68,1989)を利用した方法、ODA法(Hashimoto-Gotoh et al.,Gene,152,271-276,1995)、Kunkel法(Kunkel,T. A.,Proc. Natl. Acad. Sci. USA,1985,82,488)等が挙げられる。また、Site-Directed Mutagenesis System Mutan-SuperExpress Kmキット(タカラバイオ社)、Transformer TM Site-Directed Mutagenesisキット(Clontech社)、KOD-Plus-Mutagenesis Kit(東洋紡社)等の市販のキットを利用することもできる。また、ランダムな遺伝子変異を与えた後、適当な方法により酵素活性の評価及び遺伝子解析を行うことにより目的遺伝子を取得することもできる。
前記タンパク質(E)において、AT活性の点から、前記タンパク質(D)のアミノ酸配列との同一性は60%以上であり、65%以上が好ましく、70%以上がより好ましく、75%以上がより好ましく、80%以上がより好ましく、85%以上がより好ましく、90%以上がより好ましく、93%以上がより好ましく、95%以上がより好ましく、97%以上がより好ましく、98%以上がより好ましく、99%以上がさらに好ましい。
また、前記タンパク質(E)として、前記タンパク質(D)のアミノ酸配列に、1又は複数個(例えば1個以上145個以下、好ましくは1個以上127個以下、より好ましくは1個以上108個以下、より好ましくは1個以上90個以下、より好ましくは1個以上72個以下、より好ましくは1個以上54個以下、より好ましくは1個以上36個以下、より好ましくは1個以上25個以下、より好ましくは1個以上18個以下、より好ましくは1個以上10個以下、より好ましくは1個以上7個以下、より好ましくは1個以上3個以下)のアミノ酸が欠失、置換、挿入又は付加されており、かつAT活性を有するタンパク質が挙げられる。
前記タンパク質(E)としては、例えば配列番号85で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質、又は配列番号85で表されるアミノ酸配列と同一性が75%(好ましくは80%、好ましくは85%、より好ましくは90%、より好ましくは95%、さらにより好ましくは98%)以上のアミノ酸配列からなり、かつAT活性を有するタンパク質が挙げられる。配列番号85で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質は、ナンノクロロプシス・ガディタナ(Nannochloropsis gaditana)由来のAT(DGAT)である。なお、配列番号85で表されるアミノ酸配列と配列番号1で表されるアミノ酸配列(タンパク質(D)のアミノ酸配列)との同一性は81%であり、類似性は90%である。
また、本発明で用いることができるATは、前記タンパク質(D)及び(E)のアミノ酸配列に、タンパク質の輸送に関与するシグナルペプチド、又はタンパク質の安定性を高める既知のアミノ酸配列等が付加されたアミノ酸配列からなるタンパク質であってもよい。
前記タンパク質(D)及び(E)は、通常の化学的手法、遺伝子工学的手法等により得ることができる。例えば、ナンノクロロプシス・オセアニカから単離、精製等することで天然物由来のタンパク質を取得することができる。また、配列番号1に示すアミノ酸配列情報をもとに人工的に化学合成することで、前記タンパク質(D)及び(E)を得ることができる。あるいは、遺伝子組み換え技術により、組換えタンパク質として前記タンパク質(D)及び(E)を作製してもよい。組換えタンパク質を作製する場合には、後述するATをコードする遺伝子を用いることができる。
また本発明で用いるATは、1種でもよいし、2種以上のATを組合せて用いてもよい。
ナンノクロロプシス・オセアニカ等の藻類は、私的又は公的な研究所等の保存機関より入手することができる。例えば、ナンノクロロプシス・オセアニカNIES-2145株は、国立環境研究所(NIES)から入手することができる。
前記AT(好ましくは前記タンパク質(D)又は(E))をコードする遺伝子(以下、「AT遺伝子」ともいう)として、下記DNA(d)又は(e)からなる遺伝子が挙げられる。

(d)配列番号2で表される塩基配列からなるDNA。
(e)前記DNA(d)の塩基配列と同一性が60%以上の塩基配列からなり、かつAT活性を有するタンパク質をコードするDNA。

配列番号2で表される塩基配列は、配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質(DGAT2-8)をコードする遺伝子(以下、「DGAT2-8遺伝子」ともいう)の塩基配列である。
前記DNA(e)において、AT活性の点から、前記DNA(d)の塩基配列との同一性は60%以上であり、65%以上が好ましく、70%以上がより好ましく、75%以上がより好ましく、80%以上がより好ましく、85%以上がより好ましく、90%以上がより好ましく、93%以上がより好ましく、95%以上がより好ましく、97%以上がより好ましく、98%以上がより好ましく、99%以上がさらに好ましい。
また前記DNA(e)として、前記DNA(d)の塩基配列において1又は複数個(例えば1個以上526個以下、好ましくは1個以上436個以下、好ましくは1個以上382個以下、より好ましくは1個以上327個以下、より好ましくは1個以上273個以下、より好ましくは1個以上218個以下、より好ましくは1個以上163個以下、より好ましくは1個以上109個以下、より好ましくは1個以上76個以下、より好ましくは1個以上54個以下、より好ましくは1個以上32個以下、より好ましくは1個以上21個以下、より好ましくは1個以上10個以下)の塩基が欠失、置換、挿入、又は付加されており、かつAT活性を有するタンパク質をコードするDNAも好ましい。
さらに前記DNA(e)として、前記DNA(d)と相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件でハイブリダイズし、かつAT活性を有するタンパク質をコードするDNAも好ましい。
前記DNA(e)としては、例えば配列番号86で表される塩基配列からなるDNA、又は配列番号86で表される塩基配列と同一性が80%(好ましくは85%、より好ましくは90%、より好ましくは95%、さらにより好ましくは98%)以上の塩基配列からなり、かつAT活性を有するタンパク質をコードするDNAが挙げられる。配列番号86で表される塩基配列からなるDNAは、ナンノクロロプシス・ガディタナ由来のAT(DGAT)をコードする遺伝子である。なお、配列番号86で表される塩基配列と配列番号2で表される塩基配列(DNA(d)の塩基配列)との同一性は75%である。
また、本発明で用いることができるAT遺伝子として、前記DNA(d)又は(e)の塩基配列にタンパク質の輸送に関与するシグナルペプチド、又はタンパク質の安定性を高める既知のアミノ酸配列等をコードするDNAが付加された塩基配列からなる遺伝子であってもよい。
変異としては、塩基の欠失、置換、付加、又は挿入が挙げられる。塩基配列に変異を導入する方法としては、例えば、部位特異的な変異導入法が挙げられる。具体的な部位特異的変異の導入方法としては、SOE-PCRを利用した方法、ODA法、Kunkel法等が挙げられる。また、Site-Directed Mutagenesis System Mutan-SuperExpress Kmキット(タカラバイオ社)、Transformer TM Site-Directed Mutagenesisキット(Clontech社)、KOD-Plus-Mutagenesis Kit(東洋紡社)等の市販のキットを利用することもできる。また、ランダムな遺伝子変異を与えた後、適当な方法により酵素活性の評価及び遺伝子解析を行うことにより目的遺伝子を取得することもできる。
前記DNA(d)及び(e)は、通常の遺伝子工学的手法により得ることができる。例えば、配列番号1で表されるアミノ酸配列又は配列番号2で表される塩基配列に基づいて、AT遺伝子を人工的に合成できる。AT遺伝子の合成は、例えば、インビトロジェン社等のサービスを利用することができる。また、ナンノクロロプシス・オセアニカ等、ゲノム上にAT遺伝子を有する藻類や植物のゲノムからクローニングによって取得することもできる。例えば、Molecular Cloning-A LABORATORY MANUAL THIRD EDITION[Joseph Sambrook, David W. Russell, Cold Spring Harbor Laboratory Press(2001)]記載の方法等により行うことができる。
また、使用する宿主の種類に応じて、配列番号2で表される塩基配列の一部を最適化してもよい。例えば、Thermo Fisher Scientific社のGeneArt人工遺伝子合成サービスを利用することができる。各種生物が使用するコドンの情報は、Codon Usage Database(www.kazusa.or.jp/codon/)などから入手可能である。
また本発明で用いるAT遺伝子は、1種でもよいし、2種以上のAT遺伝子を組合せて用いてもよい。
本発明で用いることができるACSは特に限定されず、アシルCoAシンテターゼ活性(以下、「ACS活性」ともいう)を有するタンパク質であればよい。ここで「ACS活性」とは、遊離脂肪酸とCoAを結合させてアシル-CoAを生成する活性を意味する。
ACSは、生合成された脂肪酸(遊離脂肪酸)にCoAを付加し、アシル-CoAの生成に関与するタンパク質である。
そのため、ACSの発現を促進することで、脂質の製造に用いる形質転換体の脂質の生産性(特に脂肪酸の生産性)を向上させることができ、培養時間の経過とともに形質転換体内に蓄積される脂質量が増加して形質転換体の比重が軽くなり、形質転換体の浮上性を向上させることができる。
本発明に用いるタンパク質がACS活性を有することは、例えば、ACS合成遺伝子欠損株を用いた系により確認することができる。あるいは、宿主細胞内で機能するプロモーターの下流に前記タンパク質をコードする遺伝子を連結したDNAをACS合成遺伝子欠損株に導入し、遊離脂肪酸を単一炭素源とした最小塩培地にて培養し、生育回復の可否(培地中の遊離脂肪酸を利用(資化)して生育できるか否か)を検討することで確認できる。あるいは、ACSタンパク質又はこれを含有する細胞破砕液を調製し、遊離脂肪酸、CoA、ATP、Mgイオンなどを含む反応液と反応させ、エルマン試薬(DTNB)を用いてCoA量の減少を測定することで確認できる。
本発明で用いることができるACSは、通常のACSや、それらと機能的に均等なタンパク質から、宿主の種類等に応じて適宜選択することができる。本発明における好ましいACSとしては、下記タンパク質(F)又は(G)が挙げられる。

(F)配列番号3で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質。
(G)前記タンパク質(F)のアミノ酸配列と同一性が60%以上のアミノ酸配列からなり、かつACS活性を有するタンパク質。
配列番号3で表されるアミノ酸配列からなる前記タンパク質(F)は、ナンノクロロプシス・オセアニカNIES-2145株由来の長鎖アシルCoAシンテターゼ(long chain acyl-CoA synthetase、以下単に「LACS」ともいう)である。配列番号3で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質(前記タンパク質(F))はACS活性を有する。
前記タンパク質(G)において、ACS活性の点から、前記タンパク質(F)のアミノ酸配列との同一性は60%以上であり、65%以上が好ましく、70%以上がより好ましく、75%以上がより好ましく、80%以上がより好ましく、85%以上がより好ましく、90%以上がより好ましく、93%以上がより好ましく、95%以上がより好ましく、97%以上がより好ましく、98%以上がより好ましく、99%以上がさらに好ましい。
また、前記タンパク質(G)として、前記タンパク質(F)のアミノ酸配列に、1又は複数個(例えば1個以上259個以下、好ましくは1個以上226個以下、より好ましくは1個以上194個以下、より好ましくは1個以上162個以下、より好ましくは1個以上129個以下、より好ましくは1個以上97個以下、より好ましくは1個以上64個以下、より好ましくは1個以上45個以下、より好ましくは1個以上32個以下、より好ましくは1個以上19個以下、より好ましくは1個以上12個以下、より好ましくは1個以上6個以下)のアミノ酸が欠失、置換、挿入又は付加されており、かつACS活性を有するタンパク質が挙げられる。
前記タンパク質(G)としては、例えば配列番号87で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質、又は配列番号87で表されるアミノ酸配列と同一性が70%(好ましくは75%、より好ましくは80%、より好ましくは90%、より好ましくは95%、さらにより好ましくは98%)以上のアミノ酸配列からなり、かつACS活性を有するタンパク質が挙げられる。配列番号87で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質は、ナンノクロロプシス・ガディタナ由来のACS(LACS)である。なお、配列番号87で表されるアミノ酸配列と配列番号3で表されるアミノ酸配列(タンパク質(F)のアミノ酸配列)との同一性は88%であり、類似性は93%である。
アミノ酸配列に変異を導入する方法としては、例えば、ATについて前述した方法が挙げられる。
また、本発明で用いることができるACSは、前記タンパク質(F)及び(G)のアミノ酸配列に、タンパク質の輸送に関与するシグナルペプチド、又はタンパク質の安定性を高める既知のアミノ酸配列等が付加されたアミノ酸配列からなるタンパク質であってもよい。
前記タンパク質(F)及び(G)は、前述のATと同様に、常法に従い得ることができる。
また本発明で用いるACSは、1種でもよいし、2種以上のACSを組合せて用いてもよい。
前記ACS(好ましくは前記タンパク質(F)又は(G))をコードする遺伝子(以下、「ACS遺伝子」ともいう)として、下記DNA(f)又は(g)からなる遺伝子が挙げられる。

(f)配列番号4で表される塩基配列からなるDNA。
(g)前記DNA(f)の塩基配列と同一性が60%以上の塩基配列からなり、かつACS活性を有するタンパク質をコードするDNA。

配列番号4で表される塩基配列は、配列番号3で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質(LACS)をコードする遺伝子(以下、「LACS遺伝子」ともいう)の塩基配列である。
前記DNA(g)において、ACS活性の点から、前記DNA(f)の塩基配列との同一性は60%以上であり、65%以上が好ましく、70%以上がより好ましく、75%以上がより好ましく、80%以上がより好ましく、85%以上がより好ましく、90%以上がより好ましく、93%以上がより好ましく、95%以上がより好ましく、97%以上がより好ましく、98%以上がより好ましく、99%以上がさらに好ましい。
また前記DNA(g)として、前記DNA(f)の塩基配列において1又は複数個(例えば1個以上778個以下、好ましくは1個以上681個以下、より好ましくは1個以上584個以下、より好ましくは1個以上486個以下、より好ましくは1個以上389個以下、より好ましくは1個以上292個以下、より好ましくは1個以上194個以下、より好ましくは1個以上136個以下、より好ましくは1個以上97個以下、より好ましくは1個以上58個以下、より好ましくは1個以上38個以下、より好ましくは1個以上19個以下)の塩基が欠失、置換、挿入、又は付加されており、かつACS活性を有するタンパク質をコードするDNAも好ましい。
さらに前記DNA(g)として、前記DNA(f)と相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつACS活性を有するタンパク質をコードするDNAも好ましい。
前記DNA(g)としては、例えば配列番号88で表される塩基配列からなるDNA、又は配列番号88で表される塩基配列と同一性が80%(好ましくは85%、より好ましくは90%、より好ましくは95%、さらにより好ましくは98%)以上の塩基配列からなり、かつACS活性を有するタンパク質をコードするDNAが挙げられる。配列番号88で表される塩基配列からなるDNAはナンノクロロプシス・ガディタナ由来のACS(LACS)をコードする遺伝子である。なお、配列番号88で表される塩基配列と配列番号4で表される塩基配列(DNA(f)の塩基配列)との同一性は76%である。
塩基配列に変異を導入する方法としては、例えば、AT遺伝子について前述した方法が挙げられる。
また、本発明で用いることができるACS遺伝子として、前記DNA(f)又は(g)の塩基配列にタンパク質の輸送に関与するシグナルペプチド、又はタンパク質の安定性を高める既知のアミノ酸配列等をコードするDNAが付加された塩基配列からなる遺伝子であってもよい。
前記DNA(f)又は(g)は、前述のAT遺伝子と同様に、常法に従い得ることができる。
また本発明で用いるACS遺伝子は、1種でもよいし、2種以上のACS遺伝子を組合せて用いてもよい。
前記改変(A)に加えて、脂肪酸合成経路に関与するタンパク質をコードする遺伝子の発現も促進されていることが好ましい。
このような脂肪酸合成経路に関与するタンパク質としては、例えばアセチル-CoAカルボキシラーゼ(以下、「ACC」ともいう)、アシルキャリアープロテイン(以下、「ACP」ともいう)、ホロ-ACPシンターゼ(ホスホパンテテイニルトランスフェラーゼ)、ACP-マロニルトランスフェラーゼ(以下、「MAT」ともいう)、β-ケトアシル-ACPシンターゼ(以下「KAS」ともいう)、β-ケトアシル-ACPレダクターゼ(以下、「KAR」ともいう)、ヒドロキシアシル-ACPデヒドラターゼ(以下、「HD」ともいう)、エノイル-ACPレダクターゼ(以下、「EAR」ともいう)、アシル-ACPチオエステラーゼ(以下、「TE」ともいう)、等が挙げられる。
なかでも浮上性向上の観点から、TEをコードする遺伝子(以下、「TE遺伝子」ともいう)の発現が促進されていることが好ましい。
本発明で用いることができるTEは特に限定されず、アシル-ACPチオエステラーゼ活性(以下、「TE活性」ともいう)を有するタンパク質であればよい。ここで「TE活性」とは、アシル-ACPのチオエステル結合を加水分解する活性をいう。
TEは、KAS等の脂肪酸合成酵素によって合成されたアシル-ACPのチオエステル結合を加水分解し、遊離の脂肪酸を生成する酵素である。TEの作用によってACP上での脂肪酸合成が終了し、切り出された脂肪酸は多価不飽和脂肪酸の合成やTAG等の合成に供される。
そのため、前記TAG合成経路遺伝子に加えてTE遺伝子の発現を促進することで、形質転換体の脂質の生産性(特に脂肪酸の生産性)を一層向上させることができ、培養時間の経過とともに形質転換体内に蓄積される脂質量が増加して形質転換体の比重が軽くなり、形質転換体の浮上性を向上させることができる。
タンパク質がTE活性を有することは、例えば、大腸菌等の宿主細胞内で機能するプロモーターの下流にTE遺伝子を連結したDNAを脂肪酸分解系が欠損した宿主細胞へ導入し、導入したTE遺伝子が発現する条件で培養して、宿主細胞又は培養液中の脂肪酸組成の変化をガスクロマトグラフィー解析等の方法を用いて分析することにより、確認することができる。
また、大腸菌等の宿主細胞内で機能するプロモーターの下流にTE遺伝子を連結したDNAを宿主細胞へ導入し、導入したTE遺伝子が発現する条件で細胞を培養した後、細胞の破砕液に対し、Yuanらの方法(Yuan L.et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,1995,vol.92(23),p.10639-10643)によって調製した各種アシル-ACPを基質とした反応を行うことにより、TE活性を測定することができる。
本発明で用いることができるTEは、通常のTEや、それらと機能的に均等なタンパク質から、宿主の種類等に応じて適宜選択することができる。本発明における好ましいTEとしては、下記タンパク質(H)又は(I)が挙げられる。

(H)配列番号5で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質。
(I)前記タンパク質(H)のアミノ酸配列と同一性が60%以上のアミノ酸配列からなり、かつTE活性を有するタンパク質。
配列番号5で表されるアミノ酸配列からなる前記タンパク質(H)は、ナンノクロロプシス・オセアニカNIES-2145株由来のTEである。配列番号5で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質(前記タンパク質(H))はTE活性を有する。
前記タンパク質(I)において、TE活性の点から、前記タンパク質(H)のアミノ酸配列との同一性は60%以上であり、65%以上が好ましく、70%以上がより好ましく、75%以上がより好ましく、80%以上がより好ましく、85%以上がより好ましく、90%以上がより好ましく、93%以上がより好ましく、95%以上がより好ましく、97%以上がより好ましく、98%以上がより好ましく、99%以上がさらに好ましい。
また、前記タンパク質(I)として、前記タンパク質(H)のアミノ酸配列に、1又は複数個(例えば1個以上139個以下、好ましくは1個以上121個以下、より好ましくは1個以上104個以下、より好ましくは1個以上87個以下、より好ましくは1個以上69個以下、より好ましくは1個以上52個以下、より好ましくは1個以上34個以下、より好ましくは1個以上24個以下、より好ましくは1個以上17個以下、より好ましくは1個以上10個以下、より好ましくは1個以上6個以下、より好ましくは1個以上3個以下)のアミノ酸が欠失、置換、挿入又は付加されており、かつTE活性を有するタンパク質が挙げられる。
アミノ酸配列に変異を導入する方法としては、例えば、ATについて前述した方法が挙げられる。
また、本発明で用いることができるTEは、前記タンパク質(H)又は(I)のアミノ酸配列に、タンパク質の輸送に関与するシグナルペプチド、又はタンパク質の安定性を高める既知のアミノ酸配列等が付加されたアミノ酸配列からなるタンパク質であってもよい。さらに、本発明で用いることができるTEは、前記タンパク質(H)又は(I)のアミノ酸配列のうちのN末端側の領域に存在すると推測される葉緑体移行シグナル配列を、宿主内で機能する他の葉緑体移行シグナル配列に変更したアミノ酸配列からなるタンパク質であってもよい。
前記タンパク質(H)及び(I)は、前述のATと同様に、常法に従い得ることができる。
また本発明で用いるTEは、1種でもよいし、2種以上のTEを組合せて用いてもよい。
前記TE(好ましくは前記タンパク質(H)又は(I))をコードする遺伝子として、下記DNA(h)又は(i)からなる遺伝子が挙げられる。

(h)配列番号6で表される塩基配列からなるDNA。
(i)前記DNA(h)の塩基配列と同一性が60%以上の塩基配列からなり、かつTE活性を有するタンパク質をコードするDNA。

配列番号6で表される塩基配列は、配列番号5で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質をコードする遺伝子の塩基配列である。
前記DNA(i)において、TE活性の点から、前記DNA(h)の塩基配列との同一性は60%以上であり、65%以上が好ましく、70%以上がより好ましく、75%以上がより好ましく、80%以上がより好ましく、85%以上がより好ましく、90%以上がより好ましく、93%以上がより好ましく、95%以上がより好ましく、97%以上がより好ましく、98%以上がより好ましく、99%以上がさらに好ましい。
また前記DNA(i)として、前記DNA(h)の塩基配列において1又は複数個(例えば1個以上418個以下、好ましくは1個以上366個以下、より好ましくは1個以上314個以下、より好ましくは1個以上261個以下、より好ましくは1個以上209個以下、より好ましくは1個以上157個以下、より好ましくは1個以上104個以下、より好ましくは1個以上73個以下、より好ましくは1個以上52個以下、より好ましくは1個以上31個以下、より好ましくは1個以上20個以下、より好ましくは1個以上10個以下)の塩基が欠失、置換、挿入、又は付加されており、かつTE活性を有するタンパク質をコードするDNAも好ましい。
さらに前記DNA(i)として、前記DNA(h)と相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつTE活性を有するタンパク質をコードするDNAも好ましい。
塩基配列に変異を導入する方法としては、例えば、AT遺伝子について前述した方法が挙げられる。
また、本発明で用いることができるTE遺伝子は、前記DNA(h)又は(i)の塩基配列にタンパク質の輸送に関与するシグナルペプチド、又はタンパク質の安定性を高める既知のアミノ酸配列等をコードするDNAが付加された塩基配列からなる遺伝子であってもよい。さらに、本発明で用いることができるTE遺伝子は、前記DNA(h)又は(i)の塩基配列のうちの5’側の領域に存在すると推測される葉緑体移行シグナル配列をコードする塩基配列を、宿主内で機能する他の葉緑体移行シグナル配列をコードする塩基配列に変更した塩基配列からなるDNAであってもよい。
前記DNA(h)又は(i)は、前述のAT遺伝子と同様に、常法に従い得ることができる。
また本発明で用いるTE遺伝子は、1種でもよいし、2種以上のTE遺伝子を組合せて用いてもよい。
前記「CBB回路関連タンパク質」とは、CBB回路に関与するタンパク質であれば特に制限はなく、CBB回路を構成する酵素であることが好ましい。
植物や光合成微生物などの藻類は、CBB回路を通して光合成による炭酸固定を行うことが知られている。CBB回路は13段階の反応からなり、反応1サイクル毎に1分子のCOが固定される。得られた光合成産物は生物の構成成分としてだけでなく、エネルギー源としても利用される。そのため、CBB回路を強化して微細藻類の光合成能を高めることで、脂質の生産性を高めることができ、微細藻類の浮上性を向上させることができる。
前記CBB回路関連タンパク質としては、例えばトランスケトラーゼ(以下、「TK」ともいう)、フルクトース-1,6-ビスリン酸アルドラーゼ(以下、「FBA」ともいう)、リボース-5-リン酸イソメラーゼ(以下、「RPI」ともいう)、リブロース-1,5-ビスリン酸カルボキシラーゼ/オキシゲナーゼ(Ribulose-1,5-bisphosphate carboxylase/oxygenase)、セドヘプツロース-1,7-ビスホスファターゼ(sedoheptulose-1,7-bisphosphate)、ホスホリブロキナーゼ(phosphoribulokinase)、ホスホグリセリン酸キナーゼ(phosphoglycerate kinase)、グリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼ(glyceraldehyde-3-phosphate dehydrogenase)、トリオースリン酸イソメラーゼ(triosephosphate isomerase)、フルクトース-1,6-ビスホスファターゼ(fructose-1,6-biosphosphatase)、リブロース-5-リン酸エピメラーゼ(ribulose-5-phosphate epimerase)、Rubiscoアクチベース(Rubisco activase)、等が挙げられる。
なかでも浮上性向上の観点から、TK、FBA、及びRPIからなる群より選ばれる少なくとも1種をコードする遺伝子の発現が促進されていることが好ましい。また、TKをコードする遺伝子の発現が促進されていることが好ましく、TKをコードする遺伝子及びFBAをコードする遺伝子の発現が促進されていることがより好ましく、TKをコードする遺伝子、FBAをコードする遺伝子及びRPIをコードする遺伝子の発現が促進されていることがさらに好ましい。
本発明で用いることができるTKは特に限定されず、トランスケトラーゼ活性(以下、「TK活性」ともいう)を有するタンパク質であればよい。ここで、「TK活性」とは、ケトースのケトール基をアルドースのアルデヒド基に転位する活性を意味する。
TKは、CBB回路において、フルクトース-6-リン酸とグリセルアルデヒド-3-リン酸から、エリスロース-4-リン酸及びキシルロース-5-リン酸を生成する反応、並びにセドヘプツロース-7-リン酸とグリセルアルデヒド-3-リン酸から、キシルロース-5-リン酸及びリボース-5-リン酸を生成する反応を触媒するタンパク質(酵素)である。
そのため、TKをコードする遺伝子の発現を促進させることにより、CBB回路を強化することで培養時間の経過とともに形質転換体内に蓄積される脂質量が増加して形質転換体の比重が軽くなり、結果として形質転換体の浮上性を向上させることができる。
本発明に用いるタンパク質がTK活性を有することは、例えば、Plant Physiol. (1989) 90, 814-819記載の方法等で確認することができる。具体的には、目的のタンパク質を含有する溶液を常法により用意し、フルクトース-6-リン酸及びグリセルアルデヒド-3-リン酸と混和し、エリスロース-4-リン酸及びキシルロース-5-リン酸が生成されること、あるいはセドヘプツロース-7-リン酸及びグリセルアルデヒド-3-リン酸と混和し、キシルロース-5-リン酸及びリボース-5-リン酸が生成されること、を分析することで、確かめることができる。
本発明で用いることができるTKは、通常のTKや、それらと機能的に均等なタンパク質から、宿主の種類等に応じて適宜選択することができる。本発明における好ましいTKとしては、下記タンパク質(J)又は(K)が挙げられる。

(J)配列番号7で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質。
(K)前記タンパク質(J)のアミノ酸配列と同一性が60%以上のアミノ酸配列からなり、かつTK活性を有するタンパク質。
配列番号7で表されるアミノ酸配列からなる前記タンパク質(J)は、ナンノクロロプシス・オセアニカNIES-2145株由来のTKである。配列番号7で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質(前記タンパク質(J))はTK活性を有する。
前記タンパク質(K)において、TK活性の点から、前記タンパク質(J)のアミノ酸配列との同一性は60%以上であり、65%以上が好ましく、70%以上がより好ましく、75%以上がより好ましく、80%以上がより好ましく、85%以上がより好ましく、90%以上がより好ましく、93%以上がより好ましく、95%以上がより好ましく、97%以上がより好ましく、98%以上がより好ましく、99%以上がさらに好ましい。
また、前記タンパク質(K)として、前記タンパク質(J)のアミノ酸配列に、1又は複数個(例えば1個以上289個以下、好ましくは1個以上253個以下、より好ましくは1個以上216個以下、より好ましくは1個以上180個以下、より好ましくは1個以上144個以下、より好ましくは1個以上108個以下、より好ましくは1個以上72個以下、より好ましくは1個以上50個以下、より好ましくは1個以上36個以下、より好ましくは1個以上21個以下、より好ましくは1個以上14個以下、より好ましくは1個以上7個以下)のアミノ酸が欠失、置換、挿入又は付加されており、かつTK活性を有するタンパク質が挙げられる。
前記タンパク質(K)としては、例えば配列番号89で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質、又は配列番号89で表されるアミノ酸配列と同一性が70%(好ましくは75%、より好ましくは80%、より好ましくは90%、より好ましくは95%、さらにより好ましくは98%)以上のアミノ酸配列からなり、かつTK活性を有するタンパク質が挙げられる。配列番号89で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質はナンノクロロプシス・ガディタナ由来のTKである。なお、配列番号89で表されるアミノ酸配列と配列番号7で表されるアミノ酸配列(タンパク質(J)のアミノ酸配列)との同一性は91%であり、類似性は95%である。
アミノ酸配列に変異を導入する方法としては、例えば、ATについて前述した方法が挙げられる。
また、本発明で用いることができるTKは、前記タンパク質(J)及び(K)のアミノ酸配列に、タンパク質の輸送に関与するシグナルペプチド、又はタンパク質の安定性を高める既知のアミノ酸配列等が付加されたアミノ酸配列からなるタンパク質であってもよい。さらに、本発明で用いることができるTKは、前記タンパク質(J)及び(K)のアミノ酸配列のうちのN末端側の領域に存在すると推測される葉緑体移行シグナル配列を、宿主内で機能する他の葉緑体移行シグナル配列に変更したアミノ酸配列からなるタンパク質であってもよい。ChloroP(www.cbs.dtu.dk/services/ChloroP/)を用いた局在予測では、配列番号7の1位~63位のアミノ酸配列が葉緑体移行シグナル配列であると予測され、実際、配列番号7の1位~100位のアミノ酸配列をレポータータンパク質のN末端に付加させることで、レポータータンパク質を葉緑体に局在化させられることが本発明者により確認されている。
前記タンパク質(J)及び(K)は、前述のATと同様に、常法に従い得ることができる。
また本発明で用いるTKは、1種でもよいし、2種以上のTKを組合せて用いてもよい。
前記TK(好ましくは前記タンパク質(J)又は(K))をコードする遺伝子(以下、「TK遺伝子」ともいう)の具体例として、下記DNA(j)又は(k)からなる遺伝子が挙げられる。

(j)配列番号8で表される塩基配列からなるDNA。
(k)前記DNA(j)の塩基配列と同一性が60%以上の塩基配列からなり、かつTK活性を有するタンパク質をコードするDNA。

配列番号8で表される塩基配列は、配列番号7で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質(TK)をコードする遺伝子(以下、「TK遺伝子」ともいう)の塩基配列である。
前記DNA(k)において、TK活性の点から、前記DNA(j)の塩基配列との同一性は60%以上であり、65%以上が好ましく、70%以上がより好ましく、75%以上がより好ましく、80%以上がより好ましく、85%以上がより好ましく、90%以上がより好ましく、93%以上がより好ましく、95%以上がより好ましく、97%以上がより好ましく、98%以上がより好ましく、99%以上がさらに好ましい。
また前記DNA(k)として、配列番号8で表される塩基配列において、1又は複数個(例えば1個以上868個以下、好ましくは1個以上760個以下、より好ましくは1個以上651個以下、より好ましくは1個以上543個以下、より好ましくは1個以上434個以下、より好ましくは1個以上325個以下、より好ましくは1個以上217個以下、より好ましくは1個以上152個以下、より好ましくは1個以上108個以下、より好ましくは1個以上65個以下、より好ましくは1個以上43個以下、より好ましくは1個以上21個以下)の塩基が欠失、置換、挿入、又は付加されており、かつTK活性を有するタンパク質をコードする遺伝子も好ましい。
さらに前記DNA(k)として、前記DNA(j)と相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつTK活性を有するタンパク質をコードする遺伝子も好ましい。
前記DNA(k)としては、例えば配列番号90で表される塩基配列からなるDNA、又は配列番号90で表される塩基配列と同一性が75%(好ましくは80%、より好ましくは85%、より好ましくは90%、より好ましくは95%、さらにより好ましくは98%)以上の塩基配列からなり、かつTK活性を有するタンパク質をコードするDNAが挙げられる。配列番号90で表される塩基配列からなるDNAは、ナンノクロロプシス・ガディタナ由来のTKをコードする遺伝子である。なお、配列番号90で表される塩基配列と配列番号8で表される塩基配列(DNA(j)の塩基配列)との同一性は83%である。
塩基配列に変異を導入する方法としては、例えば、AT遺伝子について前述した方法が挙げられる。
また、本発明で用いることができるTK遺伝子は、前記DNA(j)又は(k)の塩基配列にタンパク質の輸送に関与するシグナルペプチド、又はタンパク質の安定性を高める既知のアミノ酸配列等をコードするDNAが付加された塩基配列からなる遺伝子であってもよい。さらに、本発明で用いることができるTK遺伝子は、前記DNA(j)又は(k)の塩基配列のうちの5’側の領域に存在すると推測される葉緑体移行シグナル配列をコードする塩基配列を、宿主内で機能する他の葉緑体移行シグナル配列をコードする塩基配列に変更した塩基配列からなるDNAであってもよい。ChloroP(www.cbs.dtu.dk/services/ChloroP/)を用いた局在予測では、配列番号8の1位~189位の塩基配列が葉緑体移行シグナル配列をコードしていると予測され、実際、配列番号8の1位~300位の塩基配列を、レポータータンパク質をコードする塩基配列の5’末端に付加させることで、レポータータンパク質を葉緑体に局在化させられることが本発明者により確認されている。
前記DNA(j)又は(k)は、前述のAT遺伝子と同様に、常法に従い得ることができる。
また本発明で用いるTK遺伝子は、1種でもよいし、2種以上のTK遺伝子を組合せて用いてもよい。
本発明で用いることができるFBAは特に限定されず、フルクトース-1,6-ビスリン酸アルドラーゼ活性(以下、「FBA活性」ともいう)を有するタンパク質であればよい。ここで、「FBA活性」とは、グリセルアルデヒド-3-リン酸とジヒドロキシアセトンリン酸とを縮合する活性、もしくはエリスロース-4-リン酸とジヒドロキシアセトンリン酸とを縮合する活性を意味する。
FBAは、CBB回路において、グリセルアルデヒド-3-リン酸とジヒドロキシアセトンリン酸から、フルクトース-1,6-ビスリン酸を生成する反応、並びにエリスロース-4-リン酸とジヒドロキシアセトンリン酸から、セドヘプツロース-1,7-ビスリン酸を生成する反応を触媒するタンパク質(酵素)である。
そのため、FBAをコードする遺伝子の発現を促進させることで、CBB回路を強化することができ、培養時間の経過とともに形質転換体内に蓄積される脂質量が増加して形質転換体の比重が軽くなり、結果として形質転換体の浮上性を向上させることができる。
本発明に用いるタンパク質がFBA活性を有することは、例えば、Plant Physiol. (1989) 90, 814-819記載の方法等で確認することができる。具体的には、目的のタンパク質を含有する溶液を常法により用意し、グリセルアルデヒド-3-リン酸及びジヒドロキシアセトンリン酸と混和し、フルクトース-1,6-ビスリン酸が生成されること、あるいはエリスロース-4-リン酸及びジヒドロキシアセトンリン酸から、セドヘプツロース-1,7-ビスリン酸が生成されること、を分析することで、確かめることができる。
本発明で用いることができるFBAは、通常のFBAや、それらと機能的に均等なタンパク質から、宿主の種類等に応じて適宜選択することができる。本発明における好ましいFBAとしては、下記タンパク質(L)又は(M)が挙げられる。

(L)配列番号9で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質。
(M)前記タンパク質(L)のアミノ酸配列と同一性が60%以上のアミノ酸配列からなり、かつFBA活性を有するタンパク質。

配列番号9で表されるアミノ酸配列からなる前記タンパク質(L)は、ナンノクロロプシス・オセアニカNIES-2145株由来のFBAである。配列番号9で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質(前記タンパク質(L))はFBA活性を有する。
前記タンパク質(M)において、FBA活性の点から、前記タンパク質(L)のアミノ酸配列との同一性は60%以上であり、65%以上が好ましく、70%以上がより好ましく、75%以上がより好ましく、80%以上がより好ましく、85%以上がより好ましく、90%以上がより好ましく、93%以上がより好ましく、95%以上がより好ましく、97%以上がより好ましく、98%以上がより好ましく、99%以上がさらに好ましい。
また、前記タンパク質(M)として、前記タンパク質(L)のアミノ酸配列に、1又は複数個(例えば1個以上152個以下、好ましくは1個以上133個以下、より好ましくは1個以上114個以下、より好ましくは1個以上95個以下、より好ましくは1個以上76個以下、より好ましくは1個以上57個以下、より好ましくは1個以上38個以下、より好ましくは1個以上26個以下、より好ましくは1個以上19個以下、より好ましくは1個以上11個以下、より好ましくは1個以上7個以下、より好ましくは1個以上3個以下)のアミノ酸が欠失、置換、挿入又は付加されており、かつFBA活性を有するタンパク質が挙げられる。
前記タンパク質(M)としては、例えば配列番号91で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質、又は配列番号91で表されるアミノ酸配列と同一性が65%(好ましくは70%、より好ましくは75%、より好ましくは80%、より好ましくは90%、より好ましくは95%、さらにより好ましくは98%)以上のアミノ酸配列からなり、かつFBA活性を有するタンパク質が挙げられる。配列番号91で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質は、ナンノクロロプシス・ガディタナ由来のFBAである。なお、配列番号91で表されるアミノ酸配列と配列番号9で表されるアミノ酸配列(タンパク質(L)のアミノ酸配列)との同一性は94%であり、類似性は97%である。
アミノ酸配列に変異を導入する方法としては、例えば、ATについて前述した方法が挙げられる。
また、本発明で用いることができるFBAは、前記タンパク質(L)及び(M)のアミノ酸配列に、タンパク質の輸送に関与するシグナルペプチド、又はタンパク質の安定性を高める既知のアミノ酸配列等が付加されたアミノ酸配列からなるタンパク質であってもよい。さらに、本発明で用いることができるFBAは、前記タンパク質(L)及び(M)のアミノ酸配列のうちのN末端側の領域に存在すると推測される葉緑体移行シグナル配列を、宿主内で機能する他の葉緑体移行シグナル配列に変更したアミノ酸配列からなるタンパク質であってもよい。ChloroP(www.cbs.dtu.dk/services/ChloroP/)を用いた局在予測では、配列番号9の1位~20位、あるいは1位~26位のアミノ酸配列が葉緑体移行シグナル配列であると予測され、実際、配列番号9の1位~100位のアミノ酸配列をレポータータンパク質のN末端に付加させることで、レポータータンパク質を葉緑体に局在化させられることが本発明者により確認されている。
前記タンパク質(L)及び(M)は、前述のATと同様に、常法に従い得ることができる。
また本発明で用いるFBAは、1種でもよいし、2種以上のFBAを組合せて用いてもよい。
前記FBA(好ましくは前記タンパク質(L)又は(M))をコードする遺伝子(以下、「FBA遺伝子」ともいう)の具体例として、下記DNA(l)又は(m)からなる遺伝子が挙げられる。

(l)配列番号10で表される塩基配列からなるDNA。
(m)前記DNA(l)の塩基配列と同一性が60%以上の塩基配列からなり、かつFBA活性を有するタンパク質をコードするDNA。

配列番号10で表される塩基配列は、配列番号9で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質(FBA)をコードする遺伝子(以下、「FBA遺伝子」ともいう)の塩基配列である。
前記DNA(m)において、FBA活性の点から、前記DNA(l)の塩基配列との同一性は60%以上であり、65%以上が好ましく、70%以上がより好ましく、75%以上がより好ましく、80%以上がより好ましく、85%以上がより好ましく、90%以上がより好ましく、93%以上がより好ましく、95%以上がより好ましく、97%以上がより好ましく、98%以上がより好ましく、99%以上がさらに好ましい。
また前記DNA(m)として、配列番号10で表される塩基配列において、1又は複数個(例えば1個以上459個以下、好ましくは1個以上402個以下、より好ましくは1個以上344個以下、より好ましくは1個以上287個以下、より好ましくは1個以上229個以下、より好ましくは1個以上172個以下、より好ましくは1個以上114個以下、より好ましくは1個以上80個以下、より好ましくは1個以上57個以下、より好ましくは1個以上34個以下、より好ましくは1個以上22個以下、より好ましくは1個以上11個以下)の塩基が欠失、置換、挿入、又は付加されており、かつFBA活性を有するタンパク質をコードする遺伝子も好ましい。
さらに前記DNA(m)として、前記DNA(l)と相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつFBA活性を有するタンパク質をコードする遺伝子も好ましい。
前記DNA(m)としては、例えば配列番号92で表される塩基配列からなるDNA、又は配列番号92で表される塩基配列と同一性が75%(好ましくは80%、より好ましくは85%、より好ましくは90%、より好ましくは95%、さらにより好ましくは98%)以上の塩基配列からなり、かつFBA活性を有するタンパク質をコードするDNAが挙げられる。配列番号92で表される塩基配列からなるDNAは、ナンノクロロプシス・ガディタナ由来のFBAをコードする遺伝子である。なお、配列番号92で表される塩基配列と配列番号10で表される塩基配列(DNA(l)の塩基配列)との同一性は85%である。
塩基配列に変異を導入する方法としては、例えば、AT遺伝子について前述した方法が挙げられる。
また、本発明で用いることができるFBA遺伝子は、前記DNA(l)又は(m)の塩基配列にタンパク質の輸送に関与するシグナルペプチド、又はタンパク質の安定性を高める既知のアミノ酸配列等をコードするDNAが付加された塩基配列からなる遺伝子であってもよい。さらに、本発明で用いることができるFBA遺伝子は、前記DNA(l)又は(m)の塩基配列のうちの5’側の領域に存在すると推測される葉緑体移行シグナル配列をコードする塩基配列を、宿主内で機能する他の葉緑体移行シグナル配列をコードする塩基配列に変更した塩基配列からなるDNAであってもよい。ChloroP(www.cbs.dtu.dk/services/ChloroP/)を用いた局在予測では、配列番号10の1位~60位、あるいは1位~78位の塩基配列が葉緑体移行シグナル配列をコードしていると予測され、実際、配列番号10の1位~300位の塩基配列を、レポータータンパク質をコードする塩基配列の5’末端に付加させることで、レポータータンパク質を葉緑体に局在化させられることが本発明者により確認されている。
前記DNA(l)及び(m)は、前述のAT遺伝子と同様に、常法に従い得ることができる。
また本発明で用いるFBA遺伝子は、1種でもよいし、2種以上のFBA遺伝子を組合せて用いてもよい。
本発明で用いることができるRPIは特に限定されず、リボース-5-リン酸イソメラーゼ活性(以下、「RPI活性」ともいう)を有するタンパク質であればよい。ここで、「RPI活性」とは、アルドースのアルデヒド基をケト基に変換する活性を意味する。
RPIは、リボース-5-リン酸をリブロース-5-リン酸に変換する反応を触媒するタンパク質(酵素)である。
そのため、RPIをコードする遺伝子の発現を促進させることで、CBB回路を強化することができ、培養時間の経過とともに形質転換体内に蓄積される脂質量が増加して形質転換体の比重が軽くなり、結果として形質転換体の浮上性を向上させることができる。
本発明に用いるタンパク質がRPI活性を有することは、例えば、The Plant Journal (2006) 48, 606-618記載の方法等で確認することができる。具体的には、目的のタンパク質を含有する溶液を常法により用意し、リボース-5-リン酸と混和してリブロース-5-リン酸が生成されること、を分析することで、確かめることができる。
本発明で用いることができるRPIは、通常のRPIや、それらと機能的に均等なタンパク質から、宿主の種類等に応じて適宜選択することができる。本発明における好ましいRPIとしては、下記タンパク質(N)又は(O)が挙げられる。

(N)配列番号11で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質。
(O)前記タンパク質(N)のアミノ酸配列と同一性が60%以上のアミノ酸配列からなり、かつRPI活性を有するタンパク質。

配列番号11で表されるアミノ酸配列からなる前記タンパク質(N)は、ナンノクロロプシス・オセアニカNIES-2145株由来のRPIである。配列番号11で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質(前記タンパク質(N))はRPI活性を有する。
前記タンパク質(O)において、RPI活性の点から、前記タンパク質(N)のアミノ酸配列との同一性は60%以上であり、65%以上が好ましく、70%以上がより好ましく、75%以上がより好ましく、80%以上がより好ましく、85%以上がより好ましく、90%以上がより好ましく、93%以上がより好ましく、95%以上がより好ましく、97%以上がより好ましく、98%以上がより好ましく、99%以上がさらに好ましい。
また、前記タンパク質(O)として、前記タンパク質(N)のアミノ酸配列に、1又は複数個(例えば1個以上112個以下、好ましくは1個以上98個以下、より好ましくは1個以上84個以下、より好ましくは1個以上70個以下、より好ましくは1個以上56個以下、より好ましくは1個以上42個以下、より好ましくは1個以上28個以下、より好ましくは1個以上19個以下、より好ましくは1個以上14個以下、より好ましくは1個以上8個以下、より好ましくは1個以上5個以下、より好ましくは1個又は2個)のアミノ酸が欠失、置換、挿入又は付加されており、かつRPI活性を有するタンパク質が挙げられる。
前記タンパク質(O)としては、例えば配列番号93で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質、又は配列番号93で表されるアミノ酸配列と同一性が70%(好ましくは75%、より好ましくは80%、より好ましくは90%、より好ましくは95%、さらにより好ましくは98%)以上のアミノ酸配列からなり、かつRPI活性を有するタンパク質が挙げられる。配列番号93で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質は、ナンノクロロプシス・ガディタナ由来のRPIである。なお、配列番号93で表されるアミノ酸配列と配列番号11で表されるアミノ酸配列(タンパク質(N)のアミノ酸配列)との同一性は92%であり、類似性は95%である。
アミノ酸配列に変異を導入する方法としては、例えば、ATについて前述した方法が挙げられる。
また、本発明で用いることができるRPIは、前記タンパク質(N)及び(O)のアミノ酸配列にタンパク質の輸送に関与するシグナルペプチド、又はタンパク質の安定性を高める既知のアミノ酸配列等が付加されたアミノ酸配列からなるタンパク質であってもよい。さらに、本発明で用いることができるRPIは、前記タンパク質(N)及び(O)のアミノ酸配列のうちのN末端側の領域に存在すると推測される葉緑体移行シグナル配列を、宿主内で機能する他の葉緑体移行シグナル配列に変更したアミノ酸配列からなるタンパク質であってもよい。ChloroP(www.cbs.dtu.dk/services/ChloroP/)を用いた局在予測では、配列番号11の1位~49位のアミノ酸配列が葉緑体移行シグナル配列であると予測され、実際、配列番号11の1位~100位のアミノ酸配列をレポータータンパク質のN末端に付加させることで、レポータータンパク質を葉緑体に局在化させられることが本発明者により確認されている。
前記タンパク質(N)及び(O)は、前述のATと同様に、常法に従い得ることができる。
また本発明で用いるRPIは、1種でもよいし、2種以上のRPIを組合せて用いてもよい。
前記RPI(好ましくは前記タンパク質(N)又は(O))をコードする遺伝子(以下、「RPI遺伝子」ともいう)の具体例として、下記DNA(n)又は(o)からなる遺伝子が挙げられる。

(n)配列番号12で表される塩基配列からなるDNA。
(o)前記DNA(n)の塩基配列と同一性が60%以上の塩基配列からなり、かつRPI活性を有するタンパク質をコードするDNA。

配列番号12で表される塩基配列は、配列番号11で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質(RPI)をコードする遺伝子(以下、「RPI遺伝子」ともいう)の塩基配列である。
前記DNA(o)において、RPI活性の点から、前記DNA(n)の塩基配列との同一性は60%以上であり、65%以上が好ましく、70%以上がより好ましく、75%以上がより好ましく、80%以上がより好ましく、85%以上がより好ましく、90%以上がより好ましく、93%以上がより好ましく、95%以上がより好ましく、97%以上がより好ましく、98%以上がより好ましく、99%以上がさらに好ましい。
また前記DNA(o)として、配列番号12で表される塩基配列において、1又は複数個(例えば1個以上339個以下、好ましくは1個以上297個以下、より好ましくは1個以上254個以下、より好ましくは1個以上212個以下、より好ましくは1個以上169個以下、より好ましくは1個以上127個以下、より好ましくは1個以上84個以下、より好ましくは1個以上59個以下、より好ましくは1個以上42個以下、より好ましくは1個以上25個以下、より好ましくは1個以上16個以下、より好ましくは1個以上8個以下)の塩基が欠失、置換、挿入、又は付加されており、かつRPI活性を有するタンパク質をコードする遺伝子も好ましい。
さらに前記DNA(o)として、前記DNA(n)と相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつRPI活性を有するタンパク質をコードする遺伝子も好ましい
前記DNA(о)としては、例えば配列番号94で表される塩基配列からなるDNA、又は配列番号94で表される塩基配列と同一性が75%(好ましくは80%、より好ましくは85%、より好ましくは90%、より好ましくは95%、さらにより好ましくは98%)以上の塩基配列からなり、かつRPI活性を有するタンパク質をコードするDNAが挙げられる。配列番号94で表される塩基配列からなるDNAは、ナンノクロロプシス・ガディタナ由来のRPIをコードする遺伝子である。なお、配列番号94で表される塩基配列と配列番号12で表される塩基配列(DNA(n)の塩基配列)との同一性は80%である。
塩基配列に変異を導入する方法としては、例えば、AT遺伝子について前述した方法が挙げられる。
また、本発明で用いることができるRPI遺伝子は、前記DNA(n)及び(o)の塩基配列にタンパク質の輸送に関与するシグナルペプチド、又はタンパク質の安定性を高める既知のアミノ酸配列等をコードするDNAが付加された塩基配列からなる遺伝子であってもよい。さらに、本発明で用いることができるRPI遺伝子は、前記DNA(n)及び(o)の塩基配列のうちの5’側の領域に存在すると推測される葉緑体移行シグナル配列をコードする塩基配列を、宿主内で機能する他の葉緑体移行シグナル配列をコードする塩基配列に変更した塩基配列からなるDNAであってもよい。ChloroP(www.cbs.dtu.dk/services/ChloroP/)を用いた局在予測では、配列番号12の1位~147位の塩基配列が葉緑体移行シグナル配列をコードしていると予測され、実際、配列番号12の1位~300位の塩基配列を、レポータータンパク質をコードする塩基配列の5’末端に付加させることで、レポータータンパク質を葉緑体に局在化させられることが本発明者により確認されている。
前記DNA(n)及び(o)は、前述のAT遺伝子と同様に、常法に従い得ることができる。
また本発明で用いるRPI遺伝子は、1種でもよいし、2種以上のRPI遺伝子を組合せて用いてもよい。
前記改変(A)及び/又は(B)を行った形質転換体は、例えば前記TAG合成経路遺伝子、及び/又はCBB回路遺伝子を、常法により宿主に導入することで得ることができる。具体的には、前記遺伝子を宿主細胞中で発現させることのできる発現用ベクター(遺伝子発現用プラスミド)等のベクターや遺伝子発現カセットを調製し、これを宿主細胞に導入して宿主細胞を形質転換させることにより作製できる。
また前記改変(A)及び/又は(B)を行った形質転換体は、例えば前記TAG合成経路遺伝子、及び/又はCBB回路遺伝子をゲノム上に有する宿主において、常法により当該遺伝子の発現調節領域を改変して、当該遺伝子の発現を促進させることによっても得ることができる。具体的には、当該宿主のゲノム上に存在する前記TAG合成経路遺伝子、及び/又はCBB回路遺伝子の上流に位置するプロモーター配列を、より高いプロモーター活性を示すものに置換すること等で作製できる。
なお本明細書において、目的のタンパク質をコードする遺伝子の発現を促進又は抑制させる改変を行ったものを「形質転換体」ともいい、目的のタンパク質をコードする遺伝子の発現を促進及び抑制させる改変を行っていないものを「宿主」又は「野生株」ともいう。
前記改変(A)及び/又は(B)を行った形質転換体は、宿主自体に比べ、脂質の生産性(特に脂肪酸の生産性)が向上し、培養時間の経過とともに形質転換体菌体内に蓄積される脂質量が増加して形質転換体の比重が軽くなっている。またその結果、当該形質転換体では、浮上性が向上する。そのため、当該形質転換体は、脂質の製造方法に好適に用いることができる。
なお、宿主や形質転換体の脂肪酸及び脂質の生産性については、実施例で用いた方法により測定することができる。
遺伝子発現用プラスミド又は遺伝子発現カセットの母体となるベクター(プラスミド)としては、目的のタンパク質をコードする遺伝子を宿主に導入することができ、宿主細胞内で目的の遺伝子を発現させることができるベクターであればよい。例えば、使用する宿主の種類に応じたプロモーターやターミネーター等の発現調節領域を有するベクターであって、複製開始点や選択マーカー等を有するベクターを用いることができる。また、プラスミド等の染色体外で自立増殖・複製するベクターであってもよいし、染色体内に組み込まれるベクターであってもよい。
本発明で好ましく用いることができるベクターとしては、例えば、pUC18(タカラバイオ社製)、pUC19(タカラバイオ社製)、pUC118(タカラバイオ社製)、P66(Chlamydomonas Center)、P-322(Chlamydomonas Center)、pPha-T1(Journal of Basic Microbiology, 2011, vol. 51, p. 666-672参照)、又はpJET1(コスモ・バイオ社製)が挙げられる。特に、pUC18、pPha-T1、又はpJET1が好ましく用いられる。また、Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America, 2011, vol. 108(52)の記載の方法を参考にして、目的の遺伝子、プロモーター及びターミネーターからなるDNA断片(遺伝子発現カセット)を用いて宿主を形質転換することもできる。
また、前記ベクターに組み込んだ目的のタンパク質をコードする遺伝子の発現を調整するプロモーターの種類も、使用する宿主の種類に応じて適宜選択することができる。本発明で好ましく用いることができるプロモーターとしては、ハウスキーピング遺伝子プロモーター(例えば、チューブリンプロモーター、アクチンプロモーター、ユビキチンプロモーター等)、ヒートショックプロテインプロモーター、ナンノクロロプシス属由来のビオラキサンチン/クロロフィルa結合タンパク質遺伝子のプロモーター(VCP1プロモーター、VCP2プロモーター)(Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America, 2011, vol. 108(52))、ナンノクロロプシス属由来のオレオシン様タンパクLDSP(lipid droplet surface protein)遺伝子のプロモーター(LDSPプロモーター)(PLOS Genetics, 2012; 8(11): e1003064. doi: 10. 1371)、ACP遺伝子のプロモーター(ACPプロモーター)、デサチュラーゼ遺伝子のプロモーター、AT遺伝子のプロモーター(ATプロモーター)、ナンノクロロプシス属由来のグルタミン合成酵素遺伝子のプロモーター(GSプロモーター)、及びナンノクロロプシス属由来のアンモニウムトランスポーター遺伝子のプロモーター(AMTプロモーター)を好ましく用いることができる。また、例えばナンノクロロプシス属に属する藻類などは一般に栄養(特に窒素)欠乏条件や強光条件において効率的に脂質を生産することが知られるため、これらの条件下で強く発現するプロモーターを用いることがより好ましい。栄養欠乏条件や強光条件において強く発現するという観点から、脂肪酸合成経路やTAG合成経路に関わる遺伝子のプロモーターや窒素同化に関わる遺伝子のプロモーターが好ましく、LDSP遺伝子のプロモーター、ACPプロモーター、デサチュラーゼ遺伝子のプロモーター、ATプロモーター、GSプロモーター、及びAMTプロモーターがより好ましく、LDSP遺伝子のプロモーター、GSプロモーター、及びAMTプロモーターがさらに好ましい。
また、目的のタンパク質をコードする遺伝子が組み込まれたことを確認するための選択マーカーの種類も、使用する宿主の種類に応じて適宜選択することができる。本発明で好ましく用いることができる選択マーカーとしては、アンピシリン耐性遺伝子、クロラムフェニコール耐性遺伝子、エリスロマイシン耐性遺伝子、ネオマイシン耐性遺伝子、カナマイシン耐性遺伝子、スペクチノマイシン耐性遺伝子、テトラサイクリン耐性遺伝子、ブラストサイジンS耐性遺伝子、ビアラフォス耐性遺伝子、ゼオシン耐性遺伝子、パロモマイシン耐性遺伝子、ゲンタマイシン耐性遺伝子、及びハイグロマイシン耐性遺伝子等の薬剤耐性遺伝子が挙げられる。さらに、栄養要求性に関連する遺伝子の欠損等を選択マーカー遺伝子として使用することもできる。栄養要求性に関連する遺伝子としては、例えば硝酸塩の資化に関わる遺伝子(硝酸還元酵素、硝酸トランスポーター)が挙げられる。
目的のタンパク質をコードする遺伝子の前記ベクターへの導入は、制限酵素処理やライゲーション等の常法により行うことができる。
目的遺伝子断片が導入された形質転換体の選択は、選択マーカー等を利用することで行うことができる。例えば、薬剤耐性遺伝子が、形質転換時に目的DNA断片とともに宿主細胞中に導入された結果、形質転換体が獲得する薬剤耐性を指標に行うことができる。また、ゲノムを鋳型としたPCR法等によって、目的DNA断片の導入を確認することもできる。
前記TAG合成経路遺伝子、及び/又はCBB回路遺伝子をゲノム上に有する宿主において、当該遺伝子の発現調節領域を改変して、当該遺伝子の発現を促進させる方法について説明する。
「発現調節領域」とは、プロモーター、ターミネーター、及び非翻訳領域を示し、これらの配列は一般に隣接する遺伝子の発現量(転写量、翻訳量)の調節に関与している。ゲノム上に前記TAG合成経路遺伝子、及び/又はCBB回路遺伝子を有する宿主においては、当該遺伝子の発現調節領域を改変して当該遺伝子の発現を促進させることで、脂質の生産性を向上させることができ、形質転換体の浮上性を向上させることができる。
発現調節領域の改変方法としては、例えばプロモーターの入れ替えが挙げられる。ゲノム上に前記TAG合成経路遺伝子、及び/又はCBB回路遺伝子などを有する宿主において、当該遺伝子のプロモーターを、より転写活性の高いプロモーターに入れ替えることで、当該遺伝子の発現を促進させることができる。
前記宿主としては、前述した生物種のうち、ゲノム上に前記TAG合成経路遺伝子、及び/又はCBB回路遺伝子などを有するものを好適に用いることができる。
プロモーターの入れ替えに用いるプロモーターとしては特に限定されず、前記TAG合成経路遺伝子、及び/又はCBB回路遺伝子のプロモーターよりも転写活性が高く、脂質の生産に適したものから適宜選択することができる。
例えば、チューブリンプロモーター、ヒートショックプロテインプロモーター、ビオラキサンチン/クロロフィルa結合タンパク質遺伝子のプロモーター(VCP1プロモーター、VCP2プロモーター)、ナンノクロロプシス属由来のオレオシン様タンパクLDSP遺伝子のプロモーター、ACPプロモーター、デサチュラーゼ遺伝子のプロモーター、ATプロモーター、GSプロモーター、及びAMTプロモーターを好ましく用いることができる。脂肪酸又はこれを構成成分とする脂質の生産性向上の観点から、脂肪酸合成経路やTAG合成経路に関わる遺伝子のプロモーターや窒素同化に関わる遺伝子のプロモーターが好ましく、LDSP遺伝子のプロモーター、ACPプロモーター、デサチュラーゼ遺伝子のプロモーター、ATプロモーター、GSプロモーター、及びAMTプロモーターがより好ましく、LDSP遺伝子のプロモーター、GSプロモーター、及びAMTプロモーターがさらに好ましい。
前述のプロモーターの改変は、相同組換えなどの常法に従い行うことができる。具体的には、標的とするプロモーターの上流、下流領域を含み、標的プロモーターに代えて別のプロモーターを含む直鎖状のDNA断片を構築し、これを宿主細胞に取り込ませ、宿主ゲノムの標的プロモーターの上流側と下流側とで2回交差の相同組換えを起こす。その結果、ゲノム上の標的プロモーターが別のプロモーター断片と置換され、プロモーターを改変することができる。
このような相同組換えによる標的プロモーターの改変方法は、例えば、Methods in molecular biology,1995, vol. 47, p. 291-302等の文献を参考に行うことができる。特に、宿主がナンノクロロプシス属に属する藻類の場合、Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America, 2011, vol. 108(52)等の文献を参考にして、相同組換え法によりゲノム中の特定の領域を改変することができる。
前記「細胞壁合成経路関連タンパク質」とは、細胞壁合成経路に関与するタンパク質であれば特に制限はなく、細胞壁合成経路を構成する酵素であることが好ましい。本発明ないし本明細書において、「細胞壁」とは、アルジナン層を含む概念である。
本発明に用いる微細藻類の形質転換体において、細胞壁合成経路遺伝子の発現を抑制することで、細胞壁合成に関与するタンパク質の発現が阻害される。その結果、前記微細藻類において細胞壁の構築が阻害され、比重が軽くなることにより、形質転換体の浮上性が向上すると考えられる。
また、当該細胞壁合成経路遺伝子の発現が抑制している形質転換体は、例えばセルロース由来の細胞壁やアルジナン層といった細胞壁の構築が阻害されるため、脂質の製造の過程において脂質の抽出効率(回収効率)が向上する。具体的には、物理的又は化学的処理による細胞破壊が容易となることが推定されることから、藻体からの脂質の回収が容易な藻類を得ることができると考えられる。
前記細胞壁合成経路関連タンパク質としては、例えばセルロース合成酵素(以下、「CES」ともいう)、アルジナン層の構築に関与すると思われるポリケチド合成酵素(以下、「アルジナン合成に関与するPKS」ともいう)、UDP-グルコースピロホスホリラーゼ(UDP-glucose pyrophosphorylase)、等が挙げられる。
なかでも浮上性向上の観点から、CESをコードする遺伝子の発現が抑制されていることが好ましい。
本発明ないし本明細書において、「遺伝子の発現が抑制されている」とは、同一の条件で培養を行った際に、前記改変(C)を行っていない宿主における目的の遺伝子の発現に比べて、前記改変(C)を行った形質転換体における目的の遺伝子の発現が低下又は喪失していることを意味する。なお、低下の度合いは、前記改変(C)を行っていない宿主における遺伝子の発現量よりも低下していればよく、当該発現量を100%としたとき、前記改変(C)を行った形質転換体における遺伝子の発現量が90%以下であることが好ましく、80%以下であることがより好ましく、60%以下であることがより好ましく、40%以下であることがより好ましく、20%以下であることがさらに好ましい。
藻類の細胞は、細胞壁と呼ばれる構造に覆われており、セルロースがその主成分である。セルロースは複数のサブユニットからなるセルロース合成酵素複合体によって合成される。この複合体の活性部位は、サブユニットA(以下、「CESA」という)が担っていると考えられる。ゆえに、藻類においてCES(好ましくはCESを構成するいずれか1つのサブユニット、好ましくはCESA)の発現を低下又は喪失させることにより、セルロース合成が阻害されることでセルロース由来の細胞壁構築が阻害されて比重が軽くなるため、浮上性が向上した形質転換体を得ることができる。
本発明における「セルロース合成酵素」とは、CES遺伝子から発現したタンパク質からなる酵素(あるいは複合体)で、セルロースの生合成に関与する酵素のことをいう。
また、本明細書において、「セルロース合成活性」(以下、「CES活性」ともいう)とは、セルロース合成反応を触媒する活性を意味する。
本発明で発現を低下又は喪失させるCESは、CES活性を示すタンパク質(酵素)であれば特に制限はない。
本発明で発現を低下又は喪失させるCESは、例えば、ゲノム情報を基にBlastで解析し、CESとアノテーションされたものを候補として選択できる。あるいは、Blastpによってアミノ酸配列を解析し、CESとアノテーションされたものもまた候補として選択できる。更に選択したタンパク質をコードする遺伝子を破壊又は欠失させた藻類を培養し細胞壁のセルロース層への影響を調べることでタンパク質を確認してもよい。
前記CESは、通常のCESや、それらと機能的に均等なタンパク質から、宿主の種類等に応じて適宜選択することができる。本発明における好ましいCESとしては、下記タンパク質(P)又は(Q)が挙げられる。

(P)配列番号13で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質。
(Q)前記タンパク質(P)のアミノ酸配列と同一性が60%以上のアミノ酸配列からなり、かつCES活性を有するタンパク質。

配列番号13で表されるアミノ酸配列からなる前記タンパク質(P)は、ナンノクロロプシス・オセアニカNIES-2145株由来のセルロース合成酵素複合体のサブユニットAを構成するタンパク質(以下、「CES1」ともいう)である。配列番号13で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質(前記タンパク質(P))はCES活性を有する。
前記タンパク質(Q)において、CES活性の点から、前記タンパク質(P)のアミノ酸配列との同一性は60%以上であり、65%以上が好ましく、70%以上がより好ましく、75%以上がより好ましく、80%以上がより好ましく、85%以上がより好ましく、90%以上がより好ましく、93%以上がより好ましく、95%以上がより好ましく、97%以上がより好ましく、98%以上がより好ましく、99%以上がさらに好ましい。
また、前記タンパク質(Q)として、前記タンパク質(P)のアミノ酸配列に、1又は複数個(例えば1個以上268個以下、好ましくは1個以上234個以下、より好ましくは1個以上201個以下、より好ましくは1個以上167個以下、より好ましくは1個以上134個以下、より好ましくは1個以上100個以下、より好ましくは1個以上67個以下、より好ましくは1個以上46個以下、より好ましくは1個以上33個以下、より好ましくは1個以上20個以下、より好ましくは1個以上13個以下、より好ましくは1個以上6個以下)のアミノ酸が欠失、置換、挿入又は付加されており、かつCES活性を有するタンパク質が挙げられる。
前記タンパク質(Q)としては、例えば配列番号95で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質、又は配列番号95で表されるアミノ酸配列と同一性が75%(好ましくは80%、より好ましくは90%、より好ましくは95%、さらにより好ましくは98%)以上のアミノ酸配列からなり、かつCES活性を有するタンパク質が挙げられる。配列番号95で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質は、ナンノクロロプシス・ガディタナ由来のCESである。なお、配列番号95で表されるアミノ酸配列と配列番号13で表されるアミノ酸配列(タンパク質(P)のアミノ酸配列)との同一性は83%であり、類似性は90%である。
前記CES(好ましくは前記タンパク質(P)及び(Q))をコードする遺伝子(以下、「CES遺伝子」ともいう)として、下記DNA(p)及び(q)からなる遺伝子が挙げられる。

(p)配列番号14で表される塩基配列からなるDNA。
(q)前記DNA(p)の塩基配列と同一性が60%以上の塩基配列からなり、かつCES活性を有するタンパク質をコードするDNA。

配列番号14で表される塩基配列は、配列番号13で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質(CES1)をコードする遺伝子(以下、「CES1遺伝子」ともいう)の塩基配列である。
前記DNA(q)において、CES活性の点から、前記DNA(p)の塩基配列との同一性は60%以上であり、65%以上が好ましく、70%以上がより好ましく、75%以上がより好ましく、80%以上がより好ましく、85%以上がより好ましく、90%以上がより好ましく、93%以上がより好ましく、95%以上がより好ましく、97%以上がより好ましく、98%以上がより好ましく、99%以上がさらに好ましい。
また前記DNA(q)として、配列番号14で表される塩基配列において、1又は複数個(例えば1個以上806個以下、好ましくは1個以上705個以下、より好ましくは1個以上604個以下、より好ましくは1個以上504個以下、より好ましくは1個以上403個以下、より好ましくは1個以上302個以下、より好ましくは1個以上201個以下、より好ましくは1個以上141個以下、より好ましくは1個以上100個以下、より好ましくは1個以上60個以下、より好ましくは1個以上40個以下、より好ましくは1個以上20個以下)の塩基が欠失、置換、挿入、又は付加されており、かつCES活性を有するタンパク質をコードする遺伝子も好ましい。
さらに前記DNA(q)として、前記DNA(p)と相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつCES活性を有するタンパク質をコードする遺伝子も好ましい。
前記DNA(q)としては、例えば配列番号96で表される塩基配列からなるDNA、又は配列番号96で表される塩基配列と同一性が85%(好ましくは90%、より好ましくは95%、さらにより好ましくは98%)以上の塩基配列からなり、かつCES活性を有するタンパク質をコードするDNAが挙げられる。配列番号96で表される塩基配列からなるDNAは、ナンノクロロプシス・ガディタナ由来のCESをコードする遺伝子である。なお、配列番号96で表される塩基配列と配列番号14で表される塩基配列(DNA(p)の塩基配列)との同一性は74%である。
前記改変(C)を行った形質転換体は、例えば下記の方法により得ることができる。
細胞壁合成経路遺伝子の発現を抑制する方法を説明する。本発明において、細胞壁合成経路遺伝子の発現を抑制する方法としては、常法より適宜選択することができる。例えば、細胞壁合成経路遺伝子を欠失(一部若しくは全長)する方法、細胞壁合成経路遺伝子をダウンレギュレートする方法、細胞壁合成経路遺伝子のプロモーターを改変する方法、アンチセンス、プロモーター競合などの技術を利用する方法、等が挙げられる。なかでも、細胞壁合成経路遺伝子を欠失、又は細胞壁合成経路遺伝子をダウンレギュレートすることにより、細胞壁合成経路遺伝子の発現を抑制することが好ましい。
また、細胞壁合成経路遺伝子の発現を抑制する方法に代えて、細胞壁合成経路遺伝子を不活性化する方法、細胞壁合成経路関連タンパク質自体の欠損や変異の導入等を適宜選択することもできる。これらの方法により得られる効果は、細胞壁合成経路遺伝子の発現を抑制する方法により得られる効果と同等である。
細胞壁合成経路遺伝子を欠失又は不活性化することにより、細胞壁合成経路遺伝子の発現を抑制する方法について説明する。
細胞壁合成経路遺伝子を欠失又は不活性化する方法としては、常法から適宜選択することができる。例えば、前記藻類自体が有する相同組換え能を利用した遺伝子破壊方法、転写活性化様エフェクターヌクレアーゼ(Transcription activator-like effector nuclease、TALEN)やクリスパー(CRISPR、Clustered Regularly Interspaced Short Palindromic Repeat)といったゲノム編集技術を利用した方法、突然変異等を利用した変異導入方法、など一般的な方法により、細胞壁合成経路遺伝子を欠失又は不活性化することができる。
具体的には、細胞壁合成経路遺伝子の一部を含むDNA断片又は適当なプラスミド(ベクター)にクローニングして得られる環状の組換えプラスミドを藻類の細胞内に取り込ませ、細胞壁合成経路遺伝子の一部領域における相同組換えによってゲノム上の細胞壁合成経路遺伝子の欠失や、これらを分断して細胞壁合成経路遺伝子を不活性化することが可能である。
また、N-メチル-N’-ニトロ-N-ニトロソグアニジンなどの変異誘発剤の使用、紫外線やガンマ線等の照射により細胞壁合成経路遺伝子の突然変異を誘発する方法、細胞壁合成経路遺伝子中に部位特異的点突然変異(例えば、フレームシフト突然変異、インフレーム突然変異、終止コドンの挿入など)を誘発する方法、細胞壁合成経路遺伝子の全部又は一部を他の任意のDNA断片(例えば、任意の選択マーカー)で置換する方法、などにより細胞壁合成経路遺伝子をランダムに不活性化することができる。
本発明において、相同組換えにより、ゲノム上の細胞壁合成経路遺伝子を欠失又は不活性化することが好ましい。
相同組換えにより細胞壁合成経路遺伝子を欠失又は不活性化するときは、前記藻類に、細胞壁合成経路遺伝子の相同組換え用プラスミド(ベクター)又は相同組換え用DNAカセットを導入する。
ここで使用する細胞壁合成経路遺伝子の相同組換え用プラスミド又は相同組換え用DNAカセットは、細胞壁合成経路遺伝子の全部又は一部を標的領域とする。そして、標的領域をコードするゲノムの上流側の一部と相同的な塩基配列と、ゲノムの下流側の一部と相同的な塩基配列を有するプラスミド又はDNAカセットを構築し、これを前記藻類に導入することが好ましい。
相同組換えに必要な細胞壁合成経路遺伝子の上流及び下流の塩基配列の情報は、例えば国立生物工学情報センター(National Center for Biotechnology Information, NCBI)などから入手することができる。
細胞壁合成経路遺伝子が欠失又は不活性化した藻類の選択は、選択マーカー等を利用することで行うことができる。例えば、薬剤耐性遺伝子が宿主細胞中に導入された結果、藻類が獲得する薬剤耐性を指標に行うことができる。また、ゲノムDNAを鋳型としたPCR法等によって、目的DNA断片の導入を確認することもできる。
また、細胞壁合成経路遺伝子が相同組換え用プラスミド又は相同組換え用DNAカセットと置換され、細胞壁合成経路遺伝子が欠失又は不活性化したことを確認するために、相同組換え用プラスミド又は相同組換え用DNAカセットに組み込まれる選択マーカーとして、通常用いられる選択マーカーから適宜選択することができる。本発明で好ましく用いることができる選択マーカーとしては、アンピシリン耐性遺伝子、クロラムフェニコール耐性遺伝子、エリスロマイシン耐性遺伝子、ネオマイシン耐性遺伝子、カナマイシン耐性遺伝子、スペクチノマイシン耐性遺伝子、テトラサイクリン耐性遺伝子、ブラストサイジンS耐性遺伝子、ビアラフォス耐性遺伝子、ゼオシン耐性遺伝子、パロモマイシン耐性遺伝子、及びハイグロマイシン耐性遺伝子等の薬剤耐性遺伝子が挙げられる。さらに、栄養要求性に関連する遺伝子をマーカー遺伝子として使用することもできる。栄養要求性に関連する遺伝子としては、例えば硝酸塩の資化に関わる遺伝子(硝酸還元酵素、硝酸トランスポーター)が挙げられる。選択マーカーのベクターへの導入は、制限酵素処理やライゲーション等の常法により行うことができる。
細胞壁合成経路遺伝子を欠失又は不活性化するために用いる、前記相同組換え用プラスミド又は相同組換え用DNAカセットは、通常用いられるプラスミド(ベクター)を使用して作製することができる。使用できるプラスミドとしては、例えば、pUC18(タカラバイオ社製)、pUC19(タカラバイオ社製)、pUC118(タカラバイオ社製)、P66(Chlamydomonas Center)、P-322(Chlamydomonas Center)、pPha-T1(Journal of Basic Microbiology, 2011, vol. 51, p. 666-672参照)、又はpJET1(コスモ・バイオ社製)が挙げられる。特に、pUC18、pPha-T1、又はpJET1が好ましく用いられる。
細胞壁合成経路遺伝子の欠失又は不活性化に用いる相同組換え用プラスミド又は相同組換え用DNAカセットのサイズは、藻類への導入効率や、相同組換え効率などを考慮し、適宜設定することができる。例えば、相同配列として用いる標的領域の上流又は下流塩基配列はそれぞれ300bp以上が好ましく、500bp以上がより好ましい。またその上限値は、2.5kbpが好ましく、2kbpがより好ましい。
前記相同組換え用プラスミド又は相同組換え用DNAカセットを藻類に導入する形質転換方法は、前述の方法と同様にして行うことができる。
細胞壁合成経路遺伝子をダウンレギュレートして、細胞壁合成経路遺伝子の発現を抑制する方法について説明する。
例えば、CES遺伝子の上流に位置するプロモーターを特定しこれを欠失若しくは不活性化することで、細胞壁合成経路遺伝子の発現量が減少する(細胞壁合成経路遺伝子のダウンレギュレーション)。細胞壁合成経路遺伝子の発現量が減少すると、細胞壁合成に関与するタンパク質の発現が阻害される。その結果、前記藻類において細胞壁の構築が阻害されることが推定される。よって、細胞壁合成経路遺伝子の発現量を減少させることで、細胞壁の合成が部分的に阻害され、比重が軽くなることにより、形質転換体の浮上性が向上すると考えられる。
細胞壁合成経路遺伝子をダウンレギュレートさせる方法は、常法より適宜選択することができる。例えば、N-メチル-N’-ニトロ-N-ニトロソグアニジンなどの変異誘発剤、UV、ガンマ線等の照射により細胞壁合成経路遺伝子のプロモーターや転写・翻訳開始領域の突然変異を誘発する方法、細胞壁合成経路遺伝子のプロモーター配列や転写・翻訳開始領域中に他の任意のDNA断片(例えば、任意のリプレッサー、任意の選択マーカー等)を挿入する方法、細胞壁合成経路遺伝子のプロモーター配列や転写・翻訳開始領域の全部又は一部を他の任意のDNA断片(例えば、任意のリプレッサー、任意の選択マーカー等)で置換する方法、アンチセンス法、RNA干渉法、プロモーター競合等があげられる。
形質転換体の宿主としては通常用いられるものより適宜選択することができる。本発明で用いることができる宿主としては、不等毛植物門に属する藻類であることが好ましく、不等毛植物門に属する藻類の中でも真正眼点藻綱に属する藻類であることがより好ましい。真正眼点藻綱に属する藻類の具体例としては、ナンノクロロプシス属の藻類、モノドプシス(Monodopsis)属の藻類、ビスケリア(Vischeria)属の藻類、クロロボトリス(Chlorobotrys)属の藻類、ゴニオクロリス(Goniochloris)属の藻類等が挙げられる。なかでも、脂質生産性の観点から、ナンノクロロプシス属の藻類がより好ましい。
前記ナンノクロロプシス属の藻類の具体例としては、ナンノクロロプシス・オセアニカ、ナンノクロロプシス・オキュラータ(Nannochloropsis oculata)、ナンノクロロプシス・ガディタナ、ナンノクロロプシス・サリナ(Nannochloropsis salina)、ナンノクロロプシス・リムネティカ(Nannochloropsis limnetica)、ナンノクロロプシス・グラニュラータ(Nannochloropsis granulata)、ナンノクロロプシス・エスピー(Nannochloropsis sp.)等が挙げられる。なかでも、脂質生産性の観点から、ナンノクロロプシス・オセアニカ、又はナンノクロロプシス・ガディタナが好ましく、ナンノクロロプシス・オセアニカがより好ましい。
形質転換方法は、使用する宿主の種類に応じて常法より適宜選択することができる。例えば、カルシウムイオンを用いる形質転換方法、一般的なコンピテントセル形質転換方法、プロトプラスト形質転換法、エレクトロポレーション法、LP形質転換方法、アグロバクテリウムを用いた方法、パーティクルガン法等が挙げられる。宿主としてナンノクロロプシス属の藻類を用いる場合、Randor Radakovits, et al.,Nature Communications,DOI:10.1038/ncomms1688,2012等に記載のエレクトロポレーション法を用いて形質転換を行うこともできる。
目的遺伝子断片が導入された形質転換体の選択は、選択マーカー等を利用することで行うことができる。例えば、薬剤耐性遺伝子が、形質転換時に目的DNA断片とともに宿主細胞中に導入された結果、形質転換体が獲得する薬剤耐性を指標に行うことができる。また、ゲノムを鋳型としたPCR法等によって、目的DNA断片の導入を確認することもできる。
本発明の脂質の製造方法に用いる形質転換体は、前記改変(A)~(C)がされていない宿主と比較して浮上性が向上している。したがって、本発明の形質転換体を適切な条件で培養し、次いで得られた培養物から脂肪酸又はこれを構成成分とする脂質を回収すれば、脂肪酸又はこれを構成成分とする脂質を効率よく製造することができる。
ここで「培養物」とは培養した後の培養液及び形質転換体をいう。
本発明の形質転換体の培養条件は、形質転換体の宿主に応じて適宜選択することができ、その宿主に対して通常用いられる培養条件を使用できる。また脂肪酸の生産効率の点から、培地中に、例えば脂肪酸生合成系に関与する前駆物質としてグリセロール、酢酸、又はグルコース等を添加してもよい。
前記培養に用いる培地は、天然海水又は人工海水をベースにしたものを使用してもよいし、市販の培養培地を使用してもよい。具体的な培地としては、f/2培地、ESM培地、ダイゴIMK培地、L1培地、MNK培地、等を挙げることができる。なかでも、脂質の生産性向上及び栄養成分濃度の観点から、f/2培地、ESM培地、又はダイゴIMK培地が好ましく、f/2培地、又はダイゴIMK培地がより好ましく、f/2培地がさらに好ましい。藻類の生育促進、脂肪酸の生産性向上のため、培地に、窒素源、リン源、金属塩、ビタミン類、微量金属等を適宜添加することができる。
また、窒素源として硝酸ナトリウムが配合されている場合、硝酸ナトリウムを炭酸水素アンモニウムに置換(配合されている硝酸ナトリウムの窒素原子モル量と、炭酸水素アンモニウムの窒素原子モル量が等量となるように置換)した培地を用いることで、微細藻類の生育や脂質の生産性を向上させることができ、結果として浮上性を向上させることができる。
培地に接種する形質転換体の量は適宜選択することができ、生育性の点から培地当り1~50%(vol/vol)が好ましく、1~10%(vol/vol)がより好ましい。培養温度は、藻類の増殖に悪影響を与えない範囲であれば特に制限されないが、通常、5~40℃の範囲である。藻類の生育促進、脂肪酸の生産性向上、及び生産コストの低減の観点から、好ましくは10~35℃であり、より好ましくは15~30℃である。
また前記培養は、光合成ができるよう光照射下で行うことが好ましい。光照射は、光合成が可能な条件であればよく、人工光でも太陽光でもよい。光照射時の光強度としては、藻類の生育促進、脂肪酸の生産性向上の観点から、好ましくは1~4,000μmol/m2/sの範囲、より好ましくは10~2,500μmol/m2/sの範囲、より好ましくは100~2,500μmol/m2/sの範囲、より好ましくは200~2,500μmol/m2/sの範囲、より好ましくは250~2,500μmol/m2/sの範囲、より好ましくは300~2,500μmol/m2/sの範囲である。また、光照射の間隔は、特に制限されないが、前記と同様の観点から、明暗周期で行うことが好ましく、24時間のうち明期が好ましくは8~24時間、より好ましくは10~18時間、さらに好ましくは12時間である。
また前記培養は、光合成ができるように二酸化炭素を含む気体の存在下、又は炭酸水素ナトリウムなどの炭酸塩を含む培地で行うことが好ましい。気体中の二酸化炭素の濃度は特に限定されないが、生育促進、脂肪酸の生産性向上の観点から0.03(大気条件と同程度)~10%が好ましく、より好ましくは0.05~5%、さらに好ましくは0.1~3%、よりさらに好ましくは0.3~1%である。炭酸塩の濃度は特に限定されないが、例えば炭酸水素ナトリウムを用いる場合、生育促進、脂肪酸の生産性向上の観点から0.01~5質量%が好ましく、より好ましくは0.05~2質量%、さらに好ましくは0.1~1質量%である。
培養時間は特に限定されず、脂質を高濃度に蓄積する藻体が高い濃度で増殖できるように、長期間(例えば150日程度)行なってもよい。藻類の生育促進、脂肪酸の生産性向上、及び生産コストの低減の観点から、培養期間は、好ましくは3~90日間、より好ましくは7~30日間、さらに好ましくは14~21日間である。なお、培養は、通気攪拌培養、振とう培養又は静置培養のいずれでもよく、通気性の向上の観点から、通気撹拌培養が好ましい。
さらに本発明の脂質の製造方法に用いる形質転換体は浮上性が向上していることから藻体の回収が容易であり、大量培養(ラージスケール)においても効率的に脂質を製造することができる。このような大量培養としては、例えば自然池や人工のレースウェイ池を利用したいわゆる開放型のオープンポンド方式や、閉鎖型のフォトバイオリアクターを利用した方法が挙げられる。
特に、例えば実験室内でスモールスケールで形質転換体などの微生物を培養する場合、多方向から光が照射されるため、浮上性の程度に関わらず全ての細胞が効率的に光エネルギーを得ることができる。しかし、オープンポンド方式では通常太陽光が培養槽の上方から照射されるため、培養槽の下層には光合成をするための十分な光が到達しない。これに対し、本発明の脂質の製造方法に用いる形質転換体は、宿主と比較して浮上性が向上しているため、より早い時期に培養液の表層近くまで浮上することができ、オープンポンド方式であってもより効率的に光エネルギーを得ることができるため、脂質の生産性が向上する。また、本発明の脂質の製造方法に用いる形質転換体は浮上性が向上していることから、培養液の上層(液面付近)に脂質を蓄積した形質転換体が浮遊するため、培養液全量を回収せずとも、培養液の上層を回収することで効率的、及び簡便に脂質を高含有した形質転換体を回収することができる。オープンポンド方式は閉鎖型のフォトバイオリアクターよりもシンプルで、かつ設備コストが安い等の利点がある。
また本発明の脂質の製造方法を閉鎖型のフォトバイオリアクターを用いて行う場合、回収のためのエネルギーが少なく、培養条件のコントロールも容易でかつ生産効率が高いという利点がある。特に、後述する連続培養(ケモスタット)によって藻体を培養する場合、閉鎖系のフォトバイオリアクターであればより効率的に藻体の回収を行うことができ、また培養液中の藻体の生育度合いや培養液中の栄養分等を適切に管理することができる。上記の閉鎖型のフォトバイオリアクターの形状は特に限定されず、例えば管状、フラットパネル型、クリスマスツリー状、プレート状、水平、模型型、多孔質基質型など、種々の形状を適用できる。
本発明の脂質の製造方法は、浮上分離により藻体(微細藻類の形質転換体)を回収する工程を含む。本発明ないし本明細書において「浮上分離」とは、形質転換体と培養液との比重の違いにより、培養液よりも比重が軽くなった形質転換体が培養液の上層に移動することで、培養液よりも比重が軽くなった形質転換体を分離する方法を意味する。
浮上分離により藻体を回収する方法としては、特に制限されず、脂質の製造方法に用いられる浮上分離による回収方法を適宜適用することができる。例えば、培養液を遠心分離や静置後、上層に浮上した藻体をデカンテーションにより回収することもでき、上層の培養液を吸引することにより藻体を回収することもでき、網などを用いて上層の藻体をすくい取って回収することもできる。なお、効率的に浮上分離を行うために、培養時に培養液を適宜撹拌、又はエアレーション等を行うことが好ましい。また、藻体をオープンポンド方式で生育させる場合、日中に藻体を培養する観点から、上記回収工程は太陽光の当たらない夜間に行うことも好ましい。
上記遠心分離の条件としては特に制限されず、藻体(特に脂質を高蓄積している藻体)を上層に集約できる条件であればよい。例えば、遠心加速度(g)は100~30000×gが好ましく、1000~20000×gがより好ましい。また、遠心分離の時間は、0.5~240分間であることが好ましく、1~30分間であることがより好ましい。
また、上記静置の条件も特に限定されず、藻体(特に脂質を高蓄積している藻体)を上層に集約できる条件であればよい。例えば1時間~10日間静置させることが好ましく、6時間~2日間静置させることがより好ましい。また、培養の際に撹拌やエアレーションを行う場合、静置条件では撹拌やエアレーションを行わないことも好ましい。
また、本発明の形質転換体は浮上性が向上しているため、例えば浮上分離により表層付近に存在する藻体のみを回収することで、培養液の全てを回収する必要がなくなる。これにより、例えば油脂の蓄積量が低く浮上性が低い藻体を回収せずに、十分に油脂が蓄積した上層の藻体を選択的に回収することができる。浮上性が低い藻体は引き続き培養をさせることで、十分に油脂を蓄積させ上層に浮上させた後に回収することができる。このように上層に浮上した藻体を選択的に回収し、また培養液の全てを回収しないことで、培養液の交換にかかるコストを大幅に減少させることができる。
すなわち、本発明の脂質の製造方法は、回分培養(バッチ培養)のように培養開始時に必要な栄養分を全て培養液中に入れ、培養終了時に培養液の全てを回収することもでき、また連続培養(ケモスタット)のように培養槽へ連続的に新鮮培養液を供給し、同時に同じ量の培養液を藻体ごと系外に排出することで藻体を回収し、定常状態で培養を行いながら藻体を回収することもできる。連続培養で藻体を培養する場合、浮上分離により油脂含量の高い藻体を優先的に回収し、油脂含量の低い藻体を再度培養することが好ましい。本発明の脂質の製造方法において、培養液の交換にかかるコストを削減する観点から、連続培養により藻体を培養することが好ましい。また藻体の回収効率を向上させる観点から、連続培養の場合、上層の培養液を排出することで藻体を回収することが好ましい。
培養物から脂質を回収する方法としては、常法から適宜選択することができる。例えば、前述の培養物を熱処理、高圧処理、高温高圧処理、ビーズ等を用いた物理的破砕、ハンドプレス法等の圧搾、酸若しくはアルカリ処理、消化酵素等の化学的処理、等の方法により細胞を破砕した後に、ろ過、遠心分離、ゲルろ過クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、又はクロロホルム/メタノール抽出法、ヘキサン抽出法、及びエタノール抽出法等の溶媒抽出により脂質成分を単離することで、脂質を回収することができる。
なお、より大規模な培養を行った場合は、培養物より油分を圧搾及び/又は溶媒抽出により回収後、脱ガム、脱酸、脱色、脱蝋、脱臭等の一般的な精製を行うことで、脂質を得ることができる。このように脂質成分を単離した後、単離した脂質を加水分解することで脂肪酸を得ることができる。脂質成分から脂肪酸を単離する方法としては、例えば、アルカリ溶液中で70℃程度の高温で処理をする方法、リパーゼ処理をする方法、又は高圧熱水を用いて分解する方法等が挙げられる。
本発明の製造方法において製造される脂質は、その利用性の点から、脂肪酸又は脂肪酸化合物を含んでいることが好ましく、脂肪酸又は脂肪酸エステル化合物を含んでいることがさらに好ましい。
脂肪酸エステル化合物は、生産性の点から、単純脂質又は複合脂質が好ましく、単純脂質がさらに好ましく、TAGがさらにより好ましい。
本発明の製造方法により得られる脂肪酸は、食用として用いる他、可塑剤、化粧品等の乳化剤、石鹸や洗剤等の洗浄剤、繊維処理剤、毛髪リンス剤、又は殺菌剤や防腐剤として利用することができる。
本発明は、前記改変(A)~(C)に用いる改変用プラスミド又は改変用DNAカセットも提供する。改変(A)に用いる改変用プラスミド又は改変用DNAカセットは、TAG合成経路遺伝子を含有するベクター又はDNAカセットである。改変(B)に用いる改変用プラスミド又は改変用DNAカセットは、CBB回路遺伝子を含有するベクター又はDNAカセットである。改変(C)に用いる改変用プラスミド又は改変用DNAカセットは、細胞壁合成経路遺伝子の塩基配列及びその上流の塩基配列からなる領域の上流側の一部と相同的な塩基配列と、ゲノム上の細胞壁合成経路遺伝子の塩基配列及びその下流の塩基配列からなる領域の下流側の一部と相同的な塩基配列を有する、相同組換えベクター又は相同組換え用DNAカセットである。これらの改変用プラスミド又は改変用DNAカセットは、前記改変(A)~(C)がされた微細藻類の作製に好適に用いることができる。
また、当該改変用プラスミド又は改変用DNAカセットを含む、形質転換体の作製用キットも提供する。なお本発明のキットは、前記ベクターの他、宿主、前記ベクターで宿主を形質転換するために通常用いられる試薬、形質転換用緩衝液、形質転換体を選抜するための指標となる試薬等、形質転換体の作製の検出に必要な他の要素を含んでいてもよい。
上述した実施形態に関し、本発明はさらに以下の形質転換体、方法を開示する。
<1>下記(A)~(C)からなる群より選ばれる少なくとも1つ、好ましくは下記(A)~(C)からなる群より選ばれる少なくとも2つ、さらに好ましくは下記(A)及び/又は(B)並びに下記(C)、さらに好ましくは下記(A)、(B)及び(C)、の改変がされた微細藻類の形質転換体を培養し、脂肪酸又はこれを構成成分とする脂質を生産させ、浮上分離により前記形質転換体を回収し、回収した形質転換体から脂質を得る、脂質の製造方法。

(A)TAG合成経路関連タンパク質をコードする少なくとも1種の遺伝子の発現を促進させる改変
(B)CBB回路関連タンパク質をコードする少なくとも1種の遺伝子の発現を促進させる改変
(C)細胞壁合成経路関連タンパク質をコードする少なくとも1種の遺伝子の発現を抑制させる改変
<2>下記(A)~(C)からなる群より選ばれる少なくとも1つ、好ましくは下記(A)~(C)からなる群より選ばれる少なくとも2つ、さらに好ましくは下記(A)及び/又は(B)並びに下記(C)、さらに好ましくは下記(A)、(B)及び(C)、の改変がされた微細藻類の形質転換体を培養し、脂肪酸又はこれを構成成分とする脂質を生産させ、浮上分離により前記形質転換体を回収する、形質転換体の回収方法。

(A)TAG合成経路関連タンパク質をコードする少なくとも1種の遺伝子の発現を促進させる改変
(B)CBB回路関連タンパク質をコードする少なくとも1種の遺伝子の発現を促進させる改変
(C)細胞壁合成経路関連タンパク質をコードする少なくとも1種の遺伝子の発現を抑制させる改変
<3>前記TAG合成経路関連タンパク質をコードする遺伝子の発現を前記微細藻類の細胞内で促進させ、TAG合成経路関連タンパク質の発現を促進させる、前記<1>又は<2>項記載の方法。
<4>前記TAG合成経路関連タンパク質をコードする遺伝子を前記微細藻類に導入し、導入したTAG合成経路関連タンパク質をコードする遺伝子の発現を促進させる、前記<1>~<3>のいずれか1項に記載の方法。
<5>前記TAG合成経路関連タンパク質をコードする遺伝子が、ACS、G3PDH、AT(GPAT、LPAAT、DGAT等)及びPAPからなる群より選ばれる少なくとも1種をコードする遺伝子、より好ましくはACS及びAT(GPAT、LPAAT、DGAT等)からなる群より選ばれる少なくとも1種をコードする遺伝子、さらに好ましくはACSをコードする遺伝子及びAT(GPAT、LPAAT、及びDGAT等)をコードする遺伝子、さらにより好ましくはACSをコードする遺伝子及びDGATをコードする遺伝子である、前記<1>~<4>のいずれか1項に記載の方法。
<6>前記ATが下記タンパク質(D)又は(E)である、前記<5>項記載の方法。

(D)配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質。
(E)前記タンパク質(D)のアミノ酸配列と同一性が60%以上、好ましくは65%以上、より好ましくは70%以上、さらに好ましくは75%以上、さらに好ましくは80%以上、さらに好ましくは85%以上、さらに好ましくは90%以上、さらに好ましくは93%以上、さらに好ましくは95%以上、さらに好ましくは97%以上、さらに好ましくは98%以上、さらに好ましくは99%以上、のアミノ酸配列からなり、かつAT活性を有するタンパク質。
<7>前記タンパク質(E)が、前記タンパク質(D)のアミノ酸配列に、1又は複数個、好ましくは1個以上145個以下、好ましくは1個以上127個以下、より好ましくは1個以上108個以下、より好ましくは1個以上90個以下、より好ましくは1個以上72個以下、より好ましくは1個以上54個以下、より好ましくは1個以上36個以下、より好ましくは1個以上25個以下、より好ましくは1個以上18個以下、より好ましくは1個以上10個以下、より好ましくは1個以上7個以下、より好ましくは1個以上3個以下、のアミノ酸が欠失、置換、挿入又は付加されたタンパク質であり、かつAT活性を有するタンパク質である、前記<6>項記載の方法。
<8>前記タンパク質(E)が、配列番号85で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質、又は配列番号85で表されるアミノ酸配列と同一性が75%(好ましくは80%、好ましくは85%、より好ましくは90%、より好ましくは95%、さらにより好ましくは98%)以上のアミノ酸配列からなり、かつAT活性を有するタンパク質である、前記<6>又は<7>項記載の方法。
<9>前記ATをコードする遺伝子が、下記DNA(d)又は(e)からなる遺伝子である、前記<5>~<8>のいずれか1項に記載の方法。

(d)配列番号2で表される塩基配列からなるDNA。
(e)前記DNA(d)の塩基配列と同一性が60%以上、好ましくは65%以上、より好ましくは70%以上、さらに好ましくは75%以上、さらに好ましくは80%以上、さらに好ましくは85%以上、さらに好ましくは90%以上、さらに好ましくは93%以上、さらに好ましくは95%以上、さらに好ましくは97%以上、さらに好ましくは98%以上、さらに好ましくは99%以上、の塩基配列からなり、かつAT活性を有するタンパク質をコードするDNA。
<10>前記DNA(e)が、前記DNA(d)の塩基配列に、1若しくは複数個、好ましくは1個以上526個以下、好ましくは1個以上436個以下、好ましくは1個以上382個以下、より好ましくは1個以上327個以下、より好ましくは1個以上273個以下、より好ましくは1個以上218個以下、より好ましくは1個以上163個以下、より好ましくは1個以上109個以下、より好ましくは1個以上76個以下、より好ましくは1個以上54個以下、より好ましくは1個以上32個以下、より好ましくは1個以上21個以下、より好ましくは1個以上10個以下、の塩基が欠失、置換、挿入、又は付加されており、かつAT活性を有するタンパク質をコードするDNAである、前記<9>項記載の方法。
<11>前記DNA(e)が、配列番号86で表される塩基配列からなるDNA、又は配列番号86で表される塩基配列と同一性が80%(好ましくは85%、より好ましくは90%、より好ましくは95%、さらにより好ましくは98%)以上の塩基配列からなり、かつAT活性を有するタンパク質をコードするDNAである、前記<9>又は<10>項記載の方法。
<12>前記ACSが下記タンパク質(F)又は(G)である、前記<5>~<11>のいずれか1項に記載の方法。

(F)配列番号3で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質。
(G)前記タンパク質(F)のアミノ酸配列と同一性が60%以上、好ましくは65%以上、より好ましくは70%以上、さらに好ましくは75%以上、さらに好ましくは80%以上、さらに好ましくは85%以上、さらに好ましくは90%以上、さらに好ましくは93%以上、さらに好ましくは95%以上、さらに好ましくは97%以上、さらに好ましくは98%以上、さらに好ましくは99%以上、のアミノ酸配列からなり、かつACS活性を有するタンパク質。
<13>前記タンパク質(G)が、前記タンパク質(F)のアミノ酸配列に、1又は複数個、好ましくは1個以上259個以下、好ましくは1個以上226個以下、より好ましくは1個以上194個以下、より好ましくは1個以上162個以下、より好ましくは1個以上129個以下、より好ましくは1個以上97個以下、より好ましくは1個以上64個以下、より好ましくは1個以上45個以下、より好ましくは1個以上32個以下、より好ましくは1個以上19個以下、より好ましくは1個以上12個以下、より好ましくは1個以上6個以下、のアミノ酸が欠失、置換、挿入又は付加されたタンパク質であり、かつACS活性を有するタンパク質である、前記<12>項記載の方法。
<14>前記タンパク質(G)が、配列番号87で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質、又は配列番号87で表されるアミノ酸配列と同一性が70%(好ましくは75%、より好ましくは80%、より好ましくは90%、より好ましくは95%、さらにより好ましくは98%)以上のアミノ酸配列からなり、かつACS活性を有するタンパク質である、前記<12>又は<13>項記載の方法。
<15>前記ACSをコードする遺伝子が、下記DNA(f)又は(g)からなる遺伝子である、前記<5>~<14>のいずれか1項に記載の方法。

(f)配列番号4で表される塩基配列からなるDNA。
(g)前記DNA(f)の塩基配列と同一性が60%以上、好ましくは65%以上、より好ましくは70%以上、さらに好ましくは75%以上、さらに好ましくは80%以上、さらに好ましくは85%以上、さらに好ましくは90%以上、さらに好ましくは93%以上、さらに好ましくは95%以上、さらに好ましくは97%以上、さらに好ましくは98%以上、さらに好ましくは99%以上、の塩基配列からなり、かつACS活性を有するタンパク質をコードするDNA。
<16>前記DNA(g)が、前記DNA(f)の塩基配列に、1若しくは複数個、好ましくは1個以上778個以下、好ましくは1個以上681個以下、より好ましくは1個以上584個以下、より好ましくは1個以上486個以下、より好ましくは1個以上389個以下、より好ましくは1個以上292個以下、より好ましくは1個以上194個以下、より好ましくは1個以上136個以下、より好ましくは1個以上97個以下、より好ましくは1個以上58個以下、より好ましくは1個以上38個以下、より好ましくは1個以上19個以下、の塩基が欠失、置換、挿入、又は付加されており、かつACS活性を有するタンパク質をコードするDNAである、前記<15>項記載の方法。
<17>前記DNA(g)が、配列番号88で表される塩基配列からなるDNA、又は配列番号88で表される塩基配列と同一性が80%(好ましくは85%、より好ましくは90%、より好ましくは95%、さらにより好ましくは98%)以上の塩基配列からなり、かつACS活性を有するタンパク質をコードするDNAである、前記<15>又は<16>項記載の方法。
<18>前記改変(A)に加えて、脂肪酸合成経路に関与するタンパク質をコードする遺伝子の発現が促進されている、前記<1>~<17>のいずれか1項に記載の方法。
<19>前記脂肪酸合成経路に関与するタンパク質をコードする遺伝子の発現を前記微細藻類の細胞内で促進させ、脂肪酸合成経路に関与するタンパク質の発現を促進させる、前記<18>項記載の方法。
<20>前記脂肪酸合成経路に関与するタンパク質をコードする遺伝子を前記微細藻類に導入し、導入した脂肪酸合成経路に関与するタンパク質をコードする遺伝子の発現を促進させる、前記<18>又は<19>項記載の方法。
<21>前記脂肪酸合成経路に関与するタンパク質をコードする遺伝子が、ACC、ACP、ホロ-ACPシンターゼ、MAT、KAS、KAR、HD、EAR、及びTEからなる群より選ばれる少なくとも1種をコードする遺伝子、好ましくはTEをコードする遺伝子である、前記<18>~<20>のいずれか1項に記載の方法。
<22>前記TEが、下記タンパク質(H)又は(I)である、前記<21>項記載の方法。

(H)配列番号5で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質。
(I)前記タンパク質(H)のアミノ酸配列と同一性が60%以上、好ましくは65%以上、より好ましくは70%以上、さらに好ましくは75%以上、さらに好ましくは80%以上、さらに好ましくは85%以上、さらに好ましくは90%以上、さらに好ましくは93%以上、さらに好ましくは95%以上、さらに好ましくは97%以上、さらに好ましくは98%以上、さらに好ましくは99%以上、のアミノ酸配列からなり、かつTE活性を有するタンパク質。
<23>前記タンパク質(I)が、前記タンパク質(H)のアミノ酸配列に、1又は複数個、好ましくは1個以上139個以下、好ましくは1個以上121個以下、より好ましくは1個以上104個以下、より好ましくは1個以上87個以下、より好ましくは1個以上69個以下、より好ましくは1個以上52個以下、より好ましくは1個以上34個以下、より好ましくは1個以上24個以下、より好ましくは1個以上17個以下、より好ましくは1個以上10個以下、より好ましくは1個以上6個以下、より好ましくは1個以上3個以下、のアミノ酸が欠失、置換、挿入又は付加されたタンパク質であり、かつTE活性を有するタンパク質である、前記<22>項記載の方法。
<24>前記TEをコードする遺伝子が、下記DNA(h)又は(i)からなる遺伝子である、前記<21>~<23>のいずれか1項に記載の方法。

(h)配列番号6で表される塩基配列からなるDNA。
(i)前記DNA(h)の塩基配列と同一性が60%以上、好ましくは65%以上、より好ましくは70%以上、さらに好ましくは75%以上、さらに好ましくは80%以上、さらに好ましくは85%以上、さらに好ましくは90%以上、さらに好ましくは93%以上、さらに好ましくは95%以上、さらに好ましくは97%以上、さらに好ましくは98%以上、さらに好ましくは99%以上、の塩基配列からなり、かつTE活性を有するタンパク質をコードするDNA。
<25>前記DNA(i)が、前記DNA(h)の塩基配列に、1若しくは複数個、好ましくは1個以上418個以下、好ましくは1個以上366個以下、より好ましくは1個以上314個以下、より好ましくは1個以上261個以下、より好ましくは1個以上209個以下、より好ましくは1個以上157個以下、より好ましくは1個以上104個以下、より好ましくは1個以上73個以下、より好ましくは1個以上52個以下、より好ましくは1個以上31個以下、より好ましくは1個以上20個以下、より好ましくは1個以上10個以下、の塩基が欠失、置換、挿入、又は付加されており、かつTE活性を有するタンパク質をコードするDNAである、前記<24>記載の方法。
<26>前記CBB回路関連タンパク質をコードする遺伝子の発現を前記微細藻類の細胞内で促進させ、CBB回路関連タンパク質の発現を促進させる、前記<1>~<25>のいずれか1項に記載の方法。
<27>前記CBB回路関連タンパク質をコードする遺伝子を前記微細藻類に導入し、導入したCBB回路関連タンパク質をコードする遺伝子の発現を促進させる、前記<1>~<26>のいずれか1項に記載の方法。
<28>前記CBB回路関連タンパク質をコードする遺伝子が、TK、FBA、RPI、リブロース-1,5-ビスリン酸カルボキシラーゼ/オキシゲナーゼ、セドヘプツロース-1,7-ビスホスファターゼ、ホスホリブロキナーゼ、ホスホグリセリン酸キナーゼ、グリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼ、トリオースリン酸イソメラーゼ、フルクトース-1,6-ビスホスファターゼ、リブロース-5-リン酸エピメラーゼ、及びRubiscoアクチベースからなる群より選ばれる少なくとも1種をコードする遺伝子、より好ましくはTK、FBA、及びRPIからなる群より選ばれる少なくとも1種をコードする遺伝子、さらに好ましくはTKをコードする遺伝子、さらに好ましくはTKをコードする遺伝子及びFBAをコードする遺伝子、さらに好ましくはTKをコードする遺伝子、FBAをコードする遺伝子及びRPIをコードする遺伝子である、前記<1>~<27>のいずれか1項に記載の方法。
<29>前記TKが、下記タンパク質(J)又は(K)である、前記<28>記載の方法。

(J)配列番号7で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質。
(K)前記タンパク質(J)のアミノ酸配列と同一性が60%以上、好ましくは65%以上、より好ましくは70%以上、さらに好ましくは75%以上、さらに好ましくは80%以上、さらに好ましくは85%以上、さらに好ましくは90%以上、さらに好ましくは93%以上、さらに好ましくは95%以上、さらに好ましくは97%以上、さらに好ましくは98%以上、さらに好ましくは99%以上、のアミノ酸配列からなり、かつTK活性を有するタンパク質。
<30>前記タンパク質(K)が、前記タンパク質(J)のアミノ酸配列に、1又は複数個、好ましくは1個以上289個以下、好ましくは1個以上253個以下、より好ましくは1個以上216個以下、より好ましくは1個以上180個以下、より好ましくは1個以上144個以下、より好ましくは1個以上108個以下、より好ましくは1個以上72個以下、より好ましくは1個以上50個以下、より好ましくは1個以上36個以下、より好ましくは1個以上21個以下、より好ましくは1個以上14個以下、より好ましくは1個以上7個以下、のアミノ酸が欠失、置換、挿入又は付加されたタンパク質であり、かつTK活性を有するタンパク質である、前記<29>項記載の方法。
<31>前記タンパク質(K)が、配列番号89で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質、又は配列番号89で表されるアミノ酸配列と同一性が70%(好ましくは75%、より好ましくは80%、より好ましくは90%、より好ましくは95%、さらにより好ましくは98%)以上のアミノ酸配列からなり、かつTK活性を有するタンパク質である、前記<29>又は<30>項記載の方法。
<32>前記TKをコードする遺伝子が、下記DNA(j)又は(k)からなる遺伝子である、前記<28>~<31>のいずれかに記載の方法。

(j)配列番号8で表される塩基配列からなるDNA。
(k)前記DNA(j)の塩基配列と同一性が60%以上、好ましくは65%以上、より好ましくは70%以上、さらに好ましくは75%以上、さらに好ましくは80%以上、さらに好ましくは85%以上、さらに好ましくは90%以上、さらに好ましくは93%以上、さらに好ましくは95%以上、さらに好ましくは97%以上、さらに好ましくは98%以上、さらに好ましくは99%以上、の塩基配列からなり、かつTK活性を有するタンパク質をコードするDNA。
<33>前記DNA(k)が、前記DNA(j)の塩基配列に、1若しくは複数個、好ましくは1個以上868個以下、好ましくは1個以上760個以下、より好ましくは1個以上651個以下、より好ましくは1個以上543個以下、より好ましくは1個以上434個以下、より好ましくは1個以上325個以下、より好ましくは1個以上217個以下、より好ましくは1個以上152個以下、より好ましくは1個以上108個以下、より好ましくは1個以上65個以下、より好ましくは1個以上43個以下、より好ましくは1個以上21個以下、の塩基が欠失、置換、挿入、又は付加されており、かつTK活性を有するタンパク質をコードするDNAである、前記<32>記載の方法。
<34>前記DNA(k)が、配列番号90で表される塩基配列からなるDNA、又は配列番号90で表される塩基配列と同一性が75%(好ましくは80%、より好ましくは85%、より好ましくは90%、より好ましくは95%、さらにより好ましくは98%)以上の塩基配列からなり、かつTK活性を有するタンパク質をコードするDNAである、前記<32>又は<33>記載の方法。
<35>前記FBAが、下記タンパク質(L)又は(M)である、前記<28>~<34>のいずれか1項に記載の方法。

(L)配列番号9で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質。
(M)前記タンパク質(L)のアミノ酸配列と同一性が60%以上、好ましくは65%以上、より好ましくは70%以上、さらに好ましくは75%以上、さらに好ましくは80%以上、さらに好ましくは85%以上、さらに好ましくは90%以上、さらに好ましくは93%以上、さらに好ましくは95%以上、さらに好ましくは97%以上、さらに好ましくは98%以上、さらに好ましくは99%以上、のアミノ酸配列からなり、かつFBA活性を有するタンパク質。
<36>前記タンパク質(M)が、前記タンパク質(L)のアミノ酸配列に、1又は複数個、好ましくは1個以上152個以下、好ましくは1個以上133個以下、より好ましくは1個以上114個以下、より好ましくは1個以上95個以下、より好ましくは1個以上76個以下、より好ましくは1個以上57個以下、より好ましくは1個以上38個以下、より好ましくは1個以上26個以下、より好ましくは1個以上19個以下、より好ましくは1個以上11個以下、より好ましくは1個以上7個以下、より好ましくは1個以上3個以下、のアミノ酸が欠失、置換、挿入又は付加されたタンパク質であり、かつFBA活性を有するタンパク質である、前記<35>項記載の方法。
<37>前記タンパク質(M)が、配列番号91で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質、又は配列番号91で表されるアミノ酸配列と同一性が65%(好ましくは70%、より好ましくは75%、より好ましくは80%、より好ましくは90%、より好ましくは95%、さらにより好ましくは98%)以上のアミノ酸配列からなり、かつFBA活性を有するタンパク質である、前記<35>又は<36>項記載の方法。
<38>前記FBAをコードする遺伝子が、下記DNA(l)又は(m)からなる遺伝子である、前記<28>~<37>のいずれか1項に記載の方法。

(l)配列番号10で表される塩基配列からなるDNA。
(m)前記DNA(l)の塩基配列と同一性が60%以上、好ましくは65%以上、より好ましくは70%以上、さらに好ましくは75%以上、さらに好ましくは80%以上、さらに好ましくは85%以上、さらに好ましくは90%以上、さらに好ましくは93%以上、さらに好ましくは95%以上、さらに好ましくは97%以上、さらに好ましくは98%以上、さらに好ましくは99%以上、の塩基配列からなり、かつFBA活性を有するタンパク質をコードするDNA。
<39>前記DNA(m)が、前記DNA(l)の塩基配列に、1若しくは複数個、好ましくは1個以上459個以下、好ましくは1個以上402個以下、より好ましくは1個以上344個以下、より好ましくは1個以上287個以下、より好ましくは1個以上229個以下、より好ましくは1個以上172個以下、より好ましくは1個以上114個以下、より好ましくは1個以上80個以下、より好ましくは1個以上57個以下、より好ましくは1個以上34個以下、より好ましくは1個以上22個以下、より好ましくは1個以上11個以下、の塩基が欠失、置換、挿入、又は付加されており、かつFBA活性を有するタンパク質をコードするDNAである、前記<38>項記載の方法。
<40>前記DNA(m)が、配列番号92で表される塩基配列からなるDNA、又は配列番号92で表される塩基配列と同一性が75%(好ましくは80%、より好ましくは85%、より好ましくは90%、より好ましくは95%、さらにより好ましくは98%)以上の塩基配列からなり、かつFBA活性を有するタンパク質をコードするDNAである、前記<38>又は<39>項記載の方法。
<41>前記RPIが、下記タンパク質(N)又は(O)である、前記<28>~<40>のいずれか1項に記載の方法。

(N)配列番号11で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質。
(O)前記タンパク質(N)のアミノ酸配列と同一性が60%以上、好ましくは65%以上、より好ましくは70%以上、さらに好ましくは75%以上、さらに好ましくは80%以上、さらに好ましくは85%以上、さらに好ましくは90%以上、さらに好ましくは93%以上、さらに好ましくは95%以上、さらに好ましくは97%以上、さらに好ましくは98%以上、さらに好ましくは99%以上、のアミノ酸配列からなり、かつRPI活性を有するタンパク質。
<42>前記タンパク質(O)が、前記タンパク質(N)のアミノ酸配列に、1又は複数個、好ましくは1個以上112個以下、好ましくは1個以上98個以下、より好ましくは1個以上84個以下、より好ましくは1個以上70個以下、より好ましくは1個以上56個以下、より好ましくは1個以上42個以下、より好ましくは1個以上28個以下、より好ましくは1個以上19個以下、より好ましくは1個以上14個以下、より好ましくは1個以上8個以下、より好ましくは1個以上5個以下、より好ましくは1個又は2個、のアミノ酸が欠失、置換、挿入又は付加されたタンパク質であり、かつRPI活性を有するタンパク質である、前記<41>項記載の方法。
<43>前記タンパク質(O)が、配列番号93で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質、又は配列番号93で表されるアミノ酸配列と同一性が70%(好ましくは75%、より好ましくは80%、より好ましくは90%、より好ましくは95%、さらにより好ましくは98%)以上のアミノ酸配列からなり、かつRPI活性を有するタンパク質である、前記<41>又は<42>記載の方法。
<44>前記RPIをコードする遺伝子が、下記DNA(n)及び(o)からなる遺伝子である、前記<28>~<43>のいずれかに記載の方法。

(n)配列番号12で表される塩基配列からなるDNA。
(o)前記DNA(n)の塩基配列と同一性が60%以上、好ましくは65%以上、より好ましくは70%以上、さらに好ましくは75%以上、さらに好ましくは80%以上、さらに好ましくは85%以上、さらに好ましくは90%以上、さらに好ましくは93%以上、さらに好ましくは95%以上、さらに好ましくは97%以上、さらに好ましくは98%以上、さらに好ましくは99%以上、の塩基配列からなり、かつRPI活性を有するタンパク質をコードするDNA。
<45>前記DNA(o)が、前記DNA(n)の塩基配列に、1若しくは複数個、好ましくは1個以上339個以下、好ましくは1個以上297個以下、より好ましくは1個以上254個以下、より好ましくは1個以上212個以下、より好ましくは1個以上169個以下、より好ましくは1個以上127個以下、より好ましくは1個以上84個以下、より好ましくは1個以上59個以下、より好ましくは1個以上42個以下、より好ましくは1個以上25個以下、より好ましくは1個以上16個以下、より好ましくは1個以上8個以下、の塩基が欠失、置換、挿入、又は付加されており、かつRPI活性を有するタンパク質をコードするDNAである、前記<44>項記載の方法。
<46>前記DNA(o)が、配列番号94で表される塩基配列からなるDNA、又は配列番号94で表される塩基配列と同一性が75%(好ましくは80%、より好ましくは85%、より好ましくは90%、より好ましくは95%、さらにより好ましくは98%)以上の塩基配列からなり、かつRPI活性を有するタンパク質をコードするDNAである、前記<44>又は<45>項記載の方法。
<47>前記細胞壁合成経路関連タンパク質をコードする遺伝子を欠失若しくは不活性化、又は前記細胞壁合成経路関連タンパク質をコードする遺伝子をダウンレギュレートすることにより、前記細胞壁合成経路関連タンパク質の発現を低下又は喪失する、前記<1>~<46>のいずれか1項に記載の方法。
<48>前記細胞壁合成経路関連タンパク質をコードする遺伝子がCES、アルジナン合成に関与するPKS、及びUDP-グルコースピロホスホリラーゼからなる群より選ばれる少なくとも1種をコードする遺伝子、好ましくはCESをコードする遺伝子である、前記<1>~<47>のいずれか1項に記載の方法。
<49>前記CESが、下記タンパク質(P)又は(Q)である、前記<48>項記載の方法。

(P)配列番号13で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質。
(Q)前記タンパク質(P)のアミノ酸配列と同一性が60%以上、好ましくは65%以上、より好ましくは70%以上、さらに好ましくは75%以上、さらに好ましくは80%以上、さらに好ましくは85%以上、さらに好ましくは90%以上、さらに好ましくは93%以上、さらに好ましくは95%以上、さらに好ましくは97%以上、さらに好ましくは98%以上、さらに好ましくは99%以上、のアミノ酸配列からなり、かつCES活性を有するタンパク質。
<50>前記タンパク質(Q)が、前記タンパク質(P)のアミノ酸配列に、1又は複数個、好ましくは1個以上268個以下、好ましくは1個以上234個以下、より好ましくは1個以上201個以下、より好ましくは1個以上167個以下、より好ましくは1個以上134個以下、より好ましくは1個以上100個以下、より好ましくは1個以上67個以下、より好ましくは1個以上46個以下、より好ましくは1個以上33個以下、より好ましくは1個以上20個以下、より好ましくは1個以上13個以下、より好ましくは1個以上6個以下、のアミノ酸が欠失、置換、挿入又は付加されたタンパク質であり、かつCES活性を有するタンパク質である、前記<49>項記載の方法。
<51>前記タンパク質(Q)が、配列番号95で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質、又は配列番号95で表されるアミノ酸配列と同一性が75%(好ましくは80%、より好ましくは90%、より好ましくは95%、さらにより好ましくは98%)以上のアミノ酸配列からなり、かつCES活性を有するタンパク質である、前記<49>又は<50>項記載の方法。
<52>前記CESをコードする遺伝子が、下記DNA(p)又は(q)からなる遺伝子である、前記<48>~<51>のいずれか1項に記載の方法。

(p)配列番号14で表される塩基配列からなるDNA。
(q)前記DNA(p)の塩基配列と同一性が60%以上、好ましくは65%以上、より好ましくは70%以上、さらに好ましくは75%以上、さらに好ましくは80%以上、さらに好ましくは85%以上、さらに好ましくは90%以上、さらに好ましくは93%以上、さらに好ましくは95%以上、さらに好ましくは97%以上、さらに好ましくは98%以上、さらに好ましくは99%以上、の塩基配列からなり、かつCES活性を有するタンパク質をコードするDNA。
<53>前記DNA(q)が、前記DNA(p)の塩基配列に、1若しくは複数個、好ましくは1個以上806個以下、好ましくは1個以上705個以下、より好ましくは1個以上604個以下、より好ましくは1個以上504個以下、より好ましくは1個以上403個以下、より好ましくは1個以上302個以下、より好ましくは1個以上201個以下、より好ましくは1個以上141個以下、より好ましくは1個以上100個以下、より好ましくは1個以上60個以下、より好ましくは1個以上40個以下、より好ましくは1個以上20個以下、の塩基が欠失、置換、挿入、又は付加されており、かつCES活性を有するタンパク質をコードするDNAである、前記<52>項記載の方法。
<54>前記DNA(q)が、配列番号96で表される塩基配列からなるDNA、又は配列番号96で表される塩基配列と同一性が85%(好ましくは90%、より好ましくは95%、さらにより好ましくは98%)以上の塩基配列からなり、かつCES活性を有するタンパク質をコードするDNAである、前記<52>又は<53>項記載の方法。
<55>前記微細藻類が、不等毛植物門に属する藻類、好ましくは真正眼点藻綱に属する藻類、より好ましくはナンノクロロプシス属の藻類、モノドプシス属の藻類、ビスケリア属の藻類、クロロボトリス属の藻類、及びゴニオクロリス属の藻類からなる群より選ばれる少なくとも1つの藻類、さらに好ましくはナンノクロロプシス属の藻類である、前記<1>~<54>のいずれか1項に記載の方法。
<56>前記ナンノクロロプシス属に属する藻類が、ナンノクロロプシス・オセアニカ、ナンノクロロプシス・オキュラータ、ナンノクロロプシス・ガディタナ、ナンノクロロプシス・サリナ、ナンノクロロプシス・リムネティカ、ナンノクロロプシス・グラニュラータ、ナンノクロロプシス・エスピー、からなる群より選ばれる少なくとも1種の藻類、好ましくはナンノクロロプシス・ガディタナ、又はナンノクロロプシス・オセアニカである、前記<55>項記載の方法。
<57>前記回収した形質転換体から、圧搾及び/又は溶媒抽出により脂質を回収する工程、好ましくは圧搾及び溶媒抽出により脂質を回収する工程を含む、前記<1>~<56>のいずれか1項に記載の方法。
<58>前記形質転換体の培養をオープンポンド方式、又は閉鎖型のフォトバイオリアクターで行う、前記<1>~<57>のいずれか1項に記載の方法。
<59>前記形質転換体の培養を回分培養又は連続培養、好ましくは連続培養で行う、前記<1>~<58>のいずれか1項に記載の方法。
<60>前記連続培養において、油脂の蓄積量が増加した藻体を浮上分離により回収し、油脂の蓄積量が少ない藻体を引き続き連続して培養する、前記<59>項記載の方法。
<61>前記脂質が、トリアシルグリセロールを含む、前記<1>~<60>のいずれか1項記載の方法。
<62>前記(A)~(C)からなる群より選ばれる少なくとも1つ、好ましくは前記(A)~(C)からなる群より選ばれる少なくとも2つ、さらに好ましくは前記(A)及び/又は(B)並びに前記(C)、さらに好ましくは前記(A)、(B)及び(C)、の改変がされた、微細藻類の形質転換体。
<63>前記形質転換体が、前記改変(A)~(C)のいずれもされていない宿主と比較して浮上性が向上している、前記<62>記載の形質転換体。
<64>前記形質転換体、及び前記改変(A)~(C)のいずれもされていない宿主を同一の培養条件で培養した後に、21600×gで10分間遠心した場合に、前記改変(A)~(C)のいずれもされていない宿主と比較して沈殿しない細胞の割合が向上している、前記<62>又は<63>項記載の形質転換体。
<65>前記TAG合成経路関連タンパク質をコードする遺伝子の発現が前記微細藻類の細胞内で促進されることで、TAG合成経路関連タンパク質の発現が促進されている、前記<62>~<64>のいずれか1項記載の形質転換体。
<66>前記TAG合成経路関連タンパク質をコードする遺伝子を前記微細藻類に導入することで、導入したTAG合成経路関連タンパク質をコードする遺伝子の発現が促進している、前記<62>~<65>のいずれか1項記載の形質転換体。
<67>前記TAG合成経路関連タンパク質をコードする遺伝子、又は前記TAG合成経路関連タンパク質をコードする遺伝子を含有するプラスミド若しくはDNAカセットを含んでなる、前記<62>~<66>のいずれか1項記載の形質転換体。
<68>前記CBB回路関連タンパク質をコードする遺伝子の発現が前記微細藻類の細胞内で促進されることで、CBB回路関連タンパク質の発現が促進されている、前記<62>~<67>のいずれか1項記載の形質転換体。
<69>前記CBB回路関連タンパク質をコードする遺伝子を前記微細藻類に導入することで、導入したCBB回路関連タンパク質をコードする遺伝子の発現が促進している、前記<62>~<68>のいずれか1項記載の形質転換体。
<70>前記CBB回路関連タンパク質をコードする遺伝子、又は前記CBB回路関連タンパク質をコードする遺伝子を含有するプラスミド若しくはDNAカセットを含んでなる、前記<62>~<69>のいずれか1項記載の形質転換体。
<71>前記細胞壁合成経路関連タンパク質をコードする遺伝子が欠失若しくは不活性化、又は前記細胞壁合成経路関連タンパク質をコードする遺伝子がダウンレギュレートしている、前記<62>~<70>のいずれか1項記載の形質転換体。
<72>前記細胞壁合成経路関連タンパク質をコードする遺伝子が欠失若しくは不活性化、又は前記細胞壁合成経路関連タンパク質をコードする遺伝子がダウンレギュレートしていることにより、前記細胞壁合成経路関連タンパク質の発現が低下又は喪失している、前記<62>~<71>のいずれか1項記載の形質転換体。
<73>前記細胞壁合成経路関連タンパク質をコードする遺伝子を欠失若しくは不活性化、又は前記細胞壁合成経路関連タンパク質をコードする遺伝子をダウンレギュレートするためのプラスミド若しくはDNAカセットを含んでなる、前記<62>~<72>のいずれか1項記載の形質転換体。
<74>微細藻類に前記改変(A)~(C)を行う、微細藻類の形質転換体の作製方法。
<75>前記TAG合成経路関連タンパク質をコードする遺伝子、又は前記TAG合成経路関連タンパク質をコードする遺伝子を含有するプラスミド若しくはDNAカセットを、前記微細藻類に導入する、前記<74>項記載の形質転換体の作製方法。
<76>前記CBB回路関連タンパク質をコードする遺伝子、又は前記CBB回路関連タンパク質をコードする遺伝子を含有するプラスミド若しくはDNAカセットを、前記微細藻類に導入する、前記<74>又は<75>項に記載の形質転換体の作製方法。
<77>前記細胞壁合成経路関連タンパク質をコードする遺伝子を欠失若しくは不活性化、又は前記細胞壁合成経路関連タンパク質をコードする遺伝子をダウンレギュレートするためのプラスミド若しくはDNAカセットを、前記微細藻類に導入する、前記<74>~<76>のいずれか1項記載の形質転換体の作製方法。
<78>前記改変(A)~(C)を行うための、微細藻類の形質転換体の作製用キット。
<79>前記<75>~<77>のいずれか1項記載のプラスミド又はDNAカセットを含んでなる、前記<78>項記載の微細藻類の形質転換体の作製用キット。
<80>前記TAG合成経路関連タンパク質をコードする遺伝子が、ACS、G3PDH、AT(GPAT、LPAAT、DGAT等)及びPAPからなる群より選ばれる少なくとも1種をコードする遺伝子、より好ましくはACS及びAT(GPAT、LPAAT、及びDGAT等)からなる群より選ばれる少なくとも1種をコードする遺伝子、さらに好ましくはACSをコードする遺伝子及びAT(GPAT、LPAAT、及びDGAT等)をコードする遺伝子、さらにより好ましくはACSをコードする遺伝子及びDGATをコードする遺伝子である、前記<62>~<79>のいずれか1項に記載の形質転換体、その作製方法、又は形質転換体の作製用キット。
<81>前記DGAT又は前記DGATをコードする遺伝子が、前記<6>~<11>のいずれか1項で規定するタンパク質又は遺伝子である、前記<80>項に記載の形質転換体、その作製方法、又は形質転換体の作製用キット。
<82>前記ACS又は前記ACSをコードする遺伝子が、前記<12>~<17>のいずれか1項で規定するタンパク質又は遺伝子である、前記<80>又は<81>項に記載の形質転換体、その作製方法、又は形質転換体の作製用キット。
<83>前記CBB回路関連タンパク質をコードする遺伝子が、TK、FBA、RPI、リブロース-1,5-ビスリン酸カルボキシラーゼ/オキシゲナーゼ、セドヘプツロース-1,7-ビスホスファターゼ、ホスホリブロキナーゼ、ホスホグリセリン酸キナーゼ、グリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼ、トリオースリン酸イソメラーゼ、フルクトース-1,6-ビスホスファターゼ、リブロース-5-リン酸エピメラーゼ、Rubiscoアクチベースからなる群より選ばれる少なくとも1種をコードする遺伝子、より好ましくはTK、FBA、及びRPIからなる群より選ばれる少なくとも1種をコードする遺伝子、さらに好ましくはTKをコードする遺伝子、さらに好ましくはTKをコードする遺伝子及びFBAをコードする遺伝子、さらに好ましくはTKをコードする遺伝子、FBAをコードする遺伝子及びRPIをコードする遺伝子である、前記<62>~<82>のいずれか1項に記載の形質転換体、その作製方法、又は形質転換体の作製用キット。
<84>前記TK又は前記TKをコードする遺伝子が、前記<29>~<34>のいずれか1項で規定するタンパク質又は遺伝子である、前記<83>項に記載の形質転換体、その作製方法、又は形質転換体の作製用キット。
<85>前記FBA又は前記FBAをコードする遺伝子が、前記<35>~<40>のいずれか1項で規定するタンパク質又は遺伝子である、前記<83>又は<84>項に記載の形質転換体、その作製方法、又は形質転換体の作製用キット。
<86>前記RPI又は前記RPIをコードする遺伝子が、前記<41>~<46>のいずれか1項で規定するタンパク質又は遺伝子である、前記<83>~<85>のいずれか1項に記載の形質転換体、その作製方法、又は形質転換体の作製用キット。
<87>前記細胞壁合成経路関連タンパク質をコードする遺伝子が、好ましくはCES、アルジナン合成に関与するPKS、及びUDP-グルコースピロホスホリラーゼからなる群より選ばれる少なくとも1種をコードする遺伝子、より好ましくはCESをコードする遺伝子である、前記<62>~<86>のいずれか1項に記載の形質転換体、その作製方法、又は形質転換体の作製用キット。
<88>前記CES又は前記CESをコードする遺伝子が、前記<49>~<54>のいずれか1項で規定するタンパク質又は遺伝子である、前記<87>項に記載の形質転換体、その作製方法、又は形質転換体の作製用キット。
<89>前記形質転換体において、脂肪酸合成経路に関与するタンパク質をコードする遺伝子の発現が促進している、前記<62>~<88>のいずれか1項に記載の形質転換体。
<90>前記脂肪酸合成経路に関与するタンパク質をコードする遺伝子の発現が前記微細藻類の細胞内で促進されることで、脂肪酸合成経路に関与するタンパク質の発現が促進されている、前記<89>項記載の形質転換体。
<91>前記脂肪酸合成経路に関与するタンパク質をコードする遺伝子を前記微細藻類に導入することで、導入した脂肪酸合成経路に関与するタンパク質をコードする遺伝子の発現が促進している、前記<89>又は<90>項記載の形質転換体。
<92>前記脂肪酸合成経路に関与するタンパク質をコードする遺伝子、又は脂肪酸合成経路に関与するタンパク質をコードする遺伝子を含有するプラスミド若しくはDNAカセットを含んでなる、前記<89>~<91>のいずれか1項記載の形質転換体。
<93>脂肪酸合成経路に関与するタンパク質をコードする遺伝子、又は脂肪酸合成経路に関与するタンパク質をコードする遺伝子を含有するプラスミド若しくはDNAカセットを、前記微細藻類に導入する、前記<74>~<92>のいずれか1項記載の形質転換体の作製方法。
<94>前記脂肪酸合成経路に関与するタンパク質をコードする遺伝子を含有するプラスミド若しくはDNAカセットを含む、前記<78>~<93>のいずれか1項記載の形質転換体の作製用キット。
<95>前記脂肪酸合成経路に関与するタンパク質をコードする遺伝子が、ACC、ACP、ホロ-ACPシンターゼ、MAT、KAS、KAR、HD、EAR、及びTEからなる群より選ばれるタンパク質をコードする遺伝子、好ましくはTEをコードする遺伝子である、前記<89>~<94>のいずれか1項に記載の形質転換体、その作製方法、又は形質転換体の作製用キット。
<96>前記TE又は前記TEをコードする遺伝子が、前記<22>~<25>のいずれか1項で規定するタンパク質又は遺伝子である、前記<95>項に記載の形質転換体、その作製方法、又は形質転換体の作製用キット。
<97>前記微細藻類が、不等毛植物門に属する藻類、好ましくは真正眼点藻綱に属する藻類、より好ましくはナンノクロロプシス属の藻類、モノドプシス属の藻類、ビスケリア属の藻類、クロロボトリス属の藻類、及びゴニオクロリス属の藻類からなる群より選ばれる少なくとも1つの藻類、さらに好ましくはナンノクロロプシス属の藻類である、前記<62>~<96>のいずれか1項に記載の形質転換体、その作製方法、又は形質転換体の作製用キット。
<98>前記ナンノクロロプシス属に属する藻類が、ナンノクロロプシス・オセアニカ、ナンノクロロプシス・オキュラータ、ナンノクロロプシス・ガディタナ、ナンノクロロプシス・サリナ、ナンノクロロプシス・リムネティカ、ナンノクロロプシス・グラニュラータ、ナンノクロロプシス・エスピー、からなる群より選ばれる少なくとも1種の藻類、好ましくはナンノクロロプシス・ガディタナ、又はナンノクロロプシス・オセアニカである、前記<97>項記載の形質転換体、その作製方法、又は形質転換体の作製用キット。
<99>脂質を製造するための、前記<62>~<98>のいずれか1項記載の形質転換体、その作製方法により作製された形質転換体、又は形質転換体の作製用キットの使用。
以下、本発明を実施例に基づきさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。ここで、本実施例で用いたプライマーの塩基配列を表1に示す。
Figure 2023111516000001
調製例1 ナンノクロロプシス・オセアニカ由来のCBB回路遺伝子、及びTAG合成経路遺伝子の発現用プラスミド、並びに細胞壁合成経路関連タンパク質をコードする遺伝子破壊用プラスミドの作製
(1)ゼオシン耐性遺伝子発現用プラスミドの構築
ゼオシン耐性遺伝子(配列番号15)、及び文献(Randor Radakovits, et al., Nature Communications, DOI:10.1038/ncomms1688, 2012)記載のナンノクロロプシス ガディタナCCMP526株由来チューブリンプロモーター配列(配列番号18)を人工合成した。合成したDNA断片を鋳型として、表1に示すプライマー28(配列番号28)及びプライマー29(配列番号29)のプライマー対、並びにプライマー34(配列番号34)及びプライマー35(配列番号35)のプライマー対を用いてPCRを行い、ゼオシン耐性遺伝子断片及びチューブリンプロモーター配列断片をそれぞれ増幅した。また、ナンノクロロプシス・オセアニカNIES2145株のゲノムを鋳型として、表1に示すプライマー36(配列番号36)及びプライマー37(配列番号37)のプライマー対を用いてPCRを行い、ヒートショックプロテインターミネーター配列断片(配列番号19)を増幅した。さらに、プラスミドベクターpUC19(タカラバイオ社製)を鋳型として、表1に示すプライマー38(配列番号38)及びプライマー39(配列番号39)のプライマー対を用いたPCRを行い、プラスミドベクターpUC19断片を増幅した。これら4つの増幅断片をそれぞれ制限酵素DpnI(東洋紡株式会社製)にて処理し、High Pure PCR Product Purification Kit(Roche Applied Science社製)を用いて精製した。その後、得られた4つの断片をIn-Fusion HD Cloning Kit(Clontech社製)を用いて融合し、ゼオシン耐性遺伝子発現用プラスミドを構築した。なお、本発現プラスミドは、チューブリンプロモーター配列、ゼオシン耐性遺伝子、及びヒートショックプロテインターミネーター配列の順に連結したインサート配列(ゼオシン耐性遺伝子発現カセット)と、pUC19ベクター配列からなる。
(2)ナンノクロロプシス・オセアニカ由来TAG合成経路遺伝子及びCBB回路遺伝子の取得、並びに遺伝子発現用プラスミドの構築
ナンノクロロプシス・オセアニカNIES2145株の全RNAを抽出し、SuperScript(商標) III First-Strand Synthesis SuperMix for qRT-PCR(invitrogen社製)を用いて逆転写を行ってcDNAを得た。このcDNAを鋳型として、表1に示すプライマー59(配列番号59)及びプライマー60(配列番号60)のプライマー対、プライマー61(配列番号61)及びプライマー62(配列番号62)のプライマー対、プライマー63(配列番号63)及びプライマー64(配列番号64)のプライマー対、プライマー65(配列番号65)及びプライマー66(配列番号66)のプライマー対、プライマー67(配列番号67)及びプライマー68(配列番号68)のプライマー対、並びにプライマー69(配列番号69)及びプライマー70(配列番号70)のプライマー対、をそれぞれ用いたPCR反応により、TAG合成経路関連タンパク質であるDGAT2-8(アミノ酸配列:配列番号1)をコードする遺伝子(DGAT2-8遺伝子、塩基配列:配列番号2)、LACS2(アミノ酸配列:配列番号3)をコードする遺伝子(LACS2遺伝子、塩基配列:配列番号4)、及びTE2(アミノ酸配列:配列番号5)をコードする遺伝子(TE2遺伝子、塩基配列:配列番号6)、並びにCBB回路関連タンパク質であるTK1(アミノ酸配列:配列番号7)をコードする遺伝子(TK1遺伝子、塩基配列:配列番号8)、FBA2(アミノ酸配列:配列番号9)をコードする遺伝子(FBA2遺伝子、塩基配列:配列番号10)、及びRPI(アミノ酸配列:配列番号11)をコードする遺伝子(RPI遺伝子、塩基配列:配列番号12)、の各DNA断片をそれぞれ取得した。
また、ナンノクロロプシス・オセアニカNIES2145株のゲノムを鋳型として、表1に示すプライマー40(配列番号40)及びプライマー41(配列番号41)のプライマー対、並びにプライマー42(配列番号42)及びプライマー43(配列番号43)のプライマー対を用いたPCRを行い、LDSPプロモーター断片(配列番号20)及びVCP1ターミネーター断片(配列番号21)をそれぞれ取得した。
さらに、前記ゼオシン耐性遺伝子発現プラスミドを鋳型として、表1に示すプライマー44(配列番号44)及びプライマー39(配列番号39)のプライマー対を用いたPCRを行い、ゼオシン耐性遺伝子発現カセット(チューブリンプロモーター配列、ゼオシン耐性遺伝子、ヒートショックプロテインターミネーター配列)及びpUC19配列からなる断片を増幅した。
各TAG合成経路遺伝子又はCBB回路遺伝子の各DNA断片と、LDSPプロモーター断片と、VCP1ターミネーター断片と、ゼオシン耐性遺伝子発現カセット及びpUC19配列からなる断片とを、前述の方法と同様の方法にて融合し、DGAT2-8遺伝子発現用プラスミド(ゼオシン耐性)、LACS2遺伝子発現用プラスミド(ゼオシン耐性)、TE2遺伝子発現用プラスミド(ゼオシン耐性)、TK1遺伝子発現用プラスミド(ゼオシン耐性)、FBA2遺伝子発現用プラスミド(ゼオシン耐性)、及びRPI遺伝子発現用プラスミド(ゼオシン耐性)、をそれぞれ構築した。なお、本発現プラスミドはLDSPプロモーター配列、各TAG合成経路遺伝子又はCBB回路遺伝子、VCP1ターミネーター配列、チューブリンプロモーター配列、ゼオシン耐性遺伝子、並びにヒートショックプロテインターミネーター配列の順で連結したインサート配列と、pUC19ベクター配列からなる。
(3)DGAT2-8-LACS2遺伝子共発現用プラスミド、RPI-TK1-FBA2遺伝子共発現用プラスミドの構築
前記LACS2遺伝子発現用プラスミド(ゼオシン耐性)、及びDGAT2-8遺伝子発現用プラスミド(ゼオシン耐性)をそれぞれ鋳型として、表1に示すプライマー49(配列番号49)及びプライマー39(配列番号39)のプライマー対、並びにプライマー71(配列番号71)及びプライマー72(配列番号72)のプライマー対を用いてPCRを行い、各DNA断片を得た。また、ナンノクロロプシス・オセアニカNIES2145株のゲノムを鋳型として、表1に示すプライマー45(配列番号45)及びプライマー46(配列番号46)のプライマー対、並びにプライマー47(配列番号47)及びプライマー48(配列番号48)のプライマー対を用いたPCRを行い、グルタミン合成酵素(GS)プロモーター断片(配列番号22)、及びLDSPターミネーター断片(配列番号23)を取得した。これら4個の断片を、前述の方法と同様の方法にて融合し、DGAT2-8-LACS2遺伝子共発現用プラスミド(ゼオシン耐性)を構築した。なお、本発現プラスミドはGSプロモーター配列、DGAT2-8遺伝子、LDSPターミネーター配列、LDSPプロモーター配列、LACS2遺伝子、VCP1ターミネーター配列、チューブリンプロモーター配列、ゼオシン耐性遺伝子、及びヒートショックプロテインターミネーター配列の順で連結したインサート配列と、pUC19ベクター配列からなる。
同様に、前記FBA2遺伝子発現用プラスミド(ゼオシン耐性)、及びTK1遺伝子発現用プラスミド(ゼオシン耐性)をそれぞれ鋳型として、表1に示すプライマー49(配列番号49)及びプライマー39(配列番号39)のプライマー対、並びにプライマー73(配列番号73)及びプライマー74(配列番号74)のプライマー対を用いてPCRを行い、各DNA断片を得た。これら2個のDNA断片と、前記GSプロモーター断片と、LDSPターミネーター断片とを、前述の方法と同様の方法にて融合し、TK1-FBA2遺伝子共発現用プラスミド(ゼオシン耐性)を構築した。なお、本発現プラスミドはGSプロモーター配列、TK1遺伝子、LDSPターミネーター配列、LDSPプロモーター配列、FBA2遺伝子、VCP1ターミネーター配列、チューブリンプロモーター配列、ゼオシン耐性遺伝子、及びヒートショックプロテインターミネーター配列の順で連結したインサート配列と、pUC19ベクター配列からなる。
得られたTK1-FBA2遺伝子共発現用プラスミド(ゼオシン耐性)及び前記RPI遺伝子発現用プラスミド(ゼオシン耐性)をそれぞれ鋳型として、表1に示すプライマー54(配列番号54)及びプライマー39(配列番号39)のプライマー対、並びにプライマー75(配列番号75)及びプライマー76(配列番号76)のプライマー対を用いてPCRを行い、各DNA断片を得た。また、ナンノクロロプシス・オセアニカNIES2145株のゲノムを鋳型として、表1に示すプライマー50(配列番号50)及びプライマー51(配列番号51)のプライマー対、並びにプライマー52(配列番号52)及びプライマー53(配列番号53)のプライマー対を用いたPCRを行い、アンモニウムトランスポーター(AMT)プロモーター断片(配列番号24)、及びΔ9デサチュラーゼ(Δ9DES)ターミネーター断片(配列番号25)を取得した。これら4個の断片を、前述の方法と同様の方法にて融合し、RPI-TK1-FBA2遺伝子共発現用プラスミド(ゼオシン耐性)を構築した。なお、本発現プラスミドはAMTプロモーター配列、RPI遺伝子、Δ9DESターミネーター、GSプロモーター配列、TK1遺伝子、LDSPターミネーター配列、LDSPプロモーター配列、FBA2遺伝子、VCP1ターミネーター配列、チューブリンプロモーター配列、ゼオシン耐性遺伝子、及びヒートショックプロテインターミネーター配列の順で連結したインサート配列と、pUC19ベクター配列からなる。
(4)TE2遺伝子発現用プラスミド(パロモマイシン耐性)、DGAT2-8-LACS2遺伝子共発現用プラスミド(ハイグロマイシン耐性)、RPI-TK1-FBA2遺伝子共発現用プラスミド(ハイグロマイシン耐性)、及びRPI-TK1-FBA2遺伝子共発現用プラスミド(パロモマイシン耐性)の構築
前記TE2遺伝子発現用プラスミド(ゼオシン耐性)、前記DGAT2-8-LACS2遺伝子共発現用プラスミド(ゼオシン耐性)、及び前記RPI-TK1-FBA2遺伝子共発現用プラスミド(ゼオシン耐性)をそれぞれ鋳型として、表1に示すプライマー35(配列番号35)及びプライマー36(配列番号36)のプライマー対を用いたPCRを行い、各DNA断片を得た。また、人工合成したパロモマイシン耐性遺伝子(配列番号16)及びハイグロマイシン耐性遺伝子(配列番号17)をそれぞれ鋳型として、表1に示すプライマー30(配列番号30)及びプライマー31(配列番号31)のプライマー対、並びにプライマー32(配列番号32)及びプライマー33(配列番号33)のプライマー対を用いたPCRを行い、各DNA断片を得た。得られた断片を前述の方法と同様の方法にて適宜融合し、TE2遺伝子発現用プラスミド(パロモマイシン耐性)DGAT2-8-LACS2遺伝子共発現用プラスミド(ハイグロマイシン耐性)、RPI-TK1-FBA2遺伝子共発現用プラスミド(ハイグロマイシン耐性)、及びRPI-TK1-FBA2遺伝子共発現用プラスミド(パロモマイシン耐性)を構築した。
(5)ナンノクロロプシス・オセアニカ由来細胞壁合成経路遺伝子破壊用プラスミドの構築
細胞壁合成経路タンパク質の一つであるCES(アミノ酸配列:配列番号13)をコードする遺伝子(CES遺伝子、塩基配列:配列番号14)を相同組換えにより破壊するために、ナンノクロロプシス・オセアニカNIES2145株のゲノムを鋳型として、表1に示すプライマー77(配列番号77)及びプライマー78(配列番号78)のプライマー対、並びにプライマー79(配列番号79)及びプライマー80(配列番号80)のプライマー対を用いたPCRを行い、相同配列1(配列番号26)及び相同配列2(配列番号27)をそれぞれ増幅した。また、前記ゼオシン耐性遺伝子発現用プラスミドを鋳型として、表1に示すプライマー81(配列番号81)及びプライマー82(配列番号82)のプライマー対を用いたPCRを行い、DNA断片を得た。得られた3つの断片、及び前記pUC19断片を、前述の方法と同様の方法にて融合し、CES遺伝子破壊用プラスミド(ゼオシン耐性)を構築した。なお本遺伝子破壊用プラスミドは、相同配列1、チューブリンプロモーター配列、ゼオシン耐性遺伝子、ヒートショックプロテインターミネーター配列、及び相同配列2の順で連結したインサート配列と、pUC19ベクター配列からなる。
(6)エレクトロポレーション用PCR断片の調製
前記TE2遺伝子発現用プラスミド(パロモマイシン耐性)を鋳型として、表1に示すプライマー55(配列番号55)及びプライマー58(配列番号58)のプライマー対を用いたPCRを行い、TE2遺伝子発現用カセット(パロモマイシン耐性)を増幅した。なお、TE2遺伝子発現用カセット(パロモマイシン耐性)は、LDSPプロモーター配列、TE2遺伝子、VCP1ターミネーター配列、チューブリンプロモーター配列、パロモマイシン耐性遺伝子、及びヒートショックプロテインターミネーター配列からなる。
また、前記DGAT2-8-LACS2遺伝子共発現用プラスミド(ゼオシン耐性)、前記DGAT2-8-LACS2遺伝子共発現用プラスミド(ハイグロマイシン耐性)、及び前記RPI-TK1-FBA2遺伝子共発現用プラスミド(パロモマイシン耐性)をそれぞれ鋳型として、表1に示すプライマー56(配列番号56)及びプライマー58(配列番号58)のプライマー対を用いたPCRを行い、DGAT2-8-LACS2遺伝子共発現用カセット(ゼオシン耐性)、DGAT2-8-LACS2遺伝子共発現用カセット(ハイグロマイシン耐性)、及びTK1-FBA2遺伝子共発現用カセット(パロモマイシン耐性)を増幅した。なお、本発現カセットは、GSプロモーター配列、DGAT2-8遺伝子又はTK1遺伝子、LDSPターミネーター配列、LDSPプロモーター配列、LACS2遺伝子又はFBA2遺伝子、VCP1ターミネーター配列、チューブリンプロモーター配列、ハイグロマイシン耐性遺伝子又はパロモマイシン耐性遺伝子、並びにヒートショックプロテインターミネーター配列からなる。
また、前記RPI-TK1-FBA2遺伝子共発現用プラスミド(ハイグロマイシン耐性)を鋳型として、表1に示すプライマー57(配列番号57)及びプライマー58(配列番号58)のプライマー対を用いたPCRを行い、RPI-TK1-FBA2遺伝子共発現用カセット(ハイグロマイシン耐性)を増幅した。なお、本発現カセットは、AMTプロモーター配列、RPI遺伝子、Δ9DESターミネーター、GSプロモーター配列、TK1遺伝子、LDSPターミネーター配列、LDSPプロモーター配列、FBA2遺伝子、VCP1ターミネーター配列、チューブリンプロモーター配列、ハイグロマイシン耐性遺伝子、及びヒートショックプロテインターミネーター配列からなる。
さらに、前記CES遺伝子破壊用プラスミド(ゼオシン耐性)を鋳型として、表1に示すプライマー83(配列番号83)及びプライマー84(配列番号84)のプライマー対を用いたPCRを行い、CES遺伝子破壊用カセットを増幅した。なお、本破壊用カセットは、相同配列1、チューブリンプロモーター配列、ゼオシン耐性遺伝子、ヒートショックプロテインターミネーター配列、及び相同配列2からなる。
増幅した断片を、High Pure PCR Product Purification Kit(Roche Applied Science社製)を用いて精製した。なお、精製の際の溶出には、キットに含まれる溶出バッファーではなく、滅菌水を用いた。
実施例1 TAG合成経路遺伝子及びCBB回路遺伝子をナンノクロロプシスに導入した形質転換体の作製、及び形質転換体による脂質の生産
(1)TAG合成経路遺伝子及びCBB回路遺伝子をナンノクロロプシスに導入した形質転換体の作製、及び形質転換体の培養
約1×10細胞のナンノクロロプシス・オセアニカNIES2145株を、384mMのソルビトール溶液で洗浄して塩を除去し、形質転換の宿主細胞として用いた。調製例1で増幅したDGAT2-8-LACS2遺伝子共発現用カセット(ゼオシン耐性)約500ngを宿主細胞に混和し、50μF、500Ω、2,200v/2mmの条件でエレクトロポレーションを行った。f/2液体培地(NaNO 75mg、NaHPO・2HO 6mg、ビタミンB12 0.5μg、ビオチン 0.5μg、チアミン 100μg、NaSiO・9HO 10mg、NaEDTA・2HO 4.4mg、FeCl・6HO 3.16mg、CoSO・7HO 12μg、ZnSO・7HO 21μg、MnCl・4HO 180μg、CuSO・5HO 7μg、NaMoO・2HO 7μg/人工海水1L)にて24時間回復培養を行った後に、2μg/mLのゼオシン含有f/2寒天培地に塗布し、25℃、0.3%CO雰囲気下、12h/12h明暗条件にて2~3週間培養した。得られたコロニーを、2μg/mLのゼオシンを含むN5P5培地(f/2培地の窒素濃度を5倍、リン濃度を5倍に増強した培地)2mLに播種し(24ウェルプレート)、25℃、0.3%CO雰囲気下、12h/12h明暗条件にて3週間振盪培養した。得られた培養液を、N15P5培地(f/2培地の窒素濃度を15倍、リン濃度を5倍に増強した培地)18mLに播種し、20℃、12h/12h明暗条件にて培養した。
次に、DGAT2-8-LACS2遺伝子共発現用カセットを導入した形質転換体(以下、「DGAT2-8-LACS2株」とも記載する)を親株として、上記と同様の方法にて、調製例1で増幅したTE2遺伝子発現用カセット(パロモマイシン耐性)の導入を行った。なお、形質転換体の選抜は2μg/mLのゼオシン及び100μg/mLのパロモマイシン含有f/2寒天培地にて行った。得られたコロニーを、100μg/mLのパロモマイシンを含むN5P5培地2mLに播種し、上記と同様の方法で培養を行った。得られた培養液を、上記と同様にN15P5培地18mLに播種して培養した。
次に、DGAT2-8-LACS2遺伝子共発現用カセット(ゼオシン耐性)及びTE2遺伝子発現用カセット(パロモマイシン耐性)を導入した形質転換体(以下、「TE2 on DGAT2-8-LACS2株」とも記載する)を親株として、上記と同様の方法にて、調製例1で増幅したRPI-TK1-FBA2遺伝子共発現用カセット(ハイグロマイシン耐性)の導入を行った。なお、形質転換体の選抜は500μg/mLのハイグロマイシン含有f/2寒天培地にて行った。得られたコロニーを、500μg/mLのハイグロマイシン含有N5P5培地2mLに播種し、上記と同様の方法で培養を行った。得られた培養液を、上記と同様にN15P5培地18mLに播種して培養した。
ナンノクロロプシス・オセアニカNIES2145株(以下、「野生株」とも記載する)、TE2 on DGAT2-8-LACS2株、並びにDGAT2-8-LACS2遺伝子共発現用カセット(ゼオシン耐性)、TE2遺伝子発現用カセット(パロモマイシン耐性)、及びRPI-TK1-FBA2遺伝子共発現用カセット(ハイグロマイシン耐性)を導入した形質転換体(以下、「RPI-TK1-FBA2 on TE2 on DGAT2-8-LACS2株」とも記載する)について、N5P5培地18mLに植継ぎ、25℃、0.3%CO雰囲気下、光強度約100μmol/m2/s(通常光条件)、12h/12h明暗条件にて5~7日間振盪培養し、前々培養液とした。96穴プレート及びInfinite M200 PRO (TECAN社)を用いて750nmにおける濁度(以降、「OD750」ともいう)を測定した。18mLのN5P5培地に対し、OD750が終濃度0.1になるように前々培養液を播種し、同条件にて5日間培養し、前培養液とした。同様にしてOD750が終濃度0.1になるように前培養液をN5P5培地18mLに播種し、同条件にて本培養を行った。また、光強度を約300μmol/m2/sに、CO濃度を0.6%にした強光条件でも同様に培養を行った(前々培養は通常光条件、前培養から強光条件で培養)。各株についてN=2~4で培養を行った。
(2)ナンノクロロプシス培養液中の脂質の抽出及び脂質の分析
本培養開始後、経時的にサンプリングを行い、以下の方法にて脂質抽出を行った。
培養液0.25mLに、内部標準として1mg/mLのGlyceryl triheptadecanoate(シグマアルドリッチ)クロロホルム溶液を50μL添加後、0.5mLのクロロホルム及び1mLのメタノールを培養液に添加して激しく攪拌後10分間放置した。その後さらに、0.5mLのクロロホルム及び0.5mLの1.5%KClを添加して攪拌後、3,000rpmにて5分間間遠心分離を行い、パスツールピペットにてクロロホルム層(下層)を回収した。得られたクロロホルム層に窒素ガスを吹き付けて乾固し、50μLのクロロホルムに再溶解した。0.5mLの14%三フッ化ホウ素溶液(SIGMA社製)を添加し撹拌した後に、80℃にて30分間恒温した。その後、ヘキサン0.5mL、飽和食塩水0.5mLを添加し激しく撹拌し、室温にて10分間放置後、上層であるヘキサン層を回収して脂肪酸エステルを得た。
得られた脂肪酸エステルをガスクロマトグラフィー解析に供した。測定条件を以下に示す。
<ガスクロマトグラフィー条件>
分析装置:7890A (Agilent technology)
キャピラリーカラム:DB-1 MS 30m×200μm×0.25μm(J&W Scientific)、
移動相:高純度ヘリウム、
オーブン温度:150℃ 保持 0.5 分 → 150~220℃(40℃/min昇温)→ 220~320℃(20℃/min 昇温)→ 320℃保持 2 分(ポストラン 2 分)、
注入口温度:300℃、
注入方法:スプリット注入(スプリット比:75:1)、
注入量:1μL、
洗浄バイアル:メタノール・クロロホルム、
検出方法:FID
検出器温度:300℃
また、脂肪酸メチルエステルの同定は、各種脂肪酸メチルエステル標品を同条件にてガスクロマトグラフィーに供し、そのリテンションタイムを比較することにより行った。また、必要に応じてガスクロマトグラフ質量分析解析による同定を行った。
ガスクロマトグラフィー解析により得られた波形データのピーク面積より、各脂肪酸のメチルエステル量を定量した。各ピーク面積を、内部標準由来のC17脂肪酸メチルエステルのピーク面積と比較することで試料間の補正を行い、培養液1リットルあたりの各脂肪酸量を算出した。さらに、各脂肪酸量の総和を総脂肪酸量とし、総脂肪酸量に占める各脂肪酸量の重量割合を算出した。通常光条件培養での結果を表2に、強光条件培養での結果を表3に示す。
なお、以下の表において野生株は「WT」と記載した。総脂肪酸量(表中の「TFA productivity」)は平均値±標準偏差の形式で表示した。
Figure 2023111516000002
Figure 2023111516000003
表2及び表3から明らかなように、通常光条件及び強光条件のいずれにおいても、TE2 on DGAT2-8-LACS2株及びRPI-TK1-FBA2 on TE2 on DGAT2-8-LACS2株は、野生株と比較して高い脂質生産性を示した。特に、RPI-TK1-FBA2 on TE2 on DGAT2-8-LACS2株では脂質生産性の向上がより顕著であった。
(3)野生株及びRPI-TK1-FBA2 on TE2 on DGAT2-8-LACS2株の再培養、並びに浮上性の解析
野生株及びRPI-TK1-FBA2 on TE2 on DGAT2-8-LACS2株について、前述の方法と同様の方法で再度通常光条件及び強光条件それぞれで培養を行い(各株についてN=3で培養)、経時的に0.25mL及び1mLのサンプリングを行った。0.25mLのサンプリング液より、前述の方法と同様の方法で脂質抽出・分析を行い、総脂肪酸量(TFA)を算出した。また、1mLのサンプリング液について、CF15RXII遠心機およびT15A43ローター(いずれも日立工機社製、現「エッペンドルフ・ハイマック・テクノロジーズ株式会社」)を用いて15000rpm(21600×g)条件にて10分間遠心を行い、遠心上清(遠心分離により沈殿しなかった細胞、遠心分離により水面に浮上した細胞を含む)を全量回収した。得られた遠心上清のうち0.25mLを用いて前述の方法と同様の方法で脂質抽出・分析を行い、遠心分離により沈殿しなかった細胞(以下、「浮上性の細胞」又は「浮上性細胞」とも記載する)に含まれる脂肪酸量(SUP-FA)を算出した。総脂肪酸量に占める浮上性細胞の脂肪酸量の比を算出し、浮上率(SUP-FA/TFA)とした。通常光条件培養での結果を表4に、強光条件培養での結果を表5に示す。
Figure 2023111516000004
Figure 2023111516000005
表4及び表5から明らかなように、RPI-TK1-FBA2 on TE2 on DGAT2-8-LACS2株は野生株と比較して、いずれの培養条件・日数においても浮上性細胞由来の脂肪酸量及び浮上率が高く、浮上性が向上していることが分かった。いずれの条件においても野生株と比較して総脂肪酸量が高いことから、TAG合成経路及びCBB回路を強化したことにより油脂含有量が向上し、結果として比重が低下したため浮上性が向上したと考えられた。また、油脂含量が向上しやすい強光条件では、より早い時期に浮上率が高くなることが分かった。
実施例2 TAG合成経路遺伝子及びCBB回路遺伝子をナンノクロロプシスに導入し、かつ細胞壁合成経路遺伝子を破壊した形質転換体の作製、及び形質転換体による脂質の生産
(1)TAG合成経路遺伝子及びCBB回路遺伝子をナンノクロロプシスに導入し、かつ細胞壁合成経路遺伝子を破壊した形質転換体の作製、形質転換体の培養、脂質の抽出及び脂質の分析
実施例1と同様の方法で、ナンノクロロプシス・オセアニカNIES2145株を親株として、調製例1で増幅したCES遺伝子破壊用カセットを導入した。得られたコロニーの中から、PCRによりCES遺伝子が破壊された形質転換体(以下、「ΔCES株」とも記載する)を選抜した。
次に、ΔCES株を親株として、上記と同様の方法にて、調製例1で増幅したTK1-FBA2遺伝子共発現用カセット(パロモマイシン耐性)を導入した。実施例1と同様の方法で、CES遺伝子が破壊され、かつTK1-FBA2遺伝子共発現用カセット(パロモマイシン耐性)が導入された形質転換体(以下、「TK1-FBA2 on ΔCES株」とも記載する)を選抜した。
さらに、TK1-FBA2 on ΔCES株を親株として、上記と同様の方法にて、調製例1で増幅したDGAT2-8-LACS2遺伝子共発現用カセット(ハイグロマイシン耐性)を導入した。実施例1と同様の方法で、CES遺伝子が破壊され、かつTK1-FBA2遺伝子共発現用カセット(パロモマイシン耐性)及びDGAT2-8-LACS2遺伝子共発現用カセット(ハイグロマイシン耐性)が導入された形質転換体(以下、「DGAT2-8-LACS2 on TK1-FBA2 on ΔCES株」とも記載する)を選抜した。
野生株、ΔCES株、TK1-FBA2 on ΔCES株、及びDGAT2-8-LACS2 on TK1-FBA2 on ΔCES株(それぞれN=1)について、実施例1と同様の方法で培養を行い(通常光条件)、脂質抽出・分析を行った。結果を表6に示した。
Figure 2023111516000006
表6から明らかなように、ΔCES株は野生株よりも脂質生産性が低下するものの、TK1-FBA2 on ΔCES株は野生株よりも高い脂質生産性を示した。さらに、DGAT2-8-LACS2 on TK1-FBA2 on ΔCES株は、野生株やTK1-FBA2 on ΔCES株よりもさらに高い脂質生産性を示すことが明らかになった。
(2)野生株、RPI-TK1-FBA2 on TE2 on DGAT2-8-LACS2株及びDGAT2-8-LACS2 on TK1-FBA2 on ΔCES株の再培養、及び浮上性の解析
野生株、RPI-TK1-FBA2 on TE2 on DGAT2-8-LACS2株、及びDGAT2-8-LACS2 on TK1-FBA2 on ΔCES株について、実施例1と同様の方法で通常光条件及び強光条件それぞれで培養を行い(各株についてN=3で培養)、浮上性の解析を行った。通常光条件培養での結果を表7に、強光条件培養での結果を表8に示す。また、通常光培養17日目、強光培養14日目の培養液について遠心分離により浮上性細胞を回収し、再懸濁した後に24時間静置を行った。静置前後の写真を図1に示す。
Figure 2023111516000007
Figure 2023111516000008
表7及び表8から明らかなように、DGAT2-8-LACS2 on TK1-FBA2 on ΔCES株は野生株と比較して、いずれの培養条件・日数においても浮上性細胞由来の脂肪酸量及び浮上率が高く、浮上性が向上していることが分かった。また、DGAT2-8-LACS2 on TK1-FBA2 on ΔCES株は、細胞壁合成経路遺伝子を抑制/破壊していないRPI-TK1-FBA2 on TE2 on DGAT2-8-LACS2株と比較して、特に通常光条件では培養14日目、強光条件では培養7日目及び10日目において浮上率が高く、より浮上性に優れた株であることが明らかになった。
また、図1に示した通り、RPI-TK1-FBA2 on TE2 on DGAT2-8-LACS2株、及びDGAT2-8-LACS2 on TK1-FBA2 on ΔCES株は総脂肪酸量が高くなる培養後期において、静置により液面に浮上することが分かった(液面に藻体がより多く濁っていた)。特に、DGAT2-8-LACS2 on TK1-FBA2 on ΔCES株はこれらの条件において、24時間静置で大半の細胞が液面に浮上しており、浮上性が非常に高くなっていることが分かった。
TAG合成経路及びCBB回路を強化したことにより油脂含有量が向上したことに加え、細胞壁合成経路を抑制したことで比重の高い細胞壁成分(セルロースなど)が減少し油脂含有量もさらに向上し、結果として比重が大きく低下したため浮上性が大幅に向上したと考えられた。
以上のように、微細藻類において、トリアシルグリセロール合成経路関連タンパク質をコードする少なくとも1種の遺伝子の発現を促進させる改変、カルビン回路関連タンパク質をコードする少なくとも1種の遺伝子の発現を促進させる改変、並びに細胞壁合成経路関連タンパク質をコードする少なくとも1種の遺伝子の発現を抑制させる改変の少なくとも1つの改変をすることで、浮上性が向上した微細藻類の形質転換体を得ることができ、この形質転換体を用いることで、当該形質転換体の回収効率を向上させる、脂質の製造方法を提供することができる。

Claims (22)

  1. 下記(A)~(C)からなる群より選ばれる少なくとも1つの改変がされた微細藻類の形質転換体を培養し、脂肪酸又はこれを構成成分とする脂質を生産させ、浮上分離により前記形質転換体を回収する、形質転換体の回収方法。

    (A)トリアシルグリセロール合成経路関連タンパク質をコードする少なくとも1種の遺伝子の発現を促進させる改変
    (B)カルビン回路関連タンパク質をコードする少なくとも1種の遺伝子の発現を促進させる改変
    (C)細胞壁合成経路関連タンパク質をコードする少なくとも1種の遺伝子の発現を抑制させる改変
  2. 下記(A)~(C)からなる群より選ばれる少なくとも1つの改変がされた微細藻類の形質転換体を培養し、脂肪酸又はこれを構成成分とする脂質を生産させ、浮上分離により前記形質転換体を回収し、回収した形質転換体から脂質を得る、脂質の製造方法。

    (A)トリアシルグリセロール合成経路関連タンパク質をコードする少なくとも1種の遺伝子の発現を促進させる改変
    (B)カルビン回路関連タンパク質をコードする少なくとも1種の遺伝子の発現を促進させる改変
    (C)細胞壁合成経路関連タンパク質をコードする少なくとも1種の遺伝子の発現を抑制させる改変
  3. 前記微細藻類の形質転換体が、前記(A)~(C)からなる群より選ばれる少なくとも2つの改変がされた微細藻類の形質転換体である、請求項1又は2に記載の方法。
  4. 前記微細藻類の形質転換体が、前記(A)及び/又は(B)の改変、並びに前記(C)の改変がされた微細藻類の形質転換体である、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
  5. 前記トリアシルグリセロール合成経路関連タンパク質が、ジアシルグリセロールアシルトランスフェラーゼ、及び長鎖アシルCoAシンテターゼからなる群より選ばれる少なくとも1種のタンパク質であり、
    前記カルビン回路関連タンパク質が、トランスケトラーゼをコードする遺伝子、及びフルクトース-1,6-ビスリン酸アルドラーゼからなる群より選ばれる少なくとも1種のタンパク質であり、
    前記細胞壁合成経路関連タンパク質が、セルロース合成酵素である、
    請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
  6. 前記ジアシルグリセロールアシルトランスフェラーゼが下記タンパク質(D)又は(E)であり、
    前記長鎖アシルCoAシンテターゼが下記タンパク質(F)又は(G)であり、
    前記トランスケトラーゼが下記タンパク質(J)又は(K)であり、
    前記フルクトース-1,6-ビスリン酸アルドラーゼが下記タンパク質(L)又は(M)であり、
    前記セルロース合成酵素が下記タンパク質(P)又は(Q)である、
    請求項5に記載の方法。

    (D)配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質。
    (E)前記タンパク質(D)のアミノ酸配列と同一性が60%以上のアミノ酸配列からなり、かつアシルトランスフェラーゼ活性を有するタンパク質。
    (F)配列番号3で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質。
    (G)前記タンパク質(F)のアミノ酸配列と同一性が60%以上のアミノ酸配列からなり、かつアシルCoAシンテターゼ活性を有するタンパク質。
    (J)配列番号7で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質。
    (K)前記タンパク質(J)のアミノ酸配列と同一性が60%以上のアミノ酸配列からなり、かつトランスケトラーゼ活性を有するタンパク質。
    (L)配列番号9で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質。
    (M)前記タンパク質(L)のアミノ酸配列と同一性が60%以上のアミノ酸配列からなり、かつフルクトース-1,6-ビスリン酸アルドラーゼ活性を有するタンパク質。
    (P)配列番号13で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質。
    (Q)前記タンパク質(P)のアミノ酸配列と同一性が60%以上のアミノ酸配列からなり、かつセルロース合成酵素活性を有するタンパク質。
  7. 前記微細藻類の形質転換体が、上記(A)、(B)及び(C)の改変がされた微細藻類の形質転換体である、請求項1~6のいずれか1項に記載の方法。
  8. 前記形質転換体が、ジアシルグリセロールアシルトランスフェラーゼをコードする遺伝子、長鎖アシルCoAシンテターゼをコードする遺伝子、トランスケトラーゼをコードする遺伝子、及びフルクトース-1,6-ビスリン酸アルドラーゼをコードする遺伝子の発現が促進されており、
    セルロース合成酵素をコードする遺伝子の発現が抑制されている、
    請求項1~7のいずれか1項に記載の方法。
  9. 前記微細藻類が、不等毛植物門に属する藻類である、請求項1~8のいずれか1項に記載の方法。
  10. 前記不等毛植物門に属する藻類が、ナンノクロロプシス(Nannochloropsis)属に属する藻類である、請求項9に記載の方法。
  11. 回収した形質転換体より、圧搾及び/又は溶媒抽出にて脂質を回収する工程を含む、請求項1~10のいずれか1項に記載の方法。
  12. 前記形質転換体の培養をオープンポンド方式、又は閉鎖型のフォトバイオリアクターで行う、請求項1~11のいずれか1項に記載の方法。
  13. 前記形質転換体の培養を連続培養で行う、請求項1~12のいずれか1項に記載の方法。
  14. 前記連続培養において、
    油脂の蓄積量が増加した藻体を浮上分離により回収し、
    油脂の蓄積量が少ない藻体を引き続き連続して培養する、
    請求項13に記載の方法。
  15. 下記改変(A)、(B)及び(C)がされた、微細藻類の形質転換体。

    (A)トリアシルグリセロール合成経路関連タンパク質をコードする少なくとも1種の遺伝子の発現を促進させる改変
    (B)カルビン回路関連タンパク質をコードする少なくとも1種の遺伝子の発現を促進させる改変
    (C)細胞壁合成経路関連タンパク質をコードする少なくとも1種の遺伝子の発現を抑制させる改変
  16. 前記形質転換体が、前記改変(A)~(C)のいずれもされていない宿主と比較して浮上性が向上している、請求項15に記載の形質転換体。
  17. 前記形質転換体、及び前記改変(A)~(C)のいずれもされていない宿主を同一の培養条件で培養した後に、21600×gで10分間遠心した場合に、前記改変(A)~(C)のいずれもされていない宿主と比較して沈殿しない細胞の割合が向上している、請求項15又は16に記載の形質転換体。
  18. 前記トリアシルグリセロール合成経路関連タンパク質が、ジアシルグリセロールアシルトランスフェラーゼ、及び長鎖アシルCoAシンテターゼからなる群より選ばれる少なくとも1種のタンパク質であり、
    前記カルビン回路関連タンパク質が、トランスケトラーゼをコードする遺伝子、及びフルクトース-1,6-ビスリン酸アルドラーゼからなる群より選ばれる少なくとも1種のタンパク質であり、
    前記細胞壁合成経路関連タンパク質が、セルロース合成酵素である、
    請求項15~17のいずれか1項に記載の形質転換体。
  19. 前記ジアシルグリセロールアシルトランスフェラーゼが下記タンパク質(D)又は(E)であり、
    前記長鎖アシルCoAシンテターゼが下記タンパク質(F)又は(G)であり、
    前記トランスケトラーゼが下記タンパク質(J)又は(K)であり、
    前記フルクトース-1,6-ビスリン酸アルドラーゼが下記タンパク質(L)又は(M)であり、
    前記セルロース合成酵素が下記タンパク質(P)又は(Q)である、
    請求項18に記載の形質転換体。

    (D)配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質。
    (E)前記タンパク質(D)のアミノ酸配列と同一性が60%以上のアミノ酸配列からなり、かつアシルトランスフェラーゼ活性を有するタンパク質。
    (F)配列番号3で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質。
    (G)前記タンパク質(F)のアミノ酸配列と同一性が60%以上のアミノ酸配列からなり、かつアシルCoAシンテターゼ活性を有するタンパク質。
    (J)配列番号7で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質。
    (K)前記タンパク質(J)のアミノ酸配列と同一性が60%以上のアミノ酸配列からなり、かつトランスケトラーゼ活性を有するタンパク質。
    (L)配列番号9で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質。
    (M)前記タンパク質(L)のアミノ酸配列と同一性が60%以上のアミノ酸配列からなり、かつフルクトース-1,6-ビスリン酸アルドラーゼ活性を有するタンパク質。
    (P)配列番号13で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質。
    (Q)前記タンパク質(P)のアミノ酸配列と同一性が60%以上のアミノ酸配列からなり、かつセルロース合成酵素活性を有するタンパク質。
  20. 前記形質転換体が、ジアシルグリセロールアシルトランスフェラーゼをコードする遺伝子、長鎖アシルCoAシンテターゼをコードする遺伝子、トランスケトラーゼをコードする遺伝子、及びフルクトース-1,6-ビスリン酸アルドラーゼをコードする遺伝子の発現が促進されており、
    セルロース合成酵素をコードする遺伝子の発現が抑制されている、
    請求項15~19のいずれか1項に記載の形質転換体。
  21. 前記微細藻類が、不等毛植物門に属する藻類である、請求項15~20のいずれか1項に記載の形質転換体。
  22. 前記不等毛植物門に属する藻類が、ナンノクロロプシス(Nannochloropsis)属に属する藻類である、請求項21に記載の形質転換体。
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