JP2023111064A - コーヒー飲料およびその甘味質の改善方法 - Google Patents

コーヒー飲料およびその甘味質の改善方法 Download PDF

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弘明 佐藤
Hiroaki Sato
亮子 西郷
Ryoko Saigo
淳一 初川
Junichi Hatsukawa
洋 西尾
Hiroshi Nishio
明 豊島
Akira Toyoshima
有香 田代
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Abstract

【課題】本発明は、良質な甘味質を有する新規のコーヒー飲料を提供することを目的とする。【解決手段】本発明は、(A)クロロゲン酸濃度に対するカフェイン濃度の比(カフェイン濃度/クロロゲン酸濃度の比)が5.0~16.0であり、(B)フェニルアセトアルデヒドの含有量が33~60ppbであり、(C)チオ酢酸S-フルフリルの含有量が3~45ppbである、コーヒー飲料、あるいは(A)クロロゲン酸濃度に対するカフェイン濃度の比(カフェイン濃度/クロロゲン酸濃度の比)が2.0~16.0であり、(B)フェニルアセトアルデヒドの含有量が33~60ppbであり、(C)チオ酢酸S-フルフリルの含有量が3~45ppbであり、(D)フェネチルアルコールの含有量が27~55ppbである、コーヒー飲料に関する。【選択図】なし

Description

本発明は、良質な甘味質を有するコーヒー飲料、およびコーヒー飲料の甘味質の改善方法に関する。
コーヒー飲料は、世界各国で飲用されており、わが国においても身近な嗜好性飲料の一つとなっており、より高い嗜好性を提供する技術について現在も開発が進められている。
また、コーヒー飲料の嗜好性を高めるために含有成分を調整するための様々な技術も開発されている。
特許文献1には、香り、酸味の質、後味のキレの良好な容器詰コーヒー飲料として、難消化性デキストリンとクロロゲン酸類とカフェインを特定の量で含有させた、容器詰コーヒー飲料が開示されている。特許文献2には、苦味とキレの好ましいバランスを有する低カフェインコーヒー飲料として、カフェインの含有量及びケルセチン配糖体の含有量を特定の範囲に調整し、カフェインとケルセチン配糖体の含有量比(ケルセチン配糖体の含有量/カフェインの含有量)を特定値以上に調整したコーヒー飲料が開示されている。特許文献3には、強い苦味を得つつも、良好な後味が得られるコーヒー飲料として、該飲料中のイソα 酸の含有量とカフェインの含有量とクロロゲン酸の含有量を特定の範囲に調整したコーヒー飲料が開示されている。
特許文献4には、コーヒー含有飲料の製造効率を向上させるための製造方法が開示されており、得られるコーヒー飲料のBrix値が1.0のコーヒー抽出液100mlに対するカフェインの含有量/クロロゲン酸の含有量が2.0以上であることが記載されている。特許文献5には、コーヒー等の嗜好飲料の香りを強化、改善する方法が開示されており、その際、特定量のフェニルアセトアルデヒドを添加することも記載されている。
このように、コーヒー飲料の嗜好性や風味やハンドリング性を高めるために様々なアプローチから技術が改良されている。
特開2015-228816号公報 特開2017-143831号公報 特開2021-119763号公報 特許第6513384号公報 特開昭63-24851号公報
本発明の課題は、良質な甘味質を有する新規のコーヒー飲料を提供することである。
例えばブラックコーヒーでは、良質な甘味質を表現するためには、豆ごとに細かい焙煎の調整や抽出の調整が必要であり、製造工程を一般化することが難しいとされている。したがって、良質な甘味質を有するブラックコーヒーを安定して作製することは一般に容易ではない。
そこで、本発明者らは、鋭意研究を重ねたところ、コーヒー飲料において、渋味に関係するクロロゲン酸を所定量含有させ、かつ、特定の香気成分の含有量を所定の数値範囲に調整することで、安定して良質な甘味質をもたらせつつ、まろやかさも与えられることを見出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は以下の〔1〕~〔5〕のような態様を含む。
本発明のまた別の態様は、以下のとおりであってもよい。
〔1〕(A)クロロゲン酸濃度に対するカフェイン濃度の比(カフェイン濃度/クロロゲン酸濃度の比)が5.0~16.0であり、
(B)フェニルアセトアルデヒドの含有量が33~60ppbであり、
(C)チオ酢酸S-フルフリルの含有量が3~45ppbである、
コーヒー飲料。
〔2〕(A)クロロゲン酸濃度に対するカフェイン濃度の比(カフェイン濃度/クロロゲン酸濃度の比)が2.0~16.0であり、
(B)フェニルアセトアルデヒドの含有量が33~60ppbであり、
(C)チオ酢酸S-フルフリルの含有量が3~45ppbであり、
(D)フェネチルアルコールの含有量が27~55ppbである、
コーヒー飲料。
〔3〕容器詰めコーヒー飲料である、前記〔1〕または〔2〕に記載のコーヒー飲料。
〔4〕コーヒー飲料の甘味質の改善方法であって、
コーヒー飲料中の(A)クロロゲン酸濃度に対するカフェイン濃度の比(カフェイン濃度/クロロゲン酸濃度の比)を5.0~16.0に調製し、(B)フェニルアセトアルデヒドの含有量を33~60ppbに調製し、(C)チオ酢酸S-フルフリルの含有量を3~45ppbに調製する工程を含む、前記方法。
〔5〕コーヒー飲料の甘味質の改善方法であって、
コーヒー飲料中の(A)クロロゲン酸濃度に対するカフェイン濃度の比(カフェイン濃度/クロロゲン酸濃度の比)を2.0~16.0に調製し、(B)フェニルアセトアルデヒドの含有量を33~60ppbに調製し、(C)チオ酢酸S-フルフリルの含有量を3~45ppbに調製し、(D)フェネチルアルコールの含有量を27~55ppbに調製する工程を含む、前記方法。
本発明は、良質な甘味質とまろやかさとを有するコーヒー飲料を提供することができる。
本発明のコーヒー飲料は、フェニルアセトアルデヒド(CAS:122-78-1)とチオ酢酸S-フルフリル(CAS:13678-68-7)とカフェインとクロロゲン酸とを所定の含有量で含み、任意選択でフェネチルアルコール(CAS:60-12-8)を所定の含有量で含むことを特徴とする。
本発明の一態様(1)のコーヒー飲料は、少なくともフェニルアセトアルデヒドとチオ酢酸S-フルフリルとカフェインとクロロゲン酸とを下記に示すような所定の含有量で含むことを特徴とする。具体的には、当該態様(1)のコーヒー飲料は、(A)クロロゲン酸濃度に対するカフェイン濃度の比(カフェイン濃度/クロロゲン酸濃度の比)が5.0~16.0であり、(B)フェニルアセトアルデヒドの含有量が33~60ppbであり、(C)チオ酢酸S-フルフリルの含有量が3~45ppbである。当該態様(1)のコーヒー飲料においては、前記比(A)が6.0~14.0であってもよいし、7.0~12.0であってもよい。当該態様(1)のコーヒー飲料においては、前記含有量(B)が36~57ppbであってもよいし、39~54ppbであってもよい。当該態様(1)のコーヒー飲料においては、前記含有量(C)が8~40ppbであってもよいし、13~35ppbであってもよい。本発明では、コーヒー飲料における前記比(A)および前記含有量(B)と(C)を上記の条件に調製することでよりよい甘味質とまろやかさとを有するコーヒー飲料を提供できる。
また、当該態様(1)のコーヒー飲料のカフェインの含有量は、30~120mg/100mlであってもよいし、40~110mg/100mlであってもよい。また、当該態様(1)のコーヒー飲料のクロロゲン酸の含有量は、1.9~24.0mg/100mlであってもよいし、2.5~22.0mg/100mlであってもよい。カフェインの量やクロロゲン酸の量は、一般にコーヒー飲料の特徴になりうるため、当該態様(1)のコーヒー飲料においては、例えば上記のような範囲に設定することにより、適度なコーヒー感を損なわずに、苦渋味等の後残りを低減してもよい。また、当該態様(1)では、例えばフェネチルアルコールの含有量が27~55ppbであってもよい。
また、本発明の別の一形態(2)のコーヒー飲料は、少なくともフェニルアセトアルデヒドとチオ酢酸S-フルフリルとフェネチルアルコールとカフェインとクロロゲン酸とを下記に示すような所定の含有量で含むことを特徴とする。具体的には、当該態様(2)のコーヒー飲料は、(A)クロロゲン酸濃度に対するカフェイン濃度の比(カフェイン濃度/クロロゲン酸濃度の比)が2.0~16.0であり、(B)フェニルアセトアルデヒドの含有量が33~60ppbであり、(C)チオ酢酸S-フルフリルの含有量が3~45ppbであり、(D)フェネチルアルコールの含有量が27~55ppbである。当該態様(2)のコーヒー飲料においては、前記比(A)が3.0~14.0であってもよいし、4.0~12.0であってもよい。当該態様(2)のコーヒー飲料においては、前記含有量(B)が36~57ppbであってもよいし、39~54ppbであってもよい。当該態様(2)のコーヒー飲料においては、前記含有量(C)が8~40ppbであってもよいし、13~35ppbであってもよい。当該態様(2)のコーヒー飲料においては、前記含有量(D)が30~52ppbであってもよいし、33~50ppbであってもよい。本発明のコーヒー飲料においては、前記比(A)および前記含有量(B)~(D)を上記の条件に調製することでよりよい甘味質とまろやかさとを有するコーヒー飲料を提供できる。
また、当該態様(2)のコーヒー飲料のカフェインの含有量は、30~120mg/100mlであってもよいし、40~110mg/100mlであってもよい。また、当該態様(2)のコーヒー飲料のクロロゲン酸の含有量は、1.9~24.0mg/100mlであってもよいし、2.5~22.0mg/100mlであってもよい。カフェインの量やクロロゲン酸の量は、一般にコーヒー飲料の特徴になりうるため、当該態様(2)のコーヒー飲料においては、例えば上記のような範囲に設定することにより、適度なコーヒー感を損なわずに、苦渋味等の後残りを低減してもよい。
なお、本発明のコーヒー飲料中のフェニルアセトアルデヒドとチオ酢酸S-フルフリルとフェネチルアルコール(以下、これらをまとめて香気成分とも呼ぶ)、並びにクロロゲン酸およびカフェインの分析方法には、後述する本実施例で示された方法を採用することができる。
本発明のコーヒー飲料が含有するコーヒー抽出物には、コーヒー豆由来の成分を含有するコーヒー抽出液が含まれる。当該コーヒー抽出液には例えば、粉砕した焙煎豆を水や温水を用いて抽出して得られた抽出液が挙げられる。また、コーヒー抽出物には、該溶液を濃縮したコーヒーエキスや、コーヒーエキス又は該コーヒー抽出液を乾燥させたインスタントコーヒーも含まれる。
本発明のコーヒー飲料は、例えば、「コーヒー飲料等の表示に関する公正競争規約及び施行規則」(令和1年8月19日改正施行)に規定される、「コーヒー」、「コーヒー飲料」、「コーヒー入り清涼飲料」、「コーヒー入り炭酸飲料」のいずれでもよいが、乳類、乳化された食用油脂などを配合しない、いわゆるブラックコーヒーである場合に、本発明によって得られる良質な甘味質とまろやかさをより享受できる。さらに、当該ブラックコーヒーは、糖類や甘味料を含んでいてもよいが、含んでいない場合により本発明によって得られる良質な甘味質とまろやかさをより享受できる。
ここで、本発明における「甘味質」は、甘さの強さと甘みの良さとで構成される甘みの性質であり、本発明における目標とする良質な甘味質とは、具体的には例えば、甘みを強く感じられながらも、あと残りのない、カドのない好ましい甘みの良さを含む。本発明のコーヒー飲料は、例えば、いわゆるブラックコーヒーとして、コーヒー本来の良質な甘味質を提供するものであってもよい。また、本発明における目標とするまろやかさとは、雑味が少なく口当たりがやわらかいコーヒー風味を含む。加えて、本発明のコーヒー飲料全体のおいしさ(嗜好性)としては、例えば、苦味と酸味のバランスの良さ、苦味と酸味の先味の強さ、ボディの強さ、後味の強さ、香りの強さ、酸味の強さ、苦味の強さ、甘味の強さ、及び複雑味の強さなどの観点を適宜組み合わせて、バランスの良い味として評価してもよい。なお、本発明のコーヒー飲料の温度は特に限定されないが、例えば、4℃~75℃で飲む場合に、より良質な甘味質とまろやかさを感じることができる。
本発明のコーヒー飲料における、香気成分の含有量、クロロゲン酸およびカフェインの含有量を調製(調整)する方法としては、特に限定されないが、例えば、コーヒー抽出液に各香気成分やクロロゲン酸およびカフェインを適宜添加してこれらの含有量を調整することが挙げられる。または、本発明のコーヒー飲料においては、様々な条件下で得られた、様々な比率で香気成分、クロロゲン酸およびカフェインを有する、複数のコーヒー抽出液やコーヒー抽出物を混合することで香気成分、クロロゲン酸およびカフェインの含有量を調整してもよい。また、当該クロロゲン酸の含有量については、コーヒー抽出液を得るためのコーヒー豆の焙煎度を後述するような態様で適宜変更することで調整してもよい。
また、本発明にかかるコーヒー飲料は、容器詰めコーヒー飲料であってもよい。本発明によって、一般的に流通する容器詰めコーヒー飲料、例えば缶やペットボトル詰めコーヒー飲料において、簡便に良質な甘味質とまろやかさとを両立できる方法も提供できる。
また、本発明の容器詰めコーヒー飲料を充填する容器は特に制限されず、一般的に流通に用いられる容器、例えば、PET(ポリエチレンテレフタレート)ボトル、PE(ポリエチレン)容器、PP(ポリプロピレン)容器、ガラス瓶、アルミ缶、スチール缶、紙容器、アルミパウチ、チルドカップなどが挙げられる。
ここで、上述したコーヒー抽出液の原料であるコーヒー豆の焙煎度合いは、特に限定されないが、例えば得られるコーヒー抽出液中のクロロゲン酸の含有量を調整するために、浅煎りから深煎りでありうる。その際、焙煎コーヒー豆の焙煎度合を示すL値は15~28であってもよいし、15~24であってもよい。ここで、L値とは、焙煎コーヒー豆を粉砕したコーヒー顆粒の表面色を数値化したもので、明度の指標となる値である(0が黒、100が白)。L値は、例えば色彩色差計(例えば、コニカミノルタ(株)社製型番:CR-410)を用いて測定することができる。本発明において使用されるコーヒー豆は、アラビカ種でもロブスタ種でもよく、特に限定されない。例えば、当該生豆としては、メキシコ、グアテマラ、ブルーマウンテン、クリスタルマウンテン、コスタリカ、コロンビア、ベネズエラ、ブラジル・サントス、ハワイ・コナ、モカ、ケニア、キリマンジャロ、マンデリン、及びロブスタから選択される豆、又はこれらの混合豆が挙げられる。なお、本発明において使用されるコーヒー豆の挽き具合については、特に限定されないが、例えば、細挽き~荒挽きであってもよい。
また、本発明において、コーヒー抽出液の抽出率などは、特に限定されないが、例えば、コーヒー豆20~250g、より好ましくは50~150gに対して1Lの水で抽出されてもよく、抽出時の水は、例えば4~95℃であってもよい。また、当該コーヒー抽出液の抽出時間は、特に限定されないが、例えば30~120分間であってもよい。また、本発明におけるコーヒー抽出液の抽出方法は特に限定されず、例えば一般的なドリップ法や浸漬法、エスプレッソ法などで抽出されうる。
ここで、本発明のコーヒー飲料においては、該コーヒー飲料中の可溶性固形分濃度をBrix(ブリックス)値と同義としてもよい。本発明におけるBrix値は、例えば0.5~10.0であることが好ましく、0.5~5.0であることがより好ましく、0.5~2.0であることが特に好ましい。当該Brix値を、インスタントコーヒーやコーヒーエキス、糖類や甘味料等で所定の値に調整してもよい。本発明におけるBrix値は、たとえば、20℃のサンプルに対して、商品名「デジタル屈折計Rx-5000」(アタゴ社製)を用いて、測定してもよい。
なお、一般的に、コーヒー抽出液中の可溶性固形分濃度が上がると、味が濃くなり、甘みや口当たりを感じやすくなる一方で、苦味や渋味が強くなり、抽出率が上がると渋みを感じやすく、かつ酸味を感じにくくなる傾向にある。したがって、本発明の容器詰めコーヒー飲料においてはこれらの傾向を加味しつつ、含有するコーヒー抽出液の可溶性固形分濃度や抽出率を適宜設定してもよい。
また、当該コーヒー飲料において、pHは限定されないが、例えば8.0以下であり、7.0以下であってもよく、また例えば4.0以上であり、5.0以上であってもよい。
また、本発明のコーヒー飲料は、上記コーヒー抽出液以外にも、1又は2種以上の糖類、甘味料、抗酸化剤、pH調整剤、酸味料、香料成分、乳成分等を添加してもよい。糖類や甘味料を含有する場合には、糖類としては、ショ糖、ブドウ糖、グラニュー糖、果糖、乳糖、及び麦芽糖、果糖ぶどう糖液糖、ぶどう糖果糖液糖等を含んでもよく、甘味料としては、キシリトール、D-ソルビトール等の低甘味度甘味料;タウマチン、ステビア抽出物、グリチルリチン酸二ナトリウム、アセスルファムカリウム、スクラロース、アスパルテーム、サッカリン、ネオテーム、及びサッカリンナトリウム等の高甘味度甘味料を含んでもよい。
また、本発明の目的を損なわない範囲で、各種栄養成分、抽出物、着色剤、希釈剤等の食品添加物を添加することもできる。本発明の容器詰めコーヒー飲料においては、その製造工程において、適宜必要に応じて、均質化処理や殺菌処理を加えて行なうことができる。
均質化処理は、通常、ホモゲナイザーを用いて行うことができる。均質化条件は特に限定されず、常法に従うことができる。
殺菌処理の方法は特に制限されず、通常のプレート式殺菌、チューブラー式殺菌、レトルト殺菌、バッチ殺菌、オートクレーブ殺菌等の方法を採用することができる。
殺菌処理後の本発明の乳含有飲料を容器に充填する方法としては、例えば、飲料を容器にホットパック充填し、充填した容器を冷却する方法、又は容器充填に適した温度まで飲料を冷却して、予め洗浄殺菌した容器に無菌充填する方法により行うことができる。
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明は、これら実施例により何ら限定されるものでなく、本発明の範囲を逸脱しない範囲で適宜変更させてもよい。
各成分の含有値を測定又は算出するための方法、及び官能評価方法については、以下の通りとした。
(1)香気成分(フェニルアセトアルデヒド、チオ酢酸S-フルフリル、およびフェネチルアルコール)の含有量の分析条件
分析対象である飲料10mLを、あらかじめ3gのNaClを入れた20mLバイアルに入れ、密栓した。各バイアルを50℃で5分間振盪した後、SPME用ファイバー(DVB/CAR/PDMS,Stableflex 23Ga(Gray)50/30μm:SIGMA-ALDRICH社製)をバイアル中のヘッドスペースに露出させた。
50℃で30分間、揮発性成分をファイバーに吸着させた後、注入口で3分間脱着させ、GC/MSにより分析を行った。検量線は標準添加法にて作成し、内標としてシクロヘキサノールを用いた。
[GC/MSの分析条件]
GC:Agilent Technologies社製7890A
MS:Agilent Technologies社製5975C
カラム:AgilentTechologies社製 DB-WAX UI 30m×0.25mm、膜厚0.25μm
圧力一定モード:122KPa、注入法:スプリットレス。キャリアガス:He
注入口温度:240℃。トランスファーライン:240℃
オーブン温度:40℃(5min)→5℃/min→240℃(5min)
MS条件:スキャンモード
定量イオン:フェニルアセトアルデヒド m/z=91.1、
フェネチルアルコール m/z=91.1、
チオ酢酸S-フルフリル m/z=156、
シクロヘキサノール(内標) m/z=82
(2)カフェイン含有量およびクロロゲン酸含有量の分析条件
各コーヒー飲料を、フィルター(0.2μm Mixed Cellulose Ester)でろ過することによりサンプルを得た。次いで、当該サンプル100ml中におけるカフェインの含有量(mg/100ml)およびクロロゲン酸の含有量(mg/100ml)を、UHPLC(Nexera((株)島津製作所)、検出器:PDA)を用いて以下の条件により測定した。

カラム:ZORBAX EclipsePlus C18 粒子径1.8μm×内径3.0mm×長さ100mm(アジレント・テクノロジー(株))
カラムオーブン温度:45℃
移動相:0.2%リン酸8%メタノール含む超純水
ポンプ流量:1.0ml/min
注入量:3μl
セル部温調温度:40℃

それぞれのピーク面積から、標準物質(カフェイン:CAS 58-08-2、和光純薬、クロロゲン酸:CAS 327-97-9、SIGMA-ALDRICH)の面積値を基準とし、カフェイン含有量、クロロゲン酸含有量を求めた。
(3)官能評価方法
各実施例/各比較例の飲料(20℃)に対して、専門パネリスト5名または6名が、「甘みの強さ」、「甘みの良さ」、「まろやかさ」の3項目、および、総合的評価として「おいしさ(嗜好性)」の項目に関する評価を行なった。各項目は、具体的には以下の表1及び表2に示す基準に基づいて評価された。コントロールを4点として、1~7点の7段階で評点をつけ、その平均値(小数点第3位を四捨五入)を官能評価結果とした。なお、各パネリストの評点のばらつきはあまりなかった。
そして、総合結果として、上記4項目とも、評点が4より大きい場合に合格(〇)とし、それ以外を不合格(×)とした。
Figure 2023111064000001
Figure 2023111064000002
<実験1>
所定の焙煎度(L値16.8またはL値21.0)のコーヒー豆47.0gを使用し、95℃の温水1Lで抽出して約400gの抽出液を得た。得られた抽出液に、さらに重曹(pH調整剤)0.6g/Lを加えて、1Lに調製し、UHT殺菌を行った後に容器に充填した。得られた容器入り飲料を、ベース液1(L値16.8)およびベース液2(L値21.0)とした。ベース液1およびベース液2の各成分の分析値は、下記表3のとおりであった。
Figure 2023111064000003
実施例1~6および比較例1~8の飲料は、ベース液1に、表4~表6に示される含有量になるようにフェニルアセトアルデヒドとチオ酢酸S-フルフリルを添加することで作製され、ベース液1をコントロールとして各実施例及び各比較例の官能評価を行なった。
実施例7および比較例9~11の飲料は、ベース液2に、表7に示される含有量になるようにフェニルアセトアルデヒドとチオ酢酸S-フルフリルを添加することで作製され、ベース液2をコントロールとして各実施例及び各比較例の官能評価を行なった。
実験1における官能評価は6名の専門パネリストが行ない、各実施例及び各比較例の官能評価結果を表4~7に示した。
Figure 2023111064000004
Figure 2023111064000005
Figure 2023111064000006
Figure 2023111064000007
ベース液1にフェニルアセトアルデヒドまたはチオ酢酸-Sフルフリルの単品を添加しても、「甘味質」や「まろやかさ」を向上させる効果は確認できなかったが、フェニルアセトアルデヒド含有量を33~60ppbに調製し、かつ、チオ酢酸S-フルフリル含有量を3~45ppbに調製した場合に、「甘味質」と「まろやかさ」の改善効果が見られた。一方で、ベース液2におけるフェニルアセトアルデヒド含有量やチオ酢酸S-フルフリル含有量を上記濃度に調製しても「甘味質」と「まろやかさ」の改善効果が確認できなかったことから、カフェイン濃度/クロロゲン酸濃度の比を本発明の条件にすることで、予想外の当該改善効果が得られることが確認できた。
<実験2>
実験1のベース液1(L値16.8)またはベース液2(L値21.0)にカフェインを添加し、カフェイン濃度/クロロゲン酸濃度の比を調製したベース液3、ベース液4、およびベース液5を準備した。ベース液3~5の各成分の含有量は、下記表8のとおりであった。
Figure 2023111064000008
実施例8および比較例12と13の飲料は、ベース液3に、表9に示される含有量になるようにフェニルアセトアルデヒドとチオ酢酸S-フルフリルを添加することで作製され、ベース液3をコントロールとして各実施例及び各比較例の官能評価を行なった。
実施例9の飲料は、ベース液4に、表10に示される含有量になるようにフェニルアセトアルデヒドとチオ酢酸S-フルフリルを添加することで作製され、ベース液4をコントロールとして各実施例及び各比較例の官能評価を行なった。
実施例10の飲料は、ベース液5に、表11に示される含有量になるようにフェニルアセトアルデヒドとチオ酢酸S-フルフリルを添加することで作製され、ベース液5をコントロールとして各実施例及び各比較例の官能評価を行なった。
実験2における官能評価は5名の専門パネリストが行ない、各実施例及び各比較例の官能評価結果を表9~11に示した。
Figure 2023111064000009
Figure 2023111064000010
Figure 2023111064000011
カフェイン濃度/クロロゲン酸濃度の比の異なるベース液3~5において、フェニルアセトアルデヒド含有量を33~60ppbに調製し、かつ、チオ酢酸S-フルフリル含有量を3~45ppbに調製すると各ベース液において「甘味質」と「まろやかさ」の改善効果が確認できた。このことから、カフェイン濃度/クロロゲン酸濃度の比の範囲を5.0~16.0に設定した場合に、フェニルアセトアルデヒド含有量とチオ酢酸S-フルフリル含有量とを本発明の範囲に調製することで、当該効果が得られることが示唆された。
<実験3>
実施例11~13および比較例14の飲料は、実験1で効果が確認された実施例2に、表12に示される含有量になるようにフェネチルアルコールを添加することで作製され、実施例2をコントロールとして官能評価を行なった。
実験3における官能評価は5名のパネリストが行ない、各実施例及び各比較例の官能評価結果を表12に示した。
Figure 2023111064000012
既に効果が確認された実施例2をベースにした場合に、さらにフェネチルアルコールを27~55ppbに調製すると、「甘味質」と「まろやかさ」の改善効果はさらに増強されることが確認された。
<実験4>
実施例14の飲料は、前記比較例9に、表13に示される含有量になるようにフェネチルアルコールを添加することで作製され、比較例9をコントロールとして官能評価を行なった。
実施例15および比較例15の飲料は、前記実施例8に、表14に示される含有量になるようにフェネチルアルコールを添加することで作製され、実施例8をコントロールとして官能評価を行なった。
実施例16の飲料は、前記実施例9に、表15に示される含有量になるようにフェネチルアルコールを添加することで作製され、実施例9をコントロールとして官能評価を行なった。
実施例17の飲料は、前記実施例10に、表16に示される含有量になるようにフェネチルアルコールを添加することで作製され、実施例10をコントロールとして官能評価を行なった。
実験4における官能評価は5名のパネリストが行ない、各実施例及び各比較例の官能評価結果を表13~表16に示した。
Figure 2023111064000013
Figure 2023111064000014
Figure 2023111064000015
Figure 2023111064000016
カフェイン濃度/クロロゲン酸濃度の比の異なる比較例9、実施例8、実施例9、実施例10をベースにして、フェネチルアルコールを27~55ppbに調製すると、各ベースにおいて「甘味質」と「まろやかさ」の改善効果がより増強されることが確認できた。このことから、カフェイン濃度/クロロゲン酸濃度の比の範囲を2.0~16.0に設定した場合に、フェニルアセトアルデヒド含有量とチオ酢酸S-フルフリル含有量とフェネチルアルコールを本発明の範囲に調製することで、当該効果が得られることが示唆された。
<好ましいコーヒー飲料の組成の一例>
本発明で得られた知見を活用したコーヒー飲料として、以下の条件を満たすコーヒー飲料は、高い嗜好性を有することが確認された:
(A)クロロゲン酸濃度に対するカフェイン濃度の比(カフェイン濃度/クロロゲン酸濃度の比)が5.0~12.0であり、
(B)フェニルアセトアルデヒドの含有量が33~60ppbであり、
(C)チオ酢酸S-フルフリルの含有量が3~35ppbであり、
(D)フェネチルアルコールの含有量が27~55ppbであり、
(E)イソ吉草酸アルデヒドの含有量が300~1100ppbであり、
(F)4-ビニルグアイアコールの含有量が100~450ppbである。

Claims (5)

  1. (A)クロロゲン酸濃度に対するカフェイン濃度の比(カフェイン濃度/クロロゲン酸濃度の比)が5.0~16.0であり、
    (B)フェニルアセトアルデヒドの含有量が33~60ppbであり、
    (C)チオ酢酸S-フルフリルの含有量が3~45ppbである、
    コーヒー飲料。
  2. (A)クロロゲン酸濃度に対するカフェイン濃度の比(カフェイン濃度/クロロゲン酸濃度の比)が2.0~16.0であり、
    (B)フェニルアセトアルデヒドの含有量が33~60ppbであり、
    (C)チオ酢酸S-フルフリルの含有量が3~45ppbであり、
    (D)フェネチルアルコールの含有量が27~55ppbである、
    コーヒー飲料。
  3. 容器詰めコーヒー飲料である、請求項1または2に記載のコーヒー飲料。
  4. コーヒー飲料の甘味質の改善方法であって、
    コーヒー飲料中の(A)クロロゲン酸濃度に対するカフェイン濃度の比(カフェイン濃度/クロロゲン酸濃度の比)を5.0~16.0に調製し、(B)フェニルアセトアルデヒドの含有量を33~60ppbに調製し、(C)チオ酢酸S-フルフリルの含有量を3~45ppbに調製する工程を含む、前記方法。
  5. コーヒー飲料の甘味質の改善方法であって、
    コーヒー飲料中の(A)クロロゲン酸濃度に対するカフェイン濃度の比(カフェイン濃度/クロロゲン酸濃度の比)を2.0~16.0に調製し、(B)フェニルアセトアルデヒドの含有量を33~60ppbに調製し、(C)チオ酢酸S-フルフリルの含有量を3~45ppbに調製し、(D)フェネチルアルコールの含有量を27~55ppbに調製する工程を含む、前記方法。
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