JP2023104039A - 土木・建築物補強用繊維シート材 - Google Patents

土木・建築物補強用繊維シート材 Download PDF

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Abstract

【課題】連続繊維シートを用いた土木・建築物補強工法において、非常に良好で安定した高いレベルの強度(ヤング係数)と終局ひずみを示し、施工性・生産性が要求される場合においても、非常に良好で安定した補強効果を示す土木・建築物補強用繊維シート材を提供する。【解決手段】土木・建築構造物の補強に用いる、高強度繊維からなる補強用布帛とマトリックス樹脂とから構成されてなる補強用繊維シート材であって、前記高強度繊維はポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維から構成され、かつ、JIS A1191に記載の方法により測定される、前記繊維シート材の補強繊維の配向に沿った終局ひずみが3.0%以上であることを特徴とする土木・建築物補強用繊維シート材。【選択図】図1

Description

本発明は、土木・建築構造物の補強に用いる、高強度繊維からなる補強用布帛とマトリックス樹脂とから構成されてなる繊維シート材に関する。
鉄道の高架橋や、高速道路の高架橋など、コンクリート製の建築物は多数存在するが、地震による破壊に対する耐震補強あるいは交通量の増加による耐久性の改善などの問題がある。また、歴史的建造物である石造りの灯台や、煉瓦製の建物、コンクリートや煉瓦製の煙突など、寿命の延長や耐震補強の必要な建造物がある。
耐震性が十分であっても、コンクリートの乾燥収縮や外的圧力によって、ひび割れや部分的に剥落したものが多数存在し、これらの補修も実施されている。コンクリート構造物の補強、補修方法は、対象となる鉄道高架などのコンクリート製の柱を鋼板で覆う方法、アラミド繊維や炭素繊維などの補強用繊維シートをコンクリート面に張り付け、もしくは巻き付けて補強、補修する方法などがある。
鋼板で覆う方法は、重い鋼板を扱うため、施工には重機や頑丈な足場が必要である。また、溶接の設備や熟練した作業者も必要である。一方、アラミド繊維や炭素繊維などの補強用繊維シートを巻き付ける方法(一般的には「連続繊維補強工法」あるいは「繊維シートによる補強工法」等と称されている)は、重量物を扱う重機の必要がなく施工が容易であり、狭いところでの施工も容易で、また工期が短縮できるなどの利点があり、利用が広まっている。
繊維シートによる補強、補修方法は、炭素繊維やアラミド繊維などの引張強力が高い補強用繊維シートを、エポキシ系樹脂、ビニルエステル系樹脂、不飽和ポリエステル系樹脂、もしくはフェノール系樹脂などのマトリクス樹脂によってコンクリートの表面に接着させることにより行われる。その際、エポキシ樹脂は、繊維シートをコンクリートに接着させるだけでなく、繊維シートに含浸し、シートの強度を向上させ、さらに繊維シートの強度をコンクリートに伝える媒体としての役割を果たす。
繊維シートによるコンクリートの補強方法は目的に応じて様々であり、例えば地震発生時の横揺れに対し、せん断補強鉄筋が不十分であると照査されたコンクリート柱に対しては、軸方向に対して直角方向に巻き付けるように繊維シートを張り付けることで、コンクリート柱の破壊モードを、粘りの少ないせん断破壊モードから、粘りのある曲げ破壊モードに移行させることが出来、崩落までの時間(避難するための時間)を稼ぐことが可能となる。このせん断補強における繊維シートへの要求特性としては主に強度・ヤング係数であることが知られている。
また、曲げ破壊モードとなるコンクリート柱においても、下記式(III)に示すじん性能が1.0以下であることが、安全設計上重要であるとされている(コンクリートライブラリー101 連続繊維シートを用いたコンクリート構造物の補修補強指針(土木学会)参照)。設計じん性率は、繊維シート補強によって大きくすることが出来、繊維シートの終局ひずみ、すなわち繊維シートの破断伸度が大きければ大きいほど良いとされている。
γi ×μud /μd ・・・ (III)
γi : 構造物係数(1.0で計算)、μrd : 設計塑性率、μd: 設計じん性率
特許文献1では、補強用繊維シート材を構成する繊維骨格内にマトリックス樹脂と同じオリゴマーを含んだ相溶化剤を浸透・含浸させることで補強用繊維シートの樹脂含浸性、かつ樹脂含浸シートの耐力を向上させている。しかし、あらかじめ繊維骨格内に表面処理剤を施す工程が必要であり、生産性は乏しいものとなる。また補強用繊維シート材としての破断伸度が不十分であるため、じん性能が劣ってしまう。
特許文献2では、高強度ポリエチレン繊維を用いて経糸カバーファクターと緯糸カバーファクターの適切な配分により、補強耐力が高く、軽量で樹脂含侵性が優れる補強用繊維シートが提示されている。しかし、高強度ポリエチレン繊維はエポキシ系樹脂との接着性に劣り、応力伝達に支障を与えるため、各種補強機能が発現しにくい。
特許文献3では、ビニロン繊維を用いて耐アルカリ、補強効果、施工性に優れる補強用繊維シートが提示されている。しかし、ビニロン繊維は繊維自体の強度が低く、シート耐力を十分なものとすることが難しく、複数枚積層するといった工夫が必要となる。また、繊維自体の弾性率が低く、せん断補強効果が十分ではない。
特許文献4では、3成分から成るパラ系アラミド繊維(コポリパラフェニレン-3,4′-オキシジフェニレンテレフタラミド繊維)を用いた補強繊維シートが記載されているが、2成分からなるパラ系アラミド繊維(ポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維)を用いた補強繊維シートよりも高コストなものとなる。
特開2018-172823号公報 特開2014-88652号公報 特開2004-238757号公報 特開平10-37051号公報
本発明は、上記事情を鑑みてなされたものであり、連続繊維シートを用いた土木・建築物補強工法において、非常に良好で安定した高いレベルの強度(ヤング係数)と終局ひずみを示し、施工性・生産性にも優れる土木・建築物補強用繊維シート材を提供することを目的とする。
本発明者等は上記目的を達成すべく誠意検討した結果、連続繊維シートを用いた土木・建築物補強工法において、強度(ヤング係数)と終局ひずみを高いレベルで両立した連続繊維シートを用いることにより、優れたせん断補強効果とじん性向上効果を得ることが出来、さらには施工性・生産性にも優れた土木・建築物補強用繊維シート材を提供できることを見出し、本発明に至った。
すなわち、本発明は、土木・建築構造物の補強に用いる、高強度繊維からなる補強用布帛とマトリックス樹脂とから構成されてなる補強用繊維シート材であって、前記高強度繊維はポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維から構成され、かつ、JIS A1191に記載の方法により測定される、前記繊維シート材の補強繊維の配向に沿った終局ひずみが3.0%以上であることを特徴とする土木・建築物補強用繊維シート材を提供する。
本発明によれば、連続繊維シートを用いた土木・建築物補強工法において、強度(ヤング係数)と終局ひずみを高いレベルで両立した連続繊維シートを用いることで、優れたせん断補強効果とじん性向上効果を得ることが出来、さらには施工性・生産性にも優れた土木・建築物補強用繊維シート材を提供することができる。
一方向布帛の写真。 二方向布帛(平織り)の写真。 二方向布帛(NCF(ノンクリンプファブリック))の写真。
本発明の土木・建築物補強用繊維シート材は、ポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維からなる補強用布帛とマトリックス樹脂とから構成され、かつ、JIS A1191に記載の方法により測定される、前記繊維シート材の補強繊維の配向に沿った終局ひずみが3.0%以上であることを特徴とする。
<高強度繊維>
コンクリート構造物を補修・補強するための繊維材料には、非常に大きなエネルギーに対抗する必要性から、高強度・高弾性・高靭性が求められる。具体的には、パラ系アラミド繊維、ポリアリレート繊維、PBO繊維(ポリベンゾビスオキサゾール)繊維などの有機繊維;炭素繊維などの無機繊維を挙げることが出来るが、その中でもしなやかさ、軽量性、折れにくさ、絶縁性、施工現場での取り扱い易さの点でパラ系アラミド繊維が好ましい。
パラ系アラミド繊維としては、例えば、ポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維(東レ・デュポン社製“ケブラー(登録商標)”、帝人社製“トワロン(登録商標)”等)、コポリパラフェニレン-3,4‘-オキシジフェニレンテレフタルアミド繊維(帝人社製“テクノーラ(登録商標)”等)などを挙げることが出来、これらのパラ系アラミド繊維の中でも、高強度・高弾性・高靭性およびコストバランスに優れた、ポリパラフェニレンテレフタルアミド(以下、「PPTA」と省略することがある)繊維を用いることが、本発明においては非常に重要である。
本発明の土木・建築物補強用繊維シート材に用いるポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維は、JIS L1013:2010「化学繊維フィラメント糸試験方法」に記載の方法により測定される破断伸度が4.0%以上であることが望ましい。本発明の土木・建築物補強用繊維シート材は、ポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維とマトリクス樹脂とから構成されているが、該ポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維が土木・建築物補強用繊維シート材の機械的特性の大部分を担っている。そのため、ポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維の破断伸度が4.0%未満になると、繊維シートの構成にもよるが、補強効果の減少にともない、土木・建築物補強用繊維シート材の破断伸度が3.0%を下回るという不都合を生じる恐れがある。
一方、ポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維の破断伸度が4.0%以上であれば、土木・建築物補強用繊維シート材を調製したときに、前記繊維シート材が十分なじん性(終局ひずみ)を発現できる。前記のポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維の破断伸度は、好ましくは4.1%以上、より好ましくは4.2%以上である。このようにポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維の破断伸度が大きければ、土木・建築物補強用繊維シート材の厚みを薄くすることができ、該繊維シート材のコスト削減が容易になる。
本発明におけるポリパラフェニレンテレフタルアミド(PPTA)とは、テレフタル酸とパラフェニレンジアミンを重縮合して得られる重合体であるが、少量のジカルボン酸およびジアミンを共重合したものも使用することができ、得られる重合体または共重合体の数平均分子量は通常20,000~25,000の範囲内が好ましい。
通常のポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維は、ポリパラフェニレンテレフタルアミドを濃硫酸に溶解し、その粘調な溶液を紡糸口金から押し出し、空気中または水中に紡出することによりフィラメント状にし、その後、水酸化ナトリウム水溶液で中和し、最終的に120~500℃の乾燥・熱処理を行う。その後、油剤を付与し、繊維に浸透させることで製造する(米国特許第3,767,756参照)。
上記の油剤としては、例えば、脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレン共重合体もしくはその誘導体、鉱物油などが挙げられる。そのなかでも、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレン共重合体およびその誘導体の中から選択される少なくとも1種のポリエーテル化合物を、油剤全量に対して、少なくとも50質量%含有する油剤が好ましい。前記のポリエーテル化合物は、各種マトリクス樹脂との親和性に優れることが多く、精錬工程で水系溶媒にて容易に洗い流すことができる利点がある。
また、油剤中に反応性の官能基を有する成分、例えば、硬化性エポキシ化合物(脂肪族エポキシ化合物、芳香族エポキシ化合物)が油剤に配合されていることがより好ましい。このような油剤を用いることにより、ポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維とマトリクス樹脂との接着性をさらに向上させることができる。
前記硬化性エポキシ化合物は、油剤全体を100質量%として、20~80質量%の割合で配合されていることが好ましい。より好ましくは30~70質量%、さらに好ましくは35~55質量%である。このような配合油剤を用いることにより、マトリクス樹脂との接着性が良好で、生産性および集束性に優れるポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維を得ることができる。ポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維とマトリクス樹脂との接着力が高まると、ポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維とマトリクス樹脂の界面接着性の向上に繋がるので、補強用繊維シート材の機械的特性がさらに向上する。
本発明で用いるポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維は連続繊維であれば良いので、繊維の太さは、土木・建築物補強用繊維シート材としての機能を発揮できる太さであれば特に限定されない。一方、単糸繊度は0.5~7.0dtexであることが、樹脂含浸性および施工現場での裁断など取り扱い易さの点で好ましく、より好ましくは1.0~5.0dtexである。
本発明の土木・建築物補強用繊維シート材は、ポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維とマトリクス樹脂とから構成されており、ポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維が本発明の土木・建築物補強用繊維シート材の機械的特性の大部分を担っている。そのため、ポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維は、JIS L1013:2010「化学繊維フィラメント糸試験方法」に記載の方法により測定される引張強度が17cN/dtex以上で、かつ同法により測定される引張弾性率が400cN/dtex以上であることが望ましい。かかる特性のポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維を用いることにより、土木・建築物補強用繊維シート材に十分な引張強度および弾性率を発揮させることが可能となる。ポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維の引張強度は、好ましくは20cN/dtex以上、より好ましくは23cN/dtex以上である。ポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維の引張弾性率は、好ましくは420cN/dtex以上、より好ましくは450cN/dtex以上である。
<補強用布帛>
補強用布帛の形態としては、織布及び編布及びNCF(ノンクリンプファブリック)からなる群から少なくとも1つの形態から選択することが出来、樹脂が含浸し得る程度の隙間(孔)を有するものであればよい。補強用布帛は、例えば、織布と織布、織布と編み布、織布とNCF、編布とNCFなど積層した布帛としてもよい。
さらに補強用布帛は、一方向布帛及び二方向布帛からなる群から選択される。ここで言う“一方向”、“二方向”とは、補強用の繊維が並列に配列された繊維群の方向を示すものであり、シート状に保持するための役割として用いる補助繊維は含まない。補助繊維はシート状に保持するための役割を果たすことが出来ればその形態に制限はない。補助繊維はポリエステル繊維、ナイロン繊維などを用いることが出来、特に湿度による寸法変化の少ないポリエステル繊維が好ましい。また、一方向布帛は、補強繊維が特定方向に揃っているため、樹脂含浸性や繊維の強度発現率が良く、施工現場での取り扱い時において、より好ましい形態である。
図1は“―方向”に補強用の繊維が並列に配列された一方向布帛を示す。シート状に保持するために垂直方向に補助繊維が配列されて作られる。図2は“二方向”に補強用の繊維が垂直方向に配列された二方向布帛を示し、たて糸とよこ糸が交錯して平織りの織物組織を構成しているため、補助繊維は使用していない。図3は“二方向”に補強用の繊維がクリンプせず垂直方向に配列された二方向布帛を示し、シート状に保持するために交点を補助繊維で縫い付けて作られる。
補強繊維シート材は、目的に応じて高強度繊維以外の繊維を含んでもよく、その割合は繊維シート材全体の重量を100重量%とした場合、20重量%以下であり、好ましくは15重量%、より好ましくは10重量%以下である。高強度繊維以外の繊維の割合が20重量%を超えると、補強用繊維シート材の補強効果が小さくなるため望ましくない。
一方向布帛のたて糸の密度および二方向布帛のたて糸/よこ糸の密度は、25~35本/25.4mmであることが好ましい。本発明の布帛では破断強度の高いポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維を用いるため、糸密度が25本/25.4mm以上あれば、布帛に十分な耐力を付与することができる。また、糸密度が35本/25.4mm以下とすることで、良好な樹脂含浸性を付与することができる。糸密度は、より好ましくは26~34本/25.4mm、さらに好ましくは27~33本/25.4mmである。
補強用布帛の目付(単位面積当りの重量)は、得られる土木・建築物補強繊維シート材の厚みを抑えつつ、十分な強度と剛性を付与する観点より、250~500g/mが好ましく、より好ましくは300~450g/mの範囲内である。目付が250g/m以上あれば該繊維シート材に十分な強度と剛性を付与することができ、目付が500g/m以下であれば該繊維シート材の厚みが大きくなることで樹脂含浸性が著しく損なわれるという不都合が生じにくい。
補強用布帛は、下記式(I)で示す織縮み率が1.5%以下であることが好ましい。織縮み率が1.5%以下であれば、布帛の構造伸びを小さく抑えることができ、結果として、土木・建築物補強繊維シート材のヤング係数を高めることができ、十分な補強効果を発揮することができる。
織縮み率=[(糸長-織物長)/織物長]×100 ・・・ (I)
補強用布帛を作製する場合には、マルチフィラメントであるポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維の単糸同士を引き揃えて、布帛作製時の工程通過性や強度発現率を向上させる目的で撚りをかけることが望ましく、下記式(II)で示す撚り係数を0.2~1.4にすることが好ましく、0.3~1.2の範囲内にすることがより好ましい。撚り係数が1.4を越えた場合、布帛厚みが増し、樹脂含浸性を著しく低下させることとなる。撚り係数が0.2未満の場合、工程通過性の悪化や布帛強度の低下が発生する。

TM=T×√D/303 ・・・ (II)
但し、TM:撚り係数、T:撚り数(t/10cm)、D:トータル繊度(dtex)
JIS L1096 に記載の方法により測定される、補強繊維の配向方向に沿った補強用布帛の引張強さは、得られる土木・建築物補強繊維シート材に十分な強度と剛性を付与する観点より、60~100kN/10cmが好ましく、より好ましくは70~90kN/10cmである。引張強さが60kN/10cm未満であると、各種補強効果が小さくなり、補正するためにより多くの繊維シートを用いる必要があり、引張強さが100kN/10cmを超えると、繊維シートの繊維密度が増加するため、樹脂含浸性が乏しいものとなる。
<マトリクス樹脂>
本発明において、マトリクス樹脂は、本発明の土木・建築物補強用繊維シート材の必須構成要素であり、ポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維を用いた補強用布帛に含浸させて使用する。
マトリクス樹脂の種類は、特に限定されるものではなく、目的に応じて、熱硬化性樹脂または熱可塑性樹脂から選ばれる少なくとも1種以上を使用することができる。熱硬化性樹脂は熱による可塑性を持たないことから、熱硬化性樹脂を用いることで、耐熱性および耐火性に優れる土木・建築物補強用繊維シート材を提供できる。一方、熱可塑性樹脂は加熱により可塑性を示すことから、熱可塑性樹脂を使用することで、現場で曲げ加工できる土木・建築物補強用繊維シート材を提供できる。
熱硬化性樹脂としては、例えば、不飽和ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、ビニルエステル樹脂、熱硬化エポキシ樹脂、ユリア樹脂などが挙げられる。
熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリプロピレン樹脂、ポリエチレン樹脂、ABS樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリアミド樹脂、変性ポリフェニレンエーテル樹脂、液晶ポリエステル樹脂、ポリイミド樹脂、シンジオタクチックポリスチレン樹脂、ポリシクロヘキサンジメチレンテレフタレート樹脂、熱可塑性エポキシ樹脂などが挙げられる。
上記の樹脂の中でも、ポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維との接着性が良く、機械的特性に優れている不飽和ポリエステル樹脂、熱硬化エポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂が好ましい。これらの熱硬化性樹脂を使用することにより、本発明の土木・建築物補強用繊維シート材の補強効果を最大限活かすことが可能となる。
前記マトリックス樹脂は、JIS K7161に記載の方法で測定される引張強度が30MPa以上、かつJIS K7171に記載の方法で測定される曲げ強度が40MPa以上、かつJIS K6850に記載の方法で測定される引張せん断強度が10MPa以上であることが好ましく、引張強度が40MPa以上、かつ曲げ強度が50MPa以上、かつ引張せん断強度が20MPa以上であることがより好ましい。引張強度と曲げ弾性率と引張せん断強度がこの範囲にあると、強度・剛性に優れた土木・建築物補強用繊維シート材を得ることができる。
本発明で用いるマトリクス樹脂には、本発明の効果を損なわない範囲で、必要に応じて各種添加剤を配合することができる。添加剤としては、例えば、熱安定剤、光安定剤、紫外線吸収剤、加水分解抑制剤、酸化防止剤、滑剤、核剤、可塑剤、着色防止材、つや消し剤、難燃剤、帯電防止材、離型剤、充填剤(ガラスファイバー、カーボンファイバー、ガラスビーズ、中空ガラス、タルクなどのフィラー)、顔料および染料などが挙げられ、これらの添加剤などから選ばれる1種または2種以上を配合することができる。これらの配合量は通常用いられる量で良い。
<土木・建築物補強用繊維シート材>
本発明の土木・建築物補強用繊維シート材は、ポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維を用いた補強用布帛と、マトリクス樹脂とから構成されるものであって、JIS A1191に記載の方法により測定されるシート終局ひずみが3.0%以上であることを特徴とする。これにより、土木・建築物補強用繊維シート材として十分なじん性(シート伸び)を得ることができる。前記のシート終局ひずみは、3.2%以上が好ましく、3.4%以上がより好ましい。シート終局ひずみが3.0%未満では、繊維シートをコンクリートに巻き付けた際のじん性向上効果が不十分となることで、設計上コンクリート部材の降伏耐力を大きく取らざるを得ないため、繊維シート使用量が増加し、その分コストや工数量も増加することとなる。
本発明の土木・建築物補強用繊維シート材は、JIS A1191に記載の方法により測定される、補強繊維の配向方向に沿ったシート引張強度が2,000MPa以上であることが望ましい。シート引張強度が2,000MPa未満では、土木・建築物補強用繊維シート材をせん断補強目的に用いた場合の補強効果が不十分となるため、所望の耐せん断力を得るためには、連続繊維シートの総断面積を大きくする必要があり、繊維シートの使用量や工数増となる。シート引張強度は、2,200MPa以上が好ましく、2,400MPa以上であることがより好ましい。
本発明の土木・建築物補強用繊維シート材は、JIS A1191に記載の方法により測定されるヤング係数が60GPa以上であることが望ましい。ヤング係数が60GPa未満では、土木・建築物補強用繊維シート材をせん断補強目的に用いた場合の補強効果が不十分となるため、所望の耐せん断力を得るためには、連続繊維シートの総断面積を大きくする必要があり、繊維シート使用量や工数増となる。繊維シート材のヤング係数は、62GPa以上が好ましく、より好ましくは64GPa以上、さらに好ましくは69GPa以上、特に好ましくは71GPa以上である。
一方で、シートヤング係数が高くなるに従って、シート終局ひずみが目標とする3.0%を下回ることがあるので、ヤング係数は100GPa以下が好ましく、90GPa以下であることがより好ましい。
<土木・建築物補強用繊維シート材の補強工法>
本発明の土木・建築物補強用繊維シート材をコンクリート表面へ適用する場合、適用方法は特に限定されるものではなく公知の方法に従えば良い。すなわち、たとえば、コンクリート表面に補強用繊維シートを貼り付ける手順として、先ず、コンクリート表面を適当にはつり、研磨等によって表面の脆弱な層を取り除き、また、場合によっては隅角部を削り、適度に丸めたりして、窪んだ部分にパテ等を充填して不陸調整を行う。このような下地処理を行った後、コンクリートの表面にプライマーと呼ばれる樹脂を塗布し、乾燥させる。プライマーは、通常、繊維シートに含浸させる樹脂と同種類の樹脂を使用する。従って、エポキシ樹脂を含浸樹脂として使用する場合には、コンクリートに浸透しやすいように、粘度等を調整されたエポキシ樹脂がプライマーとして用いられる。コンクリート表面に塗布されたプライマーを十分に乾燥させたのち、含浸樹脂であるエポキシ樹脂がその上に塗布される。塗布後、あらかじめ必要とする長さ、たとえばコンクリート柱の場合、周長に継ぎ手長さ20cmを加えた長さに切断した補強用繊維シートをタテ糸の方向が周長方向になるように直ちに貼り付け、ローラーなどを用いて、樹脂を十分に繊維シートに含浸させる。補強用繊維シートの巾は、10cmから50cmのものが一般に用いられる。
下塗り樹脂が十分含浸したことを確認した後、同じ樹脂を用いて、上塗りを行う。補強用繊維シート全面に均一にエポキシ樹脂を塗布した後、樹脂が完全に硬化するまで、養生をしておく。補強の程度によっては、補強用繊維シートを何層も重ねて貼り付けする。その際は上記の工程を繰り返すことになる。最上層のシート貼り付けが終了し、表面のエポキシ樹脂が完全に硬化したことを確認したら、仕上げとして、耐久性、耐火性を向上させるため、表面をフッ素樹脂やアクリル樹脂塗装する。場合によってはモルタル塗装する。
本発明の土木・建築物補強用繊維シート材は、樹脂が含浸されることで補強層を形成するので、一般的な構造物だけでなく、鉄道や高速道路などのコンクリート高架橋脚やコンクリート床版、建物のコンクリート柱やコンクリート壁の補強などの補強に有用であり、寿命の延長や耐震補強が必要な建造物の補強用として好適に用いることができる。
本発明の土木・建築物補強用繊維シート材による補強は、補強対象建造物へ貼り付ける方法、巻き付ける方法、コンクリートの亀裂に配設する方法など、従来公知の方法に従えば良い。
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はそれらに限定されるものではない。また、以下の実施例等において、特に言及する場合を除き、「重量部」は「部」と略記する。なお、実施例中に記載した評価方法は以下の通りである。
(1)ポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維の引張特性
ASTM D7269に記載の方法に従い、破断伸度(Section13;Elongation at Break)、引張強度(Section11;Breaking Strength)、引張弾性率(Section15;Modulus)を測定した。
(2)補強用布帛の織物密度、目付
JIS L1096:2020「織物および編物の生地試験方法」に記載される方法に従った。
(3)補強用布帛を構成するポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維の織縮み率
JIS L1096:2020「織物および編物の生地試験方法」に記載される方法に従い、下記式にて織縮み率を求めた。
織縮み率=[(糸長-織物長)/織物長]×100
(4)補強用布帛を構成するポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維の撚り係数
ASTM D123に記載の方法に従い、下記式にて撚り係数(TM)を求めた。
TM=T×√D/303
TM:撚り係数、T:撚り数(t/10cm)、D:トータル繊度(dtex)
(5)土木・建築物補強用繊維シート材のシート終局ひずみおよび引張強度およびヤング係数
JIS A1191「コンクリート補強用FRPシートの引張試験方法」に記載される方法に従った。
(6)土木・建築物補強用繊維シート材の樹脂含浸性
コニシ(株)製のボンドE2500S(エポキシ系樹脂)を、主剤と硬化剤を仕様書に従って混合し、離型フィルムの上に繊維シート目付量の1.4倍の重量の樹脂を下塗りし、その上に20×20cmの繊維シートをのせ、幅10cmの金属ローラーを用い、2kgの荷重下で3回往復させた後、放置する。樹脂は、繊維シート下側から表面に向かって浸み出し、シート表面が濡れたようになる。5分後にシート表面への樹脂含浸を観察した結果から以下の基準で判定した。
○;シート表面への樹脂の浸み出しがシート表面の90%以上。
×:シート表面への樹脂の浸み出しがシート表面の90%未満。
(7)土木・建築物補強用繊維シート材のじん性能向上効果
じん性能向上効果はシートの終局ひずみに依存することから、シート終局ひずみを基に以下通り評価した。
〇:シート終局ひずみが3.0%以上
×:シート終局ひずみが3.0%未満
(8)土木・建築物補強用繊維シート材のせん断補強効果
2021改訂版 連続繊維補強材を用いた既存鉄筋コンクリート造および鉄骨鉄筋コンクリート造建築物の耐震改修設計・施工指針(日本建築防災協会)に基づき、下記式に従って繊維シートのせん断設計用引張強度を算出した。

min[Efd×εfd,(2/3)×σ] (N/mm

fd:繊維シート材のヤング係数(N/mm
εfd:繊維シート材の有効ひずみ度 (0.01で算出)
σ:繊維シート材の引張強度(N/mm
(式中、min[Efd×εfd,(2/3)×σ]は、Efd×εfd の値と、(2/3)×σの値のうち、いずれか小さい方の値である。)
[製造例1]
通常の方法で得られたパラフェニレンテレフタルアミド(分子量約20,000)1kgを4kgの濃硫酸に溶解し、直径0.1mmのホールを1,000個有する口金からせん断速度30,000sec-1となるよう吐出し、25℃の水中に紡糸した後、10重量%の水酸化ナトリウム水溶液で、10℃×15秒の条件で中和処理し、その後、170℃×15秒間の条件で加熱乾燥後、油剤を付与し、水分率7.0重量%のポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維(総繊度3,300dtex)を得た。
[製造例2]
加熱乾燥条件を200℃×30秒間としたこと以外は製造例1と同様に行い、水分率6.8重量%のポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維(総繊度3,300dtex)を得た。
[製造例3]
紡糸温度条件を4℃とし、加熱乾燥条件を150℃×30秒間としたこと以外は製造例1と同様に行い、水分率7.0重量%のポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維(総繊度3,300dtex)を得た。
[製造例4]
東レ・デュポン社製の“ケブラー(R)49”(登録商標)(ポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維;3,300dtex)を用いた。
[製造例5]
東レ・デュポン社製の“ケブラー(R)119”(登録商標)(ポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維;3,300dtex)を用いた。
製造例1~5で得られたポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維について、詳細を表1に示す。
[実施例1~3、比較例1~3]
表1に記載の各繊維種から構成される一方向補強用布帛、および一方向補強用布帛にコニシ(株)製のボンドE2500S(エポキシ系樹脂)を含浸させた土木・建築物補強用繊維シート材について、評価結果を表2に示す。
表2に記載した通り、シート終局ひずみが3.0%未満である土木・建築物補強用繊維シート材は、じん性補強効果として発揮できない(比較例1)。一方、シート終局ひずみが3.0%以上であっても、ヤング係数が60GPa未満である土木・建築物補強用繊維シート材はせん断補強効果を充分発揮できない(比較例2、3)。
これに対して、本発明の土木・建築物補強用繊維シート材は、シート終局ひずみ、ヤング係数およびコスト性に優れており、特に実施例3においては、引張強度にも優れることがわかる。このことから、本発明の土木・建築物補強用繊維シート材は、せん断・じん性補強工法において変形性能、かつせん断耐力を向上することができ、本発明は有用であることが示された。
本発明の土木・建築物補強用繊維シート材は、一般的な構造物のみならず、高架の橋脚や床版、建物の柱、壁などのせん断・じん性補強用として最適である。
10 補強用繊維
20 補助繊維


Claims (9)

  1. 土木・建築構造物の補強に用いる、高強度繊維からなる補強用布帛とマトリックス樹脂とから構成されてなる補強用繊維シート材であって、前記高強度繊維はポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維から構成され、かつ、JIS A1191に記載の方法により測定される、前記繊維シート材の補強繊維の配向に沿った終局ひずみが3.0%以上であることを特徴とする土木・建築物補強用繊維シート材。
  2. 前記土木・建築物補強用繊維シート材が、JIS A1191に記載の方法により測定される補強繊維の配向方向に沿った引張強度が2,000MPa以上、および/または、同法により測定されるヤング係数が60GPa以上である、請求項1に記載の土木・建築物補強用繊維シート材。
  3. 前記補強用布帛のJIS L1096に記載の方法により測定される下記式(I)で定義される織縮み率が1.5%以下である、請求項1または2に記載の土木・建築物補強用繊維シート材。

    織縮み率(%)=[(糸長-織物長)/織物長]×100 ・・・ (I)
  4. 前記ポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維が、ASTM D123に記載の方法により測定される下記式(II)で定義される撚り係数が0.2~1.4の範囲内である、請求項1~3いずれかに記載の土木・建築物補強用繊維シート材。

    TM=T×√D/303 ・・・ (II)
    但し、TM:撚り係数、T:撚り数(t/10cm)、D:トータル繊度(dtex)
  5. 前記補強用布帛が、一方向および二方向からなる群から選択されるいずれかである、請求項1~4いずれかに記載の土木・建築物補強用繊維シート材。
  6. 前記補強用布帛が一方向布帛であり、JIS L1096に記載の方法により測定される一方向布帛のたて糸密度が25~35本/25.4mmである、請求項1~5いずれかに記載の土木・建築物補強用繊維シート材。
  7. 前記ポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維のJIS L1013に記載の方法により測定される破断伸度が4.0%以上である、請求項1~6いずれかに記載の土木・建築物補強用繊維シート材。
  8. 請求項1~7いずれかに記載の土木・建築物補強用繊維シート材で補強された土木・建築構造物。
  9. 前記土木・建築構造物がコンクリート構造物である、請求項8に記載の土木・建築構造物。
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