JP2023092764A - 光学部材の製造方法、光学部材及び眼鏡 - Google Patents

光学部材の製造方法、光学部材及び眼鏡 Download PDF

Info

Publication number
JP2023092764A
JP2023092764A JP2021207963A JP2021207963A JP2023092764A JP 2023092764 A JP2023092764 A JP 2023092764A JP 2021207963 A JP2021207963 A JP 2021207963A JP 2021207963 A JP2021207963 A JP 2021207963A JP 2023092764 A JP2023092764 A JP 2023092764A
Authority
JP
Japan
Prior art keywords
layer
optical member
laser
refractive index
film
Prior art date
Legal status (The legal status is an assumption and is not a legal conclusion. Google has not performed a legal analysis and makes no representation as to the accuracy of the status listed.)
Pending
Application number
JP2021207963A
Other languages
English (en)
Inventor
繁樹 大久保
Shigeki Okubo
Current Assignee (The listed assignees may be inaccurate. Google has not performed a legal analysis and makes no representation or warranty as to the accuracy of the list.)
Hoya Lens Thailand Ltd
Original Assignee
Hoya Lens Thailand Ltd
Priority date (The priority date is an assumption and is not a legal conclusion. Google has not performed a legal analysis and makes no representation as to the accuracy of the date listed.)
Filing date
Publication date
Application filed by Hoya Lens Thailand Ltd filed Critical Hoya Lens Thailand Ltd
Priority to JP2021207963A priority Critical patent/JP2023092764A/ja
Priority to PCT/JP2022/035740 priority patent/WO2023119773A1/ja
Priority to KR1020247005325A priority patent/KR20240036057A/ko
Priority to CN202280079844.2A priority patent/CN118355314A/zh
Publication of JP2023092764A publication Critical patent/JP2023092764A/ja
Pending legal-status Critical Current

Links

Images

Classifications

    • BPERFORMING OPERATIONS; TRANSPORTING
    • B23MACHINE TOOLS; METAL-WORKING NOT OTHERWISE PROVIDED FOR
    • B23KSOLDERING OR UNSOLDERING; WELDING; CLADDING OR PLATING BY SOLDERING OR WELDING; CUTTING BY APPLYING HEAT LOCALLY, e.g. FLAME CUTTING; WORKING BY LASER BEAM
    • B23K26/00Working by laser beam, e.g. welding, cutting or boring
    • B23K26/02Positioning or observing the workpiece, e.g. with respect to the point of impact; Aligning, aiming or focusing the laser beam
    • B23K26/06Shaping the laser beam, e.g. by masks or multi-focusing
    • B23K26/062Shaping the laser beam, e.g. by masks or multi-focusing by direct control of the laser beam
    • B23K26/0622Shaping the laser beam, e.g. by masks or multi-focusing by direct control of the laser beam by shaping pulses
    • B23K26/0624Shaping the laser beam, e.g. by masks or multi-focusing by direct control of the laser beam by shaping pulses using ultrashort pulses, i.e. pulses of 1ns or less
    • BPERFORMING OPERATIONS; TRANSPORTING
    • B23MACHINE TOOLS; METAL-WORKING NOT OTHERWISE PROVIDED FOR
    • B23KSOLDERING OR UNSOLDERING; WELDING; CLADDING OR PLATING BY SOLDERING OR WELDING; CUTTING BY APPLYING HEAT LOCALLY, e.g. FLAME CUTTING; WORKING BY LASER BEAM
    • B23K26/00Working by laser beam, e.g. welding, cutting or boring
    • BPERFORMING OPERATIONS; TRANSPORTING
    • B23MACHINE TOOLS; METAL-WORKING NOT OTHERWISE PROVIDED FOR
    • B23KSOLDERING OR UNSOLDERING; WELDING; CLADDING OR PLATING BY SOLDERING OR WELDING; CUTTING BY APPLYING HEAT LOCALLY, e.g. FLAME CUTTING; WORKING BY LASER BEAM
    • B23K26/00Working by laser beam, e.g. welding, cutting or boring
    • B23K26/36Removing material
    • GPHYSICS
    • G02OPTICS
    • G02BOPTICAL ELEMENTS, SYSTEMS OR APPARATUS
    • G02B1/00Optical elements characterised by the material of which they are made; Optical coatings for optical elements
    • G02B1/10Optical coatings produced by application to, or surface treatment of, optical elements
    • G02B1/11Anti-reflection coatings
    • G02B1/113Anti-reflection coatings using inorganic layer materials only
    • G02B1/115Multilayers
    • GPHYSICS
    • G02OPTICS
    • G02CSPECTACLES; SUNGLASSES OR GOGGLES INSOFAR AS THEY HAVE THE SAME FEATURES AS SPECTACLES; CONTACT LENSES
    • G02C1/00Assemblies of lenses with bridges or browbars
    • G02C1/06Bridge or browbar secured to or integral with closed rigid rims for the lenses
    • GPHYSICS
    • G02OPTICS
    • G02CSPECTACLES; SUNGLASSES OR GOGGLES INSOFAR AS THEY HAVE THE SAME FEATURES AS SPECTACLES; CONTACT LENSES
    • G02C7/00Optical parts
    • GPHYSICS
    • G02OPTICS
    • G02CSPECTACLES; SUNGLASSES OR GOGGLES INSOFAR AS THEY HAVE THE SAME FEATURES AS SPECTACLES; CONTACT LENSES
    • G02C7/00Optical parts
    • G02C7/02Lenses; Lens systems ; Methods of designing lenses

Landscapes

  • Physics & Mathematics (AREA)
  • Optics & Photonics (AREA)
  • Ophthalmology & Optometry (AREA)
  • Health & Medical Sciences (AREA)
  • Engineering & Computer Science (AREA)
  • General Physics & Mathematics (AREA)
  • Plasma & Fusion (AREA)
  • Mechanical Engineering (AREA)
  • General Health & Medical Sciences (AREA)
  • Inorganic Chemistry (AREA)
  • Chemical & Material Sciences (AREA)
  • Laser Beam Processing (AREA)
  • Eyeglasses (AREA)
  • Surface Treatment Of Optical Elements (AREA)

Abstract

【課題】光学部材の品質の低下を招くことなく当該光学部材にマーキングを行える技術を提供する。【解決手段】光学基材の光学面を被覆するように形成された、低屈折率層と高屈折率層の積層を含む多層構造の反射防止膜に対して、超短パルスレーザの照射を行い、多層構造の最表層を含む所定の層を部分的に除去することにより、所望のレーザ加工を施す光学部材の製造方法であって、超短パルスレーザは、パルス幅が10フェムト秒以上100ピコ秒未満であり、反射防止膜は、超短パルスレーザの照射に対して、多層構造に含まれる他の層よりも相対的に反応性の高い反応層を含み、照射によって、反応層が少なくとも部分的に除去されることによって、可視光により視認しうるレーザ加工が施される、光学部材の製造方法及びその関連技術を提供する。【選択図】図2

Description

本発明は、光学部材の製造方法、光学部材及び眼鏡に関する。
眼鏡レンズとして、レンズ基材の光学面上がハードコート膜や反射防止膜等の薄膜に被覆されて構成されたものがある。近年では、薄膜に対するレーザ照射によって、薄膜の一部の層を部分的に除去することで、眼鏡レンズにマーキングを行うことが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
特表2019-523447号公報
従来のレーザ照射によるマーキングでは、薄膜の一部の層のみを、精緻に除去することが容易でなく、当該薄膜を構成する他の層や、レンズ基材など、除去する層の下層部分にダメージを与えてしまうおそれもある。そのため、眼鏡レンズの製品に適用すると、品質の低下が懸念される。
本開示は、光学部材の品質の低下を招くことなく当該光学部材にマーキングを行える技術を提供することを目的とする。
本発明の第1の態様は、
光学基材の光学面を被覆するように形成された、低屈折率層と高屈折率層の積層を含む多層構造の反射防止膜に対して、超短パルスレーザの照射を行い、前記多層構造の最表層を含む所定の層を部分的に除去することにより、所望のレーザ加工を施す光学部材の製造方法であって、
前記超短パルスレーザは、パルス幅が10フェムト秒以上100ピコ秒未満であり、
前記反射防止膜は、前記超短パルスレーザの照射に対して、前記多層構造に含まれる他の層よりも相対的に反応性の高い反応層を含み、
前記照射によって、前記反応層が少なくとも部分的に除去されることによって、可視光により視認しうる前記レーザ加工が施される、
光学部材の製造方法である。
本発明の第2の態様は、
前記反応層の除去においては、前記反応層が厚み方向に少なくとも部分的に昇華、又は蒸発することによって消失し、前記消失に伴い、前記反応層より上層側に積層する他の層が除去される、
第1の態様に記載の光学部材の製造方法である。
本発明の第3の態様は、
前記照射によって、前記反応層の除去が生じた照射部には、前記多層構造に含まれる、高屈折率層が露出する、
第1又は第2の態様に記載の光学部材の製造方法である。
本発明の第4の態様は、
前記反応層は、前記多層構造を構成する他の層よりも導電性が高い導電層である、
第1から第3のいずれか1態様に記載の光学部材の製造方法である。
本発明の第5の態様は、
前記反応層は、SnとOを含む、
第1から第4のいずれか1態様に記載の光学部材の製造方法である。
本発明の第6の態様は、
前記光学部材は、眼鏡レンズである、
第1から第5のいずれか1態様に記載の光学部材の製造方法である。
本発明の第7の態様は、
前記超短パルスレーザは、パルス幅が0.1ピコ秒以上50ピコ秒未満である、
第1から第6のいずれか1態様に記載の光学部材の製造方法である。
本発明の第8の態様は、
光学面を有する光学基材と、
前記光学基材の前記光学面を被覆する反射防止膜と、を備え、
前記反射防止膜は、低屈折率層と高屈折率層の積層を含む多層構造を有し、
前記反射防止膜は、超短パルスレーザの照射に対する反応性が、前記反射防止膜に含まれる他の層よりも相対的に高い反応層を含み、
前記多層構造の最表層を含む所定の層が少なくとも部分的に除去されて形成された除去箇所には、前記反応層の下層側にある前記高屈折率層、又は、一部残留する前記反応層が露出していることにより、
前記除去箇所が可視光により視認しうる加工が施されている、光学部材である。
本発明の第9の態様は、
前記低屈折率層の除去によって露出する前記高屈折率層は、前記低屈折率層の除去箇所の厚さt1と前記低屈折率層の非除去箇所の厚さt2との比t1/t2が0.90以上1.00以下の範囲内に属する、
第8の態様に記載の光学部材である。
本発明の第10の態様は、
前記視認しうる加工は、前記光学部材の前記加工が施された被加工面側から視認しうるとともに、前記被加工面の裏面側からも視認しうる、
第8又は第9の態様に記載の光学部材である。
本発明の第11の態様は、
前記視認しうる加工は、前記光学部材に対する観察者及び照明光との相対位置又は角度によって、視認性が変わる、
第8から第10のいずれか1態様に記載の光学部材である。
本発明の第12の態様は、
前記光学部材は、眼鏡レンズである、
第8から第11のいずれか1態様に記載の光学部材である。
本発明の第13の態様は、
第1から第7のいずれか1態様に記載の光学部材の製造方法で製造された光学部材である眼鏡レンズ、又は、第8から第12のいずれか1態様に記載の光学部材である眼鏡レンズを、フレームに嵌め入れた
眼鏡である。
本発明によれば、光学部材の品質の低下を招くことなく、当該光学部材にマーキングを行うことができる。
本発明の一実施形態に係る眼鏡レンズの加工例を示す平面図である。 本発明の一実施形態に係る眼鏡レンズの製造方法の手順の一例を示すフロー図である。 本発明の一実施形態に係る眼鏡レンズにおける薄膜の積層構造の一例を示す側断面図である。 本発明の一実施形態に係る眼鏡レンズの製造方法で用いるレーザ加工装置の概略構成例を示す説明図であり、レーザ光源部と、AOM(Acousto Optics Modulator)システム部と、ビームシェイパー部と、ガルバノスキャナ部と、光学系とを備え、これらの各部を経てレーザ光をAR膜に対して照射するように構成されている様子を示す図である。 本発明の一実施形態に係る眼鏡レンズの製造方法で用いるレーザ加工装置の概略構成例を示す説明図であり、光学系等を経て行うAR膜へのレーザ光(すなわち、超短パルスレーザ)の照射を、デフォーカス設定で行い得るように構成されている様子を示す図である。 本発明の一実施形態に係る眼鏡レンズの要部構成例を示す説明図であり、本実施形態に係る眼鏡レンズの要部構成例を示す説明図である。 本発明の一実施形態に係る眼鏡レンズの要部構成例を示す説明図であり、AR膜の断面の電子顕微鏡による観察結果の一具体例を示している。 図5Bに示す眼鏡レンズ1のAR膜に対し、レーザ光の波長を1064nmとし、パルス幅を100フェムト秒以上1ピコ秒未満として、ドットパターンを形成する試験を行った結果を示す顕微鏡写真(倍率は200倍)である。 図5Bに示す眼鏡レンズ1のAR膜に対し、レーザ光の波長を532nmとし、パルス幅を100フェムト秒以上1ピコ秒未満として、ドットパターンを形成する試験を行った結果を示す顕微鏡写真(倍率は200倍)である。 図5Bに示す眼鏡レンズ1のAR膜に対し、レーザ光の波長を1064nmとし、パルス幅を10数ピコ秒として、ドットパターンを形成する試験を行った結果を示す顕微鏡写真(倍率は200倍)である。 図5Bに示す眼鏡レンズ1のAR膜に対し、レーザ光の波長を532nmとし、パルス幅を10数ピコ秒として、ドットパターンを形成する試験を行った結果を示す顕微鏡写真(倍率は200倍)である。 図5Bに示す眼鏡レンズ1のAR膜に対し、レーザ光の波長を355nmとし、パルス幅を10数ピコ秒として、ドットパターンを形成する試験を行った結果を示す顕微鏡写真(倍率は200倍)である。 図5Bに示す眼鏡レンズ1のAR膜に対し、レーザ光の波長を355nmとし、パルス幅を10数ピコ秒として、ドットパターンを重複させてべたパターンを形成する試験を行った結果を示す顕微鏡写真(倍率は50倍)である。 図5Bに示す眼鏡レンズ1のAR膜に対し、レーザ光の波長を532nmとし、パルス幅を数10ピコ秒として、ドットパターンを重複させてべたパターンを形成する試験を行った結果を示す顕微鏡写真(倍率は200倍)である。 図5Bに示す眼鏡レンズ1のAR膜に対し、レーザ光の波長を355nmとし、パルス幅を10数ナノ秒として、ドットパターンを形成する試験を行った結果を示す顕微鏡写真(倍率は50倍)である。 図5Bに示す眼鏡レンズ1のAR膜に対し、レーザ光の波長を266nmとし、パルス幅を10数ナノ秒として、ドットパターンを形成する試験を行った結果を示す顕微鏡写真(左側像の倍率は50倍、右側4画像は500倍)である。
以下、本発明の実施形態を、図面に基づいて説明する。
本実施形態では、光学部材が眼鏡レンズである場合を例に挙げて、以下の説明を行う。
眼鏡レンズは、光学面として、物体側の面と眼球側の面とを有する。「物体側の面」は、眼鏡レンズを備えた眼鏡が装用者に装用された際に物体側に位置する表面である。「眼球側の面」は、その反対、すなわち眼鏡レンズを備えた眼鏡が装用者に装用された際に眼球側に位置する表面である。物体側の面は凸面であり、眼球側の面は凹面であること、つまり眼鏡レンズはメニスカスレンズであることが一般的である。
図1は、本実施形態に係る眼鏡レンズの加工例を示す平面図である。
本実施形態においては、平面視円形状(例えば、外径φ60~80mm)の眼鏡レンズ1に対して、装用者が装用する眼鏡フレームのフレーム形状2に合わせてレンズ外形を削る玉形加工(フレームカット加工)を行うとともに、その前または後に、フレームカット後のレンズ領域内に位置するようにロゴやハウスマーク等、文字、記号、図柄などを表す加飾パターン3の光学面上へのマーキングを行うものとする。
加飾パターン3のマーキングは、例えば、デジタルデータに基づいて照射位置を精緻に制御可能なレーザ照射加工を利用して行うことが考えられるが、マーキングに起因してレンズ品質や機能の低下を招いてしまうことは好ましくない。そこで、本実施形態においては、加飾パターン3のマーキングを、以下に説明する加工手順によって行う。
(1)眼鏡レンズの製造方法
ここで、加飾パターンのマーキングを含む眼鏡レンズの加工手順、すなわち本実施形態に係る眼鏡レンズの製造方法の手順について、具体的に説明する。
図2は、本実施形態に係る眼鏡レンズの製造方法の手順の一例を示すフロー図である。
眼鏡レンズの製造にあたっては、まず、光学基材であるレンズ基材を用意し、そのレンズ基材に対して眼鏡装用者の処方情報に応じた研磨処理を行うとともに、必要に応じて染色処理を行う(ステップ101、以下ステップを「S」と略す。)。
レンズ基材としては、例えば、屈折率(nD)1.50~1.74程度の樹脂材料が用いられる。具体的には、樹脂材料として、例えば、アリルジグリコールカーボネート、ウレタン系樹脂、ポリカーボネート、チオウレタン系樹脂及びエピスルフィド樹脂が例示される。ただし、これらの樹脂材料ではなく、所望の屈折度が得られる他の樹脂材料によって構成してもよいし、また無機ガラスによって構成したものであってもよい。また、レンズ基材は、所定のレンズ形状を構成するための光学面を、物体側の面と眼球側の面とのそれぞれに有する。所定のレンズ形状は、単焦点レンズ、多焦点レンズ、累進屈折力レンズ等のいずれを構成するものであってもよいが、いずれの場合も各光学面が眼鏡装用者の処方情報を基に特定される曲面によって構成される。光学面は、例えば研磨処理によって形成されるが、研磨処理を要さないキャスト(成形)品であってもよい。
尚、レンズ基材に対する研磨処理及び染色処理については、公知技術を利用して行えばよく、ここではその詳細な説明を省略する。
その後は、レンズ基材の少なくとも一方の光学面上、好ましくは両方の光学面上に、ハードコート膜(HC膜)を成膜する(S102)。
HC膜は、例えば、ケイ素化合物を含む硬化性材料を用いて構成されたもので、3μm~4μm程度の厚さで形成された膜である。HC膜の屈折率(nD)は、上述したレンズ基材の材料の屈折率に近く、例えば1.49~1.74程度であり、レンズ基材の材料に応じて膜構成が選択される。このようなHC膜の被覆によって、眼鏡レンズの耐久性向上が図れるようになる。
HC膜の成膜は、例えば、ケイ素化合物を含む硬化性材料を溶解させた溶液を用いた浸漬法(Dipping method)によって行えばよい。
HC膜の成膜後は、続いて、そのHC膜に重ねるように、反射防止膜(AR膜)を成膜する(S103)。
AR膜は、屈折率の異なる膜を積層させた多層構造を有し、干渉作用によって光の反射を防止する膜である。具体的には、AR膜は、低屈折率層と高屈折率層とが積層された多層構造を有して構成されている。低屈折率層は、例えば、屈折率1.43~1.47程度の二酸化珪素(SiO2)からなる。
また、高屈折率層は、低屈折率層よりも高い屈折率を有する材料からなり、例えば、酸化ジルコニウム(ZrO2)、酸化錫(SnO2)、酸化ニオブ(Nb25)、酸化タンタル(Ta25)、酸化チタン(TiO2)、酸化イットリウム(Y23)、酸化アルミニウム(Al23)、これらの混合物(例えば酸化インジウムスズ(ITO))等を用いて構成される。
このうち、SnとOを含む高屈折層は、後述の超短パルスレーザに対する反応性が、他の層に比べて大きいため、反応層として機能する。具体的には、上記のSnO2や、ITOがこれにあたる。
本明細書における「反応層」は、レーザ照射を受けたときに励起エネルギーが低い層を指す。本発明の一実施例では、超短パルスレーザを照射する。そして、反応層となり得る
SnO2層は、多光子吸収(例えば2光子吸収)により、励起エネルギーが極めて低くなり、反応性に富む。これは、ITO層でも同様であり、ITO層も、本明細書における反応層となり得る。
その結果、本発明の一実施例では、該SnO2層(或いはITO層)は昇華又は蒸発し、上層側にあるSiO2層とともに、照射箇所から消失する。多層構造に含まれる他の層よりも相対的に反応性の高い反応層とは、本発明の一実施例ではSnO2層又はITO層を指す。該反応層を、多層構造に含まれる他の層よりも最も反応性の高い反応層と設定してもよい。
尚、多層構造のAR膜の最表層は、低屈折率層(例えば、SiO2層)となるように構成されている。このようなAR膜の被覆によって、本態様のレーザ加工によるパターンは、照明光の照射により生じる可視光の反射性の差異によって、視認性向上が図れるようになる。
また、多層構造の最下層(基材側)の層も低屈折率層(例えばSiO2層)であることが好ましい。
AR膜の成膜は、例えば、イオンアシスト蒸着を適用して行えばよい。
AR膜の最表層である低屈折率層上には、撥水膜を成膜するようにしてもよい。撥水膜を防汚膜と称しても構わない。尚、撥水膜の成膜は、本実施形態に係るマーキングを行う前に実施してもよいし、マーキングを行った後に実施してもよい。
撥水膜は、表面に撥水性を与える膜で、例えばメタキシレンヘキサフロライド等のフッ素系化合物溶液を塗布することによって構成することができる。
撥水膜の成膜は、AR膜の場合と同様に、例えば、イオンアシスト蒸着を適用して行えばよい。
また、AR膜上には他の機能性層が成膜されていてもかまわない。かかる機能性層は、金属成分を含んでいても、含まなくても、レーザ照射による精緻な加工の効果が得られる限りにおいて問題はない。また、かかる機能層は、均一な膜であっても、表面上に散在したものであってもかまわない。
以上のような成膜処理を経ることで、レンズ基材の光学面上には、図3に示すような積層構造の薄膜が形成される。
図3は、本実施形態に係る薄膜の積層構造の一例を示す側断面図である。
図例の積層構造は、レンズ基材11の光学面上に、HC膜12、AR膜13、撥水膜14が順に積層されて構成されている。そして、AR膜13は、低屈折率層であるSiO2層13aと高屈折率層であるSnO2層13b及びZrO2層13cとが積層された多層構造を有しており、最表層(すなわち撥水膜14の側の表層)がSiO2層13aとなるように構成されている。
ここで、SnO2層は、高屈折率層であるとともに、反応層でもある。
薄膜形成後は、続いて、図2に示すように、その薄膜が形成された眼鏡レンズに対して、フレームカット加工及び加飾パターンのマーキングを行う。例えば、フレームカット後に加飾加工を行う場合であれば(S104:カット後)、まず、加工対象となる眼鏡レンズの一方の光学面(具体的には、後述する加飾加工が施されない光学面)を専用治具に装着する治具ブロッキングを行う(S105)。そして、ブロッキングされた眼鏡レンズを玉形加工機にセットして、その眼鏡レンズに対する玉形加工(フレームカット加工)を行い、その眼鏡レンズの外形をフレーム形状にカットする(S106)。治具ブロッキング及びフレームカット加工については、公知技術を利用して行えばよいため、ここでは詳細な説明を省略する。
フレームカット加工後は、次いで、加飾加工(すなわち、加飾パターンのマーキング)を行う。加飾加工にあたっては、まず、ブロッキングされた状態のまま、加工対象となる眼鏡レンズの被加工面(具体的には、ブロッキングされていない側の光学面)について、その加工エリアのレンズ高さ(すなわち、被加工面における加工エリアの三次元形状)を計測する(S107)。計測手法は特に限定されないが、例えば非接触タイプの三次元測定機を用いて行うことが考えられる。
加工エリアとは、後述するレーザスキャン領域を含む領域である。
加工エリアのレンズ高さの計測後は、続いて、加工エリアにレーザ光を照射するレーザ加工を行うとともに、レーザ光の照射位置を予め用意されたパターンデータに基づいて移動させるラスタースキャンを行う(S108)。ラスタースキャンではなく、ベクタースキャンであってもよい。これにより、眼鏡レンズの被加工面の加工エリアには、加飾パターンのマーキングがされることになる。尚、加飾パターンのマーキングのためのレーザ加工の詳細については後述する。
加飾パターンのマーキング後は、専用治具から眼鏡レンズを取り外す治具デブロッキングを行い(S109)、取り外した眼鏡レンズについてマーキングの際の残存物や付着物(異物)等を除去するためのレンズ洗浄を行う(S110)。そして、最終的なレンズ外観検査(S111)を経て、眼鏡レンズの製造が完了する。
一方、例えば、加飾加工後にフレームカットを行う場合であれば(S104:カット前)、まず、加工対象となる眼鏡レンズの被加工面について、その加工エリアのレンズ高さ(すなわち、被加工面における加工エリアの三次元形状)を計測する(S112)。計測手法は、上述したフレームカット後に加飾加工を行う場合と同様である。
加工エリアのレンズ高さの計測後は、続いて、加工エリアにレーザ光を照射するレーザ加工を行うとともに、レーザ光の照射位置を予め用意されたパターンデータに基づいて移動させるラスタースキャンを行う(S113)。ラスタースキャンではなく、ベクタースキャンであってもよい。これにより、眼鏡レンズの被加工面の加工エリアには、加飾パターンのマーキングがされることになる。尚、加飾パターンのマーキングのためのレーザ加工の詳細については後述する。
加飾パターンのマーキング後は、そのマーキング後の眼鏡レンズに対してフレームカット加工を行う。フレームカット加工にあたっては、まず、加工対象となる眼鏡レンズの一方の光学面を専用治具に装着する治具ブロッキングを行った上で(S114)、ブロッキングされた眼鏡レンズを玉形加工機にセットして、その眼鏡レンズに対する玉形加工(フレームカット加工)を行い、その眼鏡レンズの外形をフレーム形状にカットする(S115)。フレームカット加工後は、専用治具から眼鏡レンズを取り外す治具デブロッキングを行い(S116)、取り外した眼鏡レンズについて加工の際の残存物や付着物(異物)等を除去するためのレンズ洗浄を行う(S117)。そして、最終的なレンズ外観検査(S118)を経て、眼鏡レンズの製造が完了する。
(2)レーザ加工の詳細
次に、加飾パターンをマーキングする際のレーザ加工について、更に詳しく説明する。
本実施形態においては、レンズ基材11の光学面を被覆するAR膜13に対してレーザ光を照射し、これによりAR膜13の最表層であるSiO2層13aを含む所定の層を部分的に除去することで、加飾パターンのマーキングを行うことができる。
具体的には、最表層のSiO2層を透過したレーザ光が、その下層側にあるSnO2層に到達すると、SnO2層が照射のエネルギーによって昇華、又は蒸発し、上層側にあるSiO2層とともに、照射箇所から消失する。つまり、レーザ光を照射するレーザ加工によって最表層のSiO2層13aを含む所定層を部分的に除去する。このとき、照射箇所には、その下層側の高屈折率層を露出させる除去工程を経て、加飾パターンのマーキングがされるようになっている。ここで、露出させる高屈折率層は、例えば、ZrO2層13cである。
SnO2層13bについては、薄厚(例えば、3~20nm、より好ましくは、3~10nm)に形成することが可能となる。本態様では5nmとした。
尚、上記においてSnO2は、レーザ照射に対して最も反応性の高い、反応層として機能する。この反応層は、SnとOが含まれていることが好ましく、SnO2のほか、ITOが使用できる。
また、上記においては、SnO2が昇華又は蒸発によって除去され、その下層側にある高屈折率層としてのZrO2が照射箇所に露出するが、反応層は、必ずしも完全に除去される必要はなく、照射箇所に一部が残留していてもよい。例えば、レーザ照射によって、反応層は、層の厚み方向に、少なくとも部分的に除去されてもよい。また、部分的な除去の他の一例として、レーザ照射によって、層の厚み方向のみならず、レーザ照射方向から見たとき(平面視したとき)、レーザ照射箇所において反応層が一部残存しても構わない。本段落の例で言うと、ZrO2が部分的にのみ露出していても構わない。なぜなら、ZrO2と同様、SnO2(或いはITO)も高屈折率材料であり、除去箇所を平面視した時にSnO2が一部残存していても視認性に問題は生じないためである。そのため、反応層の下層側にある高屈折率層、又は、一部残留する反応層が露出していればよい。
レーザ照射の際に生じる現象は以下のように考えられる。反応層(SnO2やITOなど)は、積層構造に含まれる他の層にくらべて導電性の高い、導電層であることが好ましい。
発明者の検討によると、SnO2からなる反応層は、上層側(最表面側)のSiO2よりも、また下層側のZrO2層よりも、後述する条件でのレーザ照射を受けた際に励起が生じるバンドギャップに対応するエネルギーが小さい。このため、上層側、下層側の隣接層に比べて、最も迅速に昇華/蒸発による消失を生じやすい。
この際、いわゆる多光子吸収(例えば2光子吸収)と呼ばれる現象が生じていると考えられ、非常に高いエネルギー効率で、加工が行い得る。そして、この際にSnO2が導電層であることが有利に作用するとみられる。
尚、SnO2が消失後、下層側のZrO2が照射のエネルギーによって、蒸発や溶解などによるダメージを受ける懸念については、かかるダメージの発生段階までの遅延を利用すべく、照射条件を制御することにより、実質的に反応層及びそれより上層側の層のみを除去することができる。そして、上記多分子吸収の現象を伴う、このような精緻な加工制御には、後述する超短パルスレーザを選択することが有利であることが見いだされた。
ここで、レーザ加工に用いるレーザ加工装置について簡単に説明する。
図4は、本実施形態に係る眼鏡レンズの製造方法で用いるレーザ加工装置の概略構成例を示す説明図である。
本実施形態において用いるレーザ加工装置は、図4Aに示すように、レーザ光源部21と、AOM(Acousto Optics Modulator)システム部22と、ビームシェイパー部23と、ガルバノスキャナ部24と、光学系25とを備え、これらの各部21~25を経てレーザ光をAR膜13に対して照射するように構成されている。
レーザ光源部21は、レーザ加工に用いるレーザ光を出射するものであり、超短パルスレーザを出射するように構成されている。
本実施形態において、超短パルスレーザのパルス幅の下限値については、特に限定されるものではなく0フェムト秒を超えるものであればよいが、0.01ピコ(10フェムト)秒以上のものが好ましく、0.1ピコ秒以上のもの(1ピコ秒以上のものを含む。)を用いると、装置の維持管理やコストの点で有利であり、商業的な利用により好適である。
例えば、パルス幅が0.01ピコ(10フェムト)秒以上100ピコ秒未満であるもの、好ましくはパルス幅が0.01ピコ秒以上50ピコ秒未満であるもの、より好ましくはパルス幅が0.01ピコ秒以上15ピコ秒未満であるものも使用可能である。
更に、例えば、パルス幅が0.1ピコ秒以上100ピコ秒未満であるもの、好ましくはパルス幅が0.1ピコ秒以上50ピコ秒未満であるもの、より好ましくはパルス幅が0.1ピコ秒以上15ピコ秒未満下であるものを用いることができる。
また、パルス幅が0.01ピコ秒以上1ピコ秒未満(又は、0.1ピコ秒未満)であるものも使用可能である。
超短パルスレーザの波長は、例えば、355nmのTHG(Third Harmonic Generation)又は532nmのSHG(Second Harmonic Generation)のほか、1064nmの基本波長を用いることができる。照射においては所望の加工デザインに応じて、照射ビーム径を選択することができる。微細なデザインを解像度高く加工するために、ビーム径を小さく絞ることが有効であるが、その際には、短波長側の方が有利であるので、上記の波長のうち、532nmが好ましく、355nmがより好ましい。又は266nmのFHG(Forth Harmonic Generation)も好適である。
超短パルスレーザのパルスエネルギーは、例えば、50kHzで0.1μJ以上30μJ以下(最大60μJ程度)である。超短パルスレーザのビーム径は、例えば、10μm以上30μm以下である。
本検討によると、レーザ照射条件について以下のことが判明した。
(1)超短パルスレーザのパルス幅が0.1ピコ秒未満の場合
266~1064nmの波長のいずれかにおいても、良好な加工が行える。波長が短い方が微細加工においてより有利。但し、装置の初期投資やランニングコストなど、生産負荷が大きい。
(2)超短パルスレーザのパルス幅が0.1ピコ秒以上、1ピコ秒未満の場合
266~1064nmの波長のいずれかにおいても、良好な加工が行える。波長が短い方が微細加工においてより有利である。
(3)超短パルスレーザのパルス幅が1ピコ秒以上、100ピコ秒未満の場合
266~1064nmの波長のいずれかにおいても、良好な加工が行える。装置のコスト、生産条件の安定性などにおいても好適。この波長範囲の中では波長が短い方が微細加工においてより有利。
(4)超短パルスレーザのパルス幅が100ピコ秒以上、1ナノ秒未満の場合
適用波長により、加工安定性に不均一が生じる。例えば適用波長として、短波長側の266nmを用いると、SnO2の反応とともに、下層側にダメージが生じやすい。また、355nmでもわずかな照射条件変動によって、加工の均一性が失われ、除去加工がSnO2より下層側に到達してしまう現象を防止できない。
(5)超短パルスレーザのパルス幅が1ナノ秒以上
SnO2及びそれより表面側の層を選択的に安定して除去する加工ができない。
上記(4)、(5)の場合には、加工されたパターンの視認性に影響が生じる。例えば、眼鏡レンズにおいて、装用者の視界に干渉するリスクが生じる。また、形成された加飾パターンを観察する際、観察者に対してパターンが明瞭に視認できる所定の照明条件以外の場合に、クリアなレンズではなく異物や汚れのあるレンズ認識されうる、不完全な視認状態が生じやすい。
上記のような不都合を防止するためには、超短パルスレーザによる除去加工が、加工径や加工深さにおいて均一であることが肝要であり、そのためには、所定の超短パルス幅を適用することで、照射によるエネルギーの持続時間、及び、下層側材料のアブレーションの遅延を制御、利用することが有用であると考えられる。
このような超短パルスレーザを出射可能であれば、レーザ光源部21の具体的な構成或いは波長とパルス幅との組み合わせについては、特に限定されるものではない。
AOMシステム部22は、ガルバノスキャナ部24の動作開始直後及び動作終了間際におけるレーザ光のビーム出力をキャンセルすることで、レーザ加工の際の加工ムラの原因となるレーザ光の過大照射を抑制するものである。
ビームシェイパー部23は、レーザ光源部21からのレーザ光について、ガウシアン型のエネルギー分布からトップハット型のエネルギー分布に変換することで、均一なエネルギー分布のレーザ光によるレーザ加工を実現可能にするものである。
特に、トップハット型の分布を適用すると、複数のビームスポットを部分的に重畳させて、所定面積の加工領域を形成しようとするときに、安定して均一な加工が行える。スポットの重畳に起因する局所的なエネルギーの過剰付加が抑制されるためである。
ガルバノスキャナ部24は、レーザ光源部21からのレーザ光の照射位置を二次元又は三次元で移動させることで、そのレーザ光による走査を実現可能にし、これにより所望パターンのマーキングをレーザ加工によって行えるようにするものである。尚、ガルバノスキャナ部24によるレーザ光の走査可能範囲(すなわち、レーザ最大加工エリア)4は、加工対象となる眼鏡レンズの外形を完全に包含し得る大きさ及び形状に設定されているものとする(図1参照)。
光学系25は、テレセントリックレンズ等の光学レンズやミラーを組み合わせて構成されたもので、レーザ光源部21からのレーザ光が眼鏡レンズの被加工箇所に到達するように、そのレーザ光を導くものである。
また、本実施形態において用いるレーザ加工装置は、図4Bに示すように、光学系25等を経て行うAR膜13へのレーザ光(すなわち、超短パルスレーザ)の照射を、デフォーカス設定で行い得るように構成されている。デフォーカス設定とは、照射するレーザ光の焦点位置Fが、当該レーザ光による被加工箇所であるAR膜13の表面から所定のデフォーカス距離の分だけ離れて設定されていることをいう。このようなデフォーカス設定でレーザ光の照射を行えば、当該レーザ光が照射されるAR膜13の表面ではビームエネルギーを分散させることができ、これにより均一な膜除去加工を行うことが実現可能となる。このことは、特に、AR膜13の表面形状の影響で被照射箇所の高さに変動が生じ得る場合に非常に有用である。ただし、必ずしもデフォーカス設定に限定されることはなく、例えば、焦点位置FがAR膜13の表面に合致するフォーカス設定、又はデフォーカス設定とは逆方向に焦点位置Fが離れるインフォーカス設定で、レーザ光の照射を行うようにしても構わない。
続いて、以上のような構成のレーザ加工装置を用いて行うレーザ加工の手順について説明する。
レーザ加工にあたっては、まず、加工対象となる眼鏡レンズをレーザ加工装置にセットする。このとき、眼鏡レンズの光学面、更に詳しくは当該光学面におけるAR膜13の表面が被加工面となるように、当該眼鏡レンズのセットを行う。被加工面となる光学面は物体側の面と眼球側の面とのいずれであってもよいが、ここでは例えば眼球側の面を被加工面とする。
眼鏡レンズのセット後は、予め用意されたパターンデータ(すなわち、得ようとする加飾パターンに基づいて作成された、所定解像度のパターンデータ)に基づいて、レーザ光源部21及びガルバノスキャナ部24を動作させる。これにより、眼鏡レンズの被加工面の加工エリアには、加飾パターンに対応するパターン形状で、超短パルスレーザが照射される。
超短パルスレーザが照射されると、その超短パルスレーザは、眼鏡レンズの被加工面における撥水膜14を透過し、その被加工面におけるAR膜13に到達する。超短パルスレーザが到達すると、AR膜13では、超短パルスレーザによる非加熱加工が行われることになる。
本態様のアブレーション加工は、超短パルスレーザの多光子吸収現象により、エネルギー効率の高い加工を行える技術である。更に詳しくは、加工箇所周辺の熱の影響を極力抑え、レーザ光の照射箇所が瞬時に溶融、蒸発、又は昇華し、飛散することで行われる除去加工である。このような非加熱加工によれば、反応性の高い材料が、照射箇所においてが瞬時に除去されるため、加工箇所周辺への熱影響が少なく、熱損傷(熱による変形等)を抑えた加工を行うことができる。
本実施形態に係るレーザ加工は、非熱加工としてのアブレーション加工とすることができる。このような加工は、先に挙げた多光子吸収現象をもたらす多光子吸収過程(例えば2光子吸収過程)を生じさせうる。このため、レーザに対して比較的透明な(透過率が高い)材料に対しても、多光子吸収によれば、効率的で良好な加工ができる。この場合、適用できるレーザ波長の範囲は広く、レーザ光の波長としては、355nm(THG)、532nm(SHG)のほか、1064nmを有利に用いることができる。
そして上記にて触れたとおり、上記多光子吸収を誘起するためには、パルス幅の短いピコ秒レーザ、フェムト秒レーザが有利である。具体的な数値としては、例えば、パルス幅が100ピコ秒未満、好ましくは50ピコ秒未満、更に好ましくは1ピコ秒未満(すなわちフェムト秒)とすることができる。
超短パルスレーザの照射による非加熱加工が行われると、AR膜13では、そのAR膜13を構成する多層構造のうちのSiO2を透過して反応層(本態様ではSnO2)に到達し、反応層が瞬時に反応して昇華/蒸発することに伴い、最表層であるSiO2層13aが、除去される。このようにして、加飾パターンに対応するパターン形状で、反射防止膜の差異表面層を含む所定の層のみが、部分的に除去される。また、これに伴って、撥水膜14の対応部分についても除去される。これにより、照射箇所では、SnO2層13bの下層側に位置するZrO2層13cが露出することになる。
以上のようなレーザ加工を行うことで、AR膜13の最表層であるSiO2層13aを含む所定の層が部分的に除去されて(除去箇所が形成されて)、高屈折率層としてのZrO2層13cが露出するので、これにより眼鏡レンズの被加工面に対して加飾パターンのマーキングがされることになる。
以上のように、所定のレーザ照射が行われた照射箇所が、被加工面の内において部分的に加工されることとなる。
(3)眼鏡レンズの構成
次に、以上の説明した手順の製造方法によって得られる眼鏡レンズの構成、すなわち本実施形態に係る眼鏡レンズの構成について、具体的に説明する。
図5Aは、本実施形態に係る眼鏡レンズの要部構成例を示す説明図である。
図5Bは、AR膜13の断面の電子顕微鏡による観察結果の一具体例を示している。図例は、図5A中におけるA部及びB部を拡大表示したものでレーザスキャン領域16及び非加工領域15の電子顕微鏡画像を示している。
図5Aに示すように、本実施形態に係る眼鏡レンズは、レンズ基材11の光学面上に、HC膜12、AR膜13、撥水膜14が順に積層されて構成されている。そして、AR膜13は、低屈折率層であるSiO2層13aと高屈折率層であるSnO2層13b及びZrO2層13cとが積層された多層構造を有しており、その多層構造の最表層であるSiO2層13aを含む所定層(具体的には、反応層であるSnO2層、及びそれより表面側の層)が部分的に除去されて、高屈折率層であるZrO2層13cが露出するように構成されている。つまり、本実施形態に係る眼鏡レンズは、レンズ基材11の光学面がHC膜12、AR膜13及び撥水膜14によって被覆されている非加工領域15と、AR膜13における最表層のSiO2層13a、その直下の層であるSnO2層13b及び撥水膜14が部分的に除去されて、高屈折率層であるZrO2層13cbが露出することになるレーザスキャン領域(パターン化領域)16と、を備えて構成されている。
非加工領域15とレーザスキャン領域16とは、一方はSiO2層13aで覆われ他方はZrO2層13c(又は反応層が一部残留する場合には、高屈折層である該反応層)が露出しているので、SiO2層13aの有無により、それぞれにおける光の反射率が相違する。そのため、眼鏡レンズに照明光が照射した状態を外観視したときに、レーザスキャン領域16が形成するパターン形状を視認し得るようになる。つまり、加飾パターンに対応するパターン形状でレーザスキャン領域16が形成されていれば、その加飾パターンを視認することができる。このように、AR膜13の所定層の除去箇所は、加飾パターンを構成するものとして利用することが可能となる。
加飾パターンを構成するレーザスキャン領域16は、AR膜13の最表層であるSiO2層13aと、その直下の層であるSnO2層13bとが除去されて形成されている。つまり、除去対象が、反応層であるSnO2を含む所定の層に止められている。そのため、AR膜13を構成する多層構造の各層について、レーザスキャン領域16の形成に起因して剥がれが生じてしまうのを抑制することができる。
AR膜13の最表層であるSiO2層13aの除去は、既述のように、超短パルスレーザの照射による非加熱加工によって実現可能である。このような非加熱加工によれば、加工箇所周辺への熱影響が少なく、熱損傷が生じてしまうのを抑えることができる。また、上記所定のパルス幅を適用することにより、反応層より下層側へのダメージを抑止しつつ、安定した加工が行える。これにより高屈折率層としてのZrO2層13cが露出することになるが、そのZrO2層13cの露出表面にダメージが生じるのを抑制することができる。
ZrO2層13cの露出表面へのダメージを抑制できれば、そのZrO2層13cでは、除去加工に伴う膜厚の減少についても抑制することができる。SiO2層13a、SnO2層13b、ZrO2層13c等の膜厚については、AR膜13の断面の電子顕微鏡画像を取得し、その取得画像を解析することによって特定することが可能である。
図5Bは、AR膜13の断面の電子顕微鏡による観察結果の一具体例を示している。図例は、図5A中におけるA部及びB部を拡大表示したものでレーザスキャン領域16及び非加工領域15の電子顕微鏡画像を示している。尚、非加工領域15では、SiO2層13a、SnO2層13b及びZrO2層13cが積層されているが、SnO2層13bが薄厚(例えば5nm程度)のため、画像中においては認識し難くなっている。一方、レーザスキャン領域16では、SnO2層13b及びそれより表面側のSiO2が除去されて、これによりZrO2層13cが露出している。
図例の電子顕微鏡画像によれば、SnO2及びそれより表面側の層の除去によって露出することになるZrO2層13cにおいて、レーザスキャン領域16の部分の厚さt1と、非加工領域15の部分の厚さt2とで、それぞれに大きな違いがないことが分かる。更に具体的には、除去箇所の厚さt1と非除去箇所の厚さt2との比t1/t2が、例えば、0.90以上1.00以下の範囲内、好ましくは0.95以上1.00以下の範囲内、より好ましくは0.99以上1.00以下の範囲内に属するようになっている。
このように、露出する高屈折率層であるZrO2層13cでは、除去加工に伴う膜厚の減少が生じていないか、又は減少が生じていてもその減少量が極めて小さくなるように抑制されている。レーザスキャン領域16が超短パルスレーザの照射による非加熱加工によって形成され、下層であるZrO2層13cにダメージが生じないからである。このことは、露出するZrO2層13cの厚さの比t1/t2が上述の範囲内に属していれば、そのZrO2層13cにダメージが及ぶことなくレーザスキャン領域16が形成されており、そのレーザスキャン領域16の形成が超短パルスレーザによる非加熱加工を利用して行われたものと推定できることを意味する。
ZrO2層13へのダメージが生じないのは、超短パルスレーザによる反応層(ここではSnO2層)の反応性が、ZrO2より高いためである。そして、この反応性の差異は、後述するように、所定のパルス幅の超短パルスレーザの適用によって、顕著に得られる。
尚、SnO2層に対して、ZrO2層の厚さが10倍以上、好ましくは15倍以上であることにより、SnO2層が消失したのち、ZrO2層がわずかに減膜した場合においても、膜剥れのリスクや加飾パターンの視認性に影響はない。
更に、SnO2の融点は、上層側のSiO2よりも低く、また、下層側のZrO2よりも大幅に低いことも、アブレーションの制御の容易さに関与していると考えられる。
以上のように構成された眼鏡レンズによれば、加飾パターンがマーキングされていても、多層構造のAR膜13を構成する各層の剥がれが生じてしまうのを抑制でき、また露出するZrO2層13cにダメージが生じてしまうこともない。そのため、眼鏡レンズの製品に適用した場合であっても、その製品の品質の低下を招くことなく、眼鏡レンズに対する加飾パターンのマーキングを行うことが実現可能である。
以下、パルス幅の違いと、光学部材の品質の低下を招くことなく当該光学部材にマーキングを行えるか否かとの間の関係を説明する。以降の図において、白色部分(例:ドットパターン)がレーザスキャン領域16であり、青色(黒色)部分が非加工領域15である。以降、マーキングを行うことをレーザ加工ともいう。
(フェムト秒のパルス幅)
図5Bに示す眼鏡レンズ1(ここでは両面平板のplanoレンズ)の非加工領域15におけるAR膜13に対し、パルス幅を100フェムト秒以上1ピコ秒未満としてレーザ加工試験を行った。その際、レーザ光の波長を、1064nm(赤外領域、第一高調波)、532nm(緑色領域、第二高調波)と各々設定したうえで各試験を行った。
図6Aは、図5Bに示す眼鏡レンズ1のAR膜13に対し、レーザ光の波長を1064nmとし、パルス幅を100フェムト秒以上1ピコ秒未満として、ドットパターンを形成する試験を行った結果を示す顕微鏡写真(倍率は200倍)である。
図6Bは、図5Bに示す眼鏡レンズ1のAR膜13に対し、レーザ光の波長を532nmとし、パルス幅を100フェムト秒以上1ピコ秒未満として、ドットパターンを形成する試験を行った結果を示す顕微鏡写真(倍率は200倍)である。レーザ光による加工径は約27μmである。
図6A及び図6Bに示すように、パルス幅を100フェムト秒以上1ピコ秒未満とした場合、安定して径と深さが均一となる除去加工が行えた。特に、図6Bに示すように、レーザ光の波長が低波長である場合、小径の加工が行いやすく、効果がより顕著であった。
(ピコ秒のパルス幅)
図5Bに示す眼鏡レンズ1のAR膜13に対し、パルス幅を10数ピコ秒としてレーザ加工試験を行った。その際、レーザ光の波長を、1064nm(赤外領域、第一高調波)、532nm(緑色領域、第二高調波)に加え、355nm(紫外(UV)領域、第三高調波)と各々設定したうえで各試験を行った。
なお、「10数ピコ秒」の「10数」とは、10を超え、20未満の範囲の値である。
図7Aは、図5Bに示す眼鏡レンズ1のAR膜13に対し、レーザ光の波長を1064nmとし、パルス幅を10数ピコ秒として、ドットパターンを形成する試験を行った結果を示す顕微鏡写真(倍率は200倍)である。
図7Bは、図5Bに示す眼鏡レンズ1のAR膜13に対し、レーザ光の波長を532nmとし、パルス幅を10数ピコ秒として、ドットパターンを形成する試験を行った結果を示す顕微鏡写真(倍率は200倍)である。
図7Cは、図5Bに示す眼鏡レンズ1のAR膜13に対し、レーザ光の波長を355nmとし、パルス幅を10数ピコ秒として、ドットパターンを形成する試験を行った結果を示す顕微鏡写真(倍率は200倍)である。
図7A、図7B及び図7Cに示すように、パルス幅を数10ピコ秒とした場合、安定した深さの除去加工を行い、当該光学部材にマーキングを行えた。尚、図7A、図7Bは、デフォーカスを+3mmとしている。通常、デフォーカスの条件としては、±1mmまでは十分に適用可能である。つまり、本実施形態ならば、フォーカス変動に対しても安定して光学部材の品質の低下を招くことなく当該光学部材にマーキングを行える。
なお、「数10」は、20以上、90未満の範囲の値である。
図8Aは、図5Bに示す眼鏡レンズ1のAR膜13に対し、レーザ光の波長を355nmとし、パルス幅を10数ピコ秒として、ドットパターンを重複させて隙間なく除去加工を行う試験を行った結果を示す顕微鏡写真(倍率は200倍)である。SnO2の反応層及びそれより表面側のSiO2層が均一に除去されて、良好な加工が行えた。
図8Bは、図5Bに示す眼鏡レンズ1のAR膜13に対し、レーザ光の波長を532nmとし、パルス幅を"数10"ピコ秒として、ドットパターンを重複させて隙間のない除去加工を行う試験を行った結果を示す顕微鏡写真(倍率は200倍)である。
図8A及び図8Bに示すように、パルス幅を10数ピコ秒又は数10ピコ秒とした場合、当該光学部材にマーキングを行えた。特に、図8Bには、局所的に、SnO2層の下層側にダメージが生じたが、図8Aに示すように、パルス幅を10数ピコ秒とした場合、均一な除去加工が行えた。
(ナノ秒のパルス幅)
図5Bに示す眼鏡レンズ1のAR膜13に対し、パルス幅を10数ナノ秒としてレーザ加工試験を行った。その際、レーザ光の波長を、355nm(紫外(UV)領域、第三高調波)、266nm(深紫外(DUV)領域、第四高調波)と各々設定したうえで各試験を行った。
図9Aは、図5Bに示す眼鏡レンズ1のAR膜13に対し、レーザ光の波長を355nmとし、パルス幅を10数ナノ秒として、ドットパターンを形成する試験を行った結果を示す顕微鏡写真(倍率は50倍)である。
図9Bは、図5Bに示す眼鏡レンズ1のAR膜13に対し、レーザ光の波長を266nmとし、パルス幅を10数ナノ秒として、ドットパターンを形成する試験を行った結果を示す顕微鏡写真(倍率は左側50倍、右側4画像500倍)である。
図9Aに示すように、パルス幅を10数ナノ秒とした場合、レーザ出力が小さい場合、加工自体が行えなかった。加工が行える程度にまでレーザ出力を上げると、下層のZrO2にダメージが生じた。
加工条件が安定せず、下層にダメージが生じることにより、本実施形態の眼鏡レンズ1に比べ、加飾パターンが、眼鏡レンズの装用者自身に視認されてしまい、視界を遮ることから、眼鏡としての機能を損なうリスクがある。また、加工部分が、本実施形態の眼鏡レンズ1に比べ、膜剥れが生じやすく、耐候性、耐薬性も劣化しかねない。
図9Bに示すように、レーザ光のフォーカスを変化させることにより加工自体は行えたものの、加工ムラが大きく、フォーカスによっては想定よりも下層にダメージが生じた。所望の深さに均一に安定して加工することが困難であった。
本実施形態によれば、以下に示す1つ又は複数の効果が得られる。
(a)本実施形態においては、レンズ基材11の光学面を被覆する薄膜の一つであるAR膜13に対して、そのAR膜13の反応層(上記態様ではSnO2)及びそれより表面側の層を部分的に除去し、これにより高屈折率層であるZrO2層13cを露出させることで、眼鏡レンズに加飾パターンのマーキングを行う。
(b)本実施形態においては、超短パルスレーザの照射による非加熱加工を行って、AR膜13の反応層(上記態様ではSnO2)及びそれより表面側の層を部分的に除去し、これにより高屈折率層であるZrO2層13cを露出させることで、眼鏡レンズに加飾パターンのマーキングを行う。このような非加熱加工によれば、レーザ光の吸収エネルギー効果よりもパルス幅の効果によって除去加工を行うため、AR膜13の最表層であるSiO2層13aを含む所定の層のみを選択的に、均一に除去することが可能となる。しかも、非加熱加工であるが故に、加工箇所周辺に熱損傷が生じてしまうのを抑えることができ、これにより反応層の下層側にあるZrO2層13cの露出表面にダメージが生じるのを抑制することができる。
(c)以上のように、本実施形態においては、超短パルスレーザを利用しつつAR膜13の最表層を含む所定の層を除去し、高屈折率層を露出させることで、眼鏡レンズに加飾パターンのマーキングを行う。従って、本実施形態によれば、AR膜13の各層に剥がれが生じてしまうことを抑制でき、また露出するZrO2層13cにダメージが生じてしまうこともないので、眼鏡レンズの製品に適用した場合であっても、その製品の品質の低下を招くことなく、眼鏡レンズに対する加飾パターンのマーキングを行うことが実現可能となる。
(d)本実施形態においては、超短パルスレーザのパルス幅は、0フェムト秒を超えるものであればよいが、0.01ピコ(10フェムト)秒以上100ピコ秒未満のものが好ましく、0.1ピコ秒以上のもの(1ピコ秒以上のものを含む。)を用いると、装置の維持管理やコストの点で有利であり、商業的な利用により好適である。
より具体的には、レーザ照射条件について、パルス幅に応じて以下の利点がある
(1)超短パルスレーザのパルス幅が0.1ピコ秒未満の場合
266~1064nmの波長のいずれかにおいても、良好な加工が行える。波長が短い方が微細加工においてより有利。但し、装置の維持管理やコストの点で、生産負荷が大きい。
(2)超短パルスレーザのパルス幅が0.1ピコ秒以上、1ピコ秒未満の場合
266~1064nmの波長のいずれかにおいても、良好な加工が行える。波長が短い方が微細加工においてより有利である。
(3)超短パルスレーザのパルス幅が1ピコ秒以上、100ピコ秒未満の場合
266~1064nmの波長のいずれかにおいても、良好な加工が行える。波長が短い方が微細加工においてより有利。装置の維持管理、コスト、生産条件の安定性などにおいて好適。
(e)本実施形態においては、超短パルスレーザの照射による非加熱加工にあたり、AR膜13に対する超短パルスレーザの照射をデフォーカス設定で行う。このようなデフォーカス設定でレーザ光の照射を行えば、当該レーザ光が照射されるAR膜13の表面ではビームエネルギーを分散させることができ、これにより均一な膜除去加工を行うことが実現可能となる。このことは、特に、AR膜13の表面形状の影響で被照射箇所の高さに変動が生じ得る場合に非常に有用である。
(f)本実施形態においては、所定条件にて超短パルスレーザの照射による非加熱加工を行うので、SnO2及びそれより表面側の層の除去によって露出することになる高屈折率層としてのZrO2層13cの露出表面のダメージを抑制することができる。具体的には、かかる除去箇所におけるZrO2層13cの厚さt1とSiO2層13a等の非除去箇所におけるZrO2層13cの厚さt2との比t1/t2が、例えば、0.90以上1.00以下の範囲内、好ましくは0.95以上1.00以下の範囲内、より好ましくは0.99以上1.00以下の範囲内に属するようになる。このように、ZrO2層13cでは、上記除去加工に伴う膜厚の減少が生じていないか、又は減少が生じていてもその減少量が極めて小さくなるように抑制されている。従って、眼鏡レンズの製品に適用した場合に、その製品の品質の低下を招くことなく、眼鏡レンズに対する加飾パターンのマーキングを行う上で、非常に好ましいものとなる。
(5)変形例等
以上に本発明の実施形態を説明したが、上述した開示内容は、本発明の例示的な実施形態を示すものである。すなわち、本発明の技術的範囲は、上述の例示的な実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である
上述の実施形態では、光学部材が眼鏡レンズである場合を例に挙げたが、本発明がこれに限定されることはない。つまり、眼鏡レンズ以外の光学部材についても、全く同様に適用することが可能である。
上述の実施形態では、超短パルスレーザを用いた非加熱加工によって加飾パターンのマーキングを行う場合を例に挙げたが、本発明がこれに限定されることはない。つまり、超短パルスレーザを用いた非加熱加工は、光学部材の光学面に何らかのパターニングを行うためのものであればよく、加飾パターンのマーキング以外にも全く同様に適用することが可能である。
上述の実施形態では、AR膜13の最表層が低屈折率層としてのSiO2層13aであり、SiO2層13aの下方側の層が高屈折率層としての反応層であるSnO2層13bであり、更に下層側に高屈折率層としてのZrO2層13cがあり、SnO2がレーザ照射によって反応し、部分的に除去されると、これに伴いSiO2も除去され、これにより高屈折率層としてのZrO2層13cが露出する場合を例に挙げたが、本発明がこれに限定されることはない。AR膜13は、SiO2層13a、SnO2層13b、ZrO2層13c以外の各層が積層されて構成されたものであってもよい。また、AR膜13の最表層は、低屈折率層であれば、SiO2層13a以外の物であってもよい。高屈折率層としては、SnO2層13b又はZrO2層13c以外の物であってもよい。例えば、反応層としてのSnO2層13bについては、該SnO2層13bに代わって導電性を有する薄厚のITO層としてもよい。
上述の実施形態では、超短パルスレーザを用いた非加熱加工によって、AR膜13に含まれる反応層であるSnO2層と、その直上であって最表層であるSiO2層13aが除去される場合を例に挙げている。これにより、既述のように、膜剥がれを抑制できるという効果を奏する。このように、超短パルスレーザを用いた非加熱加工は、最表層を含む所定の複数層を除去するように行うことが実現可能である。最表層を含む複数層を除去する場合であっても、超短パルスレーザを用いた非加熱加工によれば、除去によって露出することになる層の露出表面へのダメージを抑制できるので、除去加工に伴う膜厚の減少についても抑制することができる。つまり、最表層を含む複数層を除去する場合であっても、除去された層の直下の層について、除去箇所の厚さt1と非除去箇所の厚さt2との比t1/t2が、例えば、0.90以上1.00以下の範囲内、好ましくは0.95以上1.00以下の範囲内、より好ましくは0.99以上1.00以下の範囲内に属するようになる。このことは、本開示が以下のような発明概念を含むことを意味する。
すなわち、本開示によれば、
光学面を有する光学基材と、
前記光学基材の前記光学面を被覆する反射防止膜と、を備え、
前記反射防止膜は、多層構造を有するとともに、前記多層構造を構成する少なくとも一つの層が部分的に除去されて構成されており、
前記少なくとも一つの層の直下の層は、前記少なくとも一つの層の除去箇所の厚さt1と前記少なくとも一つの層の非除去箇所の厚さt2との比t1/t2が0.90以上1.00以下の範囲内に属するように構成されている
光学部材。
本実施形態におけるレーザ加工前の眼鏡レンズは、両面に反射防止膜が設けられてもよい。該眼鏡レンズの一具体例としては国際公開公報WO2020/067407号に記載の内容が挙げられる。該公報の記載は本明細書にて全て参照可能である。特に該公報に記載の実施例1、2の構成(いずれか一つを挙げるとするならば実施例1)の眼鏡レンズを一具体例として採用してもよい。本実施形態における加飾前の眼鏡レンズの一具体例としては以下の通りである。
一具体例の眼鏡レンズは、
レンズ基材の両面に多層膜を備える眼鏡レンズであって、
前記眼鏡レンズの各面における360~400nmの波長帯域での平均反射率の和は6.0%以下であり、
前記眼鏡レンズの各面における400~440nmの波長帯域での平均反射率の和は20.0%以上であり、
前記眼鏡レンズの各面における480~680nmの波長帯域での平均反射率の和は2.0%以下である、眼鏡レンズである
つまり、青色領域の光のうち、特に遮断すべき紫色領域(400~440nm)では各面の平均反射率の和を20.0%以上(好適には20.0%を超え、更に好適には25.0%以上)とする。つまり、前記紫色領域にて局所的に反射率を増大させる。
その代わり、紫外領域ないし紫色領域の低波長側(360~400nm)では各面の平均反射率の和を6.0%以下(好適には6.0%未満、更に好適には5.0%以下)とし、紫色領域(400~440nm)の場合とは逆に、局所的に反射率を減少させる。
更に、青色の波長領域のうちの高波長側ないし赤色領域(480~680nm)では各面の平均反射率の和を2.0%以下(好適には2.0%未満、更に好適には1.5%以下)とし、可視光線の透過を狙うべく、可視光の主な波長帯域では特に局所的に反射率を減少させる。
このような一具体例ならば、前記青色領域の光に対する遮断効果を確保しつつも可視光線の透過も確保できる。
この一具体例の眼鏡レンズに対して本実施形態に係るレーザ加工が行われると、以下の有利な効果を奏する。この一具体例の眼鏡レンズは、青色領域の光に対する遮断効果が確保されている、つまり青色領域の光の反射率が高い。そのため、眼鏡レンズ1の装用者の正面に相対する第三者から前記眼鏡レンズ1を見た時、眼鏡レンズは青色に見える。その一方、レーザ加工が行われた箇所(加飾パターン3)は、レーザ加工により露出した層の色(この一具体例においてはZrO2層の色である黄色ないし金色)に見える。その結果、眼鏡レンズ1の装用者の正面に相対する第三者にとっては、フレームに嵌め入れられた眼鏡レンズ1において、加飾パターン3が、青色の背景に浮かび上がるように見える。その場合、意匠的な効果が高い加飾パターン3が得らえる。これは、青色の背景ではない場合、すなわち青色領域の光の反射率が高いのではなく他の色の領域の光の反射率が高い場合でも同様である。背景となる色の一例としては、眼鏡レンズ1の装用者の正面に相対する第三者から前記眼鏡レンズ1を見た時、眼鏡レンズ1は緑色又はパール色が挙げられる。
上記の加飾パターン3の視認時の良好なコントラストの態様は、眼鏡レンズの物体側の面の各多層膜に対するレーザ加工であっても、眼球側の面の各多層膜に対するレーザ加工であっても、実現可能である。
尚、いずれの面の各多層膜に対するレーザ加工であっても、加飾パターンが装用者の視野に入ることによる視界の干渉は実質的に生じない。すなわち本態様の加飾パターン3が施された眼鏡レンズは、装用者のクリアな視界を阻害しない。
また、他人から装用者のレンズを観察する際には、室内の照明光や太陽光に対して所定の相対位置(又は角度)に装用者のレンズがあるとき、加飾パターン3が明瞭に視認されるが、上記相対位置にない場合には、視認されにくくなる。従って、所定の加飾パターン3が明瞭に現れたり、ほぼ消失したりという、視認性の変化による、デザイン上の付加価値をレンズに付与することができる。
一方、上記の所定の相対位置関係にないときには、他人から見たとき、通常のクリアなレンズ(又は、所定のカラーレンズ、調光レンズ、偏光レンズ)として認識される。
本態様の加飾パターン3は、フレームカットされたレンズ領域内に形成しても、眼鏡の機能に影響せずに、所望の文字や記号、又は図柄をレンズに担持させたり、所望のデザインをレンズに施すことができる。
本態様の加飾パターン3は、レンズの加工面側からでも、裏面側からでも視認しうる加工である。多層構造の反射防止膜において、一部を除去(本態様ではSnOおよびその上層側のSiOを除去)した除去箇所においては、設計された反射防止性が低減し、非除去箇所との間で、反射光量のコントラストが得られるからである。
そのため、本発明の技術的思想は、本実施形態に係る光学部材の製造方法で製造された光学部材である眼鏡レンズ、又は、本実施形態に係る光学部材である眼鏡レンズを、フレームに嵌め入れた眼鏡にも及ぶ。
1…眼鏡レンズ(光学部材)、2…フレーム形状、3…加飾パターン、4…走査可能範囲、11…レンズ基材(光学基材)、12…HC膜、13…AR膜、13a…SiO2層(低屈折率層)、13b…SnO2層(高屈折率層)、13c…ZrO2層(高屈折率層)、14…撥水膜、15…非加工領域、16…レーザスキャン領域(パターン化領域)、21…レーザ光源部、22…AOMシステム部、23…ビームシェイパー部、24…ガルバノスキャナ部、25…光学系

Claims (13)

  1. 光学基材の光学面を被覆するように形成された、低屈折率層と高屈折率層の積層を含む多層構造の反射防止膜に対して、超短パルスレーザの照射を行い、前記多層構造の最表層を含む所定の層を部分的に除去することにより、所望のレーザ加工を施す光学部材の製造方法であって、
    前記超短パルスレーザは、パルス幅が10フェムト秒以上100ピコ秒未満であり、
    前記反射防止膜は、前記超短パルスレーザの照射に対して、前記多層構造に含まれる他の層よりも相対的に反応性の高い反応層を含み、
    前記照射によって、前記反応層が少なくとも部分的に除去されることによって、可視光により視認しうる前記レーザ加工が施される、光学部材の製造方法。
  2. 前記反応層の除去においては、前記反応層が厚み方向に少なくとも部分的に昇華、又は蒸発することによって消失し、前記消失に伴い、前記反応層より上層側に積層する他の層が除去される、請求項1に記載の光学部材の製造方法。
  3. 前記照射によって、前記反応層の除去が生じた照射部には、前記多層構造に含まれる、高屈折率層が露出する、請求項1又は2に記載の光学部材の製造方法。
  4. 前記反応層は、前記多層構造を構成する他の層よりも導電性が高い導電層である、請求項1から3のいずれか1項に記載の光学部材の製造方法。
  5. 前記反応層は、SnとOを含む、請求項1から4のいずれか1項に記載の光学部材の製造方法。
  6. 前記光学部材は、眼鏡レンズである、請求項1から5のいずれか1項に記載の光学部材の製造方法。
  7. 前記超短パルスレーザは、パルス幅が0.1ピコ秒以上50ピコ秒未満である、請求項1から6のいずれか1項に記載の光学部材の製造方法。
  8. 光学面を有する光学基材と、
    前記光学基材の前記光学面を被覆する反射防止膜と、を備え、
    前記反射防止膜は、低屈折率層と高屈折率層の積層を含む多層構造を有し、
    前記反射防止膜は、超短パルスレーザの照射に対する反応性が、前記反射防止膜に含まれる他の層よりも相対的に高い反応層を含み、
    前記多層構造の最表層を含む所定の層が少なくとも部分的に除去されて形成された除去箇所には、前記反応層の下層側にある前記高屈折率層、又は、一部残留する前記反応層が露出していることにより、前記除去箇所が可視光により視認しうる加工が施されている、光学部材。
  9. 前記低屈折率層の除去によって露出する前記高屈折率層は、前記低屈折率層の除去箇所の厚さt1と前記低屈折率層の非除去箇所の厚さt2との比t1/t2が0.90以上1.00以下の範囲内に属する、請求項8に記載の光学部材。
  10. 前記視認しうる加工は、前記光学部材の前記加工が施された被加工面側から視認しうるとともに、前記被加工面の裏面側からも視認しうる、請求項8又は9に記載の光学部材。
  11. 前記視認しうる加工は、前記光学部材に対する観察者及び照明光との相対位置又は角度によって、視認性が変わる、請求項8から10のいずれか1項に記載の光学部材。
  12. 前記光学部材は、眼鏡レンズである、請求項8から11のいずれか1項に記載の光学部材。
  13. 請求項1から7のいずれか1項に記載の光学部材の製造方法で製造された光学部材である眼鏡レンズ、又は、請求項8から12のいずれか1項に記載の光学部材である眼鏡レンズを、フレームに嵌め入れた、眼鏡。
JP2021207963A 2021-12-22 2021-12-22 光学部材の製造方法、光学部材及び眼鏡 Pending JP2023092764A (ja)

Priority Applications (4)

Application Number Priority Date Filing Date Title
JP2021207963A JP2023092764A (ja) 2021-12-22 2021-12-22 光学部材の製造方法、光学部材及び眼鏡
PCT/JP2022/035740 WO2023119773A1 (ja) 2021-12-22 2022-09-26 光学部材の製造方法、光学部材及び眼鏡
KR1020247005325A KR20240036057A (ko) 2021-12-22 2022-09-26 광학 부재의 제조 방법, 광학 부재 및 안경
CN202280079844.2A CN118355314A (zh) 2021-12-22 2022-09-26 光学构件的制造方法、光学构件及眼镜

Applications Claiming Priority (1)

Application Number Priority Date Filing Date Title
JP2021207963A JP2023092764A (ja) 2021-12-22 2021-12-22 光学部材の製造方法、光学部材及び眼鏡

Publications (1)

Publication Number Publication Date
JP2023092764A true JP2023092764A (ja) 2023-07-04

Family

ID=86901895

Family Applications (1)

Application Number Title Priority Date Filing Date
JP2021207963A Pending JP2023092764A (ja) 2021-12-22 2021-12-22 光学部材の製造方法、光学部材及び眼鏡

Country Status (4)

Country Link
JP (1) JP2023092764A (ja)
KR (1) KR20240036057A (ja)
CN (1) CN118355314A (ja)
WO (1) WO2023119773A1 (ja)

Family Cites Families (13)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
JPH04116502A (ja) * 1990-09-06 1992-04-17 Konica Corp 導電性反射防止コート
JP3081395B2 (ja) * 1992-12-28 2000-08-28 ホーヤ株式会社 レーザマーキング方法
JP2001293818A (ja) * 2000-04-11 2001-10-23 Oike Ind Co Ltd 反射防止性ハードコートフイルム
WO2005001552A1 (ja) * 2003-06-27 2005-01-06 Seiko Epson Corporation 眼鏡レンズの製造方法、マーキング装置、マーキングシステム、眼鏡レンズ
FR2985255B1 (fr) * 2011-12-28 2015-08-07 Ecole Polytech Article revetu d'un revetement interferentiel ayant des proprietes stables dans le temps.
US9933632B2 (en) * 2014-03-26 2018-04-03 Indizen Optical Technologies, S.L. Eyewear lens production by multi-layer additive techniques
JP6427968B2 (ja) * 2014-06-09 2018-11-28 大日本印刷株式会社 反射防止フィルム及びディスプレイ
JP2016007612A (ja) * 2014-06-23 2016-01-18 株式会社エツミ光学 多層蒸着体のマーキング法及び多層蒸着体
JP6628974B2 (ja) * 2015-03-30 2020-01-15 リンテック株式会社 透明導電性フィルム
FR3054043B1 (fr) 2016-07-18 2018-07-27 Essilor Int Procede de marquage permanent visible d'article optique et article optique marque
EP3647859A4 (en) * 2017-06-28 2021-02-24 Hoya Lens Thailand Ltd. EYEGLASS GLASS MANUFACTURING PROCESS, EYEGLASS GLASS AND GLASS MANUFACTURING SYSTEM
JP2021012224A (ja) * 2017-10-27 2021-02-04 株式会社ニコン 光学素子、光学系、及び、光学装置
CN112840263B (zh) 2018-09-28 2024-05-07 豪雅镜片泰国有限公司 眼镜镜片

Also Published As

Publication number Publication date
WO2023119773A1 (ja) 2023-06-29
KR20240036057A (ko) 2024-03-19
CN118355314A (zh) 2024-07-16

Similar Documents

Publication Publication Date Title
US11275285B2 (en) Second surface laser ablation
US11347078B2 (en) Method for permanent visible marking of an optical article and marked optical article
US6857744B2 (en) Method of marking ophhalmic lens by using laser radiation of femtosecond pulse width
US9278492B2 (en) Method for producing optical lens
US9651801B2 (en) Optical lens
US20190258836A1 (en) Spectacle lens provided with a permanent marking
US20150050468A1 (en) Laser systems and methods for internally marking thin layers, and articles produced thereby
JP2023022149A (ja) 光学部材
JP7540904B2 (ja) 光学部材の製造方法
WO2023119773A1 (ja) 光学部材の製造方法、光学部材及び眼鏡
WO2023120117A1 (ja) 眼鏡レンズの製造方法、眼鏡レンズ、及び眼鏡
WO2024034341A1 (ja) 眼鏡レンズ及び眼鏡

Legal Events

Date Code Title Description
A621 Written request for application examination

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A621

Effective date: 20240801