JP2023085051A - タングステン粉末の製造方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】タングステン粉末の形状を制御することができる製造方法を提供すること。【解決手段】ここに開示される製造方法は、タングステン(W)、白金(Pt)および銅(Cu)を含むW-Pt-Cu合金10からタングステン粉末を製造する方法であって、WとPtとを含むPt-W合金を、Cuを含むCu源とを接触させ、接触領域においてW-Pt-Cu合金10を生成する工程と、W-Pt-Cu合金10からPt-Cu相14を除去する工程と、を包含する。【選択図】図1

Description

本発明は、タングステン粉末の製造方法に関する。
タングステン(W)は、融点および硬度が高いため、高温環境下においても形状安定性が高い。このため、タングステン粉末は、切削工具や金型などに用いられる超硬合金や、ターゲット材料の原料等として好ましく用いられている。このようなタングステン粉末の製造方法は、従来から種々の方法が提案されており、その一例として、特許文献1および2や非特許文献1が挙げられる。
例えば、特許文献2には、原材料としてメタタングステン酸アンモニウム(AMT)、パラタングステン酸アンモニウム(APT)、タングステン酸(HWO)、またはこれらをか焼して得られた三酸化タングステン(WO)のいずれか一つのタングステン含有化合物を用いて、アンモニア還元窒化時の処理温度や、水素還元処理時の処理温度を調整することにより、ミクロンオーダーからナノレベルに至るまでの平均粒径を有する微細タングステン粉末を得ることが開示されている。
特許第4817486号公報 特開第2018-165391号公報
資源と材料 第109巻 12号 p.1150-1156(1993年12月)
ところで、タングステン粉末の形状(例えば、アスペクト比)が異なることにより、タングステン粉末の靭性等の物性も異なる。しかしながら、上述した技術によっては、タングステン粉末の形状を制御することについては、検討されていなかった。
本発明は上述した事情に鑑みてなされたものであり、その主な目的は、タングステン粉末の形状を制御することができる製造方法を提供することにある。
本発明者は、タングステン粉末の製造方法について新規な技術を見出すために種々の試験と検討を行った結果、WとPtとCuとを含む新規な合金材料から、タングステン粉末を製造することを考えた。この新規な合金材料は、具体的には、PtとWを含む合金(Pt-W合金)と、銅(Cu)を含むCu源とを接触させた状態で加熱処理を行うと、驚くべきことに、Pt-W合金のPtがCuに移動することによって生成される。そして、このPt-W合金のPtがCuへ移動することは、CuがPt-W合金の結晶粒界に入り込みながら進むため、Wを主成分とするW相と、PtとCuとを含むPt-Cu相とが混在した三元二相の合金材料(以下「W-Pt-Cu合金」ともいう)が生成される。一般的には、WとCuは互いに混合して合金を形成することはないと考えられており、このような合金は過去に報告されていなかった。本発明者は、この新規な合金材料であるW-Pt-Cu合金からPt-Cu相を除去することによりタングステン粉末を製造することを見出し、かかるW-Pt-Cu合金のW相を構成する結晶粒の形状を制御することにより、製造されるタングステン粒子の形状を制御できることを見出した。
ここに開示されるタングステン粉末の製造方法は、上記知見に基づいてなされたものであり、タングステン(W)、白金(Pt)および銅(Cu)を含むW-Pt-Cu合金からタングステン粉末を製造する方法である。かかる製造方法は、WとPtとを含むPt-W合金を、Cuを含むCu源とを接触させ、接触領域において上記W-Pt-Cu合金を生成する工程と、上記W-Pt-Cu合金からPt-Cu相を除去する工程と、を包含する。かかる製造方法によれば、タングステン粉末の形状を制御することができる製造方法が提供される。
ここに開示される製造方法の好適な一態様では、上記W-Pt-Cu合金生成工程は、Wを含むW源と上記Cu源との間に、Ptを含むPt源を介在させた状態で加熱処理を行うことによって、上記W源と上記Pt源との境界に上記Pt-W合金を生成するとともに、当該Pt-W合金の上記Ptを上記Cu源に移動させることを特徴とする。また、ここに開示される製造方法の好適な一態様では、上記Pt-W合金は、金属間化合物であってもよい。また、上記Pt-W合金は、PtWであってもよい。かかる製造方法によれば、より好適にW-Pt-Cu合金を製造することができる。
上記W-Pt-Cu合金生成工程を実施する態様では、当該W-Pt-Cu合金生成工程の上記加熱処理の温度が800℃以上1200℃以下であることが好ましい。また、上記W-Pt-Cu合金生成工程の上記加熱処理の時間が0.5時間以上3時間以下であることが好ましい。加熱処理の条件を上記範囲内において適切に調整することにより、W-Pt-Cu合金のW相を構成する結晶粒の形状を制御することができる。これにより、タングステン粉末の形状を制御することができる。
ここに開示される製造方法の好適な一態様では、上記W-Pt-Cu合金生成工程は、Ptを含むPt源と、Wを含むW源とを接触させた状態で加熱処理を行うことによってPt-W合金を生成する第1工程と、上記Pt-W合金と上記Cu源とを接触させた状態で加熱処理を行うことによって、上記Pt-W合金中の上記Ptを上記Cu源に移動させてW-Pt-Cu合金を生成する第2工程とを包含する。かかる構成によれば、タングステン粉末の前駆物質となるW-Pt-Cu合金を安定的に生成することができる。
上記W-Pt-Cu合金生成工程において第1工程および第2工程を実施する態様では、第2工程における上記加熱処理の温度が800℃以上1200℃以下であることが好ましく、上記加熱処理の時間が0.5時間以上3時間以下であることが好ましい。かかる構成によれば、加熱処理の条件を上記範囲内において適切に調整することにより、W-Pt-Cu合金のW相を構成する結晶粒の形状を制御することができる。これにより、タングステン粉末の形状を制御することができる。
ここに開示される製造方法の好適な一態様では、上記Pt-W合金と、上記Cu源との間に中間金属部材を介在させる。上述した各態様では、Pt-W合金とCu源とを直接接触させているが、ここに開示される製造方法は、このような態様に限定されない。本発明者が実施した実験によると、Pt-W合金とCu源との間に、他の金属部材(中間金属部材)が介在している場合でも、Pt-W合金から銅(Cu)への白金(Pt)の移動が生じ、W-Pt-Cu合金が生成される。
ここに開示される製造方法の好適な一態様では、上記Pt-Cu相除去工程は、上記W-Pt-Cu合金と酸とを接触させることにより、Pt-Cu相を除去する。かかる構成によれば、タングステン粉末を好適に製造することができる。
一実施形態に係る合金材料を模式的に示す断面図である。 (a)はサンプル1の断面SEM像(250倍)であり、(b)~(d)はそれぞれEDX分析に基づいたW,Cu,Ptの元素マップである。 (a)はサンプル1の断面SEM像(1000倍)であり、(b)~(d)はそれぞれEDX分析に基づいたW,Cu,Ptの元素マップである。 (a)はサンプル1の断面SEM像(10000倍)であり、(b)~(d)はそれぞれEDX分析に基づいたW,Cu,Ptの元素マップである。 (a)はサンプル1の断面SEM像(50000倍)であり、(b)~(d)はそれぞれEDX分析に基づいたW,Cu,Ptの元素マップである。 サンプル1のHAADF-STEM画像および元素マッピング像の結果を示す図である。 図6中のW-Pt-Cu層全体のEDXスペクトルである。 サンプル1のHAADF-STEM画像におけるW相のEDXスペクトルである。 サンプル1のHAADF-STEM画像におけるPt-Cu相のEDXスペクトルである。 (a)はサンプル2の断面SEM像(5000倍)であり、(b)~(d)はそれぞれEDX分析に基づいたW,Cu,Ptの元素マップである。 (a)はサンプル2の断面SEM像(50000倍)であり、(b)~(d)はそれぞれEDX分析に基づいたW,Cu,Ptの元素マップである。 (a)はサンプル3の断面SEM像(5000倍)であり、(b)~(d)はそれぞれEDX分析に基づいたW,Cu,Ptの元素マップである。 (a)はサンプル3の断面SEM像(50000倍)であり、(b)~(d)はそれぞれEDX分析に基づいたW,Cu,Ptの元素マップである。 (a)はサンプル3の断面SEM像(200000倍)であり、(b)~(d)はそれぞれEDX分析に基づいたW,Cu,Ptの元素マップである。 (a)はサンプル4の断面SEM像(5000倍)であり、(b)~(d)はそれぞれEDX分析に基づいたW,Cu,Ptの元素マップである。 (a)はサンプル4のPt-Cu層における断面SEM像(50000倍)であり、(b)~(d)はそれぞれEDX分析に基づいたW,Cu,Ptの元素マップである。 (a)はサンプル4のPt-W層における断面SEM像(50000倍)であり、(b)~(d)はそれぞれEDX分析に基づいたW,Cu,Ptの元素マップである。 (a)はサンプル4のW-Pt-Cu層における断面SEM像(50000倍)であり、(b)~(d)はそれぞれEDX分析に基づいたW,Cu,Ptの元素マップである。 (a)はサンプル4のタングステン部材における断面SEM像(50000倍)であり、(b)~(d)はそれぞれEDX分析に基づいたW,Cu,Ptの元素マップである。 (a)はサンプル5の断面SEM像(5000倍)であり、(b)~(d)はそれぞれEDX分析に基づいたW,Cu,Ptの元素マップである。 (a)はサンプル5の断面SEM像(50000倍)であり、(b)~(d)はそれぞれEDX分析に基づいたW,Cu,Ptの元素マップである。 (a)はサンプル6の断面SEM像(5000倍)であり、(b)~(d)はそれぞれEDX分析に基づいたW,Cu,Ptの元素マップである。 (a)はサンプル6の断面SEM像(50000倍)であり、(b)~(d)はそれぞれEDX分析に基づいたW,Cu,Ptの元素マップである。 (a)はサンプル7の断面SEM像(250倍)であり、(b)~(d)はそれぞれEDX分析に基づいたO,Cu,Wの元素マップである。 (a)はサンプル7の断面SEM像(1000倍)であり、(b)~(d)はそれぞれEDX分析に基づいたO,Cu,Wの元素マップである。 (a)はサンプル7の断面SEM像(5000倍)であり、(b)~(d)はそれぞれEDX分析に基づいたO,Cu,Wの元素マップである。 (a)はサンプル7の断面SEM像(50000倍)であり、(b)~(d)はそれぞれEDX分析に基づいたO,Cu,Wの元素マップである。 (a)はサンプル8の断面SEM像(5000倍)であり、(c)はEDX分析に基づいたWの元素マップであり、(d)はPtの元素マップである。 サンプル9の断面SEM像(5000倍)である。 サンプル9の断面SEM像(50000倍)である。 サンプル1に対する元素分析を実施した領域を示すSEM画像である。 サンプル1のSEM/EBSD画像であり、(a)はCu部材とW部材との境界を示す画像であり、(b)および(c)は境界部分をさらに拡大した画像である。 図10(a)中の線分X1上におけるW、Pt、Cuの濃度分布を示すグラフである。なお、図中の(a)はPtの分析結果を示し、(b)はWの分析結果を示し、(c)はCuの分析結果を示す。 図15(a)中の線分X2上におけるW、Pt、Cuの濃度分布を示すグラフである。なお、図中の(a)はPtの分析結果を示し、(b)はWの分析結果を示し、(c)はCuの分析結果を示す。 (a)はサンプル4の反射電子像(5000倍)であり、(b)は(a)中の領域αの拡大図(20000倍)であり、(c)は(a)中の領域βの拡大図(20000倍)である。 (a)はサンプル4の領域αにおける断面SEM像(20000倍)であり、(b)~(d)はそれぞれEDX分析に基づいたCu,Pt,Wの元素マップである。 (a)はサンプル4の領域βにおける断面SEM像(20000倍)であり、(b)~(d)はそれぞれEDX分析に基づいたCu,Pt,Wの元素マップである。 サンプル4のHAADF-STEM画像および元素マッピング像の結果を示す図である。 図38中の線分X3上におけるPt、Cu、Wの濃度分布を示すグラフである。 サンプル4のW板と、W-Pt-Cu層のW相と、W-Pt-Cu層のPt-Cu相との界面におけるHAADF-STEM画像および元素マッピング像の結果を示す図である。 図40中の線分X4上におけるPt、Cu、Wの濃度分布を示すグラフである。 図40中の線分X4上におけるOとFeの濃度分布を示すグラフである。 (a)は図38(a)中の領域αにおける電子線回折の結果を示す画像であり、(b)は領域βにおける電子線回折の結果を示す画像であり、(c)は領域γにおける電子線回折の結果を示す画像であり、(d)は領域δにおける電子線回折の結果を示す画像である。 サンプル4のW板におけるHAADF-STEM画像および元素マッピング像の結果を示す図である。 サンプル4のPt-W層におけるHAADF-STEM画像および元素マッピング像の結果を示す図である。 サンプル4のPt-Cu層におけるHAADF-STEM画像および元素マッピング像の結果を示す図である。 図44中のPt-Cu相におけるEDXスペクトルである。 図40中のPt-Cu相におけるEDXスペクトルである。 図45中のPt-Cu相におけるEDXスペクトルである。 図46中のPt-Cu相におけるEDXスペクトルである。 (a)はサンプル10の断面SEM像(5000倍)であり、(b)~(d)はそれぞれEDX分析に基づいたW,Cu,Ptの元素マップである。 (a)はサンプル10のPt-W層の断面SEM像(50000倍)であり、(b)~(d)はそれぞれEDX分析に基づいたW,Cu,Ptの元素マップである。 (a)はサンプル10のW-Pt-Cu層の断面SEM像(50000倍)であり、(b)~(d)はそれぞれEDX分析に基づいたW,Cu,Ptの元素マップである。 (a)はサンプル10のW板の断面SEM像(50000倍)であり、(b)~(d)はそれぞれEDX分析に基づいたW,Cu,Ptの元素マップである。 (a)はサンプル10のW板とW-Pt-Cu層との界面における断面SEM像(50000倍)であり、(b)~(d)はそれぞれEDX分析に基づいたW,Cu,Ptの元素マップである。 (a)はサンプル11のCu未塗布部における断面SEM像(5000倍)であり、(b)~(d)はそれぞれEDX分析に基づいたW,Cu,Ptの元素マップである。 (a)はサンプル11のCu未塗布部における断面SEM像(50000倍)であり、(b)~(d)はそれぞれEDX分析に基づいたW,Cu,Ptの元素マップである。 (a)はサンプル11のCu塗布部における断面SEM像(5000倍)であり、(b)~(d)はそれぞれEDX分析に基づいたW,Cu,Ptの元素マップである。 (a)はサンプル11のCu塗布部に形成されたW-Pt-Cu層の断面SEM像(50000倍)であり、(b)~(d)はそれぞれEDX分析に基づいたW,Cu,Ptの元素マップである。 (a)はサンプル11のCu塗布部に形成されたW-Pt-Cu層の断面SEM像(50000倍)であり、(b)~(d)はそれぞれEDX分析に基づいたW,Cu,Ptの元素マップである。 (a)はサンプル11のCu塗布部に形成されたW-Pt-Cu層とW板との境界における断面SEM像(50000倍)であり、(b)~(d)はそれぞれEDX分析に基づいたW,Cu,Ptの元素マップである。 (a)はサンプル12の断面SEM像(5000倍)であり、(b)~(d)はそれぞれEDX分析に基づいたW,Cu,Ptの元素マップである。 (a)はサンプル12の断面SEM像(50000倍)であり、(b)~(d)はそれぞれEDX分析に基づいたW,Cu,Ptの元素マップである。 (a)はサンプル13の断面SEM像(5000倍)であり、(b)~(d)はそれぞれEDX分析に基づいたW,Cu,Ptの元素マップである。 (a)はサンプル13のPt-Cu層の断面SEM像(50000倍)であり、(b)~(d)はそれぞれEDX分析に基づいたW,Cu,Ptの元素マップである。 (a)はサンプル13のW-Pt-Cu層の断面SEM像(50000倍)であり、(b)~(d)はそれぞれEDX分析に基づいたW,Cu,Ptの元素マップである。 (a)はサンプル13のPt-W層の断面SEM像(50000倍)であり、(b)~(d)はそれぞれEDX分析に基づいたW,Cu,Ptの元素マップである。 (a)はサンプル13のW-Pt-Cu層の断面SEM像(50000倍)であり、(b)~(d)はそれぞれEDX分析に基づいたW,Cu,Ptの元素マップである。 図64(a)中の線分X5上におけるPt、Cu、Wの濃度分布を示すグラフである。 (a)はサンプル14の断面SEM像(5000倍)であり、(b)~(d)はそれぞれEDX分析に基づいたW,Cu,Ptの元素マップである。 (a)はサンプル14の断面SEM像(50000倍)であり、(b)~(d)はそれぞれEDX分析に基づいたW,Cu,Ptの元素マップである。
以下、ここに開示される技術の一実施形態について説明する。なお、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって、ここに開示される技術の実施に必要な事柄は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。ここに開示される技術は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施できる。なお、本明細書において、「A~B(A、Bは数値)」と記載した場合、「A以上B以下」を意味するものとする。
<タングステン粉末の製造方法>
ここに開示される製造方法は、タングステン(W)、白金(Pt)および銅(Cu)を含むW-Pt-Cu合金からPt-Cu相を除去することにより、タングステン粉末を製造する方法である。ここに開示される製造方法は、少なくとも(1)W-Pt-Cu合金を生成する工程と、(2)W-Pt-Cu合金からPt-Cu相を除去する工程と、を包含する。
なお、ここに開示される製造方法は、任意の段階でさらに他の工程を含んでもよい。例えば、W-Pt-Cu合金を製造するには、Pt-W合金中のPtをCuに移動させることができればよく、具体的な手順は特に限定されない。すなわち、ここに開示されるタングステン粉末の製造方法は、具体的な手順(工程)が異なる複数の製造方法を包含する。
ここに開示される製造方法は、典型的には、タングステンを主成分とするタングステン粉末を製造するものである。ここで、本明細書における「タングステン粉末」とは、粉末の質量全体においてタングステン(W)が占める割合が最も多いことを意味しており、例えば、製造工程等に由来する不可避的不純物(例えば、W以外の金属元素)を微量含むものであっても、全体としてタングステンを主成分として構成された粉末である限り、ここでいう「タングステン粉末」に包含される。「タングステンを主成分とする」とは、典型的には50質量%以上、好ましくは70質量%以上、より好ましくは80質量%以上、特に好ましくは90質量%以上、実質的には100質量%が、タングステンからなる構成であり得る。かかるタングステンの割合は、例えば、一例として、X線回折(X-ray diffraction analysis;XRD)分析に基づき算出することができる。
1.W-Pt-Cu合金
ここで、タングステン(W)、白金(Pt)および銅(Cu)を含むW-Pt-Cu合金について説明する。図1は、W-Pt-Cu合金を模式的に示す断面図である。図1に示すように、W-Pt-Cu合金10は、W相12と、Pt-Cu相14とが混在した三元二相の合金材料である。W-Pt-Cu合金10は、金属組織の全体でW相12とPt-Cu相14とが混ざり合った状態で存在している。典型的には、W-Pt-Cu合金10では、Pt-Cu相14からなるマトリックスが形成されており、当該Pt-Cu相14のマトリックス中に複数のW相12が存在している。
W相12は、タングステンを主成分とする相であり、タングステン以外の元素が意図的に含まれていないことをいう。したがって、原料や製造工程等に由来する不可避的不純物(W以外の金属元素)を副成分として含む相は、本明細書における「W相」の概念に包含される。例えば、二相合金における一方の相における金属元素の総数を100atm%としたときに、当該一方の相におけるW原子の原子数が75atm%以上であれば、「タングステンを主成分としたW相が形成されている」ということができる。
なお、W相12に含まれ得る不可避的不純物としては、銅(Cu)、白金(Pt)、モリブデン(Mo)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、金(Au)、トリウム(Th)などが挙げられる。また、W相12におけるタングステンは、金属単体の状態で存在していてもよいし、化合物(酸化物等)や、他の金属元素との合金の状態で存在していてもよい。
W-Pt-Cu合金10からタングステン粉末をより多く生産する観点から、W相におけるW原子の原子数は、77.5atm%以上が好ましく、80atm%以上がより好ましく、82.5atm%以上が特に好ましい。一方、W相におけるW原子の原子数の上限は、特に限定されず、99.5atm%以下であってもよく、97.5atm%以下であってもよく、95atm%以下であってもよく、92.5atm%以下であってもよく、90atm%以下であってもよい。なお、本明細書における「原子数」は、合金材料の断面SEM画像に対してエネルギー分散型X線分析(EDX:Energy Dispersive X-ray spectroscopy)を実施して得られた元素分析に基づいた数値である。
Pt-Cu相14は、白金(Pt)と銅(Cu)を有する相である。かかるPt-Cu相14は、PtとCuを含んでいればよく、PtやCu以外の第3の金属元素を含むことを排除する意図はない。さらに、Pt-Cu相14は、PtとCuが主成分である必要もなく、上述の第3の金属元素が主成分であってもよい。詳しくは後述するが、合金材料10を製造する際に使用する材料や製造方法によっては、PtとCu以外の第3の金属元素をPt-Cu相14の主成分にすることもできる。具体的には、Pt-Cu相における金属原子の総数を100atm%としたときのPt原子とCu原子の合計原子数は、20atm%以上であってもよく、30atm%以上であってもよく、40atm%以上であってもよい。一方、上記Pt原子とCu原子の合計原子数は、50atm%以上が好ましく、65atm%以上がより好ましく、75atm%以上がさらに好ましく、85atm%以上が特に好ましい。一方、Pt-Cu相におけるPt原子とCu原子の合計原子数の上限は、特に限定されず、99.5atm%以下であってもよく、99atm%以下であってもよく、97.5atm%以下であってもよく、95atm%以下であってもよい。なお、Pt-Cu相14に含まれ得る第3の金属元素としては、W、Mo、Fe、Pd、Ir、Au、Co、Ni、Zn、Al、Sn、Pb、Mn、Ag、Thなどが挙げられる。これらの第3の金属元素の中でも、WよりもCuとの間で合金を生成しやすい金属元素(例えば、Au、Co、Ni、Zn、Al、Sn、Pb、Mn、Ag、Thなど)は、Pt-Cu相14の主成分になり得る。
また、Pt-Cu相に存在するPtとCuの各々の原子数についても特に限定されない。例えば、Pt-Cu相に存在するPtの原子数は、0.1atm%以上であってもよく、0.5atm%以上であってもよく、1atm%以上であってもよい。一方、Pt原子の原子数の上限は、25atm%以下であってもよく、22.5atm%以下であってもよく、20atm%以下であってもよく、17.5atm%以下であってもよい。また、Pt-Cu相におけるCuの原子数は、15atm%以上であってもよく、20atm%以上であってもよく、30atm%以上であってもよく、40atm%以上であってもよい。W-Pt-Cu合金をより好適に製造する観点からは、Cu原子の原子数は、50atm%以上が好ましく、65atm%以上がより好ましく、75atm%以上がさらに好ましく、80atm%以上が特に好ましい。一方、Cu原子の原子数の上限は、85atm%以下であってもよく、82.5atm%以下であってもよく、80atm%以下であってもよい。なお、Pt-Cu相に存在するPtとCuの各々の原子数は、特に限定されない。例えば、Cu製の部材に合金材料10を接触させることによって、当該Cu製の部材にPtを拡散させて、合金材料10中のPtの原子数を減少させることができる。同様に、Cuを拡散させ得る部材(例えば、Au、Ni)を合金材料10と接触させることによって、合金材料10中のCuの原子数を減少させることができる。
W-Pt-Cu合金10は、当該合金の全体に亘って複数のW相が点在する形態に限定されない。例えば、Pt-Cu相の特定の領域において、一定以上の密度でW相が存在していてもよい。本明細書では、当該一定以上の密度のW相が存在する領域を「W相存在領域」と称する。より具体的には、本明細書における「W相存在領域」は、SEM観察において、面積が0.001μm~1μmのW相が、1μmの範囲のPt-Cu相において0.2箇所/μm以上の密度で存在している領域である。W相存在領域におけるW相の密度は、高いほうがタングステン粉末をより効率よく生産できるため好ましい。かかる観点から、W相存在領域におけるW相の密度は、0.2箇所/μm以上であってよく、0.3箇所/μm以上が適切であり、0.5箇所/μm以上が好ましく、1箇所/μm以上がより好ましく、1.5箇所/μm以上がさらに好ましく、2箇所/μm以上が特に好ましい。一方、W相存在領域におけるW相の密度の上限は特に限定されないが、例えば、100箇所/μm以下が適当であり、50箇所/μm以下が好ましく、10箇所/μm以下がより好ましく、7.5箇所/μm以下がさらに好ましく、5箇所/μm以下が特に好ましく、例えば4箇所/μm以下になり得る。
また、各々のW相の平均面積は、特に限定されず、例えば、0.001μm以上であってもよく、0.005μm以上であってもよく、0.01μm以上であってもよく、0.05μm以上であってもよい。また、W相の平均面積の上限値についても、特に限定されず、1μm以下であってもよく、0.75μm以下であってもよく、0.5μm以下であってもよく、0.25μm以下であってもよい。なお、「W相の平均面積」は、SEM観察において確認されたW相を50個以上(好適には85個)をランダムに抽出し、当該抽出した複数のW相の面積の平均値を求めることによって得ることができる。
また、W相を構成する結晶粒のD50粒子径は、所望するタングステン粉末の形状によって異なるため特に限定されない。ここに開示される技術によれば、W相を構成する結晶粒のD50粒子径は、100nm以上1000nm以下程度(例えば、200nm以上900nm以下)のタングステン粉末を製造することができる。なお、本明細書における「結晶粒のD50粒子径」は、個数基準の結晶粒の粒度分布において、微粒子側からの累積50%に相当することをいう。また、「結晶粒の粒子径」は、合金材料のSEM画像に対して、電子線後方散乱回折法(EBSD:Electron backscatter diffraction)を用いて結晶解析を行うことによって得られた「結晶粒の円相当径」である。
上述したW-Pt-Cu合金は、Pt-W合金に含まれるPtをCu源に移動させることにより形成することができる。Pt-W合金からCu源へのPtの移動は、当該Pt-W合金とCu源とを接触させることによって生じる。具体的には、Pt-W合金とCu源とを接触させると、Pt-W合金からCu源にPtが拡散(移動)する。このとき、Pt-W合金の結晶粒とCuとの粒界においてPtの拡散が生じやすいため、Pt-W合金の結晶粒とCuとが微細に入り混じりながらPtの拡散が進む。この結果、PtとCuとを含むPt-Cu相と、Pt-W合金から脱Ptが進んだ後のW相とが混在した三元二相の合金材料(W-Pt-Cu合金)が生成される。W-Pt-Cu合金のPt-Cu相は、後述する除去工程によって、容易に除去することができるため、W-Pt-Cu合金からタングステン粉末を得ることができる。
2.W-Pt-Cu合金生成工程に関する第1の実施形態
本実施形態に係る製造方法は、(1)W-Pt-Cu合金生成工程と、(2)Pt-Cu相除去工程とを備えている。以下、各々の工程について説明する。
(1)W-Pt-Cu合金生成工程
W-Pt-Cu合金生成工程は、タングステン(W)を含むW源と、銅(Cu)を含むCu源との間に白金(Pt)を含むPt源を介在させた状態で加熱処理を行うことによって、W-Pt-Cu合金を生成する。W源とCu源との間にPt源を介在させた状態で加熱すると、W源とPt源との境界にPt-W合金(典型的に金属間化合物であるPtW)が生成される。そして、加熱処理がさらに進むと、Pt-W合金とCu(Pt-Cu合金を含む)とが微細に入り混じりながらPt-W合金のPtがCuに移動する。この結果、W源とCu源との間に、W相とPt-Cu相とが混在したW-Pt-Cu合金が生成される。
本工程で使用するW源は、W元素を含む材料であればよく、詳細な成分や形態は特に限定されない。かかるW源の一例として、タングステンを含む化合物の固体又は溶液、タングステンを含む固形の金属部材などが挙げられる。かかるW源の具体的な一例として、タングステン、窒化タングステン、炭化タングステン、炭窒化タングステン、銅-タングステン合金、銀-タングステン合金などが挙げられる。また、本工程におけるW源は、上述のタングステン材料のみからなる材料に限定されず、タングステン材料と他の材料とが複合した複合材料であってもよい。ここで、タングステン材料と複合され得る材料としては、銅(Cu)、白金(Pt)、モリブデン(Mo)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、金(Au)、トリウム(Th)等の各種金属材料、トリア(ThO)、イットリア等の高融点セラミックなどが挙げられる。
本工程で使用するCu源は、Cuを含む材料であればよく、詳細な成分や形態は特に限定されない。かかるCu源の一例として、Cuを含む固形の金属部材(Cu部材)や、Cu粉末を溶剤に分散させたCuペーストなどが挙げられる。また、本工程におけるCu源は、Cuに限定されず、Cu以外の金属元素を含んでいてもよい。ここで、Cu源に混合し得る金属元素としては、金(Au)、ニッケル(Ni)、アルミニウム(Al)、スズ(Sn)、亜鉛(Zn)シリカ(Si)、鉄(Fe)、マンガン(Mn)、コバルト(Co)、ベリリウム(Be)などが挙げられる。
なお、Cu源としてCuペーストを使用する場合、当該ペースト中のCu粒子の平均粒子径は、0.01μm~10μmが好ましく、0.1μm~5μmがより好ましく、0.5μm~2μmが特に好ましく、例えば1μmである。また、Cuペーストの総体積を100vol%としたときのCu粒子の含有量(体積比)は、5vol%以上が好ましく、10vol%以上がより好ましく、15vol%以上がさらに好ましく、20vol%以上が特に好ましい。これによって、Cuの不足によるPt-W合金の形成不良を防止できる。一方、銅ペーストの粘度上昇を抑制して作業性を向上させるという観点から、Cu粒子の含有量(体積比)の上限は、55vol%以下が好ましく、50vol%以下がより好ましく、45vol%以下がさらに好ましく、40vol%以下が特に好ましい。なお、Cuペーストの総重量を100wt%としたときのCu粒子の含有量(重量比)は、60wt%以上が好ましく、65wt%以上がより好ましく、70wt%以上がさらに好ましく、75wt%以上が特に好ましい。一方、Cu粒子の含有量(重量比)の上限は、95wt%以下が好ましく、90wt%以下がより好ましく、85wt%以下が特に好ましい。なお、Cu粒子を除くCuペーストの成分(溶剤、バインダ、分散剤など)は、ここに開示される技術の効果を阻害しない限りにおいて、従来公知の成分を特に制限なく使用できる。例えば、Ptペーストに含まれ得る材料から適宜選択して用いるとよい。
本工程で使用するPt源は、Pt元素を含む材料であればよく、詳細な成分や形態は特に限定されない。かかるPt源の一例として、所定の溶剤にPt粉末を分散させたPtペーストが挙げられる。このようなPtペーストをW源の表面に塗布した後に加熱処理を行うことによってPt-W合金を容易に生成できる。かかるPtペーストは、Pt粒子を含んでいる点を除いて特に限定されず、ここに開示される技術の効果を阻害しない限り、従来公知のPtペーストを使用できる。一例として、ペースト中のPt粒子の平均粒子径は、0.01μm~10μmが好ましく、0.05μm~5μmがより好ましく、0.1μm~1.0μmが特に好ましく、例えば0.5μmである。なお、本明細書における「平均粒子径」とは、SEM観察に基づいて測定した複数(例えば100個)の粒子の粒子径の平均値である。また、Ptペーストの総体積を100vol%としたときのPt粒子の含有量(体積比)は、1vol%以上が好ましく、2.5vol%以上がより好ましく、5vol%以上がさらに好ましく、7.5vol%以上が特に好ましい。これによって、Ptの不足によるPt-W合金の形成不良を防止できる。一方、Ptペーストの粘度が上昇を抑制して作業性を向上させるという観点から、Pt粒子の含有量(体積比)の上限は、21vol%以下が好ましく、17.5vol%以下がより好ましく、15vol%以下がさらに好ましく、12.5vol%以下が特に好ましい。なお、Ptペーストの総重量を100wt%としたときのPt粒子の含有量(重量比)は、50wt%以上が好ましく、55wt%以上がより好ましく、60wt%以上がさらに好ましく、65wt%以上が特に好ましい。一方、Pt粒子の含有量(重量比)の上限は、90wt%以下が好ましく、85wt%以下がより好ましく、80wt%以下がさらに好ましく、75wt%以下が特に好ましい。なお、Pt粒子を除くPtペーストの成分(溶剤、バインダ、分散剤など)は、ここに開示される技術の効果を阻害しない限りにおいて、従来公知の成分を特に制限なく使用でき、ここに開示される技術を特徴付けるものではないため詳細な説明を省略する。
本工程におけるPtペーストの塗布厚みは、10μm以上が好ましく、20μm以上がより好ましく、30μm以上がさらに好ましく、40μm以上が特に好ましい。一方、Ptペーストの塗布厚みの上限は、100μm以下が好ましく、80μm以下がより好ましく、70μm以下がさらに好ましく、60μm以下が特に好ましい。なお、Ptペーストの塗布厚みは、ペースト塗布時に使用するメタルマスクの厚みを調節することによって所望の厚みに容易に制御することができる。
本工程における加熱処理の加熱温度は、750℃以上が好ましく、800℃以上がより好ましく、850℃以上がさらに好ましく、900℃以上が特に好ましい。これによって、Ptの拡散をより好適に促進してW-Pt-Cu合金を効率よく形成できる。一方、最高加熱温度の上限は、1500℃以下が好ましく、1400℃以下がより好ましく、1300℃以下がさらに好ましく、1200℃以下が特に好ましい。
上記加熱温度の範囲内において加熱温度を低くする場合(例え750℃以上900℃以下程度)には、W-Pt-Cu合金中のW相を構成する結晶粒が小さくなる傾向にあることが実験によって確認されている。したがって、所望するタングステン粉末の形状に合わせて、上記加熱温度の範囲内において加熱温度を適宜設定することが好ましい。これにより、製造されるタングステン粉末の形状を調整することができる。
また、本工程における加熱時間は、0.5時間以上が好ましく、1時間以上がより好ましく、1.5時間以上がさらに好ましい。これによって、W相とPt-Cu相とが十分に混在したW-Pt-Cu合金を形成できる。一方、製造効率の観点から、本工程における加熱時間の上限は、3時間以下が好ましく、2.5時間以下がより好ましい。なお、本明細書における「加熱温度」は加熱処理における最高温度を指し、「加熱時間」は当該最高温度を維持する時間を指す。また、加熱処理中の雰囲気は、非酸化雰囲気(中性雰囲気、還元雰囲気)に設定することが好ましい。還元ガスの一例として、水素(H)ガス、炭化水素(CH、Cなど)ガスなどが挙げられる。また、中性ガスの一例として、窒素(N)ガスなどが挙げられる。また、これらの還元ガスと中性ガスとを混合したものを使用することもできる。例えば、水素(H)ガスを1%~5%(例えば3%)の濃度で窒素(N)ガスと混合した混合ガスなどを用いることができる。
上述の加熱処理において、W源とCu源とを挟み込むように0.1g/mm以上(好ましくは0.5g/mm以上、より好ましくは1g/mm以上、特に好ましくは1.5g/mm以上)の荷重を加えながら加熱処理を行うことが好ましい。これによって、Cu源とPt源とW源の各々の部材の間に隙間が生じることを防止し、W-Pt-Cu合金をより効率よく形成できる。なお、各部材を挟み込む際の荷重の上限は、特に限定されず、10g/mm以下であってもよく、8g/mm以下であってもよく、6g/mm以下であってもよく、5g/mm以下であってもよい。
なお、加熱処理中の急激な体積変化に伴う破損(クラック等)を防止するという観点から、Pt-W合金の形成のための加熱処理の前に、Ptペーストを乾燥させる乾燥処理を実施することが好ましい。かかる乾燥処理における加熱温度は、60℃以上が好ましく、80℃以上がより好ましく、100℃以上が特に好ましい。一方、上記クラックの防止という観点から、乾燥処理における加熱温度の上限は、140℃以下が好ましく、130℃以下がより好ましい。また、乾燥時間は10分以上60分以下(例えば30分程度)が好ましい。
また、バインダ等の有機成分をPtペーストに添加している場合には、Pt-W合金を生成するための加熱処理の前に、有機成分の除去を目的とした予備加熱処理(脱バインダ処理ともいう。)を実施してもよい。Wは、一般的に、400℃以上になると酸化が生じ始める。このため、この予備加熱処理によってW源を酸化させ、酸化タングステンが生じた状態で上記した加熱処理を実施した場合には、Pt-W合金が生成し難くなる。加熱段階でPt-W合金が生成し難い場合には、W-Pt-Cu合金中のW相を構成する結晶粒が小さくなる傾向にあることが実験によって確認されている。したがって、加熱処理の前に、所望するタングステン粉末の形状に合わせて、予備加熱処理を実施するとよい。かかる予備加熱処理の加熱温度は、145℃以上が好ましく、150℃以上がより好ましく、155℃以上がさらに好ましく、160℃以上が特に好ましい。これにより、Ptペーストが含有する樹脂材料を好適に除去することができる。一方、予備加熱処理における加熱温度の上限は、500℃以下が好ましく、450℃以下がより好ましく、400℃以下がさらに好ましく、350℃以下が特に好ましい。かかる範囲内の温度で予備加熱処理を実施することにより、予備加熱処理中にPt-W合金の生成を制御し、W相を構成する結晶粒の形状を調整することができる。また、予備加熱処理における加熱時間は、0.5時間以上が好ましく、1時間以上がより好ましい。これによって、有機成分を確実に除去できる。一方、製造効率の観点から、予備加熱処理における加熱時間の上限は、5時間以下が好ましく、4時間以下がより好ましく、3時間以下がさらに好ましく、2時間以下が特に好ましい。
なお、当該予備加熱処理によって、W源が酸化することを抑制したい場合には、非酸化雰囲気で予備加熱処理を行うとよい。このとき、Ptペーストに添加する有機成分(バインダ等)は、非酸化雰囲気で十分に加熱分解できる樹脂材料(例えば、アクリル樹脂等)から選択することが好ましい。
(2)Pt-Cu相除去工程
Pt-Cu相除去工程では、タングステン粉末を得るために上記生成したW-Pt-Cu合金のPt-Cu相を除去する。Pt-Cu相を除去する方法の一例として、例えば、W-Pt-Cu合金を酸溶液中に溶解させることにより行うことができる。ここで、溶解に用いる酸としては、白金合金を溶解でき、タングステンを溶解しにくいものであればよく、例えば、濃硫酸、濃塩酸、濃硝酸等が挙げられる。また、必要に応じて、これらの酸を混合した溶液(混酸)を用いてもよく、例えば、王水(濃塩酸と濃硝酸とを容積比で3:1の割合で混合した混酸)が好ましく用いられる。また、タングステン粒径が小さく、酸に侵されるおそれがある場合は、適宜酸濃度を薄め調整できる。
本工程においては、酸溶液の温度を高温にすることにより、Pt-Cu相の溶解処理をより迅速に行ことができる。かかる観点から、酸溶液の温度は、例えば60℃以上400℃以下であってもよく、80℃以上300℃以下であってもよく、100℃以上250℃以下であってもよい。このときオートクレーブ等の高温高圧環境を形成し得る装置を用いて処理を実施してもよい。
また、W-Pt-Cu合金を浸漬させる時間(溶解時間)は、Pt-Cu相が除去できる限り特に限定されない。酸溶液として用いる酸の種類にもよるが、例えば、30分~24時間程度が適切であり、1時間~12時間であってもよく、2時間~8時間であってもよい。
上記溶解処理の前処理として、W-Pt-Cu合金に対してミル等による粉砕処理を行ってもよい。粉砕処理によってW-Pt-Cu合金を小さくでき、これにより、上記した溶解処理においてW-Pt-Cu合金と酸との接触面積を増大でき溶解速度を増大できる。粉砕方法としては、特に限定されず、例えばボールミルやジェットミル等を使用することができる。
また、Pt-Cu相を除去する方法の他の一例として、アルカリ溶融法が挙げられる。かかるアルカリ溶融法を用いる場合には、W-Pt-Cu合金をアルカリ融剤とともに高温で加熱して溶融することにより、Pt-Cu相を除去する。アルカリ融剤としては、例えば、水酸化ナトリウム、硝酸ナトリウム、過酸化ナトリウム、および炭酸ナトリウム等が好ましく採用され得る。アルカリ融剤の量は、W-Pt-Cu合金の重量に対して1~3倍程度であることが好ましい。また、溶融時の温度としては、350℃~700℃程度であることが好ましい。
ここに開示される製造方法は、Pt-Cu相除去工程よりも下流工程において、生成したタングステン粉末を回収する工程を包含していてもよい。Pt-Cu相除去工程後のタングステン粉末の回収方法については、特に限定されない。例えば、ろ過等の公知の液媒体の分離手法を利用して回収することができる。ろ過は、真空ろ過(到達圧力0.0~6.6kPa)により行うことが好ましい。
3.W-Pt-Cu合金生成工程に関する第2の実施形態
次に、ここに開示される製造方法のW-Pt-Cu合金生成工程に関する第2の実施形態について説明する。
上述したW-Pt-Cu合金生成工程に関する第1の実施形態では、W源とCu源との間にPt源を介在させた状態で、まとめて加熱処理を行うことによりW-Pt-Cu合金を生成した。しかしながら、ここに開示される製造方法は、上述の実施形態に限定されない。W-Pt-Cu合金生成工程は、例えば、Pt-W合金を生成する第1工程と、Pt-W合金とCu源とを接触させてW-Pt-Cu合金を生成する第2工程とを含む、2回以上の加熱処理を実施することによってW-Pt-Cu合金を生成してもよい。
第2実施形態におけるW-Pt-Cu合金生成工程は、大まかにいって、(1)Pt-W合金を生成する第1工程と、(2)Pt-W合金中のPtをCu源に移動させる第2工程と、を包含する。(1)第1工程は、白金(Pt)を含むPt源と、タングステン(W)を含むW源とを接触させた状態で加熱処理を行うことによって、W-Pt-Cu合金の前駆物質であるPt-W合金を生成する。(2)第2工程は、Cuを主成分として含む材料であるCu源とPt-W合金とを接触させることによって、W-Pt-Cu合金を生成する。以下、各工程について詳細に説明する。
(1)第1工程
本工程では、白金(Pt)を含むPt源と、タングステン(W)を含むW源とを接触させた状態で加熱処理を行うことによって、タングステン粉末の前駆物質であるPt-W合金を容易に生成することができる。なお、本工程において生成されるPt-W合金は、PtとWを含んでいれば特に限定されない。かかるPt-W合金の一例として、PtとWとを所定の整数比で含む金属間化合物(例えば、PtW)が挙げられる。この金属間化合物は、結晶粒が非常に微細であるため、W-Pt-Cu合金の前駆物質として使用することによって、W相とPt-Cu相とが微細に混在した合金材料を生成できる。本工程において生成されるPt-W合金の結晶粒のD50粒子径は、例えば、40nm以上2000nm以下が適当であり、60nm以上1500nm以下程度であってもよい。
本工程において、焼成後のW源(例えば、W板)の表面にW-Pt合金が生成される程度にPtペーストを薄く塗布した場合には、W-Pt-Cu合金中のW相を構成する結晶粒が小さくなる傾向にあることが実験によって確認されている。かかる理由については特に限定されないが、以下のように推測される。W板の表面にW-Pt合金が露出しているため、後述する第2工程において、Cu源とPt-W合金とを接触させた状態で加熱処理を行うことにより、Pt-W合金からCuへの脱Ptがより進みやすくなり、Wが主成分であるW相が形成され、当該W相の周囲にPt-Cu相がより形成されやすい。これにより、W相を構成する結晶粒が小さくなる傾向にある。したがって、タングステン粉末の形状を小さくしたい場合には、Ptペーストの塗布厚みをW板の表面にW-Pt合金が露出する程度に薄くするとよい。
本工程における加熱温度は、750℃以上が好ましく、800℃以上がより好ましく、850℃以上がさらに好ましく、900℃以上が特に好ましい。これによって、Pt-W合金の生成効率を向上させることができる。一方、本工程における加熱温度の上限は、1250℃以下が好ましく、1200℃以下がより好ましく、1150℃以下がさらに好ましく、1100℃以下が特に好ましい。
また、本工程における加熱時間は、0.5時間以上が好ましく、1時間以上がより好ましい。これによって、適切にPt-W合金を形成できる。一方、製造効率の観点から、本工程における加熱時間の上限は、5時間以下が好ましく、4時間以下がより好ましく、3時間以下が特に好ましい。
また、バインダ等の有機成分をPtペーストに添加している場合には、上記第1の実施形態と同様にPt-W合金を生成するための加熱処理の前に、有機成分の除去を目的とした予備加熱処理(脱バインダ処理ともいう。)を実施してもよい。かかる予備加熱処理の加熱温度は、145℃以上が好ましく、150℃以上がより好ましく、155℃以上がさらに好ましく、160℃以上が特に好ましい。これにより、Ptペーストが含有する樹脂材料を好適に除去することができる。一方、予備加熱処理における加熱温度の上限は、500℃以下が好ましく、450℃以下がより好ましく、400℃以下がさらに好ましく、350℃以下が特に好ましい。かかる範囲内の温度で予備加熱処理を実施することにより、上記したように予備加熱処理中にPt-W合金の生成を制御し、W相を構成する結晶粒の形状を調整することができる。また、予備加熱処理における加熱時間は、0.5時間以上が好ましく、1時間以上がより好ましい。これによって、有機成分を確実に除去できる。一方、製造効率の観点から、予備加熱処理における加熱時間の上限は、5時間以下が好ましく、4時間以下がより好ましく、3時間以下がさらに好ましく、2時間以下が特に好ましい。
なお、当該予備加熱処理によって、W源が酸化することを抑制したい場合には、非酸化雰囲気で予備加熱処理を行うとよい。
(2)第2工程
第2工程では、Cuを主成分として含む材料であるCu源とPt-W合金とを接触させた状態で加熱処理を行うことによって、Pt-W合金に含まれるPtをCu源に移動させて、W-Pt-Cu合金を生成する。Cu源とPt-W合金とを接触させた状態で加熱処理を行うことによって、Pt-W合金中からCuへのPtの移動(典型的には拡散)が急速に進行する。このとき、Pt-W合金の結晶粒とCuとが微細に入り混じりながらPtの拡散が進む。一方、Pt-W合金中のWは、Cuとほとんど固溶しない。このため、Pt-W合金からCuへの脱Ptが進み、Wが主成分であるW相が形成される。一方、CuにPtが供給されることによって、W相の周囲に充填されるようにPt-Cu相が形成される。これにより、本来であれば合金を形成しないWとCuとが混在した三元二相の合金材料(W-Pt-Cu合金)が生成する。
なお、Cu源とPt-W合金とを接触させれば、Pt-W合金からCuへのPtの移動(拡散)が生じるため、加熱処理等を行わなくても、W-Pt-Cu合金を生成することができる。しかし、本実施形態のように加熱処理を伴うPtをCu源に移動させる工程を実施すると、CuへのPtの拡散が急速に進行するため、W-Pt-Cu合金の製造効率を大幅に向上させることができる。かかる加熱処理における最高温度は、750℃以上が好ましく、800℃以上がより好ましく、850℃以上がさらに好ましく、900℃以上が特に好ましい。これによって、Ptの拡散をより好適に促進してW-Pt-Cu合金を効率よく形成できる。一方、最高加熱温度の上限は、1500℃以下が好ましく、1400℃以下がより好ましく、1300℃以下がさらに好ましく、1200℃以下が特に好ましい。
上記した第1の実施形態と同様に、上記加熱温度の範囲内において加熱温度を低くする(例えば750℃以上900℃以下程度)ことで、W-Pt-Cu合金中のW相を構成する結晶粒が小さくなる傾向にある。したがって、第2の実施形態においても、第2工程の加熱温度を適宜設定することにより、製造されるタングステン粉末の形状を調整することができる。
また、本工程における加熱時間は、0.5時間以上が好ましく、1時間以上がより好ましく、1.5時間以上がさらに好ましい。これによって、W相とPt-Cu相とが十分に混在したW-Pt-Cu合金を形成できる。一方、製造効率の観点から、本工程における加熱時間の上限は、3時間以下が好ましく、2.5時間以下がより好ましい。
また、本工程における加熱雰囲気は、非酸化雰囲気(例えば、中性雰囲気、不活性雰囲気、還元雰囲気)に設定することが好ましい。還元ガスの一例として、水素(H)ガス、炭化水素(CH、Cなど)ガスなどが挙げられる。また、不活性ガスの一例として、アルゴン(Ar)ガスなどが挙げられ、中性ガスの一例として、窒素(N)ガス、アンモニアなどが挙げられる。また、還元ガスと不活性ガス(若しくは中性ガス)と混合したものを使用することもできる。例えば、水素ガスを1%~5%(例えば3%)の濃度で窒素ガスと混合した混合ガスなどを用いることができる。
また、本工程においては、Pt-W合金とCu源とを挟み込むように0.1g/mm以上(好ましくは0.5g/mm以上、より好ましくは1g/mm以上、特に好ましくは1.5g/mm以上)の荷重を加えながら加熱処理を行うことが好ましい。これによって、Cu源とPt-W合金との間に隙間が生じることを防止し、W-Pt-Cu合金をより効率よく形成できる。なお、Pt-W合金とCu源に加える荷重の上限は、特に限定されず、10g/mm以下であってもよく、8g/mm以下であってもよく、6g/mm以下であってもよく、5g/mm以下であってもよい。
<他の実施形態>
以上、ここに開示される技術の一実施形態について説明した。但し、上述の実施形態は、ここに開示される技術を限定することを意図したものではなく、種々の変更を行うことができる。
例えば、上述した各実施形態では、何れもPt-W合金とCu源とを直接接触させている。しかしながら、ここに開示される製造方法は、これらの実施形態に限定されず、他の金属部材(中間金属部材)を介在させて、Pt-W合金とCu源とを接触させてもよい。本発明者は、このような場合でもPt-W合金からCuへのPtの移動が生じ、W-Pt-Cu合金が生成されることを実験で確認している。なお、かかる中間金属部材の一例として、Ptを含む金属部材が挙げられる。なお、中間金属部材は、Cu成分を拡散させる金属部材が好ましい。例えば、Pt以外に、Cuと合金化(特に固溶)し得る金属や合金が用いられ得る。中間金属部材の具体例として、Ni、Au、Sn、Znなどを含む金属部材や銅合金などが挙げられる。これらの中でもCuと全率固溶体を形成できるNi、Au、Ptは、中間金属部材として特に好適である。また、上述した各形態と同様に、中間金属部材を介在させた場合でも加熱処理を行うことが好ましい。これによって、Pt-W合金からCuへのPtの移動を促進できる。なお、加熱処理の条件は、上述した実施形態と同程度に設定することができるため重複した説明を省略する。
以下、本発明に関する試験例を説明するが、かかる試験例は本発明を限定することを意図したものではない。
<第1の試験>
本試験では、上述したW-Pt-Cu合金生成工程に関する第1の実施形態のように、W源とCu源との間にPt源を介在させた状態でまとめて加熱処理を行った。そして、生成したW-Pt-Cu合金と王水とを接触させることによって、Pt-Cu相を除去した。
1.W-Pt-Cu合金生成工程
まず、W源として板状のタングステン部材(厚さ0.3mm、長さ7.5mm、幅7.5mm)を準備した。そして、Pt源としてPtペーストを準備し、当該Ptペーストをタングステン部材の片面全面に塗布した。なお、本試験で使用したPtペーストは、21vol%のPt粉末(平均粒子径:0.5μm)と、バインダ(エチルセルロース系樹脂)と、分散剤と、溶剤とを混錬したものである。なお、Ptペーストの溶剤には、2,2,4-Trimethyl-1,3-pentanediol 1-Monoisobutyrateを使用した。そして、120℃、30分間の乾燥処理を行ってPtペーストを乾燥させた後に、大気中で予備加熱処理(昇温速度10℃/min、200℃、3時間)を行った。
次に、Cu源として、板状の銅部材(厚さ0.3mm、長さ20mm、幅20mm)を準備した。そして、タングステン部材のペースト塗布面と銅部材とを面接触させ、タングステン部材の上に50gのアルミナブロックを載置することによって、タングステン部材と銅部材との接触部分に0.89kPaの圧力を加えた。この状態で、昇温速度4℃/min、最高加熱温度を1000℃、加熱時間2時間の加熱処理を実施することによって、W-Pt-Cu合金層を有する接合体(サンプル1)を得た。なお、焼成時の雰囲気ガスには、3%の水素(H)を含むNガスを使用した。
2.サンプル1の解析
(1)SEM観察およびEDX分析
サンプル1の接合体を積層方向に沿って切断した後、イオンミリングを用いて切断面を研磨し、切断面の断面SEM画像を撮像した。また、撮像した断面SEM画像に対してEDX分析を実施し、タングステン(W)と、銅(Cu)と、白金(Pt)の各々の元素マッピング像を取得した。倍率250倍における解析結果を図2に示し、倍率1000倍における解析結果を図3に示し、倍率10000倍における解析結果を図4に示し、倍率50000倍における解析結果を図5に示す。なお、図2~図5における(a)は断面SEM画像であり、(b)はWの元素マップであり、(c)はCuの元素マップであり、(d)はPtの元素マップである。
まず、図2および図3に示すように、比較的低倍率の250倍および1000倍での観察では、Ptペーストを塗布した領域のほとんどすべての領域にCuが拡散していることが確認された。また、Cu板とPtペーストとの接合面に近い領域においては、Ptが拡散していることが確認された。これは、PtとCuとが合金(固溶体)を形成することによるものと推測される。すなわち、図2および図3の観察から、タングステン部材と銅部材との間に、Pt-Cu合金を主成分とした合金層(Pt-Cu層)が確認された。
図4および図5に示すように、より高倍率でPt-Cu層とタングステン部材との境界を観察した結果、タングステン部材とPt-Cu層との境界に、WとPtとCuとが混在する層(W-Pt-Cu層)が形成されていることが分かった。そして、このW-Pt-Cu層には、Pt-Cu相マトリクス中にW相が混在したW-Pt-Cu合金が確認された。かかるW-Pt-Cu合金中のW相を構成する結晶粒の形状は、図5に示すように楕円状であり、比較的高いアスペクト比を有している。以上の解析結果から、W源とCu源との間にPt源を介在させた状態でまとめて加熱処理を行うことにより、W-Pt-Cu合金を生成でき、かかるW-Pt-Cu合金中のW相を構成する結晶粒はアスペクト比が比較的高いことが分かった。
(2)原子数の測定
サンプル1のW-Pt-Cu合金が形成されている領域において、図5(a)のような倍率50000倍の断面SEM画像を5視野取得した。そして、EDX組成分析によって、各視野におけるWとPtとCuの原子数を測定し、その平均値を算出した。その結果、サンプル1で形成されたW-Pt-Cu合金におけるWの平均原子数は34atm%であり、Pt-Cuの平均原子数は66atm%であった。また、Pt-Cu合金におけるPtとCuとの比率は、14.6:85.4であった。上述したように、WとCuとは、相互に溶解しないことが知られている。しかしながら、サンプル1においては、Cuを85atm%程度含むCu比率の高いPt-Cu合金にWが30atm%以上も分散することが確認された。
(3)W相の面積測定
また、本試験では、サンプル1の断面SEM画像を解析してW相の面積に関する測定を行った。画像解析には、米国国立衛生研究所(NIH)製の画像解析ソフト(ImageJ 1.52a)を用いた。具体的には、図4(a)(倍率10000倍のSEM画像)を二値化し、白黒反転させることによって、W相が黒色、Pt-Cu相が白色で表示されるようにした。そして、5μm×7.5μmの視野内に存在する黒色(W相)および白色(Pt-Cu相)のそれぞれの面積を測定した。この結果、白色で表示されたPt-Cu相のマトリックス中に、面積が0.007μm~1.02μmの範囲のW相が85箇所確認された。確認された85箇所のW相のそれぞれの面積を下記の表1に示す。
Figure 2023085051000002
サンプル1におけるW-Pt-Cu合金では、面積が0.007μm~1.02μmの範囲のW相が、約2.3箇所/μmの密度で存在していることが分かった。また、サンプル1におけるW-Pt-Cu合金では、面積が0.007μm~0.1μmの範囲のW相が、約1.7箇所/μmの密度で存在していることが分かった。このようにPt-Cu相中にW相が高い密度で存在することにより、タングステン粉末の生産性が向上するため好ましい。
表1に示すように、上記視野におけるW相の平均面積は、0.113μmであった。また、W相の面積の最大値は1.02μmであり、最小値は0.007μmであった。
(4)元素マッピング
また、本試験では、集束イオンビーム走査電子顕微鏡(FIB-SEM)で薄片化した試験片のHAADF-STEM(High Angle Annular Dark-Field Scanning Transmission Electron Microscopy)画像(倍率30000倍)を取得した。そして、当該HAADF-STEM画像における元素マッピング像を取得すると共に、EDXスペクトルを取得した。HAADF-STEM画像および元素マッピング像の結果を図6に示す。また、取得したHAADF-STEM画像のW-Pt-Cu層全体のEDXスペクトルを図7に示す。そして、W-Pt-Cu中のW相のEDXスペクトルを図8に示し、Pt-Cu相のEDXスペクトルを図9に示す。
まず、図7に示すように、W-Pt-Cu層全体では、W元素、Cu元素、Pt元素、Mo元素、Fe元素、O元素が主に確認された。そして、図8に示すように、W相では、W元素、Mo元素、Fe元素、O元素が主に確認された。これらのうち、Mo元素、Fe元素は、W板に含まれる不純物に由来すると考えられる。また、Moに関してはサンプルフォルダに含まれるものを検出した可能性がある。一方、図9に示すように、Pt-Cu相では、Cu元素、Pt元素、O元素が主に確認された。なお、W相とPt-Cu相の両方で確認されたO元素は、測定環境で付着した酸素や試験片の表面酸化に由来すると考えられる。そして、図6に示す画像から、W-Pt-Cu層には、Wを主成分とするW相と、Pt-Cu合金を有するPt-Cu相とが混在したW-Pt-Cu合金が形成されていることが明確に裏付けられた。
そして、図8を解析した結果、W相におけるWの原子数は84.57atm%であり、Cuの原子数は2.56atm%であり、Ptの原子数は0.06atm%であった。すなわち、W-Pt-Cu合金中のW相は、タングステンを主成分として構成されていることがわかる。したがって、かかるW-Pt-Cu合金から、Pt-Cu相を除去することにより、タングステンを主成分とするタングステン粉末を製造することができる。
なお、W相には、不純物であるモリブデン(Mo)が12.81atm%含まれていたが、これは原料のW板製造時の不純物およびサンプルフォルダに含まれるものを検出したと考えられる。
一方、図9を解析した結果、Pt-Cu相におけるWの原子数は2.31atm%であり、Cuの原子数は78.13atm%であり、Ptの原子数は15.59atm%であった。また、Pt-Cu相には、不純物であるモリブデン(Mo)が3.97atm%含まれていた。このMoもサンプルフォルダに含まれるものを検出したと考えられる。
3.Pt-Cu相除去工程
上記生成したW-Pt-Cu合金と王水(濃塩酸と濃硝酸とを容積比で3:1の割合で混合した混酸)と、をフッ素樹脂製の容器に投入し、Pt-Cuが溶解するまでオートクレーブ中において120℃で3時間加熱した。その後常温まで冷やした当該処理液を濾過した。これにより、タングステン粉末を製造した。製造されたタングステン粉末の形状は、楕円状(すなわち、アスペクト比が高い)であった。
<第2の試験>
本試験では、上述したW-Pt-Cu合金生成工程に関する第1の実施形態のように、W源とCu源との間にPt源を介在させた状態でまとめて加熱処理を行った。そして、W-Pt-Cu合金生成工程における条件を種々変更して、W-Pt-Cu合金中のW相を構成する結晶粒の形状を制御した。
1.サンプル2の準備および解析
サンプル2では、PtペーストにおけるPt粉の含有量を10vol%に減らした点を除いて、サンプル1と同じ条件でW-Pt-Cu合金を生成した。かかるサンプル2に対して、サンプル1と同じ条件でSEM観察とEDX分析を実施した。サンプル2の倍率5000倍における解析結果を図10に示し、倍率50000倍における解析結果を図11に示す。なお、図10、図11中の(a)は断面SEM画像であり、(b)はWの元素マップであり、(c)はCuの元素マップであり、(d)はPtの元素マップである。
図10および図11に示すように、サンプル2では、サンプル1と同様に、タングステン部材と銅部材との接合面に、三元二相のW-Pt-Cu合金が形成されていた。かかるW-Pt-Cu合金中のW相を構成する結晶粒の形状は、図11に示すように楕円状であり、比較的高いアスペクト比を有している。以上の解析結果から、PtペーストにおけるPt粉の含有量を10vol%に減らした場合であっても、W-Pt-Cu合金を生成でき、かかるW-Pt-Cu合金中のW相を構成する結晶粒の形状は、サンプル1と同様、アスペクト比が比較的高いことが分かった。
2.サンプル3の準備および解析
サンプル3では、加熱処理の温度を800℃に変更した点を除いて、サンプル2と同じ条件でW-Pt-Cu合金を生成した。かかるサンプル3に対して、SEM観察とEDX分析を実施した。サンプル3の倍率5000倍における解析結果を図12に示し、倍率50000倍における解析結果を図13に示し、倍率200000倍における解析結果を図14に示す。なお、図12~図14中の(a)は断面SEM画像であり、(b)はWの元素マップであり、(c)はCuの元素マップであり、(d)はPtの元素マップである。
図12~図14に示すように、サンプル3では、サンプル1と同様に、三元二相のW-Pt-Cu合金が形成されていた。サンプル3では、W-Pt-Cu合金が存在する領域が薄く、W相とPt-Cu相とが混在する組織が細かくなるという傾向が確認された。言い換えれば、W相を構成する結晶粒の形状がサンプル1および2と比較して小さくなる傾向が確認された。したがって、W-Pt-Cu合金生成工程における加熱処理の温度を変更することにより、W相を構成する結晶粒の形状を制御することができることがわかった。
3.サンプル4の準備および解析
サンプル4では、Ptペーストの塗布後の予備加熱処理を昇温速度10℃/min、160℃,30分間に変更した点を除いて、サンプル2と同じ条件でW-Pt-Cu合金を生成した。かかるサンプル4に対して、SEM観察とEDX分析を実施した。サンプル4の倍率5000倍の解析結果を図15に示し、Pt-Cu層における倍率50000倍の解析結果を図16に示し、Pt-W層における倍率50000倍の解析結果を図17に示し、W-Pt-Cu層における倍率50000倍の解析結果を図18に示し、タングステン部材における倍率50000倍の解析結果を図19に示す。なお、図15~図19中の(a)は断面SEM画像であり、(b)はWの元素マップであり、(c)はCuの元素マップであり、(d)はPtの元素マップである。
図15~図19に示すように、サンプル4では、サンプル1と同様に、三元二相のW-Pt-Cu合金が形成されていた。かかるW-Pt-Cu合金中のW相を構成する結晶粒の形状は、図18に示すように楕円状であり、比較的高いアスペクト比を有している。以上の解析結果から、Ptペーストの塗布後の予備加熱処理の温度を160℃にした場合であっても、W-Pt-Cu合金を生成でき、かかるW-Pt-Cu合金中のW相を構成する結晶粒の形状は、サンプル1と同様、アスペクト比が比較的高いことが分かった。
4.サンプル5の準備および解析
サンプル5では、Ptペーストの塗布後の予備加熱処理の条件を昇温速度10℃/min、450℃,30分間に変更した点を除いて、サンプル2と同じ条件でW-Pt-Cu合金を生成した。かかるサンプル5に対して、サンプル2と同じ条件でSEM観察とEDX分析を実施した。サンプル5の倍率5000倍の解析結果を図20に示し、倍率50000倍の解析結果を図21に示す。なお、図20および図21中の(a)は断面SEM画像であり、(b)はWの元素マップであり、(c)はCuの元素マップであり、(d)はPtの元素マップである。
図20および図21に示すように、サンプル5では、サンプル1と同様に、三元二相のW-Pt-Cu合金が形成されていたものの、サンプル1、2、4よりもW-Pt-Cu層が薄く、W板上でのW-Pt-Cu合金の分布がまだらであることが確認された。また、図21に示すように、かかるW-Pt-Cu合金中のW相を構成する結晶粒の形状がサンプル1、2および4と比較して小さくなる傾向が確認された。したがって、W-Pt-Cu合金生成工程における予備加熱処理の温度を450℃に変更することにより、W相を構成する結晶粒の形状を制御することができることがわかった。
特に限定されるものではないが、タングステンは、一般的に400℃以上になると酸化が生じ始めるため、予備加熱処理の温度を400℃以上にしたことにより、W板の表面に酸化タングステンが生じたと推測される。そして、当該酸化タングステンによってW部材とPtとの反応が阻害され、Pt-W合金の生成が阻害されたため、W相を構成する結晶粒の形状が比較的小さくなったものと推測される。
また、サンプル5では、図21のEDX分析に基づいて、W-Pt-Cu合金におけるW元素、Pt元素、Cu元素の元素数の定量分析を行った。かかる定量分析の結果、W-Pt-Cu層におけるWの原子数は31.06%であり、Ptの原子数は2.03atm%であり、Cuの原子数は66.91atm%であった。かかる元素分析の結果、サンプル5のW-Pt-Cu合金では、Pt元素の存在比率がサンプル2~4よりも少ないことが分かった。
5.サンプル6の準備および解析
サンプル6では、板状の銅部材に代えて、CuペーストをCu源として使用した。具体的には、サンプル1と同じ寸法のタングステン部材の表面に、サンプル2と同じ組成のPtペーストを塗布した。そして、乾燥処理(120℃、30分間)と大気中で予備加熱処理(昇温速度10℃/min、160℃、30分間)を行った。その後、Ptペーストの塗布面にCuペーストを塗布した後に乾燥処理(120℃、30分間)と3%Hガス含有Nガス中で加熱処理(昇温速度4℃/min、最高加熱温度1000℃,2時間)を実施した。そして、本サンプルで使用したCuペーストは、平均粒子径0.5μmのCu粉と、ガラス粉と、エチルセルロース系樹脂と、分散材と、溶剤とを混錬したものを使用した。かかるサンプル6に対して、SEM観察とEDX分析を実施した。サンプル6の倍率5000倍の解析結果を図22に示し、倍率50000倍の解析結果を図23に示す。なお、図22および図23中の(a)は断面SEM画像であり、(b)はWの元素マップであり、(c)はCuの元素マップであり、(d)はPtの元素マップである。
図22および図23に示すように、サンプル6では、サンプル1と同様に、三元二相のW-Pt-Cu合金が形成されていた。かかるW-Pt-Cu合金中のW相を構成する結晶粒の形状は楕円状であり、比較的高いアスペクト比を有している。以上の解析結果から、Cu源の形態を変更した場合であっても、W-Pt-Cu合金を生成でき、かかるW-Pt-Cu合金中のW相を構成する結晶粒の形状は、サンプル1と同様、アスペクト比が比較的高いことが分かった。
また、サンプル6では、図23のEDX分析に基づいて、W-Pt-Cu合金におけるW元素、Pt元素、Cu元素の元素数の定量分析を行った。かかる定量分析の結果、サンプル6のW-Pt-Cu層におけるWの原子数は40.16%であり、Ptの原子数は2.27atm%であり、Cuの原子数は57.57atm%であった。
6.サンプル7の準備および解析
サンプル7では、板状のタングステン部材の表面に、Cuペーストを塗布し、乾燥、予備加熱処理および加熱処理を実施した。具体的には、サンプル6と同様のCuペーストを塗布した後にサンプル6と同様の乾燥処理(120℃、30分間)を実施した。その後、3%Hガス含有Nガス中で予備加熱処理(10℃/min、400℃、1時間)を実行った。予備加熱処理の後に続けて、加熱処理(5℃/min、最高加熱温度を1000℃、30分間)を行った。かかるサンプル7に対して、SEM観察とEDX分析を実施した。サンプル7の倍率250倍の解析結果を図24に示し、倍率1000倍の解析結果を図25に示し、倍率5000倍の解析結果を図26に示し、倍率50000倍の解析結果を図27に示す。なお、図24~図27中の(a)は断面SEM画像であり、(b)はO(酸素)の元素マップであり、(c)はCuの元素マップであり、(d)はWの元素マップである。
図24~図27に示すように、サンプル7では、サンプル1~6に示すような構造の二相合金は形成されていなかった。Ptが存在していない状態(W-Pt合金が生成されていない状態)でCuとWとを接触させて加熱処理を行っても、WとCuとが混在した合金材料は生成されないことが分かった。
7.サンプル8の準備および解析
サンプル8では、板状のタングステン部材の表面にPtペーストを塗布して乾燥、予備加熱処理および加熱処理を行った。具体的には、サンプル1と同じ寸法のタングステン部材の表面に、サンプル1と同じ組成のPtペーストを塗布した。そして、乾燥処理(120℃、30分間)でPtペーストを乾燥させた後に、空気中での予備加熱処理(160℃、30分間)を行った。その後、3%Hガス含有Nガス中で加熱処理(3℃/min、最高加熱温度を1300℃、10分間)を行った。かかるサンプル10に対して、サンプル2と同じ条件でSEM観察とEDX分析を実施した。サンプル8の倍率5000倍の解析結果を図28に示す。なお、図28の(a)は断面SEM画像であり、(c)はWの元素マップであり、(d)はPtの元素マップである。
図28に示すように、本サンプルのようにPt源とW源とを接触させた状態で加熱することによって、PtとWを含む合金(Pt-W合金)が生成されることが確認された。しかし、サンプル8では、サンプル1~6に示すような構造の二相合金は形成されていなかった。
8.サンプル9の準備および解析
サンプル9では、板状のタングステン部材の表面にPt-Cuペーストを塗布して乾燥、予備加熱処理および加熱処理を行った。具体的には、サンプル1と同じ寸法のタングステン部材の表面に、Pt粒子とCu粒子とを均一に分散させたPt-Cuペーストを塗布した。乾燥処理(120℃、30分間)を行ってペーストを乾燥させた後に、空気中で1回目の予備加熱処理(160℃、30分間)を行った。そして、3%Hガス含有Nガス中で2回目の予備加熱処理(10℃/min、400℃、1時間)を行った後に、加熱処理(5℃/min、最高加熱温度1000℃、30分間)を行った。かかるサンプル9に対して、SEM観察を実施した。サンプル9の倍率5000倍の解析結果を図29に示し、倍率50000倍の解析結果を図30に示す。
図29および図30に示すように、本サンプルのようにPt源とCu源を混合した場合、W源とPt源とCu源が存在しているにも関わらず、W-Pt-Cu合金が生成されず、未反応のW部材と、当該W部材の表面に形成されたPt-Cu合金しか確認されなかった。このような結果となった原因は次のように推測される。本サンプルでは、混在させたPt源とCu源との反応が優先的に生じ、Pt-W合金が生成されなかった。そして、Pt源とCu源とが反応して生じたPt-Cu合金は、W部材との反応性が低いため、サンプル1~6のようなW-Pt-Cu合金が形成されなかったと推測される。
<第3の試験>
本試験では、上記したサンプル1,2,および4について種々の解析を行い、W-Pt-Cu合金の生成メカニズムを調べた。
1.サンプル1についての解析
サンプル1の倍率1000倍のSEM写真(図31参照)中のポイント1~ポイント6の各ポイントにおいてEDX解析を行い、WとPtとCuの原子数の比率(atm%)を測定した。測定結果を以下の表2に示す。
Figure 2023085051000003
図31および表2に示すように、サンプル1中のポイント1がタングステン部材であり、ポイント2がW-Pt-Cu層であり、ポイント3~5がPt-Cu層であり、ポイント6が銅部材であることが分かる。そして、表1を見ると、ポイント1からポイント6に向かうにつれてPt/Cu比が減少している(ポイント1に近い方がPt/Cu比が多い)ことが分かった。これは、Pt-Cu合金のほとんどの領域は、焼成前にPtペーストであった部分に銅部材からCuが拡散して形成されたためであると推察される。
FIB-SEMを用いてサンプル1を薄片化してSEM/EBSD画像を取得した。結果を図32に示す。かかる図32に示すように、サンプル1では、タングステン部材と銅部材との間にPt-Cu合金が形成されており、そのPt-Cu合金とタングステン部材との境界にW-Pt-Cu合金が形成されていることが分かる。そして、タングステン部材におけるW-Pt-Cu合金に接した領域では、Wの結晶粒が他の領域よりも小さくなっていることが確認された。これは、W-Pt-Cu合金の生成のために、当該領域からWが供給されたためと推測される。
2.サンプル2についての解析
サンプル2に形成されたW-Pt-Cu合金のSEM写真(倍率50000倍)を5視野分取得し、各視野においてEDX解析を行い、WとPtとCuの原子数の比率(atm%)を測定した。測定結果を以下の表3に示す。
Figure 2023085051000004
表3に示す各視野における測定結果から算出すると、サンプル2のW-Pt-Cu層におけるW相とPt-Cu相との存在比率の平均値は、23.37:76.63であった。そして、Pt-Cu相におけるPt元素とCu元素との存在比率は、7.07:92.93であった。かかる結果から、サンプル2では、Cuに対するPtの比率がサンプル1よりも小さくなっていることが分かった。これは、サンプル1と比較してPt含有量の少ないPtペーストを使用したためと解される。
次に、図10(a)の上側(Pt-Cu合金側)から下側(タングステン部材側)に長さ20μmの線分X1を引き、当該線分X1上におけるW、Pt、Cuの各元素の元素濃度の変化を調べるライン分析を行った。結果を図33に示す。この図33の横軸の0μmの位置は線分X1の上端に対応しており、20μmの位置は線分X1の下端に対応している。一方、縦軸は各々の元素の特性X線強度を示している。そして、図33中の(a)のグラフはPtの分析結果を示し、(b)のグラフはWの分析結果を示し、(c)のグラフはCuの分析結果を示している。図33に示すように、Pt-Cu合金が存在する領域(図10(a)中の上側)では、Pt元素とCu元素が主成分となっており、W元素は殆ど確認されなかった。そして、W-Pt-Cu合金が存在する領域(図10(a)中の中央部分)では、W元素とPt元素とCu元素の各々が確認された。そして、タングステン部材(図10(a)中の下側)は、殆どがW元素によって構成されていたが、Pt元素がわずかに存在していた。
3.サンプル4についての解析
図15~図19の各々の断面SEM画像のEDX分析に基づいて、W元素、Pt元素、Cu元素の元素数の定量分析を行った。測定結果を以下の表4に示す。また、サンプル4については、図15(a)の上側(Pt-Cu合金側)から下側(タングステン部材側)に長さ20μmの線分X2を引き、当該ライン上におけるW、Pt、Cu各元素の濃度分布の変化を調べた。結果を図34に示す。この図34の横軸の0μmの位置は線分X2の上端に対応しており、20μmの位置は線分X2の下端に対応している。また、縦軸は各々の元素の特性X線強度を示している。そして、図34中の(a)はPtの分析結果を示し、(b)はWの分析結果を示し、(c)はCuの分析結果を示している。図34に示すように、Pt-Cu合金が存在する領域では、Pt元素とCu元素の存在が確認され、W元素は確認されなかった。そして、W-Pt-Cu合金が存在する領域では、W元素とPt元素とCu元素の各々が確認された。そして、タングステン部材の領域の殆どがW元素であったが、Pt元素がわずかに存在していた。
Figure 2023085051000005
サンプル4では、他の実施例よりもW-Pt-Cu層が厚く、その上にPt-Wを主成分とする層が存在していた。このように厚いW-Pt-Cu層が形成されたのは、加熱処理の温度を低下させた結果、酸化タングステンの生成量が少なくなり、W-Pt-Cu合金の前駆体であるPt-W合金の生成が阻害されずに厚く形成されたためと予想される。また、図15に示すように、サンプル4では、W-Pt-Cu層とPt-Cu層との境界に、PtとWを含むPt-W層が生じていることが分かった。そして、このPt-W層は、一部が途切れており、当該途切れた部分にはW-Pt-Cu層が存在していた。このことから、本サンプルでは、W-Pt-Cu合金が生成される際に、上記Pt-W層が途切れた部分を通じてPt-W合金とCuとが混ざり合ったと推測される。
また、サンプル4では、FIB-SEMを用いて薄片化し、上記図15(a)とは異なる視野における反射電子像を取得して種々の解析を行った。先ず、図35(a)はサンプル4の反射電子像(5000倍)であり、(b)は(a)中の領域αの拡大図(20000倍)であり、(c)は(a)中の領域βの拡大図(20000倍)である。この図35にも示されているように、サンプル4では、W板の上に、W-Pt-Cu層が形成され、その上にPt-W層が形成されており、さらにその上にPt-Cu層が形成される四層構造を有していた。領域αにおける元素マッピング像の結果を図36に示し、領域βにおける元素マッピング像の結果を図37に示す。先ず、図36に示すように、領域α中のPt-W層では、粒子径が100~500nm程度のPt-W結晶粒子の間に、微量のPt-Cu結晶粒子が存在していることが確認された。このPt-W層におけるPt-W結晶粒子とPt-Cu結晶粒子との面積比は、98.5:1.5であった。また、W-Pt-Cu層とPt-W層との界面に存在するW相は、ほぼタングステンのみで形成されていた。また、図37に示すように、W-Pt-Cu層におけるPt-Cu相とW相との面積比は、52.9:47.1であった。
次に、サンプル4では、HAADF-STEM画像と、当該HAADF-STEM画像の元素マッピング像も取得した。図38は、サンプル4のHAADF-STEM画像および元素マッピング像の結果を示す図である。また、図39は、図38中の線分X3上におけるPt、Cu、Wの濃度分布を示すグラフである。この図38および図39に示すように、サンプル4では、主にWで構成されたW板と、W相とPt-Cu相とを有したW-Pt-Cu層と、Pt-W合金で形成されたPt-W層と、Pt-Cu合金で形成されたPt-Cu層とが形成されていた。そして、各層における金属元素の存在比率は、次の表5に示す通りであった。
Figure 2023085051000006
さらに、図40は、サンプル4のW板と、W-Pt-Cu層のW相と、W-Pt-Cu層のPt-Cu相との界面におけるHAADF-STEM画像および元素マッピング像の結果を示す図である。また、図41は、図40中の線分X4上におけるPt、Cu、Wの濃度分布を示すグラフであり、図42は、線分X4上におけるOとFeの濃度分布を示すグラフである。先ず、図40および図41に示すように、W板にはPt元素やCu元素が殆ど存在しておらず、かつ、W-Pt-Cu層のPt-Cu相にはW元素が殆ど存在していなかった。このことから、W-Pt-Cu層のPt-Cu相とW板との界面では、金属元素の拡散が殆ど生じていないと解される。また、図40および図42に示すように、W板内に少量の鉄(Fe)元素の存在が確認された。また、酸素(O)元素は、測定ノイズによるものと推測される。そして、これらのFe元素やO元素は、いずれの領域においても存在しており、W-Pt-Cu層のPt-Cu相とW板との界面において明らかな偏在は確認されなかった。
また、サンプル4では、図38中の領域α~領域δの各領域において電子線回折を行った。結果を図43に示す。図43(a)は、領域α(W板)における電子線回折の結果を示す画像である。かかる電子線回折結果から、領域α(W板)に存在する元素がWであることが同定された。次に、図43(b)は、領域β(W-Pt-Cu層)における電子線回折の結果を示す画像である。かかる電子線回折結果から、領域β(W-Pt-Cu層)においてW相とPt-Cu相が確認された。さらに、W-Pt-Cu層中のPt-Cu相には、少なくともCuPtが存在していることが分かった。また、図43(c)は、領域γ(Pt-W層)における電子線回折の結果を示す画像である。かかるPt-W層では、Pt-W合金の他に、Pt-Cu合金も確認された。そして、Pt-W層は、Pt-W合金として、少なくともPtWを含み、Pt-Cu合金として、少なくともCuPtを含んでいた。そして、図43(d)は、領域δ(Pt-Cu層)における電子線回折の結果を示す画像である。かかるPt-Cu層は、Pt-Cu合金として、少なくともCuPtを含んでいた。
次に、上述の図40に示すように、サンプル4では、W板とW-Pt-Cu層との界面におけるHAADF-STEM画像および元素マッピング像を取得している。これに加え、サンプル4では、W板とPt-W層とPt-Cu層の各層におけるHAADF-STEM画像および元素マッピング像を取得した。結果を図44~図46に示す。図40および図44~図46に示すように、サンプル4では、W板とPt-W層とPt-Cu層の各々の領域において、PtとCuとを有するPt-Cu相が確認された。これらの各領域におけるPt-Cu相のEDXスペクトルを図47~図50に示すと共に、かかるEDXスペクトルに基づいて算出した元素比率を表6に示す。図47~図50および表6に示すように、各層に存在するPt-Cu相の元素比率には、大きな違いがなかった。
Figure 2023085051000007
以上の解析の結果、サンプル4では、Pt-W層とW板との間にW-Pt-Cu合金が形成されていた。このことから、W板にPtペーストを塗布して加熱処理することによってPt-W合金が生成された後、当該Pt-W合金にCuを含む成分が入り込み、Pt-W合金中のPtがCuに移動(拡散)することによって、W-Pt-Cu合金が生成されたと考えられる。また、図44に示すように、サンプル4では、W板にもCuが入り込んでいた。このことも、CuがPt-W合金側に入り込むという生成過程を示唆していると解される。
<第4の試験>
本試験では、上述した第2の実施形態のように、Pt-W合金を生成する第1工程と、Pt-W合金とCu源とを接触させてW-Pt-Cu合金を生成する第2工程と、を実施してW-Pt-Cu合金を製造した。そして、各々の工程について種々の解析を行い、W-Pt-Cu合金の生成メカニズムを調べた。
1.サンプル10の準備および解析
サンプル10では、まず、W-Pt合金を生成し、次いでCu源と接触させた場合に、W-Pt-Cu合金が生成されるかについて調べた。具体的には、サンプル1と同じ寸法のタングステン部材の表面に、サンプル2と同じ組成のPtペーストを塗布した。そして、120℃で30分間の乾燥処理を行った後、大気中で予備加熱処理(昇温速度:10℃/min、最高温度:160℃、加熱時間:30分間)を行った。その後、3%の水素(H)を含むNガスの雰囲気下で加熱処理(昇温速度:4℃/min、最高温度:1000℃、加熱時間:2時間)を実施した。そして、サンプルを室温まで冷却し、W板の表面にPt焼成膜が生成されていることを確認した。次に、このPt焼成膜の表面に、サンプル6と同じCuペーストを塗布して120℃で30分間乾燥した。そして、3%の水素(H)を含むNガス雰囲気下で加熱処理(昇温温度:4℃/min、最高温度:1000℃、加熱時間:2時間)を実施した。そして、サンプルを室温まで冷却した後、断面をイオンミリングで研磨し、SEM観察、EDX分析を行った。
サンプル10の倍率5000倍の解析結果を図51に示す。また、サンプル10のPt-W層、W-Pt-Cu層、W板、W板とW-Pt-Cu層との界面の各々の部分における倍率50000倍の解析結果を図52~図55に示す。なお、図52~図55中の(a)は断面SEM画像であり、(b)はWの元素マップであり、(c)はCuの元素マップであり、(d)はPtの元素マップである。図52~図55に示すように、サンプル10においても、サンプル1と同様にW-Pt-Cu合金が生成されていることが確認できた。すなわち、W-Pt合金を生成し、次いでCu源と接触させた場合であっても、W-Pt-Cu合金が生成される。また、W-Pt-Cu合金を生成するには、W-Pt合金とCu源とを直接接触させる必要はなく、W-Pt合金とCu源との間に中間金属部材(Pt膜)が介在していてもよいことが分かった。
また、サンプル10では、図51~図55の各図のEDX分析に基づいて、W-Pt-Cu合金におけるW元素、Pt元素、Cu元素の元素数の定量分析を行った。倍率5000倍の解析結果(図51)と、Pt-W層(図52)、W-Pt-Cu層(図53)、W板(図54)、W板とW-Pt-Cu層との界面(図55)の各々の部分における元素数の定量分析の結果を表7に示す。
Figure 2023085051000008
2.サンプル11の準備および解析
サンプル11では、Pt-W合金生成工程で塗布するPtペーストの塗布厚みを変更することにより、生成するW-Pt-Cu合金のW相を構成する結晶粒の形状を制御できるか検討した。具体的には、サンプル1と同じ寸法のW板の表面に、サンプル2と同じ組成のPtペーストを加熱処理によって、Pt-W合金がW板の表面に生成する程度に薄めに塗布した。そして、120℃で30分間の乾燥処理を行った後、大気中で予備加熱処理(昇温速度:10℃/min、最高温度:160℃、加熱時間:30分間)を行った。その後、N-H(3%)の雰囲気下で加熱処理(昇温速度:4℃/min、最高温度:1000℃、加熱時間:2時間)を実施した。そして、サンプルを室温まで冷却し、W板の表面にW-Pt合金が生成されていることを確認した。なお、本サンプルで生成されたW-Pt合金の表面は、微細な凹凸を有する粗面となっていた。次に、本サンプルでは、W-Pt合金の表面にCuペースト(Cu源)を塗布した塗工領域と、Cuペーストを塗布しない未塗工領域を設けた。なお、Cuペーストには、サンプル6と同じものを使用した。そして、塗工領域のCuペーストを120℃で30分間乾燥した後に、N-H(3%)雰囲気下で加熱処理(昇温温度:4℃/min、最高温度:1000℃、加熱時間:2時間)を実施した。そして、サンプルを室温まで冷却した後、断面をイオンミリングで研磨し、SEM観察、EDX分析を行った。
サンプル11の未塗工領域の倍率5000倍の解析結果を図56に示し、倍率50000倍の解析結果を図57に示す。一方、塗工領域の5000倍の解析結果を図58に、倍率50000倍の解析結果を図59~図61に示す。なお、図56~図61中の(a)は断面SEM画像であり、(b)はWの元素マップであり、(c)はCuの元素マップであり、(d)はPtの元素マップである。まず、図56に示すように、未塗工領域におけるW板の表面には、表面に微細な凹凸を有するW-Pt合金が形成されていた。一方、図58~図61に示すように、塗工領域では、W板とPt-Cu層との間にW-Pt-Cu合金が形成されていた。そして、サンプル11におけるW-Pt-Cu合金は、未塗工領域のW-Pt合金と同様に、表面(Pt-Cu層側の界面)に微細な凹凸が形成されていた。このことから、Pt-W合金生成工程で生成したPt-W合金の形状が、W-Pt-Cu合金生成工程の後のW-Pt-Cu合金の形状に反映されることが分かった。
また、図59~図61に示すように、サンプル11では、W相とPt-Cu相とが混在する組織が細かくなるという傾向が確認された。言い換えれば、W相を構成する結晶粒の形状がサンプル1と比較して小さくなる傾向が確認された。したがって、Ptペーストの塗布厚みを変更することにより、W相を構成する結晶粒の形状を制御することができることがわかった。
3.サンプル12の準備および解析
サンプル12では、Pt-W合金生成工程で塗布するPtペーストの塗布厚みを変更し、かつ、Cuペーストを塗布した後の予備加熱処理の加熱温度を変更することにより、生成するW-Pt-Cu合金のW相を構成する結晶粒の形状を制御できるか検討した。具体的には、サンプル1と同じ寸法のW板の表面に、サンプル2と同じ組成のPtペーストを加熱処理によって、Pt-W合金がW板の表面に生成する程度に薄めに塗布した。そして、120℃で30分間の乾燥処理を行った後、大気中で予備加熱処理(昇温速度:10℃/min、最高温度:160℃、加熱時間:0.5h)を行った。その後、N-H(3%)の雰囲気下で加熱処理(昇温速度:4℃/min、最高温度:1000℃、加熱時間:2時間)を実施した。そして、サンプルを室温まで冷却し、W板の表面にW-Pt合金が生成されていることを確認した。なお、本サンプルで生成されたW-Pt合金の表面は、微細な凹凸を有する粗面となっていた。次に、本サンプルでは、W-Pt合金の表面にCuペースト(Cu源)を塗布した。そして、120℃で30分間乾燥した後に、大気中で予備加熱処理(昇温速度:10℃/min、最高温度:350℃、加熱時間:0.5h)を行った。さらに、N-H(3%)雰囲気下で加熱処理(昇温温度:4℃/min、最高温度:1000℃、加熱時間:2時間)を実施した。そして、サンプルを室温まで冷却した後、断面をイオンミリングで研磨し、SEM観察、EDX分析を行った。
かかるサンプル12に対して、サンプル2と同じ条件でSEM観察とEDX分析を実施した。サンプル12の倍率5000倍における解析結果を図62に示し、倍率50000倍における解析結果を図63に示す。なお、図62、図63中の(a)は断面SEM画像であり、(b)はWの元素マップであり、(c)はCuの元素マップであり、(d)はPtの元素マップである。図62、図63に示すように、サンプル12においても、サンプル1と同様に、W-Pt-Cu合金が生成されていることが確認できた。また、図63に示すようにW相とPt-Cu相とが混在する組織が細かくなるという傾向が確認された。言い換えれば、W相を構成する結晶粒の形状がサンプル11と同等程度に小さくなる傾向が確認された。したがって、Ptペーストの塗布厚みを変更することにより、W相を構成する結晶粒の形状を制御することができることがわかった。
一方、Cuペーストを塗布した後の加熱処理の加熱温度を変更することにより、Pt-W合金上に酸化銅が生じたと推測される。しかし、Pt-W合金上に酸化銅が生じることは、W相を構成する結晶粒の形状を制御することに大きな影響を与えないことがわかった。
4.サンプル13の準備および解析
サンプル13では、Pt-W合金生成工程で塗布するPtペーストの塗布厚みを変更し、かつ、Pt-Cuペーストを塗布した際に、生成するW-Pt-Cu合金のW相を構成する結晶粒の形状を制御できるか検討した。具体的には、サンプル1と同じ寸法のW板の表面に、サンプル2と同じ組成のPtペーストを加熱処理によって、Pt-W合金がW板の表面に生成する程度に薄めに塗布した。そして、120℃で30分間の乾燥処理を行った後、大気中で予備加熱処理(最高温度:160℃、加熱時間:30分間)を行った。その後、N-H(3%)の雰囲気下で加熱処理(昇温速度:4℃/min、最高温度:1000℃、加熱時間:2時間)を実施した。そして、サンプルを室温まで冷却し、W板の表面にW-Pt合金が生成されていることを確認した。なお、本サンプルで生成されたW-Pt合金の表面は、微細な凹凸を有する粗面となっていた。次に、本サンプルでは、W-Pt合金の表面にサンプル9と同様のPt-Cuペーストを塗布した。そして、120℃で30分間乾燥した後に、大気中で予備加熱処理(昇温速度:10℃/min、最高温度:160℃、加熱時間:0.5h)を行った。さらに、N-H(3%)雰囲気下で加熱処理(昇温温度:4℃/min、最高温度:1000℃、加熱時間:2時間)を実施した。そして、サンプルを室温まで冷却した後、断面をイオンミリングで研磨し、SEM観察、EDX分析を行った。
サンプル13に対して、サンプル2と同じ条件でSEM観察を実施した。サンプル13の倍率5000倍の解析結果を図64に示し、Pt-Cu層における倍率50000倍の解析結果を図65に示し、W-Pt-Cu層における倍率50000倍の解析結果を図66および図68に示し、Pt-W層における倍率50000倍の解析結果を図67に示す。なお、図64~図68中の(a)は断面SEM画像であり、(b)はWの元素マップであり、(c)はCuの元素マップであり、(d)はPtの元素マップである。また、サンプル13については、図64(a)の下側(タングステン部材側)から上側(Pt-Cu合金側)に長さ20μmの線分X5を引き、当該ライン上におけるW、Pt、Cu各元素の濃度分布の変化を調べた。結果を図69に示す。この図69の横軸の0μmの位置は線分X5の下端に対応しており、20μmの位置は線分X5の上端に対応している。また、縦軸は各々の元素の特性X線強度を示している。さらに、サンプル13では、図65~図68の各図のEDX分析に基づいて、W-Pt-Cu合金におけるW元素、Pt元素、Cu元素の元素数の定量分析を行った。Pt-Cu層(図65)、W-Pt-Cu層(図66および68)、Pt-W層(図67)の各々の部分における元素数の定量分析の結果を表8に示す。
Figure 2023085051000009
図65~図68に示すように、本サンプルのようにW-Pt合金が生成した後に、Pt-Cuペーストを塗布した場合には、W-Pt-Cu合金が生成することがわかった。サンプル9とサンプル13との比較から、W-Pt-Cu合金を生成するには、前駆物質としてPt-W合金を生成し、当該Pt-W合金からPtをCuに移動させる必要があることがわかった。
また、W相を構成する結晶粒の形状は、サンプル11と同等程度に小さくなる傾向が確認された。したがって、Ptペーストの塗布厚みを変更することにより、W相を構成する結晶粒の形状を制御することができることがわかった。
図69に示すように、タングステン部材の領域の殆どがW元素であった。また、図69および表8に示すように、Pt-Cu合金が存在する領域では、Pt元素とCu元素の存在が確認され、W元素は確認されなかった。そして、W-Pt-Cu合金が存在する領域では、W元素とPt元素とCu元素の各々が確認された。
<第5の試験>
本試験では、CuやPt以外の金属元素(第3の金属元素)を含むPt-Cu相を有したW-Pt-Cu合金を生成した。具体的な手順を以下に説明する。
厚さ0.3mm×7.5mm×7.5mmのW板に、加熱処理によってPt-W合金がW板の表面に生成する程度に薄めにPtペーストを塗布した。Ptペーストは、平均粒子径が0.5μmのPt粉と、バインダ(エチルセルロース系樹脂)と、分散材と、溶剤(2,2,4-Trimethyl-1,3-pentanediol 1-Monoisobutyrate)とを混錬することによって調製した。そして、Ptペーストが塗布されたW板に対して120℃で30分間の乾燥処理を行った後、大気中で予備加熱処理(最高温度:160℃、加熱時間:0.5h)を行った。その後、N-H(3%)の雰囲気下で加熱処理(昇温速度:4℃/min、最高温度:1000℃、加熱時間:2時間)を実施した(サンプル14)。そして、サンプルを室温まで冷却し、W板の表面にW-Pt合金が生成されていることを確認した。なお、本サンプルで生成されたW-Pt合金の表面は、微細な凹凸を有する粗面となっていた。次に、本サンプルでは、W板表面のPt-W合金の上に、Auペーストを塗布した。そして、120℃で30分間乾燥した後に、大気中で予備加熱処理(昇温速度:10℃/min、最高温度:350℃、加熱時間:3h)を行った。なお、Auペーストは、平均粒子径が0.5μmのAu粉と、ガラス粉と、バインダ(エチルセルロース)と、分散材と、溶剤(ターピネオール)とを混錬することによって調製した。そして、乾燥したAuペーストの上にCuペーストを塗布し、その後に乾燥処理(120℃、30分間)を実施した。なお、Cuペーストには、サンプル10で使用したペーストと同じものを使用した。そして、N-H(3%)の雰囲気下で加熱処理(昇温速度:4℃/min、最高温度:1000℃、加熱時間:2時間)を実施した。
作成したサンプル14を室温まで冷却した後、断面をイオンミリングで研磨し、SEM観察、EDX分析を行った。結果を図70および図71に示す。なお、図70の倍率は5000倍であり、図71の倍率は50000倍である。そして、図70および図71中の(a)は断面SEM画像であり、(b)はWの元素マップであり、(c)はCuの元素マップであり、(d)はPtの元素マップであり、(e)はAuの元素マップである。図70に対するSEM-EDX分析によって測定されたCuの原子数濃度は66.13%であり、Wの原子数濃度は22.98%であり、Ptの原子数濃度は0.79%であり、Auの原子数濃度は10.10%であった。また、図71に対するSEM-EDX分析によって測定されたCuの原子数濃度は67.88%であり、Wの原子数濃度は21.10%であり、Ptの原子数濃度は1.29%であり、Auの原子数濃度は9.73%であった。
解析の結果、サンプル14においても、W相とPt-Cu相とが混在したW-Pt-Cu合金が生成されていることが確認された。しかし、本サンプル生成されたW-Pt-Cu合金のPt-Cu相には、PtとCuの他にAuが含まれていることが分かった(図70(e)および図71(e)参照)。この結果から、本試験のように、Cu源に第3の元素を含ませると、当該第3の元素がCuやPtと共にPt-Cu相に拡散することが分かった。
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
10 W-Pt-Cu合金
12 W相
14 Pt-Cu相

Claims (11)

  1. タングステン(W)、白金(Pt)および銅(Cu)を含むW-Pt-Cu合金からタングステン粉末を製造する方法であって、
    WとPtとを含むPt-W合金を、Cuを含むCu源とを接触させ、接触領域において前記W-Pt-Cu合金を生成する工程と、
    前記W-Pt-Cu合金からPt-Cu相を除去する工程と、
    を包含する、タングステン粉末の製造方法。
  2. 前記W-Pt-Cu合金生成工程は、Wを含むW源と前記Cu源との間に、Ptを含むPt源を介在させた状態で加熱処理を行うことによって、前記W源と前記Pt源との境界に前記Pt-W合金を生成するとともに、当該Pt-W合金の前記Ptを前記Cu源に移動させることを特徴とする、請求項1に記載のタングステン粉末の製造方法。
  3. 前記Pt-W合金は、金属間化合物である請求項1または2に記載のタングステン粉末の製造方法。
  4. 前記Pt-W合金は、PtWである、請求項3に記載のタングステン粉末の製造方法。
  5. 前記W-Pt-Cu合金生成工程の前記加熱処理の温度が800℃以上1200℃以下である、請求項2に記載のタングステン粉末の製造方法。
  6. 前記W-Pt-Cu合金生成工程の前記加熱処理の時間が0.5時間以上3時間以下である、請求項2または5に記載のタングステン粉末の製造方法。
  7. 前記W-Pt-Cu合金生成工程は、
    Ptを含むPt源と、Wを含むW源とを接触させた状態で加熱処理を行うことによってPt-W合金を生成する第1工程と、
    前記Pt-W合金と前記Cu源とを接触させた状態で加熱処理を行うことによって、前記Pt-W合金中の前記Ptを前記Cu源に移動させてW-Pt-Cu合金を生成する第2工程とを包含する、請求項1に記載のタングステン粉末の製造方法。
  8. 前記第2工程における前記加熱処理の温度が800℃以上1200℃以下である、請求項7に記載のタングステン粉末の製造方法。
  9. 前記第2工程における前記加熱処理の時間が0.5時間以上3時間以下である、請求項7または8に記載のタングステン粉末の製造方法。
  10. 前記Pt-W合金と、前記Cu源との間に中間金属部材を介在させる、請求項7~9のいずれか一項に記載のタングステン粉末の製造方法。
  11. 前記Pt-Cu相除去工程は、前記W-Pt-Cu合金と酸とを接触させることにより、Pt-Cu相を除去する、請求項1~10のいずれか一項に記載のタングステン粉末の製造方法。


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