JP2023083753A - 転がり軸受装置 - Google Patents

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Abstract

【課題】回転速度が上昇した場合にも、外方部材と内方部材とを十分に導通させることができる、転がり軸受装置の構造を実現する。【解決手段】深溝型玉軸受1を、外輪2と、内輪3と、複数の玉4と、磁場発生装置7とを備えるものとする。磁場発生装置7により、外輪2の内周面と内輪3の外周面との間に存在する環状空間12に、玉4の自転軸の方向の磁場を発生させる。特に磁場発生装置7が発生させる磁場を、環状空間12の円周方向において向きが交互に変化するものとする。磁場発生装置7が発生する磁場を横切るように玉4を公転させることで、玉4に接触角の方向の起電力を発生させる。【選択図】図2

Description

本発明は、転がり軸受装置に関する。
自動車の車体には、走行時に生じる空気との摩擦などに起因して、静電気が帯電する。そして、車体にある程度電荷が溜まると、絶縁破壊を起こし、放電現象(スパーク)が発生することが知られている。このようなスパークが発生すると、ラジオノイズを生じさせるほか、車載コンピュータに損傷を与える可能性がある。
車体に静電気が帯電する要因の一つとして、車輪を回転自在に支持するために用いられるハブユニット軸受と呼ばれる転がり軸受装置のうち、転動体と軌道輪との間に、自動車の走行時に、絶縁性の高い不導体のEHL油膜が形成されることが挙げられる。
自動車の停止時には、転がり軸受装置を構成する転動体と軌道輪とは、EHL油膜を介さずに直接金属接触して互いに導通するため、車体に帯電した静電気を、転がり軸受装置を介してタイヤへと流し、地面に放電することができるが、自動車の走行時には、転動体と軌道輪との間にEHL油膜が形成されるため、帯電した静電気を車体からタイヤへと流すことができなくなる。つまり、EHL油膜が、車体とタイヤとの間を絶縁してしまう。この結果、走行時に、車体に静電気が帯電しやすくなる。
転動体と軌道輪との間からEHL油膜を除去すれば、車体の帯電を抑制することが可能になるが、EHL油膜は、転がり軸受装置の低トルク化と長寿命化とに寄与するものであるため、車体の帯電抑制のためにEHL油膜を除去するという対策を採用することはできない。
このような事情に鑑みて、たとえば特開2015-102200号公報(特許文献1)には、転がり軸受装置を構成する1対の軌道輪である外方部材と内方部材とを、シールリングを構成する導電性ゴム及び導電性グリースにより導通させる技術が記載されている。特開2015-102200号公報に記載された従来構造の転がり軸受装置によれば、導電性ゴム及び導電性グリースにより、外方部材と内方部材とを導通させられるため、EHL油膜を除去することなく、車体の帯電を抑制することが可能になる。
特開2015-102200号公報
ただし、特開2015-102200号公報に記載された従来構造の転がり軸受装置は、以下のような理由で、車体に帯電した静電気を放電するのに改善の余地がある。
すなわち、シールリングを構成する導電性ゴムは、温度上昇時や機械的な力が負荷された際に、ゴムポリマーのブラウン運動が激しくなり、導体成分やイオン成分の結合力が弱まるため、導電性が低下しやすくなる。また、導電性グリースは、攪拌によって、導体成分の結合が切れやすくなり、導電性が低下しやすくなる。このため、特開2015-102200号公報に記載された従来構造の転がり軸受装置は、温度上昇や攪拌を生じる回転時(運転時)に導電性が低下する傾向になり、回転速度が速くなるほど導電性は低下しやすくなる。
一方、車体には、走行速度が速くなるほど静電気が帯電しやすくなる。したがって、特開2015-102200号公報に記載された従来構造の転がり軸受装置により、走行時に、車体に帯電した静電気を十分に放電することは難しくなる。また、導電性グリースに含まれる導体成分として、カーボンブラックを使用した場合には、凝集が発生しやすくなるため、転がり軸受装置の回転抵抗が大きくなる、あるいはゴリ感(カーボンブラックの凝集物を軌道面と転動体との間に噛み込むことによる転がり抵抗の急激な変化)が出る可能性もある。
上述したように、転がり軸受装置が、車体とタイヤ間のような2つの部材間を絶縁し、2つの部材のうちの一方から他方へ静電気を逃がすことを妨げてしまう問題は、車輪支持用の転がり軸受装置(ハブユニット軸受)に特有の問題ではなく、各種機械装置の回転支持部に組み込まれる転がり軸受装置においても、同様に生じ得る問題である。
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであって、回転速度が上昇した場合にも、外方部材と内方部材とを十分に導通させることができる、転がり軸受装置を提供することを目的とする。
本発明の一態様にかかる転がり軸受装置では、外方部材と、内方部材と、複数の転動体と、磁場発生装置とを備える。
前記外方部材は、導電性を有し、内周面に外輪軌道を備える。
前記内方部材は、導電性を有し、外周面に内輪軌道を備える。
前記転動体は、導電性を有し、前記外輪軌道と前記内輪軌道との間に、円周方向に関して等間隔に配置される。
前記磁場発生装置は、前記外方部材の内周面と前記内方部材の外周面との間に存在する環状空間に、前記転動体の自転軸の方向に一致した方向の磁場を発生させる。
なお、自転軸の方向に一致した方向には、自転軸の方向に対して概略一致した方向、すなわち、自転軸の方向に対してわずかに(10°程度)傾斜した方向も含む。
本発明の一態様にかかる転がり軸受装置では、前記磁場発生装置が発生する磁場を、前記環状空間の円周方向において向きが交互に変化するものとし、前記磁場を横切るように前記転動体を公転させることで、前記転動体に接触角の方向の起電力を発生させる。
なお、前記接触角の方向とは、公転軸と自転軸とを含む仮想平面内において、前記自転軸の方向に対して直交する方向であり、前記転動体に作用する荷重の作用線の方向を意味する。
本発明の一態様にかかる転がり軸受装置では、前記磁場発生装置を、それぞれが円環状で、N極とS極とが円周方向に関して交互にかつ等ピッチで配置された1対の磁石素子を、前記転動体を自転軸の方向に関して両側から挟むように、異極同士を対向配置させて構成することができる。
そして、1対の前記磁石素子のうち、一方の前記磁石素子と前記転動体との間の距離、及び、他方の前記磁石素子と前記転動体との間の距離を、それぞれaとし、円周方向に隣り合う前記転動体の間隔をbとし、1対の前記磁石素子のそれぞれの磁極ピッチをcとした場合に、2×a<b、及び、2×a<cの関係を満たすようにすることができる。
本発明の一態様にかかる転がり軸受装置では、円環状のリム部と複数本の柱部とを有し、前記転動体を転動自在に保持する、非磁性材製の冠型保持器をさらに備えることができる。
また、前記磁場発生装置を、それぞれが円環状で、N極とS極とが円周方向に関して交互にかつ等ピッチで配置された1対の磁石素子を、前記転動体を自転軸の方向に関して両側から挟むように、異極同士を対向配置させて構成することができる。
そして、1対の前記磁石素子のうち、軸方向に関して前記リム部とは反対側に配置された一方の前記磁石素子と前記転動体との間の距離をdとし、かつ、軸方向に関して前記リム部側に配置された他方の前記磁石素子と前記転動体との間の距離をaとし、円周方向に隣り合う前記転動体の間隔をbとし、1対の前記磁石素子のそれぞれの磁極ピッチをcとした場合に、d<a、a+d<b、及び、a+d<cの関係を満たすようにすることができる。
本発明の一態様にかかる転がり軸受装置では、前記外方部材と前記内方部材との一方を、使用時に回転しない静止輪とし、前記外方部材と前記内方部材との他方を、使用時に車輪とともに回転する回転輪とすることができる。この場合には、転がり軸受装置は、ハブユニット軸受となる。
本発明によれば、回転速度が上昇した場合にも、外方部材と内方部材とを十分に導通させることができる、転がり軸受装置を実現できる。
図1は、実施の形態の第1例にかかる深溝型玉軸受を軸方向から見た状態を示す、模式図である。 図2は、図1のA-A線断面模式図である。 図3は、実施の形態の第1例に関して、玉が、1対の磁石素子同士の間を公転する様子を示す模式図であり、(A)及び(C)は、玉の中心が、一方の磁石素子のN極(又はS極)の中心付近及び他方の磁石素子のS極(又はN極)の中心付近にそれぞれ位置する状態を示しており、(B)は、玉の中心が、1対の磁石素子のそれぞれの磁極境界付近に位置する状態を示している。 図4は、実施の形態の第1例の第1変形例を示す、図2に相当する図である。 図5は、実施の形態の第1例の第2変形例を示す、図2に相当する図である。 図6は、実施の形態の第2例にかかるハブユニット軸受を示す、半部断面図である。 図7は、実施の形態の第2例の変形例を示す、図6に相当する図である。
[実施の形態の第1例]
実施の形態の第1例について、図1~図3を用いて説明する。本例では、転がり軸受装置の例として、深溝型玉軸受1を用いて説明する。なお、深溝型玉軸受1に関して、軸方向外側とは、図2の左右方向に関する両側をいい、軸方向内側とは、図2の左右方向に関する中央側をいう。
深溝型玉軸受1は、外方部材である外輪2と、内方部材である内輪3と、それぞれが転動体である複数(図示の例では12個)の玉4と、保持器5と、1対のシールド板6a、6bと、磁場発生装置7とを備える。
外輪2は、中炭素鋼、高炭素クロム軸受鋼などの導電性を有する金属製で、全体が円環状に構成されている。外輪2は、内周面の軸方向中間部に、深溝型(断面円弧状)の外輪軌道8を有する。また、外輪2は、内周面の軸方向両外側部に、係止凹溝9a、9bを有している。係止凹溝9a、9bには、シールド板6a、6bの径方向外側の端部が係止される。外輪2は、図示しないハウジングに対して内嵌固定され、使用時にも回転しない。
内輪3は、中炭素鋼、高炭素クロム軸受鋼などの導電性を有する金属製で、全体が円環状に構成されている。内輪3は、外輪2の径方向内側に、外輪2と同軸に配置されている。内輪3は、外周面の軸方向中間部に、深溝型(断面円弧状)の内輪軌道10を有する。また、内輪3は、外周面の軸方向両外側部に、断面U字形状又は断面J字形状などのシール凹溝11a、11bを有している。内輪3は、図示しない回転軸に対して外嵌固定され、使用時に回転する。
外輪2の内周面と内輪3の外周面との間には、円環形状を有する環状空間12が備えられている。環状空間12には、外輪軌道8及び内輪軌道10と玉4の転動面との間にEHL油膜を形成することを目的として、図示しない潤滑剤(グリース)が封入されている。本例で使用する潤滑剤は、導電性を有しない通常の潤滑剤であるが、本発明を実施する場合には、導電性を有する潤滑剤を使用することもできる。
玉4は、高炭素クロム軸受鋼などの導電性を有する硬質金属製で、外輪軌道8と内輪軌道10との間に転動自在に配置されている。つまり、玉4は、環状空間12に配置されている。玉4は、環状空間12の内側に、保持器5により転動自在に保持されて、円周方向に関して等間隔に配置されている。本例では、円周方向に隣り合う玉4の間隔を、b(mm)としている。玉4は、内輪3が回転軸とともに回転した際に、深溝型玉軸受1の中心軸と平行に配置された、図2の左右方向及び図3の上下方向を向いた自転軸Rを中心に自転する。また、深溝型玉軸受1の玉4の接触角の大きさは0度であるため、玉4の接触角の方向(=玉4の荷重の作用線の方向)は、深溝型玉軸受1の径方向(図1の放射方向、図2の上下方向、図3の表裏方向)を向いている。
保持器5は、合成樹脂などの非磁性材製で、円環状のリム部13と複数本の柱部14とを備えた、冠型の保持器である。複数本の柱部14のそれぞれは、リム部13の円周方向複数個所から軸方向にそれぞれ伸長している。そして、リム部13と、円周方向に隣り合う1対の柱部14とにより三方が囲まれた部分を、玉4を転動自在に保持するためのポケット15としている。
シールド板6a、6bは、密封部材であり、環状空間12に異物が侵入するのを抑制する。シールド板6a、6bは、非磁性のステンレス鋼板などの耐食性を有する金属板製で、全体が円環状に構成されている。シールド板6a、6bは、玉4及び保持器5を軸方向両側から挟むようにして、環状空間12の軸方向両外側の開口部に配置されている。シールド板6a、6bのそれぞれは、径方向外側の端部を係止凹溝9a、9bに対して係止することで、外輪2に固定されている。シールド板6a、6bの径方向内側の端部は、シール凹溝11a、11bの内面に対し近接対向しており、内輪3には接触していない。このため、シールド板6a、6bは、非接触形の密封装置を構成している。なお、密封部材として、特開2015-102200号公報に記載されたような、シールリップを有する弾性材を芯金に対して加硫接着した構造を備えた接触シールを使用することもできる。この場合、弾性材は非導電性ゴム製とし、芯金は非磁性のステンレス鋼板製とする。シールド板6a、6b又は接触シールを構成する芯金を、非磁性のステンレス鋼製とすることで、外輪2又は内輪3を介した磁気漏洩を防止することができる。
磁場発生装置7は、外輪2に固定された1対のシールド板6a、6bに支持されており、玉4を自転軸Rの方向に関して両側から挟むように、異極同士(N極とS極)を環状空間12の全周にわたり交互に対向させた構成を有している。このために本例では、磁場発生装置7を、それぞれが永久磁石製で円環状の1対の磁石素子16a、16bから構成している。なお、本発明を実施する場合には、永久磁石製の磁石素子に代えて、シールド板(又は接触シールを構成する芯金)に加硫成形した磁性ゴムを着磁したものを磁石素子として用いることもできる。
磁石素子16a、16bのそれぞれは、円環板状に構成されており、N極とS極とが円周方向に関して交互にかつ等ピッチで配置された構成を有する、いわゆる磁気エンコーダの如き形状である。また、一方の磁石素子16aと他方の磁石素子16bとの磁極ピッチ(N極-S極間ピッチ)は、互いに等しい。本例では、1対の磁石素子16a、16のそれぞれの磁極ピッチを、c(mm)としている。そして、一方の磁石素子16aと他方の磁石素子16bとを、円周方向に磁極ピッチ(c)分だけずらして配置することで、一方の磁石素子16aのすべてのN極と他方の磁石素子16bのすべてのS極とを軸方向に対向させ、かつ、一方の磁石素子16aのすべてのS極と他方の磁石素子16bのすべてのN極とを軸方向に対向させている。本例では、1対のシールド板6a、6bの位相をずらすことで、1対の磁石素子16a、16bを、異極同士が対向するように配置することができる。なお、図示の例では、磁石素子16a、16bのそれぞれの磁極数を36としている。
本例では、磁石素子16a、16bをシールド板6a、6bに支持した状態で、一方の磁石素子16aと玉4との距離、及び、他方の磁石素子16bと玉4との距離を、それぞれa(mm)としている。なお、シールド板6a、6bに対する磁石素子16a、16bの取付手段は特に問わないが、たとえば接着剤を利用して取り付けることができる。
特に本例では、1対の磁石素子16a、16bと玉4との距離aと、円周方向に隣り合う玉4の間隔bと、1対の磁石素子16a、16bのそれぞれの磁極ピッチcとが、次の関係式(1)及び(2)を満たすように、それぞれの値を規制している。
2×a<b・・・・・・・・(1)
2×a<c・・・・・・・・(2)
磁場発生装置7は、環状空間12に、一方の磁石素子16aのN極から出て他方の磁石素子16bのS極に入る、図2及び図3の(A)に矢印αで示したような、玉4の自転軸Rの方向に一致した方向の磁場を発生させる。また、磁場発生装置7は、環状空間12に、他方の磁石素子16bのN極から出て一方の磁石素子16aのS極に入る、図3の(B)に矢印βで示したような、矢印αとは逆向きで、玉4の自転軸Rの方向に一致した方向の磁場も発生させる。つまり、磁場発生装置7は、軸方向一方側から他方側を向いた磁場と、軸方向他方側から一方側を向いた磁場とを、環状空間12の円周方向に交互に発生させる。このように、磁場発生装置7は、環状空間12の円周方向において向きが交互に変化する磁場を発生させる。したがって、磁場発生装置7が発生させる磁場は、環状空間12の円周方向において一様ではない。
深溝型玉軸受1の運転時(内輪3の回転時)には、玉4は、図2の左右方向(図3の上下方向)を向いた自転軸Rを中心に自転しつつ、深溝型玉軸受1の中心軸を中心に環状空間12を公転する。そして、玉4が環状空間12を公転する際に、玉4は磁場発生装置7が発生させる磁場を円周方向に横切る。玉4は、導電性を有する金属材料製であるため、磁場を横切る際に、フレミング右手の法則により、玉4には接触角の方向(図2の上下方向、図3の表裏方向)の起電力が発生する。
具体的には、図3の左側から右側に向けて玉4が公転している場合に、図3の(A)に示すように、玉4の中心が、円周方向に関して一方の磁石素子16aのN極及び他方の磁石素子16bのS極のそれぞれの中心付近を通過すると、玉4は、矢印α方向を向いた磁場を横切る。このため、玉4には径方向外側(図2の上側、図3の表面側)を向いた起電力が発生する。
次いで、図3の(B)に示すように、玉4の中心が、円周方向に関して一方の磁石素子16aの磁極境界(N極とS極との境界)付近及び他方の磁石素子16bの磁極境界付近を通過すると、玉4は、一方の磁石素子16a及び他方の磁石素子16bのそれぞれの隣接する極同士を磁気ショートさせる。つまり、一方の磁石素子16aのN極から出た磁場が、玉4の表面付近を通過して、一方の磁石素子16aのS極に戻る。また、他方の磁石素子16bのN極から出た磁場が、玉4の表面付近を通過して、他方の磁石素子16bのS極に戻る。このため、この状態では、玉4には、いずれの方向の起電力も発生しない。
さらに、図3の(C)に示すように、玉4の中心が、円周方向に関して一方の磁石素子16aのS極及び他方の磁石素子16bのN極のそれぞれの中心付近を通過すると、玉4は、矢印β方向を向いた磁場を横切る。このため、玉4には径方向内側(図3の裏面側)を向いた起電力が発生する。
以上のように、本例の本例の深溝型玉軸受1では、玉4が公転する際に、玉4が、磁場発生装置7が発生させる矢印α方向を向いた磁場と矢印β方向を向いた磁場とを交互に横切る。このため、玉4には、径方向外側を向いた起電力と径方向内側を向いた起電力とが交互に発生する。したがって、玉4には、交流起電力(正負の値が周期的に変化する起電力)が発生する。このため、玉4には、磁場発生装置7が発生する磁場を横切る度に、交流電流(交番磁界)が流れようとすることになる。
環状空間12には潤滑剤を封入しているため、負荷圏に存在する外輪軌道8及び内輪軌道10と玉4の転動体との間には、絶縁性の高い不導体のEHL油膜が形成される。ただし、磁場発生装置7が発生する磁場を横切る度に、玉4には交流起電力が発生するため、EHL油膜に誘電現象が生じ、電流がEHL油膜を通過可能となる。つまり、EHL油膜には、コンデンサに大きさや極性が時間的に変化する電圧を加えた場合のように、変位電流が流れる。本例では、このような原理により、外輪2と内輪3とを導通させることができる。
しかも、深溝型玉軸受1の回転速度(内輪3の回転速度)が上昇するほど、玉4の公転速度が上昇し、玉4が磁場を横切る頻度が高くなる(時間間隔が短くなる)ため、発生する交流起電力の周波数は上昇する。このため、誘電現象による外輪2と内輪3との導通効果は、深溝型玉軸受1の回転速度が上昇するほど高くなる。したがって、本例の深溝型玉軸受1によれば、回転速度が上昇した場合にも、外輪2と内輪3とを十分に導通させることができる。
特に本例では、玉4に発生する交流の起電力を利用して帯電の除去を行えるため、深溝型玉軸受1の回転方向の制約を受けずに、静電気を除去することができる。つまり、深溝型玉軸受1の回転方向に関係なく、外輪2が内嵌されたハウジングと内輪3が外嵌された回転軸とのうちの一方(帯電し、電圧の絶対値が高い方)から他方へ、静電気を逃がす(除去)ことができる。
また、本例の深溝型玉軸受1は、玉4に交流の起電力を発生させて、EHL油膜に誘電現象を生じさせることで、外輪2と内輪3とを導通させるため、潤滑剤として、通常の(導電性のない)潤滑剤を使用することができる。このため、深溝型玉軸受1の低トルク化と長寿命化とを犠牲にすることなく、外輪2と内輪3とを導通させることができる。
また、絶縁破壊による放電現象とは異なり、外輪軌道8と内輪軌道10及び玉4の転動面に、電食を発生させずに済むため、軸受寿命を低下させずに済む。また、導電性を有するグリースを使用しなくて済むため、導体成分としてカーボンブラックを使用した場合のように、深溝型玉軸受1の回転抵抗が大きくなる、あるいはゴリ感が出ることもない。
なお、導電性を有しない潤滑剤に代えて導電性を有する潤滑剤(グリース)を使用した場合にも、該潤滑剤は、導電性に加えて、コンデンサと同様の誘電特性を有しているため、玉に発生する交流の起電力によって、外輪と内輪との通電効果を高めることができる。また、潤滑剤の移動によって導体成分に電流が誘電されるため、導電効果をさらに高めることもできる。
しかも本例では、1対の磁石素子16a、16bと玉4との距離aと、円周方向に隣り合う玉4の間隔bと、1対の磁石素子16a、16bのそれぞれの磁極ピッチcとが、前記関係式(1)及び(2)を満たすように、それぞれの値を規制している。したがって、本例の深溝型玉軸受1によれば、磁気漏洩を低減することができ、玉4を通過する磁束量を増やすことができるため、外輪2と内輪3とを十分に導通させることができる。
すなわち、前記関係式(1)を満たすことで、図3の(A)及び(C)に示したように、一方の磁石素子16a(又は他方の磁石素子16b)のN極から出て、玉4を通過する磁束のうち、円周方向に隣り合う玉4に流れる磁束量を低減させて、他方の磁石素子16b(又は一方の磁石素子16a)のS極に入る磁束量を増やすことができる。つまり、玉4から玉4への漏洩磁気を低減することができる。
さらに、前記関係式(2)を満たすことで、一方の磁石素子16a(又は他方の磁石素子16b)のN極から出た磁束が、該N極の円周方向に隣り合うS極に流れずに、玉4を直径方向に通過するようにすることができる。つまり、磁石素子16a、16aを構成する異極間での漏洩磁気を低減することができる。
したがって、本例の深溝型玉軸受1によれば、前記関係式(1)及び(2)を満たすことで、玉4を通過する磁束量を増やすことができるため、外輪2と内輪3とを十分に導通させることができる。
なお、本発明を実施する場合には、前記関係式(1)と前記関係式(2)とのいずれか一方を満たすように、距離aと、間隔bと、磁極ピッチcの値を規制することもできる。
[実施の形態の第1例の第1変形例]
実施の形態の第1例の第1変形例について、図4を用いて説明する。
本例の深溝型玉軸受1aは、磁場発生装置7aを構成する一方の磁石素子16aと玉4との距離d(mm)を、実施の形態の第1例の構造での距離aよりも短くしている(d<a)。すなわち、軸方向に関して保持器5のリム部13とは反対側に配置された一方の磁石素子16aと、玉4との距離を短くしている。これに対して、軸方向に関してリム部13側に配置された他方の磁石素子16bと玉4との距離は、実施の形態の第1例の構造と同じa(mm)のままとしている。
本例では、一方の磁石素子16aと玉4との距離を、実施の形態の第1例の構造よりも短くするために、磁石素子16aを固定するシールド板6cの形状を変更している。すなわち、シールド板6cの径方向中間部に、軸方向内側に張り出した(オフセットした)断面略コ字状の張出部17を形成している。そして、磁石素子16aを、張出部17の軸方向内側面に固定している。これにより、一方の磁石素子16aと玉4との距離dを短くしている。
さらに本例では、一方の磁石素子16aと玉4との距離dと、他方の磁石素子16bと玉4との距離aと、円周方向に隣り合う玉4の間隔bと、1対の磁石素子16a、16bのそれぞれの磁極ピッチcとが、次の関係式(3)及び(4)を満たすように、それぞれの値を規制している。
a+d<b・・・・・・・・(3)
a+d<c・・・・・・・・(4)
以上のような本例では、一方の磁石素子16aと玉4との距離dを、実施の形態の第1例の構造に比べて短くしているため、玉4を通過する磁束量を増やすことが可能になり、誘導起電力を増加させることができる。また、上記関係式(3)及び(4)を満たすことで、漏洩磁気を低減することができるため、この面からも、玉4を通過する磁束量を増やすことができる。
その他の構成及び作用効果については、実施の形態の第1例と同じである。
[実施の形態の第1例の第2変形例]
実施の形態の第1例の第2変形例について、図5を用いて説明する。
本例の深溝型玉軸受1bについても、磁場発生装置7bを構成する一方の磁石素子16aと玉4との距離d(mm)を、実施の形態の第1例の構造での距離aよりも短くしている(d<a)。すなわち、軸方向に関して保持器5のリム部13とは反対側に配置された一方の磁石素子16aと、玉4との距離を短くしている。これに対して、軸方向に関してリム部13側に配置された他方の磁石素子16bと玉4との距離は、実施の形態の第1例の構造と同じa(mm)のままとしている。
本例では、一方の磁石素子16aと玉4との距離を、実施の形態の第1例の構造よりも短くするために、深溝型玉軸受1bを構成する外輪2a及び内輪3aのそれぞれを、軸方向に関して非対称形状としている。具体的には、外輪軌道8a及び内輪軌道10aのそれぞれを、深溝型玉軸受1bの中心から軸方向一方側(図5の左側)にオフセットして形成している。このため、外輪軌道8a及び内輪軌道10aのそれぞれの中心から、外輪2a及び内輪3aのそれぞれの軸方向一方側の端面までの距離eは、外輪軌道8a及び内輪軌道10aのそれぞれの中心から、外輪2a及び内輪3aのそれぞれの軸方向他方側の端面までの距離fよりも短くなっている(e<f)。本例では、このような構成により、一方の磁石素子16aと玉4との距離dを短くしている。
さらに本例の場合にも、一方の磁石素子16aと玉4との距離dと、他方の磁石素子16bと玉4との距離aと、円周方向に隣り合う玉4の間隔bと、1対の磁石素子16a、16bのそれぞれの磁極ピッチcとが、次の関係式(3)及び(4)を満たすように、それぞれの値を規制している。
a+d<b・・・・・・・・(3)
a+d<c・・・・・・・・(4)
以上のような本例では、第1変形例で使用した、張出部を有するシールド板を使用しなくて済むため、コストの上昇を抑えられる。
その他の構成及び作用効果については、実施の形態の第1例、及び、実施の形態の第1例の第1変形例と同じである。
[実施の形態の第2例]
実施の形態の第2例について、図6を用いて説明する。本例では、転がり軸受装置の例として、自動車の車輪を回転自在に支持するためのハブユニット軸受18を用いて説明する。
ハブユニット軸受18は、内輪回転型で、かつ、従動輪用のいわゆる第3世代のハブユニット軸受である。ハブユニット軸受18は、外方部材である外輪19と、内方部材であるハブ20と、複数の転動体21a、21bと、1対の冠型保持器22a、22bと、シールリング23と、キャップ24と、1対の磁場発生装置25a、25bとを備える。
なお、ハブユニット軸受18に関して、軸方向外側は、車両に組み付けた状態で車両の幅方向外側となる図6の左側であり、軸方向内側は、車両に組み付けた状態で車両の幅方向中央側となる図6の右側である。
外輪19は、中炭素鋼などの導電性を有する金属製で、略円筒形状を有している。外輪19は、内周面に、複列の外輪軌道26a、26bを有しており、外周面の軸方向中間部に、径方向外側に向けて突出した静止フランジ27を有している。静止フランジ27は、円周方向複数箇所に、軸方向に貫通する支持孔28を有する。外輪19は、支持孔28へ挿通したボルトにより、車体を構成する懸架装置に対し支持固定され、車輪が回転する際にも回転しない。
ハブ20は、外輪19の径方向内側に外輪19と同軸に配置されており、中炭素鋼などの導電性を有する金属製のハブ輪29と、高炭素クロム鋼などの導電性を有する金属製の内輪30とを組み合わせてなる。ハブ20は、外周面のうち、複列の外輪軌道26a、26bと対向する部分に、複列の内輪軌道31a、31bを有している。
ハブ輪29は、内輪30を外嵌保持する軸部材であり、軸部32と、回転フランジ33と、パイロット部34とを有している。本例では、ハブユニット軸受18を、従動輪用としているため、ハブ輪29は、中実状に構成されている。ただし、本発明を、駆動輪用のハブユニット軸受に適用する場合には、ハブ輪として、径方向中央部に、軸方向に貫通するスプライン孔を有するものを使用することができる。スプライン孔には、等速ジョイントを構成する駆動軸がスプライン係合される。
軸部32は、ハブ輪29の軸方向内側部から軸方向中間部にわたる範囲に備えられている。軸部32は、軸方向内側部に、軸方向外側に隣接する部分よりも外径が小さい、内輪30が外嵌される小径部35を有しており、軸方向中間部の外周面に、外側列の内輪軌道31aを有している。軸部32は、軸方向内側の端部に、内輪30の軸方向内側の端面を押え付けるかしめ部36を有する。本発明を実施する場合には、軸部の軸方向内側の端部の外周面に雄ねじ部を形成し、該雄ねじ部にナットを螺合することにより、ハブ輪に対して内輪を固定しても良い。
回転フランジ33は、ハブ輪29のうち、外輪19の軸方向外側の端部よりも軸方向外側に位置する部分に備えられており、略円輪形状を有している。回転フランジ33は、径方向中間部の円周方向複数箇所に、軸方向に貫通する取付孔37を有する。取付孔37のそれぞれには、スタッド38が圧入されている。スタッド38の先端部には、図示しないナットが螺合される。これにより、車輪を構成するホイール及び制動用回転体を、回転フランジ33の軸方向外側に固定する。本発明を実施する場合には、回転フランジに雌ねじ孔を形成し、該雌ねじ孔にハブボルトを直接螺合することにより、ホイール及び制動用回転体を、回転フランジの軸方向外側に固定しても良い。
パイロット部34は、ホイール及び制動用回転体をがたつきのない隙間嵌めで外嵌するためのもので、ハブ輪29の軸方向外側の端部に備えられており、略円筒形状を有している。
内輪30は、円環形状を有しており、外周面の軸方向中間部に軸方向内側列の内輪軌道31bを有している。内輪30は、軸部32に備えられた小径部35に締り嵌めで外嵌されている。
外輪19の内周面とハブ20の外周面との間には、円環形状を有する環状空間39が備えられている。本例の場合にも、環状空間39には、外輪軌道26a、26b及び内輪軌道31a、31bと転動体21a、21bの転動面との間にEHL油膜を形成することを目的として、図示しない導電性を有しない潤滑剤(グリース)が封入されている。
転動体21a、21bは、高炭素クロム軸受鋼などの導電性を有する硬質金属製である。軸方向外側に配置された外側列の複数個の転動体21aは、外輪軌道26aと内輪軌道31aとの間に、円周方向に等間隔に配置されており、合成樹脂などの非磁性材製の冠型保持器22aにより転動自在に保持されている。これに対し、軸方向内側に配置された内側列の複数個の転動体21bは、外輪軌道26bと内輪軌道31bとの間に、円周方向に等間隔に配置されており、合成樹脂などの非磁性材製の冠型保持器22bにより転動自在に保持されている。これにより、ハブ20は、外輪19の径方向内側に回転自在に支持される。本例では、外側列及び内側列の円周方向に隣り合う転動体21a、21bの間隔を、いずれもb(mm)としている。
本例では、転動体21a、21bとして玉を使用しているが、玉に代えて円すいころを使用することもできる。また、本例では、軸方向外側列の転動体21aのピッチ円直径と、軸方向内側列の転動体21bのピッチ円直径とを互いに同じとしているが、軸方向外側列の転動体のピッチ円直径と、軸方向内側列の転動体のピッチ円直径とを、互いに異ならせることもできる。
シールリング23は、環状空間39の軸方向外側の開口部を塞ぐ。シールリング23は、芯金40とシール材41とを備える。
芯金40は、非磁性ステンレス鋼板を曲げ成形することにより、全体を円環状に構成されている。芯金40は、外輪19の軸方向外側の端部に内嵌固定されている。
シール材41は、ゴムのごときエラストマーなどの弾性材により構成され、芯金40に加硫接着により支持固定されている。シール材41は、少なくとも1本(図示の例では3本)のシールリップ42を有する。シールリップ42のそれぞれの先端部は、軸部32の外周面又は/及び回転フランジ33の軸方向内側面に全周にわたって摺接している。
キャップ24は、外輪19の軸方向内側の端部に内嵌され、外輪19の軸方向内側の開口部を塞ぐ。キャップ24は、非磁性ステンレス鋼板又は樹脂からなり、全体を有底円筒状に構成されている。すなわち、キャップ24は、外輪19の軸方向内側の端部に内嵌される円筒状の嵌合筒部43と、嵌合筒部43の軸方向外側の端部から径方向内側に向けて伸長した底板部44とを備える。底板部44は、断面クランク形で、径方向外側の端部に、径方向中央部に比べて軸方向外側にオフセットした張出部45を有している。
磁場発生装置25aは、環状空間39のうち、軸方向外側列の転動体21aが配置された軸方向外側の空間に、転動体21aの自転軸RОの方向に一致した方向の磁場を発生させる。これに対し、磁場発生装置25bは、環状空間39のうち、軸方向内側列の転動体21bが配置された軸方向内側の空間に、転動体21bの自転軸Rの方向に一致した方向の磁場を発生させる。
磁場発生装置25aは、転動体21aを自転軸RОの方向に関して両側から挟むように、異極同士(N極とS極)を環状空間39の全周にわたり交互に対向させた構成を有している。このために本例では、磁場発生装置25aを、それぞれが永久磁石製で円環状の1対の磁石素子46、47から構成している。
磁場発生装置25bは、転動体21bを自転軸Rの方向に関して両側から挟むように、異極同士(N極とS極)を環状空間39の全周にわたり交互に対向させた構成を有している。このために本例では、磁場発生装置25bを、それぞれが永久磁石製で円環状の1対の磁石素子48、49から構成している。
磁石素子46~49のそれぞれは、円環状に構成されており、N極とS極とが円周方向に関して交互にかつ等ピッチで配置された構成を有している。本例では、磁石素子46~49のそれぞれの磁極ピッチ(N極-S極間ピッチ)を、いずれもc(mm)としている。そして、磁場発生装置25aを構成する一方の磁石素子46と他方の磁石素子47とを、円周方向に磁極ピッチ分だけずらして配置することで、一方の磁石素子46のすべてのN極と他方の磁石素子47のすべてのS極とを軸方向に対向させ、かつ、一方の磁石素子46のすべてのS極と他方の磁石素子47のすべてのN極とを軸方向に対向させている。また、磁場発生装置25bを構成する一方の磁石素子48と他方の磁石素子49とを、円周方向に磁極ピッチ分だけずらして配置することで、一方の磁石素子48のすべてのN極と他方の磁石素子49のすべてのS極とを軸方向に対向させ、かつ、一方の磁石素子48のすべてのS極と他方の磁石素子49のすべてのN極とを軸方向に対向させている。
磁場発生装置25aを構成する一方の磁石素子46は、シールリング23を構成する芯金40の軸方向内側面に支持固定されている。本例では、磁石素子46を芯金40に支持した状態で、磁石素子46と外側列の転動体21aとの距離を、a(mm)としている。なお、本発明を実施する場合には、磁場発生装置25aを構成する一方の磁石素子46を、永久磁石製の磁石素子に代えて、シールリングを構成するシール材とは別に、磁性ゴムを加硫成形接着し、該磁性ゴム材を全周にわたり着磁することで、当該着磁部分を磁石素子として用いることもできる。
磁場発生装置25aを構成する他方の磁石素子47は、外輪19の内周面の軸方向中間部に、ホルダ50を利用して支持されている。ホルダ50は、たとえば合成樹脂などの非磁性材料製で、外輪19の内周面の軸方向中間部に支持固定されている。同様に、磁場発生装置25bを構成する一方の磁石素子48は、外輪19の内周面の軸方向中間部に、ホルダ50を利用して支持されている。本例では、磁石素子47、48をホルダ50に支持した状態で、磁石素子47と外側列の転動体21aとの距離、及び、磁石素子48と内側列の転動体21bとの距離を、それぞれa(mm)としている。なお、本発明を実施する場合には、ホルダ50に支持された1対の磁石素子47、48を、一体に構成することもできるし、別体に構成することもできる。
磁場発生装置25bを構成する他方の磁石素子49は、キャップ24を構成する底板部44の張出部45の軸方向外側面に支持固定されている。本例では、磁石素子49をキャップ24に支持した状態で、磁石素子49と外側列の転動体21bとの距離を、a(mm)としている。
本発明を実施する場合に、シールリング23に対する磁石素子46の取付手段、ホルダ50に対する磁石素子47、48の取付手段、キャップ24に対する磁石素子49の取付手段は特に問わないが、たとえば接着剤を利用して取り付けることができる。
図示の例では、軸方向外側に配置された磁石素子46の大きさを、軸方向中間部に配置された磁石素子47、48及び軸方向内側に配置された磁石素子49の大きさよりも小さくしているが、本発明を実施する場合には、磁石素子46~49の大きさは、適宜変更することができる。
本例のハブユニット軸受18では、外側列の転動体21a及び磁場発生装置25aに関して、1対の磁石素子46、47と転動体21aとの距離aと、円周方向に隣り合う転動体21aの間隔bと、1対の磁石素子46、47のそれぞれの磁極ピッチcとが、次の関係式(1)及び(2)を満たすように、それぞれの値を規制している。同様に、内側列の転動体21b及び磁場発生装置25bに関しても、1対の磁石素子48、49と転動体21bとの距離aと、円周方向に隣り合う転動体21bの間隔bと、1対の磁石素子48、49のそれぞれの磁極ピッチcとが、次の関係式(1)及び(2)を満たすように、それぞれの値を規制している。
2×a<b・・・・・・・・(1)
2×a<c・・・・・・・・(2)
磁場発生装置25aは、環状空間39の軸方向外側の空間内に、転動体21aの自転軸RОの方向に一致した、円周方向に一様でない磁場を発生させる。具体的には、磁場発生装置25aは、環状空間39の軸方向外側の空間内に、軸方向外側から内側を向いた磁場と、軸方向内側から外側を向いた磁場とを、環状空間39の円周方向に交互に発生させる。
磁場発生装置25bは、環状空間39の軸方向内側の空間内に、転動体21bの自転軸Rの方向に一致した、円周方向に一様でない磁場を発生させる。具体的には、磁場発生装置25bは、環状空間39の軸方向内側の空間内に、軸方向外側から内側を向いた磁場と、軸方向内側から外側を向いた磁場とを、環状空間39の円周方向に交互に発生させる。
ハブユニット軸受18の運転時には、転動体21a、21bのそれぞれは、自転軸RО、Rを中心に自転しつつ、ハブユニット軸受18の中心軸Оを中心に環状空間39を公転する。そして、軸方向外側列の転動体21aが環状空間39を公転する際に、転動体21aは、磁場発生装置25aが発生させる磁場を円周方向に横切るため、フレミング右手の法則により、転動体21aには接触角の方向(自転軸RОに直交する方向)の起電力が発生する。また、軸方向内側列の転動体21bが環状空間39を公転する際に、転動体21bは、磁場発生装置25bが発生させる磁場を円周方向に横切るため、フレミング右手の法則により、転動体21bにも接触角の方向(自転軸Rに直交する方向)の起電力が発生する。
本例のハブユニット軸受18は、転動体21a、21bが公転する際に、転動体21a、21bが、磁場発生装置25a、25bが発生させる軸方向外側から内側を向いた磁場と軸方向内側から外側を向いた磁場とを交互に横切るため、転動体21a、21bには、それぞれ交流起電力が発生する。このため、転動体21a、21bのそれぞれには、磁場発生装置25a、25bが発生する磁場を横切る度に、交流電流(交番磁界)が流れようとすることになる。
したがって、本例の場合にも、転動体21a、21bに起電力を発生させて、EHL油膜に誘電現象を生じさせることにより、外輪19とハブ20とを導通させることができる。この結果、車体に帯電した静電気を、ハブユニット軸受18を通じて、タイヤ側に効率良く逃がすことができる。なお、ハブユニット軸受18は、複列軸受であるため、外側列又は内側列のいずれか一方の列にのみ磁場発生装置25a、25bを設け、外側列又は内側列のいずれか他方の列の磁場発生装置25a、25bを省略することもできる。
また、ゴム製のタイヤは、電気的には抵抗とコンデンサとの並列回路としての特性を有しているため、交流起電力による導電の方が、抵抗値が下がり、車体の帯電の除去効果を高めることができる。
しかも、ハブユニット軸受18の回転速度(ハブ20の回転速度)が上昇するほど、転動体21a、21bの公転速度が上昇し、転動体21a、21bが磁場を横切る頻度が高くなる(時間間隔が短くなる)ので、発生する交流電流の周波数は上昇する。このため、外輪19とハブ20との導通効果は、ハブユニット軸受18の回転速度が上昇するほど高くなる。したがって、本例のハブユニット軸受18によれば、車速が上昇し、車体に静電気が帯電しやすい場合ほど、外輪19とハブ20との導通効果を高めることができ、車体に帯電した静電気をタイヤ側へと効率良く逃がすことができる。また、タイヤの導電能力を重視する場合には、外側列又は内側列のいずれか一方の列にのみ磁場発生装置25a、25bを設けることで、両列に配置した磁場発生装置25a、25bが発生する交流起電力が打ち消し合わないようにすることが好ましい。
さらに、本例のハブユニット軸受18は、転動体21a、21bに発生する交流の起電力を利用して帯電の除去を行えるため、ハブユニット軸受18の回転方向、及び、ハブユニット軸受18の組み付け方向に関係なく、車体からタイヤ側へと静電気を逃がす(除去)ことができる。
しかも本例では、外側列の転動体21a及び磁場発生装置25aに関して、1対の磁石素子46、47と転動体21aとの距離aと、円周方向に隣り合う転動体21aの間隔bと、1対の磁石素子46、47のそれぞれの磁極ピッチcとが、前記関係式(1)及び(2)を満たすように、それぞれの値を規制している。また、内側列の転動体21b及び磁場発生装置25bに関しても、1対の磁石素子48、49と転動体21bとの距離aと、円周方向に隣り合う転動体21bの間隔bと、1対の磁石素子48、49のそれぞれの磁極ピッチcとが、前記関係式(1)及び(2)を満たすように、それぞれの値を規制している。したがって、本例のハブユニット軸受18によれば、磁気漏洩を低減することができ、転動体21a、21bを通過する磁束量を増やすことができるため、外輪19とハブ20とを十分に導通させることができる。
なお、本発明を実施する場合に、外側列の転動体21aと、軸方向に関して冠型保持器22aのリム部とは反対側の磁石素子46との距離を、外側列の転動体21aと、軸方向に関して冠型保持器22aのリム部側の磁石素子47との距離aよりも短い、d(mm)とすることもできる。あるいは、内側列の転動体21bと、軸方向に関して冠型保持器22bのリム部とは反対側の磁石素子49との距離を、内側列の転動体21bと、軸方向に関して冠型保持器22bのリム部側の磁石素子48との距離aよりも短い、d(mm)とすることもできる。この場合には、前記関係式(1)及び(2)の代わりに、実施の形態の第1例の第1変形例及び第2変形例で説明した、前記関係式(3)及び(4)を満たすようにすることができる。
その他の構成及び作用効果については、実施の形態の第1例と同じである。
[実施の形態の第2例の変形例]
実施の形態の第2例の変形例について、図7を用いて説明する。
本例のハブユニット軸受18aでは、磁場発生装置25aを構成する軸方向内側の磁石素子47a、及び、磁場発生装置25bを構成する軸方向外側の磁石素子48aに関して、それぞれの構造及び外輪19に対する支持構造を、実施の形態の第2例の構造から変更している。
すなわち、本例では、磁石素子47a、48aとして、実施の形態の第2例の構造の磁石素子47、48よりも板厚が薄い、いわゆる磁気エンコーダの如き形状を採用している。そして、磁石素子47a、48aを、非磁性のステンレス鋼板などの耐食性を有する金属板製で、全体が円環状に構成された保持板51a、51bを利用して、外輪19に取り付けている。
保持板51a、51bのそれぞれは、径方向外側の端部を外輪19の内周面の軸方向中間部に形成された係止凹溝52a、52bに対して係止することで、外輪19に固定されている。磁石素子47aは、保持板51aの軸方向外側面に対して取り付けられており、磁石素子48aは、保持板51bの軸方向内側面に対して取り付けられている。
以上のような構成を有する本例では、外輪19に対して、磁場発生装置25a、25bを容易に取り付けることができる。また、磁石素子47a、48aを、外輪19に対して独立して取り付けることができるため、外側列の転動体21aと内側列の転動体21bとの列間距離が大きい構造に適用した場合に、軽量化を図りやすくなる。
その他の構成及び作用効果については、実施の形態の第2例と同じである。
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明はこれに限定されることなく、発明の技術思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。また、実施の形態の各例の構造は、矛盾を生じない限りにおいて、適宜組み合わせて実施することができる。
本発明を実施する場合に、転がり軸受装置として、ハブユニット軸受のように、複列の軸受を採用する場合には、一方側の列に配置する磁場発生装置と、他方側の列に配置する磁場発生装置とで、磁石素子と転動体との距離、及び、磁極ピッチを、互いに異ならせることもできる。
本発明を実施する場合に、磁場発生装置を構成する磁石素子は、永久磁石製とすることもできるし、磁性ゴムを着磁して構成することもできる。また、磁石素子の形状及び大きさについても、実施の形態の各例の構造に限定されず、適宜変更することができる。さらに、本発明の転がり軸受装置は、深溝型玉軸受、ハブユニット軸受に限定されず、単列、複列を問わず、アンギュラ玉軸受、円筒ころ軸受、ニードル軸受、円すいころ軸受、球面ころ軸受など、各種の軸受に適用することができる。また、本発明の転がり軸受装置は、内輪回転型に限らず、外輪回転型の構造にも適用できる。
1、1a、1b 深溝型玉軸受
2、2a 外輪
3、3a 内輪
4 玉
5 保持器
6a、6b、6c シールド板
7 磁場発生装置
8、8a 外輪軌道
9a、9b 係止凹溝
10、10a 内輪軌道
11a、11b シール凹溝
12 環状空間
13 リム部
14 柱部
15 ポケット
16a、16b 磁石素子
17 張出部
18、18a ハブユニット軸受
19 外輪
20 ハブ
21a、21b 転動体
22a、22b 冠型保持器
23 シールリング
24 キャップ
25a、25b 磁場発生装置
26a、26b 外輪軌道
27 静止フランジ
28 支持孔
29 ハブ輪
30 内輪
31a、31b 内輪軌道
32 軸部
33 回転フランジ
34 パイロット部
35 小径部
36 かしめ部
37 取付孔
38 スタッド
39 環状空間
40 芯金
41 シール材
42 シールリップ
43 嵌合筒部
44 底板部
45 張出部
46 磁石素子
47、47a 磁石素子
48、48a 磁石素子
49 磁石素子
50 ホルダ
51a、51b 保持板
52a、52b 係止凹溝

Claims (4)

  1. 内周面に外輪軌道を備えた、導電性を有する外方部材と、
    外周面に内輪軌道を備えた、導電性を有する内方部材と、
    前記外輪軌道と前記内輪軌道との間に、円周方向に関して等間隔に配置された、導電性を有する複数の転動体と、
    前記外方部材の内周面と前記内方部材の外周面との間に存在する環状空間に、前記転動体の自転軸の方向に一致した方向の磁場を発生させる、磁場発生装置と、を備え、
    前記磁場発生装置が発生させる磁場は、前記環状空間の円周方向において向きが交互に変化するものであり、
    前記磁場を横切るように前記転動体を公転させることで、前記転動体に接触角の方向の起電力を発生させる、
    転がり軸受装置。
  2. 前記磁場発生装置は、それぞれが円環状でN極とS極とが円周方向に関して交互にかつ等ピッチで配置された1対の磁石素子を、前記転動体を自転軸の方向に関して両側から挟むように、異極同士を対向配置させて構成されており、
    1対の前記磁石素子のうち、一方の前記磁石素子と前記転動体との間の距離、及び、他方の前記磁石素子と前記転動体との間の距離を、それぞれaとし、
    円周方向に隣り合う前記転動体の間隔をbとし、
    1対の前記磁石素子のそれぞれの磁極ピッチをcとした場合に、
    2×a<b、及び、2×a<cの関係を満たす、
    請求項1に記載した転がり軸受装置。
  3. 円環状のリム部と複数本の柱部とを有し、前記転動体を転動自在に保持する、非磁性材製の冠型保持器をさらに備え、
    前記磁場発生装置は、それぞれが円環状でN極とS極とが円周方向に関して交互にかつ等ピッチで配置された1対の磁石素子を、前記転動体を自転軸の方向に関して両側から挟むように、異極同士を対向配置させて構成されており、
    1対の前記磁石素子のうち、軸方向に関して前記リム部とは反対側に配置された一方の前記磁石素子と前記転動体との間の距離をdとし、かつ、軸方向に関して前記リム部側に配置された他方の前記磁石素子と前記転動体との間の距離をaとし、
    円周方向に隣り合う前記転動体の間隔をbとし、
    1対の前記磁石素子のそれぞれの磁極ピッチをcとした場合に、
    d<a、a+d<b、及び、a+d<cの関係を満たす、
    請求項1に記載した転がり軸受装置。
  4. 前記外方部材と前記内方部材との一方は、使用時に回転しない静止輪であり、
    前記外方部材と前記内方部材との他方は、使用時に車輪とともに回転する回転輪である、
    請求項1~3のうちのいずれか1項に記載した転がり軸受装置。
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