JP2023064990A - 磁気冷凍材料とその製造方法 - Google Patents

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Keiji Oyoshi
美代子 田中
Miyoko Tanaka
貴史 山本
Takashi Yamamoto
浩幸 竹屋
Hiroyuki Takeya
亜 許
Tsugi Kyo
良彦 武田
Yoshihiko Takeda
健則 沼澤
Takenori Numazawa
宏一 松本
Koichi Matsumoto
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Abstract

【課題】磁気冷凍材料の製造環境や使用環境等による、機械的な破損を防止する手段を提供する。【解決手段】磁気冷凍材料の機械的な破損が、水素化により生じ得ることを見出したので、耐水素化に優れる磁気冷凍材料を提供する。RT2で表されるラーベス相化合物であり、Rは、少なくとも1種類以上の希土類元素であり、Tは、Co、Ni、Al、及びFeからなる群から選択される少なくとも1種類以上の元素であり、酸化物を含む表層の厚みが10nm以上であり、形成された酸化物層の体積と全体の体積の比が3/4以下である磁気冷凍材料を提供する。【選択図】図14

Description

本発明は、磁気冷凍材料とその製造方法に関する。
省エネ・低炭素化社会が進む未来水素社会の実現のためには、気体水素の1/800の体積であり、大量輸送、大量供給、大量貯蔵、省スペース、超高純度の特徴を持つ液体水素の活用が不可欠であるが、現状の圧縮機による水素液化技術には、製造時の液化効率の低さや蒸発による損失などの問題がある。ここで、磁気冷凍は、磁気熱量効果を示す磁性材料を冷媒として用いる冷却技術であり、磁場増加・減少のサイクルによって強磁性・常磁性相転移を起こし、そこで生じる吸熱反応・発熱反応を利用して冷凍する。磁気冷凍機は、気体の圧縮・膨張による冷凍機と比較して、エネルギー効率が高く、低コストで水素を液化することが可能な冷凍機として開発がなされている(例えば、https://www.jst.go.jp/mirai/jp/program/large-scale-type/theme06.html参照)。
従来より、種々の磁気冷凍材料が提案されてきている(例えば、特許文献1~3)。また、磁気冷凍材料の開発には、目的とする温度(水素液化では20ケルビン)付近において磁性材料の磁場オン・オフ時における大きな磁気エントロピー変化をもたらすことが重要であり、これまで室温磁気冷凍材料では(例えば、La(FeSi)13)を代表とした材料開発が行われている。また、水素液化温度付近においても、ラーベス相(例えば、ErCo)といった材料で、大きな磁気エントロピー変化を有することが知られている。
しかしながら、磁気冷凍材料は使用環境により水素化物を形成し得る。通常、水素化は、過多になると、母体となる金属を脆化することが多く、機械特性が劣化するとされる。
一方、金属よりも水素の拡散速度が遅い、例えば、AlやCrのような金属の酸化物、TiNやSiNのような金属の窒化物、SiCのような金属の炭化物が知られている(例えば、非特許文献1)。
特開2008-214733号公報 特開2007-262457号公報 特開2006-265631号公報
上述のように、種々の磁気冷凍材料が提案されてきているが、このような磁気冷凍材料の製造環境や使用環境等における挙動については詳しく調べられてこなかった。特に、水素との接触が多いと考えられる磁気冷凍材料の水素との化学反応は注目に値するが、充分な知見が得られてきたとは言い難い。
本発明者らは、かかる背景の下、鋭意研究を行った結果、金属からなる磁気冷凍材料において、水素化が進行した場合、その過程で、多くは水素化物形成後の体積膨張により粉々になるおそれがあることを発見した。また、水素化によって磁気特性も大きく変化し、磁気冷凍材料としての機能が低下することを発見した。
金属からなる磁気冷凍材料の水素化は、機械特性及び磁気特性にも影響を及ぼす水素化物の形成につながる。水素化物の形成を防ぐためには、水素バリア層を利用することが考えられる。このような水素バリア材料として、MoやWのような金属、AlやCrのような酸化物、TiNやSiNのような窒化物、SiCのような炭化物が考えられる。
そこで、水素化を防ぐために、磁気冷凍材料の表層に水素バリア層を形成することを見出した。これにより水素化を有効に防止することができる。例えば、酸素雰囲気で熱処理を行い表層に酸化層を形成することで、下地の磁気冷凍材料との密着性が良く、安価で加工が容易な水素バリアコーティングを実現することができる。これにより、磁気熱量効果が大きいが水素化しやすいラーベス相の化合物等を水素雰囲気で磁気冷凍材料として使用することがより容易になる。
磁気冷凍材料を磁気冷凍機に用いる場合、気体や液体との熱の交換の最大化の観点から、直径約300ミクロンの粒(球)に成形することが多い。磁気冷凍材料として、磁気熱量効果の大きい材料、例えばラーベス相の化合物の中でErCoを挙げることができるが、磁気特性の改善のために不活性雰囲気下又は真空下800℃程度の温度で1週間程度の長時間の均質化熱処理を行うことが好ましい。均質化熱処理後の試料を水素雰囲気に曝すと、水素化のために短時間のうちに粉々になり、磁気特性が大きく変化し、磁気冷凍材料として機能しなくなるおそれがある。加えて、従来知られている水素バリア材料を表面に隙間や凹凸のある直径300ミクロンの粒(球)に均一に成膜することは技術的に困難であるだけでなく、仮に実現できたとしても高コストである。
そこで、本発明者らは、表面に水素バリアを付けるのではなく、磁気冷凍材料の表面を処理して、水素バリア層を形成することに成功した。
このような処理は、酸化性の雰囲気中で加熱することで実施可能である。酸化性の雰囲気は、例えば、酸素を含む雰囲気でもよく、酸素を放出する化合物を含む雰囲気であってもよい。このような酸化性の雰囲気での熱処理は均質化の熱処理の後に行うことが好ましい。酸素雰囲気を含む酸化性の雰囲気での熱処理後に均質化の熱処理を行うと、酸素がより内部に拡散し、水素のバリア効果が損なわれるおそれがある。形成された酸化物層が自然酸化膜より10nm以上厚いことが好ましい。薄すぎると十分な水素バリア効果が得られないおそれがある。一方、厚すぎると磁気冷凍材料としての磁気特性が劣化するおそれがある。酸化物層と全体との体積比は3/4以下が望ましい。
また、酸化物層の形成後に不活性な雰囲気下又は真空下で均質化熱処理温度以下の温度で熱処理することが好ましい。水素バリア効果が更に高まることがある。磁気冷凍材料は、バルク状、薄膜状、粒子状、微粒子状、超微粒子状などのような形態であってもよい。例えば、30nm以上3000μm以下の粒又は球を磁気冷凍材料において、酸素雰囲気での熱処理による酸化物の形成では隙間で繋がった粒又は球の内部の空洞の表層まで均一に酸化物層の形成が可能である。粒又は球の成形において、隙間や凹凸が表面に形成されたり、空洞が内部に形成されることもあり、スパッタリングやめっきなどの乾式・湿式の成膜方法では、均一な酸化物層形成は必ずしも容易ではなく、比較的に高コストである。
具体的には、以下のようなものを含んでよい。
RTで表されるラーベス相化合物であり、Rは、少なくとも1種類以上の希土類元素であり、Tは、Co、Ni、Al、及びFeからなる群から選択される少なくとも1種類以上の元素であり、酸化物を含む表層の厚みが10nm以上であり、形成された酸化物層の体積と全体の体積の比が3/4以下である磁気冷凍材料。
上述する何れかの磁気冷凍材料において、Rは、スカンジウム,イットリウム,ランタン,セリウム,プラセオジム,ネオジム,プロメチウム,サマリウム,ユウロピウム,ガドリニウム,テルビウム,ジスプロシウム,ホルミウム,エルビウム,ツリウム,イッテルビウム,ルテチウムからなる群から選択される少なくとも1種類以上の元素である磁気冷凍材料。
上述する何れかの磁気冷凍材料において、Rは、エルビウムである磁気冷凍材料。
上述する何れかの磁気冷凍材料において、Tは、コバルトである磁気冷凍材料。
上記酸化物層は、いわゆる自然酸化膜よりも厚いものであってよい。
上記酸化物層は、ErCo(x+y+z=1)で表される化合物を含み、0≦x≦0.6、0<y≦0.6、0<z≦0.6である磁気冷凍材料。ここで、0≦x≦0.7であってもよく、0≦x≦0.65であってもよい。0<y≦0.7であってもよく、0<y≦0.65であってもよい。0<z≦0.7であってもよく、0<z≦0.65であってもよい。
上述する何れかの磁気冷凍材料において、磁気冷凍材料の形状が、球体、楕円体、又は扁楕円体近似可能な形状である磁気冷凍材料。
上述する何れかの磁気冷凍材料において、その形状を球近似をした場合に、直径が60nm以上であり、6000μm以下である磁気冷凍材料。
上述する何れかの磁気冷凍材料において、構成する各粒体の平均粒径が、上述するように球近似をした場合に、60nm以上、6000μm以下である磁気冷凍材料。上記平均粒径は、100nm以上であってもよく、200nm以上であってもよく、300nm以上であってもよい。上記平均粒径は、6000μm以下であってもよく、1000μm以下であってもよく、300μm以下であってもよい。
上述する何れかの磁気冷凍材料を備えるAMRベッド。
上述する何れかのAMRベッドを備えた磁気冷凍装置。
上述する何れかの磁気冷凍装置であって、前記AMRベッドに磁場を印加する磁場印加手段と、冷温により被冷却物を冷却する冷凍ステージと、前記AMRベッドにより発生する温熱を排熱する熱交換器とを更に備える磁気冷凍装置。
RTで表されるラーベス相化合物を含む磁気冷凍材料の耐水素化を向上させる方法であって、Rは、少なくとも1種類以上の希土類元素であり、Tは、Co、Ni、Al、及びFeからなる群から選択される少なくとも1種類以上の元素であり、磁気冷凍材料を成形するステップと、磁気冷凍材料の表面に水素バリア層を形成するステップと、を含む、方法。
RTで表されるラーベス相化合物を含む磁気冷凍材料の耐水素化を向上させる方法であって、Rは、少なくとも1種類以上の希土類元素であり、Tは、Co、Ni、Al、及びFeからなる群から選択される少なくとも1種類以上の元素であり、磁気冷凍材料を成形するステップと、成形された磁気冷凍材料を均質化処理するステップと、磁気冷凍材料の表面に水素バリア層を形成するステップと、を含む、方法。上記水素バリア層を形成するステップは、磁気冷凍材料を所定の雰囲気中で熱処理するステップを含んでもよい。上記所定の雰囲気は、酸化性の雰囲気を含んでよい。この酸化性の雰囲気は、酸素又は活性な酸素を放出可能な化合物を含む雰囲気を含んでもよい。酸素を含む酸化性の雰囲気において、酸素の分圧は、100Pa以上が好ましく、1000Pa以上が好ましく、10000Pa以上が好ましい。酸素の分圧の上限は、特にないが、好ましい水素バリア層(酸化物層を含んでもよい)を形成可能な圧力が好ましく、例えば、大気圧中の酸素の分圧程度であってもよい。
上述する何れかの方法において、前記水素バリア層を形成するステップ後に、不活性な雰囲気下で、磁気冷凍材料を熱処理するステップを含む、方法。前記水素バリア層を形成するステップは、酸化物層を形成するステップを含んでもよい。
上述する水素バリア層を形成するステップは、成形された磁気冷凍材料を酸化性雰囲気中で所定の温度範囲内で保持するステップを含んでもよい。上記所定の温度範囲は、250℃以上、850℃以下であってもよい。また、上記所定の温度範囲は、150℃以上であってもよく、200℃以上であってもよく、250℃以上であってもよい。また、上記所定の温度範囲は、1000℃以下であってもよく、900℃以下であってもよく、850℃以下であってもよい。
磁気冷凍材料を製造する方法であって、上述する何れかの磁気冷凍材料の耐水素化を向上させる方法を含む製造方法。
以上のように、本発明の実施例において、磁気冷凍材料の水素化を低下させることができるので、その磁気冷凍材料の成形体の形状を維持することができ、また、磁気冷凍材料としての機能を保持することができる。
本発明の実施例において使用可能な磁気冷凍材料を構成してもよいラーベス相化合物の1つの例であるErCoの結晶構造を図解する。 試料1を水素ガス中で密閉したときの水素の圧力変化を示す図である。 試料1について、水素暴露前後の粒の光学顕微鏡による観察結果を示す図である。 試料1の水素暴露前後の磁化の温度変化を示す図である。 試料1の水素暴露前後の磁化の磁場に対する変化を示す図である。 試料2を水素ガス中で密閉したときの水素の圧力変化を示す図である。 試料2について、水素暴露前後の粒の光学顕微鏡による観察結果を示す図である。 試料3を水素ガス中で密閉したときの水素の圧力変化を示す図である。 試料3について、水素暴露前後の粒の光学顕微鏡による観察結果を示す図である。 試料1から試料3のEDSスペクトルを示す図である。 本発明の実施例において、(1)~(4)の磁化の磁場に対する変化を示す図である。 本発明の実施例において、(1)~(4)の磁化の温度変化を示す図である。 本発明の実施例において、(1)~(4)の規格化した磁化の温度変化を示す図である。 試料1の磁気冷凍材料の粒子の断面を解析する図を示す。 試料2の磁気冷凍材料の粒子の断面を解析する図を示す。 試料3の磁気冷凍材料の粒子の断面を解析する図を示す。 磁気冷凍装置を模式的に示す図である。
以下、図面を参照しながら本発明の実施例について説明する。なお、同様の要素には同様の番号を付し、その説明を省略する。
図1は、本発明の実施例において、ErCoの結晶構造を図解する。構造はラーベス相のMgCu型で、格子パラメータはa=b=c=0.71536nm、α=β=γ=90°である。このようなラーベス相では原子半径比がおおよそ1.2:1のA,B金属元素がABの組成比で結合して化合物を形成している。大きな原子Aと小さな原子Bからなる結晶構造は大小の球の詰め込み構造と考えられ、特定の格子位置であるAサイト及びBサイトに入る。Aサイトは4ヶのAと12ヶのB原子を隣接原子として持ち、Bサイトは6ヶのA原子と6ケのB原子によって取り囲まれる。現想的なラーベス相結晶では、A-A原子、B-B原子はそれぞれ接触し、A-B原子間の接触はないように原子充填が行なわれている。このような場合に,両原子の原子半径比には、RA/RB=√3/2=1.225の関係が成立する。一般に、Aサイトに配置された原子はダイヤモンド構造と同様な配置となり、Bサイトの原子はAサイト周りに4面体を形成する。ラーベス相化合物は一種の稠密充填構造なので、面心立方格子と六方稠密格子の違いに似た原子の積み重ねの違いによって,cubicのMgCu型(C15)、hexagonalのMgZn型(C14)、MgNi型(C36)の3種類の結晶構造を有している。
RAl(R=Ce、Pr、Nd、Sm、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Lu)は、RAl中の稀土類金属の磁気モーメント間には明らかに強磁性的な交換相互作用が働いているが、HoAlにみられるように、得られた磁気モーメントはHoの3価イオンの理論的モーメント値gIより低いとされた。
例えば、RT(R=Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb)において、RNi(R=Pr、Nd、Sm、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm)、RCo(R=Y、Ce、Pr、Nd、Sm、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Lu)、RFe(R=Ce、Sm、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Lu、Y)の磁気のデータが既に調べられている。
このように、ErCo、ErNi、ErAl、ErFeは、MgCu型のラーベス相金属間化合物であるだけでなく、磁気冷凍材料として機能を発揮することが明らかである。また、これらの表面の酸化物層は、水素バリア層として機能し得る。以下の実験例では、特に、ErCoについて述べるが、同様なことは、これらの何れのラーベス相金属間化合物も同様であることは、当業者に理解される。
[実験例]
(ErCoの調製)
原料として、長汀金龍稀土株式会社(Fujian Changting Golden Dragon Rare-Earth Co., Ltd.)製の塊状Er(3N、純度99.9%)及び住友金属鉱山株式会社製の塊状Co(3N、純度99.9%)を、モル比でErCoになるように秤量し、アルゴン中で高周波溶解炉により溶解し、ErCoを合成した。合成したErCoから鋳造インゴット棒を作製した。日新技研株式会社製のフリーフォール式ガスアトマイズ装置を用いて、この鋳造インゴット棒を電極として先端を1400℃ぐらいまで高周波溶解し、生じた落下溶湯流に、1~5MPaに加圧したアルゴンをガスジェットノズルを通して吹き付け、溶湯流を攪拌してアトマイズした。これにより、直径約300ミクロンの粒に成形した。得られた直径約300ミクロンの粒は、タンタルフォイルに包み、ステンレス製の管内に配置し、このステンレス製の管内にアルゴンガスを約0.5気圧封入した。この封入管をマッフル炉に投入して、室温から約5℃/minの昇温速度で加熱し、850℃に到達後、1週間、その温度を維持した。その後、炉の電源を落として室温まで冷却した。このようにして、Ar雰囲気下において850℃で1週間の均質化熱処理を行ったものを試料1として一部取り出した。このときの粒の球近似をしたときの平均直径は、約300μmであった。平均粒径は後述するような方法で求めることができる。また、概ね約212μmから約355μmの粒径のものであった。
(酸化熱処理)
均質化熱処理後の粒状試料をアルミナ製るつぼに入れ、少し隙間を開けた状態で蓋をし、マッフル炉を用いて大気雰囲気で室温から25℃/min程度の昇温速度で500℃まで加熱した後、500℃で30分間保持し、酸化処理を行った。その後、炉の電源を切り、5℃/min程度の速度で350℃まで冷却し、マッフル炉の扉を開け、るつぼの蓋を閉め、10℃/min程度の速度で200℃以下まで冷却し、蓋をしたるつぼを炉から取り出して室温大気中で10分間放置してから試料2を取り出した。このようにして、得られた粒状試料同士はお互いの接点で接着するが、軽く振動を加えると解体し、粒状に戻った。
(真空熱処理)
酸化熱処理後の粒状試料(試料2)の一部をタンタルフォイルに包み、片封じ石英管内に設置し、真空引きを行い、3×10-4Pa程度の真空下で、室温より6.7℃/minの速度で電気炉により530℃に加熱した後、5時間維持した(真空下500℃で5時間熱処理)。その後、電源を落として室温まで冷却して真空排気を止め、石英管内に大気を導入して試料を取り出した。このようにして、試料3を得た。
(水素暴露試験)
試料1~3を同量計量し、同じ体積の別々の容器に12気圧で水素ガスを充填して密閉し、室温でのその後の圧力変化により水素化の過程を調べた。その結果を図2、図6、図8に示す。これらの図で上方のプロットが、水素圧力であり、下方のプロットが温度を示す。密閉後、最大7日間観測を続けた。試料1では、水素圧力が約1時間ほどで1.28MPaから1.08MPaほどまで大きく下がり、その後ほぼ一定となった(図2)。このことから、水素化が完了したことが分かる。即ち、均質化処理だけを行った試料1では、いわゆる水素バリア効果が認められなかった。この時の温度は、24℃から23℃であった。また、試料2では、封入後1時間以内の水素圧力の急激な低下は見られず、時間に比例して徐々に水素圧力が低下して、最初1.28MPaから7日後に1.25MPa(水素圧2.2%減)になった(図6)。これにより、試料2は時間に比例して徐々に水素化が進行し、7日間で試料1の反応水素量の14%程度の水素化が認められた。この時の温度は、23.5℃から22.5℃であった。試料3では、封入後2日間は水素圧力の低下が認められず、その後徐々に減少して、1.27MPaから7日後に1.25MPa(水素圧2.0%減少)になった(図8)。また、水素圧力の低下速度が6日目頃から特に小さくなった。このように、試料3は、時間と共に徐々に水素化が進行するも、反応が飽和する傾向が認められ、7日間で試料1の反応水素量の13%程度の水素化が認められた。
(光学顕微鏡観察)
試料1~3について、水素暴露前後でErCo粒を光学顕微鏡で観察した(図3、図7、図9)。図3から分かるように、(A)試験前には、粒が明確に認められるが、(B)試験後は、殆ど全ての粒が壊れて粉々になっているのが認められる。これは、水素暴露後に水素化による体積膨張のため粒が粉々になっていたためと考えられる。このような粉々になったものは、磁気特性を測定するまでもなく、磁気冷凍材料として好ましくないことが分かる。図7及び図8から分かるように、試料2及び試料3は、(A)試験前にあった大半の粒はそのままで、(B)試験後には一部の粒だけが粉々になっていた。つまり、水素暴露後に水素化による体積膨張が抑制されたことが分かる。即ち、試料2及び試料3において明確な水素バリア効果があること、水素バリア効果は試料2よりも試料3の方が大きかったことが分かる。
(磁気特性の評価1)
上述する試料1について、水素暴露前及び後の磁気特性を評価した。その結果を図4及び図5に示す。これらの図において、水素暴露前の試料1は、Ar-850℃-1wと記され、水素暴露後は、H-exposedと記される。図4から、水素暴露前の試料1では、約30Kあたりで磁化が大きく変化しており、磁気特性が優れることが分かる。一方、水素暴露後は、そのような特性を示さず、磁気冷凍材料として好ましくないことが分かる。また、図5から、水素暴露前の試料1は、水素暴露後と比べて、低い磁場から高い磁場まで、磁化がより高く、磁気特性がより優れることが分かる。また、試料1は水素暴露の前後で磁化特性及びその温度依存性が大きく変化しており、水素化すると磁気冷凍材料として機能することが難しいことが分かった。試料2及び3は水素暴露の前後で磁気特性に大きな変化が認められず、水素暴露後も磁気冷凍材料として機能することが分かった。磁気冷凍材料としての性能を表す単位体積当たりのΔS(磁気エントロピー変化)の大小関係は、磁化特性の温度依存性から試料1>試料2>試料3と推定される。酸化物の形成等によりErCoの体積が減少したことを反映したものと推察される。磁気冷凍材料は、液体窒素温度以下の温度領域で使用されるのが通例である。年に1度1日程度室温でメンテナンスを行う運用がなされる磁気冷凍システムにおいては、その際の室温での水素の暴露が水素バリアコーティング材料にとって一番厳しい環境となると思われる。しかしながら、実施例のような磁気冷凍材料であれば、数年分のメンテナンスに耐えるものと推定される。
(磁気特性の評価2)
表1に、水素暴露の前後で磁気特性を評価した試料の内容をまとめる。
Figure 2023064990000002
(1)は、Ar雰囲気下で850℃を1週間保持し(均質化熱処理)、大気雰囲気下で500℃を30分間保持した(酸化熱処理)ものである。(2)は、Ar雰囲気下で850℃を1週間保持し(均質化熱処理)、大気雰囲気下で500℃を30分間保持し(酸化熱処理)、その後、水素暴露を行ったものである。(3)は、Ar雰囲気下で850℃を1週間保持し(均質化熱処理)、大気雰囲気下で500℃を30分間保持し(酸化熱処理)、更に、真空下で530℃を5時間保持した(真空熱処理)ものである。(4)は、Ar雰囲気下で850℃を1週間保持し(均質化熱処理)、大気雰囲気下で500℃を30分間保持し(酸化熱処理)、更に、真空下で530℃を5時間保持し(真空熱処理)、その後、水素暴露を行ったものである。
図11から図13は、上述する(1)~(4)について磁気特性を評価した結果を示す。図11は、磁場に対する磁化をプロットしたもので、(1)~(4)においておいて大きな違いはないことが分かる。図12は、温度に対する磁化をプロットしたものであり、図13は、60Kの磁化の値で規格化したものである。図12から(1)が一番優れた磁気特性を有することがわかる。また水素暴露前後では、(1)及び(2)並びに(3)及び(4)の対比から、水素暴露により、磁気特性が劣化したようにもみられる。次に、規格化した図13においては、同様な比較において、水素暴露の前後での違いはほとんど見られない。また、キュリー温度(~32 K)での磁化のとびから予想されるΔSの大小関係は、次のようになると考えられる。
ΔS(Ar-850℃-1w)>ΔS((1)&(2))>ΔS((3)&(4))
このことから、酸化とErCo生成の影響でErCoの体積が減少したことが影響した可能性があると考えられる。
(粒の表層組成)
図10は、試料1から試料3のEDSスペクトルを示す。試料1では、均質化熱処理を行ったが、酸化熱処理を行っていないため、酸素(O)の信号が小さいことが分かる(図10のA)参照)。一方、試料2では、酸化熱処理を行ったため、酸素の信号が著しく増強されたことが分かり、磁気冷凍材料の酸化が反映されていると考えられる。同時に、エルビウム(Er)の信号が著しく低下したことがわかる。このことから、磁気冷凍材料の表層の組成が変化したことが考えられる。酸化後の試料の黒色化と考え合わせると、磁気冷凍材料の表層にはCo酸化物形成の可能性が高いと思われる。酸化コバルトは、水素バリアとして機能するものと思われる(図10のB)参照)。更に、真空熱処理を行った試料3では、酸素(O)の信号の強度が減少したが、エルビウム(Er)の信号の強度は回復しなかった(図10のC)参照)。試料表面が灰白色に変化したことから、試料2がCo又はCoで試料3がCoOの可能性があると推測される。
(粒の断面構造)
図14から図16は、試料1から試料3の磁気冷凍材の各粒子の断面を解析する図を示す。図14においては、酸化熱処理をしていないので、表面にはいわゆる自然酸化膜があるものと考えられる。実際、表面から、Er、Co、Oについて、これらの元素に起因する信号の強度を表層からとると、右下のグラフのように、最表面にOの小さなピークが見られ、Coの強度が比較的低いことから、エルビウム酸化物が形成されているものと推測される。図15は、酸化熱処理を行った試料2の断面図を示す。元素分析から、最表面にCo酸化物が主体の数ミクロン以下の酸化層が認められた。その下には、ErCoが主体の10-15ミクロン厚の準酸化層が認められた。図16は、酸化熱処理を行った後に更に真空熱処理を行った試料3の断面図を示す。元素分析から、最表面にCo酸化物が主体の数ミクロン以下の酸化層が認められた。その下には、ErCoが主体の20-30ミクロン厚の準酸化層が認められた。
(酸化物層)
本発明の実施例において、図15及び図16について述べたように、表面及び表層の酸化物層は断面観察から容易に観察できる。例えば、図14について述べたように、断面を電子銃等で走査して元素の強度を連続的に測定すれば、その元素の濃度変化を把握することができる。このとき、走査速度を一定にすれば、時間と走査距離が比例し、検出濃度の経時変化を距離変化として把握できる。例えば、Er、Co、O等の元素について調べることができる。例えば、酸素(O)の検出濃度は、粒の内部において低くほぼ一定であるところ、表面に向かうに従って、検出濃度が急に高くなり、ある程度一定の値になる後、表面で急激に低下することが生じ得る。この検出濃度が急に高くなるところからある程度一定の値になるところの中間点を酸化物層の境界として把握することができる。これにより、表面からこの境界までの距離を酸化物層の厚みとすることもできる。一般には、観察視野を複数設け、それぞれに酸化物層の厚みを少なくとも10か所測定し、算術平均することにより、この試料の粒の表層の酸化物層の厚みとすることもできる。
ここで、粒を球近似したときの半径をRとし、酸化物層の厚みをLとすれば、粒の体積は、4/3πRであり、酸化物層の体積は、4/3π{R-(R-L)}であるので、体積比が3/4以下であるとすると、L≦(1-0.25(1/3))Rとなる。L≧10nmを満たすのは、R≧27nmであるかもしれない。Lの最大値は、Rの増大と共に大きくなるので、Lの実質的な最大値は、(1-0.25(1/3))Rとしてもよいかもしれない。尚、一般に、浸透量は、いわゆるバリア層の厚みに相当する透過する距離に反比例すると考えられるので、酸化物層の体積が粒全体の体積の3/4以下であれば、その厚みはRが増加するに伴って10nm以上、100nm以上、1000nm以上としてもよい。一方、磁気特性の悪化を考慮すれば、酸化物層の厚みは、所望の水素バリア効果が得られる範囲内で可能な限り薄い方が好ましいが、薄すぎると水素バリア能が低下し、10nm以下では効果が低い。
図17は、磁気冷凍装置の主要部を示す模式図である。上述する実施例の材料を含む磁気冷凍材料を用いることができる。この磁気冷凍材料の1つの形態としては、50μm以上1000μm以下の範囲の粒子径を有する粒子であってもよい。例えば、球形近似で、50μm以上、100μm以上、200μm以上としてもよく、2000μm以下、1000μm以下、500μm以下の径を有する粒子状であってもよい。また、これらの下限及び上限を適宜組み合わせて、所定の範囲としてもよい。粒子形態を採るとAMRベッドへの充填率を高めることができ、粒子径により熱輸送冷媒との熱交換断面積や圧力損失を変化させることができる。粒子径が小さくなるほど熱交換断面積は大きくなり、この観点では冷凍性能向上に有効であるが、一方で、粒子径が小さくなるほど圧力損失が上昇して冷凍性能を低下させる。実際の圧力損失の大きさは、粒子径のみならず熱輸送冷媒の種類や運転条件にも依存する。ここで、粒径は、体積基準のメディアン径(d50)とし、体積基準の平均粒径の測定は、例えば、マイクロトラックやレーザ散乱法によって測定できる。より具体的には、静的画像解析法及び動的画像解析法が採用され得る。前者は、多数の粒子画像(SEM像など)を撮影し、画像解析ソフトを用いて各粒子の面積から、円形に換算した粒子径を求めることができる。このような磁気冷凍材料を備えた磁気冷凍装置200は、超低温の生成、例えば水素の液化に用いることができる。磁気冷凍装置200は、磁気冷凍材料210が充填されたAMRベッド220と、これに磁場を印加する磁場印加手段230と、冷温により被冷却物を冷却する冷却ステージ290と、AMRベッド220における磁気冷凍仕事により発生した温熱を排熱する熱交換器240とを更に備える。
磁場印加手段230は、AMRベッド220に磁場を印加する任意の手段を適用でき、例えば、1~10T(テスラ)程度の強度の磁場を用いることが現実的である。磁場印加手段230として、超伝導マグネット、永久磁石等を採用できる。また、図示しない駆動機構によって、磁場印加手段230とAMRベッド220との相対位置を変化させて、AMRベッド220に印加される磁場の大きさを変化させることができる。
AMRベッド220の高温側には予冷段260が設けられ、予冷段260の低温側には80Kシールド270が、予冷段260の高温側には300Kシールド280がそれぞれ接続して具備されている。更に、AMRベッド220の低温側には、冷却ステージ290が設けられ、液化容器250が冷却ステージ290と熱的に接続して具備されている。つまり、液化容器250には被冷却物となる気体が供給され液化される。また、AMRベッド220には熱輸送冷媒の流出入口が設けられ、磁気冷凍材料210の間隙を通って熱輸送冷媒がAMRベッド220の内部を往復流動できる構造となっている。
液化容器250には、液化させるべき気体310(例えば、水素、ヘリウム(He)等)が、図示しないタンクより供給される。磁気冷凍装置200は、以下のようにして動作してもよい。磁気冷凍材料210が充填されたAMRベッド220に、磁場印加手段230により磁場を印加し、磁気冷凍材料210の温度を上昇させる。次いで、AMRベッド220の低温端側から高温端側に向かう方向300Aに熱輸送冷媒を流動させる。熱輸送冷媒はAMRベッド220の内部に充填された磁気冷凍材料210と熱交換して温熱を受け取りながら、磁気冷凍材料210の隙間を縫って流動し、AMRベッド220の高温端部より流出する。AMRベッド220の高温端部より流出した熱輸送冷媒は予冷段260を介して温熱を排熱する熱交換器240に流入し、余分な熱が外部へ排熱される。次いで、磁気冷凍材料210が充填された磁場を取り除き(減少させて)、磁気冷凍材料210の温度を降下させる。
そして、AMRベッド220の高温端側から低温端側に向かう方向300Bに熱輸送冷媒を流動させる。熱輸送冷媒は予冷段260を介してAMRベッド220の高温端部に流入し、内部に充填された磁気冷凍材料210と熱交換して冷却されながら、磁気冷凍材料210の隙間を縫って流動し、AMRベッド220の低温端部に到達する。尚、熱輸送冷媒の流動は図示しない冷媒駆動手段によって駆動される。冷媒駆動手段は熱輸送冷媒をAMRサイクルに同期して往復流動する振動流を駆動できれば特に限定されるものではなく、ピストン、ブロアとバルブを組み合わせる方式等が挙げられる。
AMRベッド220の低温端部の温度が液体水素の沸点(大気圧にて20K)よりも低下すると、液化容器250に供給される水素ガスは、AMRベッド220の低温端側に設けられた冷却ステージ290との熱交換により冷却され、濃縮液化する。このような工程を繰り返し、液化容器250の内部ではガスを周期的に液化ないし冷却する。
本発明の実施例において、磁気冷凍材料は、水素化に対する耐性を備えるので、長期間の使用に耐えうる。このような磁気冷凍材料は、磁気冷凍装置に用いられ、水素の液化等に効果的に機能する。これによって、エネルギーキャリアの一つとして有望な水素の普及に、貢献することができる。
200 磁気冷凍装置
220 AMRベッド
230 磁場印加手段
240 熱交換器
250 液化容器
260 予冷段
270 80Kシールド
280 300Kシールド
290 冷却ステージ
300A 熱輸送冷媒の移動方向
300B 熱輸送冷媒の移動方向

Claims (9)

  1. RTで表されるラーベス相化合物であり、
    Rは、少なくとも1種類以上の希土類元素であり、
    Tは、Co、Ni、Al、及びFeからなる群から選択される少なくとも1種類以上の元素であり、
    酸化物を含む表層の厚みが10nm以上であり、
    形成された酸化物層の体積と全体の体積の比が3/4以下であることを特徴とする磁気冷凍材料。
  2. Rは、スカンジウム,イットリウム,ランタン,セリウム,プラセオジム,ネオジム,プロメチウム,サマリウム,ユウロピウム,ガドリニウム,テルビウム,ジスプロシウム,ホルミウム,エルビウム,ツリウム,イッテルビウム,ルテチウムからなる群から選択される少なくとも1種類以上の元素であることを特徴とする請求項1に記載の磁気冷凍材料。
  3. 球近似をした場合に、直径が30nm以上であり、3000μm以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載の磁気冷凍材料。
  4. 請求項1から3の何れかに記載の磁気冷凍材料を備えるAMRベッド。
  5. AMRベッドを備えた磁気冷凍装置であって、前記AMRベッドは、請求項4に記載のAMRベッドである磁気冷凍装置。
  6. 前記AMRベッドに磁場を印加する磁場印加手段と、冷温により被冷却物を冷却する冷凍ステージと、前記AMRベッドにより発生する温熱を排熱する熱交換器とを更に備える請求項5に記載の磁気冷凍装置。
  7. RTで表されるラーベス相化合物を含む磁気冷凍材料の耐水素化を向上させる方法であって、
    Rは、少なくとも1種類以上の希土類元素であり、
    Tは、Co、Ni、Al、及びFeからなる群から選択される少なくとも1種類以上の元素であり、
    磁気冷凍材料を成形するステップと、
    成形後の磁気冷凍材料を均質化処理するステップと、
    均質化処理後の磁気冷凍材料を酸化処理するステップと、を含むことを特徴とする方法。
  8. 前記酸化処理するステップ後に、不活性な雰囲気下で、磁気冷凍材料を熱処理するステップを含むことを特徴とする請求項7に記載の方法。
  9. 磁気冷凍材料を製造する方法であって、請求項7又は8に記載の磁気冷凍材料の耐水素化を向上させる方法を含む製造方法。
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