JP2023064505A - 正極材料の製造方法 - Google Patents

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Zhenguang Li
淳史 伊藤
Junji Ito
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Misaki Fujimoto
一生 大谷
Kazuo Otani
正樹 小野
Masaki Ono
航 荻原
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Abstract

【課題】硫黄を含む正極活物質を用いた二次電池において、当該二次電池の内部抵抗をよりいっそう低減させうる手段を提供する。【解決手段】正極活物質である金属硫化物および固体電解質を、これらの両方を溶解可能な溶媒であって水分含量が0.2質量%以下である溶媒に溶解させ、得られた溶液を導電性多孔体に含浸させることを含む、正極材料の製造方法である。【選択図】なし

Description

本発明は、正極材料の製造方法に関する。
近年、地球温暖化に対処するため、二酸化炭素量の低減が切に望まれている。自動車業界では、電気自動車(EV)やハイブリッド電気自動車(HEV)の導入による二酸化炭素排出量の低減に期待が集まっており、これらの実用化の鍵を握るモータ駆動用二次電池などの非水電解質二次電池の開発が盛んに行われている。
モータ駆動用二次電池としては、携帯電話やノートパソコン等に使用される民生用リチウム二次電池と比較して極めて高い出力特性、および高いエネルギーを有することが求められている。したがって、現実的な全ての電池の中で最も高い理論エネルギーを有するリチウム二次電池が注目を集めており、現在急速に開発が進められている。
ここで、現在一般に普及しているリチウム二次電池は、電解質に可燃性の有機電解液を用いている。このような液系リチウム二次電池では、液漏れ、短絡、過充電などに対する安全対策が他の電池よりも厳しく求められる。
そこで近年、電解質に酸化物系や硫化物系の固体電解質を用いた全固体リチウム二次電池に関する研究開発が盛んに行われている。固体電解質は、固体中でイオン伝導が可能なイオン伝導体を主体として構成される材料である。このため、全固体リチウム二次電池においては、従来の液系リチウム二次電池のように可燃性の有機電解液に起因する各種問題が原理的に発生しない。また一般に、高電位・大容量の正極材料、大容量の負極材料を用いると電池の出力密度およびエネルギー密度の大幅な向上が図れる。例えば、硫黄単体(S)は、1670mAh/g程度と極めて大きい理論容量を有し、低コストで資源が豊富であるという利点を備えている。
一方、全固体電池において用いられうる大容量の負極材料としては、リチウムイオンを正極に供給する負極活物質である金属リチウムが知られている。ただし、負極活物質として金属リチウムを用い、固体電解質として硫化物固体電解質を用いた全固体電池においては、金属リチウムと硫化物固体電解質とが反応する結果、電池特性が低下してしまう場合がある。
ここで、特許文献1においては、このような問題に対処することを目的として、導電剤と、前記導電剤の表面に一体化したアルカリ金属硫化物とを含む複合材料を全固体電池の正極材料として用いる技術が提案されている。特許文献1によると、このような構成の正極材料とすることで、理論容量が高く、リチウムイオンを正極に供給しない負極活物質をも用いうる正極材料およびリチウムイオン電池が提供されるとしている。
国際公開第2012/102037号
ここで、二次電池の用途によっては、高い充放電レートでの充放電の際に十分な容量が取り出せる(すなわち、いわゆる充放電レート特性が十分である)ことが求められる。例えば、充放電レート特性が不十分である二次電池は、急速充放電に対応して十分な容量を活用することができない。そして、二次電池の充放電レート特性を向上させるには、電池の内部抵抗を低減させることが必要である。
そこで本発明は、硫黄を含む正極活物質を用いた二次電池において、当該二次電池の内部抵抗をよりいっそう低減させうる手段を提供することを目的とする。
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を行った。その結果、正極活物質である金属硫化物および固体電解質を、水分含量が制御された溶媒に溶解させ、同時に導電性多孔体に含浸させることで上記課題が解決されうることを見出し、本発明を完成させるに至った。
本発明の一形態は、正極活物質である金属硫化物および固体電解質を、これらの両方を溶解可能な溶媒であって水分含量が0.2質量%以下である溶媒に溶解させ、得られた溶液を導電性多孔体に含浸させることを含む、正極材料の製造方法である。
本発明によれば、硫黄を含む正極活物質を用いた二次電池において、当該二次電池の内部抵抗をよりいっそう低減させることができる。
図1は、本発明の一実施形態である扁平積層型の全固体リチウム二次電池の外観を表した斜視図である。 図2は、図1に示す2-2線に沿う断面図である。 図3(a)は、先行技術における正極材料の断面模式図であり、図3(b)は、本発明の一実施形態に係る方法により作製した正極材料の断面模式図である。図3(c)は、機械混合により作製した正極材料の断面模式図である。 図4(a)は、実施例3で作製した正極材料のラマンスペクトルであり、図4(b)は、比較例3で作製した正極材料のラマンスペクトルである。
以下、図面を参照しながら、上述した本発明の実施形態を説明するが、本発明の技術的範囲は特許請求の範囲の記載に基づいて定められるべきであり、以下の形態のみに制限されない。なお、図面の寸法比率は、説明の都合上誇張されており、実際の比率とは異なる場合がある。以下では、二次電池の一形態である、積層型(内部並列接続型)の全固体リチウム二次電池を例に挙げて本発明を説明する。上述したように、全固体リチウム二次電池を構成する固体電解質は、固体中でイオン伝導が可能なイオン伝導体を主体として構成される材料である。このため、全固体リチウム二次電池においては、従来の液系リチウム二次電池のように可燃性の有機電解液に起因する各種問題が原理的に発生しないという利点がある。また一般に、高電位・大容量の正極材料、大容量の負極材料を用いると電池の出力密度およびエネルギー密度の大幅な向上が図れるという利点もある。
本発明の一形態は、正極活物質である金属硫化物および固体電解質を、これらの両方を溶解可能な溶媒であって水分含量が0.2質量%以下である溶媒に溶解させ、得られた溶液を導電性多孔体に含浸させることを含む、正極材料の製造方法である。本形態の方法によれば、二次電池の内部抵抗をよりいっそう低減させることができる。
図1は、本発明の一実施形態である扁平積層型の全固体リチウム二次電池の外観を表した斜視図である。図2は、図1に示す2-2線に沿う断面図である。積層型とすることで、電池をコンパクトにかつ高容量化することができる。なお、本明細書においては、図1および図2に示す扁平積層型の双極型でないリチウム二次電池(以下、単に「積層型電池」とも称する)を例に挙げて詳細に説明する。ただし、本形態に係るリチウム二次電池の内部における電気的な接続形態(電極構造)で見た場合、非双極型(内部並列接続タイプ)電池および双極型(内部直列接続タイプ)電池のいずれにも適用しうるものである。
図1に示すように、積層型電池10aは、長方形状の扁平な形状を有しており、その両側部からは電力を取り出すための負極集電板25、正極集電板27が引き出されている。発電要素21は、積層型電池10aの電池外装材(ラミネートフィルム29)によって包まれ、その周囲は熱融着されており、発電要素21は、負極集電板25および正極集電板27を外部に引き出した状態で密封されている。
なお、本形態に係るリチウム二次電池は、積層型の扁平な形状のものに制限されるものではない。巻回型のリチウム二次電池では、円筒型形状のものであってもよいし、こうした円筒型形状のものを変形させて、長方形状の扁平な形状にしたようなものであってもよいなど、特に制限されるものではない。上記円筒型の形状のものでは、その外装材にラミネートフィルムを用いてもよいし、従来の円筒缶(金属缶)を用いてもよいなど、特に制限されるものではない。好ましくは、発電要素がアルミニウムを含むラミネートフィルムの内部に収容される。当該形態により、軽量化が達成されうる。
また、図1に示す集電板(25、27)の取り出しに関しても、特に制限されるものではない。負極集電板25と正極集電板27とを同じ辺から引き出すようにしてもよいし、負極集電板25と正極集電板27をそれぞれ複数に分けて、各辺から取り出しようにしてもよいなど、図1に示すものに制限されるものではない。また、巻回型のリチウム電池では、タブに変えて、例えば、円筒缶(金属缶)を利用して端子を形成すればよい。
図2に示すように、本実施形態の積層型電池10aは、実際に充放電反応が進行する扁平略矩形の発電要素21が、電池外装材であるラミネートフィルム29の内部に封止された構造を有する。ここで、発電要素21は、正極と、固体電解質層17と、負極とを積層した構成を有している。正極は、正極集電体11”の両面に正極活物質を含有する正極活物質層15が配置された構造を有する。負極は、負極集電体11’の両面に負極活物質を含有する負極活物質層13が配置された構造を有する。具体的には、1つの正極活物質層15とこれに隣接する負極活物質層13とが、固体電解質層17を介して対向するようにして、正極、固体電解質層および負極がこの順に積層されている。これにより、隣接する正極、固体電解質層および負極は、1つの単電池層19を構成する。したがって、図2に示す積層型電池10aは、単電池層19が複数積層されることで、電気的に並列接続されてなる構成を有するともいえる。
図2に示すように、発電要素21の両最外層に位置する最外層負極集電体には、いずれも片面のみに負極活物質層13が配置されているが、両面に活物質層が設けられてもよい。すなわち、片面にのみ活物質層を設けた最外層専用の集電体とするのではなく、両面に活物質層がある集電体をそのまま最外層の集電体として用いてもよい。また、場合によっては、集電体(11’,11”)を用いることなく、負極活物質層13および正極活物質層15をそれぞれ負極および正極として用いてもよい。
負極集電体11’および正極集電体11”は、各電極(正極および負極)と導通される負極集電板(タブ)25および正極集電板(タブ)27がそれぞれ取り付けられ、電池外装材であるラミネートフィルム29の端部に挟まれるようにしてラミネートフィルム29の外部に導出される構造を有している。正極集電板27および負極集電板25はそれぞれ、必要に応じて正極リードおよび負極リード(図示せず)を介して、各電極の正極集電体11”および負極集電体11’に超音波溶接や抵抗溶接などにより取り付けられていてもよい。
以下、本形態に係るリチウム二次電池の主要な構成部材について説明する。
[集電体]
集電体は、電極活物質層からの電子の移動を媒介する機能を有する。集電体を構成する材料に特に制限はない。集電体の構成材料としては、例えば、金属や、導電性を有する樹脂が採用されうる。
具体的には、金属としては、アルミニウム、ニッケル、鉄、ステンレス、チタン、銅などが挙げられる。これらのほか、ニッケルとアルミニウムとのクラッド材、銅とアルミニウムとのクラッド材などが用いられてもよい。また、金属表面にアルミニウムが被覆されてなる箔であってもよい。なかでも、電子伝導性や電池作動電位、集電体へのスパッタリングによる負極活物質の密着性等の観点からは、アルミニウム、ステンレス、銅、ニッケルが好ましい。
また、導電性を有する樹脂としては、非導電性高分子材料に導電性フィラーが添加された樹脂が挙げられる。
なお、集電体は、単独の材料からなる単層構造であってもよいし、あるいは、これらの材料からなる層を適宜組み合わせた積層構造であっても構わない。集電体の軽量化の観点からは、少なくとも導電性を有する樹脂からなる導電性樹脂層を含むことが好ましい。また、単電池層間のリチウムイオンの移動を遮断する観点からは、集電体の一部に金属層を設けてもよい。さらに、後述する負極活物質層や正極活物質層がそれ自体で導電性を有し集電機能を発揮できるのであれば、これらの電極活物質層とは別の部材としての集電体を用いなくともよい。このような形態においては、後述する負極活物質層がそのまま負極を構成し、後述する正極活物質層がそのまま正極を構成することとなる。
[負極(負極活物質層)]
図1および図2に示す実施形態に係る積層型電池において、負極活物質層13は、負極活物質を含む。負極活物質の種類としては、特に制限されないが、炭素材料、金属酸化物および金属活物質が挙げられる。炭素材料としては、例えば、天然黒鉛、人造黒鉛、メソカーボンマイクロビーズ(MCMB)、高配向性グラファイト(HOPG)、ハードカーボン、ソフトカーボン等が挙げられる。また、金属酸化物としては、例えば、Nb、LiTi12等が挙げられる。さらに、ケイ素系負極活物質やスズ系負極活物質が用いられてもよい。ここで、ケイ素およびスズは第14族元素に属し、非水電解質二次電池の容量を大きく向上させうる負極活物質であることが知られている。これらの単体は単位体積(質量)あたり多数の電荷担体(リチウムイオン等)を吸蔵および放出しうることから、高容量の負極活物質となる。ここで、ケイ素系負極活物質としては、Si単体を用いることが好ましい。また同様に、Si相とケイ素酸化物相との2相に不均化されたSiO(0.3≦x≦1.6)などのケイ素酸化物を用いることも好ましい。この際、xの範囲は0.5≦x≦1.5であることがより好ましく、0.7≦x≦1.2であることがさらに好ましい。さらには、ケイ素を含有する合金(ケイ素含有合金系負極活物質)が用いられてもよい。一方、スズ元素を含む負極活物質(スズ系負極活物質)としては、Sn単体、スズ合金(Cu-Sn合金、Co-Sn合金)、アモルファススズ酸化物、スズケイ素酸化物等が挙げられる。このうち、アモルファススズ酸化物としてはSnB0.40.63.1が例示される。また、スズケイ素酸化物としてはSnSiOが例示される。また、負極活物質として、リチウムを含有する金属を用いてもよい。このような負極活物質は、リチウムを含有する活物質であれば特に限定されず、金属リチウムのほか、リチウム含有合金が挙げられる。リチウム含有合金としては、例えば、Liと、In、Al、SiおよびSnの少なくとも1種との合金が挙げられる。場合によっては、2種以上の負極活物質が併用されてもよい。なお、上記以外の負極活物質が用いられてもよいことは勿論である。負極活物質は、金属リチウム、ケイ素系負極活物質またはスズ系負極活物質を含むことが好ましく、金属リチウムを含むことが特に好ましい。
負極活物質の形状は、例えば、粒子状(球状、繊維状)、薄膜状等が挙げられる。負極活物質が粒子形状である場合、その平均粒子径(D50)は、例えば、1nm~100μmの範囲内であることが好ましく、より好ましくは10nm~50μmの範囲内であり、さらに好ましくは100nm~20μmの範囲内であり、特に好ましくは1~20μmの範囲内である。なお、本明細書において、活物質の平均粒子径(D50)の値は、レーザー回折散乱法によって測定することができる。
負極活物質層における負極活物質の含有量は、特に限定されるものではないが、例えば、40~99質量%の範囲内であることが好ましく、50~90質量%の範囲内であることがより好ましい。
負極活物質層は、固体電解質をさらに含むことが好ましい。負極活物質層が固体電解質を含むことにより、負極活物質層のイオン伝導性を向上させることができる。固体電解質としては、例えば、硫化物固体電解質や酸化物固体電解質が挙げられるが、硫化物固体電解質であることが好ましい。
硫化物固体電解質としては、例えば、LiI-LiS-SiS、LiI-LiS-P、LiI-LiPO-P、LiS-P、LiI-LiPS、LiI-LiBr-LiPS、LiPS、LiS-P-LiI、LiS-P-LiO、LiS-P-LiO-LiI、LiS-SiS、LiS-SiS-LiI、LiS-SiS-LiBr、LiS-SiS-LiCl、LiS-SiS-B-LiI、LiS-SiS-P-LiI、LiS-B、LiS-P-Z(ただし、m、nは正の数であり、Zは、Ge、Zn、Gaのいずれかである)、LiS-GeS、LiS-SiS-LiPO、LiS-SiS-LiMO(ただし、x、yは正の数であり、Mは、P、Si、Ge、B、Al、Ga、Inのいずれかである)等が挙げられる。なお、「LiS-P」の記載は、LiSおよびPを含む原料組成物を用いてなる硫化物固体電解質を意味し、他の記載についても同様である。
硫化物固体電解質は、例えば、LiPS骨格を有していてもよく、Li骨格を有していてもよく、Li骨格を有していてもよい。LiPS骨格を有する硫化物固体電解質としては、例えば、LiI-LiPS、LiI-LiBr-LiPS、LiPSが挙げられる。また、Li骨格を有する硫化物固体電解質としては、例えば、LPSと称されるLi-P-S系固体電解質(例えば、Li11)が挙げられる。また、硫化物固体電解質として、例えば、Li(4-x)Ge(1-x)(xは、0<x<1を満たす)で表されるLGPS等を用いてもよい。なかでも、P元素を含む硫化物固体電解質であることが好ましく、LiS-Pを主成分とする材料であることがより好ましい。さらに、硫化物固体電解質は、ハロゲン(F、Cl、Br、I)を含有していてもよい。好ましい一実施形態において、硫化物固体電解質はLiPSX(ここで、XはCl、BrもしくはIであり、好ましくはClである)を含む。
また、硫化物固体電解質がLiS-P系である場合、LiSおよびPの割合は、モル比で、LiS:P=50:50~100:0の範囲内であることが好ましく、なかでもLiS:P=70:30~80:20であることが好ましい。
また、硫化物固体電解質は、硫化物ガラスであってもよく、結晶化硫化物ガラスであってもよく、固相法により得られる結晶質材料であってもよい。なお、硫化物ガラスは、例えば原料組成物に対してメカニカルミリング(ボールミル等)を行うことにより得ることができる。また、結晶化硫化物ガラスは、例えば硫化物ガラスを結晶化温度以上の温度で熱処理を行うことにより得ることができる。また、硫化物固体電解質の常温(25℃)におけるイオン伝導度(例えば、Liイオン伝導度)は、例えば、1×10-5S/cm以上であることが好ましく、1×10-4S/cm以上であることがより好ましい。なお、固体電解質のイオン伝導度の値は、交流インピーダンス法により測定することができる。
酸化物固体電解質としては、例えば、NASICON型構造を有する化合物等が挙げられる。NASICON型構造を有する化合物の一例としては、一般式Li1+xAlGe2-x(PO(0≦x≦2)で表される化合物(LAGP)、一般式Li1+xAlTi2-x(PO(0≦x≦2)で表される化合物(LATP)等が挙げられる。また、酸化物固体電解質の他の例としては、LiLaTiO(例えば、Li0.34La0.51TiO)、LiPON(例えば、Li2.9PO3.30.46)、LiLaZrO(例えば、LiLaZr12)等が挙げられる。
固体電解質の形状としては、例えば、真球状、楕円球状等の粒子形状、薄膜形状等が挙げられる。固体電解質が粒子形状である場合、その平均粒子径(D50)は、特に限定されないが、40μm以下であることが好ましく、20μm以下であることがより好ましく、10μm以下であることがさらに好ましい。一方、平均粒子径(D50)は、0.01μm以上であることが好ましく、0.1μm以上であることがより好ましい。
負極活物質層における固体電解質の含有量は、例えば、1~60質量%の範囲内であることが好ましく、10~50質量%の範囲内であることがより好ましい。
負極活物質層は、上述した負極活物質および固体電解質に加えて、導電助剤およびバインダの少なくとも1つをさらに含有していてもよい。
導電助剤としては、例えば、アルミニウム、ステンレス(SUS)、銀、金、銅、チタン等の金属、これらの金属を含む合金または金属酸化物;炭素繊維(具体的には、気相成長炭素繊維(VGCF)、ポリアクリロニトリル系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維、レーヨン系炭素繊維、活性炭素繊維等)、カーボンナノチューブ(CNT)、カーボンブラック(具体的には、アセチレンブラック、ケッチェンブラック(登録商標)、ファーネスブラック、チャンネルブラック、サーマルランプブラック等)等のカーボンが挙げられるが、これらに限定されない。また、粒子状のセラミック材料や樹脂材料の周りに上記金属材料をめっき等でコーティングしたものも導電助剤として使用できる。これらの導電助剤のなかでも、電気的安定性の観点から、アルミニウム、ステンレス、銀、金、銅、チタン、およびカーボンからなる群より選択される少なくとも1種を含むことが好ましく、アルミニウム、ステンレス、銀、金、およびカーボンからなる群より選択される少なくとも1種を含むことがより好ましく、カーボンを少なくとも1種を含むことがさらに好ましい。これらの導電助剤は、1種のみを単独で使用してもよいし、2種以上を併用しても構わない。
導電助剤の形状は、粒子状または繊維状であることが好ましい。導電助剤が粒子状である場合、粒子の形状は特に限定されず、粉末状、球状、棒状、針状、板状、柱状、不定形状、燐片状、紡錘状等、いずれの形状であっても構わない。
導電助剤が粒子状である場合の平均粒子径(一次粒子径)は、特に限定されるものではないが、電池の電気特性の観点から、0.01~10μmであることが好ましい。なお、本明細書中において、「導電助剤の粒子径」とは、導電助剤の輪郭線上の任意の2点間の距離のうち、最大の距離Lを意味する。「導電助剤の平均粒子径」の値としては、走査型電子顕微鏡(SEM)や透過型電子顕微鏡(TEM)などの観察手段を用い、数~数十視野中に観察される粒子の粒子径の平均値として算出される値を採用するものとする。
負極活物質層が導電助剤を含む場合、当該負極活物質層における導電助剤の含有量は特に制限されないが、負極活物質層の合計質量に対して、好ましくは0~10質量%であり、より好ましくは2~8質量%であり、さらに好ましくは4~7質量%である。このような範囲であれば、負極活物質層においてより強固な電子伝導パスを形成することが可能となり、電池特性の向上に有効に寄与することが可能である。
一方、バインダとしては、特に限定されないが、例えば、以下の材料が挙げられる。
ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)(水素原子が他のハロゲン元素にて置換された化合物を含む)、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン、ポリブテン、ポリエーテルニトリル、ポリテトラフルオロエチレン、ポリアクリロニトリル、ポリイミド、ポリアミド、エチレン-酢酸ビニル共重合体、ポリ塩化ビニル、スチレン・ブタジエンゴム(SBR)、エチレン・プロピレン・ジエン共重合体、スチレン・ブタジエン・スチレンブロック共重合体およびその水素添加物、スチレン・イソプレン・スチレンブロック共重合体およびその水素添加物などの熱可塑性高分子、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、エチレン・テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、エチレン・クロロトリフルオロエチレン共重合体(ECTFE)、ポリフッ化ビニル(PVF)等のフッ素樹脂、ビニリデンフルオライド-ヘキサフルオロプロピレン系フッ素ゴム(VDF-HFP系フッ素ゴム)、ビニリデンフルオライド-ヘキサフルオロプロピレン-テトラフルオロエチレン系フッ素ゴム(VDF-HFP-TFE系フッ素ゴム)、ビニリデンフルオライド-ペンタフルオロプロピレン系フッ素ゴム(VDF-PFP系フッ素ゴム)、ビニリデンフルオライド-ペンタフルオロプロピレン-テトラフルオロエチレン系フッ素ゴム(VDF-PFP-TFE系フッ素ゴム)、ビニリデンフルオライド-パーフルオロメチルビニルエーテル-テトラフルオロエチレン系フッ素ゴム(VDF-PFMVE-TFE系フッ素ゴム)、ビニリデンフルオライド-クロロトリフルオロエチレン系フッ素ゴム(VDF-CTFE系フッ素ゴム)等のビニリデンフルオライド系フッ素ゴム、エポキシ樹脂等が挙げられる。中でも、ポリイミド、スチレン・ブタジエンゴム、カルボキシメチルセルロース、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリアクリロニトリル、ポリアミドであることがより好ましい。
負極活物質層の厚さは、目的とする二次電池の構成によっても異なるが、例えば、0.1~1000μmの範囲内であることが好ましい。
[固体電解質層]
図1および図2に示す実施形態に係る積層型電池において、固体電解質層は、上述した正極活物質層と負極活物質層との間に介在し、固体電解質を必須に含有する層である。
固体電解質層に含有される固体電解質の具体的な形態について特に制限はなく、負極活物質層の欄において例示した固体電解質およびその好ましい形態が同様に採用されうる。場合によっては、上述した固体電解質以外の固体電解質が併用されてもよい。
固体電解質層は、上述した所定の固体電解質に加えて、バインダをさらに含有していてもよい。固体電解質層に含有されうるバインダについても、負極活物質層の欄において説明した例示および好ましい形態が同様に採用されうる。
固体電解質層の厚みは、目的とするリチウム二次電池の構成によっても異なるが、電池の体積エネルギー密度を向上させうるという観点からは、好ましくは800μm以下であり、より好ましくは700μm以下であり、さらに好ましくは600μm以下である。一方、固体電解質層の厚みの下限値について特に制限はないが、好ましくは1μm以上であり、より好ましくは5μm以上であり、さらに好ましくは10μm以上である。
[正極活物質層]
図1および図2に示す実施形態に係る積層型電池において、正極活物質層は、本発明の一形態に係る方法によって製造された正極材料を含む。当該方法は、正極活物質である金属硫化物および固体電解質を、これらの両方を溶解可能な溶媒であって水分含量が0.2質量%以下である溶媒に溶解させ、得られた溶液を導電性多孔体に含浸させることを含む。当該方法により得られる正極材料は、好ましくは、導電性多孔体の細孔内に金属硫化物と固体電解質とを含有する。
(正極活物質)
本実施形態の正極材料は、正極活物質として金属硫化物を含む。金属硫化物としては、硫黄の酸化還元反応を利用して、充電時にリチウムイオンを放出し、放電時にリチウムイオンを吸蔵することができる物質であればよいが、理論容量が高いことからアルカリ金属硫化物であることが好ましい。アルカリ金属硫化物としては、例えば、硫化リチウム(LiS)、硫化ナトリウム(NaS)、硫化カリウム(KS)、硫化ルビジウム(RbS)、硫化セシウム(CsS)、硫化フランシウム(FrS)などが挙げられ、好ましくは硫化リチウムまたは硫化ナトリウムであり、より好ましくは硫化リチウムである。また、アルカリ金属硫化物以外の金属硫化物としては、TiS、TiS、TiS、NiS、NiS、CuS、FeS、MoS、MoS、MnS、MnS、CoS、CoSなどを用いることもできる。
本形態に係る正極材料は、金属硫化物に加えて、金属硫化物以外の正極活物質(他の正極活物質)をさらに含んでもよい。
他の正極活物質としては、特に制限されないが、硫黄を含む正極活物質として、有機硫黄化合物または無機硫黄化合物の粒子または薄膜が挙げられる。有機硫黄化合物としては、ジスルフィド化合物、国際公開第2010/044437号に記載の化合物に代表される硫黄変性ポリアクリロニトリル、硫黄変性ポリイソプレン、ルベアン酸(ジチオオキサミド)、ポリ硫化カーボン等が挙げられる。一方、無機硫黄化合物としては、硫黄単体(S)等が挙げられる。なお、硫黄単体(S)としては、S構造を有するα硫黄、β硫黄、またはγ硫黄が用いられうる。
硫黄を含まない正極活物質としては、例えば、LiCoO、LiMnO、LiNiO、LiVO、Li(Ni-Mn-Co)O等の層状岩塩型活物質、LiMn、LiNi0.5Mn1.5等のスピネル型活物質、LiFePO、LiMnPO等のオリビン型活物質などの金属酸化物活物質、LiFeSiO、LiMnSiO等のSi含有活物質等が挙げられる。また上記以外の金属酸化物活物質としては、例えば、LiTi12が挙げられる。
場合によっては、2種以上の正極活物質が併用されてもよい。なお、上記以外の正極活物質が用いられてもよいことは勿論である。ただし、正極活物質の全量100質量%に占める金属硫化物の含有量の割合は、好ましくは50質量%以上であり、より好ましくは70質量%以上であり、さらに好ましくは80質量%以上であり、いっそう好ましくは90質量%以上であり、特に好ましくは95質量%以上であり、最も好ましくは100質量%である。特には、正極活物質の全量100質量%に占めるアルカリ金属硫化物の含有量の割合が上記範囲であることが好ましい。
なお、本形態の正極材料は、抵抗を低減する観点から、硫黄単体を含まないことが好ましい。正極活物質の全量100質量%に占める硫黄単体の含有量の割合は、好ましくは10質量%以下であり、より好ましくは5質量%以下であり、さらに好ましくは3質量%以下であり、いっそう好ましくは2質量%以上であり、特に好ましくは1質量%以下であり、最も好ましくは0質量%である。
(固体電解質)
本形態に係る正極材料は固体電解質を必須に含む。本形態に係る正極材料に含まれる固体電解質の具体的な形態について特に制限はなく、負極活物質層の欄において例示した固体電解質およびその好ましい形態が同様に採用されうる。場合によっては、上述した固体電解質以外の固体電解質が併用されてもよい。
なかでも、本形態に係る正極材料に含まれる固体電解質は、硫化物固体電解質であることが好ましい。別の好ましい実施形態では、固体電解質は、アルカリ金属原子を含有するものである。ここで、固体電解質に含まれうるアルカリ金属としては、Li、NaまたはKが挙げられるが、なかでもイオン伝導度に優れるという点でLiが好ましい。特に、正極活物質がLiSであり、固体電解質がリチウムを含む(キャリアイオンがリチウムイオンを含む)ことが好ましい。このような構成とすることで、本発明の効果がより顕著に得られうる。
さらに他の好ましい実施形態では、正極材料に含まれる固体電解質は、アルカリ金属原子(例えば、Li、NaまたはK;好ましくはLi)と、リン原子および/またはホウ素原子と含有するものである。より好ましくは、前記固体電解質は、少なくともリチウム原子、リン原子、および硫黄原子を含有する硫化物固体電解質である。このようなリチウム原子、リン原子、および硫黄原子を含有する硫化物固体電解質としては、例えば、LiI-LiS-P、LiI-LiPO-P、LiS-P、LiI-LiPS、LiI-LiBr-LiPS、LiPS、LiS-P-LiI、LiS-P-LiO、LiS-P-LiO-LiI、LiS-SiS-P-LiI、LiS-P-Z(ただし、m、nは正の数であり、Zは、Ge、Zn、Gaのいずれかである)、LiS-SiS-LiPO等が挙げられる。また、Li骨格を有する硫化物固体電解質としては、例えば、LPSと称されるLi-P-S系固体電解質(例えば、Li11)が挙げられる。また、例えば、Li(4-x)Ge(1-x)(xは、0<x<1を満たす)で表されるLGPS等を用いてもよい。なかでも、活物質層に含まれる硫化物固体電解質は、LiS-Pを主成分とする材料であることがより好ましい。さらに、硫化物固体電解質は、ハロゲン(F、Cl、Br、I)を含有していてもよい。好ましい一実施形態において、硫化物固体電解質はLiPSX(ここで、XはCl、BrもしくはIであり、好ましくはClである)を含む。これらの硫化物固体電解質は高いイオン伝導度を有していることから、本発明の作用効果の発現にも有効に寄与しうる。
(導電性多孔体)
本形態に係る正極材料は細孔を有する導電性多孔体を必須に含む。本形態に係る正極材料に含まれる導電性多孔体の具体的な形態については、細孔を有する導電性の材料であれば特に制限はなく、従来公知の材料が適宜採用されうる。導電性に優れ、加工しやすいという観点からは、導電性多孔体は炭素材料であることが好ましい。
炭素材料としては、例えば、活性炭、ケッチェンブラック(登録商標)(高導電性カーボンブラック)、(オイル)ファーネスブラック、チャンネルブラック、アセチレンブラック、サーマルブラック、ランプブラック等のカーボンブラック、コークス、天然黒鉛、人造黒鉛などからなるカーボン粒子(カーボン担体)が挙げられる。また、セラミックスなどの鋳型と樹脂などの炭素原料とを混合し、不活性雰囲気下で焼成し、その後、酸で鋳型を溶かすことによって鋳型の形状が転写された多孔質構造を有する炭素材料を合成し、これを炭素材料として用いてもよい。この際、鋳型の粒子径や炭素原料の配合比を適切に調整することにより、得られる炭素材料の細孔径や細孔容積を変化させることができる。
なお、炭素材料は、その主成分がカーボンであることが好ましい。ここで、「主成分がカーボンである」とは、主成分として炭素原子を含むことをいい、炭素原子のみからなる、実質的に炭素原子からなる、の双方を含む概念である。「実質的に炭素原子からなる」とは、2~3質量%程度以下の不純物の混入が許容されうることを意味する。
本形態に係る正極材料においては、導電性多孔体は細孔径1~100nmの範囲の細孔を有することが好ましい。また、導電性多孔体が有する細孔のうち、細孔径が1~4nmの範囲の細孔の細孔容積の、細孔径1~100nmの範囲の細孔の細孔容積に対する百分率が20%以下であることが好ましい。これにより、正極活物質および/または固体電解質が細孔の内部まで容易に保持されうる。また、細孔内部においても、正極活物質の表面において、導電性多孔体を介した電子の出入りだけでなく固体電解質を介した電荷キャリアの出入りもスムーズに進行しうる。その結果、細孔の奥深くに位置する正極活物質の周囲においても、当該正極活物質、導電性多孔体および固体電解質が共存する三相界面が十分に形成されて充放電反応が十分に進行しうる。その結果、電池の内部抵抗がさらに低減されるものと考えられる。ここで、本明細書において、導電性多孔体の細孔分布は、BJH法を用いて取得したものを採用する。なお、内部抵抗の低減効果がよりいっそう発揮されるという観点から、上記百分率の値は、より好ましくは18%以下であり、さらに好ましくは15%以下であり、さらにより好ましくは12%以下であり、特に好ましくは9%以下である。一方、上記百分率の下限値について特に制限はないが、例えば3%以上である。
導電性多孔体(好ましくは、炭素材料)のBET比表面積は、200m/g以上であることが好ましく、500m/g以上であることがより好ましく、800m/g以上であることがさらに好ましく、1200m/g以上であることが特に好ましく、1500m/g以上であることが最も好ましい。また、導電性多孔体(好ましくは、炭素材料)の全細孔容積は、1.0mL/g以上であることが好ましく、1.3mL/g以上であることがより好ましく、1.5mL/g以上であることがさらに好ましい。導電性多孔体のBET比表面積および全細孔容積がこのような範囲内の値であれば、十分な量の細孔を保持することができ、ひいては十分な量の正極活物質を保持することが可能となる。なお、導電性多孔体のBET比表面積および全細孔容積の値については、窒素吸脱着測定により測定が可能である。この窒素吸脱着測定は、マイクロトラック・ベル株式会社製BELSORP miniを用いて行い、-196℃の温度で、多点法で行う。0.01<P/P<0.05の相対圧の範囲での吸着等温線よりBET比表面積を求める。また、全細孔容積については、0.96の相対圧における吸着Nの容積より求める。
導電性多孔体の平均細孔径は、特に限定されないが、50nm以下であることが好ましく、30nm以下であることが特に好ましい。導電性多孔体の平均細孔径がこれらの範囲内の値であれば、細孔の内部に配置された硫黄を含む正極活物質のうち細孔壁から離れた位置に存在する活物質まで十分に電子を供給することができる。なお、導電性多孔体の平均細孔径の値は、BET比表面積および全細孔容積の値を求める場合と同様に、窒素吸脱着測定により算出することができる。
導電性多孔体が粒子状である場合の平均粒子径(一次粒子径)は、特に限定されるものではないが、0.05~50μmであることが好ましく、0.1~20μmであることがより好ましく、0.5~10μmであることがさらに好ましい。なお、「導電性多孔体の粒子径」の定義および「導電性多孔体の平均粒子径」の測定方法としては、導電助剤について上記で説明したものが同様に採用される。
本形態に係る正極材料の製造方法は、正極活物質である金属硫化物および固体電解質を、これらの両方を溶解可能な溶媒であって水分含量が0.2質量%以下である溶媒に溶解させ、得られた溶液を導電性多孔体に含浸させることを含む。このようにして得られた正極材料は、導電性多孔体と、固体電解質と、正極活物質としての金属硫化物とを含むものであり、少なくとも一部の固体電解質と少なくとも一部の正極活物質とが、上記導電性多孔体の細孔内に配置される。
図3(a)は、先行技術である特許文献1の方法で作製された正極材料100’の断面模式図である。また、図3(b)は、本発明の一実施形態に係る方法で得られる正極材料100の断面模式図である。図3(a)および図3(b)において、導電性多孔体(例えば、炭素材料)110は多数の細孔110aを有している。ここで、特許文献1に記載される方法では、金属硫化物120の原料となる硫黄単体140を導電性多孔体110の細孔110aに熱含浸させる。その後、硫黄単体140を化学反応させて導電性多孔体110の表面に金属硫化物120を一体化して生成させる。その後、固体電解質130を機械混合で追加することにより、導電性多孔体110の表面に金属硫化物120および固体電解質130を有する正極材料100’を得る。または、特開2013-80637号公報に記載されるように、固体電解質130の原料となる化合物を追加して反応させ、導電性多孔体110に金属硫化物120および固体電解質130が複合化した正極材料100’を得ることができる。
しかしながら、上記方法において、硫黄単体140を金属硫化物120に変換する反応は、導電性多孔体110の表面(細孔外の領域)において主に進行し、導電性多孔体110の細孔110aの内部に含浸された硫黄単体140は未反応のまま残ってしまう。硫黄単体140は絶縁性であることから、先行技術の正極材料100’を用いた場合は電極の抵抗が高くなってしまう。
また、上記方法においては、固体電解質130またはその原料を後から添加することから、固体電解質130を導電性多孔体110の細孔110aの内部に導入することは難しい。そのため、図3(a)に示す正極材料100’では、導電性多孔体110の表面においては、正極活物質である金属硫化物120、固体電解質130、および導電性多孔体110が共存する反応領域が形成され、この領域の近傍では電極反応が進行する。しかしながら、細孔110aの内部には固体電解質130が充填されず、充放電反応が十分に進行しない。その結果、電極の抵抗が高くなってしまうものと考えられる。
これに対し、本発明の方法では、正極活物質である金属硫化物120と固体電解質130とをこれらの両方を溶解させる溶媒に溶解させて溶液を得た後、この溶液に導電性多孔体110を添加して導電性多孔体110に金属硫化物120と固体電解質130とを一括で含浸させる。このようにして得られる本発明の一実施形態に係る正極材料100においては、図3(b)に示すように、正極活物質である金属硫化物120および固体電解質130は、導電性多孔体110の表面だけではなく導電性多孔体110の細孔110aの内部表面にも配置されている。細孔110aの奥深くに位置する金属硫化物120の表面では、導電性多孔体110を介した電子の出入りだけではなく、固体電解質130を介した電荷キャリアの出入りもスムーズに進行しうる。その結果、細孔110aの奥深くに位置する金属硫化物120の周囲においても、金属硫化物120、導電性多孔体110および固体電解質130が共存する三相界面が十分に形成されて充放電反応が十分に進行しうる。その結果、細孔110aの内部に存在する金属硫化物120も活物質として電極反応に利用でき、電池の内部抵抗が十分に低減されるものと考えられる。また、溶媒の水分含量を制御することにより、金属硫化物120や固体電解質130の分解を抑制することができる。さらに、機械混合を行わないため、後述する図3(c)の機械混合の場合のように機械混合によって固体電解質130が減衰または変性して減衰生成物または変性物131が生じることにより抵抗が高くなってしまうことがない。
一方、金属硫化物120、固体電解質130および導電性多孔体110を機械混合することで正極材料を作製することもできる。しかしながら、機械混合で作製した正極材料100”においては、図3(c)のように、導電性多孔体110の細孔110aの内部に金属硫化物120および固体電解質130が導入されず、導電性多孔体110の表面に多く存在する。細孔内に固体電解質が導入されないことからイオンの伝導経路が不十分となり、抵抗が十分に低減できないものと考えられる。さらに、機械混合により固体電解質130が減衰または変性して減衰生成物または変性物131が生じることにより抵抗が高くなってしまう。
上記のように、本形態に係る正極材料の製造方法は、金属硫化物および固体電解質を、これらの両方を溶解可能な溶媒に溶解させ、得られた溶液を導電性多孔体に含浸させることを含む。これにより、金属硫化物と固体電解質とが均一に混合された状態で導電性多孔体に含浸させることができる。そのため、導電性多孔体の表面にも細孔内にも金属硫化物と固体電解質とが均一に混合された状態で配置され、反応領域を増やすことができる。そして、溶媒の水分含量を制御することで金属硫化物や固体電解質の分解を抑制できる。以下、このような製造方法の一例について説明する。
まず、金属硫化物および固体電解質をこれらの両方を溶解可能な溶媒に溶解させた溶液を調製する。
なお、本明細書において、ある固形分がある溶媒に溶解可能とは、常圧下、25℃における当該固形分の当該溶媒に対する溶解度が0.1g/100g溶媒以上であることをいう。金属硫化物および固体電解質の両方を溶解可能とは、金属硫化物および固体電解質を別々に溶媒に溶解させたときのそれぞれの溶解度が、いずれも上記範囲であることをいう。
このような溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、エチレングリコール、グリセリン、カプリルアルコール、ラウリルアルコール、ミリスチルアルコール、セチルアルコール、ステアリルアルコール、オレイルアルコール、リノリルアルコールなどのアルコール類;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン、1,3-ジオキソランなどのエーテル類;などが挙げられる。金属硫化物および固体電解質の溶解度が高く、これらの分解が生じにくいことから、アルコール類が好ましい。
上記溶媒は、水分含量が0.2質量%以下である。水分含量が0.2質量%を超えると、溶媒中の水分が金属硫化物や固体電解質と反応して分解してしまうため、電極の高抵抗化につながってしまう。溶媒中の水分含量は、好ましくは0.1質量%以下であり、さらに好ましくは0.05質量%以下であり、さらに好ましくは0.02質量%以下であり、さらにより好ましくは0.01質量%以下であり、さらにより好ましくは0.005質量%以下であり、特に好ましくは0.002質量%以下であり、最も好ましくは0.001質量%以下である。溶媒中の水分含量は、例えば、カールフィッシャー電量滴定法によって測定することができる。
水分含量の低い溶媒の入手経路は特に限定されない。水分含量の少ない商品が市販されている場合には当該商品を購入して用いてもよいし、一般に市販されている比較的水分含量の多い商品を購入した後に、自ら当該商品中の水分含量を低減させて用いてもよい。溶媒の水分含量を低減させる手法についても特に制限されず、従来公知の知見が適宜参照されうる。例えば、加熱乾燥、減圧乾燥、乾燥剤(例えば、シリカゲルや硫酸ナトリウム)による乾燥、蒸留などが挙げられる。
溶液中の金属硫化物の濃度および固体電解質の濃度は特に制限されないが、溶液中の金属硫化物の濃度および溶液中の固体電解質の濃度の少なくとも一方が、5mg/mL以上であることが好ましい。このようにすることで十分な量の金属硫化物および固体電解質を導電性多孔体の表面および細孔内に導入することができることから、得られる正極材料においてイオン伝導度がより高くなる。また、溶媒を短時間で除去できることから副反応が生じにくい。その結果、電極の抵抗をより一層低減させることができる。溶液中の金属硫化物および固体電解質の濃度は、飽和濃度以下であることが好ましい。ここで、飽和濃度は、金属硫化物および固体電解質を、目的とする正極材料における金属硫化物と固体電解質との比率と同じ比率で混合した混合物を、25℃、大気圧下において溶媒に溶解させてゆき、溶けきれなくなって析出が生じる時点の濃度とする。
さらに、溶液中の前記金属硫化物と前記固体電解質との合計の濃度が、25mg/mL以上であることが好ましい。このようにすることで十分な量の金属硫化物および固体電解質を導電性多孔体の表面および細孔内に導入することができ、高性能の電極材料が得られうる。また、電極の抵抗をより一層低減させることができる。上記合計の濃度は、30mg/mL以上であることがより好ましく、40mg/mL以上であることがさらに好ましい。このようにすることで十分な量の金属硫化物および固体電解質を導電性多孔体の表面および細孔内に導入することができることから、得られる正極材料においてイオン伝導度がより高くなる。また、溶媒を短時間で除去できることから副反応が生じにくい。その結果、電極の抵抗をより一層低減させることができる。上記合計の濃度の上限値は、特に制限されないが、飽和濃度以下であることが好ましく、70mg/mL以下であることがより好ましい。
溶液中の金属硫化物と固体電解質との質量比は特に制限されず、目的とする正極材料における金属硫化物と固体電解質との質量比に設定すればよいが、例えば、金属硫化物:固体電解質=1:99~99:1である。上記質量比は、好ましくは金属硫化物:固体電解質=50:50~1:99であり、より好ましくは1:1~1:20である。上記範囲であれば、正極活物質の量を十分に確保できるために高性能の電池が得られうる。また、正極材料のイオン伝導性を確保でき、細孔内においてもイオン伝導のネットワークが十分に形成されるため好ましい。さらに、固体電解質が多すぎることによる固体電解質の分解も生じにくいため好ましい。
次いで、得られた溶液に導電性多孔体を分散させて分散液を得る。次いで、好ましくは減圧下で、この分散液を撹拌しながら溶媒を除去する。その後、好ましくは減圧下で、例えば60~250℃、好ましくは150~180℃程度の温度で、例えば1~120時間、好ましくは1~10時間の熱処理を施す。これにより、導電性多孔体の細孔の内部に固体電解質とともに正極活物質が配置(充填)された複合材料である正極材料が得られうる。
導電性多孔体の使用量は特に制限されず、目的とする正極材料における導電性多孔体の含有量となるように設定すればよい。
本形態の正極材料は、導電性多孔体の全細孔容積に対する正極活物質および固体電解質の占める体積の割合として規定される細孔充填率が50%以上であることが好ましく、80%以上であることが好ましく、100%以上であることが好ましい。上記範囲であると本発明の効果がより顕著に得られうる。細孔充填率の上限値は特に制限されないが、例えば、200%以下であり、好ましくは170%以下である。細孔充填率は窒素吸脱着測定と材料の仕込み比から見積もることができる。窒素吸脱着測定は、マイクロトラック・ベル株式会社製BELSORP miniを用いて行い、-196℃の温度で、多点法で行う。全細孔容積については、0.96の相対圧における吸着Nの容積より求める。
本発明の好ましい実施形態によれば、金属硫化物と固体電解質の質量比が、金属硫化物:固体電解質=1:1~1:5であり、細孔充填率が100%以上である。当該形態によれば、細孔内においてもイオン伝導のネットワークが十分に形成されるため好ましい。さらに、固体電解質が多すぎることによる固体電解質の分解も生じにくいため好ましい。また、エネルギー密度の観点からも好ましい。
金属硫化物と導電性多孔体との質量比は特に制限されないが、例えば、(金属硫化物/導電性多孔体)の比が、0.5~5であり、好ましくは1~4である。上記範囲であれば本発明の効果がより一層顕著に得られうる。
なお、金属硫化物および固体電解質をこれらの両方を溶解可能な溶媒に溶解させた溶液を調製する工程、および上記溶液に導電性多孔体を分散させて分散液を得る工程は、露点制御された不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましい。
なお、金属硫化物および固体電解質をこれらの両方を溶解可能な溶媒に溶解させた溶液を調製する工程、上記溶液に導電性多孔体を分散させて分散液を得る工程、および溶媒を除去する工程は、70℃以下の温度で行うことが好ましく、20~50℃の温度で行うことがより好ましい。これにより固体電解質の分解が抑制され、抵抗が低減される効果が高い。
このようにして得られた正極材料は、正極活物質である金属酸化物の少なくとも一部と固体電解質の少なくとも一部が導電性多孔質の細孔の内部に配置されていることが好ましい。ここで、導電性多孔体の細孔の内部に正極活物質や固体電解質が配置されているか否かの確認は、従来公知の種々の手法を用いて行うことが可能である。例えば、透過型電子顕微鏡(TEM)による導電性多孔体の断面の観察画像について、エネルギー分散型X線分光法(EDX)を用いて各材料由来の元素マッピングを行い、得られた元素マップや全元素のカウント数に対する各材料由来の元素のカウント数を指標として、各材料の配置形態を確認することが可能である。例えば、固体電解質がリン原子および/またはホウ素原子を含むものである場合に、当該リン原子および/またはホウ素原子が他の材料に由来する可能性がないのであれば、リンおよび/またはホウ素についての上記元素マップを取得し、その分布から固体電解質の配置形態を確認することが可能である。また、EDXにおける全元素のカウント数に対するリンおよび/またはホウ素のカウント数の比の値から、固体電解質の配置形態を確認することも可能である。
また、本形態の方法では、機械混合を行わないため、機械混合による固体電解質の減衰(消失)や変性が生じにくく、得られた正極材料中に保持される。正極材料において固体電解質が消失せず保持されていることは、例えば、532nmの波長のレーザーを用いた顕微ラマン分光測定によって確認することができる。ラマン分光測定は、固体の表面状態の解析に適しており、固体表面近傍の構造情報を詳細に得ることができる。また、顕微ラマン分光測定は、顕微鏡下において行うラマン分光測定である。この顕微ラマン分光測定によるラマンスペクトルにおいて、600cm-1以下の領域にLiPSClなどの硫化物固体電解質に由来するピークが観察される。
また、本形態の方法によって作製された正極材料は、当該正極材料のX線回析測定にて、2θが20°以上25°未満の領域に導電性多孔体に由来するピークAと、25~29°の領域にアルカリ金属硫化物などの金属硫化物および/または固体電解質に由来するピークBとを示し、前記ピークBの強度に対する前記ピークAの強度の比(A/B)が、0.02を超えることが好ましい。
上記A/Bは、より好ましくは0.03以上であり、さらに好ましくは0.10以上であり、さらにより好ましくは0.20以上である。当該範囲であれば本発明の効果がより顕著に得られうる。一方、上記A/Bの上限値は特に制限されないが、例えば100以下であり、好ましくは10以下であり、さらに好ましくは1以下である。本発明の方法によれば、導電性多孔体の表面および細孔内部に金属硫化物や固体電解質が均一に導入されるため、導電性多孔体の表面が過度に覆われてしまうことがない。そのため、導電性多孔体に由来するピークAが明瞭に観察される。これに対して、機械混合により作製された正極材料では、導電性多孔体の細孔の内部に金属硫化物および固体電解質が導入されず、導電性多孔体110の表面に多く存在する。そのため、XRDスペクトルにおいて導電性多孔体に由来するピークAの強度が相対的に小さくなり、上記A/Bの値が得られない。また、特許文献1などの従来技術による正極材料においても、金属硫化物および固体電解質は導電性多孔体の表面に多く存在する傾向にある。そのため、XRDスペクトルにおいて導電性多孔体に由来する広角ピークAの強度が相対的に小さくなり、上記A/Bの値が得られない。ここで、ここで、XRD測定は理学電機株式会社製のSmartLabを使用し、以下の条件で行う:
スキャンスピード(2θ/θ):2°/min
ステップ幅(2θ/θ):0.02°
線源:CuKα:λ=1.5418Å。
ピークAおよびピークBの強度は、ベースラインを差し引いたピーク高さをいう。また、上記の所定の領域に所定の帰属を有するピークが2以上観察された場合は、最も高いピークの高さをピーク強度とする。
なお、本形態の正極材料は、X線回折スペクトルにおいて硫黄単体に由来するピークを有さないことが好ましい。
正極活物質層における正極活物質の含有量は、特に限定されるものではないが、例えば、35~99質量%の範囲内であることが好ましく、40~90質量%の範囲内であることがより好ましい。なお、この含有量の値は、導電性多孔体および固体電解質を除く正極活物質のみの質量を基準に算出するものとする。
また、正極活物質層は、導電助剤(正極活物質や固体電解質を細孔内部に保持していないもの)および/またはバインダをさらに含んでもよく、これらの具体的な形態および好ましい形態については、上述した負極活物質層の欄において説明したものが同様に採用されうる。同様に、正極活物質層は固体電解質をさらに含むことが好ましく、硫化物固体電解質をさらに含むことが特に好ましい。硫化物固体電解質などの固体電解質の具体的な形態および好ましい形態についても、上述した負極活物質層の欄において説明したものが同様に採用されうる。
正極活物質層の厚さは、目的とする二次電池の構成によっても異なるが、例えば、0.1~1000μmの範囲内であることが好ましい。
[正極集電板および負極集電板]
集電板(25、27)を構成する材料は、特に制限されず、二次電池用の集電板として従来用いられている公知の高導電性材料が用いられうる。集電板の構成材料としては、例えば、アルミニウム、銅、チタン、ニッケル、ステンレス鋼(SUS)、これらの合金等の金属材料が好ましい。軽量、耐食性、高導電性の観点から、より好ましくはアルミニウム、銅であり、特に好ましくはアルミニウムである。なお、正極集電板27と負極集電板25とでは、同一の材料が用いられてもよいし、異なる材料が用いられてもよい。
[正極リードおよび負極リード]
また、図示は省略するが、集電体と集電板との間を正極リードや負極リードを介して電気的に接続してもよい。正極および負極リードの構成材料としては、公知のリチウム二次電池において用いられる材料が同様に採用されうる。なお、外装から取り出された部分は、周辺機器や配線などに接触して漏電したりして製品(例えば、自動車部品、特に電子機器等)に影響を与えないように、耐熱絶縁性の熱収縮チューブなどにより被覆することが好ましい。
[電池外装材]
電池外装材としては、公知の金属缶ケースを用いることができるほか、図1および図2に示すように発電要素を覆うことができる、アルミニウムを含むラミネートフィルム29を用いた袋状のケースが用いられうる。該ラミネートフィルムには、例えば、PP、アルミニウム、ナイロンをこの順に積層してなる3層構造のラミネートフィルム等を用いることができるが、これらに何ら制限されるものではない。高出力化や冷却性能に優れ、EV、HEV用の大型機器用電池に好適に利用することができるという観点から、ラミネートフィルムが望ましい。また、外部から掛かる発電要素への群圧を容易に調整することができることから、外装体はアルミニウムを含むラミネートフィルムがより好ましい。
本形態に係る積層型電池は、複数の単電池層が並列に接続された構成を有することにより、高容量でサイクル耐久性に優れるものである。したがって、本形態に係る積層型電池は、EV、HEVの駆動用電源として好適に使用される。
以上、リチウム二次電池の一実施形態を説明したが、本発明は上述した実施形態において説明した構成のみに限定されることはなく、特許請求の範囲の記載に基づいて適宜変更することが可能である。
例えば、本形態に係るリチウム二次電池が適用される電池の種類として、集電体の一方の面に電気的に結合した正極活物質層と、集電体の反対側の面に電気的に結合した負極活物質層とを有する双極型電極を含む、双極型(バイポーラ型)の電池も挙げられる。
また、本形態に係る二次電池は、全固体型でなくてもよい。すなわち、固体電解質層は、従来公知の液体電解質(電解液)をさらに含有していてもよい。固体電解質層に含まれうる液体電解質(電解液)の量について特に制限はないが、固体電解質により形成された固体電解質層の形状が保持され、液体電解質(電解液)の液漏れが生じない程度の量であることが好ましい。
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明する。ただし、本発明の技術的範囲が以下の実施例のみに制限されるわけではない。
《試験用セルの作製例》
[実施例1]
(正極材料の調製)
露点-68℃以下のアルゴン雰囲気のグローブボックス内で、室温で、正極活物質である硫化リチウム(LiS)を0.167g、硫化物固体電解質(Ampcera社製、LiPSCl)1.667gを水分含量が0.001質量%以下である超脱水エタノール(富士フイルム和光純薬株式会社製)40mLに加え、固体の粒子が見えなくなるまで撹拌して、正極活物質と固体電解質とをエタノールに溶解させた。得られた溶液に、導電性多孔体である多孔質炭素粉末(東洋炭素株式会社製、クノーベル(登録商標)P(3)010)0.167gを加え、よく撹拌して溶液中に多孔質炭素粉末を十分に分散させた。この多孔質炭素粉末の分散液が入った容器を真空装置に接続し、マグネティックスターラーにより容器中の分散液を撹拌しながら油回転ポンプにより容器中を1Pa以下の減圧状態にした。減圧下では溶媒であるエタノールが揮発するため、時間の経過とともにエタノールが除去され、正極活物質および固体電解質を含浸した導電性多孔体が容器内に残存した。このようにしてエタノールを減圧除去した後に減圧下で180℃に加熱し、3時間熱処理を行うことにより正極材料を調製した。なお、上記超脱水エタノールは、別途カールフィッシャー電量滴定法により水分含量が0.001質量%以下であることを確認した。
(正極合剤の調製)
露点-68℃以下のアルゴン雰囲気のグローブボックス内で、5mm径のジルコニアボール40gと、上記で調製した正極材料0.130gと、固体電解質(Ampcera社製、LiPSCl)0.070gとを容量45mLのジルコニア製容器に入れ、遊星ボールミル(フリッチュ社製、Premium line P-7)により370rpmで6時間処理することにより、正極合剤の粉末を得た。
(試験用セル(全固体リチウム二次電池)の作製)
電池の作製は、露点-68℃以下のアルゴン雰囲気のグローブボックス内で行った。
マコール製の円筒チューブ治具(管内径10mm、外径23mm、高さ20mm)の片側にSUS製の円筒凸型パンチ(10mm径)を挿し入れ、円筒チューブ治具の上側から硫化物固体電解質(Ampcera社製、LiPSCl)80mgを入れた。その後、もう1つのSUS製円筒凸型パンチを挿し入れて固体電解質を挟み込み、油圧プレスを用いて75MPaの圧力で3分間プレスすることにより直径10mm、厚さ約0.6mmの固体電解質層を円筒チューブ治具中に形成した。次に、上側から挿し入れた円筒凸型パンチを一旦抜き取り、円筒チューブ内の固体電解質層の片側面に上記で調製した正極合剤7.5mgを入れ、再び上側から円筒凸型パンチ(正極集電体を兼ねる)を挿し入れ、300MPaの圧力で3分間プレスすることで、直径10mm、厚さ約0.06mmの正極活物質層を固体電解質層の片側面に形成した。次に、下側の円筒凸型パンチ(負極集電体を兼ねる)を抜き取り、負極として直径8mmに打ち抜いたリチウム箔(ニラコ社製、厚さ0.20mm)と直径9mmに打ち抜いたインジウム箔(ニラコ社製、厚さ0.30mm)を重ねて、インジウム箔が固体電解質層の側に位置するように円筒チューブ治具の下側から入れて、再び円筒凸型パンチを挿し入れ、75MPaの圧力で3分間プレスすることでリチウム-インジウム負極を形成した。
以上のようにして、負極集電体(パンチ)、リチウム-インジウム負極、固体電解質層、正極活物質層、正極集電体(パンチ)がこの順に積層された試験用セル(全固体リチウム二次電池)を作製した。
[実施例2]
正極材料の調製において、硫化リチウムを1.000g、硫化物固体電解質を0.500g、多孔質炭素粉末を0.167gに変更したことを除いては、上記実施例1と同様の手法により、全固体リチウム二次電池を作製した。
[実施例3]
正極材料の調製において、硫化リチウムを0.667g、硫化物固体電解質を1.000g、多孔質炭素粉末を0.333gに変更したことを除いては、上記実施例1と同様の手法により、全固体リチウム二次電池を作製した。
[実施例4]
正極材料の調製において、超脱水エタノールを水分含量が無水エタノール(富士フイルム和光純薬株式会社製、水分含量0.2質量%以下)に変更したことを除いては、上記実施例1と同様の手法により、全固体リチウム二次電池を作製した。なお、上記無水エタノールは、別途カールフィッシャー電量滴定法により水分含量が0.2質量%以下であることを確認した。
[実施例5]
正極材料の調製において、硫化リチウムを0.667g、硫化物固体電解質を1.000g、多孔質炭素粉末を0.333gに変更し、超脱水エタノールを400mLに変更したことを除いては、上記実施例1と同様の手法により、全固体リチウム二次電池を作製した。
[比較例1]
正極材料の調製において、超脱水エタノールを一般的な試薬のエタノール(富士フイルム和光純薬株式会社製、試薬一級(95%))に変更したことを除いては、上記実施例5と同様の手法により、全固体リチウム二次電池を作製した。なお、上記のエタノールの水分含量を別途測定したところ、約1質量%であった。
[比較例2]
露点-68℃以下のアルゴン雰囲気のグローブボックス内で、硫黄(Aldrich社製)6.104gとカーボン(関西熱化学株式会社製、活性炭、P(3)010)1.896gをメノウ乳鉢で十分に混合した後、遊星ボールミルで15分間混合した。混合粉末を密閉耐圧オートクレーブ容器に入れて170℃で3時間加熱することにより硫黄を溶融させて、硫黄をカーボンに含浸させた。これにより硫黄/カーボン複合材を得た。
得られた硫黄/カーボン複合材に対して、特開2013-80637号公報の実施例1にしたがって水素化トリエチルホウ素リチウムを加えて反応させ、硫化リチウム/カーボン複合体を得た。得られた硫化リチウム/カーボン複合体に五硫化二リンを加えて反応させて正極材料を得た。
[比較例3]
露点-68℃以下のアルゴン雰囲気のグローブボックス内で、5mm径のジルコニアボール40gと、硫化リチウム0.667gと、固体電解質(Ampcera社製、LiPSCl)1.000gと、多孔質炭素粉末(東洋炭素株式会社製、クノーベル(登録商標)P(3)010)0.333gと、を容量45mLのジルコニア製容器に入れ、遊星ボールミルにより370rpmで6時間処理し、硫化リチウム/固体電解質/カーボン混合粉末である正極材料を得た。上記以外は実施例1と同様の手法により、全固体リチウム二次電池を作製した。
《正極材料の顕微ラマン分光測定》
実施例3および比較例3で調製した正極材料の粉末粒子について、顕微ラマン分光測定を行い、ラマンスペクトルを取得した。ここで、ラマン分析装置としてはHORIBA社製HRを用いた。測定条件は、100倍の対物レンズを用い、532nmの波長のレーザーを入射光に用い、スリット幅は0.1mmとした。測定範囲は0~2000cm-1とし、測定時間は10秒、積算回数を24回とした。図4(a)に実施例3の正極材料、図4(b)に比較例3の正極材料のラマンスペクトルを示す。図4(a)に示すように本実施例3において得られた正極材料のラマンスペクトルは、600cm-1以下の領域にLiSおよび硫化物固体電解質にそれぞれ由来するピークを示す。一方、図4(b)の比較例3の正極材料ではLiSに由来するピークが消失し、硫化物固体電解質に由来するピークが減衰していることがわかる。これは、機械混合によりLiSや硫化物固体電解質の減衰が生じてしまうためと考えられる。
《試験用セルの評価例》
上記の各比較例および各実施例で作製した試験用セルについて、下記の手法により内部抵抗値の測定を行った。なお、以下の測定はすべて、充放電試験装置(北斗電工株式会社製、HJ-SD8)を用い、25℃に設定した定温恒温槽中で行った。
(内部抵抗の測定)
測定装置として、バイオロジック(Bio-Logic SAS(フランス))社製、商品名「SP-200」高性能電気化学測定システムを用い、周波数範囲7MHz~0.1Hz、温度条件は室温、印加電圧50mVの測定条件にて電気化学特性としてインピーダンスの測定を行った。恒温槽内に試験用セルを設置し、セル温度が一定になった後、評価を実施した。
各実施例、比較例で作製した正極材料の構成および内部抵抗の測定結果を下記の表1に示す。表1中、合計濃度は、正極活物質および固体電解質を溶解させた溶液における正極活物質および固体電解質の合計の濃度を表す。
Figure 2023064505000001
表1に示す結果から、本発明の方法によれば、全固体リチウム二次電池において、内部抵抗がよりいっそう低減されうることがわかる。
10a 積層型電池、
11’ 負極集電体、
11” 正極集電体、
13 負極活物質層、
15 正極活物質層、
17 固体電解質層、
19 単電池層、
21 発電要素、
25 負極集電板、
27 正極集電板、
29 ラミネートフィルム、
100、100’、100” 正極材料、
110 導電性多孔体、
110a 細孔、
120 金属硫化物(正極活物質)、
130 固体電解質、
131 固体電解質の減衰生成物または変性物、
140 硫黄単体(不活性硫黄)。

Claims (9)

  1. 正極活物質である金属硫化物および固体電解質を、これらの両方を溶解可能な溶媒であって水分含量が0.2質量%以下である溶媒に溶解させ、
    得られた溶液を導電性多孔体に含浸させることを含む、正極材料の製造方法。
  2. 前記溶媒がアルコール類である、請求項1に記載の方法。
  3. 前記溶液中の前記金属硫化物の濃度および前記溶液中の前記固体電解質の濃度の少なくとも一方が、5mg/mL以上である、請求項1または2に記載の方法。
  4. 前記金属硫化物が、硫化リチウムであり、前記固体電解質がリチウムを含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
  5. 前記固体電解質が、少なくともP、Li、およびSを含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
  6. 前記金属硫化物と前記固体電解質との質量比が、金属硫化物:固体電解質=1:1~1:20である、請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
  7. 前記溶液中の前記金属硫化物と前記固体電解質との合計の濃度が、25mg/mL以上である、請求項1~6のいずれか1項に記載の方法。
  8. 請求項1~7のいずれか1項に記載の方法により得られた正極材料。
  9. 請求項8に記載の正極材料を含む、二次電池。
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