JP2023059186A - 鉄基焼結体製造用の混合物、鉄基焼結体および鉄基焼結体の製造方法 - Google Patents

鉄基焼結体製造用の混合物、鉄基焼結体および鉄基焼結体の製造方法 Download PDF

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Yoko Murata
佳寿美 柳澤
Kazumi Yanagisawa
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Shoo Katsura
宏幸 三谷
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Abstract

【課題】磁気特性および機械特性が高い鉄基焼結体を得る。【解決手段】鉄基焼結体製造用の混合物は、表面がリン酸系被膜によって被覆され、前記リン酸系被膜の表面がシリコーン樹脂被膜によって被覆された鉄基軟磁性粉末と、ステアリン酸アミドと、無機固体潤滑剤とを含む。鉄基焼結体の製造方法は、前記鉄基焼結体製造用の混合物を成形する成形工程と、前記成形工程で得られた成形体を水蒸気中で熱処理する熱処理工程とを含む。鉄基焼結体は、リン酸系被膜とその上にシリコーン樹脂被膜が形成された鉄基軟磁性粉末と、鉄基軟磁性粉末間の粒界に存在する酸化鉄とを有する。酸化鉄は、粒界の50%以上に存在する。【選択図】なし

Description

本発明は、鉄基焼結体製造用の混合物、鉄基焼結体および鉄基焼結体の製造方法に関する。
特許文献1および特許文献2には、モーターのロータやステータのコア等の電磁気部品に用いられる圧粉磁心が記載されている。特許文献1および特許文献2に記載された圧紛磁心は、磁気特性に優れ、機械的強度が高い。
特開2017-4992号公報 特許第4801734号
近年、従来に増して、電磁気部品に用いられる材料の高性能化が要求されている。
本発明の目的は、従来の圧粉磁心に比べ、磁気特性および機械特性が高い鉄基焼結体を製造可能な混合物を提供することである。また、本発明の他の目的は、従来の圧粉磁心に比べ、磁気特性および機械特性が高い鉄基焼結体およびその製造方法を提供することである。
本明細書に記載の鉄基焼結体製造用の混合物は、表面がリン酸系被膜に被覆され、前記リン酸系被膜の表面がシリコーン樹脂被膜に被覆された鉄基軟磁性粉末と、ステアリン酸アミドと、無機固体潤滑剤とを含む。
本明細書に記載の鉄基焼結体は、上述した鉄基焼結体製造用の混合物の成形体を水蒸気中で熱処理することによって得られた鉄基焼結体であり、表面にリン酸系被膜が形成され、前記リン酸系被膜の表面にシリコーン樹脂被膜が形成された鉄基軟磁性粉末と、前記鉄基軟磁性粉末間の粒界に存在する酸化鉄とを有する。前記酸化鉄は、前記粒界の58%以上に存在する。
本明細書に記載の鉄基焼結体の製造方法は、表面がリン酸系被膜に被覆され、前記リン酸系被膜の表面がシリコーン樹脂被膜に被覆された鉄基軟磁性粉末と、ステアリン酸アミドと、無機固体潤滑剤とを含む混合物を成形する成形工程と、前記成形工程で得られた成形体を水蒸気中で熱処理する熱処理工程とを含む。
上述した鉄基焼結体製造用の混合物を用いることによって、従来の圧紛磁心より磁気特性および機械特性が高い鉄基焼結体を製造することができる。また、従来の圧紛磁心より磁気特性および機械特性が高い鉄基焼結体を提供することができる。上述した鉄基焼結体の製造方法によると、従来の圧紛磁心より磁気特性および機械特性が高い鉄基焼結体を製造することができる。
本発明に係る鉄基焼結体の断面の走査電子顕微鏡画像の一例である。 本発明に係る鉄基焼結体の断面の走査電子顕微鏡画像の一例である。 熱処理時間と抗折強度の関係を示す図である。 鉄基焼結体の断面の走査電子顕微鏡画像である。 鉄基焼結体の断面の走査電子顕微鏡画像である。 鉄基焼結体の断面の走査電子顕微鏡画像である。 熱処理温度と抗折強度の関係を示す図である。 ΔLと電気抵抗と鉄損の関係を示す図である。 熱処理温度とΔLと鉄損の関係を示す図である。 鉄基焼結体の断面の走査電子顕微鏡画像である。 鉄基焼結体の断面の走査電子顕微鏡画像であり、粒界を着色した画像である。 鉄基焼結体の断面の走査電子顕微鏡画像であり、粒界の空隙を着色した画像である。 鉄基焼結体(高強度材)の断面の走査電子顕微鏡画像である。 鉄基焼結体(低強度材)の断面の走査電子顕微鏡画像である。 図8Bに示す鉄基焼結体の一部のエリアのTEM-EDXマッピング像である。 抗折強度と粒界の空隙率の関係を示す図である。
以下、本発明の好適な実施形態について説明する。
〔鉄基焼結体製造用の混合物〕
本発明に係る鉄基焼結体製造用の混合物は、表面がリン酸系被膜(以下では「リン酸被膜」と称することがある)に被覆され、前記リン酸系被膜の表面がシリコーン樹脂被膜に被覆された鉄基軟磁性粉末と、ステアリン酸アミドと、無機固体潤滑剤とを含む。
[鉄基軟磁性粉末]
鉄基軟磁性粉末は、強磁性体の鉄基粉末であり、具体的には、純鉄粉、鉄基合金粉末(例えば、Fe-Al合金、Fe-Si合金、センダスト、パーマロイなど)、および鉄基アモルファス粉末等が挙げられる。これらの鉄基軟磁性粉末は、例えば、アトマイズ法によって溶融鉄(または溶融鉄合金)を微粒子とした後に還元し、次いで粉砕する等によって製造できる。鉄基軟磁性粉末は、原理的に通常の粉末冶金に用いられる粒度であれば、粒度分布に依存しない。例えば、粒度の大きな鉄基軟磁性粉末(例えば、250μm以上600μm以下)を通常より多く含んでもよい。この場合、所定の鉄損に抑えながら、成形体に成形する際の圧縮性を向上させることができる。
[リン酸系被膜]
鉄基軟磁性粉末の表面に、リン酸系被膜が形成されている。リン酸系被膜により鉄基軟磁性粉末に電気絶縁性を付与することができる。これにより渦電流が抑制される。また、リン酸系被膜は鉄基軟磁性粉末に対する濡れ性が良いため、リン酸系被膜を鉄基軟磁性粉末の表面に形成することにより、鉄基軟磁性粉末の表面を、絶縁性を有するリン酸系被膜で均一に被覆することができる。
リン酸系被膜は、P(リン)を含む化合物を用いて形成されるガラス状の被膜であり、その組成は特に限定されるものではない。例えば、上記P以外に、更にNa(ナトリウム)およびS(硫黄)の少なくとも1種を含む化合物を用いて形成されるガラス状の被膜であることが好ましい。これらの元素は、熱処理時(後述する焼鈍時や水蒸気熱処理時)に酸素がFeと半導体を形成し、比抵抗を低下させるのを抑制するからである。上記化合物は、より好ましくはNaおよびSを含む化合物である。
上記元素の含有率は、リン酸系被膜とその上にシリコーン樹脂被膜が形成された鉄基軟磁性粉末100質量%中の量として、Pは0.005~1質量%、Naは0.002~0.6質量%、Sは0.001~0.2質量%であることが好ましい。リン酸系被膜にP以外に含まれる元素が、NaおよびSのうちNaである場合も、Sを用である場合も、NaおよびSである場合も、それぞれをこの範囲内とすることが好ましい。
上記元素のうち、Pは酸素を介して鉄基軟磁性粉末表面と化学結合を形成する。従って、P量が0.005質量%未満の場合には、鉄基軟磁性粉末表面とリン酸系被膜との化学結合量が不十分となり、強固な被膜を形成しないおそれがあるため、好ましくない傾向がある。一方、P量が1質量%を超える場合には、化学結合に関与しないPが未反応のまま残留し、かえって結合強度を低下させるおそれがあるため、好ましくない傾向がある。
上記元素のうちNaおよびSは、熱処理時(後述する焼鈍時や水蒸気熱処理時)にFe(鉄)と酸素が半導体を形成するのを阻害し、比抵抗が低下するのを抑制する作用を有する元素である。NaおよびSを複合添加することによってその効果が最大限に発揮される。
上記リン酸系被膜には、更に、Mg(マグネシウム)および/またはB(ホウ素)が含まれていてもよい。これらの元素の含有率は、リン酸系被膜とその上にシリコーン樹脂被膜が形成された鉄基軟磁性粉末100質量%中の量として、Mgは0.001~0.5質量%であることが好適であり、Bは0.001~0.5質量%であることが好適である。上記リン酸系被膜には、更に、Co(コバルト)、Cs(セシウム)、およびAl(アルミニウム)よりなる群から選ばれる少なくとも1種が含まれていてもよい。
上記リン酸系被膜の膜厚は、1~250nm程度が好ましい。膜厚が1nmより薄い場合、絶縁効果が発現しないことがある。一方、膜厚が250nmを超える場合、絶縁効果が飽和する上、成形体の高密度化の点からも望ましくない。より好ましい膜厚は50~100nmである。
[リン酸系被膜の形成方法]
鉄基軟磁性粉末の表面にリン酸系被膜を形成する方法は特に限定されない。例えば、水および/または有機溶剤からなる溶媒にPを含む化合物を溶解させた溶液と、鉄基軟磁性粉末とを混合した後、必要に応じて前記溶媒を蒸発させることにより、鉄基軟磁性粉末の表面にリン酸系被膜を形成することができる。
上記溶媒としては、水や、アルコールやケトン等の親水性有機溶剤、及びこれらの混合物が挙げられる。また、上記溶媒には公知の界面活性剤を添加してもよい。
上記Pを含む化合物としては、例えば、オルトリン酸(HPO)が挙げられる。また、上記リン酸系被膜にCo等の元素を含有させるためには、例えば、Co(PO(CoおよびP源)、Co(PO・8HO(CoおよびP源)、NaHPO(PおよびNa源)、NaHPO(PおよびNa源)、NaHPO・nHO(PおよびNa源)、Al(HPO(PおよびAl源)、CsSO(CsおよびS源)、HSO4(S源)、MgO(Mg源)、HBO(B源)等の化合物が使用可能である。これらのなかでも、NaHPO(りん酸二水素ナトリウム塩)をP源やNa源として用いると、得られる成形体の密度、強度および比抵抗がバランス良く優れるものとなる。
鉄基軟磁性粉末に対するPを含む化合物の添加量は、形成されるリン酸系被膜の組成が上記の範囲になるように調整すればよい。例えば、固形分が0.01~10質量%程度となるように調製したPを含む化合物や必要に応じて被膜に含ませようとする元素を含む化合物の溶液を、鉄基軟磁性粉末100質量部に対して1~10質量部程度添加して、公知のミキサー、ボールミル、ニーダー、V型混合機、造粒機等の混合機で混合することによって、形成されるリン酸系被膜の組成を上記の範囲内にすることができる。
また必要に応じて、上記混合工程の後、大気中、減圧下、または真空下で、150~250℃で乾燥してもよい。乾燥後には、目開き200~500μm程度の篩を通過させてもよい。上記工程を経ることで、リン酸系被膜が形成された鉄基軟磁性紛末が得られる。
[シリコーン樹脂被膜]
本発明の鉄基軟磁性粉末には、上述したリン酸系被膜の上に、シリコーン樹脂被膜が形成されている。シリコーン樹脂被膜は、耐熱性に優れたSi-O結合を有し、熱的安定性に優れた絶縁膜である。また、後述する混合物の成形時に、シリコーン樹脂被膜に含まれるシリコーン樹脂が架橋・硬化反応を起こすことにより、鉄基軟磁性粉末同士が強固に結合する。これにより、高強度な成形体が得られる。リン酸系被膜の上に、一層のシリコーン樹脂被膜が形成されていてもよく、二層以上のシリコーン樹脂被膜が形成されていてもよい。
鉄基軟磁性粉末の表面に形成されたリン酸系被膜は高い絶縁性を有するが、脆く割れやすいため、熱処理時(後述する焼鈍時や水蒸気熱処理時)に鉄基軟磁性粉末の膨張および収縮による影響を受けて割れやすい。一方、シリコーン樹脂被膜は、リン酸系被膜と比較して、伸縮性を有するため、熱処理時(後述する焼鈍時や水蒸気熱処理時)に割れにくい。リン酸系被膜の上にシリコーン樹脂被膜が形成されていることにより、熱処理(後述する焼鈍や水蒸気熱処理)を行っても、鉄基軟磁性粉末が絶縁膜で覆われている。そのため、高い絶縁性を有する焼結体が得られる。また、熱処理を行っても絶縁膜が残るため、高温の熱処理が可能となる。高温で熱処理することにより、鉄基軟磁性粉末内の欠陥を除く事ができ、鉄損が低下するため、優れた磁気特性が得られる。また、高温で熱処理することにより、高い機械特性が得られる。さらに、リン酸系被膜がシリコーン被膜に被覆されていることで、リン酸系被膜が後述する無機固体潤滑剤に直接接触しない。そのため、無機固体潤滑剤がリン酸系被膜の絶縁性に影響を及ぼすことがない。
本発明で用いられる上記シリコーン樹脂は、従来から公知のシリコーン樹脂を用いることができ、例えば市販品として、信越化学工業社製のKR261、KR271、KR272、KR275、KR280、KR282、KR285、KR251、KR155、KR220、KR201、KR204、KR205、KR206、KR225、KR311、KR700、SA-4、ES-1001、ES1001N、ES1002T、KR3093や東レ・ダウコーニング社製のSR2100、SR2101、SR2107、SR2110、SR2108、SR2109、SR2115、SR2400、SR2410、SR2411、SH805、SH806A、SH840などが挙げられる。
また、本発明で用いられる上記シリコーン樹脂としては、硬化が遅いものでは粉末がべとついて被膜形成後のハンドリング性が悪いので、二官能性のD単位(RSiX2:Xは加水分解性基)よりは、三官能性のT単位(RSiX:Xは前記と同じ)を多く持つものが好ましい。しかし、四官能性のQ単位(SiX:Xは前記と同じ)が多く含まれていると、予備硬化の際に粉末同士が強固に結着してしまい、後の成形工程を行いにくくなる。よって、シリコーン樹脂のT単位は60モル%以上が好ましく、80モル%以上がより好ましく、全てT単位であることが最も好ましい。
ところで、上記シリコーン樹脂としては、上記Rがメチル基またはフェニル基となっているメチルフェニルシリコーン樹脂が一般的であり、フェニル基を多く持つ方が耐熱性は高いとされている。しかし、後述する高温の水蒸気熱処理条件では、フェニル基の存在はそれほど有効とは言えなかった。フェニル基の嵩高さが、緻密なガラス状網目構造を乱して、熱的安定性や鉄との化合物形成阻害効果を逆に低減させるのではないかと考えられる。よって、本発明では、メチル基が50モル%以上のメチルフェニルシリコーン樹脂(例えば、信越化学工業社製のKR255、KR311等)を用いることが好ましく、メチル基が70モル%以上のメチルフェニルシリコーン樹脂(例えば、信越化学工業社製のKR300等)がより好ましく、フェニル基を全く持たないメチルシリコーン樹脂(例えば、信越化学工業社製のKR251、KR400、KR220L、KR242A、KR240、KR500、KC89等や、東レ・ダウコーニング社製のSR2400等)がさらに好ましい。中でもKR220L、SR2400が特に好ましい。なお、シリコーン樹脂(被膜)のメチル基とフェニル基の比率や官能性については、FT-IR等で分析可能である。
上記シリコーン樹脂被膜の付着量は、リン酸系被膜とその上にシリコーン樹脂被膜が形成された鉄基軟磁性粉末を100質量%としたとき、0.05~0.3質量%となるように調整することが好ましい。シリコーン樹脂被膜の付着量が0.05質量%より少ない場合、絶縁性に劣り、電気抵抗が低くなりやすい。シリコーン樹脂被膜の付着量が0.3質量%より多い場合、得られる成形体の高密度化を達成しにくい。
上記シリコーン樹脂被膜の厚みとしては、1~200nmが好ましい。より好ましい厚みは50~150nmであり、さらに好ましい厚みは50~100nmである。
また、上記リン酸系被膜と上記シリコーン樹脂被膜の合計厚みは250nm以下とすることが好ましい。合計厚みが250nmを超えると、磁束密度の低下が大きくなることがある。
[シリコーン樹脂被膜の形成方法]
上記シリコーン樹脂被膜の形成は、例えば、シリコーン樹脂をアルコール類や、トルエン、キシレン等の石油系有機溶剤等に溶解させたシリコーン樹脂溶液と、リン酸系被膜が形成された鉄基軟磁性粉末(以下、便宜上、単に「リン酸系被膜形成鉄粉」と称する場合がある。)とを混合し、次いで必要に応じて前記有機溶剤を蒸発させることによって行うことができる。
上記リン酸系被膜形成鉄粉に対するシリコーン樹脂の添加量は、形成されるシリコーン樹脂被膜の付着量が上記の範囲になるように調整すればよい。例えば、前記したリン酸系被膜形成鉄粉100質量部に対し、固形分が大体2~10質量%になるように調製した樹脂溶液を0.5~10質量部程度添加して混合し、これを乾燥すればよい。樹脂溶液が0.5質量部より少ないと混合に時間がかかったり、被膜が不均一になったりするおそれがある。一方、樹脂溶液が10質量部を超えると乾燥に時間がかかったり、乾燥が不十分になったりするおそれがある。樹脂溶液は適宜加熱しておいても構わない。混合機は前記したものと同様のものが使用可能である。
乾燥工程では、用いた有機溶剤が揮発する温度で、かつ、シリコーン樹脂の硬化温度未満に加熱して、有機溶剤を充分に蒸発揮散させることが望ましい。具体的な乾燥温度としては、上記したアルコール類や石油系有機溶剤の場合は、60~80℃程度が好適である。乾燥後には、凝集ダマを除くために、目開き300~500μm程度の篩を通過させておくことが好ましい。
乾燥後には、シリコーン樹脂被膜が形成された鉄基軟磁性粉末(以下、便宜上、単に「シリコーン樹脂被膜形成鉄粉」と称する場合がある。)を加熱して、シリコーン樹脂被膜を予備硬化させることが推奨される。予備硬化とは、シリコーン樹脂被膜の硬化時における軟化過程を粉末状態で終了させる処理である。この予備硬化処理によって、成形時(例えば100~250℃程度)にシリコーン樹脂被膜形成鉄粉の流れ性を確保することができる。具体的な手法としては、シリコーン樹脂被膜形成鉄粉を、このシリコーン樹脂の硬化温度近傍で短時間加熱する方法が簡便であるが、薬剤(硬化剤)を用いる手法も利用可能である。予備硬化と、硬化(予備ではない完全硬化)処理との違いは、予備硬化処理では、粉末同士が完全に接着固化することなく、容易に解砕が可能であるのに対し、例えば、粉末の成形後に行う高温加熱硬化処理では、樹脂が硬化して粉末同士が接着固化する点である。完全硬化処理によって成形体の強度が向上する。
上記したように、シリコーン樹脂を予備硬化させた後、解砕することで、流動性に優れた粉末が得られ、成形の際、成形用型へ、粉末を砂のようにさらさらと投入することができるようになる。予備硬化させないと、例えば成形の際に粉末同士が付着して、成形用型への短時間での投入が困難となることがある。実操業上、ハンドリング性の向上は非常に有意義である。また、予備硬化させることによって、得られる圧粉磁心の比抵抗が非常に向上することが見出されている。この理由は明確ではないが、硬化の際の鉄粉との密着性が上がるためではないかと考えられる。
上記予備硬化を短時間加熱法によって行う場合、100~200℃で5~100分の加熱処理を行うとよい。130~170℃で10~30分がより好ましい。予備硬化後も、前記したように、篩を通過させておくことが好ましい。
[ステアリン酸アミド]
本発明の鉄基焼結体製造用の混合物は、上述したリン酸系被膜とその上にシリコーン樹脂被膜が形成された鉄基軟磁性粉末に加え、潤滑剤を含む。潤滑剤は、上記混合物を目的の形状に成形する際、混合物を成形用型に充填しやすくする。本発明の鉄基焼結体製造用の混合物は、潤滑剤として、有機潤滑剤であるステアリン酸アミドを含む。
上記混合物を成形後、熱処理(後述する焼鈍や水蒸気熱処理)した際、有機潤滑剤は除去されるが、除去されなかった有機潤滑剤の残渣は鉄基軟磁性粉末中の鉄と反応し、熱処理によって得られる焼結体を黒変化させる。これは鉄損を増加させる原因となる。しかし、本願発明者らの研究から、有機潤滑剤としてステアリン酸アミドを使用することにより、上記混合物を成形後、熱処理(後述する焼鈍や水蒸気熱処理)した際、焼結体の色が変化しないことがわかった。このことから、有機潤滑剤としてステアリン酸アミドを使用することにより、有機潤滑剤の残渣が残らず、鉄損の増加を抑えられることがわかった。
鉄基焼結体製造用の混合物は、鉄基焼結体製造用の混合物100質量%に対して、ステアリン酸アミドを0.1質量%以上0.8質量%以下含有することが好ましい。ステアリン酸アミドの含有量が0.1質量%未満である場合、成形時に型との焼き付きが発生することがある。一方、ステアリン酸アミドの含有量が0.8質量%を超える場合、成形体密度が低くなるため、磁気特性に優れた焼結体が得られにくい。ステアリン酸アミドの含有量は0.2質量%以上がより好ましく、0.25質量%以上がさらに好ましい。また、ステアリン酸アミドの含有量は0.45質量%以下がより好ましく、0.4質量%以下がさらに好ましい。
本発明の鉄基焼結体製造用の混合物は、ステアリン酸アミドに加え、他の有機潤滑剤を含んでいてもよい。他の有機潤滑剤として、例えば、炭化水素系、脂肪酸系、高級アルコール系、脂肪族アミド系、エステル系などの有機系潤滑剤が挙げられる。
炭化水素系の潤滑剤として、流動パラフィン、パラフィンワックス、合成ポリエチレンワックスなどが挙げられる。脂肪酸系、高級アルコール系の潤滑剤として、比較的安価且つ低毒の、ステアリン酸やステアリルアルコールなどが挙げられる。
脂肪族アミド系の潤滑剤として、ステアリン酸アミド、オレイン酸アミド、エルカ酸アミドの脂肪酸アミドや、メチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミドのアルキレン脂肪酸アミドなどが挙げられる。
エステル系の潤滑剤として、アルコールの脂肪酸エステルの、ステアリン酸モノリセリドなどが挙げられる。
[無機固体潤滑剤]
本発明の鉄基焼結体製造用の混合物は、潤滑剤として、有機潤滑剤であるステアリン酸アミドに加え、無機固体潤滑剤を含む。無機固体潤滑剤とは、無機化合物であり且つ固体の潤滑剤である。無機固体潤滑剤として、酸化亜鉛(ZnO)、二硫化モリブデン(MoS)などが挙げられる。本発明の鉄基焼結体製造用の混合物は、1種類の無機固体潤滑剤を含んでいてもよく、2種類以上の無機固体潤滑剤を含んでいてもよい。低温では、主に、有機潤滑剤が粉末の粒動を促進する一方で、高温域や高圧域では、無機固体潤滑剤が粉末の流動性に寄与する。無機固体潤滑剤は、有機潤滑剤より密度が高い。潤滑剤として、有機潤滑剤と無機固体潤滑剤とを併用することにより、潤滑剤の量を低減しつつ良好な成形性を維持できる。潤滑剤の量を低減することにより、成形体の密度を高くすることができるため、透磁率の高い成形体を得ることが可能になる。無機固体潤滑剤のなかでも酸化亜鉛は、粉体の流動性を改善する効果が高い。
無機固体潤滑剤の密度は、有機潤滑剤であるステアリン酸アミドの密度の2倍以上の密度であることが好ましい。これにより、潤滑剤の合計量の低減を有効に図ることができる。有機潤滑剤の密度は2.0g/cm以下であることが多いため、無機固体潤滑剤の密度は4.0g/cm以上であることが好ましい。
無機固体潤滑剤の粒子径は、20nm以上20μm以下であることが好ましい。無機固体潤滑剤の粒子径が20nm未満である場合、無機固体潤滑剤が鉄基軟磁性粉末の表面の凹凸や鉄基軟磁性粉末間の隙間に入り込むため、潤滑機能が発揮されにくい。無機固体潤滑剤の粒子径が20μmを超える場合、無機固体潤滑剤の粒子の数が少なくなり、粉末間の摩擦低減や、粉末と金型との摩擦低減に寄与しにくい。
鉄基焼結体製造用の混合物は、混合物100質量%に対して、無機固体潤滑剤を0.01質量%以上0.2質量%以下含有することが好ましい。無機固体潤滑剤の含有量が0.01質量%未満である場合、有機潤滑剤であるステアリン酸アミドの無機固体潤滑剤への置換が不十分となる、言い換えると、密度が高い無機固体潤滑剤が少なく、密度が低い有機潤滑剤の割合が多くなるため、成形体の密度が高くなりにくい。そのため、直流磁気特性の向上が図りにくくなる。一方、無機固体潤滑剤の含有量が0.2質量%を超えると、型からの抜き出し性を維持するために添加する潤滑剤総量が多くなる。この場合、成形体の密度が低下するため、飽和磁束密度が低下しやすい。無機固体潤滑剤の含有量は0.02質量%以上がより好ましく、0.025質量%以上がさらに好ましい。また、無機固体潤滑剤の含有量は0.2質量%以下がより好ましく、0.1質量%以下がさらに好ましい。
有機潤滑剤であるステアリン酸アミドと無機固体潤滑剤の合計100質量%に対して、無機固体潤滑剤が15質量%以上25質量%未満であることが好ましい。
鉄基焼結体製造用の混合物は、混合物100質量%に対して、ステアリン酸アミドと無機固体潤滑剤の合計含有量が0.1質量%以上0.8質量%以下であることが好ましい。合計含有量が少なすぎる場合、成形時に金型との焼き付きが発生しやすい。一方、合計含有量が多すぎる場合、成形体の密度が低くなり、磁気特性に優れた圧粉磁心を得られにくい。合計含有量は0.2質量%以上がより好ましく、0.25質量%に好ましい。また、合計含有量は0.45質量%以下がより好ましく、0.4質量%以下がさらに好ましい。
[鉄基焼結体の製造方法]
本発明に係る鉄基焼結体の製造方法は、上述した鉄基焼結体製造用の混合物を成形する成形工程と、成形工程で得られた成形体を水蒸気中で熱処理する熱処理工程とを含む。上述した鉄基焼結体製造用の混合物を成形し、得られた成形体を水蒸気中で熱処理することにより、従来の圧紛磁心より磁気特性および機械特性が高い鉄基焼結体が得られる。なお、成形工程の後、熱処理工程の前に、成形体を焼鈍する焼鈍工程を行ってもよい。
[成形工程]
混合物を成形する方法は特に限定されず、公知の方法が採用可能である。成形条件は、所望の密度度の成形体が得られれば、特に限定されない。例えば、成形圧を、面圧で、390MPa以上が好ましく、490~1960MPaとすることがさらに好ましく、より好ましくは790~1180MPaである。例えば、成形圧を、面圧で、390MPa以上1180MPa以下としてもよい。成形工程によって得られる成形体の密度は、7.20g/cm以上であることが好ましく、7.50g/cmであることがより好ましい。このような密度の成形体により、磁気特性が高い鉄基焼結体が得られる。例えば、800MPa以上の条件で圧縮成形を行う場合、7.20g/cm以上である成形体が得られやい。また、980MPa以上の条件で圧縮成形を行う場合、7.50g/cm以上である成形体が得られやい。成形温度は、室温でも可能であり、温間(例えば、80℃以上、より好ましくは100~250℃)でも可能である。
[焼鈍工程]
成形工程の後、後述する熱処理工程の前に、成形体を焼鈍する焼鈍工程を行ってもよい。成形体を焼鈍することにより、有機潤滑剤であるステアリン酸アミドを除去することできる。これにより脱脂した成形体が得られる。脱脂により鉄損を低減できるため、磁気特性が良好な焼結体が得られる。焼鈍温度は、ステアリン酸アミドの分解温度以上(約200℃以上)で行うことが好ましい。また、焼鈍工程を高温で行うことにより、歪み取りが可能である。これにより、渦電流損(保磁力に相当する)を増大させることなく、高い電気絶縁性、すなわち、高い比抵抗を有する焼結体を製造することができる。
上記焼鈍工程は、有機潤滑剤の成分の分解温度以上(約200℃以上)で行うことが好ましい。成形体を脱脂する焼鈍温度の上限は特に限定されないが、焼鈍温度が高すぎる場合、鉄基軟磁性粉末表面のリン酸系被膜が加熱に伴って薄肉化する傾向がある。リン酸系被膜の薄膜化を抑制するため、650℃以下とすることが好ましく、600℃以下がより好ましい。
焼鈍時間は、20分以上とすることが好ましい。焼鈍時間は25分以上がより好ましく、27分以上がさらに好ましい。脱脂や歪み取りの点からは焼鈍時間は長い方が好ましいが、長時間に亘って高温の熱処理を行った場合、リン酸系被膜が薄肉化することにより、絶縁性が低下する。したがって、焼鈍時間は、例えば、180分以下が好ましく、60分以下がより好ましく、35分以下が特に好ましい。
なお、焼鈍の際の雰囲気は特に限定されないが、窒素ガス等の不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましい。
なお、成形工程と熱処理工程の間に焼鈍工程を行わなくてもよい。熱処理工程で成形体を加熱した際、成形体の脱脂や歪み取りが可能である。
[熱処理工程]
本発明の鉄基焼結体の製造方法は、上述した磁気特性の高い鉄基軟磁性粉末の混合物を成形することによって得られた成形体を、水蒸気中で熱処理することを主な特徴とする。水蒸気中で熱処理した際、鉄基軟磁性粉末中の鉄イオンが、酸素を駆動力として、絶縁膜であるリン酸系被膜およびシリコーン樹脂被膜を通って、絶縁膜上に移動し、酸素と反応することにより、絶縁膜直上に酸化鉄が形成される。鉄基軟磁性紛末間の粒界(本発明では、鉄基軟磁性紛末間の領域を「粒界」と称する。)では、紛末側から粒界中央にむけて、酸化鉄が徐々に形成されていく。紛末同士が酸化鉄により結合することで、成形体の機械特性が高まると考えられる。
成形体を水蒸気中で熱処理する方法は、特に限定されるものではない。例えば、相対湿度が100%の環境下で成形体を加熱する。一定の速度で水蒸気を供給しながら熱処理を行ってもよい。水蒸気濃度が低い雰囲気で成形体を熱処理した場合、成形体の表面が酸化されることで、成形体の内部への酸素侵入が阻害され、成形体の表面のみにしか酸化鉄が形成されない。そのため、十分な機械特性が得られない。相対湿度が100%の環境下で熱処理することにより、酸化速度の制御が可能となり、成形体がゆっくりと酸化されることにより、成形体の内部へ酸素が侵入し、成形体内部の粉末の絶縁膜上に酸化鉄が形成される。これにより鉄基軟磁性紛末同士が結合することで、機械特性が高くなる。
熱処理温度は、460℃以上とすることが好ましく、475℃以上とすることが好ましく、480℃以上がさらに好ましい。また、熱処理温度は、600℃未満とすることが好ましく、590℃以上とすることが好ましく、530℃以上がさらに好ましい。このような温度で熱処理することにより、磁気特性および機械特性が高い焼結体が得られる。熱処理温度が460℃未満である場合、酸化鉄の形成速度が遅いため、鉄基磁性粉末同士が十分に結合しない。そのため、高い機械強度が得られない。熱処理温度が600℃以上である場合、絶縁膜であるリン酸系被膜およびシリコーン樹脂被膜が分解することにより、ガスが発生し、粒界に空隙ができる。また、酸化物として複数種類の酸化鉄が生成し、これらの密度差から歪みが生じることで、粒界の酸化物内にクラックが生じる。そのため、高い機械強度が得られない。また、熱処理温度が高すぎる場合、絶縁膜が分解することにより、絶縁性が低下し、磁気特性が低下する。上記より、より好ましい熱処理温度は、460℃~590℃が好ましく、460℃~580℃がより好ましく、480℃~530℃がさらに好ましい。
なお、熱処理工程前に焼鈍工程を行わなくても、上述した温度で熱処理することにより、有機潤滑剤であるステアリン酸アミドが除去されるため、脱脂が可能である。また、成形体の歪みを取ることも可能である。そのため、渦電流損(保磁力に相当する)を増大させることなく、電気絶縁性が高い焼結体が得られる。したがって、成形工程後、焼鈍工程を行うことなく、上記熱処理工程を行ってもよい。
熱処理時間を、30分以上とすることが好ましく、60分以上とすることがより好ましい。熱処理時間の上限は特にないが、300分未満とすることが好ましく、200分未満とすることがより好ましい。具体的には、熱処理時間を30分~300分とすることが好ましく、60分~200分とすることがさらに好ましい。
上記熱処理工程によって得られた焼結体を乾燥させてもよい。乾燥条件は、その目的を達成することができれば特に限定されるものではない。例えば、上記酸化工程の後、150~200℃程度に冷却してから水蒸気を排出し、容器内の温度を100~300℃に維持しつつ、容器内に不活性ガスを30分~2時間流通させることによって行う方法が挙げられる。
[鉄基焼結体]
上述した方法によって得られた鉄基焼結体は、リン酸系被膜とその上にシリコーン樹脂被膜が形成された鉄基軟磁性粉末と、鉄基軟磁性粉末間の粒界に存在する酸化鉄とを有する。リン酸系被膜は、鉄基焼結体に含まれる鉄基軟磁性粉末の全表面に形成されていてもよく、鉄基軟磁性粉末の表面の一部に形成されていてもよい。シリコーン樹脂被膜は、リン酸系被膜の全表面に形成されていてもよく、リン酸系被膜の表面の一部に形成されていてもよい。上述した熱処理工程で、鉄基軟磁性粉末中の鉄イオンが絶縁膜であるリン酸系被膜およびシリコーン樹脂被膜を通って、絶縁膜の上に移動する。このとき、絶縁膜であるリン酸系被膜およびシリコーン樹脂被膜が破れることがある。そのため、鉄基軟磁性粉末の表面が部分的に絶縁膜に被覆されないことがある。
本発明の鉄基焼結体には、粒界の58%以上に酸化鉄が存在する。ここで、粒界とは、リン酸系被膜とその上にシリコーン樹脂被膜が形成された鉄基軟磁性粉末間の領域である。本発明者らの研究から、酸化鉄が粒界の58%以上に存在する場合、日本工業規格の「JIS Z 2511」(2006年度版)に準拠して測定された焼結体の抗折強度が100MPa以上であると考えられる。この抗折強度を有する鉄基焼結体は、従来の圧紛磁心より機械特性が高い焼結体である。粒界に酸化鉄が存在する割合が49%以下である場合、日本工業規格の「JIS Z 2511」(2006年度版)の規定に準拠して測定された焼結体の抗折強度が100MPa未満であると考えられる。この強度では、従来の圧紛磁心の機械特性と大きな差がない。
酸化鉄が粒界に存在することを確認する方法は、特に限定されるものではない。例えば、鉄基焼結体の断面の電子顕微鏡画像から確認することができる。電子顕微鏡画像の電子像の種類、加速電圧などの条件は、特に限定されない。但し、酸化物充填量の平均情報を評価するには、電子顕微鏡画像には、2つ以上の鉄基軟磁性粉末が映っていることが必要であり、さらに平均粒径の50%以上の長さの粒界範囲について評価して、酸化鉄の存在量を評価する。
なお、上記熱処理工程で、鉄基軟磁性粉末の絶縁膜上に酸化鉄が形成される速度や、酸化鉄が成長する速度は、成形体(焼結体)全体で大きな差はないと考えられる。したがって、熱処理工程で得られた焼結体のどの位置でも、粒界に酸化鉄が存在する割合はほぼ同じであると推測される。よって、焼結体のある断面の電子顕微鏡画像から粒界の58%以上に酸化鉄が存在すること確認できた場合、他の断面の電子顕微鏡画像でも粒界の58%以上に酸化鉄が存在すると推測される。つまり、焼結体のある断面の電子顕微鏡画像から粒界の58%以上に酸化鉄が存在すること確認できた場合、その焼結体には、酸化鉄が粒界の58%以上に存在すると推測される。
電子顕微鏡画像の拡大倍率は特に限定されないが、例えば、1000倍以上、2000倍以下の拡大倍率で撮影された電子顕微鏡画像としてもよい。この電子顕微鏡画像から、鉄基軟磁性粉末と酸化鉄と粒界とを目視で確認できる。
鉄基焼結体の密度は、7.50g/cm以上であることが好ましく、7.51g/cmであることがより好ましい。このような密度の焼結体は、磁気特性が高い焼結体である。
図1Aおよび図1Bに、本発明の鉄基焼結体の断面の走査電子顕微鏡画像(SEM像)の一例を示している。図1Bに示すSEM像は、図1Aに示す部分の一部を示すSEM像(拡大倍率が2,000倍で、縦43μm×横84μm(=2752μm)の領域)である。図1Aおよび図1Bでは、リン酸系被膜とその上にシリコーン樹脂被膜が形成された鉄基軟磁性粉末を、単に「鉄基軟磁性粉末」と示している。図1Bに示すように、粒界に緻密に酸化鉄が存在している。
以下、実施例に基づいて本発明を詳細に述べる。但し、下記実施例は本発明を制限するものではなく、本明細書の趣旨を逸脱しない範囲で変更実施をすることは全て本発明の技術的範囲に包含される。
(実験1)
実施形態で説明した方法により表1および表2に示す条件で鉄基焼結体を作製し、機械特性および磁気特性を評価した。表1および表2に示す潤滑剤の量[%]は、鉄基焼結体製造用の混合物100質量%に対する量[質量%]を示す。表1のNo.1~4と表2のNo.1~4は、同じ焼結体である。
Figure 2023059186000001
Figure 2023059186000002
表1と表2のNo.1~3の焼結体は、絶縁膜がリン酸系被膜またはシリコーン樹脂被膜だけの単層の鉄基軟磁性粉末を使用した焼結体である。
No.4の焼結体は、絶縁膜がリン酸系被膜とシリコーン樹脂被膜の二層構造の鉄基軟磁性粉末を使用した焼結体である。
No.1では、潤滑剤として、有機潤滑剤であるステアリン酸アミドだけを使用した。
No.2~4では、潤滑剤として、有機潤滑剤であるステアリン酸アミドと無機固体潤滑剤である酸化亜鉛(ZnO)を併用した。
表1に、No.1~4の鉄基焼結体の抗折強度と電気抵抗を示している。抗折強度は、日本工業規格の「JIS Z 2511」(2006年度版)の規定に準拠して行った抗折試験で測定したものである。抗折試験で使用した抗折試験片は、12.7mm×31.75mmの金型に鉄基軟磁性粉末と潤滑剤とを含む混合物を充填し、成形圧力392~1179MPa(4ton/cm~12ton/cm)をかけて上下から圧縮成形することにより得られた成形体を用いて製造した焼結体である。なお、後述する実験(実験3、実験4)でも、抗折強度を測定するとき、上記成形方法で作製した成形体を用いて焼結体を製造した。また、本実験と同様な抗折試験条件で抗折強度を測定した。
表2に、No.1~4の鉄基焼結体の鉄損および磁束密度を示している。表2に示す鉄損は、磁束密度が1T、周波数が400Hzのときの鉄損である。ここでは、外径がφ45mmであり、内径がφ337mmのである金型に、鉄基軟磁性粉末と潤滑剤とを含む混合物を充填し、上下から圧縮成形することにより得られた成形体を用いて製造した焼結体を使用した。なお、後述する実験(実験3、実験4)でも、鉄損および磁束密度を測定するとき、上記成形方法で作製した成形体を用いて製造した焼結体を使用した。
焼結体の抗折強度が100MPa以上である場合、従来の圧延磁心より機械特性が高いといえる。焼結体の電気抵抗が60μΩ・m以上である場合、絶縁性が良好であるといえる。また、鉄損が40W/kg以下である場合、従来の圧延磁心より磁気特性が高いといえる。
表1に示すように、No.1~3では、抗折強度が100MPa程度であるが、電気抵抗が低いため、絶縁性が低い。これは、絶縁膜がリン酸系被膜またはシリコーン樹脂被膜の単層の鉄基軟磁性粉末を使用したため加熱処理で絶縁被膜が破壊され、隣接する鉄粉同士が導通したためと考えられる。また、No.1~3では、表2に示すように、鉄損が40W/kg以上である。このことから、絶縁膜が単層の鉄基軟磁性粉末を使用したNo.1~3の焼結体は、従来の圧紛磁心より磁気特性が高いものでないことがわかった。
一方、No.4では、表1に示すように、抗折強度が100MPaを超え、電気抵抗が60μΩ・m以上である。また、No.4では、表2に示すように、鉄損が40W/kg以下である。No.4の焼結体は、絶縁膜が二層構造の鉄基軟磁性粉末を使用した焼結体であり、従来の圧紛磁心より機械特性および磁気特性が高いものである。
上記より、絶縁膜がリン酸系被膜とシリコーン樹脂被膜の二層構造の鉄基軟磁性粉末を使用することにより、従来の圧紛磁心より機械特性と磁気特性の両方が高い焼結体が得られることがわかった。
(実験2)
実施形態で説明した方法により、表3に示す条件で潤滑剤の種類を変えて鉄基焼結体を作製した。表3に示す潤滑剤の添加量[%]は、鉄基焼結体製造用の混合物100質量%に対する量[単位:%(質量%)]を示す。No.1~12の焼結体の密度を測定した。また、No.1~6とNo.12において熱処理工程前後の色の変化を調べた。表3に、No.1~12の鉄基焼結体の密度とNo.1~6とNo.10の色の変化を示している。
Figure 2023059186000003
表3のNo.1~6では、一般的な潤滑剤として知られている有機潤滑剤の金属石鹸を使用した。
No.7~9では、潤滑剤として、有機潤滑剤であるステアリン酸アミドを使用した。
No.10~12では、潤滑剤として、有機潤滑剤であるステアリン酸アミドと無機固体潤滑剤である酸化亜鉛(ZnO)を併用した。
潤滑剤を添加することにより成形性を高めることができるが、潤滑剤の添加量が多くなるにつれて、焼結体の密度が低くなり、磁気特性が低下する傾向がある。また、潤滑剤の添加量が多くなるにつれて、水蒸気中での熱処理を行っても、潤滑剤が残りやすいため、熱処理後に焼結体が黒変しやすい傾向がある。
表3のNo.7~12などから、潤滑剤の添加量が多いほど、焼結体の密度が小さい傾向があることがわかる。しかし、潤滑剤の総添加量が同じNo.1~6(金属石鹸だけを使用)とNo.10(ステアリン酸アミドとZnOを併用)を比較すると、同じ総添加量でも、ステアリン酸アミドとZnOを併用した場合、金属石鹸だけを使用した場合に比べ、密度が高い焼結体が得られる傾向がある。
No.7~8は比較例として絶縁膜としてリン酸被膜からのみなり、有機潤滑材としてステアリン酸アミドのみを用いた場合の焼結体密度を示している。潤滑剤添加量を0.4質量%から1.0質量%に増やしても焼結体密度は低下する。これは、潤滑剤を添加して改善する粉末の充填しやすさ(成形性)よりも、潤滑剤の脱ガスによって生じる空隙や潤滑剤の焼成残渣が有機潤滑剤の添加によって増加するためと考える。
No.9とNo.10は同量の有機潤滑剤(ステアリン酸アミド)を加えた場合のデータであり、Nо.10にはさらにZnOを0.05%加えている。No.9とNo.10から、ZnOを添加する事で焼結体密度が増加していることがわかる。
上記より、潤滑剤として有機潤滑剤であるステアリン酸アミドと無機固体潤滑剤を併用した場合、有機潤滑剤である金属石鹸またはステアリン酸アミドだけを使用した場合より、密度が高い焼結体が得られる傾向あることがわかった。このことから、潤滑剤として有機潤滑剤であるステアリン酸アミドと無機固体潤滑剤を併用することにより、潤滑剤による良好な成形性が得られつつ、磁気特性を高めることができると考えられる。
熱処理工程前後の色の変化について、No.1~6(金属石鹸だけを使用)の焼結体は黒色に変化したが、No.10(ステアリン酸アミドとZnOを併用)の焼結体の色は変化していなかった。このことから、ステアリン酸アミドは、水蒸気熱処理によって除去されやすく、熱処理工程後に残りにくいと考えられる。
上記より、潤滑剤として、有機潤滑剤としてステアリン酸アミドを使用し、ステアリン酸と無機固体潤滑剤を併用することにより、水蒸気熱処理後に、磁気特性が高く、黒変化しない焼結体が得られることがわかった。
(実験3)
水蒸気中での熱処理工程の条件を変えたときの機械特性と磁気特性を調べた。
実施形態で説明した方法により、表4Aに示す条件で水蒸気熱処理条件を変えて鉄基焼結体を作製し、機械特性と磁気特性を評価した。表4Aに示す潤滑剤の添加量[%]は、鉄基焼結体製造用の混合物100質量%に対する量[質量%]を示す。表4Aには、焼結体の抗折強度を示している。
Figure 2023059186000004
<熱処理時間と機械特性>
表4AのNo.5~7、12の焼結体は、熱処理温度を550℃とし、熱処理時間を10分から120分までの間で変えて得られたものである。図2に、表4のNo.5~7、12の熱処理時間と抗折強度の関係を示している。上述したように、抗折強度が100MPa以上である鉄基焼結体は、従来の圧紛磁心より機械特性が高い焼結体である。
図2から、熱処理時間が長くなるにつれて抗折強度が増加し、熱処理時間が60分付近で抗折強度の増加がとまり、60分付近以上でほぼ同じ抗折強度であることがわかる。また、図2から、熱処理時間が20分付近で抗折強度が100MPaとなり、熱処理時間が30分で抗折強度が100MPaを超えている。図2から、熱処理時間が20分以上で抗折強度が100MPa以上になると推測される。
上記より、従来の圧紛磁心より機械特性を高めるためには、熱処理時間を20分以上とすることが好ましく、30分以上とすることがさらに好ましい。熱所時間の上限は特に制限されないが、例えば300分以下であることが好ましい。
<焼結体の断面>
図3Aに、焼結体の広域の断面の走査電子顕微鏡画像(SEM像)(拡大倍率が100倍)の例を示している。図3Aに示すように、焼結体は、複数の鉄基軟磁性粉末を有する。図3Bおよび図3Cに、焼結体の狭域の断面の走査電子顕微鏡画像(SEM像)の例を示している。図3Bに示す画像の拡大倍率は20,000倍であり、図3Cに示す画像の拡大倍率は5,000倍であり、図3Cは縦17μm×横25μm(=425μm)の領域を撮影)を示している。図3Bおよび図3Cに示すように、鉄基軟磁性粉末間に粒界が存在する。図3Bに示す画像には、粒界の殆どの部分に酸化鉄が存在する。図3Cに示す画像には、粒界に存在する酸化鉄が少ない。図3Bおよび図3Cから、粒界には、鉄基軟磁性粉末の表面側から粒界中央に向かって、酸化鉄が埋まっていく様子がわかる。
<熱処理温度と機械特性>
表4AのNo.1~4は絶縁膜が有機系シリコーン被膜からなる、もしくは無機系リン酸被膜からなる単層絶縁層の鉄粉材料を用いた比較例を示す。図4には、絶縁膜がシリコーン被膜単層の鉄基軟磁性粉末を使用して得られた焼結体の熱処理温度と抗折強度の関係性を白△(△)で示している。また、リン酸系被膜単層の鉄基軟磁性粉末を使用して得られた焼結体(表4のNo.2~4)の熱処理温度と抗折強度の関係を白◇(◇)で示し、No.2~.4の熱処理温度と抗折強度の相関線を破線で示している。
表4AのNo.8~19の焼結体は、絶縁膜が無機系リン酸被膜とその上の有機系シリコーン被膜の二層構造の鉄紛材料を用いたものであり、熱処理時間を120分とし、熱処理時間を450℃から650℃までの間で変えて得られた焼結体である。図4に、表4のNo.8~19の熱処理温度と抗折強度の関係を黒丸(●)で示している。また、図4に、表4のNo.8~19の熱処理温度と抗折強度の相関線を実線で示している。
図4から以下のことがわかった。
絶縁膜が二層構造である場合、No.8~19(●)とその相関線から、熱処理温度が上がるにつれて抗折強度が増加し、熱処理温度が460℃付近から抗折強度が100MPa以上となり、熱処理温度が480℃~530℃付近で抗折強度が110MPa以上と非常に高いことがわかる。熱処理温度が540℃付近を超えると、抗折強度が減少していくが、熱処理温度が600℃付近までは抗折強度が100MPa以上である。
なお、熱処理温度が460℃未満では、酸化鉄が十分に成長しておらず、例えば、図3Cに示す画像のように、熱処理時間が短い場合と同様に、粒界が酸化鉄で殆ど埋まっていないと推測される。そのため、熱処理温度が460℃未満では、高い抗折強度でなかったと考えられる。
上記より、従来の圧紛磁心より抗折強度を高めるためには、熱処理温度を460℃以上600℃未満とすることが好ましいことがわかった。例えば、熱処理温度を460℃以上590℃としてもよい。また、熱処理温度を480℃以上530℃以下とすることにより、抗折強度が110MPa以上である高強度の焼結体が得られるため、より好ましいことがわかった。
一方で、絶縁層単層(リン酸系被膜単層)の場合、熱処理温度が475℃以上で、熱処理温度が高くなるにつれて抗折強度が急激に低下していることがわかた。リン酸系被膜単層と有機系シリコーン被膜単層の場合のいずれも、絶縁膜が二層構造である場合より、高強度の焼結体が得られる温度範囲が狭いと考えられる。これは、絶縁層単層の場合、加熱により絶縁被膜が分解し、それに伴う剥離や脱ガスによる粒界空隙量の増加により、抗折強度が低下するためと推測される。
<熱処理温度と磁気特性>
磁気特性の評価は、リング状の試験片を作成し巻線を行う方法が一般的であるが、この方法は複数の試験片を必要とする。下記に説明するように、周波数が異なるインダクタンスの変化の割合(以降「ΔL」と称する)から鉄損に相関する情報が簡易に得られることから、ここではΔLを用いて磁気特性を評価することとした。以下では、熱処理温度と磁気特性の関係を説明する前に、ΔLについて説明する。
インダクタンスであるLは下記式で示される。
Figure 2023059186000005
インダクタンスLは、透磁率μの関数である。コイルの巻数をN、コイルの断面積をSとしたとき、NにSの絶対値を乗じた値と巻線の長さlが等しい場合、上記数式1から、インダクタンスLは透磁率μを測定する事に等しい。透磁率μと磁場(励起磁場)Hと磁束密度Bの間には下記式の関係がある。
Figure 2023059186000006
Figure 2023059186000007
励起磁場Hと磁束密度Bは、以下の式で示される。
Figure 2023059186000008
Figure 2023059186000009
上記数式3、数式4および数式5から、交流の透磁率(複素透磁率)は下記式で示される。
Figure 2023059186000010
ここで、δは、磁束密度の遅れを示し、つまりは損失を示している。よって、低周波(100Hz)のインダクタンスLと高周波(100kHz)のインダクタンスLを測定し、その変化(ΔL)を求めることにより、間接的に鉄損の大きさを測定することができる。
ΔLから磁気特性を評価するため、ΔLと鉄損の関係、および、電気抵抗と鉄損の関係を調べた。図5に、ΔLと鉄損と電気抵抗の相関を示している。ΔLが大きいほど、電気抵抗は低い。電気抵抗は低いことは、絶縁性が不良であることを意味し、そのため鉄損が高い結果となっている。従来の圧延磁心より磁気特性を高めるためには、鉄損を40W/kg以下にすることが望ましく、鉄損を40W/kg以下にするためには、図5からΔLを5%以下にするとよいと判断できる。
表4Bに、表4AのNo.1~19の鉄基焼結体のΔLおよび電気抵抗を示している。また、表4Bに、No.1~4、8~9、11~14の鉄損および磁束密度を示している。表4BのNo.1~19のΔLと電気抵抗は表4Aと同じ焼結体を用いて測定した。また、鉄損と磁束密度は、表4AのNo.1~19の焼結体と同じ鉄基軟磁性粉末を用いており、鉄損は、磁束密度が1T、周波数が400Hzのときの鉄損である。
Figure 2023059186000011
図6に、表4のNo.8~16の熱処理温度とΔL値の関係を黒丸(●)で示し、No.8、No.9、No.11~14の熱処理温度と鉄損の関係を黒三角(▲)で示している。さらに、図6には、参考に、表4のNo.2~4の絶縁膜がリン酸系被膜単層の鉄基軟磁性粉末を使用して得られた焼結体の熱処理温度とΔL値の関係を白丸(○)で示し、同じく表4のNo.2~4の絶縁膜がリン酸系被膜単層の鉄基軟磁性粉末を使用して得られた焼結体の熱処理温度と鉄損の関係を白三角(△)で示している。
図6から以下のことがわかった。
絶縁膜がリン酸系被膜単層の鉄基軟磁性粉末を使用した焼結体では、熱処理温度とΔL値の関係(○)から、熱処理温度が約450℃以上では、熱処理温度が高くなるにつれて、ΔLが増加していることがわかる。図5から、ΔLが大きいほど、電気抵抗は低い。電気抵抗は低いことは、絶縁性が不良であることを意味する。絶縁膜がリン酸系被膜単層の鉄基軟磁性粉末を使用した焼結体では、熱処理温度が約450℃以上で、熱履歴により絶縁膜が破壊したことにより、絶縁性が低下したと考えられ、鉄損が高いと考えられる。図6では、熱処理温度が470℃で、ΔLが5%を超え、鉄損が約50W/kgと大きい。熱処理温度が470℃を超えると、ΔLがさらに大きくなっているので、鉄損も大きくなると考えられる。
ここで、図4から、絶縁層が二層構造である鉄基軟磁性粉末を使用した場合、従来の圧紛磁心より抗折強度を高めるためには、熱処理温度を460℃以上600℃未満とすることが好ましいことがわかったが、絶縁膜がリン酸系被膜単層の鉄基軟磁性粉末を使用した場合、熱処理温度を460℃以上としたとき、上記から、ΔLが5%を超え、鉄損が約50W/kgと大きく、熱処理温度が上がるにつれて、鉄損も大きくなると考えられる。したがって、絶縁膜がリン酸系被膜単層の鉄基軟磁性粉末を使用した場合、水蒸気熱処理の熱処理温度を460℃以上600℃未満としたとき、磁気特性が低い焼結体が得られると考えられる。
一方、二層構造の絶縁膜が形成された鉄基軟磁性粉末を使用した本発明の焼結体では、図6から、以下のことが考察される。
熱処理温度とΔLの関係(●)から、熱処理温度が高くなるにつれて、ΔLが増加するものの、熱処理温度600℃未満(例えば、590℃)では、ΔLの増加量が小さいことがわかる。また、熱処理温度が600℃未満では、ΔLが5%以下である。このことから、絶縁膜が二層構造である場合、熱処理温度を600℃未満としたとき、絶縁膜の破壊は少なく、絶縁性の低下が少ないと考えられる。なお、熱処理温度が600℃未満では、絶縁性の低下が少ないものの、絶縁性は徐々に低下しているため、鉄損が増加すると考えられるが、図6の熱処理温度と鉄損の関係(▲)から、熱処理温度が高くなるにつれて鉄損が減少していることがわかる。熱処理により鉄基軟磁性粉末中の欠陥が除去されると考えられるが、本発明では、熱処理温度を高くなるにつれて鉄基軟磁性粉末中の欠陥の除去量が増加し、且つ、絶縁性の低下が少ないことも加わったことが影響したことで、熱処理温度が高くなるにつれて鉄損が減少していると考えられる。このことから、二層構造の絶縁膜が形成された鉄基軟磁性粉末を使用した場合、水蒸気熱処理の熱処理温度を600℃未満(例えば、590℃未満)としたとき、磁気特性が高い鉄基焼結体が得られることがわかった。
図4から、絶縁膜が二層構造の鉄基軟磁性粉末を使用した場合、従来の圧紛磁心より抗折強度を高めるためには、熱処理温度を460℃以上600℃未満とすることが好ましいことがわかっている。絶縁膜が二層構造の鉄基軟磁性粉末を使用した場合、上記から、熱処理温度を600℃未満としたとき、ΔLが5%以下であり、熱処理温度が上がるにつれて、鉄損が小さくなることがわかった。したがって、絶縁膜が二層構造の鉄基軟磁性粉末を使用した場合、水蒸気熱処理の熱処理温度を460℃以上600℃未満(例えば、460℃以上590℃以下)とすることにより、機械特性および磁気特性が高い焼結体が得られることがわかった。
<リン酸系被膜厚み>
表4BのNo.10とNo.17~19の焼結体は、熱処理温度を500℃とし、リン酸系被膜厚み(表4Bでは「リン酸被膜」と示している)を60nmから25nmまでの間で変えて得られた焼結体である。No.10とNo.17~19のリン酸系被膜厚み(リン酸被膜厚み)とΔLから、リン酸系被膜厚み(リン酸被膜厚み)が40nm以下のとき、ΔLが5%を超えている。このことから、リン酸系被膜厚み(リン酸被膜厚み)が40nm以下の場合、絶縁が不十分であり、磁気特性が低いと考えられる。そのため、リン酸系被膜厚みは50nm以上であることが好ましい。
(実験4)
表5に示す条件で、絶縁膜が二層構造の鉄基軟磁性粉末を使用し、抗折強度が100MPa以上の鉄基焼結体(高強度材)と、抗折強度が100MPa未満の鉄基焼結体(低強度材)を作製し、粒界の状態について調べた。ここでは、リン酸被膜(厚み60nm)とその上にシリコーン樹脂被膜(厚み100nm)が形成された鉄基軟磁性粉末を用い、潤滑剤としてステアリン酸アミド(0.25質量%)と酸化亜鉛(0.05質量%)を使用した。また、絶縁膜がリン酸系被膜単層構造の鉄基軟磁性粉末を使用し、鉄基焼結体を作製した。ここでは、リン酸被膜(厚み60nm)が形成された鉄基軟磁性粉末を用い、潤滑剤としてステアリン酸アミド(0.4質量%)を使用した。表5に、鉄基焼結体の作製条件と粒界の状態について示している。
Figure 2023059186000012
表5の「粒界に形成された酸化物の種類と量」は、X線回折法(XRD)によって測定したものである。
表5の「粒界の空隙率」は、鉄粉粒子が2個以上近接する粒界断面を撮影できるよう、倍率2,000倍(測定範囲:縦43μm×横64μmの領域)で撮影した、焼結体の断面のSEM画像から、以下の手順で求めた。
図7Aに、焼結体の断面のSEM画像(元画像)の一例を示している。図7Bに、粒界全体を着色した図を示している。例えば、図7Aに示す焼結体の断面のSEM画像(元画像)から「粒界の空隙率」を算出する場合、画像解析により、図7Bから、粒界(着色した部分)の面積(粒界面積)を求める。図7Cには、粒界の空隙(酸化鉄が存在しない部分)を着色している。画像解析により、図7Cから、粒界の空隙(着色した部分)の面積(空隙面積)を求める。表5の「粒界の空隙率」は、(空隙面積/粒界面積)×100 [単位:%]から算出した。表5の「粒界の酸化鉄の存在率」は、100-粒界の空隙率 [単位:%]から算出した。
表5に示すように、絶縁膜が二層構造の鉄基軟磁性粉末を使用した高強度材(以下、単に「高強度材」と称することがある)では、「粒界の酸化鉄の存在率」は58%であった。絶縁膜が二層構造の鉄基軟磁性粉末を使用した低強度材(以下、単に「低強度材」と称することがある)では、「粒界の酸化鉄の存在率」は49%であった。高強度材と低強度材とで「粒界の酸化鉄の存在率」が異なる原因は、水蒸気中の熱処理で生成した酸化鉄の種類と絶縁膜の分解であると考えられる。
なお、絶縁膜が単層構造の鉄基軟磁性粉末を使用した鉄基焼結体では、「粒界の酸化鉄の存在率」は39%であった。
図8Aに、高強度材の粒界の断面SEM画像を示している。図8Bに、低強度材の粒界の断面SEM画像を示している。図8Aおよび図8Bでは、粒界の酸化物を比較するため、酸化物を拡大した画像を示している。高強度材からは粒界に1種類の酸化物(Fe)だけが検出された、図8Aの画像から、粒界に酸化物(Fe)が緻密に形成されていることが確認できる。また、鉄基軟磁性粉末の界面部分に絶縁膜が一様に形成されていることが確認できる。
一方、低強度材からは粒界に2種類の酸化物(FeとFeO)が検出された。図8Bの画像から、酸化物にクラックが多く生じていることが確認できる。これは、2種類の酸化物の密度が異なるため歪が生じたことで、粒界の酸化物内にクラックが生じたと考えられる。これが強度低下につながったと推測される。クラックが多い酸化物は、鉄基軟磁性粉末同士の結合に寄与していないことがわかる。
図9に、図8Bに示す部分の一部のエリアのTEM-EDXマッピング像を示している(TEM:透過型電子顕微鏡、EDX:エネルギー分散型X線分光法)。図9から、鉄基軟磁性粉末の界面部分に、絶縁膜の剥離が生じていることがわかる。また、TEM-EDXマッピングによる元素分析から、鉄基磁性粉末を被覆していた一層目のリン酸系被膜由来のリン(P)が、粉末界面付近で、部分的に検出された。さらに、二層目のシリコーン樹脂被膜由来のシリコン(Si)が、粒界酸化物の全域から検出された。このことから、鉄基磁性粉末を被覆していたリン酸系被膜は、水蒸気熱処理により分解し破壊したと考えられる。また、二層目のシリコーン樹脂被膜は、水蒸気熱処理により、全て分解したと考えられる。これら二層の絶縁膜が分解した際、CO、CO、HO等のガスが発生したと推測され、それにより鉄基軟磁性粉末の界面の大部分で絶縁膜が剥離し、強度低下につながったと推測される。
図10に、表5に示す焼結体の抗折強度と粒界の空隙率との関係を示している。また、図10に、抗折強度と粒界の空隙率の相関線を示している。図10から、粒界の空隙率が42%以下のとき、抗折強度が100MPa以上になると考えられる。粒界の空隙率が42%以下のとき、粒界の酸化鉄の存在率は58%以上である。
上記より、鉄基焼結体における粒界の酸化鉄の存在率が58%以上であるとき、鉄基焼結体は、抗折強度が100MPa以上である高強度の焼結体であると考えられる
以上より、水蒸気熱処理の際、熱処理温度を600℃未満とすることにより、粒界の酸化鉄の存在率が58%以上であり、抗折強度が100MPaである機械特性の高い鉄基焼結体が得られることがわかった。
以上、本発明の実施形態について実施例に基づいて説明したが、具体的な構成は、これらの実施形態に限定されるものでないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなく特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれる。

Claims (7)

  1. 表面がリン酸系被膜に被覆され、前記リン酸系被膜の表面がシリコーン樹脂被膜に被覆された鉄基軟磁性粉末と、
    ステアリン酸アミドと、
    無機固体潤滑剤とを含むこと特徴とする鉄基焼結体製造用の混合物。
  2. 請求項1に記載の前記混合物の成形体を水蒸気中で熱処理することによって得られた鉄基焼結体であり、
    表面にリン酸系被膜が形成され、前記リン酸系被膜の表面にシリコーン樹脂被膜が形成された鉄基軟磁性粉末と、前記鉄基軟磁性粉末間の粒界に存在する酸化鉄とを有し、
    前記酸化鉄は、前記粒界の58%以上に存在することを特徴とする鉄基焼結体。
  3. 抗折強度が100MPa以上であることを特徴とする請求項2に記載の鉄基焼結体。
  4. 表面がリン酸系被膜に被覆され、前記リン酸系被膜の表面がシリコーン樹脂被膜に被覆された鉄基軟磁性粉末と、ステアリン酸アミドと、無機固体潤滑剤とを含む混合物を成形する成形工程と、
    前記成形工程で得られた成形体を水蒸気中で熱処理する熱処理工程とを含むことを特徴とする鉄基焼結体の製造方法。
  5. 前記熱処理工程において、前記成形体を水蒸気中で460℃以上600℃未満で熱処理することを特徴とする請求項4に記載の鉄基焼結体の製造方法。
  6. 前記熱処理工程において、前記成形体を水蒸気中で30分以上300分以下熱処理することを特徴とする請求項4または5に記載の鉄基焼結体の製造方法。
  7. 前記熱処理工程によって得られた鉄基焼結体には、前記鉄基軟磁性粉末間の粒界に酸化鉄が存在し、
    酸化鉄は、前記粒界の58%以上に存在することを特徴とする請求項4~6のいずれか1項に記載の鉄基焼結体の製造方法。
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