JP2023016001A - 歯付ベルトのジャンピングトルクの予測値の算出制御方法 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】縦弾性率Eと歯付ベルト1の断面積Sとの積ES、歯高さh、プーリピッチ径Rr、プーリピッチ径Rn、初張力T0、張り側スパン長さLt、緩み側スパン長さLs、巻付き角度θr、巻付き角度θnの各種パラメータ値を、式(1)~式(3)に代入した際のジャンピングトルクTqの計算値と、ジャンピングトルクTqの実測値とを比較し、その差の平均値が最小となる値として予め決定された、全体補正係数Kの値、及び、従動プーリのかみあい補正係数Kmnの値を記憶部12に記憶させ、式(1)~式(3)に、記憶した各種パラメータの値、全体補正係数Kの値、及び、かみあい補正係数Kmnの値を代入し、駆動プーリDRと従動プーリDNに巻掛ける歯付ベルト1のジャンピングトルクTqを算出する。
【選択図】図1
Description
(1a)ベルト長手方向の等価な縦弾性率Eと前記歯付ベルトの断面積Sとの積で求められる、歯付ベルトの引張試験における力と歪みの関係値ES、及び、歯高さh、並びに、駆動プーリのプーリピッチ径Rr、及び、従動プーリのプーリピッチ径Rnの各種パラメータの値と、
前記駆動プーリと前記従動プーリとの間に前記歯付ベルトを巻き掛けた際の、初張力T0、張り側スパン長さLt、緩み側スパン長さLs、前記駆動プーリ上の前記歯付ベルトの巻き付き角度θr、前記従動プーリ上の前記歯付ベルトの巻き付き角度θnの各種パラメータの値と、
全体補正係数Kの値、および、前記従動プーリのかみあい補正係数Kmnの値と、
を記憶装置に記憶させるステップ、
(1b)式(1)~式(3)に、前記(1a)のステップで記憶した前記各種パラメータの値、前記全体補正係数Kの値、及び、前記かみあい補正係数Kmnの値を代入し、前記ジャンピングトルクTqの予測値を算出するステップ、
(1c)前記(1b)のステップで算出した、前記ジャンピングトルクTqの予測値をアウトプットするステップ、
を制御装置により実行する。
なお、前記全体補正係数Kの値および前記従動プーリの前記かみあい補正係数Kmnの値は、式(1)~(3)に上記各種パラメータの値を代入した際の、ジャンピングトルクTqの計算値と、当該ジャンピングトルクTqの実測値とを比較し、その差の平均値が最小となる値として予め決定される値である。
(2a)ベルト長手方向の等価な縦弾性率Eと前記歯付ベルトの断面積Sとの積で求められる、歯付ベルトの引張試験における力と歪みの関係値ES、及び、歯高さh、並びに、駆動プーリのプーリピッチ径Rr、及び、従動プーリのプーリピッチ径Rnの各種パラメータの値と、
前記駆動プーリと前記従動プーリとの間に前記歯付ベルトを巻き掛けた際の、初張力T0、張り側スパン長さLt、緩み側スパン長さLs、前記駆動プーリ上の前記歯付ベルトの巻き付き角度θr、前記従動プーリ上の前記歯付ベルトの巻き付き角度θnの各種パラメータの値と、
前記歯付ベルトの遠心力により発生する張力であり、前記レイアウトに基づき計算される遠心張力Tc、歯付ベルトの線密度m、歯付ベルトの走行速度V、前記レイアウトを走行する前記歯付ベルトの質量と走行速度に応じた遠心力を踏まえて補正する遠心力補正係数Kc、前記歯付ベルトの歯の硬度および摩擦係数の違いを補正するベルト補正係数Kbの各種パラメータの値と、
全体補正係数Kの値、および、前記従動プーリのかみあい補正係数Kmnの値と、
を記憶装置に記憶させるステップ、
(2b)式(2)~式(5)に、前記(2a)のステップで記憶した前記各種パラメータの値、前記全体補正係数Kの値、及び、前記かみあい補正係数Kmnの値を代入し、前記ジャンピングトルクTqの予測値を算出するステップ、
(2c)前記(2b)のステップで算出した、前記ジャンピングトルクTqの予測値をアウトプットするステップ、
を制御装置により実行する。
なお、前記全体補正係数Kの値および前記従動プーリの前記かみあい補正係数Kmnの値は、式(1)~(3)に上記各種パラメータの値を代入した際の、ジャンピングトルクTqの計算値と、当該ジャンピングトルクTqの実測値とを比較し、その差の平均値が最小となる値として予め決定される値である。
(2d)前記(2b)のステップにより算出した、前記従動プーリにおけるジャンピングトルクTqの予測値Тqn、及び、前記従動プーリに係る、張り側張力と緩み側張力との差である有効張力Tenに係る関係を示す、式(6)から求められる、当該有効張力Tenを算出するステップ、
(2e)前記従動プーリのかみあい補正係数Kmnの値と同様の手法により予め決定された、前記駆動プーリのかみあい補正係数Kmrを、更に、前記記憶装置に記憶させるステップ、
(2f)更に、前記(2e)のステップで記憶した、前記かみあい補正係数Kmrの値を式(7)に代入し算出した、前記駆動プーリにおけるジャンピングトルクTqの予測値Тqr、及び、前記駆動プーリに係る、張り側張力と緩み側張力との差である有効張力Terに係る関係を示す、式(7)から求められる、当該有効張力Terを算出するステップ、
(2g)前記有効張力Tenと前記有効張力Terとの大小を比較し、Ten≦Terの場合は、前記予測値Tqnを当該レイアウト全体におけるジャンピングトルクTqの予測値に決定し、Ten>Terの場合は、前記予測値Tqrを当該レイアウト全体におけるジャンピングトルクTqの予測値に決定するステップ、
(2h)前記(2c)のステップにおいて、前記(2g)のステップで決定した、前記ジャンピングトルクTqの予測値をアウトプットするステップ、
を更に実行してもよい。
しかしながら、従動プーリの歯数が駆動プーリの歯数に対してかなり大きい(減速比が大きい)場合や、3軸以上のレイアウトで駆動プーリにおける歯付ベルトの巻き付き角度が小さい場合などは、駆動プーリにおいてジャンピングが発生する場合がある。このような場合、従動プーリにおけるジャンピングトルクのみを計算したとしても、計算で求めたジャンピングトルクよりも低いトルクで駆動プーリにおいてジャンピングが発生することとなるため、当該レイアウト全体におけるジャンピングトルクを算出したとはいえない。
そこで、従動プーリと駆動プーリのそれぞれにおけるジャンピングトルクを算出し、より低い有効張力となる方のジャンピングトルクを当該レイアウト全体におけるジャンピングトルクとして採用することで、ジャンピングトルクの予測値の精度をさらに高めることができる。
以下、本発明の実施形態について図面を参照しつつ説明する。
まず、動力伝達機構を構成する、歯付ベルト1(かみ合い伝動ベルト)、歯付ベルト1が巻き掛けられる駆動プーリDR及び従動プーリDNについて説明する。
歯付ベルト1は、図1に示すように、駆動回転軸に連結される駆動プーリDRと、従動回転軸に連結される従動プーリDNとの間に巻き掛けられて使用される。これにより、駆動回転軸が回転すると、駆動プーリDRが回転し、その回転運動が歯付ベルト1を介して従動プーリDNに伝達されることで、従動回転軸が回転し、動力が伝達される。
歯付ベルト1は、ゴム状弾性体からなり、図1及び図2に示すように、内周面に、凸状の歯部2が、ベルト長手方向に沿って一定の歯ピッチで配置されている。また、図2に示すように、歯部2の先端から、歯部2の歯底面までのベルト厚さ方向の距離が、歯部2の歯高さhである。
駆動プーリDRは、ポリアセタール、ナイロン、ポリプロピレン等の合成樹脂、または、金属で形成されている。図1及び図2に示すように、駆動プーリDRの外周面には、周方向に沿って一定のピッチで複数の歯部DR1が形成されている。そして、この歯部DR1と歯部DR1との間に形成される溝部DR2に、歯付ベルト1の歯部2が噛み合う。また、本実施形態では、駆動プーリDRの半径Rr(駆動プーリDRのプーリピッチ径)は、駆動プーリDRの中心から、プーリピッチ周PP(図2に示すように、歯付ベルト1を駆動プーリDRに巻き掛けた際の心線の中心を結んだ円周)までの距離をいう。換言すれば、駆動プーリDRの半径Rrは、駆動プーリDRの中心から、歯部DR1の先端までの距離aに、歯部DR1の先端からプーリピッチ周PP(心線の中心)までの距離PLD(Pitch Line Differential)を加えた値である。
従動プーリDNは、駆動プーリDR同様、ポリアセタール、ナイロン、ポリプロピレン等の合成樹脂、または、金属で形成されている。図1及び図2に示すように、従動プーリDNの外周面には、周方向に沿って一定のピッチで複数の歯部DN1が形成されている。そして、この歯部DN1と歯部DN1との間に形成される溝部DN2に、歯付ベルト1の歯部2が噛み合う。また、本実施形態では、従動プーリDNの半径Rn(従動プーリDNのプーリピッチ径)は、従動プーリDNの中心から、プーリピッチ周PPまでの距離をいう。換言すれば、従動プーリDNの半径Rnは、従動プーリDNの中心から、歯部DN1の先端までの距離bに、歯部DN1の先端からプーリピッチ周PP(心線の中心)までの距離PLDを加えた値である。
情報処理装置10は、図6に示すように、ジャンピングトルクTqを算出するために使用する汎用コンピュータであり、ユーザーが操作することにより、各種のデータやリクエストの入力、データの記憶保存、計算を行うことができる。本実施形態の情報処理装置10は、制御部11(制御装置)と、記憶部12(記憶装置)と、入力部13と、表示部14(表示装置)とを有している。
記憶部12は、システムプログラムが記憶されたROM(Read Only Memory)と、書き換え可能な記憶領域であるRAM(Random Access Memory)と、フラッシュメモリ等によって構成されている。
入力部13は、ユーザー等が、様々な各種のデータやリクエストやコマンドを入力するための操作機器であり、例えば、キーボードやマウス等が使用される。
表示部14は、制御部11からの指令等に基づいた情報等を表示する。
上記式(1)の算出過程を説明する。動力伝達機構において、駆動回転軸が静止している状態では、駆動プーリDR及び従動プーリDNと接触していない、張り側スパン長さLtと緩み側スパン長さLsの2つのスパンの張力は等しくつりあっている(初張力:T0)。駆動回転軸が回転を始めると、駆動プーリDRに進入する張り側スパンの張力(張り側張力:Tt)は高くなり、駆動プーリDRから出てくる側の緩み側スパンの張力(緩み側張力:Ts)は低くなる。この張力差(有効張力:Te=Tt-Ts)により従動プーリDNが回転する。伝達動力が高くなるにつれてTtは大きく(Tt=T0+(B/A+B)Te)、Tsは小さくなっていく(Ts=T0-(A/A+B)Te)。そして、Ts=0となる際の張り側張力は、Tt*=(A+B)T0/Aと計算される(Tt=Tt*)(図5参照)。なお、Tt>Tt*では、Tt=Teとなる。
(a)ベルト歯の変形により有効歯高さは減少する。
(b)ジャンピング時の歯付ベルト1の巻き付き部分の噛み合い歯は全てが均一に浮き上がるとは限らない。
(c)張り側スパンのベルト伸びに因る巻き付き部分の浮き上がりは、従動プーリDN、駆動プーリDRの何れかの一方ではなく、浮き上がり量は異なるものの双方のプーリで生じる。
(d)駆動プーリDR上のジャンピングでは全ての歯部2が歯部DR1を乗り越える必要が有るが、従動プーリDN上では全ての歯部2が歯部DN1を乗り越えなくてもジャンピングが発生する。
上記理由より、ジャンピング時の巻き付き部分のベルト伸び量yを式(10)に代わり式(11)で算出し、従動プーリDNのかみあい補正係数Kmnは補正係数Kと同様に実験的に求める。
上記式(4)の最終補正式は、簡易補正式(1)よりも精度よくジャンピングトルクTqの予測値を算出される。
具体的には、式(4)の最終補正式は、式(1)に、更に、駆動プーリDRと従動プーリDNとを含むレイアウトを走行する歯付ベルト1の質量m(歯付ベルト1の線密度m)と走行速度Vに応じた遠心張力Tcを踏まえて補正する遠心力補正係数Kc、及び、歯付ベルトの歯の硬度および摩擦係数の違いを補正するベルト補正係数Kbを考慮に入れ、ジャンピングトルクTqの予測値を算出している。そのため、歯付ベルト1が特殊な仕様である場合および歯付ベルト1の走行速度Vが大きい場合であっても、ジャンピングトルクTqの予測値の精度を高めることができる。ここで、線密度mは歯付ベルト1の単位長さあたりの質量であり、プログラム内で保持している。走行速度Vは入力されたレイアウトに基づき計算される。遠心張力Tcは歯付ベルト1の遠心力により発生する張力であり、入力されたレイアウトに基づき計算される。各補正係数については、後述する。
2軸レイアウトで従動プーリDNと駆動プーリDRの歯数が同じ場合、必ず従動プーリDNにおいてジャンピングが起こるため、式(4)に基づいて従動プーリDNにおけるジャンピングトルクを計算することで、当該レイアウト全体におけるジャンピングトルクTqを算出することができる。
しかしながら、従動プーリDNの歯数が駆動プーリDRの歯数に対してかなり大きい(減速比が大きい)場合や、3軸以上のレイアウトで駆動プーリDRにおける歯付ベルト1の巻き付き角度θrが小さい場合などは、駆動プーリDRにおいてジャンピングが発生する場合がある。
このような場合、従動プーリDNにおけるジャンピングトルクのみを計算したとしても、計算で求めたジャンピングトルクよりも低いトルクで駆動プーリDRにおいてジャンピングが発生することとなるため、当該レイアウト全体におけるジャンピングトルクを計算したとはいえなくなる。
そのため、従動プーリDNにおけるジャンピングトルクTqnと駆動プーリDRにおけるジャンピングトルクTqrを計算し、より低い有効張力となる方のジャンピングトルクを当該レイアウト全体におけるジャンピングトルクTqとして採用することで、予測精度をさらに高めることができる。
上記式(1)~式(12)で示した、全体補正係数K、遠心力補正係数Kc、ベルト補正係数Kb、従動プーリのかみあい補正係数Kmn、駆動プーリのかみあい補正係数Kmrの各補正係数は、計算値が実測したジャンピングトルクTqに近似される値となるよう算出される値である。
以下に、各補正係数の決定方法の一例を挙げる。ただし、下記の式や値は、特定の仕様や歯形の歯付ベルトに対するものであり、他の歯形や仕様の歯付ベルトであれば、それに対応して決定される値であることから、各補正係数や決定方法は、以下の例には限定されない。
後述のレイアウト1~4に示すように構成された試験機で実際に測定したジャンピングトルク実測値と、計算式で求めたジャンピングトルク計算値とを比較し、ジャンピングトルク実測値に対して、式(4)がよい近似となるように全体補正係数K、および、従動プーリのかみあい補正係数Kmnを決定した。
例えば、3軸レイアウトの場合、プーリNo.1のスパン長さLは、プーリNo.1におけるプーリとベルトとの接点のうちプーリNo.2に最も近い接点から、プーリNo.2におけるプーリとベルトとの接点のうちプーリNo.1に最も近い接点までの直線距離を表している。同様に、プーリNo.2のスパン長さLは、プーリNo.2におけるプーリとベルトとの接点のうちプーリNo.3に最も近い接点から、プーリNo.3におけるプーリとベルトとの接点のうちプーリNo.2に最も近い接点までの直線距離を表している。さらに、プーリNo.3のスパン長さLは、プーリNo.3におけるプーリとベルトとの接点のうちプーリNo.1に最も近い接点から、プーリNo.1におけるプーリとベルトとの接点のうちプーリNo.3に最も近い接点までの直線距離を表している。
例えば3軸レイアウトの場合、プーリNo.1の中心間距離は、プーリNo.1の中心から、プーリNo.2の中心までの直線距離を表している。同様に、プーリNo.2の中心間距離は、プーリNo.2の中心から、プーリNo.3の中心までの直線距離を表している。さらに、プーリNo.3の中心間距離は、プーリNo.3の中心から、プーリNo.1の中心までの直線距離を表している。なお、表2の試験条件において、回転方向は駆動プーリおよび歯付ベルトの回転方向であり、図7の上面視でCWは時計回り、CCWは反時計回りであることを表している。
図8(A)に試験例1~3、図8(B)に試験例4~8の結果を示す。図8において、丸、菱形、四角のプロットはジャンピングトルクの実測値を表し、実線および破線は、式(4)によるジャンピングトルクの計算値を表している。
これらの試験結果から、ジャンピングトルクは、初張力に比例するとともにベルト幅、換言すればベルトのES値とともに増加していることが分かる。
また、張り側と緩み側のスパン長さが異なる場合、張り側のスパン長さが短くなる回転方向(この場合CW)においてジャンピングトルクが高くなる結果となっており、式(4)の妥当性が確認できる。
[2]さらに、KとKmに適当な初期値(具体的にはK=0.5、Km=0.5とした)を入力した場合のジャンピングトルクの計算値を、上記のグラフに追加でプロットした。
[3]ジャンピングトルクの計算値の勾配がジャンピングトルクの実測値の勾配に近くなるようにKの値を修正し、修正後のKの値に対するジャンピングトルクの計算値が実測値に近くなるようにKmの値を修正した。
[4]上記[2]、[3]を繰り返し、全ての実測値と計算値との差の平均値が最小となるようにKとKmを決定した。
次に、ベルト補正係数Kbの決定について説明する。ベルト補正係数Kbは、歯付ベルトの歯部の硬度、および、歯付ベルトと歯付プーリとの間の摩擦係数の違いによるジャンピングトルクへの影響を補正する係数である。すなわち、歯部の硬度が高い場合は、歯の変形が抑えられ、歯付ベルトの歯部がプーリの歯部に乗り上げるのが抑制されるために、ジャンピングトルクが大きくなると考えられる。
また、摩擦係数が小さい場合は、歯付ベルトの歯部がプーリの溝部の斜面を滑り落ちやすくなることから、歯付ベルトの歯部がプーリの歯部に乗り上げるのが抑制され、ジャンピングトルクが大きくなると考えられる。このように、ベルト補正係数Kbは歯付ベルトの歯部の硬度、および歯付ベルトと歯付プーリとの間の摩擦係数により決定される係数であるとの推定のもと、実験的に求めることとした。試験は以下の2つの条件で行った。
試験条件Aの試験のレイアウトは、前述の全体補正係数K、および、従動プーリのかみあい補正係数Kmnを求めた際と同じ、レイアウト2~4を使用した。試験ベルト(歯付ベルト)は、前述と同じベルト、すなわち三ツ星ベルト(株)製「スーパートルクG」(歯形:S8M、歯ピッチ:8mm、歯高さ(h):3.05mm、歯部の硬度Hs:75度)の歯部表面にシリコンを塗布することで摩擦係数(μ)を0.26に低下させたものを用いた。このベルトを低摩擦仕様と称する。レイアウト2の場合の初張力は125、250、500Nの3条件とし、レイアウト3および4の場合の初張力は125Nの1条件とした。駆動プーリの回転数は500rpmとした。試験条件をまとめると、表3の通りである。
試験条件Bの試験のレイアウトは、前述のレイアウト2と同様の単純な2軸レイアウトであるが、プーリ歯数は、駆動プーリ、従動プーリとも22とした。試験ベルト(歯付ベルト)は、三ツ星ベルト(株)製「ギガトルクGX」(歯形:G8M、歯ピッチ:8mm、歯高さ(h):3.50mm、歯部の硬度(Hs):98度、摩擦係数(μ):0.24)を用いた。このベルトを高剛性仕様と称する。試験条件をまとめると、表4の通りである。
図10(A)に試験例9~13、図10(B)に試験例14~16の結果を示す。図10において、丸、菱形、四角のプロットはジャンピングトルクの実測値を表し、実線および破線は、式(4)によるジャンピングトルクの計算値を表している。
図10(A)を図8(B)と比較すると、低摩擦仕様のベルトでは、標準仕様のベルトと比較して、ジャンピングトルクが大きくなっているのが確認できる。
次に、遠心力補正係数Kcの決定について説明する。歯付ベルトが回転すると、その質量と走行速度に応じた遠心力が発生する。この遠心力は歯付ベルトがプーリの歯部に乗り上げる力として作用するため、プーリの回転速度が高い場合はジャンピングトルクが低下すると考えられる。これまでの試験では、駆動プーリの回転数は500rpmと小さく、歯付ベルトの走行速度も小さいために、遠心力によるジャンピングトルクへの影響は無視できるものとして、Kc=0としてきた。しかしながら、実際に歯付ベルトを使用する際にはより高速回転で使用されることもあり、遠心力による補正を行うことで、ジャンピングトルクの予測精度をより高めることができる。
まず、2軸レイアウトについて、駆動プーリの回転数を除き、試験ベルト、レイアウト、試験条件を試験例4と同じとした試験を行った。駆動プーリの回転数は500rpm、1000rpm、2000rpm、3000rpmの4条件とした。ただし、初張力250N時の駆動プーリ回転数は500rpm、3000rpmの2条件とした。また、3軸レイアウトについて、駆動プーリの回転数を除き、試験ベルト、レイアウト、試験条件を試験例7および試験例8と同じとした試験を行った。駆動プーリの回転数は500rpm、3000rpmの2条件とした。試験条件をまとめると、表6の通りである。
図12(A)に試験例17~19、図12(B)に試験例20~25の結果を示す。図12において、丸、菱形、四角のプロットはジャンピングトルクの実測値を表し、実線および破線は、式(4)によるジャンピングトルクの計算値を表している。
これらを見ると、回転数の増加に伴い、ジャンピングトルクはほぼ二次曲線で低下しており、式(4)の妥当性が確認できる。
上記試験例で示した試験条件をはじめ、これまで本発明者らが実測したジャンピングトルクと、式(4)で計算したジャンピングトルク計算値との整合性について検証した。
図14(A)は、駆動プーリでジャンピングが発生した条件、図14(B)は、従動プーリでジャンピングが発生した条件についてまとめている。
図14(A)は、37条件を含んでおり、誤差の平均値は5.3%、誤差の最大値は12.4%となり標準偏差は2.7Nmとなった。図14(B)は、56条件を含んでおり、誤差の平均値は10.2%、誤差の最大値は39.5%となり標準偏差は4.2Nmとなった。以上の結果より、本願の計算式は比較的高い予測精度をもっているものと考えられる。
上記試験例では、試験ベルト(歯付ベルト)の歯形はS8M歯形であったが、より小ピッチのS3M歯形でも検証を行った。以下に試験ベルト(歯付ベルト)の歯形がS3M歯形の場合の試験条件、ベルト補正係数Kbを求めた試験結果を示し、予測精度の検証を行った。
試験ベルト(歯付ベルト)およびプーリ歯形:S3M
レイアウト:2軸レイアウト(レイアウト2)および3軸レイアウト(レイアウト1)
プーリ歯数:歯数が24、48、72の3種類のプーリの中から選択し、組み合わせて使用
初張力T0:25N、51N、101Nの3水準
ベルト幅:10mm
ベルト長さ:600mm
ベルト仕様:標準仕様、高強力仕様、高弾性率仕様の3種類(表7参照)
試験ベルト(歯付ベルト)の歯形がS3M歯形の場合でも、S8M歯形の場合と同様に、Kbに適当な初期値を入力してジャンピングトルクを計算し、その計算値と実測値とが全体として合致するようにKbの値を求めた。S3M歯形の各ベルト仕様におけるKbの値を表8に示す。また、ジャンピングトルクの実測値と計算値をグラフにまとめると図15のようになった。S3M歯形の場合でも実測値と計算値とはよく一致することが確認でき、本願の算出制御方法は歯形が異なる場合でも、精度よくジャンピングトルクを計算できるものと考えられる。
次に、情報処理装置10を使用した、ジャンピングトルクTqの予測値の算出処理について説明する。
情報処理装置10の制御部11は、プログラムから式(1)~式(3)を読み出し、記憶部12の情報テーブルに記憶させた、式(1)~式(3)に必要な各種パラメータの値を読み込むことにより、ジャンピングトルクTqの予測値を算出する(ステップ1b)。
情報処理装置10の制御部11は、プログラムから式(2)~式(5)を読み出し、記憶部12の情報テーブルに記憶させた、式(2)~式(5)に必要な各種パラメータの値を読み込むことにより、ジャンピングトルクTqの予測値を算出する(ステップ1b)。
情報処理装置10の制御部11は、プログラムから式(2)~式(5)を読み出し、記憶部12の情報テーブルに記憶させた、式(2)~式(5)に必要な各種パラメータの値を読み込むことにより算出した、従動プーリDNにおけるジャンピングトルクTqの予測値Тqn、及び、従動プーリDNの、張り側張力と緩み側張力との差である有効張力Tenに係る関係を示す、式(6)から求められる、当該有効張力Tenを算出する(ステップ1d)。
上記実施形態で実行されるジャンピングトルクTqを算出する処理は、ソフトウェア(プログラム、データ)として、スマートフォン等の携帯情報機器、ポータブルコンピュータやラップトップコンピュータ、ノートパソコン、タブレット型パソコン、ハンドヘルド型パソコン、PDA(Personal Data Assistant)などに例示される情報処理装置にインストールされて実行されてもよい。この場合、ソフトウェアは、サーバ等から通信手段によりダウンロードされて携帯情報機器内の記憶装置(フラッシュメモリ等)に格納されてもよい。なお、通信手段は、インターネットやケーブルテレビ等の双方向に通信可能な伝送路であってもよいし、一方向にだけ情報を送信する放送であってもよい。
2 歯部
10 情報処理装置
11 制御部
12 記憶部
13 入力部
14 表示部
DR 駆動プーリ
DN 従動プーリ
Tq ジャンピングトルク
Claims (3)
- 駆動プーリと従動プーリとを含むレイアウトに巻き掛ける歯付ベルトのジャンピングトルクTqの予測値の算出制御方法であって、
(1a)ベルト長手方向の等価な縦弾性率Eと前記歯付ベルトの断面積Sとの積で求められる、歯付ベルトの引張試験における力と歪みの関係値ES、及び、歯高さh、並びに、駆動プーリのプーリピッチ径Rr、及び、従動プーリのプーリピッチ径Rnの各種パラメータの値と、
前記駆動プーリと前記従動プーリとの間に前記歯付ベルトを巻き掛けた際の、初張力T0、張り側スパン長さLt、緩み側スパン長さLs、前記駆動プーリ上の前記歯付ベルトの巻き付き角度θr、前記従動プーリ上の前記歯付ベルトの巻き付き角度θnの各種パラメータの値と、
全体補正係数Kの値、および、前記従動プーリのかみあい補正係数Kmnの値と、
を記憶装置に記憶させるステップ、
(1b)式(1)~式(3)に、前記(1a)のステップで記憶した前記各種パラメータの値、前記全体補正係数Kの値、及び、前記かみあい補正係数Kmnの値を代入し、前記ジャンピングトルクTqの予測値を算出するステップ、
(1c)前記(1b)のステップで算出した、前記ジャンピングトルクTqの予測値をアウトプットするステップ、
を制御装置により実行する。
なお、前記全体補正係数Kの値および前記従動プーリの前記かみあい補正係数Kmnの値は、式(1)~(3)に上記各種パラメータの値を代入した際の、ジャンピングトルクTqの計算値と、当該ジャンピングトルクTqの実測値とを比較し、その差の平均値が最小となる値として予め決定される値である。
- 駆動プーリと従動プーリとを含むレイアウトに巻き掛ける歯付ベルトのジャンピングトルクTqの予測値の算出制御方法であって、
(2a)ベルト長手方向の等価な縦弾性率Eと前記歯付ベルトの断面積Sとの積で求められる、歯付ベルトの引張試験における力と歪みの関係値ES、及び、歯高さh、並びに、駆動プーリのプーリピッチ径Rr、及び、従動プーリのプーリピッチ径Rnの各種パラメータの値と、
前記駆動プーリと前記従動プーリとの間に前記歯付ベルトを巻き掛けた際の、初張力T0、張り側スパン長さLt、緩み側スパン長さLs、前記駆動プーリ上の前記歯付ベルトの巻き付き角度θr、前記従動プーリ上の前記歯付ベルトの巻き付き角度θnの各種パラメータの値と、
前記歯付ベルトの遠心力により発生する張力であり、前記レイアウトに基づき計算される遠心張力Tc、歯付ベルトの線密度m、歯付ベルトの走行速度V、前記レイアウトを走行する前記歯付ベルトの質量と走行速度に応じた遠心力を踏まえて補正する遠心力補正係数Kc、前記歯付ベルトの歯の硬度および摩擦係数の違いを補正するベルト補正係数Kbの各種パラメータの値と、
全体補正係数Kの値、および、前記従動プーリのかみあい補正係数Kmnの値と、
を記憶装置に記憶させるステップ、
(2b)式(2)~式(5)に、前記(2a)のステップで記憶した前記各種パラメータの値、前記全体補正係数Kの値、及び、前記かみあい補正係数Kmnの値を代入し、前記ジャンピングトルクTqの予測値を算出するステップ、
(2c)前記(2b)のステップで算出した、前記ジャンピングトルクTqの予測値をアウトプットするステップ、
を制御装置により実行する。
なお、前記全体補正係数Kの値および前記従動プーリの前記かみあい補正係数Kmnの値は、式(1)~(3)に上記各種パラメータの値を代入した際の、ジャンピングトルクTqの計算値と、当該ジャンピングトルクTqの実測値とを比較し、その差の平均値が最小となる値として予め決定される値である。
- 請求項2に記載のジャンピングトルクTqの予測値の算出制御方法であって、
(2d)前記(2b)のステップにより算出した、前記従動プーリにおけるジャンピングトルクTqの予測値Тqn、及び、前記従動プーリに係る、張り側張力と緩み側張力との差である有効張力Tenに係る関係を示す、式(6)から求められる、当該有効張力Tenを算出するステップ、
(2e)前記従動プーリのかみあい補正係数Kmnの値と同様の手法により予め決定された、前記駆動プーリのかみあい補正係数Kmrを、更に、前記記憶装置に記憶させるステップ、
(2f)更に、前記(2e)のステップで記憶した、前記かみあい補正係数Kmrの値を式(7)に代入し算出した、前記駆動プーリにおけるジャンピングトルクTqの予測値Тqr、及び、前記駆動プーリに係る、張り側張力と緩み側張力との差である有効張力Terに係る関係を示す、式(7)から求められる、当該有効張力Terを算出するステップ、
(2g)前記有効張力Tenと前記有効張力Terとの大小を比較し、Ten≦Terの場合は、前記予測値Tqnを当該レイアウト全体におけるジャンピングトルクTqの予測値に決定し、Ten>Terの場合は、前記予測値Tqrを当該レイアウト全体におけるジャンピングトルクTqの予測値に決定するステップ、
(2h)前記(2c)のステップにおいて、前記(2g)のステップで決定した、前記ジャンピングトルクTqの予測値をアウトプットするステップ、
を更に実行する。
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-
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