JP2022538903A - 細胞および組織への薬剤の送達のための新規ペプチド、組成物および方法 - Google Patents
細胞および組織への薬剤の送達のための新規ペプチド、組成物および方法 Download PDFInfo
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Abstract
網膜および角膜の細胞を含む多数の細胞型を高効率で標的化する細胞透過性ペプチドが本明細書で提供される。これらのペプチドは、化学的コンジュゲーションを必要とせずに細胞膜を越えてカーゴ分子を送達するために使用され得る。これらの細胞透過性ペプチドを含む組成物およびウイルスベクターも提供される。種々の薬剤を標的細胞および組織に送達するためにペプチド、組成物およびウイルスを使用する方法も提供される。
Description
関連出願の相互参照
本特許出願は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる米国仮特許出願第62/869,831号、2019年7月2日出願の優先権の利益を主張する。
連邦政府支援の研究に関する記載
本発明は、米国陸軍によって与えられた認可番号W81XWH-16-1-0650により政府の支援で行われた。政府は、本発明に一定の権利を有する。
本特許出願は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる米国仮特許出願第62/869,831号、2019年7月2日出願の優先権の利益を主張する。
連邦政府支援の研究に関する記載
本発明は、米国陸軍によって与えられた認可番号W81XWH-16-1-0650により政府の支援で行われた。政府は、本発明に一定の権利を有する。
配列表
配列表は、本出願に付随し、サイズ2.09KBであり、2020年6月15日に作成された「166118_00949_ST25.txt」と名付けられた配列表のASCIIテキストファイルとして提供される。配列表は、アプリケーションを用いてEFS-Webを介して電子的に提出され、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
配列表は、本出願に付随し、サイズ2.09KBであり、2020年6月15日に作成された「166118_00949_ST25.txt」と名付けられた配列表のASCIIテキストファイルとして提供される。配列表は、アプリケーションを用いてEFS-Webを介して電子的に提出され、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
導入
大部分の薬物にとって、細胞膜は細胞の細胞質または核への移行の不浸透性障壁である。この障壁を克服するために、細胞透過性ペプチド(CPP)の開発に著しい関心がある(Guidotti et al., 2017)。タンパク質、ペプチド、DNA、siRNAおよび小分子薬物を含む生物学的に活性なコンジュゲートの細胞および組織への送達を可能にする種々のCPPが記載されている(Bechara and Sagan, 2013)。CPPは、さまざまなクラス:a)陽イオン性、例えば、HIV TAT、ペネトラチンまたはポリアルギニン;b)両親媒性、例えば、トランスポータンおよびPep-1、ならびにc)疎水性、例えば、Pep-7に分類されており、これらのCPPおよびそれらの一般的特性は他所に概説されている(Guidotti et al., 2017)。細胞膜を越える分子の送達のために有用な特性を有するCPPが同定されているが、個々のペプチドの効率は、標的化される組織の種類に応じて変動する。
眼(ocular)の疾患および損傷は、医薬品部門の進歩にも関わらず重要な医学的問題のままである。国立保健研究所によると、失明に至る眼(ocular)の疾患は、合衆国における身体障害の最も一般的な原因の1つである[National Eye Institute (1999-2003). A Report of the National Eye Council, National Institutes of Health]。眼(ocular)の組織に薬物を送達することは、眼の天然の防御システムによって複雑化される。眼のまばたき動作は、眼(ocular)の表面を洗浄し、免疫グロブリンおよび抗菌タンパク質を含有する涙膜を再生させる。涙膜による薬物の急速なクリアランスは、眼の表面への分子の局所送達を困難にし、所与の薬物の95%を超える損失を生じる。さらに、眼の内側の区画に透過することを管理する薬物の半減期は、眼房水の再循環のために通常短い。このため、眼(ocular)の組織に薬物を送達するための方法の改善は、重要な医薬的要求である。
本出願では、網膜および角膜を高効率で標的化するCPPが提供される。これらのCPPは、細胞膜を越えて異種性分子を送達するためにCPPと異種性分子との間に化学的コンジュゲーションを必要としないという点で独特であり、それにより、疾患および傷害の処置のために網膜に治療薬を送達する有望な手段を提供する。
大部分の薬物にとって、細胞膜は細胞の細胞質または核への移行の不浸透性障壁である。この障壁を克服するために、細胞透過性ペプチド(CPP)の開発に著しい関心がある(Guidotti et al., 2017)。タンパク質、ペプチド、DNA、siRNAおよび小分子薬物を含む生物学的に活性なコンジュゲートの細胞および組織への送達を可能にする種々のCPPが記載されている(Bechara and Sagan, 2013)。CPPは、さまざまなクラス:a)陽イオン性、例えば、HIV TAT、ペネトラチンまたはポリアルギニン;b)両親媒性、例えば、トランスポータンおよびPep-1、ならびにc)疎水性、例えば、Pep-7に分類されており、これらのCPPおよびそれらの一般的特性は他所に概説されている(Guidotti et al., 2017)。細胞膜を越える分子の送達のために有用な特性を有するCPPが同定されているが、個々のペプチドの効率は、標的化される組織の種類に応じて変動する。
眼(ocular)の疾患および損傷は、医薬品部門の進歩にも関わらず重要な医学的問題のままである。国立保健研究所によると、失明に至る眼(ocular)の疾患は、合衆国における身体障害の最も一般的な原因の1つである[National Eye Institute (1999-2003). A Report of the National Eye Council, National Institutes of Health]。眼(ocular)の組織に薬物を送達することは、眼の天然の防御システムによって複雑化される。眼のまばたき動作は、眼(ocular)の表面を洗浄し、免疫グロブリンおよび抗菌タンパク質を含有する涙膜を再生させる。涙膜による薬物の急速なクリアランスは、眼の表面への分子の局所送達を困難にし、所与の薬物の95%を超える損失を生じる。さらに、眼の内側の区画に透過することを管理する薬物の半減期は、眼房水の再循環のために通常短い。このため、眼(ocular)の組織に薬物を送達するための方法の改善は、重要な医薬的要求である。
本出願では、網膜および角膜を高効率で標的化するCPPが提供される。これらのCPPは、細胞膜を越えて異種性分子を送達するためにCPPと異種性分子との間に化学的コンジュゲーションを必要としないという点で独特であり、それにより、疾患および傷害の処置のために網膜に治療薬を送達する有望な手段を提供する。
本明細書で提供するペプチドは、細胞または組織への薬剤の送達ために有効である細胞透過性ペプチドとして作用できる。一部の実施形態ではペプチドは、薬剤にコンジュゲートまたは連結されておらず、細胞膜を通過し、薬剤を送達することがいまだ可能である。本発明は、配列番号1を含む、または配列番号1に90%配列同一性を有するペプチドであって、配列番号1中のXが任意の可動性リンカー領域を表すペプチドを提供する。本発明は、配列番号2もしくは配列番号4を含むか、またはそれからなるアミノ酸配列を有するペプチド、または配列番号2もしくは配列番号4に90%配列同一性を有するペプチドであって、配列番号2中の各Xが任意の可動性リンカー領域を表すペプチドも提供する。
薬剤および本発明のペプチドを含む医薬組成物が提供される。本発明のペプチドをコードするポリヌクレオチドおよび核酸構築物も提供される。
薬剤および本発明のペプチドを含む医薬組成物が提供される。本発明のペプチドをコードするポリヌクレオチドおよび核酸構築物も提供される。
本発明のペプチドをコードするポリヌクレオチドを含む組換えウイルスも提供される。本発明のペプチドは、ウイルスカプシドタンパク質内に挿入され得る。AAV9を含むアデノ随伴ウイルス(AAV)も使用され得る。
さらに本発明は、細胞または組織を本開示の組成物に、または薬剤および本開示のペプチドもしくはペプチドを含む組成物に接触させるステップによって、細胞または組織に薬剤を送達する方法を提供する。
さらに本発明は、細胞または組織を本開示の組成物に、または薬剤および本開示のペプチドもしくはペプチドを含む組成物に接触させるステップによって、細胞または組織に薬剤を送達する方法を提供する。
最初に薬剤および本発明のペプチドを含む医薬を製剤化するステップ、および次に医薬を対象に投与するステップによって対象の細胞または組織に薬剤を送達するための方法も提供される。
細胞または組織を本発明のウイルスおよびペプチドの両方に接触させるステップによって、細胞または組織にウイルスを送達するための方法も提供される。
細胞または組織を本発明のウイルスおよびペプチドの両方に接触させるステップによって、細胞または組織にウイルスを送達するための方法も提供される。
本明細書で提供する組成物、ペプチドおよびウイルス送達機構は、状態または疾患について処置を必要とする対象を処置するために使用され得る。状態または疾患は、変性性の眼(ocular)の疾患、炎症もしくは酸化ストレスに関連する疾患、血管新生または線維症および眼(ocular)の損傷を含むものから選択され得る。
大部分の薬物にとって、細胞膜は不浸透性障壁となる。しかしながら、細胞透過性ペプチド(CPP)と呼ばれる特定のクラスのタンパク質は、未処理の細胞膜を越えることができ、カーゴ分子の取込みを促進できる。それによりCPPは、細胞および組織へのタンパク質、ペプチド、DNA、siRNAおよび小分子薬物を含む生物学的に活性なコンジュゲートの送達を可能にする(Bechara and Sagan、2013)。CPPは、容易な透過、急速な取込みならびに低い毒性および免疫応答を提供する[Jones et al. 2005 Br J Pharmacol 145: 1093-1102]。十分に研究されたCPPとして、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)Tatタンパク質[Frankel et al. 1988 Cell 55: 1189-1193]、単純ヘルペスウイルス(HSV)VP22タンパク質[Phelan et al. 1998 Nat Biotechnol 16: 440-443]およびキイロショウジョウバエ(Drosophila melanogaster)アンテナペディアホメオドメインタンパク質[Derossi et al. 1994 J Bioi Chem 269: 10444-10450]が挙げられる。例えば、HIV Tatは、DNAをコンパクトにし、それを培養中の細胞に送達するCPPとして機能することが示されている[Ignatovich I A et al. 2003 J Biol Chem 278: 42625-42636]。しかしながら、HIV TATの他にin vivoでの神経組織におけるCPPの能力について入手できる情報は非常に限られている。さらにCPPは、細胞膜を越える送達のためにカーゴ分子への化学的コンジュゲーションを一般に必要とし、そのような改変はカーゴ分子の機能に悪影響を与える場合がある。
本発明は、細胞または組織への、特に眼(ocular)の細胞および組織への薬剤の送達のためのペプチドを提供する。本発明のペプチドは、配列番号1および配列番号2ならびに本明細書で提供する他のペプチドを含む。この能力を有するペプチドは、以前、例えば米国特許第8,778,886号に記載されているが、本発明のペプチドは、細胞または組織に薬剤を効果的に送達するために薬剤に化学的にコンジュゲートまたは連結される必要がないことにおいて例外的である。実施例は、「Nuc1」と称され、配列番号3によって表される1種のそのようなペプチドが、今日までに記載された網膜の透過のための最も効率的なペプチドであり得ることを実証する。さらに、Nuc1は、組換えタンパク質、抗体、プロテオグリカン、ステロイド、ウイルスおよびリボ核タンパク質を含む多様な薬剤を眼(ocular)の組織に送達できる。
本明細書において使用されるペプチドは、カスタムペプチドの商業的供給者によって合成された。ペプチド合成は、固相技術[Roberge et al. 995 Science 269:202]を使用して実施でき、例えば431Aペプチド合成機(Applied Biosystems、Foster City、Calif.)を使用して自動化合成が達成される。当業者は、化学合成に加えてタンパク質およびペプチド発現系の使用をこれだけに限らないが含む他の手段もペプチドを生成するために使用され得ることを理解する。
実施例において記載されるCPP、Nuc1は、眼(ocular)の細胞を標的化するそれらの可能性がある能力について選択される2種のアミノ酸配列を含む。これらの第1の配列ASIKVAVSA(配列番号4)は、基底膜糖タンパク質ラミニン-1のヌクレオリン結合領域を表す、より長い配列CSRARKQAASIKVAVSADR(配列番号8)由来である。第2の配列DKPRR(配列番号5)は、血管内皮増殖因子(VEGF165)の特定のアイソフォームのヘパラン硫酸結合ドメインを形成するわずかにより長い配列CDKPRR(配列番号7)由来である。重要なことに、ヌクレオリンおよびヘパラン硫酸の両方は、網膜組織の表面に見出され、この組織に接近するためのこれらの「標的化ペプチド」の能力の主要因であると考えられる。
本発明のペプチドは、可動性リンカー領域を任意に含む。Nuc1(配列番号3)は、2個のグリシン残基を含むアミノ酸リンカーによって配列番号5に連結された配列番号4を含み、細胞透過性ペプチド(CPP)として機能すると実施例において示されている。当業者は、リンカー領域がCPPの機能に影響を与えることなく変更され得ることを理解する。それにより本明細書で提供されるペプチドは、配列中のXaaアミノ酸が可動性リンカー領域を表して配列番号1によって表される。Nuc1は、標的化ペプチド配列(ラミニン-1およびVEGF165由来ペプチド)間に可動性リンカー領域を含むように設計された。「リンカー」は、任意にペプチド結合を介してペプチドを繋ぐために役立つアミノ酸残基の配列である。本発明により可動性リンカー領域は、1個または複数個のアミノ酸残基、好ましくは1個、2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個、10個、11個、12個、13個、14個、15個、16個、17個、18個、19個、もしくは20個またはこれより多い残基を含む。本発明の好ましい実施形態では、リンカーは、残基2個を含む。「可動性」リンカーは、溶液中で固定された構造(二次または三次構造)を有さないアミノ酸配列である。したがって、そのような可動性リンカーは、種々のコンホメーションを自由に許容し、種々のアミノ酸からなる。リンカーは、標的化ペプチドの既存のリンカー配列として、または標的化ペプチド間の1個または複数個のアミノ酸残基の挿入によって提供され得る。リンカーは、標的化ペプチドとそれらの対応する標的分子との相互作用を実質的に妨げない任意のアミノ酸配列を含み得る。可動性リンカー配列のための好ましいアミノ酸残基として、グリシン、アラニン、セリン、スレオニン、リシン、アルギニン、グルタミンおよびグルタミン酸が挙げられるがこれらに限定されない。実施例では、可動性リンカー配列は、Nuc1ペプチドが配列番号3を含むアミノ酸配列を有するように2個のグリシン残基を含む。当業者は、他の残基も使用され得、リンカーの長さはペプチドの機能に悪影響を与えることなく変更され得ることを理解する。ある特定の実施形態では、ペプチドはリンカー領域を含まない。典型的にはリンカーは、リンカーおよび標的化ペプチドの両方をコードする組換え核酸の一部として調製される。リンカーは、ペプチド合成によっても調製され、続いて標的化ペプチドと組み合わされ得る。核酸を操作する方法およびペプチド合成の方法は、当技術分野において周知である。
本出願では、用語「タンパク質」または「ペプチド」または「ポリペプチド」は、アミノ酸配列を指して互換的に用いられる。本明細書に記載のペプチドは、天然ではなく、むしろ操作されたペプチド配列である。「アミノ酸」および「アミノ酸配列」は、天然に存在する構成成分および天然に存在しない構成成分(すなわち、アミノ酸誘導体またはアミノ酸アナログが1個または複数個の天然に存在するアミノ酸を置換している)の両方を含み得る。さらに、2個の隣接している残基間に1個または複数個の非ペプチドまたはペプチド模倣結合を有するアミノ酸配列は、この定義に含まれる。
本明細書に記載のペプチドに関して、句「%配列同一性」、「パーセント同一性」または「%同一性」は、標準化されたアルゴリズムを使用してアライメントされた少なくとも2種のアミノ酸配列間で一致する残基のパーセンテージを指す。アミノ酸配列アライメントの方法は、周知である。一部のアライメント方法は、保存的アミノ酸置換を考慮する。そのような保存的置換は、下により詳細に説明され、一般に置換の部位での電荷および疎水性を保存し、それによりポリペプチドの構造(およびそれにより機能)を保存する。アミノ酸配列についてのパーセント同一性は、当技術分野において理解されるとおりに決定され得る(例えば、その全体が参照により本明細書に組み込まれる米国特許第7,396,664号を参照されたい)。一連の一般に使用され、自由に入手できる配列比較アルゴリズムは、the National Center for Biotechnology Information(NCBI)Basic Local Alignment Search Tool(BLAST)によって提供され、NCBI、Bethesda、Md.ウエブサイトにて、を含むいくつかの供給元から利用可能である。BLASTソフトウェア一式は、公知のアミノ酸配列を種々のデータベース由来の他のアミノ酸配列とアライメントするために使用される「blastp」を含む種々の配列分析プログラムを含む。
ポリペプチド配列同一性は、例えば、特定の配列番号によって定義される、定義されたポリペプチド配列全長にわたって測定され得る、またはより短い長さ、例えば、より長い定義されたポリペプチド配列から取った断片の長さ、例えば、少なくとも10個、少なくとも15個、少なくとも20個もしくはさらなる近接残基の断片にわたって測定され得る。そのような長さは、例示のみであり、本明細書において、表、図または配列表において示された配列によって支持される任意の断片長が、それにわたってパーセンテージ同一性が測定され得る長さを記載するために使用され得ることは理解される。
実施例は、Nuc1が、神経節細胞、ミュラー細胞、双極細胞ならびに光受容体桿体および錐体を含む網膜のすべての層に送達され得ることを実証している(図1)。注目すべきことに、Nuc1の網膜への透過は、本発明者らが以前に記載した網膜透過ペプチドのいずれよりも実質的に優れており、Nuc1をいくつかの眼(ocular)の状態の処置のための有望な候補にしている。例えば、光受容体の形質導入は、網膜色素変性症などの疾患の処置において適用を有し、網膜色素上皮細胞の形質導入は加齢性黄斑変性症の処置において適用を有し、神経節細胞の形質導入は緑内障の処置において適用を有する。しかしながら、本発明の標的化細胞または組織は、Nuc1が、口腔、生殖器、軟骨(軟骨細胞)、肝臓、腎臓、神経、脳、上皮、心臓性および筋肉組織を含む他の組織において使用され得ることから眼に限定されない。特に、網膜神経細胞の性質に基づいて、本発明者らは、本発明の方法が脳などの他の神経組織に拡張され得ることを予想している。実施例ではCPPは、光受容体、網膜色素上皮、神経節細胞、双極細胞、ミュラー細胞、脈絡膜内皮細胞、水晶体上皮、角膜内皮、角膜実質(corneal stroma)、線維柱帯網または虹彩への薬剤の送達を可能にできる。
細胞および組織に接近するこの能力を用いて、本発明のCPPは、標的化部位への多様な薬剤の送達を可能にする。ある特定の実施形態では、薬剤は、治療剤、検出剤または細胞傷害剤である。一部の実施形態では、薬剤は次の:低分子量薬物、ペプチド、脂質、炭水化物、タンパク質、抗体、免疫原、遺伝子治療もしくは遺伝子操作構築物、ウイルスもしくはウイルスベクターまたはワクチンから選択される。他の実施形態では薬剤は、cDNA、mRNA、miRNA、tRNAまたは小分子干渉RNAなどの核酸である。好ましい実施形態では、薬剤は、抗アポトーシス剤、抗炎症剤、抗血管新生剤、抗線維化剤である。薬剤は、実施例において示されるとおり、X連鎖アポトーシス抑制タンパク質、デコリン、血管内皮増殖因子に対する抗体、Bcl-xL由来BH4-ドメインペプチド、NRF2またはデキサメタゾンであり得るが、多数の他の薬剤が当業者に明らかである。他の好ましい実施形態では、薬剤は、遺伝子治療剤または遺伝子編集剤である。薬剤は、組換えウイルスまたはCas9リボ核タンパク質であり得る。例えば、血管内皮増殖因子またはロドプシンは、遺伝子編集のための好適な標的であり得る。簡潔には遺伝子治療では、遺伝子は、DNAまたはRNAの分子として一般に細胞に送達される。遺伝子は、標的細胞内の遺伝子の発現を方向づけるプロモーター/エンハンサーエレメントも含む発現構築物の一部として含まれる。遺伝子が発現されると、生じたタンパク質産物は、標的細胞内で望ましい機能を提供する。この機能は、欠損または異常(突然変異、異常な発現など)を補正でき、治療価値がある別のタンパク質の発現を確実にできる。遺伝子治療は、改変後に再導入される身体から抽出された細胞にin vitroで実施され得る、または適切な組織においてin vivoで直接実施され得る。それにより遺伝子編集では、選択された組織の1個または複数個の細胞内の遺伝子は、改変される遺伝子を含む遺伝子の細胞性コピーを置き換えるように変更される。
本発明の好ましい実施形態では、薬剤は、CPPに化学的にコンジュゲートも連結もされていない。コンジュゲーションは、CPPに結合されたカーゴまたは薬剤の機能に悪影響を与える場合がある。それにより、コンジュゲートされていないカーゴ分子を送達する本発明のCPPの能力は、先行技術を超える大きな改善を表す。さらにこの能力は、産生物の容易さのためにCPPを極めて多用途にしている。例えばそれは、多数のカーゴ分子または可能性がある薬剤の有効性がタンデムで検査されるようにする。可能性があるカーゴ分子を検査するたびに、新規のコンジュゲートされた分子を産生するために使われる時間と費用も節約する。
加えて、本発明のCPPをコードするポリヌクレオチドおよびこれらのポリヌクレオチドがプロモーターに作動可能に連結されている核酸構築物も提供される。本明細書で使用される場合、句「プロモーターに作動可能に連結されている」は、遺伝子発現がプロモーターで開始された場合に、生じた遺伝子産物にポリヌクレオチドが含まれているように、ポリヌクレオチドがプロモーターに並置されていることを意味する。
本発明は、CPPをコードするポリヌクレオチドおよび核酸構築物を含むウイルスも提供する。好ましい実施形態では、ウイルスはアデノ随伴ウイルス(AAV)である。AAVベクターは、ヒト組織、特に眼(ocular)、神経系および肝臓組織に遺伝子を送達する実行可能で、効果的な方法であることが示されている。しかしながら、レトロウイルス、アデノウイルス、レンチウイルス、アルファウイルス、フラビウイルス、ラブドウイルス、麻疹ウイルス、ニューキャッスル病ウイルス、ポックスウイルス、ピコルナウイルスおよび単純ヘルペスウイルスを含む、遺伝子治療適用における使用のために改変された他のウイルスも本発明において使用され得る。実施例では、AAV9カプシド(AAV2/9)を用いてシュードタイプ化されたAAV2ベクターが使用された。しかしながら、これだけに限らないがAAV2/2、AAV2/8またはAAV2/5を含む任意のAAV血清型が、本発明において利用され得る[Khabou et al. 2016 Biotechnol Bioeng 113(12): 2712-2724]。
一部の実施形態ではCPPは、ウイルスカプシドタンパク質に組み込まれる。ここで、挿入されるペプチドは、好ましくは、ラミニン-1由来の標的化ペプチド、ASIKVAVSA(配列番号4)だけを含むNuc1の短い一部分である。実施例ではこの配列は、配列GASIKVAVSAG(配列番号6)を形成するように2個のグリシン残基によって隣接されており、AAV血清型9カプシドタンパク質のアミノ酸588と589との間にクローニングされる。AAVカプシドまたは他のウイルスベクターの外膜もしくはカプシドタンパク質への異種性配列の組込みのための他の部位は、以前に記載されている。いずれかの末端上のグリシン残基は、異なるアミノ酸残基を含むために当業者によって変更され得る、または長さにおいて1個より多いアミノ酸であり得る可動性リンカー領域である。それにより、本明細書で提供されるペプチドは、配列中のXaaアミノ酸が、長さにおいて1個または複数個のアミノ酸であり得、異なるアミノ酸残基を使用できる可動性リンカー領域(上に定義されるとおり)を表す配列番号2によって表される。
本明細書に記載のウイルスは、組換えウイルスまたはウイルス様粒子(VLP)であり得、遺伝子治療ベクターまたはVLPを含む。上に記載のとおり、CPP配列は、種々のウイルスまたはウイルスベクターに挿入され得、これらは標的化細胞中のポリペプチドの送達および発現を可能にするように操作され得る。本明細書に記載のウイルスベクターおよびウイルスが目的のポリヌクレオチドを送達することにさらに有効であり、本明細書で提供するペプチドの挿入または発現を有さない類似のウイルスベクターと比較した場合に、標的組織または標的組織の細胞への送達の割合を増加させる遺伝子治療の目的ためにポリペプチドの発現を可能にすることは検討される。加えて、CPPを発現するまたは組み込むこれらの組換えウイルスまたはウイルスベクターは、標的細胞または組織への送達をさらに増加させるように可溶性CPPとも送達され得る。一実施形態では、配列番号4または6のラミニンペプチド配列は、ウイルスベクターに組み込まれ、可溶性Nuc1(配列番号1または3)ペプチドは、ウイルスおよびそのカーゴの送達を増加させるようにウイルスと同時送達される。
関連する実施形態では、ペプチドは、少なくとも1つのアミノ酸を含む異なる可動性リンカー領域によって隣接される。実施例において実証されるとおり、AAVのカプシド中にNuc1のこの部分を含むこと(実施例においてAAV-IKVと称される)は、網膜下にまたは硝子体内に注射された場合に網膜細胞の感染を顕著に改善する。注目すべきことに、この組換えウイルスによる感染は、ウイルスが(ウイルスのカプシド中の配列番号4または配列番号6の含有の有無に関わらず)Nuc1と同時注射される場合にさらに増強され得る。
本発明は、細胞または組織に薬剤を送達するための方法を提供する。これらの方法は、薬剤および本発明のCPPの両方と細胞または組織を接触させるステップを含む。細胞は、薬剤と直接または間接的にin vivo、in vitroまたはex vivoで接触され得る。接触させるステップは、細胞、組織、哺乳動物、患者またはヒトへの投与を包含する。さらに、細胞に接触させるステップは、薬剤を細胞培養物または局所的に加えることを含む。他の好適な方法は、本明細書において定義される適切な手順および投与の経路を使用して薬剤を細胞、組織、哺乳動物または患者に導入するまたは投与することを含み得る。方法のある特定の実施形態では、細胞または組織は培養物中である。代替的に、細胞または組織は、in vivoである。
分子のペプチド媒介送達は、ヒトにおける眼(ocular)の疾患および他の疾患の処置において適用を有する。したがって、本発明は、対象の細胞または組織に薬剤を送達するための方法も提供する。これらの方法は、薬剤および本発明のCPPを含む医薬を製剤化するステップ、およびそれを対象に投与するステップを含む。滲出型加齢性黄斑変性症を処置するための現在の標準治療は、抗VEGF抗体(例えば、ラニビズマブまたはアバスチン)の毎月の硝子体内注射を含む(Comparison of Age-related Macular Degeneration Treatments Trials Research et al., 2012)。実施例において実証されるとおり、これらの抗体をNuc1と同時送達することは、それらの効力を増強し有効用量のために必要な抗体の濃度を低減する、または投薬の頻度を低減すると考えられる。一部の実施形態では、硝子体内または網膜下注射は、局所投与に置き換えることができる。Nuc1の添加は、費用のかかる来院および煩わしい医学的手順の必要なく処置をもたらすように薬剤が角膜を越えて細胞に到達できるようにする。薬物の効力を増強するこの能力は、処置の費用を低減することおよびオフターゲット活性による潜在的な毒性を低減することの両方について意義を有する。対象としては、これだけに限らないが、脊椎動物、適切には哺乳動物、適切にはヒト、ウシ、ネコ、イヌ、ブタまたはマウスが挙げられる。感染の他の動物モデルも使用され得る。
本発明の医薬または医薬組成物は、1種または複数種の適切な薬学的に許容される担体と任意に製剤化され得る。薬学的に許容される担体としては、任意およびすべての溶媒、希釈剤または他の液体ビヒクル、分散または懸濁補助剤、表面活性剤、等張剤、濃化剤または乳化剤、保存剤、固体結合剤(solid binder)および潤滑剤が挙げられる。Remington’s Pharmaceutical Sciences [Ed. by Gennaro, Mack Publishing, Easton, Pa., 1995]は、医薬組成物を製剤化することにおいて使用される種々の異なる担体およびそれらを調製するための公知の技術を記載している。医薬は、1種または複数種の追加的治療剤も任意に含み得る。追加的治療剤は、次の:増殖因子、抗炎症剤、昇圧剤、コラーゲナーゼ阻害剤、局所ステロイド、マトリックスメタロプロテアーゼ阻害剤、アルコルベート、アンジオテンシンII、アンジオテンシンカルレティキュリン、テトラサイクリン、フィブロネクチン、コラーゲン、トロンボスポンジン、ビタミンBおよびヒアルロン酸からなる群から選択され得る。
提供される方法は、対象を処置するために有効な任意の量および任意の投与の経路を使用して医薬を投与することを含む。正確な投薬量は、処置される患者を考慮して個々の医師によって選択される。投薬量および投与は、十分なレベルの活性剤を提供するために、または望ましい効果を維持するために調整される。考慮される追加の因子としては、疾患状態の重症度、例えば、状態の程度、状態の経緯;患者の年齢、体重および性別;食事、投与の時期および頻度;併用薬物;反応感度;ならびに治療への耐性/応答が挙げられる。任意の活性剤について、治療有効用量は、細胞培養アッセイにおいて、または動物モデル、通常マウス、ウサギ、イヌまたはブタにおいてのいずれかで最初に概算され得る。動物モデルは、望ましい濃度範囲および投与の経路を決定するためにも使用される。
標的組織が眼(ocular)である実施形態では、医薬は、経眼(trans-ocular)、硝子体内、局所、経脈絡膜、前房内、上脈絡膜、経皮的、網膜下、腹腔内、皮下および静脈内経路を含むいくつかの経路によって対象の眼に投与され得る。注目すべきことに、眼への薬物の局所送達は眼の天然の防御によって困難にされる。しかしながら、実施例において実証したとおり、Nuc1の局所投与は、角膜への薬物の送達を増強できる。本出願は、局所投与後に、利用可能な薬物の1%未満が眼(ocular)の組織に透過することから特に有用である[Shell J W 1984 Surv Opthalmol 29: 117-128]。追加的、代替的な投与の経路として:経口、直腸内、非経口、大槽内、腟内、腹腔内、バッカル(bucal)または経鼻の経路が挙げられる。
眼(ocular)投与のために、液体投薬形態は、緩衝液および可溶化剤、水などの好ましい希釈剤、チモソール(thymosol)などの保存剤、および、ポリエチレングリコール、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒアルロン酸ナトリウム、ポリアクリル酸ナトリウムまたはタマリンドガムなどの溶液をコンディショニングするための1種または複数種のバイオポリマーまたはポリマー、を含む。医薬の局所または経皮的投与のための剤型としては、滴下剤、軟膏、ペースト剤、クリーム剤、ローション剤、ゲル剤、粉剤、液剤、スプレー剤、吸入剤またはパッチ剤が挙げられる。軟膏、ペースト剤、クリーム剤およびゲル剤は、本発明の活性剤に加えて、動物性および植物性脂肪、油、ワックス、パラフィン、デンプン、トラガント、セルロース誘導体、ポリエチレングリコール、シリコン、ベントナイト、ケイ酸、タルク、酸化亜鉛またはこれらの混合物などの賦形剤を含有し得る。粉剤およびスプレー剤は、本発明の薬剤に加えて、タルク、ケイ酸、水酸化アルミニウム、ケイ酸カルシウム、ポリイミドパウダーまたはこれらの物質の混合物などの賦形剤を含有し得る。スプレー剤は、クロロフルオロヒドロカーボンなどの通例の噴霧剤を追加的に含有する場合がある。
注射可能な調製物、例えば、滅菌注射可能水または油性懸濁物は、好適な分散または湿潤剤および懸濁剤を使用して当技術分野において公知のとおり製剤化される。滅菌注射可能な調製物は、滅菌注射可能な溶液、無毒性の非経口に許容される希釈剤または溶媒中の懸濁剤または乳剤、例えば1,3-ブタンジオール中の溶液などである。許容されるビヒクルおよび溶媒としては、水、リンゲル溶液、U.S.P.および等張塩化ナトリウム溶液が挙げられる。加えて、滅菌固定油は、溶媒または懸濁媒体として従来から使用されている。この目的のために、合成モノ-またはジグリセリドを含む任意の無菌(bland)固定油も使用され得る。加えて、オレイン酸などの脂肪酸は、注射剤の調製のために使用される。注射可能な製剤は、例えば、細菌保持フィルター(bacterial retaining filter)を通す濾過によって、滅菌水または他の滅菌注射可能な媒体に溶解または分散され得る固形組成物の形態での滅菌剤を組み込むことによって使用前に無菌化され得る。活性剤のin vivo効果を延長するために、皮下または筋肉内注射からの薬剤の吸収を遅くすることはしばしば望ましい。非経口で投与された活性剤の吸収の遅延は、油性ビヒクルに薬剤を溶解するまたは懸濁することによって達成される。注射可能なデポ形態は、ポリ乳酸-ポリグリコリドなどの生分解性ポリマー中で薬剤のマイクロカプセル化基質(microencapsule matrices)を形成することによって行われる。活性剤のポリマーに対する比および使用される具体的なポリマーの性質に応じて活性剤放出の速度はs制御され得る。他の生分解性ポリマーの例としては、ポリ(オルトエステル)およびポリ(酸無水物)が挙げられる。デポ注射可能製剤は、体組織に適合性であるリポソームまたはマイクロエマルジョン中に薬剤を封入することによっても調製される。
医薬または医薬組成物の投与は、治療的または予防的であってよい。予防的製剤は、創傷の可能性がある部位または、コンタクトレンズ、コンタクトレンズクリーニングおよびリンス溶液、コンタクトレンズの保存または輸送のための容器、コンタクトレンズを扱うためのデバイス、点眼剤、外科的洗浄溶液、点耳薬、眼帯ならびにクリーム、ローション、マスカラ、アイライナーおよびアイシャドウを含む眼の周囲のための化粧品ならびに眼科(opthalmological)デバイス、外科的デバイス、聴能学デバイスなどの創傷の原因に適用される。
一部の実施形態では、対象は眼(ocular)の疾患、障害または傷害を有する。網膜のいくつかの一般的な疾患としては、加齢性黄斑変性症、網膜色素変性症および緑内障が挙げられ、それぞれ網膜色素上皮、光受容体および 網膜神経節細胞の変性に関連する[Hartong, et al. 2006 Lancet 368:1795-1809; Rattner et al. 2006 Nat Rev Neurosci 7: 860-872]。対象は、網膜裂孔、網膜剥離、糖尿病性網膜症、網膜上膜、黄斑円孔、黄斑変性症、眼球突出、白内障、CMV網膜炎、網膜芽細胞腫、糖尿病黄斑浮腫、眼(ocular)高血圧、眼(ocular)片頭痛、網膜剥離、アルカリまたは他の化学物質での熱傷、前房出血、角膜擦過傷、角膜炎、円錐角膜、結膜下出血、増殖性硝子体網膜症、アッシャー症候群およびぶどう膜炎が挙げられる他の疾患および状態を有する場合がある。他の感染、ジストロフィーを有するまたは移植された角膜の拒絶に苦しんでいる対象も処置され得る。
本開示は、本明細書に記載される構築物、構成成分の配置または方法ステップの具体的な詳細に限定されない。本明細書において開示される組成物および方法は、続く開示に照らして当業者に明らかである種々の方法で、作製、実施、使用、実行および/または形成され得る。本明細書において使用される表現法および用語法は、記載のみの目的のためであり、特許請求の範囲の範囲の限定として見なされるべきでない。種々の構造または方法ステップを指すために記載および特許請求の範囲において使用される場合、第1の、第2のおよび第3のなどの序数表示は、そのような構造もしくはステップについていかなる特定の構造もしくはステップまたはいかなる特定の順序もしくは立体配置を指すと解釈されることを意味しない。本明細書に記載されるすべての方法は、本明細書において別に示される、または別に文脈によって明らかに矛盾しない限り、任意の好適な順序で実施され得る。本明細書において提供される任意のおよびすべての例または,例示的用語(例えば、「などの」)の使用は、単に開示を容易にする意図であり、別に特許請求されない限り本開示の範囲へのいかなる限定も意味しない。明細書におけるいかなる語および図に示されるいかなる構造も、任意の特許請求されていない要素が開示される主題の実行に不可欠であることを示すとして解釈されるべきでない。用語「含む(including)」、「含む(comprising)」または「有する(having)」およびこれらの変形の本明細書における使用は、そのあとに列挙される要素およびその等価物ならびに追加的要素を包含することを意味する。ある特定の要素を「含む(including)」、「含む(comprising)」または「有する(having)」として列挙される実施形態は、これらのある特定の要素「から本質的になる」および「からなる」としても検討される。
本明細書における値の範囲の列挙は、本明細書において別に述べられない限り、この範囲内のそれぞれ別々の値を個々に参照する短縮法として役立つことを単に意図し、それぞれ別々の値は、本明細書において個々に引用されたのと同様に明細書に組み込まれる。例えば、濃度範囲が1%~50%として述べられる場合、例えば2%~40%、10%~30%または1%~3%などの値が本明細書において明確に挙げられていることが意図される。これらは、具体的に意図されるものの単なる例であり、列挙される最低値および最高値を含めてその間の数値のすべての可能な組合せは、本開示において明確に述べられていると見なされる。具体的に列挙された量または量の範囲を記載するための語「約」の使用は、測定を成すことにおける製作公差、器械誤差および人的誤差などにより考慮され得るまたは必然的に考慮される値などの列挙される値に非常に近い値がその量に含まれることを示して意味する。量を参照するすべてのパーセンテージは、別に示されない限り質量による。
本明細書に引用されるいかなる非特許または特許文献を含む任意の参考文献が先行技術を構成することは承認されていない。特に、別に示されない限り本明細書において任意の文書を参照することが、これらの文書のいずれも米国または任意の他の国における当技術分野の一般的知識の一部を形成するとの承認を構成しないことは理解される。参考文献の任意の考察は著者が主張するものを述べ、出願人は本明細書において引用されるいずれの文書の正確度および妥当性を検証する権利を保持する。本明細書に引用されるすべての参考文献は、明確にそうでないと示されない限り全体が参照により組み込まれる。引用される文献に見出される任意の定義および/または記載の間に相違点がある事象においては、本開示が支配するものとする。
以下の実施例は、例示的であるのみ意味し、本発明の範囲または添付の特許請求の範囲への限定を意味しない。
(実施例1)
網膜細胞および組織への小および大分子の送達のための新規細胞透過性ペプチドNuc1
細胞透過性ペプチド(CPP)は、問題の組織の生物学的特性を考慮して設計され得る。例えば、POD(眼(ocular)への送達のためのペプチド)と称される以前に記載されたペプチドは、網膜に豊富に存在するタンパク質、具体的には酸性および塩基性線維芽細胞増殖因子のグルコサミノグリカン結合領域をモデルとした(Johnson et al., 2010)。グルコサミノグリカンコンドロイチン硫酸は、成体の網膜に豊富に存在することが公知であり(Clark et al., 2011)、ヘパラン硫酸は発生中に網膜に豊富に存在する。タンパク質-グルコサミノグリカン相互作用の分子モデリングは、網膜において検査された最も効率的なCPPの1種であると見出されたPODの開発をもたらした(Johnson et al., 2010)。競合研究は、PODの細胞透過特性が細胞の表面のヘパラン硫酸のレベルによって顕著に影響を受けることが見出されたこと(Johnson et al., 2010)を示し、網膜組織上のヘパラン硫酸プロテオグリカンを網膜のCPP標的化のための候補成分として同定している。CPP機能のためのヘパラン硫酸の重要性は、ベクトセルペプチド(Vectocell peptide)としても公知のCPPの代替形態についても記載されている(De Coupade et al., 2005)。
網膜細胞および組織への小および大分子の送達のための新規細胞透過性ペプチドNuc1
細胞透過性ペプチド(CPP)は、問題の組織の生物学的特性を考慮して設計され得る。例えば、POD(眼(ocular)への送達のためのペプチド)と称される以前に記載されたペプチドは、網膜に豊富に存在するタンパク質、具体的には酸性および塩基性線維芽細胞増殖因子のグルコサミノグリカン結合領域をモデルとした(Johnson et al., 2010)。グルコサミノグリカンコンドロイチン硫酸は、成体の網膜に豊富に存在することが公知であり(Clark et al., 2011)、ヘパラン硫酸は発生中に網膜に豊富に存在する。タンパク質-グルコサミノグリカン相互作用の分子モデリングは、網膜において検査された最も効率的なCPPの1種であると見出されたPODの開発をもたらした(Johnson et al., 2010)。競合研究は、PODの細胞透過特性が細胞の表面のヘパラン硫酸のレベルによって顕著に影響を受けることが見出されたこと(Johnson et al., 2010)を示し、網膜組織上のヘパラン硫酸プロテオグリカンを網膜のCPP標的化のための候補成分として同定している。CPP機能のためのヘパラン硫酸の重要性は、ベクトセルペプチド(Vectocell peptide)としても公知のCPPの代替形態についても記載されている(De Coupade et al., 2005)。
血管内皮増殖因子(VEGF)は、網膜恒常性において重要な役割を果たしている(Jin et al., 2002; Robinson et al., 2001)。VEGFのVEGFA165アイソフォームは、高度に塩基性のドメインを含有し、VEGFのこのアイソフォームがヘパラン硫酸に富む細胞外基質と相互作用し、局在化することを可能にしている(Krilleke et al., 2009)。VEGFAスプライスバリアント、腎臓上皮細胞由来VEGFA165bは、最後の6アミノ酸を除いてVEGFA165と同一である。VEGFA165bおよびVEGFA165は、同様の親和性でVEGF受容体1および2に結合する。しかしながら、VEGFA165bはヘパラン硫酸に弱く結合するだけであり(Cebe Suarez et al., 2006)、ヘパラン硫酸結合にはVEGF165のC末端(配列番号7 CDKPRR)が関連している。
ラミニンは、細胞外基質の大きな基底膜糖タンパク質である。ラミニンは、組織発生、細胞分化、遊走および接着に影響を与える(Aumailley, 2013)。ラミニンは、それぞれα鎖、β鎖およびγ鎖を含有するヘテロ三量体タンパク質である。三量体タンパク質は、他の細胞膜および細胞外基質分子に結合できる十字架様構造を形成するように交差する。これまでに5個のα、4個のβおよび3個のγバリアントが同定された。これらの鎖の異なる組合せは、多数のラミニン分子を生じる。これまでに、およそ16種のラミニン分子が哺乳動物において同定された。少なくとも7種のラミニン鎖、α3、α4、α5、β2、β3、γ2およびγ3は、光受容体の周囲の基質および第1のシナプス層、網膜介在神経細胞を含む光受容体シナプスに局所していた(Libby et al., 2000)。ラミニンは、ヘパラン硫酸プロテオグリカンを含む他の基底膜構成分にも結合し、基底層との細胞性相互作用を媒介する。ラミニン-1のカルボキシルグロビュール(carboxyl globule)に近位の領域(配列番号8 CSRARKQAASIKVAVSADR)は、細胞接着についての活性部位である(Tashiroet al., 1989)。興味深いことに、この領域は、ヌクレオリン(Kibbey et al., 1995)、核および急速に分割する細胞の表面において典型的には見出されるタンパク質にも結合する(Hovanessian et al., 2010; Koutsioumpa and Papadimitriou, 2014; Mongelard and Bouvet, 2007)が、光受容体を含む網膜でも見出される(Hollander et al., 1999)。
本発明者らは、可動性ポリグリシンリンカーを通じて連結されたラミニン-1由来のヌクレオリン結合領域の一部とVEGFA165のヘパラン硫酸プロテオグリカン結合領域との組合せからなる新規ペプチド配列が細胞接着および細胞透過特性を有すると仮定した。それにより本発明者らは、そのような特性について配列ASIKVAVSAGGDKPRR(配列番号3)を検証した。本発明者らは、このペプチド、Nuc1(配列番号3)が網膜において効率的に機能できることを本明細書において実証したが、それは、細胞外基質および細胞表面特性を網膜組織と共有する他の組織、例えば脳においても機能できる。
材料および方法:
ペプチド合成:蛍光標識されたNuc1ペプチド配列Fluo(5/6FAM)-ASIKVAVSAGGDKPRR[COOH](配列番号3)は、Thermo Fisher Scientificによって>99%の純度で合成された。蛍光標識を持たない同じ配列も合成した。
ペプチド合成:蛍光標識されたNuc1ペプチド配列Fluo(5/6FAM)-ASIKVAVSAGGDKPRR[COOH](配列番号3)は、Thermo Fisher Scientificによって>99%の純度で合成された。蛍光標識を持たない同じ配列も合成した。
動物:この試験は、視覚と眼科学研究協会会議(ARVO)によって設定された、視覚および眼科研究における動物の使用についての宣言に従って実施され、タフツ大学の動物実験委員会(IACUC)によって承認された。6~8週齢のC57BL/6JマウスをJackson Laboratory(バーハーバー、メイン州)から購入し、12時間の明/暗サイクル下で飼育した。
硝子体内および網膜下注射:ケタミン(100mg/kg、Phoenix(商標)、セントジョセフ、ミズーリ州)およびキシラジン(10mg/kg、Lloyed、シェナンドア、アイオワ州)を含むカクテル混合物を腹腔内注射した後、角膜の局所的鎮痛のために0.5%塩酸プロパラカイン(Akorn Inc.、レイクフォレスト、イリノイ州、米国)を局所的に適用することにより、マウスを麻酔した。麻酔中、マウスを保温した。硝子体内および網膜下注射は、以前に記載されたように(Cashman et al., 2015)、32ゲージの針と5μlのガラス製シリンジを使用して実行した。Nuc1取込み実験については、注射されたペプチドの量が結果に示されている。mCherryの取込みに対するNuc1の効果を試験するために、結果に記載されているようにして、1μlのmCherry(4μg)をNuc1と共に、またはNuc1を伴わずに硝子体内注射した。注射の4時間後(表示のように)、眼を摘出し、4%パラホルムアルデヒドで固定した。1眼あたり合計1μlのAAV(結果に記載されている用量)をNuc1と共に、またはNuc1を伴わずに硝子体内および網膜下に注射した。Micron 550クライオスタットを用いて網膜凍結切片を取得した。
硝子体内および網膜下注射:ケタミン(100mg/kg、Phoenix(商標)、セントジョセフ、ミズーリ州)およびキシラジン(10mg/kg、Lloyed、シェナンドア、アイオワ州)を含むカクテル混合物を腹腔内注射した後、角膜の局所的鎮痛のために0.5%塩酸プロパラカイン(Akorn Inc.、レイクフォレスト、イリノイ州、米国)を局所的に適用することにより、マウスを麻酔した。麻酔中、マウスを保温した。硝子体内および網膜下注射は、以前に記載されたように(Cashman et al., 2015)、32ゲージの針と5μlのガラス製シリンジを使用して実行した。Nuc1取込み実験については、注射されたペプチドの量が結果に示されている。mCherryの取込みに対するNuc1の効果を試験するために、結果に記載されているようにして、1μlのmCherry(4μg)をNuc1と共に、またはNuc1を伴わずに硝子体内注射した。注射の4時間後(表示のように)、眼を摘出し、4%パラホルムアルデヒドで固定した。1眼あたり合計1μlのAAV(結果に記載されている用量)をNuc1と共に、またはNuc1を伴わずに硝子体内および網膜下に注射した。Micron 550クライオスタットを用いて網膜凍結切片を取得した。
レーザー誘発脈絡膜血管新生(CNV):レーザー光凝固術を以前に記載されたようにして行った。簡単に説明すると、鎮静させたマウスの瞳孔を2.5%フェニレフリンHCl(Bausch&Lomb)および1%トロピカミド(Bausch&Lomb)で拡張させた。角膜の不快感を最小限に抑えるために、2.5%のハイパーメロース(Goniovisc)を適用した。直径75μmのスポットサイズ、330mH、パルス時間100msに設定したアルゴンレーザー(532nm、IRIS Medical Light Solutions、IRIDEM;IRIDEX)を使用して、眼ごとに4つのレーザースポットを生成した。
レクチンおよびα-アクチン染色:光凝固の7日後、動物をCO2で安楽死させ、眼を摘出した。眼杯を固定し、水晶体と角膜を除去した。0.1Mリン酸緩衝液中の4%パラホルムアルデヒドで一晩固定した後、網膜を除去し、強膜/脈絡膜/RPE複合体をPBSで洗浄した。眼杯をPBS中の5%BSAでブロックし、PBS中100μg/μLのフルオレセインをコンジュゲートしたイソレクチン(Vectashield)で1時間染色した。次に、眼杯をPBSで5分間3回洗浄し、1:200希釈のCy3をコンジュゲートした抗α-SMAマウスモノクローナル抗体(C6198、Sigma)と共に4℃で一晩インキュベートした。翌日、眼杯をPBSで5分間3回洗浄し、スライドガラスにフラットに載せ、関連するフィルターを備えた倒立顕微鏡(IX51;Olympus)、デジタルカメラ(Retiga 2000R-FAST;Q-Imaging)、およびQCapture Proソフトウェア(Q-Imaging)を使用して画像化した。CNV領域の画像は蛍光顕微鏡(Leica)で撮影した。CNVの面積はImageJソフトウェア(NIH)を使用して測定した。
細胞培養:継代HEK293細胞培養は15cmプレート上、10%ウシ胎児血清(FBS;HyClone Laboraties、サウスローガン、ユタ州)を添加したダルベッコ改変イーグル培地(DMEM、Gibco)中で維持した。指数関数的増殖期を維持するために細胞を3~4日ごとに継代した。
ベクター構築物:AAV-IKV-GFPおよびAAV-Nucl-GFPウイルスを生成するために、pAAV9/rep-capプラスミドをDralllで消化し、1.4kbのcap DNAフラグメントをゲル抽出してpBSx中にクローニングし、pBSx1.4を生成した。ペプチドのためのDNA配列は商業的に合成した。これらの配列をTthlll1およびBamHIを用いた制限酵素消化によってpBSx1.4(1.4kbキャップ領域を含む)中にクローニングし、pPBSx1.48およびpBSx1.4Nを生成した。最後に、pPBSxl.48とpBSx1.4NをSbflとBsiWIで消化し、1.4kbのDNAフラグメントをゲル抽出して、逆方向末端反復(ITR)を含むpAAV2/9rep-cap中にクローニングし、pAAV2/9IKVとpAAV2/9Nuc1を生成した。
組換えAAVの産生および精製:AAVウイルスは、以前に記載されたプロトコルの修正版を使って生成した(Birke et al., 2014)。トランスフェクションは、上記のAAVプラスミドのリン酸カルシウムトリプルトランスフェクションを使用して行った。簡単に説明すると、15cmプレートで増殖させた80~90%コンフルエントのHEK293細胞を、トランスフェクションの2時間前にDMEM-10%FBSに変更した。2:1:1の比率の適切な量のプラスミド(ヘルパープラスミド:シスプラスミド:トランスプラスミド)を、リン酸カルシウム法を使用して沈殿させ、20枚のプレートに滴下して加えた。トランスフェクションの24時間後に培地をDMEM-10%FBSに交換した。トランスフェクションの96時間後に細胞と培地を回収した。収集した細胞ペレットを溶解し、14mlの清澄化した溶解物を次の順序で充填したイオジキサノール(OptiPrep;Sigma-Aldrich、ミズーリ州セントルイス)溶液の勾配に適用した:4mlの15%、9mlの25%、9mlの40%、および5mlの54%イオジキサノールを40mlのQuick-Seal遠心分離チューブ(Beckman Instruments、パロアルト、カリフォルニア州)に充填。チューブを70Tiローター(Beckman Instruments)中、18℃、69,000rpmで遠心分離し、40%イオジキサノール層から4mlの分画溶液を除去した。画分をさらにダイアフィルトレーションし、最終乳酸リンガー溶液を使用して濃縮し、グリセロールを5%まで添加した。次に、画分を等分し、将来の使用のために-80℃で保存した。
AAVの滴定:AAV-CAG-GFPプラスミドをSmalで消化し、ゲル抽出して、GFP導入遺伝子の標準曲線を作成した。AAVをDNaselで消化してゲノムDNAを除去し、さらにプロテイナーゼKと共にインキュベートしてAAVカプシドを消化した。DNAはフェノール-クロロホルム法を使用して抽出および精製し、TE緩衝液中に溶解させた。2×104ゲノムコピーから2×108ゲノムコピーまでの範囲の標準曲線を作成した。標準曲線に対してウイルスを定量化するために定量的PCRを行った。
免疫組織化学:網膜細胞の免疫組織化学を行うために、クリオスタット網膜切片をPBSで15分間再水和し、PBS中の6%正常ヤギ血清でブロックするか、Mouse On Mouse Kitを使用して1時間ブロックし、PKC(双極細胞)に対する適切な一次抗体と共に湿室中で一晩インキュベートした。続いて、切片を洗浄し、Alex-fluor 544または488(Molecular Probes、ユージーン、オレゴン州)で標識した二次抗体と共にインキュベートして、それぞれの抗体を網膜切片中で局在化させた。スライドをDAPI(Vectashield-DAPI;Vector Laboratories、バーリンゲーム、カリフォルニア州)を含む退色防止培地中にマウントして核を対比染色し、Leica共焦点顕微鏡で画像を撮影した。
結果
Nuc1は硝子体内注射後に網膜組織と細胞に透過する
Nuc1ペプチドが硝子体内注射後に網膜に透過して網膜細胞内に入ることができるかどうかを調べるために、発明者らはNuc1を蛍光色素FAMで蛍光標識し、1μlのH2Oに懸濁した合計1μgのNuc1を成体(6週齢)C57BL/6Jマウスの硝子体に注射した。注射の4時間後に、これらのマウスの眼を摘出し、4%パラホルムアルデヒドで固定した。網膜凍結切片はMicron 550クライオスタットを使用して作製し、蛍光顕微鏡を用いて切片を画像化した。発明者らは、6-FAMは網膜に透過できないが(データは示さず)、FAMで標識したNuc1は神経節細胞層(GCL)、内顆粒層(INL)、外顆粒層(ONL)、内側セグメント(IS)および外側セグメント(OS)を含む網膜のすべての層に局在化することを見出した(図1A)。これらの凍結切片をチューブリン(図1B)、プロテインキナーゼC(図1C)、桿体オプシン(図1D)、またはグルタミン合成酵素(図1E)を標的とする抗体で共染色したところ、Nuc1が神経節細胞、双極細胞、光受容体、ミュラー細胞をそれぞれ標的にすることが明らかになった。興味深いことに、Nuc1の網膜への透過は、PODを含む発明者らが以前に記載した網膜透過ペプチドのいずれよりも実質的に優れていた(Binder et al., 2011; Johnson et al., 2010)。発明者らの知る限り、Nuc1は以前に記載された網膜の細胞透過性ペプチドと比較して、優位な網膜透過性を有している。
Nuc1は硝子体内注射後に網膜組織と細胞に透過する
Nuc1ペプチドが硝子体内注射後に網膜に透過して網膜細胞内に入ることができるかどうかを調べるために、発明者らはNuc1を蛍光色素FAMで蛍光標識し、1μlのH2Oに懸濁した合計1μgのNuc1を成体(6週齢)C57BL/6Jマウスの硝子体に注射した。注射の4時間後に、これらのマウスの眼を摘出し、4%パラホルムアルデヒドで固定した。網膜凍結切片はMicron 550クライオスタットを使用して作製し、蛍光顕微鏡を用いて切片を画像化した。発明者らは、6-FAMは網膜に透過できないが(データは示さず)、FAMで標識したNuc1は神経節細胞層(GCL)、内顆粒層(INL)、外顆粒層(ONL)、内側セグメント(IS)および外側セグメント(OS)を含む網膜のすべての層に局在化することを見出した(図1A)。これらの凍結切片をチューブリン(図1B)、プロテインキナーゼC(図1C)、桿体オプシン(図1D)、またはグルタミン合成酵素(図1E)を標的とする抗体で共染色したところ、Nuc1が神経節細胞、双極細胞、光受容体、ミュラー細胞をそれぞれ標的にすることが明らかになった。興味深いことに、Nuc1の網膜への透過は、PODを含む発明者らが以前に記載した網膜透過ペプチドのいずれよりも実質的に優れていた(Binder et al., 2011; Johnson et al., 2010)。発明者らの知る限り、Nuc1は以前に記載された網膜の細胞透過性ペプチドと比較して、優位な網膜透過性を有している。
Nuc1は組換えタンパク質の網膜への透過を促進する
硝子体に注射された大きな機能性タンパク質は一般に、網膜の奥深くまで透過せず、網膜細胞の原形質膜を通過しない。異種タンパク質に物理的に結合したPODなどの細胞透過性ペプチド(CPP)の使用は、この固有の制限を克服しうる(Johnson et al., 2010)。しかしながら、PODおよびその他のCPPは一般に、原形質膜を横切る送達のために異種タンパク質への化学的なコンジュゲーションを必要とするが、タンパク質へのそのような改変はタンパク質の機能に悪影響を与えるおそれがある。発明者らは、異種タンパク質がNuc1へのコンジュゲーションを必要とせずに網膜細胞に送達されうると仮定した。この仮説をテストするために、4μgの組換え赤色蛍光タンパク質(RFP/mCherry)と1μgのFAM標識Nuc1を成体(6週齢)C57BL/6Jマウスの硝子体に同時注射した。4時間後、組織を上記のように処理した。単独で注射した場合、網膜組織または細胞へのmCherryの有意な透過は見られなかったが(図2F)、FAM標識Nuc1と同時注射したmCherryは、さまざまな網膜細胞、最も大量にはONLへのmCherryの有意な取込みを示した(図2A)。特に、FAMのシグナル(緑)とmCherryのシグナル(赤)の共局在(黄色)が、網膜のONL内の多くの細胞で検出された(図2A)。
硝子体に注射された大きな機能性タンパク質は一般に、網膜の奥深くまで透過せず、網膜細胞の原形質膜を通過しない。異種タンパク質に物理的に結合したPODなどの細胞透過性ペプチド(CPP)の使用は、この固有の制限を克服しうる(Johnson et al., 2010)。しかしながら、PODおよびその他のCPPは一般に、原形質膜を横切る送達のために異種タンパク質への化学的なコンジュゲーションを必要とするが、タンパク質へのそのような改変はタンパク質の機能に悪影響を与えるおそれがある。発明者らは、異種タンパク質がNuc1へのコンジュゲーションを必要とせずに網膜細胞に送達されうると仮定した。この仮説をテストするために、4μgの組換え赤色蛍光タンパク質(RFP/mCherry)と1μgのFAM標識Nuc1を成体(6週齢)C57BL/6Jマウスの硝子体に同時注射した。4時間後、組織を上記のように処理した。単独で注射した場合、網膜組織または細胞へのmCherryの有意な透過は見られなかったが(図2F)、FAM標識Nuc1と同時注射したmCherryは、さまざまな網膜細胞、最も大量にはONLへのmCherryの有意な取込みを示した(図2A)。特に、FAMのシグナル(緑)とmCherryのシグナル(赤)の共局在(黄色)が、網膜のONL内の多くの細胞で検出された(図2A)。
FAMで標識されたNuc1を非標識のNuc1に置き換えてmCherryと同時注射すると、mCherryの強い取込みが再び観察され、RFPのシグナルがFAMチャネルからのブリードスルーの結果ではないことが示された(図2B~2E)。網膜切片をチューブリン(図2B)、PKC(図2C)、グルタミン合成酵素(図2D)または錐体オプシン(図2E)に対する抗体で共染色したところ、mCherryが神経節細胞、双極細胞、ミュラー細胞、錐体光受容体にそれぞれ局在化することが明らかになった。マウスの眼のサイズが小さいため、動物間で多少のばらつきが見られたが、すべての網膜がONLにおいて最も強いシグナルを示した。
Nuc1は網膜へのXIAPタンパク質の送達を促進し、アポトーシスを減弱させる
次に、発明者らはNuc1の特性が潜在的に治療的な意義を有する異種タンパク質に適用できるかどうかを調査した。プログラム細胞死またはアポトーシスは、網膜色素変性症などの疾患における網膜変性の結果として活性化される一般的な経路である(Cottet and Schorderet, 2009)。トランスジェニック動物またはウイルス遺伝子送達を使用した以前の研究は、X連鎖アポトーシス阻害タンパク質(XIAP)などのアポトーシス阻害因子の発現の上昇が、網膜変性のさまざまな動物モデルで網膜変性を減弱させることを見出している(Leonard et al., 2007)。導入遺伝子送達の代替策として、網膜変性疾患の治療のためのXIAPタンパク質の送達が想定されうる。この治療法は、組換えタンパク質(例えば、アフリベルセプト)を硝子体内に注射してVEGFを標的化する、滲出型の加齢性黄斑変性症(AMD、以下を参照)の現在の標準治療に類似している。遺伝子送達と比較して、タンパク質送達は投薬レジメンに関して、より容易に用量設定されうる。マウスにN-メチル-N-ニトロソ尿素(MNU)を腹腔内注射すると、網膜の外顆粒層(ONL)にアポトーシスが選択的に誘導されるため、このモデルはアポトーシス阻害剤の有効性をテストするために役立つ(Petrin et al., 2003)。
次に、発明者らはNuc1の特性が潜在的に治療的な意義を有する異種タンパク質に適用できるかどうかを調査した。プログラム細胞死またはアポトーシスは、網膜色素変性症などの疾患における網膜変性の結果として活性化される一般的な経路である(Cottet and Schorderet, 2009)。トランスジェニック動物またはウイルス遺伝子送達を使用した以前の研究は、X連鎖アポトーシス阻害タンパク質(XIAP)などのアポトーシス阻害因子の発現の上昇が、網膜変性のさまざまな動物モデルで網膜変性を減弱させることを見出している(Leonard et al., 2007)。導入遺伝子送達の代替策として、網膜変性疾患の治療のためのXIAPタンパク質の送達が想定されうる。この治療法は、組換えタンパク質(例えば、アフリベルセプト)を硝子体内に注射してVEGFを標的化する、滲出型の加齢性黄斑変性症(AMD、以下を参照)の現在の標準治療に類似している。遺伝子送達と比較して、タンパク質送達は投薬レジメンに関して、より容易に用量設定されうる。マウスにN-メチル-N-ニトロソ尿素(MNU)を腹腔内注射すると、網膜の外顆粒層(ONL)にアポトーシスが選択的に誘導されるため、このモデルはアポトーシス阻害剤の有効性をテストするために役立つ(Petrin et al., 2003)。
精製した機能的組換えヒトXIAPを硝子体内注射によって網膜細胞に送達し、網膜におけるMNU誘導アポトーシスを阻害しうるという仮説をテストするために、C57BL/6Jマウス(雄、6~8週齢)に1.4μgの組換えヒトXIAP(n=6眼)を硝子体内注射、またはXIAPを0.4μgのNuc1と同時注射した(n=6眼)。4時間後、マウスに50mg/1kgのMNUを腹腔内注射した。一部のマウスには、網膜におけるバックグラウンドのアポトーシスの基準として、PBSのみを腹腔内注射した。さらに24時間後、マウスの眼を摘出し、上記のように処理した。アポトーシス細胞を検出するために、In Situ Cell Death Detection Kit,TMR Red(Sigma)を使用し、製造元の指示に従って、末端デオキシヌクレオチド転移酵素媒介dUTP-ビオチンニック末端標識(TUNEL)法を凍結切片に対して行った。以前に記載されているようにして眼の切片を画像化し、ImageJ(FIJIバージョンおよびプラグイン)を使用して、TUNEL陽性細胞の定量化に使用した(Maidana et al., 2015)。
予想された通り、MNUの腹腔内注射は、PBSを注射した動物と比較して、この群の動物のTUNEL陽性細胞の数が多いことから明らかなように、ONLに広範なアポトーシスを誘導した(図3)。MNU注射の前にXIAPタンパク質のみを(硝子体内に)注射した眼は、MNUのみと比較して、TUNEL陽性細胞の数に有意な減少(2.2%、p=0.9902)を示さなかった(図3A)。言い換えれば、XIAP自体はONLにおけるアポトーシスを有意に減弱させなかった。対照的に、MNU注射の前に組換えXIAPタンパク質とNuc1を(硝子体内に)同時注射した動物は、TUNEL陽性細胞の数の有意な減少(65.7%、p<0.0001)を示した。これは、機能的なXIAPタンパク質が網膜に透過し、ONLのアポトーシスを阻害することをNuc1が可能とすることを実証している。特に、発明者らは以前の研究において組換えXIAPタンパク質を網膜に送達し、MNU誘導アポトーシスを阻害できることを示しているが、この現行の研究では、試薬の送達のためにXIAPを化学的にコンジュゲートする必要がなかった。したがって、この研究は、網膜細胞への機能的タンパク質送達の開発における重要な進歩を明らかにしている(Talreja et al., 2018)。
Nuc1と同時注射すると機能的なXIAPが網膜に送達されうることを実証したので、発明者らは、網膜アポトーシスの別のモデルに発明者らの発見を適用できるかどうかをテストしたいと考えた。裂孔原性、牽引性、および滲出性の網膜剥離は、失明のリスクと関連している。網膜剥離は、網膜の外側と内側の網膜細胞のアポトーシスを引き起こす(Arroyo et al., 2005)。発明者らは、Nuc1と組換えXIAPの組合せが、網膜剥離のマウスモデルにおいて網膜細胞のアポトーシスを阻害しうるという仮説を検証したいと考えた。発明者らは、この仮説をテストするために5μlのガラス製シリンジ(Hamilton)に接続した32Gの針を使用して、網膜下腔に3μl(10mg/ml)のヒアロウロン酸ナトリウム(Healon、Advanced Medical Optics、スウェーデン)を注射することにより、マウスの網膜に剥離を生じさせた。網膜剥離の翌日、動物に1.4μgのXIAPと0.4μgのNuc1を硝子体内に同時注射した。72時間後、眼を4%パラホルムアルデヒドで固定し、Micron 550クリオスタットを使用して凍結切片を採取し、上記のようにTUNELで染色した。Nuc1とXIAPの組合せを網膜に注射した場合、Healonのみの対照と比較して、TUNEL陽性細胞の数がおよそ60%(p=0.0061)減少することを発明者らは見出した(図3B)。
Nuc1は網膜への抗体の送達を促進する
上記の発明者らの結果は、組換えタンパク質が網膜疾患の潜在的な治療に容易に利用できることを示唆しているが、滲出型の加齢性黄斑変性症(AMD)の治療のための現在の臨床標準治療は、抗VEGF抗体(例えば、ラニビズマブまたはアバスチン)の毎月の硝子体内注射を含んでいる(Comparison of Age-related Macular Degeneration Treatments Trials Research et al., 2012)。Nuc1が網膜の細胞または組織への抗体の送達を改善できるかどうかを決定するために、発明者らは滲出型AMDのマウスモデルにおける抗VEGF抗体の治療有効性を調べた。330mWの出力と100msの持続時間で視神経乳頭の周りに4つのレーザースポットを適用することによって、レーザー誘発脈絡膜血管新生(CNV)を発生させた。続いて、0.3ngの抗VEGF抗体のみ、または0.3μgの抗VEGF抗体と1μgのNuc1を組み合わせてマウスに硝子体内注射した。これらの試験で利用した抗VEGF抗体の量は、パイロット試験によって決定した(すなわち、3μgから0.3μgの抗VEGFの滴定、データは示さず)。用量は、抗VEGF抗体単独ではレーザー誘発CNVを有意に阻害できないように計算した。レーザー処置の7日後に眼を採取し、FITCにコンジュゲートしたグリフォニアシンプリシフォリアレクチンIで染色したRPE/脈絡膜のフラットマウントを調製した。レーザースポットは蛍光顕微鏡で画像化し、レーザースポットの面積はlmageJソフトウェアを使用して定量化した。発明者らは、抗VEGF抗体単独と比較して、抗VEGF抗体をNuc1と同時注射した場合、CNVスポットのサイズが有意に減少すること(>60%;p<0.0001)を見出した(図4A)。したがって、Nuc1の硝子体内投与は、レーザー誘発CNVに対する抗VEGF抗体の透過と有効性を大幅に向上させる。Nuc1のこの特性は、より多く、またはより少ない量が治療効果を達成するために必要とされるように、抗体の所与の用量の効力を変更して、抗体の有効性を増強または低減するために有用となりうる。
上記の発明者らの結果は、組換えタンパク質が網膜疾患の潜在的な治療に容易に利用できることを示唆しているが、滲出型の加齢性黄斑変性症(AMD)の治療のための現在の臨床標準治療は、抗VEGF抗体(例えば、ラニビズマブまたはアバスチン)の毎月の硝子体内注射を含んでいる(Comparison of Age-related Macular Degeneration Treatments Trials Research et al., 2012)。Nuc1が網膜の細胞または組織への抗体の送達を改善できるかどうかを決定するために、発明者らは滲出型AMDのマウスモデルにおける抗VEGF抗体の治療有効性を調べた。330mWの出力と100msの持続時間で視神経乳頭の周りに4つのレーザースポットを適用することによって、レーザー誘発脈絡膜血管新生(CNV)を発生させた。続いて、0.3ngの抗VEGF抗体のみ、または0.3μgの抗VEGF抗体と1μgのNuc1を組み合わせてマウスに硝子体内注射した。これらの試験で利用した抗VEGF抗体の量は、パイロット試験によって決定した(すなわち、3μgから0.3μgの抗VEGFの滴定、データは示さず)。用量は、抗VEGF抗体単独ではレーザー誘発CNVを有意に阻害できないように計算した。レーザー処置の7日後に眼を採取し、FITCにコンジュゲートしたグリフォニアシンプリシフォリアレクチンIで染色したRPE/脈絡膜のフラットマウントを調製した。レーザースポットは蛍光顕微鏡で画像化し、レーザースポットの面積はlmageJソフトウェアを使用して定量化した。発明者らは、抗VEGF抗体単独と比較して、抗VEGF抗体をNuc1と同時注射した場合、CNVスポットのサイズが有意に減少すること(>60%;p<0.0001)を見出した(図4A)。したがって、Nuc1の硝子体内投与は、レーザー誘発CNVに対する抗VEGF抗体の透過と有効性を大幅に向上させる。Nuc1のこの特性は、より多く、またはより少ない量が治療効果を達成するために必要とされるように、抗体の所与の用量の効力を変更して、抗体の有効性を増強または低減するために有用となりうる。
抗体の硝子体内注射は、滲出型AMDの現在の臨床標準治療であるが、患者にとっては侵襲的で「不快な」処置であり、網膜剥離および眼内炎と関連している。さらに、それは一般的に高齢者である患者の眼科医への頻繁な訪問を必要とし、患者のコンプライアンスの低下を導く。したがって、薬物の局所的投与が、好ましい薬物送達へのアプローチとなるであろう。発明者らは、Nuc1が局所的に適用された抗VEGF抗体の効力を増強できるかどうかを調べた。眼に局所的に適用した場合の抗体の透過が著しく制限されることを説明するために、発明者らは、硝子体内注射と比較して、より高用量の抗体を利用した。具体的には、1.8μgの抗VEGF抗体単独または1.8μgの抗VEGF抗体と4μgのNuc1を組み合わせて投与した。レーザー誘発CNVに続いて、抗体とNuc1を含む局所点眼剤を1日2回、10日間にわたって角膜に適用した。Nuc1の局所的送達は、局所的に適用された抗VEGF抗体の有効性を有意に高め、抗体単独と比較して、レーザー誘発CNVのサイズを約60%(p<0.02)縮小させた(図4B)。したがってNuc1は、滲出型AMDのレーザー誘発モデルにおいて局所的に適用された抗体の効力を有意に増強する。
Nuc1は角膜へのデコリンタンパク質の送達を促進し、線維症を抑制する
眼の組織へのタンパク質送達のプラットフォームとしてのNuc1の潜在性をさらに評価するために、発明者らは眼疾患の別のモデルを調査した。角膜のアルカリによる熱傷は、線維症、血管新生、および炎症を引き起こし、治療せずに放置した場合には、視力の著しい喪失が生じる。デコリンは、抗血管新生および抗線維化特性を有することが知られているプロテオグリカンである(Gubbiotti et al., 2016; Jarvelainen et al., 2015)。
眼の組織へのタンパク質送達のプラットフォームとしてのNuc1の潜在性をさらに評価するために、発明者らは眼疾患の別のモデルを調査した。角膜のアルカリによる熱傷は、線維症、血管新生、および炎症を引き起こし、治療せずに放置した場合には、視力の著しい喪失が生じる。デコリンは、抗血管新生および抗線維化特性を有することが知られているプロテオグリカンである(Gubbiotti et al., 2016; Jarvelainen et al., 2015)。
線維症の治療のために角膜へのデコリンの透過を助けるNuc1の能力をテストするために、マウスを麻酔し、右眼の中心角膜に1Nの水酸化ナトリウム(NaOH)を染み込ませた2mm濾紙ディスクを30秒間適用することにより、角膜にアルカリによる熱傷を誘発した。濾紙を穏やかに取り除き、角膜をリン酸緩衝生理食塩水(PBS)で10回すすいだ。NaOHへの曝露の24時間後にPBS、デコリン(0.5μg)、またはデコリン(0.5μg)+Nuc1(0.5μg)の局所的適用を開始した。処置は7日間、1日1回局所的に適用した。7日後、CO2吸入によりマウスを屠殺した。眼を摘出し、4%パラホルムアルデヒドで固定した。Micron 550クリオスタットを使用して角膜凍結切片を採取し、線維症のマーカーであるα-アクチンについて染色した。発明者らは、デコリン単独の局所的適用が、PBSと比較してα-アクチン染色を33.3%(p<0.025)減少させる一方、デコリン+Nuc1の適用は、PBSと比較して46.2%(p<0.0028)のα-アクチン染色の減少をもたらすことを見出し、Nuc1がデコリンの抗線維化効力を増強することが実証された(図5A)。これらの有望な結果をふまえ、角膜への化学熱傷後の血管新生、線維症および炎症を治療する目的で、角膜へのデコリンの送達のためのNuc1の使用に関する、より詳細な試験を引き続き行った(実施例2を参照)。
さらに発明者らは、前のセクションで説明した滲出型AMDのマウスモデルであるレーザー誘発脈絡膜血管新生(CNV)を使用して、Nuc1がマウスのデコリンの効力を高めることができるかどうかを調べた。レーザー処置の直後に、マウスに0.5μgのヒト組換えデコリンを単独で、またはNuc1ペプチド(0.5μg)と組み合わせて硝子体内注射し、7日後に眼を採取した。網膜色素上皮(RPE)をグリフォニアシンプリシフォリアイソレクチンで染色することによりCNV増殖のサイズを測定し、α-アクチンを染色することにより線維症を測定した(α-SMA、図5B)。発明者らは、対応のないT検定を使用して、デコリンおよびデコリン+Nuc1処置群で、CNV領域(イソレクチン、p<0.0072)および線維症(α-SMA、p<0.0001)の統計的に有意な減少を発見した(図5C)。特に、デコリン単独と比較して、Nuc1の存在下ではCNVと線維症がおよそ70%減少し、これは、Nuc1がレーザー誘発CNVと線維症の影響を改善する際にデコリンの透過と効力を高めることを強く示唆している。
Nuc1は網膜へのペプチドと低分子の送達を促進する
タンパク質全体よりも大幅に小さな分子は、治療剤として働く可能性がある。例えば、Bcl-xLのBH4ドメインペプチドは、in vivoで抗アポトーシス活性を持つことが知られている(Rong et al., 2009)。しかしながら、BH4は細胞に透過する重要な特性を有しているようには見えない。したがって、いくつかのグループが、細胞透過性ペプチドTATとの化学的結合によって、BH4を細胞に送達した(Donnini et al., 2009; Hotchkiss et al., 2006; Park, 2011)。Nuc1が化学結合を必要とせずに網膜におけるBH4の取込みを促進できるかどうかを調べるために、発明者らは6週齢のC57BU6Jマウスに4μgの蛍光標識BH4ペプチドのみ、または4μgの標識BH4ペプチドを4μgのNuc1と組み合わせて、硝子体内に注射した。BH4ペプチド自体は網膜への取込みが制限されていたが、BH4をNuc1と組み合わせると、蛍光標識されたBH4ペプチドの取込みに有意な定性的増加が見られた(図6A)。
タンパク質全体よりも大幅に小さな分子は、治療剤として働く可能性がある。例えば、Bcl-xLのBH4ドメインペプチドは、in vivoで抗アポトーシス活性を持つことが知られている(Rong et al., 2009)。しかしながら、BH4は細胞に透過する重要な特性を有しているようには見えない。したがって、いくつかのグループが、細胞透過性ペプチドTATとの化学的結合によって、BH4を細胞に送達した(Donnini et al., 2009; Hotchkiss et al., 2006; Park, 2011)。Nuc1が化学結合を必要とせずに網膜におけるBH4の取込みを促進できるかどうかを調べるために、発明者らは6週齢のC57BU6Jマウスに4μgの蛍光標識BH4ペプチドのみ、または4μgの標識BH4ペプチドを4μgのNuc1と組み合わせて、硝子体内に注射した。BH4ペプチド自体は網膜への取込みが制限されていたが、BH4をNuc1と組み合わせると、蛍光標識されたBH4ペプチドの取込みに有意な定性的増加が見られた(図6A)。
ステロイドを含む低分子は、抗炎症剤として働くことができる。しかしながら、デキサメタゾンなどのステロイドは、硝子体に注射すると、白内障の形成や眼圧上昇の誘発を含む、重大な副作用を生じる(Phulke et al., 2017; Pleyer et al., 2013; Zhang et al., 2018)。発明者らは、Nuc1がステロイドの組織への透過を促進し、有効性を失うことなくステロイドを低用量で適用できるようにしうると仮定した。この仮説をテストするために、発明者らは1μgの蛍光標識デキサメタゾンを単独で、または1μgの蛍光標識デキサメタゾンを1μgNuc1と組み合わせて注射した。発明者らは、デキサメタゾン単独とNuc1を含むデキサメタゾンの両方が、網膜に取り込まれることを見出した。しかしながら、デキサメタゾンの取込みは、Nuc1と同時注射した場合のほうが定性的に大きかった(図6B)。
Nuc1はin vivoにおいて網膜細胞のウイルス感染を促進する
アデノ随伴ウイルス(AAV)などの組換えウイルスは、組換え遺伝子を網膜に送達するための優れたビヒクルである(Bennett, 2017)。しかしながら、「治療的」なレベルで細胞の形質導入を達成するには、一般に高力価のウイルスが必要とされる。網膜下および硝子体内の区画の免疫隔離的性質にもかかわらず、これらの領域における組換えAAVに対する免疫応答がこれまでに多く記述されている(Boyd et al., 2016; Kotterman et al., 2015; Reichel et al., 2017)。ウイルスの投与量が少ないほど、一般的に免疫応答が低下する。発明者らは、Nuc1がAAV感染の効力を高め、その結果、高用量(より高い用量)のウイルスの必要性を減らすことができるかどうかを判断するために、GFP(AAV-CAG-GFP)を発現する組換えAAV血清型2(AAV9カプシドシュードタイプ;AAV2/9)を成体C57/Bl6Jマウスの眼に注射した。予想された通り、AAV-CAG-GFPの網膜下送達は、網膜色素上皮(RPE)および光受容体における導入遺伝子(GFP)の発現を可能とした(図7A)。驚いたことに、AAV2/9を1μgのNuc1と同時注射した場合、導入遺伝子の発現はAAV2/9を単独で注射した場合よりも定性的に優れていた(図7A)。
アデノ随伴ウイルス(AAV)などの組換えウイルスは、組換え遺伝子を網膜に送達するための優れたビヒクルである(Bennett, 2017)。しかしながら、「治療的」なレベルで細胞の形質導入を達成するには、一般に高力価のウイルスが必要とされる。網膜下および硝子体内の区画の免疫隔離的性質にもかかわらず、これらの領域における組換えAAVに対する免疫応答がこれまでに多く記述されている(Boyd et al., 2016; Kotterman et al., 2015; Reichel et al., 2017)。ウイルスの投与量が少ないほど、一般的に免疫応答が低下する。発明者らは、Nuc1がAAV感染の効力を高め、その結果、高用量(より高い用量)のウイルスの必要性を減らすことができるかどうかを判断するために、GFP(AAV-CAG-GFP)を発現する組換えAAV血清型2(AAV9カプシドシュードタイプ;AAV2/9)を成体C57/Bl6Jマウスの眼に注射した。予想された通り、AAV-CAG-GFPの網膜下送達は、網膜色素上皮(RPE)および光受容体における導入遺伝子(GFP)の発現を可能とした(図7A)。驚いたことに、AAV2/9を1μgのNuc1と同時注射した場合、導入遺伝子の発現はAAV2/9を単独で注射した場合よりも定性的に優れていた(図7A)。
対照的に、AAV2/9を硝子体内に注射した場合、網膜の内側または外側に感染は生じなかった(図7B)。しかしながら発明者らは、AAV-CAG-GFP懸濁液に1μgのNuc1を添加すると、ONLを含む網膜の内側と外側への感染力が増強されることを見出した(図7B)。感染におけるこの改善は、生存動物の眼底撮影法(図7C)で観察できるように、網膜の全域で変動し、まだらに生じていた。ウイルス感染の定量化は、RT-PCRによって行った(以下を参照)。
AAVカプシドへのNuc1の組込みは感染を有意に増強しない
Nuc1配列をAAVカプシドの外被に組み込み、外部ペプチドの必要性を排除した場合にAAV2/9がより効果的となるかどうかを決定するために、発明者らはAAV9のVP1カプシド中にNuc1配列(両端にグリシンを隣接させたもの)を含むGFP発現組換えAAV2/9を生成した。Nuc1配列を(Khabou et al., 2016)の定義によるアミノ酸588と589の間に挿入し、AAV-Nuc1-CAG-GFPを生成した。この改変は、AAV-CAG-GFPと比較して、網膜下経路によるウイルスの感染力の有意な増強を導かなかった(図8A)。さらに、AAV-Nuc1-CAG-GFPは、硝子体内注射後に網膜の内側または外側に感染しなかった(図8B)。しかしながら、硝子体内経路を介してNuc1ペプチドと同時注射すると、AAV-Nuc1-CAG-GFPの感染を増強できたが(図8C)、調査した網膜のいくつかでは、網膜の外側におけるGFPの発現が非常に限られており、この結果は非常にむらのあるものであった(図8C、GFP挿入図)。この結果の考えられる説明の1つは、Nuc1ペプチドとウイルスカプシド中のNuc1配列との間の競合である。実際、Nuc1の量が多いと、全体的なAAV-Nuc1-CAG-GFPの感染力の低下が導かれた(データは示さず)。
Nuc1配列をAAVカプシドの外被に組み込み、外部ペプチドの必要性を排除した場合にAAV2/9がより効果的となるかどうかを決定するために、発明者らはAAV9のVP1カプシド中にNuc1配列(両端にグリシンを隣接させたもの)を含むGFP発現組換えAAV2/9を生成した。Nuc1配列を(Khabou et al., 2016)の定義によるアミノ酸588と589の間に挿入し、AAV-Nuc1-CAG-GFPを生成した。この改変は、AAV-CAG-GFPと比較して、網膜下経路によるウイルスの感染力の有意な増強を導かなかった(図8A)。さらに、AAV-Nuc1-CAG-GFPは、硝子体内注射後に網膜の内側または外側に感染しなかった(図8B)。しかしながら、硝子体内経路を介してNuc1ペプチドと同時注射すると、AAV-Nuc1-CAG-GFPの感染を増強できたが(図8C)、調査した網膜のいくつかでは、網膜の外側におけるGFPの発現が非常に限られており、この結果は非常にむらのあるものであった(図8C、GFP挿入図)。この結果の考えられる説明の1つは、Nuc1ペプチドとウイルスカプシド中のNuc1配列との間の競合である。実際、Nuc1の量が多いと、全体的なAAV-Nuc1-CAG-GFPの感染力の低下が導かれた(データは示さず)。
網膜透過性AAV
Nuc1中のVEGFA165のヘパラン硫酸結合領域がウイルスの感染性に干渉するかどうかを決定するために、発明者らはヘパラン硫酸結合配列を削除したバージョンのAAV-Nuc1-CAG-GFPを生成し、ラミニン-1由来の部分配列ASIKVAVSA(配列番号4)をウイルスが含むようにした。この短い配列の両端にグリシン残基を隣接させて、配列GASIKVAVSAG(配列番号6)を形成し、上記のように、AAVカプシドのアミノ酸588と589の間に同様にクローニングして、AAV-IKV-GFPと呼ばれるウイルスを形成した。6週齢のC57BL/6JマウスにAAV-IKV-GFPを網膜下注射すると、網膜細胞の感染が有意に改善することを発明者らは見出した(図9A~9D)。桿体オプシン(図9A)、錐体オプシン(図9B)、グルタミン合成酵素(図9C)、PKC(図9D)によるAAV-IKV-GFP感染網膜切片の対比染色は、AAV-IKV-GFPが桿体細胞、錐体細胞、ミュラー細胞、双極細胞にそれぞれ感染することを明らかにした。
Nuc1中のVEGFA165のヘパラン硫酸結合領域がウイルスの感染性に干渉するかどうかを決定するために、発明者らはヘパラン硫酸結合配列を削除したバージョンのAAV-Nuc1-CAG-GFPを生成し、ラミニン-1由来の部分配列ASIKVAVSA(配列番号4)をウイルスが含むようにした。この短い配列の両端にグリシン残基を隣接させて、配列GASIKVAVSAG(配列番号6)を形成し、上記のように、AAVカプシドのアミノ酸588と589の間に同様にクローニングして、AAV-IKV-GFPと呼ばれるウイルスを形成した。6週齢のC57BL/6JマウスにAAV-IKV-GFPを網膜下注射すると、網膜細胞の感染が有意に改善することを発明者らは見出した(図9A~9D)。桿体オプシン(図9A)、錐体オプシン(図9B)、グルタミン合成酵素(図9C)、PKC(図9D)によるAAV-IKV-GFP感染網膜切片の対比染色は、AAV-IKV-GFPが桿体細胞、錐体細胞、ミュラー細胞、双極細胞にそれぞれ感染することを明らかにした。
驚いたことに、AAV-IKV-GFPを6週齢のC57BL/6Jマウスに硝子体内注射した場合、錐体オプシン(図10A)、桿体オプシン(図10B)、PKC(図10C)またはチューブリン(図10D)で対比染色した切片は、AAV-IKV-GFPが錐体光受容体、桿体光受容体、双極細胞、および神経節細胞にそれぞれ感染することを明らかにした。いくつかの網膜では、グルタミン合成酵素との共染色に基づき、一部の領域においてミュラー細胞も陽性であることが観察された(図10E)。
発明者らは次に、Nuc1との同時投与により、AAV-IKV-GFPの硝子体内注射をさらに強化できるかどうかを検討した。上記の発明者らの研究は、ウイルスカプシドに組み込まれた完全なNuc1配列が、Nuc1ペプチドと同時投与された場合には、おそらく細胞侵入の競合のために阻害されることを示唆していた。不完全なNuc1配列をカプシドに組み込んだ場合には、硝子体内注射されたAAV-IKV-GFPが、これまでに観察された最も強力な網膜への感染を示し、網膜全体で強力な発現が生じることを発明者らは見出した(図11A)。図11Aの四角で囲まれた領域を詳しく調べると、高密度の光受容体、RPE、そして驚くべきことに脈絡膜がGFP陽性であることが明らかになった(図11B)。生存動物の眼底撮影法は網膜のかなりの領域にわたるGFPを明らかにしており、GFP発現のこのパターンは特定の領域に限定されたものではなかった(図11C)。さらに、図11Bの四角で囲まれた領域のより長い露出は、ONLやRPEよりは大幅に少ないものの、内網状層(IPL)と神経節細胞層(GCL)もGFP陽性であることを明らかにした(図11D)。双極細胞のPKCによる対比染色は、ONLおよびRPEに加えて、GFP陽性の豊富な数の双極細胞を明らかにした(図11E)。
硝子体内に注射したさまざまなウイルス構築物から発現されるmRNAのレベルを測定するために、発明者らは網膜組織において定量RT-PCRを行った。発明者らは、Nuc1が試験した各ウイルスからのmRNA発現レベルを有意に増強することを見出した。AAV-CAG-GFP単独から発現されたレベルと比較して、Nuc1の同時注射はmRNAレベルをおよそ4.3倍増強した。Nuc1はまた、AAV-IKV-GFPの発現もおよそ8.5倍増強した。(図11F)。AAV-GFPと比較して、AAV-IKV-GFP+Nuc1はおよそ300倍高いmRNAレベルを有していた。したがって、Nuc1は組換えAAVの感染を増強し、AAVカプシドに部分的なNuc1配列を組み込むことと組み合わせた場合に、発明者らは硝子体内経路を介した感染の最大の相対的増加を観察した。
硝子体内AAV送達を介した網膜の外側における酸化ストレスの阻害
NRF2(核因子赤血球2 p45関連因子2)は、傷害および炎症によって引き起こされる酸化的損傷から保護する抗酸化タンパク質の発現を調節するマスター転写因子である。250以上の遺伝子がNRF2の標的とされる。ホメオスタシス状態においてNRF2は、ユビキチン化によってNRF2を分解するケルク様ECH関連タンパク質1(KEAP1)およびカリン3によって細胞質に隔離されている。酸化ストレスはユビキチン化を妨害し、NRF2はその後、核に移行して、多くの抗酸化遺伝子の上流プロモーター領域にある抗酸化応答エレメント(ARE)に結合し、それらの転写を開始させる。NRF2の発現は、AMD、網膜色素変性症、緑内障、ブドウ膜炎、および糖尿病性網膜症を含む網膜変性のさまざまな動物モデルにおいて、ならびにアルツハイマー病、筋萎縮性側索硬化症、およびフリードライヒ運動失調症を含む多くの老化疾患において、治療に役立つことが以前に見出されている。
NRF2(核因子赤血球2 p45関連因子2)は、傷害および炎症によって引き起こされる酸化的損傷から保護する抗酸化タンパク質の発現を調節するマスター転写因子である。250以上の遺伝子がNRF2の標的とされる。ホメオスタシス状態においてNRF2は、ユビキチン化によってNRF2を分解するケルク様ECH関連タンパク質1(KEAP1)およびカリン3によって細胞質に隔離されている。酸化ストレスはユビキチン化を妨害し、NRF2はその後、核に移行して、多くの抗酸化遺伝子の上流プロモーター領域にある抗酸化応答エレメント(ARE)に結合し、それらの転写を開始させる。NRF2の発現は、AMD、網膜色素変性症、緑内障、ブドウ膜炎、および糖尿病性網膜症を含む網膜変性のさまざまな動物モデルにおいて、ならびにアルツハイマー病、筋萎縮性側索硬化症、およびフリードライヒ運動失調症を含む多くの老化疾患において、治療に役立つことが以前に見出されている。
MNUの腹腔内注射は、網膜において重大な酸化ストレスを引き起こす。核およびミトコンドリアのDNAでは、8-ヒドロキシ-2-デオキシグアノシン(8-OHdG)がフリーラジカル誘発性酸化病変の主要な形態の1つであるため、このマーカーは酸化ストレスのバイオマーカーとして広く使用されている。発明者らは、Nuc1と組み合わせたAAV-IKVバックボーンが、硝子体内経路を介してマウスの網膜の外側にヒトNrf2導入遺伝子を送達し、MNUによって誘発される酸化ストレスを阻害できるかどうかを決定したいと考えた。この仮説をテストするために、成体C57Bl/6JマウスにAAV-IKV-Nrf2(プラスNuc1)、または陰性対照としてAAV-IKV-GFP(プラスNuc1)を硝子体内注射した。導入遺伝子発現の3週間後、マウスに50mg/kgのMNUを注射した。眼を24時間後に採取し、上記のようにして処理し、8-OHdG、GFP、またはNrf2の存在について染色した。発明者らは、AAV-IKV-Nrf2を注射したC57/Bl6Jの眼がAAV-IKV-GFPの眼と比較して、有意に少ない8-OHdG染色を示すことを見出した(図12A)。同様に、AAVIKV-Nrf2を注射したNRF2ノックアウト(NRF2-/-)マウスも、AAV-IKV-GFPの眼と比較して有意に少ない8-OHdG染色を示した(図12B)。これらの網膜の定量化は、ONLにおいて8-OHdG染色に有意な減少が見られることを確認した(図12C)。
硝子体内AAV送達を介した脈絡膜血管新生および網膜の外側における線維症の抑制
上記のように、デコリンプロテオグリカンは、細胞外基質におけるVEGFおよびTGF-βの同時阻害という既知の特性のために、レーザー誘発CNVを阻害できることを発明者らは見出した。発明者らは、網膜の外側におけるデコリンの発現が、対照のGFPまたはAMDの治療に使用される組換え抗VEGF分子であるアイリーア(アフリベルセプト)の発現と比較して、非常に効果的であるという仮説を検証したいと考えた。GFP、アイリーア、またはデコリンのいずれかを発現する組換えIKV-AAVベクターを、成体C57Bl/6Jマウスの硝子体内にNuc1と同時注射した。3週間後、マウスをレーザー誘発CNVに曝露させ、1週間後にデコリンと抗VEGF抗体について上記の試験と同様に調査した。イソレクチンとα-平滑筋アクチン(SMA)によるCNVの定量化は、CNVと線維症の両方の抑制において、AAV-IKV-デコリンがAAV-IKV-アイリーアよりも有意に優れていることを明らかにした(図13)。
上記のように、デコリンプロテオグリカンは、細胞外基質におけるVEGFおよびTGF-βの同時阻害という既知の特性のために、レーザー誘発CNVを阻害できることを発明者らは見出した。発明者らは、網膜の外側におけるデコリンの発現が、対照のGFPまたはAMDの治療に使用される組換え抗VEGF分子であるアイリーア(アフリベルセプト)の発現と比較して、非常に効果的であるという仮説を検証したいと考えた。GFP、アイリーア、またはデコリンのいずれかを発現する組換えIKV-AAVベクターを、成体C57Bl/6Jマウスの硝子体内にNuc1と同時注射した。3週間後、マウスをレーザー誘発CNVに曝露させ、1週間後にデコリンと抗VEGF抗体について上記の試験と同様に調査した。イソレクチンとα-平滑筋アクチン(SMA)によるCNVの定量化は、CNVと線維症の両方の抑制において、AAV-IKV-デコリンがAAV-IKV-アイリーアよりも有意に優れていることを明らかにした(図13)。
考察
本研究において発明者らは、Nuc1と呼ばれる新規ペプチドについて記載した。このペプチドは、ラミニン-1のヌクレオリン結合特性とVEGF165Aのヘパラン硫酸結合特性に基づいて設計された。発明者らの知る限り、Nuc1は網膜への透過についてこれまでに記載された最も効率的なペプチドである。重要なことに、以前に網膜において使用された細胞透過性ペプチド(Johnson et al., 2008)またはアプタマー(Leaderer et al., 2015, 2016; Talreja et al., 2018)の大部分とは異なり、Nuc1は輸送のためにペプチドの化学的なコンジュゲーションを必要としない。物理的な結合を必要とせずに網膜細胞および組織にタンパク質を送達する能力は、治療目的でのCPPの有用性を実質的に拡大する。タンパク質とペプチドの間の物理的または化学的な結合は多く記載されているが、そのような結合はタンパク質の機能に悪影響を与えうる。(Zhang et al., 2018)。本発明の送達系は、理論的には、機能的に活性であることが知られている任意のタンパク質を採用して、複雑な化学反応を必要とせずにそれを原形質膜横断的に細胞内に送達することを可能にする。
本研究において発明者らは、Nuc1と呼ばれる新規ペプチドについて記載した。このペプチドは、ラミニン-1のヌクレオリン結合特性とVEGF165Aのヘパラン硫酸結合特性に基づいて設計された。発明者らの知る限り、Nuc1は網膜への透過についてこれまでに記載された最も効率的なペプチドである。重要なことに、以前に網膜において使用された細胞透過性ペプチド(Johnson et al., 2008)またはアプタマー(Leaderer et al., 2015, 2016; Talreja et al., 2018)の大部分とは異なり、Nuc1は輸送のためにペプチドの化学的なコンジュゲーションを必要としない。物理的な結合を必要とせずに網膜細胞および組織にタンパク質を送達する能力は、治療目的でのCPPの有用性を実質的に拡大する。タンパク質とペプチドの間の物理的または化学的な結合は多く記載されているが、そのような結合はタンパク質の機能に悪影響を与えうる。(Zhang et al., 2018)。本発明の送達系は、理論的には、機能的に活性であることが知られている任意のタンパク質を採用して、複雑な化学反応を必要とせずにそれを原形質膜横断的に細胞内に送達することを可能にする。
発明者らはNuc1が網膜送達を促進した後、異種タンパク質が機能を保持することを実証した。例えば組換えXIAPは、MNU誘発性および網膜剥離誘発性の網膜アポトーシスを抑制した。さらにNuc1は、化学的熱傷の後に角膜に適用した場合、デコリンなどの抗線維化タンパク質の効力を増強した。Nuc1が網膜を考慮して特別に設計されたことを考えると、この観察は予想外であった。したがって、Nuc1は網膜と角膜以外の組織で機能する可能性があるが、これについてはまだ明らかになっていない。
硝子体内注射による抗体の送達は、現在の臨床の標準治療である(Comparison of Age-related Macular Degeneration Treatments Trials Research et al., 2012)。Nuc1と同時送達した場合には、低用量(より低い用量)における抗体の効力が増強されうることを発明者らは実証した。これは「製品原価」だけでなく、薬物のオフターゲット活性による潜在的な毒性を低減することにも含みを有する。例えば、硝子体からの抗VEGF抗体の全身への漏出は、患者にとって有害である(Christoforidis et al., 2017; Hwang et al., 2012; Michalska-Malecka et al., 2016)。硝子体での有効性を達成するために必要な抗体の用量の削減は、そのような全身性の副作用を減少させる可能性がある。ステロイドは、副作用によって治療的使用が妨げられてきた別の薬物の典型である。デキサメタゾンを硝子体内に注射すると、白内障が形成され、眼圧が上昇する(Zhang et al., 2018)。Nuc1と組み合わせた場合、効果的となるために必要な用量の削減により、これらの副作用が軽減される可能性もあるが、これについてはまだ明らかになっていない。
硝子体内注射による抗体の送達は、現在の臨床の標準治療である(Comparison of Age-related Macular Degeneration Treatments Trials Research et al., 2012)。Nuc1と同時送達した場合には、低用量(より低い用量)における抗体の効力が増強されうることを発明者らは実証した。これは「製品原価」だけでなく、薬物のオフターゲット活性による潜在的な毒性を低減することにも含みを有する。例えば、硝子体からの抗VEGF抗体の全身への漏出は、患者にとって有害である(Christoforidis et al., 2017; Hwang et al., 2012; Michalska-Malecka et al., 2016)。硝子体での有効性を達成するために必要な抗体の用量の削減は、そのような全身性の副作用を減少させる可能性がある。ステロイドは、副作用によって治療的使用が妨げられてきた別の薬物の典型である。デキサメタゾンを硝子体内に注射すると、白内障が形成され、眼圧が上昇する(Zhang et al., 2018)。Nuc1と組み合わせた場合、効果的となるために必要な用量の削減により、これらの副作用が軽減される可能性もあるが、これについてはまだ明らかになっていない。
Nuc1は網膜細胞、特に光受容体への組換えAAVの取込みを促進することもできた。AAVおよびその他のウイルスは、高用量で注射すると免疫応答を生じる(Boyd et al., 2016; Reichel et al., 2017)。感染を増強する能力は、遺伝子治療用途のための治療効果を達成するために必要なウイルスの総投与量を減らす。さらに、Nuc1配列またはその誘導体のより短い配列をAAVカプシドに組み込む能力は、「薬物」として使用するための組換えAAVの生成を単純化する。おそらく感染に必要な細胞表面受容体の競合のために、Nuc1配列を含むAAVとNuc1ペプチドを同時注射した場合、発明者らはAAV感染における有意な増加を見出さなかった。発明者らの研究では、AAVカプシドにラミニン-1を含む配列を有するAAVと組み合わせたNuc1ペプチドが、最大の感染を導いた。硝子体内経路を介してAAVの感染を増強する以前の試みは、一般に複雑な選択手順によるバイオパニングを必要としていた(Dalkara et al., 2013)。発明者らのより「デザイン指向」のアプローチは非常に単純であり、少なくとも同等に効果的であることが証明されている。これらのベクターの安全性はまだ決定されていないが、網膜下または硝子体内経路を介して感染を増強する能力は、眼の遺伝子治療の分野を大幅に進歩させる。網膜ニューロンの性質に基づき、発明者らは、本稿で記載されている方法が脳などの他の神経細胞組織に拡張される可能性があると予想しているが、それについてはまだ明らかになっていない。
(実施例2 - 細胞透過性ペプチドNuc1を使用したデコリンの局所的送達はマウスのアルカリによる熱傷誘発性角膜傷害の回復を促進する)
角膜傷害は、全視力喪失の全症例のうちおよそ4%を占めている。眼の損傷のおよそ80%は本質的に化学的な性質のものであり、そのうちアルカリおよび酸性物質は眼の外傷のおよそ11~22%、すべての職業上の傷害の4%を引き起こしている[1~3]。角膜上皮は、外部環境と眼の内部との間のバリアとして働く[4]。角膜の表面が損傷すると、傷害を癒すと共に、さらなる損傷から眼を保護するために、線維症、血管新生、および炎症を含むいくつかの応答が活性化される。しかしながら、過剰な場合、これらの応答自体がさらなる損傷をもたらす可能性がある[5]。前眼部における急性炎症および血管新生は、上皮組織の異常な治癒と角膜瘢痕をもたらしうる。アルカリ剤は親油性であるために眼の組織に急速に透過し、壊死と虚血を引き起こす[6]。アルカリによる熱傷による角膜傷害を有する患者は、緑内障および不可逆的な視力喪失のリスクが高い。
角膜傷害は、全視力喪失の全症例のうちおよそ4%を占めている。眼の損傷のおよそ80%は本質的に化学的な性質のものであり、そのうちアルカリおよび酸性物質は眼の外傷のおよそ11~22%、すべての職業上の傷害の4%を引き起こしている[1~3]。角膜上皮は、外部環境と眼の内部との間のバリアとして働く[4]。角膜の表面が損傷すると、傷害を癒すと共に、さらなる損傷から眼を保護するために、線維症、血管新生、および炎症を含むいくつかの応答が活性化される。しかしながら、過剰な場合、これらの応答自体がさらなる損傷をもたらす可能性がある[5]。前眼部における急性炎症および血管新生は、上皮組織の異常な治癒と角膜瘢痕をもたらしうる。アルカリ剤は親油性であるために眼の組織に急速に透過し、壊死と虚血を引き起こす[6]。アルカリによる熱傷による角膜傷害を有する患者は、緑内障および不可逆的な視力喪失のリスクが高い。
アルカリによる熱傷は、角膜におけるマクロファージおよび白血球の浸潤、ならびにIL-1β、TNF-α、IL-6および血管内皮増殖因子A(VEGF-A)などの炎症促進性サイトカインの上方調節をもたらす。角膜における血管新生促進分子と血管新生阻害分子の不均衡は、血管新生の引き金を引く[7、8]。角膜実質細胞の細胞増殖とアポトーシスを通した上皮再生は、熱傷/傷害部位に隣接して起こる[9]。角膜の損傷に加えて、アルカリによる熱傷は網膜神経節細胞のアポトーシス、さらには視神経の損傷を引き起こしうることが報告されている。
まぶたは眼の防御の第一線であり、アレルゲン、異物、病原体から眼を保護している。眼のまばたき作用は、眼の表面を洗浄し、免疫グロブリンAおよびGと、リゾチーム、β-リシン、金属キレート剤などの抗菌タンパク質から成る涙液膜を再生させる[10、11]。しかしながら、眼の表面への分子の局所的送達に関連する課題の1つは、涙液膜による表面からの薬物の急速なクリアランスであり、これは薬物の95%以上の喪失をもたらす。眼房水の再循環のために、内側の区画にうまく透過する薬物の半減期は通常短い。発明者らの知る限り、アルカリによる熱傷の治療のために角膜にタンパク質を局所的に送達したという報告は無い。
まぶたは眼の防御の第一線であり、アレルゲン、異物、病原体から眼を保護している。眼のまばたき作用は、眼の表面を洗浄し、免疫グロブリンAおよびGと、リゾチーム、β-リシン、金属キレート剤などの抗菌タンパク質から成る涙液膜を再生させる[10、11]。しかしながら、眼の表面への分子の局所的送達に関連する課題の1つは、涙液膜による表面からの薬物の急速なクリアランスであり、これは薬物の95%以上の喪失をもたらす。眼房水の再循環のために、内側の区画にうまく透過する薬物の半減期は通常短い。発明者らの知る限り、アルカリによる熱傷の治療のために角膜にタンパク質を局所的に送達したという報告は無い。
デコリンは、ロイシンリッチな小さなプロテオグリカンであり、角膜におけるTGF-βなどのさまざまな増殖因子の調節を通じて、細胞増殖、生存、および分化の調節に重要な役割を果たす[12~16]。デコリンはまた、瘢痕形成と血管増殖を阻害することにより、角膜の透明性の維持にも重要な役割を果たす。デコリンの変異は、先天性角膜実質ジストロフィーと相関することが示されている[17]。
デコリンの過剰発現は、脳および脊髄傷害のin vivoモデルにおいて線維症を有意に減少させることが示されている。本研究において発明者らは、角膜のアルカリによる熱傷のマウスモデルにおける線維症、血管新生、アポトーシス、および炎症のレベルに対する、デコリン単独の局所的送達およびデコリンと細胞透過性ペプチドNuc1の局所的同時送達の効果を試験した。
デコリンの過剰発現は、脳および脊髄傷害のin vivoモデルにおいて線維症を有意に減少させることが示されている。本研究において発明者らは、角膜のアルカリによる熱傷のマウスモデルにおける線維症、血管新生、アポトーシス、および炎症のレベルに対する、デコリン単独の局所的送達およびデコリンと細胞透過性ペプチドNuc1の局所的同時送達の効果を試験した。
材料および方法:
ペプチド合成:Nuc1ペプチド、配列ASIKVAVSAGGDKPRR(配列番号3)は、Thermo Fisher Scientificによって>99%の純度で合成された。
ペプチド合成:Nuc1ペプチド、配列ASIKVAVSAGGDKPRR(配列番号3)は、Thermo Fisher Scientificによって>99%の純度で合成された。
動物:6~8週齢のC57BL/6マウスをJackson Laboratory(バーハーバー、メイン州)から購入し、12時間の明/暗サイクル下で飼育した。この試験は、視覚と眼科学研究協会会議(ARVO)によって設定された、視覚および眼科研究における動物の使用についての宣言に従って実施され、タフツ大学の動物実験委員会(IACUC)によって承認された。
傷害の動物モデル:マウスを0.1mg/g体重のケタミン(Phoenix(商標)、セントジョセフ、ミズーリ州)および0.01mg/g体重のキシラジン(Llloyed、シェナンドア、アイオワ州)を含む混合物の腹腔内注射によって麻酔した後、角膜の局所的鎮痛のために0.5%塩酸プロパラカイン(Akorn Inc.、レイクフォレスト、イリノイ州、米国)を局所的に適用した。麻酔中、マウスを保温した。右眼の中心角膜に1Nの水酸化ナトリウム(NaOH)を染み込ませた2mmの濾紙ディスクを30秒間適用することにより、角膜にアルカリによる熱傷を誘発させた。濾紙を角膜から穏やかに取り除き、角膜をリン酸緩衝食塩水(PBS)で10回すすぎ、残留NaOHを除去した。左眼はNaOHに曝露せずに残し、対照として使用した。NaOHへの曝露の24時間後に、PBS、組換えデコリン(0.5μg)、デコリン(0.5μg)+Nuc1(0.5μg)の局所的適用を開始した。処置は7日間、1日1回局所的に適用した。眼の画像は、デジタルカメラを使用して7日目に記録した。7日後、マウスをCO2吸入とその後の頸椎脱臼により屠殺した。眼を摘出し、4%パラホルムアルデヒドで固定した。Micron 550クライオスタットを用いて角膜凍結切片を取得した。
傷害の動物モデル:マウスを0.1mg/g体重のケタミン(Phoenix(商標)、セントジョセフ、ミズーリ州)および0.01mg/g体重のキシラジン(Llloyed、シェナンドア、アイオワ州)を含む混合物の腹腔内注射によって麻酔した後、角膜の局所的鎮痛のために0.5%塩酸プロパラカイン(Akorn Inc.、レイクフォレスト、イリノイ州、米国)を局所的に適用した。麻酔中、マウスを保温した。右眼の中心角膜に1Nの水酸化ナトリウム(NaOH)を染み込ませた2mmの濾紙ディスクを30秒間適用することにより、角膜にアルカリによる熱傷を誘発させた。濾紙を角膜から穏やかに取り除き、角膜をリン酸緩衝食塩水(PBS)で10回すすぎ、残留NaOHを除去した。左眼はNaOHに曝露せずに残し、対照として使用した。NaOHへの曝露の24時間後に、PBS、組換えデコリン(0.5μg)、デコリン(0.5μg)+Nuc1(0.5μg)の局所的適用を開始した。処置は7日間、1日1回局所的に適用した。眼の画像は、デジタルカメラを使用して7日目に記録した。7日後、マウスをCO2吸入とその後の頸椎脱臼により屠殺した。眼を摘出し、4%パラホルムアルデヒドで固定した。Micron 550クライオスタットを用いて角膜凍結切片を取得した。
免疫化学:凍結切片を10分間風乾し、PBSで5分間洗浄した。続いて、透過処理とブロッキングのために、6%正常ヤギ血清とPBS-Triton中で1時間、室温でインキュベートした。FITCをコンジュゲートしたイソレクチンまたは次のいずれかに対する一次抗体と共にスライドをインキュベートした:α-平滑筋アクチン(SMA)、グリア線維性酸性タンパク質(GFAP)、CD45、トランスフォーミング増殖因子ベータ(TGF-β1)、F4/80、トランスフォーミング増殖因子ベータ(TGF-β1)(Abcam;ab92486)、または活性化カスパーゼ-3。このインキュベーションは4℃で一晩、湿室中で行った。抗体で処置した試料について、検出はCy3をコンジュゲートした二次ヤギ抗ウサギ/抗マウス抗体(Jackson lmmunoResearch、ウェストグローブ、ペンシルベニア州)と共に室温で1時間インキュベートすることによって行った。スライドをPBSで3回洗浄し、核を対比染色するためにDAPIを含むVectashield退色防止封入剤中に封入した。染色された切片のイメージングは、Olympus IX51顕微鏡と適切なフィルターを用いて行った。画像はRetiga 2000rカメラを用いて記録した。抗体特異的染色の強度は、ImageJソフトウェアを使用して定量化した。
組織病理学:処置の7日後に組織学のために眼を採取し、Hartman固定液で固定した。48時間後、検体をアルコールステップで脱水し、パラフィン中に包埋した。視神経領域を含む様々な平面で5mmの切片を切断し、ヘマトキシリン&エオシン(H&E)で染色した。染色された切片のイメージングは、Retiga 2000rカメラを用いてOlympus BX51顕微鏡を使用して行った。
マルチプレックスELISA:IL-6、IL-17、IL-10、IFN-G、TNF-α、およびIL-1βを検出するために、Bio-plex pro mouse cytokineTh17 A 6 plex group I(Bio-Rad、M6000007NY)を使用し、製造元の使用説明書に従って、マルチプレックスELISAを行った。簡単に述べると、アルカリによる熱傷を上記のようにして誘発した。7日目にマウスを屠殺し、角膜を摘出した。角膜を細かく切り刻み、Bioplex細胞溶解緩衝液中、-80℃で保存した。各試料について2つの角膜を一緒にプールし、各試料について50μlの溶解物を2回使用した。試料をBio plex manager MPソフトウェアを使用して試験し、データをBioplex manager 6.0を用いて解析した。
TUNELアッセイ:細胞死を検出するために、In Situ Death Detection Kit,TMR Red(Sigma)を使用し、製造元の指示に従って、末端デオキシヌクレオチド転移酵素媒介dUTP-ビオチンニック末端標識(TUNEL)法を角膜凍結切片に対して行った。上記のようにして切片を画像化し、以前に記載されているようにImageJ(FIJIバージョンおよびプラグイン)を使用して、画像をTUNEL陽性細胞の定量化に使用した[18]。
統計分析:実験値は平均±SEMとして提示されている。3群以上の群間の統計的差異は一元配置分散分析を使用して分析し、2群間の差異は対応のないT検定を使用して分析した。0.05以下のp値を統計的に有意であると見なした。
結果
Nuc1は角膜混濁と細胞浸潤を減らすデコリンの能力を高める
デコリンのみ、およびNuc1とカップリングしたデコリン(デコリン+Nuc1)の局所的適用の角膜混濁に対する効果を試験するために、方法に記載されているようにして、マウスをアルカリによる熱傷に曝露した。アルカリによる熱傷の24時間後に、デコリンのみ、デコリン+Nuc1、またはPBSを1日1回、7日間適用した。7日目に、角膜のイメージングのためにマウスを屠殺した(図14A)。アルカリによる熱傷または薬物処置に曝されていない対照マウスの角膜は、滑らかで透明であることが観察された(図14A)。対照的に、アルカリによる熱傷に曝露させ、PBSで7日間処理したマウスの角膜は、角膜の表面全体に散在性の「曇り」を有することが観察された。さらに、角膜は不規則な表面を有しており、血管が目立っていた(図14A)。アルカリによる熱傷の後にデコリン単独の局所的適用に曝露したマウスは、PBSで処置したものと外観が似た角膜を示し、明らかな不透明性、不規則な表面および血管を有していた(図14A)。しかしながら、アルカリによる熱傷の後にデコリン+Nuc1に曝露したマウスは、アルカリによる熱傷に曝露させ、PBSで処置したマウスと比較して、より滑らかな角膜表面と角膜混濁の明らかな減少を示し、目立った血管を有していなかった(図14A)。Anderson et al.[19]によって記載された方法に基づき、臨床的不透明度についてマウスをスコアリングした。スコアリングシステムによると、アルカリによる熱傷後にPBS処置を受けたマウスは4点(瞳孔が見えない完全な不透明)、デコリンを投与されたマウスは2.8点(不透明、瞳孔はほとんど検出されない)、そしてデコリン+Nuc1を投与されたマウスは1.5点(わずかにかすんでいる、虹彩と瞳孔はまだ検出可能)であった。
Nuc1は角膜混濁と細胞浸潤を減らすデコリンの能力を高める
デコリンのみ、およびNuc1とカップリングしたデコリン(デコリン+Nuc1)の局所的適用の角膜混濁に対する効果を試験するために、方法に記載されているようにして、マウスをアルカリによる熱傷に曝露した。アルカリによる熱傷の24時間後に、デコリンのみ、デコリン+Nuc1、またはPBSを1日1回、7日間適用した。7日目に、角膜のイメージングのためにマウスを屠殺した(図14A)。アルカリによる熱傷または薬物処置に曝されていない対照マウスの角膜は、滑らかで透明であることが観察された(図14A)。対照的に、アルカリによる熱傷に曝露させ、PBSで7日間処理したマウスの角膜は、角膜の表面全体に散在性の「曇り」を有することが観察された。さらに、角膜は不規則な表面を有しており、血管が目立っていた(図14A)。アルカリによる熱傷の後にデコリン単独の局所的適用に曝露したマウスは、PBSで処置したものと外観が似た角膜を示し、明らかな不透明性、不規則な表面および血管を有していた(図14A)。しかしながら、アルカリによる熱傷の後にデコリン+Nuc1に曝露したマウスは、アルカリによる熱傷に曝露させ、PBSで処置したマウスと比較して、より滑らかな角膜表面と角膜混濁の明らかな減少を示し、目立った血管を有していなかった(図14A)。Anderson et al.[19]によって記載された方法に基づき、臨床的不透明度についてマウスをスコアリングした。スコアリングシステムによると、アルカリによる熱傷後にPBS処置を受けたマウスは4点(瞳孔が見えない完全な不透明)、デコリンを投与されたマウスは2.8点(不透明、瞳孔はほとんど検出されない)、そしてデコリン+Nuc1を投与されたマウスは1.5点(わずかにかすんでいる、虹彩と瞳孔はまだ検出可能)であった。
上記のそれぞれで処置したアルカリによる熱傷曝露マウスの角膜の横断切片を、ヘマトキシリンおよびエオシンで染色した(H+E;図14B)。未処置の対照マウスの角膜と比較して、PBSで処置したアルカリによる熱傷曝露マウスの角膜は、より薄い角膜と上皮細胞層の細胞の喪失を示した(図14B)。さらに、角膜内および角膜の下に顕著な細胞浸潤があった。PBSで処置した角膜と比較して、デコリンで処置したアルカリによる熱傷曝露マウスの角膜においては、上皮の厚さの増加が観察された(図14B)。しかしながら、デコリンで処置した角膜では空胞化が明らかであった。対照的に、デコリン+Nuc1で処置したアルカリによる熱傷曝露マウスの角膜では、上皮の上部細胞層の回復が明らかであり、角膜表面の完全性が高められていた(図14B)。
デコリン+Nuc1はアルカリによる熱傷角膜における血管新生と線維症を有意に軽減する
アルカリによる熱傷の後、角膜は血管新生と線維症を生じやすい。トランスフォーミング増殖因子ベータ(TGF-β)の上方調節は、アルカリによる熱傷部位への角膜上皮細胞と角膜実質細胞の移動を促進し、そこで角膜実質細胞は筋線維芽細胞に分化する[20]。筋線維芽細胞の制御されていない持続的な活性化は、病的な線維症を導く。発明者らは、アルカリによる熱傷後の角膜における血管内皮細胞の存在と筋線維芽細胞のマーカーであるアルファ平滑筋アクチン(SMA)の発現を記述した[21]。アルカリによる熱傷によって誘発された角膜血管新生と線維症に対するデコリン単独またはデコリン+Nuc1の効果を決定するために、マウスをアルカリによる熱傷に曝露させ、上記のように処置した。処置後7日目にマウスを屠殺し、その角膜を凍結切片化のために採取し、FITCをコンジュゲートしたグリフォニアシンプリフィコリアレクチン-1(GSL I)/イソレクチンとアルファ平滑筋アクチン(SMA)に対する抗体で染色した。未処置の対照マウスの角膜では、イソレクチン(緑)またはSMA(赤)のいずれについても染色はほとんど、またはまったく観察されなかった(図15A)。しかしながら、PBSで処置したアルカリ曝露マウスの角膜は、角膜のすべての層にわたって広範なイソレクチンとSMAの染色を示し、広範な血管新生と線維症が示唆された。アルカリによる熱傷に曝露させた角膜へのデコリンの局所的適用は、角膜の上皮、間質および内皮、ならびに眼房水(図15A)におけるイソレクチン染色の明らかな減少を示し、血管新生の減少が指し示された。デコリンで処置した角膜、特に角膜後部および眼房水では、SMA染色におけるいくらかの適度な減少が明らかであった。しかしながら、アルカリによる熱傷に曝露させた角膜へのデコリン+Nuc1の局所的適用は、角膜実質、内皮、眼房水におけるイソレクチンとSMAの両方の染色のほぼ完全な除去を示し、上皮においても両方の染色が大幅に減少していた(図15A)。これは、デコリン+Nuc1が、アルカリによる熱傷に曝露させた角膜における血管新生と線維症からの非常に重要な保護を媒介することを示唆している。
アルカリによる熱傷の後、角膜は血管新生と線維症を生じやすい。トランスフォーミング増殖因子ベータ(TGF-β)の上方調節は、アルカリによる熱傷部位への角膜上皮細胞と角膜実質細胞の移動を促進し、そこで角膜実質細胞は筋線維芽細胞に分化する[20]。筋線維芽細胞の制御されていない持続的な活性化は、病的な線維症を導く。発明者らは、アルカリによる熱傷後の角膜における血管内皮細胞の存在と筋線維芽細胞のマーカーであるアルファ平滑筋アクチン(SMA)の発現を記述した[21]。アルカリによる熱傷によって誘発された角膜血管新生と線維症に対するデコリン単独またはデコリン+Nuc1の効果を決定するために、マウスをアルカリによる熱傷に曝露させ、上記のように処置した。処置後7日目にマウスを屠殺し、その角膜を凍結切片化のために採取し、FITCをコンジュゲートしたグリフォニアシンプリフィコリアレクチン-1(GSL I)/イソレクチンとアルファ平滑筋アクチン(SMA)に対する抗体で染色した。未処置の対照マウスの角膜では、イソレクチン(緑)またはSMA(赤)のいずれについても染色はほとんど、またはまったく観察されなかった(図15A)。しかしながら、PBSで処置したアルカリ曝露マウスの角膜は、角膜のすべての層にわたって広範なイソレクチンとSMAの染色を示し、広範な血管新生と線維症が示唆された。アルカリによる熱傷に曝露させた角膜へのデコリンの局所的適用は、角膜の上皮、間質および内皮、ならびに眼房水(図15A)におけるイソレクチン染色の明らかな減少を示し、血管新生の減少が指し示された。デコリンで処置した角膜、特に角膜後部および眼房水では、SMA染色におけるいくらかの適度な減少が明らかであった。しかしながら、アルカリによる熱傷に曝露させた角膜へのデコリン+Nuc1の局所的適用は、角膜実質、内皮、眼房水におけるイソレクチンとSMAの両方の染色のほぼ完全な除去を示し、上皮においても両方の染色が大幅に減少していた(図15A)。これは、デコリン+Nuc1が、アルカリによる熱傷に曝露させた角膜における血管新生と線維症からの非常に重要な保護を媒介することを示唆している。
角膜のイソレクチン染色の定量化(図15B)は、デコリン単独の局所的適用が角膜におけるイソレクチン染色を目に見えて減少させたものの、GSL I染色の量はPBSで処置した角膜のものと有意に異ならないことを示した。しかしながら、アルカリによる熱傷に曝露させた角膜へのデコリン+Nuc1の局所的適用は、PBSで処置した角膜と比較して、イソレクチン染色における有意な83.9%(p<0.042)の減少を示し、血管新生の有意な減少が指し示された。角膜のSMA染色の定量化は、デコリン単独の局所的適用が、PBSで処置した角膜と比較して、SMA染色を有意に33.25%(p<0.025)減少させたことを示した。しかしながら、アルカリによる熱傷に曝露させた角膜へのNuc1+デコリンの局所的適用は、PBSで処置した角膜と比較して、SMA染色のより有意な46.22%(p<0.0028)の減少をもたらし(図15B)、デコリン単独と比較して、線維症から保護するためのデコリン+Nuc1の増強された能力が示唆された。
デコリン+Nuc1はアルカリによる熱傷モデルの角膜における炎症細胞の浸潤を有意に減少させる
発明者らは次に、PBS、デコリン単独、またはデコリン+Nuc1による処置に続いて、アルカリによる熱傷に曝露させたマウスの角膜の炎症を調べた。角膜の横断面をCD45およびF4/80で染色して、白血球、特にマクロファージの存在を判定した。未処置の対照マウスの角膜では、予想通り、角膜においてCD45またはF4/80抗体による染色はほとんど、またはまったく見られなかった(図16A)。アルカリによる熱傷に曝露させた後にPBSで処置したマウスの角膜では、角膜実質全体にCD45(緑チャネル)およびF4/80(赤チャネル)抗体による広範な染色が見られ(図16A)、これらの角膜における炎症細胞のかなりの浸潤が指し示された。アルカリによる熱傷に曝露させた後にデコリン単独またはデコリン+Nuc1のいずれかで局所的に処置したマウスの角膜は、上皮に近い角膜実質の前部領域においてCD45およびF4/80染色の減少を示した。角膜におけるCD45染色の定量化は、PBSで処置した角膜と比較して、デコリン単独で処置した角膜におけるCD45陽性細胞の数の有意な39.6%(p<0.0147)の減少を示した(図16B)。デコリン+Nuc1で局所的に処置した角膜もまた、PBSで処置した角膜と比較して、CD45染色に59.8%(p<O.0017)の有意な減少を示した(図16B)。しかしながら、デコリン単独で処置した角膜とデコリン+Nuc1で処置した角膜の間に、CD45染色における有意な差は見られなかった(図16B)。角膜におけるF4/80染色の定量化は、PBSで処置した角膜と比較して、デコリン+Nuc1で処置した角膜において染色の有意な57.9%(p<0.0052)の減少を示し(図16B)、これらの角膜におけるマクロファージ浸潤の顕著な減少が指し示された。対照的に、PBSで処置した角膜と比較して、デコリン単独で処置した角膜では、F4/80染色の有意な減少は見られなかった(図16B)。このデータは、アルカリによる熱傷に曝露させたマウスの角膜における炎症細胞の浸潤に対する局所的に適用されたデコリン+Nuc1の改善効果が、特にマクロファージに関して、デコリン単独の局所的適用の改善効果よりも効率的であることを示唆している。
発明者らは次に、PBS、デコリン単独、またはデコリン+Nuc1による処置に続いて、アルカリによる熱傷に曝露させたマウスの角膜の炎症を調べた。角膜の横断面をCD45およびF4/80で染色して、白血球、特にマクロファージの存在を判定した。未処置の対照マウスの角膜では、予想通り、角膜においてCD45またはF4/80抗体による染色はほとんど、またはまったく見られなかった(図16A)。アルカリによる熱傷に曝露させた後にPBSで処置したマウスの角膜では、角膜実質全体にCD45(緑チャネル)およびF4/80(赤チャネル)抗体による広範な染色が見られ(図16A)、これらの角膜における炎症細胞のかなりの浸潤が指し示された。アルカリによる熱傷に曝露させた後にデコリン単独またはデコリン+Nuc1のいずれかで局所的に処置したマウスの角膜は、上皮に近い角膜実質の前部領域においてCD45およびF4/80染色の減少を示した。角膜におけるCD45染色の定量化は、PBSで処置した角膜と比較して、デコリン単独で処置した角膜におけるCD45陽性細胞の数の有意な39.6%(p<0.0147)の減少を示した(図16B)。デコリン+Nuc1で局所的に処置した角膜もまた、PBSで処置した角膜と比較して、CD45染色に59.8%(p<O.0017)の有意な減少を示した(図16B)。しかしながら、デコリン単独で処置した角膜とデコリン+Nuc1で処置した角膜の間に、CD45染色における有意な差は見られなかった(図16B)。角膜におけるF4/80染色の定量化は、PBSで処置した角膜と比較して、デコリン+Nuc1で処置した角膜において染色の有意な57.9%(p<0.0052)の減少を示し(図16B)、これらの角膜におけるマクロファージ浸潤の顕著な減少が指し示された。対照的に、PBSで処置した角膜と比較して、デコリン単独で処置した角膜では、F4/80染色の有意な減少は見られなかった(図16B)。このデータは、アルカリによる熱傷に曝露させたマウスの角膜における炎症細胞の浸潤に対する局所的に適用されたデコリン+Nuc1の改善効果が、特にマクロファージに関して、デコリン単独の局所的適用の改善効果よりも効率的であることを示唆している。
炎症マーカーのCD45およびF4/80は、傷害部位におけるサイトカイン/ケモカインの産生に重要な役割を果たし、組織のさらなる破壊と瘢痕化の原因となる。よって、発明者らはさらに、Bioplexアッセイを使用してTh17サイトカインの発現レベルを決定した。アルカリによる熱傷に曝露させたマウスの処置の7日後に角膜溶解物を採取し、IL-1ベータ(IL-1β)、IL-6、腫瘍壊死因子アルファ(TNF-α)、インターフェロンガンマ(IFN-G)、IL-17およびIL10のレベルをアッセイした。5種のサイトカイン(TNF-α、IL-1β、IL-6、IL-17およびIFN-G)が、アルカリによる熱傷に曝露させていない未処置の対照マウスの角膜と比較して、アルカリによる熱傷に曝露させ、PBSで処置したマウスの角膜では上昇していることが観察された(図17A)。サイトカインIL-10のレベルは、対照群と治療群のアッセイの検出限界を下回っていた(データは示さず)。TNF-α、IFN-G、IL-17、およびIL-6については、PBSで処置したマウスと比較して、デコリン単独またはデコリン+Nuc1のいずれかで処置した後に発現の低下が観察された(図17A)。特に、デコリン+Nuc1で処置したマウスでは、デコリン単独で処置したマウスよりも発現が大幅に減少していた。興味深いことに、IL-1βの発現の増加が、デコリン単独とデコリン+Nuc1で処置したマウスの角膜において観察された(図17A)。
アルカリによる熱傷はまた、炎症性サイトカインのトランスフォーミング増殖因子ベータ(TGF-β1)の産生も招くが、これは、角質細胞の筋線維芽細胞への分化に重要な役割を果たし、サイトカインのさらなる発現を誘導することによって角膜組織の損傷を悪化させ、ひいては炎症フィードバックループを形成する。TGF-β1の抗体染色を使用して、発明者らはPBSで処置したマウスの角膜におけるアルカリによる熱傷後の角膜の上皮、角膜実質、および内皮におけるTGF-β1の有意な発現を観察した(図17B)。デコリン単独による処置はTGF-β1の発現低下をもたらしたが、デコリン+Nuc1で処置したマウスは、デコリン単独と比較して実質的により低いレベルのTGF-β1を有していた(図17B)。
Nuc1デコリン+Nuc1はアルカリによる熱傷マウスモデルの角膜における細胞死を有意に減少させる
アルカリによる熱傷に曝露させたマウスの角膜では、カスパーゼ-3を媒介したアポトーシスが生じることが示されている。デコリン単独またはデコリン+Nuc1がアルカリによる熱傷誘発性の細胞死に影響を与えるかどうかを判定するために、処置後7日目に採取したマウスの角膜の横断凍結切片を活性化カスパーゼ-3で染色した(図18)。アルカリによる熱傷に曝露させていない未処置の対照マウスの角膜では、検出可能な活性化カスパーゼ-3は見られなかった(図18)。しかしながら、アルカリによる熱傷に曝露させ、PBSで処置したマウスの角膜のすべての層(上皮、角膜実質、および内皮)において、活性化されたカスパーゼ-3染色が観察された(図18)。アルカリによる熱傷に曝露させ、デコリン単独の局所的適用によって処置したマウスでは、PBSで処置したマウスの角膜と比較して、角膜実質および角膜の内皮における活性化カスパーゼ-3の染色がかなり減少しており、上皮においても減少している可能性があった(図18)。しかしながら、アルカリによる熱傷に曝露させ、デコリン+Nuc1で局所的に処置したマウスの角膜では、PBSで処置したマウスと比較して、上皮を含む角膜の3層すべてで活性化カスパーゼ-3染色が大幅に減少していた。各処置群および「未処置」群の角膜における活性化カスパーゼ-3染色からの蛍光シグナルの定量化は、デコリン単独(51.5%)またはデコリン+Nuc1で処置したマウスの角膜における活性化カスパーゼ-3染色の有意な減少を明らかした(74.6%、p<0.0001、図18)。デコリン+Nuc1で処置した角膜における活性化カスパーゼ-3染色の量は、デコリン単独で処置した角膜と比較しても、有意に減少していた(47.6%、p=0.0001)(図18)。
アルカリによる熱傷に曝露させたマウスの角膜では、カスパーゼ-3を媒介したアポトーシスが生じることが示されている。デコリン単独またはデコリン+Nuc1がアルカリによる熱傷誘発性の細胞死に影響を与えるかどうかを判定するために、処置後7日目に採取したマウスの角膜の横断凍結切片を活性化カスパーゼ-3で染色した(図18)。アルカリによる熱傷に曝露させていない未処置の対照マウスの角膜では、検出可能な活性化カスパーゼ-3は見られなかった(図18)。しかしながら、アルカリによる熱傷に曝露させ、PBSで処置したマウスの角膜のすべての層(上皮、角膜実質、および内皮)において、活性化されたカスパーゼ-3染色が観察された(図18)。アルカリによる熱傷に曝露させ、デコリン単独の局所的適用によって処置したマウスでは、PBSで処置したマウスの角膜と比較して、角膜実質および角膜の内皮における活性化カスパーゼ-3の染色がかなり減少しており、上皮においても減少している可能性があった(図18)。しかしながら、アルカリによる熱傷に曝露させ、デコリン+Nuc1で局所的に処置したマウスの角膜では、PBSで処置したマウスと比較して、上皮を含む角膜の3層すべてで活性化カスパーゼ-3染色が大幅に減少していた。各処置群および「未処置」群の角膜における活性化カスパーゼ-3染色からの蛍光シグナルの定量化は、デコリン単独(51.5%)またはデコリン+Nuc1で処置したマウスの角膜における活性化カスパーゼ-3染色の有意な減少を明らかした(74.6%、p<0.0001、図18)。デコリン+Nuc1で処置した角膜における活性化カスパーゼ-3染色の量は、デコリン単独で処置した角膜と比較しても、有意に減少していた(47.6%、p=0.0001)(図18)。
一般的な細胞死も、TUNEL染色によって角膜の凍結切片において評価した(図19A)。アルカリによる熱傷に曝露させていない未処置の対照マウスの角膜では、TUNEL染色はほとんど、またはまったく観察されなかった(図19A)。アルカリによる熱傷に曝露させた後PBSで処置したマウスの角膜実質および角膜の上皮においては、細胞死を指し示すTUNEL染色が観察された(図19A)。アルカリによる熱傷に曝露させ、デコリン単独で処置したマウスの角膜実質におけるTUNEL染色には、かなりの減少が見られたが(図19A)、これらのマウスの上皮におけるTUNEL染色の明らかな減少はほとんど、またはまったく見られなかった。アルカリによる熱傷に曝露させ、デコリン+Nuc1で処置したマウスの角膜では、角膜層のいずれにもTUNEL染色はほとんど、またはまったく見られず、これらのマウスの角膜の細胞死に対するほぼ完全な保護が示唆された(図19B)。これらの角膜におけるTUNEL染色の定量化は、アルカリによる熱傷に曝露させ、デコリン単独で処置したマウスの角膜において、PBSで処置したものと比較して、TUNEL染色の有意な減少を指し示した(44.8%、p<0.0882)(図19B)。しかしながら、アルカリによる熱傷に曝露させ、デコリン+Nuc1で処置した角膜(9045%、p<0.006)では、PBSで処置した角膜と比較して、TUNEL染色のより実質的かつ有意な減少が観察された(図19B)。
デコリン+Nuc1はアルカリによる熱傷マウスモデルの網膜における神経膠症を大幅に軽減する
網膜におけるミュラーグリア細胞の活性化である神経膠症は、アルカリ傷害に対する急速なストレス応答である。グリア線維性酸性タンパク質(GFAP)の発現の増加が神経膠症の特徴である。以前の研究は、アルカリによる熱傷に反応した炎症性サイトカインTNF-Aの増加が、網膜における神経膠症の誘発をもたらすことを示している[22]。デコリン単独またはデコリン+Nuc1のいずれかによるアルカリによる熱傷に曝露させたマウスの角膜の局所的処置が、グリア細胞活性化に対する網膜の保護をもたらすかどうかを決定するために、発明者らは角膜のアルカリによる熱傷を受けたマウスの網膜の横断凍結切片をGFAPについて染色し、また、それらをPBS、デコリン単独、またはデコリン+Nuc1で7日間、局所的に処置した(図20)。アルカリによる熱傷に曝露させていない対照マウスの網膜は、グリア細胞の活性化の欠如と一致するGFAP染色のパターンを有することが観察された(図20)。対照の網膜では、GFAPは前網膜の星状細胞とミュラー細胞のエンドフィートでのみ観察された。アルカリによる熱傷に曝露させ、PBSで処置したマウスの網膜は、ミュラーグリアの活性化と一致するGFAP染色のパターンを有することが観察され(図20)、GFAPは神経節細胞層(GCL)から内顆粒層を通して、そして外顆粒層(INL/ONL)にまで及ぶミュラー細胞全体で観察された。アルカリによる熱傷に曝露させ、デコリン単独で処置したマウスの網膜も、ミュラー細胞の活性化と一致するGFAP染色のパターンを示したが、PBSで処置したマウスの網膜に比べて染色が減少していた(図20)。これらの網膜では、GFAP染色がミュラー細胞を通ってGCLから内網状層に広がることが観察されたが、これらの網膜のINLまたはONLでは観察されなかった。しかしながら、アルカリによる熱傷に曝露させ、デコリン+Nucで処置したマウスの網膜では、GFAP染色は、デコリン単独で処置したマウスの網膜と比較して、大幅に減少していた。これらの網膜では、染色は主にGCLのミュラー細胞のエンドフィートに限定されており、時折、内網状層でミュラー細胞の染色が見られた(図20)。これらのデータは、デコリン単独とデコリン+Nuc1の両方が、アルカリによる熱傷に曝露させたマウスにおける網膜神経膠症の減少を媒介したことを示唆している。しかしながら発明者らは、網膜ミュラー細胞の活性化に対するデコリン単独とデコリン+Nuc1の直接的な影響の可能性を排除することはできなかった。
網膜におけるミュラーグリア細胞の活性化である神経膠症は、アルカリ傷害に対する急速なストレス応答である。グリア線維性酸性タンパク質(GFAP)の発現の増加が神経膠症の特徴である。以前の研究は、アルカリによる熱傷に反応した炎症性サイトカインTNF-Aの増加が、網膜における神経膠症の誘発をもたらすことを示している[22]。デコリン単独またはデコリン+Nuc1のいずれかによるアルカリによる熱傷に曝露させたマウスの角膜の局所的処置が、グリア細胞活性化に対する網膜の保護をもたらすかどうかを決定するために、発明者らは角膜のアルカリによる熱傷を受けたマウスの網膜の横断凍結切片をGFAPについて染色し、また、それらをPBS、デコリン単独、またはデコリン+Nuc1で7日間、局所的に処置した(図20)。アルカリによる熱傷に曝露させていない対照マウスの網膜は、グリア細胞の活性化の欠如と一致するGFAP染色のパターンを有することが観察された(図20)。対照の網膜では、GFAPは前網膜の星状細胞とミュラー細胞のエンドフィートでのみ観察された。アルカリによる熱傷に曝露させ、PBSで処置したマウスの網膜は、ミュラーグリアの活性化と一致するGFAP染色のパターンを有することが観察され(図20)、GFAPは神経節細胞層(GCL)から内顆粒層を通して、そして外顆粒層(INL/ONL)にまで及ぶミュラー細胞全体で観察された。アルカリによる熱傷に曝露させ、デコリン単独で処置したマウスの網膜も、ミュラー細胞の活性化と一致するGFAP染色のパターンを示したが、PBSで処置したマウスの網膜に比べて染色が減少していた(図20)。これらの網膜では、GFAP染色がミュラー細胞を通ってGCLから内網状層に広がることが観察されたが、これらの網膜のINLまたはONLでは観察されなかった。しかしながら、アルカリによる熱傷に曝露させ、デコリン+Nucで処置したマウスの網膜では、GFAP染色は、デコリン単独で処置したマウスの網膜と比較して、大幅に減少していた。これらの網膜では、染色は主にGCLのミュラー細胞のエンドフィートに限定されており、時折、内網状層でミュラー細胞の染色が見られた(図20)。これらのデータは、デコリン単独とデコリン+Nuc1の両方が、アルカリによる熱傷に曝露させたマウスにおける網膜神経膠症の減少を媒介したことを示唆している。しかしながら発明者らは、網膜ミュラー細胞の活性化に対するデコリン単独とデコリン+Nuc1の直接的な影響の可能性を排除することはできなかった。
考察
眼に送達される薬物の保持と有効性を高めることは、局所的治療に対する生体効率と治療反応の両方を高めるための鍵である。角膜前涙液膜のターンオーバーが高いことによる水性薬物の迅速な除去は、角膜に送達される薬物の有効性を低下させるため、大きな課題となっている。結膜下または硝子体内注射を含む薬物投与の集中的な局所的経路または薬物送達の侵襲的な方法は、しばしば合併症と関連する。薬物が無効な場合、結果として生じる角膜瘢痕を治療または除去するためにしばしば手術が必要となり、治療後の罹患のリスクと患者の不快感の期間が増大する。
眼に送達される薬物の保持と有効性を高めることは、局所的治療に対する生体効率と治療反応の両方を高めるための鍵である。角膜前涙液膜のターンオーバーが高いことによる水性薬物の迅速な除去は、角膜に送達される薬物の有効性を低下させるため、大きな課題となっている。結膜下または硝子体内注射を含む薬物投与の集中的な局所的経路または薬物送達の侵襲的な方法は、しばしば合併症と関連する。薬物が無効な場合、結果として生じる角膜瘢痕を治療または除去するためにしばしば手術が必要となり、治療後の罹患のリスクと患者の不快感の期間が増大する。
眼の熱傷は一般に視力を脅かす合併症と関連しており、眼科医にとって臨床上の課題となっている。現在の医療処置は、コルチコステロイドまたは予防的抗生物質の慎重な使用によって炎症を制御することを目的としている。アルカリによる熱傷のマウスモデルについては、これまでに多くの記述があり、組換えヒトデコリンの抗瘢痕化および抗線維化効果を評価するための堅牢で臨床的に適切な手段を提供している。細胞透過性ペプチドNuc1の有無にかかわらず、デコリンタンパク質の局所的投与は、7日間の局所的処置後に角膜混濁のレベルを有意に低下させた。角膜混濁のそのような減少は、患者にとって長期的な利益となり、視力の維持をもたらす可能性がある。興味深いことに、発明者らは、処置が線維症を防ぐだけでなく、炎症の実質的な減少、したがって網膜における神経膠症の予防にも関連していることを観察した。発明者らの結果は、アルカリによる熱傷後の角膜による炎症促進性サイトカインTNF-αの産生が神経膠症を引き起こすことを指し示す以前の研究と一致している[22~24]。この炎症の減少は、カスパーゼ-3依存性アポトーシス経路の活性化を阻害することによって角膜の上皮層と角膜実質層を保護するという点でも有益である。デコリンの局所的投与はまた、おそらく損傷した角膜の破壊された微小環境を透過するその能力のために、アルカリによる熱傷に関連する病状を調節することもできた。さらに、Nuc1と組み合わせたデコリンの使用は、アルカリによる熱傷後の曇り、混濁、線維症、および炎症の実質的な減少をもたらした。発明者らの結果は、Nuc1が、治癒過程を早めるデコリンタンパク質の固有の能力を、おそらくその保持時間を改善し、それによって治療効率を高めることによって、増強することを実証している。
アルカリによる熱傷は、上皮層の薄化、間質性浮腫、細胞浸潤物の沈着を含む、いくつかの角膜構造破壊を引き起こす。涙液膜および頂端粘膜と共に、上皮は眼の防御の第一線である。デコリンとペプチドNuc1の局所的投与は、上皮の形態を回復させ、間質性浮腫と角膜の全体的な厚さを減少させた。さらに以前の研究は、デコリンが角膜線維芽細胞のいくつかの増殖因子とシグナル伝達経路(TGF-βを介したSMAD2およびSMAD3)をモジュレートし、よって、線維症の瘢痕形成を減弱させることを報告している。アルカリによる熱傷は本質的に急性であるため、内因性のデコリンが高活性なTGF-β分子を中和できずに、下流の線維性カスケードの活性化を許している可能性がある。
アルカリによる熱傷に起因する前眼部の大規模な炎症は、網膜の内側と外側、ならびに視神経に広範な損傷を引き起こす。最近の報告は、ボストン人工角膜の移植を受けたアルカリによる熱傷患者が眼圧の上昇(すなわち緑内障)を示したことを記述している。積極的な治療措置と手術にもかかわらず、非熱傷移植患者と比較して、熱傷患者の眼では悪化が加速していた。いくつかの研究は後部アルカリ拡散の可能性を示唆しているが、アルカリによる熱傷後の網膜への損傷のメカニズムは解明されていない。網膜への損傷が単なる拡散ではなく、炎症性サイトカイン、特にTNF-αの産生によるものであると示唆する報告もある[25]。さらに、炎症促進性サイトカインであるTNF-αおよびIL-1βは、いくつかの感染性および非感染性の眼の病状における炎症に寄与する。IL-6Rアンタゴニストは角膜の炎症と血管新生を軽減するため、IL-6は角膜の炎症性疾患でも重要な役割を果たす[25]。炎症の増加は、炎症促進性の遺伝子のさらなる上方調節を引き起こすフィードバックループを生じる[26]。炎症性の環境は血液網膜関門を破壊し、血液からの免疫細胞、主に好中球とマクロファージの浸潤を引き起こす[26]。これらの浸潤性免疫細胞は、眼の常在免疫細胞を活性化する。さらに、ミュラーグリアからのシナプスシグナル伝達[27]は、網膜におけるサイトカイン産生の引き金を引き、眼の前部と後部において細胞ストレスを引き起こす。以前の研究は、ブドウ膜炎において炎症を引き起こす、前眼房におけるpHの上昇による、マウスおよびウサギの網膜のINLとONLにおけるアポトーシスを報告している[27、28]。発明者らの研究では、アルカリによる熱傷の7日後に網膜の強い神経膠症と角膜のアポトーシスが観察され、これには、角膜溶解物中の炎症性サイトカインTNF-α、IL-6、IFN-Gのレベルの上昇が伴っていた。デコリンの局所的投与は炎症の軽減を促進し、その結果として神経膠症とアポトーシスが制御された。これらの結果は有望なものであるが、アルカリによる熱傷の治療におけるデコリンの複数の保護的役割については、さらなる調査が必要である。
まとめると、Nuc1と組み合わせた抗線維性タンパク質デコリンの局所的送達はおそらく安全であり、また、Nuc1は炎症を起こした角膜に透過してカーゴタンパク質を角膜組織へと送達できることを発明者らは実証しており、これは、大規模な前臨床安全性試験を行う正当な理由となる。Nuc1とカップリングしたデコリンは、アルカリによる熱傷後の角膜表面を効率的にレスキューすることができる。アルカリによる熱傷は重度の眼の損傷のカテゴリーに分類され、現在、治療の選択肢はほとんどない。発明者らの研究では、デコリンは角膜の瘢痕を有意に減らしうるほど長く、その治療的潜在性を保持し、眼の表面と接触した状態にとどまっていた。したがって、眼の線維症、炎症および細胞死と戦う能力を備えた、Nuc1と組み合わせたデコリンの局所的適用は、アルカリによる熱傷の治療法として有望である。
(実施例3)
Nuc1は、遺伝子編集剤の網膜送達を増強する。
遺伝子治療およびタンパク質治療を補うために、遺伝子編集の分野において著しい関心がある。遺伝子編集のために一般に使用される1種のタンパク質は、Cas9である。導入遺伝子の長期間の発現が望ましい遺伝子治療とは対照的に、オフターゲット効果は、Cas9などの遺伝子編集タンパク質の一過的発現によって回避され得る。さらに、Cas9およびその機能的近縁物は、細菌性タンパク質であり、それによりヒト細胞中において無期限で発現されると免疫原性および毒性である。導入遺伝子発現がin vivoで調節される遺伝子治療アプローチは、複雑である。それにより、上記課題へのさらに実践的な解決法は、細胞の核に遺伝子編集タンパク質を一過的に送達することである。これらの外来性に送達されたタンパク質がそれらの遺伝子編集の機能を実施すると、すべての細胞内タンパク質に本質的に共通する様式でそれらは当然、細胞内で自然に分解される。このアプローチを成功させるために、Cas9が標的細胞に送達されるように細胞バリア(cellular barrier)を克服することが不可欠である。本発明者らは、CPP Nuc1をこの目的のために利用できると仮定した。
Nuc1は、遺伝子編集剤の網膜送達を増強する。
遺伝子治療およびタンパク質治療を補うために、遺伝子編集の分野において著しい関心がある。遺伝子編集のために一般に使用される1種のタンパク質は、Cas9である。導入遺伝子の長期間の発現が望ましい遺伝子治療とは対照的に、オフターゲット効果は、Cas9などの遺伝子編集タンパク質の一過的発現によって回避され得る。さらに、Cas9およびその機能的近縁物は、細菌性タンパク質であり、それによりヒト細胞中において無期限で発現されると免疫原性および毒性である。導入遺伝子発現がin vivoで調節される遺伝子治療アプローチは、複雑である。それにより、上記課題へのさらに実践的な解決法は、細胞の核に遺伝子編集タンパク質を一過的に送達することである。これらの外来性に送達されたタンパク質がそれらの遺伝子編集の機能を実施すると、すべての細胞内タンパク質に本質的に共通する様式でそれらは当然、細胞内で自然に分解される。このアプローチを成功させるために、Cas9が標的細胞に送達されるように細胞バリア(cellular barrier)を克服することが不可欠である。本発明者らは、CPP Nuc1をこの目的のために利用できると仮定した。
Nuc1は、Creリコンビナーゼの網膜取込みを増強し、遺伝子編集を促進する。
この仮説を検証するために、本発明者らは、Ai9マウスにおいてNuc1がCreリコンビナーゼタンパク質の取込みを可能にする、または増強するかどうかを最初に調査した。これらのマウスにおいてレポーターtdTomato導入遺伝子発現カセットは、loxPが導入された停止コドンがCreリコンビナーゼによって切り出された場合に作動される。本発明者らは、成体(約6週齢)Ai9マウス硝子体内に4マイクログラムのCreリコンビナーゼタンパク質をそれだけで、または1マイクログラムのNuc1との組合せでのいずれかで注射した。本発明者らは、Creリコンビナーゼを単独で注射されたAi9マウスにも検出可能なtdTomato発現はあるが、CreリコンビナーゼがNuc1と同時注射された場合に、顕著により多い数のおよび多い種類の細胞がレポーター発現を示したことを見出した。詳細には、CreリコンビナーゼがNuc1と同時注射された場合に、顕著により多い数のミュラー細胞がtdTomato陽性であった(図21)。実際にCreリコンビナーゼ単独では、tdTomatoを発現するミュラー細胞はほとんどなかった。それにより本発明者らのデータは、Nuc1が外来性に送達されたCreリコンビナーゼの取込みを増強し、Nuc1-送達Creリコンビナーゼが核において機能性であることを実証する。Creリコンビナーゼがそれ自体で細胞に進入できるという観察は驚くべきことであった。しかしながら、上のアッセイは、1回の遺伝子編集事象が、細胞に蓄積するタンパク質の持続的な産生を通じて実質的に増幅されることから高感度である。それにより、Creリコンビナーゼの取込みを増強するNuc1の能力は、機能的に重要である。
この仮説を検証するために、本発明者らは、Ai9マウスにおいてNuc1がCreリコンビナーゼタンパク質の取込みを可能にする、または増強するかどうかを最初に調査した。これらのマウスにおいてレポーターtdTomato導入遺伝子発現カセットは、loxPが導入された停止コドンがCreリコンビナーゼによって切り出された場合に作動される。本発明者らは、成体(約6週齢)Ai9マウス硝子体内に4マイクログラムのCreリコンビナーゼタンパク質をそれだけで、または1マイクログラムのNuc1との組合せでのいずれかで注射した。本発明者らは、Creリコンビナーゼを単独で注射されたAi9マウスにも検出可能なtdTomato発現はあるが、CreリコンビナーゼがNuc1と同時注射された場合に、顕著により多い数のおよび多い種類の細胞がレポーター発現を示したことを見出した。詳細には、CreリコンビナーゼがNuc1と同時注射された場合に、顕著により多い数のミュラー細胞がtdTomato陽性であった(図21)。実際にCreリコンビナーゼ単独では、tdTomatoを発現するミュラー細胞はほとんどなかった。それにより本発明者らのデータは、Nuc1が外来性に送達されたCreリコンビナーゼの取込みを増強し、Nuc1-送達Creリコンビナーゼが核において機能性であることを実証する。Creリコンビナーゼがそれ自体で細胞に進入できるという観察は驚くべきことであった。しかしながら、上のアッセイは、1回の遺伝子編集事象が、細胞に蓄積するタンパク質の持続的な産生を通じて実質的に増幅されることから高感度である。それにより、Creリコンビナーゼの取込みを増強するNuc1の能力は、機能的に重要である。
Nuc1は、Cas9の網膜取込みを促進し、遺伝子編集を促進する。
Creリコンビナーゼは、およそ38Kdの分子量を有し、およそ160Kdの質量であるCas9よりも実質的に小さい。遺伝子編集が顕著に大きなタンパク質を用いて達成され得るかどうかを決定するために、本発明者らは、Cas9-GFP融合タンパク質をC57BL/6Jマウスに硝子体内注射した。Cas9-GFPは、それだけでは網膜に透過できず、内境界膜に局在化する(図22)。これは、Creリコンビナーゼなどの小さいタンパク質は、それら自体で網膜に進入できる一方で、より大きな、より治療的な関連Cas9-GFPタンパク質はできないことを示している。しかしながら、Nuc1と同時注射されるとCas9-GFPは、外顆粒層(ONL)、内顆粒層(INL)および神経節細胞層(GCL)を含む網膜における種々の細胞型に局在化した(図22)。
Creリコンビナーゼは、およそ38Kdの分子量を有し、およそ160Kdの質量であるCas9よりも実質的に小さい。遺伝子編集が顕著に大きなタンパク質を用いて達成され得るかどうかを決定するために、本発明者らは、Cas9-GFP融合タンパク質をC57BL/6Jマウスに硝子体内注射した。Cas9-GFPは、それだけでは網膜に透過できず、内境界膜に局在化する(図22)。これは、Creリコンビナーゼなどの小さいタンパク質は、それら自体で網膜に進入できる一方で、より大きな、より治療的な関連Cas9-GFPタンパク質はできないことを示している。しかしながら、Nuc1と同時注射されるとCas9-GFPは、外顆粒層(ONL)、内顆粒層(INL)および神経節細胞層(GCL)を含む網膜における種々の細胞型に局在化した(図22)。
続いて、本発明者らは、Nuc1が、Ai9マウスの網膜において、リボ核タンパク質粒子(RNP)にカップリングしたCas9の取込みを増強できるかどうかについて取り組みたいと考えた。そこで、本発明者らは、上に記載のtdTomatoレポーター中のloxPが導入された停止コドンを標的化するRNPと複合体化したCas9をNuc1と硝子体内にまたは網膜下に同時注射した。網膜下注射に続いて、網膜色素上皮にtdTomatoの顕著な発現があり(RPE、図23A~23B)、RNPの良好な標的化を示している。しかしながら、Cas9-RNPがNuc1を含まずに注射された場合、tdTomatoの発現はなく、Nuc1が網膜でのCas9-RNPの効率的な送達のために必要であったことを確認している。より高い濃度での、Cas9-RNPとのNuc1の硝子体内注射は、細胞においてtdTomato発現も作動させる。硝子体内注射を用いて、レポーター発現を示す細胞型は、網膜のさまざまな部分で変化しやすいが、ミュラー細胞および光受容体を含んでいた(図24)。
Claims (40)
- 配列番号1に少なくとも90%同一性を有するアミノ酸配列であって、配列番号1中のXが任意の可動性リンカー領域を表すアミノ酸配列、または可動性リンカーを介して配列番号5に任意に連結されている配列番号4からなるペプチドに90%同一性を有するポリペプチドを含むペプチド。
- アミノ酸配列が配列番号3または、配列番号3に少なくとも90%配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、請求項1に記載のペプチド。
- 配列番号2もしくは配列番号4を含むか、もしくはそれからなるアミノ酸配列を有するペプチドまたは、配列番号2もしくは配列番号4に90%配列同一性を有するペプチドであって、配列番号2中の各Xが任意の可動性リンカー領域を表す、ペプチド。
- アミノ酸配列が配列番号6または、配列番号6に少なくとも90%配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、請求項3に記載のペプチド。
- 可動性リンカー領域が少なくとも1つのアミノ酸を含む、請求項1または請求項3に記載のペプチド。
- 請求項1~5のいずれか1項に記載のペプチドおよび薬剤を含む医薬組成物。
- 薬剤が、ペプチド、組換えタンパク質、抗体、プロテオグリカン、ステロイド、ウイルス、核酸、リボ核タンパク質、低分子治療剤および検出可能な標識からなる群から選択される、請求項6に記載の医薬組成物。
- 薬剤が、抗アポトーシス剤、抗炎症剤、抗血管新生剤および抗線維化剤からなる群から選択される、請求項6~7のいずれか1項に記載の医薬組成物。
- 薬剤が、X連鎖アポトーシス抑制タンパク質、デコリン、血管内皮細胞増殖因子に対する抗体、Bcl-xL由来BH4-ドメインペプチド、NRF2およびデキサメタゾンからなる群から選択される、請求項6~8のいずれか1項に記載の医薬組成物。
- 薬剤が、遺伝子治療剤または遺伝子編集剤である、請求項6~9のいずれか1項に記載の医薬組成物。
- 薬剤が、ウイルスまたは遺伝子治療ベクター、CreおよびCas9タンパク質からなる群から選択される、請求項10に記載の医薬組成物。
- 請求項1~5のいずれか1項に記載のペプチドをコードするポリヌクレオチド。
- ウイルスカプシドタンパク質をコードする配列内に挿入されている、請求項12に記載のポリヌクレオチド。
- 請求項12~13のいずれか1項に記載のポリヌクレオチドを含む核酸構築物であって、ポリヌクレオチドがプロモーターに作動可能に連結されている核酸構築物。
- 請求項14に記載の核酸構築物または請求項12~13のいずれか1項に記載のポリヌクレオチドを含むウイルスであって、請求項1~5のいずれか1項に記載のペプチドがウイルスカプシドタンパク質内で発現されるウイルス。
- ポリヌクレオチドが、ウイルスカプシドタンパク質をコードする配列内に挿入された配列番号2、配列番号3または配列番号6のペプチドをコードする、請求項15に記載のウイルス。
- アデノ随伴ウイルス(AAV)である請求項15または16に記載のウイルス。
- AAVがAAV9である、請求項17に記載のウイルス。
- ポリペプチド剤をコードするポリヌクレオチドをさらに含む、請求項15~18のいずれか1項に記載のウイルス。
- ポリペプチド剤が、デコリンおよびNRF2からなる群から選択される、請求項19に記載のウイルス。
- ポリペプチド剤が、抗アポトーシス剤、抗炎症剤、抗血管新生剤、抗線維化剤、遺伝子治療剤および遺伝子編集剤からなる群から選択される、請求項19に記載のウイルス。
- 細胞を、請求項1~5のいずれか1項に記載のペプチドに接触させるステップを含む、細胞または組織への送達の方法であって、ペプチドが細胞透過性ペプチドであり、細胞に進入する方法。
- 方法が、細胞または組織を薬剤に接触させるステップをさらに含み、ペプチドの非存在下における細胞への送達と比較して、ペプチドが細胞もしくは組織への薬剤の送達を増加させる、または細胞もしくは組織への薬剤の形質導入を可能にする、請求項22に記載の方法。
- 細胞または組織に薬剤を送達するための方法であって、細胞または組織を、請求項6~11のいずれか1項に記載の組成物または請求項15~21のいずれか1項に記載のウイルスと接触させるステップを含み、薬剤が細胞または組織の細胞に送達または形質導入される方法。
- ペプチドが薬剤にコンジュゲートされておらず、物理的にも連結されていない請求項22~24のいずれか1項に記載の方法。
- 接触させるステップがin vitroにおいて行われる、請求項22~25のいずれか1項に記載の方法。
- 接触させるステップがin vivoにおいて行われる、請求項22~25のいずれか1項に記載の方法。
- 接触させるステップが、網膜下注射、硝子体内注射または局所的適用によって行われる、請求項27に記載の方法。
- (i)薬剤および請求項1~5のいずれか1項に記載のペプチド;請求項6~11のいずれか1項に記載の医薬組成物;請求項14に記載の核酸;または請求項15~21のいずれか1項に記載のウイルスを含む医薬を製剤化するステップ、ならびに(ii)細胞または組織の細胞に薬剤を送達または形質導入するための有効量で対象に医薬を投与するステップを含む、対象の細胞または組織に薬剤を送達するための方法。
- 医薬が、経眼、硝子体内、局所、経脈絡膜、前房内、上脈絡膜、経皮的、網膜下、腹腔内、皮下および静脈内経路からなる群から選択される経路によって投与される、請求項29に記載の方法。
- 対象が眼の変性疾患または眼の傷害を有する、請求項29~30のいずれか1項に記載の方法。
- 眼の変性疾患が加齢性黄斑変性症、網膜色素変性症、ぶどう膜炎、緑内障または糖尿病性網膜症である、請求項31に記載の方法。
- 眼の傷害が、アルカリによる熱傷または網膜剥離である、請求項31に記載の方法。
- 細胞または組織が、眼、光受容体、網膜色素上皮、神経節細胞、双極細胞、ミュラー細胞、脈絡膜内皮細胞、水晶体上皮、角膜内皮、角膜実質、線維柱帯網および虹彩からなる群から選択される、請求項22~33のいずれか1項に記載の方法。
- 眼の細胞または眼の組織が、網膜または角膜である、請求項34に記載の方法。
- 薬剤単独と比較して細胞または組織の細胞への薬剤の送達をペプチドが増加させる、請求項22~35のいずれか1項に記載の方法。
- 細胞または組織を、請求項15~21のいずれか1項に記載のウイルスに接触させるステップを含む、細胞または組織にウイルスを送達するための方法であって、請求項1~5のいずれか1項に記載のペプチドを発現しないウイルスに接触された細胞または組織と比較して、増加した割合で細胞または組織の細胞にウイルスが送達または形質導入される方法。
- 細胞または組織を、請求項1~5のいずれか1項に記載のペプチド、およびウイルスに接触させるステップをさらに含む、請求項37に記載の方法。
- (i)請求項15~21のいずれか1項に記載のウイルスを含む医薬を製剤化するステップ、および(ii)医薬を対象に投与するステップを含む、対象の細胞または組織にウイルスを送達するための方法であって、請求項1~5のいずれか1項に記載のペプチドを発現しないウイルスに接触された細胞または組織と比較して、増加した割合で細胞または組織の細胞にウイルスが送達または形質導入される方法。
- 細胞または組織を、請求項1~5のいずれか1項に記載のペプチド、およびウイルスに接触させるステップをさらに含む、請求項39に記載の方法。
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