JP2022527991A - タンパク質に効率的にリジン誘導体を導入するアミノアシル-tRNA合成酵素 - Google Patents

タンパク質に効率的にリジン誘導体を導入するアミノアシル-tRNA合成酵素 Download PDF

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Abstract

本発明は、タンパク質に効率的にリジン誘導体を導入するアミノアシル-tRNA合成酵素を提供する。具体的に、本発明は、突然変異型リジル-tRNA合成酵素を提供する。野生型リジル-tRNA合成酵素と比べ、本発明の突然変異型リジル-tRNA合成酵素は顕著に非天然アミノ酸の導入量および非天然アミノ酸を含む目的タンパク質の量を向上させることができる。また、本発明の突然変異型リジル-tRNA合成酵素は、断裂しにくくなるように、目的タンパク質の安定性を向上させることもできる。

Description

本発明は、生物技術の分野に関し、具体的に、タンパク質に効率的にリジン誘導体を導入するアミノアシル-tRNA合成酵素に関する。
タンパク質中の所望の位置のアミノ酸残基を、通常のタンパク質合成に関わる20種類以外のアミノ酸(非天然アミノ酸)で置換した、非天然アミノ酸組み込みタンパク質(アロタンパク質)は、タンパク質の構造・機能解析の有効な手段となりうる。様々な生物種由来のアミノアシルtRNA合成酵素(aaRS)/tRNAペアを用いて、すでに30種類以上のアロタンパク質が合成されている。最も歴史が長くかつ多くの有用な非天然アミノ酸導入に応用されている系は、チロシル-tRNA合成酵素(TyrRS)変異体とアンバーサプレッサー化されたtRNATyrとのペアである。この方法は、真正細菌と、古細菌および真核生物との2つのグループにおけるaaRSが、それぞれのグループ内ではtRNAをアミノアシル化するが、ほかのグループのtRNAをアミノアシル化できないという、直交性(orthogonal)の関係にあることが鍵となっている。
一方、メタノサルシナ・マゼイ(Methanosarcina mazei)由来のピロリジル-tRNA合成酵素(RylRS)およびアンバーサプレッサーtRNAPylは、大腸菌細胞内で直交性を有するaaRS/tRNAペアとして機能する。ピロリジン(Pyrrolysine)は側鎖に嵩高いメチルピロリン部分を有するリジン誘導体である。野生型PylRSは、大腸菌内でNε-Boc-L-リジンをtRNAPylに結合させることができる。しかしながら、LysRSはリジンに対する認識が厳密であるため、様々な大きさ、形の官能基を有するリジン誘導体を部位特異的にタンパク質に導入することはこれまで困難であった。
そのため、本分野では、野生型リジル-tRNA合成酵素を改造し、タンパク質に効率的にリジン誘導体を導入するアミノアシル-tRNA合成酵素を開発する必要がある。
本発明の目的は、タンパク質に効率的にリジン誘導体を導入するアミノアシル-tRNA合成酵素および方法を提供することである。
本発明の第一の側面では、突然変異型リジル-tRNA合成酵素であって、野生型リジル-tRNA合成酵素のアミノ酸配列における19番目のアルギニン(R)および/または29番目のヒスチジン(H)に相当する部位で突然変異した酵素を提供する。
もう一つの好適な例において、前記野生型リジル-tRNA合成酵素は、メタン生成古細菌であるメタノサルシナ・マゼイ(Methanosarcina mazei)、メタノサルシナ・バルケリ(Methanosarcina barkeri)またはメタノサルシナ・アセチボランス(Methanosarcina acetivorans)由来のものである。
もう一つの好適な例において、前記野生型リジル-tRNA合成酵素のアミノ酸配列は配列番号1で示されるものである。
もう一つの好適な例において、前記野生型リジル-tRNA合成酵素のアミノ酸配列は配列番号2で示されるものである。
もう一つの好適な例において、前記19番目のアルギニン(R)はヒスチジン(H)またはリジン(K)に、ならびに/あるいは、
29番目のヒスチジン(H)はアルギニン(R)またはリジン(K)に突然変異している。
もう一つの好適な例において、前記突然変異型リジル-tRNA合成酵素における突然変異は、R19H、R19K、H29R、H29K、またはこれらの組み合わせからなる群から選ばれる。
もう一つの好適な例において、前記突然変異型リジル-tRNA合成酵素は、さらに、26番目のイソロイシン(I)、122番目のスレオニン(T)、309番目のロイシン(L)、348番目のシステイン(C)、384番目のチロシン(Y)、またはこれらの組み合わせからなる群から選ばれる部位で生じた突然変異を含む。
もう一つの好適な例において、前記突然変異型リジル-tRNA合成酵素の突然変異部位は、さらに、26番目のイソロイシン(I)を含み、好ましくは、前記26番目のイソロイシン(I)がバリン(V)に突然変異している。
もう一つの好適な例において、前記突然変異型リジル-tRNA合成酵素の突然変異部位は、さらに、122番目のスレオニン(T)を含み、好ましくは、前記122番目のスレオニン(T)がトリプトファン(S)に突然変異している。
もう一つの好適な例において、前記突然変異型リジル-tRNA合成酵素の突然変異部位は、さらに、309番目のロイシン(L)を含み、好ましくは、前記309番目のロイシン(L)がアラニン(A)に突然変異している。
もう一つの好適な例において、前記突然変異型リジル-tRNA合成酵素の突然変異部位は、さらに、348番目のシステイン(C)を含み、好ましくは、前記348番目のシステイン(C)がトリプトファン(S)に突然変異している。
もう一つの好適な例において、前記突然変異型リジル-tRNA合成酵素の突然変異部位は、さらに、384番目のチロシン(Y)を含み、好ましくは、前記384番目のチロシン(Y)がフェニルアラニン(F)に突然変異している。
もう一つの好適な例において、前記突然変異型リジル-tRNA合成酵素は、さらに、I26V、T122S、L309A、C348S、Y384F、またはこれらの組み合わせからなる群から選ばれる突然変異を含む。
もう一つの好適な例において、前記の突然変異型リジル-tRNA合成酵素は、R19HおよびH29Rからなる群から選ばれる突然変異を含む。
もう一つの好適な例において、前記の突然変異型リジル-tRNA合成酵素は、R19KおよびH29Rからなる群から選ばれる突然変異を含む。
もう一つの好適な例において、前記の突然変異型リジル-tRNA合成酵素は、R19HおよびH29Kからなる群から選ばれる突然変異を含む。
もう一つの好適な例において、前記の突然変異型リジル-tRNA合成酵素は、R19KおよびH29Kからなる群から選ばれる突然変異を含む。
もう一つの好適な例において、前記の突然変異型リジル-tRNA合成酵素は、R19H、I26VおよびH29Rからなる群から選ばれる突然変異を含む。
もう一つの好適な例において、前記の突然変異型リジル-tRNA合成酵素は、R19H、H29R、T122SおよびY384Fからなる群から選ばれる突然変異を含む。
もう一つの好適な例において、前記の突然変異型リジル-tRNA合成酵素は、R19H、H29R、L309AおよびC348Sからなる群から選ばれる突然変異を含む。
もう一つの好適な例において、前記の突然変異型リジル-tRNA合成酵素は、前記突然変異(たとえば19および/または29番目、ならびに任意の26、122、309、348および/または384番目)以外、ほかのアミノ酸が配列番号1または配列番号2で示される配列と同様か、ほぼ同様である。
もう一つの好適な例において、前記のほぼ同様とは、多くとも50個(好ましくは1~20個、より好ましくは1~10個)のアミノ酸が相違し、ここで、前記の相違はアミノ酸の置換、欠失または付加を含み、かつ前記の突然変異タンパク質はリジル-tRNA合成酵素の活性を維持している。
もう一つの好適な例において、前記突然変異型リジル-tRNA合成酵素のアミノ酸配列は、配列番号1または配列番号2と比べ、少なくとも70%、好ましくは少なくとも75%、80%、85%、90%、より好ましくは少なくとも95%、96%、97%、98%、99%以上の配列同一性を有する。
もう一つの好適な例において、前記突然変異型リジル-tRNA合成酵素は配列番号1または配列番号2で示される野生型リジル-tRNA合成酵素が突然変異してなるものである。
もう一つの好適な例において、前記突然変異型リジル-tRNA合成酵素は、以下の群から選ばれる:
(1)アミノ酸配列が配列番号3~8のいずれかで示されるポリペプチド、あるいは
(2)配列番号3~8のいずれかで示されるアミノ酸配列が、1個または複数個、好ましくは1~20個、より好ましくは1~15個、さらに好ましくは1~10個、さらに好ましくは1~8個、さらに好ましくは1~3個、最も好ましくは1個のアミノ酸残基の置換、欠失または付加を経てなるもので、(1)に記載のポリペプチドの機能を有する、配列番号3~8のいずれかで示されるアミノ酸配列のポリペプチドから誘導されたポリペプチド。
もう一つの好適な例において、前記突然変異型リジル-tRNA合成酵素のアミノ酸配列は配列番号3~8のいずれかで示されるものである。
もう一つの好適な例において、前記突然変異型リジル-tRNA合成酵素は非天然タンパク質である。
もう一つの好適な例において、前記突然変異型リジル-tRNA合成酵素は、目的タンパク質へのリジン誘導体の導入に使用される。
もう一つの好適な例において、前記突然変異型リジル-tRNA合成酵素は、以下の特徴を有する:
野生型リジル-tRNA合成酵素と比べ、大きい官能基のリジン誘導体を目的タンパク質に導入することができる。
本発明の第二の側面では、単離されたポリヌクレオチドであって、本発明の第一の側面に記載の突然変異型リジル-tRNA合成酵素をコードするポリヌクレオチドを提供する。
もう一つの好適な例において、前記ポリヌクレオチドは、配列番号3~8のいずれかで示されるポリペプチドをコードする。
もう一つの好適な例において、前記のポリヌクレオチドは、DNA配列、RNA配列、またはこれらの組み合わせを含む。
もう一つの好適な例において、前記のポリヌクレオチドは、突然変異型リジル-tRNA合成酵素のORFの横に、さらに、シグナルペプチド、分泌ペプチド、タグ配列(たとえば6His)、またはこれらの組み合わせからなる群から選ばれる補助エレメントを含有する。
本発明の第三の側面では、本発明の第二の側面に記載のポリヌクレオチドを含むベクターを提供する。
もう一つの好適な例において、前記ベクターは、発現ベクター、シャトルベクター、組込みベクターを含む。
もう一つの好適な例において、前記ベクターは、pET、pCW、pUC、pPIC9k、pMA5、またはこれらの組み合わせからなる群から選ばれる。
もう一つの好適な例において、前記ベクターは、pEvolベクターおよび/またはpBADベクターである。
もう一つの好適な例において、前記ベクターは、突然変異型リジル-tRNA合成酵素の発現に使用される。
本発明の第四の側面では、本発明の第三の側面に記載のベクターを含むか、あるいはそのゲノムに本発明の第二の側面に記載のポリヌクレオチドが組み込まれた宿主細胞を提供する。
もう一つの好適な例において、前記宿主細胞は、原核細胞、真核細胞、またはこれらの組み合わせからなる群から選ばれる。
もう一つの好適な例において、前記の宿主細胞は真核細胞、たとえば酵母細胞、植物細胞または動物細胞(たとえば哺乳動物細胞)である。
もう一つの好適な例において、前記の宿主細胞は原核細胞、たとえば大腸菌である。
もう一つの好適な例において、前記の宿主細胞は大腸菌Top10、またはBL21である。
もう一つの好適な例において、前記宿主細胞は、以下のものを含む:
(a) 本発明の第一の側面に記載の突然変異型リジル-tRNA合成酵素、および
(b) 前記突然変異型リジル-tRNA合成酵素の存在下でリジン誘導体と結合できる直交tRNA、ならびに任意に
(c) 目的タンパク質をコードする核酸配列であって、リジン誘導体を導入するための部位に前記直交tRNAによって認識されるコドンが含まれている目的核酸配列。
もう一つの好適な例において、前記宿主細胞は、さらに、以下のものを含む:
(d) リジン誘導体。
もう一つの好適な例において、前記リジン誘導体は、前記突然変異型リジル-tRNA合成酵素の基質である。
もう一つの好適な例において、前記リジン誘導体は、アルキニルオキシカルボニルリジン誘導体、BOC-リジン(t-ブトキシカルボニル-L-リジン)誘導体、脂肪酸アシル化リジン、またはこれらの組み合わせからなる群から選ばれる。
もう一つの好適な例において、前記アルキニルオキシカルボニルリジンの構造は、下記式Iで表される。
Figure 2022527991000001
(ただし、nは0~8である。)
もう一つの好適な例において、前記直交tRNAはサプレッサーtRNA、好ましくはアンバーサプレッサーtRNAである。
もう一つの好適な例において、前記直交tRNAをコードする核酸配列は配列番号9で示されるものである。
GGAAACCTGATCATGTAGATCGAATGGACTCTAAATCCGTTCAGCCGGGTTAGATTCCCGGGGTTTCCGCCA (配列番号9)
もう一つの好適な例において、前記直交tRNAによって認識されるコドンはアンバーコドンである。
もう一つの好適な例において、前記宿主細胞は原核細胞または真核細胞、好ましくは大腸菌である。
本発明の第五の側面では、以下のものを含む発現システムを提供する:
(a) 本発明の第一の側面に記載の突然変異型リジル-tRNA合成酵素、および
(b) 前記突然変異型リジル-tRNA合成酵素の存在下でリジン誘導体と結合できる直交tRNA、ならびに任意に
(c) 目的タンパク質をコードする核酸配列であって、リジン誘導体を導入するための部位に前記直交tRNAによって認識されるコドンが含まれている目的核酸配列。
もう一つの好適な例において、前記発現システムをは、さらに、以下のものを含む:
(d) リジン誘導体。
もう一つの好適な例において、前記リジン誘導体は、アルキニルオキシカルボニルリジン誘導体、BOC-リジン(t-ブトキシカルボニル-L-リジン)誘導体、脂肪酸アシル化リジン、またはこれらの組み合わせからなる群から選ばれる。
もう一つの好適な例において、前記アルキニルオキシカルボニルリジンの構造は、下記式Iで表される。
Figure 2022527991000002
(ただし、nは0~8である。)
もう一つの好適な例において、前記直交tRNAはサプレッサーtRNA、好ましくはアンバーサプレッサーtRNAである。
もう一つの好適な例において、前記直交tRNAの核酸配列は配列番号9で示されるものである。
もう一つの好適な例において、前記直交tRNAによって認識されるコドンはアンバーコドンである。
もう一つの好適な例において、前記発現システムは細胞または細胞抽出液である。
もう一つの好適な例において、前記発現システムは、目的タンパク質へのアルキニルオキシカルボニルリジンの導入または非天然アミノ酸を含む目的タンパク質の製造に使用される。
本発明の第六の側面では、目的タンパク質に非天然アミノ酸を導入する方法であって、以下の工程を含む方法を提供する:
(1) 本発明の第四の側面に記載の宿主細胞または本発明の第五の側面に記載の発現システムを提供する;ならびに
(2) リジン誘導体の存在下で、前記宿主細胞または発現システムにおいて目的タンパク質を発現させる。
もう一つの好適な例において、前記目的タンパク質は、ヒトインスリン前駆体タンパク質、インスリンリスプロの前駆体タンパク質、インスリンガラルギンの前駆体タンパク質、パラトルモン、コルチコレリン、カルシトニン、ビバリルジン、グルカゴン様ペプチドおよびその誘導体であるエキセナチドおよびリラグルチド、ジコノチド、セルモレリン、ソマトレリン、セクレチン、テデュグルチド、ヒルジン、成長ホルモン、成長因子、成長ホルモン放出因子,副腎皮質刺激ホルモン、放出因子、デスロレリン、デスモプレシン、カルボカルシトニン、グルカゴン、ロイプロリド、黄体形成ホルモン放出ホルモン、ソマトスタチン、甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン、トリプトレリン、血管作動性腸管ペプチド、インターフェロン、副甲状腺ホルモン、BH3ペプチド、アミロイドペプチド、または上記ペプチドの断片、あるいはこれらの組み合わせからなる群から選ばれる。
もう一つの好適な例において、前記非天然アミノ酸はリジン誘導体である。
もう一つの好適な例において、前記方法は、以下の工程を含む:
(1) 本発明の第一の側面に記載の突然変異型リジル-tRNA合成酵素、直交tRNA、目的核酸配列を発現する細胞または細胞抽出液を提供する;ならびに
(2) リジン誘導体の存在下で、前記細胞または細胞抽出液を培養することにより、前記直交tRNA合成酵素および直交tRNAで前記リジン誘導体を前記目的タンパク質に導入する。
本発明の第七の側面では、(a)容器と、(b)前記容器内にある本発明の第一の側面に記載の突然変異型リジル-tRNA合成酵素または本発明の第二の側面に記載のポリヌクレオチドとを含むキットを提供する。
もう一つの好適な例において、前記キットは、以下のものを含む:
(i) 前記突然変異型リジル-tRNA合成酵素を発現するための第一発現カセットを含有する第一核酸配列;ならびに/あるいは
(ii) 前記突然変異型リジル-tRNA合成酵素の存在下でリジン誘導体と結合できる直交tRNAを発現するための第二発現カセットを含有する第二核酸配列、ならびに/あるいは
(iii) 目的タンパク質を発現するための第三発現カセットを含有し、目的タンパク質のコード配列がリジン誘導体を導入するための部位に前記直交tRNAによって認識されるコドンが含まれている第三核酸配列。
もう一つの好適な例において、前記キットは、さらに、細胞抽出液を含む。
もう一つの好適な例において、前記の各核酸配列は同一の容器か、異なる容器に位置する。
もう一つの好適な例において、前記の各核酸配列は異なるベクターに位置する。
本発明の第八の側面では、以下のものを含む翻訳システムを提供する:
(a) 本発明の第一の側面に記載の突然変異型リジル-tRNA合成酵素、
(b) 前記突然変異型リジル-tRNA合成酵素の存在下でリジン誘導体と結合できる直交tRNA、ならびに
(c) リジン誘導体。
本発明の第九の側面では、本発明の第一の側面に記載の突然変異型リジル-tRNA合成酵素、または本発明の第四の側面に記載の宿主細胞、または本発明の第五の側面に記載の発現システム、または本発明の第七の側面に記載のキットの使用であって、目的タンパク質への非天然アミノ酸の導入または非天然アミノ酸を含むタンパク質の製造のための使用を提供する。
本発明の第十の側面では、非天然アミノ酸を含む目的タンパク質の製造方法であって、以下の工程を含む方法を提供する:
(1) 本発明の第四の側面に記載の宿主細胞または本発明の第五の側面に記載の発現システムを提供する;ならびに
(2) リジン誘導体の存在下で、前記宿主細胞または発現システムにおいて目的タンパク質を発現させる。
本発明の第十一の側面では、本発明の第一の側面に記載の突然変異型リジル-tRNA合成酵素を生成する方法であって、(i)本発明の第四の側面に記載の宿主細胞を培養することにより、突然変異型リジル-tRNA合成酵素を発現させる工程を含む方法を提供する。
本発明の第十二の側面では、本発明の第一の側面に記載の突然変異型リジル-tRNA合成酵素を含有する酵素製剤を提供する。
もう一つの好適な例において、前記薬物製剤の剤形は、凍結乾燥製剤、液体製剤、またはこれらの組み合わせを含む。
もちろん、本発明の範囲内において、本発明の上記の各技術特徴および下記(たとえば実施例)の具体的に記述された各技術特徴は互いに組合せ、新しい、または好適な技術方案を構成できることが理解される。紙数に限りがあるため、ここで逐一説明しない。
図1は、プラスミドpEvol-pylRs(R19H,H29R)-pylTのマップを示す。
本発明者は、幅広く深く研究したところ、大量のスクリーニングにより、意外に、突然変異型リジル-tRNA合成酵素を得た。野生型リジル-tRNA合成酵素と比べ、本発明の突然変異型リジル-tRNA合成酵素は顕著に非天然アミノ酸の導入量および非天然アミノ酸を含む目的タンパク質の量を向上させることができる。また、本発明の突然変異型リジル-tRNA合成酵素は、断裂しにくくなるように、目的タンパク質の安定性を向上させることもできる。これに基づき、発明者らが本発明を完成した。
用語
本開示が理解しやすくなるように、まず、一部の用語を定義する。本願に用いられるように、本明細書で別途に明確に規定しない限り、以下の用語はいずれも下記の意味を有する。出願全体において、ほかの定義が記述されている。
用語「約」とは当業者によって決定される特定の値または組成の許容される誤差範囲内にある値または組成で、それによって部分的にどのように値または組成を計量または測定するかというのが決まる。たとえば、本明細書で用いられるように、「約100」という表示は99と101およびその間の全部の値(たとえば、99.1、99.2、99.3、99.4など)を含む。
本明細書で用いられるように、用語「含有」または「含む」は開放式、半閉鎖式および閉鎖式のものでもよい。言い換えれば、前記用語は「基本的に・・・で構成される」、または「・・・で構成される」も含む。
配列同一性(または相同性)は、所定の比較ウィンドウ(参照のヌクレオチド配列またはタンパク質の長さの50%、60%、70%、80%、90%、95%または100%でもよい)に沿って2つの整列された配列を比較し、そして同様の残基が現れる位置の数によって確定する。通常、百分率で表示される。ヌクレオチド配列の配列同一性の測定は当業者に熟知の方法である。
本明細書において、「アミノアシル-tRNA合成酵素」、「リジル-tRNA合成酵素」は入れ替えて使用してもよい。
野生型リジル-tRNA合成酵素
本明細書で用いられるように、「野生型リジル-tRNA合成酵素」とは、天然に存在する、人工的に改造されていないアミノアシル-tRNA合成酵素で、そのヌクレオチドは遺伝子工学技術、たとえばゲノムシークエンシング、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によって得られ、そのアミノ酸配列はヌクレオチド配列から推測することができる。前記野生型リジル-tRNA合成酵素の由来は、特に限定されないが、好適な由来はメタン生成古細菌であるメタノサルシナ・マゼイ(Methanosarcina mazei)、メタノサルシナ・バルケリ(Methanosarcina barkeri)およびメタノサルシナ・アセチボランス(Methanosarcina acetivorans)などであるが、これらに限定されない。
本発明の一つの好適な例において、前記野生型リジル-tRNA合成酵素のアミノ酸配列は配列番号1で示されるものである。
MDKKPLNTLISATGLWMSRTGTIHKIKHHEVSRSKIYIEMACGDHLVVNNSRSSRTARALRHHKYRKTCKRCRVSDEDLNKFLTKANEDQTSVKVKVVSAPTRTKKAMPKSVARAPKPLENTEAAQAQPSGSKFSPAIPVSTQESVSVPASVSTSISSISTGATASALVKGNTNPITSMSAPVQASAPALTKSQTDRLEVLLNPKDEISLNSGKPFRELESELLSRRKKDLQQIYAEERENYLGKLEREITRFFVDRGFLEIKSPILIPLEYIERMGIDNDTELSKQIFRVDKNFCLRPMLAPNLYNYLRKLDRALPDPIKIFEIGPCYRKESDGKEHLEEFTMLNFCQMGSGCTRENLESIITDFLNHLGIDFKIVGDSCMVYGDTLDVMHGDLELSSAVVGPIPLDREWGIDKPWIGAGFGLERLLKVKHDFKNIKRAARSESYYNGISTNL (配列番号1)
本発明の一つの好適な例において、前記野生型リジル-tRNA合成酵素のアミノ酸配列は配列番号2で示されるものである。
MDKKPLNTLISATGLWMSRTGTIHKIKHHEVSRSKIYIEMACGDHLVVNNSRSSRTARALRHHKYRKTCKRCRVSDEDLNKFLTKANEDQTSVKVKVVSAPTRTKKAMPKSVARAPKPLENTEAAQAQPSGSKFSPAIPVSTQESVSVPASVSTSISSISTGATASALVKGNTNPITSMSAPVQASAPALTKSQTDRLEVLLNPKDEISLNSGKPFRELESELLSRRKKDLQQIYAEERENYLGKLEREITRFFVDRGFLEIKSPILIPLEYIERMGIDNDTELSKQIFRVDKNFCLRPMLAPNLYNYLRKLDRALPDPIKIFEIGPCYRKESDGKEHLEEFTMLNFCQMGSGCTRENLESIITDFLNHLGIDFKIVGDSCMVYGDTLDVMHGDLELSSAVVGPIPLDREWGIDKPWIGAGFGLERLLKVKHDFKNIKRAARSGSYYNGISTNL (配列番号2)
突然変異型リジル-tRNA合成酵素
本明細書で用いられるように、用語「突然変異タンパク質」、「本発明の突然変異タンパク質」、「本発明の突然変異したアミノアシル-tRNA合成酵素」、「突然変異型リジル-tRNA合成酵素」とは、いずれも、配列番号1または配列番号2で示されるポリペプチドに対して人工的に改造したタンパク質である、天然に存在しない突然変異したアミノアシル-tRNA合成酵素のことであるが、入れ替えて使用することができる。具体的に、前記突然変異したアミノアシル-tRNA合成酵素は、本発明の第一の側面に記載の通りである。
なお、本発明の突然変異型リジル-tRNA合成酵素におけるアミノ酸の番号は、野生型リジル-tRNA合成酵素(好ましくは、配列番号1または配列番号2)を基につけられたものである。ある具体的な突然変異タンパク質と配列番号1または配列番号2で示される配列の相同性が80%またはそれ以上に達する場合、突然変異タンパク質のアミノ酸の番号は配列番号1または配列番号2のアミノ酸の番号とずれ、たとえばアミノ酸のN末端またはC末端が1~5番ずれることがあるが、本分野の通常の配列アライメント技術によれば、当業者にはこのようなずれが合理的な範囲内にあることがわかり、かつアミノ酸の番号のずれで、相同性が80%(たとえば90%、95%、98%)に達する、同様または類似の糖転移酵素活性を有する突然変異タンパク質が本発明の突然変異の範囲内に入らないことはない。
本発明の突然変異タンパク質は、合成タンパク質または組換えタンパク質で、すなわち、化学合成の産物でもよく、あるいは組換え技術で原核または真核宿主(たとえば、細菌、酵母、植物)から生成するものでもよい。組み換え生産プロセスで用いられる宿主によって、本発明の突然変異タンパク質は、グリコシル化されたものでもよく、又はグリコシル化されていないものでもよい。また、本発明の突然変異タンパク質は、開始のメチオニン残基を含有してもよく、含有しなくてもよい。
本発明は、さらに、前記突然変異タンパク質の断片、誘導体および類似物を含む。本明細書で用いられるように、用語の「断片」、「誘導体」および「類似物」とは、実質的に前記突然変異タンパク質と同じ生物学的機能または活性を維持するタンパク質である。
本発明の突然変異タンパク質の断片、誘導体や類似物は、(i)1個または複数個の保存的または非保存的なアミノ酸残基(好ましくは保存的なアミノ酸残基)が置換された突然変異タンパク質でもよく、置換されたアミノ酸残基が遺伝コードでコードされてもされていなくてもよく、または(ii)1個または複数個のアミノ酸残基に置換基がある突然変異タンパク質でもよく、または(iii)成熟の突然変異タンパク質と他の化合物(たとえば、ポリエチレングリコールのような突然変異タンパク質の半減期を延ばす化合物)と融合した突然変異タンパク質でもよく、または(iv)付加のアミノ酸配列がこの突然変異タンパク質に融合した突然変異タンパク質(たとえばリーダー配列または分泌配列またはこの突然変異タンパク質を精製するための配列または蛋白質前駆体配列、あるいは抗原IgG断片と形成した融合蛋白質)でもよい。本明細書の開示に基づき、これらの断片、誘導体および類似体は当業者に公知の範囲に入っている。本発明において、保存的に置き換えたアミノ酸は、表Iのようにアミノ酸の置き換えを行って生成することが好ましい。
Figure 2022527991000003
PylRSのアミノ酸基質の認識は、触媒活性ドメインの立体構造に関連し、野生型PylRSが活性化可能なリジン誘導体の大きさが限られ、大きい官能基を有するリジン誘導体がタンパク質に導入することができなうため、PylRS部位に対する突然変異により、基質の結合の立体障害、あるいは突然変異アミノ酸と基質アミノ酸または主鎖部分との相互作用を避けることで、効果を向上させる。
好適に、前記の突然変異タンパク質は、配列番号3~8のいずれかで示される。
MDKKPLNTLISATGLWMSHTGTIHKVKHREVSRSKIYIEMACGDHLVVNNSRSSRTARALRHHKYRKTCKRCRVSDEDLNKFLTKANEDQTSVKVKVVSAPTRTKKAMPKSVARAPKPLENTEAAQAQPSGSKFSPAIPVSTQESVSVPASVSTSISSISTGATASALVKGNTNPITSMSAPVQASAPALTKSQTDRLEVLLNPKDEISLNSGKPFRELESELLSRRKKDLQQIYAEERENYLGKLEREITRFFVDRGFLEIKSPILIPLEYIERMGIDNDTELSKQIFRVDKNFCLRPMLAPNLYNYLRKLDRALPDPIKIFEIGPCYRKESDGKEHLEEFTMLNFCQMGSGCTRENLESIITDFLNHLGIDFKIVGDSCMVYGDTLDVMHGDLELSSAVVGPIPLDREWGIDKPWIGAGFGLERLLKVKHDFKNIKRAARSESYYNGISTNL (配列番号3)
MDKKPLNTLISATGLWMSHTGTIHKIKHREVSRSKIYIEMACGDHLVVNNSRSSRTARALRHHKYRKTCKRCRVSDEDLNKFLTKANEDQTSVKVKVVSAPTRTKKAMPKSVARAPKPLENSEAAQAQPSGSKFSPAIPVSTQESVSVPASVSTSISSISTGATASALVKGNTNPITSMSAPVQASAPALTKSQTDRLEVLLNPKDEISLNSGKPFRELESELLSRRKKDLQQIYAEERENYLGKLEREITRFFVDRGFLEIKSPILIPLEYIERMGIDNDTELSKQIFRVDKNFCLRPMLAPNLYNYLRKLDRALPDPIKIFEIGPCYRKESDGKEHLEEFTMLNFCQMGSGCTRENLESIITDFLNHLGIDFKIVGDSCMVFGDTLDVMHGDLELSSAVVGPIPLDREWGIDKPWIGAGFGLERLLKVKHDFKNIKRAARSESYYNGISTNL (配列番号4)
MDKKPLNTLISATGLWMSHTGTIHKIKHREVSRSKIYIEMACGDHLVVNNSRSSRTARALRHHKYRKTCKRCRVSDEDLNKFLTKANEDQTSVKVKVVSAPTRTKKAMPKSVARAPKPLENTEAAQAQPSGSKFSPAIPVSTQESVSVPASVSTSISSISTGATASALVKGNTNPITSMSAPVQASAPALTKSQTDRLEVLLNPKDEISLNSGKPFRELESELLSRRKKDLQQIYAEERENYLGKLEREITRFFVDRGFLEIKSPILIPLEYIERMGIDNDTELSKQIFRVDKNFCLRPMLAPNLYNYARKLDRALPDPIKIFEIGPCYRKESDGKEHLEEFTMLNFSQMGSGCTRENLESIITDFLNHLGIDFKIVGDSCMVYGDTLDVMHGDLELSSAVVGPIPLDREWGIDKPWIGAGFGLERLLKVKHDFKNIKRAARSESYYNGISTNL (配列番号5)
MDKKPLNTLISATGLWMSHTGTIHKIKHREVSRSKIYIEMACGDHLVVNNSRSSRTARALRHHKYRKTCKRCRVSDEDLNKFLTKANEDQTSVKVKVVSAPTRTKKAMPKSVARAPKPLENTEAAQAQPSGSKFSPAIPVSTQESVSVPASVSTSISSISTGATASALVKGNTNPITSMSAPVQASAPALTKSQTDRLEVLLNPKDEISLNSGKPFRELESELLSRRKKDLQQIYAEERENYLGKLEREITRFFVDRGFLEIKSPILIPLEYIERMGIDNDTELSKQIFRVDKNFCLRPMLAPNLYNYLRKLDRALPDPIKIFEIGPCYRKESDGKEHLEEFTMLNFCQMGSGCTRENLESIITDFLNHLGIDFKIVGDSCMVYGDTLDVMHGDLELSSAVVGPIPLDREWGIDKPWIGAGFGLERLLKVKHDFKNIKRAARSESYYNGISTNL (配列番号6)
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もちろん、本発明の突然変異タンパク質は配列番号1または配列番号2で示される配列と比べ、通常、高い相同性(同一性)を有し、好ましくは、前記の突然変異タンパク質は配列番号1または配列番号2で示される配列との相同性が少なくとも80%、好ましくは少なくとも85%~90%、より好ましくは少なくとも95%、さらに好ましくは少なくとも98%で、最も好ましくは99%である。
また、本発明の突然変異タンパク質を修飾してもよい。修飾(通常は一次構造が変わらない)形態は、体内または体外の突然変異タンパク質の化学的に誘導された形態、たとえばアセチル化またはカルボキシ化を含む。修飾は、さらにグリコシル化、たとえば突然変異タンパク質の合成および加工でまたはさらなる加工の工程でグリコシル化修飾を行った突然変異タンパク質も含む。このような修飾は、突然変異タンパク質をグルコシル化する酵素(たとえば哺乳動物のグリコシル化酵素または脱グリコシル化酵素)に露出させることによって完成する。修飾形態は、さらにリン酸化アミノ酸残基(たとえばリン酸チロシン、リン酸セリン、リン酸トレオニン)を有する配列を含む。さらに、修飾によって抗タンパク質加水分解性を向上させた突然変異タンパク質または溶解性を改善した突然変異タンパク質を含む。
用語「突然変異型リジル-tRNA合成酵素をコードするポリヌクレオチド」は、本発明の突然変異型リジル-tRNA合成酵素をコードするポリヌクレオチドを含んでもよく、さらに付加のコードおよび/または非コード配列が付加されたポリヌクレオチドを含んでもよい。
本発明は、さらに、本発明と同じアミノ酸配列を有するポリペプチドまたは突然変異タンパク質の断片、類似物および誘導体をコードする上記ポリヌクレオチドの変異体に関する。これらのヌクレオチド変異体は、置換変異体、欠失変異体および挿入変異体を含む。本分野で知られているように、対立遺伝子変異体は、ポリヌクレオチドの代替形態で、1つまたは2つ以上のヌクレオチドの置換、欠失または挿入でもよいが、実質的にコードする突然変異タンパク質の機能を変えることはない。
本発明は、さらに、上記の配列とハイブリダイズし、かつ2つの配列の間に少なくとも50%、好ましくは少なくとも70%、より好ましくは少なくとも80%の相同性を有するポリヌクレオチドに関する。本発明は、特に、厳格な条件で本発明に係るポリヌクレオチドとハイブリダイズできるポリヌクレオチドに関する。本発明において、「厳格な条件」とは、(1)低いイオン強度および高い温度、たとえば0.2×SSC、0.1%SDS、60℃でのハイブリダイズおよび溶離、あるいは(2)ハイブリダイズ時変性剤、たとえば42℃で50%(v/v)ホルムアミド、0.1%ウシ胎児血清/0.1% Ficollなどを入れること、あるいは(3)2つの配列の間の相同性が少なくとも90%以上、好ましくは95%以上の時だけハイブリダイズすることである。
本発明の突然変異タンパク質およびポリヌクレオチドは、好ましくは分離された形態で提供し、より好ましくは均質に精製される。
本発明のポリヌクレオチドの全長配列は、通常、PCR増幅法、組換え法または人工合成の方法で得られる。PCR増幅法について、本発明で公開された関連のヌクレオチド配列、特に読み枠によってプライマーを設計し、市販のcDNAライブラリーまたは当業者に既知の通常の方法によって調製されるcDNAライブラリーを鋳型とし、増幅して関連配列を得る。配列が長い場合、通常、2回または2回以上のPCR増幅を行った後、各回の増幅で得られた断片を正確な順でつなげる必要がある。
関連の配列を獲得すれば、組み換え法で大量に関連配列を獲得することができる。この場合、通常、その配列をベクターにクローンした後、細胞に導入し、さらに通常の方法で増殖させた宿主細胞から関連配列を単離して得る。
また、特に断片の長さが短い場合、人工合成の方法で関連配列を合成してもよい。通常、まず多数の小さい断片を合成し、そして連接させることにより、配列の長い断片を得ることができる。
現在、本発明のタンパク質(またはその断片、あるいはその誘導体)をコードするDNA配列は全部化学合成で獲得することがすでに可能である。さらに、このDNA配列を本分野で周知の各種の既知のDNA分子(あるいはベクターなど)や細胞に導入してもよい。また、化学合成で本発明のタンパク質配列に変異を導入することもできる。
本発明のポリヌクレオチドを得るには、PCR技術でDNA/RNAを増幅する方法が好適に使用される。特にライブラリーから全長のcDNAを得ることが困難な場合、好適にRACE法(RACE-cDNA末端快速増幅法)を使用し、PCRに使用されるプライマーはここで公開された本発明の配列情報によって適切に選択し、かつ通常の方法で合成することができる。通常の方法、たとえばゲル電気泳動によって増幅されたDNA/RNA断片を単離、精製することができる。
発現ベクター
本発明は、本発明のポリヌクレオチドを含むベクター、および本発明のベクターまたは本発明の突然変異タンパク質コード配列で遺伝子工学によって生成する宿主細胞、ならびに組み換え技術によって本発明に係るポリペプチドを生成する方法にも関する。
通常の組み換えDNA技術によって、本発明のポリヌクレオチド配列で組み換えの突然変異タンパク質を発現または生産することができる。一般的に、以下の工程を含む:
(1)本発明の本発明の突然変異タンパク質をコードするポリヌクレオチド(または変異体)を使用し、あるいはこのポリヌクレオチドを含む組換え発現ベクターを使用し、適切な宿主細胞を形質転換または形質導入する。
(2)適切な培地において宿主細胞を培養する;
(3)培地または細胞からタンパク質を分離し、精製する。
本発明において、突然変異タンパク質をコードするポリヌクレオチド配列は組換え発現ベクターに挿入してもよい。用語「組み換え発現ベクター」とは、本分野でよく知られている細菌プラスミド、ファージ、酵母プラスミド、植物細胞ウイルス、哺乳動物ウイルス、たとえばアデノウイルス、レトロウイルスまたはほかのベクターである。宿主体内で安定して複製することができれば、どんなプラスミドおよびベクターでも使用できる。発現ベクターの重要な特徴の一つは、通常、複製起点、プロモーター、マーカー遺伝子および翻訳制御エレメントを含むことである。
本発明の突然変異タンパク質のコードDNA配列および適切な転写/翻訳制御シグナルを含む発現ベクターの構築に当業者によく知られている方法を使用することができる。これらの方法は、体外組み換えDNA技術、DNA合成技術、体内組み換え技術などを含む。前記のDNA配列は、有効に発現ベクターにおける適切なプロモーターに連結し、mRNA合成を指導することができる。これらのプロモーターの代表的な例として、大腸菌のlacまたはtrpプロモーター、λファージのPLプロモーター、CMV前初期プロモーター、HSVチミジンキナーゼプロモーター、初期および後期SV40プロモーターを含む真核プロモーター、レトロウイルスのLTRsやほかの既知の制御可能な遺伝子の原核または真核細胞あるいはそのウイルスにおける発現されるプロモーターが挙げられる。発現ベクターは、さらに、翻訳開始用リボゾーム結合部位および転写ターミネーターを含む。
また、発現ベクターは、好ましくは1つまたは2つ以上の選択性マーカー遺伝子を含み、形質転換された宿主細胞を選択するための形質、たとえば真核細胞培養用のジヒドロ葉酸レダクターゼ、ネオマイシン耐性および緑色蛍光タンパク質(GFP)、あるいは大腸菌用のテトラサイクリンまたはアンピシリン耐性を提供する。
上記の適切なDNA配列及び適切なプロモーターまたは制御配列を含むベクターは、適切な宿主細胞を形質転換し、タンパク質を発現するようにすることができる。
宿主細胞は、原核細胞、たとえば細菌細胞、あるいは、低等真核細胞、たとえば酵母細胞、あるいは、高等真核細胞、たとえば哺乳動物細胞でもよい。代表例として、大腸菌、ストレプトマイセス属、ネズミチフス菌のような細菌細胞、酵母のような真菌細胞、植物細胞(たとえばオタネニンジン細胞)がある。
本発明のポリヌクレオチドが高等真核細胞において発現される場合、ベクターにエンハンサー配列を挿入すると転写が強化される。エンハンサーは、DNAのシスエレメントで、通常、約10~300bpで、プロモーターに作用して遺伝子の転写を強化する。例を挙げると、複製起点の後期側にある100~270bpのSV40エンハンサー、複製起点の後期側にあるポリオーマエンハンサーおよびアデノウイルスエンハンサーなどを含む。
当業者は、どうやって適切なベクター、プロモーター、エンハンサーおよび宿主細胞を選択するか、よくわかる。
DNA組み換えによる宿主細胞の形質転換は当業者に熟知の通常の技術で行ってもよい。宿主が原核細胞、たとえば大腸菌である場合、DNAを吸収できるコンピテントセルは指数成長期後収集でき、CaCl2法で処理し、用いられる工程は本分野では周知のものである。もう一つの方法は、MgCl2を使用する。必要により、形質転換はエレクトロポレーションの方法でもよい。宿主が真核生物の場合、リン酸カルシウム沈殿法、マイクロインジェクション、エレクトロポレーションのような通常の機械方法、リポフェクションなどのDNAトランスフェクションの方法が用いられる。
得られる形質転換体は通常の方法で培養し、本発明の遺伝子がコードするポリペプチドを発現することができる。用いられる宿主細胞によって、培養に用いられる培地は通常の培地を選んでもよい。宿主細胞の成長に適する条件で培養する。宿主細胞が適当の細胞密度に成長したら、適切な方法(たとえば温度転換もしくは化学誘導)で選んだプロモーターを誘導し、さらに細胞を培養する。
上記の方法における組み換えポリペプチドは細胞内または細胞膜で発現し、あるいは細胞外に分泌することができる。必要であれば、その物理・化学的特性およびほかの特性を利用して各種の単離方法で組み換えタンパク質を単離・精製することができる。これらの方法は、本分野の技術者に熟知である。これらの方法の例として、通用の再生処理、タンパク質沈殿剤による処理(塩析法)、遠心、浸透圧ショック、超音波処理、超遠心、分子篩クロマトグラフィー(ゲルろ過)、吸着クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)およびほかの各種の液体クロマトグラフィー技術、ならびにこれらの方法の組合せを含むが、これらに限定されない。
既存技術と比べ、本発明は主に以下の利点を有する。
本発明では、大量にスクリーニングおよび改造を行ったところ、初めて、野生型リジル-tRNA合成酵素(たとえば、配列番号1または2)における19番目のアルギニン(R)および/または29番目のヒスチジン(H)に相当する部位で突然変異すると、得られる突然変異型リジル-tRNA合成酵素は、大きい官能基のリジン誘導体をタンパク質に導入できることが見出された。
野生型リジル-tRNA合成酵素と比べ、本発明の突然変異型リジル-tRNA合成酵素は顕著に非天然アミノ酸の導入量および非天然アミノ酸を含む目的タンパク質の量を向上させることができる。また、本発明の突然変異型リジル-tRNA合成酵素は、断裂しにくくなるように、目的タンパク質の安定性を向上させることもできる。
また、本発明では、リジル-tRNA合成酵素のほかの部位、たとえば、26、122、309、348および/または384番目などの部位における一つまたは複数のアミノ酸を突然変異させると、さらに非天然アミノ酸の導入量、非天然アミノ酸を含有する目的タンパク質の量および/または目的タンパク質の安定性が向上できることが見出された。
以下、具体的な実施例によって、さらに本発明を説明する。これらの実施例は本発明を説明するために用いられるものだけで、本発明の範囲の制限にはならないと理解されるものである。下記実施例で具体的な条件が示されていない実験方法は、通常、たとえばSambrookら、「モレキュラー・クローニング:研究室マニュアル」(ニューヨーク、コールド・スプリング・ハーバー研究所出版社、1989) に記載の条件などの通常の条件に、あるいは、メーカーのお薦めの条件に従う。特に断らない限り、%と部は、重量で計算された。
特に説明しない限り、本発明の実施例における試薬および材料はいずれも市販品である。
実施例1 突然変異体の構築
野生型リジル-tRNA合成酵素pylRsのアミノ酸配列1(配列番号1)に基づき、発現ベクタープラスミドpEvol-pBpF(NTCC社から購入され、クロラムフェニコール耐性である)のaraBADプロモーターの下流のSpeI-SalI部位にクローニングしたが、ここで、SpeI酵素切断部位はPCR方法によって付加されたもので、SalI部位はベクター自身が持つものである。発現ベクタープラスミドpEvol-pBpFの元のグルタミンプロモーターglnSをそのままにした。発現ベクタープラスミドpEvol-pBpFのproKプロモーターの下流に、PCR方法によってリジル-tRNA合成酵素のtRNA(pylTcua)のDNA配列(配列番号9)を挿入した。当該プラスミドはpEvol-pylRs-pylTと名付けられた。
野生型リジル-tRNA合成酵素pylRsのアミノ酸配列(配列番号1)に基づき、突然変異R19Hを導入し、アミノ酸配列が配列番号7で示される突然変異型リジル-tRNA合成酵素pylRs(R19H)を得た。野生型リジル-tRNA合成酵素pylRsのアミノ酸配列(配列番号1)に基づき、突然変異H29Rを導入し、アミノ酸配列が配列番号8で示される突然変異型リジル-tRNA合成酵素pylRs(H29R)を得た。野生型リジル-tRNA合成酵素pylRsのアミノ酸配列(配列番号1)に基づき、突然変異R19H、H29Rを導入し、アミノ酸配列が配列番号6で示される突然変異型リジル-tRNA合成酵素pylRs(R19H,H29R)を得た。野生型リジル-tRNA合成酵素pylRsのアミノ酸配列(配列番号1)に基づき、突然変異R19H、I26V、H29Rを導入し、アミノ酸配列が配列番号3で示される突然変異型リジル-tRNA合成酵素pylRs(R19H,I26V,H29R)を得た。野生型リジル-tRNA合成酵素pylRsのアミノ酸配列(配列番号1)に基づき、突然変異R19H、H29R、T122S、Y384Fを導入し、アミノ酸配列が配列番号4で示される突然変異型リジル-tRNA合成酵素pylRs(R19H,H29R,T122S,Y384F)を得た。野生型リジル-tRNA合成酵素pylRsのアミノ酸配列(配列番号1)に基づき、突然変異R19H、H29R、L309A、C348Sを導入し、アミノ酸配列が配列番号5で示される突然変異型リジル-tRNA合成酵素pylRs(R19H,H29R,L309A,C348S)を得た。
プラスミドpEvol-pylRs-pylTを鋳型とし、プライマーを設計したが、配列番号10および配列番号11に示される通りで、部位特異的突然変異R19Hが導入された。PCR産物をDpnIで処理し、核酸電気泳動によって分離し、アガロースゲルDNA回収キットによって抽出し、T4 DNA Ligaseで連結させ、化学法(CaCl2法)によってE.coli Top10感受性細胞を形質転換させ、前記形質転換した細胞をクロラムフェニコール含有LB寒天番地(10g/L酵母トリプトン、5g/L酵母抽出物、10g/L NaCl、1.5%寒天)において37℃で一晩培養した。単一の生存集落を取り、クロラムフェニコール含有液体LB培地(10g/L酵母トリプトン、5g/L酵母抽出物、10g/L NaCl)において37℃、220 rpmで一晩培養した。プラスミドミニプレップキットによってプラスミドを抽出し、得られたプラスミドはEvol-pylRs(R19H)-pylTと名付けられた。
プラスミドpEvol-pylRs-pylTを鋳型とし、プライマーを設計したが、配列番号12および配列番号13に示される通りで、部位特異的突然変異H29Rが導入されたが、得られたプラスミドはpEvol-pylRs(H29R)-pylTと名付けられた。
プラスミドpEvol-pylRs(R19H)-pylTを鋳型とし、プライマーを設計したが、配列番号12および配列番号13に示される通りで、部位特異的突然変異H29Rが導入されたが、得られたプラスミドはpEvol-pylRs(R19H,H29R)-pylTと名付けられた。プラスミドのマップは図1に示す。
5’-ATACCGGCACCATCCACAAG-3’ (配列番号10)
5’-GGCTCATCCACAGACCAGTT -3’ (配列番号11)
5’-GCGAGGTTTCCCGTAGCAAA -3’ (配列番号12)
5’- GGTGTTTGATCTTGTGGATGGT-3’ (配列番号13)
さらに、上記方法によってそれぞれpEvol-pylRs(R19H , I26V, H29R)-pylT、プラスミドpEvol-pylRs(R19H, H29R, T122S, Y384F)-pylTおよびプラスミドpEvol-pylRs(R19H , H29R, L309A, C348S)-pylT構築した。
実施例2 菌種の構築およびt-ブトキシカルボニル(Boc)修飾融合タンパク質の高密度発現
プラスミドpEvol-pylRs-pylT、プラスミドpEvol-pylRs(R19H)-pylT、プラスミドpEvol-pylRs (H29R)-pylT、プラスミドpEvol-pylRs(R19H,H29R)-pylT、プラスミドpEvol-pylRs(R19H, I26V, H29R)-pylTおよびプラスミドpEvol-pylRs(R19H, H29R, T122S, Y384F)-pylTをそれぞれインスリン融合タンパク質発現ベクターpBAD-INS(カナマイシン耐性)と化学法(CaCl2法)によってE.coli Top10感受性細胞に共形質転換させ(感受性細胞はThermo社から購入される)、前記形質転換した細胞を25μg/mLのカナマイシンおよび17μg/mLのクロラムフェニコールを含有するLB寒天培地(10g/L酵母トリプトン、5g/L酵母抽出物、10g/L NaCl、1.5%寒天)において37℃で一晩培養した。単一の生存集落を取り、25μg/mLのカナマイシンおよび17μg/mLのクロラムフェニコールを含有する液体LB培地(10g/L酵母トリプトン、5g/L酵母抽出物、10g/L NaCl)において37℃、220 rpmで一晩培養した。最終濃度が20%になるように菌種を保存した。
各菌種を液体LB培地に接種して37℃、220 rpmで一晩培養し、1%(v/v)でタンク発酵培地(12g/L酵母トリプトン、24g/L酵母抽出物、4mL/Lグリセリン、12.8g/Lリン酸水素二ナトリウム、3g/Lリン酸二水素カリウム、0.3‰消泡剤)で接種し、35(±3)℃、200~1000 rpm、空気流量2~6 L/minの条件において培養した。3~10 h培養した後、段階的な速度でグリセリンおよび酵母トリプトンを含有する追加培地を流し、発酵終了まで続けた。OD600が25~80になるまで培養すると、最終濃度0.25%のL-araおよび最終濃度5 mMのBoc-Lysを入れて誘導した。続いてOD600が180~220になるまで培養し、タンクを開放した。その後、遠心して(5000 rpm、30 min、25℃)収集した。SDS-ポリアクリルアミド電気泳動によって各菌種の全細胞におけるBoc修飾リジンを含有する融合タンパク質の発現状況を検出した。
融合タンパク質は不溶性の「封入体」の様態で発現される。封入体を放出させるために、高圧ホモジナイザーで大腸菌の細胞を破砕した。10000 gの遠心によって核酸、細胞の破片および可溶性タンパク質を除去した。純粋で融合タンパク質を含有する封入体を洗浄し、得られた封入体の沈殿をフォールディングの原料として使用した。
異なる突然変異酵素の融合タンパク質の発現量は、下記表に示す。
Figure 2022527991000004
融合タンパク質をリフォールディングさせるために、封入体をpH 10.5で2~10 mMのメルカプトエタノールを含有する7.5 Mウレア溶液に、溶解後の全タンパク質の濃度が10~25 mg/mLになるように溶解させた。サンプルを5~10倍希釈し、4~8℃、pHが10.5~11.7の条件において通常のフォールディングを16~30時間させた。18~25℃で、 pH値を8.0~9.5に維持しながら、トリプターゼおよびカルボキシペプチダーゼBで融合タンパク質を10~20時間酵素分解した後、0.45 M硫酸アンモニウムを入れて酵素分解反応を停止させた。逆相HPLC分析の結果から、当該酵素分解工程の収率が90%以上であったことがわかる。トリプターゼおよびカルボキシペプチダーゼBによる酵素分解で得られたインスリン類似体はBOC-リジンインスリンと名付けられた。Boc-リジンインスリンは上記条件において酵素分解されない。膜ろ過によってサンプルを清澄にし、0.45 mM硫酸アンモニウムを緩衝液とし、疎水クロマトグラフィーによって初期精製を行ったところ、SDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動による純度は90%に達した。そして、得られたBoc-ヒトインスリンについてMALDI-TOF質量分析を行った結果、その分子量が理論分子量の5907.7Daに合致することがわかった。疎水クロマトグラフィーによって溶離させてサンプルを収集し、塩酸を入れてBoc-ヒトリンスリンの脱保護反応を行い、水酸化ナトリウム溶液を入れてpHを2.8~3.2にして反応を停止させ、さらに2段階の高圧逆相クロマトグラフィーを行ったところ、組み換えヒトインスリンの収率は85%超であった。
異なる突然変異酵素の組み換えヒトインスリンの発現量は、下記表に示す。
Figure 2022527991000005
結果から、本発明の突然変異酵素を利用してBoc-リジンを含有する目的タンパク質を製造すると、非天然アミノ酸の導入量および非天然アミノ酸を含む目的タンパク質の量を向上させることができることがわかる。
実施例3 菌種の構築およびブチノキシカルボニル修飾融合タンパク質の高密度発現
プラスミドpEvol-pylRs-pylT、プラスミドpEvol-pylRs(R19H)-pylT、プラスミドpEvol-pylRs (H29R)-pylT、プラスミドpEvol-pylRs(R19H,H29R)-pylT、プラスミドpEvol-pylRs(R19H, I26V, H29R)-pylTおよびプラスミドpEvol-pylRs(R19H, H29R, L309A, C348S)-pylTをそれぞれインスリン融合タンパク質発現ベクターpBAD-INS(プラスミドは当社で構築され、カナマイシン耐性のものである)と化学法(CaCl2法)によってE.coli Top10感受性細胞に共形質ラットせ(感受性細胞はThermo社から購入される)、前記形質転換した細胞を25μg/mLのカナマイシンおよび17μg/mLのクロラムフェニコールを含有するLB寒天培地(10g/L酵母トリプトン、5g/L酵母抽出物、10g/L NaCl、1.5%寒天)において37℃で一晩培養した。単一の生存集落を取り、25μg/mLのカナマイシンおよび17μg/mLのクロラムフェニコールを含有する液体LB培地(10g/L酵母トリプトン、5g/L酵母抽出物、10g/L NaCl)において37℃、220 rpmで一晩培養した。最終濃度が20%になるように菌種を保存した。
各菌種を液体LB培地に接種して37℃、220 rpmで一晩培養し、1%(v/v)でタンク発酵培地(12g/L酵母トリプトン、24g/L酵母抽出物、4mL/Lグリセリン、12.8g/Lリン酸水素二ナトリウム、3g/Lリン酸二水素カリウム、0.3‰消泡剤)で接種し、35(±3)℃、200~1000 rpm、空気流量2~6 L/minの条件において培養した。3~10 h培養した後、段階的な速度でグリセリンおよび酵母トリプトンを含有する追加培地を流し、発酵終了まで続けた。OD600が25~80になるまで培養すると、最終濃度0.25%のL-araおよび最終濃度5 mMのブチノキシカルボニル-Lysを入れて誘導した。続いてOD600が180~220になるまで培養し、タンクを開放した。その後、遠心して(5000 rpm、30 min、25℃)収集した。SDS-ポリアクリルアミド電気泳動によって各菌種の全細胞におけるブチノキシカルボニル修飾リジンを含有する融合タンパク質の発現状況を検出した。
Figure 2022527991000006
融合タンパク質は不溶性の「封入体」の様態で発現される。封入体を放出させるために、高圧ホモジナイザーで大腸菌の細胞を破砕した。10000 gの遠心によって核酸、細胞の破片および可溶性タンパク質を除去した。純粋で融合タンパク質を含有する封入体を洗浄し、得られた封入体の沈殿をフォールディングの原料として使用した。融合タンパク質をリフォールディングさせるために、封入体をpH 10.5で2~10 mMのメルカプトエタノールを含有する7.5 Mウレア溶液に、溶解後の全タンパク質の濃度が10~25 mg/mLになるように溶解させた。サンプルを5~10倍希釈し、4~8℃、pHが10.5~11.7の条件において通常のフォールディングを16~30時間させた。18~25℃で、 pH値を8.0~9.5に維持しながら、トリプターゼおよびカルボキシペプチダーゼBで融合タンパク質を10~20時間酵素分解した後、0.45 M硫酸アンモニウムを入れて酵素分解反応を停止させた。逆相HPLC分析の結果から、当該酵素分解工程の収率が90%以上であったことがわかる。トリプターゼおよびカルボキシペプチダーゼBによる酵素分解で得られたインスリン類似体はブチノキシカルボニル-リジンインスリンと名付けられた。ブチノキシカルボニル-リジンインスリンは上記条件において酵素分解されない。膜ろ過によってサンプルを清澄にし、0.45 mM硫酸アンモニウムを緩衝液とし、疎水クロマトグラフィーによって初期精製を行ったところ、SDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動による純度は90%に達した。そして、得られたブチノキシカルボニル-ヒトインスリンについてMALDI-TOF質量分析を行った結果、その分子量が理論分子量の5907.7Daに合致することがわかった。
Figure 2022527991000007
結果から、本発明の突然変異酵素を利用してブチノキシカルボニル修飾の目的タンパク質を製造すると、非天然アミノ酸の導入量および非天然アミノ酸を含む目的タンパク質の量を向上させることができることがわかる。
各文献がそれぞれ単独に引用されるように、本発明に係るすべての文献は本出願で参考として引用する。また、本発明の上記の内容を読み終わった後、当業者が本発明を各種の変動や修正をすることができるが、それらの等価の形態のものは本発明の請求の範囲に含まれることが理解されるはずである。

Claims (10)

  1. 野生型リジル-tRNA合成酵素のアミノ酸配列における19番目のアルギニン(R)および/または29番目のヒスチジン(H)に相当する部位で突然変異したことを特徴とする、突然変異型リジル-tRNA合成酵素。
  2. 前記突然変異型リジル-tRNA合成酵素は、さらに、26番目のイソロイシン(I)、122番目のスレオニン(T)、309番目のロイシン(L)、348番目のシステイン(C)、384番目のチロシン(Y)、またはこれらの組み合わせからなる群から選ばれる部位で生じた突然変異を含むことを特徴とする、請求項1に記載の突然変異型リジル-tRNA合成酵素。
  3. 前記突然変異型リジル-tRNA合成酵素は、以下の群から選ばれることを特徴とする、請求項1に記載の突然変異型リジル-tRNA合成酵素:
    (1)アミノ酸配列が配列番号3~8のいずれかで示されるポリペプチド、あるいは
    (2)配列番号3~8のいずれかで示されるアミノ酸配列が、1個または複数個、好ましくは1~20個、より好ましくは1~15個、さらに好ましくは1~10個、さらに好ましくは1~8個、さらに好ましくは1~3個、最も好ましくは1個のアミノ酸残基の置換、欠失または付加を経てなるもので、(1)に記載のポリペプチドの機能を有する、配列番号3~8のいずれかで示されるアミノ酸配列のポリペプチドから誘導されたポリペプチド。
  4. 請求項1に記載の突然変異型リジル-tRNA合成酵素をコードすることを特徴とする、単離されたポリヌクレオチド。
  5. 請求項4に記載のポリヌクレオチドを含むことを特徴とする、ベクター。
  6. 請求項5に記載のベクターを含有するか、あるいはゲノムに請求項4に記載のポリヌクレオチドが組み込まれていることを特徴とする、宿主細胞。
  7. 前記宿主細胞は、以下のものを含むことを特徴とする、請求項6に記載の宿主細胞:
    (a) 請求項1に記載の突然変異型リジル-tRNA合成酵素、および
    (b) 前記突然変異型リジル-tRNA合成酵素の存在下でリジン誘導体と結合できる直交tRNA、ならびに任意に
    (c) 目的タンパク質をコードする目的核酸配列であって、リジン誘導体を導入するための部位に前記直交tRNAによって認識されるコドンが含まれている目的核酸配列。
  8. 以下のものを含むことを特徴とする、発現システム:
    (a) 請求項1に記載の突然変異型リジル-tRNA合成酵素、および
    (b) 前記突然変異型リジル-tRNA合成酵素の存在下でリジン誘導体と結合できる直交tRNA、ならびに任意に
    (c) 目的タンパク質をコードする目的核酸配列であって、リジン誘導体を導入するための部位に前記直交tRNAによって認識されるコドンが含まれている目的核酸配列。
  9. (a)容器、ならびに(b)前記容器内に位置する請求項1に記載の突然変異型リジル-tRNA合成酵素、または請求項4に記載のポリヌクレオチド、または請求項5に記載のベクターを含むことを特徴とする、キット。
  10. 請求項1に記載の突然変異型リジル-tRNA合成酵素、または請求項6に記載の宿主細胞、または請求項8に記載の発現システム、または請求項9に記載のキットの使用であって、目的タンパク質への非天然アミノ酸の導入または非天然アミノ酸を含むタンパク質の製造のために用いられることを特徴とする、前記使用。
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