JP2022175322A - 鋼及び鋼の製造方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】圧延時に延伸したCaO-Al2O3が原因となって鋼材の靱性が低下することを防止することができる、鋼及び鋼の製造方法を提供する。【解決手段】Caを含有するAl脱酸鋼において、脱酸順序として、SiおよびZrを同時に添加し、その後Al、Caの順に添加することにより、CaOとAl2O3を含む相と、CaOとZrO2を含む相の2相を主要な相として前記2相が混在する形態を有する介在物が生成した。このような形態を有し、かつ、図2の太線部にある介在物を分母とし、ハッチング部で示す特定の酸化物組成を有するもの(特定酸化物)の個数比を50%以上とする。CaOとZrO2を含む相は硬質であるため、CaOとAl2O3を含む相にこれが混在した介在物は延伸しにくい性質を具備する。【選択図】図2

Description

本発明は、鋼及び鋼の製造方法に関し、特にAl脱酸鋼の鋳片、またはその鋳片を素材として圧延して製造する鋼材に関する。
介在物の性質を変えて品質・材質への影響を減少させるという、実質的無害化を図る技術が開発されている。鋼中に形成されるMnSは、圧延において延伸するため、鋼の靱性不良の原因となる。例えば、熱延ハイテンや鋼管では、Ca処理により、延伸しやすいMnSの析出を抑えて介在物を延伸しにくいCa硫化物組成に改質し、圧延方向の最大長さを低減して靭性を改善する技術が実用化されている。通常に製造される鋼の大部分はAl脱酸鋼である。Al脱酸鋼において上述のようにCaを含有させると、鋼中の酸化物系介在物はCaO-Al系酸化物となる。ところが、CaO-Al系酸化物であっても一部の組成のものは低融点であって(例えば、CaO-Al系二元系酸化物で35~60質量%CaOの酸化物は1600℃で液相単体である。)軟質介在物であるため、圧延によって延伸しやすい。Ca処理によりMnSを防止できても、このような低融点酸化物が延伸して、鋼材にとって有害となる場合がある。
特許文献1には、溶鋼を脱酸するに際し、Alを添加した後にAl添加前後の溶鋼中フリー酸素の値を用いて、生成したAlの量を求め、これを完全に還元しうる量を上限として、Alよりも強脱酸元素である、Zr、Ca、Mgのうちのいずれか一種を添加することで、還元反応を利用して、アルミナクラスターを微細化する発明が開示されている。
引抜伸線加工時の断線を防止することが求められるスチールコードでは、硬質なアルミナ介在物を嫌うためにSi脱酸で製造される。そして、脱酸条件を変えて低融点介在物組成に制御し、介在物の延性を高めることで線材の断面積に占める介在物の断面積割合を低減している。そのために、たとえば取鍋精錬処理によりスラグ/メタル間の平衡反応を利用して介在物組成を制御することが行われている。しかし、処理時間が長時間に及び高いコストが生じるため、量産鋼での実現には限界がある。
特許文献2には、酸化物の平均組成が、重量%で、SiO:70%以上、CaO+Al:20%未満、ZrO:0.1~10%を含む線材が開示されている。「硬質介在物」であるSiO含有率が高い高融点のSiO系介在物は、これに適正量のZrOが複合されると微細分散する。SiO、CaO、Alを一定範囲のZrOと共存させれば、酸化物の大きさが微細になるとともに介在物組成(酸化物の組成)が均一化し、低融点化を図らなくとも、酸化物を極めて小さくすることができる。耐火物及び媒溶剤中にZrOが含まれるため、Zrは添加しなくてもよい。Zrを添加すれば、既に述べた酸化物の平均組成を比較的容易に所望の範囲に調整することができる。
特開平9-287015号公報 国際公開WO99/67437号
T.Murakami,H.Fukuyama,T.Kishida,M.Susa and K.Nagata: Metall. Trans., vol.31B(2000), p.25
前述のように、Al脱酸鋼においてCaを含有させると、鋼中の酸化物系介在物はCaO-Al系酸化物となる。CaO-Al系酸化物は低融点であって軟質介在物であるため、圧延によって延伸しやすい。
本発明は、圧延時に延伸したCaO-Alが原因となって鋼材の靱性が低下することを防止することができる、鋼及び鋼の製造方法を提供することを課題とする。
Caを含有するAl脱酸鋼において、効率良くCaO-Alの延伸を防止するために、本発明を考案した。本発明では、脱酸順序を工夫することにより、CaOとAlを含む相とCaOとZrOを含む相が混在した酸化物形態、代表的にはCaO-Al系介在物中にCaOとZrOの複合酸化物が分散した特定の酸化物形態とすることで延伸を防止する。CaOとZrOの複合酸化物は硬質であるため、これが混在したCaO-Al系介在物は延伸しにくい性質を具備する。
特許文献1では、Zr、Ca、Mgのうちのいずれか一種しか添加しないため、本発明の介在物とは異なる。また、Al添加の後にZrを添加するため本発明とは添加順序が異なる。
特許文献2はSi脱酸鋼であって本発明とは対象が相違する。また、酸化物の平均組成をSiO:70%以上、CaO+Al:20%未満、ZrO:0.1~10%とする必要があり、SiOを70%以上含むため、本発明の介在物とは異なる。本発明はAl脱酸鋼を対象としているので、鋳片以降の介在物がSiOを多く含むことはない。
即ち、本発明の要旨とするところは以下のとおりである。
[1]質量%で、Si:0.05~2.0%、Mn:0.10~2.00%、S:0.0100%以下、Al:0.003~0.021%、Ca:0%超、0.0020%以下、Zr:0.002%以上、0.01%未満、T.O:0.0050%以下、を含有し、
鋼中の長径が0.5μm以上の介在物のうち、
前記介在物の個々の平均成分組成において、SiOが1.5モル%以下であり、CaO、Al、ZrOの含有量(モル%)が、3成分合計100%に対して其々(%CaO)、(%Al)、(%ZrO)としたとき、
27/55×(%Al)+18≦(%CaO)≦23/27×(%Al)+50 (1)
を満たす介在物のうち、
(%Al)≦(%ZrO)+30 (2)
かつ
5≦(%ZrO) (3)
を満たすとともに、
前記介在物の形態において、CaOとAlを含む相と、CaOとZrOを含む相の2相を主要な相として前記2相が混在する形態を有する介在物の個数比率が50%以上であることを特徴とする鋼。
[2]前記鋼が鋳片又は鋼材である、[1]に記載の鋼。
[3]質量%で、Mn:0.1~2.0%、S:0.0100%以下を含有する溶鋼に、
Al脱酸を行う前にSiと微量のZrを同時に添加するSi-Zr脱酸を行い、その後、Al脱酸し、次にCa処理を行うことを特徴とする[1]又は[2]に記載の鋼の製造方法。
本発明は、Caを含有するAl脱酸鋼において、脱酸順序を工夫することにより、CaOとAlを含む相と、CaOとZrOを含む相の2相を主要な相として2相が混在する形態を有し、かつ特定の酸化物組成を有するもの(特定酸化物)の個数比を50%以上とする。CaOとZrOの複合酸化物は硬質であるため、これとCaO-Al系酸化物相の2相からなる介在物は延伸しにくい性質を具備する。
1600℃のCaO-Al-ZrO系状態図である。 本発明の式(1)~(3)を満たす介在物の成分範囲について、(%CaO)-(%Al)-(%ZrO)系の三元系状態図上に示した図である。 加工フォーマスタ試験の温度・圧下パターンを示す図である。 代表的な介在物の形態を模式的に示す図であり、(A)は本発明例、(B)は比較例8、(C)は比較例9の場合である。
《鋼中の介在物の組成及び形態》
Caを含有するAl脱酸鋼の溶鋼処理において、種々の方法で脱酸処理を行い、その上で鋳造し、鋳片に加工フォーマスタ処理(圧下温度1100℃、圧下率79%)を施して鋼材とし、鋼材中に含まれる非金属介在物の組成及び形態調査を行った。一部の水準では、Al脱酸を行う前にSiと微量のZrを同時に添加するSi-Zr脱酸を行い、その後、Al脱酸し、次にCa処理を行う処理を行った。調査においては、SEM(5000倍)にて長径が0.5μm以上の介在物(酸化物、硫化物、酸硫化物を含む)を選び出し、SEMに付属したEDS(エネルギー分散型X線分析装置)による元素分析を行って、それぞれの介在物中の元素の分布状態を明らかにする(元素マッピング)とともに、それぞれの介在物の平均成分組成を算出した。それぞれの介在物の平均成分組成算出において、酸素含有が確認できる介在物の元素分析の結果について、SiはSiO、AlはAl、ZrはZrOとして存在しているものとした。Caについては、介在物のS含有量とO含有量の分析値に基づいて、CaO含有量を算出した。
Caを含有するAl脱酸鋼であることから、観察される介在物の代表例は、介在物の形態において、マトリックスがCaO-Al系である。このようなCaO-Al系介在物は、前述のとおり軟質介在物である。ここでは、CaO-Al系酸化物相を多く含みながら硬質な性質を有する介在物の形成を試みる。
まず、介在物の個々の平均成分組成に着目する。平均組成の算出方法は前述のとおりであり、EDSで元素分析した上での介在物の平均成分組成算出において、酸素含有が確認できる介在物の元素分析の結果について、SiはSiO、AlはAl、ZrはZrOとして存在しているものとした。Caについては、介在物のS含有量とO含有量の分析値に基づいてマスバランスの計算を行ない、CaO含有量を算出した。
第1に、Caを含有するAl脱酸鋼を対象としていることから、介在物の個々の平均成分組成において、SiOが1.5モル%以下のものを対象とする。SiO含有量(モル%)は、CaO(+CaS)、SiO、Al、ZrOの合計を100モル%として計算した。
第2に、介在物の個々の平均成分組成において、CaO、Al、ZrOの含有量(モル%)が、3成分合計100%に対して其々(%CaO)、(%Al)、(%ZrO)とし、これら3成分の関係について着目する。
図1に、1600℃のCaO-Al-ZrO系状態図を示す(非特許文献1)。
図1中にLiq.と表示され、ハッチングした領域が、1600℃において完全液相である低融点組成領域である。以降、この組成領域の酸化物を「低融点酸化物」と記載する。圧延は1250℃以下で行われることが一般的なので、圧延時には固相であるものの軟質であり非常に延伸し易い。圧延方向に長く延伸した介在物は鋼の強度や靭性を低下させるので有害である。
ZrOを含まないCaO-Al二元系の場合、すなわち状態図右側のAl-CaO軸上では、CaOとAlのモル比が1:1のCA相である50mol%CaOから73mol%CaOが「低融点酸化物」の領域である。CaO-Al二元系で、この組成範囲にあるAl-CaO系酸化物が、低融点かつ圧延時に容易に延伸して有害であることは広く知られている。ただし、CaO-Al-ZrO三元系の低融点酸化物領域は、ZrOを含有すると低CaO高Al側にやや広がっているため、図1中のハッチングした低融点酸化物領域のmol%CaOは、45~73mol%CaOまでの範囲である。
この低融点酸化物よりも低CaO高Al側の図1左上側では、融点が1600℃を超える硬質な固相CA相(CaOとAlのモル比が1:2である複合酸化物)が混在する。低融点酸化物よりも高CaO低Al側、図右下にある73mol%CaO-27mol%Alよりも高CaO濃度側でも、融点1600℃を超える硬質な固相CaO相が混在する。すなわち、図1でLiq.と表示された低融点酸化物の両側の組成では、低融点酸化物と硬質な固相が混在している。そのため、単独の低融点酸化物よりも圧延時に延伸する程度は低く有害度は著しく低い。
上記の理由から、Al脱酸鋼でCa処理を行なってCaO-Al系酸化物が生成する場合、低融点酸化物組成(ZrOを含まないCaO-Al二元系の場合であれば、50~73mol%CaO)を避けること、つまり低融点酸化物よりも低CaO側、あるいは高CaO側の組成を狙いとして制御することは広く行なわれている。
しかし、現実には操業条件の変動によって、全ての酸化物組成を低融点酸化物以外に回避することができない場合が発生する。そこで本発明は、上記で述べた、1600℃以上で完全液相である、非常に延伸し易い低融点酸化物が生じた場合でも、組成制御することにより有害度を低下、無害化することを課題としている。このような理由から、本発明はCaO-Al-ZrO三元系の低融点酸化物である45~73mol%CaOの酸化物を対象とする。観察される全ての介在物が低融点酸化物である場合だけでなく、全体としては酸化物組成が広く分布しており一部の酸化物が前記の低融点酸化物組成である場合も対象とする。全て、または一部の低融点酸化物の延伸度を抑制することによって、鋼全体の有害度を低減できるからである。
図2に示す、(%CaO)-(%Al)-(%ZrO)系の三元系状態図を用いて、本発明が目標とする組成制御範囲について説明する。
第1に、下記(1)式を規定する。
27/55×(%Al)+18≦(%CaO)≦23/27×(%Al)+50 (1)
図2に示す、(%CaO)-(%Al)-(%ZrO)系の三元系状態図において、上記(1)式で規定する範囲は、図2中の太線で囲んだ部分である。(1)式左辺は、図2の左上の白色部分を除外するための式である。左上白色部分は、融点が1600℃を超える硬質な固相CA相(CaOとAlのモル比が1:2である複合酸化物)が低融点酸化物相に混在する。そのため、単独の低融点酸化物よりも圧延時に延伸する程度は低く有害度が低いためである。(1)式右辺は、図2の右下の白色部分を除外するための式である。右下白色部分では融点1600℃を超える硬質な固相CaO相が混在する。そのため、単独の低融点酸化物よりも圧延時に延伸する程度は低く有害度が低いためである。(%ZrO)=0%、即ち(%CaO)=100-(%Al)の場合(図2の(%CaO)-(%Al)軸上)において、(1)式の範囲は、CaO-Al二元系換算で45~73mol%CaOの低融点酸化物領域を示している。
そこで、介在物の個々の平均成分組成に関し、(%CaO)-(%Al)-(%ZrO)系の三元系状態図において、上記(1)式に包含される範囲(図2の太線部分)に含まれる介在物を、「対象介在物」として取り上げる。
次に、図2に示すハッチング部についてより詳細に説明する。なお、式中で括弧で示した成分濃度はモル%である。
まず、上述の通り、本発明は、鋼中の長径が0.5μm以上の介在物のうち、介在物の個々の平均成分組成に関し、(%CaO)-(%Al)-(%ZrO)系の三元系状態図において、上記(1)式に包含される範囲(図2の太線部分)に含まれる介在物を、「対象介在物」として取り上げる。(%ZrO)=0の場合、CaO-Al二元系換算で45~73mol%CaOの低融点酸化物がこの範囲に含まれる。
この範囲に含まれる「対象介在物」のうちで、高融点介在物に限定される介在物中にはZrOを必須で含有するので、下記(3)式を規定する。
5≦(%ZrO) (3)
また、CaO-Al系酸化物相の低融点酸化物相の高Al側、(CA+CA)相に近い成分組成を除外するため、下記(2)式を規定する。
(%Al)≦(%ZrO)+30 (2)
次に、個々の介在物の形態に着目する。
Al脱酸を行う前にSiと微量のZrを同時に添加するSi-Zr脱酸を行い、その後、Al脱酸し、次にCa処理を行う処理を行った水準では、介在物の形態において、CaOとAlを含む相と、CaOとZrOを含む相の2相を主要な相として前記2相が混在する形態を有するものを得ることができた。代表例としては、マトリックスがCaO-Al系であり、前記マトリックス中にCaOとZrOを含む相が分散した介在物が観察された。CaOとZrOを含む相は、CaO・ZrO化合物と、CaOが固溶するZrOの一方又は両方であると推定される。CaOとAlを含む相(CaO-Al系酸化物相)は軟質であるものの、CaOとZrOを含む相は硬質であるため、それら2相が混在して存在する形態の介在物は硬質であることが期待できる。マトリックスがCaO-Al系であり、前記マトリックス中にCaOとZrOを含む相が分散した介在物も同様である。そこで、上記定義した「対象介在物」に含まれていてなおかつ硬質介在物である条件として、介在物の形態において、CaOとAlを含む相と、CaOとZrOを含む相の2相を主要な相として前記2相が混在する形態(分散する場合を含む)であることを条件のひとつとする。ここで、CaOとAlを含む相とは、CaO、Al、ZrOの3成分のモル%の合計を100%として、CaOとAlをそれぞれ5モル%以上、合計で80モル%以上含有する領域と定義し、CaOとZrOを含む相とは、CaOとZrOをそれぞれ5モル%以上、合計で80モル%以上含有する領域と定義する。これら2相を主要な相とする、とは、各介在物中で2相の合計面積率が67%以上であることを意味する。
CaOとZrOを含む相のうち、CaO・ZrO化合物を「CZ相」、CaOが固溶するZrO相を「Css相」と呼ぶ。図2に示す、(%CaO)-(%Al)-(%ZrO)系の三元系状態図において、ハッチング部は、低融点のCaOとAlを含む相と、CaOとZrOを含む相(いずれも高融点・硬質であるCaO・ZrO化合物(CZ相)やCaOが固溶するZrO相(Css相)を主要とする)が混在する複相領域である。前述した通り、低融点酸化物相は1873Kで完全液相であり、1250℃以下で行われることが一般的な圧延時には固相であるものの軟質である。そのため、CaOとAlを含む低融点酸化物相単独では、圧延時に容易に延伸してしまい有害である。一方、硬質なCZ相やCss相は圧延温度で硬質であり非常に変形しにくい。したがって、CaOとAlを含む低融点酸化物相と、CaOとZrOを含む相の2相を主要な相として前記2相が混在する形態を有するものであれば、低融点酸化物相にCZ相やCss相が混在しているので、全体としての延伸・変形を効果的に阻害できる。このようにして状態図のハッチング部の成分組成を有する酸化物は、低融点酸化物単独である場合よりも十分に延伸・変形が抑制される。CZ相やCss相は一般的に低融点酸化物相内部に分布することが多いが、内部に限らず、周辺に付着した状態でも同様に、全体として変形抑制効果がある。さらに、CZ相やCss相が混在する低融点酸化物相の一部に軟質で容易に延伸するMnSが付着する場合もあるが、同様の理由で、MnSをも含めた介在物全体としての変形・延伸を抑制できる。
以上のように、選択した長径が0.5μm以上かつ、SiOが1.5モル%以下であり、(1)式を満たす「対象介在物」のうち、(2)式、(3)式を満たすとともに、上記介在物の形態を有するものを「特定介在物」とし、「対象介在物」中に含まれる「特定介在物」の個数比率を「特定介在物比」とし、圧延での介在物の延伸状況、及び圧延での割れ発生状況について評価した。その結果、特定介在物比が50%以上であるとき、圧延での介在物の延伸が抑制され、圧延での割れ発生が低減することが明らかとなった。
そこで、本発明では、鋼中に含まれる介在物について以下のように規定することとした。
鋼中の長径が0.5μm以上の介在物のうち、
前記介在物の個々の平均成分組成において、SiOが1.5モル%以下であり、CaO、Al、ZrOの含有量(モル%)が、3成分合計100%に対して其々(%CaO)、(%Al)、(%ZrO)としたとき、
27/55×(%Al)+18≦(%CaO)≦23/27×(%Al)+50 (1)
を満たす介在物のうち、
(%Al)≦(%ZrO)+30 (2)
かつ
5≦(%ZrO) (3)
を満たすとともに、
前記介在物の形態において、CaOとAlを含む相と、CaOとZrOを含む相の2相を主要な相として前記2相が混在する形態を有する介在物の個数比率が50%以上である。
《鋼成分》
本発明の鋼成分について、以下のように規定する。%は質量%を意味する。
Zr:0.002%以上、0.010%未満
本発明において、Zrは低融点組成のCaO-Alの延伸性を抑制することによって、鋼材の靭性が低下することを防止するために重要な元素である。すなわち、低融点CaO-Al系酸化物中に、CaO・ZrO(モル比1:1の化合物。状態図でCZと表示。)や、18~20mol%CaO-ZrO(CaOが固溶した立方晶のZrO相、状態図でCss=Cubic solid solutionと表示。solid solutionは固溶相の意味。)を分布させることによって、これらはいずれも高融点すなわち硬質で変形しにくい相であるため、CaO-Al系酸化物全体の延伸を抑制する作用を有する。
Zrが下限の0.002%未満であるとZrOが生成せず、狙いのCaO-Al-ZrO系組成にならない。このため、0.002%を下限とする。
一方、Zrが0.01%以上であると、狙いの酸化物組成から外れる。また、粗大なZrOが生成し既存のAlと複合化する結果、ノズル閉塞を引き起こしたり、粗大サイズのため割れの起点となって靭性を低下させる。このため、Zrを0.010%未満に制限する。
Al:0.003~0.021%
Alは溶鋼の脱酸元素として重要である。Al脱酸の結果Alが生成し、溶鋼よりも密度が低いため、溶鋼中から浮上してAlが溶鋼から除去される。およそ100μm以上の粗大Alは溶鋼中から浮上し除去される。それより微細なAlは残存し、Al-ZrO複合酸化物を生成する。
しかし、Alの含有量が0.0030%未満では脱酸が不十分である。脱酸が不十分であると多量の溶存酸素が残存する。その結果、他の脱酸元素を添加した場合に、多量・粗大な酸化物が生成し、割れや表面疵の原因となる。十分な脱酸効果を得るためには、0.0030%以上のAlを添加し、溶存酸素を低減し、生成したAlを十分に浮上・除去することが必要である。
一方、0.021%を超えてAlを添加した場合、Zrをすべて還元してしまい、ZrOが残存しない。
Ca:0%超0.002%以下
CaはMnSの生成を防止するために添加する。しかし、0.002%を超えると粗大な低融点酸化物(CaO-Al)が多量に生成し、圧延時に延伸するので、靭性および加工性を損なうため、0.002%以下に限定する。Caの下限は好ましくは0.0005%とする。
Si:0.05~2.0%
本発明において、Al脱酸前にSi-Zr脱酸することで、SiO―ZrO系複合酸化物や、SiO・ZrO+ZrOを分散させる。これは、低融点SiO含有酸化物なので、クラスタリングしにくく分散し易い性質を利用している。
また、Siは固溶強化により鋼材の強度の向上に寄与する元素であるが、Siが0.05%未満では十分な効果が得られない。一方、Siが多量であると靱性が低下するため、2.0%を上限とする。
Mn:0.10~2.00%
Mnは固溶強化により強度の向上に寄与するが、0.10%未満では十分な効果が得られない。一方、2.00%を超えると加工性が低下するため、上限を2.00%とする。
S:0.0100%以下
MnSの生成を防止する観点からS含有量は少ないほど好ましいので、0.0100%以下に制限する。下限は特に規定しない。Sが高いと圧延時に延伸し易い単独MnSが増加し、材質の低下が避けられないので、通常は0.001%以下に制御されることが多い。
T.O:0.0050%以下
Oは酸化物を生成する元素であるため、極力その含有量を低下させる必要がある。特にT.Oが0.0050%を上回ると、粗大な酸化物を形成して、残存すると割れや表面疵を引き起こしやすくなる。したがって、T.Oの含有量を0.0050%以下とする。
以下の成分は必須ではないが、それぞれの理由で含有量を制限するのが好ましい。
C:0.003~0.3%
鋼材の強度を確保するため、0.003%以上とした。0.3%を超えると靱性が低下するため、上限を0.3%とする。
P:0.012%以下
Pは偏析しやすく、特に結晶粒界に偏析して靱性低下を引き起こすため低いほど好ましいが、脱Pコストとの兼ね合いで、上限を0.012%とする。
本発明の好適な鋼成分は、上記含有量範囲で各元素を含有し、残部はFe及び不純物からなる。さらに、Feの一部に代え、以下の成分を含有することとしてもよい。
Cu:0.1~1.5%
Ni:0.1~10.0%
Cr:0.1~10.0%
Mo:0.05~1.5%
Cu、Ni、Cr、Moは鋼の焼入れ性を向上させる元素であり、Cu、NiおよびCrは0.1%以上、Moは0.05%以上含有させることによって、強度向上効果を示すが、CuおよびMoは1.5%、NiおよびCrは10.0%を超えて添加すると靭性および加工性を損なうおそれがある。したがってCuは0.1~1.5%、NiおよびCrはそれぞれ0.1~10%、Moは0.05~1.5%の範囲に限定する。
Nb:0.005~0.1%
V:0.005~0.3%
Ti:0.001~0.25%
Nb、V、Tiは析出強化により鋼の強度を向上させる元素で、NbおよびVは0.005%以上、Tiは0.001%以上含有させることによって、強度向上効果を示す。しかし、Nbは0.1%、Vは0.3%、Tiは0.25%を超えて添加すると靭性を損なうおそれがあるため、Nbは0.005~0.1%、Vは0.005~0.3%、Tiは0.001~0.25%の範囲に限定する。
B:0.0005~0.005%
Bは鋼の焼入れ性を向上させ、強度を高める元素であり、0.0005%以上含有させることによって強度向上効果を示すが、0.005%を超えて添加するとBの析出物を増加させ靭性を損なうおそれがある。したがって0.0005~0.005%の範囲に限定する。
本発明の鋼は、具体的には鋳造(例えば連続鋳造)を行った鋳片、あるいは当該鋳片を圧延した鋼材が対象となる。
《製造方法》
本発明の鋼(鋳片、または鋼材)の製造は、鋼中の成分として、Mn:0.1~2.0%、S:0.0100%以下となるように調整し、Siと微量のZrを同時に添加するSi-微量Zr脱酸を行い、Si:0.05~2.0%、Zr:0.002~0.01%となるように調整した後、Al脱酸処理を行ってAl:0.003~0.021%となるように調整し、Caを添加してCa:0%超0.0020%以下となるように調整することを特徴とする。ここで微量のZrの添加とは、鋼中のZr含有量が0.002~0.01%となるような添加を意味する。SiとZrの同時添加とは、正しく同時添加であることが好ましいが、Siを先行して添加し、時間間隔を意図的には空けずに続けて速やかにZrを添加することは許容される。例えば、二次精錬装置の合金添加ホッパーがSiとZrで別個の場合、まずSi添加後、直ちにZr添加用ホッパーを開けて添加する場合がこれに相当する。一般的にホッパー切替え後に次の合金が添加されるまでの時間は1分を超えない。一方、Zrを先行添加すると、まずZrOが生成し、その後Siを添加してもSiは、既に生成したZrOを還元できないので、SiO―ZrO系複合酸化物は生成しない。そのため、SiO-ZrO系複合酸化物のクラスタリングしにくく分散し易い性質を利用することができず、介在物は微細にならない。
Al脱酸前にSi-微量Zr脱酸を行うことで、SiO含有介在物のクラスタリングしにくく分散し易い性質を利用しSiO-ZrO系酸化物を微細に分散させるので、Al脱酸によりSiを還元して生成するAl-ZrO系酸化物も微細分散する。その後、Ca処理して、CaOとAlを含む相と、CaOとZrOを含む相の2相を主要な相として前記2相が混在する形態を有する介在物、代表的には、マトリックスがCaO-Al系である介在物中にCaO・ZrO(+ZrO)が分散した介在物を生成させる。
Al脱酸前にSi-微量Zr脱酸を行うことでSiO-ZrO酸化物が微細分散(<5μm)する。このあとAl脱酸すると、介在物中のSiを還元してAl-ZrO系を形成する(<10μm)。AlとZrOは化合物を作らず、内部にZrOを含む形のAl+ZrO二相となる。SiO-ZrOが微細なので、AlによってZrO複数個が包含されても、材質に悪影響を及ぼすような粗大な介在物(>15μm)にはならない。その後、Ca処理により、CaOとAlを含む相とCaOとZrOを含む相が混在した酸化物形態、代表的には高融点CaO―ZrO系複合酸化物が分散したCaO-Al+CaO・ZrO(+ZrO)とすることで延伸を防止し、靭性が向上した鋼材を製造することができる。
(鋼の鋳片の製造)
電解鉄1kgを高周波誘導溶解炉で、Ar雰囲気で溶解した。脱酸元素添加前の溶存酸素量は0.0200%であった。C、Mn、P、S、その他元素を添加した後、SiおよびZrを同時に添加し、その後Al、Caの順に添加して炉の電源を切って炉冷した。比較例8は、Alを先に添加し、C、Si、Mn、P、S、Ca、その他元素を添加した後、Zrを添加した。比較例9はAlを先に添加し、C、Si、Mn、P、S、その他元素を添加した後、Zrを添加し、最後にCaを添加した。炉冷後の鋼片が鋼の鋳片に対応する。鋳片の成分組成を表1に示す。
(鋳片及び鋼材の評価)
上記形成した鋼の鋳片から、引け巣等欠陥のない健全部から試料(直径8mm×高さ12mm)を採取し、加工フォーマスタ試験を行った。圧下温度1100℃、圧下率79%、ひずみ速度10s-1で圧縮した。加工フォーマスタ試験の温度・圧下パターンを図3に示す。圧縮後の試料が、本発明の鋼材に対応する。圧縮後の試料から、直径方向に沿った断面で切断した後研磨して、研磨面を観察面とした。
介在物をSEM(5000倍)で観察した。長径が0.5μm以上の介在物(酸化物、硫化物、酸硫化物を含む)を無作為に50個選び、介在物の個々の平均成分組成において、SiOが1.5モル%以下であり、前記(1)式を満たす介在物を選択して「対象介在物」とした。次に、「対象介在物」に占める「特定介在物」の個数割合(特定介在物比(%)=特定介在物個数/対象介在物個数×100)を確認し、表2の「特定介在物の個数割合(%)」欄に記載した。「特定介在物」とは、前述のとおり、「対象介在物」のうち、(2)式(3)式を満たすとともに、介在物の形態において、CaOとAlを含む相と、CaOとZrOを含む相の2相を主要な相として前記2相が混在する形態を有している(分散する場合を含む)ものをいう。EDS分析で、CaOとAlを含む相とは、CaO、Al、ZrOの3成分のモル%の合計を100%として、CaOとAlをそれぞれ5モル%以上、合計で80モル%以上含有する領域と定義し、CaOとZrOを含む相とは、CaOとZrOをそれぞれ5モル%以上、合計で80モル%以上含有する領域と定義する。これら2相を主要な相とする、とは、各介在物中で2相の合計面積率が67%以上であることを意味する。CaO、Al、ZrOの分子量はそれぞれ56g/mol、102g/mol、123g/molで計算した。
一部の水準において、鋼材のみならず鋳片の介在物評価も行った。その結果、同一の水準であれば、鋳片と鋼材それぞれの「特定介在物比」はほぼ同じ数値となることが確認できた。
なお、表2には、鋼材の各試料の介在物の平均成分を参考のために表示している。実施例および比較例3、4、5、6は、CaO-AlとCaO-ZrOを含む介在物をランダムに10個選択し、SEMに付属したEDS(エネルギー分散型X線分析装置)の元素分析値から、CaO、Al、ZrO、SiOの4成分合計で100%として酸化物組成(モル%)を求め、10個の平均値を表2に記載した。なお、比較例1はCaO-AlとCaO-ZrOを含むものがなかったため、CaO-Alを選択し、CaO、Al、ZrO、SiOの4成分合計で100%として酸化物組成(モル%)を求め、10個の平均値を記載した。比較例2、7、8、9はCaO-AlとCaO-ZrOを含むものが10個未満であったため、CaO-AlとCaO-ZrOを含むものを1つ選び、CaO、Al、ZrO、SiOの4成分合計で100%として酸化物組成(モル%)を求め、記載した。
鋼材の各試料における介在物のアスペクト比(=(最大長さ)÷(最大厚さ))を調査した。アスペクト比は10個の平均値とし、表2の「アスペクト比」欄に記載した。アスペクト比が3以下であることを非延伸の基準とした。
また、ルーペ(倍率8倍)で圧縮後の試料表面の、長さ1mm以上の割れの有無を評価し、表2に記載した。割れがないことを合格の基準とした。
Figure 2022175322000002
Figure 2022175322000003
表1、表2の本発明1~17は、本発明条件を満足する鋼材である。本発明例中の介在物の形態について、図4(A)に模式的に示す。介在物のうち、特定介在物の個数割合が50%以上であった。特定介在物比を50%以上とすることにより、CaOとAlを含む相とCaOとZrOを含む相が混在した酸化物形態、代表的には高融点CaO・ZrO複合酸化物が分散したCaO-Al+CaO・ZrO(+ZrO)形態が多数を占めるので、圧縮後の鋼材の介在物のアスペクト比は低く3以下であり、延伸を防止することができた。また、割れは生じなかった。
表1、表2の比較例1~9は比較例である。
比較例1はZr添加なしの例、比較例2はZr下限外れの例である。いずれも、酸化物に硬質なZrOが含まれないため低融点で延伸し易いCaO-Alが単独で生成し、アスペクト比は10、9と大きく延伸した。
比較例3のZr上限外れでは、粗大なZrOが生成したため、圧縮後試料に厚さ方向に貫通する割れが生じた。
比較例4のCa上限外れでは、狙いの介在物組成から外れ、アスペクト比は10と延伸した。
比較例5のT.O上限外れでは、Oが過剰のため粗大な酸化物が生成し、圧縮後試料の表面に、1mm以上の割れが生じた。
比較例6のAl下限外れでは脱酸が不十分であり、酸化物が多量に生成した結果、圧縮後試料の表面に、1mm以上の割れが多数生じた。
比較例7のAl上限外れでは酸化物にZrOが含まれず、低融点で延伸し易いCaO-Alが単独で生成し、アスペクト比は9と大きく延伸した。
比較例8はAlを添加した後にCaを添加し、最後にZrを添加した場合で、本発明と添加順序が異なる。比較例8の介在物の形態について、図4(B)に模式的に示す。Al、Caを先に添加したためCaO-Alが先に生成し、その後ZrOが生成するため、本発明の、CaOとAlを含む相とCaOとZrOを含む相が混在した酸化物形態、代表的にはCaO-Al系酸化物にCaO・ZrOとCaOが固溶するZrOが分散した介在物が生成せず、CaO-Al系単独酸化物(図4(B)左)、ZrO単独酸化物(図4(B)右側)が生成した。
比較例9はAlを添加した後にZrを添加し、最後にCaを添加した場合で、本発明と添加順序が異なる。比較例9の介在物の形態について、図4(C)に模式的に示す。Alが先に生成し、ZrOが生成した後、Ca添加でCaO-AlとCaO・ZrOが生成する。そのため本発明の、CaOとAlを含む相とCaOとZrOを含む相が混在した酸化物形態、代表的にはCaO-Al系酸化物にCaO・ZrOとCaOが固溶するZrOが分散した介在物が生成せず、CaO-Al系単独酸化物(図4(C)左側)、CaO・ZrO(図4(C)中央)、ZrO単独酸化物(図4(C)右側)が生成した。

Claims (3)

  1. 質量%で、
    Si:0.05~2.0%
    Mn:0.10~2.00%、
    S:0.0100%以下、
    Al:0.003~0.021%、
    Ca:0%超、0.0020%以下、
    Zr:0.002%以上、0.01%未満、
    T.O:0.0050%以下、
    を含有し、
    鋼中の長径が0.5μm以上の介在物のうち、
    前記介在物の個々の平均成分組成において、SiOが1.5モル%以下であり、CaO、Al、ZrOの含有量(モル%)が、3成分合計100%に対して其々(%CaO)、(%Al)、(%ZrO)としたとき、
    27/55×(%Al)+18≦(%CaO)≦23/27×(%Al)+50 (1)
    を満たす介在物のうち、
    (%Al)≦(%ZrO)+30 (2)
    かつ
    5≦(%ZrO) (3)
    を満たすとともに、
    前記介在物の形態において、CaOとAlを含む相と、CaOとZrOを含む相の2相を主要な相として前記2相が混在する形態を有する介在物の個数比率が50%以上であることを特徴とする鋼。
  2. 前記鋼が鋳片又は鋼材である、請求項1に記載の鋼。
  3. 質量%で、
    Mn:0.1~2.0%、
    S:0.0100%以下
    を含有する溶鋼に、
    Al脱酸を行う前にSiと微量のZrを同時に添加するSi-Zr脱酸を行い、その後、Al脱酸し、次にCa処理を行うことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の鋼の製造方法。
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