JP2022167614A - 磁性体材料、鉄心および回転電機 - Google Patents

磁性体材料、鉄心および回転電機 Download PDF

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Abstract

Figure 2022167614000001
【課題】窒化鉄α″-Fe16よりも高い飽和磁束密度が得られる磁性体材料、これを用いた鉄心および回転電機を提供する。
【解決手段】磁性体材料は、鉄と窒素を含む磁性体材料であって、鉄と窒素を含む体心正方晶(bct)の結晶を含み、bctの結晶に含まれる窒素に対する鉄のモル比が8を超える。鉄心は、軟磁性鋼板が積層された鉄心であって、軟磁性鋼板の一部または全部が、鉄と窒素を含む体心正方晶(bct)の結晶を含み、bctの結晶に含まれる窒素に対する鉄のモル比が8を超える磁性体材料で形成されている。回転電機は、軟磁性鋼板が積層された鉄心を備えた回転電機であって、軟磁性鋼板の一部または全部が、鉄と窒素を含む体心正方晶(bct)の結晶を含み、bctの結晶に含まれる窒素に対する鉄のモル比が8を超える磁性体材料で形成されている。
【選択図】図1

Description

本発明は、α″-Fe16に基づく窒化鉄系の磁性体材料、これを用いた鉄心および回転電機に関する。
純鉄よりも高い飽和磁束密度Bsを示す合金として、鉄-コバルト系合金が知られている。純鉄のBsは、20℃で2.14Tである。例えば、Fe-49Co-2Vのパーメンジュールは、バルクのBsが2.3Tであり、高Bsを示す軟磁性体材料としてモータの鉄心等に広く用いられている。しかし、鉄-コバルト系合金は、鉄よりも高価なコバルトを含むため、量産性やコスト性に課題を抱えている。
近年、鉄-コバルト系合金よりも安価であり、純鉄よりも高い飽和磁束密度Bsを示す磁性体材料として、窒化鉄α″-Fe16が注目されている。α″-Fe16は、体心正方晶(bct)の鉄系マルテンサイトであり、α-FeにNが侵入して格子間隔がc軸方向に拡張した結晶構造を有する。
窒化鉄α″-Fe16は、準安定相であり、熱的な安定性が低く、結晶成長させるのが難しいことが知られている。従来、α″-Fe16について、製造方法をはじめとして、種々の研究開発が行われている。
特許文献1には、強磁性元素を含む膜と、該強磁性元素を含む膜の面間隔と整合関係を持った面間隔を有する非磁性材料とを交互にエピタキシャル成長して積層した磁性多層膜が記載されている。強磁性元素を含む膜は、Fe-N二元系膜またはFe-Co-N三元系膜であり、α″-Fe16に基づく材料を用いている。
特許文献2には、高飽和磁気および低保磁力の窒化鉄膜を高速且つ安定して形成することが可能な製造方法が記載されている。α″-Fe16は、Nガスを用いた反応性スパッタにより、α-Feとの積層構造とされている。窒化熱処理時には、鉄と窒素とのモル比が変わることが記載されている。
特開平6-020834号公報 国際公開第1996/02925号
回転電機、変圧器等の種々の用途で、安価でありながら、高い飽和磁束密度Bsを示す軟磁性材料が求められている。鉄心の用途では、電気エネルギと磁気エネルギとの変換効率が重要であり、高い飽和磁束密度Bsと低い鉄損Piの両立が望まれている。特許文献1~2では、高Bsを示すが熱的な安定性が低いα″-Fe16を生成させるために、積層構造の磁性膜を形成している。
しかし、このような従来のα″-Fe16では、理論計算値に匹敵する高い飽和磁束密度Bsが得られていない。現在、種々の用途において、α″-Fe16の理論計算値を上回る高Bsが望まれている。しかし、α″-Fe16のBsを従来よりも引き上げる手法は知られていない。
そこで、本発明は、窒化鉄α″-Fe16よりも高い飽和磁束密度が得られる磁性体材料、これを用いた鉄心および回転電機を提供することを目的とする。
前記課題を解決するために本発明に係る磁性体材料は、鉄と窒素を含む磁性体材料であって、鉄と窒素を含む体心正方晶(bct)の結晶を含み、前記結晶に含まれる窒素に対する鉄のモル比が8を超える。また、本発明に係る鉄心は、軟磁性鋼板が積層された鉄心であって、前記軟磁性鋼板の一部または全部が、前記の磁性体材料で形成されている。また、本発明に係る回転電機は、軟磁性鋼板が積層された鉄心を備えた回転電機であって、前記軟磁性鋼板の一部または全部が、前記の磁性体材料で形成されている。
本発明によると、窒化鉄α″-Fe16よりも高い飽和磁束密度が得られる磁性体材料、これを用いた鉄心および回転電機を提供することができる。
窒化鉄α″-Fe16の結晶構造を示す図である。 窒化鉄α″-Fe16に窒素欠陥を導入した結晶構造モデルを示す図である。 窒素欠陥の導入量に対する飽和磁束密度の計算値を示す図である。 回転電機の固定子の一例を模式的に示す斜視図である。 固定子のスロット領域を拡大して模式的に示す横断面図である。 電子構造の計算に用いた計算モデルを示す図である。
以下、本発明の一実施形態に係る磁性体材料、これを用いた鉄心および回転電機について、図を参照しながら説明する。なお、以下の各図において、共通する構成については同一の符号を付して重複した説明を省略する。
<磁性体材料>
本実施形態に係る磁性体材料は、鉄(Fe)と窒素(N)を含む磁性体材料であり、常温で強磁性を示し、窒化鉄α″-Fe16に基づく、鉄と窒素を含む体心正方晶(bct)の結晶を含む。この磁性体材料は、bctを呈する窒化鉄α″-Fe16、ないし、その窒化鉄に置換固溶型の異種元素を添加した異種元素置換体に、窒素欠陥を導入したbctの結晶構造を有する。窒素欠陥の導入によって、bctを呈する結晶に含まれる窒素に対する鉄のモル比が8を超えるものである。
ここで、窒化鉄α″-Fe16に窒素欠陥を導入する目的や作用機序等について説明する。
図1は、窒化鉄α″-Fe16の結晶構造を示す図である。
図1には、窒化鉄α″-Fe16の単位格子を示している。図1において、符号101は、鉄原子に占有される4eサイトを示す。符号102は、鉄原子に占有される8hサイトを示す。符号103は、鉄原子に占有される4dサイトを示す。符号104は、窒素原子に占有される2aサイトを示す。
図1に示すように、窒化鉄α″-Fe16の単位格子には、16個の鉄原子と2個の窒素原子が含まれる。鉄原子と窒素原子は、規則配列している。α″-Fe16の結晶構造は、体心正方晶(bct)であり、空間群I4/mmmに帰属される。実験的に求められた文献値では、a軸の格子定数が5.72Å、c軸の格子定数が6.29Åとされている。
単位格子中において、鉄原子は、互いに独立した3種の結晶学的サイトを占有している。4eサイト(101)と8hサイト(102)の鉄原子は、2aサイト(104)の窒素原子と結合している。一方、4dサイト(103)の鉄原子は、2aサイト(104)の窒素原子と結合していない。4dサイト(103)の鉄原子は、体心立方晶(bcc)と同様の結晶構造で配位している。
窒化鉄α″-Fe16は、高い飽和磁束密度Bsを示す軟磁性材料として知られている。α″-Fe16が高Bsを示す理由は、理論研究に基づいて議論されている。バルク材料の磁性は、密度汎関数理論による第一原理計算によって良く表される。そこで、α″-Fe16の鉄原子の磁気モーメントの解析が、主に第一原理密度汎関数法を用いて行われてきた。
磁気モーメントは、磁力の大きさと磁力の方向を表すベクトル量である。磁気モーメントは、陽子の固有の磁気モーメントと、電子の固有の磁気モーメントと、電子の軌道運動の磁気モーメントとのベクトル和として表される。バルク材料の磁気モーメントは、主に不対電子のスピン角運動量によって決まる。磁気モーメントが大きいほど、強い磁力を持つことを意味する。
第一原理密度汎関数法は、磁気特性を含めた種々の物性等を、電子密度の汎関数を用いて第一原理の範囲で近似的に求める手法である。系のエネルギを変分原理に基づいて最小化することにより、系の基底状態を求めることができる。第一原理計算では、実験的パラメータを用いないため、信頼性が高く、且つ、実験的に求められる情報に対して相補的な情報が得られる。
第一原理密度汎関数法を用いた計算によると、窒化鉄α″-Fe16の鉄原子の平均磁気モーメントは、2.4μとされている。純鉄の鉄原子の平均磁気モーメントは、2.2μである。α″-Fe16の鉄原子の平均磁気モーメントは、純鉄の場合と比較して、9%程度大きい。この磁気モーメントの違いが、α″-Fe16に高い飽和磁束密度Bsをもたらしている。
本発明者らは、窒化鉄α″-Fe16について、各結晶学的サイトを占有する鉄原子の磁気モーメントを、第一原理密度汎関数法を用いて計算した。その結果、鉄原子の平均磁気モーメントは、4eサイトで2.18μ、8hサイトで2.38μ、4dサイトで2.85μであった。窒素原子と結合していない4dサイトの鉄原子は、窒素原子と結合した鉄原子と比較して、特異的に高い磁気モーメントを持つことが見出された。
本実施形態に係る磁性体材料は、このような知見に基づくものであり、窒化鉄α″-Fe16、ないし、その異種元素置換体に窒素欠陥を導入することによって、窒素原子と結合していない鉄原子を増加させて、飽和磁束密度Bsの向上を図るものである。窒素欠陥を導入するとは、bctの2aサイトを空乏な原子空孔とすることを意味する。窒素欠陥を導入すると、4eサイトと8hサイトで、窒素原子と結合していない鉄原子が増加すると予想されるため、以下のとおり、その磁気特性を解析した。
図2は、窒化鉄α″-Fe16に窒素欠陥を導入した結晶構造モデルを示す図である。
図2において、符号201は、鉄原子に占有される4eサイトを示す。符号202は、鉄原子に占有される8hサイトを示す。符号203は、鉄原子に占有される4dサイトを示す。符号204は、窒素原子に占有される2aサイトを示す。符号205は、空乏な原子空孔を示す。符号206は、結晶の単位胞の境界を示す。
図2に示すように、窒化鉄α″-Fe16に窒素欠陥を導入した結晶構造モデルを作成し、各結晶学的サイトに位置する鉄原子の磁気モーメントを、第一原理密度汎関数法を用いて計算した。結晶構造モデルとしては、Fe162-xで表され、x=0、0.125、0.25、0.5、0.75、1.0、1.25、1.5、1.75である9種を解析した。原子空孔(204)は、互いに間隔を空けて規則配列として導入した。
図3は、窒素欠陥の導入量に対する飽和磁束密度の計算値を示す図である。
図3に示すように、窒素欠陥を導入していない場合(x=0)、鉄原子の平均磁気モーメントは、2.235μであった。全ての2aサイトに対する窒素欠陥の導入量を、0%(x=0)から25%(x=0.5)まで増加させたとき、鉄原子の平均磁気モーメントは、窒素欠陥の導入量に比例して漸増したが、その増分は微小であった。
窒素欠陥の導入量を25%(x=0.5)以上に増加させると、鉄原子の平均磁気モーメントは、導入量に比例して急激に増加した。導入量が62.5%(x=1.25)であるとき、最大値の2.29μとなった。更に増加させると、導入量に反比例して減少をはじめた。導入量が75%(x=1.5)であるとき、2.27μ程度、導入量が87.5%(x=1.75)であるとき、2.256μ程度となった。
この結果から、化学量論比の窒素に対する窒素欠陥の導入量を25~75原子%(0.5≦x≦1.5)とすると、特に高い平均磁気モーメントが得られることになり、完全結晶の窒化鉄α″-Fe16と比較して、飽和磁束密度Bsが向上する可能性が確認された。すなわち、体心正方晶(bct)の結晶に含まれる窒素に対する鉄のモル比が8を超えることにより、飽和磁束密度Bsが向上することが分かった。体心正方晶(bct)の結晶に含まれる窒素に対する鉄のモル比は32以下であることが好ましい。
従来、窒化鉄α″-Fe16に関して、窒素原子に隣接していない鉄原子の磁気モーメントが高い理由がバンド計算に基づいて説明されている(佐久間昭正、「窒化物磁性体の電子構造と磁気構造」、日本金属学会会報(1992)、第31巻、第11号、p.999-1007)。
バンド計算によると、窒素原子と結合した鉄原子の3d準位が低エネルギ側にシフトするため、その隣の鉄原子の3d準位が高エネルギ側にシフトする。その結果、窒素原子と結合した鉄原子に対して、その隣の鉄原子から電子が流入し、窒素原子と結合した鉄原子の磁気モーメントが低くなる一方で、その隣の鉄原子の磁気モーメントが高くなるとされている。
このような電子の移動を考慮すると、窒素欠陥を導入した場合に磁気モーメントが増大する理由は、次のように考えられる。
窒化鉄α″-Fe16に窒素欠陥を導入すると、窒素原子と結合した鉄原子が減少する。窒素欠陥が導入された2aサイトに隣接する鉄原子は、窒素原子と結合した別の鉄原子からみて、窒素原子に隣接した鉄原子の更に隣に配位した次近接の鉄原子となる。次近接の鉄原子は、窒素原子と結合していない状態となる。
窒素欠陥を導入していない場合であれば、次近接のサイトは、4dサイトのみである。しかし、窒素欠陥を導入した場合は、8hサイトや4eサイトも次近接のサイトとなる。次近接のサイトを占有する鉄原子から、窒素原子と結合した状態の鉄原子に対して、電子の流入が起こる。その結果、次近接の鉄原子の磁気モーメントが高くなると考えられる。
但し、窒素欠陥の導入量が多すぎると、結晶構造中の窒素が希薄になり、鉄原子の次近接のサイトの多くが空乏な原子空孔となる。原子空孔が過剰であると、α-Feと同様の体心立方晶(bcc)に近くなる。α-Feの鉄原子の平均磁気モーメントは2.2μと低いため、窒化鉄α″-Fe16と比較して、飽和磁束密度Bsが向上しなくなると考えられる。
次に、窒素欠陥が導入された鉄と窒素を含む体心正方晶(bct)の結晶を含む磁性体材料について、より具体的な形態を説明する。
窒素欠陥が導入された体心正方晶(bct)の結晶に含まれる鉄(Fe)の一部または全部は、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)等の金属元素で置換されてもよい。Feを置換する元素としては、高い飽和磁束密度Bsが得られる点で、Coが好ましい。
Co量は、低コスト化の観点等からは、好ましくは25原子%以下、より好ましくは20原子%以下である。また、Co量は、Coを積極的に添加する場合、好ましくは1原子%以上、より好ましくは5原子%以上である。Ni量は、好ましくは3原子%以下である。また、Ni量は、Niを積極的に添加する場合、好ましくは0.01原子%以上である。Co量やNi量は、不可避的不純物の相当量以下であってもよい。
窒素欠陥が導入された体心正方晶(bct)の結晶に含まれる窒素(N)の一部は、炭素(C)、酸素(O)、ホウ素(B)等の軽元素で置換されてもよい。Nを置換する元素としては、高い磁気モーメントが得られる点で、Cが好ましい。Cは、非磁性のγ相を安定化し、低磁性の炭化物を生成する。しかし、適量のCで置換すると、飽和磁束密度Bsを高く保ちつつ、鉄損Piを低減することができる。
N量は、11.1原子%未満であり、窒素欠陥の導入量を25~75%(0.5≦x≦1.5)とする観点からは、2.8原子%以上8.3原子%以下であることが好ましい。また、窒素欠陥の導入量を37.5~75%(0.75≦x≦1.5)とする観点からは、4.2原子%以上8.3原子%以下であることが好ましい。
C量は、好ましくは3原子%以下である。また、C量は、Cを積極的に添加する場合、好ましくは0.01原子%以上である。O量は、好ましくは3原子%以下である。また、O量は、Cを積極的に添加する場合、好ましくは0.01原子%以上である。B量は、好ましくは3原子%以下である。また、B量は、Bを積極的に添加する場合、好ましくは0.01原子%以上である。C量、O量やB量は、不可避的不純物の相当量以下であってもよい。
すなわち、本実施形態に係る磁性体材料は、次の一般式(I)で表される体心正方晶(bct)の結晶を含む。
Fe16-a-bCoNi2-c-x・・・(I)
[但し、式(I)中、Mは、CoおよびNiからなる群より選択される一種以上の元素を表し、Aは、C、OおよびBからなる群より選択される一種以上の元素を表し、0≦a<16、0≦b<16、0≦c<2、0<x<2を満たす。]
式(I)中、窒素欠陥を表す係数xは、好ましくは0.5≦x≦1.5であり、より好ましくは0.75≦x≦1.5である。係数aは、Coを積極的に添加する場合、好ましくは0.18≦a≦4.5、より好ましくは0.18≦a≦3.6である。係数bは、Niを積極的に添加する場合、好ましくは0.18≦b≦0.54である。係数cは、C、OまたはBを積極的に添加する場合、好ましくは0.18≦b≦0.54である。
窒素欠陥が導入された体心正方晶(bct)のc軸の格子定数(c軸長)は、材料当たりの平均値で、5.66Å以上6.23Å未満であることが好ましい。理論計算値では、bctの純鉄のc軸長は、5.66Åである。完全結晶のα″-Fe16のc軸長は、6.23Åである。前記の範囲であると、窒素欠陥が適切に導入されているため、体積当たりの高い飽和磁束密度Bsが得られる。なお、1Åは0.1nmである。
窒素欠陥が導入された体心正方晶(bct)の単位格子の体積は、材料当たりの平均値で、181.3Å以上201.2Å未満であることが好ましい。理論計算値では、bctの純鉄の単位格子の体積は、181.3Åである。完全結晶のα″-Fe16の単位格子の体積は、201.2Åである。前記の範囲であると、窒素欠陥が適切に導入されているため、体積当たりの高い飽和磁束密度Bsが得られる。
窒素欠陥が導入された体心正方晶(bct)の結晶に含まれる窒素原子同士の最小距離は、6.8Å以上であることが好ましい。窒素に対する鉄のモル比が16(Fe16N)であるとき、窒素原子同士の平均距離は、6.8Åである。前記の範囲であると、窒素欠陥が分散的に導入されているため、窒素原子の次近接のサイトで磁気モーメントを向上させる効果が結晶全体で得られ易くなる。
窒素欠陥が導入された体心正方晶(bct)の結晶の体積率は、磁性体材料100体積%当たり、好ましくは10体積%以上、より好ましくは30体積%以上、更に好ましくは50体積%以上、更に好ましくは70体積%以上、更に好ましくは90体積%以上である。
本実施形態に係る磁性体材料は、鉄と窒素を含むbctを含む限り、FeNのα’相や、γ相や、γ’相や、FeNのε相等の一種以上を部分的に含んでもよい。但し、非磁性であるγ相の体積分率は、5体積%以下であることが好ましい。飽和磁束密度Bsが低いγ’相の体積分率は、5体積%以下であることが好ましい。飽和磁束密度Bsが低いε相の体積分率は、5体積%以下であることが好ましい。
本実施形態に係る磁性体材料は、窒素欠陥が導入された体心正方晶(bct)の結晶は、Feを置換する金属元素、および、Nを置換する軽元素について、濃度勾配を有してもよいし、濃度勾配を有しなくてもよい。
磁性体材料の結晶構造は、X線回折(X‐ray diffraction:XRD)測定によって確認することができる。また、磁性体材料の化学組成は、電子線マイクロアナライザ(Electron Probe Micro Analyzer:EPMA)等によって確認することができる。窒素欠陥の有無は、結晶構造の解析結果と化学組成の解析結果とを、完全結晶のα″-Fe16の場合と比較して確認することができる。結晶の体積率は、走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope:SEM)等で組織観察して画像解析によって求めることができる。
<磁性体材料の製造方法>
本実施形態に係る磁性体材料は、窒化鉄α″-Fe16、ないし、その異種元素置換体の合成において、窒素量を制限する方法を用いて製造することができる。
窒化鉄α″-Fe16、ないし、その異種元素置換体を合成する方法としては、鉄系材料に浸窒素熱処理を施す方法、鉄系材料に浸窒素熱処理と脱窒素熱処理を施す方法や、窒素量を制限した物理蒸着法、スパッタ法、分子線エピタキシ法、イオン注入法等が挙げられる。以下、鉄系材料に浸窒素熱処理を施す方法と、鉄系材料に浸窒素熱処理と脱窒素熱処理を施す方法を例として、磁性体材料の製造方法を説明する。
本実施形態に係る磁性体材料は、浸窒素熱処理のみを施す方法の場合、材料用意工程と、均質化熱処理工程と、浸窒素熱処理工程と、冷却工程とを、この順に経る方法によって得ることができる。また、浸窒素熱処理と脱窒素熱処理を施す方法の場合、材料用意工程と、均質化熱処理工程と、浸窒素熱処理工程と、脱窒素熱処理と、冷却工程とを、この順に経る方法によって得ることができる。
(材料用意工程)
材料用意工程は、磁性体材料の出発材料を用意する工程である。出発材料としては、板状、箔状等の材料を用意する。出発材料の厚さは、例えば、0.01mm以上1mm以下とすることができる。出発材料としては、鉄に置換される金属元素や、窒素に置換される軽元素を含む鉄系材料を用いることができる。鉄系材料としては、純鉄や、低炭素且つ低合金元素である鉄鋼、合金鋼、電磁鋼、鉄-コバルト系合金等が挙げられる。
出発材料は、炭素が1.5質量%以下であるものが好ましい。また、出発材料は、合金元素が合計で5質量%以下であるものが好ましい。炭素や合金元素が多いと、マルテンサイト変態後に低磁性のγ相等が残留して、飽和磁束密度Bsが低くなる場合があるためである。また、炭素が多いと、窒素原子が固溶し難い炭化物が生成して、窒素原子を均一性高く拡散させるのが妨げられる。
(均質化熱処理工程)
均質化熱処理工程は、出発材料をオーステナイト形成温度(Ac3変態点)以上に加熱して均質化する工程である。均質化熱処理は、アルゴンガス等の不活性ガス雰囲気下で行う。例えば、出発材料を900℃以上に加熱して、材料中の化学成分を均一性高い状態に拡散させる。
(浸窒素熱処理工程)
浸窒素熱処理工程は、熱処理下の材料に浸窒素性ガスを接触させて、材料中に窒素を侵入・拡散させる工程である。浸窒素熱処理は、共析温度(A1変態点)よりも高温で行うことが好ましい。窒素は、炭化物FeC等に対して侵入し難いが、γ相等には固溶するためである。例えば、ガス冷却した材料を700~900℃に加熱して、不活性ガス雰囲気下、浸窒素性ガスを供給する。浸窒素性ガスとしては、アンモニア等を用いることができる。
浸窒素熱処理工程では、窒素欠陥を導入するために、窒素の拡散量を調整することができる。材料中の窒素は、濃度勾配が形成されてもよいし、濃度勾配が形成されなくてもよい。なお、脱窒素熱処理工程を行う場合は、浸窒素熱処理工程において、窒素の拡散量を調整せず、化学量論比の相当量以上の窒素を拡散させてもよい。
窒素の拡散量は、浸窒素性ガスの量(分圧)を制御する方法、浸窒素性ガスを含む雰囲気圧力(全圧)を制御する方法、浸窒素熱処理の温度を制御する方法、浸窒素性ガスの接触の時間を制御する方法等や、これらの組み合わせによって調整することができる。窒素欠陥の導入量は、浸窒素性ガスの量を減らす制御や、雰囲気圧力を下げる制御や、温度を下げる制御や、窒素の接触の時間を減らす制御によって増加させることができる。
(脱窒素熱処理工程)
脱窒素熱処理工程は、熱処理下の材料から窒素を放出させて、材料中に窒素欠陥を導入する工程である。脱窒素熱処理工程は、浸窒素熱処理工程において、窒素の拡散量を調整せず、化学量論比の相当量以上の窒素を拡散させている場合に行う。脱窒素熱処理は、例えば、材料を700~900℃に加熱して行うことができる。
窒素の放出量は、浸窒素性ガスの量(分圧)を制御する方法、雰囲気圧力(全圧)を制御する方法、脱窒素熱処理の温度を制御する方法、脱窒素熱処理の時間を制御する方法等や、これらの組み合わせによって調整することができる。窒素の放出量は、材料に接触する浸窒素性ガスの量を減らす制御や、雰囲気圧力を下げる制御や、脱窒素熱処理の温度を上げる制御や、脱窒素熱処理の時間を増やす制御によって増加させることができる。
(冷却工程)
冷却工程は、材料をマルテンサイト変態温度(Ms変態点)以下に急冷して、体心正方晶(bct)のマルテンサイト組織に相変態させる工程である。急冷は、油、水等の冷却材を用いて100℃未満まで冷却する処理や、ドライアイス、液体窒素等の冷却材を用いて0℃以下まで冷却するサブゼロ処理として行うことができる。
浸窒素熱処理された材料を急冷すると、母相中に窒素原子が固溶したbct構造の磁性体材料が得られる。浸窒素熱処理工程で、窒素の拡散量を減らすと、窒素欠陥が導入されており、bctを呈する結晶に含まれる窒素に対する鉄のモル比が8を超える磁性体材料が得られる。磁性体材料は、窒素が固溶していないbcc相、オーステナイトやFeNのfcc相等を含んでもよい。
(浸炭熱処理工程)
窒素欠陥が導入された体心正方晶(bct)の結晶に含まれる窒素の一部を炭素で置換する場合、浸窒素熱処理工程の前または後に、浸炭熱処理工程を行うこともできる。
窒素の一部を炭素で置換する場合、浸炭処理は、材料を共析温度(A1変態点)よりも高温に熱処理して炭素源と接触させる方法で行うことができる。材料に浸炭処理を施した後、200℃付近まで冷却して炭化物を生成させることが好ましい。浸炭処理は、例えば、ガス浸炭等で行うことができる。浸炭性ガスとしては、アセチレン、メタン、プロパン、ブタン等を用いることができる。浸炭性ガスは、不活性ガス雰囲気下、連続的または間欠的に供給することができる。
続いて、炭化物を生成させた後、材料を共析温度(A1変態点)付近まで加熱して保持した後、オーステナイト形成温度(Ac3変態点)以上に急速加熱してから急冷することが好ましい。例えば、炭化物が生成した材料を、700℃~900に加熱して保持した後、900℃以上に急速加熱する。急速加熱の加熱速度は、100℃/秒以上であることが好ましい。急速加熱は、950℃付近で1秒程度保持する処理であることが好ましい。
このように、材料を共析温度付近まで加熱すると、γ相よりも炭素の固溶限界が低いα相に炭化物を分散させることができる。その後に急速加熱すると、母相中に分散させた炭化物が急速に分解されるため、炭素原子を均一性高く固溶させることができる。そのため、浸炭熱処理工程を行ってから冷却工程を行うと、窒素の一部が炭素で置換されており、且つ、窒素欠陥が導入されており、bctを呈する結晶に含まれる窒素に対する鉄のモル比が8を超える磁性体材料が得られる。
<軟磁性鋼板>
本実施形態に係る磁性体材料は、板状または箔状の軟磁性鋼板の形態で用いることができる。軟磁性鋼板は、前記の磁性体材料で形成された軟磁性を示す鋼板であり、窒素欠損が導入された鉄と窒素を含む体心正方晶(bct)の結晶を含む。軟磁性鋼板は、鉄と窒素を含むbctを含む限り、FeNのα’相や、γ相や、γ’相や、FeNのε相等の一種以上を部分的に含んでもよい。
軟磁性鋼板は、鉄(Fe)、窒素(N)や、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)等の金属元素や、炭素(C)、酸素(O)、ホウ素(B)等の軽元素の他に、不可避的不純物を含んでもよい。不可避的不純物としては、水素(H)、ケイ素(Si)、リン(P)、硫黄(S)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、銅(Cu)等が挙げられる。これらの元素の含有量は、合計で3原子%以下であることが好ましい。
軟磁性鋼板の厚さは、例えば、1μm以上1mm以下である。軟磁性鋼板は、板状または箔状の磁性体材料に、熱間圧延、冷間圧延、または、これらの組み合わせを施して得ることができる。多段の圧延工程の工程間には、窒素欠陥が過剰に生成しない温度・時間の範囲で、焼鈍を施すこともできる。板状または箔状の磁性体材料には、引張応力をかけながらアニールするテンションアニール処理を施してもよい。
軟磁性鋼板は、コバルトの濃度勾配が形成されており、窒素欠損が導入された鉄と窒素を含む体心正方晶(bct)の結晶を含む磁性体材料が積層された形態とされてもよい。積層型の軟磁性鋼板は、このような磁性体材料を含む限り、低炭素鋼板、電磁純鉄板、電磁鋼板、鉄-ケイ素系合金板、鉄-コバルト系合金板等を含んでもよい。
<鉄心・回転電機>
本実施形態に係る磁性体材料を用いた軟磁性鋼板は、鉄心の材料として用いることができる。鉄心は、軟磁性鋼板を打ち抜いて積層することによって形成される。このような鉄心は、回転電機の固定子に用いることができる。鉄心は、窒素欠陥が導入された鉄と窒素を含む体心正方晶(bct)の結晶を含む磁性体材料を用いる限り、低炭素鋼板、電磁純鉄板、電磁鋼板、鉄-ケイ素系合金板、鉄-コバルト系合金板等と積層されてもよい。
図4は、回転電機の固定子の一例を模式的に示す斜視図である。図5は、固定子のスロット領域を拡大して模式的に示す横断面図である。なお、横断面とは、回転軸方向に直交する断面(法線が回転軸方向と平行である断面)を意味する。回転電機では、図4~図5に示す固定子の径方向の内側に、回転子(図示せず)が配設される。
図4~図5に示すように、固定子10は、鉄心11の内周側に形成された複数の固定子スロット12に、固定子コイル20が巻装されたものである。固定子スロット12は、鉄心11の周方向に所定の周方向ピッチで配列形成されると共に、軸方向に貫通形成された空間であり、最内周部分には軸方向に延びるスリット13が開口形成されている。隣り合う固定子スロット12の仕切る領域は、鉄心11のティース14と称される。ティース14の内周側先端領域でスリット13を規定する部分は、ティース爪部15と称される。
固定子コイル20は、通常、複数のセグメント導体21から構成される。例えば、図4~図5において、固定子コイル20は、三相交流のU相、V相、W相に対応する3本のセグメント導体21から構成されている。また、セグメント導体21と鉄心11との間の部分放電、および、各相(U相、V相、W相)間の部分放電を防止する観点から、各セグメント導体21は、通常、その外周を電気絶縁材22(例えば、絶縁紙、エナメル被覆)で覆われる。
本実施形態に係る軟磁性鋼板を用いた鉄心および回転電機とは、本実施形態に係る軟磁性鋼板を所定の形状に成形加工したものを軸方向に多数枚積層して形成された鉄心11および該鉄心11を利用した回転電機である。軟磁性鋼板は、純鉄を超える飽和磁束密度Bsと純鉄と同程度以下の保磁力Hcという磁気特性を示すことから、従来の電磁鋼板を用いた鉄心よりも電気エネルギと磁気エネルギとの変換効率を高めた鉄心を提供できる。高効率な鉄心は、回転電機の小型化や高トルク化を実現することができる。
また、本実施形態に係る軟磁性鋼板は、Fe-Co系鋼板よりも材料コストが低い低炭素鋼板、電磁純鉄板等を採用可能なことから、高効率な鉄心および回転電機を低コストで提供できる利点もある。
本実施形態に係る軟磁性鋼板を鉄心に用いた回転電機は、このような固定子(コア)10と、固定子コイル20と、回転子(ロータ)と、を備える。鉄心11のティース14、ティース爪部15およびバックヨークの材料として、窒素欠陥が導入された鉄と窒素を含む体心正方晶(bct)の結晶を含む磁性体材料を用いると、従来の完全結晶のα″-Fe16を用いる場合と比較して、高い飽和磁束密度Bsが得られる。
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、前記の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更が可能である。例えば、本発明は、必ずしも前記の実施形態が備える全ての構成を備えるものに限定されない。或る実施形態の構成の一部を他の構成に置き換えたり、或る実施形態の構成の一部を他の形態に追加したり、或る実施形態の構成の一部を省略したりすることができる。
以下、種々の実施例により本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明は、これらの実施例の構成・構造に限定されるものではない。
[解析1]
α″-Fe16の単位胞から1個の窒素原子を除去した計算モデルを構築し、その電子構造を第一原理密度汎関数法にて決定し、磁気モーメント、格子定数、単位胞の体積、飽和磁束密度Bsを求めた。
交換相関汎関数としては、一般化密度勾配近似(Generalized Gradient Approximation:GGA)を用いた。波動関数の平面波展開におけるカットオフエネルギは、500eVとした。ブリルアンゾーン内の積分点は、各軸方向を4分割して合計64点をとった。十分な高精度でエネルギを評価できる条件である。
図6は、電子構造の計算に用いた計算モデルを示す図である。
図6には、電子構造の計算に用いた体心正方晶(bct)の計算モデルを示す。図6において、符号601は、窒素欠陥として導入される2aサイトの原子空孔を示す。符号602は、4eサイトを示す。符号603は、8hサイトを示す。符号604は、サイトを示す。
図6に示すように、Fe16の単位胞の中心に位置する窒素原子を除去して原子空孔601を形成した。窒素欠陥を導入すると、窒素原子と結合していた鉄原子の安定位置が変わる。窒素欠陥の導入後の各原子の安定位置は、各原子に働く力を計算し、逐次、原子座標を更新して、エネルギ的な安定性に基づいて決定した。原子座標を更新する間に、単位胞の格子形状についても、各原子間に働く力がゼロとなるまで最適化した。
窒素欠陥を導入したFe16Nの電子構造を計算した結果、窒素原子との結合が解消された4eサイト(602)の鉄原子の磁気モーメントは、2.51μとなった。窒素欠陥が導入されていない状態では、2.18μであったため、0.33μの磁気モーメントが付加されたことになる。窒素欠陥を導入すると、磁気モーメントが15%向上しており、本発明者らの考えを支持する結果が得られた。
また、窒素原子との結合が解消された8hサイト(603)の鉄原子の磁気モーメントは、2.46μとなった。窒素欠陥が導入されていない状態では、2.38μであったため、0.08μの磁気モーメントが付加されたことになる。窒素欠陥を導入すると磁気モーメントが3%向上しており、4eサイト(602)の場合と比較して効果は小さいが、飽和磁束密度Bsを向上する作用が確認された。
一方、窒素原子と結合していなかった4dサイト(604)の鉄原子の磁気モーメントは、2.67μとなった。窒素欠陥が導入されていない状態では、2.85μであったため、0.18μの磁気モーメントが減少したことになる。窒素欠陥を導入すると磁気モーメントが6%低くなる結果となった。
窒素欠陥を導入したFe16Nの単位胞における合計の磁気モーメントは、37.9μとなった。窒素欠陥が導入されていない状態では、38.6μであったため、0.7μの磁気モーメントが減少したことになる。但し、磁性体材料の実用性の観点からは、単位胞の磁気モーメントよりも、飽和磁束密度Bsが重要である。単位胞の体積当たりの磁束は、単位胞の磁気モーメントを単位胞の体積で除算して求めることができる。
窒素欠陥が導入されていないFe16の単位胞の体積は、201.2Åであった。Fe16の単位胞の体積当たりの飽和磁束密度Bsは、2.23Tであった。一方、窒素欠陥を導入したFe16Nの単位胞の体積は、193.3Åであった。Fe16Nの単位胞の体積当たりの飽和磁束密度Bsは、2.28Tとなった。
以上のとおり、窒素欠陥を導入すると、狙いどおり4eサイトと8hサイトの磁気モーメントが増加する一方で、4dサイトの磁気モーメントが減少した。窒素欠陥を導入すると、単位胞の磁気モーメントは低下するが、単位胞の体積が小さくなるため、結果として単位胞の体積当たりの磁束密度が高くなり、高い飽和磁束密度Bsが得られることが分かった。
[解析2]
Co16の単位胞から1個の窒素原子を除去した計算モデルを構築し、その電子構造を密度汎関数理論による第一原理計算にて決定し、磁気モーメント、単位胞の体積、飽和磁束密度Bsを求めた。
解析2は、Fe16の鉄原子を別の元素で置換しても、窒素欠陥の導入による効果が得られることを確認することを目的とする。解析2の計算は、解析1と同様の手法で、bct構造の下で各原子に働く力を計算して平衡状態を導出し、平衡状態における原子座標や格子形状について行った。なお、窒素欠陥が導入されていない完全結晶のCo16についても、同様に計算を行った。
窒素欠陥を導入していないCo16の単位胞における合計の磁気モーメントは、23.0μであった。コバルトは、鉄と比較して磁気モーメントが小さいため、予測されたとおり、Co16の単位胞における合計の磁気モーメントは、Fe16の単位胞における合計の磁気モーメントよりも小さくなった。
一方、窒素欠陥を導入したCo16Nの単位胞における合計の磁気モーメントは、24.4μとなった。窒素欠陥が導入されていない状態では、23.0μであったため、1.4μの磁気モーメントが付加されたことになる。
窒素欠陥が導入されていないCo16の単位胞の体積は、187.1Åであった。Co16の単位胞の体積当たりの飽和磁束密度Bsは、1.43Tであった。一方、窒素欠陥を導入したCo16Nの単位胞の体積は、180.9Åであった。Co16Nの単位胞の体積当たりの飽和磁束密度Bsは、1.57Tとなった。
以上のとおり、窒素欠陥を導入すると、単位胞の体積は、6.2Åだけ減少し、窒素欠陥が導入されていない場合に対して3%小さくなった。結果として、窒素欠陥を導入したCo16Nの場合に、高い飽和磁束密度Bsが得られた。Fe16の鉄原子を別の元素で置換しても、窒素欠陥の導入による効果が得られることが確認された。
[解析3]
Fe16の単位胞から1個の炭素原子を除去した計算モデルを構築し、その電子構造を密度汎関数理論による第一原理計算にて決定し、磁気モーメント、単位胞の体積、飽和磁束密度Bsを求めた。
解析3は、Fe16の窒素原子を別の元素で置換しても、軽元素欠陥の導入による効果が得られることを確認することを目的とする。解析3の計算は、解析2と同様の手法で、bct構造の下で各原子に働く力を計算して平衡状態を導出し、平衡状態における原子座標や格子形状について行った。なお、軽元素欠陥が導入されていない完全結晶のFe16についても、同様に計算を行った。
軽元素欠陥を導入していないFe16の単位胞における合計の磁気モーメントは、36.9μであった。Fe16では、38.6μであったため、1.7μの磁気モーメントが減少したことになる。
軽元素欠陥を導入したFe16Cの単位胞における合計の磁気モーメントは、37.5μとなった。軽元素欠陥が導入されていない状態では、36.9μであったため、0.6μの磁気モーメントが付加されたことになる。
軽元素欠陥が導入されていないFe16の単位胞の体積は、200.3Åであった。Fe16の単位胞の体積当たりの飽和磁束密度Bsは、2.15Tであった。一方、軽元素欠陥を導入したFe16Cの単位胞の体積は、193.1Åであった。Fe16Cの単位胞の体積当たりの飽和磁束密度Bsは、2.26Tとなった。
以上のとおり、軽元素欠陥を導入しても、完全結晶の場合と比較して、高い飽和磁束密度Bsが得られた。Fe16の窒素原子を別の軽元素で置換しても、軽元素欠陥の導入による効果が得られることが確認された。
表1に、磁気モーメント、格子定数、単位胞の体積、飽和磁束密度Bsの結果を示す。また、Fe162-xで表され、x=0、0.25、0.5、0.75、1.0、1.25、1.5、1.75、2.0である9種の場合の格子定数を示す。
Figure 2022167614000002
解析1~3に示されるとおり、α″-Fe16に窒素欠陥を導入すると、磁気モーメントの変化、ないし、結晶の体積の変化が起こり、結果として、単位胞の体積当たりの飽和磁束密度Bsが向上することが確認された。磁性体材料中に、このような窒素欠陥が導入されたbctの結晶構造が含まれることにより、α″-Fe16の場合と比較して、高い飽和磁束密度Bsが得られるといえる。
10…固定子、11…鉄心、12…固定子スロット、13…スリット、14…ティース、15…ティース爪部、20…固定子コイル、21…セグメント導体、22…電気絶縁材、101…鉄(4eサイト)、102…鉄(8hサイト)、103…鉄(4dサイト)、104…窒素(2aサイト)、201…鉄(4eサイト)、202…鉄(8hサイト)、203…鉄(4dサイト)、204…窒素(2aサイト)、205…原子空孔、206…結晶の単位胞境界

Claims (11)

  1. 鉄と窒素を含む磁性体材料であって、鉄と窒素を含む体心正方晶(bct)の結晶を含み、前記結晶に含まれる窒素に対する鉄のモル比が8を超える磁性体材料。
  2. 請求項1に記載の磁性体材料であって、
    前記結晶に含まれる窒素に対する鉄のモル比は32以下である磁性体材料。
  3. 請求項1に記載の磁性体材料であって、
    前記結晶に含まれる鉄の一部または全部がコバルトで置換された磁性体材料。
  4. 請求項1に記載の磁性体材料であって、
    前記結晶に含まれる窒素の一部が炭素で置換された磁性体材料。
  5. 請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の磁性体材料であって、
    前記結晶のc軸の格子定数が6.23Å未満である磁性体材料。
  6. 請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の磁性体材料であって、
    前記結晶の単位格子の体積が201.2Å未満である磁性体材料。
  7. 請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の磁性体材料であって、
    前記結晶に含まれる窒素原子同士の最小距離が6.8Å以上である磁性体材料。
  8. 請求項1に記載の磁性体材料であって、
    窒素の量が2.8原子%以上8.3原子%以下である磁性体材料。
  9. 請求項1に記載の磁性体材料であって、
    コバルトの量が25原子%以下である磁性体材料。
  10. 軟磁性鋼板が積層された鉄心であって、前記軟磁性鋼板の一部または全部が、請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の磁性体材料で形成されている鉄心。
  11. 軟磁性鋼板が積層された鉄心を備えた回転電機であって、前記軟磁性鋼板の一部または全部が、請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の磁性体材料で形成されている回転電機。
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