JP2022157275A - 2-ヒドロキシイソ酪酸産生能を有する微生物及び2-ヒドロキシイソ酪酸の製造方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】再生可能資源から2-HIBAを簡便且つ安価に産生できる微生物、及び、2-ヒドロキシイソ酪酸を製造する方法の提供。【解決手段】2-ヒドロキシイソ酪酸産生能を有する微生物であって、ハロモナス・エスピー(Halomonas sp.)KM-1(寄託番号FERM BP-10995)株の、好熱菌由来のアシル補酵素Aムターゼが発現する改変株である微生物、及び、当該微生物を用いた2-ヒドロキシイソ酪酸の製造方法。【選択図】図1

Description

本発明は、2-ヒドロキシイソ酪酸産生能を有する微生物に関し、また、当該微生物を用いた2-ヒドロキシイソ酪酸の製造方法に関する。
メタクリル酸及びその誘導体、並びに、その重合体であるポリマー(以下、「メタクリル酸等」と略する場合がある)は、アクリル板等に加工され窓材や電子部材等の成形材料として利用される他、塗料、接着剤等の種々の用途に利用されている。現在、メタクリル酸等は、主に石油化学資源を原料として製造され、例えばアセトンを原料するアセトンニンヒドリン法やイソブチレンを原料とする直酸法により製造されている。しかし、石油化学資源は有限であり、かつ、環境負荷も高いことから代替法の構築が求められている。
そこで、石油化学資源を用いず再生可能資源を用いたメタクリル酸等の製造方法が報告されている。かかる方法は、環境負荷を低減し、かつ、費用効果の高い方法として着目されている。例えば、遺伝子工学的に改変された微生物を用いて、メタクリル酸等に化学的に容易に転換可能な2-ヒドロキシイソ酪酸(以下、「2-HIBA」と略する場合がある)を産生する方法が報告されている(例えば、特許文献1及び2を参照のこと)。
特許文献1には、遺伝子工学的に改変された微生物を用いて、2-HIBAを、アセトアセチル補酵素A(以下、補酵素Aを「CoA」と略する場合がある)、3-ヒドロキシ酪酸CoA(以下、「3-HB-CoA」と略する場合がある)を経由して産生することが報告されている。具体的には、 アキノコラ・テルシアリカルボニス(Aquincola tertiaricarbonis)のゲノムDNAに対して、3-HB-CoAの2-HIBA-CoAへの異化反応を触媒する酵素であるムターゼをコードする遺伝子領域(icmA及びicmB)をPCRにより増幅し、両者をライゲーションする。続いて、このライゲーション産物をPCRにより増幅し、得られたPCR断片をプラスミドベクターに導入して発現ベクターを得る。続いて、当該発現ベクターでラルストニア・ユートロファ(Ralstonia eutropha)を遺伝子工学的に改変することで、適当な炭素源から2-HIBAを産生できる遺伝子改変株が得られることが報告されている。親株であるラルストニア・ユートロファは、元来、内在性の酵素の作用によりグルコン酸やフルクトース等の適当な炭素源から3-HB-CoAを産生する能力を有する微生物である。したがって、当該親株に外来性ムターゼを導入した遺伝子改変株は、3-HB-CoAを2-HIBA-CoAに変換でき、更に、内在性の酵素による加水分解を受けて2-HIBAが産生される。特許文献1に記載の実施例では、炭素源としてグルコン酸ナトリウム15g/Lを含む培地から0.72mmol/kgの2-HIBAが産生されたことが確認され、また、フルクトースを炭素源とした場合にも同様に2-HIBAの産生が確認されている。
特許文献2には、メチリビウム・ペトロレイフィルム(Methylibium petroleiphilum)由来のムターゼをコードする遺伝子領域であるicmA及びicmBを、ラルストニア・ユートロファ由来のアセチルCoAアセチルトランスフェラーゼ及び3-ヒドロキシ酪酸CoAデヒドロゲナーゼをコードする遺伝子領域であるphaA及びphaBと組み合わせてプラスミドベクターに導入し発現プラスミドを得て、かかる発現ベクターで大腸菌(Escherichia coli )MG1655株を遺伝子工学的に改変することにより、特許文献1と同様に、適当な炭素源から2-HIBAを産生できる遺伝子改変株が得られることが報告されている。このようにして得られた2-HIBAは脱水反応によりメタクリル酸に変換することができる。
特表2011-525367号 特表2012-500641号
遺伝子工学的手法を利用する有用物質の産生を工業的プロセスとして確立するためには、当該有用物質を産生するように遺伝子工学的に操作された微生物を低コストで大量に培養することが必要となる。そのためには、培地や培養条件、培養装置等を最適化する必要がある。しかし、特許文献1及び特許文献2で構築された遺伝子改変株を含めて、大半の微生物は、NaCl濃度が0Mに近い低塩環境を好適な生育環境とし、また、pHについても中性pH領域を好適な生育環境とする。そのため、特許文献1及び特許文献2で構築された遺伝子改変株を培養する場合には、他の微生物によるコンタミネーションを防止するために、培養に直接使用する培地や培養装置等の滅菌若しくは消毒、培地への抗生物質の投入等が必要となり、煩雑な操作やコストがかかる。
そこで、本発明は、再生可能資源から2-HIBAを簡便且つ安価に産生できる微生物、及び、2-HIBAを製造する方法の提供を課題とする。
本発明者は、上記した課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、好塩、好アルカリ性環境で生育可能な細菌であるハロモナス・エスピー(Halomonas sp.)KM-1株に、アシルCoAムターゼ遺伝子(「アシルCoAムターゼ活性を有するタンパク質をコードする核酸分子」を意味する)を導入することにより、適当な炭素源から2-HIBAを簡便且つ安価に産生できる遺伝子改変株を取得した。更に、当該遺伝子改変株を用いることで、簡便且つ安価に2-HIBAを製造できることを見出した。発明者らはこれらの知見に基づき本発明を完成するに至った。
即ち、本発明は、2-ヒドロキシイソ酪酸産生能を有する微生物に関し、その特徴構成は、ハロモナス・エスピー(Halomonas sp.)KM-1(寄託番号FERM BP-10995)株の、好熱菌由来のアシル補酵素Aムターゼ活性を有するタンパク質が発現する改変株である。
他の特徴構成は、前記アシル補酵素Aムターゼは、キルピディア・ツスシー(Kyrpidia tusciae)由来のメチルマロニル補酵素Aムターゼである。
他の特徴構成は、ハロモナス・エスピー KM-1/pOGE705KS-Ktmutase株(受託番号NITE P-03416)である。
上記特徴構成によれば、本発明の微生物は、ハロモナス・エスピー KM-1株を親株として、好熱菌由来のアシルCoAムターゼ(「アシルCoAムターゼ活性を有するタンパク質」を意味する)を発現するように改変されたものである。当該改変を有する本発明の微生物は、適当な炭素源から2-HIBAを産生することができる。かかる2-HIBAは、メタクリル酸等に化学的に容易に転換可能であることから、本発明の微生物を用いることにより、再生可能資源からメタクリル酸等を供給することができる。
本発明の微生物は、親株であるKM-1株と同様、好塩、好アルカリ性を示すことから、塩濃度が比較的高い条件であっても、また、アルカリ性条件であっても好適に培養することができる。そのため、好適条件下での培養により、他の微生物の混入及び増殖の恐れを概ね排除することができる。したがって、海水を用いた培養等を含めて非滅菌系での培養が可能であり、培養に際して培地や培養装置に対して滅菌処理等を行う必要はなく、従来に比べて簡便かつ安価に培養することができる。
また、本発明は、2-ヒドロキシイソ酪酸の製造方法に関し、その特徴構成は、上記本発明の微生物を、炭素源と無機塩を含む培地で培養する培養工程と、前記培養工程で得られる培養物から2-ヒドロキシイソ酪酸を回収する回収工程と、を含む。
上記特徴構成によれば、本発明の2-HIBAの製造方法は、上記した優れた特性を有する本発明の微生物を用いるものであることから、再生可能資源から、簡便且つ安価に、2-HIBAを製造することができる。
本実施形態に係る微生物による2-HIBA産生経路を示すフロー図。 本実施形態に係る微生物に導入された遺伝子の一例として選定されたキルピディア・ツスシー由来のメチルマロニルCoAムターゼオペロンの構成を示す概略図。 pBBR12ベクターから薬剤耐性マーカ(CmR)を除去したpBBR122△Cmの概略を示すプラスミドマップ。 本実施形態に係る微生物の一例であるKM-1/pOGE705KS-Ktmutase株に導入されたプラスミドベクター(IPTG誘導型発現ベクター)の概略を示すプラスミドマップ。 本実施形態に係る微生物の一例であるKM-1/pOGE705KS-Ktmutase株が、アシルCoAムターゼ遺伝子が導入されている遺伝子改変株であることをPCRにより確認した結果を示す電気泳動図。
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。しかし、本発明は当該実施形態に限定されるものではない。
〔微生物〕
本実施形態に係る微生物は、ハロモナス・エスピー(Halomonas sp.)KM-1株(以下、「KM-1株」と略する場合がある)を親株とする改変株である。当該微生物は、KM-1株では発現しない、好熱菌由来のアシルCoAムターゼを発現するように改変されたものであり、2-HIBA産生能を有する。
ここで、親株であるKM-1株は、平成19年7月10日付で、独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センター(〒305-8566茨城県つくば市東1-1-1中央第6)に受託番号FERM P-21316として寄託されている。また、この菌株は、現在国際寄託に移管されており、その受託番号はFERM BP-10995である。KM-1株の16S rRNA遺伝子は、DDBJにAccession Number AB477015として登録されている。
本実施形態に係る微生物は、好ましくは遺伝子改変株であり、好熱菌由来のアシルCoAムターゼ遺伝子が導入されている。アシルCoAムターゼは分子内転移酵素であり、3HB-CoAと2-HIBA-CoAとの異化反応を触媒する。当該アシルCoAムターゼの由来は好熱菌であり、好熱菌とは、至適生育温度が45℃以上、好ましくは55℃以上の細菌である。好熱菌由来の酵素は、高い耐熱性を示すとともに、アルカリや酸、変性剤等に対する耐性を示す場合が多く、工業的利用価値が高いことが報告されている。好熱菌としては、例えば、キルピディア・ツスシーが挙げられる。
好熱菌由来のアシルCoAムターゼ遺伝子としては、例えば、キルピディア・ツスシー DSM2912株由来のメチルマロニルCoAムターゼ遺伝子(Applied and Environmental Microbiology, 2015 July, 81(14), 4564-4572)が例示できる。その塩基配列の一例を配列番号1(メチルマロニルCoAムターゼオペロン:MeaB+ラージサブユニット+スモールサブユニット)に示す。なお、当該塩基配列によってコードされるアミノ酸配列を配列番号2~4(メチルマロニルCoAムターゼオペロン:配列番号2:MeaB、配列番号3:ラージサブユニット、配列番号4:スモールサブユニット)に示す。また、アシルCoAムターゼ遺伝子は、アシルCoAムターゼ活性を有するタンパク質をコードする限り、配列番号1に示す塩基配列と、少なくとも70%以上、80%以上、85%以上、90%以上、若しくは95%以上の配列同一性を示す塩基配列を含むものであってもよい。更に、アシルCoAムターゼ遺伝子は、配列番号2~4に示すアミノ酸配列と、少なくとも70%以上、80%以上、85%以上、90%以上、若しくは95%以上の配列同一性を示すアミノ酸配列を有するアシルCoAムターゼ活性を有するタンパク質をコードするものであってもよい。
本実施形態に係る微生物の例として、下記の実施例で示すKM-1/pOGE705KS-Ktmutase株が挙げられる。当該菌株は、親株であるKM-1株に、配列番号1に示すキルピディア・ツスシー DSM2912株由来のアシルCoAムターゼ遺伝子を導入した遺伝子改変株であり、2021年2月17日付で、独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センター(〒305-8566茨城県つくば市東1-1-1中央第6)に受託番号NITE P-03416として寄託されている。
(生理・生化学的特徴)
本実施形態に係る微生物は、親株であるKM-1株と同様の生理・生化学的特徴を有する。当該微生物は、酸化的代謝も嫌気的代謝も使い分けることができ、遊離酸素の存在の有無にかかわらず生育が可能で、かつ、遊離酸素の存在下のほうが生育し易い傾向となる、所謂、通性嫌気性菌の性質を有する。
本実施形態に係る微生物は、好塩菌であり、0.1~2.5M程度の塩濃度を好適な生育条件とし、塩の不存在下でも生育可能である。
本実施形態に係る微生物は、通常、pH5~12程度、特にはpH8~11程度を好適な生育条件とし、アルカリ性環境下でも生育可能である。
本実施形態に係る微生物は、通常、20~37℃程度、特には30~37℃程度を好適な生育条件とする。
本実施形態に係る微生物は、塩濃度が比較的高い条件であっても、また、アルカリ性条件であっても好適に培養することができる。そのため、好適条件下での培養により、他の微生物の混入及び増殖の恐れを概ね排除することができる。したがって、海水を用いた培養等を含めて非滅菌系での培養が可能であり、培養に際して培地や培養装置に対して滅菌処理等を行う必要はなく、従来に比べて簡便かつ安価に培養することができる。
(2-HIBA産生能)
実施形態に係る微生物は、適当な炭素源から2-HIBAを産生する能力を有する。以下、当該微生物による2-HIBAの産生能を図1に基づいて説明する。親株であるKM-1株では、一連の酵素群、即ち、PhaA、PhaB、PhaC、により、PHB合成経路が形成されていることが報告されている(特開2019-176838号等を参照のこと)。ここで、PhaAはβ-ケトチオラーゼ(アセチルCoAアセチルトランスフェラーゼ)とも称され、アセチルCoAをアセトアセチルCoAに変換する。アセチルCoAは、例えば、各種炭素源の資化過程で生成されたピルビン酸の好気的代謝過程を経て生成される。PhaBは、アセトアセチルCoA還元酵素(3-ヒドロキシ酪酸CoAデヒドロゲナーゼ)とも称され、アセトアセチルCoAを(R)-3-ヒドロキシ酪酸CoA(以下、「(R)-3HB-CoA」と称する場合がある)に還元する。PhaCは、ポリヒドロキシアルカン酸重合酵素とも称され、(R)-3HB-CoAを重合してポリヒドロキシ酪酸(以下、「PHB」と称する場合がある)を合成する。更にPHBは、ポリヒドロキシアルカン酸解重合酵素とも称されるPhaZにより、重合度1~5の(R)-3-ヒドロキシ酪酸(以下、「(R)-3HB」と称する場合がある)に分解される。
本実施形態に係る微生物は、KM-1株を親株としてアシルCoAムターゼを発現するように改変されたものであり、図1に示す通り、アシルCoAムターゼは(R)-3HB-CoAと2-HIBA-CoAとの異化反応を触媒する。したがって、当該微生物は、KM-1株とは異なり、適当な各種炭素源から(R)-3HB-CoAを経て2-HIBA-CoAを産生することができる。続いて、2-HIBA-CoAは、内在性のチオエステラーゼにより2-HIBAとCoA-SHに加水分解され、更に、内在性の2-HIBAエクスポーターにより2-HIBAは微生物の体内から遊離する。
2-HIBAは、メタクリル酸等に化学的に容易に転換可能であることから、本発明の微生物を用いることにより、再生可能資源からメタクリル酸等を供給することができる。
(作製方法)
本実施形態に係る微生物は、KM-1株へアシルCoAムターゼ遺伝子を導入し、当該遺伝子を発現させることによって作製することができる。KM-1株へのアシルCoAムターゼ遺伝子の導入は、公知の遺伝子工学的手法を用いて行うことができる。例えば、アシルCoAムターゼ遺伝子を適当なベクター中に挿入して発現ベクターを作製し、当該発現ベクターをKM-1株に導入する。利用可能なベクターとしては、外来核酸分子を組み込め、かつ、KM-1株中で自律的に複製可能なものであれば特に限定はない。そして、当該発現ベクターは、外来核酸分子が、その機能を発現できるように組み込まれ、機能発現に必要な他の公知の塩基配列が含まれる。例えば、通常、プロモーター配列、複製起点、制限酵素開裂部位、転写ターミネーター配列等を含み、更に、リーダー配列、シグナル配列、リボソーム結合配列、及び、マーカー配列等をも含ませることができる。
好適なベクターとしては、プラスミドベクター(pUC系、pBluescript系、pBR系、pGEX系等)、ファージベクター(λgt10、λgt11、及びλZAP等)、コスミドベクター、ウイルスベクター(ワクシニアウイルス、及びバキュロウイルス等)等が挙げられるが、これらに限定するものではなく公知のベクターを用いることができる。好ましくはプラスミドベクターである。
好適なプロモーター配列は、誘導性プロモーター及び構成的プロモーターの別は問わないが、好ましくは誘導性プロモーターである。誘導性プロモーターは 目的遺伝子の発現を特定の因子の存在又は不存在下において誘導し得るものであり、構成的プロモーターは目的遺伝子を構成的に発現させ得るものである。具体的なプロモーターとしては、lacプロモーター、tacプロモーター、trpプロモーター、T7プロモーター等が好適に例示される。しかし、これに限定するものではなく公知のプロモーター配列を用いることができる。
一般的に、外来核酸分子を導入する場合に、当該外来核酸分子が微生物の増殖等に悪影響を及ぼす可能性がある。したがって、本実施形態においても、好熱菌由来のアシルCoAムターゼ遺伝子によって遺伝子改変されたKM-1株が十分に増殖するまでは、当該遺伝子の発現を抑制し、ある程度、増殖した段階で当該遺伝子を発現させることが好ましい。例えば、ラクトースオペロンを用いることによって、好熱菌由来のムターゼ遺伝子の発現を制御することができ、イソプロピルβ-D-チオガラクトピラノシド(以下、「IPTG」と略する場合がある)により当該遺伝子の発現を誘導するように構成することができる。
マーカー配列は、発現ベクターが導入された微生物において表現型選択を付与するものであり、例えば、薬剤耐性遺伝子や、蛍光タンパク質、呈色反応を触媒する酵素の遺伝子をコードする核酸配列等が例示される。具体的には、スペクチノマイシン耐性遺伝子、カナマイシン耐性遺伝子、クロラムフェニコール耐性遺伝子、アンピシリン耐性遺伝子等が例示される。
好熱菌由来のアシルCoAムターゼ遺伝子は、Kyoto Encyclopedia of Genes and Genomes(KEGG)やGenBank、DDBJ、EMBL-Bank等のデータベースにそのアミノ酸配列情報や塩基配列情報が開示されていることから、当該配列情報に基づいて公知の遺伝子工学的手法や化学的合成手法に基づいて調製することができる。遺伝子工学的手法としては、例えば、当該配列情報に基づいて適当なプローブを調製しハイブリダイゼーション法によって、好ましくは好熱菌等の生物体由来の染色体DNA、及び、mRNAから逆転写反応によって合成したcDNA等から所望の好熱菌由来のアシルCoAムターゼ遺伝子を取得することができる。また、当該配列情報に基づいて調製したプライマーを用いたPCRによっても取得することができる。ここで用いられるプローブ及びプライマーは、所望の好熱菌由来のアシルCoAムターゼ遺伝子と相補的な配列を含む10以上、好ましくは15以上、更に好ましくは約20~50の塩基からなるオリゴヌクレオチドとすることができる。例えば、プライマーは、所望の領域を増幅するようにプライマー設計支援ソフト等を用いて設計することができる。ここで、相補的とは、プローブ又はプライマーと標的遺伝子の塩基配列とが塩基対合則に従って特異的に結合し安定な二重鎖構造を形成できることを意味する。ここで、完全な相補性のみならず、プローブ又はプライマーと標的遺伝子の塩基配列が互いに安定な二重鎖構造を形成し得るのに十分である限り、いくつかの塩基のみが塩基対合則に沿って適合する部分的な相補性であっても許容される。プローブ及びプライマーは、常法に基づいて調製することができる。例えば、化学的合成手法や、既に目的となる遺伝子が取得されている場合にはその制限酵素断片等を用いることができる。化学的合成手法としては、公知のホスホアミダイト法等のDNA合成法を用いることができる。
ベクターへのアシルCoAムターゼ遺伝子の挿入は、例えば、適当な制限酵素で所望のアシルCoAムターゼ遺伝子を切断し、適当なベクターの制限酵素開裂部位、又は、マルチクローニング部位に挿入して連結する方法等を用いることができるが、これに限定されず公知の方法を用いることができる。
構築した発現ベクターを、KM-1株に導入する手段としては、塩化カルシウム法、エレクトロポレーション法、リポソームフェクション法、マイクロインジェクション法等を用いることができるが、これらに限定されず公知の方法を用いることができる。
所望の遺伝子改変株の選別は、公知の方法に基づいて行うことができる。例えば、発現ベクターに含めたマーカー配列の発現の有無により行なうことができる。マーカー配列として薬剤耐性遺伝子を用いる場合には、当該薬剤耐性遺伝子に対応する薬剤を含有する培地で培養することによって行うことができる。また、アシルCoAムターゼ遺伝子の導入を、アシルCoAムターゼ遺伝子に特徴的な塩基配列を含むプライマーを用いたPCRにより確認することにより行ってもよい。
[2-HIBAの製造方法]
本実施形態に係る2-HIBAの製造方法は、
(1)本実施形態に係る微生物を炭素源と無機塩を含む培地で培養する培養工程と、
(2)前記培養工程で得られる培養液から2-HIBAを回収する回収工程と、を含むものである。
(工程(1):培養工程)
本実施形態に係る2-HIBAの製造方法における工程(1)は、本実施形態に係る微生物を炭素源と無機塩を含む培地で培養する工程である。
<微生物>
工程(1)で用いる微生物は、上記した本実施形態に係る微生物を用いる。本実施形態に係る微生物は、親株であるKM-1株と同様にして培養することができる。炭素源と無機塩を含む培地で培養する。なお、「炭素源」及び「炭素源」については、<培地>の欄で後述する。
<培地>
上記工程(1)において用いる培地は、無機塩と炭素源を含有し、好ましくは液体培地である。培地のpHは、特に限定されないが、本実施形態の微生物の生育条件を満たすpHであることが好ましく、具体的にはpH5~12程度の範囲内である。より好ましくはpH8~11程度の範囲内である。アルカリ性の培地を用いることにより、特別な手段を設けなくとも、他の微生物等の混入を効果的に防止することができる。
工程(1)において用いる培地に含有させる無機塩は特に限定されない。例えば、リン酸塩、硝酸塩、炭酸塩、硫酸塩、ナトリウム、マグネシウム、カリウム、マンガン、鉄、亜鉛、銅、コバルト等の金属塩等を用いることができる。
例えば、ナトリウム塩を無機塩として用いる場合には、NaCl、NaNO、NaNO、NaHCO、NaCO、NaHPO、NaHPO等を用いることができる。また、カリウム塩を無機塩として用いる場合には、KNO、KNO、KHPO、KHPO等を用いることができる。
これらの無機塩は、本実施形態に係る菌株にとって窒素源、リン源となるような化合物を用いることが好ましい。
窒素源としては、硝酸塩、亜硝酸塩、アンモニウム塩、尿素、グルタミン酸等を用いることができるが、特に限定はされない。例えばNaNO、NaNO、NHCl等の窒素含有化合物を用いることができる。
窒素源の使用量は、本実施形態に係る微生物の生育に影響を及ぼすことなく、2-HIBAの産生目的が達成される範囲において適宜設定することができる。具体的には、培養初期の培地100mL当たり通常であれば硝酸塩として250mg程度以上とすればよく、より好ましくは1000mg程度以上、更に好ましくは1250mg程度以上である。
リン源としては、リン酸塩、リン酸一水素塩、リン酸二水素塩等を用いればよく、特に限定はされないが、例えばNaPO、NaHPO、NaHPO、KPO、KHPO、KHPO等の化合物を用いることができる。
リン源の使用量も、上記の窒素源の使用量と同様の観点から適宜設定すればよく、具体的には、リン酸二水素塩として培地100mL当たり通常は50~400mg程度の範囲内とすればよく、好ましくは100~200mg程度である。
これらの無機塩は単一で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
無機塩は、総量で通常は0.1~2.5M程度の範囲内となる濃度で用いればよく、好ましくは0.2~1.0M程度、より好ましくは0.2~0.5M程度である。塩濃度が比較的高い条件の培地を用いることにより、特別な手段を設けなくとも、他の微生物等の混入を効果的に防止することができる。
工程(1)において用いる培地に含有させる炭素源は、特に限定されないが、 例えば、スクロース、ラクトース、マルトース、トレハロース、ツラノース、セロビオース等の二糖類、リブロース、キシルロース、リボース、アラビノース、キシロース、リキソース、デオキシリボース等の五炭糖、プシコース、フルクトース、ソルボース、タガトース、アロース、アルトロース、グルコース、マンノース、グロース、イドース、ガラクトース、タロース等の六炭糖等の糖類、エリスリトール、グリセリン、マンニトール、ソルビトール、キシリトール等の糖アルコール類、トリプトン、酵母エキス、可溶性デンプン、エタノール、n-プロパノール、酢酸、酢酸ナトリウム等の酢酸塩、プロピオン酸、廃グリセロール、廃蜜糖、木材糖化液、ピルビン酸、アセチルCoA、クエン酸、αーケトグルタル酸、コハク酸、フマール酸、リンゴ酸、オキザロ酢酸、グルタミン酸等が挙げられるが、これに限定されるものではない。
これらの炭素源は1種又は2種以上を適宜組み合わせることで用いることができる。また、炭素源の使用量は特に限定はされず、通常は0.0056~0.1666程度の範囲内となる濃度で用いればよく、好ましくは0.0278~0.1389M程度、より好ましくは0.056~0.111M程度である。
更に、培地は、本実施形態に係る微生物を選択的に培養できるように、発現ベクターに含めた遺伝子マーカーに対応する因子を含めることができる。例えば、マーカー配列として薬剤耐性遺伝子を用いる場合には、当該薬剤耐性遺伝子に対応する薬剤を含めることができる。
工程(1)において用いる培地として、好ましくは、実施例で使用したSOT培地を用いることができる。
<培養方法>
工程(1)における培養方法は、特に限定されるものではない。培養方法の一実施形態を以下に示す。
工程(1)における培養工程は、本実施形態に係る微生物が増殖し、且つ、当該微生物が適当な炭素源から2-HIBAを産生できる条件である限り特に限定はされない。好ましくは、好気発酵工程の後に、微好気発酵工程を行うことによって行うことができる。
好気発酵工程は、具体的には、5mL程度の培地に本実施形態の微生物を植菌し、通常30~37℃程度、攪拌速度は120~250rpm程度で1晩振盪しながら前培養を行う。続いて前培養して得られた菌体を、三角フラスコ、発酵槽、ジャーファーメンター等に入った培地中に100倍程度に希釈し本培養する。
本培養は通常20~45℃程度で可能であるが、30~42℃程度で行うことが好ましい。なお、培養環境は培地が空気に触れる環境とすればよく、培地表面に積極的に酸素を含む気体を吹き付ける方法や培地中に気体を吹き込む方法を採用してもよい。
好気発酵工程では、このような培養条件で本実施形態の微生物を好気培養すればよい。具体的に好気培養時の培地中の溶存酸素濃度は、特に限定はされないが、通常は0mg/L以上とすればよく、7mg/L以上が好ましい。
好気発酵工程での培養方法は、回分培養、半回分培養、連続培養等の培養方法が挙げられ、特に限定はされないが、2-HIBAを効率よく製造するには、本実施形態に係る微生物の培養時に他の菌が混入する可能性が極めて低いことを考慮して長期の連続培養も可能である。そして、培養環境も特に限定はされず、非滅菌環境下であっても、滅菌環境下であってもよい。
微好気発酵工程は、本実施形態の微生物を、酸素供給を積極的に行わない条件下で、例えばpH8.0以上のアルカリ性領域に調整及び維持した培養液にて培養すればよい。本実施形態の微生物に積極的に酸素供給を行わずに培養を継続すると、系内の酸素が消費され無酸素に近い状態となるが、絶対嫌気とまではならない酸素濃度数%の環境が維持されるため、微好気培養に適した環境を維持できる。
培養を継続した場合、有機酸の生成により、培地のpHは下がる傾向がある。この様な培地のpHは適宜公知のpH測定用装置又はこれが付随したジャーファーメンター等によって確認することができる。
用語「調整及び維持」とは、上記したようなpHの確認を行いながら、pH調整剤を添加してpHの好適な状態を保つことを意味する。
微好気工程にて調整及び維持するpHは好ましくは8.0以上とする。これにより、本実施形態の微生物による2-HIBAの産生性を高く維持することができる。
pH調整剤としては、特に限定はされないが、例えば水酸化物、炭酸塩、炭酸水素塩等が挙げられる。より具体的には、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素カルシウム、炭酸水素マグネシウム、アンモニア水等が挙げられる。
(工程(2):回収工程)
本実施形態に係る2-HIBAの製造方法における工程(2)は、上記工程(1)で得られた培養物から2-HIBAを回収する工程である。培養物とは、工程(1)の培養後の培地、及び、培養により増殖した微生物を意味し、何れか一方でもよい。
なお、2-HIBAは、培養物中に含まれる無機塩に由来するイオンと反応した塩として回収されてもよい。
無機塩に由来するイオンとしては、特に限定はされないが、例えば、ナトリウムイオン、カリウムイオン等のアルカリ金属イオン、カルシウムイオン等のアルカリ土類金属イオン、マグネシウムイオン、コバルトイオン、亜鉛イオン、鉄イオン、銅イオン、モリブデンイオン、アンモニウムイオン、マンガンイオン等の陽イオンが挙げられる。
工程(2)における回収は、工程(1)の培養工程の停止後に行うことができる。培養の停止手段は特に限定はされず、例えば、培養対象である本実施形態に係る微生物を加熱や酸処理等によって殺菌する方法、若しくは、公知の固液分離手段を用いて当該微生物と培地を分離する方法等が挙げられる。培養工程の停止時期は、培養物中の2-HIBAの存在を確認し、適宜決定することができる。培養物中の2-HIBAの存在を確認する手段は、用いる微生物の種類、培地成分、培養条件等によって変更し得るものであり、これらの要素を考慮して適宜決定され得る。例えば、経時的に培養物を採取し、これをLC-MS、HPLC等の分析手段に供して、培養を停止する時期を決定することができる。
工程(2)における回収工程は、工程(1)によって得られた培養物の培地中に2-HIBAが存在している場合には、例えば、公知の分離手段を用いて、2-HIBAを含む培地を液体画分として回収することで行える。具体的な分離手段は特に限定されず、遠心操作や濾過等の固液分離手段を単独、又は適宜組み合わせて採用することができる。また、工程(1)によって得られた培養物の微生物中に2-HIBAが存在している場合には、当該微生物を公知の破砕手段により破砕後、公知の分離手段を用いて、2-HIBAを含む液体画分を回収することで行える。具体的な、破砕手段は特に限定されず、リゾチーム処理等の酵素的破砕手段、又は超音波処理、凍結融解、浸透圧ショック等の物理的破砕手段を単独、又は適宜組み合わせて採用することができる。
更に、回収した液体画分を、公知の精製手段により精製してもよい。具体的な精製手段は特に限定されず、例えば、脱塩や透析、ゲル濾過、疎水、陰イオン、陽イオン、アフィニティークロマトグラフィ等の各種クロマトグラフィ等の公知の精製手段を単独、又は適宜組み合わせて採用することができる。また、回収した液体画分に低級アルコールを添加し、エステル化反応を経て、2-HIBAエステルとして蒸留等で精製することも可能である。
本実施形態に係る2-HIBAの製造方法によって、製造された2-HIBAは脱水反応によりメタクリル酸に変換することができる。更に、エステル化反応によりメタクリル酸エステルに変換できる等、各メタクリル酸誘導体を製造することができる。更に、メタクリル酸及びメタクリル酸エステルをラジカル重合することで、ポリメタクリル酸及びポリメタクリル酸誘導体を製造することができる。
以下、本発明を実施例に基づいてより詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
<実験方法の総説>
a.遺伝子クローニングに際してのPCR
遺伝子クローニングに際してのPCRは、PrimeSTAR HS DNA Polymeraseを用いてサーマルサイクラー(T100 Thermal Cycler:BIO-RAD)により、目的遺伝子断片の増幅を行った。98℃で2分間加熱した後、98℃で15秒間、55℃で10秒間、72℃で1分/kbを1サイクルとした30サイクルの温度プロファイルにより行った。
b.遺伝子改変株の確認に際してのPCR
遺伝子改変株の確認に際してのPCRは、Quick Taq HS DyeMixを用いてサーマルサイクラー(T100 Thermal Cycler:BIO-RAD)により、目的遺伝子断片の増幅を行った。95℃で3分間加熱した後、95℃で30秒間、55℃で30秒間、72℃で1分/kbを1サイクルとした35サイクルの温度プロファイルにより行った。
c.PCR産物の精製
PCRによる増幅産物の精製は、QIAquick Gel Extraction Kitを用いて、製造業者のマニュアルに従って、50μLのPCR反応産物からDNA断片を精製した。なお、DNA溶出は50μLの精製水により行った。
d.電気泳動
1%アガロースゲルを用いて、電気泳動を行った。エチジウムブロマイドによりDNAを染色した後、ゲルみえーる(WAKO)により電気泳動像を撮影した。
e.電気泳動ゲルからのDNA抽出
QIAquick Gel Extraction Kitを用いて、製造業者のマニュアルに従って、アガロースゲルからDNA断片を精製した。DNA溶出は20μLの精製水により行った。
f.ライゲーション反応
Ligation highを用いて、製造業者のマニュアルに従って、DNA断片のライゲーションを行った。
<2-HIBA産生能を有する改変株の作製>
1.アシルCoAムターゼ遺伝子の選定
KM-1株が産生可能な3-HB-CoAを2HIBA-CoAに異化可能なアシルCoAムターゼとして、キルピディア・ツスシー由来のメチルマロニルCoAムターゼを選定した(Applied and Environmental Microbiology, 2015 July, 81(14), 4564-4572)。選定したキルピディア・ツスシーのメチルマロニルCoAムターゼ遺伝子オペロンの配列情報については、KEGGデータベースから入手した。キルピディア・ツスシーのゲノム構造は、HCM(2-hydroxyisobutyryl CoA mutase)-associated G protein chaperoneであるMeaB(配列番号2)、メチルマロニルCoAムターゼのラージサブユニット(配列番号3)及びスモールサブユニット(配列番号4)からなるオペロンを形成している(図2を参照のこと)。キルピディア・ツスシーにおける各遺伝子がコードするアミノ酸残基数は、MeaBが312、ラージサブユニットが563、スモールサブユニットが132であった。
2.アシルCoAムターゼ発現ベクターの作製
pBBR122をベースにしたIPTG誘導型のアシルCoAムターゼ発現ベクター(pOGE705KS/PlacZ-Kt mutase)を作製した。詳細には、以下の通り作製した。
上記で選定したアシルCoAムターゼ遺伝子オペロンをクローニングするためにキルピディア・ツスシーのゲノムDNAの精製を行った。まず、キルピディア・ツスシーを、3mLの294培地において50℃で3日間培養した。菌体を遠心回収し、Quick Gene DNA tissue kit SによりゲノムDNAの抽出を行った。キルピディア・ツスシーにおけるMeaB遺伝子の開始コドンから、アシルCoAムターゼのスモールサブユニットの終始コドンまでの遺伝子断片(Kt mutase)をプライマー対(Kt 468-470NdeI F1:CAGTAGACATATGCAAGAGCTTCTCTCGCGAT(配列番号5)及びKt 468-470SacI R1:AGTCGAGCTCTCAATCCCGATCCGGAAACC(配列番号6))を用いてPCRにより増幅した。このKt mutaseをpHSG298(Takara)のNdeI/SacIサイトにクローニングしpHSG298-Kt mutaseを構築した。
シーケンスした結果、クローニングされたKt mutaseは報告されている配列と全く同一であることが分かった。次にpHSG298-Kt mutaseのKt mutaseの上流にIPTG誘導を可能にするlacIQおよびlacZプロモーターからなるlacIQ-PlacZ断片を配置するため、大腸菌(DH5α)ゲノムを鋳型にlacIQ-PlacZ断片をプライマー対(PlacIQ-XbaI:AGTCTCTAGACCATCGAATTAAGCAAAACC(配列番号7)及びPlacIQ-NdeI:CAGTAGACATATGTGTTTCCTGTGTGAAATTGTT(配列番号8))を用いてPCRにより増幅し、pHSG298-Kt mutaseのXbaI/NdeIサイトに挿入しpHSG298-lacIQ-PlacZ-Kt mutaseを構築した。さらに、pHSG298-lacIQ-PlacZ-Kt mutaseが持つクロラムフェニコール耐性遺伝子をスペクチノマイシン耐性遺伝子に差し替えるため、pCR8/GW/TOPOベクターを鋳型にスペクチノマイシン耐性遺伝子を含むSpeR断片をプライマー対(SpecSacIIFBglII:CAGTAGATCTCCGCGGACCAGCCAGGACAG(配列番号9)及びSpecSacIIRBglII:CAGTAGATCTCCGCGGTTTTCTACGGGGTC(配列番号10))を用いてPCRで増幅し、pHSG298-lacIQ-PlacZ-Kt mutaseのSacIIサイトに導入しpHSG298-lacIQ-PlacZ-Kt mutase/SpecRを構築した。
得られたpHSG298-lacIQ-PlacZ-Kt mutase/SpecRからlacIQ-PlacZ-Kt mutase/SpecR断片をBglIIで切断して切り出し、幅広いグラム陰性菌において自立複製可能なpBBR122ベクターをベースにしたpBBR122ΔCm(図3を参照のこと)のBglIIサイトに挿入し、IPTG誘導型アシルCoAムターゼ発現ベクター(pOGE705KS/PlacZ-Kt mutase)を作製した(図4を参照のこと)。
ここで、pBBR122ΔCm は、pBBR122を鋳型にプライマー対(pBBR122-KmRBglIIF:AGTCAGATCTCCTCACGGCGGCGAGTGCGG(配列番号11)及びpBBR122-KmRBglIIR: CAGTAGATCTCTCGGGGGGCAGGCGGGCGG(配列番号12))を用いて、PCRによりDNA断片を増幅しBglIIで処理した後、セルフライゲーションにより構築した。
図4に示す通り、導入したアシルCoAムターゼ遺伝子は、ラクトースリプレッサー(lacIq)がラクトースオペレーター(lacO)に結合し、lacZプロモーターからの発現が抑制された状態に置かれている。ここにIPTGを添加すると、ラクトースリプレッサーはIPTGと結合し、その立体構造が変化することでラクトースオペレーターから解離し、lacZプロモータからのムターゼ遺伝子の発現が誘導されるように構成されている。また、発現ベクターは、マーカー配列として、薬剤耐性遺伝子であるスペクチノマイシン耐性遺伝子を用いるものである。
3.アシルCoAムターゼ発現ベクターの導入
エレクトロポレーション法により、pOGE705KS-KtmutaseをKM-1株コンピテントセルに導入し、遺伝子改変株KM-1/pOGE705KS-Ktmutase株を得た。エレクトロポレーションの条件は、Gene Pulser Xcell(BIO-RAD)を用いて、電圧:2.5kV、抵抗:200Ω、キャパシタンス:25μF、セル幅:2mmで行った。なお、大腸菌に対する形質転換は、DH5α Jetコンピテントセル、JM109コンピテントセルを用いて、製造業者のマニュアルに従って行った。
4.遺伝子改変株の確認
KM-1/pOGE705KS-Ktmutase株が、アシルCoAムターゼ遺伝子が導入されている遺伝子改変株であることをPCRにより確認した。詳細には、エレクトロポレーション後の菌体液に1mLのSOT培地を加え、30℃で1時間振盪培養を行った。培養後の菌体を遠心分離により回収し、50μg/mLもしくは100μg/mLのスペクチノマイシンを含むSOTプレートに塗り広げた。2~3日間30℃で静置培養を行った後、形成した6コロニーについて、当該アシルCoAムターゼ遺伝子を含むことをPCRにより確認を行った。PCRに際して、導入したアシルCoAムターゼ遺伝子の全配列を増幅するためのプライマー対(Kt Ptac468-470XbaI F1:AGTCTCTAGAGAGCTGTTGACAATTAATC(配列番号13)、Kt Ptac468-470XbaI R1:CAGTTCTAGAAACGCAAAAAGGCCATCCG(配列番号14))と、親株であるKM-1が有するbdh2内部配列を増幅するためのプライマー対(bdh2 F1:ACTTCAACGATCAGGCCAG(配列番号15)、bdh2 R1:ATGCCGTGCTTGGCACTGA(配列番号16))をそれぞれ作製した。当該プライマー対を用いてPCRを行った。続いて、増幅断片を電気泳動に供した。結果を図5に示す。その結果、KM-1/pOGE705KS-Ktmutase株に、アシルCoAムターゼ遺伝子(図中、Kt.ムターゼと表示)が導入されていることが確認された。
4.2-HIBAの産生
KM-1/pOGE705KS-Ktmutase株をIPTGの存在下で培養し、アシルCoAムターゼ遺伝子の発現を誘導し、2-HIBAの生産性を評価した。
詳細には、バッフル付きの200mL容フラスコにSOT培地30mLを張り込み、OD=0.1となるようKM-1株およびKM-1/pOGE705KS-Ktmutase株を植菌した。なお、培養条件は、培養温度33℃、振盪速度200rpmで行った。IPTGによる発現誘導は、OD=0.6に達した時点で終濃度1mMとなるようにIPTGを添加することにより行った。
<フラスコ培養による2-HIBAの産生試験>
スクロースを炭素源とするSOT培地(特開2013-081403号を参照のこと)を用いて、プラスコ振とう培養を行った。本実施例で用いたSOT培地の組成を表1に示す。その結果、KM-1株では、2-HIBAの産生は確認されなかったのに対して、KM-1/pOGE705KS-Ktmutase株では培養開始48時間で16.5mg/Lの2-HIBAの産生が認められた。
Figure 2022157275000002
かかる結果から、KM-1/pOGE705KS-Ktmutase株が2-HIBA産生能を有することが確認できた。これは、適当な炭素源から(R)-3HB-CoAが産生され、続いて、遺伝子導入されたアシルCoAムターゼの作用により2-HIBA-CoAに変換され、かかる2-HIBA-CoAが内在性のチオエステラーゼにより2-HIBAとCoA-SHに加水分解され、更に、内在性の2-HIBAエクスポーターにより2-HIBAが培地中に遊離されたものであると、理解できる。
再生可能資源から簡便且つ安価に2-HIBAを製造でき、2-HIBAは容易に化学的にメタクリル酸に変換可能である。2-HIBA及びメタクリル酸等を利用する何れの工業的用途への応用が期待できる。

Claims (4)

  1. 2-ヒドロキシイソ酪酸産生能を有する微生物であって、
    ハロモナス・エスピー(Halomonas sp.)KM-1(寄託番号FERM BP-10995)株の、好熱菌由来のアシル補酵素Aムターゼが発現する改変株である微生物。
  2. 前記アシル補酵素Aムターゼは、キルピディア・ツスシー(Kyrpidia tusciae)由来のメチルマロニル補酵素Aムターゼである請求項1に記載の微生物。
  3. ハロモナス・エスピー KM-1/pOGE705KS-Ktmutase株(受託番号NITE P-03416)である請求項1又は2に記載の微生物。
  4. 請求項1~3の何れか一項に記載の微生物を、炭素源と無機塩を含む培地で培養する培養工程と、
    前記培養工程で得られる培養物から2-ヒドロキシイソ酪酸を回収する回収工程と、を含む、2-ヒドロキシイソ酪酸の製造方法。
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