JP2022156826A - 水圧転写フィルム及びそれを用いた水圧転写方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】織編物や不織布の表面の風合いを模した凹凸触感をもつ立体的な意匠からなる装飾層を、被水圧転写品表面に形成することができる水圧転写フィルム及びその水圧転写フィルムを用いた水圧転写方法の提供。【解決手段】本発明の水圧転写フィルム20は、水溶性基材3に少なくとも加飾層40が積層されてなる水圧転写フィルム20であって、水溶性基材3は複数の水溶性繊維または水溶性糸30a、30bの少なくとも一方で構成された複合体30であり、複合体30は表面に水溶性繊維または水溶性糸によって形成された凹凸パターンを有し、加飾層40は前記凹凸パターンを構成する凹部の少なくとも一部を埋めるように積層されてなる。【選択図】図2

Description

本発明は、表面に織編物や不織布の表面の風合いを模した凹凸触感をもつ水圧転写品を得るための水圧転写フィルム及びそれを用いた水圧転写方法に関する。
建材や、自動車内装品、家電製品又はOA機器などの内外装に、表面に木目調や金属調(金属光沢)などの装飾が施された装飾部材が利用されている。これらの装飾部材は、複雑な三次元形状を有するものが多く、こうした装飾部材に意匠性の高い装飾を簡便に施す各種の加飾方法が従来から実施されている。こうした加飾方法の一つとして、水溶性フィルムにグラビア印刷等によって印刷パターンが形成された水圧転写フィルムを用いて、水圧を利用して印刷パターンを被転写物に転写して加飾する水圧転写法が知られており、立体面への転写加工性、クリア感などの意匠要素で表現された「深み」や、高品質な柄表現が出来るなど、優れた曲面加飾法として行われている。
近年、装飾部材の表面に凹凸を備えることによって、視覚による立体感や触指による触感性などのテクスチャー効果を有する加飾の要求が高まっており、水圧転写法においては、主にテクスチャー効果を付与するための水圧転写フィルムの検討が行われてきた。例えば特許文献1には、水溶性又は水膨潤性の樹脂で形成された基材シートの面に所定パターンの凹凸を有し、光輝性鱗片状薄片及び非水溶性の透明バインダー樹脂で形成された転写層が基材シートの凹凸を埋めるように形成されている水圧転写シートが開示されている。特許文献1の水圧転写シートを用いて水圧転写することによって、25μm程度の高さの凸部を有する転写層を成形品に転写できるため、成形品の全面に金属光沢とヘアライン模様等の凹凸模様とを同時に施した水圧転写品が得られる。
また、特許文献2では、水溶性フィルム上に凹部を形成し、該凹部に意匠層aを形成し、かつ該水溶性フィルムの該意匠層を有する面は意匠層aの非形成部分を有する水圧転写フィルムが開示されており、凹凸高さが1~100μmの範囲で調整できるとともに、意匠層aの非形成部分を有することで、より優れた立体的な意匠性を、加飾成型品表面に形成することを可能としている。このように、水圧転写法においても表面に凹凸を付与して立体的な意匠や凹凸触感を有する加飾品を提供できるようになってはいるが、こうしたテクスチャー感を有する意匠の要求も年々多様化しており、最近のトレンドとして、織編物や不織布の表面の風合いを模したファブリック調の凹凸意匠の要求がある。
特開2005-238674号公報 特開2019-064098号公報
しかしながら、特許文献1の水圧転写シートや特許文献2の水圧転写フィルムにおいて、織編物や不織布の表面の風合いを模したファブリック調の凹凸意匠を得るためには、水溶性基材に織編物や不織布の表面形状に対応した凹凸を形成する必要があるが、織編物や不織布の入り組んだ複雑な立体形状の凹凸パターンを水溶性基材の表面に形成することは容易ではなかった。
従って、本発明は従来技術の上述した問題点を解消するものであり、その第1の目的は、織編物や不織布の表面の風合いを模したファブリック調の凹凸触感をもつ立体的な意匠からなる装飾層を有する水圧転写品を得るため水圧転写フィルムを提供することにある。
また、本発明の第2の目的は、本発明の水圧転写フィルムを適用して、表面に織編物や不織布の表面の風合いを模したファブリック調の凹凸触感をもつ立体的な意匠からなる装飾層を有する水圧転写品を得るための水圧転写方法を提供することである。
上記課題を解決するため、本発明の水圧転写フィルムは、水溶性基材に少なくとも加飾層が積層されてなる水圧転写フィルムであって、水溶性基材は、複数の水溶性繊維または水溶性糸で構成された複合体であり、複合体は表面に水溶性繊維または水溶性糸によって形成された凹凸パターンを有し、加飾層は凹凸パターンを構成する凹部の少なくとも一部を埋めるように積層されてなる。
このように、水溶性基材が複数の水溶性繊維または水溶性糸で構成された複合体であることによって、水溶性基材の表面に水溶性繊維または水溶性糸によって形成された複数の凹部を有したファブリック調の凹凸パターンを容易に形成でき、この複数の凹部の少なくとも一部を埋めるように加飾層が形成されることによって、水溶性繊維または水溶性糸で構成された複合体の表面の凹凸パターンが反転した凹凸を有する加飾層が水溶性基材の表面に形成され、この凹凸パターンを有する加飾層が被転写体に水圧転写されることにより、水溶性基材のファブリックパターンが反転されたファブリック調の凹凸意匠を有する水圧転写品を得ることができる。
また、本発明の水圧転写フィルムは、水溶性基材を構成する複合体が水溶性糸からなる織編構造体であり、織編構造体は織編目からなる複数の凹部を備え、加飾部が複数の凹部の少なくとも1つを埋めるように積層されてなることが好ましい。これにより、水溶性基材の表面が織編み構造であるファブリックパターンの織編目に対応した複数の凹部を有した構造となり、この複数の凹部の少なくとも一部を埋めるように加飾層が形成されることによって、水溶性基材側の表面に形成された織編構造体の織編目パターンが反映された凹凸パターンを有する加飾層が形成され、この凹凸パターンを有する加飾層が被転写体に水圧転写されることにより、水溶性基材のファブリックパターンである織編パターンが反転されたファブリック調の凹凸意匠を有する水圧転写品を得ることができる。
また、本発明の水圧転写フィルムは、水溶性基材を構成する複合体が水溶性糸からなる織編構造体であり、織編構造体が有する複数の凹部が複数種の凹部形状から構成されてなることも好ましい。これにより、加飾層に形成される織編構造体の織編目に沿った複数の凹部のパターンを多様化できるので、水溶性基材のファブリックパターンである織編パターンが反転されたファブリック調の凹凸意匠が多様化された水圧転写品を得ることができる。
また、本発明の水圧転写フィルムは、水溶性基材を構成する複合体が水溶性糸からなる織編構造体であり、織編構造体は径の大きさが異なる複数の水溶性糸からなることも好ましい。これにより、加飾層に形成される織編構造体の織編目に沿った複数の凹部の形状を異ならせて凹部パターンを多様化できるので、水溶性基材のファブリックパターンである織編パターンが反転されたファブリック調の凹凸意匠が多様化された水圧転写品を得ることができる。
また、本発明の水圧転写フィルムは、水溶性基材が複数の水溶性繊維からなる複数の凹部を備えた不織布であり、加飾層は複数の凹部の少なくとも一部を埋めるように積層されてなることも好ましい。これにより、水溶性基材の表面が不織布の表面形状からなるファブリック調の凹凸パターンを備え、この凹凸パターンを構成する複数の凹部の少なくとも一部を埋めるように加飾層が水溶性基材の表面に形成され、この凹凸パターンを有する加飾層が被転写体に水圧転写されることにより、不織布の表面形状が反転されたファブリック調の凹凸意匠を有する水圧転写品を得ることができる。
また、本発明の水圧転写フィルムは、水溶性基材が複数の水溶性繊維からなる複数の凹部を備えた不織布であり、不織布が形状の異なる水溶性繊維で構成されていることも好ましい。これにより、加飾層に水溶性基材の表面に形成される不織布の表面凹凸パターンと、それを構成する複数の凹部のパターンを多様化できるので、不織布の表面形状が反転されたファブリック調の凹凸意匠が多様化された水圧転写品を得ることができる。
また、本発明の水圧転写方法は、以下の工程(A)~(C)を備える。
工程(A):本発明の上記の何れかの水圧転写フィルムを、水溶性基材側を水面に接触した状態で浮遊させる工程;
工程(B):工程(A)の前、後または同時の何れかにおいて水圧転写フィルムの加飾層に活性剤組成物を塗布する工程;
工程(C):工程(A)及び(B)を経た水圧転写フィルム上に被転写体を押圧し、水圧によって加飾層を被転写体の被転写面に密着させて水圧転写装飾層を形成する工程。これにより、水溶性基材の表面に有するファブリック調の凹凸パターンが反転された凹凸を有する加飾層を備える水圧転写フィルムが活性剤組成物の塗布によって活性化された状態において水上で伸展し、加飾層が被転写体に水圧転写されることによって、ファブリック調の凹凸意匠を有した水圧転写品を得ることができる。
本発明によれば、水溶性基材が水溶性繊維または水溶性糸の少なくとも一方からなる複合体からなり、その表面に水溶性基材の表面が複数の凹部を有したファブリック調の凹凸パターンを備え、このファブリック調の凹凸パターンを構成する凹部の少なくとも一部を埋めるように加飾層が積層された構造からなるので、ファブリック調の凹凸パターンが反転された凹凸を有する加飾層を備えた水圧転写フィルムを提供できる。そして、この水圧転写フィルムの加飾層を被転写体に水圧転写することによって、ファブリック調の凹凸意匠を有する水圧転写品を得ることができる。また、水溶性基材が水溶性繊維または水溶性糸の少なくとも一方からなる複合体として、水溶性繊維糸からなるによる織編構造体や、複数の水溶性繊維からなる不織布構造とすることによって、水溶性基材の織編パターンや、不織布様の表面パターンが反転された凹凸を有する加飾層が被転写体に転写されて、ファブリック調の凹凸意匠を有する水圧転写品を得ることができる。さらに、水溶性基材を水溶性繊維や水溶性糸の径や形状を変化させた構成することによって、織編パターン、不織布表面パターンを多様化させることができるので、様々なファブリック調の凹凸意匠を有する水圧転写品を得ることができる。
本発明の第1の実施形態に係る水圧転写フィルムを構成する水溶性基材の構造を説明するための模式的な断面図である。 本発明の第1の実施形態に係る水圧転写フィルムの構造を説明するための模式的な断面図である。 本発明の第2の実施形態に係る水圧転写フィルムを構成する水溶性基材の構造を説明するための模式的な断面図である。 本発明の第2の実施形態に係る水圧転写フィルムの構造を説明するための模式的な断面図である。 本発明の水圧転写方法を説明するための模式図である。 本発明の水圧転写品の構造を説明するための模式的な断面図である。
本発明の水圧転写フィルムは、水溶性基材が、複数の水溶性繊維または水溶性糸で構成された複合体であり、複合体は表面に水溶性繊維または水溶性糸によって形成された凹凸パターンを有し、加飾層は凹凸パターンを構成する凹部の少なくとも一部を埋めるように積層されてなる。以下、本発明の水圧転写フィルムの具体例として図1及び図2を参照しながら第1の実施形態に係る水圧転写方法ついて説明する。
(第1の実施形態)
本発明の第1の実施形態に係る水圧転写フィルムは、水溶性基材が、複数の水溶性糸で構成された複合体が織編構造体からなり、水溶性糸によって形成された凹凸パターンの凹部が織編構造体の織編目から構成され、この織網目の少なくとも一部を加飾層が埋めるように積層されている。
(水溶性基材)
本発明の第1の実施形態に係る水圧転写フィルムを構成する水溶性基材は、加飾層を保持する基材であるとともに、水圧転写時に転写槽内の水に触れて膨潤しながら軟化し、水圧転写フィルムを水面上で伸展させ、加飾されるべき被転写体に付きまわって加飾層を被転写体の表面に水圧転写させ、水圧転写後は水洗除去されるものである。本実施形態においては、図1に示すように、水溶性基材3は、水溶性糸30a、30bによる織編構造体30であり、織編構造体30は織編目からなる複数の凹部50を備え、複数の凹部50によって織編パターンを形成している。そして、図2に示すように、水圧転写フィルム20は織編構造体30が備える少なくとも1つの凹部50を埋めるように加飾層40が積層されてなり、加飾層40は織編構造体30の織編目パターンに沿った凹凸を有している。この加飾層40が水圧転写フィルム20の加飾層40側から被転写体の表面に水圧転写されることにより、被転写体の表面に水溶性基材30のファブリックパターンである織編パターンが反転されたファブリック調の凹凸が付与される。
織編構造体30を構成する水溶性糸は、水溶性樹脂の紡糸や水溶性フィルムを細断して糸形状にしたもの、水溶性繊維を紡績した紡績糸など、水溶性を有する糸状物全般を含むものである。水溶性糸を構成する水溶性樹脂としては、例えばポリビニルアルコール樹脂、デキストリン、ゼラチン、にかわ、カゼイン、セラック、アラビアゴム、澱粉、蛋白質、ポリアクリル酸アミド、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリビニルメチルエーテル、メチルビニルエーテルと無水マレイン酸との共重合体、酢酸ビニルとイタコン酸との共重合体、ポリビニルピロリドン、アセチルセルロース、アセチルブチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、アルギン酸ナトリウムなどの各種水溶性ポリマーを適用できる。これらの樹脂は、単独で用いられてもよいし、2種以上が混合されて用いられてもよい。特に生産安定性と水に対する溶解性及び経済性の点から、ポリビニルアルコールが好ましい。ポリビニルアルコールとしては、従来の水圧転写フィルム用として使用されているものを、加飾層の形成しやすさや、機械的強度や耐湿性などの取り扱い性や保存性、水圧転写時に水面に浮かべてからの吸水性や伸展性などに応じて選択して適用できる。
また、水溶性基材3は複数の水溶性糸で構成された複合体であるため、水溶性基材の厚み方向に微細な多孔構造を有しており、水圧転写工程で水圧転写フィルムを水溶性基材3側から水に浮かべた際に、この多孔構造内に水が浸透し易くなるため、水溶性基材3の厚み方向へ速やかにかつ均一に吸水し膨潤するため、結果として均一な伸展挙動を得られやすくなる効果もある。
(加飾層)
水圧転写フィルム20を構成する加飾層40は、従来の水圧転写フィルム用のインクを用いた印刷パターンとして水溶性基材の表面にグラビア印刷やインクジェット印刷、オフセット印刷などの公知の方法で印刷または塗布された後に乾燥して形成される。この印刷パターンは厳密な意味での模様のほかに無地(無模様)の印刷パターンも含む。水圧転写フィルム用のインクは、水圧転写で使用する活性剤によって軟化して、伸展性と接着性を発現できる樹脂組成物を主成分として構成されている。具体的な樹脂組成物の例としては、アマニ油、大豆油、合成乾性油等の各種の油脂類;ロジン、硬化ロジン、ロジンエステル、重合ロジン等の天然樹脂;フェノール樹脂、ロジン変性フェノール樹脂、マレイン酸樹脂、アルキッド樹脂、石油樹脂、ビニル系樹脂、アクリル系樹脂、ポリアミド系樹脂、エポキシ系樹脂、アミノアルキッド樹脂、フッ素樹脂等の合成樹脂;ニトロセルロース、セルロースアセテートブチレート樹脂、エチルセルロース等の繊維素誘導体;塩化ゴム、環化ゴム等のゴム誘導体;その他カゼイン、デキストリン、ゼイン等を挙げることができるが、短油性アルキッド樹脂、ニトロセルロース、セルロースアセトブチレートなどが好ましい。また樹脂組成物は、着色されていてもよいし、着色されない透明なものでもよい。また、本発明の効果を損なわない範囲で、加飾層の水溶性基材と反対側に伸展抑制樹脂層や金属蒸着層などの別の機能層、別の絵柄層などを積層した構造としてもよい。
本実施形態に係る水圧転写フィルム20を用いて形成される水圧転写品が備えるファブリック調の凹凸は、水圧転写フィルム20を構成する水溶性基材30のファブリック調の凹凸パターンである織編パターンが反転して形成されるため、織編構造体30の織編パターンを変化させることによって、水圧転写品に様々なファブリック調の凹凸を付与することができる。織編構造体30の織編パターンは、加飾層40に凹凸を付与するとともに、加飾層40を水溶性基材3の表面に保持できれば特に制限はなく、水圧転写品に付与したい目的のファブリック調の凹凸に応じて、公知の織パターンや編みパターンを適用できる。織パターンとしては、例えば、経糸と緯糸を直行させた平織を適用でき、水溶性糸を3種以上用いる織パターンとしては、斜文織(綾織)や朱子織、パイル織などを適用することができる。また編みパターンとしては、例えば、鹿の子や梨地編などの平編、リップルやブリスターなどのリブ編、斜文編やポンチローマなどの両面編、バスケット編やリンクス・ミス・ダイヤ柄などのパール編、トリコットやクインズ・コード編などの経編、これらの各種変形パターンなどが適用できる。
織編構造体30の織編パターンにおいて、織編目の目開きは、加飾層を構成する印刷パターンを形成するためのインキを保持可能であれば特に制限はなく、インクの粘度や形成する印刷パターンに応じて適宜設定できる。織編目に形成される凹部50の形状と深さは、織編パターンに応じて設計できるため、目的のファブリックパターンを形成可能な織編パターンに応じて凹部50の形状と深さを設定できる。また凹部50の形状と深さは、水溶性糸の径を変えることによっても調整できる。例えば、水溶性糸の径を太くすると、水溶性基材上の凹部の深さが深くなり、逆に、水溶性糸の径が細くすることで水溶性基材上の凹部の深さが浅くなる。
また、水溶性基材30を構成する織編構造体30の凹部50の形状と深さは、径の大きさが異なる複数の水溶性糸を用いて織編みして設定してもよい。これにより、より多様なファブリック調の凹凸意匠性と感触を付与できる。
また、水溶性基材30が有する複数の凹部50の少なくとも一つの形状を異ならせて複数種の凹部形状から構成することによって、織編パターンを部分的に異ならせる構成としてもよい。これによって、より多様なファブリック調の凹凸意匠性と感触を付与できる。形状を異ならせた凹部は、ランダムに配置してもよいし、規則的に配置してもよい。また凹部の形状は、相似的に変化させて異ならせてもよい。
凹部50となる織編目は、水溶性基材30の全体に形成されてもよいし、部分的に形成してもよい。また、図1及び図2において、水溶性基材30は2種の水溶性糸30a、30bからなる織編構造体を例示しているが、3種類以上の水溶性糸から構成されてもよい。
(第2の実施形態)
次に、本発明の第2の実施形態に係る水圧転写フィルムについて図3及び図4を参照して説明する。図3に示すように、第2の実施形態に係る水圧転写フィルムを構成する水溶性基材3は、複数の水溶性繊維30cが積層されてなる不織布構造体31であり、その表面にランダムに配向した水溶性繊維30cの配置構造に応じた複数の凹部51を備える。そして、図4に示すように、水圧転写フィルム20は、水溶性基材3である不織布構造体31が備える少なくとも1つの凹部51を埋めるように加飾層40が積層されてなり、加飾層40は不織布構造体31の凹部51に沿った凹凸を有している。この加飾層40が水圧転写フィルム20の加飾層40側から被転写体の表面に水圧転写されることにより、被転写体の表面に不織布構造体31の表面凹凸パターンが反転されたファブリック調の凹凸が付与される。
水圧転写フィルム20を構成する加飾層40の凹凸形状は、不織布構造体31を構成する水溶性繊維30cの配向の仕方や坪量(目付ともいう。)を変えることで調整することができ、例えば、水溶性繊維30cの秤量を大きくすることで、不織布構造体31の凹部51の形状が小さくなり、加飾層40に形成される凹凸の形状も微細となる。不織布構造体31を構成する水溶性繊維30cの形状や長さは、不織布構造体31の表面がファブリック調の表面形状を形成できれば特に限定はなく、短繊維でも長繊維でもよく、それらを単独または組合せて適用できる。また、不織布構造体31を、径や長さが異なる複数種の水溶性繊維30cを複合した構造とすることで、表面の凹凸パターンがより複雑でバリエーションに富んだ凹凸形状とすることができる。また、水溶性基材3が、上述の不織布構造体31であることによって、水溶性基材3の表面と厚み方向に微細な多孔構造を有するため、水圧転写工程で水圧転写フィルムを水溶性基材3側から水に浮かべた際に、この多孔構造内に水が浸透し易くなるため、水溶性基材3の厚み方向へ速やかにかつ均一に吸水し膨潤するため、結果として均一な伸展挙動を得られやすくなる効果もある。
不織布構造体31を構成する水溶性繊維30cの材質は、水圧転写に適した水溶性、膨潤性を有していれば特に限定されず、第1の実施形態に係る水圧転写フィルムを構成する水溶性基材で例示した材料を適用できる。また、加飾層40の構成や作用効果は第1の実施形態に係る水溶性フィルムと同様なので説明を省略する。
また、本発明の水圧転写フィルムに係る他の実施形態として、水溶性基材が、第1の実施形態に係る水圧転写フィルムを構成する織編構造体の一部に第2の実施形態に係る水圧転写フィルムを構成する不織布構造を組合せた構造であってもよい。
(水圧転写方法)
次に、本発明に係る水圧転写方法について説明する。本発明の水圧転写方法は、水圧転写フィルムを、水溶性フィルム側を水面に接触した状態で浮遊させる工程(A)と、工程(A)の前、後または同時の何れかにおいて、水圧転写フィルムの加飾層に活性剤組成物を塗布する工程(B)、工程(A)及び(B)を経た水圧転写フィルム上に被転写体を押圧し、水圧によって加飾層を被転写体の被転写面に密着させて水圧転写装飾層を形成する工程(C)を備えてなる。
活性剤組成物は、水圧転写フィルムの水溶性基材表面に形成された乾燥状態の加飾層を構成するインクに粘着性を付与して転写可能の状態とするものであり、少なくともインクを溶解可能なシンナー等の溶剤成分を含んだ溶剤系組成物であり、樹脂成分、溶剤成分、可塑剤成分、体質顔料等の混合物であることが好ましい。これは、溶剤成分がインクを溶解し粘着性を回復する作用を担い、樹脂成分が初期密着性を確保するとともにインクの拡散を防止し、また可塑剤成分が樹脂成分に可塑性を付与する作用を担い、更に体質顔料がインク表面の見掛け乾燥化を計るとともにインクズレを規制しつつ、水上での水圧転写フィルムに伸展性を与える作用を担うなど、各成分がそれぞれ機能を分担ないし補完し得るためである。また、活性剤組成物の別の形態として、光重合オリゴマーと光重合性モノマーと光重合開始剤を主成分とする光硬化性の活性剤組成物としてもよい。光硬化性の活性剤組成物の場合には、光重合性モノマーがインクを溶解し粘着性を回復する作用を担い、水圧転写後に光重合性オリゴマーと光重合反応してインクと混然一体となった硬化膜として水圧転写装飾層を形成するため、水圧転写装飾層にトップコート(保護層)を施す工程を不要とする場合に適用される。上記の溶剤系活性剤組成物及び光硬化性活性剤組成物としては、従来から使用されている活性剤組成物を適用でき、このうち、水圧転写後の水溶性基材を洗浄脱膜する際に転写された加飾層の形状が保持されにくい場合には、光硬化性の活性剤組成物を適用することが好ましい。
以下、第1の実施形態に係る水圧転写フィルムを用いて、工程(A)の前に活性剤組成物を水圧転写フィルムに塗布する工程(B)を実施する場合の水圧転写方法について、図5を参照して具体的に説明する。
まず、図5(a)に示す水溶性糸の織編構造体である水溶性基材30の表面に形成された凹部50を埋めるように加飾層40が積層された水圧転写フィルム20を準備する。次に図5(b)に示すように、この水圧転写フィルム20の加飾層40側に活性剤組成物60を塗布し、加飾層40を軟化させるとともに付着性を回復(再現)する工程(B)を実施する。活性剤組成物60の塗布手段は、塗布量が調整でき均一に塗布できる方法であれば特に限定されず、例えばロールコーターなど公知の方法を適用できる。次に工程(A)として図5(c)に示すように、活性剤組成物60が塗布された水圧転写フィルム20を水溶性基材30側から水面Wに接触させた状態で浮遊させて、水溶性基材30が水で膨潤する作用によって水面W上で水圧転写フィルム20を水圧転写可能な状態に伸展させる。続いて図5(d)に示すように、水面Wで伸展した水圧転写フィルム20に被転写体10を水中方向に押し込んで、水圧によって加飾層40側から水圧転写フィルム20を被転写体10の表面に転写して水圧転写装飾層(図示を省略)を形成する工程(C)を実施する。その後、図5(e)に示すように、転写された水圧転写フィルム20の水溶性基材30を、シャワー等の洗浄手段Sによって水洗いして除去する脱膜工程を実施し、その後、図5(f)に示すように、水圧転写装飾層を熱風などの乾燥手段Hによって乾燥する乾燥工程を行い、ファブリック調の凹凸意匠性と感触を有する水圧転写品100を得る。更に必要に応じて、水圧転写装飾層のファブリック調の凹凸意匠性と感触を損なわない範囲で、水圧転写装飾層を保護するためにトップコート加工を施してもよい。トップコート加工は、水圧転写方法で用いられている公知の紫外線硬化性塗料などのトップコート塗料をスプレー塗布などの公知の方法で塗布し、硬化して形成できる。
なお、工程(B)における活性剤組成物60が光硬化性の活性剤組成物である場合には、図5(d)で加飾層40側から水圧転写フィルム20を被転写体10の表面に転写して水圧転写装飾層を形成した後に、水圧転写装飾層に紫外線などの活性エネルギー線照射手段で活性エネルギー線を、水溶性基材30を透過するように照射して活性剤組成物60を重合反応させて硬化させる硬化工程を実行した後、図5(e)以降の脱膜工程及び乾燥工程を実行して水圧転写品100を得る。なお上述の通り、硬化した水圧転写装飾層は、活性剤組成物中の光硬化性成分とインクとが混然一体となった硬化膜となっているので、トップコート加工を不要とすることができる。また、活性剤組成物60として光硬化性の活性剤組成物を用いる実施形態に係る水圧転写方法は、水溶性基材30を洗浄・脱膜する前に水圧転写装飾層が硬化するため、水圧転写装飾層の凹凸形状が脱膜工程で変形しにくくなる効果もある。また、硬化工程における活性エネルギー線の初期照射を弱くする予備硬化工程と照射条件を強くして硬化させる本硬化工程の順で硬化させることによって、水圧転写装飾層に艶消し感を付与することもできる。
また、水圧転写フィルム20に活性剤組成物60を塗布する工程(B)は、活性剤組成物60が塗布されていない状態の水圧転写フィルム20を水面Wに接触させる工程(A)と同時又はその後に実施してもよい。この場合には、活性剤組成物60はスプレー装置によって塗布される。
(水圧転写品)
本発明の水圧転写方法で得られる水圧転写品は、図6に示すように、被転写体10の表面に凹凸形状を有した装飾層70から構成されている。装飾層70が有する凹凸の形状は、水溶性繊維または水溶性糸から構成された水溶性基材の表面凹凸形状が反転されたものであるため、装飾層70はファブリック調の凹凸意匠と触感を有している。
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に特に限定されるものではない。
以下の実施例で用いた黒色インクは、ニトロセルロースを樹脂成分とするグラビアインク(東洋インキ社製PCNTインク)にカーボンブラック顔料(東洋カラー社製 OP-1440Aブラック)を樹脂成分100重量部に対して30重量部を添加し、攪拌脱泡装置((株)シンキー社製 泡取り錬太郎ARV-310)を用いて均一分散したものを用いた。
[実施例1]
水圧転写用のポリビニルアルコールフィルム(製品名ハイセロンE-100 厚み40μm)を細断して幅が約1mmの水溶性糸を形成し、この水溶性糸を手で平織りして150mm×150mmの水溶性基材を得た。この水溶性基材の片面の全面に、平織りの織目の凹部が充満するように黒色インクをスプレー塗布して約30μmの加飾層を形成し、加飾層を乾燥して水圧転写フィルムを得た。この水圧転写フィルムの加飾層上にUV硬化型活性剤(大橋化学工業株式会社製の商品名「ユービックSクリアーHE」)をミヤバー塗布方法によって塗布した後、水圧転写フィルムを水溶性基材側から水槽内の20℃の水に浮かべて水上で伸展させ、伸展した水圧転写フィルムを介して被転写体を水中に押し込み、物品上に印刷パターンを水圧転写した後、この物品を水中から取り出した。この物品にAタイプメタルハライドランプ(ジーエス・ユアサパワーサプライ社製、MAN800NL)を用いて、ピーク強度:300[mW/cm]、積算光量:2300[mJ/cm]で紫外線を装飾層に照射して完全硬化させ、最後に、物品の水洗、乾燥を行って、平織りの織目が反転された凹凸を有する装飾層を備えた水圧転写品(製品)を得た。被転写体は、100mm×200mm×厚さ3mmのABS樹脂製の平板(ユーエムジー・エービーエス株式会社製 TM20)とした。
[実施例2]
水圧転写用のポリビニルアルコールフィルム(製品名ハイセロンE-100 厚み40μm)を細断して幅が約1mmで長さが約5mmの水溶性繊維を形成し、この水溶性繊維をPETフィルム上に篩で振り掛け、PETフィルムの表面が視認できない程度に敷き詰めた後、水溶性繊維が湿る程度に水を全面に噴霧して水溶性繊維同士を密着させてから乾燥して、水溶性繊維がランダムな方向に配置されてなる150mm×150mmの不織布状の水溶性基材を得た。この水溶性基材の片面の全面に、不織布表面の凹部が充満するように黒色インクをスプレー塗布して約20μmの加飾層を形成し、加飾層を乾燥して得た水圧転写フィルムを用いた以外は、実施例1と同様にして水溶性基材の不織布表面パターンが反転された凹凸を有する装飾層を備えた水圧転写品を得た。
以上述べた本発明の水圧転写フィルム、それを用いた水圧転写方法、並びにその水圧転写方法で得られる水圧転写品に関する実施形態は全て本発明を例示的に示すものであって限定的に示すものではなく、本発明は他の種々の変形態様及び変更態様で実施することができる。従って本発明の範囲は特許請求の範囲及びその均等範囲によってのみ規定されるものである。
本発明の水圧転写フィルムは、水溶性繊維または水溶性糸から構成される水溶性基材を用いることによって、水溶性基材の表面に形成されたファブリックパターンが反転されたファブリック調の凹凸を備えた加飾層を容易に形成でき、その水圧転写フィルムを用いて水圧転写して得られる水圧転写品は、ファブリック調の凹凸意匠と感触を有するため、自動車部品や家電部品への新しい加飾方法として有用である。
10 被転写基材
100 水圧転写品
20、21 水圧転写フィルム
3 水溶性基材
30 織編み構造体
30a、30b 水溶性糸
31 不織布構造体
30c 水溶性繊維
40 加飾層
50、51 凹部
60 活性剤
70 水圧転写装飾層
W 液体(水)
S 洗浄手段
H 乾燥手段

Claims (7)

  1. 水溶性基材に少なくとも加飾層が積層されてなる水圧転写フィルムであって、前記水溶性基材は複数の水溶性繊維または水溶性糸の少なくとも一方で構成された複合体であり、前記複合体は表面に前記水溶性繊維または水溶性糸によって形成された凹凸パターンを有し、前記加飾層は前記凹凸パターンを構成する凹部の少なくとも一部を埋めるように積層されてなることを特徴とする水圧転写フィルム。
  2. 前記複合体が前記水溶性糸からなる織編構造体であり、前記凹部は前記織編構造体の織編目であることを特徴とする請求項1に記載の水圧転写フィルム。
  3. 前記複数の凹部の少なくとも一つは、複数種の凹部形状から構成されてなることを特徴とする請求項2に記載の水圧転写フィルム。
  4. 前記織編構造体は、径の大きさが異なる複数の前記水溶性糸からなることを特徴とする請求項2または3に記載の水圧転写フィルム。
  5. 前記水溶性基材が複数の前記水溶性繊維からなる前記複数の凹部を備えた不織布であることを特徴とする請求項1に記載の水圧転写フィルム。
  6. 前記不織布が形状の異なる前記水溶性繊維で構成されていることを特徴とする請求項5に記載の水圧転写フィルム。
  7. 以下の工程(A)~(C)を備える水圧転写方法;
    工程(A):請求項1~5のいずれか1項に記載の水圧転写フィルムを、水溶性フィルム側を水面に接触した状態で浮遊させる工程;
    工程(B):前記工程(A)の前、後または同時の何れかにおいて、前記水圧転写フィルムの加飾層に活性剤組成物を塗布する工程;
    工程(C):工程(A)及び(B)を経た水圧転写フィルム上に被転写体を押圧し、水圧によって前記加飾層を前記被転写体の被転写面に密着させて水圧転写装飾層を形成する工程。
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