JP2022153824A - 積層体の製造方法及び積層体 - Google Patents

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Yutaka Ito
恭弘 山下
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Abstract

【課題】被着体に固定されている場合であっても、ガスバリア性を十分に発揮可能な積層体の製造方法及び積層体を提供すること。【解決手段】ガスバリア性フィルムの製造方法は、被着体と、被着体上に配置される無機バリア層と、無機バリア層上に接して配置されるカバー層と、を備える積層体の製造方法であって、支持基材上にカバー層及び無機バリア層を順に形成することによって中間積層体を形成する第1工程と、カバー層及び被着体によって無機バリア層を挟むように、中間積層体を被着体に固定する第2工程と、第2工程後、支持基材を中間積層体から除去する第3工程と、を備え、無機バリア層の厚さの90%以上の領域において、珪素原子、酸素原子及び炭素原子の合計量に対する炭素原子の量の比は、連続的に変化する。【選択図】図1

Description

本発明は、積層体の製造方法及び積層体に関する。
近年、自発光素子として有機エレクトロルミネッセンス素子(以下、「有機EL素子」とも言う)が注目されている。有機EL素子は、有機化合物を含む発光層と、当該発光層を挟む一対の電極とを有する素子であり、支持基板上に設けられる。有機EL素子においては、発光層に酸素、水蒸気等が侵入することによって、ダークスポットと呼ばれる発光不良部が生じてしまう。このようなダークスポットの発生を防止するため、例えば、バリア封止材として、水蒸気等を透過しにくいフィルム(ガスバリアフィルム)を利用することが提案されている。ただ、支持基板上にガスバリアフィルムを直接形成すると、支持基板上に設けられる有機EL素子にダメージが与えられる懸念がある。
そこで、例えば下記特許文献1に記載されるように、離型フィルム上に、アンダーコート層およびガスバリア層をこの順に含むガスバリア性積層膜を有するガスバリア性積層膜の転写用フィルムが用いられることがある。このような転写用フィルムは、支持基板上の有機EL素子にダメージを与えることなく形成できる。
国際公開第2018/016346号
しかしながら、上記特許文献1に記載される転写用フィルムを、有機ELデバイス等の被着体上に実際に転写すると、当該転写用フィルムに含まれるアンダーコート層及びガスバリア層等が割れてしまうことがあった。この場合、転写用フィルムのガスバリア性が十分に発揮されない問題がある。
本発明の一側面の目的は、被着体に固定されている場合であっても、ガスバリア性を十分に発揮可能な積層体の製造方法及び積層体を提供することである。
本発明者らの鋭意検討の末、上述したような転写用フィルムを被着体に貼り付けた後、当該転写用フィルムの離型フィルム(基材)をアンダーコート層から剥離するときにガスバリア層が割れやすい傾向があることを見出した。更に詳細に検討したところ、基材の剥離時にアンダーコート層及びガスバリア層にかかるせん断力に起因して、当該アンダーコート層及び/または当該ガスバリア層が割れる傾向があることが見出された。
以上の知見に基づいた本発明の一側面に係る積層体の製造方法は、被着体と、被着体上に配置される無機バリア層と、無機バリア層上に接して配置されるカバー層と、を備える積層体の製造方法であって、支持基材上にカバー層及び無機バリア層を順に形成することによって中間積層体を形成する第1工程と、カバー層及び被着体によって無機バリア層を挟むように、中間積層体を被着体に固定する第2工程と、第2工程後、支持基材を中間積層体から除去する第3工程と、を備え、無機バリア層の厚さの90%以上の領域において、珪素原子、酸素原子及び炭素原子の合計量に対する炭素原子の量の比は、連続的に変化する。
この積層体の製造方法によれば、無機バリア層の厚さの90%以上の領域において、珪素原子、酸素原子及び炭素原子の合計量に対する炭素原子の量の比は、連続的に変化する。この場合、無機バリア層は、酸素及び水蒸気等に対してより優れたバリア性を得ることができると共に、優れた耐屈曲性を示すことができる。このため、中間積層体を被着体に固定した後、当該中間積層体から支持基材を除去したとしても、無機バリア層及びカバー層が割れにくい。したがって、本発明の一側面によれば、被着体に固定されている場合であっても、ガスバリア性を十分に発揮可能である。
第1工程にて、無機バリア層は、ロール間放電プラズマ化学気相成長法により形成されてもよい。この場合、無機バリア層は、より優れた耐屈曲性を示すことができる。加えて、被着体にダメージを与えることなく無機バリア層を形成できる。
無機バリア層の厚さは、200nm以上1000nm以下であり、無機バリア層の内部応力は、100MPa以上1000MPa以下でもよい。この場合、無機バリア層のバリア性及び耐屈曲性をより向上できる。
カバー層の厚さは、1μm以上15μm以下でもよい。この場合、無機バリア層をカバー層によって良好に保護できる。
カバー層は、塗工法により形成され、カバー層の引張破断強度は、25MPa以上でもよい。この場合、カバー層の耐屈曲性を確保できる。
カバー層の内部応力は、-50MPa以上-2MPa以下でもよい。この場合、無機バリア層の成膜時の放電異常、及び、貼合時における被着体へのトラブルを防止でき、かつ、積層体の反りを抑えることができる。
被着体は、光学フィルムでもよい。この場合、光学フィルムのガスバリア性を向上できる。
被着体は、有機EL素子基板でもよい。この場合、有機EL素子基板のガスバリア性を向上できるので、有機EL素子の劣化を抑制できる。
本発明の他の一側面に係る積層体は、被着体と、被着体に固定されるバリア積層体と、を備え、バリア積層体は、カバー層、及び、被着体とカバー層との間に配置される無機バリア層を有し、無機バリア層の厚さは、200nm以上1000nm以下であり、カバー層の厚さは、1μm以上15μm以下であり、無機バリア層の厚さの90%以上の領域において、珪素原子、酸素原子及び炭素原子の合計量に対する炭素原子の量の比は、連続的に変化する。
この積層体によれば、無機バリア層の厚さの90%以上の領域において、珪素原子、酸素原子及び炭素原子の合計量に対する炭素原子の量の比は、連続的に変化する。この場合、無機バリア層は、酸素及び水蒸気等に対してより優れたバリア性を得ることができると共に、優れた耐屈曲性を示すことができる。このため、バリア積層体が被着体に固定される場合であっても、無機バリア層及びカバー層が割れにくい。したがって、本発明の他の一側面によれば、被着体に固定されている場合であっても、ガスバリア性を十分に発揮可能である。
本発明の一側面によれば、被着体に固定されている場合であっても、ガスバリア性を十分に発揮可能な積層体の製造方法及び積層体を提供できる。
図1は、実施形態に係る積層体を示す模式断面図である。 図2は、実施形態に係る積層体の製造方法の概要を示すフローチャートである。 図3(a)~(c)は、積層体の製造方法を説明するための模式断面図である。 図4は、ロール間放電プラズマCVD法によって無機バリア層を形成するための製造装置の主要構成を示す模式図である。 図5(a)は、中間積層体の一部を示す断面TEM画像であり、図5(b)は、中間積層体のXPSデプスプロファイル測定結果を示す図である。
以下、図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、以下の説明及び図面中、同一又は相当部分には同一符号を付し、重複する説明は省略する。
また、図面の寸法比率は図示の比率に限られるものではない。
[積層体]
図1は、本実施形態に係る積層体の模式断面図である。図1に示されるように、本実施形態に係る積層体1は、被着体2と、バリア積層体3と、粘着体4とを有する。積層体1においては、被着体2と、粘着体4と、バリア積層体3とが順に積層される。以下では、被着体2と、バリア積層体3と、粘着体4とが、互いに積層される方向を積層方向(もしくは厚さ方向)と定義する。
例えば、バリア積層体3に含まれる少なくとも1つの層の内部応力等に起因して、積層体1には反りが発生し得る。積層体1に反りが発生した場合、積層体1は、厚さ方向においてバリア積層体3側から被着体2側に向かって突出するように反る。換言すると、第1試料は、バリア積層体3の表面(カバー層11の第1主面11a)が凹面になるように変形する。厚さ方向から見て積層体1から50mm四方の試料(第1試料)を切り出し、当該第1試料の中央部が水平面に接するように第1試料を水平面上に載置し、厚さ方向における水平面から各角までの距離をそれぞれ測定した場合、各距離の平均値の絶対値は、例えば0.1mm以上3.0mm以下である。この場合、積層体1においてバリア積層体3の割れが発生しにくい。
被着体2は、可撓性を有する部材(フレキシブル部材)であり、例えばフィルム形状を有する。被着体2の厚さは、例えば10μm以上500μm以下である。被着体2は、例えば光学フィルム、有機EL素子基板等である。光学フィルムは、例えば、液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイ等に用いられる光学部材である。有機EL素子基板は、有機EL素子が設けられる基板である。有機EL素子は、一対の電極と、当該一対の電極の間に設けられる有機発光層とを有する素子である。被着体2の表面は、例えば樹脂製の基板、有機薄膜、無機薄膜等によって形成される。
バリア積層体3は、例えば水蒸気、酸素ガス等に対する耐透過性を示す部材であり、被着体2をカバーする。バリア積層体3は、被着体2と同様に可撓性(フレキシブル性)を有する。バリア積層体3は、カバー層11と、無機バリア層12とを有する積層体である。厚さ方向において、無機バリア層12は、被着体2上に配置される。また、無機バリア層12は、被着体2とカバー層11との間に配置される。
カバー層11は、バリア積層体3の本体部であり、第1主面11a及び第2主面11bを有する樹脂層である。第1主面11aは積層体1の表面を構成し、カバー層11の第2主面11b上には無機バリア層12が形成される。積層体1においては、カバー層11は、無機バリア層12上に接して配置される。カバー層11としては、無機バリア層12を保持可能な樹脂(有機高分子材料)で形成されたフィルム状の基材であれば、特に限定されるものではない。カバー層11は、例えば塗工法により形成されるが、これに限られない。カバー層11としては、樹脂フィルムを用いることができ、無色透明であるものを用いることが好ましい。カバー層11を構成する樹脂としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)等のポリエステル樹脂;ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、環状ポリオレフィン等のポリオレフィン樹脂;ポリアミド樹脂;ポリカーボネート樹脂;ポリスチレン樹脂;ポリビニルアルコール樹脂;エチレン-酢酸ビニル共重合体のケン化物;ポリアクリロニトリル樹脂;アセタール樹脂;ポリイミド樹脂;ポリエーテルサルファイド(PES)が挙げられ、必要に応じてそれらの2種以上を組合せて用いることもできる。これらの中でも、透明性、耐熱性、線膨張性等の必要な特性に合せて、ポリエステル樹脂、ポリオレフィン樹脂の中から選択して用いることが好ましく、ポリイミド、シクロオレフィンポリマーを用いることがより好ましい。また、カバー層11としては、上述した樹脂の層を2層以上積層した積層体を用いることもできる。
カバー層11は、未延伸の樹脂基材であってもよく、未延伸の樹脂基材を一軸延伸、テンター式逐次二軸延伸、テンター式同時二軸延伸、チューブラー式同時二軸延伸などの公知の方法により、基材の流れ方向(MD方向)、及び/または、基材の流れ方向と直角方向(TD方向)に延伸した延伸樹脂基材であってもよい。
カバー層11の厚さは、バリア積層体3を製造する際の安定性等を考慮して適宜設定される。バリア積層体3の製造中におけるカバー層11の破損防止の観点から、カバー層11の厚さは、1μm以上でもよいし、2μm以上でもよいし、3μm以上でもよい。被着体2にバリア積層体3を固定した後におけるカバー層11の破損防止の観点から、カバー層11の厚さは、15μm以下でもよいし、13μm以下でもよいし、11μm以下でもよいし、10μm以下でもよい。後述するロール間放電プラズマCVD法により無機バリア層12を形成する場合、カバー層11を通して放電を行うことから、カバー層11の厚さは5μm以上でもよい。バリア積層体3に光を透過させる場合、カバー層11は薄いほど好ましく、例えば8μm以下である。カバー層11が薄いほど、バリア積層体3による光吸収量が増加しないためである。なお、カバー層11と比較して、無機バリア層12は顕著に薄い。このため、カバー層11の厚さは、バリア積層体3と実質的に同一とみなしてもよい。
カバー層11の引張破断強度は、例えば25MPa以上である。カバー層11の引張破断強度は、例えば引張試験機(ISO527-3:2018に準拠)によって測定される。また、カバー層11の内部応力は、例えば-50MPa以上-2MPa以下である。カバー層11の内部応力は、例えば短冊状の試験片の反り等の測定値をストーニー(Stoney)の式に代入することによって算出される。
無機バリア層12との密着性の観点から、カバー層11の第2主面11bには、表面活性処理が施されてもよい。このような表面活性処理が無機バリア層12の形成前に実施されることによって、第2主面11bがクリーニングされる。表面活性処理としては、例えば、コロナ処理、プラズマ処理、フレーム処理が挙げられる。カバー層11の第1主面11aにも、表面活性処理が施されてもよい。
無機バリア層12は、水蒸気等のガスの透過を防止するガスバリア性を有する層であり、カバー層11を被覆する。無機バリア層12は、カバー層11に接する面12aと、粘着体4に接する面12bとを有する。無機バリア層12の成膜条件は、生産性、生産コスト等の観点で適宜選定選択される。なお、カバー層11の第1主面11a上には無機バリア層12と同様の無機バリア層(別の無機バリア層)が設けられてもよい。この場合、バリア積層体の表面は別の無機バリア層によって構成される。加えて、当該バリア積層体のガスバリア性が良好に向上される。なお、無機バリア層12と、別の無機バリア層とは、同一の成膜条件で形成されてもよいし、異なる成膜条件で形成されてもよい。
無機バリア層12の内部応力(残留圧縮応力)は、例えば100MPa以上1000MPa以下である。無機バリア層12の内部応力は、例えばカバー層11と同様の手法にて算出される。
本実施形態における「ガスバリア性」とは、下記条件(A)~(C)のうちの少なくとも1つの条件を満たすものであればよい。
<条件(A)>
JIS K 7126(2006年発行)に準拠した方法で測定された「樹脂基材のガス透過度(単位:mol/m・s・P)」と「ガスバリア層を成膜した樹脂基材のガス透過度(単位:mol/m・s・P)」を比較して、「樹脂基材のガス透過度」に対して「ガスバリア層を成膜した樹脂基材のガス透過度」の方が2桁以上小さい値(100分の1以下の値)を示すこと。
<条件(B)>
JIS K 7129(2008年発行)に記載される方法に準拠した方法で測定された「樹脂基材の水蒸気透過度(単位:g/m・s・P)」と「ガスバリア層を成膜した樹脂基材の水蒸気透過度(単位:g/m・s・P)」を比較して、「樹脂基材の水蒸気透過度」に対して「ガスバリア層を成膜した樹脂基材の水蒸気透過度」の方が2桁以上小さい値(100分の1以下の値)を示すこと。
<条件(C)>
特開2005-283561号公報に記載される方法に準拠した方法で測定された「樹脂基材の水蒸気透過度(単位:g/m・s・P)」と「ガスバリア層を成膜した樹脂基材の水蒸気透過度(単位:g/m・s・P)」を比較して、「樹脂基材の水蒸気透過度」に対して「ガスバリア層を成膜した樹脂基材の水蒸気透過度」の方が2桁以上小さい値(100分の1以下の値)を示すこと。
一般的に、水蒸気バリア性(ガスバリア性)を有するガスバリア層を成膜した基材の水蒸気透過度は10-2g/m/day以下の値を示す。このため、上記条件(B)及び(C)を検討する場合には、「ガスバリア層を成膜した樹脂基材の水蒸気透過度」が10-2g/m/day以下の値となっていることが好ましく、10-4g/m/day以下の値となっていることがより好ましく、10-5g/m/day以下の値となっていることがさらに好ましく、10-6g/m/day以下の値となっていることがとりわけ好ましい。また、このようなガスバリア性を有するガスバリア層としては、上記条件(C)を満たすものがより好ましい。
無機バリア層12の種類は特に制限されず、公知のガスバリア性を有する薄膜層を適宜利用できる。無機バリア層12は、金属酸化物、金属窒化物、金属酸窒化物、金属酸炭化物のうちの少なくとも1種を含む薄膜層でもよい。無機バリア層12は、上述した薄膜層を2層以上積層した多層膜でもよい。
ガスバリア性(特に水蒸気透過防止性)等の観点から、本実施形態では、無機バリア層12は、珪素原子(Si)、酸素原子(O)、及び炭素原子(C)を少なくとも含有する。この場合、無機バリア層12の主成分は、一般式SiOαβで表される化合物でもよい。ここで、「主成分である」とは、材質の全成分の質量に対してその成分の含有量が50質量%以上であることをいう。当該含有量は、70質量%以上でもよいし、90質量%以上であることをいう。上記一般式中、α及びβは、それぞれ独立に、2未満の正の数を表す。無機バリア層12は一般式SiOαβで表される1種類の化合物を含有してもよいし、一般式SiOαβで表される2種以上の化合物を含有してもよい。上記一般式におけるα及び/またはβは、厚さ方向において一定の値でもよいし、連続的に変化していてもよい。α及びβが厚さ方向において連続的に変化しているとは、例えば、α及びβの数値が、それぞれ厚さ方向で周期的に増減を繰り返す性質を有することを意味する。高度なガスバリア性、耐屈曲性の実現という観点から、α及びβの数値は、連続的に変化してもよい。例えば、無機バリア層12の厚さの90%以上、95%以上、もしくは98%以上の領域において、α及びβの数値は、連続的に変化してもよい。
無機バリア層12は、珪素原子、酸素原子及び炭素原子以外の元素を含有してもよい。無機バリア層12は、水素原子、窒素原子、ホウ素原子、アルミニウム原子、リン原子、イオウ原子、フッ素原子及び塩素原子のうちの一以上の原子を含有してもよい。無機バリア層12が少なくとも珪素原子、酸素原子、及び炭素原子を含有する場合、緻密性を高めやすい観点、微細な空隙、クラック等の欠陥を低減しやすい観点等から、無機バリア層12は、例えば化学気相成長法(CVD法)で形成される。この場合、グロー放電プラズマなどを用いたプラズマ化学気相成長法(PECVD法)で形成されることが好ましい。真空チャンバー内の圧力(真空度)は、以下にて説明する原料ガスの種類等に応じて適宜調整することができる。当該圧力は、例えば、0.5Pa以上50Pa以下である。
化学気相成長法において使用される原料ガスの例は、珪素原子及び炭素原子を含有する有機ケイ素化合物である。このような有機ケイ素化合物の例は、ヘキサメチルジシロキサン、1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン、ビニルトリメチルシラン、メチルトリメチルシラン、ヘキサメチルジシラン、メチルシラン、ジメチルシラン、トリメチルシラン、ジエチルシラン、プロピルシラン、フェニルシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、オクタメチルシクロテトラシロキサンである。これらの有機ケイ素化合物の中でも、化合物の取り扱い性及び得られる無機バリア層12のガスバリア性等の特性の観点から、ヘキサメチルジシロキサン、1,1,3,3-テトラメチルジシロキサンが好ましい。原料ガスとして、これらの有機ケイ素化合物の1種を単独で使用してもよいし、2種以上を組合せて使用してもよい。
上記原料ガスに対して、上記原料ガスと反応して酸化物、窒化物等の無機化合物を形成可能とする反応ガスが適宜選択及び混合されてもよい。酸化物を形成するための反応ガスとしては、例えば、酸素、オゾンを用いることができる。また、窒化物を形成するための反応ガスとしては、例えば、窒素、アンモニアを用いることができる。これらの反応ガスは、1種を単独でまたは2種以上を組合せて使用することができ、例えば酸窒化物を形成する場合には、酸化物を形成するための反応ガスと窒化物を形成するための反応ガスとを組合せて使用することができる。原料ガスと反応ガスの流量比は、成膜する無機材料の原子比に応じて適宜調節できる。
上記原料ガスを真空チャンバー内に供給するために、必要に応じて、キャリアガスを用いてもよい。さらに、プラズマ放電を発生させるために、必要に応じて、放電用ガスを用いてもよい。このようなキャリアガス及び放電用ガスとしては、適宜公知のものを使用することができ、例えば、ヘリウム、アルゴン、ネオン、キセノン等の希ガス、もしくは、水素を用いることができる。
成膜ガスが原料ガスと反応ガスを含有する場合には、原料ガスと反応ガスの比率としては、原料ガスと反応ガスとを完全に反応させるために理論上必要となる反応ガスの量の比率よりも、反応ガスの比率を過剰にし過ぎないことが好ましい。反応ガスの比率を過剰にし過ぎてしまうと、膜質が低下してしまう傾向がある。上記成膜ガスが上記有機ケイ素化合物と酸素とを含有するものである場合には、上記成膜ガス中の上記有機ケイ素化合物の全量を完全酸化するのに必要な理論酸素量以下であることが好ましい。
無機バリア層12の厚さは、積層体1の用途に応じて適宜調整されるが、例えば5nm以上3000nm以下でもよいし、10nm以上2000nm以下でもよいし、50nm以上1500nm以下でもよいし、100nm以上1000nm以下でもよい。バリア層の厚さは、例えば、膜厚計によって測定できる。無機バリア層12の厚さが上記の下限値以上である場合、良好なガスバリア性が発揮される。無機バリア層12の厚さが上記の上限値以下である場合、良好な屈曲性が発揮される。グロー放電プラズマを用いたPECVD法によって無機バリア層12を形成する場合には、カバー層11を通して放電することから、無機バリア層12の厚さは、50nm以上2000nm以下であることが好ましく、100nm以上1000nm以下であることがより好ましい。
無機バリア層12中の珪素原子(Si)に対する炭素原子(C)の平均原子数比をC/Siで表した場合、高い緻密性、並びに、空隙及びクラック等の欠陥低減の観点から、C/Siの範囲は、0.02<C/Si<1.00を満たしてもよい。より高い緻密性及び良好な欠陥低減の観点から、C/Siの範囲は、0.03<C/Si<0.90を満たしてもよいし、0.04<C/Si<0.80でもよいし、0.05<C/Si<0.75でもよい。
無機バリア層12中の珪素原子(Si)に対する酸素原子(O)の平均原子数比をO/Siで表した場合、高い緻密性、並びに、空隙及びクラック等の欠陥低減の観点から、O/Siの範囲は、1.10<O/Si<1.98でもよく、1.20<O/Si<1.97でもよく、1.25<O/Si<1.96でもよく、1.30<O/Si<1.95でもよい。
上記平均原子数比(C/Si及びO/Si)は、例えば、X線光電子分光法(XPS:Xray Photoelectron Spectroscopy)を利用したXPSデプスプロファイル測定を実施することによって得られる。XPSデプスプロファイル測定は、試料をXPSにて測定しつつ、当該試料をアルゴン等の希ガスにてイオンスパッタリングすることによって、試料内部を露出させつつ順次表面組成分析を行うことである。このようなXPSデプスプロファイル測定によって、縦軸を各元素の原子比(単位:at%)とし、横軸をエッチング時間とする分布曲線を作成できる。この分布曲線から、横軸に沿った各元素の平均原子濃度が求められる。そして、当該平均原子濃度を用いて、C/Si及びO/Siが算出される。
本実施形態では、厚さ方向における無機バリア層12の面12bからの距離と、各距離における珪素原子の原子比との関係を示す曲線を、無機バリア層12の珪素分布曲線とする。同様に、厚さ方向における面12bからの距離と、各距離における酸素原子の原子比との関係を示す曲線を、無機バリア層12の酸素分布曲線とする。また、厚さ方向における面12bからの距離と、各距離における炭素原子の原子比との関係を示す曲線を、無機バリア層12の炭素分布曲線という。珪素原子の原子比、酸素原子の原子比及び炭素原子の原子比は、無機バリア層12に含まれる珪素原子、酸素原子及び炭素原子の合計数に対するそれぞれの原子数の比率を意味する。
なお、横軸をエッチング時間とする元素の分布曲線においては、エッチング時間は上記薄膜層の膜厚方向における上記薄膜層の表面からの距離に概ね相関する。このため、「薄膜層の膜厚方向における薄膜層の表面からの距離」として、XPSデプスプロファイル測定の際に採用したエッチング速度とエッチング時間との関係から算出される試料の表面からの距離を採用できる。すなわち、横軸をエッチング時間とする元素の分布曲線と、設定されたエッチング速度とから、試料の厚さを算出できる。エッチング速度は、例えば0.01nm/sec以上0.10nm/sec以下(SiO熱酸化膜換算値)である。
本実施形態では、屈曲によるガスバリア性の低下を抑制する観点から、無機バリア層12に含まれる珪素原子、酸素原子及び炭素原子の合計数に対する炭素原子の原子数比は、厚さ方向における90%以上の領域において連続的に変化する。この場合、無機バリア層12は、良好な耐屈折性を示し得る。ここで、上記炭素原子の原子数比が、無機バリア層12の膜厚方向において連続的に変化するとは、例えば上記の炭素分布曲線において、炭素の原子比が不連続に変化する部分を含まないことを表す。無機バリア層12に含まれる珪素原子、酸素原子及び炭素原子の合計数に対する炭素原子の原子数比は、厚さ方向における95%以上の領域において連続的に変化してもよいし、厚さ方向における98%以上の領域において連続的に変化してもよい。
無機バリア層12の炭素分布曲線は、少なくとも1つの極値を有してもよい。積層体1の屈曲性及びガスバリア性の観点から、8つ以上の極値を有してもよい。ここでいう極値は、厚さ方向における無機バリア層12の面12bからの距離に対する各元素の原子比の極大値または極小値である。極値は、厚さ方向における面12bからの距離を変化させたときに、元素の原子比が増加から減少に転じる点、または元素の原子比が減少から増加に転じる点での原子比の値である。極値は、例えば、厚さ方向において複数の測定位置において、測定された原子比に基づいて求めることができる。原子比の測定位置は、厚さ方向の間隔が、例えば10nm以下に設定される。厚さ方向において極値を示す位置は、各測定位置での測定結果を含んだ離散的なデータ群について、例えば互いに異なる3以上の測定位置での測定結果を比較し、測定結果が増加から減少に転じる位置または減少から増加に転じる位置を求めることによって得ることができる。極値を示す位置は、例えば、前記の離散的なデータ群から求めた近似曲線を微分することによって、得ることもできる。極値を示す位置から、原子比が単調増加または単調減少する区間が例えば10nm以上である場合に、極値を示す位置から膜厚方向に10nmだけ移動した位置での原子比と、極値との差の絶対値は例えば0.03以上である。
積層体1の屈曲性及びガスバリア性の観点から、無機バリア層12の珪素分布曲線、酸素分布曲線及び炭素分布曲線が、下記の条件(i)及び(ii)を満たしてもよい。
(i)珪素の原子数比、酸素の原子数比及び炭素の原子数比が、バリア層の厚さ方向における90%以上の領域において、下記式(1)で表される条件を満たす。
(酸素の原子数比)>(珪素の原子数比)>(炭素の原子数比) (1)
(ii)炭素分布曲線が好ましくは少なくとも1つ、より好ましくは8つ以上の極値を有する。
無機バリア層12の炭素分布曲線は、実質的に連続であることが好ましい。炭素分布曲線が実質的に連続とは、炭素分布曲線における炭素の原子比が不連続に変化する部分を含まないことである。具体的には、膜厚方向における前記薄膜層表面からの距離をx[nm]、炭素の原子比をCとしたときに、式(2):
|dC/dx|≦0.01 (2)
を満たすことが好ましい。
炭素分布曲線が少なくとも1つ、好ましくは8つ以上の極値を有する条件を満たすように形成された無機バリア層12においては、屈曲前のガス透過率に対する屈曲後のガス透過率の増加量が、上記条件を満たさない場合と比較して少なくなる。すなわち、上記条件を満たすことにより、屈曲による無機バリア層12のガスバリア性低下を抑制する効果が得られる。炭素分布曲線の極値の数が2つ以上になるように無機バリア層12を形成すると、炭素分布曲線の極値の数が1つである場合と比較して、上記増加量が少なくなる。また、炭素分布曲線の極値の数が3つ以上になるように無機バリア層12を形成すると、炭素分布曲線の極値の数が2つである場合と比較して、上記増加量が少なくなる。炭素分布曲線が2つ以上の極値を有する場合、第1の極値を示す位置の厚さ方向に面12bからの距離と、第1の極値と隣接する第2の極値を示す位置の厚さ方向における面12bからの距離との差の絶対値は、例えば、1nm以上200nm以下の範囲内である。上記絶対値は、1nm以上100nm以下の範囲内であることが好ましい。
無機バリア層12の炭素分布曲線における炭素の原子比の最大値及び最小値の差の絶対値は、例えば0.01より大きい。当該絶対値が0.01よりも大きい無機バリア層12においては、屈曲前のガス透過率に対する屈曲後のガス透過率の増加量が、上記絶対値が0.01以下である場合と比較して少なくなる。すなわち、上記絶対値が0.01よりも大きい場合、屈曲によるガスバリア性の低下を抑制する効果が得られる。上記絶対値が0.02以上であると上記効果が高くなり、0.03以上であると上記効果がさらに高くなる。
珪素分布曲線における珪素の原子比の最大値及び最小値の差の絶対値が低くなるほど、無機バリア層12のガスバリア性が向上する傾向がある。このような観点から、上記絶対値は、0.05未満(5at%未満)であることが好ましく、0.04未満(4at%未満)であることがより好ましく、0.03未満(3at%未満)であることが特に好ましい。
酸素炭素分布曲線において、各距離における酸素原子の原子比及び炭素原子の原子比の合計を「合計原子比」としたときに、合計原子比の最大値及び最小値の差の絶対値が低くなるほど、無機バリア層12のガスバリア性が向上する傾向がある。このような観点で、前記の合計原子比は、0.05未満であることが好ましく、0.04未満であることがより好ましく、0.03未満であることが特に好ましい。
無機バリア層12の平均密度は、例えば、1.8g/cm以上2.22g/cm未満である。バリア層の「平均密度」は、ラザフォード後方散乱法(Rutherford Backscattering Spectrometry:RBS)で求めた珪素の原子数、炭素の原子数、酸素の原子数と、水素前方散乱法(Hydrogen Forward scattering Spectrometry:HFS)で求めた水素の原子数とから測定範囲の無機バリア層12の重さを計算し、測定範囲の無機バリア層12の体積(イオンビームの照射面積と膜厚との積)で除することで求められる。無機バリア層12の平均密度が1.8g/cm以上であると、緻密性が高く、微細な空隙及びクラック等の欠陥が含まれにくいバリア層を形成できる。
無機バリア層12の面12bに対して赤外分光測定(ATR法)を行った場合、950~1050cm-1に存在するピーク強度(I)と、1240~1290cm-1に存在するピーク強度(I)との強度比(I/I)が、0.01≦I/I<0.05を満たしてもよい。ピーク強度比I/Iは、無機バリア層12中のSi-O-Si結合に対するSi-CH結合の相対的な割合を表すと考えられる。0.01≦I/I<0.05で表される関係を満たす無機バリア層12は、緻密性が高く、微細な空隙及びクラック等の欠陥を低減しやすい。このため、上記関係を満たす無機バリア層12は、高いガスバリア性及び耐衝撃性を有すると考えられる。無機バリア層12の緻密性を高く保持する観点から、ピーク強度比I/Iは、0.02≦I/I<0.04を満たしてもよい。
無機バリア層12の面12bに対して赤外分光測定(ATR法)を行った場合、950~1050cm-1に存在するピーク強度(I)と、770~830cm-1に存在するピーク強度(I)との強度比(I/I)が、0.25≦I/I≦0.50を満たしてもよい。ピーク強度比I/Iは、無機バリア層12中のSi-O-Si結合に対するSi-C結合、Si-O結合等の相対的な割合を表すと考えられる。0.25≦I/I≦0.50で表される関係を満たす無機バリア層12は、高い緻密性、耐屈曲性及び耐衝撃性を有すると考えられる。無機バリア層12の緻密性と耐屈曲性のバランスを保つ観点から、ピーク強度比I/Iは、0.25≦I/I≦0.50を満たしてもよく、0.30≦I/I≦0.45を満たしてもよい。
無機バリア層12の面12bに対して赤外分光測定(ATR法)を行った場合、770~830cm-1に存在するピーク強度(I)と、870~910cm-1に存在するピーク強度(I)との強度比(I/I)が、0.70≦I/I<1.00を満たしてもよい。ピーク強度比I/Iは、無機バリア層12中のSi-C結合に関連するピーク同士の比率を表すと考えられる。0.70≦I/I<1.00で表される関係を満たす無機バリア層12は、高い緻密性、耐屈曲性、及び耐衝撃性を有すると考えられる。無機バリア層12の緻密性と耐屈曲性のバランスを保つ観点から、ピーク強度比I/Iは、0.70≦I/I<1.00を満たしてもよく、0.80≦I/I<0.95を満たしてもよい。
無機バリア層12の面12bの赤外分光測定は、例えば、後述する中間積層体30(図3(c)を参照)を用い、プリズムにゲルマニウム結晶を用いたATRアタッチメント(例えば、PIKE MIRacle)を備えたフーリエ変換型赤外分光光度計(例えば、日本分光株式会社製、FT/IR-460Plus)によって測定できる。
粘着体4は、被着体2とバリア積層体3とを一体化するための部材であり、例えばフィルム形状を有する。粘着体4は、被着体2と、無機バリア層12の面12bとのそれぞれに粘着する。厚さ方向における粘着体4の一端4aは被着体2に粘着し、厚さ方向における粘着体4の他端4bは無機バリア層12の面12bに粘着する。粘着体4は、例えばアクリル系粘着剤、ゴム系粘着剤、ウレタン系粘着剤、シリコン系粘着剤、紫外線硬化型粘着剤等を含む。耐熱性、粘着性等の観点から、粘着体4にはアクリル系粘着剤が含まれてもよい。粘着剤成分、ブリードアウト成分のバリア積層体3への転写による不良発生防止の観点から、粘着体4には、硬化剤、レベリング材等の添加剤が適宜含まれ得る。加えて、製造時に発生する環境異物等の欠陥のバリア積層体3への転写を防止する観点から、バリア積層体3と粘着体4との貼り合わせは、クリーンルーム等の環境異物の少ない環境にて実施されてもよい。また、被着体2に有機ELデバイスのような水分に弱いデバイスが含まれる場合、粘着体4は、積層体1の端部からの水分の浸透をバリアする機能を有することが望ましい。このような機能を持つ粘着体4は、有機ELデバイスにおいて使用され得る公知の封止能を有する接着剤(粘着剤の概念を含む)で形成され得る。
次に、図2~図4を参照しながら、本実施形態に係る積層体1の製造方法の一例を説明する。
図2は、本実施形態に係る積層体の製造方法の概要を示すフローチャートである。図3(a)~(c)は、積層体の製造方法を説明するための模式断面図である。図2及び図3(a)に示されるように、まず、支持基材20上にカバー層11を形成する(第1ステップS1)。第1ステップS1では、図3(a)に示されるように、支持基材20の第1主面20a上にカバー層11を形成する。例えば、カバー層11の形成時に発生する体積収縮等に起因して、カバー層11が形成された支持基材20(カバー層11付き支持基材20)には反りが発生し得る。カバー層11付き支持基材20に反りが発生した場合、カバー層11付き支持基材20は、厚さ方向においてカバー層11側から支持基材20側に向かって突出するように反る。換言すると、カバー層11付き支持基材20は、カバー層11が凹面になるように変形する。カバー層11付き支持基材20から50mm四方の試料(第2試料)を形成し、当該第2試料の中央部が水平面に接するように第2試料を水平面上に載置し、厚さ方向における水平面から各角までの距離をそれぞれ測定した場合、各距離の平均値の絶対値は、例えば0.1mm以上3.0mm以下である。
カバー層11は、例えば、カバー層11の原料となる高分子材料を溶媒に溶解することによって得られる溶液を支持基材20に塗工する溶媒キャスト法等によって形成される。本実施形態では、溶媒キャスト法によって、第1主面20a上にカバー層11を形成する。塗工方法としては、例えば、ダイコート法、ディップコート法、エアーナイフコート法、カーテンコート法、ローラーコート法、ワイヤーバーコート法、グラビアコート法、スライドコート法等の公知の塗工方法が利用可能である。本実施形態の場合、第1主面20a上に、カバー層11を構成する樹脂(高分子材料)が含まれる溶液をダイコート法によって塗工し、当該溶液を乾燥させることによってカバー層11を形成する。このとき、カバー層11の支持基材20からの意図しない剥離を防止する観点から、第1主面20aの一部が露出するように、カバー層11を形成する。例えば、支持基材20がロール状に巻回されている場合、巻出し方向に対して直交する幅方向における支持基材20の両端部には、カバー層11は形成されない。支持基材20は、カバー層11を形成するためのフィルム状の仮基板であり、例えば樹脂によって形成される。支持基材20を構成する樹脂としては、例えば、カバー層11を構成する樹脂と同様である。支持基材20の厚さは、カバー層11よりも大きく、例えば30μm以上200μm以下である。支持基材20の厚さが30μm以上である場合、カバー層11に十分な耐熱性等を付与できる。支持基材20の第2主面20bには、図示しないプライマー層等が形成され得る。なお、第1主面20aにプライマー層等が形成されてもよい。
次に、図3(b)に示されるように、第1ステップS1後、カバー層11の第2主面11b上に無機バリア層12をプラズマ化学気相成長法によって形成する(第2ステップS2)。第2ステップS2では、無機バリア層12の厚さの90%以上の領域において、珪素原子、酸素原子及び炭素原子の合計量に対する炭素原子の量の比が連続的に変化するように、無機バリア層12を形成する。これにより、支持基材20と、カバー層11及び無機バリア層12を含むバリア積層体3とを有するフィルム状の中間積層体30を形成する(第1工程)。
例えば、無機バリア層12の内部応力等に起因して、中間積層体30には反りが発生し得る。中間積層体30に反りが発生した場合、中間積層体30は、厚さ方向において支持基材20側から無機バリア層12側に向かって突出するように反る。換言すると、中間積層体30は、支持基材20が凹面になるように変形する。中間積層体30から50mm四方の試料(第3試料)を切り出したとき、当該第3試料の中央部が水平面に接するように第3試料を水平面上に載置し、厚さ方向における水平面から各角までの距離をそれぞれ測定した場合、各距離の平均値の絶対値は、例えば1mm以上5mm以下である。
第2ステップS2では、支持基材20から露出するカバー層11の第2主面11b上に、PECVD法によって無機バリア層12を堆積させる。PECVD法においてプラズマを発生させる際には、複数の成膜ロールの間の空間にプラズマ放電を発生させてもよいし、一対の成膜ロールを用いてその一対の成膜ロールのそれぞれに上記カバー層11を配置して、一対の成膜ロール間に放電してプラズマを発生させてもよい。後者の場合、成膜時に一方の成膜ロール上に存在するカバー層11の表面部分を成膜しつつ、他方の成膜ロール上に存在するカバー層11の表面部分も同時に成膜できる。このため、効率よく無機バリア層12を製造できる。加えて、一方の成膜ロール上と、他方の成膜ロール上とのそれぞれにて、同じ構造の膜を成膜できる。よって、上記炭素分布曲線における極値を少なくとも倍増させることが可能となる。
無機バリア層12の形成方法としては、生産性の観点から、PECVD法を利用しつつ、ロールツーロール方式を採用してもよい。また、このようなPECVD法により積層体1を製造する際に用いることが可能な装置としては、特に制限されない。例えば、少なくとも一対の成膜ロールと、プラズマ電源とを備えており、且つ、上記一対の成膜ロール間において放電することが可能な構成となっている装置であればよい。本実施形態では、以下の図4に示す製造装置100を用い、PECVD法を利用しながらロールツーロール方式にて、無機バリア層12が形成される。
図4は、ロール間放電プラズマCVD法によってガスバリア層を形成するための製造装置の主要構成を示す模式図である。図4に示されるように、製造装置100は、送り出しロール101と、搬送ロール102a,102b,102c,102dと、成膜ロール103,104と、ガス供給管105と、プラズマ発生用電源106と、成膜ロール103,104の内部に設置された磁場発生装置107a,107bと、巻取りロール108とを備えている。また、このような製造装置100においては、少なくとも成膜ロール103,104と、ガス供給管105と、プラズマ発生用電源106と、磁場発生装置107a,107bとが、図示しない真空チャンバー内に配置されている。更に、このような製造装置100において上記真空チャンバーは図示を省略した真空ポンプに接続されており、かかる真空ポンプにより真空チャンバー内の圧力を適宜調整することが可能となっている。
製造装置100に用いられる送り出しロール101、搬送ロール102a,102b,102c,102dとして、適宜公知のロールが用いられる。また、巻取りロール108としても、無機バリア層12を形成した支持基材20を巻き取ることが可能なものであればよく、特に制限されず、適宜公知のロールを用いることができる。送り出しロール101として、カバー層11付き支持基材20が巻かれたロールが用いられる。
製造装置100においては、一対の成膜ロール(成膜ロール103,104)を一対の対向電極として機能させることが可能となるように、各成膜ロールがそれぞれプラズマ発生用電源106に接続されている。より具体的には、成膜ロール103の内部に設けられる磁場発生装置107aと、成膜ロール104の内部に設けられる磁場発生装置107bとが、プラズマ発生用電源106に電気的に接続されている。このため、製造装置100においては、プラズマ発生用電源106により電力を供給することにより、成膜ロール103と成膜ロール104との間の空間にプラズマを発生できる。このように、成膜ロール103と成膜ロール104を電極としても利用する場合には、電極としても利用可能なようにその材質、設計等を適宜変更すればよい。また、製造装置100においては、成膜ロール103,104は、その中心軸が同一平面上において略平行となるようにして配置してもよい。この場合、成膜レートを倍にでき、なおかつ、同じ構造の膜を成膜できるので上記炭素分布曲線における極値を少なくとも倍増させることが可能となる。具体的には、製造装置100によれば、成膜ロール103上においてカバー層11の第2主面11b上に膜成分を堆積させつつ、更に成膜ロール104上においても第2主面11b上に膜成分を堆積させることもできる。これにより、カバー層11の第2主面11b上に無機バリア層12を効率よく形成することができる。
成膜ロール103,104の内部には、成膜ロールが回転しても回転しないようにして固定された磁場発生装置107a,107bがそれぞれ設けられている。成膜ロール103,104としては、適宜公知のロールを用いることができる。このような成膜ロール103,104としては、無機バリア層12をより効率よく形成する観点から、同一直径のロールが用いられてもよい。成膜ロール103,104の直径としては、放電条件、チャンバーのスペース等の観点から、例えば、5cm以上100cm以下である。
ガス供給管105としては、原料ガス等を所定の速度で供給又は排出することが可能なものを適宜用いることができる。プラズマ発生用電源106としては、適宜公知のプラズマ発生装置の電源を用いることができる。このようなプラズマ発生用電源106は、成膜ロール103と成膜ロール104に電力を供給して、これらを放電のための対向電極として利用することを可能とする。このようなプラズマ発生用電源106としては、より効率よくPECVD法を実施することが可能となることから、上記一対の成膜ロールの極性を交互に反転させることが可能なもの(交流電源など)を利用してもよい。
プラズマ発生用電源106としては、より効率よくPECVD法を実施することが可能となることから、印加電力を100W以上10kW以下とすることができ、且つ、交流の周波数を50Hz以上500kHz以下とすることが可能なものでもよい。印加電力が高いほど、プラズマが発生しやすくなるので、無機バリア層の成膜速度が向上する傾向がある。積層体1の生産性の観点から、上記印加電力は、0.5kW以上でもよく、0.8kW以上でもよく、1.0kW以上でもよく、1.2kW以上でもよく、1.5kW以上でもよい。一方、印加電力が高いほど、カバー層11に与えられる輻射熱が大きくなる傾向がある。印加電力が上記範囲内にある場合、カバー層11は支持基材20上に形成されているので、成膜時においてカバー層11の第2主面11bから伝わる熱が支持基材20に分散することによって、カバー層11が熱負けしにくくなる。これにより、カバー層11の熱負けに起因する皺が発生しにくくなる。さらに、熱に起因してカバー層11が溶解したとしても、成膜ロール103,104の一部が露出しない。このため、成膜ロール103,104の間に大電流の放電(アーク放電)が発生することを良好に防止できる。また、パーティクルが発生し難くなる傾向がある。
磁場発生装置107a,107bとしては適宜公知の磁場発生装置を用いることができる。磁場発生装置107a,107bが設けられることによって、成膜ロール103,104上に位置するカバー層11にプラズマが高密度に拘束される。
カバー層11付き支持基材20の搬送速度(ライン速度)は、原料ガスの種類、真空チャンバー内の圧力等に応じて適宜調整することができる。上記搬送速度は、例えば、0.25m/min以上100m/min以下でもよいし、0.5m/min以上20m/min以下でもよい。ライン速度が上記の範囲にあると、熱に起因するフィルムの皺が発生しにくい傾向があり、且つ、形成される無機バリア層12の厚みが薄くならない傾向にある。なお、製造装置100では、支持基材20は、送り出しロール101から巻取りロール108へ搬送されるだけでなく、巻取りロール108から送り出しロール101へ搬送されてもよい。換言すると、製造装置100では、支持基材20は、送り出しロール101と巻取りロール108との間を往復移動してもよい。支持基材20が当該往復移動されることによって、カバー層11上に形成される無機バリア層12の厚さを良好に調整できる。例えば、支持基材20の往復回数は、1回以上20回以下である。なお、支持基材20の1往復とは、送り出しロール101から巻取りロール108へ支持基材20が搬送された後、巻取りロール108から送り出しロール101へ支持基材20が搬送されたこととする。また以下では、送り出しロール101から巻取りロール108へ支持基材20が搬送された回数、並びに、巻取りロール108から送り出しロール101へ支持基材20が搬送された回数のそれぞれを、パス回数とする。
以上に説明した製造装置100を用いて、例えば、原料ガスの種類、真空チャンバー内の圧力、印加電力、周波数、成膜ロールの直径、並びに、フィルムの搬送速度が適宜調整される。そして、成膜ガス(原料ガス等)を真空チャンバー内に供給しつつ、成膜ロール103,104間に放電を発生させることにより、上記成膜ガス(原料ガス等)がプラズマによって分解される。ここで第2ステップS2における製造装置100においては、カバー層11の第2主面11bがそれぞれ対向するように、支持基材20が成膜ロール103,104上に配置されている。このため、成膜ロール103上の第2主面11b上並びに成膜ロール104上の第2主面11b上に、無機バリア層12が形成される。このとき、支持基材20が搬送ロール102a~102d、成膜ロール103等によって搬送されながら、無機バリア層12が形成される。すなわち、ロールツーロール方式の連続的な成膜プロセスにより無機バリア層12が形成される。これにより、厚さ方向における90%以上の領域において、珪素原子、酸素原子及び炭素原子の合計量に対する炭素原子の量の比が連続的に変化する無機バリア層12を、精度よく、且つ、効率よく形成できる。
図2に戻って、第2ステップS2後、図3(c)に示されるように、無機バリア層12上に粘着体4を形成する(第3ステップS3)。第3ステップS3では、例えば、フィルム状の粘着体4の他端4bを無機バリア層12の面12bに密着させる。これにより、粘着体4が中間積層体30に貼り付けられ、粘着体4の一端4aが露出面になる。例えば、粘着体4と、中間積層体30が巻かれたロールとを準備した後、当該ロールから巻き出された中間積層体30の無機バリア層12に粘着体4を貼り付けることによって、第3ステップS3が実施される。なお、粘着体4と無機バリア層12との粘着力は、支持基材20とカバー層11との接合力よりも顕著に高い。
次に、被着体2に中間積層体30を固定する(第4ステップS4)。第4ステップS4では、中間積層体30に貼り付いた粘着体4の一端4aを被着体2に貼り付けることによって、被着体2と中間積層体30とが粘着体4を介して一体化する。これにより、カバー層11及び被着体2によって無機バリア層12を挟むように、中間積層体30を被着体2に固定する(第2工程)。なお、粘着体4と被着体2との粘着力は、支持基材20とカバー層11との接合力よりも顕著に高い。
次に、第4ステップS4後、支持基材20を中間積層体30から除去する(第5ステップS5、第3工程)。第5ステップS5では、支持基材20をカバー層11から物理的に剥離する。例えば、支持基材20のみを巻き取る巻取りロールを用いて、カバー層11から支持基材20を剥離する。これにより図1に示されるように、被着体2と、粘着体4と、バリア積層体3とを有する積層体1が形成される。
以上に説明した本実施形態に係る製造方法によって製造される積層体1によれば、無機バリア層12の厚さの90%以上の領域において、珪素原子、酸素原子及び炭素原子の合計量に対する炭素原子の量の比は、連続的に変化する。この場合、無機バリア層12は、酸素及び水蒸気等に対してより優れたバリア性を得ることができると共に、優れた耐屈曲性を示すことができる。このため、中間積層体30を被着体2に固定した後、中間積層体30から支持基材20を除去したとき、無機バリア層12及びカバー層11が割れにくい。すなわち、中間積層体30から支持基材20を除去したとしても、バリア積層体3のガスバリア性が劣化しにくい。したがって、本実施形態によれば、可撓性を有する被着体2に固定されている場合であっても、ガスバリア性を十分に発揮可能である。
加えて、本実施形態では、中間積層体30を被着体2に固定した後、中間積層体30から支持基材20が除去される。この場合、積層体1に残存するバリア積層体3の剛性は、中間積層体30の剛性よりも低くなる。このため、バリア積層体3の反りが被着体2まで影響しにくくなる。よって、積層体1が大きく反りにくくなるので、無機バリア層12及びカバー層11が良好に割れにくくなる。ここで本実施形態では、被着体2が可撓性を有するので、被着体2が剛体である場合と比較して、バリア積層体3の内部応力が解放されやすくなる。
本実施形態では、第1工程にて、無機バリア層12は、ロール間放電プラズマ化学気相成長法により形成されてもよい。この場合、無機バリア層12は、より優れた耐屈曲性を示すことができる。加えて、被着体2にダメージを与えることなく無機バリア層12を形成できる。さらには、ロール間放電プラズマ化学気相成長法により無機バリア層12を形成することによって、通常の化学気相成長法とは異なり、無機バリア層12が残留圧縮応力を有する。これにより、カバー層11に起因する反りと、無機バリア層12に起因する反りとが打ち消し合うので、バリア積層体3の反りが抑制される。よって、積層体1がより反りにくくなるので、無機バリア層12及びカバー層11がより良好に割れにくくなる。
本実施形態では、無機バリア層12の厚さは、200nm以上1000nm以下であり、無機バリア層12の内部応力は、100MPa以上1000MPa以下でもよい。この場合、無機バリア層12のバリア性及び耐屈曲性をより向上できる。
本実施形態では、カバー層11の厚さは、1μm以上15μm以下でもよい。この場合、無機バリア層12をカバー層11によって良好に保護できる。
本実施形態では、カバー層11は、塗工法により形成され、カバー層11の引張破断強度は、25MPa以上でもよい。この場合、カバー層の耐屈曲性を確保できる。
本実施形態では、カバー層11の内部応力は、-50MPa以上-2MPa以下でもよい。この場合、無機バリア層12の成膜時の放電異常、及び、貼合時における被着体2へのトラブルを防止でき、かつ、積層体1の反りを抑えることができる。
本実施形態では、被着体2は、光学フィルムでもよい。この場合、バリア積層体3によって光学フィルムのガスバリア性を向上できる。
本実施形態では、被着体2は、有機EL素子基板でもよい。この場合、バリア積層体3によって有機EL素子基板のガスバリア性を向上できるので、有機EL素子の劣化を抑制できる。
本発明の一側面に係る積層体の製造方法は、上記実施形態に限定されず、他に様々な変形が可能である。例えば、上記実施形態では、積層体は、被着体、粘着体、無機バリア層及びカバー層がこの順に積層された構造を有しているが、これに限られない。例えば、カバー層は無機バリア層に挟まれてもよい。無機ポリマー層のような塗布により形成されるバリア層がカバー層の第1主面上に形成されてもよい。無機ポリマー層は、例えば、パーヒドロポリシラザン(PHPS)等によって形成される。この場合、バリア積層体によるガスバリア性をより向上できる。また、カバー層は、必要に応じて、平坦化層、プライマーコート層等の機能層を有してもよい。無機バリア層は、複数のバリア層を有してもよい。この場合、例えば、ロール間放電PECVD法によって形成される無機バリア層上に、無機ポリマー層が設けられる。
上記実施形態では、図4に示される製造装置を用いたプラズマCVD法によって無機バリア層を形成しているが、これに限られない。例えば、容量結合型プラズマCVD法によって無機バリア層が形成されてもよい。
上記実施形態では、可撓性を有する被着体が用いられるが、これに限られない。例えば、可撓性を有さない被着体、反りにくい被着体等が用いられてもよい。可撓性を有さない被着体、反りにくい被着体等としては、例えば、ガラス基板、セラミック基板等が挙げられる。
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
[評価方法]
<ガスバリア性>
バリア積層体のガスバリア性は、水蒸気透過度(Water Vapor Transmission Rate:WVTR)により評価した。水蒸気透過度は、温度40℃、湿度90%RHの条件において、カルシウム腐食法(特開2005-283561号公報に記載される方法)によって算出した。具体的には、まず、乾燥処理後のバリア積層体に対して、金属カルシウムを蒸着した。続いて、金属カルシウムの上に金属アルミニウムを蒸着した。最後に、封止用樹脂を用いてガラスを貼り合せることで金属カルシウムを封止したサンプルを、温度40℃、湿度90%RHの条件にて静置した。このサンプルの腐食点の経時変化による増加を画像解析で調べることによって、水蒸気透過度を算出した。なお、このような水蒸気透過度の算出に際しては、腐食点をマイクロスコープで撮影し、その画像をパーソナルコンピューターに取り込んで、腐食点の画像を2値化し、腐食面積を算出して求めることにより、水蒸気透過度を算出した。この水蒸気透過度の値が小さいほど、ガスバリア性に優れているといえる。なお、バリア積層体の水蒸気透過度は、バリア積層体が形成された支持基材の水蒸気透過度の算出結果とみなした。これは、支持基材の水蒸気透過度がバリア積層体が形成された支持基材の水蒸気透過度よりも顕著に高かったため、支持基材の水蒸気透過度を無視できたためである。また、バリア積層体の水蒸気透過度は、無機バリア層の水蒸気透過度の算出結果とみなすことができる。これは、カバー層のみが形成された支持基材の水蒸気透過度は、カバー層及び無機バリア層が形成された支持基材の水蒸気透過度よりも顕著に高かったため、カバー層の水蒸気透過度も無視できたためである。
<膜厚>
支持基材に設けられるカバー層及び無機バリア層の厚さは、以下の方法で測定した。まず、支持基材上にカバー層を形成する、もしくは、支持基材上にカバー層及び無機バリア層を順に形成する。続いて、表面粗さ測定器(株式会社小坂研究所社製、商品名:サーフコーダET200)を用いて、支持基材(未塗工部)/カバー層、もしくは、カバー層(未成膜部)/無機バリア層の段差測定を行うことによって、カバー層及び無機バリア層の膜厚が求められる。
<組成分布計測定>
バリア積層体の無機バリア層について、XPSデプスプロファイル測定(Surface Science Instruments社製、商品名:S-Probe ESCA)を行い、下記の条件で、珪素分布曲線、酸素分布曲線、炭素分布曲線を得た。
エッチングイオン種:アルゴン(Ar)、
エッチングレート(SiO熱酸化膜換算値):0.05nm/sec程度、
中和電子銃使用、
照射X線:単結晶分光AlKα、
X線のスポット及びそのサイズ:800μm×150μmの楕円形。
<平面性の評価>
測定対象となる積層体を温度23℃、湿度50RH%の条件に48時間保持する。次に、積層体から50mm四方の部分を切り出してサンプルを得る。サンプルの中央部が水平面に接するようにサンプルを水平面上に載置し、水平面から4隅までの距離をそれぞれ得る。そして、得られた4つの距離の平均値を得る。なお、カバー層が形成される支持基材が反った場合、カバー層の露出表面側が盛り上がり凸形状となる方向を正(+)とし、カバー層の露出表面側がくぼんで凹形状となる方向を負(-)とした。換言すると、カバー層が形成される支持基材が反った場合、厚さ方向において、カバー層が位置する方向を正とし、支持基材が位置する方向を負とする。また、カバー層及び無機バリア層を含むバリア積層体、及び、当該バリア積層体を含む積層体が反った場合、カバー層と無機バリア層との2層の関係において、無機バリア層側が盛り上がり凸形状となる方向を正(+)とし、無機バリア層側がくぼんで凹形状となる方向を負(-)とした。換言すると、バリア積層体が反った場合、厚さ方向において、無機バリア層が位置する方向を正とし、カバー層が位置する方向を負とする。
<カバー層及び無機バリア層の内部応力の測定>
内部応力を測定するために、支持基材として、片面にプライマー層を有するポリエチレンナフタレートフィルム(帝人フィルムソリューション株式会社製、PEN―Q65HA、厚み100μm)を準備した。そして、支持基材のプライマー層が形成されていない面に、薄膜層としてカバー層もしくは無機バリア層を形成し、フィルムを形成した。得られたフィルムを短冊状に加工した試験片から、以下に示すストーニ―(Stoney)の式からカバー層及び無機バリア層の内部応力を算出した。ここで、σ:薄膜層の内部応力、E:支持基材のヤング率、d:支持基材の厚さ、ν:支持基材のポアソン比、d:薄膜層の厚さ、R:支持基材の反りの曲率半径、:支持基材の長さ、δ:反りの大きさ(フィルムを平板な台に置いたときに反り返った該フィルムの高さ)である。
σ=E /(3(1-ν)・d・R)
=δE /(3(1-ν)・d・r
[実施例1]
フィルム状の支持基材として、可撓性基材の片面にプライマー層を有するポリエチレンナフタレートフィルム(帝人フィルムソリューション株式会社製、PEN―Q65HA、厚み100μm、幅350mm)を準備した。また、シクロオレフィンポリマーフィルム(日本ゼオン株式会社製、ゼオノアフィルム(登録商標)、ZF-16、厚み100μm)をキシレンで溶解することによって、カバー層用の液体を準備した。続いて、支持基材の別の片面上(すなわち、支持基材のうちプライマー層が形成されていない面)上に、上記液体をダイコート法にて塗布した。これにより、上記別の片面上に塗布膜を形成した。幅方向における支持基材の両端部に10mmの未塗工部が存在するように、塗布膜の塗工幅は330mmに調整した。続いて、塗布膜を100℃で3分間乾燥させることによって、カバー層付き支持基材を得た。得られたカバー層の厚みは、10μmであった。カバー層付き支持基材は、カバー層の表面が凹形状になるように反っていた。カバー層付き支持基材から50mm四方の部分を切り出したサンプルにおいて、厚さ方向に沿った水平面から各角までの距離の平均値は、-2.0mmだった。また、カバー層付き支持基材を短冊状に加工した試験片から算出したカバー層の内部応力は、-25MPaだった。
次に、図4に示される製造装置100を用いて、カバー層付き支持基材のカバー層上に無機バリア層を成膜した。これにより、支持基材と、カバー層及び無機バリア層から構成されるバリア積層体とが順に積層される中間積層体を形成した。具体的には、まず、真空チャンバー内に設置した製造装置100において、カバー層付き支持基材を送り出しロール101に装着した。続いて、真空チャンバー内の圧力を1×10-3Pa以下にした後、カバー層付き支持基材を搬送しながら、カバー層付き支持基材のカバー層上に無機バリア層を成膜した。より具体的には、まず、成膜ロール103,104からなる一対のロール状電極表面にそれぞれカバー層付き支持基材を密接させながら、カバー層付き支持基材を搬送させる。このとき、真空チャンバー内(特に、成膜ロール103,104の間)に、原料ガス(ヘキサメチルジシロキサン(HMDSO)ガス)及び酸素ガスを供給すると共に、一対のロール状電極に交流電力を供給する。これにより、一対のロール状電極間にプラズマを発生させ、当該プラズマ中で原料ガスを分解させて、カバー層上に無機バリア層を形成させた。そして、巻取りロール108によって無機バリア層が形成されたカバー層付き支持基材をロール状に巻き取った。無機バリア層の成膜は、以下に示す成膜条件1にしたがって実施される。
<成膜条件1>
原料ガスの供給量:50sccm(Standard Cubic Centimeter per Minute、0℃、1気圧基準)
酸素ガスの供給量:500sccm(0℃、1気圧基準)
真空チャンバー内の排気口周辺における真空度:1Pa
プラズマ発生用電源からの印加電力:1.0kW
プラズマ発生用電源の周波数:70kHz
フィルムの搬送速度;2.2m/min
パス回数:5回
得られた無機バリア層の厚さは400nmだった。図5(a)は、中間積層体の一部を示す断面TEM画像である。図5(b)は、中間積層体のXPSデプスプロファイル測定結果を示す図である。図5(a),(b)において、領域R1は、無機バリア層の形成領域に相当し、領域R2はカバー層の形成領域に相当する。また、図5(b)において、グラフ51は酸素原子の分布曲線を示し、グラフ52は珪素原子の分布曲線を示し、グラフ53は炭素原子の分布曲線を示す。
図5(a)に示されるように、領域R1においては縦縞が形成されることが確認された。この縦縞は、無機バリア層の密度が、厚さ方向に沿って一定ではないことを示していると言える。このように無機バリア層の密度が厚さ方向に沿って変化することによって、無機バリア層に柔軟性が付与される。実際、図5(b)に示されるように、XPSデプスプロファイル測定により得られた無機バリア層の珪素原子、酸素原子、及び炭素原子の分布曲線から、無機バリア層に含まれる珪素原子、酸素原子及び炭素原子の合計数に対する炭素原子の原子数比は、厚さ方向における90%以上の領域において連続的に変化していたことが確認された。また、XPSデプスプロファイル測定より、無機バリア層においては、原子数比が大きい方から酸素、珪素及び炭素の順であることが確認された。得られた珪素原子、酸素原子及び炭素原子の分布曲線から、それぞれの原子の厚さ方向における平均原子濃度を求めた後、平均原子数比C/Si及びO/Siを算出した結果、平均原子数比C/Si=0.67、O/Si=1.55であることが確認された。
得られた無機バリア層の水蒸気透過度を測定するため、まず、中間積層体の無機バリア層上に金属カルシウム及び金属アルミニウムを順に蒸着した。続いて、封止樹脂を用いてガラスに貼り合わせて封止したサンプルを作成した。続いて、当該サンプルの水蒸気透過度を、上述したガスバリア性の評価方法にて測定したところ、当該水蒸気透過度は、温度40℃、湿度90%RHの条件において9.7×10-5g/(m・day)であった。
中間積層体は、無機バリア層側が凸形状になるように反っていた。中間積層体から50mm四方の部分を切り出したサンプルにおいて、厚さ方向に沿った水平面から各角までの距離の平均値は、2.1mmだった。なお、同様の条件で別途成膜した無機バリア層を含む試験片から算出した内部応力は、650MPaだった。
次に、中間積層体の無機バリア層上に、光学粘着フィルム(パナック株式会社製、パナクリーン(登録商標)、PD-C3、厚み25μm)を貼り付けた。続いて、上記光学粘着フィルムに可撓性を示すシクロオレフィンポリマーフィルム(日本ゼオン株式会社製、ゼオノアフィルム(登録商標)、ZF14、厚み23μm)を貼り付けた。そして、カバー層から支持基材を剥離することによって、中間積層体から支持基材を除去した。これにより、被着体であるシクロオレフィンポリマーフィルムと、粘着体である光学粘着フィルムと、無機バリア層及びカバー層を含むバリア積層体とを有する積層体を形成した。当該積層体から50mm四方の部分を切り出したサンプルにおいて、厚さ方向に沿った水平面から各角までの距離の平均値は、0.1mmだった。よって、実施例1では、積層体の反りは、カバー層付き支持基材及び中間積層体と比較して顕著に小さいことがわかった。
[参考例]
実施例1と同様に、フィルム状の支持基材として、可撓性基材の片面にプライマー層を有するポリエチレンナフタレートフィルム(帝人フィルムソリューション株式会社製、PEN―Q65HA、厚み100μm、幅350mm)を準備した。続いて、支持基材の別の片面上(すなわち、支持基材のうちプライマー層が形成されていない面上)に、図4に示される製造装置100を用いて、実施例1と同様の手順及び成膜条件にて無機バリア層を直接形成した。
得られた無機バリア層の水蒸気透過度を測定するため、まず、無機バリア層が形成された支持基材の無機バリア層上に金属カルシウム及び金属アルミニウムを順に蒸着した。続いて、封止樹脂を用いてガラスに貼り合わせて封止したサンプルを作成した。続いて、当該サンプルの水蒸気透過度を、上述したガスバリア性の評価方法にて測定したところ、当該水蒸気透過度は、温度40℃、湿度90%RHの条件において5.8×10-5g/(m・day)であった。
無機バリア層が形成された支持基材は、無機バリア層側が凸形状になるように反っていた。無機バリア層が形成された支持基材から50mm四方の部分を切り出したサンプルにおいて、厚さ方向に沿った水平面から各角までの距離の平均値は、5.6mmだった。参考例では、実施例1と比較して支持基材と無機バリア層との間にカバー層が設けられていない。よって、参考例における上記距離の平均値は、実施例1よりも高くなったと考えられる。
次に、無機バリア層が形成された支持基材の無機バリア層上に、光学粘着フィルム(パナック株式会社製、パナクリーン(登録商標)、PD-C3、厚み25μm)を貼り付けた。続いて、上記光学粘着フィルムに可撓性を示すシクロオレフィンポリマーフィルム(日本ゼオン株式会社製、ゼオノアフィルム(登録商標)、ZF14、厚み23μm)を貼り付けた。これにより、被着体であるシクロオレフィンポリマーフィルムと、粘着体である光学粘着フィルムと、無機バリア層と、支持基材とを有する積層体を形成した。当該積層体から50mm四方の部分を切り出したサンプルにおいて、厚さ方向に沿った水平面から各角までの距離の平均値は、4.0mmだった。参考例1では、実施例1と比較して支持基材が残存しているので、当該支持基材の反りが被着体まで強く影響していると考えられる。よって、参考例における積層体の反りは、実施例1と比較すると極めて大きいことがわかった。
1…積層体、2…被着体、3…バリア積層体、4…粘着体、11…カバー層、11a…第1主面、11b…第2主面、12…無機バリア層、12a,12b…面、20…支持基材、30…中間積層体、100…製造装置、101…送り出しロール、103,104…成膜ロール、108…巻取りロール。

Claims (9)

  1. 被着体と、前記被着体上に配置される無機バリア層と、前記無機バリア層上に接して配置されるカバー層と、を備える積層体の製造方法であって、
    支持基材上に前記カバー層及び前記無機バリア層を順に形成することによって中間積層体を形成する第1工程と、
    前記カバー層及び前記被着体によって前記無機バリア層を挟むように、前記中間積層体を前記被着体に固定する第2工程と、
    前記第2工程後、前記支持基材を前記中間積層体から除去する第3工程と、
    を備え、
    前記無機バリア層の厚さの90%以上の領域において、珪素原子、酸素原子及び炭素原子の合計量に対する炭素原子の量の比は、連続的に変化する、
    積層体の製造方法。
  2. 前記第1工程にて、前記無機バリア層は、ロール間放電プラズマ化学気相成長法により形成される、請求項1に記載の積層体の製造方法。
  3. 前記無機バリア層の厚さは、200nm以上1000nm以下であり、
    前記無機バリア層の内部応力は、100MPa以上1000MPa以下である、請求項1または2に記載の積層体の製造方法。
  4. 前記カバー層の厚さは、1μm以上15μm以下である、請求項1~3のいずれか一項に記載の積層体の製造方法。
  5. 前記カバー層は、塗工法により形成され、
    前記カバー層の引張破断強度は、25MPa以上である、請求項4に記載の積層体の製造方法。
  6. 前記カバー層の内部応力は、-50MPa以上-2MPa以下である、請求項5に記載の積層体の製造方法。
  7. 前記被着体は、光学フィルムである、請求項1~6のいずれか一項に記載の積層体の製造方法。
  8. 前記被着体は、有機EL素子基板である、請求項1~6のいずれか一項に記載の積層体の製造方法。
  9. 被着体と、
    前記被着体に固定されるバリア積層体と、
    を備え、
    前記バリア積層体は、カバー層、及び、前記被着体と前記カバー層との間に配置される無機バリア層を有し、
    前記無機バリア層の厚さは、200nm以上1000nm以下であり、
    前記カバー層の厚さは、1μm以上15μm以下であり、
    前記無機バリア層の厚さの90%以上の領域において、珪素原子、酸素原子及び炭素原子の合計量に対する炭素原子の量の比は、連続的に変化する、
    積層体。
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