JP2022152516A - ポリテトラフルオロエチレン成形体の製造方法、ポリテトラフルオロエチレン膜の製造方法、及び積層体の製造方法 - Google Patents

ポリテトラフルオロエチレン成形体の製造方法、ポリテトラフルオロエチレン膜の製造方法、及び積層体の製造方法 Download PDF

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Atsushi Sato
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Abstract

【課題】 製造工程での割れの発生が抑制され、耐摩耗性が良好なPTFE成形体を製造できる方法を提供する。【解決手段】 (1)380℃における溶融粘度が7×105Pa・s以下であるPTFEを含む成形材料をPTFEの結晶融点以上に加熱して第1成形物を得る第1工程と、(2)第1工程後、第1成形物に無酸素かつ上記結晶融点以上の条件下で電離性放射線を照射して第2成形物を得る第2工程とを有するPTFE成形体の製造方法であって、第1工程の後、第2工程を行う際に、(a)第1工程の後、第1成形物の温度が結晶融点未満にならないように維持したまま第2工程を行うか、又は、(b)第1工程の後、少なくとも上記結晶融点以下300℃以上の温度域においては、第1成形物の温度を2℃/分未満の冷却速度で冷却し、その後上記結晶融点以上に加熱して第2工程を行う、ポリテトラフルオロエチレン成形体の製造方法。【選択図】図1

Description

本発明は、ポリテトラフルオロエチレン成形体の製造方法、ポリテトラフルオロエチレン膜の製造方法、及び、テトラフルオロエチレン膜を備えた積層体の製造方法に関する。
耐摩擦性等の機械的特性に優れたポリテトラフルオロエチレンの成形体を得る方法として、例えば、特許文献1では、ポリテトラフルオロエチレンを含む成形材料に電離性放射線を照射する工程を備え、上記ポリテトラフルオロエチレンの380℃における溶融粘度が、7×10Pa・s以下であるポリテトラフルオロエチレン成形体の製造方法、が提案されている。
ポリテトラフルオロエチレン成形体を製造する際に電離性放射線を照射することは、例えば特許文献2~4にも記載されている。
国際公開第2017/043372号 特開2010-94579号公報 特開2007-77323号公報 特開2012-197779号公報
ポリテトラフルオロエチレン(以下、PTFEともいう)の成形体を製造する場合、製造途中の成形物に割れが発生してしまうことがあった。そして、製造途中の成形物に割れが発生すると、その後の工程は行うことができず、それまでの製造工程が無駄になってしまう。
例えば、PTFEの膜を製造する場合、PTFEを含む成形材料(PTFEを含む分散液など)を支持体に塗布した後、PTFEの結晶融点以上に加熱し、その後冷却する工程を行うと、冷却された膜状の成形物に割れが生じることがあった。また、支持体から剥がれてしまうこともあった。
特に、分子量が小さいPTFEを用いてPTFE膜を製造しようとした場合、このような冷却時の割れや剥がれが発生しやすかった。
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、製造途中の成形物に割れ等が発生することを抑制したポリテトラフルオロエチレン成形体の製造方法を提供することを目的とする。
本発明の1つの側面は、
(1)380℃における溶融粘度が、7×10Pa・s以下であるポリテトラフルオロエチレンを含む成形材料を、上記ポリテトラフルオロエチレンの結晶融点以上に加熱して第1成形物を得る第1工程と、
(2)第1工程後、上記第1成形物に、無酸素かつ上記ポリテトラフルオロエチレンの結晶融点以上の条件下で電離性放射線を照射して第2成形物を得る第2工程と、
を有するポリテトラフルオロエチレン成形体の製造方法であって、
第1工程の後、第2工程を行う際に、
(a)第1工程の後、上記第1成形物の温度が上記結晶融点未満にならないように維持したまま第2工程を行うか、又は、
(b)第1工程の後、少なくとも上記ポリテトラフルオロエチレンの結晶融点以下300℃以上の温度域においては、上記第1成形物の温度を2℃/分未満の冷却速度で冷却し、その後、再度上記ポリテトラフルオロエチレンを結晶融点以上に加熱して第2工程を行う、
ポリテトラフルオロエチレン成形体の製造方法である。
本発明の他の1つの側面は、
支持体上に、成形体として膜を製造する上記ポリテトラフルオロエチレン成形体の製造方法によって、ポリテトラフルオロエチレン膜を成形した後、上記支持体を除去するポリテトラフルオロエチレン膜の製造方法である。
本発明のさらに他の1つの側面は、
基材と、上記基材の表面に設けられたポリテトラフルオロエチレン膜を備えた積層体の製造方法であって、
ポリテトラフルオロエチレン膜を、成形体として膜を製造する上記ポリテトラフルオロエチレン成形体の製造方法で成形する、積層体の製造方法である。
本発明によれば、ポリテトラフルオロエチレン成形体の製造方法において、製造途中の成形物に割れが発生することを抑制することができる。また、製造された成形体は、耐摩耗性等の機械的特性が格別良好である。
さらに、上記ポリテトラフルオロエチレン成形体の製造方法は、ポリテトラフルオロエチレン膜の製造方法や、基材とポリテトラフルオロエチレン膜とを備えた積層体の製造方法に好適に用いることができる。
本発明の実施形態に係るPTFE成形体の製造方法Aの工程図である。 本発明の実施形態に係るPTFE成形体の製造方法Bの工程図である。 試験例1で作製したPTFE塗膜の顕微鏡画像である。 試験例2で作製したPTFE塗膜の顕微鏡画像である。 試験例3で作製したPTFE塗膜の顕微鏡画像である。 試験例4で作製したPTFE塗膜の顕微鏡画像である。 試験例5で作製したPTFE塗膜の顕微鏡画像である。 試験例6で作製したPTFE塗膜の顕微鏡画像である。 PTFEの冷却速度と溶融潜熱との関係を示すグラフである。
[発明の実施形態の概要]
最初に、本発明の実施形態の内容を列記して説明する。
[1]本発明の一実施形態に係るポリテトラフルオロエチレン成形体(PTFE成形体)の製造方法は、
(1)380℃における溶融粘度が、7×10Pa・s以下であるポリテトラフルオロエチレンを含む成形材料を、上記ポリテトラフルオロエチレンの結晶融点以上に加熱して第1成形物を得る第1工程と、
(2)第1工程後、上記第1成形物に、無酸素かつ上記ポリテトラフルオロエチレンの結晶融点以上の条件下で電離性放射線を照射して第2成形物を得る第2工程と、
を有するポリテトラフルオロエチレン成形体の製造方法であって、
第1工程の後、第2工程を行う際に、
(a)第1工程の後、上記第1成形物の温度が上記結晶融点未満にならないように維持したまま第2工程を行うか、又は、
(b)第1工程の後、少なくとも上記ポリテトラフルオロエチレンの結晶融点以下300℃以上の温度域においては、上記第1成形物の温度を2℃/分未満の冷却速度で冷却し、その後、再度上記ポリテトラフルオロエチレンを結晶融点以上に加熱して第2工程を行う。
上記PTFE成形体の製造方法では、上記第1工程の後、上記第2工程を行う際に、(a)又は(b)の要件を満足するように処理を行う。そのため、上記製造方法によれば、製造途中の成形物(特に第1工程の後、第2工程を行う前の第1成形物)に割れが発生することを抑制することができる。よって、上記PTFE成形体の製造方法では、高い生産効率でPTFE成形体を製造することができる。
上記(a)の要件を満足する方法は、上記第1工程の後、直ぐに第2工程を行う場合に有効な方法である。
一方、PTFE成形体を製造する場合、例えばバッチ方式で、上記第1工程と上記第2工程とを独立して行う場合がある。この場合、第1工程の後、第2工程まで第1成形物の温度を所定の温度に維持するために加熱しつづけることは、エネルギー消費量が過大になり、環境的にも経済的にも好ましくない。よって、上記の場合は、第1工程の後、第2工程を行うまでに、一旦、第1成形物の温度を冷ましたほう有用な場合が多い。そして、この場合は、製造途中の成形物に割れが生じることを抑制するため、(b)の要件を満足するように処理する。
従って、上記(b)の要件を満足する方法は、上記第1工程と上記第2工程とをそれぞれ独立して行う場合に有効な方法である。
[2]上記PTFE成形体の製造方法において、上記溶融粘度は、1×10Pa・s以上であることが好ましい。用いるPTFEの溶融粘度を1×10Pa・s以上とすることにより、電離性放射線の照射の際のPTFEの揮発等を抑え、より機械的特性に優れる成形体を得ることができる。
[3]上記PTFE成形体の製造方法において、上記電離性放射線の照射量としては、10kGy以上2000kGy以下が好ましい。
[4]上記PTFE成形体の製造方法において、上記電離性放射線の照射量としては、30kGy以上200kGy以下がより好ましい。
電離性放射線の照射量を上記範囲とすることにより、得られるPTFE成形体の機械的特性をさらに高めることができる。これは、上記範囲の照射量が、良好な架橋状態を形成するのにより適しているためと考えられる。
[5]上記PTFE成形体の製造方法において、上記ポリテトラフルオロエチレン成形体は、摺動部材に用いられることが好ましい。
当該製造方法により得られ、機械的特性に優れるPTFE成形体が用いられた摺動部材は、高い耐久性を発揮するのに適している。
[6]上記PTFE成形体の製造方法において、上記第1工程では、押出成形又は射出成形により第1成形物を成形することが好ましい。当該製造方法に用いられるPTFEは、溶融流動性を有しかつフィブリル化性を有さない。そのため、押出成形や射出成形を好適に行うことができ、様々な形状のPTFE成形体を効率的に製造することができる。
[7]上記PTFE成形体の製造方法において、上記第1工程では上記成形材料の塗工により第1成形物を成形し、上記成形材料は、粉体又は水分散体であることが好ましい。
当該製造方法に用いられるPTFEは、溶融流動性を有しかつフィブリル化性を有さないため、粉体塗装により塗工することができ、水分散体としての塗工もできる。この場合、成形体としてPTFE膜を効率的に製造することができる。
[8]上記PTFE成形体の製造方法において、上記成形材料に含まれるポリテトラフルオロエチレンの数平均分子量は、60万以下であることが好ましい。
低分子量のPTFEは、分子鎖が短く、PTFE同士の絡み合いが少ないため、製造途中で成形物に割れが発生しやすい傾向にある。そのため、低分子量のPTFEは、本発明の実施形態に係るPTFE成形体の製造方法でPTFE成形体を製造するための材料とし好適である。
また、低分子量のPTFEを用いることによって、より機械的特性に優れるPTFE成形体を得ることができる。
[9]上記PTFE成形体の製造方法において、製造される成形体は、膜であることが好ましい。
低分子量のPTFEを用いてPTFE膜を製造する場合、製造途中の膜状の成形物に割れが発生しやすい傾向にある。そのため、PTFE膜は、本発明の実施形態に係るPTFE成形体の製造方法における製造対象として特に好適である。
[10]本発明の別の一実施形態に係るポリテトラフルオロエチレン膜(PTFE膜)の製造方法は、支持体上に、上記[9]に記載のPTFE成形体の製造方法によって、PTFE膜を成形した後、上記支持体を除去する。
上記PTFE膜の製造方法によれば、製造途中の成形物における割れの発生や、当該成形物の支持体からのはく離を抑制することができる。また、機械的特性に優れるPTFE膜を製造することができる。
[11]本発明のさらに別の一実施形態に係る積層体の製造方法は、基材と、上記基材の表面に設けられたPTFE膜を備えた積層体の製造方法であって、
PTFE膜を、上記[9]に記載のPTFE成形体の製造方法を用いて成形する。
上記積層体の製造方法によれば、PTFE膜を備えた積層体を、製造途中における成形物の割れの発生や基材からのはく離を抑制しつつ製造することができる。
また、製造された積層体は、機械的特性に優れるPTFE膜を備えた積層体である。
[発明の実施形態の詳細]
本発明の実施形態の具体例を、適宜図面を参照しつつ以下に説明する。なお、本発明はこれらの例示に限定されるものではない。本発明の範囲は、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
<PTFE成形体の製造方法>
本発明の一実施形態に係るPTFE成形体の製造方法は、
(1)380℃における溶融粘度が、7×10Pa・s以下であるポリテトラフルオロエチレンを含む成形材料を、上記ポリテトラフルオロエチレンの結晶融点以上に加熱して第1成形物を得る第1工程と、
(2)第1工程後、上記第1成形物に、無酸素かつ上記ポリテトラフルオロエチレンの結晶融点以上の条件下で電離性放射線を照射して第2成形物を得る第2工程と、
を有するポリテトラフルオロエチレン成形体の製造方法であって、
第1工程の後、第2工程を行う際に、
(a)第1工程の後、上記第1成形物の温度が上記結晶融点未満にならないように維持したまま第2工程を行うか、又は、
(b)第1工程の後、少なくとも上記ポリテトラフルオロエチレンの結晶融点以下300℃以上の温度域においては、上記第1成形物の温度を2℃/分未満の冷却速度で冷却し、その後、再度上記ポリテトラフルオロエチレンを結晶融点以上に加熱して第2工程を行う。
上記PTFE成形体の製造方法によれば、溶融粘度の低い、すなわち低分子量のPTFEを含む成形物に対して電離性放射線を照射することで、耐摩耗性等の機械的特性に優れるPTFE成形体を得ることができる。この理由は定かではないが、分子鎖の比較的短いPTFEを用いることで、電離性放射線の照射による架橋構造の形成の際に、分子鎖が複雑に絡み合った架橋構造が形成され、この分子鎖同士の複雑な絡み合いにより機械的強度が向上することが推察される。なお、得られるPTFE成形体のNMRスペクトルにおいては、高分子量のPTFEを用いた場合との差異が見られないことなどからも、架橋構造及び架橋密度は同様であるものの、分子鎖同士の絡み合いの差が生じていることが推察される。
上述したPTFE成形体の製造方法は、上記(a)の要件を満足するか、又は、上記(b)の要件を満足するように実施する。
そのため、第2工程を実施する前の第1成形物に割れが発生することを抑制することができ、PTFE成形体の生産性が良好となる。
以下、(a)の要件を満足する実施形態をPTFE成形体の製造方法Aとし、(b)の要件を満足する実施形態をPTFE成形体の製造方法Bとし、それぞれの実施形態を説明する。
<<PTFE成形体の製造方法A>>
図1は、本発明の実施形態に係るPTFE成形体の製造方法Aの工程図である。
(第1工程)
第1工程では、まず、380℃における溶融粘度が、7×10Pa・s以下であるポリテトラフルオロエチレン(PTFE)を含む成形材料を調製する(S11)。
上記成形材料は、PTFEを主成分とする。ここで、PTFEを主成分とするとは、上記成形材料において、全固形分に対するPTFEの含有量が50質量%以上であることを意味する。
上記PTFEの形状は特に限定されないが、通常、粒子状とすることができる。また、成形材料の形状も、粉末状、溶液状、分散液状など、特に限定されない。
上記PTFEは、ホモPTFEであってもよく、変性PTFEであってもよく、両者の混合物であってもよい。ホモPTFEとは、テトラフルオロエチレン(TFE)の単重合体をいう。変性PTFEとは、TFEとTFE以外のモノマー(「変性モノマー」ともいう。)との共重合体をいう。変性PTFEにおける変性モノマーに由来する構造単位の含有率の上限としては、1質量%が好ましく、0.5質量%がより好ましい。変性モノマーは、公知のモノマーを用いることができ、1種を単独で用いてもよく、2種以上を用いてもよい。
上記PTFEの製造方法は特に限定されない。例えば、公知の乳化重合等により、所望の溶融粘度を有するPTFEを好適に得ることができる。乳化重合は、具体的には、水性分散媒、界面活性剤及びラジカル重合開始剤の存在下で、テトラフルオロエチレン(TFE)を乳化重合することにより行うことができる。なお、PTFEは、市販されているものを使用することもできる。
上記水性分散媒とは、水、又は水と水溶性有機分散媒(アルコール等)との混合分散媒をいう。水性分散媒としては水が好ましい。
上記界面活性剤としては、パーフルオロアルキルカルボン酸及びその塩、含フッ素スルホン酸及びその塩などの含フッ素界面活性剤が好ましい。上記パーフルオロアルキルカルボン酸の具体例としては、パーフルオロヘキサン酸、パーフルオロヘプタン酸、パーフルオロオクタン酸、パーフルオロノナン酸等が挙げられる。上記含フッ素スルホン酸としては、パーフルオロオクタンスルホン酸等が挙げられる。これらの塩としては、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩や、アンモニウム塩等が挙げられる。
上記ラジカル重合開始剤としては、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム等の過硫酸塩、ジコハク酸パーオキシド、tert-ブチルヒドロパーオキシド等の水溶性有機過酸化物などが挙げられる。
上記重合の際、得られるPTFEの分子量(溶融粘度)を制御するために、連鎖移動剤を用いることが好ましい。例えば、使用する連鎖移動剤の量を増やすことにより、より低分子量化されたPTFEを得ることができる。上記連鎖移動剤としては、メタン、エタン、プロパン、ブタン等の飽和炭化水素、クロロメタン、ジクロロメタン、ジフルオロエタン等のハロゲン化飽和炭化水素、メタノール、エタノール等のアルコールなどが挙げられる。
また、上記重合の際には、必要に応じて、パラフィンワックス等の乳化安定剤や、炭酸アンモニウム等のpH調整剤を用いることもできる。
このような乳化重合等により得られるPTFEは、分散液(ディスパージョン)として用いてもよいし、乾燥させた粉末として用いてもよい。PTFEが粒子状である場合、PTFE粒子の平均一次粒子径としては、例えば0.1μm以上0.5μm以下とすることができる。
上記PTFE粒子の平均一次粒子径は、下記の方法で測定する。
まず、ポリマー濃度を0.22質量%に調整した水性分散液の波長550nmの投射光の単位長さに対する透過率と、透過型電子顕微鏡写真における定方向径を測定して決定された平均一次粒子径との検量線を作成する。その後、測定対象である水性分散液について、上記透過率を測定し、上記検量線を元に平均一次粒子径を求める。
PTFEの380℃における溶融粘度の上限は、7×10Pa・sである。上記溶融粘度の上限は、6×10Pa・sが好ましく、5×10Pa・sがより好ましい。
一方、上記溶融粘度の下限としては、1×10Pa・sが好ましく、1×10Pa・sがより好ましく、1×10Pa・sがさらに好ましく、1×10Pa・sが特に好ましい。
成形材料に含まれるPTFEの溶融粘度が上記上限を超える場合は、優れた機械的特性を有する成形体を得ることができなくなる。また、溶融粘度が上記上限を超えるPTFEは、良好な溶融流動性を有さず、一方、フィブリル化性を有するため、加工成形性が低下する。逆に、この溶融粘度が上記下限未満の場合は、高温での揮発成分が多くなり、電離性放射線の照射や、第1工程の熱処理等の際に、揮発が生じやすくなり、得られる第1成形体の機械的特性が低下する傾向にある。また、上記成形材料や得られる成形体が着色するおそれもある。
以下に、PTFEの溶融粘度の測定方法について説明する。
(方法X)
PTFEの380℃における溶融粘度とは、以下の方法Xによって測定される値である。まず、以下の手順により試料としての成形体を作製する。内径30mmの円筒状の金型に3gの粉末状のPTFEを充填し、最終圧力が30MPaになるまで圧縮する。30MPaの圧縮を2分間維持することにより、円盤状の成形体(直径30mm、厚み約2mm)としての試料が得られる。得られた試料を金型から取り出し、直径27mmの円盤状に切り取った後、Anton Paar社の「レオメーターMCR500」の直径25mmのパラレルプレート試験台に挟む。試料を挟んだまま、380℃で5分間維持する。その後、プレート間距離を1.5mmに調整し、プレートからはみ出た部分の試料を除き、サンプルの応力が十分に緩和するまで380℃で30分間保持する。測定時の変形量が0.2%、剪断速度が0.1(1/s)の振動モードで、380℃における溶融粘度を測定する。なお、パラレルプレートの場合、測定時の変形量とは、試料厚みに対する、パラレルプレートの最外周の振動振幅の比率である。
(方法Y)
PTFEの溶融粘度は、下記方法Yによっても測定することができる。方法Xによる測定値と、方法Yによる測定値とは、実質的に等しくなる。このことは、例えば、上述した特許文献1の実施例においても示されている(特許文献1の表1のPTFE粉末A参照)。
方法Yは、ASTM D 1238に準拠した測定方法である。具体的には、島津製作所社のフローテスター及び2φ-8Lのダイを用い、予め測定温度(380℃)で5分間加熱しておいた2gの試料を0.7MPaの荷重にて上記温度に保って測定することができる。
(方法Z)
一方、溶融流動しない高分子量のPTFEの溶融粘度は、以下の熱機器分析(TMA)による溶融状態の伸び(クリープ)から溶融粘度を求める方法Zにより求めることができる。具体的には、固体粘弾性スペクトロメーター(エスアイアイ・ナノテクノロジー社の「EXSTAR 6000DMS」)を用いて以下の手順でクリープ試験を行い、(比)溶融粘度を求めることができる。
まず、試料を次の方法で作製する。内径50mmの円筒形の金型に、80gの粉末を充填し、最終圧力が約352kg/cmとなるように約30秒間徐々に圧力をかけていく。この最終圧力で2分間保持した後、金型から成形体を取り出す。得られた円柱状の成形体(直径50mm)を371℃に昇温した空気電気炉中で90分間焼成し、続いて1℃/分の速度で250℃まで降温する。250℃で30分間保持した後、焼成体を炉内から取り出す。次いで、得られた円柱形の焼成体を側面に沿って切削加工し、厚さ0.50mmの帯状シートを得る。得られた帯状シートから、幅5mm、長さ15mmの小片を切り取り、幅と厚さを正確に測定し、断面積を計算する。次いで、この小片(試料)の両端に試料装着金具を装着間距離が1.0cmになるように取り付ける。さらに、この金属-試料のアセンブリーを円柱状の炉に入れ、20℃/分の速度で室温から380℃にまで昇温し、約5分間保持した後、約15gの負荷をかける。伸びの時間変化の曲線から、負荷後の60分~120分の間の伸びを読み取り、時間(60分)に対する割合を求める。(比)溶融粘度(η)は、以下の関係式(1)から算出することができる。
Figure 2022152516000002
上記式中、Wは引っ張り荷重(g)、Lrは380℃での試料の長さ(cm)、gは重力の定数(980cm/秒)、dLr/dTは60分~120分の間の伸びの時間に対する割合(cm/秒)、Arは380℃での試料の断面積(cm)である。ここで、別に求めた熱膨張の測定から、Lr/Arは、下記式(2)を用いて計算することができる。
Lr/Ar=0.80×L(室温での長さ)/A(室温での断面積)・・・(2)
上述のような380℃における溶融粘度が7×10Pa・s以下の溶融粘度を有するPTFEは、低分子量のもの(低分子量PTFE)である。PTFEの数平均分子量としては、60万以下であることが好ましい。一方、PTFEの数平均分子量の下限としては、例えば1万とすることができる。
なお、PTFEの数平均分子量は、S.Wuの方法(Polymer Engineering&Science,1988,Vol.28,538、同1989,Vol.29,273)に準処して測定される値である。
低分子量PTFEは、その低い分子量のため、フィブリル化性を有さない。PTFEのフィブリル化性の有無は、ペースト押出成形を行うことにより判断することができる。通常、ペースト押出が可能であるのは、高分子量のPTFEがフィブリル化性を有するからである。ペースト押出で得られた未焼成の成形物に実質的な強度や伸びが無い場合、例えば伸びが0%で、引っ張ると切れるような場合は、フィブリル化性が無いとみなすことができる。
上記成形材料における固形分(不揮発成分)中のPTFEの含有量の下限としては、50質量%が好ましく、55質量%がより好ましい。また、この下限は、60質量%であってもよく、80質量%であってもよく、90質量%であってもよい。成形材料におけるPTFEの含有量が、上記下限未満の場合は、得られるPTFE成形体が優れた機械的特性を発現できなくなる場合がある。
一方、上記成形材料における固形分(不揮発成分)中のPTFEの含有量の上限としては、100質量%であってもよいが、90質量%であってもよく、80質量%であってもよく、70質量%であってもよい。
また、上記成形材料がPTFEを含む分散液(ディスパージョン)又は溶液の場合、当該PTFEの含有量は、例えば10質量%以上60質量%以下とすることができる。
上記成形材料中の全重合体成分中の上記PTFEの含有量の下限としては、50質量%が好ましく、70質量%が好ましく、90質量%が好ましい。全重合体成分中の上記PTFEの含有量を上記下限以上とすることで、より優れた機械的特性を有するPTFE成形体を得ることができる。一方、この上限としては、100質量%であってもよく、90質量%であってもよい。
上記成形材料において、PTFE以外に含まれていてもよい成分としては、例えば、他の重合体成分、界面活性剤、造膜助剤、消泡剤、充填剤、顔料、難燃剤等が挙げられる。
上記充填剤(フィラー)としては、例えば、カーボン、グラファイト、ガラス繊維、スーパーエンジニアリングプラスチック等が挙げられる。
また、上記成形材料が分散液(ディスパージョン)の状態においては、分散媒としての水や界面活性剤等が含まれる。なお、この水や界面活性剤等は、第1工程の加熱の際に実質的に全て揮発する。
第1工程では、次に、上記成形材料を加熱して第1成形物を成形する(S12)。
ここでは、上記成形材料をPTFEの結晶融点以上に加熱する。これによって、PTFEは溶融され、粒子状であったPTFEは一体化する。
上記PTFEの結晶融点は、例えば320℃以上350℃未満である。
この第1工程における加熱温度は、上記結晶融点以上であれば特に限定されないが、例えば350℃以上400℃以下とすることが好ましい。PTFEの粉末を溶融し、一体化するのに適しているからである。
また、第1工程における加熱時間は、例えば1分以上1時間以下とすることができる。
本発明において、上記PTFEの結晶融点は、示差走査熱測定を用いた下記の方法で測定する。
事前に標準サンプルとしてインジウム及び鉛を用いて温度校正した示差走査熱量計(エスアイアイ・ナノテクノロジー社の「X-DSC7000」)を使用する。
PTFE3mgをアルミ製パン(クリンプ容器)に入れ、40ml/分の窒素気流下で、230~380℃の温度領域を昇温速度10℃/分で昇温させて、上記領域における融解ピークの極小点を計測し、この極小点を上記PTFEの結晶融点とする。
第1工程では、上記成形材料の加熱に先立ち、上記成形材料を所定の形状に成形する。このとき、成形方法としては、製造するPTFE成形体の形状に応じて種々の形状を選択することができる。
上記成形方法としては、例えば、押出成形、射出成形等を採用することができる。押出成形や射出成形による成形は、例えば、摺動部材等の製造に適している。
上記押出成形は、ペースト押出成形であってもよいが、溶融押出成形が好ましい。フィブリル化性を有さない低分子量PTFE(380℃における溶融粘度が、7×10Pa・s以下のPTFE)においては、ペースト押出成形が困難になる場合がある。一方、低分子量PTFEは、その結晶融点以上の温度領域において溶融流動性を有する。従って、溶融押出成形や射出成形によっても、良好な成形を行うことができる。
この押出成形や射出成形は、公知の方法により行うことができる。
上記成形方法としては、例えば、上記成形材料の塗工等を採用することもできる。このとき、塗工に供せられる成形材料(PTFE)は、粉体又は水分散体であることが好ましい。塗工は、膜状の第1成形物を得る成形方法として適している。上述のように、低分子量PTFEはフィブリル化性を有さないため、上記成形材料は、粉体塗料としても有効に用いることができる。上記塗工の具体的な方法は特に限定されず、公知の方法を採用することができる。
また、上記第1成形物として膜状の第1成形物を得る場合、上記第1成形物は、支持体上に成形してもよい。この場合、後述する第2工程の後、支持体を除去することにより、PTFEの膜を成形することができる。この方法は、特にPTFEの薄膜を製造するのに好適である。
上記支持体は、例えば金属製の支持体であり、本第1工程、及び後述する第2工程の加熱や電離性放射線の照射で、変形したり、著しく劣化したりしないものであれば、その材質や形状は特に限定されない。上記支持体の材料となる金属の具体例としては、第2工程終了後にPTFEの膜を剥離しやすく、また、加熱時に酸化されにくく、耐腐食性に優れる点から、例えばステンレスが好ましい。
また、上記第1成形物として膜状の第1成形物を得る場合、上記第1成形物は、積層体を構成する基材の表面に成形してもよい。この場合、後述する第2工程を経ることによって、基材と当該基材の表面に成形されたPTFE膜とを備えた積層体を製造することができる。
上記基材は、上記積層体の構成に応じて適宜選択すればよいが、本第1工程及び後述する第2工程の加熱や電離性放射線の照射で、変形したり、著しく劣化したりするものは適さない。
このような第1工程では、未架橋のPTFEを主成分とする第1成形物を製造する。
ここで、未架橋のPTFEを主成分とするとは、未架橋のPTFEが成形体の50質量%以上を占める成分であることを意味する。
(第2工程)
PTFE成形体の製造方法Aでは、上記第1工程後、上記第1成形物に、無酸素かつ上記PTFEの結晶融点以上の条件下で電離性放射線を照射して第2成形物を得る(S14)。
本製造方法Aでは、上記第1工程の後、本第2工程を行う際に、
(a)第1工程の後、上記第1成形物の温度が上記結晶融点未満にならないように維持したまま(S13)、第2工程を行うことが重要である。
これによって、上記第1成形物に割れが発生したり、上記第1成形物が上記支持体や上記基材から剥がれたりすることを抑制することができる。
第1工程の後、上記第1成形物の温度が上記結晶融点未満にならないように維持したまま第2工程を行う方法としては、例えば、第1成形物を成形した直後に第2工程を行う方法や、第1成形物を成形した後、第1成形物を、雰囲気温度を上記結晶融点以上に維持した炉内で保持する方法等が挙げられる。
上記電離性放射線の照射は、照射時の酸化を防ぐため、実質的な無酸素下で行う。具体的には、真空中(5.0×10-4Torr以下)や、窒素等の不活性ガス雰囲気(酸素濃度100ppm以下)で行うことができる。
上記電離性放射線の照射は、上記第1成形物を上記PTFEの結晶融点以上に加熱した状態で行う。これによりPTFEの分子鎖の分子運動が活発になり、効率的な架橋反応を生じさせることができる。PTFEの結晶融点は分子量等によって異なるが、例えば320℃以上350℃未満である。そのため、この加熱温度としては、例えば、上記PTFEの結晶融点以上で、かつ320℃以上360℃以下とすることができる。
上記電離性放射線としては、例えば、電子線、γ線、X線、中性子線、高エネルギーイオン等が挙げられる。
上記電離性放射線の照射量の下限としては、10kGyが好ましく、30kGyがより好ましく、50kGyがさらに好ましい。
一方、上記照射量の上限としては、2000kGyが好ましく、1000kGyがより好ましく、400kGyがさらに好ましく、200kGyがよりさらに好ましく、125kGyが特に好ましい。
上記電離性放射線の照射量が上記下限未満の場合は、十分な架橋反応が進行せず、優れた耐摩耗性等の機械的特性を有する成形体を得ることができない場合がある。一方、上記照射量が上記上限を超える場合は、生産性が低下し、また得られる成形体の機械的特性が低下する場合もある。
このような第2工程を行うことにより、PTFEの架橋物からなる第2成形体を得ることができる。
<<PTFE成形体の製造方法B>>
図2は、本発明の実施形態に係るPTFE成形体の製造方法Bの工程図である。
(第1工程)
製造方法Bにおける第1工程は、上述した製造方法Aにおける第1工程と同様にして行う。
即ち、まず、380℃における溶融粘度が7×10Pa・s以下であるPTFEを含む成形材料を調製する(S21)。次に、上記成形材料を加熱して第1成形物を成形する(S22)。
(第2工程)
PTFE成形体の製造方法Bでは、上記第1工程後、上記第1成形物に、無酸素かつ上記PTFEの結晶融点以上の条件下で電離性放射線を照射して第2成形物を得る(S25)。
本製造方法Bでは、上記第1工程の後、本第2工程を行う際に、
(b)第1工程の後、少なくとも上記PTFEの結晶融点以下300℃以上の温度域では、上記第1成形物の温度を2℃/分未満の冷却速度で冷却し(S23)、その後、再度上記PTFEを結晶融点以上に加熱して(S24)、第2工程を行う、ことが重要である。
上記第1成形物の温度を少なくとも上記PTFEの結晶融点以下300℃以上の温度域において2℃/分未満の冷却速度で冷却することで、冷却時に第1成形物に割れ等が発生することを抑制することができる。
上記冷却速度が2℃/分以上になると、冷却後の第1成形物に割れ等が発生することがある。
上記冷却速度は、第1成形物を冷却する際の割れの発生を抑制するのにより適している点から1.5℃/分以下が好ましく、1.0℃/分以下がより好ましい。
一方、上記冷却速度の下限は特に限定されないが、第1成形物の冷却に過大な時間が必要になることを避けるため、0.5℃/分が好ましい。
また、上記冷却速度を0.5℃/分より遅くしても、第1成形物に割れ等が発生することを抑制する効果はほとんど向上しない。
本製造方法Bにおいて、上記冷却速度を制御する温度域を少なくとも上記PTFEの結晶融点以下300℃以上に設定している理由は、冷却過程におけるPTFEの結晶化は、融点以下で始まって300℃付近で完了し、300℃未満の温度では起こらないからである。PTFEの結晶化が起こりえるこの温度域で第1成形物の冷却速度を速くすると、当該PTFEの結晶化が進行しにくく、第1成形物に割れが発生しやくなると考えられる。
本製造方法Bでは、第1成形物を300℃未満、例えば室温まで冷却した後、当該第1成形物を再度上記PTFEの結晶融点以上に加熱する。
第1成形物を再度上記PTFEの結晶融点以上に加熱した後は、PTFE成形体の製造方法Aと同様にして電離性放射線の照射を行えばよい。
このような第2工程を行うことにより、PTFEの架橋物からなる第2成形体を得ることができる。
(本製造方法Bの効果の検証)
(1)PTFEの粉末として、ダイキン工業社製、ルブロンL5(380℃における溶融粘度:2.7×10Pa・s、結晶融点:330℃)と、3%水溶性セルロースとを重量比6:4で混合したPTFEの水系分散液(以下、PTFE分散液ともいう)を調製した。
(2)次に、上記PTFE分散液を、アルミニウムを材質とする板状の基材の上にギャップ100μmのコーターにて塗布した。その後、塗布されたPTFE分散液を360℃、60分間の条件で加熱処理した後、360℃から室温まで、試験例ごとに異なる冷却速度で冷却してPTFE塗膜を得た。
各試験例における360℃~300℃の温度域での冷却速度は下記の通りである。
試験例1:1℃/分
試験例2:2℃/分
試験例3:5℃/分
試験例4:10℃/分
試験例5:20℃/分
試験例6:50℃/分
冷却後の各試験例で作製したPTFE塗膜を光学顕微鏡で観察した。
図3~8に、試験例1~6に係るPTFE塗膜の顕微鏡画像を示した。
図3~8に示した結果の通り、本発明の実施形態に係るPTFE成形体の製造方法Bでは、上記冷却速度を2℃/分未満とすることで、割れ等の発生を抑制できることが明らかとなった。
この理由については、上記冷却速度を2℃/分未満とすることでPTFEの結晶化(再結晶化)が進行し、その結果、割れが発生しにくくなったと予想された。
上記冷却速度を2℃/分未満とすることで、PTFEの結晶化が進行することは、下記の溶融潜熱の測定で裏付けられる。
(溶融潜熱の測定)
PTFE粉末(ダイキン工業社製、ルブロンL5)の冷却速度と、溶融潜熱との関係を下記の方法で測定した。
ここでは、事前に標準サンプルとしてインジウム及び鉛を用いて温度校正した示差走査熱量計(エスアイアイ・ナノテクノロジー社の「X-DSC7000」)を使用して測定を行った。
PTFE3mgをアルミ製パン(クリンプ容器)に入れ、40ml/分の窒素気流下で、230~380℃の温度領域を昇温速度10℃/分で昇温させた。この時の溶融潜熱は、45.96J/gであった。この溶融潜熱を原料初期値とした。
その後、380~230℃の温度領域を表1に示した冷却速度で降温させた。さらに、230℃まで降温した後、再度230~380℃の温度領域を昇温速度10℃/分で昇温させて、PTFE粉末の溶融潜熱を測定した。結果を表1及び図9に示した。
Figure 2022152516000003
表1及び図9に示した通り、冷却速度を2℃/分未満(1、5℃/分以下)の場合、溶融潜熱が大きくなっており、PTFEの結晶化が進行していることが裏付けられた。
上述した通り、上記PTFE成形体の製造方法Bでは、上記冷却速度を2℃/分未満とすることで割れ等の発生を抑制できており、これは、PTFEの結晶化(再結晶化)が進行したためと考えられた。
なお、再結晶化したPTFEの膜は、結晶粒塊の間に僅かな隙間を含んでおり、基材全体を気密的に覆っておらず微少な欠陥を有する膜になっているのが通常である。そのため、上記製造方法Bで所定の冷却速度で冷却した第1生成物も微少な欠陥を有する成形物と考えられる。
一方、上記製造方法Bでは、第1生成物を再度溶融し、かつ電離性放射線を照射してPTFEの架橋物を生成する第2工程を行う。この第2工程を行うことで、第1生成物に生じた微少な欠陥が消失し、かつ、電離性放射線による架橋で生成物の機械的特性も向上する。
よって、上記製造方法Bでは、一旦溶融したPTFEが再結晶化する工程を有するものの微少な欠陥がなく、機械的強度の高いPTFE成形体を製造することができる。
このような製造方法Bは、機械的強度が確保しにくい低分子量PTFEを用いてPTFE膜を製造するのに好適である。
(PTFE成形体)
本発明の実施形態に係るPTFE成形体の製造方法A又はBによって得られるPTFE成形体は、低分子量のPTFEが電離性放射線により架橋されたPTFEの架橋物を主成分とし、優れた機械的特性を有する成形体である。
当該PTFE成形体における定速条件で測定される限界PV値の下限としては、700MPa・m/minが好ましく、1000MPa・m/minがより好ましく、1300MPa・m/minがさらに好ましい。さらには、1600MPa・m/minが好ましく、1700MPa・m/minがより好ましく、1800MPa・m/minがさらに好ましく、1900MPa・m/minが特に好ましい。一方、この限界PV値の上限としては、2500MPa・m/minが好ましく、2200MPa・m/minがより好ましく、2000MPa・m/minがさらに好ましい。なお、「限界PV値」とは、相手材料として、外径11.6mm、内径7.4mmのリングを使用すること以外は、JIS-K-7218(1986年)のA法(リングオンディスク式スラスト摩耗試験)に準拠して測定される値である。
当該PTFE成形体は、上記下限以上の限界PV値を有するため、高い耐摩耗性を有する。そのため、当該PTFE成形体は、摺動部材等として好適に用いることができる。一方、当該PTFE成形体の限界PV値が上記上限を超える場合は、PTFEを含む材料への電離性放射線の照射による生産性が低下するおそれがある。
当該PTFE成形体の鉛筆硬度は、B以上であることが好ましく、HB以上であることがより好ましく、F以上であることがさらに好ましい。このように高い硬度を有することにより、当該PTFE成形体の摺動部材等としての有用性が高まる。一方、この鉛筆硬度は、例えばH以下とすることができる。当該PTFE成形体の鉛筆硬度がHを超える場合、このようなPTFE成形体の生産性が低下するおそれがある。なお、「鉛筆硬度」とは、JIS-K-5600-5-4(1999年)に準拠して測定される値である。
当該PTFE成形体の破断伸び(引張破断伸び)の下限としては、20%が好ましく、60%がより好ましく、100%がさらに好ましく、140%が特に好ましい。当該PTFE成形体の破断伸びがこのように大きい場合、機械的強度がより高まり、摺動部材等としての有用性がより高まる。一方、この上限としては、例えば300%であり、250%が好ましい。当該PTFE成形体の破断伸びが上記上限を超える場合、このようなPTFE成形体の生産性や、耐摩耗性等が低下するおそれがある。なお、「破断伸び」とは、JIS-K-7161(1994年)に準拠して測定される値である。
当該PTFE成形体の破断強度(引張破断強度)の下限としては、0.5kg/mmが好ましく、1kg/mmがより好ましい。当該PTFE成形体の破断強度がこのように大きい場合、機械的強度がより高まり、摺動部材等としての有用性がより高まる。なお、「破断強度」とは、JIS-K-7161(1994年)に準拠して測定される値である。
上記PTFE成形体は、例えばPTFE膜である。上記PTFE膜は、割れ等が無く、機械的特性に優れる。
上記PTFE膜の厚さは特に限定されないが、通常は0.01~5mm程度である。上記PTFE膜は、PTFEの特徴である耐薬品性、高絶縁性や低摩擦性を活かした絶縁部材や摺動部材及び塗装膜として利用する観点から、厚さ20~1000μm程度のPTFE薄膜が好ましい。
上記PTFE膜は、支持体が除去された膜のみの状態で存在するものであってもよいし、基材上に設けられた当該基材とともに使用される積層体であってもよい。
上記PTFE膜が膜のみで存在する場合、当該PTFE膜は、例えばパッキンや摺動部材等として好適に用いることができる。
上記PTFE膜を備えた積層体の具体例としては、例えば、基材としての芯線とその周囲に設けられた上記PTFE膜からなる絶縁皮膜を備えた電線等が挙げられる。
また、上記積層体は、例えば車両、工作機械、家電製品等の摺動部材としても好適に用いることができる。上記摺動部材の具体例としては、例えば軸受、ギア、クランクシャフト、スライドベアリング、ピストン、ガスケット、搬送ローラー、加圧ローラー等が挙げられる。
上記積層体を上記摺動部材に使用する場合、当該摺動部材の相手材と摺接する被覆層を上記PTFE膜とすればよい。
上記PTFE成形体の形状は、膜状に限定されず、その他の形状であってもよい。
そして、上述した摺動部材は、その全体が上記PTFE成形体で構成されていてもよい。

Claims (11)

  1. (1)380℃における溶融粘度が、7×10Pa・s以下であるポリテトラフルオロエチレンを含む成形材料を、前記ポリテトラフルオロエチレンの結晶融点以上に加熱して第1成形物を得る第1工程と、
    (2)第1工程後、前記第1成形物に、無酸素かつ前記ポリテトラフルオロエチレンの結晶融点以上の条件下で電離性放射線を照射して第2成形物を得る第2工程と、
    を有するポリテトラフルオロエチレン成形体の製造方法であって、
    第1工程の後、第2工程を行う際に、
    (a)第1工程の後、前記第1成形物の温度が前記結晶融点未満にならないように維持したまま第2工程を行うか、又は、
    (b)第1工程の後、少なくとも前記ポリテトラフルオロエチレンの結晶融点以下300℃以上の温度域においては、前記第1成形物の温度を2℃/分未満の冷却速度で冷却し、その後、再度前記ポリテトラフルオロエチレンを結晶融点以上に加熱して第2工程を行う、
    ポリテトラフルオロエチレン成形体の製造方法。
  2. 前記溶融粘度が、1×10Pa・s以上である請求項1に記載のポリテトラフルオロエチレン成形体の製造方法。
  3. 前記電離性放射線の照射量が、10kGy以上2000kGy以下である、請求項1又は請求項2に記載のポリテトラフルオロエチレン成形体の製造方法。
  4. 前記電離性放射線の照射量が、30kGy以上200kGy以下である、請求項3に記載のポリテトラフルオロエチレン成形体の製造方法。
  5. 前記ポリテトラフルオロエチレン成形体が、摺動部材に用いられる請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のポリテトラフルオロエチレン成形体の製造方法。
  6. 前記第1工程では、押出成形又は射出成形により第1成形物を成形する請求項1から請求項5のいずれか1項に記載のポリテトラフルオロエチレン成形体の製造方法。
  7. 前記第1工程では、前記成形材料の塗工により第1成形物を成形し、
    前記成形材料が、粉体又は水分散体である、請求項1から請求項5のいずれか1項に記載のポリテトラフルオロエチレン成形体の製造方法。
  8. 前記成形材料に含まれるポリテトラフルオロエチレンの数平均分子量が、60万以下である請求項1から請求項7のいずれか1項に記載のポリテトラフルオロエチレン成形体の製造方法。
  9. 製造される成形体が膜である、請求項1から請求項8のいずれか1項に記載のポリテトラフルオロエチレン成形体の製造方法。
  10. 支持体上に、請求項9に記載のポリテトラフルオロエチレン成形体の製造方法によって、ポリテトラフルオロエチレン膜を成形した後、前記支持体を除去するポリテトラフルオロエチレン膜の製造方法。
  11. 基材と、前記基材の表面に設けられたポリテトラフルオロエチレン膜を備えた積層体の製造方法であって、
    ポリテトラフルオロエチレン膜を、請求項9に記載のポリテトラフルオロエチレン成形体の製造方法で成形する、積層体の製造方法。
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