JP2022140147A - 車輪用軸受装置 - Google Patents
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Abstract
【課題】軸受内部のシール密封空間に生じる正圧または負圧を解消して、シールリップの摺動面への吸着を抑えて、軸受性能の低下を抑えることができる車輪用軸受装置を提供する。【解決手段】外輪2とハブ輪3及び内輪によって形成された環状空間の開口端を塞ぐシール部材を備える車輪用軸受装置であって、環状空間とシール部材により区画される軸受内部空間Aを有し、外輪は軸受内部空間Aに大気を通気可能な大気通気部を有し、シール部材は、外輪とハブ輪及び内輪の一方に設けられ、摺動面に摺動可能に接触する複数のシールリップと、複数のシールリップと摺動面とで区画されるシール密閉空間B,C,D,Eと軸受内部空間Aとの間で通気可能な通気孔と、外輪の大気通気部により軸受内部空間Aを大気圧に保持した状態においてシール密閉空間B,C,D,Eに生じる正圧及び負圧により通気孔を開閉する通気弁と、を有する。【選択図】図2
Description
本発明は車輪用軸受装置に関する。
車輪用軸受装置には、泥水等の異物の入り込みを防止するシール部材が外方部材と内方部材との間に設けられている。車輪用軸受装置のアウター側シール部材は、外方部材のアウター側端部に嵌合され、外方部材と内方部材とによって形成された環状空間のアウター側開口端を塞いでいる。車輪用軸受装置のインナー側シール部材は、外方部材のインナー側端部に嵌合され、外方部材と内方部材とによって形成された環状空間のインナー側開口端を塞いでいる。
車輪用軸受装置において、軸受の構造を工夫して軸受の内部空間の内圧変化を抑えるものがある(例えば、特許文献1、2参照)。
特許文献1に開示されたハブユニット軸受では、軸受の内部空間(シール部材により密閉される空間)の内圧変化を抑えるために以下の3つの構造がある。
1つ目の構造は、外輪(外方部材)の外部空間に通気孔と圧力センサを設け、大気開放部、圧縮空気供給源及び制御器へと繋がる通気管を接続した構造である。圧力センサが負圧を感知した場合、制御器が機能して圧縮空気供給源から通気管を通して軸受内部に適量な空気を送り込み、軸受内部を常に大気圧または正圧に保つ機能となっている。
2つ目の構造は、従動輪のハブ輪内部に軸受内部と外部空間を繋ぐ通気孔を開けた構造となっている。また、このハブ輪内部には、径方向に押圧ばねとピストンが、径方向外側から押圧ばね、ピストンの順に、不釣り合いを解消するように2つ付いており、このピストンが摺動運動をするシリンダ側面の径方向外側には、軸受内部の通気孔に通じる通気路と外部空間の通気孔に通じる通気路を仲介する通気孔が開いている。シリンダの径方向内側底面には外部空間と通じる通気孔があり、シリンダ径方向内側の空間を常に大気圧と同圧に保っている。車両の運転時は遠心力により、ピストンが押圧ばねを押しつぶしながら径方向外側に移動して、シリンダ側面の通気孔を塞ぐ。車両の停止時には遠心力がなくなることで、押圧ばねがピストンを径方向内側に押し出し、ピストンが径方向内側に移動して、シリンダ側面の通気孔を開放するため、外部空間の通気孔から通気路とシリンダ側面の通気孔を介し、軸受内部の通気孔を通して内部空間に空気が流れ込む。これにより、軸受内部を常に大気圧と同圧に保つ機能となっている。
3つ目の構造は、従動輪のハブ輪内部に軸受内部と外部空間を繋ぐ通気孔を開けた構造となっている。また、このハブ輪内部には、径方向に押圧ばねとピストンが、径方向外側から押圧ばね、ピストンの順に、不釣り合いを解消するように2つ付いている。シリンダの径方向内側底面には通気孔が開口されており、軸受内部の通気孔及び外部空間の通気孔に繋がる通気路に通じている。この通気路の軸方向には、押圧ばねと通気弁のセットがシリンダ径方向内側と通気路の間で閉じた空間を形成するようにして、通気路の軸受内部側と外部空間側に2つ付いている。なお、押圧ばねは軸受内部側から外部空間側に通気弁を押し出す形で通気路を塞いている。車両の運転時には遠心力によりシリンダ内のピストンが押圧ばねを押しつぶしながら径方向外側に移動し、これによりシリンダ径方向内側と通気路間の閉じた空間に負圧が生じる。この負圧により、外部空間側の空気弁が引っ張られて押圧ばねを押しつぶしながら軸受内部側に移動し、空気弁が開くことでシリンダ径方向内側と通気路間の空間に空気が取り込まれる。そして、車両の停止時には遠心力がなくなることで、径方向の押圧ばねがピストンを径方向内側に押し込み、シリンダ径方向内側と通気路の閉じた空間に正圧が加わる。この正圧により、軸受内部側の空気弁が押圧ばねを押しつぶしながら軸受内部側に移動し、空気弁が開くことで軸受内部に空気が流れ込む。これにより、軸受内部を常に大気圧と同圧に保つ機能となっている。
以上3パターンの構造により、軸受内部空間が常に大気圧もしくは正圧に保たれ、シールリップの摺動面吸着を防止し、摩擦トルクの増加を抑制する。
以上3パターンの構造により、軸受内部空間が常に大気圧もしくは正圧に保たれ、シールリップの摺動面吸着を防止し、摩擦トルクの増加を抑制する。
また、特許文献2に開示された軸受では、密封装置のスリンガ部を径方向に延長し、さらにこの延長した部分が軸受内側に屈曲した屈曲延在部をスリンガ部の円周上に持つ。また、この密封装置では、シール密封空間の内圧の変化に応じてアキシアルリップが径方向外側または内側に変形する。軸受温度の上昇に伴うシール密封空間内の空気膨張によりシール密封空間の内圧が上昇した場合、シール密封空間内には空間内表面を外側に押し出す力が生じ、これによりアキシアルリップは径方向外側に変形して、スリンガ部に接触しない一方で屈曲延在部に外周側先端部で接触する第1状態をとる。また、軸受温度の低下に伴うシール密封空間内の空気量の減少によりシール密封空間の内圧が低下した場合には、シール密封空間内表面を内側に引っ張る力が生じ、これによりアキシアルリップは径方向内側に変形して、スリンガ部に内周側先端部で接触する一方で屈曲延在部には接触しない第2状態をとる。
第1状態の場合、アキシアルリップの外周側先端部が屈曲延在部に密着し、シール密封空間を閉じることで、シール密封空間内の空気がアキシアルリップと摺動面の間から外部空間に漏れ出すことを防ぐ。これにより、シール密封空間の空気が保持されるため、第2状態となったとき、シール密封空間での空気収縮による負圧を抑え、アキシアルリップがスリンガ部に吸着することを防ぎ、摩擦トルクの増加を抑えることができる。
しかしながら、従来の車輪用軸受装置では、軸受内部空間A(図9参照)及びシール密封空間B,C,D,E(図10参照)が密封状態にあるため、走行時の軸受温度の上昇による空間B,C,D,E内の空気膨張によって、各シール密封空間に正圧が生じ、空間B,C,D,E内に空間内の表面を押し出す力が働き、シールリップが径方向外側に持ち上げられることで、シールリップと摺動面の間に隙間ができ、空気が軸受の外部に漏れ出す。そして、車両の停車時には軸受温度の低下によって空間B,C,D,E内の空気が収縮し、空間B,C,D,E内が負圧になる。これにより、空間B,C,D,E内表面を引っ張る力が働き、シールリップが径方向内側に変形し、シールリップが摺動面に吸着して(図10参照)、軸受の摩擦トルクが上昇するという現象が課題となっている。ここで、特許文献1の3つの構造について、1つ目の構造は比較的簡単であるが、制御器や圧縮空気供給源などの外部装置の設計が別途必要となる。また、1つ目の構造では、図9の空間A内を介して図10の空間B,C,D,E内にも圧縮空気を送り込むことで密封空間内を正圧に保つとしているが、温度上昇等で空間B,C,D,E内の内圧が上昇すれば、空間B,C,D,E内の空気と同時にシールグリースがシールリップと摺動面の間から外部空間に吐き出されることが予想され、この場合、シールの潤滑不良が生じる。加えて、圧力センサは図9の空間Aの負圧は感知するが、図10の空間B,C,D,E内の負圧は感知できないため、空間A内は正圧である一方で空間B,C,D,E内のみが負圧になっている状態が生じうる。この場合、この構造では期待した機能を十分に果たさないと考えられる。
2つ目及び3つ目の構造については、ハブ輪に複数の孔を開ける必要があり、特にピストンとシリンダの摺動面では高い精度を必要とするため工数がかかる。加えて、押圧ばねを用いる機構であることから、回転数の変化に伴う押圧ばねの共振現象も考慮して設計する必要があり、実用化には相応の時間とコストを要すると考えられる。また、ハブ輪に開けた通気孔を通して外部空間から粉塵等が吸い込まれる可能性があり、この場合は軸受寿命の低下を招くことが考えられる。
次に、特許文献2の密封装置であるが、アキシアルリップが屈曲延在部に接触する第1状態になるのは、例えば、軸受の組立の際や悪路を走行する際の衝撃で、シール密封空間に大きな正圧が瞬間的に作用したときに限られると考えられる。この特許文献2では、温度上昇により密封装置に正圧が加わり、第1状態となることを期待しているが、通常、軸受温度の上昇は比較的緩やかであることから正圧も緩やかに増加する。よって、この密封装置は第1状態とはならず、アキシアルリップの径方向外側へのわずかな変形により、シール密封空間から少しずつ空気が抜けると考えられる。この場合、第2状態では期待した機能は発揮されず、通常の密封装置と変わらない性能になる。また、たとえ第1状態になることがあったとしても、第1状態の屈曲延在部のリップ接触部は外部空間に開放されているため、シールグリースが気化しやすく、粉塵を取り込みやすい状態にある。アキシアルリップが第1、2状態を繰り返せば、リップが粉塵を巻き込む可能性が高く、この場合、この密封装置のシール性能は大きく低下すると考えられる。
本発明は以上の如き状況に鑑みてなされたものであり、軸受内部のシール密封空間に生じる正圧または負圧を解消して、シールリップの摺動面への吸着を抑えて、軸受性能の低下を抑えることができる車輪用軸受装置の提供を目的とする。
第一の発明は、内周に複列の外側軌道面を有する外方部材と、外周に軸方向に延びる小径段部、および前記小径段部よりもアウター側に配置される車輪取り付けフランジを有するハブ輪、ならびにこのハブ輪の小径段部に圧入された少なくとも一つの内輪からなり、外周に前記複列の外側軌道面に対向する複列の内側軌道面を有する内方部材と、この内方部材と前記外方部材のそれぞれの軌道面間に転動自在に収容された複列の転動体と、前記外方部材と前記内方部材とによって形成された環状空間の開口端を塞ぐシール部材と、を備える車輪用軸受装置であって、前記環状空間と前記シール部材により区画される軸受内部空間を有し、前記外方部材は、前記軸受内部空間に大気を通気可能な大気通気部を有し、前記シール部材は、前記外方部材と前記内方部材の一方に設けられ、前記外方部材と前記内方部材の他方に設けられる摺動面に摺動可能に接触する複数のシールリップと、前記複数のシールリップと前記摺動面とで区画されるシール密閉空間と、前記軸受内部空間と前記シール密閉空間との間で通気可能な通気孔と、前記大気通気部により前記軸受内部空間を大気圧に保持した状態において前記シール密閉空間に生じる正圧及び負圧により前記通気孔を開閉する通気弁と、を有する。
本発明によれば、軸受内部のシール密封空間に生じる正圧または負圧を解消して、シールリップの摺動面への吸着を抑えて、軸受性能の低下を抑えることができる。
以下に、図1から図3を用いて、車輪用軸受装置の第一実施形態である車輪用軸受装置1について説明する。なお、以下の説明において、インナー側とは、車体に取り付けた際の車輪用軸受装置1の車体側を表し、アウター側とは、車体に取り付けた際の車輪用軸受装置1の車輪側を表す。
図1に示すように、車輪用軸受装置1は、自動車等の車両の懸架装置において車輪を回転自在に支持する。車輪用軸受装置1は、外輪2、ハブ輪3、内輪4、転動体5、インナー側シール部材6およびアウター側シール部材7を具備する。
図1に示すように、外方部材である外輪2は、ハブ輪3と内輪4とを支持する。外輪2のインナー側端部には、インナー側シール部材6が嵌合可能なインナー側開口部2bが設けられている。外輪2のアウター側端部2fには、アウター側シール部材7を嵌合可能なアウター側開口部2cが設けられている。外輪2の外周面2eには、図示しない懸架装置のナックルに取り付けるための車体取り付けフランジ2dが一体に設けられている。外輪2の内周面には、そのインナー側及びアウター側に周方向に複列の内側軌道面2a・2aが設けられている。
内方部材は、ハブ輪3と内輪4とによって構成されている。ハブ輪3は、図示しない車両の車輪を回転自在に支持する。ハブ輪3のインナー側端部には、外周面に縮径された小径段部3aが設けられている。ハブ輪3のアウター側端部には、車輪を取り付けるための車輪取り付けフランジ3bが一体的に設けられている。車輪取り付けフランジ3bには、ハブ輪3と車輪又はブレーキ装置とを締結するためのハブボルト3cが圧入されている。また、ハブ輪3のアウター側の外周面には、内側軌道面3dが設けられている。また、ハブ輪3においては、車輪取り付けフランジ3bの基部側にアウター側シール部材7が摺接する断面視円弧状のリップ摺動面3eが形成されている(図2(a)参照)。
内輪4は、ハブ輪3の小径段部3aに圧入されている。内輪4の外周面には、内側軌道面4aが設けられている。つまり、ハブ輪3のインナー側には、内輪4によって内側軌道面4aが構成されている。
転動体5は、複数のボールと、当該ボールを保持する保持器とを有している。
図1及び図2(a)に示すように、アウター側シール部材7は、外輪2とハブ輪3と内輪4とによって形成された環状空間のうちアウター側開口端を塞いでいる。アウター側シール部材7は、芯金8と、弾性部材9とを有している。
芯金8は、例えば鋼板をプレス加工することによって形成されている。図2(a)に示すように、芯金8は、円筒部8aと、屈曲部8bと、切欠部8cとを含んでいる。
円筒部8aは、外輪2のアウター側開口部2c(外輪2のうちアウター側端部2fの内周面)に嵌合している。屈曲部8bは、円筒部8aのアウター側端部から屈曲しつつ径方向内方に延びている。切欠部8cは、後述する内側通気孔9d及び外側通気孔9eに対応する位置において屈曲部8bの径方向内側縁部を円弧状に切り欠いている。
芯金8には、例えば合成ゴムからなる弾性部材9が接合(ここでは、加硫接着)されている。屈曲部8bには、シールリップの一例であるラジアルリップ9a、内側アキシアルリップ9b及び外側アキシアルリップ9cが接合されている。ラジアルリップ9aは、屈曲部8bの最も径方向内側に設けられている。ラジアルリップ9aは、車輪用軸受装置1の内部のグリースが外部へ漏れることを防止している。内側アキシアルリップ9bは、ラジアルリップ9aよりも径方向外側に設けられている。外側アキシアルリップ9cは、内側アキシアルリップ9bよりも径方向外側に設けられている。ラジアルリップ9a、内側アキシアルリップ9b及び外側アキシアルリップ9cのそれぞれは、グリース油膜を介してハブ輪3のリップ摺動面3eに摺動可能に接触している。
図1に示すように、車輪用軸受装置1は、外輪2とハブ輪3と内輪4とによって形成された環状空間とインナー側シール部材6及びアウター側シール部材7により区画される軸受内部空間A(本明細書では、単に空間Aともいう)を有している。図2(a)に示すように、アウター側シール部材7は、ラジアルリップ9a、内側アキシアルリップ9b及び外側アキシアルリップ9cとハブ輪3のリップ摺動面3eとで区画されるシール密閉空間B,C(本明細書では、単に空間B,Cともいう)を有している。
図1に示すように、外輪2には、軸受内部空間Aと外輪2の外部空間とを連通する外輪通気孔21と、当該外輪通気孔21に一端が連結されるとともに他端にフィルタ22が取り付けられた通気管23が設けられている。外輪通気孔21、フィルタ22及び通気管23は、軸受内部空間Aに外部空間の大気を通気可能である大気通気部を構成している。フィルタ22は、外部空間から粉塵等が軸受内部空間A内に吸い込まれないようにフィルタリングするものである。
図3に示すように、アウター側シール部材7は、弾性部材9の円周上に沿って複数の円弧状の通気孔の一例である、内側通気孔9dと、内側通気孔9dよりも径方向外側に設けられる外側通気孔9eとを有している。アウター側シール部材7においては、内側通気孔9d及び外側通気孔9eは、それぞれ一体形成されている。一対の内側通気孔9d及び一対の外側通気孔9eは、アウター側シール部材7の中心Oに対して対称の位置に配置されている。内側通気孔9dと外側通気孔9eのそれぞれの円周方向の両端部は、アウター側シール部材7の中心Oを通る水平線を中心とした30°のなす角となる位置まで延びている。すなわち、アウター側シール部材7は、中心Oに対する開口角度が30°となる内側通気孔9d及び外側通気孔9eを、それぞれ二つ有している。
なお、本実施形態の通気孔は、内側通気孔9d及び内側通気孔9dの二つで構成されているが、通気孔はシール部材の円周上に1つ以上設ければよく、特に通気孔の数を限定するものではない。
なお、本実施形態の通気孔は、内側通気孔9d及び内側通気孔9dの二つで構成されているが、通気孔はシール部材の円周上に1つ以上設ければよく、特に通気孔の数を限定するものではない。
内側通気孔9dは、軸受内部空間Aとシール密閉空間Cとの間で通気可能な貫通孔である。内側通気孔9dは、断面視おいてラジアルリップ9aと内側アキシアルリップ9bの間に配置され、空間C側(アウター側)に向かうに従って径方向内側に傾斜するように弾性部材9を貫通している。内側通気孔9dは、ラジアルリップ9a、内側アキシアルリップ9b及びハブ輪3のリップ摺動面3eにより区画される空間Cに連通している。内側通気孔9dは、空間C側(アウター側)に向かうにつれて最も狭くなる部分であるシール開口部9fを有している。シール開口部9fの周囲には、シール密閉空間Cの気圧の状態に応じてシール開口部9fを通る通気を制御する内側通気弁9gが設けられている。
内側通気弁9gは、外輪2の大気通気部により軸受内部空間Aを大気圧に保持した状態においてシール密閉空間Cに生じる正圧及び負圧により内側通気孔9dの空間C側のシール開口部9fを開閉する。内側通気弁9gは、空間C(アウター側)に向かって突出する肉厚の唇形状であって空間Cの気圧変化に応じてシール開口部9fの間隙W(内側通気孔9dの空間C近傍における最も狭い間隙部分)が変化する不完全接触状態となっている。ここで、不完全接触状態とは、常圧時において接触していない状態のことをいう。内側通気弁9gの厚み寸法は、断面視においてラジアルリップ9a、内側アキシアルリップ9b及び外側アキシアルリップ9cのそれぞれのリップの先端部の厚さ寸法に比べて薄くなっている。
外側通気孔9eは、軸受内部空間Aとシール密閉空間Bとの間で通気可能な貫通孔である。外側通気孔9eは、断面視おいて内側アキシアルリップ9bと外側アキシアルリップ9cの間に配置され、空間B側(アウター側)に向かうに従って径方向内側に傾斜するように弾性部材9を貫通している。外側通気孔9eは、内側アキシアルリップ9b、外側アキシアルリップ9c及びハブ輪3のリップ摺動面3eにより区画される空間Bに連通している。外側通気孔9eは、空間B側(アウター側)に向かうにつれて最も狭くなる部分であるシール開口部9hを有している。シール開口部9hの周囲には、シール密閉空間Bの気圧の状態に応じてシール開口部9hを通る通気を制御する外側通気弁9jが設けられている。
外側通気弁9jは、外輪2の大気通気部により軸受内部空間Aを大気圧に保持した状態においてシール密閉空間Bに生じる正圧及び負圧により外側通気孔9eの空間B側のシール開口部9hを開閉する。外側通気弁9jは、空間B側(アウター側)に向かって突出する肉厚の唇形状であって空間Bの気圧の変化に応じてシール開口部9hの間隙W(外側通気孔9eの空間B近傍における最も狭い間隙部分)が変化する不完全接触状態となっている。外側通気弁9jの厚み寸法は、断面視においてラジアルリップ9a、内側アキシアルリップ9b及び外側アキシアルリップ9cのそれぞれのリップの先端部の厚さ寸法に比べて薄くなっている。
なお、内側通気弁9g及び外側通気弁9jの各間隙Wの条件は、先端部の各空間B,C内における可動域を考慮して、0≦W≦0.1d0[mm](d0はアウター側シール部材7の嵌合部となる芯金8の嵌合外径、図3(b)参照)を満たすことが好ましい。
なお、内側通気弁9g及び外側通気弁9jの各間隙Wの条件は、先端部の各空間B,C内における可動域を考慮して、0≦W≦0.1d0[mm](d0はアウター側シール部材7の嵌合部となる芯金8の嵌合外径、図3(b)参照)を満たすことが好ましい。
図1及び図2(b)に示すように、インナー側シール部材6は、外輪2とハブ輪3と内輪4とによって形成された環状空間のうちインナー側開口端を塞いでいる。インナー側シール部材6は、芯金10と、弾性部材11と、断面視L字状のスリンガ12とを有している。また、スリンガ12においては、インナー側シール部材6が摺接する断面視L字状のリップ摺動面12aが形成されている(図2(b)参照)。
芯金10は、例えば鋼板をプレス加工することによって断面視で略L字状に形成されている。図2(b)に示すように、芯金10は、円筒部10aと、円環部10bと、切欠部10cとを含んでいる。
円筒部10aは、外輪2のインナー側開口部2bに嵌合している。円環部10bは、円筒部10aのアウター側端部から径方向内方に延びている。切欠部10cは、後述する内側通気孔11d及び外側通気孔11eに対応する位置において円環部10bの径方向内側縁部を円弧状に切り欠いている。
芯金10には、例えば合成ゴムからなる弾性部材11が接合(ここでは、加硫接着)されている。円環部10bには、シールリップの一例であるラジアルリップ11a、内側アキシアルリップ11b及び外側アキシアルリップ11cが接合されている。ラジアルリップ11aは、円環部10bの最も径方向内側に設けられている。ラジアルリップ11aは、車輪用軸受装置1の内部のグリースが外部へ漏れることを防止している。内側アキシアルリップ11bは、ラジアルリップ11aよりも径方向外側に設けられている。外側アキシアルリップ11cは、内側アキシアルリップ11bよりも径方向外側に設けられている。ラジアルリップ11a、内側アキシアルリップ11b及び外側アキシアルリップ11cのそれぞれは、グリース油膜を介してスリンガ12のリップ摺動面12aに摺動可能に接触している。
図2(b)に示すように、インナー側シール部材6は、ラジアルリップ11a、内側アキシアルリップ11b及び外側アキシアルリップ11cとスリンガ12のリップ摺動面12aとで区画されるシール密閉空間D,E(本明細書では、単に空間D,Eともいう)を有している。
インナー側シール部材6は、弾性部材11の円周上に沿って設けられる複数の円弧状の通気孔の一例である、内側通気孔11dと、内側通気孔11dよりも径方向外側に設けられる外側通気孔11eとを有している。インナー側シール部材6においては、内側通気孔11d及び外側通気孔11eは、それぞれ一体形成されている。一対の内側通気孔11d及び一対の外側通気孔11eは、インナー側シール部材6の中心に対して対称の位置に配置されている(図示せず)。内側通気孔11dと外側通気孔11eのそれぞれの周方向の両端部は、インナー側シール部材6の中心を通る水平線を中心とした30°のなす角となる位置まで延びている。すなわち、インナー側シール部材6は、中心に対する開口角度が30°となる内側通気孔11d及び外側通気孔11eを、それぞれ二つ有している。
内側通気孔11dは、軸受内部空間Aとシール密閉空間Eとの間で通気可能な貫通孔である。内側通気孔11dは、断面視おいてラジアルリップ11aと内側アキシアルリップ11bの間に配置され、インナー側に向かうに従って径方向内側に傾斜するように弾性部材11を貫通している。内側通気孔11dは、ラジアルリップ11a、内側アキシアルリップ11b及びスリンガ12のリップ摺動面12aにより区画される空間Eに連通している。内側通気孔11dは、空間E側(インナー側)に向かうにつれて最も狭くなる部分であるシール開口部11fを有している。シール開口部11fの周囲には、シール密閉空間Eの気圧の状態に応じてシール開口部11fを通る通気を制御する内側通気弁11gが設けられている。
内側通気弁11gは、外輪2の大気通気部により軸受内部空間Aを大気圧に保持した状態においてシール密閉空間Eに生じる正圧及び負圧により内側通気孔11dの空間E側のシール開口部11fを開閉する。内側通気弁11gは、空間E(インナー側)に向かって突出する肉厚の唇形状であって空間Eの気圧変化に応じてシール開口部11fの間隙W(内側通気弁11gの空間E近傍における最も狭い間隙部分)が変化する不完全接触状態となっている。内側通気弁11gの厚み寸法は、断面視においてラジアルリップ11a、内側アキシアルリップ11b及び外側アキシアルリップ11cのそれぞれのリップの先端部の厚さ寸法に比べて薄くなっている。
外側通気孔11eは、軸受内部空間Aとシール密閉空間Dとの間で通気可能な貫通孔である。外側通気孔11eは、断面視おいて内側アキシアルリップ11bと外側アキシアルリップ11cの間に配置され、インナー側に向かうに従って径方向内側に傾斜するように弾性部材11を貫通している。外側通気孔11eは、内側アキシアルリップ11b、外側アキシアルリップ11c及びスリンガ12のリップ摺動面12aにより区画される空間Dに連通している。外側通気孔11eは、空間D側(インナー側)に向かうにつれて最も狭くなる部分であるシール開口部11hを有している。シール開口部11hの周囲には、シール密閉空間Dの気圧の状態に応じてシール開口部11hを通る通気を制御する外側通気弁11jが設けられている。
外側通気弁11jは、外輪2の大気通気部により軸受内部空間Aを大気圧に保持した状態においてシール密閉空間Dに生じる正圧及び負圧により外側通気孔11eの空間D側のシール開口部11hを開閉する。外側通気弁11jは、空間D(アウター側)に向かって突出する肉厚の唇形状であって空間Dの気圧の変化に応じてシール開口部11hの間隙W(外側通気孔11eの空間D近傍における最も狭い間隙部分)が変化する不完全接触状態となっている。外側通気弁11jの厚み寸法は、断面視においてラジアルリップ11a、内側アキシアルリップ11b及び外側アキシアルリップ11cのそれぞれのリップの先端部の厚さ寸法に比べて薄くなっている。
なお、内側通気弁11g及び外側通気弁11jの各間隙Wの条件は、先端部の各空間D,E内における可動域を考慮して、0≦W≦0.1d0[mm](d0はインナー側シール部材6の嵌合部となる芯金10の嵌合外径)を満たすことが好ましい。
なお、内側通気弁11g及び外側通気弁11jの各間隙Wの条件は、先端部の各空間D,E内における可動域を考慮して、0≦W≦0.1d0[mm](d0はインナー側シール部材6の嵌合部となる芯金10の嵌合外径)を満たすことが好ましい。
上述した車輪用軸受装置1では、図1に示す空間Aと図2に示すシール密封空間B,C,D,Eで空気の出入りを可能にするために、アウター側シール部材7には内側通気孔9d、外側通気孔9e、内側通気弁9g及び外側通気弁9jを、インナー側シール部材6には内側通気孔11d、外側通気孔11e、内側通気弁11g及び外側通気弁11jを設けている。ここで、図2に示す各通気弁の弁の厚み寸法は各シールリップの厚み寸法に比べて薄いため、各通気弁は変形しやすい。各通気弁の弁先端部は不完全接触状態となっており、間隙Wが空いている。
図1に示すように、車輪用軸受装置1の外輪2には、軌道面間の部分に外輪通気孔21及び大気に繋がる通気管23が設けられている。これにより、軸受温度が上昇または低下した場合でも、空間Aが常に大気圧と同圧に保たれる。なお、図1に示す外輪2の外輪通気孔21及び通気管23を設けずに、かつ、空間Aと空間B,C,D,Eの気圧差が初期状態で生じていない場合は、軸受温度が変化しても、空間A内の内圧と空間B,C,D,E内の内圧が常に同圧となってしまう。車輪用軸受装置1では、空間Aと空間B,C,D,Eの気圧差を利用して作用するため、外輪2の外輪通気孔21及び通気管23は必須の構成となる。
また、車両の通常走行時の軸受温度の上昇に伴う空気膨張で、空間B,C,D,E内に正圧が緩やかに生じる場合、各通気弁の間隙Wを通して空間B,C,D,Eから大気圧である空間Aへ空気が流入して、空間Aと空間B,C,D,Eを同圧に保つことができる。
一方、軸受温度の低下に伴う空気減圧で、空間B,C,D,E内に負圧が生じた場合、空間B,C,D,E内には空間内の表面を引っ張る力が働き、通常はシールリップが径方向内側に変形してシールリップの摺動面吸着が起こるが、車輪用軸受装置1では、空間B,C,D,E内表面を引っ張る力が各通気弁の弁を開こうとする力として作用し、開いた各通気弁を通して、大気圧である空間Aから空間B,C,D,Eに空気が流入して、空間Aと空間B,C,D,Eを同圧に保つことができる。
一方、軸受温度の低下に伴う空気減圧で、空間B,C,D,E内に負圧が生じた場合、空間B,C,D,E内には空間内の表面を引っ張る力が働き、通常はシールリップが径方向内側に変形してシールリップの摺動面吸着が起こるが、車輪用軸受装置1では、空間B,C,D,E内表面を引っ張る力が各通気弁の弁を開こうとする力として作用し、開いた各通気弁を通して、大気圧である空間Aから空間B,C,D,Eに空気が流入して、空間Aと空間B,C,D,Eを同圧に保つことができる。
また、車両の組立時や悪路走行時の衝撃や振動により、空間B,C,D,E内に瞬間的で大きな正圧が連続して生じる場合、空間B,C,D,E内には表面を押しつぶす力が働き、各通気弁が閉じて、空間B,C,D,E内の空気はシールリップと摺動面の間から吐き出される。これにより、大きな正圧によって各通気孔から勢いよく、軸受装置内部のシールグリース及び粉塵等が空間Aに吹き込まれることを防いでいる。
この場合、通常の軸受装置では、空気が抜けた分だけ空間B,C,D,E内に負圧が生じ、空間B,C,D,E内の表面を引っ張る力が働くことで、シールリップを径方向内側に変形させ、シールリップの摺動面への吸着を生じさせてしまうが、本実施形態の車輪用軸受装置1では、空間B,C,D,E内の表面を引っ張る力が通気弁を開く力として働いて各通気弁が開くため、大気圧である空間Aから空間B,C,D,Eへ空気が流入し、空間Aと空間B,C,D,Eを同圧に保つことができる。
以上のように、第一実施形態の車輪用軸受装置1では、軸受内部に通じる通気孔及び通気弁を設けて、軸受内部の空間Aとシール密封空間B,C,D,Eの気圧差に応じて、通気弁の開閉を行うことで、通気弁を通して空気の流通を可能としている。これにより、シール密封空間B,C,D,Eに生じる正圧または負圧を解消して、シールリップの摺動面への吸着を抑えるともに、摩擦トルクの低減を行って、軸受性能の低下を抑えることができる。
次に、図を用いて、本発明に係る車輪用軸受装置の変形例として第二実施形態について説明する。以下の各実施形態の説明では、各実施形態において追加、変更した部位について主に説明を行い、その他同一部品同一部位あるいは同様の機能を有する部品や部位には同じ符号を付して、その説明を省略する。
[第二実施形態]
次に、図4から図6を用いて、本発明に係る車輪用軸受装置の第二実施形態である車輪用軸受装置1Aについて説明する。本実施形態に係る車輪用軸受装置1Aは、第一実施形態の車輪用軸受装置1の変形例であり、第一実施形態の車輪用軸受装置1のアウター側シール部材7及びインナー側シール部材6における通気孔及び通気弁の数及び形状の変形例である。具体的には、第一実施形態のアウター側シール部材7における内側通気孔9d及び外側通気孔9e、第一実施形態のインナー側シール部材6における内側通気孔11d及び外側通気孔11eの替わりに、アウター側シール部材7の弾性部材9に通気孔9e1及び通気弁9j1をインナー側シール部材6における弾性部材11に通気孔11e1及び通気弁11j1を設けた構成となっている。
次に、図4から図6を用いて、本発明に係る車輪用軸受装置の第二実施形態である車輪用軸受装置1Aについて説明する。本実施形態に係る車輪用軸受装置1Aは、第一実施形態の車輪用軸受装置1の変形例であり、第一実施形態の車輪用軸受装置1のアウター側シール部材7及びインナー側シール部材6における通気孔及び通気弁の数及び形状の変形例である。具体的には、第一実施形態のアウター側シール部材7における内側通気孔9d及び外側通気孔9e、第一実施形態のインナー側シール部材6における内側通気孔11d及び外側通気孔11eの替わりに、アウター側シール部材7の弾性部材9に通気孔9e1及び通気弁9j1をインナー側シール部材6における弾性部材11に通気孔11e1及び通気弁11j1を設けた構成となっている。
芯金8は、第一実施形態の切欠部8cの替わりに、後述する通気孔9e1に対応する位置において当該通気孔9e1が連通する円弧状の貫通孔8dを有している。
図6に示すように、アウター側シール部材7は、弾性部材9の円周上に沿って設けられる複数の円弧状の通気孔の一例である、通気孔9e1を有している。通気孔9e1は、本実施形態では3個設けられており、アウター側シール部材7の中心Oに対して120度回転させると重なる位置に配置されている。通気孔9e1の周方向の両端部は、当該中心に対して10°のなす角となる位置まで延びている。
また、シール部材における通気孔の円周方向の開口幅は、通気性及びシール性能の観点から、通気孔個数をN,通気孔1つあたりの中心Oに対する開口角度θ[°]としたときに、円周方向の通気孔の開口総角度はNθで求められる。このNθは、5≦Nθ≦355の関係を満たすことが好ましい。例えば、第一実施形態の車輪用軸受装置1では、Nθが2×30=60°となり、第二実施形態の車輪用軸受装置1Aでは、Nθが3×10=30°となり、Nθの条件を満たしている。
また、シール部材における通気孔の円周方向の開口幅は、通気性及びシール性能の観点から、通気孔個数をN,通気孔1つあたりの中心Oに対する開口角度θ[°]としたときに、円周方向の通気孔の開口総角度はNθで求められる。このNθは、5≦Nθ≦355の関係を満たすことが好ましい。例えば、第一実施形態の車輪用軸受装置1では、Nθが2×30=60°となり、第二実施形態の車輪用軸受装置1Aでは、Nθが3×10=30°となり、Nθの条件を満たしている。
通気孔9e1は、軸受内部空間Aとシール密閉空間Bとの間で通気可能な貫通孔である。通気孔9e1は、断面視おいて内側アキシアルリップ9bと外側アキシアルリップ9cの間に配置され、アウター側に向かうに従って径方向内側に傾斜するように弾性部材9を貫通している。通気孔9e1は、内側アキシアルリップ9b、外側アキシアルリップ9c及びハブ輪3のリップ摺動面3eにより区画される空間Bに連通している。通気孔9e1は、空間B側(アウター側)に向かうにつれて最も狭くなる部分であるシール開口部9h1を有している。シール開口部9h1の周囲には、シール密閉空間Bの気圧の状態に応じてシール開口部9h1を通る通気を制御する通気弁9j1が設けられている。
通気弁9j1は、外輪2の大気通気部により軸受内部空間Aを大気圧に保持した状態においてシール密閉空間Bに生じる正圧及び負圧により通気孔9e1の空間B側のシール開口部9h1を開閉する。通気弁9j1は、空間B側(アウター側)に向かって突出する肉厚の唇形状であって空間Bの気圧の変化に応じてシール開口部9h1の間隙W(通気孔9e1の空間B近傍における最も狭い間隙部分)が変化する不完全接触状態となっている。通気弁9j1の厚み寸法は、断面視においてラジアルリップ9a、内側アキシアルリップ9b及び外側アキシアルリップ9cのそれぞれのリップの先端部の厚さ寸法に比べて薄くなっている。
なお、通気弁9j1の間隙Wの条件は、先端部の空間B内における可動域を考慮して、0≦W≦0.1d0[mm](d0はアウター側シール部材7の嵌合部となる芯金8の嵌合外径、図6(b)参照)を満たすことが好ましい。
なお、通気弁9j1の間隙Wの条件は、先端部の空間B内における可動域を考慮して、0≦W≦0.1d0[mm](d0はアウター側シール部材7の嵌合部となる芯金8の嵌合外径、図6(b)参照)を満たすことが好ましい。
インナー側シール部材6の弾性部材11の円周上に沿って複数(本実施形態では3個)の円弧状の通気孔11e1が設けられている。通気孔11e1は、インナー側シール部材6の中心に対して120度回転させると重なる位置に配置されている(図示せず)。通気孔11e1の周方向の両端部は、当該中心に対して10°のなす角となる位置まで延びている。
通気孔11e1は、軸受内部空間Aとシール密閉空間Dとの間で通気可能な貫通孔である。通気孔11e1は、断面視おいて内側アキシアルリップ11bと外側アキシアルリップ11cの間に配置され、インナー側に向かうに従って径方向内側に傾斜するように弾性部材11を貫通している。通気孔11e1は、内側アキシアルリップ11b、外側アキシアルリップ11c及びスリンガ12のリップ摺動面12aにより区画される空間Dに連通している。通気孔11e1は、空間D側(インナー側)に向かうにつれて最も狭くなるシール開口部11h1を有している。シール開口部11h1の周囲には、シール密閉空間Dの気圧の状態に応じてシール開口部11h1を通る通気を制御する通気弁11j1が設けられている。
通気弁11j1は、外輪2の大気通気部により軸受内部空間Aを大気圧に保持した状態においてシール密閉空間Dに生じる正圧及び負圧により外側通気孔11e1の空間D側のシール開口部11h1を開閉する。通気弁11j1は、アウター側に向かって突出する肉厚の唇形状であって空間Dの気圧の変化に応じてシール開口部11h1の間隙W(通気孔11e1の空間D近傍における最も狭い間隙部分)が変化する不完全接触状態となっている。通気弁11j1の厚み寸法は、断面視においてラジアルリップ11a、内側アキシアルリップ11b及び外側アキシアルリップ11cのそれぞれのリップの先端部の厚さ寸法に比べて薄くなっている。
なお、通気弁11j1の間隙Wの条件は、先端部の空間D内における可動域を考慮して、0≦W≦0.1d0[mm](d0はインナー側シール部材6の嵌合部となる芯金10の嵌合外径)を満たすことが好ましい。
なお、通気弁11j1の間隙Wの条件は、先端部の空間D内における可動域を考慮して、0≦W≦0.1d0[mm](d0はインナー側シール部材6の嵌合部となる芯金10の嵌合外径)を満たすことが好ましい。
また、第二実施形態である車輪用軸受装置1Aにおいて、通気弁9j1の先端形状を適宜変形してもよい。例えば、図7(b)に示す通気弁9j2のように、空間B側(アウター側)に向かって突出する薄肉のくちばし形状であって空間Bの気圧の変化に応じてシール開口部9h1の間隙Wが変化する不完全接触状態となっている構成でもよい。
なお、通気弁9j2の間隙Wの条件は、先端部の空間B内における可動域を考慮して、0≦W≦0.1d0[mm](d0はアウター側シール部材7の嵌合部となる芯金8の嵌合外径)を満たすことが好ましい。
なお、通気弁9j2の間隙Wの条件は、先端部の空間B内における可動域を考慮して、0≦W≦0.1d0[mm](d0はアウター側シール部材7の嵌合部となる芯金8の嵌合外径)を満たすことが好ましい。
また、車輪用軸受装置1Aにおいて、例えば、図8(b)に示す通気弁9j3のように、空間B側(アウター側)に向かって突出する薄肉のくちばし形状であって、先端が細く反り返っており、シール開口部9h1の間隙Wが0mm(完全接触状態)となるように構成してもよい。このように第二実施形態の車輪用軸受装置1Aを構成することで、車輪用軸受装置1Aは、第一実施形態の車輪用軸受装置1と同様の効果を奏することができる。
また、第一実施形態の車輪用軸受装置1では、空間B,C,D,Eに対応する通気孔及び通気弁を設ける構成としているが、例えば空間B,Dのみに対応する通気孔及び通気弁を設ける構成、もしくは空間C,Eのみに対応する通気孔及び通気弁を設ける構成としてもよく、既存のシール部材の構造に応じて適宜通気孔及び通気弁の位置や数を変更してもよい。
以上、本実施形態に係る車輪用軸受装置1・1Aは、ハブ輪3の外周に転動体5の内側軌道面3dが直接形成されている第3世代構造の車輪用軸受装置として説明したがこれに限定されるものではなく、例えば、ハブ輪3に一対の内輪4が圧入固定された内輪回転の第2世代構造であってもよい。また、上述の実施形態は、本発明の代表的な形態を示したに過ぎず、本発明の骨子を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。
1 車輪用軸受装置
2 外輪
2a 外側軌道面
3 ハブ輪
3a 小径段部
3b 車輪取り付けフランジ
4 内輪
4a 内側軌道面
5 転動体
6 インナー側シール部材
7 アウター側シール部材
8,10 芯金(嵌合部)
21 外輪通気孔(大気通気部)
22 フィルタ(大気通気部)
23 通気管(大気通気部)
A 軸受内部空間
B,C,D,E シール密閉空間
2 外輪
2a 外側軌道面
3 ハブ輪
3a 小径段部
3b 車輪取り付けフランジ
4 内輪
4a 内側軌道面
5 転動体
6 インナー側シール部材
7 アウター側シール部材
8,10 芯金(嵌合部)
21 外輪通気孔(大気通気部)
22 フィルタ(大気通気部)
23 通気管(大気通気部)
A 軸受内部空間
B,C,D,E シール密閉空間
Claims (4)
- 内周に複列の外側軌道面を有する外方部材と、
外周に軸方向に延びる小径段部、および前記小径段部よりもアウター側に配置される車輪取り付けフランジを有するハブ輪、ならびにこのハブ輪の小径段部に圧入された少なくとも一つの内輪からなり、外周に前記複列の外側軌道面に対向する複列の内側軌道面を有する内方部材と、
この内方部材と前記外方部材のそれぞれの軌道面間に転動自在に収容された複列の転動体と、
前記外方部材と前記内方部材とによって形成された環状空間の開口端を塞ぐシール部材と、を備える車輪用軸受装置であって、
前記環状空間と前記シール部材により区画される軸受内部空間を有し、
前記外方部材は、前記軸受内部空間に大気を通気可能な大気通気部を有し、
前記シール部材は、
前記外方部材と前記内方部材の一方に設けられ、前記外方部材と前記内方部材の他方に設けられる摺動面に摺動可能に接触する複数のシールリップと、
前記複数のシールリップと前記摺動面とで区画されるシール密閉空間と、
前記軸受内部空間と前記シール密閉空間との間で通気可能な通気孔と、
前記大気通気部により前記軸受内部空間を大気圧に保持した状態において前記シール密閉空間に生じる正圧及び負圧により前記通気孔を開閉する通気弁と、を有する、車輪用軸受装置。 - 前記通気弁の開口部の間隙をW、
前記外方部材に嵌合される前記シール部材の嵌合部の外径をd0とした場合に、
0≦W≦0.1d0の関係を満たす、請求項1に記載の車輪用軸受装置。 - 前記通気孔は、前記シール部材の周方向に沿って設けられ、
前記シール部材の周方向に配置される前記通気孔の個数をN、前記通気孔の1個あたりの開口角度θ[°]をとした場合に、
5≦Nθ≦355の関係を満たす、請求項1または請求項2に記載の車輪用軸受装置。 - 前記通気弁の先端は、前記シール密閉空間に向けて突出する、請求項1から請求項3の何れか一項に記載の車輪用軸受装置。
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