JP2022136964A - 鋼板の製造方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】高Si含有であり、合金化ムラを抑制することができ、かつ、実際の酸洗性評価の工程を含まなくても良好な酸洗性を有する鋼板の製造方法を提供すること。【解決手段】鋼板の製造方法は、Si含有量が1.0質量%以上かつCr含有量が1質量%以下である鋼素材を、鋼素材のCr含有量に応じて、500℃以上である焼鈍時の均熱保持温度T(℃)、焼鈍時の均熱保持時間t(秒)と前記鋼素材のCr含有量Cr[%](質量%)の間の関係式を満たす条件下において焼鈍する工程を含む。例えば、前記鋼素材のCr含有量が0.2質量%以上0.6質量%以下の場合、下記式1ATIFF2022136964000030.tif15136前記鋼素材のCr含有量が0.2質量%未満の場合、下記式1BTIFF2022136964000031.tif16126を満たす条件下において焼鈍する工程を含む。【選択図】なし
Description
本発明は、高Si含有の高強度高加工性の溶融亜鉛めっき鋼板および合金化溶融亜鉛めっき鋼板の原板として好適に用いられる、鋼板の製造方法に関する。
自動車業界では、CO2削減のための燃費向上および衝突安全性能の向上の観点から、自動車のボディー等の自動車用部材の軽量化および高強度化が要求されている。そのため、自動車のボディー等の自動車用部材には引張強度が980MPa以上の超高強度鋼板が適用されている。このような高強度鋼板の加工性を向上させるために、鋼板の化学組成に安価なSiを含有させる方法が知られている。鋼板の化学組成にSiを含有させることによって、鋼板の強度だけでなく、加工性も向上することができる。
一般的に、Si添加鋼を自動車用部材へ適用する場合、耐食性や溶接性確保の観点から、溶融亜鉛めっき鋼板(GI鋼板)および該溶融亜鉛めっき鋼板を合金化した合金化溶融亜鉛めっき鋼板(GA鋼板)が使用される。しかしながら、鋼板にSiが添加された溶融亜鉛めっき鋼板は、その製造過程においてSi酸化物層が鋼板表面を覆うため、最終的に、不めっき、めっき密着性の低下、合金化処理における合金化ムラ等の問題を招きやすい。さらに、合金化溶融亜鉛めっき鋼板の加工時にめっきが剥離する等の問題も生じ得る。このようなSi添加による問題を抑制するために、鋼素材にSiを含有する溶融亜鉛めっき鋼板は、酸化加熱帯および還元加熱帯を有する焼鈍炉を用いた酸化還元法を用いて製造されることが多い。酸化還元法によると、酸化加熱帯で生成した酸化鉄を還元焼鈍時において還元Fe層に生成させるため、めっき時におけるめっき濡れ性を良好にすることができる。さらに、熱間圧延における巻き取り温度を高くすることによって、予めめっきに必要なSiO2等を含む内部酸化層を鋼板に形成する方法も用いられる。
また、近年、溶融亜鉛めっき鋼板の強度および加工性のさらなる向上のために、鋼板のSi含有量を1質量%以上まで増加させた溶融亜鉛めっき鋼板や内部酸化層を良好に形成させる方法について、様々な開発が進められている。
具体的には、例えば、特許文献1には、質量%で、C:0.05~0.25%、Si:0.3~2.5%、Mn:1.5~2.8%、P:0.03%以下、S:0.02%以下、Al:0.005~0.5%、N:0.0060%以下を含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる高強度鋼板の上に、Feを含有し、残部がZnおよび不可避的不純物からなる合金化溶融亜鉛めっき層を有する鋼板において、高強度鋼板とめっき層との界面から5μm以下の鋼板側の結晶粒界と結晶粒内にSiを含む酸化物が平均含有率0.6~10質量%で存在し、めっき層中にSiを含む酸化物が平均含有率0.05~1.5質量%で存在することを特徴とする外観が良好な高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板が記載されている。
また、例えば、特許文献2には、めっき密着性、加工性および外観性に優れた高強度溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法であって、質量%で、C:0.05~0.30%、Si:0.1~2.0%、Mn:1.0~4.0%含むスラブを熱間圧延した後、特定の温度TCでコイルに巻き取り、酸洗する熱間圧延工程と、熱間圧延工程で得られた熱延板に対して冷間圧延を施す冷間圧延工程と、冷間圧延工程で得られた冷延板に対して、特定の条件で焼鈍を施す焼鈍工程と、焼鈍工程後の焼鈍板に対して、0.12~0.22質量%のAlを含有した溶融亜鉛めっき浴で溶融亜鉛めっき処理を施す溶融亜鉛めっき処理工程と、を有する高強度溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法が記載されている。
さらに、例えば、特許文献3には、冷延鋼板であって、素材鋼片を、熱間圧延後、黒皮スケールを付着させたまま、実質的に還元が起きない雰囲気中にて650~950℃の温度範囲で熱処理を施して、鋼板の地鉄表層部に内部酸化層を形成させたのち、常法に従う酸洗、冷間圧延および再結晶焼鈍を施して得たことを特徴とする冷延鋼板が記載されている。
しかしながら、980MPa以上の引張強度を有する高強度高加工性の溶融亜鉛めっき鋼板を得るために、Si含有量を1質量%以上まで増加させた場合、従来の製造方法を適用しただけではコイル全面に均一に合金化された合金化溶融亜鉛めっき鋼板を得ることは難しい。特に、鋼板のコイル幅方向センター(以下、単に「幅方向センター」とも言う)近傍と比べると、鋼板のコイル幅方向エッジ(以下、単に「幅方向エッジ」とも言う)近傍において、亜鉛めっきが均一に合金化し難い。
具体的には、高Si添加鋼を用いる場合、熱間圧延における巻き取り後にコイルが冷却される際、鋼板の幅方向エッジ近傍ではコイルの冷却が急峻である。そのため、鋼板の幅方向エッジ近傍では、内部酸化層が成長し難く、層が薄く形成される。その一方で、鋼板の幅方向センター近傍では、内部酸化層が十分に成長し、層が厚く形成される。さらには、続く酸洗工程において、幅方向エッジ近傍の内部酸化層は、優先的に溶解されてしまう。このようにコイル幅方向において内部酸化層の厚さが異なってしまうことにより、合金化ムラが発生してしまう。
このような問題は、前述した特許文献に記載の技術を用いても解決することはできない。例えば、特許文献1に記載の鋼板の製造方法においても、幅方向エッジ近傍におけるコイルの急冷について考慮されていないため、幅方向エッジ近傍において内部酸化層を残留させることはできない。また、特許文献2に記載の製造方法については、SiおよびMnの含有量が多くなる程巻き取り温度を下げる必要があるため、幅方向エッジ近傍に所定の量の酸化物を生成させることが難しい。その結果、特許文献1および特許文献2に開示されている技術を用いても、鋼板のコイル幅方向に均一に合金化ムラがない合金化溶融亜鉛めっき鋼板を製造することは困難である。
一方、特許文献3に記載されているように、熱間圧延後の鋼板を再度熱処理する方法によると、内部酸化層をより多く形成させることができる。しかしながら、熱間圧延時の加熱に加え、鋼板に対して再度熱処理を施すことにより、鋼板の表面に形成される酸化スケールがより増加する。その結果、後に酸洗を行っても十分に酸化スケールが除去されずに残存してしまうという酸洗性不良の問題が生じ得る。これは、鋼板の表面の酸化スケールが部分的に還元されて還元鉄となるためである。例えば、特許文献3に記載の製造方法によると、熱処理の温度が高いため、鋼板表面を還元鉄が覆ってしまい、酸洗によってスケールを除去することができなくなる。その結果、鋼板の汚染や鋼板の表面付近の脱炭が進行するため、所定の強度、例えば980MPaもの引張強度を有する鋼板を得ることは難しくなる。還元鉄の生成の原理については、例えば、特開2017-222887号公報により詳細に記載されている。還元鉄は、炉内雰囲気等の影響のため、鋼板の幅方向センター近傍と比べて、鋼板の幅方向エッジ近傍により多く形成される傾向にある。さらに、このような還元鉄は、鋼へのSi添加量が増加するほど多く形成される。
加えて、現在、このような鋼板表面の酸化スケールについての酸洗性評価は、酸洗を実際に行った後、スケールが除去されていれば酸洗性が良好であるとして、スケールが除去できていなければ酸洗性不良として評価されている。換言すれば、酸洗性が良好となる場合および酸洗性不良となる場合における、定量的な酸洗性評価の指標は存在していない。
従って、高Si含有の高強度高加工性の溶融亜鉛めっき鋼板および合金化溶融亜鉛めっき鋼板を効率的に製造するためには、合金化ムラの問題と還元鉄の生成による酸洗性評価の指標に関する問題とを同時に解決する鋼板の製造方法が必要とされる。
そこで、本発明は、高Si含有であり、合金化ムラを抑制することができ、かつ、実際に酸洗性評価の工程を含まなくても良好な酸洗性を有する鋼板の製造方法を提供することを目的とする。
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、本発明に到達した。すなわち、本発明は以下の好適な態様を包含する。
本発明の第一の局面に係る鋼板の製造方法は、Si含有量が1.0質量%以上である鋼素材を、
下記式1、
および下記式2、
(式1および式2において、Tは500℃以上である焼鈍時の均熱保持温度(℃)であり、tは焼鈍時の均熱保持時間(秒)であり、かつ、P(H2)は焼鈍時の周囲のガス雰囲気におけるH2濃度(体積%)である)
を満たす条件下において焼鈍する工程を含む。
下記式1、
および下記式2、
(式1および式2において、Tは500℃以上である焼鈍時の均熱保持温度(℃)であり、tは焼鈍時の均熱保持時間(秒)であり、かつ、P(H2)は焼鈍時の周囲のガス雰囲気におけるH2濃度(体積%)である)
を満たす条件下において焼鈍する工程を含む。
あるいは、本発明のもう一つの第一の局面に係る鋼板の製造方法は、Si含有量が1.0質量%以上かつCr含有量が1.0質量%以下である鋼素材を、
前記鋼素材のCr含有量が0.2質量%以上0.6質量%以下の場合、下記式1A、
前記鋼素材のCr含有量が0.2質量%未満の場合、下記式1B、
または、前記鋼素材のCr含有量が0.6質量%超1.0質量%以下の場合、下記式1C、
(式1A、式1Bおよび式1Cにおいて、Tは500℃以上である焼鈍時の均熱保持温度(℃)であり、tは焼鈍時の均熱保持時間(秒)であり、かつ、Cr[%]は前記鋼素材のCr含有量(質量%)である)
を満たす条件下において焼鈍する工程を含む。
前記鋼素材のCr含有量が0.2質量%以上0.6質量%以下の場合、下記式1A、
前記鋼素材のCr含有量が0.2質量%未満の場合、下記式1B、
または、前記鋼素材のCr含有量が0.6質量%超1.0質量%以下の場合、下記式1C、
(式1A、式1Bおよび式1Cにおいて、Tは500℃以上である焼鈍時の均熱保持温度(℃)であり、tは焼鈍時の均熱保持時間(秒)であり、かつ、Cr[%]は前記鋼素材のCr含有量(質量%)である)
を満たす条件下において焼鈍する工程を含む。
前述のもう一つの第一の局面に係る鋼板の製造方法において、Si含有量が1.0質量%以上かつCr含有量が1.0質量%以下である鋼素材を、
前記鋼素材のCr含有量が0.6質量%以下の場合、下記式1A、
または、前記鋼素材のCr含有量が0.6質量%超1.0質量%以下の場合、下記式1C、
(式1Aおよび式1Cにおいて、Tは500℃以上である焼鈍時の均熱保持温度(℃)であり、tは焼鈍時の均熱保持時間(秒)であり、かつ、Cr[%]は前記鋼素材のCr含有量(質量%)である)
を満たす条件下において焼鈍する工程を含むことが好ましい。
前記鋼素材のCr含有量が0.6質量%以下の場合、下記式1A、
または、前記鋼素材のCr含有量が0.6質量%超1.0質量%以下の場合、下記式1C、
(式1Aおよび式1Cにおいて、Tは500℃以上である焼鈍時の均熱保持温度(℃)であり、tは焼鈍時の均熱保持時間(秒)であり、かつ、Cr[%]は前記鋼素材のCr含有量(質量%)である)
を満たす条件下において焼鈍する工程を含むことが好ましい。
前述の鋼板の製造方法において、前記焼鈍前、前記鋼素材を熱間圧延して、500℃~700℃で巻き取る工程をさらに含むことが好ましい。
前述の鋼板の製造方法において、前記焼鈍後、鋼板を酸洗し、その後冷間圧延する工程をさらに含むことがより好ましい。
本発明によれば、高Si含有であり、合金化ムラを抑制することができ、かつ、実際に酸洗性評価の工程を含まなくても良好な酸洗性を有する鋼板の製造方法を提供することができる。
本発明者らは、Si含有量が多くても、合金化ムラを抑制することができ、かつ、実際に酸洗性評価の工程を含まなくても良好な酸洗性を有する鋼板の製造方法について、様々な研究を重ねた。そして、鋼板の製造方法の焼鈍工程において、均熱保持温度Tと均熱保持時間tと周囲のガス雰囲気におけるH2濃度P(H2)とが所定の関係式を満たすことによって、合金化ムラの問題と酸洗性の問題とを解決できることが分かった。
さらには、別の観点から、鋼板の製造方法の焼鈍工程において、鋼素材に含まれるCr含有量に応じて、均熱保持温度Tと均熱保持時間tとCr含有量とが所定の関係式を満たすことによって、合金化ムラの問題と酸洗性の問題とを解決できることが分かった。
以下、本発明の実施形態について、第1の実施形態および第2の実施形態を例に挙げて、詳細に説明する。なお、本発明の範囲はここで説明する実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を損なわない範囲で種々の変更をすることができる。
本明細書において、「内部酸化層」とは、熱間圧延および焼鈍の加熱時において鋼板内部に生成させることができる、SiO2を含む内部酸化層(粒界酸化および粒内酸化の両方の酸化部分を含む)を意味する。さらに、内部酸化層は、本発明の実施形態における方法で製造される鋼板において、鋼板の表層と、SiO2等の酸化物を含有していない鋼板の内側の部分である鋼板素地部分との間に存在する。また、後の実施例で詳細に述べるように、内部酸化層の量は、塩酸等の酸性溶液に浸漬および溶解させることによって、単位面積当たりの溶解量(g/m2)として測定することができる。
本明細書において、「(鋼板の)コイル幅方向エッジ」は、特定の位置を示していない限り、基本的に、コイル幅方向の両方のエッジ、すなわち板幅方向の両端を意図している。また、本明細書において、「(鋼板の)コイル幅方向エッジ近傍」は、コイル幅方向エッジの位置の周辺箇所を意味する。コイル幅方向エッジから特定の位置を示す場合は、当該幅方向エッジ(換言すると、幅方向0mmの位置)からの距離を併せて記す。
1.鋼板の製造方法
本発明の第1の実施形態における鋼板の製造方法では、Si含有量が1.0質量%以上である鋼素材(鋼または鋼板)を用い、後述するようなH2濃度の関係式を含む所定の関係式を満たす条件での焼鈍工程を含んでいれば、特に限定されない。
本発明の第1の実施形態における鋼板の製造方法では、Si含有量が1.0質量%以上である鋼素材(鋼または鋼板)を用い、後述するようなH2濃度の関係式を含む所定の関係式を満たす条件での焼鈍工程を含んでいれば、特に限定されない。
本発明の第2の実施形態における鋼板の製造方法では、Si含有量が1.0質量%以上かつCr含有量が1.0質量%以下である鋼素材(鋼または鋼板)を用い、後述するようなCr含有量に応じた所定の関係式を満たす条件での焼鈍工程を含んでいれば、特に限定されない。
本発明における第1の実施形態および第2の実施形態では、以下に述べるような任意の工程を含んでもよい。
以下、第1の実施形態および第2の実施形態における鋼板の製造方法の一例について説明する。
(圧延用の鋼素材の準備)
まず、Si含有量が1.0質量%以上である化学組成を有する圧延用のスラブ等の鋼素材を作製する。Cr含有量に応じた条件での焼鈍工程を含む第2の実施形態では、Si含有量が1.0質量%以上かつCr含有量が1.0質量%以下である化学組成を有する圧延用のスラブ等の鋼素材を作製する。なお、鋼素材の化学組成の詳細は、後に述べる。スラブ等の鋼素材は既知の任意の方法により準備することができる。スラブの作製方法としては、例えば、後述する化学組成を有する鋼を溶製し、造塊または連続鋳造によって、スラブを作製する方法を挙げられる。必要に応じて、造塊または連続鋳造により得た鋳造材を分塊圧延してスラブを得てもよい。
まず、Si含有量が1.0質量%以上である化学組成を有する圧延用のスラブ等の鋼素材を作製する。Cr含有量に応じた条件での焼鈍工程を含む第2の実施形態では、Si含有量が1.0質量%以上かつCr含有量が1.0質量%以下である化学組成を有する圧延用のスラブ等の鋼素材を作製する。なお、鋼素材の化学組成の詳細は、後に述べる。スラブ等の鋼素材は既知の任意の方法により準備することができる。スラブの作製方法としては、例えば、後述する化学組成を有する鋼を溶製し、造塊または連続鋳造によって、スラブを作製する方法を挙げられる。必要に応じて、造塊または連続鋳造により得た鋳造材を分塊圧延してスラブを得てもよい。
(熱間圧延)
次いで、得られたスラブ等の鋼素材を用いて熱間圧延を行い、熱延鋼板を得る。
次いで、得られたスラブ等の鋼素材を用いて熱間圧延を行い、熱延鋼板を得る。
熱間圧延は、既知の任意の条件による方法で行ってよい。巻き取り温度は500℃~700℃にすることが好ましい。巻き取り温度を500℃以上に設定することによって、内部酸化層を十分に成長させることができ、後の工程を経た後に、幅方向エッジ近傍において内部酸化層を確保し易くなる。巻き取り温度は、より好ましくは520℃以上、さらに好ましくは530℃以上である。巻き取り温度を700℃以下に設定することによって、熱延後の冷却で生成する還元鉄の量をより確実に低減させることができ、より良好な酸洗性を有する鋼板を得ることができる。巻き取り温度は、より好ましくは680℃以下、さらに好ましくは660℃以下である。
熱間圧延時における他の条件については、特に限定されない。例えば、熱間圧延では、熱間圧延前のスラブを常法に従って1000℃~1300℃以下の温度で均熱保持し、仕上げ圧延温度を800℃以上に設定し、その後コイル状の鋼板として巻き取ればよい。さらに、熱間圧延後の巻き取った熱延鋼板は、常温まで自然冷却してもよい。
(焼鈍)
さらに、巻き取った鋼板を、以下に述べる第1の実施形態または第2の実施形態の条件において、焼鈍する。
さらに、巻き取った鋼板を、以下に述べる第1の実施形態または第2の実施形態の条件において、焼鈍する。
第1の実施形態では、巻き取った鋼板を、以下の関係式を満たように焼鈍する。具体的には、鋼板を、下記式1、
および下記式2、
(式1および式2において、Tは500℃以上である焼鈍時の均熱保持温度(℃)であり、tは焼鈍時の均熱保持時間(秒)であり、かつ、P(H2)は焼鈍時の周囲のガス雰囲気におけるH2濃度(体積%)である)を満たす条件下において焼鈍する。
および下記式2、
(式1および式2において、Tは500℃以上である焼鈍時の均熱保持温度(℃)であり、tは焼鈍時の均熱保持時間(秒)であり、かつ、P(H2)は焼鈍時の周囲のガス雰囲気におけるH2濃度(体積%)である)を満たす条件下において焼鈍する。
第2の実施形態では、巻き取った鋼板を、鋼素材に含まれるCr含有量に応じて、以下の関係式を満たすように焼鈍する。
なお、上記式1A、上記式1Bおよび上記式1Cにおいて、Tは500℃以上である焼鈍時の均熱保持温度(℃)であり、tは焼鈍時の均熱保持時間(秒)であり、かつ、Cr[%]は鋼素材のCr含有量(質量%)である。
さらに、第2の実施形態における鋼板の製造方法は、巻き取った鋼板を、鋼素材に含まれるCr含有量に応じて、以下の条件を満たすように焼鈍することが好ましい。
Cr含有量が0.6質量%以下の場合、鋼板を、上記式1Aを満たす条件下において焼鈍することが好ましい。
または、Cr含有量が0.6質量%超1.0質量%以下の場合、鋼板を、上記式1Cを満たす条件下において焼鈍することが好ましい。
この場合も、上記式1Aおよび上記式1Cにおいて、Tは500℃以上である焼鈍時の均熱保持温度(℃)であり、tは焼鈍時の均熱保持時間(秒)であり、かつ、Cr[%]は鋼素材のCr含有量(質量%)である。
さらに、第2の実施形態における鋼板の製造方法では、焼鈍時の周囲のガス雰囲気におけるH2濃度(体積%)は0体積%であることが好ましい。
上記式1、上記式1A、上記式1Bおよび上記式1Cの下限値で規定される条件下で焼鈍することによって、鋼板の幅方向エッジ近傍まで、内部酸化層を良好に成長させて残留させることができる。その結果、ムラなく合金化できる鋼板を得ることができる。好ましくは、鋼板の幅方向センターから幅方向エッジまでだけでなく、鋼板の圧延方向に対して平行な方向の前端(以下、「圧延方向前端」とも言う)から圧延方向に対して平行な方向の後端(以下、「圧延方向後端」とも言う)まで、内部酸化層を良好に成長させて残留させることができる。その結果、鋼板の略全面においてムラなく略均一かつ確実に合金化できる鋼板を得ることができる。なお、前述した熱間圧延時の巻き取りの際の加熱だけでは幅方向エッジまで十分に内部酸化層を成長させることは難しい。
さらに、上記式1の上限値および上記式2で規定される条件下、または、Cr含有量に応じた上記式1A、上記式1Bもしくは上記式1Cの上限値で規定される条件下で焼鈍することによって、鋼板の表面における還元鉄の生成を十分に抑制することができる。その結果、実際の酸洗性評価の工程を挟まなくても、良好な酸洗性を有する鋼板を得ることができているため、後の酸洗におけるスケール除去が困難となることはない。
ここで、まず、第1の実施形態における、上記式1および上記式2を導くに至った経緯を説明する。
ここで、上記式3において、Rは気体定数8.31[J/(K・mol)]であり、Qは鉄中の酸素拡散の活性化エネルギー=89.5(kJ/mol)である。従って、これらの数値を代入すると、内部酸化層の量x(g/m2)に関する式は、以下の式4のように表すことができる。なお、式4において、Aは係数である。
ここで、540℃の均熱保持温度Tかつ30時間(108000秒間)の均熱保持時間tの条件を上記式4に代入することによって得られるx2を、下記式5で表すように、下限値として規定する。この下限値の規定は、合金化ムラを抑制できる鋼板を製造するための条件とすることができる。本明細書において、このような下限値を、単に「内部酸化層の合金化ムラに関する下限値」または「下限値」とも言う。なお、均熱保持温度Tは低すぎると内部酸化層を形成することができないため、以下の式5におけるTは500℃以上である。
さらに、620℃の均熱保持温度Tかつ30時間(108000秒間)の均熱保持時間tの条件を上記式4に代入することによって得られるx2を、下記式6で表すように、上限値として規定する。この上限値の規定は、還元鉄の生成を抑制し、良好な酸洗性を有する鋼板を製造するための条件とすることができる。本明細書において、このような上限値を、単に「内部酸化層の酸洗性に関する上限値」または「上限値」とも言う。
このように導き出された上記式5と上記式6とをまとめると、前記式1が導かれる。さらに、焼鈍時の周囲のガス雰囲気におけるH2濃度P(H2)(体積%)は、均熱保持温度T(℃)との関係において前記式2の条件も満たす必要がある。
次いで、第2の実施形態における、上記式1A、上記式1Bおよび上記式1Cを導くに至った経緯を説明する。
第2の実施形態においても、内部酸化層の合金化ムラに関する下限値「0.19」の規定方法は、前述した第1の実施形態と同じである。第2の実施形態における上限値は、次のように規定されている。
Cr含有量が0.2質量%未満の場合、Cr含有量が0.2質量%の場合の上限値の数値に基づいて、同じ上限値が規定される。具体的には、Cr含有量が0.2質量%未満の場合、620℃の均熱保持温度Tかつ30時間(108000秒間)の均熱保持時間tの条件を上記式4に代入することによって得られるx2を、上記式6で表すように、内部酸化層の酸洗性に関する上限値として規定する。この上限値の規定は、Cr含有量が0.2質量%未満の場合での、還元鉄の生成を抑制し、良好な酸洗性を有する鋼板を製造するための条件とすることができる。
Cr含有量が0.6質量%超1.0質量%以下の場合、Cr含有量が0.6質量%の場合の上限値の数値に基づいて、同じ上限値が規定されている。具体的には、Cr含有量が0.6質量%超1.0質量%以下の場合、650℃の均熱保持温度Tかつ30時間(108000秒間)の均熱保持時間tの条件を上記式4に代入することによって得られるx2を、下記式7で表すように、内部酸化層の酸洗性に関する上限値として規定する。この上限値の規定は、Cr含有量が0.6質量%超1.0質量%以下の場合での、還元鉄の生成を抑制し、良好な酸洗性を有する鋼板を製造するための条件とすることができる。
Cr含有量が0.2質量%以上0.6質量%以下の場合、Cr含有量が0.2質量%の場合の上限値0.63とCr含有量が0.6質量%の場合の上限値0.93の2点を通るCr含有量に対する上限値の直線を、下記式8で表すように、内部酸化層の酸洗性に関する上限値として規定する。この上限値の規定は、Cr含有量が0.2質量%以上0.6質量%以下の場合での、還元鉄の生成を抑制し、良好な酸洗性を有する鋼板を製造するための条件とすることができる。
このように導き出された上記式6、上記式7および上記式8をまとめると、鋼素材に含まれるCr含有量に応じた、前記式1A、前記式1Bおよび前記式1Cが導かれる。
好ましくは、Cr含有量が0.2質量%未満の場合においても、Cr含有量が0.2質量%以上0.6質量%以下の場合と同様に、Cr含有量が0.2質量%の場合の上限値0.63とCr含有量が0.6質量%の場合の上限値0.93の2点を通るCr含有量に対する上限値の直線を、上記式8で表すように、内部酸化層の酸洗性に関する上限値として規定してもよい。
(酸洗)
次いで、焼鈍後の鋼板を酸洗すると好ましい。酸洗方法は特に限定されず、公知の任意の方法を適用すればよい。例えば、塩酸等を用いて浸漬させることにより、スケールを除去すればよい。
次いで、焼鈍後の鋼板を酸洗すると好ましい。酸洗方法は特に限定されず、公知の任意の方法を適用すればよい。例えば、塩酸等を用いて浸漬させることにより、スケールを除去すればよい。
第1の実施形態における鋼板の製造方法によると、前の焼鈍工程で前記式1の上限値および前記式2で規定される条件下で焼鈍されている。あるいは、第2の実施形態における鋼板の製造方法によっても、前の焼鈍工程で、鋼素材に含まれるCr含有量に応じて、前記式1A、前記式1Bまたは前記式1Cの上限値で規定される条件下(好ましくは前記式1Aまたは前記式1Cの上限値で規定される条件下)で焼鈍されている。従って、鋼板の表面における還元鉄の生成が十分に抑制されており、酸洗される鋼板は良好な酸洗性を有する。そのため、常法に従って、酸洗液の濃度、酸洗液の温度および酸洗時間等の酸洗条件を、一般的な数値に設定することによって、酸化スケールが残存する問題が生じることなく、容易かつ効率的に鋼板に付着したスケールを除去することができる。
例えば、酸洗液として塩酸を用いる場合、塩酸濃度は、好ましくは3質量%以上、より好ましくは5質量%以上に設定すればよい。また、酸洗液として塩酸を用いる場合、塩酸濃度は、好ましくは20質量%以下、より好ましくは15質量%以下に設定すればよい。さらに、例えば、酸洗液の温度は、好ましくは60℃以上、より好ましくは70℃以上に設定すればよい。また、酸洗液の温度は、好ましくは90℃以下、より好ましくは80℃以下に設定すればよい。酸洗時間は、酸洗液の濃度および温度に応じて、適宜調整すればよい。
(冷間圧延)
さらに、酸洗後の鋼板に冷間圧延を施してもよい。冷間圧延の方法は特に限定されず、公知の任意の方法を適用すればよい。例えば、所望する板厚にするために、冷間圧延の冷延率を10%~70%の範囲にすることができる。鋼板の板厚は、特に限定されない。
さらに、酸洗後の鋼板に冷間圧延を施してもよい。冷間圧延の方法は特に限定されず、公知の任意の方法を適用すればよい。例えば、所望する板厚にするために、冷間圧延の冷延率を10%~70%の範囲にすることができる。鋼板の板厚は、特に限定されない。
上述してきたような焼鈍工程および任意の工程を含むことによって、第1の実施形態または第2の実施形態における鋼板を製造することができる。
2.溶融亜鉛めっき鋼板および合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法
本発明の第1の実施形態または第2の実施形態における方法により製造される鋼板は、高Si含有の高強度高加工性の溶融亜鉛めっき鋼板および合金化溶融亜鉛めっき鋼板の原板として好適に用いられる。以下、そのような溶融亜鉛めっき鋼板および合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法の一例について説明する。
本発明の第1の実施形態または第2の実施形態における方法により製造される鋼板は、高Si含有の高強度高加工性の溶融亜鉛めっき鋼板および合金化溶融亜鉛めっき鋼板の原板として好適に用いられる。以下、そのような溶融亜鉛めっき鋼板および合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法の一例について説明する。
(酸化処理および還元処理)
最初に、前述の第1の実施形態または第2の実施形態において製造した鋼板の表面に対して、酸化還元法による焼鈍を適用する。まず、鋼板の表面に酸化処理を施すことによって、鋼板の表面に酸化Fe層を形成する。さらに、還元性の雰囲気下で当該酸化Fe層に還元処理(本明細書において、「還元焼鈍処理」とも言う)を施して還元Fe層を形成する。この際、還元により酸化Fe層から供給される酸素は、鋼板内部におけるSiやMnを酸化させる。すなわち、このような酸化還元法による焼鈍を適用することによって、酸化Fe層がバリアー層となり、Siの酸化物を鋼板の内部に留めることができ、鋼板の表層付近において固溶Si量が増加することを抑制できる。その結果、溶融亜鉛めっきに対する濡れ性を良好とすることができ、最終的に合金化ムラもより確実に減少させることができる。
最初に、前述の第1の実施形態または第2の実施形態において製造した鋼板の表面に対して、酸化還元法による焼鈍を適用する。まず、鋼板の表面に酸化処理を施すことによって、鋼板の表面に酸化Fe層を形成する。さらに、還元性の雰囲気下で当該酸化Fe層に還元処理(本明細書において、「還元焼鈍処理」とも言う)を施して還元Fe層を形成する。この際、還元により酸化Fe層から供給される酸素は、鋼板内部におけるSiやMnを酸化させる。すなわち、このような酸化還元法による焼鈍を適用することによって、酸化Fe層がバリアー層となり、Siの酸化物を鋼板の内部に留めることができ、鋼板の表層付近において固溶Si量が増加することを抑制できる。その結果、溶融亜鉛めっきに対する濡れ性を良好とすることができ、最終的に合金化ムラもより確実に減少させることができる。
酸化処理および還元処理は、公知の任意の単数または複数の設備を用いて実施すればよい。好ましくは、製造効率、コスト面および品質保持の観点から、連続溶融亜鉛めっきライン(CGL:Continuous Galvanizing Line)の設備が用いられる。連続溶融亜鉛めっきラインを用いることによって、酸化還元法による酸化処理および還元処理と、後述する溶融亜鉛めっき処理および合金化処理とを、一連の製造ラインで連続して行うことができる。さらに具体的には、酸化還元法による酸化処理および還元処理は、例えば、無酸化炉(NOF:Non Oxygen Furnace)型または直火炉(DFF:Diret Fired Furnace)型の連続溶融亜鉛めっきラインにおける焼鈍炉を用いて行うことがより好ましい。
酸化処理は、例えばNOF型またはDFF型の焼鈍炉内の酸化加熱帯等において、鋼板の表面に、鋼板温度750℃以下の加熱温度で施されると好ましい。鋼板温度を750℃以下にすることによって、良好なめっき密着性を有する溶融亜鉛めっき鋼板を得ることができる。
酸化処理における鋼板温度は、好ましくは730℃以下、より好ましくは720℃以下、さらに好ましくは700℃以下である。酸化処理における鋼板温度の下限は、特に限定されず、鋼板の表面において後述するガス雰囲気下で酸化Fe層が形成される温度であればよい。例えば、酸化処理における鋼板温度は、好ましくは650℃以上、より好ましくは670℃以上である。
酸化処理における昇温時間は、好ましくは10秒以上、より好ましくは15秒以上である。また、例えば、酸化処理における昇温時間は、好ましくは120秒以下、より好ましくは90秒以下である。
酸化処理は、特に限定されないが、例えば、O2、CO2、N2およびH2Oを含むガス雰囲気下において行うことができる。より詳細には、酸化処理は、例えばNOF型またはDFF型の焼鈍炉等において、コークス炉ガス(COG:Cokes Oven Gas)、液化石油ガス(LPG:Liquefied Petroleum Gas)等の燃焼ガス中で、未燃焼のO2濃度を制御したガス雰囲気下において行うことができる。O2濃度は100ppm~17000ppmの範囲で制御すると好ましい。O2濃度は、より好ましくは500ppm以上、さらに好ましくは2000ppm以上で制御される。また、O2濃度は、より好ましくは15000ppm以下、さらに好ましくは13000ppm以下で制御される。
還元焼鈍処理における鋼板の加熱温度(均熱保持温度)は、特に限定されず、酸化処理によって形成された酸化Fe層が還元Fe層になる温度で行われればよい。具体的には、好ましくはAc3点以上の均熱保持温度で還元焼鈍を行うと好ましい。なお、Ac3点は、下式(i)により算出することができる(「レスリー鉄鋼材料学」(丸善株式会社発行、William C. Leslie著、p273))。式(i)中の[ ]で囲まれた元素記号は、当該元素の含有量(質量%)を表す。
Ac3(℃)=910-203×[C]1/2-15.2×[Ni]+44.7×[Si]+104×[V]+31.5×[Mo]+13.1×[W]-{30×[Mn]+11×[Cr]+20×[Cu]-700×[P]-400×[Al]-120×[As]-400×[Ti]} …(i)
Ac3(℃)=910-203×[C]1/2-15.2×[Ni]+44.7×[Si]+104×[V]+31.5×[Mo]+13.1×[W]-{30×[Mn]+11×[Cr]+20×[Cu]-700×[P]-400×[Al]-120×[As]-400×[Ti]} …(i)
また、還元処理における加熱時間(均熱保持時間)は、特に限定されず、酸化処理により形成された酸化Fe層が還元Fe層になるように適切に調整すればよい。例えば、還元処理における加熱時間は、好ましくは30秒以上、より好ましくは45秒以上である。また、還元処理における加熱時間は、好ましくは600秒以下、より好ましくは500秒以下である。
還元焼鈍処理は、例えばNOF型またはDFF型の焼鈍炉内の還元加熱帯等において、公知の任意の処理方法によって行うことができる。具体的には、主にH2ガスおよびN2等の不活性ガスを含む還元性の雰囲気下で、鋼板の表面を加熱することによって行うことができる。H2ガスおよびN2等の不活性ガスを含む混合ガスを用いる場合、例えばH2ガスを3体積%~25体積%の割合において含み、N2等の不活性ガスを残部として含むことができる。
(溶融亜鉛めっき処理)
さらに、還元処理後の鋼板に溶融亜鉛めっき処理を施し、鋼板の表面に亜鉛めっき層を形成することによって、溶融亜鉛めっき鋼板を製造することができる。
さらに、還元処理後の鋼板に溶融亜鉛めっき処理を施し、鋼板の表面に亜鉛めっき層を形成することによって、溶融亜鉛めっき鋼板を製造することができる。
溶融亜鉛めっき処理の方法は特に限定されず、公知の任意の方法を適用すればよい。例えば、鋼板を亜鉛めっき浴に400℃~500℃程度の鋼板温度で浸漬させることによって、鋼板の表面に亜鉛めっき層を形成することができる。さらに、鋼板の亜鉛めっき浴への浸漬時間は、所望の亜鉛めっき付着量に応じて調整すればよい。
(合金化処理)
合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法では、前述の方法で得られた溶融亜鉛めっき鋼板に形成された亜鉛めっき層を合金化する工程をさらに含む。
合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法では、前述の方法で得られた溶融亜鉛めっき鋼板に形成された亜鉛めっき層を合金化する工程をさらに含む。
具体的には、溶融亜鉛めっき鋼板を所定の合金化温度で加熱することによって、鋼板に含まれるFe原子が亜鉛めっき層に拡散し、亜鉛めっき層を合金化することができる。合金化方法は、特に限定されず、公知の任意の方法を適用することができる。合金化温度は、特に限定されないが、例えば、好ましくは480℃~650℃で設定することができる。合金化温度での加熱時間も、特に限定されないが、例えば、好ましくは10秒~40秒で設定することができる。さらに、合金化の加熱は、例えば大気雰囲気下とすることができる。
3.鋼素材の化学組成
第1の実施形態における鋼板の製造方法に使用される鋼素材の化学組成は、Si以外は特に限定されない。また、第2の実施形態における鋼板の製造方法に使用される鋼素材の化学組成は、SiおよびCr以外は特に限定されない。
第1の実施形態における鋼板の製造方法に使用される鋼素材の化学組成は、Si以外は特に限定されない。また、第2の実施形態における鋼板の製造方法に使用される鋼素材の化学組成は、SiおよびCr以外は特に限定されない。
以下、第1の実施形態および第2の実施形態における鋼素材の化学組成の一例について説明する。
[Si:1質量%以上]
Siは、安価な鋼の強化元素であり、かつ、鋼板の加工性に対して影響を与え難い。また、Siは、鋼板の加工性向上に有用な残留オーステナイトが分解して炭化物が生成することを抑制できる元素である。このような作用を有効に発揮させるため、Si含有量は1.0質量%以上、好ましくは1.1質量%以上、さらに好ましくは1.2質量%以上である。Si含有量の上限は、特に限定されないが、Si含有量が多すぎると、Siによる固溶強化作用が顕著になって圧延負荷が増大してしまうおそれがあり、熱間圧延の際にSiスケールが発生して鋼板の表面欠陥が生じてしまう可能性がある。そのため、例えば、Si含有量は、製造安定性の観点から、好ましくは3.0質量%以下、より好ましくは2.7質量%以下、さらに好ましくは2.5質量%以下である。
Siは、安価な鋼の強化元素であり、かつ、鋼板の加工性に対して影響を与え難い。また、Siは、鋼板の加工性向上に有用な残留オーステナイトが分解して炭化物が生成することを抑制できる元素である。このような作用を有効に発揮させるため、Si含有量は1.0質量%以上、好ましくは1.1質量%以上、さらに好ましくは1.2質量%以上である。Si含有量の上限は、特に限定されないが、Si含有量が多すぎると、Siによる固溶強化作用が顕著になって圧延負荷が増大してしまうおそれがあり、熱間圧延の際にSiスケールが発生して鋼板の表面欠陥が生じてしまう可能性がある。そのため、例えば、Si含有量は、製造安定性の観点から、好ましくは3.0質量%以下、より好ましくは2.7質量%以下、さらに好ましくは2.5質量%以下である。
[Mn:好ましくは1.5質量%以上3.0質量%以下]
Mnも、Siと同様に、安価な鋼の強化元素であり、鋼板の強度向上に有効である。Mnは、Siと一緒に、さらに必要に応じてCも一緒に鋼に添加することによって、最終的に980MPa以上の溶融亜鉛めっき鋼板の引張強度を確保するために特に有効な強化元素である。さらに、Mnは、オーステナイトを安定化し、残留オーステナイトの生成による鋼板の加工性向上に寄与する元素である。このような作用を有効に発揮させるため、Mn含有量は、好ましくは1.5質量%以上、より好ましくは1.8質量%以上、さらに好ましくは2.0質量%以上である。しかしながら、Mn含有量が多すぎると、鋼板の延性が低下し、鋼板の加工性に悪影響を及ぼし、鋼板の溶接性が低下するおそれがある。このような観点から、Mn含有量は、好ましくは3.0質量%以下、より好ましくは2.8質量%以下、さらに好ましくは2.7質量%以下である。
Mnも、Siと同様に、安価な鋼の強化元素であり、鋼板の強度向上に有効である。Mnは、Siと一緒に、さらに必要に応じてCも一緒に鋼に添加することによって、最終的に980MPa以上の溶融亜鉛めっき鋼板の引張強度を確保するために特に有効な強化元素である。さらに、Mnは、オーステナイトを安定化し、残留オーステナイトの生成による鋼板の加工性向上に寄与する元素である。このような作用を有効に発揮させるため、Mn含有量は、好ましくは1.5質量%以上、より好ましくは1.8質量%以上、さらに好ましくは2.0質量%以上である。しかしながら、Mn含有量が多すぎると、鋼板の延性が低下し、鋼板の加工性に悪影響を及ぼし、鋼板の溶接性が低下するおそれがある。このような観点から、Mn含有量は、好ましくは3.0質量%以下、より好ましくは2.8質量%以下、さらに好ましくは2.7質量%以下である。
[C:好ましくは0.08質量%以上0.30質量%以下]
Cは、鋼板の強度向上に有効な元素であり、Siと一緒に、さらに必要に応じてMnも一緒に鋼に添加することによって、最終的に980MPa以上の溶融亜鉛めっき鋼板の引張強度を確保するために特に有効な強化元素である。さらに、Cは、残留オーステナイトを確保して加工性を改善するために必要な元素である。このような作用を有効に発揮させるため、C含有量は、好ましくは0.08質量%以上、より好ましくは0.11質量%以上、さらに好ましくは0.13質量%以上である。鋼板の強度の確保の観点からはC含有量が多い方が好ましいが、C含有量が多すぎると耐食性、スポット溶接性および加工性が劣化するおそれがある。そのため、C含有量は、好ましくは0.30質量%以下、より好ましくは0.25質量%以下、さらに好ましくは0.20質量%以下である。
Cは、鋼板の強度向上に有効な元素であり、Siと一緒に、さらに必要に応じてMnも一緒に鋼に添加することによって、最終的に980MPa以上の溶融亜鉛めっき鋼板の引張強度を確保するために特に有効な強化元素である。さらに、Cは、残留オーステナイトを確保して加工性を改善するために必要な元素である。このような作用を有効に発揮させるため、C含有量は、好ましくは0.08質量%以上、より好ましくは0.11質量%以上、さらに好ましくは0.13質量%以上である。鋼板の強度の確保の観点からはC含有量が多い方が好ましいが、C含有量が多すぎると耐食性、スポット溶接性および加工性が劣化するおそれがある。そのため、C含有量は、好ましくは0.30質量%以下、より好ましくは0.25質量%以下、さらに好ましくは0.20質量%以下である。
[P:好ましくは0質量%超0.1質量%以下]
Pは、不純物元素として不可避的に存在する元素である。P含有量が過剰になると、溶接性を劣化させるおそれがある。そのため、P含有量は、好ましくは0.1質量%以下、より好ましくは0.08質量%以下、さらに好ましくは0.05質量%以下に抑制する。
Pは、不純物元素として不可避的に存在する元素である。P含有量が過剰になると、溶接性を劣化させるおそれがある。そのため、P含有量は、好ましくは0.1質量%以下、より好ましくは0.08質量%以下、さらに好ましくは0.05質量%以下に抑制する。
[S:好ましくは0質量%超0.05質量%以下]
Sは、不純物元素として不可避的に存在する元素である。通常、鋼は、不可避的に0.0005質量%程度においてSを含有している。S含有量が過剰になると、硫化物系介在物を形成し、腐食環境下で水素吸収を促し、鋼板の耐遅れ破壊性を劣化させ、鋼板の溶接性および加工性を劣化させるおそれがある。そのため、S含有量は、好ましくは0.05質量%以下、より好ましくは0.01質量%以下、さらに好ましくは0.005質量%以下に抑制する。
Sは、不純物元素として不可避的に存在する元素である。通常、鋼は、不可避的に0.0005質量%程度においてSを含有している。S含有量が過剰になると、硫化物系介在物を形成し、腐食環境下で水素吸収を促し、鋼板の耐遅れ破壊性を劣化させ、鋼板の溶接性および加工性を劣化させるおそれがある。そのため、S含有量は、好ましくは0.05質量%以下、より好ましくは0.01質量%以下、さらに好ましくは0.005質量%以下に抑制する。
[Al:好ましくは0質量%超1.0質量%以下]
Alは、脱酸作用を有する元素である。このような作用を有効に発揮させるため、Al含有量は、好ましくは0質量%超、より好ましくは0.005質量%以上、さらに好ましくは0.02質量%以上である。Al含有量が過剰になると、アルミナ等の介在物が増加し、鋼板の加工性が劣化するおそれがある。そのため、Al含有量は、好ましくは1.0質量%以下、より好ましくは0.8質量%以下、さらに好ましくは0.5質量%以下である。
Alは、脱酸作用を有する元素である。このような作用を有効に発揮させるため、Al含有量は、好ましくは0質量%超、より好ましくは0.005質量%以上、さらに好ましくは0.02質量%以上である。Al含有量が過剰になると、アルミナ等の介在物が増加し、鋼板の加工性が劣化するおそれがある。そのため、Al含有量は、好ましくは1.0質量%以下、より好ましくは0.8質量%以下、さらに好ましくは0.5質量%以下である。
[Cr:好ましくは0質量%超1.0質量%以下]
Crは、鋼板の強度向上に有効な元素である。さらに、Crは、鋼板の耐食性を向上させる元素であり、鋼板の腐食による水素の発生を抑制する作用を有する。具体的には、Crは、酸化鉄(α-FeOOH)の生成を促進させる作用を有する。酸化鉄は、大気中で生成する錆のなかでも熱力学的に安定であり、かつ保護性を有するといわれている。このような錆の生成を促進することによって、発生した水素が鋼板へ侵入することを抑制でき、過酷な腐食環境下、例えば、塩化物の存在下で鋼板を使用した場合でも水素による助長割れを十分に抑制できる。また、Crは、BおよびTiと同様に、鋼板の耐遅れ破壊性にも有効な元素であるため、鋼板の強度と伸び等の加工性に影響を与えない量において添加することができる。これらの作用を有効に発揮させるには、Cr含有量は、好ましくは0質量%超、より好ましくは0.003質量%以上、さらに好ましくは0.01質量%以上である。一方、Cr含有量が過剰になると、鋼板の伸び等の加工性が劣化するおそれがある。そのため、Cr含有量は、好ましくは1.0質量%以下、より好ましくは0.8質量%以下、さらに好ましくは0.6質量%以下である。
Crは、鋼板の強度向上に有効な元素である。さらに、Crは、鋼板の耐食性を向上させる元素であり、鋼板の腐食による水素の発生を抑制する作用を有する。具体的には、Crは、酸化鉄(α-FeOOH)の生成を促進させる作用を有する。酸化鉄は、大気中で生成する錆のなかでも熱力学的に安定であり、かつ保護性を有するといわれている。このような錆の生成を促進することによって、発生した水素が鋼板へ侵入することを抑制でき、過酷な腐食環境下、例えば、塩化物の存在下で鋼板を使用した場合でも水素による助長割れを十分に抑制できる。また、Crは、BおよびTiと同様に、鋼板の耐遅れ破壊性にも有効な元素であるため、鋼板の強度と伸び等の加工性に影響を与えない量において添加することができる。これらの作用を有効に発揮させるには、Cr含有量は、好ましくは0質量%超、より好ましくは0.003質量%以上、さらに好ましくは0.01質量%以上である。一方、Cr含有量が過剰になると、鋼板の伸び等の加工性が劣化するおそれがある。そのため、Cr含有量は、好ましくは1.0質量%以下、より好ましくは0.8質量%以下、さらに好ましくは0.6質量%以下である。
第1の実施形態における鋼板の製造方法では、酸洗性に関する良好な効果をより確実に得るために、Cr含有量は、0質量%超0.4質量%以下であることが好ましく、0.1質量%以上0.3質量%以下であることがより好ましく、0.2質量%以上0.3質量%以下であることがさらに好ましく、0.2質量%であることが特に好ましい。
一方、第2の実施形態における鋼板の製造方法では、Cr含有量は1質量%以下であればよい。具体的には、Cr含有量に応じて、均熱保持温度Tと均熱保持時間tとCr含有量とが所定の関係式を満たすように調整することによって、酸洗性に関する良好な効果を得ることができる。
[Cu:好ましくは0質量%超1.0質量%以下]
Cuも、Crと同様に、鋼板の強度向上に有効であり、かつ、鋼板の腐食による水素の発生を抑制する作用を有し、鋼板の耐食性を向上させる元素である。Cuも、Crと同様に、酸化鉄の生成を促進させる作用を有する。これらの作用を有効に発揮させるには、Cu含有量は、好ましくは0質量%超、より好ましくは0.003質量%以上、さらに好ましくは0.05質量%以上である。また、鋼板の加工性の観点から、Cu含有量は、好ましくは1.0質量%以下、より好ましくは0.8質量%以下、さらに好ましくは0.5質量%以下である。
Cuも、Crと同様に、鋼板の強度向上に有効であり、かつ、鋼板の腐食による水素の発生を抑制する作用を有し、鋼板の耐食性を向上させる元素である。Cuも、Crと同様に、酸化鉄の生成を促進させる作用を有する。これらの作用を有効に発揮させるには、Cu含有量は、好ましくは0質量%超、より好ましくは0.003質量%以上、さらに好ましくは0.05質量%以上である。また、鋼板の加工性の観点から、Cu含有量は、好ましくは1.0質量%以下、より好ましくは0.8質量%以下、さらに好ましくは0.5質量%以下である。
[Ni:好ましくは0質量%超1.0質量%以下]
Niも、CrおよびCuと同様に、鋼板の強度向上に有効であり、かつ、鋼板の腐食による水素の発生を抑制する作用を有し、鋼板の耐食性を向上させる元素である。Niも、CrおよびCuと同様に、酸化鉄の生成を促進させる作用を有する。これらの作用を有効に発揮させるには、Ni含有量は、好ましくは0質量%超、より好ましくは0.003質量%以上、さらに好ましくは0.05質量%以上である。また、鋼板の加工性の観点から、Ni含有量は、好ましくは1.0質量%以下、より好ましくは0.8質量%以下、さらに好ましくは0.5質量%以下である。
Niも、CrおよびCuと同様に、鋼板の強度向上に有効であり、かつ、鋼板の腐食による水素の発生を抑制する作用を有し、鋼板の耐食性を向上させる元素である。Niも、CrおよびCuと同様に、酸化鉄の生成を促進させる作用を有する。これらの作用を有効に発揮させるには、Ni含有量は、好ましくは0質量%超、より好ましくは0.003質量%以上、さらに好ましくは0.05質量%以上である。また、鋼板の加工性の観点から、Ni含有量は、好ましくは1.0質量%以下、より好ましくは0.8質量%以下、さらに好ましくは0.5質量%以下である。
[Ti:好ましくは0質量%超0.15質量%以下]
Tiも、Cr、CuおよびNiと同様に、鋼板の強度向上に有効であり、かつ、鋼板の腐食による水素の発生を抑制する作用を有し、鋼板の耐食性を向上させる元素である。Tiも、Cr、CuおよびNiと同様に、酸化鉄の生成を促進させる作用を有する。また、Tiは、BおよびCrと同様に、鋼板の耐遅れ破壊性にも有効な元素であるため、鋼板の強度と伸び等の加工性に影響を与えない量において添加することができる。これらの作用を有効に発揮させるには、Ti含有量は、好ましくは0質量%超、より好ましくは0.003質量%以上、さらに好ましくは0.05質量%以上である。また、鋼板の加工性の観点から、Ti含有量は、好ましくは0.15質量%以下、より好ましくは0.12質量%以下、さらに好ましくは0.10質量%以下である。
Tiも、Cr、CuおよびNiと同様に、鋼板の強度向上に有効であり、かつ、鋼板の腐食による水素の発生を抑制する作用を有し、鋼板の耐食性を向上させる元素である。Tiも、Cr、CuおよびNiと同様に、酸化鉄の生成を促進させる作用を有する。また、Tiは、BおよびCrと同様に、鋼板の耐遅れ破壊性にも有効な元素であるため、鋼板の強度と伸び等の加工性に影響を与えない量において添加することができる。これらの作用を有効に発揮させるには、Ti含有量は、好ましくは0質量%超、より好ましくは0.003質量%以上、さらに好ましくは0.05質量%以上である。また、鋼板の加工性の観点から、Ti含有量は、好ましくは0.15質量%以下、より好ましくは0.12質量%以下、さらに好ましくは0.10質量%以下である。
[Nb:好ましくは0質量%超0.15質量%以下]
Nbは、鋼板の強度向上に有効であり、かつ、焼入れ後のオーステナイト粒を微細化して鋼板の靭性の改善に作用する元素である。このような作用を有効に発揮させるには、Nb含有量は、好ましくは0質量%超、より好ましくは0.03質量%以上、さらに好ましくは0.005質量%以上である。一方、Nb含有量が過剰になると、炭化物、窒化物または炭窒化物を多量に生成し、鋼板の加工性または耐遅れ破壊性が劣化するおそれがある。そのため、Nb含有量は、好ましくは0.15質量%以下、より好ましくは0.12質量%以下、さらに好ましくは0.10質量%以下である。
Nbは、鋼板の強度向上に有効であり、かつ、焼入れ後のオーステナイト粒を微細化して鋼板の靭性の改善に作用する元素である。このような作用を有効に発揮させるには、Nb含有量は、好ましくは0質量%超、より好ましくは0.03質量%以上、さらに好ましくは0.005質量%以上である。一方、Nb含有量が過剰になると、炭化物、窒化物または炭窒化物を多量に生成し、鋼板の加工性または耐遅れ破壊性が劣化するおそれがある。そのため、Nb含有量は、好ましくは0.15質量%以下、より好ましくは0.12質量%以下、さらに好ましくは0.10質量%以下である。
[V:好ましくは0質量%超0.15質量%以下]
Vも、Nbと同様に、鋼板の強度向上に有効であり、かつ、焼入れ後のオーステナイト粒を微細化して鋼板の靭性の改善に作用する元素である。このような作用を有効に発揮させるには、V含有量は、好ましくは0質量%超、より好ましくは0.03質量%以上、さらに好ましくは0.005質量%以上である。一方、V含有量が過剰になると、Nbと同様に、炭化物、窒化物または炭窒化物を多量に生成し、鋼板の加工性または耐遅れ破壊性が劣化するおそれがある。そのため、V含有量は、好ましくは0.15質量%以下、より好ましくは0.12質量%以下、さらに好ましくは0.1質量%以下である。
Vも、Nbと同様に、鋼板の強度向上に有効であり、かつ、焼入れ後のオーステナイト粒を微細化して鋼板の靭性の改善に作用する元素である。このような作用を有効に発揮させるには、V含有量は、好ましくは0質量%超、より好ましくは0.03質量%以上、さらに好ましくは0.005質量%以上である。一方、V含有量が過剰になると、Nbと同様に、炭化物、窒化物または炭窒化物を多量に生成し、鋼板の加工性または耐遅れ破壊性が劣化するおそれがある。そのため、V含有量は、好ましくは0.15質量%以下、より好ましくは0.12質量%以下、さらに好ましくは0.1質量%以下である。
[B:好ましくは0質量%超0.005質量%以下]
Bは、鋼板の焼入れ性および溶接性の向上に有用な元素である。また、Bは、TiおよびCrと同様に、鋼板の耐遅れ破壊性にも有効な元素であるため、鋼板の強度と伸び等の加工性に影響を与えない量において添加することができる。これらの作用を有効に発揮させるには、B含有量は、好ましくは0質量%超、より好ましくは0.0002質量%以上、さらに好ましくは0.0003質量%以上、特に好ましくは0.0004質量%以上である。一方、B含有量が過剰になると、このような効果は飽和し、かつ、延性が低下して加工性が悪くなるおそれがある。そのため、B含有量は、好ましくは0.005質量%以下、さらに好ましくは0.004質量%以下、さらに好ましくは0.003質量%以下である。
Bは、鋼板の焼入れ性および溶接性の向上に有用な元素である。また、Bは、TiおよびCrと同様に、鋼板の耐遅れ破壊性にも有効な元素であるため、鋼板の強度と伸び等の加工性に影響を与えない量において添加することができる。これらの作用を有効に発揮させるには、B含有量は、好ましくは0質量%超、より好ましくは0.0002質量%以上、さらに好ましくは0.0003質量%以上、特に好ましくは0.0004質量%以上である。一方、B含有量が過剰になると、このような効果は飽和し、かつ、延性が低下して加工性が悪くなるおそれがある。そのため、B含有量は、好ましくは0.005質量%以下、さらに好ましくは0.004質量%以下、さらに好ましくは0.003質量%以下である。
[N:好ましくは0質量%超0.01質量%以下]
Nは、不純物元素として不可避的に存在する元素である。N含有量が過剰になると、窒化物を形成して鋼板の加工性が劣化するおそれがある。特に、焼入れ性の向上のために鋼板がBを含有する場合、NはBと結合してBN析出物を形成し、Bの焼入れ性向上作用を阻害する。そのため、N含有量は、好ましくは0.01質量%以下、より好ましくは0.008質量%以下、さらに好ましくは0.005質量%以下に抑制する。
Nは、不純物元素として不可避的に存在する元素である。N含有量が過剰になると、窒化物を形成して鋼板の加工性が劣化するおそれがある。特に、焼入れ性の向上のために鋼板がBを含有する場合、NはBと結合してBN析出物を形成し、Bの焼入れ性向上作用を阻害する。そのため、N含有量は、好ましくは0.01質量%以下、より好ましくは0.008質量%以下、さらに好ましくは0.005質量%以下に抑制する。
また、本発明の第1の実施形態および第2の実施形態における鋼素材の化学組成は、上記成分のほか、強度や十分な加工性を阻害しない範囲で、他の周知の任意成分をさらに含有することもできる。
[残部]
残部はFeおよび不可避不純物である。不可避不純物としては、原料、資材、製造設備等の状況によって持ち込まれる微量元素(例えば、As、Sb、Sn等)の混入が許容される。なお、前述したようなP、SおよびNは、通常含有量が少ないほど好ましいため、不可避不純物ともいえる。しかし、これらの元素は特定の範囲まで含有量を抑えることによって本発明がその効果を発揮することができるため、上記のように規定している。このため、本明細書において、残部を構成する「不可避不純物」は、その組成範囲が規定されている元素を除いた概念である。
残部はFeおよび不可避不純物である。不可避不純物としては、原料、資材、製造設備等の状況によって持ち込まれる微量元素(例えば、As、Sb、Sn等)の混入が許容される。なお、前述したようなP、SおよびNは、通常含有量が少ないほど好ましいため、不可避不純物ともいえる。しかし、これらの元素は特定の範囲まで含有量を抑えることによって本発明がその効果を発揮することができるため、上記のように規定している。このため、本明細書において、残部を構成する「不可避不純物」は、その組成範囲が規定されている元素を除いた概念である。
本発明の第1の実施形態および第2の実施形態における鋼板の製造方法によると、Si含有量が1質量%以上であるにもかかわらず、合金化ムラの抑制と良好な酸洗性とを両立する鋼板を得ることができる。特に、鋼板の製造工程において、酸洗前および酸洗後における鋼板の表面のスケールについての酸洗性を評価する工程、鋼板の表面に生成した還元鉄の量の測定する工程等を含む必要はない。
具体的には、第1の実施形態における鋼板の製造方法によると、均熱保持温度T、均熱保持時間tおよび周囲のガス雰囲気におけるH2濃度P(H2)の焼鈍時の条件を、予め規定された所定の関係式を満たすように設定しておくだけで、前述の効果を有する鋼板を効率的に得ることができる。
第2の実施形態における鋼板の製造方法によると、Cr含有量に応じて、均熱保持温度Tおよび均熱保持時間tの焼鈍時の条件を、予め規定された所定の関係式を満たすように設定しておくだけで、前述の効果を有する鋼板を効率的に得ることができる。
さらに、前述したように、第1の実施形態または第2の実施形態における方法により製造される鋼板を用いて溶融亜鉛めっき鋼板および合金化溶融亜鉛めっき鋼板を製造する場合、連続溶融亜鉛めっきラインを用いると、酸化処理、還元処理、溶融亜鉛めっき処理および合金化処理を一連の製造ラインで連続して行うことができる。このような製造ラインによると、製品の品質を保持したままより安価に効率よく合金化ムラのない高強度高加工性の合金化溶融亜鉛めっき鋼板を製造することができる。具体的には、このように製造される合金化溶融亜鉛めっき鋼板は、980MPa以上の引張強度を有することができる。
以下に、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は実施例により何ら限定されるものではない。
(実施例1)
実施例1では、合金化ムラを抑制できる内部酸化層の量x(g/m2)の下限値を求めた。
実施例1では、合金化ムラを抑制できる内部酸化層の量x(g/m2)の下限値を求めた。
具体的には、Si含有量が1.0質量%以上である鋼素材を用いて、実際に鋼板を製造し、鋼板の表面から深さ1μmまでの固溶Si量(重量%)(詳細には固溶Si量の平均値(重量%))と内部酸化層の量(g/m2)と合金化ムラ抑制効果との関連性について調べた。
まず、後の表1に示す化学組成の鋼材(鋼種A)を転炉にて溶製した後、連続鋳造によりスラブを製造した。得られたスラブを、仕上げ圧延終了温度を900℃として、板厚2.0mmとなるまで熱間圧延し、640℃で巻き取り、得られた熱延鋼板を常温まで冷却した。その後、熱延鋼板を焼鈍炉に投入し、焼鈍を行った。焼鈍条件は、N2-0.5体積%H2の非還元性の雰囲気下において、熱延鋼板を580℃まで約8.5時間で昇温し、580℃で30時間均熱保持し、次いで200℃以下まで約5時間かけて冷却した。その後、得られた焼鈍後の鋼板を、濃度8重量%である塩酸を用いて85℃において40秒間浸漬させることによって酸洗した。最後に、鋼板が板厚2.0mmから1.4mmになるまで冷間圧延を行い、目的の鋼板を得た。
まず、得られた鋼板における様々な位置から20mm×20mm×1.4mm(板厚)の供試片をシャー切断機によって切り出した。その後、各々の供試片について鋼板の表面から深さ1μmまでの固溶Si量(重量%)、詳細には固溶Si量の平均値(重量%)を測定した。鋼板の表面の固溶Si量は、全自動走査型X線光電子分光分析装置(アルバックファイ(株)製、「Quantera-SXM」)を用いて測定した。測定条件は、X線出力:24.2W、X線ビーム径:100μm、および、分析位置:深さ1μmとした。具体的には、下記式を用いて算出した。すなわち、Si(Si-Si,Fe-Si)の{Si(SiOx)+Si(Si-Si,Fe-Si)}に対するピーク面積強度の比率を求めて、求めた比率に実際の鋼中Si含有量を乗じることによって、固溶Si量(重量%)を算出した。
固溶Si量(重量%)=[Si(Si-Si,Fe-Si)/{Si(SiOx)+Si(Si-Si,Fe-Si)}]×鋼中Si含有量
固溶Si量(重量%)=[Si(Si-Si,Fe-Si)/{Si(SiOx)+Si(Si-Si,Fe-Si)}]×鋼中Si含有量
さらに、同時に、固溶Si量(重量%)を測定した供試片の内部酸化層の量(g/m2)を測定した。具体的には、切り出した供試片を、濃度10質量%の塩酸を用いて、温度80℃の条件下で浸漬して、単位面積当たりの溶解量(g/m2)を測定した。
図1のグラフは、このように測定された、固溶Si量(重量%)と内部酸化層の量(g/m2)との相関を示す。ここで、図1のグラフ中の破線で示す以下の式は、回帰分析によって導き出した式である。Rは、相関係数である。
y(固溶Si量(重量%))=-0.1169x(内部酸化層の量(g/m2))+1.8723(R2=0.997)
y(固溶Si量(重量%))=-0.1169x(内部酸化層の量(g/m2))+1.8723(R2=0.997)
次いで、固溶Si量(重量%)および内部酸化層の量(g/m2)と合金化ムラの抑制効果との関係を調べるために、得られた鋼板から合金化溶融亜鉛めっき鋼板を製造した。まず、得られた鋼板に、NOF型の焼鈍炉を有する連続溶融亜鉛めっきラインを適用して、酸化処理、還元処理、溶融亜鉛めっき処理および合金化処理を施した。酸化処理では、17000ppm未満のO2とCO2、N2およびH2Oとを含む燃焼排ガス雰囲気下において、45秒の昇温時間で、約710℃(680℃~730℃)の鋼板温度になるように、鋼板を加熱した。ここで、「鋼板温度」とは、酸化加熱帯であるNOFにおいて加熱制御される鋼板の最高到達板温を意味する。還元処理は、N2-H2のガス雰囲気下において、約800℃(770℃~820℃)の均熱保持温度において50秒間加熱した。溶融亜鉛めっき処理は、還元後の鋼板を亜鉛めっき浴に430℃において浸漬させて、溶融亜鉛めっき層を形成した。このようにして溶融亜鉛めっき鋼板を得て、その後、合金化処理により合金化溶融亜鉛めっき鋼板を得た。
さらに、このようにして得た合金化溶融亜鉛めっき鋼板について、合金化ムラが抑制されているか否かを評価した。具体的には、得られた合金化溶融亜鉛めっき鋼板の外観を目視で観察し、Zn-Fe合金化が進行し、Znの金属光沢がなくなっている場合を「〇」と評価した。一方、Znの金属光沢が残っている場合を「×」と評価した。
合金化ムラの評価を行った結果、鋼板の表面から深さ1μmまでの固溶Si量が1.36重量%以下であれば、当該固溶Si量である鋼板の表面の箇所において合金化ムラを抑制することができることが分かった。図1のグラフから分かるように、固溶Si量が1.36重量%以下であることは、内部酸化層の量が4.4g/m2以上であることに対応する。すなわち、内部酸化層の量が4.4g/m2以上であれば、当該内部酸化層の量を示す鋼板の表面箇所において、合金化ムラは抑制できることが分かった。
(実施例2)
次に、前記式1の下限値である「0.19」を導き出した鋼板の製造方法の実施例について、詳細に説明する。
次に、前記式1の下限値である「0.19」を導き出した鋼板の製造方法の実施例について、詳細に説明する。
実施例2では、まず、熱間圧延の巻き取り温度を550℃とし、焼鈍時の均熱保持温度を540℃とし、焼鈍時の均熱保持時間を30時間(108000秒間)とし、その他については実施例1と同じ方法によって、鋼板を製造した。さらに、実施例1と同じ方法で、鋼板の所定の位置の供試片の内部酸化層の量(g/m2)を測定した。なお、本実施例2では、鋼種Aの鋼材だけでなく、後の表2に示す鋼種Bの鋼材も用いて鋼板を製造し、内部酸化層の量(g/m2)を測定した。鋼板の供試片は、鋼板の圧延方向前端から10mの位置、かつ、鋼板のコイル幅方向エッジから0mm~20mm、20mm~40mm、40mm~60mmまたは60mm~80mmの位置から切り出した。
その結果、いずれの位置の供試片も、前述の実施例1で算出された合金化ムラを抑制できる内部酸化層の量の下限値(すなわち、4.4g/m2)を上回っていた。これは、実施例2において製造された鋼板は、特にコイル幅方向において、合金化ムラを抑制できることを意味している。さらに、このような実施例2の焼鈍時の条件を前記式4に代入することによって得られるx2は内部酸化層の量の二乗である。従って、前記式4に代入して得られたx2は、前記式5で表すように、内部酸化層の合金化ムラに関する下限値として規定できることを意味している。これは、内部酸化層の量が少なすぎると、鋼板の表面近傍の固溶Si量が増加し、合金化ムラが生じるという知見に基づいている。以下の表3において、実施例2の結果をまとめて示す。
(実施例3)
実施例3では、良好な酸洗性の効果を有するための、焼鈍後の鋼板の幅方向エッジ近傍の供試片の酸化スケール面積に対する還元鉄面積率(%)(以下、単に「還元鉄面積率(%)」とも言う)の上限値を求めた。
実施例3では、良好な酸洗性の効果を有するための、焼鈍後の鋼板の幅方向エッジ近傍の供試片の酸化スケール面積に対する還元鉄面積率(%)(以下、単に「還元鉄面積率(%)」とも言う)の上限値を求めた。
具体的には、焼鈍時の均熱保持温度および均熱保持時間を変化させて、その他については実施例1と同じ方法で、酸洗前の各種鋼板を製造した。その後、得られた各々の焼鈍後の鋼板の幅方向エッジ近傍の供試片の酸化スケール面積に対する還元鉄面積率(%)を測定した。具体的には、当該鋼板の幅方向エッジ近傍の供試片は、鋼板の圧延方向に対して平行な方向の位置がランダムである幅方向エッジから0mm~100mmにおける部分から切り出した。
詳細には、供試片の断面SEM像にて観察したスケール画像を大津の方法により2値化して、輝度の大きい群がスケール全体に占める面積率を算出することによって、還元鉄面積率を測定した。参照として、内部酸化層における粒界酸化深さ(μm)も同時に測定した。具体的には、同様に、断面SEM像にて観察した供試片の表面画像を用いて、供試片の表面と水平な方向におけるランダムな5点からの粒界酸化深さを測定し、その平均値を算出することによって測定した。一般的に、内部酸化層における粒界酸化深さ(μm)が深くなる、すなわち内部酸化層の量(g/m2)が増加すると、還元鉄面積率(%)は増加するという関係が成立する。
その後、得られた各々の焼鈍後の鋼板を、濃度10重量%である塩酸を用いて80℃において40秒間浸漬させることによって酸洗した。酸洗後、鋼板の幅方向エッジ近傍の各々の供試片の還元鉄の残存の状態を、目視により観察した。そして、還元鉄が残存していない場合を「〇」とし、酸洗液中で振とうさせることにより還元鉄が剥離される場合を「△」とし、還元鉄が残る場合を「×」として、酸洗性の評価を行った。さらに、このような評価について、「〇」の評価結果が示された鋼板を本発明例とした。これらの結果を、酸洗前に測定した還元鉄面積率(%)と粒界酸化深さ(μm)の結果と共に以下の表4に示す。また、図2において、表4の酸洗性の評価試験をグラフ化した。
これらの酸洗性の評価結果から、焼鈍後の鋼板の幅方向エッジ近傍の酸化スケール面積に対する還元鉄面積率(%)が45%未満であれば、良好な酸洗性を有することが分かった。なお、前述した通り、鋼板の幅方向エッジ近傍は幅方向センター近傍と比べて還元鉄が生じ易いため、当該幅方向エッジ近傍において良好な酸洗性を有することによって、鋼板全体においても良好な酸洗性を有する。
(実施例4)
次に、第1の実施形態における、前記式1の上限値である「0.63」および前記式2を導き出した鋼板の製造方法の実施例について、詳細に説明する。
次に、第1の実施形態における、前記式1の上限値である「0.63」および前記式2を導き出した鋼板の製造方法の実施例について、詳細に説明する。
実施例4では、焼鈍条件に関して、均熱保持時間は30時間(108000秒間)とし、均熱保持温度および焼鈍時の周囲のガス雰囲気におけるH2濃度は変化させて、その他については実施例1と同じ方法によって、酸洗前の各種鋼板を製造した。さらに、実施例3と同じ方法によって、還元鉄面積率(%)を測定した。加えて、前述の実施例3から、還元鉄面積率(%)が45%未満であれば当該鋼板は良好な酸洗性を有することが分かったため、この結果に基づいて、各々の鋼板の酸洗性の評価も行った。これらの結果を焼鈍条件と共に、以下の表5に示す。
上記表5に示すように、620℃の均熱保持温度および30時間(108000秒間)の均熱保持時間である試験No.54では、測定された還元鉄面積率が、前述の実施例3で算出された良好な酸洗性を有することができる還元鉄面積率の上限値(すなわち、45%未満)を下回っていた。従って、試験No.54において製造された鋼板は、良好な酸洗性を有することを意味している。加えて、このような試験No.54の焼鈍時の条件を前記式4に代入することによって得られるx2は内部酸化層の量の二乗である。そのため、当該代入して得られたx2を、前記式6で表すように、内部酸化層の酸洗性に関する上限値として規定することができる。これは、均熱保持温度をより高くすることによって内部酸化層の量が増加してしまうと、還元鉄がより多く生成してしまい、良好な酸洗性が得られないという知見に基づいている。
さらに、図3は、上記表5における焼鈍時の均熱保持温度と周囲のガス雰囲気におけるH2濃度とをプロットしたグラフである。ここで、図3には、試験No.50~試験No.55における焼鈍条件が、前述の実施例3の結果に基づく酸洗性の評価結果と共にプロットされている。具体的には、良好な酸洗性を示す還元鉄面積率が45%未満である場合は「〇」とし、良好な酸洗性を示さない還元鉄面積率が45%以上である場合は「×」としてプロットされている。
これらの評価結果の境界線となる、図3のグラフ中に示される焼鈍時の周囲のガス雰囲気におけるH2濃度P(H2)(体積%)と均熱保持温度T(℃)との関係式である前記式2は、グラフ中における、H2濃度Pが0体積%であり、かつ均熱保持温度Tが625℃である点と、H2濃度Pが1体積%であり、かつ均熱保持温度Tが600℃である点とを結んだ直線により導きだした。これらの点を選択した理由は、次の通りである。H2濃度Pが0%の場合において酸洗性評価が分かれる試験No.54と試験No.55との中間の均熱保持温度Tの625℃の条件下では、その還元鉄面積率も両者の平均の42程度になると想定される。H2濃度Pが1%の場合において酸洗性評価が分かれる試験No.50と試験No.53との中間の均熱保持温度Tの600℃の条件下では、その還元鉄面積率も両者の平均の31程度になると想定される。これらはいずれも良好な酸洗性を示す45%未満の数値に該当する。従って、これらの条件を用いることによって、H2濃度P(H2)と均熱保持温度Tとの関係式を導き出すことができる。
あるいは、前記式2の代替として、試験No.50(H2濃度Pが1体積%であり、かつ均熱保持温度Tが590℃)と試験No.54(H2濃度Pが0体積%であり、かつ均熱保持温度Tが620℃)との結果を用いた、以下の式2’で規定することもできる。
上述した実施例1~実施例4から分かるように、鋼板の製造方法において、前記式1および前記式2(あるいは前記式2’)を満たすように、焼鈍工程における均熱保持温度Tと均熱保持時間tと周囲のガス雰囲気におけるH2濃度P(H2)とを設定することによって、合金化ムラの抑制と良好な酸洗性とを両立する鋼板を効率よく得ることができる。
(実施例5)
実施例5では、第2の実施形態における、前記式1A、前記式1Bおよび前記式1Cの下限値である「0.19」を導き出した鋼板の製造方法の実施例について、詳細に説明する。さらに、第2の実施形態における、前記式1Aの上限値である「0.75Cr[%]+0.48」、前記式1Bの上限値である「0.63」、および、前記式1Cの上限値である「0.93」を導き出した鋼板の製造方法の実施例についても、詳細に説明する。
実施例5では、第2の実施形態における、前記式1A、前記式1Bおよび前記式1Cの下限値である「0.19」を導き出した鋼板の製造方法の実施例について、詳細に説明する。さらに、第2の実施形態における、前記式1Aの上限値である「0.75Cr[%]+0.48」、前記式1Bの上限値である「0.63」、および、前記式1Cの上限値である「0.93」を導き出した鋼板の製造方法の実施例についても、詳細に説明する。
まず、前記式1A、前記式1Bおよび前記式1Cの内部酸化層の合金化ムラに関する下限値については、Cr含有量にかかわらず、第1の実施形態と同様、前述の実施例2の結果に基づき、「0.19」として規定することができる。
実施例5では、前述の実施例1~実施例4で用いた上記表1に示す鋼種Aの鋼材だけでなく、下記表6に示すCr含有量が異なる鋼種Cの鋼材も用いた。焼鈍条件に関しては、均熱保持時間は30時間(108000秒間)とし、焼鈍時の周囲のガス雰囲気におけるH2濃度は0体積%とし、均熱保持温度は各試験によって変化させて、酸洗前の各種鋼板を製造した。その他の詳細な方法は、前述の実施例4と同様である。また、後に示す表7から分かるように、Cr含有量が0.2質量%である鋼種Aの鋼材を用いた試験は、前述の実施例4の上記表5に示す試験No.54および試験No.55である。
次いで、作製した焼鈍後の鋼板における脱炭量(mg/cm2)を測定した。脱炭量は、グロー放電発光分析装置を用いて、各鋼板の試験片の表面の深さ方向での炭素濃度プロファイルより確認した。具体的には、まず、酸化膜と鋼材の界面より深い位置における、炭素量が鋼板母材の9割以下となる部分について、炭素量を確認した。そして、当該部分における炭素量と鋼板母材炭素量との差分を求め、この結果から、各鋼板が単位面積あたりに失った炭素量を脱炭量(mg/cm2)として算出した。
試験No.54および試験No.55の還元鉄面積率(%)は、上記表5に示されている通り、各々、26%または57%である。従って、これらの値に基づき、以下の式を用いることによって、試験No.56~試験No.58において測定された脱炭量(mg/cm2)の値から、還元鉄面積率(%)の推定値を算出した。以下の式から分かるように、脱炭が抑制されることにより、還元鉄面積率も減少させることができる。その詳細な説明については、後に述べる。
還元鉄面積率(%)(推定値)=(57-26)/(13.72-4.84)×(脱炭量(mg/cm2)-4.84)+26
還元鉄面積率(%)(推定値)=(57-26)/(13.72-4.84)×(脱炭量(mg/cm2)-4.84)+26
さらに、前述の実施例3から、還元鉄面積率(%)が45%未満であれば当該鋼板は良好な酸洗性を有することが分かった。そのため、この結果に基づいて各種鋼板の酸洗性の評価も行った。これらの結果を焼鈍条件等と共に、以下の表7に示す。下記表7における(※)に記す数値は、上述した通り、実測値ではなく、推定値であることを示す。
上記表7に示す結果からも分かる通り、一般的に、鋼素材に含まれるCr含有量が増加すると、脱炭が抑制される。還元鉄は、脱炭時の鋼中炭素とスケール中の酸素との結びつきにより発生するため、Cr含有量の増加により脱炭量が少なくなると、生成する還元鉄も少なくなり、良好な酸洗性を得ることができる。換言すると、鋼素材に含まれるCr含有量がより多い場合には、還元鉄を多量に発生させることなく、焼鈍時の均熱保持温度をより高くすることができ、内部酸化層の量を増加させることができる。従って、Cr含有量がより多い程、前記式4に代入して得られるx2に基づく内部酸化層の酸洗性に関する上限値を上げることができる。
Cr含有量が0.2質量%の場合、実施例4においても前述した通り、試験No.54の焼鈍条件を前記式4に代入して得られたx2を、前記式6で表すように、内部酸化層の酸洗性に関する上限値「0.63」として規定することができる。
Cr含有量が0.6質量%の場合、上記表7に示すように、650℃の均熱保持温度および30時間(108000秒間)の均熱保持時間である試験No.58では、推定の還元鉄面積率が、前述の実施例3で算出された良好な酸洗性を有することができる還元鉄面積率の上限値(すなわち、45%未満)を下回っていた。従って、試験No.58において製造された鋼板は、良好な酸洗性を有することを意味する。そのため、Cr含有量が0.6質量%の場合、試験No.58の焼鈍時の条件を前記式4に代入して得られたx2を、前記式7で表すように、内部酸化層の酸洗性に関する上限値「0.93」として規定することができる。
Cr含有量増加に応じて上限値が上がることを考慮すると、Cr含有量が0.2質量%以上0.6質量%以下の場合、内部酸化層の酸洗性に関する上限値は、試験No.54および試験No.58の結果から導くことができる。具体的には、Cr含有量が0.2質量%の場合の上限値「0.63」とCr含有量が0.6質量%の場合の上限値「0.93」の2点を通るCr含有量に対する上限値の直線を、前記式8で表すように、Cr含有量に応じた内部酸化層の酸洗性に関する上限値「0.75Cr[%]+0.48」として規定することができる。
さらに、上記表7から分かる通り、Cr含有量が0.2質量%の場合の試験No.54では、測定された還元鉄面積率が26%であり、良好な酸洗性を有することができる還元鉄面積率の上限値(すなわち、45%未満)を大きく下回っている。従って、Cr含有量が0.2質量%未満(好ましくはCr含有量が0質量%超0.2質量%未満)の場合であっても、Cr含有量が0.2質量%の場合と同様に、内部酸化層の酸洗性に関する上限値を「0.63」として規定できると考えられる。あるいは、Cr含有量が0.2質量%未満(好ましくはCr含有量が0質量%超0.2質量%未満)の場合においても、Cr含有量が0.2質量%以上0.6質量%以下の場合と同様に、Cr含有量が0.2質量%の場合の上限値「0.63」とCr含有量が0.6質量%の場合の上限値「0.93」の2点を通るCr含有量に対する上限値の直線から、内部酸化層の酸洗性に関する上限値を「0.75Cr[%]+0.48」として規定してもよい。
Cr含有量が0.6質量%超1質量%以下の場合、Cr含有量が0.6質量%の場合の試験No.58と比べて、焼鈍時の脱炭はより抑制される。従って、生成する還元鉄の量も少なくなるため、内部酸化層の酸洗性に関する上限値は、より大きい値に設定可能と想定される。従って、Cr含有量が0.6質量%超1質量%以下の場合であっても、Cr含有量が0.6質量%の場合と同様に、内部酸化層の酸洗性に関する上限値を「0.93」として規定できる。
上述した実施例1~実施例3および実施例5から分かるように、鋼板の製造方法において、鋼素材に含まれるCr含有量に応じて前記式1A、前記式1Bまたは前記式1Cを満たすように、焼鈍工程における均熱保持温度Tと均熱保持時間tとCr含有量とを設定することによって、合金化ムラの抑制と良好な酸洗性とを両立する鋼板を効率よく得ることができる。
今回開示された実施形態および実施例は、全ての点で例示であって制限的なものではないと解されるべきである。本発明の範囲は、上記した説明ではなくて特許請求の範囲により示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
Claims (3)
- 前記焼鈍前、前記鋼素材を熱間圧延して、500℃~700℃で巻き取る工程をさらに含む、請求項1に記載の鋼板の製造方法。
- 前記焼鈍後、鋼板を酸洗し、その後冷間圧延する工程をさらに含む、請求項1または2に記載の鋼板の製造方法。
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