JP2022134520A - 架橋高分子化合物およびその製造方法並びに高分子化合物の生成方法 - Google Patents

架橋高分子化合物およびその製造方法並びに高分子化合物の生成方法 Download PDF

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Abstract

【課題】室温で実施可能な簡便な操作で架橋高分子化合物を提供する技術、およびその架橋高分子化合物を室温で解架橋して原料高分子化合物を再生する技術、並びにそれらを実現する架橋高分子化合物を提供する。【解決手段】側鎖にカルボキシ基、カルボン酸塩又はヒドロキシ基を有する高分子化合物に、下記一般式(1)で表されるα-(置換メチル)アクリル化合物を用いて架橋することにより架橋高分子化合物を製造する。TIFF2022134520000007.tif24161[一般式(1)中、R1、R2はそれぞれ独立に、水素原子、又は炭素数1~20の有機基である。Xはハロゲン原子またはアシロキシ基である。Yは-O-または-NH-で表される基を示す。mは2~4の整数である。Zmはm価の連結基で、炭素数2~20の直鎖状もしくは分岐上のアルキレン基またはアリーレン基で、ヘテロ元素を含んでもよい。]【選択図】図1

Description

本発明は、機能性高分子材料として利用可能な、架橋高分子化合物およびその製造方法並びに高分子化合物の生成方法に関する。
架橋高分子化合物はゴム、ゲル、吸水性樹脂、接着剤、硬化剤、塗料、光学材料、3Dプリンタの基材、レジスト材、徐放材料などに使用されるほか、近年では自己修復材料や形状記憶素材などの先端材料にも応用されている。一方で、架橋高分子化合物は3次元網目構造を有し、溶媒不溶で反応剤の拡散が制限されることから、化学反応を起こしにくい。このため、架橋構造を除去し、溶媒可溶な原料高分子化合物を再生することは容易ではない。架橋構造の除去工程において、高温加熱など激しい条件で化学反応を実施すると、架橋鎖のみならず原料高分子化合物も分解する恐れがある。
こうした背景から、解架橋による原料高分子化合物の再生、回収が可能な架橋高分子化合物を設計する場合は、光・熱・酸・塩基といった特定の刺激に応答して切断する、弱い共有結合を架橋鎖に導入する分子設計が検討されている。例えば特許文献1では、光照射によって開裂するニトロベンジル基を用いた架橋高分子化合物の分解が報告されている。非特許文献1では、Diels-Alder反応を利用した熱刺激による架橋・解架橋が報告されている。
ビス[α-(ハロメチル)アクリレート]は、ジカルボン酸やビスフェノール、チオールと塩基の存在下で、共役置換反応を起こし、ポリ共役エステルを与える(特許文献2)。この反応は室温で進行し、数時間~1日以内に完結し、不活性ガス雰囲気など特殊な反応場を必要としない。生成物であるポリ共役エステルは、チオールによる共役置換反応によって、副反応なく定量的に分解することができる(非特許文献2)。
特許第6056111号公報 特開2020-158658号公報
K.Ishida,N.Yoshie,Macromol.Biosci.2008,8,916-922. Y.Kohsaka,T.Miyazaki,K.Hagiwara,Polym.Chem.2018,9,1610-1617
従来技術では分解可能な架橋構造を実現するために、弱い共有結合を導入した特殊な原料高分子化合物を利用している。また、特許文献1、非特許文献1に記載の方法では、架橋・解架橋の工程で光照射や加熱を要する。既に工業的に生産されている高分子を原料に、室温で実施可能な簡便な操作で架橋高分子化合物を提供する技術、およびその架橋高分子化合物を室温で解架橋して原料高分子化合物を再生する技術、並びにそれらを実現する架橋高分子化合物の提供が課題である。
特許文献2、非特許文献2は共役置換反応が穏和な条件で進行する便利な縮合反応で、高分子の合成に有効であることを示している。しかしながら、架橋高分子化合物の合成や分解は検討されていない。したがって、本発明が解決するもう一つの課題は、共役置換反応を用いた架橋高分子化合物の合成および分解に関する技術の提供である。
本発明者らは鋭意検討の結果、α-(置換メチル)アクリル化合物と、高分子側鎖に有するカルボキシ基、カルボン酸塩又はヒドロキシ基の共役置換反応による架橋工程が、穏和な条件で架橋高分子化合物を提供することを見出した。さらに、この架橋高分子化合物とアミンやチオール、アルコールを用いた共役置換反応による解架橋工程により、原料高分子化合物を回収できることを見出した。すなわち、本発明は以下の通りである。
[1]側鎖にカルボキシ基、カルボン酸塩又はヒドロキシ基を有する高分子化合物を、下記一般式(1)で表されるα-(置換メチル)アクリル化合物を用いて架橋する架橋高分子化合物の製造方法。
Figure 2022134520000002
[一般式(1)中、R、Rはそれぞれ独立に、水素原子、又は炭素数1~20の有機基である。Xはハロゲン原子またはアシロキシ基である。Yは-O-または-NH-で表される基を示す。mは2~4の整数である。Zはm価の連結基で、炭素数2~20の直鎖状もしくは分岐上のアルキレン基またはアリーレン基で、ヘテロ元素を含んでもよい。]
[2]前記一般式(1)で表されるα-(置換メチル)アクリル化合物が、下記一般式(1)-1で表されるα-(置換メチル)アクリレートである[1]に記載の架橋高分子化合物の製造方法。
Figure 2022134520000003
[一般式(1)中、R、Rはそれぞれ独立に、水素原子、又は炭素数1~20の有機基である。Xはハロゲン原子またはアシロキシ基である。Zは2価の連結基で、炭素数2~20の直鎖状もしくは分岐上のアルキレン基またはアリーレン基で、ヘテロ元素を含んでもよい。]
[3]前記高分子化合物が、少なくとも、アクリル酸、アクリル酸ナトリウム、メタクリル酸、イタコン酸、ヒドロキシスチレンおよびこれらの誘導体からなる群より、少なくとも一つ選択されるモノマーを重合体成分とする重合体である[1]または[2]に記載の架橋高分子化合物の製造方法。
[4][1]または[2]に記載の一般式(1)または(1)-1のいずれか一つに記載のアクリル化合物と、分子内の側鎖に合計2以上のカルボキシ基、カルボン酸塩又はヒドロキシ基を有する高分子化合物、を反応させて得られ、前記高分子化合物のカルボキシ基、カルボン酸塩又はヒドロキシ基が、前記アクリル化合物と縮合して架橋されている架橋高分子化合物。
[5]前記高分子化合物が、少なくとも、アクリル酸、アクリル酸ナトリウム、メタクリル酸、イタコン酸、ヒドロキシスチレンおよびこれらの誘導体からなる群より、少なくとも一つ選択されるモノマーを重合体成分とする重合体である[4]に記載の架橋高分子化合物。
[6][4]または[5]いずれか一項に記載の架橋高分子化合物に対し、架橋鎖に含まれるアクリル骨格と、アルコール、フェノール、チオール、カルボン酸およびアミンからなる群より、少なくとも一つ選択される求核剤とを、塩基の存在下で反応させて、前記高分子化合物を生成する方法。
本発明によれば、側鎖にカルボキシ基、カルボン酸塩又はヒドロキシ基を有する高分子化合物から架橋高分子化合物を製造する方法、および架橋高分子化合物、並びにその架橋高分子化合物から原料となった高分子化合物に分解する方法を提供することができる。
2価α-(置換メチル)アクリル化合物と、側基にカルボキシ基を有するポリマーを反応させて、架橋高分子化合物を得る反応の模式図である。 ポリ(アクリル酸tert-ブチル-co-アクリル酸n-ブチル)の1H-NMRスペクトルである。 ポリ(アクリル酸-co-アクリル酸n-ブチル)の1H-NMRスペクトルである。 実施例4で使用した原料高分子(実線)と、実施例5における分解生成物(点線)のサイズ排除クロマトグラムである。 実施例5における分解生成物の1H-NMRスペクトルである。 実施例5および比較例1における、各反応時間におけるゲル残存量を示すグラフである。 実施例4で使用した原料高分子(実線)と、実施例7における分解生成物(点線)のサイズ排除クロマトグラムである。 実施例7における分解生成物の1H-NMRスペクトルである。 実施例5および実施例7における、各反応時間におけるゲル残存量を示すグラフである。 実施例4で使用した原料高分子(実線)と、実施例8における分解生成物(点線)のサイズ排除クロマトグラムである。 実施例8における分解生成物の1H-NMRスペクトルである。 比較例1および実施例8における、各反応時間におけるゲル残存量を示すグラフである。
以下、本発明の実施形態について説明する。以下の実施形態は本発明の一例であり、本発明を何ら限定するものではない。
<α-(置換メチル)アクリル化合物を用いて架橋する方法>
本発明の架橋方法は、側鎖にカルボキシ基、カルボン酸塩又はヒドロキシ基を有する高分子化合物を、一般式(1)で表されるα-(置換メチル)アクリル化合物を用いて架橋する方法である。
<<側鎖にカルボキシ基又はカルボン酸塩を有する高分子化合物>>
側鎖にカルボキシ基を有する高分子化合物としては、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、4-カルボキシスチレン、を原料とするビニル高分子化合物類、ポリグルタミン酸およびグルタミン酸をモノマーとするポリペプチド類、アルギン酸、ヒアルロン酸、酸性多糖類が好ましく、カルボキシ基を含まないアクリル酸エステル、スチレン、酢酸ビニル等のビニルモノマーとの共重合体でもよい。アクリル酸又はメタクリル酸の重合体、並びにアクリル酸又はメタクリル酸と、これらのいずれかの誘導体からなる共重合体がより好ましく、アクリル酸とアクリル酸エステルの共重合体が特に好ましい。
側鎖にカルボン酸塩を有する高分子化合物としては、前記側鎖にカルボキシ基を有する高分子化合物の塩が好ましく、特にアルカリ塩が好ましく、アクリル酸ナトリウムの重合体が特に好ましい。
<<側鎖にヒドロキシ基を有する高分子化合物>>
側鎖にヒドロキシ基を有する高分子化合物としては、4-ヒドロキシスチレン、アクリル酸2-ヒドロキシエチル、アクリル酸3-ヒドロキシエチル、アクリル酸2-ヒドロキシプロピル、アクリル酸4-ヒドロキシブチル、メタクリル酸2-ヒドロキシエチル、メタクリル酸3-ヒドロキシエチル、を原料とするビニル高分子化合物類、ポリビニルアルコール、多糖類、リグニンが好ましく、ヒドロキシ基を含まないモノマーとの共重合体でもよい。4-ヒドロキシスチレンの重合体がより好ましい。
<<α-(置換メチル)アクリル化合物>>
α-(置換メチル)アクリル化合物は、一般式(1)で表される。R、Rはそれぞれ独立に、水素原子、又は炭素数1~20の有機基で、水素原子またはフェニル基が好ましく、水素原子がより好ましい。Xはハロゲン原子またはアシロキシ基で、臭素原子または塩素原子が好ましい。Yは-O-または-NH-で表される基で、好ましくは-O-で表される基である。mは2~4の整数で、2が好ましい。Zはm価の連結基で、炭素数2~20の直鎖状もしくは分岐上のアルキレン基またはアリーレン基で、ヘテロ元素を含んでもよい。好ましくは炭素数2~20のアルキレン基、又はフェニレン基であり、より好ましくは炭素数4~12のアルキレン基であり、特に好ましくは炭素数4のブチレン基である。
一般式(1)のα-(置換メチル)アクリル化合物は、一般式(1)-1のα-(置換メチル)アクリル化合物であることが好ましい。一般式(1)-1中のR、R、Xは一般式(1)のそれぞれと同義である。Zは2価の連結基で、炭素数2~20の直鎖状もしくは分岐上のアルキレン基またはアリーレン基で、ヘテロ元素を含んでもよい。
α―(置換メチル)アクリル化合物は、1,4-ブチレンビス[α-(クロロメチル)アクリレート]、1,4-ブチレンビス[α-(ブロモメチル)アクリレート]、1,4-ブチレンビス[α-(アセトキシメチル)アクリレート]、1,4-ブチレンビス[α-(ベンゾイルオキシメチル)アクリレート]、1,6-へキシレンビス[α-(ブロモメチル)アクリレート]、1,8-オクチレンビス[α-(ブロモメチル)アクリレート]、1,4-フェニレンビス[α-(ブロモメチル)アクリレート]、1,3-フェニレンビス[α-(ブロモメチル)アクリレート]、1,4-ブチレンビス[α-(1-クロロ-1-フェニルメチル)アクリレート]が好ましく、より好ましくは1,4-ブチレンビス[α-(クロロメチル)アクリレート]、1,4-ブチレンビス[α-(ブロモメチル)アクリレート]、1,6-へキシレンビス[α-(ブロモメチル)アクリレート]、さらに好ましくは1,4-ブチレンビス[α-(クロロメチル)アクリレート]、1,4-ブチレンビス[α-(ブロモメチル)アクリレート]である。
<<架橋方法>>
高分子化合物に対するα-(置換メチル)アクリル化合物の混合比はゲル化する範囲で自由に設定することができるが、強度の高い架橋高分子化合物を調製するためには、高分子化合物のカルボキシ基、カルボン酸塩又はヒドロキシ基と、アクリル化合物のアクリル骨格がモル比で1:1であることが好ましい。例えばカルボキシ基を有する高分子化合物と、2価アクリル化合物を用いる場合は、カルボキシ基とアクリル化合物のモル比が2:1~10:1であることが好ましく、より好ましくは2:1~3:1である。
塩基は使用しなくてもよいが、カルボキシ基又はヒドロキシ基を反応させる場合は塩基を使用することが好ましく、トリエチルアミン、N,N-ジイソプロピルエチルアミン、ピリジン、1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタンがより好ましく、トリエチルアミン又はピリジンが特に好ましい。塩基の使用量は、α-(置換メチル)アクリル化合物のXがハロゲン原子の場合はアクリル骨格に対して0.05~1.5モル等量を使用することが好ましく、0.10~1.20モル等量以上がより好ましく、0.15~1.10モル等量がさらに好ましい。α-(置換メチル)アクリル化合物のXがアシロキシ基の場合、塩基は触媒量でよく、アクリル骨格に対して0.1~0.2モル等量が好ましい。
溶媒は使用しなくてもよいが、高分子化合物ならびにα-(置換メチル)アクリル化合物を溶解する溶媒、例えばジクロロメタン、テトラヒドロフラン、N,N-ジメチルホルムアミド、1,4-ジオキサン、N,N-ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、アセトニトリル、クロロホルムが好ましい。
加熱はしなくてもよいが、高分子化合物ならびにα-(置換メチル)アクリル化合物の溶解が不十分な場合は、必要に応じて加熱をすることもできる。
<架橋高分子化合物>
本発明の架橋高分子化合物は、一般式(1)または(1)-1のいずれか一つに記載のアクリル化合物と、分子側鎖内に合計2以上のカルボキシ基、カルボン酸塩又はヒドロキシ基を有する高分子化合物、を反応させて得られ、前記高分子化合物のカルボキシ基、カルボン酸塩又はヒドロキシ基が、前記アクリル化合物と縮合して架橋されている架橋高分子化合物である。図1は、2価α-(置換メチル)アクリル化合物と、側基にカルボキシ基を有するポリマーを反応させて、架橋高分子化合物を得る反応を模式的に示すものである。
<高分子化合物の生成方法>
本発明における高分子化合物の生成方法は、前記架橋高分子化合物に対し、架橋鎖に含まれるアクリル骨格と、アルコール、フェノール、チオール、カルボン酸、1級アミンおよび2級アミンからなる群より、少なくとも一つ選択される求核剤とを、塩基の存在下で反応させて、前記高分子化合物を再生する方法である。
<<求核剤>>
求核剤はアルコール、フェノール、チオール、カルボン酸、1級アミン、2級アミンであり、エタノール、フェノール、酢酸、ベンジルメルカプタン、ジチオテレフタール酸、2,2’-ジメルカプトジエチルエーテル、n-プロピルアミン、オレイルアミン、エチレンジアミンなどがあげられる。分解速度を速める観点では、チオール、1級アミン、または2級アミンが好ましく、脂肪族1級チオールまたは脂肪族1級アミンがより好ましく、n-プロピルアミンが特に好ましい。また、水、メタノール、エタノール、酢酸などヒドロキシ基もしくはカルボキシ基をもつ化学種を、溶媒と求核剤の両方の効果を期待して使用してもよい。求核剤の加える量は、架橋高分子化合物に含まれるアクリル骨格と比べて1モル等量以上を用いることが好ましく、分解速度を速める観点では、5モル等量以上用いることが好ましい。
<<溶媒>>
溶媒は用いなくてもよいが、架橋高分子化合物が膨潤する溶媒であることが好ましい。Lewis塩基性の非プロトン性極性溶媒、例えばテトラヒドロフラン、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、アセトニトリル、アセトンは、低極性溶媒や非Lewis塩基性の溶媒、例えばジクロロメタンやクロロホルムに比べて反応を加速させる効果があり、特に好ましい。水、メタノール、エタノール、酢酸などヒドロキシ基もしくはカルボキシ基をもつ化学種を、溶媒と求核剤の両方の効果を期待して使用してもよい。
<<塩基>>
塩基はトリエチルアミン、N,N-ジイソプロピルエチルアミン、ピリジン、1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタンがより好ましく、トリエチルアミン又はピリジンが特に好ましい。塩基の使用量は触媒量でもよいが、分解速度を速める目的で、架橋高分子化合物に含まれるアクリル骨格と比べて1モル等量以上が好ましい。求核剤に1級アミンまたは2級アミンを使用する場合、これらが塩基としても機能するため、別途塩基を加えなくてもよい。
<<温度>>
加熱はしなくてもよいが、架橋高分子化合物の膨潤が不十分な場合や、分解速度が著しく遅い場合は、必要に応じて加熱をすることもできる。
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
<分析機器>
(NMRスペクトル)
核磁気共鳴(NMR)装置(ブルカー(株)製AVANCE NEO)を用いて25℃で測定した。測定溶媒は、重クロロホルムを用い、内部標準は、テトラメチルシラン用いた。
(分子量)
EXTREMAクロマトグラフ(日本分光)にサイズ排除カラムShodex HK-404Lを2本直列に接続し、40℃に加熱した。溶離液としてテトラヒドロフラン(高速液体クロマトグラフ用、安定剤あり、和光純薬工業)を0.6mL・min-1で流し、示差屈折率計(RI-4035,日本分光)で検出した。分子量は標準ポリスチレン(東ソー,TSKゲルオリゴマーキット,MW:1.03×10,3.89×10,1.82×10,3.68×10,1.36×10,5.32×10,3.03×10,8.73×10)による三次曲線で較正した。
<側鎖にカルボキシ基を有するポリマーの合成>
<<ポリ(アクリル酸tert-ブチル-co-アクリル酸n-ブチル)の合成>>
試験管にアクリル酸tert-ブチル(0.0389g,0.303mmol)、アクリル酸n-ブチル(3.86g,30.1mmol)、2,2’-アゾイソブチロニトリル(0.0675g,2.00mol%)を量りとり、1,4-ジオキサン(50mL)を加えて溶解させた。この溶液の凍結脱気を3回行った後に、アルゴン雰囲気下、60℃で24時間反応させた。溶液を水(120mL)に滴下し、遠心分離を行った。溶液をデカンテーションによって取り除き、真空乾燥することで粘性液体を得た(収量:3.29g,収率:85.6%)。H-NMRスペクトルにおける、tert-ブチル基の信号(1.42ppm)とO-メチレン基の信号(4.05ppm)から求めた共重合組成は、アクリル酸tert-ブチル23.6mol%であった。図2に、共重合体のH-NMRスペクトルを示す。
<<ポリ(アクリル酸-co-アクリル酸n-ブチル)の合成>>
100mL二口フラスコにポリ(アクリル酸tert-ブチル-co-アクリル酸n-ブチル)(3.29g,0.0128mmol)を量りとり、ジクロロメタン(25mL)に溶解させた。トリフルオロ酢酸(25mL)を加え24時間撹拌した。反応後、真空乾燥を行った。生成物をジクロロメタン(50mL)で3回抽出を行い、得られた有機層を飽和重曹水(50mL)により洗浄した。ジクロロメタン溶液を硫酸マグネシウムで乾燥し、濾過した後に濃縮、真空乾燥することで黄色粘性液体を得た(収量:2.64g,収率:80.2%,M=3100,D=2.83)。図3に、共重合体のH-NMRスペクトルを示す。tert-ブチル基の信号(1.42ppm)の消失から、カルボキシ基が定量的に生成したことを確認した。
<実施例1> 架橋高分子化合物の合成
ポリパーフルオロエチレン製の試料管にポリ(アクリル酸-co-アクリル酸n-ブチル)(0.662g,カルボキシ基あたり1.36mmol)を量りとり、ジクロロメタン(1.0mL)に溶解させた。1,4-ブチレンビス[α-(クロロメチル)アクリレート](0.212g,0.719mmol)を加えた後、トリエチルアミン(130μL,0.933mmol,アクリル骨格あたり0.528モル等量)を加え24時間静置し、得られたゲルをクロロホルム、ヘキサンを用いて洗浄した(収量:0.528g,収率:67.8%)。
<実施例2> 架橋高分子化合物の合成
ポリ(アクリル酸-co-アクリル酸n-ブチル)を0.424g(カルボキシ基あたり0.870mmol)、1,4-ブチレンビス[α-(クロロメチル)アクリレート]を0.096g(0.33mmol)、トリエチルアミンを60μL(0.43mmol,アクリル骨格あたり0.37モル等量)とした以外は実施例1と同様に行い、収量0.37g(収率:73%)でゲルを得た。
<実施例3> 架橋高分子化合物の合成
ポリ(アクリル酸-co-アクリル酸n-ブチル)を0.496g(カルボキシ基あたり1.01mmol)、1,4-ブチレンビス[α-(クロロメチル)アクリレート]を0.056g(0.19mmol)、トリエチルアミンを40μL(0.29mmol,アクリル骨格あたり0.19モル等量)とした以外は実施例1と同様に行い、収量0.385g(収率:70%)でゲルを得た。
<実施例4> 架橋高分子化合物の合成
ポリ(アクリル酸-co-アクリル酸n-ブチル)を0.353g(カルボキシ基あたり0.724mmol)、1,4-ブチレンビス[α-(クロロメチル)アクリラート]を0.020g(0.068mmol)、トリエチルアミンを20μL(0.14mmol,アクリル骨格あたり0.650モル等量)とした以外は実施例1と同様に行い、収量0.18g(収率:48%)でゲルを得た。
<ゲルの膨潤度測定>
試料管に実施例4で合成した乾燥状態の架橋高分子化合物(約20mg)を量りとり、クロロホルム(1mL)に2日間浸漬し、デカンテーションによって膨潤したゲルを回収し、重量を測定した。膨潤度は下記式に従い計算した。
(膨潤度)={(膨潤状態の重量)-(乾燥状態の重量)}/(乾燥状態の重量)×100%
溶媒をテトラヒドロフラン、ジクロロメタン、1,4-ジオキサン、N,N-ジメチルホルムアミド、アセトン、メタノール、水、ヘキサンに変えて、同様の実験を行った。各溶媒に対する膨潤度を表1に示す。
Figure 2022134520000004
<実施例5 架橋高分子化合物の分解>
反応開始から一定時間経過後のゲルの重量の減少を時間追跡するために、実施例4で合成した乾燥状態のゲルの塊1つを10個に分割した。このうち1つの塊(0.072g)を量りとり、テトラヒドロフラン(1mL)中に浸漬したのちにベンジルメルカプタン(5.1μL,0.44μmol)、トリエチルアミン(6.1μL,4.4μmol)を加え静置した。4日後にゲルが完全に分解したので、反応液を濃縮し粘性液体を得た(収量:0.071g、収率:99%)。ゲルが可溶化したことで、架橋構造の分解が示唆された。この粘性液体(点線)と、原料高分子化合物であるポリ(アクリル酸-co-アクリル酸n-ブチル)(実線)のサイズ排除クロマトグラムの重ね書きを図4に示す。分解生成物の信号のうち、Log MW<2の領域は、求核剤であるベンジルメルカプタンや分解した架橋鎖に由来する信号である。Log MW>3の領域に注目すると、原料高分子化合物の信号と形状が完全に一致したことから、架橋構造の分解により原料高分子化合物が再生したことがわかった。また、この分解生成物のH-NMRスペクトルを図5に示す。架橋剤として用いた2価アクリル化合物にベンジルメルカプタンが置換した化学種由来の信号と、原料高分子化合物の信号が明確に観測され、副反応無く架橋構造が分解し、高分子化合物が再生したことがわかった。
他の試料についても同様の実験を行い、所定時間の反応の後、可溶部を除去して、残留したゲルを乾燥後に重量測定した。各時間における残留した重量のプロットを図6に示す。
<比較例1 3級アミンによる架橋高分子化合物の分解試験>
ベンジルメルカプタンを用いないこと以外は、実施例5と同様に実施した。各時間における残留した重量のプロット(図6)からわかるように、96時間後もゲルの重量減少は観測されず、分解が生じなかった。
図6に示すように、実施例5ではゲルの重量減少が観測され、42時間後には完全分解したのに対し、比較例1では全く分解が生じなかった。このことから、ベンジルメルカプタンによる共役置換反応が、ゲルの分解を引き起こしたことがわかる。実際、分解生成物のH-NMRスペクトル(図5)からも、共役置換反応による分解機構が支持される。トリエチルアミンに代表される3級アミンは塩基であると同時に、求核剤としての性質も併せ持つが、共役置換反応によるゲルの分解を企図する場合は、少なくとも3級アミンのみでは分解が生じず、ベンジルメルカプタンのような求核剤を別途添加する必要とすることがわかる。
<実施例6 高分子化合物の生成>
テトラヒドロフランをジクロロメタンに変えたこと以外は、実施例5と同様に実施した。ゲルが完全に分解し、原料高分子化合物の定量的な生成に96時間を要した。
テトラヒドロフランで分解反応を行った実施例5では42時間で反応が完結したのに対し、ジクロロメタンで反応を実施した実施例6では原料高分子化合物の定量的な生成に96時間を要した。これらの比較から、非プロトン性極性溶媒で、かつLewis塩基性の溶媒であるテトラヒドロフランが分解を加速させることがわかった。
<実施例7 高分子化合物の生成>
反応開始から一定時間後経過後のゲルの重量の減少を時間追跡するために、実施例4で合成した乾燥状態のゲルの塊1つを10個に分割した。このうち1つの塊(0.013g)を量りとり、テトラヒドロフラン(1mL)中に浸漬したのちにn-プロピルアミン(2.0μL,24μmol)を加え静置した。3時間後にゲルが完全に分解したので、反応液を濃縮し粘性液体を得た(収量:0.013g、収率:100%)。ゲルが可溶化したことで、架橋構造の分解が示唆された。この粘性液体(点線)と、原料高分子化合物であるポリ(アクリル酸-co-アクリル酸n-ブチル)(実線)のサイズ排除クロマトグラムの重ね書きを図7に示す。分解生成物の信号のうち、Log MW<2の領域は、分解した架橋鎖に由来する信号である。Log MW>3の領域に注目すると、原料高分子化合物の信号と形状が完全に一致したことから、架橋構造の分解により原料高分子化合物が生成したことがわかった。また、この分解生成物のH-NMRスペクトルを図8に示す。架橋剤として用いた2価アクリル化合物にn-プロピルアミンが置換した化学種由来の信号と、原料高分子化合物の信号が明確に観測され、副反応無く架橋構造が分解したことがわかった。
他の試料についても同様の実験を行い、所定時間の反応の後、可溶部を除去して、残留したゲルを乾燥後に重量測定した。各時間における残留した重量のプロットを図8に示す。
実施例7と実施例5の比較(図9)から、求核剤にベンジルメルカプタンよりn-プロピルアミンを用いた方が、分解が速いことがわかった。また、比較例1と実施例7の比較から、塩基性と求核性を併せ持つアミン類のうち、トリエチルアミンを含む3級アミンではゲルが分解しない一方、1級アミンであるn-プロピルアミンではゲルが分解することが示された。3級アミンによる共役置換反応はアンモニウム塩を生成する可逆反応で、ゲルの分解には適さないことを示している。したがって、ゲルの分解には2級アミン、1級アミンを使用することが好ましい。
<実施例8 高分子化合物の生成>
反応開始から一定時間後経過後のゲルの重量の減少を時間追跡するために、実施例4で合成した乾燥状態のゲルの塊1つを10個に分割した。このうち1つの塊(0.012g)を量りとり、メタノール(1mL)中に浸漬したのちにトリエチルアミン(2.0μL,14μmol)を加え静置した。26時間後にゲルが完全に分解したので、反応液を濃縮し粘性液体を得た(収量:0.011g、収率:92%)。ゲルが可溶化したことで、架橋構造の分解が示唆された。この粘性液体(点線)と、原料高分子化合物であるポリ(アクリル酸-co-アクリル酸n-ブチル)(実線)のサイズ排除クロマトグラムの重ね書きを図10に示す。分解生成物の信号のうち、Log MW<2の領域は、分解した架橋鎖に由来する信号である。Log MW>3の領域に注目すると、原料高分子化合物の信号と形状が完全に一致したことから、架橋構造の分解により原料高分子化合物が生成したことがわかった。また、この分解生成物のH-NMRスペクトルを図11に示す。架橋剤として用いた2価アクリル化合物にメタノールが置換した化学種由来の信号と、原料高分子化合物の信号が明確に観測され、副反応無く架橋構造が分解したことがわかった。
他の試料についても同様の実験を行い、所定時間の反応の後、可溶部を除去して、残留したゲルを乾燥後に重量測定した。各時間における残留した重量のプロットを図11に示す。
実施例8と比較例1の比較(図12)から、トリエチルアミンのテトラヒドロフラン溶液では架橋構造に変化は生じない一方、トリエチルアミンのメタノール溶液中では、メタノールが溶媒と求核剤の役割を果たして架橋構造の分解が生じることがわかった。
<実施例9 架橋高分子化合物の合成>
ポリ(4-ヒドロキシスチレン)(丸善石油化学株式会社製、マルカリンカーS-2P、M=2400,D=2.12,32mg,繰り返し単位あたり0.26mmol)のテトラヒドロフラン(1mL)溶液に、1,4-ブチレンビス[α-(ブロモメチル)アクリレート](25mg,0.13mmol)のテトラヒドロフラン(1mL)溶液を加え、トリエチルアミン(38μL,0.27mmol)を加えた。17時間後、不溶物をクロロホルム(1mL)、アセトン(1mL)、メタノール(1mL)でそれぞれ2回ずつ洗浄し、不溶部として残ったフィルムを回収、真空乾燥し、架橋高分子化合物(18mg,39%)を得た。
<実施例10 架橋高分子化合物の合成>
ポリ(4-ヒドロキシスチレン)(156mg,繰り返し単位あたり1.3mmol)のテトラヒドロフラン(0.3mL)溶液に、1,4-ブチレンビス[α-(ブロモメチル)アクリレート](25mg,0.13mmol)のテトラヒドロフラン(0.3mL)溶液を加え、トリエチルアミン(38μL,0.27mmol)を加えた。17時間後、不溶物をクロロホルム(1mL)、アセトン(1mL)、メタノール(1mL)でそれぞれ2回ずつ洗浄し、不溶部として残ったフィルムを回収、真空乾燥し、架橋高分子化合物(64mg,38%)を得た。
実施例9、実施例10から、本願で示した架橋高分子化合物の合成方法が、ポリ(4-ヒドロキシスチレン)を原料高分子化合物とする場合にも適用できること、架橋剤に2価α-(ブロモメチル)アクリレートが使用できることが示された。
以上の実施例においては、2価α-(ハロメチル)アクリレートによる共役置換反応によって、アクリル酸の重合体や4-ヒドロキシスチレンの重合体から分解性ゲルを簡単に調製できること、その分解性ゲルがメタノール、ベンジルメルカプタン、n-プロピルアミンによって副反応を起こすことなく容易に分解し、原料高分子化合物を定量的に生成することが示された。また、本願で示した分解性ゲルの調製方法は、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸ナトリウム、天然のカルボン酸担持型ポリマー(アルギン酸、ヒアルロン酸、ポリグルタミン酸)などカルボキシ基を有する高分子化合物、ならびにポリビニルアルコールや、ポリ(アクリル酸2-ヒドロキシエチル)などのヒドロキシ基を有する高分子化合物にも適用可能であると思われ、様々な分解性架橋高分子化合物を提供することができる。
以上で示した各実施形態のおける各構成及びそれらの組み合わせ等は一例であり、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、構成の付加、省略、置換、およびその他の変更が可能である。また、本発明は各実施形態によって限定されることはなく、請求項(クレーム)の範囲によってのみ限定される。
本発明は、ゲル、接着剤、ゴム、レジスト材、徐放剤、硬化剤、塗料、化粧品分野、医用工学分野、及びこれらの材料のケミカルリサイクルなどにおいて有用である。

Claims (6)

  1. 側鎖にカルボキシ基、カルボン酸塩又はヒドロキシ基を有する高分子化合物に、下記一般式(1)で表されるα-(置換メチル)アクリル化合物を用いて架橋する架橋高分子化合物の製造方法。
    Figure 2022134520000005
    [一般式(1)中、R、Rはそれぞれ独立に、水素原子、又は炭素数1~20の有機基である。Xはハロゲン原子またはアシロキシ基である。Yは-O-または-NH-で表される基を示す。mは2~4の整数である。Zはm価の連結基で、炭素数2~20の直鎖状もしくは分岐上のアルキレン基またはアリーレン基で、ヘテロ元素を含んでもよい。]
  2. 前記一般式(1)で表されるα-(置換メチル)アクリル化合物が、下記一般式(1)-1で表されるα-(置換メチル)アクリレートである請求項1に記載の架橋高分子化合物の製造方法。
    Figure 2022134520000006
    [一般式(1)-1中、R、Rはそれぞれ独立に、水素原子、又は炭素数1~20の有機基である。Xはハロゲン原子またはアシロキシ基である。Zは2価の連結基で、炭素数2~20の直鎖状もしくは分岐上のアルキレン基またはアリーレン基で、ヘテロ元素を含んでもよい。]
  3. 前記高分子化合物が、少なくとも、アクリル酸、アクリル酸ナトリウム、メタクリル酸、イタコン酸、ヒドロキシスチレンおよびこれらの誘導体からなる群より、少なくとも一つ選択されるモノマーを重合体成分とする重合体である請求項1または2に記載の架橋高分子化合物の製造方法。
  4. 請求項1または請求項2に記載の一般式(1)または(1)-1のいずれか一つに記載のアクリル化合物と、分子内の側鎖に合計2以上のカルボキシ基、カルボン酸塩又はヒドロキシ基を有する高分子化合物、を反応させて得られ、前記高分子化合物のカルボキシ基、カルボン酸塩又はヒドロキシ基が、前記アクリル化合物と縮合して架橋されている架橋高分子化合物。
  5. 前記高分子化合物が、少なくとも、アクリル酸、アクリル酸ナトリウム、メタクリル酸、イタコン酸、ヒドロキシスチレンおよびこれらの誘導体からなる群より、少なくとも一つ選択されるモノマーを重合体成分とする重合体である請求項4に記載の架橋高分子化合物。
  6. 請求項4または5いずれか一項に記載の架橋高分子化合物に対し、架橋鎖に含まれるアクリル骨格と、アルコール、フェノール、チオール、カルボン酸、1級アミンおよび2級アミンからなる群より、少なくとも一つ選択される求核剤とを、塩基の存在下で反応させて(求核剤が塩基を兼ね備えていてもよい)、前記高分子化合物を生成する方法。

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