JP2022133232A - 二重殻液体水素タンク - Google Patents

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Abstract

【課題】断熱性能が高く、且つ支持力が大きい底部断熱支持構造を有する二重殻平底円筒形液体水素タンクを提供する。【解決手段】内槽と外槽との間にヘリウムガスを充填している二重殻平底円筒形液体水素タンクの底部断熱支持構造は、箱体41を外槽の底板上に左右方向および前後方向に複数個並べて配置した下部箱体列40と、下部箱体列40の上に置かれた下部支え板と、箱体41を下部支え板上に左右方向および前後方向に複数個並べて配置した上部箱体列60と、上部箱体列60の上に置かれ、内槽を下から支える上部支え板と、下部箱体列および上部箱体列を構成する各箱体41の中に収容され、内部空間が真空状態とされている真空容器61とを備える。各箱体41およびその中に収容されている各真空容器61は、鉛直方向に延びる中心軸線が一致するようにされている。【選択図】図5

Description

この発明は、液体水素を貯蔵した内槽と、この内槽を取り囲む外槽とを備えた二重殻液体水素タンクに関し、特に内外槽間を大気圧にした状態で、中空の真空体を含む断熱箱を用いて内外槽間を断熱する二重殻液体水素タンクに関するものである。
液化天然ガス(LNG)を低温にて大量に貯蔵するLNGタンクが知られている。現在、LNGは火力発電のエネルギー源となっており、LNGタンクは大型化が進み、20万mの容積のものも提供されている。
LNGタンクは、設置場所に応じて地上用、地下用、タンカー用がある。また、その形状から、球形、円筒形、角形タンクがある。さらに、その構造から、二重殻式、メンブレン式タンクがある。大量のLNGを運搬するLNG船として、例えば、球形タンクを用いたモス型LNG船、角型タンクを用いたSPB式LNG船などがある。LNGタンクの構造は、概ね、LNGを貯蔵する内槽と、内槽を取り囲む外槽とを備え、内槽と外槽との間の空間に大気圧窒素雰囲気で粒状パーライト層、ポリウレタン層、泡ガラス層などの断熱層を設けている。
本願発明が対象とするものは、LNGではなく、液体水素である。液体水素は水素ガスを液化したものであり、液体水素タンクは液体水素を貯蔵するものである。水素ガスは燃焼しても炭酸ガスを排出しないので、LNGに比べてより環境にやさしいクリーンなエネルギーである。このため、近い将来、本格的な水素燃料時代が到来すると思われる。この時には、貯蔵容量が数万m以上もの大型液体水素タンクが必要になってくる。
水素ガスの沸点は-253℃であり、LNGの沸点である-162℃よりも91℃低い。液体水素はLNGに比べて蒸発し易く、液体水素貯蔵時における蒸発ロスが大きい。このため、液体水素タンクには、LNGタンクの断熱性能よりも高い断熱性能が求められる。具体的には、LNG船モス型球形タンクの断熱性能は14W/m程度であるが、液体水素タンクでは2W/m程度が要求される。
例えばLNGタンクの断熱層の厚さが300mmである場合、液体水素タンクの断熱にLNGタンクと同じ断熱材を使用したとすると、液体水素タンクの液体水素蒸発率(BOR)をLNGタンクのLNG蒸発率と同じにするためには、液体水素タンクの断熱層の厚さを3000mmにする必要がある。このような極端に厚い断熱層を設けることを回避するために、液体水素タンクには断熱性能が高い真空断熱の利用が必要になってくる。
将来建造される大型液体水素タンクは、従来の大型LNGタンクの延長線上でその構造を改良し、発展させたものと予想される。因みに、現存する液体水素タンクとして最大容量のものは、国内では神戸空港島に2,500mの液体水素タンク、海外では米国NASAに3,218mの液体水素タンクがある。両タンクとも内槽吊り下げ方式の構造で、パーライト真空断熱方式の陸上二重殻球形タンクである。現在において、1万mを超えるような大型液体水素タンクは存在しない。
特開2011-127624号公報(特許文献1)は、二重殻円筒形LNGタンクの構造を開示している。図20は、この公報に開示された二重殻円筒形LNGタンクの構造を示している。この図を参照して、従来の二重殻円筒形LNGタンクの底部断熱支持構造を説明する。
LNGタンクは、LNGを貯蔵している円筒形の内槽1と、内槽1を取り囲む円筒形の外槽2と、底部断熱支持構造3とを備える。内槽1は、底板1aと、側板1bと、ドーム状の屋根板1cとを有し、外槽2は、底板2aと、側板2bと、ドーム状の屋根板2cとを有する。外槽2の底板2aは、基礎50上に設けられる。
外槽2、内槽1の底板2a,1aは、一般に、側板2b,1bを下から支える板厚の大きいアニュラー板部と、アニュラー板部の内径側に位置する板厚の小さい内径側底板部とからなるが、ここでは両者を含めて底板と記す。以下において、両者の区別が必要なときには、アニュラー板部及び内径側底板部と記す。
外槽2と内槽1との間の空間に断熱層が形成される。この断熱層は、外槽2の底板2aと内槽1の底板1aとの間に設けられる底部断熱支持構造3と、外槽2の側板2b及び屋根板2cと、内槽1の側板1b及び屋根板1cとの間に設けられる窒素ガス・粒状パーライト断熱層4とからなる。
底部断熱支持構造3は、外槽2の底板2a上に設けられた平盤状のレベルコンクリートからなる底部支持部3aと、この底部支持部3a上であって内槽1の底板1aのアニュラー板部の下方に設けられたコンクリート製のリング状支持部3bと、リング状支持部3bの内径側であって底部支持部3a上に設けられた積層構造部3cとを有する。
底部支持部3aは、断熱コンクリート、例えば現場打設のパーライトコンクリートからなる。リング状支持部3bには、内槽1の自重、LNG自重等の荷重がかかる。そのため、リング状支持部3bには断熱性及び高い支持強度が要求される。リング状支持部3bは、例えばパーライトコンクリートブロック、軽骨コンクリートブロックからなる。
積層構造部3cは、多孔質断熱材3c1と不陸調整材(キャッピング材)3c2とを交互に積層し、この積層部の上に強度の高い硬質断熱材3c3を配置したものである。積層構造部3cには、LNG自重だけがかかる。多孔質断熱材3c1は、例えば泡ガラスブロックである。強度の高い硬質断熱材3c3は、例えば軽量気泡軽骨コンクリートである。
内槽1の底板1aは、リング状支持部3b及び硬質断熱材3c3上に載っている。言い換えれば、内槽1は、底部断熱支持構造3を介して基礎50に支持されている。
低温工学Vol.38, No.5(2003)193頁~203頁に掲載された神谷祥二氏執筆の論文「液体水素輸送・貯蔵技術の開発」(非特許文献1)には、固体真空断熱方式の二重殻円筒形液体水素タンクの底部断熱支持構造が記載されている。この論文に記載のタンクでは、内槽と外槽との間の大空間を真空にし(大空間真空断熱方式)、アニュラー板部の下に位置するリング状支持部を、単一のコンクリート製にするのではなく、高密度ポリウレタンフォームブロックと、その上に位置する軽骨コンクリートブロックとの2層構造としている。
リング状支持部には、内槽自重、液体水素自重等がかかるため、高い圧縮強度が求められる。それと同時に、高い断熱性能も求められる。非特許文献1に記載の構造では、断熱性能をある程度犠牲にして圧縮強度を高めた軽骨コンクリートブロックでまず大きな荷重を受け止め、次に高密度ポリウレタンフォームブロックで軽骨コンクリートブロックからの荷重を受け止めるようにしている。軽骨コンクリートの圧縮強度及び熱伝導率は高密度ポリウレタンフォームよりも高い。そのため、圧縮強度は主として軽骨コンクリートが担い、断熱性は主として高密度ポリウレタンフォームが担う。内径側底板部下方の断熱構造は、図20に示したタンクとほぼ同様に、泡ガラス(フォームグラス)およびポリウレタンフォームからなっている。
特開2008-164066号公報(特許文献2)には、低温液化ガス貯蔵タンクの底部断熱支持構造として複数の筒状体を平面的に並設したものを使用している。
国際公開WO2014/174819号公報(特許文献3)は、船舶に搭載されて液化ガスを貯蔵するタンクの支持構造を開示している。具体的には、真空断熱方式の二重殻横置き円筒形タンクにおいて、熱伝導率が低くて強度の高いガラス繊維強化プラスチック(GFRP)からなる筒状体を内槽と外槽との間に複数設けて、内槽が筒状体を介して外槽に支持される構造が提案されている。
特開2020-29873号公報(特許文献4)は、液化ガスを貯蔵するタンクの内槽と外槽との間の断熱床構造を開示している。図21は、この特許文献4の図2を引用掲載したものである。この公報に開示された真空断熱方式の二重殻平底円筒形タンクでは、格子断面形状もしくは円管断面形状の低熱伝導率材料からなる側壁が、外槽の底板と内槽の底板との間に配置されている。
特開平7-139699号公報(特許文献5)は、超大型の内槽を支持でき且つ保冷性能の高い内槽の支持台を備えた極低温タンクを開示している。図22は、この特許文献5の図2を引用掲載したものである。この公報に開示された真空断熱方式の二重殻平底円筒形タンクでは、硬質合成樹脂板材を横断面ハニカム状または格子状に組み立てて形成された支持台が、基台と内槽との間に設けられている。
特開平7-215394号公報(特許文献6)は、液体水素輸送タンカーの断熱保冷構造体を開示している。図24は、この公報に開示された断熱保冷構造体を示している。断熱保冷構造体10Aは、液体水素を内蔵するタンク2Aの外壁に互いに間隔を隔てて取り付けられた複数の積層された矩形プラスチックフォーム12Aと、積層されたプラスチックフォームの間に挟持され、内部が真空の複数の真空断熱ブロック(真空パネル)11Aと、隣接するプラスチックフォーム12Aの隙間および隣接する真空断熱ブロック11Aの隙間に充填された柔軟な断熱材7A,13Aと、からなる。矩形プラスチックフォーム12Aは、外壁に垂直に外方に延びた複数のスタッドボルト5Aと、該スタッドボルトに螺合する固定治具6Aとにより、タンク2Aの外壁に取り付けられている。
上記のいわゆる真空パネル方式のタンクでは、プラスチックフォーム(ポリウレタンフォーム)と、熱伝導率がプラスチックフォームより一桁小さい真空断熱ブロック(真空パネル)とを組み合わせて積層したものを、液体水素タンクの外壁に溶接されたスタッドボルトとこれに螺合する固定治具(ナット)によって、液体水素タンクの外壁に押さえつけながら締め付け固定している。この断熱方式では、内槽と外槽との間の大空間を真空にする困難さが解消され外槽の外圧座屈の心配もない。また、真空パネルを多く使用するので真空リークに対して大空間真空断熱方式より格段に安全性が高い。
特開平7-232695号公報(特許文献7)は、液体水素タンカーを開示している。図25は、この公報に開示された液体水素タンカーを示している。双胴型船体1Bの上部にタンク収容容器2Bを設け、このタンク収容容器2Bの内部に自立角型タンク式の液体水素タンク3Bを設置している。具体的には、液体水素タンク3Bは、その外面に保冷材5Bが取り付けられており、支持材6B,7Bを介してタンク収容容器2B内に支持されている。タンク収容容器2Bと液体水素タンク3Bとの間のボイドスペース8Bに、および液体水素タンク3Bと保冷材5Bとの間の隙間に、ヘリウムガスが封入されている。
特開2011-127624号公報 特開2008-164066号公報 国際公開WO2014/174819号公報 特開2020-29873号公報 特開平7-139699号公報 特開平7-215394号公報 特開平7-232695号公報
低温工学Vol.38, No.5(2003)193頁~203頁に掲載された神谷祥二氏執筆の論文「液体水素輸送・貯蔵技術の開発」
非特許文献1に記載された固体真空断熱方式の二重殻円筒形液体水素タンクの底部断熱支持構造では、液体水素自重、内槽自重等の大きな荷重がかかるリング状支持部が、高密度ポリウレタンフォームブロックと、断熱性能をある程度犠牲にして圧縮強度を高めた軽骨コンクリートブロックとからなっている。すなわち、軽骨コンクリートブロックで大きな荷重を受け止め、次に軽骨コンクリートブロックを高密度ポリウレタンフォームブロックで受け止める構造になっている。
軽骨コンクリートブロックの熱伝導率は、例えば常温で0.52(W/m・K)程度であり、真空部の熱伝導率(例えば常温で0.003(W/m・K)程度)の173倍にもなる。高密度ポリウレタンフォームの熱伝導率は常温で0.023(W/m・K)程度であり、真空部の熱伝導率に比べてはるかに大きい。そのため、リング状支持部で固体真空断熱方式を採用しても、液体水素タンクに要求される2W/m程度の断熱性能を実用的な断熱厚さ(例えば1.5m以内)で達成するのは難しい。
高密度ポリウレタンフォームの熱伝導率は軽骨コンクリートブロックの熱伝導率よりもかなり小さいが、その圧縮強度が軽骨コンクリートブロックの圧縮強度(常温で40MPa程度)に比べて格段に小さすぎるので、リング状支持部全体を高密度ポリウレタンフォームで構成することはできない。さらに、軽骨コンクリートブロック中に含まれる水分などからのアウトガスがあり、内槽と外槽との間の大空間を高度な真空(例えば、0.01Pa~0.0001Pa)に保つのが難しくなる。
リング状支持部の内側の断熱支持構造部には、比重が0.071の液体水素の自重しかかからない。この断熱支持構造部は、泡ガラスブロックやポリウレタンフォームブロックからなる。泡ガラスの熱伝導率は常温で0.047(W/m・K)程度であり、ポリウレタンフォームの熱伝導率は常温で0.023(W/m・K)程度である。泡ガラスブロックを用いる断熱支持構造の場合、固体真空断熱方式を採用しても、この断熱部で2W/m程度の断熱性能を実用的な断熱厚さで達成するのは困難である。また、ポリウレタンフォームブロックのみからなる断熱支持構造は採用し難い。なぜなら、ポリウレタンフォームの圧縮強度は常温で0.29MPa程度であり、泡ガラスの圧縮強度(常温で1.6MPa程度)に比べてかなり小さいからである。
特許文献3に開示された断熱支持構造の場合でも、外槽から内槽への熱の侵入を効果的に抑制する必要がある。このことをより詳しく説明する。内槽の外周面には、周方向に延びる帯状の補強板が溶接によって固定されている。さらにこの補強板には内側嵌合部を有する内側部材が溶接によって固定されている。外槽の内周面には一対の円弧状のバーが溶接によって固定されている。一対の円弧状バーの間の領域で外槽の内周面に、外側嵌合部を有する外側部材が配置される。外側部材は一対の円弧状バーに挟まれた領域内で外槽の内周面に沿ってスライド可能である。GFRPの筒状体の上方端部は内側嵌合部に嵌合し、下方端部は外側嵌合部に嵌合している。このような構造の場合、補強板と内側部材と筒状体の壁と外側部材とによって、内槽と外槽との間に熱橋ができている。
GFRPの熱伝導率はステンレス鋼の熱伝導率の40分の1程度であるが、真空部の熱伝導率(例えば、0.003W/m・K)の133倍程度もあるので、外槽からこの熱橋を介して内槽に流入する伝熱量は少なくなく、高い断熱性能が要求される液体水素タンクにおいては好ましくない。
図21に示す断熱床構造の場合でも、外槽から内槽への熱の侵入を抑制することが必要である。基台上に設けられた外槽の底板と内槽の底板との間の真空保冷層に、格子断面形状または円管状断面形状の低熱伝導率材からなる側壁が鉛直に配置されていて、この側壁が外槽の底板と内槽の底板との間で熱橋となっている。このため、所望の断熱性能を得るには断熱床の高さを大きくしなければならず、ひいては断熱床の座屈強度の低下を招く。
図22に示す支持台の場合でも、外槽から内槽への熱の侵入をさらに抑制する余地がある。図23は、図22に示した支持台の図解的平面図を示している。
図22に示すように、アルミ蒸着された表面を持つ硬質合成樹脂板を格子状に組み立てて形成された支持台(3)が、基台(2)と内槽(4)の底板(4a)との間に設けられている。支持台(3)は、格子状の単位格子層(3a,3b,3c)を3段に積み重ねたものである。単位格子層の積み重ねは、図23に示す構造、すなわち断面正方形の筒状体同士を上下に当接させて積み重ねたものと熱伝導的に等価と考えられる。
図23において、上段に位置する断面正方形の筒状体の開口を実線で示し、その下の下段に位置する断面正方形の筒状体の開口を点線で示している。図示するように、上段の単位格子層を構成する断面正方形の筒状体は、下段の単位格子層を構成する断面正方形の筒状体に対して、一辺の長さdの半分のd/2の長さだけ横にずらして積み重ねられている。この構造では、上段の断面正方形の筒状体の対向する2個の鉛直壁と、下段の断面正方形の筒状体の対向する2個の鉛直壁とが重なって、鉛直方向に連なった壁を形成する。この鉛直方向に連なった壁が基台と内槽の底板との間で熱橋となる。
図23において、上下の鉛直壁の重なり部分8に斜めハッチングを施している。図示するように、4個の鉛直壁を持つ各筒状体は、2個の鉛直壁部分で重なるので全断面積に占める重なり部分の断面積はかなり大きい。断面積を小さくする一つの手法として、重なり部分となる鉛直壁の厚みを小さくすることが考えられるが、そのようにすれば座屈強度が低下してしまう。したがって、支持台の所望座屈強度を確保しながら、重なり部分の面積を減らす工夫が必要である。
液体水素タンクの断熱にポリウレタンを使用した場合、液体水素タンクに要求される断熱性能2W/m程度を達成するには、ポリウレタン層だと3メートルもの断熱厚さが必要になる。真空部の熱伝導率は、例えば0.003W/m・K程度である。このため、液体水素タンクの断熱に真空断熱の利用が考えられる。
液体水素タンクの真空断熱法として、a)タンクの内外槽間の大空間を高度な真空にする大空間真空断熱法、およびb)内槽に多数の真空パネルを取り付ける真空パネル法がある。大空間真空断熱法の場合、大空間を高度な真空(例えば、0.01Pa~0.0001Pa)にし、これを長期間維持することは容易ではない。また、内外槽間の空間を真空にするため外槽の外圧座屈の問題がある。真空パネル法の場合、真空パネルはポリウレタンフォームコアを板厚0.3mm程度の薄いステンレス板で包皮し、包皮端部を精密溶接したものである。このための製作コストが高く、また薄い包皮は損傷し易いので、建設現場でのハンドリングやタンクの取付が厄介なものとなる。後述するように、タンク用の真空パネルが試作されているが、熱伝導率が高すぎ、パネル厚さも300mm以下である。
特許文献6に開示された液体水素タンカーの断熱保冷構造体(図24参照)の場合、真空断熱ブロック(真空パネル)11Aを保持するために、これをプラスチックフォーム(ポリウレタンフォーム)12Aを介して、スタッドボルト5Aおよび固定治具(ナット)6Aによってタンク2Aの外壁に締め付け固定している。真空パネルは厚い平板状のポリウレタンフォームを板厚0.3mm程度の薄いステンレス板で包皮したものであるので、締め付け荷重を大きく作用させると真空パネルを損傷するおそれがある。さらに、剛性の小さいプラスチックフォームと真空断熱ブロックとを何段も重ねて使用する場合、断熱厚さが800mm以上ともなると、LNGタンクにおいて断熱材の取付に用いられているスタッドボルト方式をそのまま液体水素タンクに適用できるかには疑問が残る。
また、内槽に液体水素が貯蔵されると、真空パネルは、その上下面の温度差で反り返るので、これを防止するためには上記の締め付け力を過大にせざるを得ない。真空パネルを、例えば正方形台の形状にしようとするとき、8隅をシャープに仕上げるのは難しい。ステンレス包皮内を排気するとき、8隅で薄いステンレス包皮がしわでゆがんで変形し易いからである。このゆがんだ真空パネルを所定の部位にピッタリ収まるように取り付けようとしても、真空パネルのゆがんだ8隅とその周りとの間に大きな隙間が生じ、真空パネルの断熱性能を大きく損ねる。
プラスチックフォーム(ポリウレタンフォーム)と真空パネルとを組合せて積層したものだけでは圧縮強度が小さいので、補強構造を設けなければ、二重殻平底円筒形液体水素タンクの底部断熱支持構造とすることはできない。
二重殻平底円筒形液体水素タンクの底部断熱支持構造で真空断熱を利用する場合、熱伝導率の小さい真空空間を大きく確保しながら、且つ支持力が大きい底部断熱支持構造をどのように作るかが大きな課題となる。熱伝導率があまりにも高いコンクリートブロックを含むリング状支持部を無くすような構造にすることも望まれる。
また、多数の真空パネルを内槽の外面にどのような方法で取り付けるかも大きな課題となる。
そこで、本発明は、断熱性能が高く、且つ支持力が大きい底部断熱支持構造を有する大型の二重殻平底円筒形液体水素タンクを提供することを目的とする。
本発明の他の目的は、所定の断熱性能を確保でき、かつ安全性が高い二重殻液体水素タンクを提供することである。
本発明の一つの局面において、二重殻平底円筒形液体水素タンクは、底板、側板及び屋根板を有する内槽と、底板、側板及び屋根板を有する外槽と、外槽の底板と内槽の底板との間に設けられる底部断熱支持構造とを備え、内槽と外槽との間の空間に大気圧のヘリウムガスを充填している。
底部断熱支持構造は、下部箱体列と、下部支え板と、上部箱体列と、上部支え板と、真空容器とを備える。
下部箱体列は、周囲を囲む側壁と、側壁の上端に固定される上蓋と、側壁の下端に固定される下蓋とからなる箱体を外槽の底板上に左右方向および前後方向に複数個並べて配置したものである。下部支え板は、下部箱体列の上に置かれる。
上部箱体列は、周囲を囲む側壁と、側壁の上端に固定される上蓋と、側壁の下端に固定される下蓋とからなる箱体を下部支え板上に左右方向および前後方向に複数個並べて配置したものである。上部支え板は、上部箱体列の上に置かれ、内槽を下から支えるものである。
真空容器は、下部箱体列および上部箱体列を構成する各箱体の中に収容され、周囲を囲む側壁と、側壁の上端に固定される上板と、側壁の下端に固定される下板とからなり、内部空間が真空状態とされている。
各箱体およびその中に収容されている各真空容器は、鉛直方向に延びる中心軸線が一致するようにされている。下部箱体列の各箱体の中心軸線と、上部箱体列の各箱体の中心軸線とは、水平方向に見て左右方向および前後方向にずれた位置関係となっている。
好ましい実施形態では、各真空容器は、水平面で切断した横断面形状が円形である。また、一つの実施形態では、下部箱体列および上部箱体列を構成する各箱体は、水平面で切断した横断面形状が正方形である。他の実施形態では、各箱体は、水平面で切断した横断面形状が円形である。
好ましくは、正方形断面の下部箱体列の各箱体の中心軸線と、上部箱体列の各箱体の中心軸線とは、箱体の正方形の辺の長さの1/2の長さだけ水平方向に見て左右方向および前後方向にずれた位置関係となっている。
好ましくは、各箱体とその中に収容されている各真空容器との間に、断熱材が配置されている。真空容器は、例えばステンレス鋼板からなる。各箱体は、例えばガラス繊維強化プラスチックからなる。
一つの実施形態では、底部断熱支持構造は、外槽の底板上に設けられ、下部箱体列の外縁部に接してこの下部箱体列を取り囲む堰体をさらに備える。
本発明の他の局面において、二重殻液体水素タンクは、底板、側板及び屋根板を有し、内部に液体水素を貯留する内槽と、底板、側板及び屋根板を有する外槽と、外槽と内槽との間に設けられる断熱構造とを備える。内槽と外槽との間の空間には大気圧のヘリウムガスが充填されている。
断熱構造は、第1箱体列と、第2箱体列と、真空容器とを備える。
第1箱体列は、周囲を囲む箱体側壁と、箱体側壁の一方端に固定される一方側端壁と、箱体側壁の他方端に固定される他方側端壁とからなる箱体を、一方側端壁が内槽の外面に対面する姿勢で、内槽の外面上にX方向およびY方向に複数個並べて配置したものである。
第2箱体列は、周囲を囲む箱体側壁と、箱体側壁の一方端に固定される一方側端壁と、箱体側壁の他方端に固定される他方側端壁とからなる箱体を、一方側端壁が第1箱体列の箱体の他方側端壁に対面する姿勢で、第1箱体列の上にX方向およびY方向に複数個並べて配置したものである。
真空容器は、第1箱体列および第2箱体列を構成する各箱体の中に収容されるものであり、各箱体の箱体側壁の内面に対面した姿勢で周囲を囲む容器側壁と、容器側壁の一方端に固定される一方側容器蓋と、容器側壁の他方端に固定される他方側容器蓋とからなり、内部空間が真空状態とされている。
各箱体およびその中に収容されている各真空容器は、鉛直方向または水平方向に延びる中心軸線が一致するようにされている。そして、第1箱体列の各箱体の中心軸線と、第2箱体列の各箱体の中心軸線とは、X方向およびY方向にずれた位置関係となっている。
断熱構造は、好ましくは、外槽の底板と内槽の底板との間に設けられる底部断熱支持構造と、外槽の側板と内槽の側板との間に設けられる側部断熱構造と、外槽の屋根板と内槽の屋根板との間に設けられる屋根部断熱構造とを備える。
一つの実施形態では、内槽は角柱形状をしている。この場合、外槽が角柱形状をしていてもよいが、他の形状であってもよい。
他の実施形態では、外槽および内槽は円筒形状をしている。この場合、好ましくは、内槽の円筒形側板上に配置される第1箱体列および第2箱体列の各箱体の一方側端壁および他方側端壁の外表面は、内槽の中心軸線を中心とする円周線に沿う湾曲形状を有している。
好ましい実施形態では、X方向およびY方向に隣接する箱体間の間に隙間を形成するためのスペーサを備える。このスペーサは、例えば、各箱体の箱体側壁の外面のうち、内槽側に近い側の端部領域に固定されている。
一つの局面における本発明によれば、断熱性能が高く、且つ支持力が大きい底部断熱支持構造を有する、大型の二重殻平底円筒形液体水素タンクを提供することができる。
さらに、他の局面における本発明によれば、断熱性能が高く、かつ安全性の高い二重殻液体水素タンクを提供することができる。
本発明の一実施形態に係る二重殻平底円筒形液体水素タンクを示す図解図である。 底部断熱支持構造の一部を拡大して示す図解図である。 外槽の底板上に載置された下部箱体列の配置状態を示す図解的平面図である。 真空容器を収容している箱体を示す図であり、(a)は水平面で切断した横断面図を示し、(b)は鉛直面で切断した縦断面図を示している。 下部箱体列と上部箱体列との位置関係を示す図解的平面図である。 比較例としての高さ1200mmの箱体を示す図であり、(a)は斜視図、(b)は水平面で切断した端面を示している。 高さ600mmの箱体を上下に積み重ね、さらに上下の箱体を前後左右方向にずらした位置関係にした構造を示す図であり、(a)は斜視図、(b)は下段の箱体と上段の箱体との重なりを図解的に示した図である。 本発明の一実施形態に係る底部断熱支持構造の一部を示す図解的平面図である。 本発明の他の実施形態に係る底部断熱支持構造の一部を示す図解的平面図である。 真空容器を収容した箱体の他の例を示す図であり、(a)は水平面で切断した横断面図、(b)は鉛直面で切断した図解的縦断面図である。 本発明のさらに他の実施形態に係る角形液体水素タンクを示す図解図である。 他の実施形態の側部断熱構造を示す図解図である。 他の実施形態の箱体を示す斜視図である。 他の実施形態の側部断熱構造および屋根部断熱構造を示す図解図である。 他の実施形態の側部断熱構造の角部を示す図解図である。 他の実施形態の屋根部断熱構造の図解的平面図である。 他の実施形態の側部断熱構造および底部断熱支持構造を示す図解図である。 本発明のさらに他の実施形態に係る二重殻円筒型液体水素タンクを示す図解図である。 他の実施形態の箱体を示す図である。 従来の二重殻円筒形LNGタンクを示す図解図である。 従来の真空断熱方式の二重殻円筒形タンクの断熱床構造を示す図解図である。 従来の真空断熱方式の二重殻円筒形タンクの支持台の構造を示す図解図である。 図22に示した支持台の図解的平面図である。 特開平7-215394号公報に記載された断熱保冷構造体を示す図である。 特開平7-232695号公報に記載された液体水素タンカーを示す図である。
[第1実施形態]
図1~図5を参照して、本発明の一実施形態に係る二重殻平底円筒形液体水素タンクの構成を説明する。各図において、同一の参照番号は同一の要素を示す。
[二重殻平底円筒形液体水素タンクの全体概略構成]
二重殻平底円筒形液体水素タンクは、底板11、側板12及びドーム状の屋根板13を有する内槽10と、底板21、側板22及びドーム状の屋根板23を有する外槽20と、外槽20の底板21と内槽10の底板11との間に設けられる底部断熱支持構造30とを備える。液体水素タンクは、基礎50上に設けられる。内槽10には、液体水素が貯蔵される。
内槽10は例えばステンレス鋼板からなり、内槽10を取り囲む外槽20は例えば普通鋼板からなる。
内槽10と外槽20との間の空間は真空ではなく、この空間に大気圧のヘリウムガスが充填される。従って、底部断熱支持構造30、図示を省略した屋根部断熱構造および図示を省略した側部断熱構造は、大気圧のヘリウムガス雰囲気の中に置かれる。
ヘリウムガスの沸点は-269℃、水素ガスの沸点は-253℃、窒素ガスの沸点は-196℃、酸素ガスの沸点は-183℃である。内槽10と外槽20との間の空間に、水素ガスの沸点よりもかなり高い沸点を持つ窒素ガスや酸素ガスが存在すると、これらのガスは内槽10の外表面(-253℃)で液化するため、内槽10と外槽20との間の空間が大気圧以下になり、外槽20に大きな外圧がかかるようになる。
ヘリウムガスの熱伝導率は窒素ガスの熱伝導率の3倍程度であるが、外槽20の外圧座屈を防ぐために、本発明の実施形態では、水素ガスの沸点よりも低い沸点を持つヘリウムガスを内槽10と外槽20との間の空間に充填している。
内槽10の底板11および外槽20の底板21は、一般に、側板12、22を下から支える板厚の大きいアニュラー板部と、アニュラー板部の内径側に位置する板厚の小さい内径側底板部とからなる。以下の説明では、便宜上、アニュラー板部の板厚と内径側底板部の板厚とが同じであるとし、両者を合わせたものを内槽および外槽の底板として話を進める。
[上部箱体列および下部箱体列の説明]
図2に詳細構造を示している底部断熱支持構造30は、外槽20の底板21の上に配置された下部箱体列40と、下部箱体列40の上に置かれた下部支え板51と、下部支え板51の上に配置された上部箱体列60と、上部箱体列60の上に置かれ、内槽10を下から支える上部支え板52とを備える。下部支え板51および上部支え板52の材質は、例えばステンレス鋼である。
下部箱体列40を安定して支えるために、外槽20の底板21の溶接継手部の余盛は平らにフラッシュイングされている。下部箱体列40は、箱体41(図4参照)を外槽20の底板21の上に左右方向および前後方向に複数個並べて配置したものである。言い換えれば、多数の箱体41を碁盤目状に並べて下部箱体列40を形成している。
図4に示すように、各箱体41は、周囲を囲む側壁41aと、この側壁41aの上端に例えばネジを介して固定された上蓋41bと、側壁41aの下端に例えばネジを介して固定された下蓋41cとからなり、その材質は、好ましくはガラス繊維強化プラスチックである。ガラス繊維強化プラスチック(GFRP)の強度は400MPa程度と高く、その熱伝導率は例えば0.4(W/m・K)程度であり、ステンレス鋼の熱伝導率の1/40程度である。
図示した実施形態では、各箱体41は、水平面で切断した横断面形状が同一サイズの正方形である。従って、隣接する箱体同士は、その側面を当接させた状態で碁盤目状に配置される。
図3は、外槽20の底板21上に配置された下部箱体列40の様子を示している。図示するように、下部箱体列40の外縁は、外槽20の側板22と内槽10の側板12との間でほぼ円形になるようにする。厳密には、小さなギザギザを円形軌道に沿って連ねた形状である。
図示した実施形態の底部断熱支持構造30は、外槽20の底板21上に固定して設けられた堰板53を備える。この堰板53は、下部箱体列40の外縁部に接してこの下部箱体列40を取り囲み、下部箱体列40の水平方向への移動を抑制する。
上部箱体列60は、箱体41(図4参照)を下部支え板51の上に左右方向および前後方向に複数個並べて配置したものである。言い換えれば、多数の箱体41を下部支え板51上で碁盤目状に並べて上部箱体列60を形成している。
上部箱体列60を構成する箱体41は、実質的に下部箱体列40を構成する箱体41と同じであるので、重複した説明を行わない。
図示した実施形態の底部断熱支持構造30は、好ましくは、下部支え板51上に固定して設けられた堰板54を備える。この堰板54は、上部箱体列60の外縁部に接してこの上部箱体列60を取り囲み、上部箱体列60の水平方向への移動を抑制する。
堰板53,54は例えばステンレス鋼板からなる。堰板53,54は、上述したように箱体41が水平方向に自由に移動するのを制限する役割を果たすが、それに加えて箱体41を配置するときのガイドとしての役割も果たす。
[真空容器の説明]
図4を参照して、底部断熱支持構造30は、下部箱体列40および上部箱体列60を構成する各箱体41の中に収容された真空容器61を備える。真空容器61は、好ましくはステンレス鋼板から作られ、周囲を囲む側壁61aと、この側壁61aの上端に溶接固定された上板61bと、側壁61aの下端に溶接固定された下板61cとからなる円形筒状体である。各真空容器61は、水平面で切断した横断面形状が円形となる。
真空容器61の上板61bには排気口61dが設けられており、工場で排気口61dを通して真空容器61の内部空間を排気し、内部空間を熱伝導率が例えば0.003W/m・K以下の真空状態にした後に、排気口61dを封止する。
上記の真空容器61は、ポリウレタンフォームのコア材を0.3mm程度の薄いステンレス板で包皮した所謂真空パネルではない。真空パネルは、薄いステンレス板を精密に溶接して作るものなので、手間がかかり高価になる。因みに、WE-NET(World Energy Network)水素液化、輸送、貯蔵技術の開発における平成13年度の研究開発成果報告書では、直径1019mm×高さ200mmのステンレス包皮真空パネルが製作され、その熱伝導率が0.0051W/m・Kであったと記されている。
[箱体内の真空容器の収容構造]
本発明の実施形態における箱体41の大きさは、例えば幅(左右方向寸法)500mm×奥行(前後方向寸法)500mm×高さ650mmで、側壁41aの板厚が6mmである。真空容器61の大きさは、外径484mm×高さ430mmで、側壁(筒壁)61aの板厚が4mm、上板61bおよび下板61cの板厚が15mmである。
各箱体41およびその中に収容される各真空容器61は、鉛直方向に延びる中心軸線CLが一致するようにされている。好ましくは、各箱体41とその中に収容される各真空容器61との間には、断熱材が配置される。具体的には、上蓋41bと上板61bとの間、および下蓋41cと下板61cとの間には厚さ100mmのポリウレタンフォーム42,43が配置され、箱体41の側壁41aと真空容器61の壁61aとの間には粒状パーライト44またはポリウレタンフォームが配置される。
粒状パーライトの熱伝導率は0.044W/m・Kであり、ポリウレタンフォームの熱伝導率は0.023W/m・Kであり、ヘリウムガスの熱伝導率は0.07W/m・Kである。ヘリウムガス雰囲気での粒状パーライトの熱伝導率はデータが少ないので正確な数値は不明であるが、本明細書ではヘリウムガスの対流も考慮してヘリウムガス雰囲気下の粒状パーライトの熱伝導率を0.2W/m・Kと十分大きく見積もっておく。
[上部支え板および下部支え板の説明]
下部箱体列40の上に置かれる下部支え板51および上部箱体列60の上に置かれる上部支え板52は、公知の底板製作のように、多数の小板を互いに当接配置して作られる。小板同士の継手は片面開先溶接され、余盛は平らにフラッシュイングされる。継手の溶接は部分溶け込み溶接でもよく、部分溶け込み溶接は飛び石溶接であってもよい。下部支え板51は上部箱体列40を載置するだけの単なる敷板であり、また上部支え板52は内槽10を載置するための単なる敷板であるので、気密性は必要とされず、小板同士が一体的に接合されていればよい。
下部支え板51および上部支え板52を長尺でない多数の小板で製作する場合、小板同士を溶接せず小板同士を当接させただけで製作することもできる。この場合、上部および下部支え板の各小板は、温度変化に対応して自由に収縮、膨張することができる。
図2に示すように、下部支え板51の外端部は、下部箱体列40の外縁部より100mm程はみ出すようにする。また、下部支え板51の外端部は、外槽20の内面から間隔を隔てるにようにして断熱を確保する。
[下段の箱体と上段の箱体との位置関係]
下部支え板51上に配置される上部箱体列60の外縁部は、下部箱体列40の外縁部よりも径方向内側に位置するようにする。上部支え板52の外端部は、上部箱体列60の外縁部より125mm程はみ出すようにし、さらに外槽20の内面から間隔を隔てるようにして断熱を確保する。
下部箱体列40を構成する各箱体41と、上部箱体列60を構成する各箱体41との位置関係を図5に示している。図5において点線で示す箱体41は下部箱体列40を構成するものであり、実線で示す箱体41は上部箱体列60を構成するものである。下部箱体列40を構成する多数の箱体41、および上部箱体列60を構成する多数の箱体41は、同じ左右方向および前後方向に並び碁盤目状の配列を形成している。
図5に明確に示すように、下部箱体列40の各箱体41の鉛直方向中心軸線CLと、上部箱体列60の各箱体41の鉛直方向中心軸線CLとは、水平方向に見て左右方向および前後方向にずれた位置関係となっている。好ましくは、下部箱体列40の各箱体41の中心軸線CLと、上部箱体列60の各箱体41の中心軸線CLとは、箱体41の正方形の辺の1/2の長さだけ水平方向に見て左右方向および前後方向にずれた位置関係となっている。このような配置関係にすることによって、底部断熱支持構造30の断熱性能を、液体水素タンクとして必要な2W/m程度以下にすることができる。この点については、後に詳述する。
[底部断熱支持構造に作用する荷重]
液体水素タンクの内槽10に液体水素が貯蔵されると、底部断熱支持構造30の上面は-253℃になり、その下面は常温の25℃になるため、液体水素タンクの内槽10および底部断熱支持構造30はともに冷却収縮する。そのため、内槽10の底板11は上部支え板52の上面をスライドし、上部支え板52は上部箱体列60の上面をスライドし、下部支え板51は下部箱体列40の上面をスライドする。
ステンレスの線膨張率は16×10-6/℃であり、ガラス繊維強化プラスチック(GFRP)の線膨張率である8×10-6/℃の2倍であること、および現場組立施工性を考慮して、上部支え板52の外端部を上部箱体列60の外縁部よりも125mmはみ出すようにし、下部支え板51の外端部を下部箱体列40の外縁部より100mmはみ出すようにしている。
上方からの荷重が箱体41の側壁で受け止められるとき箱体41の側壁間で上部支え板52および下部支え板51が大きく下方に凹まないようにするために、上部支え板52および下部支え板51の板厚を大きくする。支え板51,52の板厚を大きくすることによって、側壁41a間では箱体41の上蓋41bに上方からの荷重がほとんどかからなくなる。その結果、箱体41内に収容された真空容器61に上方からの荷重がかからなくなり、真空容器61の損傷を防ぐことができる。本発明の実施形態における真空容器61は、断熱のみを目的とするものであって、荷重支持要素ではない。
既述した液体水素タンカーの断熱保冷構造体では真空パネルの損傷が懸念されたが、本発明ではこのような事態は回避される。また、本発明に係る底部断熱支持構造30では、内槽10の底板11の下方に、熱伝導率が高くて断熱性能を低下させるコンクリートブロックを配置しないので、従来技術の問題点を解消できる。
液体水素の比重は0.07と小さいが、内槽10に液体水素を貯蔵したとき内槽10の側板12に側圧が作用するため、内槽側板-底板T継手部にモーメントがかかり、底板11の外端部の下側エッジ部が上部支え板52の上面に押し付けられる。すなわち、底板11の外端部の下側エッジ部が上部支え板52の上面に突っ張る形となる。上部支え板52は、軽骨コンクリートより強度が高くて硬いステンレス鋼板からなるので、この突っ張りを支障なく受け止めることができる。
外槽20の底板21上、および下部支え板51上に多数の箱体41を載置する場合、例えば500mm×500mm×650mmの箱体16個を2m×2mの正方形板に載置した大型ブロックを作り、これを利用するブロック施工法が適用できる。
内槽10の側板12の直下近傍に位置する箱体41には内槽自重等の大きな荷重がかかるが、この直下近傍領域よりもタンク内径側の領域にある箱体41には液体水素自重がかかるだけである。そこで、前者(直下領域近傍)の箱体41の側壁の板厚を大きくし、後者(内径側領域)の箱体41の側壁の板厚を小さくしてもよい。また、内槽10の側板12の直下近傍領域に位置する箱体41には相対的に小さな正方形断面のものを用い、直下近傍領域よりもタンク内径側に位置する箱体41には相対的に大きな正方形断面のものを用いるようにしてもよい。
[底部断熱支持構造の断熱性能-その1]
図6および図7を参照して、本発明の底部断熱支持構造の断熱性能を説明する。
図6の(a)は、幅1000mm×奥行1000mm×高さ1200mmの大きさで、板厚が12mmのガラス繊維強化プラスチック(GFRP)からなる断面正方形の箱体を示す。この箱体の内部空間は真空となっている。箱体の下面と上面との温度差は278℃(=253+25)とする。GFRPの熱伝導率を0.4(W/m・K)、真空部の熱伝導率を0.003(W/m・K)とすると、図6(b)に示すこの箱体の横断面(A’B’C’D’の四角形)を通過する伝熱量は5.06W/mとなる。
図6(a)に示す箱体は、見方を変えれば、正方形の筒体の内部に、包皮厚さが0mmで熱伝導率が0.003(W/m・K)の真空パネルをピッタリはめ込んだものともとれる。すなわち、高さ1200mm、厚さ12mmの正方形断面の筒体と厚さ1200mmの真空パネルとからなる箱体では、まだ液体水素の貯蔵に必要な2W/mをクリアできないことを意味している。
図7(a)に示す箱体は、図6(a)に示す箱体の高さを半分にしたものを2段に積み重ねたものであり、上段の箱体の鉛直中心軸線が、下段の箱体の鉛直中心軸線に対して、断面正方形の一辺の長さの半分の250mmだけ左右方向および前後方向にずれて位置している。
下段の箱体の下面と上段の箱体の上面との間の温度差は278℃とする。この2段積み箱体における上段箱体の横断面(A’B’C’D’の四角形)(図7(b)参照)を通過する伝熱量は0.88W/mであり、図6(a)の1個の箱体の断面を通過する伝熱量の17.4%に過ぎない。このように、図6(a)の箱体の高さを1/2にしたものを2段に積み重ね、上段の箱体の鉛直中心軸線が下段の箱体の鉛直中心軸線に対してずらす構造にすることにより、箱体を鉛直方向に通過する伝熱量を大幅に減らすことができる。この点について、以下に詳述する。
図7(b)において、実線は上段の1個の正方形断面の箱体の側壁とその内部の真空部とを示し、点線は下段の4個の正方形断面の箱体の側壁とその内部の真空部とを示している。この図において、説明の便宜上、特定の領域に対して特定の符号を付した。領域と符号との関係は、以下の通りである。
「G」:GFRP部
「V」:真空部
「GG」:上下段のGFRP部が重なっている領域
「VV」:上下段の真空部が重なっている領域
「GV」,「VG」:GFRP部と真空部とが上下に重なっている領域
上段の箱体の正方形断面A’B’C’D’において、GG領域では高さ600mmで熱伝導率が0.4(W/m・K)のGFRPの上段箱体の側壁に、高さ600mmで熱伝導率が0.4(W/m・K)のGFRPの下段箱体の側壁が連なっている。GV領域およびVG領域では、高さ600mmのGFRPの壁に、高さ600mmで熱伝導率が0.003(W/m・K)の真空の壁が連なっている。VV領域では、上下段の真空部が連なっている。したがって、図7(b)の箱体の正方形断面A’B’C’D’を通過する伝熱量は、図6(b)の箱体の正方形断面A’B’C’D’を通過する伝熱量よりも大幅に低減される。本発明の実施形態に係る底部断熱支持構造は、上記の原理を適用した断熱性能を有するものである。
[底部断熱支持構造の断熱性能-その2]
図8は、図5の一部を拡大して示す図であり、上部箱体列60の箱体41およびその内部の真空容器61と、下部箱体列40の箱体41およびその内部の真空容器61との配置関係を図解的に示している。実線は、上段の箱体41の側壁とその内部の真空容器61の側壁とを示し、点線は、下段の箱体41の側壁とその内部の真空容器61の側壁とを示している。図8では、箱体41の側壁と真空容器61の側壁との間に、粒状パーライトが充填されているとしている。
図8に示す符号と領域との関係は、以下の通りである。
「G」:GFRP部
「S」:ステンレス鋼部
「V」:真空部
「P」:ポリウレタンフォーム部
「Pa」:粒状パーライト部
底部断熱支持構造の下面から上面に向かう熱流の通過する領域の詳細は、以下の通りである。
まず、流路断面積が小さい熱流路は,例えば次の通りである。熱流路の全ての部分を取り上げるのは大変なので、ここでは例示的に特定の流路を取り上げた。
G-G領域では、上段の箱体のGFRPの側壁に、下段の箱体のGFRPの側壁が連なっている。
PPaP-PPaP領域では、上段の箱体内の上部ポリウレタンフォーム、粒状パーライトおよび下部ポリウレタンフォームに、下段の箱体内の上部ポリウレタンフォーム、粒状パーライトおよび下部ポリウレタンフォームが連なっている。
PSP-PPaP領域では、上段の箱体内の上部ポリウレタンフォーム、上段の真空容器のステンレス側壁および下部ポリウレタンフォームに、下段の箱体内の上部ポリウレタンフォーム、粒状パーライトおよび下部ポリウレタンフォームが連なっている。
G-PSP領域では、上段の箱体のGFRP側壁に、下段の箱体内の上部ポリウレタンフォーム、下段の真空容器のステンレス側壁および下部ポリウレタンフォームが連なっている。
PPaP-G領域では、上段の箱体内の上部ポリウレタンフォーム、粒状パーライトおよび下部ポリウレタンフォームに、下段の箱体のGFRP側壁が連なっている。
流路断面積が大きい熱流路は、例えば次の通りである。
PSP-PVP領域では、上段の箱体内の上部ポリウレタンフォーム、上段の真空容器のステンレス側壁および下部ポリウレタンフォームに、下段の箱体内の上部ポリウレタンフォーム、下段の真空容器の真空部および下部ポリウレタンフォームが連なっている。
PVP-PVP領域では、上段の箱体内の上部ポリウレタンフォーム、上段の真空容器の真空部および下部ポリウレタンフォームに、下段の箱体内の上部ポリウレタンフォーム、下段の真空容器の真空部および下部ポリウレタンフォームが連なっている。
PVP-PPaP領域では、上段の箱体内の上部ポリウレタンフォーム、上段の真空容器の真空部および下部ポリウレタンフォームに、下段の箱体内の上部ポリウレタンフォーム、粒状パーライトおよび下部ポリウレタンフォームが連なっている。
上記のように、流路断面積の大きい熱流路は真空部を含むので、底部断熱支持構造の伝熱量は大幅に低減されることになる。
液体水素タンクに液体水素が貯蔵されると、底部断熱支持構造の下面は常温の25℃になり、上面は-253℃になる。ステンレスの熱伝導率を16W/m・K、GFRPの熱伝導率を0.4W/m・K、大気圧ヘリウム雰囲気での粒状パーライトの熱伝導率を0.2W/m・K、ポリウレタンフォームの熱伝導率を0.023W/m・K、真空部の熱伝導率を0.003W/m・Kとすると、本発明の実施形態に係る底部断熱支持構造の断熱性能は1.61W/m程度となり、液体水素タンクの断熱性能として要求される2W/m以下となる。なお、この計算をする上において、円形筒状体の真空容器の外径を484mm、正方形断面の箱体側壁と真空容器の側壁との間の最小隙間を2mmとしている。
比較として、本発明と同様の底部断熱支持構造において、上段の箱体の鉛直中心軸線と下段の箱体の鉛直中心軸線とを前後左右方向にずらさずに両者を一致させた構造とした場合、その断熱性能は8.30W/m程度となる。
内槽に液体水素が貯蔵されるとき箱体が冷却収縮するため、隣接する箱体間に隙間が生じる。また、GFRP、ポリウレタンフォームおよびステンレスの線膨張率がそれぞれ異なっているので、箱体内においても例えば箱体のGFRP側壁の内面とポリウレタンフォームの外表面との間にも隙間が生じる。さらに、上部支え板および下部支え板の小板同士の間に隙間がある。当然のことながら、これらの隙間に熱伝導率が高い充填ヘリウムガスが侵入する。しかしながら、本発明の実施形態に係る底部断熱支持構造では、熱流路において真空部が存在する構造になっているので、上記の隙間を通る熱流路に対しても同様に真空部が存在する。したがって、隙間による底部断熱支持構造の断熱性能の低下は小さく抑えられる。
また、底部断熱支持構造の断熱性能の低下は、現場での組立精度が悪くて各部に不都合な隙間が生じることによっても起こる。そのため、底部断熱支持構造の設計にあたっては、断熱性能に余裕を持たせることが必要である。底部断熱支持構造の断熱性能の設計目安としては、底部断熱支持構造の各所で2~3mmぐらいのヘリウムガスの隙間が発生するとしても上記の2W/mを超えないように、例えば1.7W/mぐらいの断熱性能を目安に設計するのが良い。試算においては、真空容器の真空部の熱伝導率を0.003W/m・Kとしたが、実際には真空度を上げることにより0.0015W/m・K程度まで期待できるので、箱体の高さを500mm以下にすることができる。
[第2実施形態]
図9は、この発明の他の実施形態を示す図解的平面図である。この実施形態では、箱体41が、円筒形状の側壁と、この円筒形状側壁の両端部に例えばネジを介して固定された上蓋および下蓋とを備えるものであり、その内部に円柱形状の真空容器61を収容している。実線は、上段の箱体41の側壁とその内部の真空容器61の側壁とを示し、点線は、下段の箱体41の側壁とその内部の真空容器61の側壁とを示している。上段の円形箱体41の鉛直中心軸線と下段の円形箱体41の鉛直中心軸線とは、円形箱体41の外径の1/2の長さだけ前後左右にずれて位置している。
円形箱体41の側壁内面と円柱形状の真空容器61の側壁外面との間には、真空容器を箱体内に差し込める程度の隙間62が設けられている。各円形箱体41の上蓋と真空容器61の上板との間、および各円形箱体41の下蓋と真空容器61の下板との間には、厚さ100mmのポリウレタンフォームが配置され、隣接する円形箱体41の側壁外面間には、粒状パーライトまたはポリウレタンフォームが配置される。本実施形態では、組立て現場で円形箱体41の側壁外面間に粒状パーライトを充填する。
底部断熱支持構造が冷却されるときに、GFRPからなる円形箱体41およびステンレスからなる真空容器61が収縮するが、ステンレスの線膨張率がGFRPの線膨張率の2倍程度であることから、両者の間に真空容器61を容易に差し込める程度の隙間62があれば支障は無い。この第2実施形態に係る底部断熱支持構造の断熱性能は、先に説明した第1実施形態と同程度である。
[第3実施形態]
図10は、この発明のさらに他の実施形態を示す図であり、(a)は図解的横断面図、(b)は図解的縦断面図である。この実施形態では、上部箱体列および下部箱体列を構成する各箱体41が、第1箱体411と、第2箱体412とを備え、各箱体41内に収容される真空容器61が、第1真空容器611と、第2真空容器612とを備える。第1箱体411および第2箱体412はGFRPからなり、第1真空容器611および第2真空容器612はステンレスからなる。
図10に示すように、箱体41の中心部に円柱形状の第1真空容器611が位置し、円筒側壁を有する第1箱体411が第1真空容器611の周囲を囲み、内側円筒壁および外側円筒壁を有するドーナッツ形状の第2真空容器612が第1箱体411の周囲を囲み、正方形側壁を有する第2箱体412が第2真空容器612の周囲を囲んでいる。
第1真空容器611および第2真空容器612の高さは同じである。第1箱体411および第2箱体412の高さは同じであり、共通の上蓋41bおよび共通の下蓋41cによって上下の開口が閉塞される。第1および第2箱体411,412の高さは、第1および第2真空容器611,612の高さよりも大きい。第1および第2真空容器611,612の上板と第1および第2箱体411,412の上蓋41bとの間、および第1および第2真空容器611,612の下板と第1および第2箱体411、412の下蓋41cとの間に、ポリウレタンフォームが配置される。そして、第2箱体412と第2真空容器612との間に、粒状パーライトが充填されるか、ポリウレタンフォームが配置される。
この第3実施形態においても、上段の箱体41の鉛直中心軸線と、下段の箱体41の鉛直中心軸線とは、正方形の第2箱体412の一辺の長さの1/2の長さだけ前後左右にずれて位置している。この位置ずれによって鉛直方向に延びる熱流路に真空部が介在することになるので、底部断熱支持構造の断熱性能を向上させることができる。
現場施工の能率を上げるには、箱体41の平面視正方形の面積が大きいほどよい。しかしながら、図4に示した箱体41において、正方形の一辺の長さを例えば1000mm程度に大きくすると、上部支え板52および下部支え板51の凹みを抑えるためには、これらの支え板の板厚を例えば50mm程度にしなければならない。そのような厚みの支え板を用いるのは現実的ではないので、この第3実施形態として、大きな平面視正方形面積を有する第2箱体412の側壁のスパンの間に、上部および下部支え板を支えるGFRPからなる第1箱体411を設けた。
[従来の断熱構造との対比]
本発明の特徴は、液体水素タンクの断熱に多数の真空容器を利用したことにある。大型の二重殻平底円筒形液体水素タンクの断熱法として、外槽と内槽との間の大空間を真空にする大空間真空断熱法がある。この場合、真空にすべき空間が巨大であるため、現場で空間を高度に真空化し、かつその真空度を維持することは容易ではない。それに対して、本発明に係る底部断熱支持構造では、予め工場で真空化した小さな真空容器を多数利用するので、上記の困難さを回避できる。
また、非特許文献1に記載された液体水素タンクの底部断熱支持構造は、多数のポリウレタンフォームや泡ガラスブロックの積層構造を含むものであり、ブロック間にはわずかな隙間が多数存在している。このため、底部断熱支持構造の真空化の排気において狭い隙間に気体が滞留しやすく、非特許文献1の液体水素タンクでは積層構造部を高度に真空化するのは容易ではない。
[本発明の実施形態のメリット]
液体水素タンクの断熱に真空断熱を利用する場合、真空リークに対する安全対策が必要になる。大空間真空断熱法においては一箇所の真空リークも断熱機能の致命的な低下につながるので、安全対策は厳しいものとなり、そのための構造設計は容易なものではない。
それに対して、本発明の実施形態に係る底部断熱支持構造においては、多数の真空容器を用いるものなので、真空リークのリスクを格段に分散化できるメリットがある。
また、大空間真空断熱法においては、外槽と内槽との間を真空にするので、外槽の外圧座屈を防止するために外槽の補強が必要とされ、さらに外槽の底板が基礎からめくれ上がらないように底板を基礎に強固に固定する大規模なアンカー工事が必要となる。
本発明の実施形態では、板厚が4mmのステンレスで真空容器を製作しているので、板厚が0.3mm程度の真空パネルに比べて、損傷の心配が無く、製作コストも安くなり、現場の組立施工でのハンドリングも容易になる。
[底部断熱支持構造の支持力]
次に、この発明の実施形態に係る底部断熱支持構造の支持力について説明する。
底部断熱支持構造は、内槽の重量と貯蔵された液体水素の重量との合計荷重を支えなければならない。本発明の実施形態では、既述したように上部支え板および下部支え板の板厚を大きくしているので、内槽の底板からの伝達荷重が箱体の側壁で受け止められたときに上部支え板および下部支え板が箱体の側壁間で大きく凹むことはない。したがって、箱内に収容された真空容器には上記の荷重がかからず、真空容器を荷重に起因する損傷から護ることができる。真空容器は、荷重支持要素ではなく断熱のみを目的とするものであるので、その内部を真空にしたときに生じる大気外圧に耐えられるように設計するだけでよい。
図2に示すように、底部断熱支持構造は、下部箱体列上に上部支え板を介して上部箱体列を積み重ねただけのものである。したがって、底部断熱支持構造の支持力は、一段の上部または下部箱体列の支持力とほぼ等しくなる。そして、この一段の箱体列の支持力は、箱体列を構成する箱体の側壁の高さ、板厚、材質によって定まる。
内槽の側板下部で底部断熱支持構造にかかる荷重を、例えば4kg/cmであるとする。上記寸法のGFRPからなる箱体の座屈荷重は、GFRPの曲げ弾性率が高いこと、および箱体を2段に積み重ねることによって箱体の側壁の高さが小さくなることから、上記荷重(4kg/cm)を容易にクリアすることができる。
[外槽および内槽の底板]
本発明の実施形態を説明するにあたり、外槽の底板を構成するアニュラー板部と内径側底板部とが同じ板厚寸法を有するものとした。アニュラー板部の板厚を大きくし、アニュラー板部の内径側に位置する内径側底板部の板厚を小さくした場合、アニュラー板部と内径側底板部との継手部で段差が生じる。このため、外槽の底板上に下部箱体列を構成する箱体を水平に碁盤目状に配列するとき、この段差が支障になる。この段差を無くすために、板厚の小さい内径側底板部上に例えば断熱性が高く強度の高いプラスチック板を敷いたり、大きい高さの箱体と小さい高さの箱体の2種類を使い分けたりするなどの工夫をしてもよい。
外槽および内槽の底板の溶接は一般に裏当金付片面開先溶接であるが、内槽の底板は上部支え板上をスライドするので、内槽の底板の下面をフラットにする必要がある。液体水素の比重が0.07であり、LNGの比重0.43の1/6程度であるので、底板にかかるヘッド厚は液体水素タンクの高さが25mとしても0.18気圧程度と小さく、また側板-底板T継手にかかるモーメントも小さい。このため、底板の板厚は比較的薄くできる。そこで、底板の溶接は、底板の板厚をなるべく大きくしてルートフェイスが4mm程度のY開先とし、溶接溶込みが底板下面に届かないようにするなどの工夫が必要である。
本発明の底部断熱支持構造は、PC(プレストレスコンクリート)LNGタンクと同様なタイプの液体水素タンクにも適用可能である。
[第4実施形態]
今まで説明してきた実施形態は、特に、内槽の底板と外槽の底板との間に設けられる底部断熱支持構造に焦点を当ててきた。一方の箱体列を構成する箱体と、それに重なるように配置される他方の箱体列を構成する箱体とを左右方向(またはX方向)および前後方向(またはY方向)にずらして配置する断熱構造は、内槽の側板と外槽の側板との間に設けてもよいし、内槽の屋根板と外槽の屋根板との間に設けてもよい。
図11は、第4実施形態としての角形液体水素タンク100を示している。液体水素タンク100は、液体水素を貯蔵する角形の内槽101と、内槽101を取り囲む角形の外槽102とを備える。内槽101および外槽102は、例えば板骨(図示せず)を備え、高い剛性を有する。内槽101は、例えば、幅、奥行き及び高さが30メートルの立方体であり、ステンレス鋼からなる底板101aと側板101bと屋根板101cとを備える。外槽102は、普通鋼からなる底板102aと側板102bと屋根板102cとを備える。内槽101と外槽102との間の空間には、常温大気圧のヘリウムガスが充填されている。
内槽101の底板101aと外槽102の底板102aとの間に底部断熱支持構造110が設けられ、内槽101の側板101bと外槽102の側板102bとの間に側部断熱構造130が設けられ、内槽101の屋根板101cと外槽102の屋根板102cとの間に屋根部断熱構造150が設けられる。陸上用タンクの場合、外槽102はコンクリート基礎上に設けられる。液化ガス運搬船の場合、外槽102は船体の頑丈な一部となる。
第4実施形態における底部断熱支持構造110は、第1実施形態の底部断熱支持構造30と実質的に同じ構成を有する。各要素の寸法や形状は、適宜変更する。
側部断熱構造130および屋根部断熱構造150は、それぞれ、内槽101の側板101bおよび屋根板101cに密着して設けられる。外槽102の側板102bと側部断熱構造130との距離、および外槽102の屋根板102cと屋根部断熱構造150との距離は、現場作業およびタンク稼働後の点検作業の観点から、900mm程度にするのが望ましい。
[断熱構造の共通の構成]
底部断熱支持構造110,側部断熱構造130および屋根部断熱構造150は、共通の特徴として、第1箱体列と、第2箱体列と、真空容器とを備える。
第1箱体列は、図4に示したものと実質的に同じ構成の箱体41をX方向およびそれに直交するY方向に碁盤目状に複数個並べて配置したものである。箱体41は、周囲を囲む箱体側壁41aと、箱体側壁41aの一方端に固定される一方側端壁41bと、箱体側壁41aの他方端に固定される他方側端壁41cとからなる。一方側端壁41bまたは他方側端壁41cが内槽101の外面(底板101a、側板101bおよび屋根板101cの外面)に対面する。
第2箱体列も、図4に示したものと実質的に同じ構成の箱体41を第1箱体列の上にX方向およびY方向に碁盤目状に複数個並べて配置したものである。箱体41は、周囲を囲む箱体側壁41aと、箱体側壁41aの一方端に固定される一方側端壁41bと、箱体側壁41aの他方端に固定される他方側端壁41cとからなる。第2箱体列の箱体の例えば一方側端壁41bが、第1箱体列の他方側端壁41cに対面する。
この実施形態においては、側部断熱構造130および屋根部断熱構造150の箱体41は、既述の第1実施形態の底部断熱支持耕30のGFRPからなる箱体41とは異なり、例えば厚さ4mmのステンレス鋼板からなる溶接物品である。
真空容器は、好ましくはステンレス鋼板から作られ、図4に示した真空容器61と実質的に同じ構成である。すなわち、真空容器61は、第1箱体列および第2箱体列を構成する各箱体41の中に収容され、各箱体41の箱体側壁41aの内面に対面した姿勢で周囲を囲む容器側壁61aと、容器側壁61aの一方端に固定される一方側容器蓋61bと、容器側壁61aの他方端に固定される他方側容器蓋61cとからなる。真空容器61の内部空間は真空状態とされている。
既述の第1実施形態の特徴と同様に、各箱体41およびその中に収容されている真空容器61は、鉛直方向または水平方向に延びる中心軸線が一致するようにされている。さらに、第1箱体列の各箱体41の中心軸線と、第2箱体列の各箱体41の中心軸線とは、X方向およびY方向にずれた位置関係となっている。底部断熱支持構造110および屋根部断熱構造150を構成する各箱体41および各真空容器61は、その中心軸線が鉛直方向に延びる。他方、側部断熱構造130を構成する各箱体41および各真空容器61は、その中心軸線が水平方向に延びる。
底部断熱支持構造110,側部断熱構造130および屋根部断熱構造150の構成要素である箱体41は、例えば同じサイズの立方体(その大きさは、例えば500mm×500mm×500mm)であり、各箱体41内に収容される真空容器61も、例えば同じサイズの円筒体である。
[側部断熱構造の説明]
図12~図15を参照して、第4実施形態の側部断熱構造130の具体的構造を説明する。図12は、内槽101の側板101b上に配置された第1箱体列131の一部、および第1箱体列131上に配置された第2箱体列132の一部を示している。
図示するように、内槽101の側板101b上に、第1箱体列131を構成する多数の箱体41が水平方向および鉛直方向に碁盤目状に配置され、溶接によって固定されている。隣接する箱体41間には、隙間2tが存在するようにされている。この理由は、後に詳述する。
さらに、第1箱体列131上に、第2箱体列132を構成する多数の箱体41が水平方向および鉛直方向に碁盤目状に配置され、溶接によって固定されている。隣接する箱体41間には、隙間2tが存在するようにされている。
第1箱体列131および第2箱体列132を構成する各箱体41には、真空容器61(図4参照)が配置されている。各箱体41及びその中に収容される各真空容器61は、その中心軸線が一致するようにされている。側部断熱構造130の場合、各箱体41および各真空容器61の中心軸線は、水平方向に延びている。
既述の実施形態で説明したように、断熱構造の断熱性能を高めるために、第1箱体列131の各箱体41の中心軸線と、その上に配置される第2箱体列132の各箱体41の中心軸線とは、X方向(水平方向)およびY方向(鉛直方向)にずれた位置関係となっている。各箱体41が立方体形状の場合、好ましくは、第1箱体列131の各箱体41の中心軸線と、第2箱体列132の各箱体41の中心軸線とは、箱体の正方形の辺の長さの1/2の長さ+1mmだけX方向およびY方向にずれた位置関係となっている。
[隣接する箱体間の隙間]
隣接する箱体41間に隙間2tを設けるのは、内槽101の側板101b側に位置する一方側端壁の冷却収縮を考慮したためである。隣接する箱体41同士を当接して配置固定した場合を考えてみる。内槽101の側板101b側に位置する一方側端壁は液体水素の温度によって冷却されて収縮するが、他方側端壁の冷却温度は一方側端壁よりも高いので冷却収縮量は相対的に小さい。そのため、液体水素の貯蔵時に、隣接する箱体41の他方側側端に過大な圧縮力が作用することになる。
上記の過大な圧縮力の発生を避けるために、隣接する箱体41間に隙間2tを設けることが重要である。この隙間2tは、X方向およびY方向に隣接する箱体41間にスペーサを設けることによって確保される。
図13は、一つの箱体41にスペーサ133を取り付けた状態を示している。箱体41の一方側端壁41bが内槽101の側板101bに接して配置されるので、その冷却収縮量が大きい。そこで、この一方側端壁41bを取り囲む4面の端部に厚みt(例えば、1mm)、幅50mmの板状のスペーサ133を、例えばスポット溶接によって固定する。各箱体41にスペーサ133を溶接固定すれば、X方向およびY方向に隣接する箱体41間には、2t(例えば、2mm)の隙間を確保することができる。
スペーサ133の厚みtを1mmとしたのは、以下の計算を根拠とするものである。すなわち、箱体41の一辺の長さを500mm、箱体41の材料であるステンレスの線膨張率を16×10-6、第1箱体列131の箱体41の一方側端壁41bと第2箱体列132の箱体41の他方側端壁41cとの温度差を278℃(253+25)とすると、(500mm)×(16×10-6l/℃×(278℃)=2.22mmとなるので、スペーサ133は2.22mmの約半分の1mmの厚みとなるようにした。
上記の厚みのスペーサ133を設けておくと、液体水素の貯蔵時に、第2箱体列132の隣接する箱体41の他方側端壁41c同士が軽く当接する状態になる。このとき、隣接する箱体41間には、内槽101の側板101bに垂直な方向に実質的に1mm程度の隙間が残ることになる。この隙間には、当然にヘリウムガスが侵入してくる。このことは、側部断熱構造130の断熱性能にとって不利なものになるが、この影響は、各箱体41の内部に収容されている真空容器61の真空部で有効に抑えられる。
図13に示すように、好ましくは、スペーサ133は、箱体41の一方側端壁41bの全周囲に延在させるのではなく、両端を所定の間隔をあけるように切り離している。このスペーサ133の切り離し部分に位置する一方側端壁41bの角部に切り欠き134を設ける。箱体41の一方側端壁41bを相手材(例えば、内槽の側板や、第1箱体列の箱体の他方側端壁)に当接させるとき、相手材と切り欠き134とですみ肉開先が形成され、これを隅肉溶接することにより箱体41を相手材に溶接固定できる。切り欠きの長さは、例えば、第1箱体列131の箱体41で100mm、第2箱体列132の箱体41で75mmとする。
[屋根部断熱構造の説明]
図14は、内槽101の側板101b上に側部断熱構造130を設け、内槽101の屋根板101c上に屋根部断熱構造150を設けた構造を示している。まず、屋根部断熱構造150について説明する。
内槽101の屋根板101c上にポリウレタンフォーム層151が設けられている。ポリウレタンフォーム層151は、複数のポリウレタンフォームブロックを並べて配置したものである。このポリウレタンフォーム層151の上に第1箱体列152を設け、第1箱体列152の上に第2箱体列153を設ける。第1箱体列152は、ポリウレタン層151上に多数の箱体41をX方向およびY方向に碁盤目状に並べて配置したものであり、第2箱体列153は、第1箱体列152上に多数の箱体41をX方向およびY方向に碁盤目状に並べて配置したものである。各箱体41内には、側部断熱構造130及び底部断熱支持構造110と同様に、図4に示したものと実質的に同じ構成の真空容器61が収容されている。
なお、内槽101の屋根板101c上にポリウレタンフォーム層を151を設けるのは、側部断熱構造130の第1箱体列131の上面と屋根板101cの上面との間の段差をなくして平らな面とし、この面上に屋根部断熱構造150の第1箱体列152を配置するためである。
第1箱体列152および第2箱体列153の最外部の箱体は他の部材に溶接して固定されるが、最外部の箱体の内側の箱体は所定部に載置されるだけである。最外部の箱体は内側の箱体を取り囲む堰の役目をする。
各箱体41の中心軸線と、各箱体内に収容される真空容器61とは、中心軸線が位置するようにされている。屋根部断熱構造150の場合、上記の中心軸線は鉛直方向に延びている。
第1箱体列152の各箱体41の中心軸線と、その上に位置する第2箱体列153の各箱体41の中心軸線とは、X方向およびY方向にずれた位置関係となっている。好ましい実施形態では、。各箱体41が立方体形状であり、第1箱体列152の各箱体41の中心軸線と、第2箱体列153の各箱体41の中心軸線とは、箱体の正方形の辺の長さの1/2の長さ+1mmだけX方向およびY方向にずれた位置関係となっている。
側部断熱構造130と同様に屋根部断熱構造150においても、X方向およびY方向に隣接する箱体間には、スペーサを介在させることにより2mm程度の間隔の隙間が形成されている。
図16は、屋根部断熱構造150の平面図である。図16において、太い一点鎖線で示すのは内槽101の側板101bであり、点線で示すのはポリウレタンフォーム層の上に設けられた第1箱体列152であり、実線で示すのは第1箱体列152の上に設けられた第2箱体列153である。多数の箱体41を碁盤目状に配置した第1箱体列152および第2箱体列153の周囲を取り囲むように、ポリウレタンフォームブロック154が配置されている。
[側部断熱構造と屋根部断熱構造との結合部]
図14は、側部断熱構造130と屋根部断熱構造150との結合部の構造を示している。まず側部断熱構造130に注目すると、内槽101の側板101b上に第1箱体列131を構成する複数の箱体41がスペーサ133を介して鉛直方向に並ぶように配置され、隅肉溶接136で固定されている。図中矢印で示すのは、各箱体41内の真空容器61の中心軸線の延びる方向である。溶接部は、箱体41の一方側端壁41bの上縁部に位置するので、第1箱体列131を構成する各箱体41は内槽101の側板101bに一個づつぶら下がる形で側板101bに支持される。
第1箱体列131の最上部に位置する箱体41UMは、その半分の高さだけ内槽101の側板101bに当接しているので、一方側端壁41bの中央の位置で開先無しで内槽101の屋根板101cに隅肉溶接される。この隅肉溶接部を参照番号137で示す。
第1箱体列131上に、第2箱体列132を構成する複数の箱体41がスペーサを介して鉛直方向に並ぶように配置され、隅肉溶接138で第1箱体列131を構成する箱体41の他方側端壁の中央部に固定されている。第2箱体列132を構成する各箱体41は、第1箱体列131を構成する箱体41にぶら下がる形で支持される。この実施形態においては、1個の箱体の重量は、内部の真空容器、断熱材を含めて103Kg程度である。
既述したように、第1箱体列131を構成する箱体41の中心軸線(水平方向に延びる)と、第2箱体列132を構成する箱体41の中心軸線(水平方向に延びる)とは、X方向およびY方向にずれた位置関係となっている。
液体水素を貯蔵する内槽101の側板101bは、どの部分においても第1箱体列131および第2箱体列132の2段箱体列によって覆われている。
側部断熱構造130の第1箱体列131の最上部に位置する箱体41UMの上に、屋根部断熱構造150の第1箱体列152の最外部に位置する箱体41OMが載置され、隅肉溶接139で両者は固定される。側部断熱構造130の第2箱体列132の最上部に位置する箱体41UMは、隅肉溶接140で、屋根部断熱構造150の第1箱体列152の最外部の箱体41OMに固定される。
側部断熱構造130の最上部上方と、屋根部断熱構造150の最外部外方とが交差する角部領域の段差部分には、ポリウレタンフォームブロック154が例えば接着剤で箱体41に結合される。
[側部断熱構造の角部の構造]
図15は、角形の内槽101の2つの側板101bの上に側部断熱構造130を設けた構造を示している。各箱体41内に示す矢印は、各箱体41内に収容された真空容器61の中心軸線の延びる方向を示している。図15に示すように、角形内槽101の角部に対応する側部断熱構造130の角部では、箱体41間に生じる段差部を埋めるようにポリウレタンフォームブロック155が配置固定されている。
[側部断熱構造と底部断熱支持構造との結合部]
第4実施形態の底部断熱支持構造110は、基本的には、第1実施形態の底部断熱支持構造30と同じであるので、極力重複した説明を繰り返さないようにする。
図17は、第4実施形態に係る角形液体水素タンク100の底部断熱支持構造110と側部断熱構造130とが交差する部分の立面図である。図示するように、外槽102の底板102aと内槽101の底板101aとの間に底部断熱支持構造110が設けられ、外槽102の側板102bと内槽101の側板101bとの間に側部断熱構造130が設けられている。
底部断熱支持構造110は、既述の第1実施形態と同様に、外槽102の底板102a上にX方向およびY方向に複数の箱体41を碁盤目状に並べて配置した第2箱体列112(第1実施形態の下部箱体列に対応)と、第2箱体列112の上に置かれた下部支え板51と、下部支え板51上にX方向およびY方向に複数の箱体41を碁盤目状に並べて配置した第1箱体列111(第1実施形態の上部箱体列に対応)と、第1箱体列111の上に置かれ、内槽101を下から支える上部支え板52と、各箱体41の中に収容され、内部空間が真空状態とされている真空容器61とを備える。
図17において、箱体41内に示す矢印は、真空容器61の中心軸線の方向である。各箱体41およびその中に収容されている各真空容器61は、鉛直方向に延びる中心軸線の位置が一致するようにされている。また、第2箱体列112の各箱体41の中心軸線と、第1箱体列111の各箱体41の中心軸線とは、水平方向に見てXおよびY方向にずれた位置関係となっている。
底部断熱支持構造110においても、水平方向に隣接する箱体41間にはスペーサ133を介して約2mmの隙間が設けられている。また、図示するように、外槽102の底板102a上に、第2箱体列112の外縁部に接してこの第2箱体列を取り囲む堰体53が設けられている。さらに、下部支え板51上に、第1箱体列111の外縁部に接してこの第1箱体列を取り囲む堰体54が設けられている。
図17に示すように、側部断熱構造130の第1箱体列131の最下部の箱体41Bは、その半分が内槽101の側板101bに当接した状態で、隅肉溶接136で側板101bに固定される。側部断熱構造130の第2箱体列132の最下部の箱体41BBは、その半分が第1箱体列131の最下部の箱体41Bに当接した状態で隅肉溶接138で固定されている。
液体水素が貯蔵されると内槽101は収縮し、内槽101の底板101aは上部支え板52上をタンク内側方向にスライドする。このため、上部支え板52の端部kが内槽101の隅角エッジから距離gの位置になるようにしている。この距離は、底板101aの収縮、底部断熱構造110の収縮を考慮して75mm程度とする。底部断熱支持構造110の第1箱体列111の最外部の箱体41BOと、側部断熱構造130の第1箱体列131の最下部の箱体41Bとの間に空間ができるが、この空間はポリウレタンフォームPUFおよびグラスウールGWで埋められる。グラスウールGWは、内槽101の収縮を吸収する。
第4実施形態の断熱性能を試算すると、底部断熱支持構造は1.8W/m、側部断熱構造とヘリウム空間(厚さ900mm、ヘリウムの熱伝導率を0.2W/m・Kとする)の合体構造は1.6W/m、屋根部断熱構造とヘリウム空間の合体構造は1.5W/mである。
[第5実施形態]
図18は、本発明の第5実施形態を示している。本発明の特徴である第1箱体列と第2箱体列との位置ずらし積み重ねによる断熱構造は、大型の二重殻円筒型液体水素タンクにも適用できる。
図18に示す二重殻円筒型液体水素タンク300は、陸上用であり、基礎50上に設けられる。大型の二重殻円筒型液体水素タンクの場合、通常、内槽および外槽の屋根板はドーム状になっているが、第5実施形態に係る円筒型液体水素タンク300の内槽301の屋根板301cはフラットな形状である。その理由は、箱体41の取付を容易にするためである。屋根板301cは、側板301bと、支柱303と、万骨構造を含む屋根骨304とで支持される。
内槽301の円筒形側板301bの外周面に箱体41を取り付ける場合、箱体41の形状を少し変更する必要がある。
図19(a)は、円筒形側板301b上に配置される第1箱体列および第2箱体列を構成する箱体541および箱体542を図解的に示す平面図であり、図19(b)は、箱体541の図解的断面図である。
図19(a)において、内槽301の半径が30m、第2箱体列の箱体542の上部角部までの半径が31m、箱体542の横幅寸法Wが500mmの場合、半径31mの円弧と、箱体542の他方側端壁の外面との間の隙間δは1mm程度である。したがって、箱体541および箱体542の一方側端壁の外面および他方側端壁の外面をわずかに湾曲させる形状に変更すれば、第1箱体列の箱体541を内槽301の側板301bの湾曲した外周面に適合させて当接配置することができ、第2箱体列の箱体542を第1箱体列の箱体541の湾曲した外周面に適合させて当接配置することができる。
図19bに示す箱体541は、その一方側端壁541bの外面および他方側端壁541cの外面が、内槽301の円筒形側板301bの外周面の形状に適合するように、湾曲した形状になっている。隙間δの寸法が小さいので、機械加工で容易に板材の表面を円弧面となるようにすることが可能である。
以上、図面を参照して本発明の実施形態を説明したが、図示した実施形態は例示的なものである。本発明は、図示した実施形態に限定されるものではなく、本発明と同一の範囲内においてまたは均等の範囲内において種々の修正や変形が可能である。
本発明の断熱構造は断熱性能が高いので、大型の二重殻液体水素タンクに有利に利用され得る。
10 内槽、11 底板、12 側板、13 屋根板、20 外槽、21 底板、22 側板、23 屋根板、30 底部断熱支持構造、40 下部箱体列、41 箱体、41a 側壁、41b 上蓋、41c 下蓋、42,43 ポリウレタンフォーム、44 粒状パーライト、50 基礎、51 下部支え板、52 上部支え板、53 堰板、54 堰板、60 上部箱体列、61 真空容器、61a 側壁、61b 上板、61c 下板、61d 排気口、62 隙間、100 角形液体水素タンク、101 内槽、101a 底板、101b 側板、101c 屋根板、102 外槽、102a 底板、102b 側板、102c 屋根板、110 底部断熱支持構造、111 第1箱体列、112 第2箱体列、130 側部断熱構造、131 第1箱体列、132 第2箱体列、133 スペーサ、136,138,139,140 隅肉溶接、150 屋根部断熱構造、151 ポリウレタンフォーム層、152 第1箱体列、153 第2箱体列、154,155 ポリウレタンフォームブロック、300 二重殻円筒形液体水素タンク、301c 屋根板、301b 側板、303 支柱、304 屋根骨、411 第1箱体、412 第2箱体、611 第1真空容器、612 第2真空容器。

Claims (15)

  1. 底板、側板及び屋根板を有する内槽と、底板、側板及び屋根板を有する外槽と、前記外槽の底板と前記内槽の底板との間に設けられる底部断熱支持構造とを備え、前記内槽と前記外槽との間の空間に大気圧のヘリウムガスを充填している二重殻平底円筒形液体水素タンクであって、
    前記底部断熱支持構造は、
    周囲を囲む側壁と、前記側壁の上端に固定される上蓋と、前記側壁の下端に固定される下蓋とからなる箱体を前記外槽の底板上に左右方向および前後方向に複数個並べて配置した下部箱体列と、
    前記下部箱体列の上に置かれた下部支え板と、
    周囲を囲む側壁と、前記側壁の上端に固定される上蓋と、前記側壁の下端に固定される下蓋とからなる箱体を前記下部支え板上に左右方向および前後方向に複数個並べて配置した上部箱体列と、
    前記上部箱体列の上に置かれ、前記内槽を下から支える上部支え板と、
    前記下部箱体列および前記上部箱体列を構成する各箱体の中に収容され、周囲を囲む側壁と、前記側壁の上端に固定される上板と、前記側壁の下端に固定される下板とからなり、内部空間が真空状態とされている真空容器とを備え、
    前記各箱体およびその中に収容されている各真空容器は、鉛直方向に延びる中心軸線が一致するようにされており、
    前記下部箱体列の各箱体の前記中心軸線と、前記上部箱体列の各箱体の前記中心軸線とは、水平方向に見て左右方向および前後方向にずれた位置関係となっている、二重殻平底円筒形液体水素タンク。
  2. 前記各真空容器は、水平面で切断した横断面形状が円形である、請求項1に記載の二重殻平底円筒形液体水素タンク。
  3. 前記下部箱体列および前記上部箱体列を構成する各箱体は、水平面で切断した横断面形状が正方形である、請求項1または2に記載の二重殻平底円筒形液体水素タンク。
  4. 前記下部箱体列の各箱体の前記中心軸線と、前記上部箱体列の各箱体の前記中心軸線とは、前記箱体の正方形の辺の長さの1/2の長さだけ水平方向に見て左右方向および前後方向にずれた位置関係となっている、請求項3に記載の二重殻平底円筒形液体水素タンク。
  5. 前記各箱体とその中に収容されている各真空容器との間に、断熱材が配置されている、請求項1~4のいずれかに記載の二重殻平底円筒形液体水素タンク。
  6. 前記真空容器はステンレス鋼板からなる、請求項1~5のいずれかに記載の二重殻平底円筒形液体水素タンク。
  7. 前記各箱体は、ガラス繊維強化プラスチックからなる、請求項1~6のいずれかに記載の二重殻平底円筒形液体水素タンク。
  8. 前記底部断熱支持構造は、前記外槽の底板上に設けられ、前記下部箱体列の外縁部に接してこの下部箱体列を取り囲む堰体をさらに備える、請求項1~7のいずれかに記載の二重殻平底円筒形液体水素タンク。
  9. 底板、側板及び屋根板を有し、内部に液体水素を貯留する内槽と、底板、側板及び屋根板を有する外槽と、前記外槽と前記内槽との間に設けられる断熱構造とを備え、前記内槽と前記外槽との間の空間に大気圧のヘリウムガスを充填している二重殻液体水素タンクであって、
    前記断熱構造は、
    周囲を囲む箱体側壁と、前記箱体側壁の一方端に固定される一方側端壁と、前記箱体側壁の他方端に固定される他方側端壁とからなる箱体を、前記一方側端壁が前記内槽の外面に対面する姿勢で、前記内槽の外面上にX方向およびY方向に複数個並べて配置した第1箱体列と、
    周囲を囲む箱体側壁と、前記箱体側壁の一方端に固定される一方側端壁と、前記箱体側壁の他方端に固定される他方側端壁とからなる箱体を、前記一方側端壁が前記第1箱体列の箱体の他方側端壁に対面する姿勢で、前記第1箱体列の上にX方向およびY方向に複数個並べて配置した第2箱体列と、
    前記第1箱体列および前記第2箱体列を構成する各箱体の中に収容され、前記各箱体の箱体側壁の内面に対面した姿勢で周囲を囲む容器側壁と、前記容器側壁の一方端に固定される一方側容器蓋と、前記容器側壁の他方端に固定される他方側容器蓋とからなり、内部空間が真空状態とされている真空容器とを備え、
    前記各箱体およびその中に収容されている各真空容器は、鉛直方向または水平方向に延びる中心軸線が一致するようにされており、
    前記第1箱体列の各箱体の前記中心軸線と、前記第2箱体列の各箱体の前記中心軸線とは、X方向およびY方向にずれた位置関係となっている、二重殻液体水素タンク。
  10. 前記断熱構造は、
    前記外槽の底板と前記内槽の底板との間に設けられる底部断熱支持構造と、
    前記外槽の側板と前記内槽の側板との間に設けられる側部断熱構造と、
    前記外槽の屋根板と前記内槽の屋根板との間に設けられる屋根部断熱構造とを備える、請求項1に記載の二重殻液体水素タンク。
  11. 前記内槽は角柱形状をしている、請求項9または10に記載の二重殻液体水素タンク。
  12. 前記外槽は角柱形状をしている、請求項9~11のいずれかに記載の二重殻液体水素タンク。
  13. 前記外槽および前記内槽は円筒形状をしており、
    前記内槽の円筒形側板上に配置される前記第1箱体列および前記第2箱体列の各箱体の一方側端壁および他方側端壁の外表面は、前記内槽の中心軸線を中心とする円周線に沿う湾曲形状を有している、請求項9または10に記載の二重殻液体水素タンク。
  14. X方向およびY方向に隣接する前記箱体間の間に隙間を形成するためのスペーサを備える、請求項9~13のいずれかに記載の二重殻液体水素タンク。
  15. 前記スペーサは、前記各箱体の箱体側壁の外面のうち、前記内槽側に近い側の端部領域に固定されている、請求項14に記載の二重殻液体水素タンク。

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