JP2022132883A - 圧電振動子及びその製造方法 - Google Patents

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智明 唐木
Tomoaki Karaki
洋八 山下
Yohachi Yamashita
億琴 孫
Yiqin Sun
翼 佐藤
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【課題】より高い誘電特性及び圧電特性を有し、製造歩留まりも良い圧電振動子及びその製造方法を提供する。【解決手段】酸化マグネシウムと酸化ニオブ、及びチタン酸鉛を含む鉛複合ペロブスカイト化合物により構成された矩形の単結晶板1を有する。単結晶板1は、[100]方位の長さLと[010]方位の幅Wとの比L/Wが、3~10である。分極方向に直交する横方向振動モードでの共振周波数frと単結晶板1の長さLとの積で表される周波数定数N31と、分極方向と平行な縦方向振動モードでの共振周波数frと単結晶板1の厚みtとの積で表される周波数定数Ntの比Nt/N31が、25℃において2.75から3.9である。圧電振動子1は、初めに交流分極した後、150℃以上300℃以下の温度で熱処理及び交流分極と脱分極を行い、この工程を少なくとも2回から4回繰り返した後、単結晶板1の最後の交流分極を行う。【選択図】図2

Description

本発明は、医用超音波診断装置、魚群探知機、ソナーなどの超音波画像検査装置の超音波プローブに用いられる圧電振動子及びその製造方法に関する。
医用超音波診断装置、魚群探知機、ソナーなどの超音波画像検査装置は、超音波プローブを介して対象物に超音波を照射し、対象物の内部からの反射波により発生された反射信号(エコー信号)に基づいて、対象物の内部を画像化する。医用超音波診断装置及び超音波画像検査装置においては、超音波送受信機能を有する電子走査式のアレイ式超音波プローブが主に用いられ、この用途には高性能な圧電振動子が用いられている。
一般的な超音波プローブは、バッキング材料と、バッキング材料上に接合され、圧電体の両面に電極を形成した圧電振動子と、圧電振動子上に接合された音響整合層とを有する。圧電振動子及び音響整合層は、アレイ加工により複数のチャンネルとして形成される。音響整合層上には、音響レンズが形成されている。各チャンネルに対応する圧電振動子の電極は、制御信号基板(フレキシブル印刷配線板:Flexible printed circuit, FPC)とケーブルとを介して、医用超音波診断装置及び超音波画像検査装置の装置本体に接続される。
ここで用いられる圧電振動子には、一般的に直流分極が行われる。直流分極は、圧電セラミックスや単結晶板の上下面に電極を形成して、大気中又はシリコーンオイル中で直流電圧を1分から30分程度印加して行う。この用途の主流である医用超音波診断装置のアレイ式の超音波プローブでは、微細な短冊状圧電振動子(例えば幅0.15mm、高さ0.3mm、長さ10mm)の電気的インピーダンスを、接続ケーブルの約50Ωに適合させるために、高い比誘電率及び棒の長さ方向の電気機械結合係数k33と圧電定数d33を持つ高性能な圧電材料が望まれている。このために高性能な圧電材料であるマグネシウムニオブ酸鉛Pb(Mg1/3Nb2/3)O(PMN)-チタン酸鉛PbTiO(PT)系固溶体単結晶が、2000年以降は広く用いられるようになっている。
また、圧電振動子の性能向上のために分極処理の改善も試みられている。例えば特許文献1には、亜鉛ニオブ酸鉛―チタン酸鉛系の2成分系圧電材料を、高温から低温まで直流電圧を印加しながら行う電界冷却分極処理を行うことで、圧電素子の電気機械結合係数や誘電率を改善できることが示されている。
他方、特許文献2、3には、PMN-PT系圧電振動子を、直流電界ではなく交流電界を印加する交流分極処理を経て圧電素子を製造することで、素子の比誘電率、結合係数や圧電定数を向上させ得ることが示されている。この他、非特許文献1には高温の80℃付近で交流分極を行うことで高い圧電特性が低い交流電界で得られることが示されている。
特開7-50898号公報 特開2014-045411号公報 特開2014-187285号公報
Yiqin Sun et al. Jpn.J. Apply. Phys. 59, SPPD08 (2020)
しかしながら、上記従来の先行技術文献に開示された圧電単結晶材料を用いた超音波振動子においても、より高性能の超音波プローブを得るためには、更なる性能の向上が必要であり、不要振動を発生させずに発熱の原因である誘電損失を低下させ、比誘電率と圧電定数d33等を向上させた圧電振動子が求められていた。
本発明は、上記背景技術に鑑みて成されたものであり、より高い誘電特性及び圧電特性を有し、製造歩留まりも良い圧電振動子及びその製造方法を提供することを目的とする。
本発明は、酸化マグネシウムと酸化ニオブ、及びチタン酸鉛を含む鉛複合ペロブスカイト化合物により構成された矩形の単結晶板により形成され、両面に電極を有する圧電振動子であって、前記単結晶板は、結晶方位の[001]面を主面とし、[100]面及び[010]面を側面とし、前記単結晶板の[100]方位の長さLと[010]方位の幅Wとの比L/Wが3~10であり、分極方向に直交する横方向振動モードの共振周波数frと前記長さLとの積で表される周波数定数N31と、分極方向と平行な縦方向振動モードの共振周波数frと前記単結晶板の厚みtとの積で表される周波数定数Nの比N/N31が、25℃において2.75から3.9である圧電振動子である。特に、前記周波数定数の比N/N31は、25℃において2.8から3.6であると良く、さらに好ましくは、2.9から3.2である。
また、前記鉛複合ペロブスカイト化合物は、マグネシウムニオブ酸鉛(100-x)Pb(Mg1/3Nb2/3)O、チタン酸鉛xPbTiO系2成分系からなる圧電振動子であり、xmol%(xは正の値)のチタン酸鉛と、(100-x)mol%のマグネシウムニオブ酸鉛を有し、誘電率最大値を示す温度Tmが125℃から150℃であって、前記x=27以上32以下である。さらに、前記鉛複合ペロブスカイト化合物の結晶構造の相転移温度Trtは、60℃以上110℃以下であると良い。
また本発明は、前記圧電振動子の製造方法であって、初めに交流分極した前記単結晶板を、150℃以上300℃以下の温度で熱処理及び交流分極と脱分極を行い、この工程を少なくとも2回から4回繰り返した後、前記単結晶板に最後の交流分極を行う圧電振動子の製造方法である。
前記交流分極における交流電界は、1.0kVrms/cm以上10kVrms/cm以下(rms:Root Mean Square)であり、三角波又は正弦波を用いて0.01Hzから200Hzの周波数を有する交流電界を、4から200サイクルに亘って印加するものである。前記交流分極における温度は、20℃から90℃の範囲で行うと良い。
前記最後の交流電界分極の後、前記単結晶板の前面極と背面電極の間に、2.0kV/cm以上10kV/cm以下の範囲の直流電界を、6秒以上1分間以下印加すると良い。前記直流電界の強度は、前記交流電界の強度の0.8から1.5倍が好ましい。
さらに、前記交流電界は、2.0kVrms/cm以上6.0kVrms/cm以下であって、前記直流電界は、3.0kV/cm以上6.0kV/mm以下であり、分極温度は40℃から70℃の範囲で行うと良い。
本発明の圧電振動子とその製造方法によれば、不要振動の発生を抑え、誘電損失が小さく、高い比誘電率と結合係数k33及び圧電定数d33を有する圧電振動子を、簡単に且つ確実に製造することができる。これにより、高解像度で高感度であり、発熱の小さな超音波デバイスを安定的に提供することが可能となる。
本発明の一実施形態及び実施例の圧電振動子の外観の一例を模式的に表す斜視図である。 本発明の一実施形態及び実施例の圧電振動子の製造工程を示す工程図(a)と、従来例の圧電振動子の製造工程を示す工程図(b)である。 本発明の一実施形態及び実施例の圧電振動子の製造方法において、電極形成後、交流分極を行い、更に150℃以上で熱処理脱分極を行い、その工程を2-3回繰り返す処理工程の一例を表すグラフである。 本発明の一実施形態及び実施例の圧電振動子において、長さ方向の周波数定数N31と、厚み方向の周波数定数Nと長さ方向の周波数定数N31の比であるN/N31との関係を示すグラフである。
以下、本発明の一実施形態について、図1~図4に基づいて説明する。はじめに、本実施形態の圧電振動子とその製造方法について以下に説明する。
まず、マグネシウムニオブ酸鉛(Pb(Mg1/3Nb2/3)O(以下、PMNと呼ぶ)、インジウムニオブ酸鉛(Pb(In1/2Nb1/2)O(以下、PINと呼ぶ)、チタン酸鉛PbTiO(以下、PTと呼ぶ)等を有する圧電単結晶を作製する。このために以下に述べる複数の原料が、所定の比率で調合される。原料としては、純度99.9%以上のPb、MgO、Nb、In、TiO2、ZrOが用いられる。これらの原料は、所定の比率で秤量される。秤量された複数の原料は、ボールミルとジルコニアボールと蒸留水とを用いて、湿式状態で混合される。混合された複数の原料(以下、混合原料と呼ぶ)は、所定の時間をかけて乾燥される。乾燥された混合原料は、850乃至950℃で数回の仮焼きが実行される。この仮焼きにより、混合原料の原料粉が作製される。また、予め、一部の原料、特にMgO又はInと、Nbのみを混合して、コロンバイト構造のMgNbやInNbOを1200℃程度で作製し、これに別の材料であるTiOやPb等を混合させても良い。
この作製された原料粉に、ポリビニルアルコール(PVA)などの水溶性結合剤(バインダ)が、原料粉の0.5乃至10%で添加される。バインダが添加された原料粉は、所定の形状にプレス機械を用いて成型される。成型後に、数時間に亘って500℃で、脱バインダ処理が実行される。脱バインダ処理が実行された成形体は、1100乃至1250℃で数時間に亘って、焼成される。以下、焼成された成形体を、単結晶用セラミックスセラミックスと呼ぶ。
単結晶用セラミックスは、25乃至100mmの直径と長さを有し、50乃至200mmの白金るつぼに投入される。なお、場合により、セラミックスの融点を下げるために少量の酸化鉛、または酸化ボロンが追加される。白金るつぼの下部には、同一組成で結晶方位が、[001]板、又は[110]板の種(Seed)の単結晶が配置される。単結晶の種の[001]板、又は[110]板の長さは、20乃至70mmである。セラミックス及び種などが投入された白金るつぼの上部は、溶接で封入される。封入された白金るつぼは、白金るつぼ内の温度を1100乃至1400℃で、5乃至15時間に亘って保持する。これにより、白金るつぼ内のセラミックスは完全に溶融する。この時、白金るつぼの下部に配置された上記種を溶かさないために、白金るつぼの下部から上部に亘って、20乃至60℃/cmで温度が上昇する温度勾配が設けられる。
その後、長尺の単結晶を育成するために、上記温度勾配と単結晶の成長に合わせて、白金るつぼは、0.2乃至0.6mm/時間で引き下げられる。なお、結晶育成の途中で、セラミックス原料を追加して均一性の高い大型・長尺のインゴットを作製しても良い。育成の間にるつぼ内の温度及び組成の均一性を高めるために、白金るつぼは3-30回/分の速度で回転される。以上の工程により、合計10乃至30日間で、単結晶の育成が実行される。以上のブリッジマン法の製造工程により、直径が25-100mmで、長さが50-150mmの圧電単結晶のインゴットが作製される。
すなわち、作製される圧電単結晶のインゴットは、少なくともチタン酸鉛(PbTiO)とリラクサ系鉛複合ペロブスカイト化合物(Pb(B、B)O):(Bはマグネシウム、インジウムのうち少なくとも一つ、Bはニオブ)を含む。上記圧電単結晶のインゴットの製造法には、上記のブリッジマン法以外にもフラックス法、融液ブリッジマン法、TSSG法(Top Seeded Solution Groth)、水平融解ブリッジマン法、CZ法(チョクラルスキー法)などがある。本発明においては、上記圧電単結晶のインゴットの製造法に限定されない。上記いずれかの方法により、圧電単結晶を作製すれば良い。
鉛複合ペロブスカイト化合物は、菱面体晶系(Rhombohedral)から正方晶系(Tetragonal)への相転移温度(以下、Trtと呼ぶ)と、菱面体晶系から単斜晶系(Monoclinic)への相転移温度(以下、Trmと呼ぶ)と、単斜晶系から正方晶系への相転移温度(以下、Tmtと呼ぶ)とを、60℃以上110℃以下の範囲で有する。ここで、相転移温度Trtが60℃未満である場合、後述するように、室温付近での比誘電率、結合係数は高い値が得られるものの、それらの電気特性の温度依存性が顕著となる。また、相転移温度Trtが110℃を超える場合、後述するように、室温において所望の比誘電率や圧電特性が得られない。以上のことから、相転移温度Trtの温度範囲は、60℃以上110℃以下であることが望ましい。優れた圧電特性と温度特性を両方ともに兼ね備えるために、相転移温度は更に好ましくは80℃から95℃である。
具体的には、鉛複合ペロブスカイト化合物は、68mol%以上73mol%以下のマグネシウムニオブ酸鉛またはインジウムニオブ酸鉛と、27mol%以上32mol%以下のチタン酸鉛とを有する。これは、鉛複合ペロブスカイト化合物に対するチタン酸鉛の割合が27mol%未満では、高い比誘電率及び結合係数、圧電定数が得られないことによる。また、鉛複合ペロブスカイト化合物に対するチタン酸鉛の割合が32mol%を超えると、相転移温度Trmが60℃以下となり、特に室温から50℃において、比誘電率及び結合係数の温度依存特性が顕著となる。従って、高い比誘電率、及び結合係数と圧電定数とを維持し、かつ室温から50℃において上記温度依存特性を低減させるために、鉛複合ペロブスカイト化合物におけるチタン酸鉛の割合を、27mol%以上32mol%以下にする必要がある。更に好ましくは29mol%以上31mol以下である。
以上より、本実施形態で製造される圧電単結晶は、鉛複合ペロブスカイト化合物の結晶構造の相転移温度Trtが、60℃以上110℃以下であって、この鉛複合ペロブスカイト化合物は、マグネシウムニオブ酸鉛(100-x)Pb(Mg1/3Nb2/3)O、チタン酸鉛xPbTiO系2成分系の圧電体である。ここでxmol%(xは正の値)のチタン酸鉛と、(100-x)mol%のマグネシウムニオブ酸鉛を有する。このときの比誘電率最大値を示す温度Tmは、125℃から150℃であり、x=27以上32以下である。
また、鉛複合ペロブスカイト化合物は、更にインジウムニオブ酸鉛及びジルコン酸鉛を含んでも良い。鉛複合ペロブスカイト化合物に対するインジウムニオブ酸鉛の割合が30mol%を超えると、鉛複合ペロブスカイト化合物の単結晶の作製が困難となり、及び高い均一性を有する3成分(インジウムニオブ酸鉛、マグネシウムニオブ酸鉛、チタン酸鉛)から構成される鉛複合ペロブスカイト化合物の単結晶が得られないことがある。
さらに、高い比誘電率と結合係数とを維持し、かつ室温から50℃において上記温度依存特性を低減させるために、鉛複合ペロブスカイト化合物は、0mol%以上30mol%以下のインジウムニオブ酸鉛と、36mol%以上68mol%以下のマグネシウムニオブ酸鉛と、27mol%以上32mol%以下のチタン酸鉛とを有し、これらの合計を100mol%のものでも良い。また、本実施形態の圧電単結晶は、さらにジルコン酸鉛を15mol%以下で含んでいても良い。
ここで、超音波プローブに用いられる圧電振動子の結晶の方位としては、圧電特性が優れた[001]方位である圧電単結晶が主に用いられている。また、これらの圧電振動子の圧電単結晶に、酸化マンガンなどが微量(2.0mol%以下)に添加されていても良い。ここで、本実施形態及び本発明においては、結晶方位は、図1の矢印に示す方位とし、圧電振動子1の長さL、幅W、厚みtも図1に示す方位に対応するものとする。
なお、超音波プローブは、その駆動中心周波数を2MHz以上12MHz以下とするために、医用超音波診断装置及び超音波画像検査装置に用いられる超音波プローブの圧電振動子は、例えば0.05mm以上0.5mm以下の厚みとする。
上記の方法で得られた単結晶インゴットにより、0.1乃至0.5mmの厚みを有するダイヤモンドブレードまたはやワイヤーソーを用いて、単結晶インゴットの中央部付近から、厚みが0.2乃至0.7mmの複数のウエハ(以下、単結晶ウエハと呼ぶ)を作製する。図1に示すとおり、単結晶ウエハの厚み方向は結晶方位[001]であり、長さ方向Lは[100]、幅方向Wは[010]である。続いて、ラッピングまたはポリッシングにより、厚みが、例えば0.05mm以上0.5mm以下であって、電極が作製される面の結晶方位が[001]となる単結晶板を作製する。
その後、単結晶板の表面に電極を形成する。電極は、焼付け型の銀または金、スパッタ法またはメッキ法で作製した金、白金、またはニッケルなどが、単結晶板の前面及び背面に、100nm以上5000nm以下程度の厚みで形成される。以下、単結晶板の前面に設けられた電極を前面電極、単結晶板の背面に設けられた電極を背面電極と呼ぶ。なお、スパッタ法、蒸着法、またはメッキ法で電極を付ける場合には、単結晶板との密着性を向上させるために、下地電極としてクロム(Cr)、ニッケル(Ni)、チタン(Ti)、パラジウム(Pd)などを10nm以上100nm程度付与することが望ましい。以下、電極が設けられた単結晶板を圧電単結晶振動子と呼ぶ。
この未分極の圧電単結晶振動子に対して、次の交流分極工程が実施される。交流分極工程における分極電界は、周波数が0.01Hz以上200Hz以下のオフセットの無い(最大電圧の絶対値と最小電圧の絶対値とが等しい)正弦波、あるいは三角波の交流電界である。周波数が0.01Hz未満の周波数は、後述する本願の特徴の効果は得られるが、作業時間の増大を招くために好ましくない。また、200Hzを超える周波数は、圧電単結晶振動子に対して、微細なクラックの発生、及び発熱による絶縁破壊の発生を生じさせやすくなる。その結果、圧電単結晶振動子は壊れやすくなり製造歩留まりが低下する。
以上のことから、交流電界の周波数は0.01Hz以上200Hz以下の範囲である必要がある。この交流電界における電界は、最も一般的に用いられている交流電界の値であるroot-mean-square(rms)で示す。ここで必要とされる交流分極の電界は、当該温度の圧電振動子の抗電界Ecの1乃至5倍の電界である。抗電界と同等の交流電界では、交流分極において、比誘電率及び圧電定数の増加率は、直流分極と比較して10%以下となる。また、抗電界Ecの5倍を超えた交流電界では、圧電単結晶振動子に対して、不要振動の発生、微細なクラックの発生、及び発熱及び変形による絶縁破壊の発生が生じやすくなる。その結果、圧電単結晶振動子は壊れやすくなる。以上のことから、交流分極の電界は、抗電界の1倍乃至5倍の範囲である必要がある。
すなわち、具体的には交流電界は、1.0kVrms/cm以上10kVrms/cm以下である。交流電界が1.0kVrms/cm未満である場合、後述する本願の特徴の特性向上効果が得られにくい。また、交流電界が10kVrms/cmを超える場合、単結晶振動子に熱を生じさせ、その結果、単結晶振動子は壊れやすくなる。更に好ましくは、交流電界は2.0kVrms/cm以上4.0kVrms/cm以下の範囲である。交流電界は、0kVrms/cmで開始し、1波長(1周期)を経て0kV/cmで終了する過程を1サイクルとする。
交流分極工程は、圧電単結晶振動子の厚み方向に対して、作製された電極(前面電極と背面電極)を介して上記分極信号を4サイクル以上200サイクル以下に亘って印加する工程である。サイクル数が4未満の場合は、後述する本発明の特徴の特性向上効果が得られにくい。また、200サイクルを超えると、圧電単結晶振動子に熱を生じさせ、その結果、特に電極面積が2.0cmを超える大型の圧電単結晶振動子は壊れやすくなる。上記のサイクル数及び電界は分極温度にも依存し、室温付近では高い電圧とサイクル数を必要とし、高温の80℃付近では比較的に低い分極電圧とサイクル数で必要十分な値が得られる。
このために、更に好ましくは、分極温度は40℃から70℃で、交流電界は2.0kVrms/cm以上4.0kVrms/cm以下の範囲で、サイクル数は10から50回である。なお、交流電界の印加回数(サイクル)は、単結晶材料組成や寸法に応じて決定されても良い。なお、交流分極工程及び最終の直流分極工程は、分極状態を維持するために、相転移温度(Trt、Trm、Tmt)未満の温度(例えば50℃)であって、一定の温度制御された恒温槽内で実施されることが好ましい。すなわち、相転移温度を超えると、分極の一部が反転したり、圧電性が低下したりすることを避けるために、相転移温度未満で、安定な温度環境下で分極工程を実行する必要がある。
交流分極した圧電単結晶振動子は、図2、図3に示すように、150℃以上300℃以下の温度で熱処理し、脱分極を行い、この工程を少なくとも2回から4回繰り返した後、最後の交流分極を行う。さらに、最後の交流分極後に直流分極を行っても良く、最後の交流分極工程の後に、直流分極が連続して実行されることが好ましい。これは主として、交流分極のみで振動子を作製する場合には面内で不均一な分極処理が生じ、不要振動の発生を招くためである。このために、例えば、直流分極で用いられる電界は、交流分極電界Vrms/cmの0.8倍から1.5倍が良い。このように複数の交流分極と最後の直流分極を組み合わせることで、電気的特性に優れた圧電振動子を、高い製造歩留まりで安定に作製することが出来る。具体的には、直流分極に用いられる電界は、3.0kV/cm以上5.0kV/cm以下が好ましい。また、直流分極が実施される時間は、例えば、室温(15以上25℃以下)から50℃で、一般的に10秒間以上1分間以下である。
なお、圧電定数d33の測定は、ベルリンコート型のPiezod33 Meter,ZJ-4D、Institute of
Acoustic of Academia Sinicaを用いて25℃で測定した。比誘電率と誘電損失の測定は、日置電子株式会社のLCR meterを用いて、1kHz、1Vrms、25℃で行った。
(実施例1乃至10)
マグネシウムニオブ酸鉛-チタン酸鉛(Pb(Mg1/3、Nb2/3)O-PbTiO)のPbTiO量が25から35mol%の組成の単結晶の[001]板であって外形が、12×4mmから8×80mmで、厚みが0.2mmから0.5mmに研磨及び切断加工された単結晶板を用意する。その後、スパッタ装置によりクロム(Cr)が、[001]板(例えば15×4.0mm)の上面及び下面に、20nmの厚みで設けられる。クロムの上に、スパッタ装置により、金が、200nmの厚みで設けられ、電極が形成される。次いで、上記電極が設けられた単結晶の[001]板を、ダイサーブレードを用いて切断することにより、圧電振動子が作製される。
図1は、縦横の長さが12mm×60mmであって、厚みが0.3mmの圧電単結晶振動子である圧電振動子の外観の模式図である。この圧電振動子の相転移温度Trtは、約60℃から100℃である。また、キュリー温度Tcは、110℃から165℃である。また、ソーヤタワー回路を用いて計測された抗電界Ecは、室温で2.0から3.5kV/cmであった。この圧電振動子における電極間に、表1に示された条件で交流分極及び直流分極が実施された。
図2は、本発明の繰り返し交流分極の工程図(a)と、従来の1回のみの交流分極の工程図(b)である。図3は本発明の交流分極-脱分極-交流分極を示す概略図である。図3においては、三角の波形は、左側の縦軸により温度を示し、横軸が時間の変化を示す。さらに、三角の波形の四角で囲った部分a,b,cの範囲においては、波形の値を交流分極時の電圧にも対応させて、右側の縦軸で表している。この実施例では、繰り返し回数は3回で表示されているが、2から5回でも同様である。ここで使用する電圧と周波数とサイクル数は圧電振動子材料及び形状及び分極温度に合わせて適時変更することが可能である。図4に、本発明の一実施例の圧電振動子の厚み方向の周波数定数Nと、長さ方向の周波数定数N31の比であるN/N31との関係を示す。
この実施例では、分極処理から24時間後、室温比誘電率、誘電損失DF(%)、圧電定数d33(pC/N)厚み及び長さ方向の共振周波数(fr)、反共振周波数(fa)を測定し、周波数定数N及びN31(及びその比N/N31]をそれぞれ求めた。
以下の表1、及び表2は、交流電界を印加して分極された圧電振動子の各種特性を、交流電界が印加されていない同一形状のPMN-PT系圧電振動子の各種特性とともに示した表である。なお、表中における値は、各々の例における4個のサンプルの平均値である。表1中で圧電振動子の長さLと幅Wは実施例1-6が12mmと4mm(L/W=3)であり、実施例7-8が60mm×12mm(L/W=5)で実施例9-10が60mm×7mm(L/W=8.6)である。参考例は全て60mm×12mm(L/W=5)である。厚みはすべて0.3mmである。
Figure 2022132883000002
Figure 2022132883000003
表1の結果から明らかなように、本発明の条件で交流分極処理を行った場合は、分極方向に直交する横方向振動モードでの共振周波数frと、単結晶板の[100]方位の長さであって振動方向の最も長い辺の長さLとの積で表される周波数定数N31と、分極方向と平行な縦方向振動モードの共振周波数frと、単結晶板の振動方向の厚みtとの積で表される周波数定数Ntの比N/N31が、25℃において2.75から3.9で、高い電気的特性を高い製造歩留まりで作製出来ることが明らかになった。図4に、この圧電振動子の長さ方向の周波数定数N31と、厚み方向の周波数定数Nと長さ方向の周波数定数N31の比であるN/N31との好ましい範囲を示す。図4のαで示す範囲のN/N31の値が好ましい範囲であり、さらに好ましくはβで示す範囲である。
本発明において周波数定数NとN31の比N/N31が25℃において2.75から3.9であり、更に好ましくは2.8から3.6であると規定したのは、2.75以下では満足な電気的特性を有する圧電振動子が得られず、3.9以上では相転移温度が60℃以下となり、圧電特性の温度特性が大きくなるためである。したがって、上記の両観点から周波数定数の比N/N31は、25℃において2.8から3.6であると良く、さらに好ましくは、2.9から3.2である。
表1,2に示す通り、適正な周波数定数比であるN/N31を有する実施例1-10の圧電振動子は、これらの範囲外の振動子と比べて、優れた電気的特性を示すことが明らかである。又、実施例の不要振動の有無を確認したところ、いずれも問題なく良好であった。更に実施例の圧電振動子の絶縁破壊は5%以下であり、95%以上の高い製造歩留まりが得られた。しかしながら、参考例IIの試料は2/4の半数が絶縁破壊し、更に残りの2個にも大きな不要振動が見られた。表2に示すように、本発明では比誘電率の値が8000以上、15000以下の高い値であり、特に小型の短冊振動子を作製した場合に、接続ケーブルとの電気的整合が容易となる特徴がある。
本発明は、その趣旨を逸脱しない範囲で、前記以外の形態としても実施が可能である。本願に開示された実施形態は一例であって、本発明は、これらの実施形態には限定されない。本発明の技術的範囲は、本願明細書の記載に裏付けされたもので、特許請求の範囲の記載に基づいて解釈され、特許請求の範囲と均等の範囲内での全ての変更が含まれる。
1 圧電振動子
2 電極
E 電界印加方向

Claims (10)

  1. 酸化マグネシウムと酸化ニオブ、及びチタン酸鉛を含む鉛複合ペロブスカイト化合物により構成された矩形の単結晶板により形成され、両面に電極を有する圧電振動子であって、
    前記単結晶板は、結晶方位の[001]面を主面とし、[100]面及び[010]面を側面とし、前記単結晶板の[100]方位の長さLと[010]方位の幅Wとの比L/Wが3~10であり、
    分極方向に直交する横方向振動モードでの共振周波数frと前記長さLとの積で表される周波数定数N31と、分極方向と平行な縦方向振動モードでの共振周波数frと前記単結晶板の厚みtとの積で表される周波数定数Nの比N/N31が、25℃において2.75から3.9であることを特徴とする圧電振動子。
  2. 前記周波数定数の比N/N31は、25℃において2.8から3.6である請求項1の圧電振動子。
  3. 前記鉛複合ペロブスカイト化合物は、マグネシウムニオブ酸鉛(100-x)Pb(Mg1/3Nb2/3)O、チタン酸鉛xPbTiO系2成分系からなる圧電振動子であり、xmol%(xは正の値)のチタン酸鉛と、(100-x)mol%のマグネシウムニオブ酸鉛を有し、比誘電率最大値を示す温度Tmが125℃から150℃であって、前記x=27以上32以下である請求項1または2記載の圧電振動子。
  4. 前記鉛複合ペロブスカイト化合物の結晶構造の相転移温度Trtは、60℃以上110℃以下である請求項3記載の圧電振動子。
  5. 請求項1乃至4記載の圧電振動子の製造方法であって、初めに交流分極した前記単結晶板を、150℃以上300℃以下の温度で熱処理及び交流分極と脱分極を行い、この工程を少なくとも2回から4回繰り返した後、前記単結晶板に最後の交流分極を行うことを特徴とする圧電振動子の製造方法。
  6. 前記交流分極における交流電界は、1.0kVrms/cm以上10kVrms/cm以下(rms:Root Mean Square)であり、三角波又は正弦波を用いて0.01Hzから200Hzの周波数を有する交流電界を、4から200サイクルに亘って印加する請求項5記載の圧電振動子の製造方法。
  7. 前記交流分極における温度は、20℃から90℃の範囲で行う請求項5又は6記載の圧電振動子の製造方法。
  8. 前記最後の交流電界分極の後、前記単結晶板の前面極と背面電極の間に、2.0kV/cm以上10kV/cm以下の範囲の直流電界を、6秒以上1分間以下印加する請求項5乃至7のいずれか記載の圧電振動子の製造方法。
  9. 前記直流電界の強度は、前記交流電界の強度の0.8から1.5倍である請求項8記載の圧電振動子の製造方法。
  10. 前記交流電界は、2.0kVrms/cm以上6.0kVrms/cm以下であって、前記直流電界は、3.0kV/cm以上6.0kV/mm以下であり、分極温度は40℃から70℃の範囲で行う請求項9記載の圧電振動子の製造方法。
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