以下に、図面を参照しながら本開示を実施するための複数の形態を説明する。各実施形態において、先行する実施形態で説明した事項に対応する部分には同一の参照符号を付して重複する説明を省略する場合がある。各実施形態において構成の一部のみを説明している場合は、構成の他の部分については先行して説明した他の実施形態を適用することができる。各実施形態で具体的に組合せが可能であることを明示している部分同士の組合せばかりではなく、特に組合せに支障が生じなければ、明示してなくとも実施形態同士を部分的に組み合せることも可能である。
(第1実施形態)
図1~図11を用いて、本開示の第1実施形態を説明する。本実施形態では、本開示に係る電池診断システム1を、ユーザーUの所有する二次電池25の劣化状態等を推定して診断し、二次電池25のメンテナンスに関する提案を行う業種に適用している。
ここで、二次電池25は、例えば、リチウムイオン二次電池で構成されており、互いに直列に接続された複数の電池セルを有している。二次電池25の負極は、例えば、グラファイト等のリチウムイオンを吸蔵及び放出可能な負極活物質で構成されている。二次電池25の正極は、例えば、LiNi1/3Co1/3Mn1/3O2等のNi、Mn、Coを含有する三元系電極とすることができる。又、電極は、複合材料からなる電極を採用しても良い。
そして、二次電池25は、例えば、複数の電池セルを一列に並べてなる電池モジュールを、複数備えた電池パックにより構成されている。この為、二次電池25としての電池パックの性能は、複数の電池モジュールのうちで、最も低い性能を示す電池モジュールの影響を受ける。更に、電池モジュールの性能は、電池モジュールを構成する電池セルのうちで、最も低い性能を示す電池セルの影響を受ける。従って、二次電池25の劣化を抑制する上では、電池セル単位、電池モジュール単位でメンテナンスを行うことが重要である。
電池診断システム1は、二次電池25の劣化度合いと劣化要因に加えて、将来的な二次電池25の使用態様を考慮して、二次電池25の残価値を診断し、残価値を高める為に有効なメンテナンス方法をユーザーUに提案するように構成されている。
図1に示すように、電池診断システム1は、各ユーザーUが所有する二次電池25が複数含まれている。以下の説明では、二次電池25の用途として、電動車両の駆動用として利用する場合を例として挙げるが、これに限定されるものではない。二次電池25の使用に伴う負荷を示す電池負荷履歴を管理サーバ50へ出力することができれば、家庭用電源や工場用電源等の種々の用途に利用することができる。
各二次電池25の使用履歴情報である電池負荷履歴が、所定の基地局5を介して、データセンタ内の管理サーバ50へ送信される。例えば、二次電池25が車両Vに搭載されている場合は、車両Vの通信端末34から、電池負荷履歴が管理サーバ50へ送信される。電池負荷履歴は、二次電池25の電池温度T、電流値I、SOC等を含んでいる。
又、各ユーザーUには、情報端末10が割り当てられている。情報端末10は、タブレット型端末やスマートフォン等により構成されており、それぞれのユーザーUが想定する二次電池25の将来的な使用用途を示す予測電池負荷等の入力に用いられる。予測電池負荷は、各情報端末10から送信されると、ネットワーク網Nを介して、管理サーバ50のユーザーデータベース55に格納される。
管理サーバ50では、各二次電池25の電池負荷履歴を用いて、二次電池25の劣化度合いや劣化要因の構成が推定される。そして、推定された各二次電池25の劣化度合いや劣化要因の構成と、予測電池負荷を用いて、予測電池負荷で使用された場合の二次電池25の将来的な劣化度合い等が予測される。
更に、二次電池25の将来的な劣化度合い等を考慮して、二次電池25に対する将来的な取扱い(例えば、メンテナンスの手法等)が提案される。これらの診断結果や提案は、ネットワーク網Nを介して、ユーザーUの情報端末10に送信される。
図1に示すように、電池診断システム1には、ディーラーDの情報端末10や、修理工場Fの情報端末10が含まれている。ディーラーDの情報端末では、二次電池25のメンテナンスに必要が部品の費用や納期等が入力される。修理工場Fの情報端末10では、メンテナンスに要する工賃や作業予約状況等が入力される。
ディーラーD及び修理工場Fの情報端末10から入力された情報を用いて、電池診断システム1は、二次電池25のメンテナンスに必要が費用と期間を特定することができるので、費用面及び期間面を考慮したメンテナンスの手法を提案することができる。
電池診断システム1における車両Vの構成について、図2を参照して説明する。上述したように、電池診断システム1における車両Vは、二次電池25が搭載され、モータジェネレータ20から走行用の駆動力を得る電気自動車である。
尚、車両Vとしては、モータジェネレータ20を備えた車両であれば良く、例えば、モータジェネレータ20及び内燃機関(エンジン)から走行用駆動力を得るハイブリッド車を採用することもできる。
図2に示すように、車両Vには、駆動源としてモータジェネレータ20が搭載されている。モータジェネレータ20には、モータ回転数を検出する回転数センサ21、モータトルクを検出するトルクセンサ22、モータ温度を検出する温度センサ23等が取り付けられている。
又、車両Vには、モータジェネレータ20の駆動状態を制御するモータ制御ユニット24が設けられている。モータ制御ユニット24には、回転数センサ21、トルクセンサ22、温度センサ23から、モータ回転数、モータトルク、モータ温度等の車両情報が入力される。
上述したように、車両Vには、二次電池25が搭載されている。二次電池25は、例えば、リチウムイオン二次電池で構成されており、モータジェネレータ20に電力を供給すると共に、他の車載機器に電力を供給する。尚、二次電池25の構成として、複数の電池セルを互いに並列に接続してセルブロックを構成し、このセルブロックを複数個、互いに直列に接続する構成を採用しても良い。
図2に示すように、二次電池25には、電圧センサ26、電流センサ27、電池温度センサ28が接続されている。電圧センサ26は、二次電池25の電圧値を検出するセンサである。電流センサ27は、二次電池25の電流値Iを検出するセンサである。電池温度センサ28は、二次電池25の電池温度Tを検出するセンサである。
電圧センサ26、電流センサ27、電池温度センサ28は、それぞれ、二次電池25である電池パックに対して複数の検出部を有している。つまり、電圧センサ26、電流センサ27、電池温度センサは、電池パックを構成する電池モジュール単位、電池モジュールを構成する電池セル単位で、電圧値、電流値I、電池温度Tを検出することができる。
又、二次電池25には、外部接続部29が設けられている。外部接続部29は、車両V外部の電力系統と接続可能に構成されている。従って、二次電池25は、二次電池25の電力を外部の電力系統に供給したり、外部の電力系統から二次電池25に電力の供給を受けたりすることができる。
そして、車両Vには、電池制御ユニット30が設けられている。電池制御ユニット30には、上述した電圧センサ26、電流センサ27、電池温度センサ28による電圧値、電流値、電池温度Tの情報が入力される。これらの情報は、後述する電池負荷履歴を構成する。従って、電池制御ユニット30は二次電池25の使用履歴等の管理を行う。電池制御ユニット30は、二次電池25の充放電状態を制御する。即ち、電池制御ユニット30は、いわゆる、Battery Management Unitを構成する。
更に、車両Vには車両制御ユニット33が設けられている。車両制御ユニット33は、車両V全体を統括的に制御する。そして、車両制御ユニット33には、アクセルペダルセンサ31、ブレーキペダルセンサ32等が接続されている。従って、車両制御ユニット33には、アクセルペダルやブレーキペダルの操作状況等の車両情報が入力される。
モータ制御ユニット24、電池制御ユニット30、車両制御ユニット33に入力された情報は、車両制御ユニット33に搭載された通信端末34から、基地局5及びネットワーク網Nを介して、管理サーバ50へ出力される。
又、通信端末34は、図示しないGPS衛星からの電波の受信機能を備えており、全地球測位システム(GPS)を利用して車両Vの位置情報を割り出すことが可能となっている。GPSから得られる位置情報や速度情報等も、電池負荷履歴に付随する情報として、基地局5及びネットワーク網Nを介して、通信端末34から管理サーバ50に対して送信される。
尚、通信端末34と基地局5との無線通信には、携帯電話や無線LAN等を用いることが可能であるが、例えば、車両Vの外部接続部29に対して図示しない充電ケーブルを接続した際に、有線通信によって各種情報を送信しても良い。又、車両Vから管理サーバ50に対して電池負荷履歴等の各種情報を送信するタイミングは、リアルタイムで送信しても良いし、所定のタイミングでまとめて送信しても良い。
次に、電池診断システム1における管理サーバ50の構成について、図3を参照して説明する。図3に示すように、管理サーバ50は、一般的なサーバコンピュータによって構成されており、制御部51、通信部52、記憶装置53等を有している。
管理サーバ50は、二次電池25の劣化状態と、将来的な使用計画に基づく予測電池負荷を用いて、二次電池25の将来的な予測劣化状態を推定して診断する。又、管理サーバ50は、二次電池25の予測劣化状態等と、将来的な二次電池25の取扱いに関する取扱条件に基づいて、将来的な二次電池25の取扱態様(例えば、メンテナンス手法)を提案する。
制御部51は、CPU、ROM、RAM等を含む周知のマイクロコンピュータとその周辺回路によって構成されている。制御部51のCPUで、ROMに格納された制御プログラムが実行されることで、電池診断システム1における各機能部が実現される。通信部52は、ネットワーク網Nを介して、各車両Vや各情報端末10との間でデータの双方向通信を可能としている。記憶装置53は、通信部52によるデータの送受信に際して、対象となるデータを一時的に格納したり、演算結果を一時的に格納したりする記憶部である。
又、管理サーバ50には、電池データベース54と、ユーザーデータベース55が設けられている。電池データベース54は、各二次電池25から送信された電池負荷履歴を用いて構成されたデータベースである。電池データベース54には、電池負荷履歴を構成する電池温度T、電流値I等の情報に加え、後述する電池管理処理により算出される要素劣化状態や電池状態が含まれている。又、電池データベース54には、二次電池25毎に、二次電池25の劣化の進行に関する特性を示す電池特性情報が格納されている。
ユーザーデータベース55は、各ユーザーUの情報端末10から入力されるユーザー情報を用いて構成されるデータベースである。ユーザーデータベース55には、ユーザー情報として、二次電池25に対するメンテナンス手法の履歴や、取扱条件の履歴、予測電池負荷の履歴等の情報が含まれている。
図3に示すように、制御部51は、電池診断システム1の機能部として、負荷履歴取得部51aと、補間処理部51bと、劣化推定部51cと、劣化予測部51dと、出力部51eと、を有している。更に、制御部51は、電池診断システム1の機能部として、予測負荷生成部51fと、残価値評価部51gと、ランク特定部51hと、提案部51iと、条件入力部51jと、を有している。
負荷履歴取得部51aは、使用された二次電池25に対する負荷の履歴である電池負荷履歴を取得する機能部であり、例えば、後述するステップS1を実行する際の制御部51によって実現される。
補間処理部51bは、電池負荷履歴の構成データに関して構成データの一部が欠落していた場合、構成データの残りの部分を用いて、欠落している構成データの一部を推定して補間する機能部である。補間処理部51bは、例えば、後述するステップS23を実行する際の制御部51によって実現される。
劣化推定部51cは、電池負荷履歴に基づいて、二次電池25における現在の劣化状態と、劣化状態をもたらした劣化要因を推定する機能部であり、例えば、後述するステップS2~ステップS4までの処理を実行する際の制御部51により実現される。
劣化予測部51dは、二次電池25の今後の使用態様により、二次電池25にかかると予測される負荷を示す予測電池負荷と、二次電池25の現在の劣化状態及び劣化要因を用いて、将来的に発生する二次電池25の予測劣化状態を予測して診断する機能部である。劣化予測部は、例えば、後述するステップS7を実行する際の制御部51により実現される。
出力部51eは、予測された二次電池25の予測劣化状態を出力する機能部であり、例えば、後述するステップS11を実行する際の制御部51により実現される。
予測負荷生成部51fは、二次電池25の今後の使用態様に従って二次電池25が使用された場合に、二次電池25値にかかると予測される負荷を特定して、前記予測電池負荷を生成する機能部である。予測負荷生成部51fは、例えば、後述するステップS6を実行する際の制御部51によって実現される。
残価値評価部51gは、二次電池25の予測劣化状態を用いて、今後の使用態様で使用した場合の二次電池25の残価値を評価する機能部であり、例えば、後述するステップS9を実行する際の制御部51によって実現される。
ランク特定部51hは、予測された二次電池25の電池構成要素の状態を用いて、二次電池25の予測劣化状態に関して、二次電池25のランク付けを行う機能部である。ランク特定部51hは、例えば、後述するステップS8を実行する際の制御部51によって実現される。
提案部51iは、評価された二次電池25の残価値と、二次電池25の将来的な取扱いに関する取扱条件とを用いて、二次電池の残価値を高めることができる二次電池の将来的な取扱態様を提案する機能部である。提案部51iは、例えば、後述するステップS10を実行する際の制御部51によって実現される。
条件入力部51jは、二次電池25の将来的な取扱いに関する取扱条件が入力される機能部であり、例えば、後述するステップS5を実行する際の制御部51によって実現される。
尚、電池診断システム1の各機能の少なくとも1つは、その機能を果たすための電子回路(即ち、ハードウェア)によって構成されていてもよい。
続いて、第1実施形態に係る電池診断システム1による電池診断処理の処理工程について、図4、図5を参照して説明する。ここで、第1実施形態に係る電池診断システム1では、二次電池25を構成する電池モジュール単位で、要素劣化状態、電池状態、予測要素劣化状態、予測電池状態の算出処理を行う。
尚、要素劣化状態等の算出処理にかかる処理負担と、管理サーバ50の制御部51の性能や所要時間とのバランスによっては、二次電池25を構成する電池パック単位で、要素劣化状態等の算出処理を行っても良い。制御部51の性能や所要時間に余裕があるのであれば、電池モジュールを構成する電池セル単位で、要素劣化状態等の算出処理を行うことも可能である。
図4に示すように、ステップS1では、電池診断システム1は、電池診断システム1を構成する二次電池25の電池負荷履歴を取得する。車両Vの二次電池25の場合、制御部51は、車両Vの通信端末34、基地局5及びネットワーク網Nを介して、通信部52により取得される。この時、電池データベース54から二次電池25の電池負荷履歴を取得しても良い。これにより、電池診断システム1は、二次電池25(即ち、電池パック及び電池モジュール)を解体しなくとも二次電池25の電池負荷履歴を取得できる。
電池負荷履歴には、二次電池25の温度である電池温度T、充放電電流、使用期間等の、二次電池25に作用する負荷の履歴が含まれている。尚、放置期間等を要因として、電池負荷履歴を構成するデータに欠落があった場合、制御部51は、既存の値を用いて欠落部分を補間する補間処理を行う。補間処理の内容については後述する。
ステップS3に移行すると、取得した電池負荷履歴を用いて、対象電池である二次電池25の要素劣化状態SOHQae、SOHQce、SOHQLie、SOHRae、SOHRceを算出する。尚、SOHは、State Of Healthの略である。
SOHQaeは、現時点における二次電池25の負極の容量維持率である。SOHQceは、現時点における二次電池25の正極の容量維持率である。SOHQLieは、現時点における二次電池25の電解質の容量維持率である。SOHRaeは、現時点における二次電池25の負極の抵抗増加率である。SOHRceは、現時点における二次電池25の正極の抵抗増加率である。第1実施形態においては、二次電池25の電池パックを構成する電池モジュール単位で、各要素劣化状態が算出される。
二次電池25の各構成要素(つまり、負極、正極、電解質)の所定時(使用開始後の任意時刻)の容量維持率は、初期状態(例えば、工場出荷時)の二次電池25の各構成要素の容量に対する各構成要素の前記所定時の容量の割合である。負極容量は、リチウムイオンが挿入することができる負極のサイト数に対応している。正極容量は、リチウムイオンが挿入することができる正極のサイト数に対応している。
電解質の容量は、正負極SOCずれ容量を用いて表される。正負極SOCずれ容量は、二次電池25における正極と負極の使用容量領域のずれである。正負極SOCずれ容量は、正極と負極との間を移動することができるリチウムイオンの数及びリチウムイオン全体の移動のしやすさに対応している。
又、二次電池25の各構成要素の所定時(一時利用開始後の任意時刻)の抵抗増加率は、初期状態の二次電池25の各構成要素の抵抗値に対する各構成要素の前記所定時の抵抗値の割合である。
そして、電池診断システム1は、各電池構成要素に関する複数の劣化要因に基づいて、要素劣化状態SOHQae、SOHQce、SOHQLie、SOHRae、SOHRceの夫々を算出する。つまり、電池診断システム1は、二次電池25の負極の複数の劣化要因に基づいて、負極に関する要素劣化状態SOHQae、SOHRaeを算出する。又、電池診断システム1は、正極の複数の劣化要因に基づいて、正極に関する要素劣化状態SOHQce、SOHRceを算出する。更に、電池診断システム1は、電解質の複数の劣化要因に基づいて、電解質に関する要素劣化状態SOHQLieを算出する。
具体的には、負極容量Qa及び負極抵抗Raのそれぞれは、活物質の表面へ被膜が形成されることに起因する劣化要因、活物質の表面に形成された被膜が割れることに起因する劣化要因、活物質自体が割れることに起因する劣化要因を考慮して算出される。
正極容量Qc及び正極抵抗Rcのそれぞれは、活物質の表面の変質に起因する劣化要因、活物質の変質した表面が割れることに起因する劣化要因、活物質自体が割れることを考慮した劣化要因を考慮して算出される。
又、電解質の要素劣化状態SOHQLieは、負極の活物質の表面へ被膜が形成されることに起因する劣化要因、負極の活物質の表面に形成された被膜が割れることに起因する劣化要因、負極の活物質自体が割れることに起因する劣化要因を考慮して算出される。更に、電解質の要素劣化状態SOHQLieは、正極の活物質の表面へ被膜が形成されることに起因する劣化要因、正極の活物質の表面に形成された被膜が割れることに起因する劣化要因、正極の活物質自体が割れることに起因する劣化要因を考慮して算出される。
尚、各要素劣化状態の詳細な算出の仕方については後述する。
ステップS4では、二次電池25全体の劣化状態である電池状態SOHQBe、SOHRBeが算出される。電池状態SOHQBeは、二次電池25の容量に関する二次電池25全体の劣化状態を示す。電池状態SOHQBeは、ステップS3で算出された要素劣化状態SOHQae、SOHQce、SOHQLieの最小値を取ることで導出される。つまり、SOHQBe=min(SOHQae,SOHQce,SOHQLie)と表すことができる。
上述したように、負極容量Qaは、リチウムイオンが挿入することができる負極のサイト数に対応しており、正極容量Qcは、リチウムイオンが挿入することができる正極のサイト数に対応している。そして、正負極SOCずれ容量QLiは、正極と負極との間を移動することができるリチウムイオンの数及びリチウムイオン全体の移動のしやすさに対応している。
従って、負極容量Qa、正極容量Qc及び正負極SOCずれ容量QLiのうち最小のものは、二次電池25の電池容量QBに対応する。つまり、要素劣化状態SOHQae、SOHQce、SOHQLieの最小値は、二次電池25全体の電池状態SOHQBeになる。
又、電池状態SOHRBeは、抵抗に関する二次電池25全体の劣化状態を示す。電池状態SOHRBeは、要素劣化状態SOHRae、SOHRceの和によって算出される。つまり、SOHRBe=SOHRae+SOHRceと表すことができる。
尚、第1実施形態においては、電池状態SOHQBe、SOHRBeは、電池モジュール単位で算出される。そして、例えば、要素劣化状態において、二次電池25の電極(即ち、負極及び正極)以外の部材(例えば、電解質)の抵抗を考慮した場合は、電池状態SOHRBeを算出する際に、その部材に関する要素劣化状態が考慮される。即ち、前記SOHRBe=SOHRae+SOHRceの右辺に、当該部材に関する要素劣化状態が加算される。
ここで、ステップS1における電池負荷履歴の取得と、ステップS2における要素劣化状態の算出と、ステップS3における電池状態の算出について、図5を参照して詳細に説明する。
電池診断システム1は、二次電池25の電池負荷履歴に基づいて、使用開始時から現時点までの二次電池25の要素劣化状態を逐次算出する。以下、1回分の要素劣化状態の算出動作の開始時刻をts、終了時刻をte、開始時刻tsから終了時刻teまでの時間を実施サイクルと呼ぶこととする。実施サイクルの長さは、要素劣化状態及び電池状態に関する予測の精度と、要素劣化状態及び電池状態の算出に関する計算負荷とを考慮して適宜決定される。
上述したように、ステップS1では、制御部51は、二次電池25の電池負荷履歴を取得する。ステップS1の具体的内容について、ステップS21~ステップS23を参照して説明する。
ステップS21では、電池負荷履歴として、電池温度T、充放電電流値I、履歴対象期間Timeが取得される。
この時、電池診断システム1は、実施サイクル中の二次電池25の温度の分布から、実施サイクルにおける二次電池25の電池温度Tを算出する。電池温度Tは、例えば、実施サイクル中に取得された二次電池25の温度の度数分布から算出した平均値とすることができる。
尚、電池温度Tとして、計算負荷低減の為、実施サイクル中に取得された二次電池25の温度の平均値等を採用することも可能である。電池温度Tは、電池診断システム1の電池データベース54に格納される。
ステップS22においては、制御部51は、電池負荷履歴の構成データの一部が欠落しているか否かを判断する。ここで、二次電池25の電池負荷履歴には、車両Vのイグニッションがオンであり、二次電池25に対する入出力がある使用期間Peと、イグニッションがオフであり、二次電池25に対する入出力がない放置期間Pelとが含まれる。
放置期間Pelにおいては、電池温度センサ28等の各種センサの検出動作が行われなくなる為、履歴対象期間Timeを構成する放置期間Pelに相当する電池負荷履歴が欠落することが考えられる。しかしながら、後述するカレンダー劣化の進行を評価する為に、放置期間Pelの電池負荷履歴も必要になる。
この為、ステップS22では、電池負荷履歴として取得した構成データにおいて、放置期間Pelに相当するデータ(即ち、欠落データ)が含まれているか否かが判断される。構成データの欠落がある場合、ステップS23に移行して、補間処理が行われる。構成データの欠落がない場合、ステップS24に進む。
ステップS23では、電池負荷履歴における構成データの欠落を補間する為にデータ補間処理が行われる。ステップS23のデータ補間処理では、電池負荷履歴として取得した使用期間Peに相当するデータから、放置期間Pelに相当するデータが推定及び補完され、全ての期間における電池負荷履歴が取得される。
具体的に、ステップS23では、電池負荷履歴を構成する電圧、SOC、電流、電池温度Tについてのデータ補間処理が行われる。尚、以下の説明において、放置期間Pelの直前にあたる使用期間Peを直前使用期間Pebといい、放置期間Pelの直後にあたる使用期間Peを直後使用期間Peaという。
電圧及びSOCに関するデータ補間処理については、直前使用期間Peb終了時における電圧等の数値と、直後使用期間Peaにおける電圧等の数値とを用いて、放置期間Pelにおける電圧等の数値を線形補間する。そして、電流値Iに関する補間処理については、二次電池25に対する入出力がない為、放置期間Pelにおける電流値Iを「0」であると推定して補間する。
電池温度Tに関するデータ補間処理の内容について、図6を参照して説明する。図6に示すように、直前使用期間Pebの終了時である点Plにおける電池温度Tの値と、直後使用期間Peaの開始時である点Psの電池温度Tの値は既知である。
又、放置期間Pelにおける二次電池25周辺の外気温Tamは、ネットワーク網N等を通じて取得することができ、放置期間Pelを通じて既知の値である。そして、放置期間Pelにおけるデータのサンプリングは、サンプリング周期ΔtでN回行われるものとする。従って、放置期間Pelの長さは、ΔtNと表すことができる。
先ず、放置期間Pelにおいて、n回目のサンプリングに係る電池温度Tnと、n-1回目のサンプリングに係る電池温度Tn-1の関係は、以下の式(1)のように表すことができる。
尚、ΔTnは、n-1回目のサンプリングの時点からn回目のサンプリングの時点までにおける電池温度Tの変化量である。ΔTnは、二次電池25の外気放熱抵抗、二次電池25の熱容量、二次電池25周辺の外気温Tamを勘案して、以下の式(2)のように表すことができる。
尚、式(2)におけるRは、二次電池25の外気放熱抵抗を示し、Cは、二次電池25の熱容量を示している。又、Tam
n-1は、n-1回目のサンプリング時における外気温Tamである。これらの値は既知の値である為、式(1)(2)により、外気温Tam、二次電池25の外気放熱抵抗及び熱容量を勘案した温度プロファイルTeを導き出すことができる。
そして、導出された温度プロファイルTeと、直後使用期間Peaの開始時の点Psにおける電池温度Tsの値(実測値)を用いて、温度プロファイルTeに対して時間比例の補正をかける。補正値Tcは、以下の式(3)で表すことができる。
尚、式(3)におけるTc
nは、n回目のサンプリング時点に相当する補正値Tcの値を示している。又、T
Nは、直後使用期間Peaの開始時点における温度プロファイルTeの値であり、図6における点Pを示している。
このように、ステップS23でデータ補間処理を行うことで、放置期間Pelにおける電池温度Tを、二次電池25の外気放熱抵抗及び熱容量、二次電池25周辺の外気温Tamを勘案し、精度良く補間することができる。そして、ステップS23のデータ補間処理を行うことにより、電池診断システム1は、精度の良い電池負荷履歴を取得することができる。
ステップS24では、電池診断システム1は、二次電池25の電流値Iの積算値を算出し、算出した積算値に基づいて二次電池25の充電状態を算出する。充電状態は、二次電池25の満充電容量に対する残容量の比が百分率で表されたものであり、いわゆる、SOC(即ち、State Of Charge)である。以後、二次電池25の充電状態をSOCという。電池診断システム1は、例えば、電流積算法を用い、二次電池25の電流値の積算値に基づいて二次電池25のSOCを算出する。ステップS24~ステップS31の処理によって、ステップS2における要素劣化状態の算出と、ステップS3における電池状態の算出が実現される。
ステップS25では、電池診断システム1は、ΔDODを算出する。ΔDODは、実施サイクルの開始時刻tsにおけるSOCと終了時刻teにおけるSOCとの差分によって算出される。尚、DODは、二次電池25の放電深度を示すDepth Of Dischargeの略である。
ステップS26において、電池診断システム1は、二次電池25の負極抵抗Ra及び正極抵抗Rcをそれぞれ算出する。負極抵抗Raは、二次電池25の電池温度Tと、二次電池25の電流値Iと、SOCの変化量ΔDODと、二次電池25の負極の閉回路電位とに基づいて算出される。正極抵抗Rcは、二次電池25の電池温度Tと、二次電池25の電流値Iと、SOCの変化量ΔDODと、正極の閉回路電位とに基づいて算出される。
ここで、電池温度Tは、電池負荷履歴として取得された二次電池25の電池温度Tである。電流値Iは、電池負荷履歴として取得された二次電池25の電流値Iである。変化量ΔDODは、ステップS25において算出されたΔDODである。
二次電池25の負極の閉回路電位及び正極の閉回路電位は、前回の実施サイクルにおいて算出された二次電池25の負極、正極の閉回路電位である。尚、以後、二次電池25の負極の閉回路電位をCCPaといい、二次電池25の正極の閉回路電位をCCPcという。CCPは、Closed Circuit Potentialの略である。
負極抵抗Raは、二次電池25の電池温度T、負極側閉回路電位CCPa、変化量ΔDOD、及び充放電電流値Iの関数として表すことができる。正極抵抗Rcは、二次電池25の温度T、正極側閉回路電位CCPc、変化量ΔDOD、及び充放電電流値Iの関数として表すことができる。これについて以下説明する。
負極抵抗Raは、二次電池25の電解液やその添加剤の酸化還元分解により負極表面に被膜(SEI:Solid Electrolyte Interface)が形成されることに起因して増加する。被膜は上述した化学反応により生成される為、負極抵抗Raはアレニウス則に従う。この為、負極抵抗Raは、電池温度Tの関数によって表すことができる。
又、負極表面の被膜形成は、酸化還元に起因する為、ターフェル則に従う。従って、負極抵抗Raは、負極側閉回路電位CCPaの関数によって表すことができる。
そして、二次電池25の充放電サイクルが繰り返されると、負極の活物質の膨張収縮が繰り返され、表面被膜の割れ(クラック)が進む為、やがて負極表面が被膜の割れ目から露出する。割れ目から露出した表面に新たな被膜が形成されることで被膜量が増加する為、負極抵抗Raの更なる増加を引き起こす。そして、変化量ΔDODが大きい程、活物質の膨張収縮の度合いが大きくなる。そのため、負極抵抗Raは、変化量ΔDODの関数によって表すことができる。
又、負極においては、活物質の膨張収縮が繰り返されることに起因して、活物質自体が割れて径が小さくなる。活物質自体の割れは、負極抵抗Raを低下させる要素と負極抵抗Raを増加させる要素とを兼ね備える。
先ず、活物質自体の割れにより、活物質に新たな面(即ち、被膜が形成されていない面)が形成される為、反応面積が増加する。従って、活物質自体の割れは負極抵抗Raの低下要因となる。一方、活物質に新たな面が形成されると、新たな面において被膜形成が促進される為、被膜量が増加し、負極抵抗Raが増加する。以上を考慮し、負極抵抗Raは、以下に示す理論から変化量ΔDODの関数によって表すことができる。
負極の活物質の割れの速度である微粉化速度は、活物質の粒子径をr、時間をtとしたとき、dr/dtにて表される。ここで、微粉化速度dr/dtは、活物質の粒子径rが大きい程、進行しやすいものと考えられる。つまり、微粉化速度dr/dtは、活物質の粒子径rに比例するものと考えることができる。そのため、微粉化速度dr/dtは、次の式(4)のように表すことができる。
尚、式(4)において、kは定数であり、以後、微粉化係数ということもある。これを解くと、次の式(5)のように表される。
更に、活物質は、変化量ΔDODが大きい程、活物質の膨張及び収縮の度合いが大きくなる為、微粉化定数は、変化量ΔDODに比例するものと考えられる。そうすると、次の式(6)が成立する。
尚、式(6)において、β及びγは定数である。そして、これを解くと、次の式(7)のようになる。
尚、式(7)において、η及びζは定数である。そして、式(5)と式(7)を連成すると、次の式(8)を導くことができる。
尚、r
0は、初期(即ち、t=0のとき)の活物質の半径であり、A、B及びCは定数である。上述したように、負極抵抗R
aは、負極表面に被膜が形成されることに起因して増加し、負極表面の被膜の形成速度は、負極の活物質の径と相関を有する。従って、負極抵抗R
aは、微粉化関数f(t,ΔDOD)を含む式(即ち、ΔDODの関数)によって表すことができる。尚、式(5)の右辺の夫々の括弧内は、更に定数で加算補正しても良い。
又、負極の表面被膜の割れ、及び負極活物質自体の割れは、二次電池25の充放電電流値Iにも依存する。充放電電流値Iが大きい程、電流は活物質の低抵抗部分を集中的に流れるようになる傾向がある為、活物質の部位によって膨張収縮の度合いに差異が生じ得る。これにより、活物質にひずみが発生しやすくなり、負極の表面被膜の割れ及び負極活物質自体の割れを引き起こす。
そのため、負極表面被膜の割れ及び負極活物質自体の割れは、充放電電流値Iの関数又は充放電電流値Iと相関のあるCレートの関数で表すことができる。ここで、1Cレートは、定電流充放電測定の場合、電池の定格容量を1時間で完全充電又は完全放電させる電流値を示す。
以上をまとめると、負極抵抗Raは、関数gA(T,CCPa)、関数gB(T,CCPa,ΔDOD,I)、関数gC(T,CCPa,ΔDOD,I)を用いて、次の式(7)のように表される。
ここで、関数gA(T,CCPa)は、活物質の表面へ被膜が形成されることを考慮した関数である。関数gB(T,CCPa,ΔDOD,I)は、活物質の表面に形成された被膜が割れることを考慮した関数である。関数gC(T,CCPa,ΔDOD,I)は、活物質自体が割れることを考慮した関数である。
以上のような理論に基づき、負極抵抗R
aは、二次電池25の電池温度T、負極側閉回路電位CCP
a、変化量ΔDOD及び充放電電流値Iの関数として表される。
次に、正極抵抗Rcについて説明する。正極抵抗Rcは、正極表面の変質に伴って増加する。正極表面は化学反応により変質する為、正極抵抗Rcはアレニウス則に従う。その為、正極抵抗Rcは、電池温度Tの関数によって表すことができる。
又、正極表面の変質は、正極表面の還元分解に起因する為、ターフェル則に従う。その為、正極抵抗Rcは、正極側閉回路電位CCPcの関数によって表すことができる。
そして、二次電池25の充放電サイクルが繰り返され、正極の活物質の膨張収縮が繰り返されると、変質した正極活物質の表面に割れが生じ、変質していない新たな正極表面が形成される。新たな正極表面において、やがて変質が生じることで、正極抵抗Rcの更なる増加を引き起こす。変化量ΔDODが大きい程、活物質の膨張収縮の度合いが大きくなるため、正極抵抗Rcは、変化量ΔDODの関数によって表すことができる。
又、正極表面の変質は正極の活物質の膨張収縮が繰り返されることで、正極の活物質の割れ(クラック)が進み、活物質の径が小さくなることで促進される。活物質自体の割れは、正極抵抗Rcを低下させる要素と、正極抵抗Rcを増加させる要素とを兼ね備える。
先ず、活物質自体の割れにより、活物質に新たな面(即ち、変質前の面)が形成される為、活物質自体の割れは正極抵抗Rcを低下させる要因となる。一方、活物質に新たな面が形成されると、形成された新たな面がやがて変質して、正極抵抗Rcが増加する。以上を考慮し、正極抵抗Rcは、負極抵抗Raと同様の理論から、式(9)の微粉化関数f(t,ΔDOD)を含む式(即ち、ΔDODの関数)によって表すことができる。
そして、正極活物質自体の割れは、充放電電流値Iにも依存する。充放電電流値Iが大きい程、電流は活物質の低抵抗部分を集中的に流れる傾向がある為、活物質の部位によって膨張収縮の度合いに差異が生じ得る。これにより、活物質自体にひずみが発生しやすくなり、正極活物質自体の割れを引き起こす。そのため、正極活物質自体の割れは、充放電電流値Iの関数又は充放電電流値Iと相関のあるCレートの関数で表すことができる。
以上をまとめると、正極抵抗Rcは、関数hA(T,CCPc)、関数hB(T,CCPc,ΔDOD,I)、hc(T,CCPc,ΔDOD,I)を用いて、次の式(11)のように表せる。
ここで、関数hA(T,CCPc)は、活物質の表面の変質を考慮した関数である。関数hB(T,CCPc,ΔDOD,I)は、活物質の変質した表面が割れることを考慮した関数である。関数hc(T,CCPc,ΔDOD,I)は、活物質自体が割れることを考慮した関数である。
以上のような理論に基づき、正極抵抗R
cは、二次電池25の電池温度T、正極側閉回路電位CCP
c、変化量ΔDOD、及び充放電電流値Iの関数として表される。
ここで、ステップS26において、負極抵抗Ra、正極抵抗Rcの算出に用いる負極側閉回路電位CCPa及び正極側閉回路電位CCPcは、今回の実施サイクルの1つ前の実施サイクルにおける負極側閉回路電位CCPa及び正極側閉回路電位CCPcを用いる。負極側閉回路電位CCPa及び正極側閉回路電位CCPcは、直前の実施サイクルにおけるステップS29で算出される。
尚、前回の実施サイクルに算出された負極側閉回路電位CCPa及び正極側閉回路電位CCPcがない場合(例えば、システム起動時等)は、次のようにして初期の負極側閉回路電位CCPa及び正極側閉回路電位CCPcを算出する。
先ず、電池負荷履歴として取得された電流値Iと負極抵抗Raの初期値との積から初期の負極の分極ΔVaを算出し、電池負荷履歴として取得された電流値Iと正極抵抗Rcの初期値との積から初期の正極の分極ΔVcを算出する。負極抵抗Raの初期値及び正極抵抗Rcの初期値は、例えば、車両Vに搭載されている二次電池25と同型の二次電池において、初期状態(例えば、工場出荷時の状態)の負極抵抗及び正極抵抗の値である。
二次電池25の負極抵抗及び正極抵抗の初期値は、例えば、車両Vの電池制御ユニット30や管理サーバ50の電池データベース54に格納されており、電池制御ユニット30又は電池データベース54から取得することができる。初期状態の負極抵抗Ra及び正極抵抗Rcは、例えば、交流インピーダンス法やIV測定等により決定することができる。或いは、解体された初期状態の二次電池25の正極を用いたハーフセル、負極を用いたハーフセルをそれぞれ作成し、それぞれのハーフセルの抵抗測定を行うことによっても初期状態の負極抵抗Ra及び正極抵抗Rcを決定することができる。
そして、後述する初期OCP特性と、ステップS24において算出されたSOCとに基づいて、二次電池の負極、正極の開回路電位をそれぞれ算出する。各開回路電位は、二次電池25と外部回路とが通電していない状態が長期間経過したときの二次電池25の各電極の電位である。以後、二次電池25の負極の開回路電位を負極側開回路電位OCPaといい、二次電池25の正極の開回路電位を正極側開回路電位OCPcという。OCPは、Open Circuit Potentialの略である。
初期OCP特性は、初期状態における二次電池25のSOCと負極側開回路電位OCPaとの関係、及び、SOCと正極側開回路電位OCPcとの関係を示すものであり、例えば、電池データベース54に記憶されている。
続いて、負極側開回路電位OCPaと負極側の分極ΔVaを加算することによって、負極側閉回路電位CCPaが得られる。一方、正極側開回路電位OCPcと正極側の分極ΔVcを加算することで、正極側閉回路電位CCPcを得ることができる。
前回の実施サイクルに算出された負極側閉回路電位CCPa及び正極側閉回路電位CCPcがない場合(例えば、システム起動時等)は、以上の処理を行うことで、初期の負極側閉回路電位CCPa及び正極側閉回路電位CCPcを算出する。
上述した理論に従って、負極抵抗Ra及び正極抵抗Rcを算出して、ステップS27に移行すると、電池診断システム1は、負極の分極ΔVa及び正極の分極ΔVcを算出する。負極の分極ΔVaは、電池負荷履歴として取得された二次電池25の電流値Iに対して、ステップS26で算出された負極抵抗Raを乗算して算出される。一方、正極の分極ΔVcは、二次電池25の電流値Iに対して、ステップS26で算出された正極抵抗Rcを乗算して算出される。
ステップS28に移行すると、電池診断システム1は、負極側開回路電位OCPa及び正極側開回路電位OCPcを算出する。電池診断システム1は、ステップS24において算出された二次電池25のSOC、及び電池データベース54に記憶された前回の実施サイクルの更新OCP特性に基づいて、負極側開回路電位OCPa及び正極側開回路電位OCPcを算出する。更新OCP特性は、劣化後の二次電池25のSOCと負極側開回路電位OCPaとの関係、及び、SOCと正極側開回路電位OCPcとの関係を示す。
ここで、更新OCP特性は、次のように取得可能である。先ず、電池診断システム1の電池データベース54に予め記憶されている初期OCP特性を、後述のステップS30において算出される負極容量Qa、正極容量Qc、及び正負極SOCずれ容量QLiに基づいて更新する。
初期OCP特性は、初期状態の二次電池25におけるSOCと負極側開回路電位OCPaとの関係、及び、SOCと正極側開回路電位OCPcとの関係を示す。初期OCP特性の更新の手法は特に限定されず、例えば公知の手法を採用することが可能である。
ステップS29において、電池診断システム1は、二次電池25の負極側閉回路電位CCPa及び正極側閉回路電位CCPcを算出する。先ず、電池診断システム1は、ステップS27で算出された分極ΔVa及び分極ΔVcを取得すると共に、ステップS28で算出された負極側開回路電位OCPa及び正極側開回路電位OCPcを取得する。
負極側閉回路電位CCPaは、負極側開回路電位OCPaと負極の分極ΔVaを加算することによって算出され、負極側開回路電位OCPaを負極側閉回路電位CCPaに書き換えることができる。同様に、正極側閉回路電位CCPcは、正極側開回路電位OCPcと正極の分極ΔVcを加算することで算出され、正極側開回路電位OCPcを正極側閉回路電位CCPcに書き換えることができる。
ここで、二次電池25は、劣化によって分極が顕在化する。即ち、分極の発生により、二次電池25の充電時には、二次電池25の閉回路電圧が上昇し、放電時には閉回路電圧が下降する。そして、二次電池25の劣化が進むと、二次電池25の充電時には閉回路電圧が一層上昇し、放電時には閉回路電圧が一層下降する。
この点について、図7、図8を用いて説明する。図7は、劣化前の二次電池25に関して、充電時のSOCと電圧との関係を模式的に示し、図8は、劣化後の二次電池25に関して、充電時のSOCと電圧との関係を模式的に示している。図7及び図8において、実線で開回路電圧、破線で閉回路電圧を表しており、縦軸の電圧のスケールが一致しているものとする。
尚、以後、開回路電圧はOCVといい、閉回路電圧はCCVという。OCVは、Open Circuit Voltageの略であり、CCVは、Closed Circuit Voltageの略である。
図7及び図8を参照すると、劣化後の二次電池25の分極ΔVの方が、劣化前の分極ΔVよりも大きくなっていることがわかる。電池診断システム1は、かかる点に鑑み、二次電池25の劣化量を推定するにあたって、開回路電位OCPを、分極ΔVを考慮した閉回路電位CCPに書き換え、閉回路電位CCPを用いて電池容量QBを予測している。
ステップS30において、電池診断システム1は、二次電池25の負極容量Qa、正極容量Qc、正負極SOCずれ容量QLiを、それぞれ算出する。電池診断システム1は、先ず、ステップS29にて算出された負極側閉回路電位CCPa及び正極側閉回路電位CCPcと、電池負荷履歴として取得された二次電池25の電池温度Tと、ステップS25で算出された変化量ΔDODを取得する。
次に、電池診断システム1は、二次電池25の負極容量Qa、正極容量Qc、正負極SOCずれ容量QLiの夫々を、負極側閉回路電位CCPa及び正極側閉回路電位CCPcの少なくとも一方と、電池温度Tと、電流値Iと、変化量ΔDODに基づいて算出する。
先ず、負極容量Qaの算出について説明する。電池診断システム1は、負極抵抗Raを算出する場合と同様の理論で、負極容量Qaを表す。つまり、負極容量Qaは、関数iA(T,CCPa)、関数iB(T,CCPa,ΔDOD,I)、関数iC(T,CCPa,ΔDOD,I)を用いて次の式(12)のように表される。
ここで、関数iA(T,CCPa)は活物質の表面へ被膜が形成されることを考慮した関数である。関数iB(T,CCPa,ΔDOD,I)は、活物質の表面に形成された被膜が割れることを考慮した関数である。そして、関数iC(T,CCPa,ΔDOD,I)は、活物質自体が割れることを考慮した関数である。即ち、負極容量Qaは、二次電池25の電池温度T、負極側閉回路電位CCPa、変化量ΔDOD(即ち、微粉化関数f(t,ΔDOD))及び充放電電流値Iの関数によって表される。
次に、正極容量Q
cの算出について説明する。電池診断システム1は、正極抵抗R
cを算出する場合と同様の理論で、正極容量Q
cを表す。つまり、正極容量Q
cは、関数j
A(T,CCP
c)、関数j
B(T,CCP
c,ΔDOD,I)、関数j
C(T,CCP
c,ΔDOD,I)を用いて次の式(13)のように表される。
ここで、関数jA(T,CCPc)は、活物質の表面が変質することを考慮した関数である。関数jB(T,CCPc,ΔDOD,I)は、活物質の変質した表面が割れることを考慮した関数である。関数jC(T,CCPc,ΔDOD,I)は、活物質自体が割れることを考慮した関数である。即ち、正極容量Qcは、電池温度T、正極側閉回路電位CCPc、変化量ΔDOD(即ち、微粉化関数f(t,ΔDOD))、及び充放電電流値Iの関数によって表される。
続いて、正負極SOCずれ容量Q
Liの算出について説明する。正負極SOCずれ容量Q
Liは、負極、正極における被膜(SEI:Solid Electrolyte Interface)の形成によるリチウムイオンの消費と相関する。被膜の形成によるリチウムイオンの消費は化学反応である為、正負極SOCずれ容量Q
Liはアレニウス則に従う。その為、正負極SOCずれ容量Q
Liは、電池温度Tの関数によって表すことができる。
負極、正極での被膜形成によるリチウムイオンの消費は、酸化還元反応である為、ターフェル則に従う。その為、正負極SOCずれ容量QLiは、負極側閉回路電位CCPa及び正極側閉回路電位CCPcの関数によって表すことができる。
又、二次電池25の充放電サイクルの繰り返しにより、各電極(即ち、正極、負極)の活物質の膨張収縮が繰り返され、各電極における活物質の表面被膜の割れが進む。これにより、やがて各電極表面が被膜の割れ目から露出し、露出面に新たな被膜が形成されることでリチウムイオンの消費量が増える。又、変化量ΔDODが大きい程、活物質の膨張収縮の度合が大きくなる。そのため、正負極SOCずれ容量QLiは、変化量ΔDODの関数によって表すことができる。
そして、各電極においては、上述したように、活物質の膨張収縮が繰り返されることに起因して、活物質自体が割れて径が小さくなる。活物質自体の割れは、正負極SOCずれ容量QLiを増加させる要素と、正負極SOCずれ容量QLiを低下させる要素とを兼ね備える。
先ず、活物質自体の割れにより、活物質に新たな面(即ち、被膜が形成されていない面)が形成される為、リチウムイオンが各電極の活物質に移動しやすくなり、正負極SOCずれ容量QLiの増加要因となる。一方、活物質に新たな面が形成されると、新たな面において、被膜形成が促進されてリチウムイオンが消費される為、正負極SOCずれ容量QLiの低下要因となる。
以上を考慮すると、正負極SOCずれ容量QLiは、負極抵抗Ra及び正極抵抗Rcと同様の理論から、微粉化関数f(t,ΔDOD)を含む式(即ち、変化量ΔDODの関数)で表すことができる。
又、各電極における活物質自体の割れは、充放電電流値Iにも依存する。充放電電流値Iが大きい程、電流は活物質の低抵抗部分を集中的に流れるようになる傾向がある為、活物質の部位によって膨張収縮の度合いに差異が生じ得る。これにより、活物質にひずみが発生しやすくなり、活物質自体の割れを引き起こす。そのため、各電極の活物質自体の割れは、充放電電流値Iの関数、又は充放電電流値Iと相関のあるCレートの関数で表すことができる。
以上より、正負極SOCずれ容量QLiは、関数kA(T,CCPa)、関数kB(T,CCPa,ΔDOD,I)、kC(T,CCPa,ΔDOD,I)、関数lA(T,CCPc)、関数lB(T,CCPc,ΔDOD,I)、関数lC(T,CCPc,ΔDOD,I)を用いて次の式(14)のように表される。
ここで、関数kA(T,CCPa)は、負極の活物質の表面へ被膜が形成されることを考慮した関数である。関数kB(T,CCPa,ΔDOD,I)は、負極の活物質の表面に形成された被膜が割れることを考慮した関数である。関数kC(T,CCPa,ΔDOD,I)は、負極の活物質自体が割れることを考慮した関数である。
更に、関数lA(T,CCPc)は、正極の活物質の表面へ被膜が形成されることを考慮した関数である。関数lB(T,CCPc,ΔDOD,I)は、正極の活物質の表面に形成された被膜が割れることを考慮した関数である。関数lC(T,CCPc,ΔDOD,I)は、正極の活物質自体が割れることを考慮した関数である。
以上のように、正負極SOCずれ容量Q
Liは、電池温度T、負極側閉回路電位CCP
a、正極側閉回路電位CCP
c、変化量ΔDOD、及び充放電電流値Iの関数として表すことができる。
ステップS31において、電池診断システム1は、ステップS30で算出した負極容量Qa、正極容量Qc、正負極SOCずれ容量QLiを用いて、電池容量QBを求める。具体的には、電池診断システム1は、二次電池25の負極容量Qa、正極容量Qc、及び正負極SOCずれ容量QLiのうち、最小のものを二次電池25の電池容量QBと判断する。即ち、電池診断システム1は、QB=min(Qa,Qc,QLi)を実行する。
上述したように、負極容量Qaは、リチウムイオンが挿入することができる負極のサイト数に対応し、正極容量Qcは、リチウムイオンが挿入することができる正極のサイト数に対応している。正負極SOCずれ容量QLiは、正極と負極との間を移動することができるリチウムイオンの数及びリチウムイオン全体の移動のしやすさに対応している。この為、負極容量Qa、正極容量Qc、及び正負極SOCずれ容量QLiのうち最小のものは、二次電池25の電池容量QBに対応する。
又、ステップS31では、電池診断システム1は、負極抵抗Ra及び正極抵抗Rcを用いて、二次電池25全体の抵抗値である電池抵抗RBを求める。具体的には、電池診断システム1は、二次電池25を構成する各部(負極抵抗Ra及び正極抵抗Rc)の合計を、二次電池25全体の抵抗値と判断する。即ち、電池診断システム1は、RB=Ra+Rcを実行する。
以上のように、現時点における二次電池25の負極抵抗Ra、正極抵抗Rc、負極容量Qa、正極容量Qc、正負極SOCずれ容量QLi、電池容量QB、及び電池抵抗RBのそれぞれを算出する。そして、電池診断システム1は、算出した正極容量Qc等を用いて、要素劣化状態SOHQae、SOHQce、SOHQLie、SOHRae、SOHRceを算出する。
例えば、要素劣化状態SOHQaeは、初期の二次電池25の負極容量Qaに対する現時点における二次電池25の負極容量Qaの割合を求めることで算出される。要素劣化状態SOHQceは、初期の二次電池25の正極容量Qcに対する現時点における二次電池25の正極容量Qcの割合を求めることで算出される。要素劣化状態SOHQLieは、初期の二次電池25における正負極SOCずれ容量QLiに対する現時点における二次電池25の正負極SOCずれ容量QLiの割合を求めることで算出される。
要素劣化状態SOHRaeは、初期状態の二次電池25における負極抵抗Raに対する現時点における二次電池25の負極抵抗Raの割合を求めることで算出される。要素劣化状態SOHRceは、初期状態の二次電池25における正極抵抗Rcに対する現時点における二次電池25の正極抵抗Rcの割合を求めることで算出される。
そして、二次電池25全体に関する電池状態SOHQBeは、要素劣化状態SOHQae、SOHQce、SOHQLieの最小値として求めることができる。又、電池状態SOHRBeは、二次電池25全体の抵抗に関する劣化状態を示しており、SOHRBe=SOHRae+SOHRceにより求めることができる。
尚、ステップS26~ステップS31の算出処理において、各数式に含まれる定数、各数式を構成する関数の係数及び定数は、電池データベース54に格納されている電池特性情報を参照して定められる。
この場合において、ステップS31で電池状態の算出処理の終了後、電池診断システム1は、算出した二次電池25の電池状態で特定される劣化の状態と、実際に二次電池25に生じている劣化の状態を比較して、電池データベース54の電池特性情報を更新する。
具体的には、電池診断システム1は、電池状態SOHQBe、SOHRBeによって表される状態が実際に二次電池25に生じている劣化の状態に一致するように、電池データベース54の電池特性情報を更新する。
このようにして、二次電池25の各構成要素の劣化状態を、各構成要素の複数の劣化要因を考慮して算出することで、二次電池25の各構成要素の劣化状態の予測を高精度に行うことができる。
この点について、具体例を挙げると共に、図9を参照して説明する。具体例として、2つの同型の二次電池25(以下、便宜上、第1電池、第2電池という)を用いて、劣化要因の相違が将来的な劣化の進行に及ぼす影響に関するシミュレーション結果を挙げる。
尚、第1電池、第2電池は、互いに同じ型の二次電池である。図9に示すグラフの横軸は日数の平方根を示しており、縦軸は二次電池25の容量維持率を示している。そして、所定時における二次電池25の容量維持率は、初期状態における二次電池25の容量に対する所定時の二次電池25の容量の割合である。
又、図9において、第1電池に関する実験結果を線L1、第2電池に関する実験結果を線L2で示している。図9に示す第1電池及び第2電池のそれぞれの結果は、何れも、負極容量Qa、正極容量Qc及び正負極SOCずれ容量QLiのうち、正負極SOCずれ容量QLiが最小である。従って、第1電池及び第2電池の実験結果において、電池容量QB=正負極SOCずれ容量QLiとなっている。
尚、自動車駆動用等の大電流が流れる二次電池25は、二次電池25の負極容量Qa、正極容量Qc、及び正負極SOCずれ容量QLiのうち、正負極SOCずれ容量QLiが最小となる領域でのみ使用されることが多い。即ち、大電流が流れる二次電池25において、電池容量QBは、正負極SOCずれ容量QLiとなることが多い。
図9に示す具体例において、第1電池について、容量維持率が100%である状態から、第1電池を45℃の環境下でカレンダー劣化させ、容量維持率を92%まで下げた。このときの第1電池の容量低下は、各電極への被膜形成に起因するものが7.2%、各電極の活物質の表面に形成された被膜が割れることに起因するものが0.4%、各電極の活物質自体が割れることに起因するものが0.4%であった。
一方、図9に示す具体例において、第2電池については、容量維持率が100%である状態から、第2電池を45℃の環境下でサイクル劣化させ、容量維持率を92%まで下げた。このときの第2電池の容量の低下は、各電極への被膜形成に起因するものが4.0%、各電極の活物質の表面に形成された被膜が割れることに起因するものが1.6%、各電極の活物質自体が割れることに起因するものが2.4%であった。
つまり、互いに同じ容量維持率、正負極SOCずれ容量QLiの第1電池及び第2電池であっても、それまでの使用状況により、正負極SOCずれ容量QLiに関する式(14)を構成する各関数の値が第1電池と第2電池とで相違することがわかる。
そして、容量維持率を92%とした第1電池と第2電池とを、サイクル劣化とカレンダー劣化とを組み合わせて同じ条件で劣化させた。図9に示すように、容量維持率が92%以下である領域において、第2電池の劣化状態を示す線L2の傾きの方が、第1電池の劣化状態を示す線L1の傾きよりも大きくなっている。即ち、この条件においては、最初にサイクル劣化させた第2電池の方が、最初にカレンダー劣化させた第1電池よりも劣化が早くなっていることがわかる。
これにより、互いに同じ容量維持率の二次電池25でも、それまでの二次電池25の使用状況によって、その後の二次電池25の劣化の進行度合いが異なることがわかる。又、正負極SOCずれ容量QLiを、各電極への被膜形成を考慮した関数、各電極の活物質の表面に形成された被膜が割れることを考慮した関数、各電極の活物質自体が割れることを考慮した関数に基づいて算出することで、高精度の電池容量QBを算出できる。尚、電池容量QBが負極容量Qa又は正極容量Qcとなる場合も同様である。
又、負極抵抗Ra、正極抵抗Rcについても、それぞれ複数の劣化要因を考慮して算出されている。その為、前述の電池容量QBが高精度に算出される論理と同様の論理から、負極抵抗Ra、正極抵抗Rcについても高精度に算出できる。
図4に戻り、ステップS4以後の処理について説明する。ステップS4においては、二次電池25について、ステップS3で算出された電池状態となった複数の劣化要因を抽出する。ここで、初期状態の二次電池25の状態と、現時点における二次電池25の状態との差をトータル劣化量Zという。
トータル劣化量Zには、カレンダー劣化に起因するカレンダー劣化量Zaと、サイクル劣化に起因するサイクル劣化量Zbと、その他の劣化要因に起因する劣化量Zcが含まれている。従って、トータル劣化量Zは、次の式(15)のように表される。
カレンダー劣化量Zaは、カレンダー劣化に起因する二次電池25の劣化量である。カレンダー劣化は、二次電池25に対する通電によらず、時間経過により進行し、二次電池25の電池温度Tを高くすることで、より進行する傾向を示す。又、カレンダー劣化は、活物質の表面に被膜が形成されることによって進行すると考えられる。
上述したように、被膜は二次電池25の電解液やその添加剤の酸化還元分解といった化学反応により生成する為、アレニウス則に従って形成される為、カレンダー劣化量Zaは、電池温度Tの関数によって表すことができる。又、被膜形成は酸化還元に起因する為、ターフェル則に従う。従って、カレンダー劣化量Zaは、閉回路電位CCPの関数によって表すことができる。以上より、上述した式(12)~式(14)における被膜の形成を考慮した関数を用いた式(16)によって、カレンダー劣化量Zaを求めることができる。
サイクル劣化量Zbは、サイクル劣化に起因する二次電池25の劣化量である。サイクル劣化は、二次電池25の通電により進行し、二次電池25の電池温度が低い状態での通電によって、より進行する傾向を示す。又、サイクル劣化は、各電極等の膨張収縮に起因しており、活物質の表面に形成された被膜が割れることによって進行すると考えられる。
上述したように、表面被膜の割れ(クラック)は、二次電池25の充放電サイクルの繰り返しに伴い、活物質の膨張収縮が繰り返されることによって進行する。これにより、被膜の割れ目から露出した表面に新たな被膜が形成されることで被膜量が増加する為、更に劣化が進行する。そして、変化量ΔDODが大きい程、活物質の膨張収縮の度合いが大きくなる。その為、サイクル劣化量Zbは、変化量ΔDODの関数によって表すことができる。以上より、上述した式(12)~式(14)における活物質の表面に形成された被膜が割れることを考慮した関数を用いた式(17)によって、サイクル劣化量Zbを求めることができる。
以上のように、現時点における二次電池25のトータル劣化量Zにおけるカレンダー劣化量Za、サイクル劣化量Zbを、式(16)、式(17)から求めることができる。これにより、現時点における二次電池25の劣化に関して、活物質の表面に被膜が形成されることに起因するカレンダー劣化と、活物質の表面に形成された被膜が割れることに起因するサイクル劣化の何れが強く影響を与えているかを評価することができる。
ステップS5では、電池診断システム1は、取扱条件の設定を行う。取扱条件とは、予測電池状態等を用いた二次電池25の診断結果と共に、提案される提案内容に関する指針となる条件であり、二次電池25の将来的な使用予定(二次電池25の使用を終了する年等)の期間条件も含まれている。
第1実施形態においては、メンテナンスに関する取扱条件が、ユーザーUの情報端末10から入力される。第1実施形態の取扱条件には、メンテナンスに要する費用に関する費用条件や、メンテナンス完了までに要する期間等についての期間条件が含まれている。
ステップS6においては、電池診断システム1は、将来的に使用した場合に二次電池25に作用すると考えられる予測電池負荷を取得して、予測電池状態を算出する為の条件として設定する。
第1実施形態では、予測電池負荷には、予測電池負荷の大きさを複数段階に分けて生成される予測電池負荷と、ステップS1で取得された電池負荷履歴から学習したユーザー特性に従った予測電池負荷が含まれている。これらの予測電池負荷は、情報端末10を用いたユーザーUの選択に応じて生成され、予測電池状態等の算出に利用される。
図10に示すように、第1実施形態に係る電池診断システム1では、「予測電池負荷(1)」「予測電池負荷(2)」「予測電池負荷(3)」「予測電池負荷(4)」等の複数種類の予測電池負荷が生成される。各予測電池負荷には、二次電池25に対する充電に関する事項も含まれており、一般的な通常充電と、通常充電よりも大電力を用いて短時間に充電を完了する急速充電の種別も含まれている。
「予測電池負荷(1)」は、一日あたりの車両Vの走行距離が450km/dとなるように生成された予測電池負荷である。つまり、予測電池負荷(1)は、ステップS6において、予測電池負荷の大きさとして「大」がユーザーUによって選択された場合の予測電池負荷の一例に相当する。
「予測電池負荷(2」は、一日あたりの車両Vの走行距離が150km/dとなるように生成された予測電池負荷である。つまり、予測電池負荷(2)は、ステップS6において、予測電池負荷の大きさとして「中」がユーザーUによって選択された場合の予測電池負荷の一例に相当する。
「予測電池負荷(3)」は、一日あたりの車両Vの走行距離が100km/dとなるように生成された予測電池負荷である。つまり、予測電池負荷(3)は、ステップS6において、予測電池負荷の大きさとして「大」がユーザーUによって選択された場合の予測電池負荷の一例に相当する。
「予測電池負荷(4)」は、電池負荷履歴の学習結果に従って生成された予測電池負荷である。図10に示すように、予測電池負荷(4)は、予測電池負荷(2)の特徴の一部と、予測電池負荷(3)の特徴の一部を有しており、蓄積した電池負荷履歴の学習結果に基づいて生成されている。従って、予測電池負荷(4)は、ステップS6において、予測電池負荷として「学習」がユーザーUによって選択された場合の予測電池負荷の一例に相当する。
尚、予測電池負荷としては、二次電池25が将来的に使用された場合において、二次電池25に作用する負荷の大きさに相関を有していれば良く、例えば、二次電池25の使用頻度、充放電電流値、電池温度等を含めることができる。又、車両Vの運転のように、ユーザーUの使用特性(例えば、アクセルペダル、ブレーキペダルの操作及び操作頻度)が二次電池25に作用する負荷に影響を与える場合には、ユーザーUの使用特性を、予測電池負荷を構成する情報に含めても良い。
ステップS7では、電池診断システム1は、ステップS6で設定された予測電池負荷に従って、二次電池25を使用した場合に将来的に生じる予測要素劣化状態SOHQap、SOHQcp、SOHQLip、SOHRap、SOHRcpのそれぞれを算出する。
つまり、電池診断システム1は、二次電池25の負極の複数の劣化要因に基づいて、負極の予測要素劣化状態SOHQap、SOHRapを算出する。そして、電池診断システム1は、二次電池25における正極の複数の劣化要因に基づいて、正極の予測要素劣化状態SOHQcp、SOHRcpを算出する。又、電池診断システム1は、二次電池25における電解質の複数の劣化要因に基づいて電解質の予測要素劣化状態SOHQLipを算出する。各電池構成要素の劣化要因については、上述したステップS2~ステップS4における各電池構成要素の劣化要因と同様である。
続いて、電池診断システム1は、予測電池負荷に従って二次電池25を使用した場合に将来的に生じる二次電池25全体の劣化状態である予測電池状態SOHQBp、SOHRBpを算出する。
予測電池状態SOHQBpは、予測要素劣化状態SOHQap、SOHQcp、SOHQLipの最小値を取ることで算出されるものであり、容量に関する二次電池25の将来的な劣化状態を示す。つまり、SOHQBp=min(SOHQap,SOHQcp,SOHQLip)である。
予測電池状態SOHRBpは、予測要素劣化状態SOHRap、SOHRcpの和によって算出されるものであり、抵抗に関する二次電池25の将来的な劣化状態を示す。つまり、SOHRBp=SOHRap+SOHRcpである。又、電池状態の算出時と同様の理論を用いて、予測カレンダー劣化量、予測サイクル劣化量を算出できる。
ステップS8においては、電池診断システム1は、算出した予測電池状態SOHQBp、SOHRBpを用いて、予測電池負荷に従った使用の後の二次電池25に関するランク分けを実行する。二次電池25のランク分けは、基本的に、二次電池25の容量に関する容量ランクと、二次電池25の抵抗に関する抵抗ランクとを対応付けて構成されたマップに基づいて行われる。
二次電池25の容量ランクは、予測電池負荷に従った使用態様で要求される二次電池25の能力と、ステップS3で算出された電池状態SOHQBe、ステップS7で算出された予測電池状態SOHQBpに基づいて定められる。
第1実施形態の場合、先ず、容量ランクの特定に際して、電池診断システム1は、寿命時間を算出する。具体的には、電池診断システム1は、現時点までの二次電池25に関する使用日数と電池状態SOHQBeとの関係を算出する。次に、電池診断システム1は、予測電池負荷に係る使用態様で二次電池25を将来的に使用する場合の使用日数と、予測電池状態SOHQBpとの関係を、予測電池負荷に従った使用態様で要求される二次電池25の能力を示す要求容量維持率となるまで算出する。寿命時間は、予測電池負荷に従った使用を開始した時点から、二次電池25の容量維持率が要求容量維持率となるまでの時間である。
同様に、容量ランクの特定に際して、電池診断システム1は寿命走行距離を算出する。電池診断システム1は、現時点までに二次電池25を搭載した車両Vが走行した走行距離と、電池状態SOHQBeとの関係を算出する。次に、電池診断システム1は、予測電池負荷に係る使用態様で二次電池25を搭載した車両Vが将来的に走行する場合の走行距離と、予測電池状態SOHQBpとの関係を、予測電池状態SOHQBpの値が要求容量維持率となるまで算出する。寿命走行距離は、二次電池25の予測電池状態SOHQBpが要求容量維持率となるときの、予測電池負荷に従った使用を開始した時点からの走行距離を意味する。
そして、電池診断システム1は、寿命時間と、寿命走行距離と、容量ランクとの関係を予め算定したマップを用いて、容量ランクを決定する。例えば、電池診断システム1は、寿命時間が長く、且つ、寿命走行時間が長いものほど、容量ランクを高くする。第1実施形態では、容量ランクをA~Hの文字を用いてランク付けを行い、容量ランクは、Aが最もランクが高く、アルファベット順にランクが下がっていくものとする。
二次電池25の抵抗ランクについては、予測電池負荷に従った使用態様で要求される二次電池25の能力と、ステップS3で算出された電池状態SOHRBe、ステップS7で算出された予測電池状態SOHRBpに基づいて定められる。
第1実施形態の場合、先ず、抵抗ランクの特定に際して、電池診断システム1は、予測電池負荷に係る使用態様で要求される要求日数を算出する。具体的には、電池診断システム1は、現時点までの二次電池25に関する使用日数と電池状態SOHRBeとの関係を算出する。
次に、電池診断システム1は、予測電池負荷に係る使用態様で二次電池25を将来的に使用する場合の使用日数と、予測電池状態SOHRBpとの関係を、予測電池負荷に従った使用態様で要求される二次電池25の能力を示す要求抵抗増加率となるまで算出する。抵抗ランクに関する寿命時間は、予測電池負荷に従った使用を開始した時点から、二次電池25の抵抗増加率が要求抵抗増加率となるまでの時間である。
同様に、抵抗ランクの特定に際して、電池診断システム1は寿命走行距離を算出する。電池診断システム1は、現時点までに二次電池25を搭載した車両Vが走行した走行距離と、電池状態SOHRBeとの関係を算出する。
次に、電池診断システム1は、予測電池負荷に係る使用態様で二次電池25を搭載した車両Vが将来的に走行する場合の走行距離と、予測電池状態SOHRBpとの関係を、予測電池状態SOHRBpの値が要求抵抗増加率となるまで算出する。抵抗ランクに係る寿命走行距離は、二次電池25の予測電池状態SOHRBpが要求抵抗増加率となるときの、予測電池負荷に従った使用を開始した時点からの走行距離を意味する。
そして、電池診断システム1は、抵抗ランクに関して算出された寿命時間及び寿命走行距離と、抵抗ランクとの関係を予め算定したマップを用いて、抵抗ランクを決定する。例えば、電池診断システム1は、寿命時間が長く、且つ、寿命走行時間が長いものほど、抵抗ランクを高くする。第1実施形態では、抵抗ランクをA~Hの文字を用いてランク付けを行い、抵抗ランクは、Aが最もランクが高く、アルファベット順にランクが下がっていくものとする。
その後、電池診断システム1は、決定した容量ランク及び抵抗ランクを用いて、予測電池負荷に係る使用態様で二次電池25を使用した場合の二次電池25の残価値をランク付けする。図11に示すように、容量ランクが高く、且つ、抵抗ランクが高いほど、二次電池25の残価値が高いものとして、ランク付けが行われる。
この時、同一のランク帯における二次電池25の残価値の高低を評価する為に、予測劣化要因(予測カレンダー劣化量及び予測サイクル劣化量)に基づく評価を行っても良い。電池診断システム1は、予測カレンダー劣化量と予測サイクル劣化量の比率を、予測電池負荷に係る使用態様での要求能力に基づく基準で評価して、同一ランク帯での残価値の評価を行う。
ステップS9では、電池診断システム1は、電池状態SOHQBe、SOHRBe、予測電池状態SOHQBp、SOHRBp、二次電池25のランク等の情報と、記憶装置53に格納されているマップを用いて、二次電池25の残価値を算出する。
残価値の評価に利用する情報として、要素劣化状態SOHQae、SOHQce、SOHQLie、SOHRae、SOHRce、カレンダー劣化量Za、サイクル劣化量Zbを用いても良い。又、予測要素劣化状態SOHQap、SOHQcp、SOHQLip、SOHRap、SOHRcp、予測カレンダー劣化量、予測サイクル劣化量を用いて、残価値の評価を行うことも可能である。
例えば、二次電池25の各構成要素に対してそれぞれ定められた基準値と、予測要素劣化状態SOHQap、SOHQcp、SOHQLip、SOHRap、SOHRcpを用いて定められたマップに従って、二次電池25の残価値を金額として算出する。この時、基準値の値を、二次電池25に関する市場価値や、予測電池負荷に係る使用態様に応じて変更しても良い。
ステップS10においては、電池診断システム1は、電池状態SOHQBe、SOHRBe、予測電池状態SOHQBp、SOHRBp、二次電池25のランク等の情報と、ステップS5で設定された取扱条件に基づいて、推奨取扱態様を抽出する。
推奨取扱態様の抽出に利用する情報として、要素劣化状態SOHQae、SOHQce、SOHQLie、SOHRae、SOHRce、カレンダー劣化量Za、サイクル劣化量Zbを用いても良い。又、予測要素劣化状態SOHQap、SOHQcp、SOHQLip、SOHRap、SOHRcp、予測カレンダー劣化量、予測サイクル劣化量を用いて、推奨取扱態様を抽出することも可能である。
第1実施形態では、二次電池25のメンテナンス手法に関する推奨取扱態様が抽出される。ここで、二次電池25は、複数の電池モジュールをユニット化した電池パックによって構成されている。
この為、電池パックにおける各電池モジュールの配置によって、電池モジュールの放熱性能に差が生じ、電池モジュール毎に電池温度Tが相違することが考えられる。上述したように、二次電池25における劣化の進行には、電池温度Tが大きく影響する為、各電池モジュールにおける劣化の進行度合いにも差が生じる。
二次電池25の性能は、電池パックを構成する電池モジュールの内、最も性能の低い電池モジュール(即ち、最も劣化の進行した電池モジュール)によって定められてしまう。この為、二次電池25の性能を効率よく発揮させる為には、適切なメンテナンスを行うことが重要となる。第1実施形態では、電池診断システム1は、現在の二次電池25の状態及び予測電池負荷に係る使用態様での使用を鑑み、適切なメンテナンス手法を提示する。
二次電池25に対するメンテナンス手法としては、中古電池パックへの交換、新品電池パックへの交換、電池モジュールの組換え、電池モジュールの交換等を挙げることができる。中古電池パックへの交換は、電池パック自体を、中古の電池パックと交換するメンテナンス手法である。新品電池パックへの交換は、電池パック自体を、新品の電池パックと交換するメンテナンス手法である。
電池モジュールの組換えは、電池パックを構成する複数の電池モジュールの配置を変更して、電池パックとしての性能をより高い状態にする為のメンテナンス手法である。電池モジュールの交換とは、電池パックを構成している電池モジュールの内、劣化の進行している電池モジュールを、新品又は中古の電池モジュールに交換するメンテナンス手法である。
電池診断システム1は、電池状態SOHQBe、SOHRBe、予測電池状態SOHQBp、SOHRBp、二次電池25のランク等の情報と、ステップS5で設定された取扱条件に基づいて、推奨取扱態様としての推奨メンテナンス手法を抽出する。
この時、取扱条件として、メンテナンスに関する費用条件や期間条件が設定されていた場合、修理工場Fから入力された情報や、ディーラーDから入力された情報を加えて、推奨メンテナンス手法が抽出される。
具体的に、取扱条件が費用条件を含む場合、修理工場Fで入力されたメンテナンスに関する工賃の情報や、ディーラーDで入力されたメンテナンスに要する部品(例えば、電池モジュール)の価格に関する情報が参照される。これにより、費用条件に適合する推奨メンテナンス手法を抽出することができる。
又、取扱条件が期間条件を含む場合、修理工場Fで入力されたメンテナンスに関する作業予約状況や所要時間に関する情報や、ディーラーDで入力されたメンテナンスに要する部品(例えば、電池モジュール)の納期に関する情報が参照される。これにより、期間条件に適合する推奨メンテナンス手法を抽出することができる。
予測電池情報等を用いて推奨取扱態様が抽出されると、電池診断システム1は、推奨取扱態様に関する情報を記憶装置53に格納して、ステップS11に処理を進める。
ステップS11においては、電池診断システム1は、ステップS10までの処理で得られた診断結果を出力する。診断結果としては、現時点における二次電池25の劣化の状態、予測電池負荷に係る使用態様で使用した場合の二次電池25の劣化の状態、推奨取扱態様等を含めることができる。
現時点における二次電池25の劣化の状態としては、電池状態SOHQBe、SOHRBe、要素劣化状態SOHQae、SOHQce、SOHQLie、SOHRae、SOHRce、カレンダー劣化量Za、サイクル劣化量Zbを挙げることができる。
予測電池負荷に係る使用態様で使用した場合の二次電池25の劣化の状態としては、予測電池状態SOHQBp、SOHRBp、予測要素劣化状態SOHQap、SOHQcp、SOHQLip、SOHRap、SOHRcpを挙げることができる。更に、予測カレンダー劣化量、予測サイクル劣化量も利用することができる。
診断結果の出力態様は、図示しないプリンターを介して、紙媒体に印刷する態様であっても良いし、各ユーザーU等が所有する情報端末10の画面に表示させる態様であっても良い。診断結果を出力した後、電池診断システム1は、電池診断処理を終了する。
以上説明したように、第1実施形態に係る電池診断システム1は、電池負荷履歴の構成データの一部が欠落していた場合、ステップS23のデータ補間処理を実行して、構成データの残りの部分を用いて、欠落している構成データの一部を推定して補間する。図6に示すように、データ補間処理では、外挿法とは異なり、或る既知のデータ列を基にして、そのデータ列の各区間の範囲内を埋めるデータが生成される。
この為、電池診断システム1では、電池負荷履歴の構成データの一部が欠落していた場合であっても、精度の良い電池負荷履歴を取得することができる。更に、電池診断システム1では、精度の良い電池負荷履歴を用いて、二次電池25の要素劣化状態、電池状態及び劣化要因が推定され、電池状態及び劣化要因と、予測電池負荷を用いて、将来的に発生する二次電池25の予測電池状態が予測される。従って、電池診断システム1によれば、電池負荷履歴の一部が欠落している場合であっても、現時点における二次電池25の劣化状態に基づいて、将来的な二次電池25の予測電池状態等をより高い精度で診断することができる。
又、電池診断システム1によれば、ステップS6において、二次電池25の今後の使用態様に従って二次電池25が使用された場合に、二次電池25にかかると予測される負荷を特定した予測電池負荷が生成される。
これにより、電池診断システム1は、二次電池25の今後の使用態様に即した予測電池負荷を用いて、予測電池状態等の予測を行うことができ、より精度の高い二次電池25の劣化に関する診断結果を提供することができる。
更に、電池診断システム1によれば、ステップS6において、電池負荷履歴を用いた学習結果に従って生成された予測電池負荷を設定することができ、設定された予測電池負荷を用いた予測電池状態等の予測を行うことができる。
電池負荷履歴を用いた学習結果は、高い頻度で行われた二次電池25の使用態様に対応する。従って、電池診断システム1は、予測電池状態等の予測に際し、最も実現性の高い予測電池負荷を設定することができ、少ない負担で、且つ、精度の良い予測電池状態等の予測結果を提供することができる。
更に、電池診断システム1は、ステップS9において、二次電池25の予測電池状態等を用いて、予測電池負荷に係る使用態様で使用した場合の二次電池25の残価値を評価する。
これにより、将来的な二次電池25の残価値を把握することができるので、予測電池負荷に係る使用態様との対比によって、二次電池25の将来的な使用態様を調整することができ、二次電池25の残価値を所望の状態に近づけることができる。
又、電池診断システム1は、ステップS8において、二次電池25の予測電池状態に関して、容量ランク及び抵抗ランクを用いたランク分けを実行する。そして、電池診断システム1は、ステップS9において、ランク分けの結果を用いて、二次電池25の残価値の評価を行う。
これにより、電池診断システム1は、ランク分けの結果を利用して、二次電池25の残価値が評価する為、二次電池25の残価値の評価をわかりやすく算出及び提示することができる
又、電池診断システム1によれば、ステップS8にて、二次電池25のランク分けを行う際に、容量ランク及び抵抗ランクに加えて、予測カレンダー劣化量、予測サイクル劣化量を用いたランク付けを行う。
これにより、電池診断システム1は、予測カレンダー劣化量、予測サイクル劣化量を用いることで、二次電池25の残価値を更に詳細に評価することができる。又、予測カレンダー劣化量、予測サイクル劣化量は、二次電池25におけるその後の劣化の進行の仕方に影響を与える為、二次電池25の残価値に関して詳細な評価を行うことができる。
そして、電池診断システム1は、ステップS9において、二次電池25の構成要素(即ち、負極、正極及び電解質)に定められた基準値と、予測要素劣化状態とを用いて、二次電池25の残価値を金額として算出する。
これにより、電池診断システム1は、二次電池25の残価値を明確に判断することができる。又、例えば、二次電池25の市場価値に連動して基準値を変化させることで、市場価値の変動に対応した二次電池25の残価値を算出することができ、より高い精度で二次電池25の残価値を提示することができる。
又、電池診断システム1は、ステップS10において、二次電池25の予測電池状態等と、取扱条件とを用いて、二次電池25の残価値を更に高めることができる取扱態様を抽出して提案する。
これにより、電池診断システム1によれば、提案された取扱態様を実行することで、二次電池25の残価値を高めることができる。又、取扱態様が具体的に提案される為、二次電池25の残価値を効率よく高めることができる。
そして、電池診断システム1は、ステップS5で入力された取扱条件を用いて、二次電池25の残価値を更に高めることができる取扱態様を抽出する。ステップS5における取扱条件の設定は、例えば、ユーザーUの情報端末10等において入力される。
従って、電池診断システム1では、取扱態様の抽出に、当事者(例えば、ユーザーU)の意図を反映させることができ、より当事者が望む態様で、二次電池25の残価値を高めることができる。
(第2実施形態)
次に、上述した実施形態と異なる第2実施形態について、図12~図14を参照して説明する。第2実施形態では、電池診断システム1を適用する業態が第1実施形態と相違している。その他の電池診断システム1の基本的構成等については、上述した実施形態と同様である為、再度の説明を省略する。
第2実施形態に係る電池診断システム1は、自らが所有する複数の二次電池25を、複数のユーザーUに対して貸し出すと共に、複数の二次電池25の保守及び管理を行うバッテリ―ステーションBSに適用されている。第2実施形態に係る電池診断システム1は、バッテリ―ステーションBSにおける複数の二次電池25の劣化の進行度合いを管理し、所望の態様で二次電池25の保守作業を行う為の提案を行う。
先ず、第2実施形態に係る電池診断システム1の構成について説明する。図12に示すように、バッテリ―ステーションBSには、管理サーバ50と、複数の二次電池25が配置されている。又、第2実施形態に係る電池診断システム1において、ユーザーUには、貸与された二次電池25と、情報端末10を有している。情報端末10、二次電池25及び管理サーバ50の構成については、第1実施形態と同様である為、再度の説明を省略する。
次に、第2実施形態に係る電池診断システム1の電池診断処理について説明する。第2実施形態では、電池パック単位で電池状態の算出等が行われる。第2実施形態のステップS1では、ユーザーUに貸与されている二次電池25又はバッテリ―ステーションBSに配置されている二次電池25の電池負荷履歴が取得される。
第2実施形態のステップS2~ステップS4では、電池診断システム1における全ての二次電池25を対象として、要素劣化状態の算出、電池状態の算出、劣化要因の抽出が行われる。ステップS2~ステップS4の各処理の内容は第1実施形態と同様である。
第2実施形態に係るステップS5では、取扱条件の設定が行われる。第2実施形態においては、バッテリ―ステーションBSとしての取扱条件が、管理サーバ50の入力デバイスを用いて設定される。
第2実施形態に係る取扱条件として、複数の二次電池25の保守を順次実行する順次保守と、全ての二次電池25の保守を同時に行う同時保守とが含まれている。第2実施形態に係る取扱条件について、図13、図14を参照して説明する。
図13、図14の説明において、理解を容易にする為、電池診断システム1を構成する二次電池25の数を3つとして、それぞれ二次電池(1)、二次電池(2)、二次電池(3)と呼ぶ。又、図13、図14における左側のグラフは、ステップS5に移行した時点の電池状態を示しており、二次電池(2)、二次電池(1)、二次電池(3)の順で大きく劣化が進行している。
先ず、第2実施形態における取扱条件として、順次保守について説明する。上述したように、順次保守は、電池診断システム1の二次電池25を複数のグループに分け、グループごとに二次電池25の保守を順次行うように定める取扱条件である。この為、順次保守が設定された場合の取扱態様として、グループごとに、予測電池状態で特定される劣化量が異なるように、二次電池25と、二次電池25を使用するユーザーUとの組み合わせが定められる。
例えば、図13に示す例では、予測電池負荷にしたがって使用した結果、二次電池(2)、二次電池(1)、二次電池(3)の順番で、保守基準となる劣化量に到達するように、各二次電池25とユーザーUとの組み合わせが定められる。
次に、第2実施形態における取扱条件である同時保守について説明する。上述したように、同時保守は、電池診断システム1の二次電池25の全てについて、同時に保守を行うように定める取扱条件である。この為、同時保守が設定された場合の取扱態様として、全ての二次電池25について、予測電池状態で特定される劣化量が同じにように、二次電池25と、二次電池25を使用するユーザーUとの組み合わせが定められる。
例えば、図14に示す例では、予測電池負荷にしたがって使用した結果、二次電池(1)、二次電池(2)、二次電池(3)の全てが、保守基準となる劣化量に同時に到達するように、各二次電池25とユーザーUとの組み合わせが定められる。
第2実施形態に係るステップS6では、各ユーザーUの情報端末10にて、入力された将来的な二次電池25の使用態様に基づいて予測電池負荷が生成され、二次電池25に対する予測電池負荷として設定される。
第2実施形態に係るステップS7~ステップS9では、設定された予測電池負荷を用いた予測電池状態の算出、ランク分けの実行、残価値の評価が行われる。これらの点については、第1実施形態と同様である為、再度の説明を省略する。
第2実施形態に係るステップS10では、電池診断システム1は、電池状態SOHQBe、SOHRBe、予測電池状態SOHQBp、SOHRBp、二次電池25のランク等の情報と、ステップS5で設定された取扱条件に基づいて、推奨取扱態様を抽出する。
例えば、順次保守が取扱条件として設定されていた場合、図13の右側に示すように、グループごとに、予測電池状態で特定される劣化量が異なるように、二次電池25と、二次電池25を使用するユーザーUとの組み合わせを定めた推奨取扱態様が定められる。
又、同時保守が取扱条件として設定されていた場合、図14の右側に示すように、全ての二次電池25における予測電池状態で特定される劣化量が等しくなるように、二次電池25と、ユーザーUとの組み合わせを定めた推奨取扱態様が定められる。推奨取扱態様を抽出した後、ステップS11に移行する。
ステップS11では、電池診断システム1は、ステップS10までの処理で得られた診断結果を出力する。診断結果としては、現時点における二次電池25の劣化の状態、予測電池負荷に係る使用態様で使用した場合の二次電池25の劣化の状態、推奨取扱態様等を含めることができる。第2実施形態では、診断結果の出力先として、バッテリ―ステーションBSが定められる。出力態様としては、バッテリ―ステーションBSに配置されたディスプレイに表示しても良いし、紙媒体へ印刷出力しても良い。
以上説明したように、第2実施形態に係る電池診断システム1は、バッテリ―ステーションBSのような業態に適用した場合であっても、上述した実施形態と同様の構成から、上述した実施形態と同様の効果を得ることができる。
(第3実施形態)
続いて、上述した実施形態と異なる第3実施形態について、図15、図16を参照して説明する。第3実施形態では、電池診断システム1を適用する業態が上述した実施形態と相違している。その他の電池診断システム1の基本的構成等については、上述した実施形態と同様である為、再度の説明を省略する。
第3実施形態に係る電池診断システム1は、ユーザーUが所有する二次電池25の電力と、電力会社ECや電力需要者DMの電力需要と、をバランスよく調停するアグリゲーターAGに適用されている。
第3実施形態に係る電池診断システム1は、電力会社ECや電力需要者DMの電力需要に対応すると共に、各ユーザーUの二次電池25からの売電利用に伴う利益及び劣化の進行との適切なバランスをとるように調停する。尚、図15では、ユーザーUの二次電池25から、電力供給ESや電力需要者DMへの電力供給ESを破線で示している。
第3実施形態に係る電池診断システム1では、ユーザーUにおける余剰電力を売電利用して効果的に利益を上げる点に関する提案がなされる。この点について、或るユーザーUにおける電力バランスを例に挙げて説明する。
図16は、或るユーザーUの消費電力量Pcoと、二次電池25の充電電力量の時系列変化を示している。ユーザーUは、2つの二次電池25を所有しており、夫々、二次電池(A)、二次電池(B)という。図16において、二次電池(A)の充電電力量を充電電力量CPaといい、二次電池(B)の充電電力量を充電電力量CPbという。
この具体例の場合、充電電力量CPaと消費電力量Pcoとの関係、充電電力量CPbと消費電力量Pcoとの関係から、それぞれ、余剰電力が生じていることがわかる。第3実施形態に係る電池診断システム1は、ユーザーUにおける余剰電力を有効に活用して、ユーザーUに利益を提供するように構成されている。
次に、第3実施形態に係る電池診断システム1の構成について説明する。図15に示すように、アグリゲーターAGには、管理サーバ50が配置されている。又、第3実施形態に係る電池診断システム1において、ユーザーUは、ユーザーUが所有する二次電池25と、情報端末10を有している。
又、電力会社EC及び電力需要者DMに対しても、情報端末10が配置されている。電力供給ES及び電力需要者DMの情報端末10は、各々の電力需要に関する情報の入力に用いられる。情報端末10、二次電池25及び管理サーバ50の構成については、上述した実施形態と同様である為、再度の説明を省略する。
続いて、第3実施形態に係る電池診断システム1の電池診断処理について説明する。第3実施形態では、電池パック単位で電池状態の算出等が行われる。第3実施形態のステップS1では、ユーザーUの所有する二次電池25の電池負荷履歴が取得され、管理サーバ50へ送信される。第3実施形態に係る電池負荷履歴には、電力会社ECや電力需要者DMへの売電に関する情報も含まれている。
第3実施形態のステップS2~ステップS4では、電池診断システム1における全ての二次電池25を対象として、要素劣化状態の算出、電池状態の算出、劣化要因の抽出が行われる。ステップS2~ステップS4の各処理の内容は上述した実施形態と同様である。
そして、第3実施形態のステップS5では、電力調停に関する取扱条件の設定が行われる。第3実施形態に係る取扱条件は、ユーザーUが所有する二次電池25の残価値コストと、電力会社ECや電力需要者DMへの売電コストとの観点から、電力需要と電力供給の適切な組み合わせを定めている。
第3実施形態に係るステップS6では、ユーザーUの情報端末10にて、入力された将来的な二次電池25の使用態様に基づいて、ユーザーU自身での電力消費に関する予測電池負荷が生成される。又、電力会社EC、電力需要者DMの情報端末10における電力需要と買電価格の入力に伴って、ユーザーUの売電利用に係る予測電池負荷が生成される。
第3実施形態に係るステップS7~ステップS9では、設定された予測電池負荷を用いた予測電池状態の算出、ランク分けの実行、残価値の評価が行われる。これらの点については、上述した実施形態と同様である為、再度の説明を省略する。
第3実施形態に係るステップS10では、電池診断システム1は、電池状態SOHQBe、SOHRBe、予測電池状態SOHQBp、SOHRBp、二次電池25のランク等の情報と、ステップS5で設定された取扱条件に基づいて、推奨取扱態様を抽出する。
例えば、図16に示す例に従って、推奨取扱態様を説明すると、二次電池(B)の余剰電力を、二次電池(A)の充電電力にまわすという取扱態様を推奨取扱態様として考えることができる。又、二次電池(B)の余剰電力を、外部の電力系統である電力会社EC又は電力需要者DMに売電する取扱態様を推奨取扱態様として想定することができる。推奨取扱態様を抽出した後、電池診断システム1は、ステップS11に処理を移行する。
ステップS11では、電池診断システム1は、ステップS10までの処理で得られた診断結果を出力する。診断結果としては、現時点における二次電池25の劣化の状態、予測電池負荷に係る使用態様で使用した場合の二次電池25の劣化の状態、推奨取扱態様等を含めることができる。第3実施形態では、診断結果の出力先として、電力調停の当事者であるユーザーUが定められる。出力態様としては、ユーザーUが所有する情報端末10のディスプレイに表示しても良いし、紙媒体へ印刷出力しても良い。
第3実施形態に係る電池診断システム1によれば、二次電池25の電力を用いた電力調停を行うアグリゲーターAGに適用した場合でも、上述した実施形態と同様の構成から、上述した実施形態と同様の効果を得ることができる。
(第4実施形態)
次に、上述した実施形態と異なる第4実施形態について、図17を参照して説明する。第4実施形態では、電池診断システム1を適用する業態が上述した実施形態と相違している。その他の電池診断システム1の基本的構成等については、上述した実施形態と同様である為、再度の説明を省略する。
第4実施形態に係る電池診断システム1は、二次電池25を搭載した車両Vを、ユーザーUに販売する中古車業者UCDに適用されている。第4実施形態に係る電池診断システム1は、中古車業者UCDが所有する複数台の車両Vについて、二次電池25の劣化状態を診断し、ユーザーUが望む使用態様、劣化状態に該当する車両Vを提案するように構成されている。
次に、第4実施形態に係る電池診断システム1の構成について説明する。図17に示すように、中古車業者UCDは、管理サーバ50と、二次電池25が搭載された複数台の車両V(即ち、電気自動車)とを有している。
又、第4実施形態における各ユーザーUは、それぞれ情報端末10を有している。ユーザーUは、購入後の使用予定や要求する走行距離、二次電池25の寿命等の情報を、情報端末10を用いて入力する。ユーザーUにより入力された情報は、中古車業者UCDの管理サーバ50へ送信され、予測電池負荷や取扱条件を構成する。情報端末10、二次電池25及び管理サーバ50の構成については、上述した実施形態と同様である為、再度の説明を省略する。
続いて、第4実施形態に係る電池診断システム1の電池診断処理について説明する。第4実施形態では、電池パック単位で電池状態の算出等が行われる。第4実施形態のステップS1では、中古車業者UCDが所有する二次電池25の電池負荷履歴が取得される。
第4実施形態のステップS2~ステップS4では、車両Vの二次電池25を対象として、要素劣化状態の算出、電池状態の算出、劣化要因の抽出が行われる。ステップS2~ステップS4の各処理の内容は上述した実施形態と同様である。
そして、第4実施形態のステップS5では、ユーザーUの情報端末10における入力に基づいた取扱条件の設定が行われる。第4実施形態に係る取扱条件は、購入する車両Vに対してユーザーUが要求する条件により構成される。従って、取扱条件を構成する情報として、車種、年式、走行距離、使用予定期間、使用用途等が含まれる。
第4実施形態に係るステップS6では、ユーザーUの情報端末10にて、入力された将来的な二次電池25の使用態様に基づいて、予測電池負荷が生成される。第4実施形態に係るステップS7~ステップS9では、設定された予測電池負荷を用いた予測電池状態の算出、ランク分けの実行、残価値の評価が行われる。これらの点については、上述した実施形態と同様である為、再度の説明を省略する。
第4実施形態に係るステップS10では、電池診断システム1は、電池状態SOHQBe、SOHRBe、予測電池状態SOHQBp、SOHRBp、二次電池25のランク等の情報と、ステップS5で設定された取扱条件に基づいて、推奨取扱態様を抽出する。この場合、電池診断システム1は、中古車業者UCDが所有する車両Vの中から、ユーザーUが入力した取扱条件に合致する車両Vの情報を、推奨取扱態様として抽出する。推奨取扱態様を抽出した後、電池診断システム1は、ステップS11に処理を移行する。
尚、推奨取扱態様として、取扱条件に適合する複数台の車両Vに関する情報を抽出しても良い。又、抽出した車両Vの情報として、中古車としての販売価格の情報を付加しても良い。
ステップS11では、電池診断システム1は、ステップS10までの処理で得られた診断結果を出力する。診断結果としては、車両Vの情報に加えて、現時点における二次電池25の劣化の状態、予測電池負荷に係る使用態様で使用した場合の二次電池25の劣化の状態、推奨取扱態様等を含めることができる。第4実施形態では、診断結果の出力先として、購入予定者であるユーザーUが定められる。出力態様としては、ユーザーUが所有する情報端末10のディスプレイに表示しても良いし、紙媒体へ印刷出力しても良い。
第4実施形態に係る電池診断システム1によれば、二次電池25を搭載した車両Vに関する中古車業者UCDに適用した場合でも、上述した実施形態と同様の構成から、上述した実施形態と同様の効果を得ることができる。
尚、第4実施形態に係る中古車業者UCDは、自らが所有する車両Vを、需要者であるユーザーUに販売する態様であったが、この態様に限定されるものではない。例えば、売主であるユーザーUと、買主であるユーザーUとの間を仲介する態様の中古車業者UCDに、電池診断システム1を適用することも可能である。この場合、電池負荷履歴は、売主であるユーザーUから取得し、取扱条件や予測電池負荷の生成に必要な情報は、買主であるユーザーUからの入力によって設定される。仲介型の中古車業者UCDに電池診断システム1を適用した場合でも、第4実施形態と同様の効果を発揮させることができる。
(他の実施形態)
本発明は上述の実施形態に限定されることなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で、以下のように種々変形可能である。また、上記各実施形態に開示された手段は、実施可能な範囲で適宜組み合わせてもよい。
(a)本開示の電池診断システム1を適用可能な業態は、上述した実施形態に限定されるものではない。二次電池25の使用が前提となる業種であれば、様々な業態に適用することができる。例えば、ユーザーUが所有する電池自動車を、中古車業者UCDが買い取る際の見積り査定の方法として、電池診断システム1を適用しても良い。これによれば、ユーザーUは、二次電池25の劣化状態や残価値等を把握することができるので、中古車業者UCDによる査定価格の妥当性を判断することができる。
(b)上述した実施形態では、二次電池25を使用する使用装置として、二次電池25の電力を駆動源とする車両Vを採用していたが、この態様に限定されるものではない。電池負荷履歴を取得することができれば、二次電池25の使用装置として、種々の態様を採用することができる。又、電池診断システム1を構成する使用装置は、一種類(例えば、車両)に限定されるものではなく、電池負荷履歴を取得することができれば、複数種類の使用装置を採用することも可能である。
(c)又、電池診断システム1を構成する二次電池25の数や、将来的な二次電池25の使用態様である予測電池負荷の種類についても、上述した実施形態に限定されるものではない。予測電池状態等の算出負荷と、管理サーバ50の性能等に応じて、二次電池25の数や予測電池負荷の種類は、適宜変更することができる。
(d)そして、ステップS9における残価値の評価において、二次電池25の残価値を評価する手法は、上述した実施形態に限定されるものではない。電池診断システム1における二次電池25の残価値を評価する手法としては、二次電池25の残価値を評価することができれば、種々の方法を採用することができる。