JP2022099414A - キチン溶解溶媒及びキチン溶出方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】 特別な前処理を必要とすることなく、室温付近でキチンを短時間で、かつ、相当量を変質せずに溶解することが可能な溶媒、前記溶媒を用いたキチンを含む原料からのキチンの溶出方法等の提供。【解決手段】 本発明のキチンの溶解溶媒は、水酸化テトラエチルアンモニウム及び/又は水酸化テトラプロピルアンモニウム、水及びジメチルスルホキシドを含み、溶媒中の水酸化テトラエチルアンモニウム及び/又は水酸化テトラプロピルアンモニウムの濃度が1.0~6.0wt%、水の濃度が1.0~6.0wt%、ジメチルスルホキシドの濃度が90~98wt%であることを特徴とする。また、前記溶媒は、甲殻類の甲殻、貝類の貝殻、イカ骨、カビ及びキノコ等のキチンを含む原料と接触させることによりキチンを溶出することができる。【選択図】 図2

Description

本発明は、キチンの溶解に用いられる溶媒、キチンを含む原料からのキチンの溶出方法並びに前記溶媒を用いたキチン、キチン成形体の製造方法及びキチン誘導体の製造方法に関する。
キチンの構造は、N-アセチル-D-グルコサミンが鎖状に長く(数百から数千)つながったアミノ多糖であり、種々の臨床使用で、鎮痛効果、肉芽形成、治癒の促進などが報告され、機能性多糖として注目を浴びている。キチンは抗原性を持たないため、火傷や褥瘡等の創傷被覆材として医薬品特定治療材料に認可を得た商品も市場に出ている。また、天然多糖類のキチンは生体内分解性が良く、私たちの涙や唾液中に多く含まれる殺菌酵素リゾチームによって分解される。この生体内消化性を利用して抜糸不要な手術用縫合糸として期待されている。
生物活性の以外、キチンは、フィルム・繊維・生分解性プラスチックなど様々な新しい用途開発が行われている。
キチンはエビ、蟹をはじめとして、昆虫、貝、キノコにいたるまで、きわめて多くの生物に含まれている天然の素材である。地球上で合成される量は1年間で1000億トンにもなると推測されている豊富な生物資源であるが、天然原料からの分離が難しいことに加え、普通の溶媒には溶けないためにほとんど利用されていない。
甲殻類の甲殻はキチン20~30%、蛋白質20~40%、無機塩30~60%、と脂質と色素0~14%を含まれている。甲殻にこれらの共存物が強く結合しているため、その中からキチンを抽出するには苛酷な条件の適用を必要とする。一般にはHackmanの方法(非特許文献2)が知られ、よく利用されている。この方法によると、乾いた蟹殻を2N塩酸に5時間浸漬した後、水洗・乾燥・粉砕をし、さらに塩酸で48時間撹拌しながら脱カルシウムを行う。次いで1N水酸化ナトリウム中で100℃で12時間加熱する操作を4回繰り返してタンパク質を除去し乾燥して粗製キチンを得る。次に0.5%過マンガン酸カリウム溶液に1時間浸漬し、水洗後1%シュウ酸溶液で60℃、30-40分撹拌すると純白なキチンが得られる。この一連の強酸と強アルカリ処理によりキチンの分子鎖やアミド基が加水分解し、分子量が低下したり、アミド基の平均置換度が減ったりするため、キチンの本来の特性を失う恐れがある。従来法では、その処理に多段階の工程と数日間の日程、多量の試薬と水、更には大量の廃水処理が必要であり、コスト面で大きな負担となっていた。
近年、甲殻や貝殻からのキチンの抽出法として、亜臨界水処理法(非特許文献3)やイオン液体抽出法(特許文献7)も提案されていが、高圧プロセスや高価なイオン液体の使用により実用することは困難である。
また、特許文献8に記載したように、酸性媒質中での酵素加水分解を用いた単一工程でのキチン抽出も提案された。酸性媒質中での酵素加水分解により蛋白質の分解と無機塩の可溶化を行い、キチンを不溶相として回収する方法であるが、酵素を用いることでコストが高いと考えられる。
一方、従来のキチン溶解法として、ギ酸(非特許文献1)、トリクロル酢酸-塩素化炭化水素系(特許文献1)や塩酸などの強酸系、水酸化ナトリウム(特許文献2、非特許文献1)等の強アルカリ系が知られているが、溶解に際して分子量の低下やN-アセチル基の分解を引き起こすことや安全面において問題がある。また、完全に溶解させるのも困難である。また、LiCL/DMAc系やN-メチルピロリドン-リチウム系(特許文献3、特許文献4)も知られているが、強酸、強アルカリの前処理が必要であり、溶解工程が複雑である。さらに、溶媒自体は環境と生体によくなかった。
また、塩化カルシウム・2水和物飽和メタノール溶液系(特許文献5)が開発されたが、キチンを溶解するにはキチンの数十倍以上の塩化カルシウムが必要であり、キチンからカルシウムを除くなどの工程数が多いという欠点があった。また、メタノールを加熱することで安全性も大きい課題とされている。これらの従来溶解法の殆どは、多量の無機物を使用したため、凝固液に凝固させて成形する際に無機物は成形体に残留し、成形体の吸湿性向上や、物性の低下に繋がる。
さらに、本出願人は、多糖類の溶解に用いる溶媒としてテトラアルキルアンモニウムアセテートと非プロトン性極性溶媒の混合液について特許を出願している(特許文献6)。しかし、特許文献6の溶媒は、セルロースの溶解には非常に有効であるが、キチンを溶解するには長時間を要し、溶解量も非常に少量で、キチンの溶解溶媒としては、実用性が低い。
特開昭57-77310号公報 特開平8-92820号公報 特開平4-370258号公報 特開昭58-134101号公報 特開平6-179702号公報 特開2012-211302号公報 特開2012-219260号公報 特表2014-522240号公報
繊維と工業誌、46巻、564-569ページ、1990年 J.Biol.Sci.1954、7、168-178ページ。 Carbohydrate Polymers誌、134巻、718-725ページ、2015年
本発明は、特別な前処理を必要とすることなく、室温付近でキチンを短時間で、かつ、相当量を変質せずに溶解することが可能な溶媒、前記溶媒を用いたキチンを含む原料からのキチンの溶出方法並びに前記溶媒を用いたキチン、キチン成形体の製造方法及びキチン誘導体の製造方法を提供することである。
本発明者らは、前記課題を達成するため鋭意検討した結果、以下に示す発明を完成するに至った。
〔1〕 キチンの溶解に用いられる溶媒であって、
前記溶媒が、水酸化テトラエチルアンモニウム及び/又は水酸化テトラプロピルアンモニウム、水及びジメチルスルホキシドを含み、
溶媒中の水酸化テトラエチルアンモニウム及び/又は水酸化テトラプロピルアンモニウムの濃度が1.0~6.0wt%、水の濃度が1.0~6.0wt%、ジメチルスルホキシドの濃度が90~98wt%である溶媒。
〔2〕 キチンの溶出方法であって、キチンを含む原料と前記〔1〕に記載の溶媒を接触させてキチンを溶出するキチンの溶出方法。
〔3〕 キチンを含む原料に含まれる蛋白質、脂質及び色素のいずれか一つ以上を除いた後、前記〔1〕に記載の溶媒を接触させてキチンを溶出する前記〔2〕に記載のキチン溶出方法。
〔4〕 前記キチンを含む原料が、甲殻類の甲殻、貝類の貝殻、イカ骨、カビ及びキノコの少なくとも一つ以上を含む、前記〔2〕又は前記〔3〕に記載のキチン溶出方法。
〔5〕 キチンを前記〔1〕に記載の溶媒に溶解させたキチン溶液又は前記〔2〕~〔4〕のいずれかに記載のキチン溶出方法により得られるキチン溶液を水又はアルコールに入れ、析出と洗浄することにより得られるキチンの製造方法。
〔6〕 キチンを前記〔1〕に記載の溶媒に溶解させたキチン溶液又は前記〔2〕~〔4〕のいずれかに記載のキチン溶出方法により得られるキチン溶液を用いてキチン成形体を製造するキチン成形体の製造方法。
〔7〕 キチンを前記〔1〕に記載の溶媒に溶解させたキチン溶液又は前記〔2〕~〔4〕のいずれかに記載のキチン溶出方法により得られるキチン溶液とエステル化剤を接触させてキチンをエステル修飾するキチン誘導体の製造方法。
本発明のキチン溶媒を用いれば、特別な前処理を必要とすることなく、キチンを短時間で、かつ、均一に溶解することができる。また、溶解条件は温和であるためキチンの性質を高度に担保して溶解できる。さらに、本発明の溶媒を用いて溶解したキチン溶液は、室温でも流動性を有するものであり、優れた紡糸性とフィルム成形性を有し、キチン成形体の成形に適用する。
さらに、本発明のキチン溶媒を用いることで甲殻類やキノコ類等キチンを含む原料からキチンを直接に溶出することができる。本発明のキチン溶出方法によれば、強酸や強アルカリなどを用いる強烈な前処理をしないため、天然に由来するキチンの重合度やN-アセチル-D-グルコサミン単位含量を高度に維持し、高純度と高品質なキチンを製造することができる。
キチンのIRスペクトル 本発明の実施例1~4で調製したキチン溶液の写真 本発明の実施例1-4で調製したキチン溶液のUVスペクトル 本発明の実施例1のキチン溶液から調製したキチン繊維とビーズの写真 本発明の実施例2のキチン溶液から調製したキチンフィルムとビーズの写真 本発明の実施例3のキチン溶液から調製したキチン繊維とビーズの写真 本発明の実施例5~10で調製したキチン溶液の写真 本発明の実施例5、6、7と10で調製したキチン溶液のUVスペクト 本発明の実施例5のキチン溶液から調製したキチンビーズの写真 本発明の実施例6のキチン溶液から調製したキチンビーズの写真 本発明の比較例1~3で調製したキチン液の写真 本発明の比較例4~6で調製したキチン液の写真 実施例11でキチン溶出前後の毛蟹甲羅、溶出したキチン溶液と析出後のキチンゲルの写真 実施例12でキチン溶出前後の毛蟹甲羅、溶出したキチン溶液、析出後のキチンゲルと乾燥後のキチン粒子の写真 実施例13で水酸化ナトリウム処理前後の蟹足殻、溶出中のキチン溶液とそれを用いて作製したキチン糸の写真 実施例14でエタノール処理前後とキチン溶出後の蟹足殻、溶出したキチン溶液とそれを用いて作製したキチンシートの写真 実施例11~14で溶出したキチンと市販キチンのIRスペクトル 実施例15と16で得られたコハク酸エステル化修飾キチンとアセチル化修飾キチンのIRスペクトル
本発明者らは、キチンを常温で短時間に変質させずに均一に溶解することが可能な溶媒について鋭意研究開発した結果、ジメチルスルホキシドに溶解した特定の水酸化テトラアルキルアンモニウムが、キチンの溶解に有効であることを突き止めた。
本発明のキチンの溶解に用いられる溶媒は、水酸化テトラエチルアンモニウム(TEAH)及び/又は水酸化テトラプロピルアンモニウム(TPAH)(以下、「TEAH/TPAH」と略記する場合がある。)、水及びジメチルスルホキシド(DMSO)を含み、溶媒中のTEAH/TPAHの濃度が1.0~6.0wt%、水の濃度が1.0~6.0wt%、ジメチルスルホキシドの濃度が90~98wt%であることを特徴とする。
本発明の溶媒を用いることにより、キチンの結晶形態、重合度と形状に依存することなく、短時間で、かつ、均一に溶解することができる。また、本発明の溶媒を用いたキチンの溶解条件は温和のため、キチンの重合度とN-アセチル-D-グルコサミン単位含量を高度に維持することができる。さらに、本発明のキチン溶媒とその溶解法は従来技術と比べ環境への負荷が低くなる。
溶媒中のTEAH/TPAHの濃度は、1.0~6.0wt%であることが好ましい。1wt%以下又は6wt%以上になるとキチンが溶解でき難く又は溶解できなくなる恐れがあるため好ましくない。特に好ましくは1.5~5.5wt%。最も好ましくは2.0~5.0wt%である。
溶媒中の水の濃度は、1.0~6.0wt%であることが好ましい。1wt%以下又は6wt%以上になるとキチンの溶解度が低下したり、溶解できなくなったりする恐れがある。特に好ましくは1.5~5.5wt%。最も好ましくは2.0~5.0wt%である。
TEAH/TPAHと水の重量比率(TEAH/TPAH:水)は、35:65~80:20であることが好ましい。35:65より低くなるとキチンの溶解速度と溶解度が低下するため好ましくない。一方、80:20より多くなると溶解度と溶解速度が低下するだけでなくTEAH/TPAHが不安定でジメチルスルホキシド中に分解するおそれがあるため好ましくない。特に好ましくは40:60~75:25である。もっと好ましくは45:55~70:30である。
溶媒中のジメチルスルホキシドの濃度は、90.0~98.0wt%であることが好ましい。90wt%以下又は98wt%以上になるとキチンが溶解でき難くなり、膨潤な状態に留まる恐れがあるため好ましくない。より好ましくは91.0~97.0wt%、もっと好ましくは91.5~96.0wt%である。
無水状態のTEAH/TPAHは、構造的に不安定であるため、TEAH/TPAHと水は混合液状態として用いることが好ましい。TEAH/TPAHと水を所定濃度で混合してから用いることが好ましい。TEAH/TPAH水溶液は、35wt%~80wt%の水溶液であることが好ましい。より好ましくは40wt%~75wt%、もっと好ましくは45~70wt%である。この濃度範囲であればTEAH/TPAHが安定で取り扱いやすいため好ましい。
TEAH/TPAH、水とジメチルスルホキシドを含むキチン溶解溶液の調製方法は特に制限しない。例えば、通常市販から購入したTEAH/TPAH水溶液又は水和物を所望の含水率まで調整した後、そこにジメチルスルホキシドを加えてキチンを溶解する溶液を調製する。得られたキチン溶解溶液にキチンを加え攪拌することによりキチンを溶解する。市販TEAH/TPAH水溶液におけるTEAH/TPAHの濃度が所望濃度より低い場合、使用する前に蒸留し所望水分率まで濃縮してから使用することが好ましい。また、所望濃度より高い場合、水を加え希釈してから使用する。
次に、本発明のキチン溶解溶媒によってキチンを溶解させる方法について説明する。
本発明のキチン溶解溶媒に溶解させるキチン原料は特に制限しない。例えば、N-アセチル-D-グルコサミン単位含量が10モル%以上であることが好ましい。より好ましくは20モル%以上、もっと好ましくは30%以上です。N-アセチル-D-グルコサミン単位含量は10モル%より低くなると溶解度が低くなったり溶解速度が遅くなったりする恐れがあるため好ましくない。さらに、蟹殻や蝦殻などの海洋物から得られるキチンが好ましい。
また、キチンの重合度は特に制限しないが、用途や成形工程に応じて適宜に選択すればよい。重合度は低すぎると成形性が悪くなったり、得られる成形体の機械強度が低くなったりする恐れがある。さらに、重合度が低くなると還元末端が多くなりキチンが溶解の間に酸化反応し変色する恐れがある。一方、重合度が高くなると、溶液の粘度が高く、成形性が低下する恐れがある。特に好ましい重合度は50~100000、より好ましくは100~50000、もっと好ましくは150~30000、最も好ましくは200~10000である。
これらのキチンは、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。例えば、N-アセチル-D-グルコサミン単位含量の異なるキチンを2種類以上併用することができる。
キチンの形状について特定制限しない。例えば、粉末状、フレーク状、ペレット状、チップ状のいずれも溶解できる。キチンの結晶状態は制限しない。結晶状態又は非結晶状態のいずれも溶解できる。
キチンの含水率(乾燥キチンに対する水分の重量割合)について特に制限しないが、20重量%以下であればよい。好ましくは15重量%以下、さらに好ましくは10重量%以下である。
水含有率が多すぎると、キチン溶解度又は溶解速度や溶解度が低下する可能性があるため好ましくない。含水率がこの範囲より高くなる場合、乾燥して使用すればよい。
本発明の溶媒を用いたキチンの溶解は、任意の適切な手段により行うことができる。例えば、上記のキチン溶解溶媒にキチン、および、必要に応じて任意の添加剤を加え、任意の撹拌手段および必要に応じて加熱しながら溶解することにより、調製され得る。
上記添加剤は、目的に応じて、適宜選択することができ、例えば、抗酸化剤、紫外線吸収剤、顔料、帯電防止剤、保湿剤、ポリマー等が挙げられる。前記添加剤の配合量は、添加剤の種類や使用目的に応じて、適宜設定すればよい。
上記キチン溶媒におけるキチンの濃度は、特に制限はなく、キチンの重合度および/または成形体の種類に応じて、適宜設定すればよい。濃度が低すぎると、効率が悪いことに加え得られた得られる溶液の成形性も劣る恐れがあるため好ましくない。一方、濃度が高すぎると、粘度が高くて溶解速度が低下したり、溶解が不完全になったりする恐れがある。また、高濃度のキチン溶液の粘度は高すぎで、成形性が悪くなる恐れもある。好ましくは、例えば、0.1~10重量%である。より好ましくは0.3~8重量%、もっと好ましくは0.5~6%である。最も好ましくは1~5重量%である。キチンの含有割合をこの範囲に設定することにより、キチン含有溶液の粘性を抑えることができるため、良好な流動性を有し、それにより優れた成形加工性を発揮し得る。
上記キチンを溶解する温度は、任意の適切な値に設定すればよく、例えば、10℃~80℃の範囲に設定され、好ましくは15℃~65℃の範囲、より好ましくは20℃~50℃の範囲である。キチンを溶解する温度が低すぎる場合(例えば、10℃未満の場合)には、キチンの溶解速度が低下し、また、得られるキチン含有溶液の粘度が高くなるおそれがある。また、溶解する温度が高すぎる場合(例えば、80℃を超える場合)には、TEAH/TPAHまたは、キチンの分解が起こるおそれがある。従来のキチン溶解法と異なり、本発明の溶媒によれば、キチンの結晶形態に依存せず、キチンに前処理を施すことなく、室温近傍で、短時間で、かつ、均一にキチンを溶解できる。
上記溶解温度に設定する際の加熱方法としては、任意の適切な方法を用いることができ、例えば、キチンを溶解する際に通常用いられる加熱方法(例えば、加熱スターラー)、オイルバス、および、マイクロ波加熱法等が挙げられる。
キチンの溶解方法は、任意の適切な手段を用いて行うことができる。例えば、溶媒の含有量が多く、流動性の高いキチン含有溶液を調製する場合には、機械撹拌および超音波振動を好適に用いることができ、キチンの含有量が多く、ある程度の粘性を有するキチン含有溶液を調製する場合には、二軸押出混練機およびニーダーを好適に用いることができる。これらの手段によれば、キチンの溶解速度を促進することができ、かつ、得られたキチン溶液の均一性をより向上させることができる。
また、上記キチンの溶解は、不活性ガス中で行ってもよい。不活性ガス中でキチンを溶解させることにより、キチンの重合度の低下を防止することができる。
以上のようにして、本発明のキチン溶解溶媒によってキチンを溶解したキチン溶液は、キチン成型体及びキチン誘導体の製造に用いることができる。
本発明のキチン溶解溶媒は、キチンを含む原料と接触させてキチンを溶出することができる。前記キチン溶出方法により得られるキチンは、純度が高く、かつ、キチンのN-アセチル基の置換度と分子量を高度に維持することができる。即ち、本発明の方法を用いることで天然キチンに近い構造を有するキチンを得られる。
キチンを含む原料は、蛋白質、脂質及び色素のいずれか一つ以上を除いた後、キチン溶出を実施することもできる。これらの有機成分を先に除くとキチンの溶出率と溶出速度が高くなり、得られたキチンの色目も綺麗になるため好ましい。
蛋白質を除くためには従来の水酸化たトリウム水溶液処理法が適用する。水酸化たトリウム濃度は1~10wt%が好ましい。より好ましくは2~9wt%、もっと好ましくは3~8wt%である。処理方法について特に制限しないが、キチンを含む原料を水酸化ナトリウム水溶液に加え加温下で一定時間攪拌する。適宜の温度範囲は23~100℃、より好ましくは40~95℃、もっと好ましくは50~90℃である。温度が低すぎると蛋白質の加水分解速度が低くなる。高すぎるとキチンに与えるダメージが生じるため好ましくない。攪拌時間は温度により適宜調製すればよい。例えば2~10時間、もっと好ましくは3~8時間である。
水酸化ナトリウム水溶液を用いた前処理は蛋白質の他、脂質と色素を除くこともできる。
アルコールやトルエンなどの有機溶媒を用いて前処理すれば色素と脂質を除くことができる。例えば、エタノールに蟹殻を加えて、8時間還流すると色素を除くことが可能である。
キチンを含む原料は特に制限しない。例えば、甲殻類(蟹、エビ、シャコ等)の甲殻、貝類の貝殻、イカ骨、カビ及びキノコなどが挙げられる。中でも、個体の大きい蟹がより好ましい。特に、紅ズワイガニはカルシウム含有量が少ないためもっと好ましい。
これらの原料の含水率は50wt%以下が好ましい。含水率が高くなると溶出効果が低くなるおそれがあるためこのましくない。より好ましくは40wt%以下、もっと好ましくは30%以下である。
キチンを含む原料はそのまま上記のキチン溶媒と接触させてキチンを溶出することができる。溶解容器により一定サイズまで破砕してから利用してもよい。
キチンを含む原料からキチンを溶出方法について特に限定しない。例えば、甲殻などの原料を一定サイズに破砕した後、上記のキチン溶媒に加え室温で一定時間攪拌した後、残渣と溶液を分離することでキチン溶液が得られる。
攪拌時間はキチンを含む原料の種類、形状により適宜に調整すればよい。例えば、1~24時間である。時間が短くなるとキチンの溶出率が低下する。一方、攪拌時間が長すぎると効率が悪いこととキチンの性質も低下する恐れがあるため好ましくない。より好ましくは2~20時間、もっと好ましくは3時間~18時間である。
キチン溶媒におけるキチンを含む原料の添加量について特に限定しないが、上記キチン溶媒とキチンを含む原料とを接触させれば良い。キチン原料の添加量が低すぎると溶媒の利用効率が悪い。一方添加量が多すぎるとキチンを完全溶出できず、収率が低くなる。添加量は、例えば1~50wt%、さらに3~45wt%、もっと好ましくは5~40wt%である。
溶出温度は、15~80℃が好ましい。低すぎると溶出効率が低下する。高すぎるとキチンやキチン溶媒が分解する恐れがあるため好ましくない。より好ましくは20~50℃、もっと好ましくは23~40℃である。
攪拌後、残渣と溶液を固液分離法で分離し、キチンを含む溶液を回収する。分離法として、例えばデカンテーション、ろ過、遠心分離、絞りのいずれも適用する。回収したキチン溶液を前記の凝固液に析出させ、洗浄、乾燥の工程を経てキチン乾燥体が得られる。
また、キチンを溶出したキチン溶液は、キチン成型体及びキチン誘導体の製造に用いることができる。溶出キチンは重合度が高いため、紡糸性は市販キチンより優れる。
前記キチン含有溶液は、良好な流動性を有しており、優れた成形加工性を有する。したがって、所望の成形体をより効率よく製造することができる。前記成形体としては、制限はなく、例えば、繊維、フィルム、不織布、粒子、多孔体等が挙げられる。
上記成形体を形成する工程は、制限はなく、所望の成形体に応じて、適宜選択することができる。例えば、キチンを用いた繊維を形成する場合には、湿式紡糸法等により、成形体を形成することができる。具体的には、湿式紡糸法を用いて繊維を形成する場合、TEAH/TPAHおよびジメチルスルホキシドを抽出し得る溶媒(以下、凝固剤ともいう)を含む凝固浴中にキチン含有溶液を吐出し、TEAH/TPAHおよびジメチルスルホキシドを除去しキチンを凝固させ、洗浄と凝固したキチンを延伸し、乾燥することにより得られる。
また、キチンを用いたフィルムを形成する方法としては、任意の適切な方法を用いることができ、例えば、任意の支持体上に前記キチン含有溶液を流延した後、キチン含有溶液を流延させた前記支持体を凝固浴に浸漬させ、TEAH/TPAHおよびジメチルスルホキシドを除去しキチンを凝固させ、洗浄と乾燥させることにより得られる。
前記凝固剤としては、TEAH/TPAHおよびジメチルスルホキシドを抽出し得る溶剤であればよく、無機系溶剤であってもよく、有機系溶剤であってもよい。具体的には、水;メタノール、エタノール、プロパノール等のアルコール類が挙げられる。なかでも、水、メタノール、エタノール、プロパノールが、安価であり、沸点が低く、凝固性が良いという点から好適に用いられる。アルコール以外にケトン系溶媒が含まれることもできる。
前記凝固浴の温度は、前記キチン含有溶液に含まれる溶媒等が除去可能な温度であればよく、例えば、10℃~80℃、または、凝固剤の沸点以下の温度に設定され得る。凝固して得られたキチンゲルを同じ凝固剤で洗浄し、TEAH/TPAHおよびジメチルスルホキシドを除く後、乾燥することにより成形体が得られる。
前記乾燥温度は、成形体の形成工程で用いた溶媒およびキチン含有溶液に含まれる溶媒等を除去可能な温度であればよく、例えば、20℃~100℃である。乾燥手段としては、任意の適切な手段を用いることができ、例えば、室温で風乾、加熱ロール、温風による乾燥等が挙げられる。
さらに、前記キチン含有溶液は、修飾反応に適用することができる。修飾反応の場合、前記キチン含有溶液に反応化剤を加えて所定温度で攪拌することにより修飾することができる。場合によって触媒を添加しても良い。
本発明のキチン溶解溶媒はアルカリ性であるため触媒を添加しても添加しなくてもエステル化剤を接触させることによりエステル化修飾反応が生じる。適宜な温度で攪拌すれば修飾反応が行えるう。例えば、15~100℃、より好ましくはが20~85℃、更に好ましくは23~70℃である。このような温度範囲でエステル化修飾反応が進行し、1~12時間で所望の修飾率が得られる。
エステル化修飾剤は特に限定しない。用途に応じて選べれば良い。例えば、カルボン酸無水物、カルボン酸ビニル、カルボン酸ハロゲン物などが挙げられる。キチンにアニオン基を導入するためにはジカルボン酸無水物を用いることが好ましい。ジカルボン酸無水物でエステル化修飾されることでキチンに親水性又は水溶性を付与できる。ジカルボン酸無水物は例えば、無水マレイン酸、無水コハク酸、無水グルタル酸、無水フタル酸などが挙げられる。
エステル化修飾化剤の添加量は特に制限しない。修飾化剤の反応性と分子量及び求められる修飾率により適宜な量を添加すればよい。例えば1~50wt%、もっと好ましくは2~40wt%、最も好ましくは3~30wt%である。この範囲より低くなると反応速度や修飾率が低いため好ましくない。一方、50wt%を超えると、キチンが析出するおそれがあるため好ましくない。
修飾反応が終了後、アルコールや水などのプロトン性溶媒を加え析出させてから洗浄することでエステル化修飾キチンが得られる。
また、アシル化剤を用いて修飾するとキチンにアシル基を導入し疎水化させることができる。アシル化剤は、例えば、炭素数2~18のモノカルボン酸無水物又はモノカルボン酸ビニルは反応性が優れ、取り扱い性が良いため好ましい。
本発明について、実施例を用いてさらに説明する。なお、本発明は、これらの実施例のみに限定されるものではない。
(用いた原料と溶媒)
キチン:富士フイルム和光純薬社製のキチン(粉末状)と片倉チッカリン社製のキチン(粒状)の2種類を用いた。
毛蟹甲羅:市販毛蟹の甲羅を取り出し、甲羅以外のものを除き、洗浄、風乾した後甲殻原料として用いた。
ズワイガニ足:市販ズワイガニから足を取り出し、蟹身を除いて洗浄、風乾した後甲殻原料として用いた。
40%水酸化テトラプロピルアンモニウム水溶液:東京化成社製。
46%の水酸化テトラエチルアンモニウム水溶液:40%の東京化成社製品を濃縮して得た。
35%水酸化テトラエチルアンモニウム水溶液:東京化成社製。
40~63%水酸化テトラエチルアンモニウム水溶液:35%の東京化成社製品を濃縮して得た。
40%水酸化テトブチリルアンモニウム水溶液:東京化成社製。
25%水酸化テトブチリルアンモニウム水溶液:40%の東京化成社製品に蒸留水を加えて希釈して得た。
25%又は50%の水酸化テトラメチルアンモニウム水溶液:東京化成社製。
他の試薬は、ナカライテスク社から購入した。
(可視光線透過率の測定)
2wt%のキチン溶液を調製して紫外可視分光光度計紫外可視透過スペクトルチャートを用いて測定し、波長589nm(D線)での可視光線透過率を評価した。測定に用いた装置は、島津製作所製のUV-36003000で、測定波長範囲は400nm~800nmだった。
(溶出キチン及びそのエステル化修飾誘導体のIR分析)
溶出したキチン又はそれを用いて修飾したキチン誘導体を貧溶媒中に析出、洗浄、乾燥した後のIRスペクトルはフーリエ変換赤外分光光度計(FT-IR)で測定した。なお、測定は、NICOLET社製「NICOLET MAGNA-IR760 Spectrometer」を用い、ATRモードで分析した。
(キチン溶液の粘度)
キチン溶液の粘度はセコニック社製の振動式粘度計(VISOCOMATE MODEL VM-10Aシリーズ)用いて測定し、測定温度は23℃に設定した室温であった。
(キチンのN-アセチル-D-グルコサミン単位含量)
キチンのN-アセチル-D-グルコサミン単位含量は相対アセチル化度として評価した。相対アセチル化度はFT-IRスペクトル法を用いて評価した。図1に示したIRスペクトルのベースラインを基に、内部標準バンドに対する定量用特徴バンドの吸光度比を求め、相対アセチル化度とした。アミドに由来するバンド1655cm-1を定量用特性バンド、糖構造に特有な1370cm-1バンドを内部標準バンドとし、定量用特性バンドの吸光度A1665と内部標準バンドの吸光度(A1375)の比をA1665/A1375をとした。
[実施例1]
10mlのバイアル瓶に40%水酸化テトラプロピルアンモニウム(TPAH)水溶液0.25g、ジメチルスルホキシド4.75gを加え、室温で磁性攪拌子で攪拌しながらキチン0.1を加え、溶解させた。一定な時間間隔で溶液の外観を観察し、透明な溶液になった時点をキチンが完全に溶解した時点とし、キチンの溶解時間を測定した。溶解時間と得られたキチン溶液の透過率の測定結果を表1に示す。得られたキチン溶液の外観を撮影した写真を図2(液中の白色被写体は磁性攪拌子。以下、図7、図11~13、図15において同じ。)に示す。溶液のUVスペクトルを図3に示す。
スポイトで得られたキチン溶液を吸ってエタノールに滴下、凝固させて球状な透明ゲルが得られた。透明球状ゲルをエタノールで洗浄し、水酸化テトラプロピルアンモニウムとジメチルスルホキシドを除き、室温で風乾させてキチンビーズを得た。その外観を撮影した写真を図4に示す。また、得られたキチン溶液をシリンジに入れ、孔径0.5mmφを有するノズルから常温の蒸留水浴中に吐出しながら、繊維状な透明ゲルを延伸した。次に、蒸留水を用いて繊維状な透明ゲルを洗浄し、水酸化テトラプロピルアンモニウムとジメチルスルホキシドを除き、室温で風乾させることでキチン繊維を得た。得られたキチン繊維の写真を図4に示す。
[実施例2]
40%水酸化テトラプロピルアンモニウム(TPAH)水溶液0.4gを添加した以外は実施例1と同様にして、キチンの溶解時間を測定した。溶解時間と得られたキチン溶液の透過率の測定結果を表1に示す。キチン溶液の外観写真を図2に、溶液のUVスペクトルを図3に示す。
また、実施例1と同様にキチンビーズを作成し、その外観を図5に示す。また、キチン溶液をガラス基板上に流延した後、常温の2-プロパノール浴に入れて凝固させた。次に、2-プロパノールを用いて回洗浄し、水酸化テトラプロピルアンモニウムとジメチルスルホキシドを除去し、シート状な透明ゲルが得られた。室温で風乾させてキチンフィルムを得た。その外観写真をビーズと並び図5に示す。
[実施例3]
キチン0.1gに代えてキチン0.15gを用いた以外は実施例2と同様にして、キチンの溶解時間を測定した。結果を表1に示す。キチン溶液の外観写真を図2、溶液のUVスペクトルを図3に示す。また、実施例1と同じ手法でキチン繊維を製作し、その外観を図6に示す。
[実施例4]
46%水酸化テトラプロピルアンモニウム(TPAH)水溶液を用いた以外は実施例2と同様にして、キチンの溶解時間を測定した。溶解時間と得られたキチン溶液の透過率の測定結果を表1に示す。キチン溶液の外観写真を図2に、溶液のUVスペクトルを図3に示す。
[実施例5]
40%の水酸化テトラプロピルアンモニウム(TPAH)水溶液0.4gに代えて、43%の水酸化テトラエチルアンモニウム(TEAH)水溶液0.4gを用いた以外は実施例2と同様にして、キチンの溶解時間と得られた溶液の透過率を測定した。結果を表1に示す。得られたキチン溶液の外観写真を図7に、UVスペクトルを図8にそれぞれ示す。得られたキチン溶液を実施例2と同様にビーズを作成し、その外観を図9に示す。
[実施例6~9]
表1に記載した水酸化テトラエチルアンモニウム(TEAH)水溶液の濃度と添加量、DMSOの添加量を用いた以外は実施例5と同様にして、キチンの溶解時間と得られたキチン溶液の透過率を測定した。各実施例の結果を表1に示す。実施例6と7のUVスペクトルを図8に示す。実施例6のキチン溶液から調製したキチンビーズの外観写真を図10に示す。
[実施例10]
富士フイルム和光純薬社製のキチンに代えて片倉チッカリン社製のキチンを用いた以外は実施例2と同様にして、キチンの溶解時間と得られたキチン溶液の透過率を測定し、結果を表1と図8に示す。
〔比較例1~3〕
水酸化テトラプロピルアンモニウム(TPAH)水溶液に代えて水酸化テトラブチルアンモニウム(TBAH)水溶液を用い、表1に記載した組成を用いた以外は実施例2と同様にして、キチンの溶解を行った。5時間攪拌した後、キチンは溶解できなかった。得られたキチン液の外観写真を図11に示す。
〔比較例4~6〕
水酸化テトラプロピルアンモニウム(TPAH)水溶液に代えて水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)水溶液を用い、表1に記載した組成を用いた以外は実施例2と同様にして、キチンの溶解を行った。5時間攪拌した後、キチンは溶解できなかった。得られたキチン液の外観写真を図12に示す。
〔比較例7~10〕
水酸化テトラプロピルアンモニウム水溶液(TPAH)の濃度と添加量を変えた以外、実施例1と同様にして、キチンの溶解を行った。5時間攪拌した後、キチンは膨潤したが、溶解できなかった。
実施例1~10と比較例1~7の溶解条件と評価結果をまとめて表1に示す。
Figure 2022099414000002
表1に示すとおり、水酸化テトラプロピルアンモニウム水溶液又は水酸化テトラエチルアンモニウム水溶液とジメチルスルホキシドの三成分混合溶媒を用いた実施例1~10は、キチンを前処理せず、室温で短時間で、かつ、均一にキチンを溶解することができた。一方、水酸化テトラブチルアンモニウム水溶液又は水酸化テトラメチルアンモニウム水溶液を用いた比較例1~6では、キチンを溶解することができなかった。また、比較例7~10からキチンを完全に溶解するには、キチン溶解溶媒には、ジメチルスルホキシド(DMSO)、水酸化テトラプロピルアンモニウム(TPAH)、水に最適な濃度範囲があることが分かった。
[実施例11]
500mlの平底筒形フラスコに40%の水酸化テトラプロピルアンモニウム水溶液20g、ジメチルスルホキシド230gを加え、室温で磁性攪拌子で均一に混ぜてから、毛蟹甲羅丸一つを入れて室温で8時間攪拌した後、甲羅を除いて、溶液を目開き30μmのナイロンメッシュでろ過してキチン溶液を回収した。溶出前後の毛ガニ甲羅と回収したキチン溶液の外観を図13に示す。回収したキチン溶液を攪拌しながら2Lの蒸留水を加えキチンを析出した後、蒸留水で繰り返し洗浄した。洗浄した後の様子を図13に示した。次に、105℃の送風乾燥機で乾燥し、FT-IRで分析した。得られたIRスペクトルと市販キチンとを比較した。結果を図17に示す。また、相対アセチル化度(A1665/A1375)の評価結果を表2に示し、市販キチンより高かった。
また、キチン溶液の濃度を評価し、溶出したキチンの固形分量を算出し、キチンの溶出率を換算した結果、甲羅単位重量当たりのキチン溶出率は9.5wt%であることが分かった。また、得られたキチンを溶出と同じ溶液に溶解し0.4%のキチン溶液を調製し、粘度を測定した結果、78mPa.sであった。市販キチンと比べ高かった。
[実施例12]
1Lのビーカーに8%の水酸化ナトリウム水溶液800mLと毛蟹甲羅丸一個を加え、プレート温度を125℃に設定した加熱磁性スターラーの上に置いて8時間攪拌した後、甲羅を出して、蒸留水で洗浄した後室温度で一晩風乾し、脱蛋白質甲羅を得た。得られた脱蛋白質の甲羅を実施例1と同様にキチンの溶出を行い、キチン溶液を得た。得られたキチン溶液をスポイトで吸って、IPAにて滴定、凝固、洗浄と乾燥などの工程によりキチンビーズを調製した。それぞれの外観を図14に示した。また、FT-IR分析し、得られたキチンのIRスペクトルを図17に示した。また、相対アセチル化度(A1665/A1375)の評価結果を表2に示した。相対アセチル化度は実施例11と比べ低く、市販キチンとほぼ同等であった。水酸化ナトリウム水溶液を用いた前処理により脱アセチル化反応が生じたと考える。
また、甲羅単位重量当たりのキチン溶出率は10.2wt%であった。また、得られたキチンを実施例11と同様に0.4%の溶液を調製し、粘度測定した結果、90mPa.sであった。
[実施例13]
毛蟹甲羅に代えて、ズワイガニ足を用いた以外、実施例12と同様にキチンの溶出を実施した。得たキチン溶液をシリンジで吸って、口径0.5mmのノズルを通して水中に吐出し引きながら糸を作った。得られたキチン溶液と糸の外観を図15に示した キチンビーズのIRスペクトルを図17に示す。また、相対アセチル化度(A1665/A1375)の評価結果を表2に示した。相対アセチル化度は実施例11と比べ低く、市販キチンとほぼ同等であった。水酸化ナトリウム水溶液を用いた前処理により脱アセチル化反応が生じたと考える。
また、蟹足単位重量当たりのキチン溶出率は9.9wt%であった。また、得られたキチンを実施例11と同じ工程で1.0wt%のキチン溶液を調製し、粘度測定した結果、196mPa.sであった。実施例1の市販キチン溶液の粘度と比べ大幅に上昇した。この結果から本発明で抽出したキチンの重合度は市販キチンより明らかに高いことを確認した。
[実施例14]
水酸化ナトリウム水溶液を用いた前処理に代えて、エタノール中に8時間還流した前処理を実施した以外、実施例13と同様にキチンの溶出を実施した。得たキチン溶液をガラス基板上に流延しIPAに入れて凝固させた。次にIPAを用いて洗浄し、風乾しキチンシートが得られた。得られたキチン溶液とキチンシートの外観を図16に示した.キチンシートのIRスペクトルを図17に示す。また、相対アセチル化度(A1665/A1375)の評価結果を表2に示した。相対アセチル化度は実施例11とほぼ同等であり、実施例12と13より高かった。
また、蟹足単位重量当たりのキチン溶出率は8.8wt%であった。また、得られたキチンを実施例11と同様に0.4%の溶液を調製し、粘度測定した結果、98mPa.sであった。
[比較例11]
実施例11~14で溶出したキチンと比較するために市販のキチンである富士フイルム和光純薬社製のキチンの相対アセチル化度及び溶液のの粘度を測定した。その結果、相対アセチル化度(A1665/A1375)は、0.84、実施例11~14と同じ組成の40%TPAH水溶液とDMSOの混合液を溶媒とする1%溶液の粘度は40mPa.sであった。
表2に実施例11~14で溶出したキチンと市販キチンの相対アセチル化度、溶液の粘度の評価結果を示す。
Figure 2022099414000003
実施例11~14で溶出した乾燥キチンの分析結果より、前処理せず又はマイルドなエタノール前処理でキチンを含む原料から高重合度と高アセチル化度のキチンを抽出することができることを確認できた。一方、水酸化ナトリウム水溶液を用いた前処理の工程から得たキチンのアセチル化度は市販キチンとほぼ同等であったが、重合度は高かった。酸処理をしないためキチン分子鎖の分解が避けられると考える。
[実施例15]
実施例12で調製したキチン溶液30gに無水コハク酸1.5gを加え、室温で磁性スターラーで3時間攪拌した後、エタノールに析出した後、同じエタノールで繰り返し洗浄することによりコハク酸修飾キチンを得た。得られたコハク酸エステル化キチンをFT-IRで分析し、結果を図18に示した。
[実施例16]
無水コハク酸に代えて、酢酸ビニルを用いた以外は実施例15と同じ手順でアセチル化キチンを調製した。得られたアセチル化修飾キチンをIR分析し、修飾前後のIRスペクトルを比較した。結果を図18にしめした。
上述のように、本発明のキチン溶解溶媒によれば、キチンの結晶形態に依存することなく、短時間で、かつ均一にキチンを溶解することができ、従来のようなキチンへの前処理が不要である。また、本発明のキチン溶解溶媒は、キチンを含む原料からキチンを溶出すのに適している。
さらに、本発明の溶媒に溶解させたキチン含有溶液及びキチンを溶出したキチン含有溶液は、優れた流動性と成形性加工を有し、キチン成形体を製造する技術分野に広く適用することが可能である。

Claims (7)

  1. キチンの溶解に用いられる溶媒であって、
    前記溶媒が、水酸化テトラエチルアンモニウム及び/又は水酸化テトラプロピルアンモニウム、水及びジメチルスルホキシドを含み、
    溶媒中の水酸化テトラエチルアンモニウム及び/又は水酸化テトラプロピルアンモニウムの濃度が1.0~6.0wt%、水の濃度が1.0~6.0wt%、ジメチルスルホキシドの濃度が90~98wt%である溶媒。
  2. キチンの溶出方法であって、キチンを含む原料と請求項1に記載の溶媒を接触させてキチンを溶出するキチンの溶出方法。
  3. キチンを含む原料に含まれる蛋白質、脂質及び色素のいずれか一つ以上を除いた後、請求項1に記載の溶媒を接触させてキチンを溶出する請求項2に記載のキチン溶出方法。
  4. 前記キチンを含む原料が、甲殻類の甲殻、貝類の貝殻、イカ骨、カビ及びキノコの少なくとも一つ以上を含む、請求項2又は請求項3に記載のキチン溶出方法。
  5. キチンを請求項1に記載の溶媒に溶解させたキチン溶液又は請求項2~4のいずれかに記載のキチン溶出方法により得られるキチン溶液を水又はアルコールに入れ、析出と洗浄することにより得られるキチンの製造方法。
  6. キチンを請求項1に記載の溶媒に溶解させたキチン溶液又は請求項2~4のいずれかに記載のキチン溶出方法により得られるキチン溶液を用いてキチン成形体を製造するキチン成形体の製造方法。
  7. キチンを請求項1に記載の溶媒に溶解させたキチン溶液又は請求項2~4のいずれかに記載のキチン溶出方法により得られるキチン溶液とエステル化剤を接触させてキチンをエステル修飾するキチン誘導体の製造方法。
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